(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接合部が2か所以上の巻鉄心は、前記各コーナー部が、方向性電磁鋼板の側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部を1つ以上有しており、且つ、一つのコーナー部に存在する屈曲部それぞれの曲げ角度の合計が90°である、請求項2に記載の方向性電磁鋼板の選別方法。
前記接合部が2か所以上の巻鉄心は、前記各コーナー部が、方向性電磁鋼板の側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部を1つ以上有しており、且つ、一つのコーナー部に存在する屈曲部それぞれの曲げ角度の合計が90°である、請求項5に記載の巻鉄心の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.方向性電磁鋼板の選別方法
本開示の方向性電磁鋼板の選別方法は、
巻鉄心の材料として使用する、一群の方向性電磁鋼板の選別方法であって、
鉄損が同一、且つ、磁場の強さHが800A/mの時の磁束密度B
8値が異なる前記一群の方向性電磁鋼板を準備する工程と、
前記一群の方向性電磁鋼板について、エプスタイン試験により前記B
8値を測定する工程と、
前記一群の方向性電磁鋼板のうち、測定して得た前記一群の方向性電磁鋼板の前記B
8値の範囲の中から設定される所定値以上の前記B
8値を有する方向性電磁鋼板を、1周回中に少なくとも2か所以上の接合部を有する巻鉄心の材料として選別する工程と、
を有することを特徴とする。
【0020】
本開示において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「垂直」、「同一」、「直角」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
本開示の巻鉄心において、1周回中に接合部を1か所有し且つ屈曲部を有さない巻鉄心をトランココアと称し、1周回中に接合部を1か所有し且つ屈曲部を有する巻鉄心をユニコアと称し、1周回中に接合部を2か所有し且つ屈曲部を有する巻鉄心をデュオコアと称する場合がある。
【0021】
巻鉄心は、フープをせん断してドーナツ状に巻き取った後、コーナー部をプレスし、矩形に成形し焼鈍を行い、歪取と形状保持を行うことによって製造される。
そして、鋼板の突合せ部分となる接合部が形成される。
突合せ部分での磁気抵抗の上昇による鉄損劣化を抑えるため、この突合せはステップ状に配置されている。
理想的にはこの突合せのギャップ長を0にすることが望ましいが、せん断で鋼板長に誤差が生じ、鋼板板厚の偏差によって鉄心周長が設計値よりも長くなる場合は、ギャップ長は鉄心巻厚の外側ほど拡大してしまう。このギャップ長の存在により巻鉄心の鉄損が劣化する問題がある。特に接合部を2か所以上有する巻鉄心ではこのギャップ長による鉄損劣化が顕著であるという問題がある。
【0022】
一方、鉄損が同一である一群の方向性電磁鋼板であっても、各方向性電磁鋼板の方位集積度(B
8値)が異なるという現状がある。
本研究者らは、(A)トランココア、(B)ユニコア、(C)デュオコアの3種類の巻鉄心の各形式に同一鉄損値でB
8値の異なる材料を使用し、ビルディングファクタ(BF)を評価した。
その結果、1周回中に少なくとも2か所以上の接合部を有する巻鉄心(デュオコア等)を製造する場合、鉄損が同一であれば、相対的にB
8値が高い方向性電磁鋼板を用いた方が、相対的にB
8値が低い方向性電磁鋼板を用いるよりもギャップ長による鉄損劣化の抑制効果が大きいことがわかった(参考実験例参照)。
一方、本研究者らの研究により、1周回中に2か所未満の接合部を有する巻鉄心(例えば、ユニコア、トランココア等)を製造する場合、上記接合部を2か所以上有する巻鉄心と比較して、B
8値の変動による鉄損劣化の影響が少ないことがわかった。
この原因について詳細は不明であるが、接合部での磁束挙動から磁束はギャップを避けて、ギャップ上下の鋼板に移動する(磁束の渡り)ため、面内渦電流損が増加すると考えられていたが、研究者らはこの磁束の渡りによる鉄損増加が方向性電磁鋼板のB
8値に影響することを突き止めた。B
8値が高いことにより透磁率が高く、磁気抵抗が小さいため、磁束の渡りがスムーズになり、面内渦電流損の増加が穏やかになったと推定される。さらに、接合部の数が増えることで磁束の渡る領域が増える。この領域が増えることで、上記の効果も大きくなったと推定される。
そのため、本開示によれば、B
8値の変動による鉄損劣化の影響が大きい1周回中に少なくとも2か所以上の接合部を有する巻鉄心を製造する場合、鉄損が同一、且つ、B
8値が異なる一群の方向性電磁鋼板の中から相対的にB
8値の高い方向性電磁鋼板を選別して得た方向性電磁鋼板を、当該接合部が2か所以上ある巻鉄心の材料として用いることで、低鉄損な巻鉄心群を製造することができる。
また、本開示によれば、上記に加え、鉄損が同一、且つ、B
8値が異なる一群の方向性電磁鋼板の中から相対的にB
8値の低い方向性電磁鋼板を選別して得た方向性電磁鋼板を、1周回中に少なくとも2か所以上の接合部を有する巻鉄心と比較してB
8値の変動による鉄損劣化の影響が少ない当該接合部が2か所未満の巻鉄心の材料として用いることで、当該一群の方向性電磁鋼板から低鉄損な巻鉄心群を製造することができる。
【0023】
本開示の方向性電磁鋼板の選別方法は、少なくとも(1)準備工程、(2)測定工程、(3)選別工程を有する。
以下、各工程について順に説明する。
【0024】
(1)準備工程
準備工程は、鉄損が同一、且つ、磁場の強さHが800A/mの時の磁束密度B
8値が異なる前記一群の方向性電磁鋼板を準備する工程である。
本明細書においてB
8値とは、エプスタイン試験により得られる磁場の強さHが800A/mの時の磁束密度であり、方位集積度の指標となる値である。
【0025】
一般的に方向性電磁鋼板とは、鋼板中の結晶粒の方位が{110}<001>方位に高度に集積され、磁化容易軸が長手方向に揃った鋼板をいう。磁化容易軸が長手方向に揃っているため、鉄損の少なく磁性に優れるという特性を有する電磁鋼板をいう。
本開示において方向性電磁鋼板は、少なくとも、母鋼板を有し、必要に応じ、母鋼板表面に被膜を有していてもよい。被膜としては、例えば、グラス被膜などが挙げられる。以下、方向性電磁鋼板の各構成について説明する。
【0026】
母鋼板は、当該母鋼板中の結晶粒の方位が{110}<001>方位に高度に集積された鋼板であり、圧延方向に優れた磁気特性を有するものである。
本開示において母鋼板は、特に限定されず、方向性電磁鋼板として公知のものの中から、適宜選択して用いることができる。以下、好ましい母鋼板の一例について説明するが、本開示において母鋼板は以下のものに限定されるものではない。
【0027】
母鋼板の化学組成は、特に限定されるものではないが、例えば、質量%で、Si:0.8%〜7%、C:0%よりも高く0.085%以下、酸可溶性Al:0%〜0.065%、N:0%〜0.012%、Mn:0%〜1%、Cr:0%〜0.3%、Cu:0%〜0.4%、P:0%〜0.5%、Sn:0%〜0.3%、Sb:0%〜0.3%、Ni:0%〜1%、S:0%〜0.015%、Se:0%〜0.015%を含有し、残部がFeおよび不純物からなることが好ましい。上記母鋼板の化学組成は、結晶方位を{110}<001>方位に集積させたGoss集合組織に制御するために好ましい化学成分である。母鋼板中の元素のうち、SiおよびCが基本元素であり、酸可溶性Al、N、Mn、Cr、Cu、P、Sn、Sb、Ni、S、およびSeが選択元素である。これらの選択元素は、その目的に応じて含有させればよいので下限値を制限する必要がなく、実質的に含有していなくてもよい。また、これらの選択元素が不可避的不純物として含有されても、本開示の効果は損なわれない。母鋼板は、基本元素および選択元素の残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
なお、本開示において、「不可避的不純物」とは、母鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から不可避的に混入する元素を意味する。
また、方向性電磁鋼板では二次再結晶時に純化焼鈍を経ることが一般的である。純化焼鈍においてはインヒビター形成元素の系外への排出が起きる。特にN、Sについては濃度の低下が顕著で、50ppm以下になる。通常の純化焼鈍条件であれば、9ppm以下、さらには6ppm以下、純化焼鈍を十分に行えば、一般的な分析では検出できない程度(1ppm以下)にまで達する。
母鋼板の化学成分は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、母鋼板の化学成分は、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。具体的には、例えば、被膜除去後の母鋼板の中央の位置から35mm角の試験片を取得し、島津製作所製ICPS−8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより特定できる。なお、CおよびSは燃焼−赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解−熱伝導度法を用いて測定すればよい。
なお、母鋼板の化学成分は、方向性電磁鋼板から後述の方法により後述のグラス被膜およびリンを含有する被膜等を除去した鋼板を母鋼板としてその成分を分析した成分である。
【0028】
母鋼板の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方向性電磁鋼板の製造方法を適宜選択することができる。製造方法の好ましい具体例としては、例えば、Cを0.04〜0.1質量%とし、その他は上記母鋼板の化学組成を有するスラブを1000℃以上に加熱して熱間圧延を行った後、必要に応じて熱延板焼鈍を行い、次いで、1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷延により冷延鋼板とし、当該冷延鋼板を、例えば湿水素−不活性ガス雰囲気中で700〜900℃に加熱して脱炭焼鈍し、必要に応じて更に窒化焼鈍し、1000℃程度で仕上焼鈍する方法などが挙げられる。
本開示において母鋼板の厚みは特に限定されないが、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましく、0.15mm以上0.40mm以下であることがより好ましい。
【0029】
本開示において方向性電磁鋼板は、本開示の効果を損なわない範囲で表面に被膜を有していてもよい。このような被膜としては、例えば、母鋼板上に形成されるグラス被膜などが挙げられる。グラス被膜としては、例えば、フォルステライト(Mg
2SiO
4)、スピネル(MgAl
2O
4)、及びコーディエライト(Mg
2Al
4Si
5O
16)より選択される1種以上の酸化物を有する被膜が挙げられる。
【0030】
グラス被膜の形成方法は特に限定されず、公知の方法の中から適宜選択することができる。例えば、前記母鋼板の製造方法の具体例において、冷延鋼板にマグネシア(MgO)及びアルミナ(Al
2O
3)から選択される1種以上を含有する焼鈍分離剤を塗布した後で、前記仕上焼鈍を行う方法が挙げられる。なお当該焼鈍分離剤は、仕上焼鈍時の鋼板同士のスティッキングを抑制する効果も有している。例えば前記マグネシアを含有する焼鈍分離剤を塗布して仕上焼鈍を行った場合、母鋼板に含まれるシリカと反応して、フォルステライト(Mg
2SiO
4)を含むグラス被膜が母鋼板表面に形成される。
本開示においてグラス被膜の厚みは特に限定されないが、0.5μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0031】
本開示において用いられる方向性電磁鋼板の板厚は、特に限定されず、用途等に応じて適宜選択すればよいものであるが、通常0.15mm〜0.35mmの範囲内であり、好ましくは0.18mm〜0.23mmの範囲である。
【0032】
(2)測定工程
測定工程は、前記一群の方向性電磁鋼板について、エプスタイン試験により前記B
8値を測定する工程である。
方向性電磁鋼板のB
8値は、従来公知の方法で求めることができ、例えば、JIS C 2550−1に記載のエプスタイン試験器による電磁鋼帯の磁気特性の測定方法における励磁電流法により求めることができる。
なお、試料の採取については、方向性電磁鋼板の全幅(例えば1000mm)から任意の場所のサンプルを採ってもよいし、一定の幅間隔で複数個所のサンプルを採ってもよい。
測定のタイミングは、特に限定されず、巻鉄心の生産量等に応じて、適宜設定することができる。また、同じ鉄損を有する方向性電磁鋼板であっても、B
8値が異なる(例えば、1.89〜1.93T程度の幅を持っている)という前提の上、測定してもよい。
【0033】
(3)選別工程
選別工程は、前記一群の方向性電磁鋼板のうち、測定して得た前記一群の方向性電磁鋼板の前記B
8値の範囲の中から設定される所定値以上の前記B
8値を有する方向性電磁鋼板を、1周回中に少なくとも2か所以上の接合部を有する巻鉄心の材料として選別する工程である。
さらに、前記一群の方向性電磁鋼板のうち、測定して得た前記一群の方向性電磁鋼板の前記B
8値の範囲の中から設定される所定値未満の前記B
8値を有する方向性電磁鋼板を、前記接合部が2か所未満の巻鉄心の材料として選別してもよい。
なお、本開示において、所定値は、測定されるB
8値に基づいて適宜設定することができる。
また、本開示において、1周回中に少なくとも2か所以上の接合部を有する巻鉄心は、通常、更に1周回中に少なくとも1か所以上の屈曲部を有していてもよい。
一方、本開示において、1周回中に接合部が2か所未満の巻鉄心は、屈曲部を有していても有していなくてもよく、接合部は無くてもよく、1か所有していてもよい。
素材の選別については、B
8値の高い素材から順番に接合部数の多い巻鉄心に使用していけばよく、「B
8値の範囲の中から設定される所定値」は、前記1周回中に少なくとも2か所以上の接合部を有する巻鉄心の素材の量、前記接合部が2か所未満の巻鉄心の素材の量等に基づいて決定される。従って、B
8の数値に関しては固定値とはしていない。尚、接合部が同じ数の巻鉄心であれば、素材を選別する必要はない。
【0034】
選別した材料から製造される巻鉄心は、側面視において略矩形状の巻鉄心本体を備え、前記巻鉄心本体は、前記方向性電磁鋼板により構成され、長手方向に平面部とコーナー部とが交互に連続し、当該各コーナー部において隣接する2つの平面部のなす角が90°である前記方向性電磁鋼板が板厚方向に積み重ねられた、側面視において略矩形状の積層構造を有していてもよい。
また、選別した材料から製造される前記接合部が2か所以上の巻鉄心は、前記各コーナー部が、方向性電磁鋼板の側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部を1つ以上有しており、且つ、一つのコーナー部に存在する屈曲部それぞれの曲げ角度の合計が90°であってもよい。
巻鉄心の形状、製造方法については後述するため、ここでの記載は省略する。
【0035】
図8は1周回中に接合部が1か所且つ屈曲部を有する巻鉄心の材料として用いられる方向性電磁鋼板の一例を模式的に示す図である。
図9は1周回中に接合部が2か所且つ屈曲部を有する巻鉄心の材料として用いられる方向性電磁鋼板の一例を模式的に示す図である。
図8及び
図9の例に示されるように1周回中に接合部が1か所以上且つ屈曲部を有する巻鉄心に用いることができる方向性電磁鋼板は、折り曲げ加工されたものであって、前記巻鉄心のコーナー部に対応する1つまたは2つ以上の屈曲部5から構成されるコーナー部3と、平面部4を有し、1周回中に1つ以上の接合部6を介して略矩形の環を形成してもよい。
図8の例に示されるように、1つの接合部6を介して1枚の方向性電磁鋼板が巻鉄心本体の1層分を構成するものであってもよく、
図9の例に示されるように1枚の方向性電磁鋼板が巻鉄心の約半周分を構成し、2つの接合部6を介して2枚の方向性電磁鋼板が巻鉄心本体の1層分を構成するものであってもよい。
また巻鉄心の材料として用いられる方向性電磁鋼板の別の例としては、2枚の方向性電磁鋼板が巻鉄心本体の1層分を構成する場合、略矩形の3辺に相当する曲げ加工体と、残りの1辺に相当する真直ぐな(側面視が直線状の)鋼板を組み合わせて略矩形状の環を形成してもよい。このように、2枚以上の方向性電磁鋼板が巻鉄心本体の1層分を構成する場合、鋼板の曲げ加工体と、真直ぐな(側面視が直線状の)鋼板とを組み合わせてもよい。
さらに接合部が無い巻鉄心の材料として用いられる方向性電磁鋼板の例としては、巻鉄心本体の2層分以上の長さを有する方向性電磁鋼板を折り曲げ加工して、略矩形状の環が2周回以上連続する曲げ加工体を形成し、これを板厚方向に積み重ねてもよい。
いずれの場合も巻鉄心製造時に隣接する2層間に隙間が生じないようにするため、隣接する2層の方向性電磁鋼板において、内側に配置される方向性電磁鋼板の平面部4の外周長と、外側に配置される方向性電磁鋼板の平面部4の内周長が等しくなるように鋼板の長さ及び屈曲部の位置を調整する。
【0036】
2.巻鉄心の製造方法
本開示の巻鉄心の製造方法は、
鉄損が同一、且つ、磁場の強さHが800A/mの時の磁束密度B
8値が異なる一群の方向性電磁鋼板を準備する工程と、
前記一群の方向性電磁鋼板について、エプスタイン試験により前記B
8値を測定する工程と、
前記一群の方向性電磁鋼板のうち、測定して得た前記一群の方向性電磁鋼板の前記B
8値の範囲の中から設定される所定値以上の前記B
8値を有する方向性電磁鋼板を、1周回中に少なくとも2か所以上の接合部を有する巻鉄心の材料として選別する工程と、
選別した前記方向性電磁鋼板を用いて前記巻鉄心を作成する工程と、
を有することを特徴とする。
【0037】
本開示の巻鉄心の製造方法は、少なくとも(1)準備工程、(2)測定工程、(3)選別工程、(4)巻鉄心作成工程を有する。
(1)〜(3)の工程は、上述した「1.方向性電磁鋼板の選別方法」と同様なのでここでの記載は省略する。
【0038】
(4)巻鉄心作成工程
巻鉄心作成工程は、選別した前記方向性電磁鋼板を用いて前記巻鉄心を作成する工程である。
【0039】
まず、本開示の巻鉄心の形状について説明する。
図1は、巻鉄心の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1の実施形態に示される巻鉄心の側面図である。また、
図3及び
図4は、巻鉄心の別の一実施形態を模式的に示す側面図である。
なお、本開示において側面視とは、巻鉄心を構成する長尺状の方向性電磁鋼板の幅方向(
図1におけるY軸方向)に視ることをいい、側面図とは側面視により視認される形状を表した図(
図1のY軸方向の図)である。
【0040】
本開示の巻鉄心は、側面視において略矩形状の巻鉄心本体を備える。当該巻鉄心本体は、方向性電磁鋼板が、板厚方向に積み重ねられ、側面視において略矩形状の積層構造を有する。当該巻鉄心本体を、そのまま巻鉄心として使用してもよいし、必要に応じて巻鉄心を固定するために、結束バンド等、公知の締付具等を備えていてもよい。
【0041】
本開示において、巻鉄心本体の鉄心長に特に制限はないが、優れた低鉄損特性を示すことから1.5m以上であることが好ましく、1.7m以上であるとより好ましい。なお、本開示において、巻鉄心本体の鉄心長とは、側面視による巻鉄心本体の積層方向の中心点における周長をいう。
【0042】
本開示の製造方法で得られる巻鉄心は、鉄損が低減されているため、トランス、リアクトル、ノイズフィルター等の磁心など、従来公知のいずれの用途にも好適に用いることができる。
【0043】
図1及び2に示すように、巻鉄心本体10は、長手方向に平面部4とコーナー部3とが交互に連続し、当該各コーナー部3において隣接する2つの平面部4のなす角が90°である方向性電磁鋼板1が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略矩形状の積層構造2を有する。
方向性電磁鋼板1の各コーナー部3は、側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部5を2つ以上有しており、且つ、一つのコーナー部に存在する屈曲部それぞれの曲げ角度の合計が90°となっている。
図2の実施形態は1つのコーナー部3中に2つの屈曲部5を有する場合である。
図3の実施形態は1つのコーナー部3中に3つの屈曲部5を有する場合である。
また、
図4の実施形態は、1つのコーナー部3が1つの屈曲部5により形成されている場合である。
【0044】
図5〜
図7は、それぞれ
図2〜
図4の実施形態におけるコーナー部付近を拡大した側面図である。
図5及び
図6の例に示されるように、1つのコーナー部に2つ以上の屈曲部を有する場合には、方向性電磁鋼板の第1の平面部を表す直線状の部分に第1の屈曲部(曲線部分)が連続し、その先には直線部分、第2の屈曲部(曲線部分)、別の直線部分というように、屈曲部(曲線部分)と直線部分が交互に連続し、当該コーナー部における最後の屈曲部(曲線部分)に至り、その先に、コーナー部を介して前記第1の平面部に隣接する、方向性電磁鋼板の第2の平面部が連続してなる形状を有する。
【0045】
図5の例では線分A−A’から線分B−B’までの領域をコーナー部3とする。点Aは、巻鉄心10の最も内側に配置された方向性電磁鋼板1aの屈曲部5aにおける平面部4a側の端点であり、点A’は、点Aを通り方向性電磁鋼板1aの板面に垂直方向の直線と、巻鉄心本体10の最も外側の面との交点である。同様に点Bは、巻鉄心10の最も内側に配置された方向性電磁鋼板1aの屈曲部5bにおける平面部4b側の端点であり、点B’は、点Bを通り方向性電磁鋼板1aの板面に垂直方向の直線と、巻鉄心本体10の最も外側の面との交点である。
図5において当該コーナー部3を介して隣接する2つの平面部4aと4bのなす角はθであり、本開示において当該θは90°である。屈曲部の曲げ角度φについては後述するが、
図5においてφ1+φ2は90°となる。
【0046】
次に、コーナー部3中に屈曲部5を3つ以上有する例について説明する。
図6は、
図3の実施形態におけるコーナー部付近の拡大図である。
図6においても
図5と同様に線分A−A’から線分B−B’までの領域をコーナー部3とする。
図6において、点Aは平面部4aに最も近い屈曲部5aの平面部4a側の端点であり、点Bは平面部4bに最も近い屈曲部5bの平面部4b側の端点である。屈曲部が3つ以上ある場合、各屈曲部間には直線部分が存在する。いずれの平坦部が平面部4を構成するかについては、コーナー部を介して隣接する2つの平面部のなす角θが90°であることを考慮して決定すればよく、これにより平面部4に隣接する屈曲部5が決定される。なお
図6の例では、φ1+φ2+φ3が90°となり、一般にコーナー部内にn個の屈曲部を有する場合、φ1+φ2+・・・+φnは90°となる。
【0047】
次に、コーナー部3中の屈曲部5が1つの場合について説明する。
図7は、
図4の実施形態におけるコーナー部付近の拡大図である。
図7においても
図5及び
図6と同様に線分A−A’から線分B−B’までの領域をコーナー部3とする。
図7において点Aは屈曲部5の平面部4a側の端点であり、点Bは屈曲部5の平面部4b側端点となる。また
図7の例では、φ1は90°である。
【0048】
本開示においては、前述するコーナー部の角度θが90°である場合、φは90°以下であってもよい。加工時の変形による歪み発生を抑制して鉄損を抑える点からは、φは60°以下であってもよく、45°以下であってもよい。そのため、本開示で得られる巻鉄心においては1つのコーナー部に2以上の屈曲部を有していてもよい。
1つのコーナー部に2つの屈曲部を有する
図5の実施形態では、鉄損低減の点から、例えば、φ1=60°且つφ2=30°とすることや、φ1=45°且つφ2=45°等とすることができる。また、1つのコーナー部に3つの屈曲部を有する
図6の実施形態では、鉄損低減の点から、例えばφ1=30°、φ2=30°且つφ3=30°等とすることができる。更に、生産効率の点からは折り曲げ角度が等しいことが好ましいため、1つのコーナー部に2つの屈曲部を有する場合には、φ1=45°且つφ2=45°としてもよい。また、1つのコーナー部に3つの屈曲部を有する
図6の実施形態では、鉄損低減の点から、例えばφ1=30°、φ2=30°且つφ3=30°としてもよい。
【0049】
図10を参照しながら、屈曲部5について更に詳細に説明する。
図10は、方向性電磁鋼板の屈曲部の一例を模式的に示す図である。屈曲部の曲げ角度とは、方向性電磁鋼板屈曲部において、折り曲げ方向の後方側の直線部と前方側の直線部の間に生じた角度差を意味し、屈曲部において、方向性電磁鋼板の外面を表す線Lbに含まれる曲線部分の両側(点F及び点G)それぞれに隣接する直線部分を延長して得られる2つの仮想線Lb−elongation1、Lb−elongation2がなす角の補角の角度φとして表される。
各屈曲部の曲げ角度は、90°以下であり、かつ、一つのコーナー部に存在する全ての屈曲部の曲げ角度の合計は90°である。
【0050】
本開示において屈曲部とは、方向性電磁鋼板の側面視において、方向性電磁鋼板の内面を表す線La上の点D及び点E、並びに、方向性電磁鋼板の外面を表す線Lb上の点F及び点Gを下記のとおり定義したときに、方向性電磁鋼板の内面を表す線La上で点Dと点Eとで区切られた線、方向性電磁鋼板の外面を表す線Lb上で点Fと点Gとで区切られた線、前記点Dと前記点Eを結ぶ直線、及び、前記点Fと前記点Gを結ぶ直線により囲まれる領域を示す。
【0051】
ここで、点D、点E、点F及び点Gは次のように定義する。
側面視において、方向性電磁鋼板の内面を表す線Laに含まれる曲線部分における曲率半径の中心点Aと、方向性電磁鋼板の外面を表す線Lbに含まれる曲線部分の両側それぞれに隣接する直線部分を延長して得られる前記2つの仮想線Lb−elongation1、Lb−elongation2の交点Bとを結んだ直線ABが、方向性電磁鋼板の内面を表す線と交わる点を原点Cとし、
当該原点Cから方向性電磁鋼板の内面を表す線Laに沿って、一方の方向に下記式(1)で表される距離mだけ離れた点を点Dとし、
当該原点Cから方向性電磁鋼板の内面を表す線Laに沿って、他の方向に前記距離mだけ離れた点を点Eとし、
方向性電磁鋼板の外面を表す線Lbに含まれる前記直線部分のうち、前記点Dに対向する直線部分と、当該点Dに対向する直線部分に対し垂直に引かれ且つ前記点Dを通過する仮想線との交点を点Gとし、
方向性電磁鋼板の外面を表す線Lbに含まれる前記直線部分のうち、前記点Eに対向する直線部分と、当該点Eに対向する直線部分に対し垂直に引かれ且つ前記点Eを通過する仮想線との交点を点Fとする。
式(1): m = r ×(π/4)
(式(1)中、mは点Cからの距離を表し、rは中心点Aから点Cまでの距離(曲率半径)を表す)。
【0052】
すなわち、rは点C付近の曲線を円弧とみなした場合の曲率半径を示すものであり、本開示では、屈曲部の側面視における内面側曲率半径を表す。曲率半径rが小さいほど屈曲部の曲線部分の曲がりは急であり、曲率半径rが大きいほど屈曲部の曲線部分の曲がりは緩やかになる。
【0053】
巻鉄心は、従来公知の方法で作成することができる。以下巻鉄心の作成方法の一例について、接合部を1か所以上且つ屈曲部を1か所以上有する巻鉄心の場合について説明する。
まず、選別工程で選別した方向性電磁鋼板を準備する。
次に、必要に応じて上記方向性電磁鋼板を所望の長さに切断した後、前記方向性電磁鋼板上に予め割り当てた各コーナー部形成領域に少なくとも一か所を曲げ加工することにより、前記方向性電磁鋼板を、平面部とコーナー部とが交互に連続し、当該各コーナー部において隣接する2つの平面部のなす角が90°である曲げ加工体を成形する。
曲げ加工の方法について図を参照して説明する。
図11は、巻鉄心の製造方法における曲げ加工方法の一例を示す模式図である。
加工機の構成は特に限定されるものではないが、例えば、
図11に示されるように、通常、プレス加工のためのダイスとパンチとを有し、更に方向性電磁鋼板を固定するガイドなどを有している。方向性電磁鋼板は、搬送方向に搬送され、予め設定された位置で固定される。次いでパンチで予め設定されたクリアランス(c)およびストローク(s)を調整することにより、折れ曲がり角度φの屈曲部を有する曲げ加工体が得られる。
屈曲部の曲率半径rは、通常、ダイスとパンチ間の距離やダイスとパンチの形状を変更することにより調整することができる。
【0054】
通常、巻鉄心の作成工程においては、上記曲げ加工後に屈曲部の歪みを焼鈍により除去する。
次いで、前記曲げ加工体である方向性電磁鋼板を、コーナー部同士を位置合わせし、板厚方向に重ねあわせて積層し、側面視において略矩形状の積層体を形成することにより、巻鉄心本体を得ることができる。得られた巻鉄心本体は、そのまま巻鉄心として使用してもよいが、更に必要に応じて結束バンド等、公知の締付具等を用いて固定して巻鉄心としてもよい。
【0055】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0056】
(参考実験例1〜48)
同一の鉄損(W17/50=0.83W/kg)を有する一群の方向性電磁鋼板(素材:23ZH)を準備し、各方向性電磁鋼板に対してエプスタイン試験によりB
8値を測定した。
結果を表1に示す。
なお、方向性電磁鋼板は、母鋼板上にフォルステライト(Mg
2SiO
4)を含むグラス被膜を有するものを準備した。また、W17/50は、1.7T/50Hzのときの鉄損値である。
次に一群の方向性電磁鋼板の中からB
8値が異なる方向性電磁鋼板(表1において、符号:A、B、C、D)を選別し、各方向性電磁鋼板を用いて巻鉄心を製造し、電気巻線を設置した。
巻鉄心は、接合部を1か所有し且つ屈曲部を有さない巻鉄心(トランココア)と、接合部を1か所有し且つ屈曲部を有する巻鉄心(ユニコア)と、接合部を2か所有し且つ屈曲部を有する巻鉄心(デュオコア)の3種類を製造した。
なお、トランココアは、方向性電磁鋼板を150℃に調整しながら曲げ加工を行った後、当該方向性電磁鋼板を積層することで製造した。また、ユニコア及びデュオコアは、方向性電磁鋼板を150℃に調整しながら曲げ加工を行い、屈曲角φが45°の屈曲部を有する方向性電磁鋼板を得た後、当該方向性電磁鋼板を積層することで製造した。
また、3種の巻鉄心は、接合部の空隙長を0.5、1、2、3mmに変化させたものをそれぞれ製造した。
【0057】
[評価]
参考実験例1〜48の巻鉄心(平均鉄心長:0.704m、鉄心質量:約37kg、容量:25KVA、寸法は
図12に記載)について、それぞれJIS C 2550−1に記載のエプスタイン試験器による電磁鋼帯の磁気特性の測定方法における励磁電流法を、周波数50Hz、磁束密度1.7Tの条件で測定を行い、巻鉄心の鉄損値W
Aを求めた。
そして、巻鉄心の鉄損値W
Aを、素材として用いた方向性電磁鋼板の鉄損値(W17/50=0.75W/kg)で除することによりビルディングファクタ(BF)を求めた。
本開示においてはBFが小さいほど鉄損が低減された巻鉄心であると評価できる。
そして、3種の巻鉄心の接合部の空隙長を巻線は挿入しない状態で0.5、1、2、3mmに変化させたときの接合部空隙長と鉄損劣化の関係を評価した。
結果を表2に示す。なお、接合部空隙長は巻鉄心1体の接合部を全て測定し、全平均したものを数値で記載した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示すように、ユニコア、トランココアでは、素材のB
8値の大小による巻鉄心の鉄損値の変動はほとんど見られず、接合部空隙長の差による鉄損値の変動もほとんど見られない。
一方、デュオコアでは、接合部空隙長の差による巻鉄心の鉄損値の変動は、ほとんど見られないが、素材のB
8値が高いものを用いた巻鉄心の方が、鉄損値が低くなることがわかる。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
表3及び表4、並びに、表5及び表6に示すとおり、素材A〜Dの中で、表4及び表6に示す相対的にB
8値の高い素材C〜Dをデュオコアの材料に用い、相対的にB
8値の低い素材A〜Bをユニコアの材料に用いた方が、表3及び表5に示す素材A〜Bをデュオコアの材料に用い、素材C〜Dをユニコアの材料に用いた場合よりも、BFの平均値が低くなり、より低鉄損な巻鉄心が得られることがわかる。これは、表3〜6において、ユニコアをトランココアに変えた場合であっても同様であることが表2からわかる。
したがって、本開示によれば、鉄損が同一、且つ、B
8値が異なる一群の方向性電磁鋼板の中から相対的にB
8値の高い方向性電磁鋼板を選別して得た方向性電磁鋼板を、接合部が2か所以上ある巻鉄心の材料として用いることで、低鉄損な当該巻鉄心を効率よく製造することができることがわかる。
また、本開示によれば、上記に加え、鉄損が同一、且つ、B
8値が異なる一群の方向性電磁鋼板の中から相対的にB
8値の低い方向性電磁鋼板を選別して得た方向性電磁鋼板を、接合部が2か所未満の巻鉄心の材料として用いることで、当該一群の方向性電磁鋼板を効率的に余すことなく低鉄損な巻鉄心の製造に用いることができることがわかる。