(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6794924
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】固体電解質焼結体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20201119BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20201119BHJP
C04B 35/486 20060101ALI20201119BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20201119BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20201119BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
C04B35/486
H01B1/08
!H01M8/12
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-100914(P2017-100914)
(22)【出願日】2017年5月22日
(65)【公開番号】特開2018-195531(P2018-195531A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 忠司
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 友美
(72)【発明者】
【氏名】野村 和弘
【審査官】
北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−079723(JP,A)
【文献】
特開2011−242145(JP,A)
【文献】
特開2006−248858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
C04B 35/486
H01B 1/08
H01B 13/00
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた固体電解質焼結体。
(1)前記固体電解質焼結体は、
Sc2O3、及びY2O3が固溶した立方晶ZrO2と、
単斜晶ZrO2と
を含む。
(2)前記固体電解質焼結体は、次の式(1)で表される単斜晶相率(X)が10〜40%である。
X={Im(111)+Im(11-1)}×100/{Im(111)+Im(11-1)+Ic(111)}…(1)
但し、
Im(111)は、前記単斜晶ZrO2の(111)面のX線回折強度、
Im(11-1)は、前記単斜晶ZrO2の(11−1)面のX線回折強度、
Ic(111)は、前記立方晶ZrO2の(111)面のX線回折強度。
(3)前記Sc2O3と前記Y2O3の総含有量は、6mol%以上8mol%以下である。
【請求項2】
前記Sc2O3の含有量は、5mol%以上7mol%以下であり、
前記Y2O3の含有量は、1mol%以上2mol%以下である
請求項1に記載の固体電解質焼結体。
【請求項3】
400℃〜1000℃の線熱膨張係数が8×10-6/℃以上9.5×10-6/℃以下である請求項1又は2に記載の固体電解質焼結体。
【請求項4】
600℃における導電率が0.0060S/cm以上である請求項1から3までのいずれか1項に記載の固体電解質焼結体。
【請求項5】
以下の構成を備えた固体電解質焼結体の製造方法。
(1)前記固体電解質焼結体の製造方法は、
Sc2O3、A2O3(但し、A=La、Ce、Sm、Nd、Yb、及びYからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素)、及び単斜晶ZrO2を混合し、混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成形し、成形体を得る成形工程と、
前記成形体を1400℃以上1600℃以下で2〜5h焼成し、固体電解質焼結体を得る焼結工程と
を備えている。
(2)前記固体電解質焼結体は、
Sc2O3、及びA2O3(但し,A=La、Ce、Sm、Nd、Yb、及びYからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素)が固溶した立方晶ZrO2と、
単斜晶ZrO2と
を含み、
次の式(1)で表される単斜晶相率(X)が10〜40%である。
X={Im(111)+Im(11-1)}×100/{Im(111)+Im(11-1)+Ic(111)}…(1)
但し、
Im(111)は、前記単斜晶ZrO2の(111)面のX線回折強度、
Im(11-1)は、前記単斜晶ZrO2の(11−1)面のX線回折強度、
Ic(111)は、前記立方晶ZrO2の(111)面のX線回折強度。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質焼結体、及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、固体酸化物形燃料電池、排ガスセンサなどに好適な固体電解質焼結体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ZrO
2は、室温では単斜晶であるが、温度の上昇に伴い、正方晶から立方晶へと結晶構造が相転移する。単斜晶ZrO
2は、相転移に伴って体積変化が生じるため、昇降温を繰り返すと、やがて破壊する。一方、ZrO
2に2価又は3価の金属酸化物を固溶させると、室温で正方晶又は立方晶が安定化するために、昇降温に伴う破壊を抑制することができる。また、価数の異なる元素を固溶させることによって、結晶構造内に酸素空孔が形成されるため、酸素イオン伝導体として機能する。そのため、単斜晶の全部又は一部を正方晶又は立方晶に相転移させたZrO
2(安定化ZrO
2、又は部分安定化ZrO
2)は、固体酸化物型燃料電池の電解質や排ガスセンサの材料として用いられている。代表的な安定化ZrO
2として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)が知られている。
【0003】
このような安定化ZrO
2、又は部分安定化ZrO
2に関し、従来から種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、(1−x−y)ZrO
2−xSc
2O
3−yAl
2O
3(0.07≦x+y≦0.13、0.005≦y<0.02)なる組成よりなり、室温から動作温度の間で結晶構造が立方晶である酸素イオン伝導体が開示されている。
同文献には、
(a)Scのイオン半径はZrに近いため、これを主ドーパントとして添加すると、YSZに比べて低温で著しく大きなイオン伝導度を実現できる点、及び、
(b)副ドーパントであるAlをさらに添加すると、イオン伝導度を低下させることなく、立方晶が安定化され、高温での結晶変態が現れなくなる点
が記載されている。
【0004】
特許文献2には、(ZrO
2)
1-x-y(Sc
2O
3)
x(AO
z)
y(ここで、AはAl、La、Ce、Pr、Sm、Gd、Co、Mn、及びCuからなる群より選択される少なくとも1種の元素、0.02≦x≦0.2、0.005≦y≦0.1、1.0≦z≦2.0)で表されるスカンジア安定化ジルコニアの製造方法において、スカンジア安定化ジルコニアを構成する金属元素を含有する原料化合物を混合し、酸素含有雰囲気中1000〜1400℃で焼成した後、得られた焼成粉を粉砕し、酸素含有雰囲気中600〜1200℃で熱処理することを特徴とするスカンジア安定化ジルコニアの製造方法が開示されている。
【0005】
同文献には、
(a)このような方法により、立方晶相と単斜晶相とを含有し、単斜晶相率が1〜30%であり、かつ体積平均粒径が0.28〜3.0μmであるスカンジア安定化ジルコニア粉末が得られる点、及び
(b)このような方法により得られたスカンジア安定化ジルコニアは、熱処理なしのスカンジア安定化ジルコニアと比較して熱収縮開始温度が高く、熱膨張率が特定の範囲内にあるため、これを燃料電池用の電解質の成形用材料として使用すると、熱サイクルによる電極と固体電解質との間の接触抵抗の増加を低減できる点
が記載されている。
【0006】
特許文献3には、Yb
2O
3を最も多く固溶する立方晶ZrO
2と、Sc
2O
3を最も多く固溶する正方晶ZrO
2とを含有し、かつ固体電解質体のX線回折において、回折角2θ=73.2〜73.6度のピーク強度(Ia)と、回折角2θ=73.9〜74.3度のピーク強度(Ib)との比(Ia/Ib)が0.71〜0.86であるZrO
2を用いたガスセンサ素子が開示されている。
【0007】
同文献には、
(a)Yb
2O
3を最も多く固溶する立方晶ZrO
2の影響により固体電解質体のインピーダンスを低減させる事ができ、Sc
2O
3を最も多く固溶する正方晶ZrO
2の影響により強度を向上させることができる点、
(b)単斜晶ZrO
2を10〜20質量%含む固体電解質体とAl
2O
3からなる層とを同時焼成して形成した際、両者の熱膨張係数の値が近くなるので、ガスセンサ素子が割れたり、反りが発生することを防止することができる点、及び、
(c)ZrO
2に固溶するYb
2O
3及びSc
2O
3の割合が異なる固体電解質体を得るためには、8YbSZ、6ScSZ、及び単斜晶ZrO
2の各粉末を所定割合で混合し焼結させる方法を用いる必要があり、Yb
2O
3、Sc
2O
3、及び単斜晶ZrO
2の各粉末を混合して焼成する方法ではこのような固体電解質体は得られない点、
が記載されている。
【0008】
ZrO
2を酸素イオン伝導体として用いる場合、アルミナなどの絶縁体とZrO
2とを一体焼結することが行われている。しかし、立方晶ZrO
2は、単斜晶ZrO
2に比べて導電率が高い反面、熱膨張係数が10×10
-6/℃以上であり、アルミナのそれより大きい。そのため、立方晶ZrO
2とアルミナとを一体焼結するのは困難である。
【0009】
この問題を解決するために、特許文献2、3に記載されているように、ZrO
2を立方晶と単斜晶の混合相にする方法が提案されている。しかし、特許文献2には、焼成に用いる粉末の熱収縮開始温度と熱膨張収縮特性に言及しているが、最終的に得られた焼結体の単斜晶相率や線膨張係数には言及されていない。
【0010】
一方、特許文献3には、立方晶、正方晶、及び単斜晶の混合相からなるZrO
2焼結体が開示されている。しかし、特許文献3では、予め合成された立方晶8YbSZ、正方晶6ScSZ、及び単斜晶ZrO
2を所定の比率で混合し、混合物を焼結させる必要があるため、製造プロセスが煩雑である。また、正方晶ZrO
2を故意に混在させているため、水蒸気が多い雰囲気で使用した場合に、正方晶から単斜晶に相転移し、その際の体積膨張で焼結体が割れる懸念がある。
【0011】
さらに、排ガスセンサには、一般に、5〜6mol%のY
2O
3を添加した部分安定化ZrO
2(5〜6YSZ)が用いられている。しかし、5〜6YSZは、600℃程度の低温域における導電率が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3460727号公報
【特許文献2】特許第4972140号公報
【特許文献3】特許第5194051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、導電率が高く、かつ、アルミナと同程度の線熱膨張係数を持つ固体電解質焼結体、及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、簡便な製造プロセスで製造可能であり、しかも、正方晶から単斜晶への相転移に起因する割れが発生しにくい固体電解質焼結体、及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、600℃における導電率が6YSZより遙かに高い固体電解質焼結体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係る固体電解質焼結体は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記固体電解質焼結体は、
Sc
2O
3、及びA
2O
3(但し,A=La、Ce、Sm、Nd、Yb、及びYからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素)が固溶した立方晶ZrO
2と、
単斜晶ZrO
2と
を含む。
(2)前記固体電解質焼結体は、次の式(1)で表される単斜晶相率(X)が10〜40%である。
X={I
m(111)+I
m(11-1)}×100/{I
m(111)+I
m(11-1)+I
c(111)}…(1)
但し、
I
m(111)は、前記単斜晶ZrO
2の(111)面のX線回折強度、
I
m(11-1)は、前記単斜晶ZrO
2の(11−1)面のX線回折強度、
I
c(111)は、前記立方晶ZrO
2の(111)面のX線回折強度。
【0015】
本発明に係る固体電解質焼結体の製造方法は、
Sc
2O
3、A
2O
3(但し、A=La、Ce、Sm、Nd、Yb、及びYからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素)、及び単斜晶ZrO
2を混合し、混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成形し、成形体を得る成形工程と、
前記成形体を1400℃以上1600℃以下で2〜5h焼成し、本発明に係る固体電解質焼結体を得る焼結工程と
を備えていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
Sc
2O
3、及びA
2O
3を含む立方晶ZrO
2と、単斜晶ZrO
2とを所定の比率で含む固体電解質焼結体は、アルミナと同程度の線熱膨張係数を持つ。また、Sc
2O
3のみが固溶したZrO
2は、立方晶だけでなく菱面体晶をとり易いが、Sc
2O
3と共にA
2O
3を固溶させると、立方晶が安定化すると同時に、高い導電率が得られる。特に、A
2O
3としてY
2O
3を選択すると、600℃における導電率は、6YSZの約5倍以上となる。
このような固体電解質焼結体は、Sc
2O
3、A
2O
3、及び単斜晶ZrO
2を所定の比率で混合し、適切な条件下で焼結させることにより得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1で得られた固体電解質焼結体のX線回折パターンである。
【
図2】比較例1で得られた固体電解質焼結体のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 固体電解質焼結体]
本発明に係る固体電解質焼結体は、立方晶ZrO
2と、単斜晶ZrO
2とを含み、かつ、単斜晶相率(X)が10〜40%であるものからなる。
【0019】
[1.1. 立方晶ZrO
2]
本発明において、「立方晶ZrO
2」とは、Sc
2O
3、及びA
2O
3(A=La、Ce、Sm、Nd、Yb、及びYからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素)が固溶しているZrO
2であって、室温〜1000℃の温度域において、立方晶の結晶構造を持つものをいう。
Sc
2O
3を含む安定化ZrO
2は、立方晶以外にも、菱面体晶や正方晶の結晶構造を取り得る。これらの内、Sc
2O
3を含む立方晶ZrO
2は、導電率が最も高い。一方、Sc
2O
3のみを含む安定化ZrO
2は、組成や焼結条件などの違いにより、結晶構造が大きく変化し、それに伴い導電率も変化する。A
2O
3は、主として、立方晶の結晶構造、及び高い導電率を安定化させるために添加される。
【0020】
A
2O
3を構成する元素Aとしては、La、Ce、Sm、Nd、Yb、Yなどがある。立方晶ZrO
2には、これらのいずれか1種が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
A
2O
3は、特に、Y
2O
3が好ましい。ZrO
2に対してSc
2O
3及びY
2O
3の双方を固溶させると、立方晶がさらに安定化するだけでなく、高い導電率が得られる。
【0021】
[1.2. 単斜晶ZrO
2]
本発明において、「単斜晶ZrO
2」とは、室温〜1000℃の温度域において、単斜晶の結晶構造を持つものをいう。単斜晶ZrO
2は、単斜晶の結晶構造を持つ限りにおいて、微量の安定化剤を含んでいるものでも良く、あるいは、安定化剤を実質的に含んでいないものでも良い。
【0022】
[1.3. 単斜晶相率]
「単斜晶相率(X)」とは、次の式(1)で表される値をいう。
X={I
m(111)+I
m(11-1)}×100/{I
m(111)+I
m(11-1)+I
c(111)}…(1)
但し、
I
m(111)は、単斜晶ZrO
2の(111)面のX線回折強度、
I
m(11-1)は、単斜晶ZrO
2の(11−1)面のX線回折強度、
I
c(111)は、立方晶ZrO
2の(111)面のX線回折強度。
【0023】
立方晶ZrO
2は、導電率は高いが、線熱膨張係数が大きい。一方、単斜晶ZrO
2は、導電率は低いが、線熱膨張係数が小さい。そのため、Xが小さすぎると、線熱膨張係数が大きくなりすぎ、アルミナとの一体焼結が困難となる。従って、Xは、10%以上である必要がある。
一方、Xが大きくなりすぎると、導電率が低下する。従って、Xは、40%以下である必要がある。Xは、好ましくは、36%以下である。
【0024】
[1.4. 安定化剤の含有量]
[1.4.1. 総含有量]
安定化剤の総含有量は、固体電解質焼結体の導電率、及び線膨張係数に影響を与える。一般に、安定化剤の総含有量が多くなるほど、高い導電率が得られる。しかし、安定化剤の総含有量が過度に多くなると、単斜晶相率(X)が過度に小さくなり、線熱膨張係数が増大する。
最適な総含有量は、A
2O
3の種類により異なる。例えば、A
2O
3がY
2O
3である場合、安定化剤の総含有量は、6mol%以上8mol%以下が好ましい。
【0025】
[1.4.2. 各安定化剤の含有量]
各安定化剤の含有量もまた、固体電解質焼結体の導電率、及び線熱膨張係数に影響を与える。一般に、Sc
2O
3の含有量が多くなるほど、導電率が高くなる。しかし、Sc
2O
3の含有量が過度に多くなると、菱面体晶が生成したり、あるいは、線熱膨張係数が過度に大きくなる。
また、一般に、A
2O
3の含有量が多くなるほど、立方晶が安定化する。しかし、A
2O
3の含有量が過度に多くなると、導電率が低下する。
【0026】
各安定化剤の最適な含有量は、A
2O
3の種類により異なる。例えば、A
2O
3がY
2O
3である場合、Sc
2O
3の含有量は、5mol%以上7mol%以下が好ましい。また、Y
2O
3の含有量は、1mol%以上2mol%以下が好ましい。
【0027】
[1.5. 線熱膨張係数]
固体電解質焼結体の線熱膨張係数は、安定化剤の種類及び含有量、並びに、単斜晶相率(X)に依存する。組成及び製造条件を最適化すると、400〜1000℃の線熱膨張係数が8×10
-6/℃以上9.5×10
-6/℃以下である固体電解質焼結体が得られる。このような固体電解質焼結体は、線熱膨張係数がアルミナとほぼ同等であるので、アルミナとの一体焼結が可能となる。
【0028】
[1.6. 導電率]
排ガスセンサ用の材料として実用化されている5〜6YSZは、600℃以上の温度域でイオン伝導性を示す。そのため、600℃における5〜6YSZの導電率は、相対的に低い。
これに対し、本発明に係る固体電解質焼結体は、組成及び製造条件を最適化することにより、600℃における導電率が0.0060S/cm以上となる。この値は、6YSZの約5倍に相当する。
【0029】
[2. 固体電解質焼結体の製造方法]
本発明に係る固体電解質焼結体の製造方法は、混合工程と、成形工程と、焼結工程とを備えている。
【0030】
[2.1. 混合工程]
まず、Sc
2O
3、A
2O
3(但し、A=La、Ce、Sm、Nd、Yb、及びYからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素)、及び単斜晶ZrO
2を混合し、混合物を得る(混合工程)。各原料粉末は、目的とする組成が得られるように配合する。各原料粉末の平均粒径、混合方法、混合条件等は、特に限定されるものではなく、目的とする組成、結晶構造等を持つ固体電解質焼結体が得られるものであれば良い。
【0031】
[2.2. 成形工程]
次に、得られた混合物を成形し、成形体を得る(成形工程)。成形方法、及び成形条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択すれば良い。例えば、金型に得られた混合物を入れ、圧力をかけて成形する方法や、得られた混合物に有機バインダーを加え、シート状に成形する方法などを用いることができる。
【0032】
[2.3. 焼結工程]
次に、得られた成形体を1400℃以上1600℃以下で2〜5h焼成する(焼結工程)。これにより、本発明に係る固体電解質焼結体が得られる。焼成温度及び焼成時間は、単斜晶相率(X)に影響を与える。
【0033】
一般に、焼成温度が低すぎると、安定化剤の拡散が不十分となり、単斜晶相率(X)が過度に高くなる。従って、焼成温度は、1400℃以上である必要がある。焼成温度は、好ましくは、1450℃以上である。
一方、焼成温度が高くなりすぎると、安定化剤が過度に拡散し、単斜晶相率(X)が過度に小さくなる。焼成温度は、1600℃以下である必要がある。焼成温度は、好ましくは、1550℃以下である。
【0034】
同様に、焼成時間が短すぎると、安定化剤の拡散が不十分となり、単斜晶相率(X)が過度に高くなる。従って、焼成時間は、2時間以上である必要がある。
一方、焼成時間が長くなりすぎると、安定化剤が過度に拡散し、単斜晶相率(X)が過度に小さくなる。焼成時間は、5時間以下である必要がある。
【0035】
[3. 作用]
Sc
2O
3、及びA
2O
3を含む立方晶ZrO
2と、単斜晶ZrO
2とを所定の比率で含む固体電解質焼結体は、アルミナと同程度の線熱膨張係数を持つ。また、Sc
2O
3のみが固溶したZrO
2は、立方晶だけでなく菱面体晶をとり易いが、Sc
2O
3と共にA
2O
3を固溶させると、立方晶が安定化すると同時に、高い導電率が得られる。特に、A
2O
3としてY
2O
3を選択すると、600℃における導電率は、6YSZの約5倍以上となる。
このような固体電解質焼結体は、Sc
2O
3、A
2O
3、及び単斜晶ZrO
2を所定の比率で混合し、適切な条件下で焼結させることにより得られる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
13.48gの単斜晶ZrO
2、0.98gのSc
2O
3、0.54gのY
2O
3の粉末(組成:92mol%ZrO
2−6mol%Sc
2O
3−2mol%Y
2O
3)を100mLのエタノールに分散させた。これに3mmφのYTZボールを加えて、24h粉砕・混合した。ロータリーエバポレータで混合粉末を回収し、乾燥させた後、13mmφの金型で圧粉成形した。成形体を昇温速度:150℃/hで昇温し、1450℃で2h焼成し、焼結体を得た。
【0037】
[2. 評価]
図1に、実施例1で得られた固体電解質焼結体のX線回折パターンを示す。X線回折パターンには、立方晶と単斜晶のピークが観測され、単斜晶相率は12.4%であった。焼結体両面を研磨し、Pt電極をスパッタ法で形成し、大気中で導電率を測定したところ、600℃で0.0070S/cmであった。また、焼結体の400〜1000℃の線熱膨張係数は、8.8×10
-6/℃であった。
【0038】
(実施例2)
[1. 試料の作製]
焼成条件を1400℃×3hとした以外は、実施例1と同様にして固体電解質焼結体を得た。
【0039】
[2. 評価]
焼結体のX線回折(図示せず)を測定したところ、立方晶と単斜晶のピークが観測され、単斜晶相率は12.6%であった。焼結体両面を研磨し、Pt電極をスパッタ法で形成し、大気中で導電率を測定したところ、600℃で0.0063S/cmであった。また、焼結体の400〜1000℃の線熱膨張係数は、8.8×10
-6/℃であった。
【0040】
(実施例3)
[1. 試料の作製]
13.74gの単斜晶ZrO
2、0.99gのSc
2O
3、0.27gのY
2O
3の粉末(組成:93mol%ZrO
2−6mol%Sc
2O
3−1mol%Y
2O
3)を用い、焼成条件を1500℃×2hとした以外は、実施例1と同様にして固体電解質焼結体を得た。
【0041】
[2. 評価]
焼結体のX線回折(図示せず)を測定したところ、立方晶と単斜晶のピークが観測され、単斜晶相率は26.7%であった。焼結体両面を研磨し、Pt電極をスパッタ法で形成し、大気中で導電率を測定したところ、600℃で0.0086S/cmであった。また、焼結体の400〜1000℃の線熱膨張係数は、8.0×10
-6/℃であった。
【0042】
(実施例4)
[1. 試料の作製]
13.64gの単斜晶ZrO
2、0.82gのSc
2O
3、0.54gのY
2O
3の粉末(組成:93mol%ZrO
2−5mol%Sc
2O
3−2mol%Y
2O
3)を用いた以外は、実施例3と同様にして固体電解質焼結体を得た。
【0043】
[2. 評価]
焼結体のX線回折(図示せず)を測定したところ、立方晶と単斜晶のピークが観測され、単斜晶相率は20.9%であった。焼結体両面を研磨し、Pt電極をスパッタ法で形成し、大気中で導電率を測定したところ、600℃で0.0067S/cmであった。また、焼結体の400〜1000℃の線熱膨張係数は、9.2×10
-6/℃であった。
【0044】
(実施例5)
[1. 試料の作製]
13.90gの単斜晶ZrO
2、0.83gのSc
2O
3、0.27gのY
2O
3の粉末(組成:94mol%ZrO
2−5mol%Sc
2O
3−1mol%Y
2O
3)を用い、焼成条件を1550℃×2hとした以外は、実施例1と同様にして固体電解質焼結体を得た。
【0045】
[2. 評価]
焼結体のX線回折(図示せず)を測定したところ、立方晶と単斜晶のピークが観測され、単斜晶相率は35.4%であった。焼結体両面を研磨し、Pt電極をスパッタ法で形成し、大気中で導電率を測定したところ、600℃で0.0075S/cmであった。また、焼結体の400〜1000℃の線熱膨張係数は、8.0×10
-6/℃であった。
【0046】
(比較例1)
[1. 試料の作製]
市販の92mol%ZrO
2−8mol%Y
2O
3粉末(東ソー(株)製、TZ−8Y)を13mmφの金型で圧粉成形した。成形体を昇温速度150℃/hで昇温し、1450℃で2h焼成し、焼結体を得た。
【0047】
[2. 評価]
図2に、比較例1で得られた固体電解質焼結体のX線回折パターンを示す。X線回折パターンには、立方晶のピークのみが観測された(単斜晶相率は0%)。焼結体両面を研磨し、Pt電極をスパッタ法で形成し、大気中で導電率を測定したところ、700℃で0.021S/cm、600℃で0.0065S/cmであった。また、焼結体の400〜1000℃の線熱膨張係数は、10.5×10
-6/℃であった。
【0048】
(比較例2)
[1. 試料の作製]
13.43gの単斜晶ZrO
2、及び1.57gのY
2O
3の粉末(組成:94mol%ZrO
2−6mol%Y
2O
3)を100mLのエタノールに分散させた。これに3mmφのYTZボールを加えて、24h粉砕・混合した。ロータリーエバポレータで混合粉末を回収し、乾燥させた後、13mmφの金型で圧粉成形した。成形体を昇温速度:150℃/hで昇温し、1500℃で2h焼成し、焼結体を得た。
【0049】
[2. 評価]
焼結体のX線回折(図示せず)を測定したところ、立方晶と単斜晶のピークが観測され、単斜晶相率は27.5%であった。焼結体両面を研磨し、Pt電極をスパッタ法で形成し、大気中で導電率を測定したところ、600℃で0.0013S/cmであった。また、焼結体の400〜1000℃の線熱膨張係数は、8.3×10
-6/℃であった。
【0050】
表1に、実施例1〜5、及び比較例1〜2で得られた各焼結体の組成、焼結条件、及び特性を示す。
【表1】
【0051】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る固体電解質焼結体は、固体酸化物形燃料電池の電解質、排ガスセンサなどに用いることができる。