(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、ビデオカメラなどのカラー画像入力装置においては、イメージセンサに赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の光学フィルタが組み込まれている構成が一般的である。カラー画像入力装置に入射した光は、この3色光学フィルタによって分解され、イメージセンサによってR、G、B各色の信号に変換される。
【0003】
カラー画像入力装置に使用されるイメージセンサがシリコン系のセンサである場合、そのセンサ感度は、可視領域から近赤外領域に渡る。しかし、近赤外光成分は、色再現において悪影響を及ぼす場合がある。ところが、3色光学フィルタは、それぞれの色に対応する波長領域については一定の透過率を保証するものの、近赤外領域などの可視領域以外の領域については、光の透過特性が必ずしも保証されない。
【0004】
図17は、RGB3色光学フィルタの分光透過率を例示する図である。例えば、可視領域を400〜700nmとした場合、各色のフィルタには、400〜500nm(B)、500〜600nm(G)、600〜700nm(R)付近の波長の光を透過する特性が期待される。しかし、各色のフィルタは、
図17に示すように、可視領域以外の領域の光を透過する特性も有している場合がある。
【0005】
また、画像入力装置での採用例も多いフォトダイオードによるイメージセンサの分光感度特性は、700nm以上の波長領域においても感度を有する。そうすると、
図17のような分光感度特性を有する3色光学フィルタを一般的なイメージセンサに適用しただけでは、色再現性の観点から問題が生じる場合がある。そのため、イメージセンサには、高い色再現性が要求される場合には赤外カットフィルタが設けられる。
【0006】
図18は、人間の色知覚に関するXYZ表色系の等色関数を示す図である。
図18に示すように、人間の色知覚は、700nm以上の波長の光について感度を有しない。そのため、700nm以上の波長領域にパワーを有する光は、心理物理量である知覚色に影響を与えない。
【0007】
ここで、
図19に示すような600nm以上の波長領域にパワーを有する光を観測する場合を想定する。この光は、人間には赤として知覚される。一方、
図17に示すような3色光学フィルタを用いたイメージセンサで観測した場合、その出力信号は、RだけでなくGやBも値を有してしまう。そのため、この出力信号は、人間が知覚する色(赤)と異なる色を示してしまう。
【0008】
カラー画像入力装置において、人間の色知覚に応じた色再現性を実現するためには、
図20に示すような700nm以上の近赤外光の影響を除去する分光透過率を有する赤外カットフィルタが用いられる。具体的には、
図21に示すように、カラー画像入力装置の光学系に赤外カットフィルタ610を設けることで、3色光学フィルタ620及びイメージセンサ630への近赤外光の入射が遮断される。このようにすることで、近赤外領域にパワーを有しない光を3色光学フィルタ620及びイメージセンサ630に入射させることができる。
【0009】
一方、光量が不足した環境下で映像を撮影する場合には、ノイズを抑制した高感度撮影が求められる。このような場合には、光量不足に起因するセンサノイズを抑制するために、イメージセンサへの受光量を増やすことが望ましい。暗所での高感度撮影を実現する方法としては、近赤外光を利用した撮影方法が知られている。
【0010】
高感度撮影時に近赤外光を利用する最も簡易的な方法は、光学系にセットされている赤外カットフィルタを高感度撮影時に機械的に移動させ、光学系から赤外カットフィルタを一時的に取り除く方法である。しかし、この方法には、部品点数の増加、すなわちコスト上昇の問題だけでなく、赤外カットフィルタを移動させる機械的動作を要することにより故障の可能性が増大する問題もある。
【0011】
これに対し、非特許文献1は、機械的動作を要することなく撮影する方法を開示している。具体的には、非特許文献1には、カラー画像と近赤外画像のそれぞれを撮影する2台のカメラを用いた撮影方法が記載されている。
【0012】
また、非特許文献2は、
図22に示すように、RGBの3色光学フィルタに近赤外光を透過するIR(infrared)フィルタを加えた4色の光学フィルタが組み込まれたイメージセンサ700を開示している。非特許文献2の第2図には、R、G、B、IRの各光学フィルタの分光感度特性が記載されている。R、G、Bの各光学フィルタの分光感度特性は、近赤外領域において、IRフィルタと同様の分光感度を有している。昼間撮影において高い色再現性を実現するためには、R、G、Bの色信号に含まれる近赤外光の影響を抑制ないし除去する必要がある。非特許文献2に記載されたイメージセンサは、昼間撮影においては、R、G、Bの色信号に含まれるIR成分を除去し、夜間撮影においては、IRフィルタを透過して得られたIR信号だけでなく、R、G、Bの色信号に含まれるIR成分も用いて白黒画像を得る。
【0013】
特許文献1は、近赤外光(NIR:near-infrared)を透過するR、G、Bの3色光学フィルタを用いるとともに、近赤外光を検出するフォトセンサを用いることで、R、G、B、NIRの各色の信号を生成する撮像デバイスを開示している。このフォトセンサは、光の入射方向に対して浅い位置に可視光センサ部を有し、当該方向に対して深い位置に非可視光センサ部を有する。
【0014】
また、非特許文献3は、IRカットフィルタを用いず、RGBベイヤ型カラーフィルタアレイ(CFA)のGフィルタに対して分光透過特性が異なる2種類のフィルタを用いるなど、通常と異なるカラーフィルタアレイを用いて撮像した画像からカラーチャネルとNIRチャネルを分離し、4チャネルの画像を生成する手法を開示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る映像処理装置の構成を例示するブロック図である。映像処理装置100は、近赤外光を含む映像を表す映像信号を取得し、取得した映像信号に対応する色信号及び近赤外信号を出力する装置である。換言すれば、映像処理装置100は、可視光及び近赤外光を含んだ状態で撮像された映像から色信号と近赤外信号を分離する装置である。なお、本図以降のブロック図に示した矢印は、信号の流れの一例を示すものであって、信号の流れが特定の方向に限定されることを意図したものではない。
【0027】
ここでいう映像とは、レンズ等の光学系を介して取り込まれる像をいい、静止画と動画のいずれであってもよい。また、色信号は、映像信号のうちの可視光成分を表す信号である。これに対し、近赤外信号は、映像信号のうちの近赤外光成分を表す信号である。色信号及び近赤外信号は、例えば画素の輝度を表すが、輝度のみに限定されない。なお、以下の説明において、色信号及び近赤外信号は、静止画か、映像である場合には当該映像の特定の時点の像の各画素の輝度を表すものとする。
【0028】
また、本実施形態において、可視領域とは、400〜700nmの波長領域をいう。このうち、400〜500nmを青(B)、500〜600nmを緑(G)、600〜700nmを赤(R)の波長領域とする。また、近赤外領域とは、700nm〜2.5μmの波長領域をいう。ただし、ここに示した波長領域の分類は、あくまでも一例にすぎない。
【0029】
映像処理装置100は、取得部110と信号処理部120とを備える。映像処理装置100は、映像信号を供給する外部装置と接続する。外部装置は、例えば、イメージセンサを有する撮像装置である。取得部110は、この外部装置から映像信号を取得する。信号処理部120は、取得部110により取得された映像信号に基づいて、色信号と近赤外信号とを出力する。
【0030】
取得部110は、所定の幾何学的形状を有するパターンに応じた強度の近赤外光を含む映像を表す映像信号を取得する。ここでいうパターンは、円形、矩形などの図形が繰り返し規則的に配列されたものである。このような映像信号は、例えば、イメージセンサに近赤外光をカットする光学フィルタ(以下「NIRカットフィルタ」という。)を設けることで得られる。
【0031】
図2は、NIRカットフィルタを例示する図であり、NIRカットフィルタを光の入射方向に対して垂直に示す図である。
図2に示すNIRカットフィルタ10は、フィルタ部11に赤外透過部12を複数設けた構成である。赤外透過部12は、ここでは、等間隔に配列された円形の穴である。NIRカットフィルタ10は、赤外透過部12において近赤外光を遮光せずに透過し、フィルタ部11において近赤外光を所定の割合以上カットする。
【0032】
なお、映像信号に含まれる近赤外光成分が映像上に形成するパターンは、NIRカットフィルタのパターンと必ずしも一致しない。なぜならば、近赤外光は、NIRカットフィルタを透過した後に回折を生じるからである。映像信号に映像として現われる近赤外光成分のパターンは、NIRカットフィルタに形成されたパターン(
図2の赤外透過部12に相当)よりも各図形が大きくなる。
【0033】
信号処理部120は、このような映像信号を取得部110から取得し、色信号と近赤外信号とを出力する。色信号は、典型的にはR、G、Bの3成分の信号として出力されるが、必ずしもこれに限定されない。信号処理部120は、近赤外光のパターンを規定するパターン情報を用いて所定の演算処理を実行することにより、色信号と近赤外信号とを出力することができる。
【0034】
パターン情報は、映像上の近赤外光のパターンを特定するための情報である。例えば、パターン情報は、NIRカットフィルタにおけるパターンの位置及び形状を表すデータである。パターン情報は、
図2に示したNIRカットフィルタの場合であれば、赤外透過部12の円の中心の座標とその半径とをパラメータとして記述したデータであってもよいが、パターンを特定可能であればどのようなデータであってもよい。なお、パターン情報は、映像処理装置100にあらかじめ記憶されていてもよいし、ユーザ等によって入力されてもよい。例えば、パターン情報は、ユーザがキャリブレーションを実施することによってあらかじめ求められてもよい。
【0035】
以上のとおり、映像処理装置100は、近赤外光を所定のパターンで含んだ映像を表す映像信号とパターン情報とを組み合わせて用いることで、映像信号から色信号と近赤外信号とを分離することが可能である。したがって、映像処理装置100によれば、色信号と近赤外信号とを含んだ映像信号に基づいて可視光の映像処理と近赤外光の映像処理とをそれぞれ実行することが可能になる。
【0036】
また、このような映像信号を撮像装置によって得る場合、撮像装置は、一般的な撮像装置に
図2に示すようなNIRカットフィルタを設ければ足りるため、一般的な構成を利用可能である。なお、本実施形態において、出力された近赤外信号の用途は、特に限定されない。
【0037】
[第2実施形態]
図3は、本発明の別の実施形態に係る映像処理装置の構成を例示するブロック図である。
図3に示す映像処理装置200は、映像データ取得部210と、第1色信号取得部220と、パターン記憶部230と、第2色信号推定部240と、近赤外信号算出部250と、出力部260とを備える。映像処理装置200は、第1実施形態の映像処理装置100と同様の機能を有する。
【0038】
映像データ取得部210は、映像データを取得する。映像データ取得部210は、第1実施形態と同様の外部装置から映像データを取得することができる。映像データは、複数の色信号を少なくとも含む。複数の色信号は、ここでは、R、G、Bの3色の色成分に分離されて表現された色信号であり、各画素を所定のビット数の値によって表す。なお、ここでいう色信号は、可視光成分に近赤外光成分が重畳された状態の映像を表す。以下においては、このような色信号のことを「第1色信号」ともいう。第1色信号は、後述する第2色信号と近赤外信号とを加算した信号である。
【0039】
第1色信号取得部220は、映像データ取得部210から第1色信号を取得する。第1色信号取得部220は、各色の第1色信号をそれぞれ取得する。
【0040】
パターン記憶部230は、パターン情報を記憶する。パターン記憶部230は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリなどの記憶媒体によって構成される。なお、本実施形態のパターン情報としては、第1実施形態と同様のデータを用いることができる。パターン情報は、各色で共通のデータを用いることが可能である。
【0041】
第2色信号推定部240は、第1色信号から近赤外光成分を除いた色信号である第2色信号を推定する。また、第2色信号推定部240は、第2色信号に加え、第2色信号と近赤外信号の強度比を推定する。第2色信号推定部240は、第1色信号取得部220により取得された第1色信号とパターン記憶部230に記憶されたパターン情報とに基づいて、各色の第2色信号及び強度比を推定する。
【0042】
近赤外信号算出部250は、近赤外信号を各色について算出する。近赤外信号算出部250は、第2色信号推定部240により推定された第2色信号及び第2色信号と近赤外信号の強度比を用いて、近赤外信号を算出することができる。
【0043】
出力部260は、第2色信号と近赤外信号とを出力する。出力部260は、近赤外信号算出部250により算出された各色分の近赤外信号に対して所定の演算(例えば、加算)を実行してからこれを出力する。
【0044】
なお、第1色信号取得部220、第2色信号推定部240及び近赤外信号算出部250は、各色の処理を順次実行してもよいし、同時並行的に実行してもよい。
【0045】
図4は、第2色信号推定部240の構成をより詳細に示すブロック図である。第2色信号推定部240は、初期値推定部241と、推定値選択部242と、平滑さ評価部243と、第1色信号推定部244と、誤差算出部245と、推定値更新部246とを備える。
【0046】
初期値推定部241は、第2色信号及び第2色信号と近赤外信号との強度比の推定値の初期値を算出する。初期値推定部241は、第1色信号に基づき、第2色信号の推定値と強度比の推定値の初期値をそれぞれ算出する。
【0047】
推定値選択部242は、第2色信号と強度比の推定値をそれぞれ選択する。推定値選択部242は、これらの推定値を選択する処理を繰り返す。推定値選択部242は、初回の選択処理においては、初期値推定部241により算出された初期値を選択する一方、2回目以降の選択処理においては、推定値更新部246により更新された推定値を選択する。
【0048】
平滑さ評価部243は、第2色信号及び強度比の推定値の平滑さを評価する。ここにおいて、平滑さとは、値の空間的なばらつきの度合いを意味し、「滑らかさ」ともいう。例えば、第2色信号の推定値が平滑であるとは、映像を構成する一定の範囲内の画素の推定値の最大値と最小値の差分が所定の閾値以下であることをいう。平滑さ評価部243は、所定のアルゴリズムに従って平滑さの評価値を算出する。
【0049】
第1色信号推定部244は、第1色信号を推定する。第1色信号推定部244は、推定値選択部242により選択された推定値とパターン記憶部230に記憶されたパターン情報とに基づいて、第1色信号の推定値を算出する。
【0050】
誤差算出部245は、第1色信号の推定値を実際の第1色信号と比較し、その誤差を算出する。すなわち、誤差算出部245は、第1色信号推定部244により推定された第1色信号と第1色信号取得部220により取得された第1色信号とを比較する。
【0051】
推定値更新部246は、第2色信号及び強度比の推定値を更新する。推定値更新部246は、平滑さ評価部243により算出された評価値と誤差算出部245により算出された誤差とに基づいてこれらの推定値を更新する。
【0052】
また、推定値更新部246は、更新前後の推定値をそれぞれ比較し、各々の推定値の更新量が十分に小さくなった場合には、更新を終了する。具体的には、推定値更新部246は、推定値の更新量を所定の閾値を比較し、更新量が当該閾値以下になった場合に更新を終了する。推定値更新部246は、更新を終了した時点での推定値を第2色信号推定部240の出力値とする。
【0053】
一方、推定値更新部246は、更新量が閾値を超える場合には、推定値を推定値選択部242に供給する。この場合、推定値選択部242、平滑さ評価部243、第1色信号推定部244、誤差算出部245及び推定値更新部246は、更新された推定値を用いて上述した処理を再度実行し、これを推定値の更新が終了するまで繰り返す。
【0054】
映像処理装置200の構成は、以上のとおりである。この構成において、映像処理装置200は、映像データを取得すると、色信号と近赤外信号を出力する。映像処理装置200の具体的な動作は、以下に示すとおりである。なお、ここでは、映像データの全ての画素にR、G、B各色の色信号が設定されているものとする。
【0055】
図5は、映像処理装置200が実行する処理の概略を例示するフローチャートである。ただし、映像処理装置200は、必ずしも
図5に示したとおりに処理を実行することを要しない。例えば、映像処理装置200は、R、G、B各色の色信号について、ステップS3、S4の処理を並行して実行してもよい。
【0056】
まず、映像データ取得部210は、映像データを取得する(ステップS1)。次に、第1色信号取得部220は、映像データ取得部210により取得された映像データに含まれる複数の第1色信号のいずれかを選択する(ステップS2)。このとき、第1色信号取得部220は、後述するステップS3、S4の処理をまだ実行していない第1色信号を選択する。
【0057】
第1色信号取得部220によりいずれかの第1色信号が選択されたら、第2色信号推定部240は、選択された第1色信号に基づき、第2色信号及び第2色信号と近赤外信号の強度比をそれぞれ推定する(ステップS3)。換言すれば、第2色信号推定部240は、第2色信号の推定値と強度比の推定値とをそれぞれ算出する。次いで、近赤外信号算出部250は、これらの推定値に基づいて近赤外信号を算出する(ステップS4)。
【0058】
出力部260は、必要な第2色信号及び近赤外信号が得られたら、これを出力する。すなわち、出力部260は、ステップS2〜S4の処理が全色について実行されたか否かを判断し(ステップS5)、全色の処理が終了していれば(ステップS5:YES)第2色信号及び近赤外信号を出力する(ステップS6)。
【0059】
一方、ステップS2〜S4の処理を実行していない色がある場合(ステップS5:NO)、第1色信号取得部220は、未処理の第1色信号を選択する(ステップS2)。第2色信号推定部240及び近赤外信号算出部250は、ステップS2の選択に応じて、それぞれステップS3、S4の処理を再度実行する。
【0060】
ステップS3、S4の処理は、より詳細には、次のとおりである。なお、以下の説明は、便宜的にGの色信号を用いて記述されるが、他の色の処理も同様のものである。
【0061】
図6は、本実施形態における近赤外信号を例示する図であり、NIRカットフィルタに設けられた円形の赤外透過部を透過した近赤外信号を表している。ここにおいて、X軸及びY軸は、映像データが表す映像に定義される直交座標に対応する。また、Z軸は、近赤外信号の輝度(明るさ)を示している。
【0062】
近赤外信号は、近赤外光の回折の影響により、赤外透過部の実際の面積よりも広い範囲に有意な値を有し、その値が赤外透過部の中心からその外側に向かって段階的に低下する。近赤外信号は、隣り合う赤外透過部の距離が短い場合には、ある赤外透過部に由来する成分と他の赤外透過部に由来する成分とが混合される場合もある。
【0063】
図7A及び
図7Bは、それぞれ、NIRカットフィルタのパターンに応じた近赤外光を例示する図であり、イメージセンサに照射される近赤外光の範囲を示している。
図7Aは、それぞれの赤外透過部からの赤外光が重ならない場合を示している。これに対し、
図7Bは、それぞれの赤外透過部からの赤外光が重なる場合を示している。
【0064】
ここで、NIRカットフィルタ上のある1つの赤外透過部に対し、波長λ、入射強度I
0の近赤外光が入射した場合のイメージセンサ上の強度I(w)は、以下の式(1)によって表される。
【0065】
ここにおいて、J
1(w)は次数1の第1種ベッセル関数であり、Cは所定の補正係数である。補正係数Cは、強度I(w)が実際の映像に形成されるパターンと一致するように調整するための係数である。また、wは、以下の式(2)に示すとおりである。
【0066】
ここにおいて、aは、赤外透過部の半径を表す。また、q及びRは、それぞれ、イメージセンサ上の任意の点をpとした場合に、赤外透過部の中心からイメージセンサに下ろした垂線がイメージセンサと交わる点と点pとの距離と、赤外透過部の中心と点pとの距離とに相当する。式(2)のa、q及びRを図解すると、
図8のようになる。
【0067】
図9は、近赤外光がNIRカットフィルタにおいて回折することでイメージセンサ上に形成されるパターンの一つについて、その強度と中心からの距離との関係を例示する図である。式(1)の補正係数Cは、強度I(w)がこのようなパターンに一致するように決められる。
【0068】
そのため、近赤外光の透過部(すなわち赤外透過部)に対応する画像上の位置Xにおける近赤外信号の強度をI
NIR_G(X)とすると、同じ赤外透過部を透過した近赤外光によって位置xにある画素において観測される強度I
NIR_G(X,x)は、以下の式(3)のように表される。
【0069】
ここにおいて、k
X→xは、イメージセンサ上における位置Xと位置xの距離から式(1)及び(2)を用いて算出される係数である。ただし、係数k
X→xの算出方法は、これに限定されない。例えば、係数k
X→xの算出方法としては、近赤外信号I
NIR_G(X)の分光分布が既知である場合には、各波長において式(1)及び(2)を用いて算出される係数を分光分布に基づいて合成する方法がある。また、係数k
X→xは、設営シーンにおける標準的な近赤外光の分光分布に基づいて算出したり、あらかじめ別の手段を用いて計算したりすることによって求めることも可能である。
【0070】
また、位置xの画素に到達する光は、可視光と近赤外光の混合光である。具体的には、位置xの画素における第1色信号は、可視光成分のみによる色信号である第2色信号と、NIRカットフィルタ上のパターンを構成する複数の赤外透過部から当該画素に到達する近赤外光を表す信号とを加算したものである。そのため、この第1色信号は、式(4)に示すI
G_NIR(x)によって表すことができる。ここにおいて、I
G(x)は、可視光成分のうちのG成分を表す第2色信号に対応する。
【0071】
ここで、第2色信号I
G(X)と近赤外信号I
NIR_G(X)の関係は、強度比m
Gを用いると、式(5)のように表される。式(4)は、式(5)を用いると、式(6)のように変換できる。
【0073】
式(6)で表されるモデル式を用いると、第1色信号から第2色信号と強度比を推定することが可能である。いま、各画素の第1色信号(I
G_NIR(x))を要素とするベクトルをI
G_NIRとすると、I
G_NIRは、理論的には式(7)のように表すことができる。
【0074】
ここにおいて、I
Gは、各画素の第2色信号(I
G(x))を要素とするベクトルを表す。Sは、近赤外光を透過させる部分における第2色信号を抽出するためのサンプリング行列を表す。D(M
G)は、近赤外光を透過させる部分のそれぞれの強度比(m
G)の値を要素とするベクトルM
Gの各要素を対角要素として有する対角行列を表す。Kは、係数k
X→xの値を要素として有する行列を表す。
【0075】
第2色信号I
G及び強度比M
Gは、以下の式(8)で表されるエネルギー関数Eを最小化する値を算出することで求められる。
【0076】
式(8)の右辺第1項は、第2色信号I
G及び強度比M
Gが式(7)の関係を満たさなければ、0よりも大きな値になる。また、式(8)の右辺第2項及び第3項は、式(7)より導出された右辺第1項のエネルギー最小化が不良設定(ill-posed)に陥ることを防ぐための正則化項(regularization term)である。これらの項は、第2色信号と強度比の空間的な滑らかさ(spatial smoothness)を評価するためのコスト関数C
1(I
G)、C
2(M
G)にあらかじめ設定された係数λ
1、λ
2を乗算した項である。
【0077】
滑らかさを評価するためのコスト関数は、例えば、式(9)、(10)に示すC(p)によって表される。ただし、Ω
pは、イメージセンサを構成する画素の集合を表し、N(x)は、空間的に隣接する画素群の位置を示す関数を表す。また、p(x)は、イメージセンサ上の位置xの画素に対応するデータ(第2色信号I
G又は強度比M
G)を表し、p(y)は、位置xの画素に空間的に隣接する画素群の任意のいずれかの画素に対応するデータ(第2色信号I
G又は強度比M
G)を表す。
【0079】
第2色信号I
G及び強度比M
Gは、具体的には、第2色信号推定部240が繰り返し演算を用いて値を更新していくことで算出される。この繰り返し演算は、I
0GをI
G_NIRと設定するとともに、M
0Gを全ての要素の値が1.0の行列と設定し、式(11)、(12)で表される更新式を更新量が十分に小さくなるまで繰り返す演算である。
【0081】
ここにおいて、I
tG、M
tGは、繰り返し回数tにおけるI
G、M
Gをそれぞれ表す。また、k
tは、繰り返し回数tにおける更新量を調整するための係数を表し、0<k
t<1を満たす。なお、Eは単位行列を表し、上付きのTは行列の転置を表す。
【0082】
このようにして第2色信号I
G及び強度比M
Gが算出されると、近赤外信号I
NIR_Gを算出することが可能になる。具体的には、近赤外信号算出部250が、第2色信号I
G及び強度比M
Gを式(5)に代入することで近赤外信号I
NIR_Gを算出する。
【0083】
なお、R成分及びB成分についても、上述したG成分と同様に第2色信号及び近赤外信号を算出することができる。すなわち、G成分と同様の演算によって、R成分の第2色信号I
R、近赤外信号I
NIR_R及びB成分の第2色信号I
B、近赤外信号I
NIR_Bが算出可能である。
【0084】
映像処理装置200から出力される近赤外信号は、R、G、B各成分の近赤外信号を加算したものである。すなわち、出力される近赤外信号をI
NIRとすると、I
NIRは、以下の式(13)のとおりである。
【0085】
映像処理装置200は、このような演算処理を実行することにより、近赤外信号I
NIR及び第2色信号I
R、I
G、I
Bを含む映像データを出力することができる。映像処理装置200は、NIRカットフィルタとこれに対応するパターン情報を用意するだけで、第1色信号から第2色信号と近赤外信号とを得ることができる。この場合において、撮像装置は、NIRカットフィルタのほかに特別な構成を要しない。
【0086】
[第3実施形態]
図10は、本発明のさらに別の実施形態に係る撮影装置の構成を例示する模式図である。
図10に示す撮影装置300は、受光部310と、映像処理部320とを備える。受光部310は、より詳細には、NIRカットフィルタ311と、カラーフィルタ312と、フォトセンサ313とを備える。撮影装置300には、レンズ等の光学系を介して、可視光と近赤外光とを含んだ光が入射される。
【0087】
NIRカットフィルタ311は、第1実施形態及び第2実施形態のNIRカットフィルタと同様の構成を有する光学フィルタである。NIRカットフィルタ311は、カラーフィルタ312及びフォトセンサ313に対し、入射光の進行方向手前側に設けられる。また、NIRカットフィルタ311は、回折により拡散した近赤外光がフォトセンサ313に受光されるように、カラーフィルタ312及びフォトセンサ313に対して所定の距離だけ隔てて設けられる。なお、NIRカットフィルタ311は、着脱可能又は移動可能に構成されてもよい。
【0088】
図11は、受光部310に入射した近赤外光の振る舞いを表す模式図である。
図11に示すように、近赤外光は、NIRカットフィルタ311の一部(赤外透過部)を透過する一方、他の部分ではカットされる。ただし、近赤外光は、赤外透過部を通過するときに回折するため、フォトセンサ313において赤外透過部よりも広い範囲に入射する。
【0089】
カラーフィルタ312は、一般的な構成の3色光学フィルタである。カラーフィルタ312は、例えば、
図17に示した分光特性を有する。フォトセンサ313は、入射光の強度に応じた信号を生成する光電素子(すなわちセンサ)を複数備える。フォトセンサ313は、一般的な画像入力装置又は撮影装置と同様の構成でよい。映像処理部320は、フォトセンサ313により生成された信号を取得し、映像処理を実行する。映像処理部320は、第2実施形態の映像処理装置200と共通の機能を有するほか、後述するデモザイキング処理を実行する機能を有する。
【0090】
図12は、カラーフィルタ312の構成を部分的に示す図である。
図12に示すように、カラーフィルタ312は、いわゆるベイヤ型の配列である。カラーフィルタ312は、個々のフィルタがフォトセンサ313の個々のセンサ(すなわち画素)に対応するように設けられている。
【0091】
なお、NIRカットフィルタ311のパターンは、フォトセンサ313の画素の配列と対応関係を有してもよい。ここでいう対応関係は、例えば、NIRカットフィルタ311の赤外透過部の間隔がフォトセンサ313の画素の間隔と等しいか、あるいは整数倍の関係にある、といったものである。具体的には、NIRカットフィルタ311の赤外透過部は、フォトセンサ313の特定色に対応する画素と重なるように設けられていてもよい。ただし、NIRカットフィルタ311のパターンは、フォトセンサ313の画素の配列と必ずしも対応関係を有していなくてもよい。
【0092】
撮影装置300の構成は、以上のとおりである。撮影装置300は、この構成の下、R、G、Bの3色で表される映像データに基づいて、R、G、B、NIRの4色(4成分)で表される映像データを生成することが可能である。撮影装置300の動作は、その主要な点において、第2実施形態の映像処理装置200の動作と共通する。ただし、撮影装置300は、第2実施形態で説明された動作に先立ち、デモザイキング処理を実行する。
【0093】
図13は、デモザイキング処理の一例を説明するための図であり、画素と座標の対応関係を示す図である。ここでは、説明の便宜上、
図13に示す2行2列の画素に対して(1,1)、(1,2)、(2,1)、(2,2)の座標が割り当てられる。なお、座標(1,1)の画素は、R成分に対応する。また、座標(2,2)の画素は、B成分に対応する。残りの画素は、G成分に対応する。
【0094】
以下においては、座標(i,j)のRGB各色の色情報(色信号の値)をR(i,j)、G(i,j)、B(i,j)とそれぞれ表記する。例えば、R(1,1)は、座標(1,1)の画素のR成分の色情報を表す。なお、デモザイキング処理の実行時点の色情報は、実際にはNIR成分を含んでいる。しかし、ここでは、説明の便宜上、色情報のNIR成分を考慮しないものとする。
【0095】
座標(1,1)の画素は、R成分に対応する。したがって、座標(1,1)のR成分の色情報は、以下の式(14)で表される。
R(1,1)=R(1,1) (14)
【0096】
一方、座標(1,1)の画素は、他の色成分を受光しない。そのため、座標(1,1)の画素のG成分及びB成分の色情報は、式(15)、(16)に示すように、周辺の画素から補間することによって求められる。
G(1,1)=(G(2,1)+G(1,2))/2 (15)
B(1,1)=B(2,2) (16)
【0097】
次に、座標(1,2)の画素の色情報は、式(17)〜(19)のとおりである。
G(1,2)=G(1,2) (17)
R(1,2)=R(1,1) (18)
B(1,2)=B(2,2) (19)
【0098】
なお、座標(2,1)の画素の色情報は、座標(1,2)の画素の色情報と同様の要領で求められる。また、座標(2,2)の画素の色情報は、座標(1,1)の画素の色情報と同様の要領で求められる。
【0099】
映像処理部320は、このような処理を全ての画素について実行し、各色の色情報を取得する。続いて、映像処理部320は、第2実施形態で説明された動作により、近赤外信号を算出する。なお、デモザイキング処理は、上述した方法に限定されず、例えば非特許文献4〜6に開示された方法を用いて実行されてもよい。
【0100】
撮影装置300は、第2実施形態の映像処理装置200と同様の効果を奏することができる。また、撮影装置300は、NIRカットフィルタ311において、赤外光を回折により分散させることが可能である。これにより、撮影装置300は、近赤外信号が飽和するような強度の赤外光がフォトセンサ313に入射した場合であっても画素当たりの近赤外信号の強度を減少させることができ、見かけ上のダイナミックレンジを大きくすることを可能にする。
【0101】
なお、映像処理部320は、デモザイキング処理後のR、B成分の色信号に含まれる近赤外光成分を無視してもよい。すなわち、映像処理部320は、R、B成分について、式(7)の右辺第2項を0(すなわちI
R_NIR=I
R、I
B_NIR=I
B)とみなしてもよい。この場合、I
NIR_R=I
NIR_B=0であるため、式(13)よりI
NIR=I
NIR_Gが成り立つ。
【0102】
図14は、NIRカットフィルタ311の赤外透過部311aとカラーフィルタ312の好適な対応関係を例示する図である。
図14は、NIRカットフィルタ311とカラーフィルタ312を光が入射する方向から見た場合の位置関係を示している。
図14に示す赤外透過部311aは、いずれも、G成分に対応する画素に重なる位置にある。NIRカットフィルタ311がこのようなパターンを有すると、そうでない場合(例えば、赤外透過部311aがR成分やB成分に対応する画素と重なる場合)に比べ、I
NIR_R及びI
NIR_Bを無視した場合の誤差の影響を少なくすることが可能である。
【0103】
[変形例]
本発明の実施の形態は、上述した第1〜第3実施形態に限定されない。例えば、本発明は、以下に説明する変形例の態様によっても実施可能である。また、本発明は、第1〜第3実施形態及び変形例を適宜に組み合わせた態様で実施されてもよい。
【0104】
(1)変形例1
本発明の実施形態において、NIRカットフィルタのパターンは、パターン情報として記述可能なパターンであれば、その具体的形状は限定されない。例えば、NIRカットフィルタに形成されるパターンは、赤外透過部が円形でなくてもよく、また、全ての赤外透過部が必ずしも同じ形状である必要もない。
【0105】
(2)変形例2
本発明の実施形態において、可視光成分は、R、G、Bの3成分に限定されない。可視光成分は、例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3成分が用いられてもよい。また、可視光成分は、3成分で構成される必要はなく、これより多くても少なくてもよい。
【0106】
(3)変形例3
図15及び
図16は、撮影装置の他の例を示す図である。
図15は、いわゆる3板式、すなわちR、G、B各色に対応するセンサが独立した構成の撮影装置400を示す図である。また、
図16は、いわゆる積層型のセンサを備えた撮影装置500を示す図である。本発明は、このような構成の撮影装置に対しても適用可能である。
【0107】
撮影装置400は、プリズム410と、フォトセンサ420、430、440と、NIRカットフィルタ450と、映像処理部460とを備える。プリズム410は、入射光を分解し、R、G、Bそれぞれの成分に応じた方向に出射する。フォトセンサ420(R)、430(G)、440(B)は、各色の入射光の強度に応じた信号を生成する。
【0108】
NIRカットフィルタ450は、第3実施形態のNIRカットフィルタ311と同様の光学フィルタである。NIRカットフィルタ450は、フォトセンサ420、430、440の全てに設けられる必要はなく、プリズム410の分光特性に応じて、これらのいずれか(
図15においてはフォトセンサ420)に設けられればよい。
図15の例の場合、フォトセンサ430、440に入射する近赤外光は、フォトセンサ420に入射する近赤外光に比して十分に少ないものとする。例えば、フォトセンサ430、440の前段には、近赤外光をカットする光学フィルタ(ただし、NIRカットフィルタ450と異なり、近赤外光を透過するパターンが形成されていない)が設けられてもよい。
【0109】
映像処理部460は、第3実施形態で説明された映像処理部320と同様の構成でよい。ただし、
図15に示す例においては、近赤外光成分を含む色信号はR成分のみである。したがって、映像処理部460は、色信号から近赤外信号を分離する処理をR成分の色信号に対してのみ実行すればよい。
【0110】
撮影装置500は、NIRカットフィルタ510と、積層型センサ520と、映像処理部530とを備える。NIRカットフィルタ510、映像処理部530は、それぞれ、
図15に示したNIRカットフィルタ450、映像処理部460と同様の構成でよい。
【0111】
積層型センサ520は、センサ521、522、523を積層したセンサである。センサ521は、B成分の波長領域に感度を有する。センサ522は、G成分の波長領域に感度を有する。センサ523は、R成分及び近赤外光成分の波長領域に感度を有する。
【0112】
(4)変形例4
本発明は、その全部又は一部の構成をコンピュータによって実現することが可能である。例えば、映像処理装置100、200及び映像処理部320は、CPU(Central Processing Unit)などの処理装置(プロセッサ)とメモリによって実現可能である。また、本発明は、汎用的なプロセッサによって実現されてもよいし、映像処理専用のプロセッサによって実現されてもよい。
【0113】
また、本発明は、コンピュータが実行可能なプログラムの形態で提供されてもよい。このプログラムは、ネットワークを介して他の装置(サーバ等)からダウンロードされる形態で提供されてもよいし、コンピュータが読み取り可能な記録媒体の形態で提供されてもよい。さらに、本発明は、映像処理装置、撮影装置、プログラム、記録媒体のほか、映像の処理方法としても提供され得る。
【0114】
以上、上述した実施形態を模範的な例として本発明を説明した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態には限定されない。即ち、本発明は、本発明のスコープ内において、当業者が理解し得る様々な態様を適用することができる。
【0115】
この出願は、2015年9月18日に出願された日本出願特願2015−184885を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。