(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、心電図を測定する方法は、安静状態において人体表面の2箇所以上に電極を固定して人体が発する電気信号を検知する方法が一般的である。この方法においては、電極を固定するために、電極と皮膚表面との間にゲルまたはペーストを塗布したり、粘着テープを使用することが必要であった。このため、長時間の連続測定においては、発汗による不快感、掻痒感や違和感の発生を伴い、粘着テープを用いた場合にはさらに皮膚炎を生じることもあった。
【0003】
一方、近年では、運動中に心臓の状態がどうなっているかを知りたいという要求が高まっているが、前記従来のゲルやペーストを用いる方法では、固着力が弱く、歩行時やランニング等の運動動作中に電極が人体から落下してしまう。また、粘着テープを使用する方法では、発汗量が増大するため、発汗による不快感等がより顕著になることが問題である。
【0004】
こういったことから、医療分野やヘルスモニタリング分野において、電極付きの衣服やベルトやストラップを着用することにより、心電図などの生体情報を簡便に計測しうるウエアラブル生体情報計測装置が注目されている。例えば心電図の計測を行うウエアラブル計測装置では、衣服として着用した状態で日常生活を過ごすことで、日常の様々な状況における心拍の変動等の生体情報を簡便に把握することが期待される。
【0005】
しかしながら、実際に、電極を取り付けたウエアラブル生体情報計測装置を用いて生体情報を測定しようとすると、特に被測定者が歩行動作やランニングなどの運動動作を行っている状態においては、計測した生体情報のノイズが増大して目的とする情報が得られないという問題が発生することを本発明者らは新たに見出した。
【0006】
心電図の測定においては、特許文献1の
図1には人体前面の腹部3箇所と首部の付け根付近1箇所に電極を装着することが記載されており、特許文献2の
図1には人体前面の左右鎖骨の左右端下付近2箇所と左右腋窩線上の左右最下肋骨の高さ付近2箇所に電極を装着することが記載されているが、これらの電極装着位置をウエアラブル生体情報計測装置に適用しても、歩行動作時や運動動作時における前記の問題は解決されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
心電図の測定方法
本発明は、心電図の測定方法に関する。心電図とは、心臓の活動に伴い生じる電位の変化を、生体表面の電極を介して検出して波形として記録可能な情報をさし、一般的には横軸に時間を、縦軸に電位差をプロットした波形として記録される。心拍1回ごとに心電図に現れる波形は、P波、Q波、R波、S波、T波の代表的な5つの波により主に構成され、この他にU波が存在し、また、Q波の始めからS波の終わりまでをQRS波と称する場合がある。これらの波のうちで、少なくともR波を検知可能な電極を備えることが好ましい。R波は左右両心室の興奮を示し、電極位置によっては最も電位差の大きな波となる。また、R波の頂点と次のR波の頂点までの時間を一般にR−R時間と称するが、(心拍数)=60/(R−R時間(秒))の式を用いて、1分間当りの心拍数を計算することができる。つまり、R波を検知可能な電極を備えてR波を検知することにより、心拍数を知ることができる。本発明においては特に注釈のない限り、QRS波もR波に含まれるものである。
【0016】
本発明の心電図の測定方法は、第1センサー、第2センサー、第3センサーの3つのセンサーを用いる方法である。前記従来方法よりも電極の数が少なくて済み、安価に効率的に心電図が測定できる。
なお、以下の説明では、頭部と足部を結ぶ方向を上下方向、腹部と背部とを結ぶ方向を前後方向(腹側が前)とする。
【0017】
そして、本発明の測定方法では、第1センサー〜第3センサーの位置関係が重要であり、
図1および
図2を用いて、これらの位置関係を説明する。第1センサー1は、人体前面の胸骨の中心線と、右前腋窩線と、第五肋骨上端および第八肋骨下端に囲まれた領域内のいずれかの位置に当接させ、第2センサー2は、人体前面の肋骨の中心線と、左前腋窩線と、第五肋骨上端および第八肋骨下端に囲まれた領域内のいずれかの位置に当接させ、第3センサー3は、第1センサー1の中心と第2センサー2の中心とを結ぶ線の中点から、第1センサー1の中心と第2センサー2の中心とを結ぶ線に対して垂線を人体の頭部方向へ引いたときの垂線上のいずれかの位置に当接させる必要がある。すなわち、第1センサー1と第2センサー2と第3センサー3は、第3センサー3が頂きとなる二等辺三角形を描く。これにより、後述するように、ノイズの低減された心電図を測定することができる。
【0018】
図1には、右前腋窩線を示した。(中)腋窩線は、腋窩から腰までをつないだ想像上の垂線であり、(中)腋窩線の1インチ前方(腹側)に引いた平行線を前腋窩線、1インチ後方に引いた平行線を後腋窩線という。
【0019】
第1センサー1と第2センサー2は、それぞれ胸骨の中心線との距離よりも、各腋窩線との距離が短くなるように、腋窩線側へ変位(シフト)させることが好ましい。具体的な距離は、被測定者の体格にもよるため決めにくいが、第1センサー1および第2センサー2を、各腋窩線側から3〜12cm程度(好ましくは4.5〜7cm程度)、胸骨の中心線側へシフトした位置に当接させることが好ましい。シフトの距離は第1センサー1および第2センサー2とで異なっていてもよいが、同じとすることが好ましい。すなわち、第1センサー1と胸骨中心線との距離と第2センサー2と胸骨中心線との距離が同じであることが好ましい。
図2では、第1センサー1および第2センサー2は、鎖骨中心線上に当接させている。
【0020】
また、第1センサー1と第2センサー2の上下位置は、第五肋骨と第八肋骨の間とする。第1センサー1と第2センサー2の上下位置は、好ましくは第五肋骨下端と第八肋骨上端の間であり、より好ましくは第六肋骨上端と第八肋骨上端の間である。
図2では、第1センサー1および第2センサー2をそれぞれ第七肋骨上に当接させているが、上記好ましい範囲の上下位置の間であればよい。
【0021】
一方、第3センサー3は、第1センサー1の中心と第2センサー2の中心とを結ぶ線の中点から、第1センサー1の中心と第2センサー2の中心とを結ぶ線に対して垂線を人体の頭部方向へ引いたときの垂線上のいずれかの位置に当接させる。第1センサー1と胸骨中心線との距離と、第2センサー2と胸骨中心線との距離が同じである場合には、この垂線は胸骨の中心線となる。第3センサー3は、この胸骨中心線上にあればよいが、第3センサー3と第1センサー1および第2センサー2との間には、ある程度の距離がある方が心電図のノイズの低減効果が高まるので、第3センサー3は、左右の第二肋骨と胸骨が接する部位(胸骨柄と胸骨体にまたがる部位)に当接させることが好ましい。
【0022】
第1〜第3センサーは、面積が1cm
2以上あることが好ましい。形状は特に限定され
ないが、円形、楕円形、正方形や長方形の矩形等が好ましい。なお、矩形の場合は、四隅を丸めておく(Rをつける)とよい。また、楕円や長方形の場合、長軸や長辺が上下方向または上下方向に直交する方向のどちらを向いていてもよい。
【0023】
上記の特定位置に、第1〜第3センサーを当接させ、第3センサーに対する第2センサーの電位差から、第1センサーの電位差を引くことにより、ノイズが低減された心電図を測定することができる。すなわち、第3センサーはグラウンド電極として働く。
【0024】
第1〜第3センサーは、具体的には、電極(乾電極)と配線とからなる。以下、電極と配線について説明する。
本発明において電極は、生体の電気的情報を検知可能な導電性層を含み、さらに絶縁層を含むことが好ましい。また、被測定者の運動動作に追従できるように伸縮性を有することが好ましい。例えば、基材繊維に導電性高分子が含浸等により被覆されてなる導電性高分子を含む繊維状電極や、金属粉等の導電性フィラーと伸縮性を含有する樹脂を含有する導電性組成物から形成されたシート状電極とすることにより、伸縮性を有する電極とすることができる。これらのうち、前記導電性組成物から形成されたシート状電極は、金属粉等の導電性が高い構成成分を用いることができるので、導電性高分子を使用する場合よりも低い電気抵抗値を得ることができ、微弱な電気信号を検知することができるので好ましい。
【0025】
電極表面の電気抵抗値は、1000Ω/cm以下が好ましく、300Ω/cm以下がより好ましく、200Ω/cm以下がさらに好ましく、100Ω/cm以下が特に好ましい。前記導電性組成物から形成されたシート状電極においては、電極表面の電気抵抗値を300Ω/cm以下の範囲に抑えることができる。
【0026】
また、前記導電性組成物から形成された電極は低い電気抵抗値を有するので、配線と電極を同一の導電性組成物とすることが可能であり、これは本発明の好ましい一様態である。配線と電極を同一の導電性組成物とする場合には、配線幅は1mm以上あればよく、5mm以上、10mm以下とすることがより好ましい。
【0027】
本発明の心電図の測定方法は、心電図測定用衣服を用いることで、実施することが可能である。この衣服は、裏側に電極と配線が設けられており、着用するだけで、上記の特定の位置に、各センサー(電極)が着用者の体に当接するように構成されている。以下、心電図測定用衣服について、説明する。
【0028】
本発明で心電図測定用衣服に使用する電極は、絶縁層を有することが好ましい。例えば第一絶縁層と導電層とを含むシート状の形態のものを用いることができる。また、本発明で使用する配線は、例えば第一絶縁層と導電層と第二絶縁層とを含むシート状のものを用いることができる。
以下、本発明の好適な様態である、電極と配線が一体化したシート(伸縮性配線シート)を同一材料から作製する例について述べる。
【0029】
(第一絶縁層)
本発明においては、衣服の裏側に、第一絶縁層が形成されていることが好ましい。第一絶縁層は、電極および配線シートを衣服に積層する際の接着面であり、衣服を着用したときに衣服の外側からの水分が生地を通して導電層に達することを防ぐ。また、本発明における後述の導電層は良好な伸長性を有するものであるが、衣服が導電層の伸長性を超えた伸び性に富む素材である場合、衣服に追随して導電層が伸ばされ、その結果クラックが発生することも考えられる。第一絶縁層は、衣服の伸びを抑制し、導電層が過度に伸長されるのを防ぐ伸び止めの役割も担っている。
【0030】
第一絶縁層を形成する樹脂は、絶縁性を有する樹脂(絶縁性樹脂)であれば、特に制限されるものではなく、例えば、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂等を好ましく用いることができる。中でも、ポリウレタン系樹脂が、導電層との接着性の点から好ましい。なお、第一絶縁層を形成する樹脂は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0031】
本発明における第一絶縁層は、前記絶縁性樹脂を適当な溶剤(好ましくは、水)に溶解ないし分散させて、離型紙ないし離型フィルム上に塗布または印刷して塗膜を形成し、次いで塗膜に含まれる溶剤を揮散させ乾燥させることにより、形成することができる。また、後述する適度な物性を有する市販のシートないしフィルムを用いることもできる。
【0032】
第一絶縁層の膜厚は、20〜200μmが好ましく、より好ましくは50〜150μmである。第一絶縁層が薄すぎると、絶縁効果および伸び止め効果が不十分になり、一方、厚すぎると、衣服に積層された態様においては布帛の伸縮性の阻害と、電極および配線全体の厚みが分厚くなり、着心地が悪くなる虞がある。
【0033】
(導電層)
本発明においては、前記第一絶縁層の上に、導電層が形成されていることが好ましい。この導電層により導通が確保される。導電層は、導電性フィラーと樹脂とを含有することが好ましい。
【0034】
導電層を形成する導電性フィラーは、金属粉であることが好ましい。また、必要に応じて、金属粉以外の導電材料や金属ナノ粒子を導電性フィラーとすることもできる。
【0035】
金属粉としては、銀粉、金粉、白金粉、パラジウム粉等の貴金属粉、銅粉、ニッケル粉、アルミ粉、真鍮粉等の卑金属粉のほか、卑金属やシリカ等の無機物からなる異種粒子を銀等の貴金属でめっきしためっき粉、銀等の貴金属で合金化した卑金属粉等が挙げられる。これらの中でも、銀粉、銅粉が高い導電性を発現させ易い点および価格の点で好ましく、銀粉および/または銅粉を主成分(50質量%以上)とすることが望ましい。なお、導電性フィラーは1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0036】
金属粉の好ましい形状としては、公知のフレーク状(リン片状)、球状、樹枝状(デンドライト状)、凝集状(球状の1次粒子が3次元状に凝集した形状)などを挙げることができる。これらの中で、フレーク状、球状、凝集状の金属粉が特に好ましい。
【0037】
金属粉の粒子径は、平均粒子径が0.5〜10μmであることが好ましい。平均粒子径が大きすぎると、配線を微細なパターンで形成しようとする際に所望のパターン形状が形成し難くなる場合がある。一方、平均粒子径が小さすぎると、導電層形成時に金属粉が凝集し易くなり、また粒子径が小さくなるに伴い原料コストが上昇するため、好ましくない。
【0038】
導電性フィラー中に占める金属粉の割合は、80体積%以上が好ましく、より好ましくは85体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上である。金属粉の含有割合が少なすぎると、十分に高い導電性を発現させにくくなる場合がある。なお、本発明において、各成分の体積%は、ペーストに含まれる各成分の各固形分質量を計測し、(各固形分の質量÷各固形分の比重)を計算して、各成分の固形分の体積を算出することにより求められる。
【0039】
他の導電材料としては、例えば、カーボンナノチューブが好ましく挙げられ、特に、メルカプト基、アミノ基、ニトリル基を表面に有するか、または、スルフィド結合および/またはニトリル基を含有するゴムで表面処理されていることが好ましい。一般に導電材料自体は凝集力が強く、特に後述するようにアスペクト比が高い導電材料は、樹脂中への分散性が低くなるが、表面にメルカプト基、アミノ基またはニトリル基を有するか、スルフィド結合および/またはニトリル基を含有するゴムで表面処理されていることにより、金属粉に対する親和性が増して、金属粉とともに有効な導電性ネットワークを形成でき、高導電性を実現できる。
【0040】
導電性フィラー中に占める導電材料の割合は、20体積%以下が好ましく、より好ましくは15体積%以下、さらに好ましくは10体積%以下である。導電材料の含有割合が多すぎると、樹脂中に均一に分散させ難くなることがあり、また一般に上述のような導電材料は高価であることからも、上記範囲に使用量を抑えることが望ましい。
【0041】
金属ナノ粒子としては、銀、ビスマス、白金、金、ニッケル、スズ、銅、亜鉛等が挙げられ、その平均粒子径は2〜100nmが好ましい。特に、導電性の観点からは、銅、銀、白金、金が好ましく、銀及び/又は銅を主成分(50質量%以上)とするものがより好ましい。金属ナノ粒子を含有させると、導電性の向上が期待できるとともに、導電層の形成に用いる導電性ペーストのレオロジー調節に寄与し、印刷性を向上させることができる。
【0042】
導電性フィラー中に占める金属ナノ粒子の割合は、20体積%以下が好ましく、より好ましくは15体積%以下、さらに好ましくは10体積%以下である。金属ナノ粒子の含有割合が多すぎると、樹脂中で凝集し易くなることがあり、また一般に上述のような粒子径の小さい金属ナノ粒子は高価であることからも、上記範囲に使用量を抑えることが望ましい。
【0043】
導電層に占める上記導電性フィラーの量(換言すれば、導電層形成用の導電性ペーストの全固形分中に占める導電性フィラーの量)は、15〜45体積%が好ましく、より好ましくは20〜40体積%である。導電性フィラーの量が少なすぎると、導電性が不十分になる虞があり、一方、多すぎると、導電層の伸縮性が低下する傾向があり、得られた心電図測定用衣服を伸長した際に導電層にクラック等が発生し、その結果、良好な導電性が保持できなくなる虞がある。
【0044】
導電層を形成する樹脂は、硫黄原子を含有するゴムおよび/またはニトリル基を含有するゴムを少なくとも含有することが好ましい。硫黄原子やニトリル基は金属類との親和性が高く、またゴムは伸縮性が高く伸長時にもクラック等の発生を回避しうるので、衣服が伸長しても導電性フィラーを均一な分散状態で保持し、優れた導電性を発現させることができる。後述する不良率の観点からは、ニトリル基を含有するゴムがより好ましい。なお、導電層を形成する樹脂は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0045】
硫黄原子を含有するゴムは、硫黄を含有するゴムやエラストマーであれば特に限定されない。硫黄原子は、ポリマーの主鎖のスルフィド結合やジスルフィド結合、側鎖や末端のメルカプト基などの形で含有される。硫黄原子を含有するゴムとしては、具体的には、メルカプト基、スルフィド結合またはジスルフィド結合を含有する、ポリサルファイドゴム、ポリエーテルゴム、ポリアクリレートゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。特に、メルカプト基を含有する、ポリサルファイドゴム、ポリエーテルゴム、ポリアクリレートゴム、シリコーンゴムが好ましい。また、硫黄原子を持たないゴム中に、ペンタエリスリトールテトラキス(S−メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(S−メルカプトブチレート)、メルカプト基含有シリコーンオイルなどの硫黄含有化合物を配合した樹脂を用いることもできる。硫黄原子を含有するゴムとして用いることのできる市販品としては、液状多硫化ゴムである東レ・ファインケミカル社製の「チオコール(登録商標)LP」等が好ましく挙げられる。硫黄原子を含有するゴム中の硫黄原子の含有量は10〜30質量%が好ましい。
【0046】
ニトリル基を含有するゴムとしては、ニトリル基を含有するゴムやエラストマーであれば特に限定されないが、ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体であるアクリロニトリルブタジエン共重合体ゴムが好ましく挙げられる。ニトリル基を含有するゴムとして用いることのできる市販品としては、日本ゼオン社製の「Nipol(登録商標)1042」等が好ましく挙げられる。ニトリル基を含有するゴム中のニトリル基量(特に、アクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム中のアクリロニトリル量)は、18〜50質量%が好ましく、28〜41質量%がより好ましい。アクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム中の結合アクリロニトリル量が多いと、金属類との親和性は増大するが、伸縮性に寄与するゴム弾性は逆に減少する。
【0047】
導電層を形成する樹脂は、硫黄原子を含有するゴムおよび/またはニトリル基を含有するゴムのみで構成されることが望ましいが、導電性、伸縮性、導電層形成時の塗布性などを損なわない範囲で、硫黄原子を含有するゴムおよびニトリル基を含有するゴム以外の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂をも含める場合、全樹脂中、硫黄原子を含有するゴムおよび/またはニトリル基を含有するゴムの合計量が95質量%以上となるようにすることが好ましく、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上となるようにするのがよい。
【0048】
導電層に占める上記樹脂の量(換言すれば、導電層形成用の導電性ペーストの全固形分中に占める樹脂固形分の量)は、55〜85体積%が好ましく、より好ましくは60〜80体積%である。樹脂の量が少なすぎると、導電性は高くなるが、伸縮性が悪くなる傾向がある。一方、樹脂の量が多すぎると、伸縮性は良くなるが、導電性は低下する傾向がある。
【0049】
本発明における導電層は、上記各成分を適当な有機溶剤に溶解乃至分散させた組成物(導電性ペースト)を第一絶縁層上に直接、所望のパターン(電極とそれに続く配線のパターン)に塗布または印刷して塗膜を形成し、次いで塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させ乾燥させることにより、形成することができる。または、導電性ペーストを離型シート等の上に塗布または印刷して塗膜を形成し、次いで塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させ乾燥させることにより、予めシート状の導電層を形成しておき、それを所望のパターンで第一絶縁層上に積層するようにしてもよい。
【0050】
導電性ペーストは、粉体を液体に分散させる従来公知の方法を適宜採用して樹脂中に導電性フィラーを均一に分散することにより調製できる。例えば、金属粉、導電材料の分散液、樹脂溶液を混合した後、超音波法、ミキサー法、3本ロールミル法、ボールミル法などで均一に分散すればよい。これらの手段は、複数を組み合わせて使用することも可能である。
【0051】
導電性ペーストを第一絶縁層上に塗布または印刷する方法は、特に限定されないが、例えば、コーティング法、スクリーン印刷法、平版オフセット印刷法、インクジェット法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、スタンピング法、ディスペンス法、スキージ印刷などの印刷法などを採用することができる。
【0052】
導電性ペーストにより塗膜を形成した後、有機溶剤を揮散させ乾燥させるには、例えば、大気下、真空雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、還元性ガス雰囲気下などで加熱を行えばよい。加熱温度は、例えば20〜200℃の範囲で、要求される導電性、心電図測定用衣服に用いる生地や絶縁層の耐熱性などを考慮して選択すればよい。
【0053】
導電層の膜厚は、40〜150μmが好ましく、より好ましくは50〜100μmである。導電層が薄すぎると、電極を含む配線シートの繰り返し伸縮により劣化しやすく導通が阻害ないし遮断される虞があり、一方、厚すぎると、衣服の伸縮性の阻害と、電極および配線全体の厚みが分厚くなり着心地の阻害となる虞がある。
【0054】
(第二絶縁層)
本発明においては、配線部分における前記導電層の上に、第二絶縁層が形成されている。これにより、例えば、伸縮性配線シートを用いて作製した心電図測定用衣服を着用した際に、雨や汗などの水分が配線の導電層に触れるのを防ぐ。なお、電極部分には第二絶縁層は不要である。
【0055】
第二絶縁層を形成する樹脂としては、上述した第一の絶縁層を形成する樹脂と同様のものが挙げられ、好ましい樹脂も同様である。第二絶縁層を形成する樹脂も1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。第一の絶縁層を形成する樹脂と第二の絶縁層を形成する樹脂は、同一であってもよいし、異なっていてもよいが、同一であることが、導電層の被覆性および配線シート伸縮時の応力の偏りによる導電層の損傷の低減の点で、好ましい。第二絶縁層は、上述したように第一絶縁層と同様にして形成することができる。
【0056】
第二絶縁層の膜厚は、20〜200μmが好ましく、より好ましくは20〜150μmである。第二絶縁層が薄すぎると、衣服の繰り返し伸縮により絶縁効果が不十分になり、一方、厚すぎると、配線シートの伸縮性が阻害されると共に、配線全体の厚みが分厚くなり、着心地の阻害となる虞がある。
【0057】
本発明の伸縮性配線シートの好ましい態様において、配線部分の厚みは400μm以下であり、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下である。従来の配線の厚みは400μm以上であり、皮膚側に接したとき着用者に異物感を与える傾向がある。それに対して、本発明の伸縮性配線シートは、金属粉を主とする導電性フィラーと、樹脂として硫黄原子を含有するゴムおよび/またはニトリル基を含有するゴムで形成される導電層により、高い導電性を有しながらも厚みを400μm以下に抑えることができるという特徴を奏する。
【0058】
本発明の伸縮性配線シートは、衣服等に積層することが可能である。衣服の裏側に、第一絶縁層および導電層と、配線部分における第二絶縁層を積層することで、本発明の伸縮性配線シートを用いた心電図測定用衣服ができる。衣服の裏側に対して第一絶縁層側を積層することが好ましく、積層する方法としては、接着剤による積層や熱プレスによる積層など、従来公知の積層方法であれば特に制限されるものではないが、心電図測定のために着用する際の身体へのフィット性や運動時・動作時の追従性などの観点から、伸縮性配線シートの伸縮性を妨げない積層方法が好ましい。
【0059】
衣服の生地は、特に制限されるものではなく、従来公知の各種天然繊維、合成繊維、半合成繊維から構成された織編物または不織布を用いることができる。心電図測定のために着用する際の身体へのフィット性や運動時・動作時の追従性などの観点から、伸縮性配線シートの伸縮性を妨げない生地が好ましい。好ましくは合成繊維から構成された編物で、より好ましい編物は2WAYトリコットである。生地の厚みは用途に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは300〜1200μm、より好ましくは500〜1000μmである。また、生地の目付も用途に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは150〜250g/m
2、より好ましくは170〜220g/m
2である。
【0060】
(心電図測定用衣服)
本発明の心電図測定用衣服は、着用者が着用することで、第1〜第3センサー(電極)が、着用者の上記した特定位置に当接するように構成されている。配線が衣服の内側(身体側)だけでなく、衣服の外側にも配されるよう用いてもよい。第1〜第3センサー(電極)心電図を計測する手段と、計測した情報を解析する機構との間は配線で繋がれる。計測した情報を解析する機構としては、目的に応じた従来公知の分析装置(心拍計、心電計、筋電計等)を採用すればよく、外部の分析装置に情報を伝送する手段を含む。
【0061】
本発明の心電図測定方法は、本発明の心電図測定用衣服を被測定者が着用するだけで簡便に心電図を測定することができる。また、特定の場所に第1〜第3センサー(電極)を配置してあるので、着用者がジョギングやマラソンなど激しい運動をしても、心電図のノイズを低く抑えることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
以下の実施例、比較例で使用した絶縁層形成用樹脂、導電性ペーストは以下のようにして調製した。
【0064】
(導電性ペースト)
樹脂(日本ゼオン社製ニトリル基含有ゴム「Nipol(登録商標)1042」アクリロニトリル含量33.3質量%)をジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させて、この溶液に銀粒子(DOWAエレクトロニクス社製「凝集銀粉G−35」、平均粒径5.9μm)を分散させ(樹脂70体積%、銀粒子30体積%)、これを3本ロールミルにて混練し、導電性ペーストとした。
【0065】
(ポリウレタンシート)
ポリウレタンシートは、下記のものを用いた。
・ホットメルト付きポリウレタンシート:日清紡社製「モビロン(登録商標)MF−103F」
・ポリウレタンホットメルトシート:日清紡社製「モビロン(登録商標)MOB100」
【0066】
(導電層の調製)
上記導電性ペーストを離型シートの上に塗布し、120℃の熱風乾燥オーブンで30分以上乾燥することにより、シート状の離型シート付き導電層を作製した。
【0067】
(第一絶縁層と導電層の作製)
次に、離型シート付き導電層の上に、ポリウレタンホットメルトシート(モビロンMOB100)を、ホットプレス機を用いて、圧力0.5kgf/cm
2、温度130℃、プ
レス時間20秒の条件で、積層(貼り合わせ)した。ポリウレタンホットメルトシート(モビロンMOB100)を貼り合わせた後、離型フィルムを剥がし、ポリウレタンホットメルト付き導電シートを得た。その後、ホットメルト付きポリウレタンシート(モビロンMF−103F)の領域の上に、直径30mmの電極と、表1に示すそれぞれの電極位置からシャツの裾までの長さを有する幅5mmの配線の寸法に切り取ったポリウレタンホットメルト付き導電シートを上記ホットプレス機の積層条件で貼り合わせ、第一絶縁層と導電層(電極)とを備えたパーツを形成した。次に、2−Wayトリコット生地(グンセン(株)製「KNZ2740」、ナイロンヤーン:ウレタンヤーン=63%:37%(混率)、目付け194g/m
2)からなるシャツの裏側に第一絶縁層と導電層を備えたパーツを積層した。
【0068】
(第二絶縁層の作製)
次に、上記形成した第一絶縁層と導電層を備えたパーツの配線部を覆う領域に上記第一絶縁層を形成したものと同じホットメル付きポリウレタントシートを積層することにより、配線部の導電層の上に第二絶縁層を形成し、第一絶縁層/導電層の構成の電極と、第一絶縁層/導電層/第二絶縁層の構成の配線が一体化した心電図測定用のシャツを作製した。
【0069】
(実施例1、比較例1〜2)
上記心電図測定用のシャツを被験者(健常成人男性1名、23歳)に着用させて、表1に記載の方法で心電図を測定した。なお、電極の配置は、
図3(a)が比較例1、
図3(b)が比較例2、
図3(c)が実施例1である。円形状の電極に配線が一体化した例である。心電図の測定結果を
図4〜7に示した。なお、比較例2では、計測後、デジタルフィルタで商用電源ノイズを除去した。
図4〜7から、実施例1では走行16km/hでもノイズがなく、きれいに心電図が測定できた。比較例1では走行8km/hまでは心電図が測定できたが、比較例2では、安静立位の場合しか心電図が測定できなかった。
【0070】
【表1】