(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
記録媒体上に作製した、ウェット膜厚6μmの塗工物における分光反射率が、480〜580nmの波長領域において10%以下である、請求項1記載のインクジェット用マゼンタインキ。
前記水溶性有機溶剤(A−1)が、1気圧下における沸点が190〜250℃である化合物を少なくとも1種以上含有する、請求項1〜3いずれか記載のインクジェット用マゼンタインキ。
前記水溶性有機溶剤(A−1)が、1気圧下における沸点が100〜250℃であるグリコールアルキルエーテル類を少なくとも1種以上含有する、請求項1〜5いずれか記載のインクジェット用マゼンタインキ。
顔料分散樹脂として、少なくとも芳香環を含有する単量体を共重合組成に含む、重量平均分子量が15000〜50000の(メタ)アクリル系共重合体を更に含む、請求項1〜8いずれか記載のインクジェット用マゼンタインキ。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の実施形態の一例を示すものであって、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0030】
本発明では、アゾ顔料と、特定の静的表面張力とHLB値を有し、かつ水酸基を1個以上有する水溶性有機溶剤(A−1)と、特定のHLB値を有する界面活性剤(B−1)とを使用することにより、難吸収性基材に対するインクジェット印刷において、濃淡ムラや白抜けがなく、高光沢かつ鮮明な画像が得られ、長期待機させた後の吐出安定性に優れ、更に、高速印刷であっても優れた乾燥性を得ることが可能な、インクジェット用マゼンタインキ(以下、単に「インキ」とも記載する)を提供する。
【0031】
従来技術としても説明したように、一般に水性インキは、主要成分として含まれる水の表面張力が非常に高いため、基材上で濡れ広がりにくい。また、難吸収性基材はそれ自体の表面張力が低く、他の基材よりもインキが濡れ広がりにくいことが知られている。これらの難吸収性基材上にインクジェットヘッドを用いて印刷した際、インキの表面張力が高い場合等、基材上における濡れ性が不十分であると、隣接して着弾したインキ液滴同士が、基材上で十分に濡れ広がる前に合一してしまい、濃淡ムラが生じてしまう。また、基材上でインキが埋まらないことによる白抜けの発生や、ドットが平滑にならず印刷物塗膜上に凹凸が生じることによる光沢不良が起きてしまう。
【0032】
更に、難吸収性基材は水性インキが浸透しにくいため、インキの乾燥不良による印刷トラブルが発生しやすい。特に、基材上におけるインキの濡れ性が不十分な場合、インキ液滴と基材とが接触する面積が小さくなることもあって、乾燥不良が発生しやすい。以上のように、難吸収性基材上で優れた印刷画質や乾燥性を得るには、インキの濡れ性を向上させることが非常に重要となる。
【0033】
一方アゾ顔料は、発色性が高く、色再現性に優れた顔料であるが、有機溶剤、特に高疎水性の有機溶剤に対する安定性が悪く、インキの濡れ性向上を目的として高疎水性の有機溶剤と併用した場合、これら溶剤に顔料が溶解してしまうことで、本来の発色性や光沢を発現できなくなるという問題があった。また、インクジェットヘッド中で長期待機させた際、インキが濃縮される過程で、高疎水性の水溶性有機溶剤に溶解したアゾ顔料が析出し、ノズル閉塞等を引き起こし、不吐出につながるという問題もあった。
【0034】
以上のように従来、アゾ顔料を用いたインキは、高疎水性の有機溶剤との併用が困難であり、難吸収性基材上における印刷画質や乾燥性に劣るという問題が存在していた。この課題に対し、本発明者らが鋭意検討した結果、アゾ顔料と、25℃における静的表面張力が22〜32mN/m、HLB値が2.0〜8.0、かつ水酸基を1個以上有する水溶性有機溶剤(A−1)(以下、単に「水溶性有機溶剤(A−1)」ともいう)を含む水溶性有機溶剤(A)とを併用し、更に、HLB値が1.5〜8.0である界面活性剤(B−1)(以下、単に「界面活性剤(B−1)」ともいう)を含む界面活性剤(B)を使用することで、上記課題を解決できることを見出した。上記構成によって、難吸収性基材への印刷時においても印刷物の濃淡ムラや白抜けがなく、光沢性・鮮明性等の印刷画質に優れるとともに、高速印刷であっても好適な乾燥性を有し、更に長期待機させた後の吐出安定性に優れたマゼンタインキが得られる理由として、以下が考えられる。
【0035】
本発明では、特定範囲の静的表面張力とHLB値とを有する水溶性有機溶剤を用いることで、難吸収性基材に対するインキの濡れ性を向上させることができる。しかしながらそれだけでは、上記の通り、アゾ顔料の溶解を防ぐことはできない。そこで本発明では、前記水溶性有機溶剤が、水酸基を1個以上有する化合物であること、及び、特定のHLB値を有する界面活性剤を更に併用することにより、前記問題を解決している。
【0036】
メカニズムの詳細は定かではないが、アゾ顔料は、分子構造中にアミド結合、及び水酸基を有しており、水酸基を1個以上有する水溶性有機溶剤と、水素結合により互いに結びつきやすいと考えられる。一方、本発明で用いる界面活性剤のHLB値は、前記水溶性有機溶剤と近い。一般に、HLB値の近しいもの同士は互いに混和しやすいことから、界面活性剤は、アゾ顔料の周囲にある水溶性有機溶剤の近辺に多く存在していると考えられる。従って、アゾ顔料の周囲には、水溶性有機溶剤を介して、疎水性の強い界面活性剤が存在していると考えられ、このことにより、アゾ顔料の溶解を防いでいるものと考えられる。
【0037】
一方、上記の通りHLB値の近しいもの同士は互いに混和しやすいため、本発明の界面活性剤は、その一部が水溶性有機溶剤と相溶してしまい、インキ液滴が基材に着弾した際、液滴界面に界面活性剤が全量配向していない可能性がある。従って、添加した界面活性剤の一部が、界面活性剤として機能しないと考えられるが、本発明では、主に水溶性有機溶剤によってインキの濡れ性を確保しているため、インキの濡れ性には何ら悪影響を与えるものではないと考えられる。逆に、界面活性剤が全量機能してしまうと、濡れ性が良くなりすぎてしまい、インキ液滴同士が乾燥前に合一する可能性が考えられる。
【0038】
以上のように、本発明に規定されたパラメータを有する水溶性有機溶剤及び界面活性剤は、絶妙なバランスをもって本発明の課題解決に寄与している、すなわち、本発明のインキは顔料本来の発色性や光沢を維持しながら、難吸収性基材上でも優れた印刷画質や乾燥性を得ることが可能になっていると考えられる。
【0039】
以下に本発明の実施形態のインキにおいて主要となる各成分について述べる。
【0040】
<顔料>
<アゾ顔料>
本発明のインクジェット用マゼンタインキの顔料として用いられるアゾ顔料の含有量は、印刷物上で優れた鮮明性や光沢を確保し、水溶性有機溶剤(A−1)や界面活性剤(B−1)との配合バランスを好適なものとする観点から、インキ全量に対し1〜10重量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは2〜9重量%であり、特に好ましくは3〜8重量%である。なお本発明のインクジェット用マゼンタインキは、後述するインキ塗工物の分光反射率を好適な範囲に収め、吐出安定性、発色性、鮮明性、色再現性に優れるインクジェット印刷物を得るため、アゾ顔料を1種のみ含んでもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明で用いられ得るアゾ顔料には、ナフトールAS顔料、アゾレーキ顔料、その他のモノアゾ顔料、ジスアゾ顔料等が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
本発明では、上記アゾ顔料として、C.I.ピグメントレッド31、146、147、150、266、269から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。上記顔料はいずれもナフトールAS顔料としても知られており、他のアゾ顔料に比べ、高疎水性の有機溶剤に対する安定性が良好であること、構造中にエーテル結合やアミノ基を有し、水溶性有機溶剤(A−1)との相互作用が強いと考えられることから、本発明の効果を特に好適に発揮することができる。また、水溶性有機溶剤(A−1)、界面活性剤(B−1)の種類や量によらず、後述する480〜580nmの波長領域における分光反射率を10%以下に調整しやすい。上記例示した顔料の中でも、画像の鮮明性、インキセットとして用いた際に特に高い色再現性を示すことから、少なくともC.I.ピグメントレッド150を含むことが特に好ましい。また、印刷物の濃淡ムラや白抜けがなく、高光沢な画像が得られる点から、顔料全量に対する前記ナフトールAS顔料の含有量は、50〜100重量%であることが好ましく、70〜100重量%であることがより好ましく、90〜100重量%であることが特に好ましい。
【0042】
なお、上記ナフトールAS顔料は、例えばC.I.ピグメントレッド150を例にとって説明すると、3−アミノ−4−メトキシベンズアニリドと、3−ヒドロキシ−2−ナフトアミドとのカップリング反応によって得られ、市販されているC.I.ピグメントレッド150には、上記の原料が一部残留していることが知られている(特許文献5参照)。これらの原料にもアミノ基や水酸基が含まれているため、上記で説明した、水溶性有機溶剤(A−1)や界面活性剤(B−1)との相互作用を起こすと考えられる。これら不純物として含まれる原料の量が多いと、C.I.ピグメントレッド150と相互作用を起こす水溶性有機溶剤(A−1)や界面活性剤(B−1)の量が減り、材料の配合バランスが崩れてしまう可能性があることから、本発明の効果を十分に発揮させるためには、これら不純物の量を減らすことが好ましい。上記C.I.ピグメントレッド150の例の場合は、3−アミノ−4−メトキシベンズアニリド、及び3−ヒドロキシ−2−ナフトアミドの含有量は、インキ全量に対し、それぞれ8000ppm以下であることが好ましく、より好ましくはそれぞれ6000ppm以下であり、更に好ましくはそれぞれ4000ppm以下であり、特に好ましくはそれぞれ3000ppm以下である。なお、前記不純物の含有量は、例えばHPLC法によって測定できる。
【0043】
また本発明では、上記アゾ顔料として、アゾレーキ顔料を用いることも好適である。なお本明細書において「アゾレーキ顔料」とは、水溶性のアゾ着色剤に対して、Ca
2+、Ba
2+、Sr
2+、Mn
2+、Al
3+等、不溶化効果の高い多価金属イオンを付与し、不溶化させた顔料を表す。アゾレーキ顔料は着色力が非常に強く、インキ中の含有量が少なくても、画像濃度、鮮明性、及び色再現性に優れた画像が得られる。また、溶解・析出により不吐出を引き起こしうる顔料の量自体を抑えられるため、吐出安定性も向上できる。
【0044】
本発明では、前記アゾレーキ顔料として従来既知のものを任意に使用できる。中でも、β−オキシナフトエ酸系レーキ顔料を用いることが好ましい。本発明において用いられ得るβ−オキシナフトエ酸系レーキ顔料としては、C.I.ピグメントレッド48:1、48:2、48:3、52:1、52:2、57:1、57:2から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましく、画像の鮮明性や、インキセットとして用いた際の色再現性の観点から、少なくともC.I.ピグメントレッド48:3を含むことが特に好ましい。また、保存安定性や乾燥性に特に優れたインキが得られる点から、顔料全量に対する前記β−オキシナフトエ酸系レーキ顔料の含有量は、50〜100重量%であることが好ましく、70〜100重量%であることがより好ましく、90〜100重量%であることが特に好ましい。
【0045】
その他本発明では、吐出安定性や画像の鮮明性・色再現性の観点から、上記アゾ顔料として、C.I.ピグメントレッド1、166、242から選択される少なくとも1種等のモノアゾ顔料やジスアゾ顔料が好ましく用いられ得る。
【0046】
なお、好ましい一実施形態として、保存安定性、乾燥性、吐出安定性に優れたインクジェット用マゼンタインキを得る観点から、上記に例示したナフトールAS顔料と、β−オキシナフトエ酸系レーキ顔料とを併用することが好ましい。その場合、前記ナフトールAS顔料として、C.I.ピグメントレッド146、150、266から選択される1種以上を含むことが好ましく、C.I.ピグメントレッド146、150から選択される1種以上を含むことがより好ましく、C.I.ピグメントレッド150を含むことが特に好ましい。
【0047】
<その他の顔料>
本発明のインクジェット用マゼンタインキは、後述するインキ塗工物の分光反射率を好適な範囲に収め、インクジェット印刷物に高発色性、鮮明性、高色再現性、耐光性、耐水性等の特性を付与するため、アゾ顔料に加えて、前記アゾ顔料以外の顔料(以下、「その他の顔料」ともいう)を含んでもよい。中でも、耐光性や耐水性にも優れた印刷物が得られ、併用したインキの吐出安定性にも優れる点から、前記その他の顔料として、C.I.ピグメントレッド122、202、209、282等のキナクリドン顔料、及び、前記キナクリドン顔料を含む固溶体顔料を選択することが好ましい。上記例示したキナクリドン顔料の中でも、アゾ顔料と併用したインキを用いた印刷物の鮮明性や色再現性に優れる点から、少なくともC.I.ピグメントレッド122を含むことが特に好ましい。
【0048】
本発明において、アゾ顔料と、その他の顔料とを併用する場合、後述する480〜580nmの波長領域における分光反射率を10%以下とし、印刷物の鮮明性・色再現性や、吐出安定性に優れたインキとする観点から、顔料全量に対するアゾ顔料の含有量は、50〜100重量%であることが好ましく、70〜100重量%であることがより好ましい。
【0049】
<水溶性有機溶剤(A)>
<水溶性有機溶剤(A−1)>
本発明のインクジェット用マゼンタインキは、水溶性有機溶剤(A)として、25℃における静的表面張力が22〜32mN/mであり、HLB値が2.0〜8.0であり、かつ水酸基を1個以上有する水溶性有機溶剤(A−1)をインクジェット用マゼンタインキ全量中に5〜50重量%含有する。
【0050】
本発明においてインキの静的表面張力とは、25℃の環境下におけるWilhelmy法(プレート法、垂直板法)により測定された表面張力を指す。本発明のインキに用いられ水溶性有機溶剤(A−1)の静的表面張力は、22mN/m以上32mN/m以下であることが好ましく、24mN/m以上30mN/m以下であることがより好ましい。
【0051】
本発明で用いられ得る水溶性有機溶剤(A−1)のHLB値は2.0〜8.0であることが好ましい。HLB値を上記範囲に収めることで、界面活性剤(B−1)との混和性を好適なものにでき、難吸収性基材上での鮮明性や光沢性を向上させるとともに、長期待機時においてもノズル閉塞を起こさず、吐出安定性に優れたインキを得ることができる。上記混和性をより好適なものとし、吐出安定性、鮮明性、及び光沢性を確保するという観点から、水溶性有機溶剤(A−1)のHLB値は3.0〜8.0であることがより好ましく、高い鮮明性や光沢性を有するインキが得られる点から3.0〜6.0であることが特に好ましい。
【0052】
なお、HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値とは、材料の親水・疎水性を表すパラメータの一つであり、HLB値が小さいほど材料の疎水性が高く、大きいほど材料の親水性が高いことを表す。HLB値の算出方法にはグリフィン法、デイビス法、川上法等種々の方法があり、また実測する方法も様々知られているが、本発明では、水溶性有機溶剤のように、化合物の構造が明確に分かる場合は、グリフィン法を用いてHLB値の算出を行う。なおグリフィン法とは、対象の材料の分子構造と分子量とを用いて、下記式(1)のようにしてHLB値を求める方法である。
【0053】
式(1):
HLB値=20×(親水性部分の分子量の総和)÷(材料の分子量)
【0054】
一方、後述の界面活性剤のように、構造不明の化合物が含まれる場合は、例えば「界面活性剤便覧」(西一郎ら編、産業図書株式会社、1960年)のp.324に記載されている以下の方法によって、界面活性剤のHLB値を実験的に求めることができる。具体的には、界面活性剤0.5gをエタノール5mLに溶解させたのち、前記溶解液を25℃で攪拌しながら、2重量%フェノール水溶液で滴定し、液が混濁したところを終点とする。終点までに要した前記フェノール水溶液の量をA(mL)としたとき、下記式(2)によってHLB値が算出できる。
【0055】
式(2):
HLB値=0.89×A+1.11
【0056】
本発明における水溶性有機溶剤(A−1)の含有量は、難吸収性基材上において光沢性、鮮明性と乾燥性を確保し、アゾ顔料、及び界面活性剤(B−1)との配合バランスを好適なものとするという観点から、インクジェット用マゼンタインキ全量中に5〜50重量%含有することが好ましく、10〜45重量%であることがより好ましく、15〜40重量%であることが更に好ましい。特に好ましくは20〜35重量%であり、前記範囲とすることで、インキの経時安定性も向上できる。
【0057】
水溶性有機溶剤(A−1)としては、25℃における静的表面張力が22〜32mN/mであり、HLB値が2.0〜8.0であり、かつ水酸基を1個以上有する水溶性有機溶剤であればどのような溶剤でも使用可能である。本発明で用いられ得る水溶性有機溶剤(A−1)としては、例えば、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明では、水溶性有機溶剤(A−1)に相当する水溶性有機溶剤を1種類のみ含むインキであってもよいし、2種以上の水溶性有機溶剤(A−1)を含むインキであってもよい。しかし、難吸収性基材上の白抜けや乾燥性を任意に制御する観点から、水溶性有機溶剤(A−1)に相当する水溶性有機溶剤は、インキ中に2種以上含まれることが好ましい。2種以上の水溶性有機溶剤(A−1)を含むインキである場合、そのうち少なくとも1種は、HLB値が3.0〜6.0であることがより好ましい。
【0059】
本発明のインキが2種以上の水溶性有機溶剤(A−1)を含み、そのうち1種以上がHLB値が3.0〜6.0である水溶性有機溶剤である場合、前記HLB値が3.0〜6.0である水溶性有機溶剤の含有量は、インキ全量中に1〜25重量%であることが好ましく、3〜20重量%であることがより好ましく、5〜15重量%であることが特に好ましい。前記範囲内に収めることで、アゾ顔料や界面活性剤との相互作用を阻害することなく、特に乾燥性に優れたインキを得ることができる。
【0060】
本発明における水溶性有機溶剤(A−1)は、インクジェットヘッド上で長期待機させた後の吐出安定性を確保し、難吸収性基材上で優れた乾燥性を得るという観点から、1気圧下における沸点が190〜250℃である化合物を少なくとも1種以上含有することが好ましい。水溶性有機溶剤(A−1)の沸点が250℃を超えると、乾燥工程後に印刷物中に残存し、発色性や光沢の低下を引き起こす可能性があるため、水溶性有機溶剤(A−1)の沸点の上限値は250℃とすることが好ましい。前記沸点を有する化合物の中でも、アゾ顔料との相互作用を好適なものとすることで吐出安定性を向上させ、また印刷画質や乾燥性に優れたインキを得ることができるという観点から、炭素数4〜6のアルカンジオールを用いることが特に好ましい。炭素数4〜6のアルカンジオールの含有量は、インクジェット用マゼンタインキ全量中に5〜50重量%であることが好ましく、10〜45重量%であることがより好ましく、15〜40重量%であることが更に好ましく、特に好ましくは20〜35重量%である。
【0061】
また、水溶性有機溶剤(A−1)と混和していない界面活性剤(B−1)を、インキ界面に均一に配向しやすくする機能を有することにより、難吸収性基材上での濡れ性を更に向上させ、優れた印刷画質と乾燥性を有するインキが得られるという観点から、前記水溶性有機溶剤(A−1)として、1気圧下における沸点が100〜250℃であるグリコールアルキルエーテル類を少なくとも1種以上含有することが好ましい。上記の通り、沸点が250℃を超えると、乾燥工程後に印刷物中に残存し、発色性や光沢の低下を引き起こす可能性があるため、水溶性有機溶剤(A−1)の沸点の上限値は250℃とすることが好ましい。1気圧下における沸点が100〜250℃であるグリコールアルキルエーテル類の含有量は、インクジェット用マゼンタインキ全量中に0.5〜25重量%であることが好ましく、1〜20重量%であることがより好ましく、特に好ましくは2〜15重量%である。特に好ましくは、前記水溶性有機溶剤(A−1)として、1気圧下における沸点が100〜200℃であるグリコールアルキルエーテル類が用いられる。
【0062】
<その他の水溶性有機溶剤>
本発明のインキは水溶性有機溶剤(A−1)以外の水溶性有機溶剤を、品質が損なわない範囲で使用することができる。水溶性有機溶剤(A−1)以外の水溶性有機溶剤として、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
インクジェットヘッド上における保湿性を向上させ、吐出安定性を確保することを目的として、水溶性有機溶剤(A−1)以外の水溶性有機溶剤として、沸点が250℃〜400℃の化合物を使用することができる。沸点が250℃〜400℃の化合物としては、グリセリンが挙げられるが、これに限定されるものではない。沸点が250℃〜400℃の化合物の含有量はインキ全量に対して0〜5重量%であることが好ましい。なお「0重量%」とは、当該化合物を含まないことを表す。
【0064】
<界面活性剤(B)>
<界面活性剤(B−1)>
本発明のインクジェット用マゼンタインキは、界面活性剤(B)として、HLB値が1.5〜8.0である界面活性剤(B−1)を少なくとも1種以上含有する。界面活性剤としては、アセチレン系、シリコーン系、アクリル系、フッ素系等用途に合わせて様々なものが知られているが、HLB値が1.5〜8.0である化合物であれば、どのような界面活性剤であっても単独もしくは複数で使用可能である。
【0065】
水溶性有機溶剤(A−1)との混和性を向上させるとともに、混和していない界面活性剤(B−1)をインキ界面に均一に配向させ、難吸収性基材上での濡れ性を更に向上させ、優れた印刷画質を確保するという観点から、界面活性剤(B−1)のHLB値は、1.5〜8.0であることが好ましく、2.0〜7.0であることがより好ましく、特に好ましくは2.5〜6.0である。HLB値が8.0以下であれば、水溶性有機溶剤(A−1)と混和していない界面活性剤(B−1)が、主成分である水と混和することもなくなり、インキ界面に均一に配向するため、難吸収性基材上での濡れ性を向上させることが可能となる。
【0066】
本発明で用いられ得る界面活性剤(B−1)は、水溶性有機溶剤(A−1)との相互作用の観点から、シリコーン系界面活性剤、及び/またはアセチレン系界面活性剤を使用することが好ましく、少なくともシリコーン系界面活性剤を使用することがより好ましい。また、シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましく、更にポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの中でも、ポリエーテル基をポリジメチルシロキサン鎖の側鎖、及び/または両末端に有するものを用いることが極めて好ましい。更に、着弾時に水溶性有機溶剤(A−1)と混和していない界面活性剤(B−1)の、インキ界面への配向速度が速く、特に優れた印刷画質が得られるという観点から、ポリエーテル基をポリジメチルシロキサン鎖の側鎖に有するシロキサン界面活性剤を用いることが最も好ましい。
【0067】
本発明で最も好適に用いられる、ポリエーテル基をポリジメチルシロキサン鎖の側鎖に有するシリコーン系界面活性剤は、下記一般式(3)で表される化合物である。
【0069】
一般式(3)中、pは0以上の整数、及びqは1以上の整数である。またR
1は下記一般式(4)を表し、R
2は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
【0071】
一般式(4)中、mは1〜6の整数、nは0〜50の整数、oは0〜50の整数であり、n+oは1以上の整数で示される。R
3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、または(メタ)アクリル基である。また、一般式(4)中のエチレンオキサイド基とプロピレンオキサイド基の順序はランダムであってよい。
【0072】
一方、界面活性剤(B−1)として本発明で好適に用いられる、ポリエーテル基をポリジメチルシロキサン鎖の両末端に有するシリコーン系界面活性剤は、一般式(5)で表される化合物である。
【0074】
一般式(5)中、rは1〜80の整数である。またR
1は上記一般式(4)を表す。
【0075】
また上記の通り、界面活性剤(B−1)として、アセチレンジオール系界面活性剤を使用することも好ましい。アセチレンジオール系界面活性剤は、インキ界面への配向速度が非常に速く、難吸収性基材上でインキの濡れ性を向上させ、ドットを平滑化させることにより、高光沢を有する印刷物を得ることが可能となる。また、上記好適な範囲のHLB値を有するアセチレンジオール系界面活性剤は、難吸収性基材上において、インキ液滴の浸透性を向上させ、乾燥性を良化させる効果もある。
【0076】
本発明で好適に用いられるアセチレンジオール系界面活性剤としては、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール、ヘキサデカ−8−イン−7,10−ジオール、6,9−ジメチル−テトラデカ−7−イン−6,9−ジオール、7,10−ジメチルヘキサデカ−8−イン−7,10−ジオール、及びそのエチレンオキサイド付加物、及び/またはプロピレンオキサイド付加物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ただし、HLB値を上記好適な範囲に収めることができ、かつ、アゾ顔料の保護機能も良好であると考えられる点から、エチレンオキサイド基、及び/またはプロピレンオキサイド基を有しないことがより好ましい。
【0077】
本発明のインキは、水溶性有機溶剤(A−1)と混和していない界面活性剤(B−1)をインキ界面へ好適な量・速度で配向させ、優れた印刷画質と乾燥性を確保するという観点から、界面活性剤(B−1)として、シリコーン系界面活性剤とアセチレンジオール系界面活性剤とを併用することが特に好ましい。
【0078】
本発明のインクジェット用マゼンタインキにおける界面活性剤(B−1)の含有量はインキ全量に対して0.1〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜8重量%であり、更に好ましくは1〜6重量%である。
【0079】
<顔料分散樹脂>
本発明でアゾ顔料を使用する場合、長期間のインキの安定性を維持し、待機後の吐出安定性を確保するためにも、インキ中に分散させて使用することが好ましい。顔料の分散方法としては、顔料を酸化処理等により表面改質し、分散剤なしで顔料を分散させる方法や、界面活性剤や樹脂を分散剤として用い顔料を分散させる方法がある。保存安定性や吐出安定性がより良好なインキとするためには、顔料分散樹脂を使用して顔料を分散させることが好ましい。
【0080】
顔料分散樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂等が挙げられる。中でも、アゾ顔料と、水溶性有機溶剤(A−1)との相互作用を補助できるように、構成を容易に変更・調整できるという観点から、(メタ)アクリル樹脂を使用することが好ましい。また顔料の吸着を強固にし、顔料分散体を安定化させることで顔料の分散安定性を向上させ、吐出安定性や、難吸収性基材上での優れた発色性を、顔料分散樹脂からも確保するという点から、アクリル樹脂の中でも、芳香環を含有する単量体を共重合組成に含む(メタ)アクリル樹脂を含むことが好ましい。なお本明細書において、「(メタ)アクリル樹脂」とは、メタクリル系モノマー(例えば、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル等)、アクリル系モノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル等)のうち少なくとも1種以上を構成成分とする樹脂を意味する。本発明で用いられ得る(メタ)アクリル樹脂は、構成成分であるモノマーとしてスチレン系モノマー(例えば、スチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン等)をさらに含んでもよい。
【0081】
芳香環構造としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、アニシル基等が挙げられる。中でもフェニル基、トリル基が顔料の分散安定性の面から好ましい。
【0082】
本発明で用いられ得る顔料分散樹脂の重量平均分子量は5000〜100000であることが好ましい。重量平均分子量が5000未満では分散安定化が十分確保できず乾燥時に顔料凝集を引き起こし光沢度や発色性の低下、及び、長期待機後の吐出不良が発生しやすい。重量平均分子量が100000超では水が揮発した際にインキ粘度の上昇が起こりやすくなる。特に、インクジェットプリンタを長期間待機させた際に、インクジェットノズル近傍で水が揮発しインキが濃縮された際にインキ粘度が上昇し、不吐出等の問題に繋がる。吐出安定性を確保し優れた印刷画質とするために、顔料分散樹脂の重量平均分子量は、より好ましくは15000〜50000であり、特に好ましくは15000〜40000である。
【0083】
本発明における顔料分散樹脂の重量平均分子量は常法によって測定することができる。本発明における顔料分散樹脂の重量平均分子量の測定方法は下記の通りであり、重量平均分子量は、TSKgelカラム(東ソー社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)で、展開溶媒にTHFを用いて測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0084】
更に、本発明の顔料分散樹脂は炭素数8〜30のアルキル鎖を含有する単量体を共重合組成に含むことが好ましい。分散安定性を向上させインクジェットヘッドからの吐出安定性を確保し、難吸収性基材上において、乾燥過程での顔料の分散安定性を、顔料分散樹脂からも保持することにより発色性や光沢を発現させるという観点から、炭素数10〜28のアルキル鎖を含有することがより好ましく、炭素数12〜24のアルキル鎖を含有することが特に好ましい。
【0085】
炭素数8以上のアルキル鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状のものが好ましい。アルキル鎖としてはエチルヘキシル基(C8),デシル基(C10)、ラウリル基(C12)、ミリスチル基(C14)、セチル基(C16)、ステアリル基(C18)、アラキル基(C20)、ベヘニル基(C22)、リグノセリル基(C24)、セロトイル基(C26)、モンタニル基(C28)、メリッシル基(C30)等が挙げられる。
【0086】
本発明で用いられ得る顔料分散樹脂の酸価は30〜400mgKOH/gであることが好ましい。酸価を上記範囲に収めることで、顔料分散樹脂のインキに対する溶解性を確保するとともに、インキ粘度を好適な範囲内に抑えることができるため好ましい。顔料分散樹脂の酸価は、より好ましくは100〜300mgKOH/gである。
【0087】
本発明で用いられ得る顔料分散樹脂は、水への溶解度を上げるために、樹脂中の酸基を塩基で中和してあることが好ましい。塩基としてはアンモニア水、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基、及び水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基等を使用することができる。有機塩基を使用するとインキ乾燥時塩基が揮発し、印刷物の耐水性が向上する場合があり、好ましい。
【0088】
本発明における顔料に対する顔料分散樹脂の比率は1.5/1〜100/1であることが好ましい。顔料に対する顔料分散樹脂の比率が1.5/1よりも大きいとインキの粘度が高くなる傾向が見られる。また、顔料に対する顔料分散樹脂の比率が100/1よりも小さいと分散安定性が低下する場合がある。優れた分散安定性を確保し、高い発色と光沢を有する印刷画質を得るという観点から、顔料と顔料分散樹脂の比率は、より好ましくは2/1〜20/1、更に好ましくは2.5/1〜10/1であり、特に好ましくは3/1〜10/1である。
【0089】
<バインダー樹脂>
本発明のインクジェット用マゼンタインキは、難浸透性基材上でのインキの乾燥性や印字物の塗膜耐性を高めるためにバインダー樹脂を用いることができる。なお本発明において「バインダー樹脂」は、印刷物を難吸収性基材に密着させるとともに、前記印刷物に耐摩擦性や耐水性を付与するために用いられる。また、バインダー樹脂は、インキ中のアゾ顔料の分散状態を安定化させる機能も有してもよいが、上記で説明した顔料分散樹脂としての機能は有しない。対象となる樹脂が顔料分散樹脂としての機能を有するかどうかは、例えば後述する実施例の方法によってマゼンタインキを作製し、その保存安定性を評価することで確認できる。
【0090】
水性インキ用のバインダー樹脂としては、大別して水溶性樹脂と樹脂微粒子が知られている。一般に樹脂微粒子は、水溶性樹脂と比較して高分子量であり、高い耐性を実現することができるが、一度成膜してしまうと再溶解が難しいため、インクジェットヘッド上でインキを長期待機させた際に、ノズル閉塞等を引き起こすことが懸念される。そこで本発明のインキでは、バインダー樹脂として、長期待機させた後の吐出安定性が確保できる水溶性樹脂を使用することが好ましい。
【0091】
本発明で用いられ得る水溶性のバインダー樹脂としては(メタ)アクリル系、スチレン(メタ)アクリル系、ウレタン系、スチレンブタジエン系、塩化ビニル系、ポリオレフィン系等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。インクジェットノズルからの吐出安定性を確保するという観点から、(メタ)アクリル系樹脂を用いることが好ましい。
【0092】
本発明で用いられ得るバインダー樹脂の重量平均分子量は、インクジェットノズルからの吐出安定性を確保し、難吸収性基材上であっても優れた塗膜耐性を得るという観点から、3000〜50000であることが好ましく、5000〜40000であることがより好ましく、特に好ましくは10000〜30000である。重量平均分子量が50000を超えるとインクジェットノズル端面でインキ中の水分が揮発した際に、インキが増粘しやすく不吐出等を引き起こす可能性がある。
【0093】
本発明におけるバインダー樹脂の重量平均分子量は常法によって測定することができる。本発明におけるバインダー樹脂の重量平均分子量の測定方法は下記の通りである。重量平均分子量は、TSKgelカラム(東ソー社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)で、展開溶媒にTHFを用いて測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0094】
本発明では、バインダー樹脂のガラス転移点温度(Tg)を高くすることで耐擦性、耐薬品性等の耐性をより向上させることが可能である。バインダー樹脂のガラス転移点温度(Tg)は、好ましくは40〜120℃の範囲であり、より好ましくは50〜110℃の範囲である。ガラス転移点温度(Tg)が40℃以上であるとより良好な耐性を得やすく、実用においても印刷物からの印刷の剥がれを抑制する観点から好ましい。また、ガラス転移点温度(Tg)が120℃以下であると塗膜の硬さを適正な範囲に維持し易く、印刷物を折り曲げた際の印刷面のワレ、ヒビの発生を抑制する観点から好ましい。
【0095】
なお、ガラス転移点温度は、DSC(示差走査熱量計)を用いて求めた値であり、例えば以下のようにして測定することができる。バインダー樹脂組成物を乾固させたサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、サンプルを含む試験容器をDSC測定ホルダーにセットし、5℃/分の昇温条件にて得られるチャートの吸熱ピークを読み取る。このときのピーク温度を本明細書におけるガラス転移温度とする。
【0096】
本発明で用いられ得るバインダー樹脂の酸価は、耐水性や耐薬品性等の耐性を向上させるという観点から1〜100mgKOH/gであることが好ましく、5〜60mgKOH/gであることがより好ましい。
【0097】
上記したようなバインダー樹脂のインキ組成中における含有量は、不揮発分でインキの全重量の1〜20重量%の範囲であることが好ましく、3〜15重量%であることがより好ましい。
【0098】
<水>
本発明のインクジェット用マゼンタインキに含まれる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0099】
本発明で使用することができる水の含有量としては、インキの全重量の20〜90重量%の範囲である。
【0100】
<その他の成分>
また、本発明のインキは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするために、消泡剤、防腐剤等の添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、インキの全重量に対して、0.01重量%以上10重量%以下が好適である。
【0101】
<インキの動的表面張力>
本発明のインクジェット用マゼンタインキは、難吸収性基材上に着弾した瞬間に速やかに濡れ広がり、白抜けや濃淡ムラのない優れた印刷画質とするため、最大泡圧法によって算出される10ミリ秒におけるインキの動的表面張力が25〜45mN/mであることが好ましく、25〜35mN/mであることがより好ましい。具体的には、最大泡圧法を利用したバブルプレッシャー動的表面張力計BP100(Kruss社製)を用いて、25℃における動的表面張力を測定し、寿命時間10ミリ秒における動的表面張力から算出することが可能である。
【0102】
<インキセット>
本発明のインクジェット用マゼンタインキは単色で使用してもよいが、用途に合わせて複数の色を組み合わせたインキセットとして使用することもできる。組み合わせは特に限定されないが、シアン、イエロー、マゼンタの3色を使用することでフルカラーの画像を得ることができる。また、ブラックインキを追加することで黒色感を向上させ、文字等の視認性を上げることができる。更にオレンジ、グリーン等の色を追加することで色再現性を向上させることも可能である。白色以外の印刷媒体へ印刷を行う際にはホワイトインキを併用することで鮮明な画像を得ることができる。
【0103】
本発明のインクジェットインキセットとしてシアン、イエロー、マゼンタの組み合わせで使用するときには、難吸収性基材に印刷した際の色再現性に優れる点から、好適な顔料種が選択される。シアンの顔料としては、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4から選ばれる顔料が好ましい。イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー14、74、83、120、150、180から選ばれる顔料を使用することが好ましく、より好ましくはC.I.ピグメントイエロー14、74、180である。また混色滲みを抑制し高い色再現性を得るという観点から、水溶性有機溶剤に対する溶解安定性の高いC.I.ピグメントイエロー14を使用することが特に好ましい。マゼンタインキとしては、本発明のマゼンタインキを使用することで高い色再現性を得ることができる。
【0104】
また、インクジェットインキセットとしてシアン、イエロー、マゼンタの組み合わせで使用するときに難吸収性基材上で優れた濡れ性を有するとともに、液滴同士の混色滲みを抑制できる観点から、シアンインキ及びイエローインキが、HLB値が8以下である界面活性剤(B−1)を少なくとも1種以上含有し、かつ、本発明のマゼンタインキと組み合わせることが好ましい。
【0105】
更に、難吸収性基材上において着弾時の濡れ性を向上させ、優れた印刷画質や色再現性を達成するため、インクジェットインキセットとしてシアン、イエロー、マゼンタの組み合わせで使用する場合、最大泡圧法で算出される10ミリ秒における動的表面張力が、いずれのインキも25〜45mN/mであることが好ましく、25〜35mN/mであることがより好ましい。
【0106】
<インキの調製方法>
上記したような成分からなる本発明のインキの調製方法としては、下記のような方法が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。初めに、顔料分散樹脂と、水とが少なくとも混合された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の顔料分散液を得る。次に、必要に応じてこの顔料分散液に、水溶性有機溶剤、或いは、上記で挙げたような適宜に選択された添加剤成分を加え、撹拌、必要に応じて濾過して本発明のインキとする。
【0107】
本発明のインキの調製方法においては、上記で述べたように、インキの調製に分散処理を行って得られる顔料分散液を使用するが、顔料分散液の調製の際に行う分散処理の前に、プレミキシングを行うのが効果的である。プレミキシングは、少なくとも顔料分散樹脂と水とが混合された水性媒体に顔料を加えて行えばよい。このようなプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるため、好ましい。
【0108】
顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザー等が挙げられる。その中でも、ビーズミルが好ましく使用される。このようなものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0109】
顔料のプレミキシング及び分散処理において、顔料分散剤は水のみに溶解もしくは分散した場合であっても、有機溶剤と水との混合溶媒に溶解もしくは分散した場合であっても良い。
【0110】
本発明のインキに含まれる顔料としては、上記のとおり最適な粒度分布を有するものを用いることが好ましい。所望の粒度分布を有する顔料を得るためには、下記の方法が挙げられる。上記に挙げたような分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの材質を変更すること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、撹拌部材(アジテータ)の形状を変更すること、分散処理時間を長くすること、分散処理後フィルタや遠心分離機等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせである。本発明における顔料を上記の好適な粒度範囲に収めるため、上記分散機の粉砕メディアのサイズとしては直径0.1〜3mmであることが好ましい。また粉砕メディアの材質として、ガラス、ジルコン、ジルコニア、チタニアが好ましく用いられる。
【0111】
なお、本発明のインキが2種以上の顔料を含む場合、顔料ごとに顔料分散液を製造したのち、混合してインキを調製してもよいし、前記2種以上の顔料を含む顔料分散液を製造し、インキを調製してもよいが、詳細は不明ながら、保存安定性や鮮明性に優れるインキが得られる点から、2種以上の顔料を含む顔料分散液を製造する方法が好ましく選択される。
【0112】
また、顔料ごとに顔料分散液を製造する場合、前記顔料分散液ごとに異なる顔料分散樹脂を選択してもよいし、同一の顔料分散樹脂を用いてもよいが、インキの保存安定性の観点から、同一の顔料分散樹脂を使用することが好ましい。
【0113】
<難吸収性基材>
本発明で用いられ得る難吸収性基材とは、水を吸収しない、もしくは吸収速度が遅い基材のことであり、以下に示すブリストー法(J.TAPPI紙パルプ試験方法No.51−87)により測定した、水に対する吸収係数が0〜0.6ml/m
2msec
1/2である基材を表す。具体的には、コート紙、アート紙、微塗工紙、キャストコート紙等の紙媒体や、ポリ塩化ビニルシート、PETフィルム、PPフィルム等のプラスチック媒体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明で用いられ得る難吸収性基材は、印刷媒体の表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。また、これらの印刷媒体の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。更に印字面の反対側に剥離粘着層等を設けても良く、又印字後、印字面に粘着層を設けても良い。
【0114】
なお上記の吸収係数は、例えば熊谷理機工業社製自動走査吸液計を用いることで測定できる。具体的には上記装置と水とを使用し、接触時間100〜1000ミリ秒の間で得られた水の吸液量(ml/m
2)と接触時間の平方根(msec
1/2)の関係図から、最小二乗法により求められる直線の勾配を吸収係数とする。
【0115】
<印刷方法>
本発明のインクジェットインキを印刷する方法として、インクジェットヘッドのノズルからインキを吐出させ、印刷基材上にインキ液滴を付着させる方法が用いられる。
【0116】
<インキ塗工物の分光反射率>
本発明のマゼンタインキは、記録媒体上に作製した、ウェット膜厚6μmの塗工物における分光反射率が、480〜580nmの波長領域において10%以下であることが好ましい。上記の通り、本発明のマゼンタインキでは、アゾ顔料、水溶性有機溶剤(A−1)、界面活性剤(B−1)のバランスが重要な要素と考えられるが、本発明者らは、前記アゾ顔料の種類によって、好適なバランスが得られる処方の幅が異なることを見出した。詳細な要因は不明であるが、アゾ顔料の一部がインキ中で凝集することにより、配合量のバランスが崩れること、また、凝集を起こすことで、アゾ顔料が本来有する良好な発色性・色再現性を十分に発現できないことが考えられる。また、難吸収性基材上に印刷する場合は特に、発色性、色再現性等の品質の劣化が表れやすいと考えられる。
【0117】
上記の凝集が酷い場合は、例えばインキの粒子径測定等によって、凝集の有無を判断できるが、顔料の一部が多少凝集している程度の場合は、上記のインキの粒子径測定では確認することができない。そこで本発明者らが鋭意検討した結果、480〜580nmの波長領域における分光反射率を測定することにより、少量の凝集であっても有意に判断できることを見出した。これは、乾燥によりインキより揮発する成分が上記波長範囲においての反射率にほとんど影響を与えないため、ウェットで塗工した塗膜と乾燥後の塗膜で値がほとんど変化しないことによるもので、記録媒体上に作製した、ウェット膜厚6μmの塗工物における分光反射率を、480〜580nmの波長領域において10%以下に抑えることにより、水溶性有機溶剤(A−1)及び界面活性剤(B−1)とのバランスを維持できる処方の幅が広く、かつアゾ顔料が本来有する良好な発色性・色再現性を発現できるマゼンタインキを得ることが可能となる。
【0118】
本発明における分光反射率の測定方法を具体的に例示すると、松尾産業株式会社製KコントロールコーターK202、ワイヤーバーNo.1を用いて本発明のマゼンタインキを記録媒体に塗工した後、60℃のエアオーブンで3分間乾燥させて塗工物を作成し、塗工物上の分光反射率を、X−rite社製i1Pro2を用いて測定する方法が挙げられる。なお、分光反射率の測定にあたっては、480〜580nmの波長領域について10nm間隔で測定を行い、前記領域の全てで、前記分光反射率が10%以下であることが特に好ましい。
【0119】
なお上記の塗工物として、例えばインクジェットプリンタを用いて、ウェット膜厚が6±0.3μmとなるようにインキ吐出量を調整し、記録媒体に印刷したベタ画像を用いても差し支えない。また、記録媒体としては白色のものであれば特に限定はされないが、王子製紙社製OKトップコート+(米坪量104.7g/m
2)であることが好ましい。
【0120】
上記で説明したように、アゾ顔料として、C.I.ピグメントレッド31、146、147、150、266、269から選択される少なくとも1種を用いることが、水溶性有機溶剤(A−1)や界面活性剤(B−1)の種類や量によらず、480〜580nmの波長領域における分光反射率を上記範囲に収めることができることから好ましい。
【0121】
また同一顔料について、480〜580nmの波長領域における分光反射率を上記範囲に収める方法として、例えば、2種以上のアゾ顔料を併用すること、アゾ顔料とその他の顔料とを併用すること、分散時間や分散機の粉砕メディアを調整すること、上記の顔料分散樹脂を用いるとともにその種類や量を調整すること、顔料誘導体等の分散助剤を併用すること等がある。
【実施例】
【0122】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の記載において、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限りそれぞれ「重量部」、「重量%」を表す。
【0123】
<顔料分散樹脂>
<顔料分散樹脂1の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてアクリル酸30部、メタクリル酸メチル40部、ステアリルメタクリレート30部、及び重合開始剤であるV−601(和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、更に110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬製)0.6部を添加し、更に110℃で1時間反応を続けて、分散樹脂1の溶液を得た。更に、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部添加し中和し、水を100部添加し、水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、固形分が50%になるように調整した。これより、顔料分散樹脂1の固形分50%の水性化溶液を得た。
【0124】
<顔料分散樹脂2〜6の製造例>
重合性単量体として表1記載の単量体を使用する以外は顔料分散樹脂1と同様の操作にて顔料分散樹脂2〜6の固形分50%の水性化溶液を得た。
【0125】
【表1】
【0126】
表1に記載された略語は、以下の通りである。
・St:スチレン
・AA:アクリル酸
・MMA:メタクリル酸メチル
・2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
・STMA:ステアリルメタクリレート
【0127】
<界面活性剤(B−1)>
<アセチレンジオール系界面活性剤の合成>
特開2002−356451号明細書、実施例1記載の方法を利用し、原料ケトンとしてメチルイソアミルケトンを用いることで、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール(アセチレンジオール1)を合成した。なお、前記アセチレンジオール1のHLB値は2.7である。また、同様にして原料ケトンとしてメチルイソブチルケトンを用いることで、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール(アセチレンジオール2)を合成した。なお、前記アセチレンジオール2のHLB値は3.0である。
【0128】
なお実施例では、市販品であるサーフィノール440(エアープロダクツジャパン社製、HLB値=8.0)、及びサーフィノール465(エアープロダクツジャパン社製、HLB値=13.0)もアセチレンジオール系界面活性剤として使用した。
【0129】
<シリコーン系界面活性剤の合成>
<ポリエーテル変性シロキサン1の合成例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、エチレングリコールアリルメチルエーテル360gと、塩化白金酸の0.5重量%トルエン溶液0.5gとを仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱したのち、シロキサン鎖の両末端が水素原子であるヘキサデカメチルオクタシロキサン480gを30分間かけて滴下した。次いで、反応容器内を110℃まで加熱し、攪拌しながら3時間保持することで、上記材料を反応させた。反応終了後、低沸分を減圧下で留去することで、ポリエーテル変性シロキサン1を得た。なお前記ポリエーテル変性シロキサン1は、一般式(5)の構造で表され、r=6であり、またR
1は一般式(4)においてm=3、n=2、o=0、R
3=CH
3のものである。また前記化合物のHLB値は7.5である。
【0130】
<ポリエーテル変性シロキサン2の合成例>
エチレングリコールアリルメチルエーテルの添加量を180gとし、またヘキサデカメチルオクタシロキサンの代わりに、中心のケイ素原子に水素原子が1個結合しているヘプタメチルトリシロキサンを200g用いた以外は、ポリエーテル変性シロキサン1と同様の方法により、ポリシロキサン系界面活性剤2を得た。なお前記ポリエーテル変性シロキサン2は、一般式(3)の構造で表され、p=0、q=1、R
2=CH
3であり、またR
1は一般式(4)においてm=3、n=1、o=0、R
3=CH
3のものである。また前記化合物のHLB値は4.6である。
【0131】
<ポリエーテル変性シロキサン3の合成例>
エチレングリコールアリルメチルエーテルの添加量を360gとし、またヘキサデカメチルオクタシロキサンの代わりに、中心のケイ素原子に水素原子が2個結合しているオクタメチルヘプタンテトラシロキサンを240g用いた以外は、ポリエーテル変性シロキサン1と同様の方法により、ポリシロキサン系界面活性剤3を得た。なお前記ポリエーテル変性シロキサン3は、一般式(3)の構造で表され、p=0、q=2、R
2=CH
3であり、またR
1は一般式(4)においてm=3、n=1、o=0、R
3=CH
3のものである。また前記化合物のHLB値は7.5である。
【0132】
<ポリエーテル変性シロキサン4の合成例>
エチレングリコールアリルメチルエーテルの添加量を640gとし、シロキサン鎖の両末端が水素原子であるドトリアコンチルヘキサデカシロキサン480gを使用した以外はポリエーテル変性シロキサン1と同様の方法により、ポリシロキサン系界面活性剤4を得た。なお前記ポリエーテル変性シロキサン4は、一般式(5)の構造で表され、r=14であり、またR
1は一般式(4)においてm=3、n=1、o=0、R
3=CH
3のものである。また前記化合物のHLB値は1.9である。
【0133】
<ポリエーテル変性シロキサン5の合成例>
エチレングリコールアリルメチルエーテルの添加量を180gとし、またヘキサデカメチルオクタシロキサンの代わりに、中心のケイ素原子に水素原子が1個結合しているヘプタメチルトリシロキサンを200g用いた以外は、ポリエーテル変性シロキサン1と同様の方法により、ポリシロキサン系界面活性剤5を得た。なお前記ポリエーテル変性シロキサン4は、一般式(3)の構造で表され、p=0、q=1、R
2=CH
3であり、またR
1は一般式(4)においてm=3、n=2、o=0、R
3=CH
3のものである。また前記化合物のHLB値は9.2である。
【0134】
<ポリシロキサン系界面活性剤6の合成例>
エチレングリコールアリルメチルエーテルの添加量を640gとし、シロキサン鎖の両末端が水素原子であるペンタコンチルペンタコサンシロキサン480gを使用した以外はポリエーテル変性シロキサン1と同様の方法により、ポリシロキサン系界面活性剤6を得た。なお前記ポリエーテル変性シロキサン7は、一般式(5)の構造で表され、r=23であり、またR
1は一般式(4)においてm=3、n=1、o=0、R
3=CH
3のものである。また前記化合物のHLB値は1.2である。
【0135】
<バインダー樹脂>
実施例で使用するバインダー樹脂として、水溶性樹脂1(スチレン:メタクリル酸:メタクリル酸メチル=20:5:75(重量比)のランダム重合体、重量平均分子量:16000、酸価:33、Tg:107℃、固形分:40%)を用いた。
【0136】
<顔料分散液>
<マゼンタ顔料分散液1の製造例>
顔料としてC.I.ピグメントレッド150を20部、顔料分散樹脂1の水性化溶液を10部、水70部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、マゼンタ顔料分散液1(MB1)を得た。
【0137】
<マゼンタ顔料分散液2〜60の製造例>
表2記載の原料を使用する以外はマゼンタ顔料分散液1と同様の操作にて顔料分散を行い、マゼンタ顔料分散液2〜60(MB2〜MB60)を得た。
【0138】
【表2】
【0139】
表2に記載された略語は、以下の通りである。
・P.R.150:C.I.ピグメントレッド150
・P.R.31:C.I.ピグメントレッド31
・P.R.146:C.I.ピグメントレッド146
・P.R.147:C.I.ピグメントレッド147
・P.R.266:C.I.ピグメントレッド266
・P.R.269:C.I.ピグメントレッド269
・P.R.1:C.I.ピグメントレッド1
・P.R.166:C.I.ピグメントレッド166
・P.R.242:C.I.ピグメントレッド242
・P.R.48:3:C.I.ピグメントレッド48:3
・P.R.122:C.I.ピグメントレッド122
・P.R.202:C.I.ピグメントレッド202
・P.R.209:C.I.ピグメントレッド209
【0140】
<シアン顔料分散液1の製造例>
顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を20部、顔料分散樹脂2の水性化溶液を10部、水70部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、シアン顔料分散液1を得た。
【0141】
<イエロー顔料分散液1の製造例>
顔料としてC.I.ピグメントイエロー74を20部、顔料分散樹脂2の水性化溶液を10部、水70部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、イエロー顔料分散液1を得た。
【0142】
<イエロー顔料分散液2の製造例>
顔料としてC.I.ピグメントイエロー14を20部、顔料分散樹脂2の水性化溶液を10部、水70部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、イエロー顔料分散液2を得た。
【0143】
<イエロー顔料分散液3の製造例>
顔料としてC.I.ピグメントイエロー180を20部、顔料分散樹脂2の水性化溶液を10部、水70部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、イエロー顔料分散液3を得た。
【0144】
<マゼンタインキ>
<実施例1のマゼンタインキ1(M1)の製造例>
マゼンタ顔料分散液1を20部、1,2−ブタンジオールを25部、バインダー樹脂1を10部、ポリエーテル変性シロキサン2を1部、残りを水としてインキ全体が100部になるように調整し、これをディスパーで十分に均一になるまで攪拌した。その後、メンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去し実施例1のマゼンタインキ(M1)を作成した。
【0145】
<実施例2〜101のマゼンタインキ(M2〜101)の製造例>
表3〜8記載の原料を用いて実施例1のマゼンタインキの製造例と同様にして実施例2〜101のマゼンタインキ(M2〜M101)の作成を行った。
【0146】
【表3】
【0147】
【表4】
【0148】
【表5】
【0149】
【表6】
【0150】
【表7】
【0151】
【表8】
【0152】
<比較例1〜13のマゼンタインキ(M102〜M114)の製造例>
表9記載の原料を用いて実施例1のマゼンタインキの製造例と同様にして比較例1〜13のマゼンタインキ(M102〜M114)の作成を行った。
【0153】
【表9】
【0154】
表3〜9に記載された略語は、以下の通りである。
・1,2−BD:1,2−ブタンジオール(沸点:191℃、表面張力:31.6mN/m、HLB値:7.6)
・1,2−PenD:1,2−ペンタンジオール(沸点:206℃、表面張力:27.7mN/m、HLB値:6.5)
・1,2−HexD:1,2−ヘキサンジオール(沸点:224℃、表面張力:26.4mN/m、HLB値:5.8)
・DPM:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:189.6℃、表面張力:28.6mN/m、HLB値:2.3)
・MB:3−メトキシ−1−ブタノール(沸点:157℃、表面張力:29.3mN/m、HLB値=6.3)
・PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:120℃、表面張力:26.7mN/m、HLB値:3.8)
・1,2−PD:1,2−プロパンジオール(沸点:188.2℃、表面張力:35.1mN/m、HLB値:8.9)
・1,4−BD:1,4−ブタンジオール(沸点:230℃、表面張力:43.3mN/m、HLB値:7.6)
・DPDM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点:175℃、表面張力:25.9mN/m、HLB値:0.0)
・DPMP:ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点:212℃、表面張力:25.6mN/m、HLB値:1.9)
・BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:230℃、表面張力:27.9mN/m、HLB値:13.0)
・GLY:グリセリン(沸点:290℃、表面張力:62.3mN/m、HLB:11.1)
【0155】
<イエローインキ1(Y1)の作成>
イエロー顔料分散液1を20部、1,2−ブタンジオールを25部、バインダー樹脂1を10部、ポリエーテル変性シロキサン3を1部、残りを水としてインキ全体が100部になるように調整し、これをディスパーで十分に均一になるまで攪拌した。その後、メンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しイエローインキ1(Y1)を作製した。作製したインキの最大泡圧法で算出される10ミリ秒における動的表面張力は35〜45mN/mであった。
【0156】
<イエローインキ2(Y2)の作成>
イエロー顔料分散液1を20部、1,2−ブタンジオールを20部、1,2−ヘキサンジオールを5部、バインダー樹脂1を10部、アセチレンジオール2を1部、ポリエーテル変性シロキサン2を1部、残りを水としてインキ全体が100部になるように調整し、これをディスパーで十分に均一になるまで攪拌した。その後、メンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しイエローインキ2(Y2)を作製した。作製したインキの、最大泡圧法で算出される10ミリ秒における動的表面張力は25〜35mN/mであった。
【0157】
<イエローインキ3〜4(Y3〜4)の作成>
イエロー顔料分散液2を20部、1,2−ブタンジオールを20部、1,2−ヘキサンジオールを5部、バインダー樹脂1を10部、アセチレンジオール2を1部、ポリエーテル変性シロキサン2を1部、残りを水としてインキ全体が100部になるように調整し、これをディスパーで十分に均一になるまで攪拌した。その後、メンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しイエローインキ3(Y3)を作製した。また、イエロー顔料分散液2を、イエロー顔料分散液3に変えた以外は、上記イエローインキ3と同様にして、イエローインキ4(Y4)を作製した。作製したイエローインキ3〜4の、最大泡圧法で算出される10ミリ秒における動的表面張力は25〜35mN/mであった。
【0158】
<イエローインキ5〜6(Y5〜6)の作成>
イエロー顔料分散液2を20部、1,2−ブタンジオールを20部、1,2−ヘキサンジオールを5部、3−メトキシ−1−ブタノールを5部、バインダー樹脂1を10部、アセチレンジオール2を1部、ポリエーテル変性シロキサン2を1部、残りを水としてインキ全体が100部になるように調整し、これをディスパーで十分に均一になるまで攪拌した。その後、メンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しイエローインキ5(Y5)を作製した。また、3−メトキシ−1−ブタノールを、プロピレングリコールモノメチルエーテルに変えた以外は、上記イエローインキ5と同様にして、イエローインキ6(Y6)を作製した。作成したイエローインキ5〜6の、最大泡圧法で算出される10ミリ秒における動的表面張力は、どちらも25〜35mN/mであった。
【0159】
<シアンインキ1(C1)の作成>
シアン顔料分散液1を15部、1,2−ブタンジオールを25部、バインダー樹脂1を10部、ポリエーテル変性シロキサン3を1部、残りを水としてインキ全体が100部になるように調整し、これをディスパーで十分に均一になるまで攪拌した。その後、メンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しシアンインキ1(C1)を作製した。作製したインキの最大泡圧法で算出される10ミリ秒における動的表面張力は35〜45mN/mであった。
【0160】
<シアンインキ2(C2)の作成>
シアン顔料分散液1を15部、1,2−ブタンジオールを20部、1,2−ヘキサンジオールを5部、バインダー樹脂1を10部、アセチレンジオール2を1部、ポリエーテル変性シロキサン2を1部、残りを水としてインキ全体が100部になるように調整し、これをディスパーで十分に均一になるまで攪拌した。その後、メンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しシアンインキ2(C2)を作製した。作製したインキの最大泡圧法で算出される10ミリ秒における動的表面張力は25〜35mN/mであった。
【0161】
<シアンインキ3〜4(C3〜4)の作成>
シアン顔料分散液1を15部、1,2−ブタンジオールを20部、1,2−ヘキサンジオールを5部、3−メトキシ−1−ブタノールを5部、バインダー樹脂1を10部、アセチレンジオール2を1部、ポリエーテル変性シロキサン2を1部、残りを水としてインキ全体が100部になるように調整し、これをディスパーで十分に均一になるまで攪拌した。その後、メンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しシアンインキ3(C3)を作製した。また、3−メトキシ−1−ブタノールを、プロピレングリコールモノメチルエーテルに変えた以外は、上記シアンインキ3と同様にして、シアンインキ4(C4)を作製した。作成したシアンインキ3〜4の最大泡圧法で算出される10ミリ秒における動的表面張力は、どちらも25〜35mN/mであった。
【0162】
<インクジェットインキの評価>
作成した実施例1〜101のマゼンタインキ(M1〜M101)について下記の評価を行った。得られた評価結果は表3〜8、10、11に示す。また、作成した比較例1〜13のマゼンタインキ(M102〜M114)についても同様に下記の評価を行った。得られた結果は表9、11に示す。
【0163】
【表10】
【0164】
【表11】
【0165】
<インキの保存安定性の評価>
マゼンタインキM1〜M114の粘度を、E型粘度計(東機産業社製TVE−20L)を用いて、25℃において回転数50rpmという条件で測定した。このインキを70℃の恒温機に保存し、経時促進させた後、経時前後でのインキの粘度変化を評価した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、 B評価を実用可能領域とした。
AA:4週間保存後の粘度変化率が±5%未満
A:2週間保存後の粘度変化率が±5%未満
B:1週間保存後の粘度変化率が±5%未満
C:1週間保存後の粘度変化率が±5%以上
【0166】
<インキの動的表面張力の評価>
マゼンタインキの10ミリ秒における動的表面張力を、最大泡圧法を利用したバブルプレッシャー動的表面張力計BP100(Kruss社製)を用いて評価した。表3〜9に記載した記号の意味は、以下の通りである。
A:動的表面張力が25〜35mN/m
B:動的表面張力が35〜45mN/m
【0167】
<塗工物の分光反射率の評価>
松尾産業株式会社製KコントロールコーターK202、ワイヤーバーNo.1を用い、マゼンタインキM1〜M114を、王子製紙社製OKトップコート+(米坪量104.7g/m
2)上に塗工した後、60℃のエアオーブンで3分間乾燥させ塗工物を作製した。次いで、X−rite社製i1Pro2を用い、作製した塗工物の分光反射率を、480〜580nmの波長領域について10nm間隔で測定を行うことで、分光反射率の評価を行った。表3〜4に記載した記号の意味は、以下の通りである。
A:480〜580nmの波長領域の全てで、分光反射率が10%以下であった。
B:480〜580nmの波長領域のうち1ヶ所以上で、分光反射率が10%より高かった。
【0168】
<印刷物の濃淡ムラの評価>
京セラ社製ヘッド(QA06NTB)を搭載したインクジェット吐出装置により、周波数20kHz、600×600dpiの印字条件で、王子製紙社製OKトップコート+(米坪量104.7g/m
2)上にインキを吐出させることで、印字率60%、80%、100%のベタ印刷を行った。印刷後、60℃エアオーブンを用いて3分間乾燥させた後、印刷物の濃淡ムラをルーペにて確認した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価を実用可能領域とした。
AA:いずれの印字率においても濃淡ムラが発生していなかった。
A:印字率80%以下では濃淡ムラが発生していなかったが、印字率100%で僅かに濃淡ムラが見られた。
B:印字率60%以下では濃淡ムラが発生していなかったが、印字率80〜100%で僅かに濃淡ムラが発生していた。
C:印字率60%で僅かに濃淡ムラが発生しており、印字率80〜100%で明らかに濃淡ムラが発生していた。
D:印字率60%で明らかに濃淡ムラが発生していた。
【0169】
<印刷物の白抜けの評価>
上記濃淡ムラの評価で作成した、印字率100%のベタ印刷物の白抜け度合を、ルーペ及び目視で確認した。評価基準は下記のとおりであり、A、B評価を実用可能領域とした。
A:ルーペ及び目視で白抜けが見られなかった。
B:ルーペでは僅かに白抜けが見られたが、目視で白抜けが見られなかった。
C:目視で明らかに白抜けが見られた。
【0170】
<印刷物の光沢の評価>
上記濃淡ムラの評価で作成した、印字率100%のベタ印刷物の60°光沢度を、マイクロトリグロス光沢計(ビックケミージャパン株式会社製)を用いて測定し評価した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価を実用可能領域とした。
AA:光沢度55以上であり、印刷物表面の光沢の均一性に優れていた。
A:光沢値が45以上55未満であり、印刷物表面の光沢の均一性に優れていた。
B:光沢値が45以上55未満であるが、印刷物表面の光沢が僅かに不均一であった。
C:光沢値が35以上45未満であり、印刷物表面の光沢の均一性が悪かった。
D:光沢値が25以上35未満であり、印刷物表面の光沢の均一性が著しく悪かった。
【0171】
<印刷物の濃度の評価>
上記濃淡ムラの評価で作成した、印字率100%のベタ印刷物について、分光濃度計(X-RITE製)を用いて光学濃度(OD値)の測定を行った。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価を実用可能領域とした。
AA:OD値 1.6以上
A:OD値 1.5以上1.6未満
B:OD値 1.4以上1.5未満
C:OD値 1.4未満
【0172】
<印刷物の乾燥性の評価>
上記評価と同様の印刷条件、印刷基材を用いて印字率100%のベタ印刷を行った。印刷後、60℃エアオーブンに投入したのち、10秒ごとに印刷物を指で触ることで、印刷物の乾燥性の評価を行った。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価を実用可能領域とした。
AA:オーブン投入から10秒後、指で触ってもインキが付着しなかった。
A:オーブン投入から10秒後には指にインキが付着したが、20秒後は付着しなかった。
B:オーブン投入から20秒後には指にインキが付着したが、30秒後は付着しなかった。
C:オーブン投入から30秒後でも、指にインキが付着した。
【0173】
<吐出安定性の評価>
京セラ社製ヘッド(QA06NTB)を搭載したインクジェット吐出装置に、マゼンタインキM1〜M114をそれぞれ充填した。ノズル抜けがないことを確認したのち、25℃の環境下で一定時間インクジェット吐出装置を待機させた。一定時間後、ノズルチェックパターンを印字しノズル抜け本数を目視評価した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価を実用可能領域とした。
AA:6時間待機させた後に印刷してもノズル抜けが全くなかった。
A:4時間待機させた後に印刷してもノズル抜けが全くなかったが、6時間待機させた後に印刷すると、ノズル抜けが1本以上発生していた。
B:2時間待機させた後に印刷してもノズル抜けが全くなかったが、4時間待機させた後に印刷すると、ノズル抜けが1本以上発生していた。
C:1時間待機させた後に印刷するとノズル抜けが1〜9本発生していた。
D:1時間待機させた後に印刷するとノズル抜けが10本以上発生していた。
【0174】
<インクジェットインキセットの混色滲みの評価>
表10〜11に記載されたインキの組み合わせをインキセットとして、京セラ社製ヘッド(QA06NTB)を搭載したインクジェット吐出装置に充填した。周波数30kHz、600×600dpiの印字条件で、難吸収性基材上にインキを吐出させることでカラーチャート画像(シアン、マゼンタ、イエローの3色を、それぞれ10%刻みで掛け合わせたパッチを配列したもの)の印刷を行った。印刷後、60℃エアオーブンを用いて3分間乾燥させた後、印刷物の混色滲みについて目視及びルーペを用いて評価を行った。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価を実用可能領域とした。また前記難吸収性基材として、王子製紙社製のOKトップコート+(米坪量104.7g/m
2)、及び、フタムラ化学社製のFOR#20(二軸延伸ポリプロピレンフィルム、厚さ20μm)を使用した。
AA:ルーペ及び目視で混色滲みが見られなかった。
A:ルーペでは僅かに混色滲みが見られたが、目視で混色滲みが見られなかった。
B:目視で僅かに混色滲みが見られた。
C:目視で明らかに混色滲みが見られた。
【0175】
<インクジェットインキセットの色相の評価>
表10〜11に記載されたインキの組み合わせをインキセットとして、上記の印刷方法によって作成した印刷物の色相について分光測色計(X−rite社製)を用いて測色することにより評価した。評価は枚葉印刷用ジャパンカラー2011によって定められている色再現領域と比較することにより行った。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価を実用可能領域とした。
AA:ジャパンカラー以上の色再現領域であった。
A:ジャパンカラーと同等の色再現領域であった。
B:ジャパンカラーに僅かに満たない色再現領域であった。
C:ジャパンカラーよりも非常に狭い色再現領域であった。
【0176】
以上より、本発明のインクジェット用マゼンタインキは、難吸収性基材に対するインクジェット印刷において、濃淡ムラや白抜けがなく、高光沢かつ鮮明な画像が得られ、長期待機させた後の吐出安定性に優れており、更に、高速印刷であっても優れた乾燥性を得られることがわかった。また、本発明のインクジェット用マゼンタインキを含むインキセットにより、難吸収性基材において、混色滲みを抑制し高い色再現性を実現できることがわかった。