(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記減衰制御部は、押鍵されている状態の場合の前記減衰速度、および前記ペダルの操作がエンド位置に操作されている場合の前記減衰速度を、前記第1速度に制御する、請求項1から請求項7のいずれかに記載の音信号生成装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態における鍵盤楽器について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0022】
<第1実施形態>
[鍵盤楽器の構成]
図1は、本発明の第1実施形態における鍵盤楽器の構成を示す図である。鍵盤楽器1は、例えば、電子ピアノ等の電子鍵盤楽器であって、演奏操作子として複数の鍵70を有する電子楽器の一例である。ユーザが鍵70を操作すると、スピーカ60から音が発生する。発生する音の種類(音色)は、操作部21を用いて変更される。この例において、鍵盤楽器1は、ピアノの音色を用いて発音する場合に、アコースティックピアノに近い発音をすることができる。特に、鍵盤楽器1は、ハーフペダルを用いた演奏において、ダンパの影響をより精度よく反映した発音をすることができる。続いて、鍵盤楽器1の各構成について、詳述する。
【0023】
鍵盤楽器1は、複数の鍵70、筐体50およびペダル装置90を備える。複数の鍵70は、筐体50に回動可能に支持されている。筐体50には、操作部21、表示部23、スピーカ60が配置されている。筐体50の内部には、制御部10、記憶部30、鍵挙動測定部75および音源部80が配置されている。ペダル装置90は、ダンパペダル91、シフトペダル93およびペダル挙動測定部95を備える。筐体50内部に配置された各構成は、バスを介して接続されている。
【0024】
この例では、鍵盤楽器1は、外部装置と信号の入出力をするためのインターフェイスを含んでいる。インターフェイスとしては、例えば、音信号を出力する端子、MIDIデータの送受信をするためのケーブル接続端子などである。この例では、インターフェイスにペダル装置90が接続されることによって、ペダル挙動測定部95が筐体50内部に配置された各構成と上述したバスを介して接続される。
【0025】
制御部10は、CPUなどの演算処理回路、RAM、ROMなどの記憶装置を含む。制御部10は、記憶部30に記憶された制御プログラムをCPUにより実行して、各種機能を鍵盤楽器1において実現させる。操作部21は、操作ボタン、タッチセンサおよびスライダなどの装置であり、入力された操作に応じた信号を制御部10に出力する。表示部23は、制御部10による制御に基づいた画面が表示される。
【0026】
記憶部30は、不揮発性メモリ等の記憶装置である。記憶部30は、制御部10によって実行される制御プログラムを記憶する。また、記憶部30は、音源部80において用いられるパラメータ、波形データ等を記憶してもよい。スピーカ60は、制御部10または音源部80から出力される音信号を増幅して出力することによって、音信号に応じた音を発生する。
【0027】
鍵挙動測定部75は、複数の鍵70のそれぞれの挙動を測定し、測定結果を示す測定データを出力する。この測定データは、情報(KC、KS、KV)を含む。すなわち、複数の鍵70のそれぞれに対する押込操作に応じて、情報(KC、KS、KV)が出力される。情報KCは操作された鍵70を示す情報(例えば鍵番号)である。情報KSは鍵70の押込量を示す情報である。情報KVは鍵70の押込速度を示す情報である。情報KC、KS、KVが関連付けられて出力されることにより、操作された鍵70とその鍵70に対する操作内容とが特定される。
【0028】
ペダル挙動測定部95は、ダンパペダル91およびシフトペダル93のそれぞれの挙動を測定し、測定結果を示す測定データを出力する。この測定データは、情報(PC、PS)を含む。情報PCは操作されたペダルがダンパペダル91であるかシフトペダル93であるかを示す情報である。情報PSはペダルの押込量を示す情報である。情報PC、PSが関連付けられて出力されることにより、操作されたペダル(ダンパペダル91またはシフトペダル93)とそのペダルに対する操作内容(押込量)が特定される。なお、ペダル装置90のペダルがダンパペダル91のみである場合には、情報PCは不要である。
【0029】
音源部80は、鍵挙動測定部75およびペダル挙動測定部95から入力された情報に基づいて音信号を生成してスピーカ60に出力する。音源部80が生成する音信号は、鍵70への操作毎に得られる。そして、複数の押鍵によって得られた複数の音信号は、合成されて音源部80から出力される。音源部80の構成について詳述する。
【0030】
[音源部の構成]
図2は、本発明の第1実施形態における音源部の機能構成を示す図である。音源部80は、変換部88、音信号生成部800(音信号生成装置)、減衰制御テーブル135、波形データ記憶部151および出力部180を備える。音信号生成部800は、信号生成部111および減衰制御部131を含む。
【0031】
変換部88は、入力される情報(KC、KS、KV、PC、PS)を音信号生成部800において用いられるフォーマットの制御データに変換する。すなわち、それぞれ異なる意味を持つ情報が共通のフォーマットの制御データに変換される。制御データは、発音内容を規定するデータである。この例では、変換部88は、入力される情報をMIDI形式の制御データに変換する。変換部88は、生成した制御データを音信号生成部800(信号生成部111および減衰制御部131)に出力する。
【0032】
変換部88は、鍵挙動測定部75から入力される情報(KC、KS、KV)に基づいて、鍵70への操作に応じた制御データ(以下、第1操作データという)を生成する。この例では、第1操作データは、操作された鍵70の位置を示す情報(ノートナンバ)、押鍵したことを示す情報(ノートオン)、離鍵したことを示す情報(ノートオフ)および鍵70への操作速度すなわち押鍵速度(ベロシティ:この例では0〜127)等を含む。このように、変換部88は、第1操作データを生成する第1操作データ生成部としても機能する。
【0033】
また、変換部88は、ペダル挙動測定部95から入力される情報(PC、PS)に基づいて、ダンパペダル91の操作(押込量)に応じた制御データ(以下、第2操作データという)を生成する。第2操作データは、アコースティックピアノにおいてダンパが完全に上がっていること(ペダルがエンド位置にあること)を示す情報(ダンパオン)、ダンパが完全に下がっていること(ペダルがレスト位置にあること)を示す情報(ダンパオフ)、および、レスト位置およびエンド位置を除いた中間の位置の状態(ハーフペダル)になっていることを示す情報(ハーフダンパ)等を含む。なお、ペダルはレスト位置からエンド位置の範囲で操作可能である。
【0034】
この例では、ダンパオンはダンパが完全に上がっている状態(ダンパペダル91がエンド位置にある状態)のみに対応するのではなく、エンド位置からの所定の範囲(その状態と同等であるとして予め設定)にダンパペダル91が位置している状態に対応している。ダンパオフはダンパが完全に下がっている状態(ダンパペダル91がレスト位置にある状態)のみに対応するのではなく、レスト位置からの所定の範囲(その状態と同等であるとして予め設定)にダンパペダル91が位置している状態に対応している。このように、変換部88は、第2操作データを生成する第2操作データ生成部としても機能する。なお、シフトペダル93に応じた制御データについても生成されてもよいが、ここでは、その説明を省略する。
【0035】
変換部88は、生成した制御データを音信号生成部800(信号生成部111および減衰制御部131)に出力する。具体的には、変換部88は、第1操作データを信号生成部111および減衰制御部131に出力し、第2操作データを減衰制御部131に出力する。
【0036】
波形データ記憶部151は、少なくとも、ピアノ音波形データを記憶している。ピアノ音波形データは、アコースティックピアノの音(押鍵に伴う打弦によって生じた音)をサンプリングした波形データである。
【0037】
信号生成部111は、変換部88から入力される第1操作データに基づいて、音信号を生成して出力する。このとき、減衰制御部131によって、音信号のエンベロープが調整される。
【0038】
減衰制御部131は、減衰制御テーブル135を参照し、変換部88から入力される第1操作データおよび第2操作データに基づいて、信号生成部111において生成される音信号のエンベロープを制御する。特に、音信号が減衰するときのエンベロープが制御される。この例では、減衰制御部131は、ダンパペダル91の操作(すなわち第2操作データ)に基づいて減衰速度を制御し、特にハーフペダルの操作がされているときには、第1操作データにおけるベロシティに基づいてさらに減衰速度を制御する。
【0039】
減衰制御テーブル135は、ハーフペダルのときにおけるベロシティと減衰係数kとの関係を規定するテーブルである。減衰係数kは、ダンパオンのときの減衰速度に対して変化させる割合を示す係数である。この例では減衰係数kは、1以上の値である。k=1であれば、設定値(ディケイレートDR)から変化させない減衰速度を意味する。一方、kが1より大きくなるほど音信号の減衰速度を速めることを意味している。なお、減衰制御テーブル135が規定する関係および減衰係数kについての詳細については、後述する。
【0040】
出力部180は、信号生成部111によって生成された音信号を、音源部80の外部に出力する。この例では、スピーカ60に音信号が出力されて、ユーザに聴取される。続いて、信号生成部111の詳細の構成について説明する。
【0041】
[信号生成部の構成]
図3は、本発明の第1実施形態における信号生成部の機能構成を示すブロック図である。信号生成部111は、波形読出部113(波形読出部113−1、113−2、・・・113−n)、EV(エンベロープ)波形生成部115(115−1、115−2、・・・、115−n)、乗算器117(117−1、117−2、・・・117−n)および波形合成部119を備える。上記の「n」は、同時に発音できる数(同時に生成できる音信号の数)に対応し、この例では32である。すなわち、この信号生成部111によれば、32回の押鍵まで発音した状態が維持され、33回目の押鍵があった場合には、最初の発音に対応する音信号が強制的に停止される。
【0042】
波形読出部113−1は、変換部88から得られた第1操作データに基づいて、波形データ記憶部151から読み出すべき波形データを選択して読み出して、ノートナンバに応じた音高の音信号を生成する。この例では、ピアノ音波形データが読み出される。EV波形生成部115−1は、変換部88から得られた第1操作データおよび予め設定されたパラメータに基づいて、エンベロープ波形を生成する。生成されるエンベロープ波形は、減衰制御部131によって一部が調整される。エンベロープ波形の生成方法およびその調整方法については、後述する。乗算器117−1は、波形読出部113−1において生成された音信号に対して、EV波形生成部115−1において生成されたエンベロープ波形を乗算する。
【0043】
n=1の場合について例示したが、乗算器117−1から音信号が出力されているときに次の押鍵がある度に、n=2、3、4・・・と順に押鍵に応じた第1操作データが適用されていく。例えば、次の押鍵であれば、n=2の構成に第1操作データが適用されて、上記と同様に乗算器117−2から音信号が出力される。波形合成部119は、乗算器117−1、117−2、・・・、117−32から出力される音信号を合成して出力部180に出力する。
【0044】
[エンベロープ波形]
EV波形生成部115において生成されるエンベロープ波形について説明する。まず、一般的なエンベロープ波形およびパラメータについて説明する。
【0045】
図4は、一般的なエンベロープ波形の定義を説明する図である。
図4に示すように、エンベロープ波形は、複数のパラメータで規定される。複数のパラメータは、アタックレベルAL、アタックタイムAT、ディケイタイムDT、サスティンレベルSLおよびリリースタイムRTを含む。なお、アタックレベルALは最大値(例えば127)に固定としてもよい。この場合、サスティンレベルSLは、0〜127の範囲で設定される。
【0046】
ノートオンがあると、アタックタイムATの時間でアタックレベルALまで上昇する。その後、ディケイタイムDTの時間でサスティンレベルSLまで減少し、サスティンレベルSLを維持する。ノートオフがあると、サスティンレベルSLから消音状態(レベル「0」)まで、リリースタイムRTの時間で減少する。サスティンレベルSLまで到達する前、すなわち、アタックタイムATの期間およびディケイタイムDTの期間においてノートオフがあると、その時点からリリースタイムRTの時間で消音状態に至る。なお、サスティンレベルSLをリリースタイムRTで除算した減衰率で消音状態に至るようにしてもよい。
【0047】
ディケイレートDRは、上述のパラメータから算出できる値であって、アタックレベルALとサスティンレベルSLとの差をディケイタイムDTで除算することによって得られる。このパラメータ(ディケイレートDR)は、ノートオン後のディケイ期間における音の自然減衰の程度(減衰速度)を示している。なお、ディケイ期間においてディケイレートDRの減衰速度は一定(傾斜が直線)である例を示したが、必ずしも一定でなくてもよい。すなわち、減衰速度が予め決められた変化をすることで、傾斜が直線以外で定義されてもよい。
【0048】
図5は、ピアノの音のエンベロープ波形の例を説明する図である。一般的なピアノの音は、例えば、サスティンレベルSLは「0」に設定され、ディケイタイムDTは比較的長く(ディケイレートDRは小さく)設定される。この状態は、ダンパが弦から離れた状態(ダンパオン)を示している。ディケイタイムDTにおいてノートオフがあると、ダンパが弦に接触した状態(ダンパオフ)となり、リリースタイムRTの設定にしたがって点線のとおり急激に減衰する。この例におけるEV波形生成部115は、
図5に示すエンベロープ波形を生成し、減衰制御部131によってディケイレートDRが調整される。例えば、ハーフダンパであるときには、減衰制御部131は、ディケイレートDR(減衰速度)を、ダンパオンのときよりも速く制御する一方、ダンパオフのときの減衰速度よりも遅く制御する。
【0049】
これらのパラメータはエンベロープ波形を規定する設定値としての説明であって、アタックレベルAL等の各レベルは相対的な値である。したがって、EV波形生成部115から出力されるエンベロープ波形、すなわち、乗算器117において音信号に乗算されるエンベロープ波形では、ベロシティに応じて出力レベルの絶対値が調整されている。なお、出力レベルの調整は、増幅回路により実現されてもよい。
【0050】
減衰制御部131は、ハーフダンパであるときに、各音に対応するベロシティ(鍵70の押鍵速度)に基づいてディケイレートDRを調整する。上述したように減衰速度の調整に関するパラメータとして、減衰係数kが用いられる。この例では、調整後のディケイレートをDRfとすると、DRf=DR×kとして算出される。すなわち、減衰係数kが大きくなるほど、減衰速度が速くなる。このように減衰速度を調整する制御について説明する。まず、減衰制御部131によって参照される減衰制御テーブル135について説明する。
【0051】
[減衰制御テーブル]
図6は、本発明の第1実施形態における減衰制御テーブルに規定される減衰係数とベロシティとの関係を説明する図である。横軸にベロシティ(Vel)が示され、縦軸に減衰係数kが示されている。減衰係数kは、1以上UL未満に設定される。ULは、ノートオフの後の減衰速度に対応した値である。
【0052】
減衰係数k=1のときの減衰速度(第1速度)は、ディケイレートDRに対応し、ノートオン(押鍵)の状態の減衰速度、およびダンパオンの状態の減衰速度に対応する。一方、減衰係数k=ULのときの減衰速度は、ノートオフの後(かつダンパオフ)の減衰速度に対応する。
図6に示す減衰制御テーブル135の例では、減衰係数kは、ベロシティが最小値「0」のときに最大値k1となり、ベロシティの増加に伴って一定割合で単調減少し、ベロシティが最大値「127」のときに最小値k2となるように規定されている。
【0053】
減衰制御部131は、この減衰制御テーブル135を参照することにより、ハーフダンパであるときの各音の減衰速度(第2速度)すなわちディケイレートDRfを、各音に対応するベロシティ(押鍵速度)に応じてDR×k1からDR×k2までの範囲で調整するように制御する。続いて、減衰制御部131による減衰制御処理について説明する。
【0054】
[減衰制御処理]
図7は、本発明の第1実施形態における減衰制御処理を示すフローチャートである。減衰制御処理は、第1操作データによりノートオンが検出されて波形データが読み出されると(より詳細にはディケイ期間に到達すると)、それぞれのノートオンに対応して実行される。したがって、
図3に示すように、同時に発音できる数が32であれば、最大で32の減衰制御処理が並列に実行される。
【0055】
まず、減衰制御部131は、前回の判定から今回の判定までの間に、第1操作データに基づいてノートオフが検出されたかどうか(ステップS101)、および第2操作データに基づいてダンパオフの状態であるかどうか(ステップS103)を判定する。ノートオフが検出されていない場合(ステップS101;No)、押鍵されている状態に対応するため、ダンパペダルの状態にかかわらず、減衰係数k=1に設定する(ステップS115)。すなわち、通常のディケイレートDRf(=DR×1)のままの減衰速度に設定される。減衰制御部131は、単位時間の減衰処理を実行して(ステップS121)、再びステップS101に戻って処理を繰り返す。単位時間とは、所定の処理単位に対応する時間であり、例えば、1クロックでの処理時間に対応する。
【0056】
続いて、ノートオフが検出された場合(ステップS101;Yes)かつダンパオフの状態である場合(ステップS103;Yes)には、ダンパペダル91が操作されていない状態かつ離鍵された状態に対応するため、リリースに移行し(ステップS123)、減衰制御処理を終了する。すなわち、減衰制御部131は、ディケイレートDRfでの減衰速度からリリース期間に対応する減衰速度に切り替えるように制御する。
【0057】
一方、ノートオフが検出された場合(ステップS101;Yes)かつダンパオフの状態ではない場合(ステップS103;No)には、第2操作データに基づいてハーフダンパの状態であるかどうかを判定する(ステップS105)。ハーフダンパの状態でない場合(ステップS105;No)には、ダンパオンの状態であるから、離鍵されていたとしても押鍵されている状態と同様にして、減衰制御部131は、減衰係数k=1に設定する(ステップS115)。
【0058】
ハーフダンパの状態である場合(ステップS105;Yes)、減衰制御部131は、第1操作データに基づいて処理に対応するノートナンバのベロシティを取得し(ステップS111)、このベロシティに対応した減衰係数kを設定する(ステップS113)。ベロシティに対応した減衰係数kは、減衰制御テーブル135にしたがって設定される。すなわち、上述したように、ベロシティが大きいほど、減衰速度kが小さくなるように設定される。そして、減衰制御部131は、設定した減衰係数kにより決まるディケイレートDRf(DR×k)により単位時間の減衰処理を実行して(ステップS121)、再びステップS101に戻って処理を繰り返す。
【0059】
このような減衰制御処理によると、ハーフダンパの状態ではダンパオンの状態(およびノートオンの状態)よりも減衰速度が速くなるように制御される。さらにハーフダンパのときの減衰速度は、押鍵速度が小さい音ほど減衰速度が速くなるように制御される。このように減衰制御をすることによって、アコースティックピアノにおけるハーフペダル操作をしたときの音の減衰をより精度よく再現することができる。より詳述すると以下のとおりである。
【0060】
アコースティックピアノの演奏において、ハーフペダル操作をすると、適度な発音長での余韻を得ることができるため、メロディを響かせながら発音させたいときに用いられる。このとき、各音に対するダンパの効き方は、必ずしも一定ではない。例えば、音が小さい弦は振動エネルギが小さく、ダンパの影響により減衰する速度は、音が大きい弦よりも速い。これによって、メロディを響かせるときに重要ではない音が残ってしまい不自然な残響が残ってしまうことを抑制することできる。
【0061】
ハーフペダル操作をしたときの減衰速度を演奏状態によらず一定に制御する電子ピアノによれば、このようなダンパの効き方の違いを考慮していないため、余韻が均一的であった。そのため、演奏の内容によっては不自然な残響が残ってしまい、メロディを際立たせる演奏表現が難しい場合があった。一方、本発明による鍵盤楽器によれば上述のように、ハーフペダル操作をしたときの減衰速度を押鍵速度に応じて変化させることができる。大きい音ほど余韻を長くしつつ、小さい音は余韻を短くすることにより、アコースティックピアノにおけるハーフペダル操作をしたときのダンパの影響をより精度よく反映することが可能となる。
【0062】
<第2実施形態>
第1実施形態では、ハーフペダル操作をしたときに押鍵速度に応じて各音の減衰速度を変化させていたが、第2実施形態では、ハーフペダル操作をしたときの各音の大きさに応じて各音の減衰速度を変化させる鍵盤楽器を説明する。以下の説明においては、第2実施形態における構成のうち、第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。なお、第2実施形態においては、第1実施形態の場合と比べて、信号生成部、減衰制御部および減衰制御テーブルが異なる。
【0063】
図8は、本発明の第2実施形態における音信号生成部の機能構成を示すブロック図である。第2実施形態における信号生成部111Aでは、EV波形生成部115A(115A−1、115A−2、・・・、115A−n)が第1実施形態と異なっている。EV波形生成部115Aは、乗算器117に出力しているエンベロープ波形の出力レベルを、減衰制御部131Aに対して出力する。減衰制御部131Aは、ハーフダンパであるときに、各音に対応する音信号の出力レベル(音量)に基づいてディケイレートDRを調整する。減衰制御部131Aは、第1実施形態と同様に、減衰制御テーブルを参照して、減衰係数kを設定することによってディケイレートDRを調整する。
【0064】
図9は、本発明の第2実施形態における減衰制御テーブルに規定される減衰係数と出力レベルとの関係を説明する図である。横軸に出力レベル(EL)が示され、縦軸に減衰係数kが示されている。
図9に示す減衰制御テーブルの例では、減衰係数kは、出力レベルが最小値「Min」のときに最大値k1となり、出力レベルの増加に伴って一定割合で単調減少し、出力レベルが最大値「Max」のときに最小値k2となるように規定されている。
【0065】
減衰制御部131Aは、この減衰制御テーブルを参照することにより、ハーフダンパであるときの各音のディケイレートDRfを、各音に対応する出力レベル(音量)に応じてDR×k1からDR×k2までの範囲で調整するように制御する。続いて、減衰制御部131Aによる減衰制御処理について説明する。
【0066】
図10は、本発明の第2実施形態における減衰制御処理を示すフローチャートである。第2実施形態における減衰制御処理は、第1実施形態におけるステップS111、S113に代えて、ステップS211、S213の処理を実行する点で異なっている。第2実施形態における減衰制御処理では、それ以外の処理は第1実施形態と同様の処理であるため、その説明を省略する。第2実施形態における減衰制御処理では、ハーフダンパの状態である場合(ステップS105;Yes)、減衰制御部131Aは、処理に対応する音の出力レベルを、対応するEV波形生成部115Aから取得し(ステップS211)、この出力レベルに対応した減衰係数kを設定する(ステップS213)。なお、出力レベルは、ハーフダンパの状態を検出した時点での出力レベルに限られず、所定時間前の出力レベルであってもよい。
【0067】
出力レベルに対応した減衰係数kは、上述したように、出力レベルが大きいほど、減衰速度kが小さくなるように設定される。このように、各音の減衰速度は、第1実施形態のように押鍵速度によって制御される場合に限られず、第2実施形態のようにハーフペダル操作をしたときの出力レベルによって制御されてもよい。
【0068】
<第3実施形態>
第1実施形態および第2実施形態では、ハーフペダル操作をしたときの各音の減衰速度を、エンベロープ波形(特にディケイレート)を変化させることによって制御していたが、第3実施形態では、残響を付加する程度を制御することによって各音の減衰速度を制御する鍵盤楽器を説明する。なお、第3実施形態においては、第1実施形態の場合と比べて、信号生成部および減衰制御部が異なる。
【0069】
図11は、本発明の第3実施形態における音信号生成部の機能構成を示すブロック図である。第3実施形態における信号生成部111Bでは、EV波形生成部115B(115B−1、115B−2、・・・、115B−n)が第1実施形態と異なっている。この例では、EV波形生成部115Bは、減衰制御部131Bからのエンベロープ波形の調整を受けないようになっている。すなわち、乗算器117に対しては、設定されたパラメータに対応したエンベロープ波形を出力する。一方、信号生成部111Bは、減衰制御部113Bからの制御を受ける残響付加部121B(121B−1、121B−2、・・・、121B−n)を含んでいる。減衰制御部131Bは、第1実施形態における減衰制御部131と同様の処理をするが、減衰係数kに基づいてEV波形生成部115を制御するのではなく残響付加部121Bを制御する点で異なっている。
【0070】
残響付加部121Bは、乗算器117と波形合成部119との間に挿入されている。例えば、残響付加部121B−1は、乗算器117−1と波形合成部119との間に設けられている。一般的なエフェクト制御に用いられるリバーブ等の残響は、波形合成部119によって合成された音信号に対して付加される。一方、この例では、残響は、各音に対して個別に付加される。残響付加部121Bは、残響を付加しつつ残響時間を変更可能な構成であれば、公知のどのような構成を採用することもできるが、例えば、フィードバックディレイを用いるコムフィルタによって実現することができる。特許第3269156号公報に開示された技術を用いてもよい。
【0071】
残響付加部121Bにおいて付加される残響の時間は、減衰制御部131Bによって制御される。例えば、上記に例示したコムフィルタを用いる場合、減衰制御部131Bは、減衰係数kに応じてフィードバックゲインを変更することによって、音信号に対する残響時間の長さを調整することができる。減衰制御部131Bは、減衰係数kが大きくなるほど、フィードバックゲインが小さくして減衰速度が速くなるように制御する。例えば、減衰係数kの逆数がフィードバックゲインとして設定されてもよい。
【0072】
このように、第1実施形態のようにエンベロープ波形を調整する代わりに、残響付加部121Bにおける残響時間を調整することによって、押鍵速度に応じて各音の減衰速度を制御するようにしてもよい。なお、残響時間の調整とエンベロープ波形の調整とを併用することによって、各音の減衰速度が制御されるようにしてもよい。もちろん、第2実施形態と同様に、音量に応じて各音の残響時間を調整することによって減衰速度が制御されてもよい。
【0073】
<第4実施形態>
上述した実施形態、例えば第1実施形態においては、減衰制御部131は、ベロシティに応じて設定される減衰係数kにより、減衰速度を制御していたが、さらに別のパラメータに応じて設定される減衰係数を併用することによって減衰速度を制御してもよい。第4実施形態では、各音に対応するノートナンバ(音高)に応じて設定される第2減衰係数kpを用いる例について説明する。なお、第2、第3実施形態に適用する場合も同様であるが、説明を省略する。
【0074】
図12は、本発明の第4実施形態における減衰制御テーブルに規定される第2減衰係数とノートナンバとの関係を説明する図である。横軸にノートナンバ(Note No.)が示され、縦軸に第2減衰係数kpが示されている。この例では、第2減衰係数kpは、ノートナンバが「21」のときに最小値kp1となり、ノートナンバが「108」のときに最大値kp2となる。なお、ノートナンバの範囲は、88鍵のピアノを想定した場合の例である。
図12に示す減衰制御テーブルによれば、音高が高いほど、減衰速度を速くする第2減衰係数が規定されている。なお、ノートナンバ毎に異なる第2減衰係数kpが設定される場合に限らず、所定の音域に区分して、段階的に規定されてもよい。例えば、弦の種類または本数が同じである音高の範囲を同じ第2減衰係数kpになるように規定されていてもよい。
【0075】
第2減衰係数kpは、減衰係数kに乗算する係数として用いられる。例えば第1実施形態におけるディケイレートDRの調整に用いられる場合には、ディケイレートDRfは、DR×k×kpとして設定される。このように減衰速度が設定されることにより、音高に対する弦の違い(種類、本数、張力等)および音高に対するダンパの違い(フェルト形状、構造等)等に起因するダンパの効き方を減衰速度に反映することもできる。
【0076】
<第5実施形態>
第1実施形態では、ハーフダンパの状態は1つであったが、ダンパペダル91への操作量に応じて複数のハーフダンパの状態を取り得るようにしてもよい。第5実施形態では、ハーフダンパの状態が2つである場合について説明する。この例では、ダンパペダル91への操作量が大きく弦への影響が少ない第1ハーフダンパの状態と、これよりも操作量が少なく弦への影響が大きい第2ハーフダンパの状態とがあるものとして説明する。なお、第2、第3実施形態に適用する場合も同様であるが、説明を省略する。
【0077】
図13は、本発明の第5実施形態における減衰制御テーブルに規定される減衰係数とベロシティとの関係を説明する図である。
図13に示す減衰制御テーブルは、第1実施形態に示す減衰制御テーブルと縦軸および横軸の関係は同じであるが、減衰係数kが第1ハーフダンパの場合と第2ハーフダンパの場合とで異なる値が規定されている。すなわち、第1ハーフダンパのときの減衰速度(第3速度)と第2ハーフダンパの時の減衰速度(第2速度)とが異なっている。
【0078】
まず、第1ハーフダンパの場合、ベロシティが最小値「0」のときに最大値ku1となり、ベロシティの増加に伴って一定割合で単調減少し、ベロシティが最大値「127」のときに最小値ku2となるように規定されている。一方、第2ハーフダンパの場合、ベロシティが最小値「0」のときに最大値kd1(>ku1)となり、ベロシティの増加に伴って一定割合で単調減少し、ベロシティが最大値「127」のときに最小値kd2(>ku2)となるように規定されている。なお、この例では、kd2>ku1の関係を満たしているが、この関係を満たさなくてもよい。
【0079】
また、
図13に示す例では、第1ハーフダンパの場合の減衰係数の変化量「ku1−ku2」は、第2ハーフダンパの減衰係数の変化量「kd1−kd2」よりも大きい。これは、弦に対するダンパの効き方が小さいほど、押鍵速度の違いによる減衰速度の変化に与える影響が大きくなることを示している。このように、ハーフダンパの状態を複数の段階に区分して、弦に対するダンパの効き方を細かく制御し、さらに押鍵速度等による減衰速度の変化をさせてもよい。このときには、減衰係数が小さくなる区分ほど、押鍵速度の違いによる減衰係数の変化量が大きくなるようにしてもよい。これにより、ハーフペダル操作をしたときのダンパの影響をより精度よく反映することが可能となる。
【0080】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、それぞれの実施形態は、互いに組み合わせたり置換したりした実施形態を採用してもよい。また、本発明の一実施形態は、以下のように様々な形態に変形することもできる。また、以下に説明する変形例は互いに組み合わせて適用することもできる。
【0081】
(1)上述した実施形態において、減衰制御テーブルに規定される減衰係数kと各パラメータとの関係は、アコースティックピアノの弦とダンパとの関係をより精度よく再現することを目的として、規定されていた。例えば、第1実施形態では、減衰係数kは、ベロシティの増加に伴って一定の割合で減少するように規定されていた。一方、減衰制御テーブルに規定される関係は、その目的とする効果に応じて適宜設定されればよい。例えば、減衰係数kは、ベロシティの増加に伴って減少するときに一定の割合の変化でなくてもよい。また、減衰係数kは、ベロシティの増加に伴って単調減少となっているが、単調減少と単調増加が組み合わされていてもよいし、全体が単調増加になっていてもよい。いずれにしても、押鍵速度またはハーフダンパになったときの音量(出力レベル)等のパラメータ値に対して、減衰係数kが変化するように規定されていればよい。
【0082】
なお、目的とする効果によって様々に変更可能なものであるから、波形データについても必ずしもアコースティックピアノの音をサンプリングしたものに限られない。すなわち、波形データは、エレクトリックピアノの音をサンプリングしたものであってもよいし、その他の楽器の音をサンプリングしたものであってもよい。また、所定の波形データを合成したり変調したりして生成したものであってもよい。
【0083】
(2)上述した実施形態において、減衰速度の制御するためにエンベロープ波形のディケイレートが調整されていたが、別のパラメータを用いることによって、そのパラメータが調整されるようにしてもよい。例えば、リリースレート、サスティンレート等を用いた場合には、そのパラメータを調整してもよい。また、ディケイレートが第1ディケイ期間およびこれに続く第2ディケイ期間に対して定められていれば、いずれか一方(例えば第2ディケイ期間)または双方のディケイレートを調整するようにしてもよい。
【0084】
(3)上述した実施形態において、減衰速度kは、減衰制御テーブルによって規定されていたが、所定の演算式によってベロシティ等から算出されるようにしてもよい。
【0085】
(4)上述した実施形態において、ダンパペダル91以外のペダル、例えばシフトペダル93への操作によって、さらに減衰係数が変更されるようにしてもよい。これによれば、打弦数の変化によって弦の振動が変化した場合に、ダンパと弦との関係が変わったとしても、音の減衰を精度よく再現することもできる。
【0086】
(5)上述した実施形態では、減衰制御処理においてノートオフが検出されていない場合(
図7、ステップS101;No)は押鍵されている状態に対応する。したがって、この場合には、ダンパペダルの状態にかかわらず、減衰係数k=1に設定されていた。すなわち、処理の簡易化のために押鍵状態と離鍵状態との2つの状態を前提としてダンパペダルの影響の有無を切り替える処理が適用されていた。一方、実際のアコースティックピアノの動作にさらに近づけるために、押鍵状態と離鍵状態との間の中間状態についても、減衰制御処理に反映されるようにしてもよい。
【0087】
ここで、鍵70の操作可能な範囲をレスト位置とエンド位置との間として定義すると、中間状態は、レスト位置とエンド位置とを含まない第1の位置から第2の位置までの間の範囲に鍵70が操作されていることに対応する。なお、第1の位置は、第2の位置よりもエンド位置に近い位置である。この場合、押鍵状態は鍵70がエンド位置と第1の位置との間にあることに対応する。また、離鍵状態は鍵70が第2の位置とレスト位置との間にあることに対応する。第1の位置と第2の位置とは、予め設定される。中間状態によれば、ダンパペダル91を操作していない状態(ダンパオフ)であっても、ダンパが弦から少し離れた状態となるため、ハーフダンパの状態となる。
【0088】
例えば、以下のようにして中間状態のときの処理を規定する。
図7のステップS101の判定処理において、押鍵状態(ノートオン)または離鍵状態(ノートオフ)である場合には、上述した実施形態における処理と同様である。一方、中間状態であることが判定されると、ステップS103においてダンパオフと判定される状態(ダンパペダル91がレスト位置にある状態)であったとしても、ハーフダンパの状態であると判定され、ステップS111、S113、S121に対応する処理が実行される。すなわち、鍵70が中間状態であるときには、ダンパオンと判定される状態(ダンパペダル91がエンド位置にある状態)である場合を除き、ハーフダンパの状態として判定されることになる。
【0089】
このようにすると、ダンパペダル91を操作していなくても、鍵70が中間状態に操作されたときのハーフダンパの状態を再現することができる。したがって、この例における減衰制御処理は、鍵70が第1の位置よりもレスト位置に近い位置(中間状態または離鍵状態)であるときに、ダンパペダル91の状態に応じて、ハーフダンパの処理をすることができる。
【0090】
(6)上述した実施形態では、鍵盤装置1を実施の一例として説明したが、鍵盤装置1に含まれる音信号生成部800、すなわち音信号生成装置としても実施可能であり、また、音信号生成部800を含む音源部80としても実施可能である。この場合には、鍵盤を有する入力デバイスおよびダンパペダルを有する入力デバイスから、第1操作データおよび第2操作データを取得してもよいし、第1操作データおよび第2操作データを生成するための情報を取得するようにしてもよい。
【0091】
(7)上述した実施形態における鍵盤楽器1では、筐体50とペダル装置90とが互いに着脱可能に構成されていたが、一体の筐体に収められ着脱可能でなくてもよい。
【0092】
(8)上述した音源部80の各機能の全部または一部を、制御部10のCPUによる制御プログラムの実行によって実現してもよい。この場合、減衰制御処理を制御部10(コンピュータ)に実行させるためのプログラムが、記録媒体またはネットワークを介したダウンロードによって提供されてもよい。また、パーソナルコンピュータ等にこのプログラムをダウンロードして実行することで、このコンピュータを音信号生成装置として用いてもよい。