(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
周波数1Hz、昇温速度5℃/分、ひずみ速度0.1%/秒で測定した動的粘弾性のtanδのピーク温度が、MD方向(機械方向)及びTD方向(幅方向)の少なくとも1方向で105℃以上である多孔性ポリオレフィンフィルム。
前記tanδのピーク値が、MD方向(機械方向)及びTD方向(幅方向)の少なくとも1方向で0.45以上0.60以下である請求項1または2に記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
機械方向(MD方向)の引張破断強度と幅方向(TD方向)の引張破断強度の平均値である平均引張破断強度が140MPa以上であり、MD方向の引張破断伸度とTD方向の引張破断伸度の平均値である平均引張破断伸度が90%以上であり、かつ前記平均引張破断強度(MPa)×前記平均引張破断伸度(%)が15000(MPa×%)以上である請求項1〜6のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.多孔性ポリオレフィンフィルム
以下に本発明を記述する。本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、動的粘弾性測定で得られたtanδのピーク温度が、MD方向(機械方向)及びTD方向(幅方向)の少なくとも1方向で105℃以上である。
【0013】
ここで言う動的粘弾性測定で得られたtanδ(以下、単に「tanδ」と称することがある。)とは、周波数1Hz、昇温速度5℃/分、ひずみ速度0.1%/秒で動的粘弾性を測定した際に得られる値であり、貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E’’)の比率(E’’/E’)で求めることができる。またtanδのピーク温度とは、30℃から140℃まで測定した際のtanδの最大値をとる温度のことを指す。多孔性ポリオレフィンフィルムの動的粘弾性測定をした結果の一例を
図1に示す。
【0014】
また、MD方向(機械方向)とは、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを製膜する際にフィルムを押し出す方向を意味し、TD方向(幅方向)とは、フィルム上でMD方向に直交する方向を意味する。
【0015】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、tanδのピーク温度がMD方向及びTD方向の少なくとも1方向で105℃以上であることを特徴とし、tanδのピーク温度は、好ましくは107℃以上、さらに好ましくは109℃以上である。
【0016】
tanδのピーク温度が高いと、多孔性ポリオレフィンフィルムの内部構造の緩和を抑えることができるため、多孔性ポリオレフィンフィルムを熱に対する形態安定性に優れたものとすることができる。そのため、tanδのピーク温度は耐熱性の観点からは高い方が好ましいが、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの主成分をポリエチレン樹脂とした場合は135℃程度が上限である。なお、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムのtanδのピーク温度は、原料樹脂の結晶性、融点、樹脂の混練条件、延伸倍率、延伸手法により調整することができる。詳細については後述する。
【0017】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、満足のいく機械的強度を得るためにtanδのピーク値が、MD方向及びTD方向の少なくとも1方向で0.45以上0.60以下であることが好ましい。tanδのピーク値の下限値としては、より好ましくは0.48以上、さらに好ましくは0.50以上、特に好ましくは0.52以上である。また、tanδのピーク値の上限値としては、より好ましくは0.58以下である。
【0018】
tanδのピーク値が0.45未満であると、満足の出来る耐熱性、すなわち低熱収縮性は得られるが、機械的強度が悪化してしまう。また、tanδのピーク値が0.60を超えると満足のできる機械的強度は得られるが、それとトレードオフとなる優れた熱収縮性は得られない。tanδのピーク値は、原料樹脂の結晶性、融点、樹脂の混練条件、延伸倍率、延伸手法により調整することができる。詳細については後述する。
【0019】
本発明における空孔率50%、膜厚20μm換算の突刺強度とは、突刺強度L1(N)、膜厚T1(μm)、空孔率P1(%)を用いて、式:L2=(L1×20)/T1×50/(100−P1)により求められる値L2である。空孔率50%、膜厚20μm換算の突刺強度は、好ましくは5.5N以上であり、より好ましくは5.8N以上であり、さらに好ましくは6.0N以上であり、最も好ましくは6.5N以上であり、著しく好ましくは7.0N以上である。
【0020】
空孔率50%、膜厚20μm換算の突刺強度が5.5N未満であると、コーティング材や電極材の鋭利部が多孔性ポリオレフィンフィルムに突き刺さった際に亀裂等が発生しやすく、或いは薄膜化した際に電極間の距離が近くなり、局所短絡が発生しやすくなる。空孔率50%、膜厚20μm換算の突刺強度は高ければよりよいとされるが、多孔性ポリオレフィンフィルムの限界強度を考慮すると本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの上限値は30Nである。
【0021】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの空孔率50%、膜厚20μm換算の突刺強度は、原料樹脂の結晶性、融点、樹脂の混練条件、延伸倍率、延伸手法により調整することができる。また、多孔性ポリオレフィンフィルム上に未溶融の樹脂が点在していたり、延伸時や熱処理時に不均一に加熱されムラが発生したりすることで、外観が優れない場合は空孔率50%、膜厚20μm換算の突刺強度は悪化する。
【0022】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、MD方向の引張破断強度とTD方向の引張破断強度の平均値(以下、「平均引張破断強度」と呼ぶ。)が140MPa以上であることが好ましい。平均引張破断強度は、より好ましくは150MPa以上であり、さらに好ましくは180MPa以上である。平均引張破断強度が140MPa以上であると、電池の製造工程において高圧力で熱プレスされても破膜しにくく、細孔がつぶれにくい。なお、平均引張破断強度の上限としては400MPa以下であることが好ましい。本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの引張破断強度は、原料樹脂の結晶性、融点、樹脂の混練条件、延伸倍率、延伸手法により調整することができる。また、多孔性ポリオレフィンフィルム上に未溶融の樹脂が点在していたり、延伸時や熱処理時に不均一に加熱されムラが発生したりすることで、外観が優れない場合は平均引張破断強度は悪化する。
【0023】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、製膜時等の高いテンションに耐えられるようMD方向の引張破断伸度とTD方向の引張破断伸度の平均値(以下、「平均引張破断伸度」と呼ぶ。)が90%以上であることが好ましく、より好ましくは100%以上、さらに好ましくは105%以上である。平均引張破断伸度が90%以上であることにより、高いテンションをかけた時に破膜の恐れがない。平均引張破断伸度の上限としては300%以下であることが好ましい。
【0024】
引張破断伸度に関しては、MD方向、TD方向ともに80%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上である。MD方向の引張破断伸度およびTD方向の引張破断伸度をそれぞれ80%以上とすることで捲回時等、高いテンションがかかった際でも破膜し難くなり、短絡を防ぐことができる。また、引張破断伸度の上限値は、MD方向、TD方向ともに200%以下であることが好ましい。引張判断伸度が200%以下であると、捲回した状態で長期保存した際に変形しにくい傾向にあり長期保存性に優れるため好ましい。
【0025】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの引張破断伸度は、原料樹脂の結晶性、融点、樹脂の混練条件、延伸倍率、延伸手法により調整することができる。詳細については後述する。
【0026】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの平均引張破断強度(MPa)×平均引張破断伸度(%)の値はコーティングや電池の作製時にかかる張力負荷に耐えるため15000(MPa×%)以上が好ましく、より好ましくは16000(MPa×%)以上であり、さらに好ましくは17500(MPa×%)以上であり、特に好ましくは20000(MPa×%)以上である。またその上限は、750000(MPa×%)以下であることが好ましく、700000(MPa×%)以下であることがより好ましい。
【0027】
平均引張破断強度×平均引張破断伸度の値が15000(MPa×%)以上であると、コーティングや電池の作製時にかかる張力に十分に耐えることができ、破膜を防止することができる。また、一般的に引張破断強度と引張破断伸度はトレードオフの関係にあるため上記範囲内の値の多孔性ポリオレフィンは形状維持特性には有利である。本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの平均引張破断強度×平均引張破断伸度の値は、原料樹脂の結晶性、融点、樹脂の混練条件、延伸倍率、延伸手法により調節することができる。詳細については後述する。
【0028】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの空孔率は40%以上であることが好ましく、より好ましくは43%以上、さらに好ましくは46%以上である。空孔率を40%以上とすることは、イオン透過性能および電解液含有量の観点から好ましい。空孔率の上限としては強度の確保の観点から60%以下であることが好ましい。本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの空孔率は、樹脂の濃度、延伸温度、熱処理条件により調整することができる。詳細については後述する。
【0029】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの最大流量孔径としては、10nm以上が好ましく、より好ましくは15nm以上であり、上限としては50nm以下が好ましく、より好ましくは45nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。
【0030】
最大流量孔径を10nm以上とすることは、イオン透過性、サイクル特性を向上させる観点から好ましい。一方、最大流量孔径を50nm以下とすることは、絶縁性能を向上させる観点から好ましい。本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの最大流量孔径は、原料樹脂の結晶性、融点、樹脂の混練条件、延伸倍率、延伸手法により調整することができる。詳細については後述する。
【0031】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの画像解析により得られる表面の平均孔径は10nm以上100nm以下であることが好ましい。表面の平均孔径の下限値としては20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。また、表面の平均孔径の上限値としては90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましく、70nm以下であることが特に好ましく、65nm以下であることが最も好ましい。
【0032】
ここで画像解析により得られる表面の平均孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察される表面の孔径の平均値であり、具体的には以下の手法により、撮影したSEM画像を、空孔のみを抽出するよう二値化処理することで求めることができる。二値化処理は加速電圧2kV、倍率10000倍、11.7μm×9.4μm(1280画素×1024画素)、8bit(256階調)グレースケールの画像を用い、3画素×3画素平均にてノイズ除去を行った後に、21画素×21画素平均した画像から−30階調をしきい値として動的二値化処理をすることで、暗部(空孔)を抽出する。独立した暗部1μm
2あたりに存在する表面孔数を算出し、さらに、独立した暗部の各面積から、下式に基づき、平均孔径を算出することとする。
平均孔径=(暗部の全面積/表面孔数/3.14)
0.5×2
【0033】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムのTD方向の最大溶融収縮率は、1%以上25%以下であるであることが好ましく、より好ましくは1%以上23%以下であり、さらに好ましくは1%以上20%以下であり、特に好ましくは1%以上15%以下であり、最も好ましくは1%以上10%以下である。最大溶融収縮率が上記範囲であると、電池用セパレータとして使用した際に、電池内で局所的に異常発熱した場合においても、内部短絡を防ぐことができ、安全性に優れたセパレータとなる。最大溶融収縮率は、熱機械的分析装置を用いて実施例に記載の方法で求めた値である。
【0034】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの膜厚は、その上限値としては15μm以下であることが好ましく、より好ましくは13μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。膜厚の下限値としては1μm以上であり、より好ましくは3μm以上である。膜厚が15μm以下であることにより、イオン透過性が向上し、電池の高容量化につながる。膜厚が1μm未満であると強度が低くなり破膜しやすく、またデンドライトのような針状異物に対する抵抗力が低くなるために好ましくない。また膜厚が厚いとイオン透過性が悪くなり、高容量化することができない。本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの膜厚は、未延伸シートの幅や製膜速度、延伸時の延伸倍率により調整することができる。
【0035】
(1)超高分子量ポリエチレン樹脂
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、ポリオレフィン樹脂を含有することが好ましい。ポリオレフィン樹脂には、機械的強度、形状維持性、孔径の観点から、重量平均分子量(Mw)が1.0×10
6以上の超高分子量ポリエチレン樹脂を含有させることが好ましい。含有させる超高分子量ポリエチレン樹脂の具体的なMwとしては、1.5×10
6以上が好ましく、より好ましくは1.8×10
6以上である。Mwを1.5×10
6以上とすることで、優れた機械的強度を得ることができる。またその上限値は、5.0×10
6以下であることが好ましく、より好ましくは4.0×10
6以下である。Mwを5.0×10
6以下とすることで、混練時の溶融粘度が高くなり成形性が悪くなるのを防ぐことができる。
【0036】
ポリオレフィン樹脂中の超高分子量ポリエチレン樹脂の含有量は、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。超高分子量ポリエチレン樹脂の含有量を2質量%以上とすることで、機械的強度の向上、孔径の微細化、高耐熱化の実効を得ることができる。また、ポリオレフィン樹脂中の超高分子量ポリエチレン樹脂の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。超高分子量ポリエチレン樹脂の含有量を50質量%以下とすることで、製膜時における成形性の悪化を防ぐことができる。
【0037】
超高分子量ポリエチレン樹脂の重量平均分子量と含有量を上記範囲内とすることによりラメラ間のタイ分子鎖の本数、絡み合いを制御することができ、タイ分子を延伸により高度に配向させ、多孔性ポリオレフィンフィルムの突刺強度および引張破断強度等の機械的強度を制御することができる。
【0038】
また、前記超高分子量ポリエチレン樹脂は高融点であることが好ましく、より具体的には融点が140℃以上であることが好ましく、141℃以上であることがさらに好ましく、142℃以上であることが最も好ましい。前記超高分子量ポリエチレン樹脂の融点が上記温度範囲内であると、分岐などの融点を低くする成分が少なくなり、ポリオレフィン分子が絡み合っているアモルファス領域の絡み合いが複雑でなくなるため、延伸によりアモルファス領域の絡み合いがほどけやすくなる。絡み合いのほどけにより生成されたシリア鎖などの浮遊鎖成分が熱処理により再結晶化する。上記絡み合いのほどけと再結晶化により熱収縮率を低下させることができる。
【0039】
さらに、前記超高分子量ポリエチレン樹脂は高結晶性であることが好ましく、より具体的には、JIS K7121(1987)に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により求めた超高分子量ポリエチレン樹脂の融解熱が175J/g以上であることが好ましく、180J/g以上であることがより好ましく、185J/g以上であることがさらに好ましい。超高分子量ポリエチレン樹脂が高結晶性であれば、アモルファス部分が少なくなるため、延伸することで高度に配向しやすくなるため、高強度化に繋がる。
【0040】
上記理由から、ポリオレフィン樹脂中に高融点かつ高結晶性の超高分子量ポリエチレン樹脂を含有させることにより、隣り合う結晶を連結する分子鎖(タイ分子)を高度に配向させ、機械的強度の増加と絡み合いのほどけによる熱収縮率の低下を両立させることができる。
【0041】
(2)ポリオレフィン樹脂
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムに含有されることが好ましいポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン樹脂、上述した超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン、ポリ(4−メチル−ペンテン−1)、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ四フッ化エチレン、ポリ三フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスルホンなどが例示される。
【0042】
前記ポリオレフィン樹脂は、2種以上のポリオレフィンからなる混合物であってもよい。
前記ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂を含むことが好ましい。ポリエチレン樹脂の含有量は、ポリオレフィン樹脂中90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。ポリオレフィン樹脂中のポリエチレン樹脂の比率を前記範囲内とすると、得られる多孔性ポリオレフィンフィルムの強度の向上を図ることができる。
【0043】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、強度向上の観点から、ポリオレフィン樹脂を主成分とすることが好ましく、ポリエチレン樹脂を主成分とすることがより好ましい。ここで、「ポリエチレン樹脂を主成分とする」とは、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルム中のポリエチレン樹脂の含有量が、50質量%以上であることを意味し、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。
【0044】
前記ポリエチレン樹脂としては、(I)エチレンホモポリマー、または(II)エチレンと、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1等のコモノマーとのコポリマーおよびそれらの混合物を用いることができる。
【0045】
中でも、ポリエチレン樹脂は、経済性および膜強度の観点から、(I)エチレンホモポリマーであることが好ましく、重量平均分子量(Mw)が1×10
4以上1.0×10
6未満の高密度ポリエチレン樹脂であることが好ましい。
【0046】
なお、本明細書において、高密度ポリエチレン樹脂とは、密度が0.94g/cm
3を超えるポリエチレンを意味する。
【0047】
ポリエチレン樹脂の分子量分散(Mw/Mn)としては、押出成型性、安定した結晶化制御による物性コントロールの観点から、例えば、1〜20が好ましく、3〜10がより好ましい。
【0048】
ポリエチレン樹脂としてのコポリマー中のコモノマーの含有量は、コポリマー100モル%を基準として10モル%以下であることが好ましい。かかるコポリマーは、チーグラー・ナッタ触媒またはシングルサイト触媒を用いるプロセス等の、いずれかの都合のよい重合プロセスにより製造することができる。コモノマーは、α−オレフィンであってもよく、例えば、所望によりコモノマーは、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン、または他のモノマーの1つまたは複数である。
【0049】
このポリエチレン樹脂は、単独のポリエチレン樹脂であってもよく、2種以上のポリエチレン樹脂からなる混合物であってもよい。
また、ポリエチレン樹脂は、経済性および膜強度の観点から、上記高密度ポリエチレン樹脂及び上記超高分子量ポリエチレン樹脂からなる混合物であることが好ましい。
【0050】
(3)その他の樹脂成分
前記ポリオレフィン樹脂は、必要に応じて、前記ポリエチレン樹脂以外のその他の樹脂成分を含むことができる。その他の樹脂成分としては、耐熱性樹脂であることが好ましく、耐熱性樹脂としては、例えば、融点が150℃以上の結晶性樹脂(部分的に結晶性である樹脂を含む)、及び/又はガラス点移転(Tg)が150℃以上の非晶性樹脂が挙げられる。ここでTgはJIS K7121に準拠して測定した値である。
【0051】
その他の樹脂成分の具体例としては、ポリエステル、ポリメチルペンテン[PMP又はTPX(トランスパレントポリマーX)、融点:230〜245℃]、ポリアミド(PA、融点:215〜265℃)、ポリアリレンスルフィド(PAS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ化ビニリデン単独重合体やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ化オレフィンおよびこれらの共重合体などの含フッ素樹脂、ポリスチレン(PS、融点:230℃)、ポリビニルアルコール(PVA、融点:220〜240℃)、ポリイミド(PI、Tg:280℃以上)、ポリアミドイミド(PAI、Tg:280℃)、ポリエーテルサルフォン(PES、Tg:223℃)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、融点:334℃)、ポリカーボネート(PC、融点:220〜240℃)、セルロースアセテート(融点:220℃)、セルローストリアセテート(融点:300℃)、ポリスルホン(Tg:190℃)、ポリエーテルイミド(融点:216℃)等が挙げられる。その他の樹脂成分は、単一樹脂成分からなるものに限定されず、複数の樹脂成分からなるものでもよい。
【0052】
その他の樹脂成分の好ましい重量平均分子量(Mw)は、樹脂の種類により異なるが、一般的に1×10
4〜1×10
6であり、より好ましくは1×10
4〜7×10
5である。また、前記ポリオレフィン樹脂中のその他の樹脂成分の含有量は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜、調節されるが、前記ポリオレフィン樹脂中おおよそ10質量%以下の範囲で含有される。
【0053】
また、その他の樹脂成分として、必要に応じて、前記ポリエチレン樹脂以外の他のポリオレフィンを含んでもよく、Mwが1.0×10
4〜4.0×10
6のポリブテン−1ポリブテン−1、ポリペンテン−1、ポリヘキセン−1、ポリオクテン−1及びMwが1.0×10
3〜1.0×10
4のポリエチレンワックスからなる群から選ばれた少なくとも一種を用いてもよい。
【0054】
前記ポリエチレン樹脂以外のポリオレフィン樹脂の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜調節できるが、前記ポリオレフィン樹脂中、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、1質量%がより好ましい。
【0055】
(4)添加剤
なお、上述したようなポリオレフィン樹脂には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料などの各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0056】
ポリオレフィン樹脂に添加剤を配合する場合、その配合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.01質量部〜10質量部であることが好ましい。添加剤の配合量が0.01質量部未満では、十分な効果が得られなかったり、製造時の添加剤量制御が難しかったりする。また、添加剤の配合量が10質量部を超えると経済性に劣ったりする場合がある。
【0057】
2.多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法としては、下記の工程(1)〜(5)を含むことが好ましく、下記の工程(6)をさらに含んでもよく、さらに下記の工程(7)及び/又は(8)を含むこともできる。
【0058】
(1)前記ポリオレフィン樹脂、成膜用溶剤を溶融混練し、ポリオレフィン樹脂組成物を調製する工程
(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出し、冷却しゲル状シートを形成する工程
(3)前記ゲル状シートを延伸する第1の延伸工程
(4)前記延伸後のゲル状シートから成膜用溶剤を除去する工程
(5)前記成膜用溶剤除去後のシートを乾燥する工程
(6)前記乾燥後のシートを延伸する第2の延伸工程
(7)前記乾燥後のシートを熱処理する工程
(8)前記延伸工程後のシートに対して架橋処理及び/又は親水化処理する工程
【0059】
以下、各工程についてそれぞれ説明する。
(1)ポリオレフィン樹脂組成物の調製工程
ポリオレフィン樹脂を溶融混練し、ポリオレフィン樹脂組成物を調製する。調製方法としては、高結晶性の超高分子量ポリオレフィン樹脂の分散性を高めることが重要であり、例えば高せん断混練が可能であるバッチ式混練機を用いて原料を混練することができる。
【0060】
混練時の温度の下限値としては、170℃以上であることが好ましく、より好ましくは175℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。混練時の温度を170℃以上とすることで、溶融樹脂の粘度を低くし、均一混練が難しい超高分子量ポリオレフィン樹脂を均一に分散させることができる。また、混練時の温度の上限値としては、250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましく、185℃以下であることが特に好ましい。混練時の温度を250℃以下とすることで、樹脂が分解して得られる多孔性ポリオレフィンフィルムの強度が低下してしまうのを防ぐことができる。
【0061】
また混練時の回転数の下限値としては、100rpm以上であることが好ましく、120rpm以上であることがより好ましく、130rpm以上であることがさらに好ましく、150rpm以上であることが特に好ましい。混練時の回転数を100rpm以上とすることで、十分なせん断を樹脂に加えることができ、超高分子量ポリオレフィン樹脂を均一に分散させることができる。そのため、得られる多孔ポリオレフィンフィルム中の原料樹脂の未溶融樹脂の発生を抑制、すなわち突刺強度および引張破断強度の低下を防ぐことができる。また、混練時の回転数の上限値としては250rpm以下であることが好ましく、230rpm以下であることがより好ましく、200rpm以下であることがさらに好ましい。混練時の回転数を250rpm以下とすることで、混練中に原料の分子鎖が切れて得られる多孔性ポリオレフィンフィルムの強度が低下するのを防ぐことができる。
【0062】
混練時間の下限値としては、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、15分以上であることがさらに好ましい。混練時間を5分以上とすることで、超高分子量ポリオレフィン樹脂を均一に分散させることができる。また、混練時間の上限値としては、25分以下であることが好ましく、20分以下であることがより好ましい。混練時間を25分以下とすることで、混練中に原料が分解、劣化して得られる多孔性ポリオレフィンフィルムの強度が低下してしまうのを防ぐことができる。
【0063】
さらに原料は一括で添加するよりも、2回以上に分割して添加する方が好ましい。超高分子量ポリオレフィン樹脂と製膜用溶剤を予め混練した後に、他の成分を追添することにより、超高分子量ポリオレフィン樹脂が均一に分散し、得られる多孔性ポリオレフィンフィルムの低収縮率化、高強度化、高空孔率化、小径化につながる。
【0064】
前記製膜用溶剤は、ポリオレフィン樹脂を十分に溶解できる溶剤であれば特に限定されないが、比較的高倍率の延伸を可能とするために、製膜用溶剤は室温で液体であることが好ましい。製膜用溶剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族、環式脂肪族又は芳香族の炭化水素、および沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられる。
【0065】
液体溶剤の含有量が安定なゲル状シートを得るために、製膜用溶剤は、流動パラフィンのような不揮発性の液体溶剤を用いるのが好ましい。溶融混練状態では、ポリオレフィン樹脂と混和するが室温では固体の溶剤を液体溶剤に混合してもよい。このような固体溶剤として、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等が挙げられる。ただし、固体溶剤のみを使用すると、延伸ムラ等が発生するおそれがある。
【0066】
液体溶剤の粘度は40℃において20〜200cStであることが好ましい。40℃における粘度を20cSt以上とすれば、ダイからポリオレフィン樹脂溶液を押し出したシートが不均一になりにくい。一方、40℃における粘度を200cSt以下とすれば液体溶剤の除去が容易である。なお、液体溶剤の粘度は、ウベローデ粘度計を用いて40℃で測定した粘度である。
【0067】
ポリオレフィン樹脂組成物中、ポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤との配合割合は、特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂20〜50質量部に対して、成膜溶剤50〜80質量部であることが好ましい。より好ましくはポリオレフィン樹脂25〜40質量部に対して、成膜溶剤60〜75質量部である。
【0068】
(2)ゲル状シートの形成工程
ポリオレフィン樹脂組成物を押出機からダイに送給し、シート状に押し出す。同一または異なる組成の複数のポリオレフィン樹脂組成物を、押出機から一つのダイに送給し、そこで層状に積層し、シート状に押出してもよい。
【0069】
押出方法はフラットダイ法及びインフレーション法のいずれでもよい。押出し温度は140〜250℃好ましく、押出速度は0.2〜15m/分が好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物の各押出量を調節することにより、膜厚を調節することができる。
【0070】
押出し方法としては、例えば日本国特許第2132327号明細書および日本国特許第3347835号明細書に開示の方法を利用することができる。
【0071】
得られた押出し成形体を冷却することによりゲル状シートを形成する。ゲル状シートの形成方法として、例えば日本国特許第2132327号明細書および日本国特許第3347835号明細書に開示の方法を利用することができる。冷却は少なくともゲル化温度までは50℃/分以上の速度で行うのが好ましく、より好ましくは100℃/分以上、さらに好ましくは150℃/分以上である。ゲル状シートの冷却は50℃以下まで行うのが好ましく、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下、特に好ましくは20℃以下まで行うのがよい。
【0072】
(3)第1の延伸工程
次に、得られたゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸する。ゲル状シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、又はこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸及び多段延伸(例えば同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよい。
【0073】
本工程における延伸倍率(面積延伸倍率)は、一軸延伸の場合、5倍以上が好ましく、10〜100倍がより好ましい。二軸延伸の場合、25倍以上が好ましく、30倍以上がより好ましく、45倍以上がさらに好ましく、75倍以上が特に好ましい。
【0074】
また、機械方向及び幅方向(MD方向及びTD方向)のいずれでも、延伸倍率は5倍以上が好ましく、6倍以上がより好ましい。MD方向とTD方向での延伸倍率は、互いに同じでも異なってもよい。
【0075】
延伸倍率が25倍以上であることにより、機械的強度を高めることができ好ましい。また、延伸倍率が150倍以上となると破膜の可能性が高くなり、好ましくない。なお、本工程における延伸倍率とは、本工程直前の多孔性ポリオレフィンフィルムを基準として、次工程に供される直前の多孔性ポリオレフィンフィルムの面積延伸倍率のことをいう。
【0076】
本工程の延伸温度は、ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度(T
CD)〜T
CD+30℃の範囲内にするのが好ましく、結晶分散温度(T
CD)+5℃〜結晶分散温度(T
CD)+28℃の範囲内にするのがより好ましく、T
CD+10℃〜T
CD+26℃の範囲内にするのが特に好ましい。延伸温度が前記範囲内であるとポリオレフィン樹脂延伸による破膜が抑制され、高倍率の延伸ができる。
【0077】
結晶分散温度(T
CD)は、ASTM D4065による動的粘弾性の温度特性測定により求められる。超高分子量ポリエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂以外のポリエチレン樹脂及びポリエチレン樹脂組成物は約100〜110℃の結晶分散温度を有するので、延伸温度を90〜130℃とするのが好ましく、より好ましくは110〜120℃にし、さらに好ましくは114〜117℃にする。
【0078】
以上のような延伸によりポリエチレンラメラ間に開裂が起こり、ポリエチレン樹脂相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成する。
【0079】
(4)成膜用溶剤の除去工程
洗浄溶媒を用いて、成膜用溶剤の除去(洗浄)を行う。ポリオレフィン相は成膜用溶剤相と相分離しているので、成膜用溶剤を除去すると、微細な三次元網目構造を形成するフィブリルからなり、三次元的に不規則に連通する孔(空隙)を有する多孔質の膜が得られる。洗浄溶媒およびこれを用いた成膜用溶剤の除去方法は公知であるので説明を省略する。例えば日本国特許第2132327号明細書や日本国特開2002−256099号公報に開示の方法を利用することができる。
【0080】
(5)乾燥工程
成膜用溶剤を除去した多孔性ポリオレフィンフィルムを、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。乾燥温度はポリオレフィン樹脂の結晶分散温度(T
CD)以下であることが好ましく、特にT
CDより5℃以上低いことが好ましい。乾燥は、多孔性ポリオレフィンフィルムを100質量部(乾燥重量)として、残存洗浄溶媒が5質量部以下になるまで行うことが好ましく、3質量部以下になるまで行うのがより好ましい。
【0081】
(6)第2の延伸工程
乾燥後の多孔性ポリオレフィンフィルムを、少なくとも一軸方向に延伸することが好ましい。多孔性ポリオレフィンフィルムの延伸は、加熱しながら前記と同様にテンター法等により行うことができる。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸及び逐次延伸のいずれでもよい。
【0082】
本工程における延伸温度は、特に限定されないが、通常90〜135℃であり、好ましくは95〜130℃である。
【0083】
本工程における多孔性ポリオレフィンフィルムの延伸の一軸方向への延伸倍率(面積延伸倍率)は、下限が1.0倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.1倍以上、さらに好ましくは1.2倍以上である。また、一軸方向への延伸倍率の上限を5.0倍以下とするのが好ましい。一軸延伸の場合、延伸倍率はMD方向又はTD方向に1.0〜5.0倍とする。
【0084】
二軸延伸の場合、面積延伸倍率は、下限が1.0倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.1倍以上、さらに好ましくは1.2倍以上である。二軸延伸の場合、面積延伸倍率の上限は16.0倍以下が好適であり、MD方向及びTD方向に各々1.0〜4.0倍とし、MD方向とTD方向での延伸倍率が互いに同じでも異なってもよい。なお、本工程における延伸倍率とは、本工程直前の多孔性ポリオレフィンフィルムを基準として、次工程に供される直前の多孔性ポリオレフィンフィルムの延伸倍率のことをいう。
【0085】
(7)熱処理工程
また、乾燥後の多孔性ポリオレフィンフィルムは、熱処理を行うことができる。熱処理によって結晶が安定化し、ラメラが均一化される。熱処理方法としては、熱固定処理及び/又は熱緩和処理を用いることができる。熱固定処理とは、膜の寸法が変わらないように保持しながら加熱する熱処理である。熱緩和処理とは、膜を加熱中にMD方向やTD方向に熱収縮させる熱処理である。熱固定処理は、テンター方式又はロール方式により行うのが好ましい。例えば、熱緩和処理方法としては日本国特開2002−256099号公報に開示の方法があげられる。熱処理温度はポリオレフィン樹脂のT
CD〜融点の範囲内が好ましい。
【0086】
(8)架橋処理工程、親水化処理工程
また、接合後又は延伸後の多孔性ポリオレフィンフィルムに対して、さらに、架橋処理及び/又は親水化処理を行うこともできる。
【0087】
例えば、多孔性ポリオレフィンフィルムに対して、Α線、Β線、Γ線、電子線等の電離放射線の照射することに、架橋処理を行う。電子線の照射の場合、0.1〜100MRADの電子線量が好ましく、100〜300KVの加速電圧が好ましい。架橋処理により多孔性ポリオレフィンフィルムのメルトダウン温度が上昇する。
【0088】
また、親水化処理は、モノマーグラフト、界面活性剤処理、コロナ放電等により行うことができる。モノマーグラフトは架橋処理後に行うのが好ましい。
【0089】
3.積層多孔性ポリオレフィンフィルム
前記多孔性ポリオレフィンフィルムの少なくとも一方の表面に、多孔層を設け、積層多孔性ポリオレフィンフィルムとしてもよい。多孔層としては、例えば、フィラーと樹脂バインダとを含むフィラー含有樹脂溶液や耐熱性樹脂溶液を用いて形成される多孔層を挙げることができる。
【0090】
4.電池用セパレータ
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、水系電解液を使用する電池、非水系電解質を使用する電池のいずれにも好適に使用できる。具体的には、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、銀−亜鉛電池、リチウム二次電池、リチウムポリマー二次電池等の二次電池のセパレータとして好ましく用いることができる。中でも、リチウムイオン二次電池のセパレータとして用いることが好ましい。
【0091】
リチウムイオン二次電池は、正極と負極がセパレータを介して積層されており、セパレータが電解液(電解質)を含有している。電極の構造は特に限定されず、従来公知の構造を用いることができ、例えば、円盤状の正極及び負極が対向するように配設された電極構造(コイン型)、平板状の正極及び負極が交互に積層された電極構造(積層型)、積層された帯状の正極及び負極が巻回された電極構造(捲回型)等にすることができる。
【0092】
リチウムイオン二次電池に使用される、集電体、正極、正極活物質、負極、負極活物質および電解液は、特に限定されず、従来公知の材料を適宜組み合わせて用いることができる。
【0093】
なお、本発明は、前記の実施の形態に限定されるものでなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【実施例】
【0094】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明の実施態様は、これらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた評価法、分析の各法および材料は、以下の通りである。
【0095】
(1)膜厚(μm)
多孔性ポリオレフィンフィルムの95mm×95mmの範囲内における無作為に抽出した箇所で5点の膜厚を接触厚み計(株式会社ミツトヨ製ライトマチック)により測定し、5点の膜厚の平均値を求めた。
【0096】
(2)空孔率(%)
5cm角の試料を多孔性ポリオレフィンフィルムから切り取り、その体積(cm
3)と重量(g)を求め、それらとポリマー密度(g/cm
3)より、次式を用いて計算した。以上の測定を同じフィルム中の異なる無作為に抽出した箇所3点で行い、3点の空孔率の平均値を求めた。
空孔率=[(体積−重量/ポリマー密度)/体積]×100
【0097】
(3)最大流量孔径及び平均流量孔径(nm)
パームポロメーター(PMI社製、CFP−1500A)を用いて、Dry−up、Wet−upの順で、最大流量孔径及び平均流量孔径を測定した。Wet−upには表面張力が15.6dynes/cmのPMI社製Galwick(商品名)で十分に浸した多孔性ポリオレフィンフィルムに圧力をかけ、空気が貫通し始める圧力から換算される孔径を最大流量孔径とした。
【0098】
平均流量孔径については、Dry−up測定で圧力、流量曲線の1/2の傾きを示す曲線と、Wet−up測定の曲線が交わる点の圧力から平均流量孔径を換算した。圧力と平均流量孔径の換算は下記の数式を用いた。
d=C・γ/P
【0099】
上記式中、「d(μm)」は多孔性ポリオレフィンフィルムの平均流量孔径、「γ(mN/m)」は液体の表面張力、「P(Pa)」は圧力、「C」は定数とした。
【0100】
(4)空孔率50%、膜厚20μm換算の突刺強度(N)
MARUBISHI社製の突刺計を用い、先端が球面(曲率半径R:0.5mm)の直径1mmの針で、膜厚T1(μm)、空孔率P1(%)の多孔性ポリオレフィンフィルムを2mm/秒の速度で突刺したときの最大荷重を測定した。最大荷重の測定値L1(N)を、式:L2=(L1×20)/T1×50/(100−P1)により、膜厚を20μmおよび空孔率を50%としたときの最大荷重L2に換算し、50%空孔率および膜厚20μm換算とした。以上の測定を同じ多孔性ポリオレフィンフィルム中の異なる箇所3点で行い、空孔率50%、膜厚20μm換算の突刺強度の平均値を求めた。
【0101】
(5)重量平均分子量(Mw)
超高分子量ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂の重量平均分子量は以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
【0102】
・測定装置:WATERS CORPORATION製GPC−150C
・カラム:昭和電工株式会社製SHODEX UT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):O−ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0mL/分
・試料濃度:0.1wt%(溶解条件:135℃/1H)
・インジェクション量:500μL
・検出器:WATERS CORPORATION製ディファレンシャルリフラクトメーター(RI検出器)
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作成した。
【0103】
(6)最大溶融収縮率(%)
熱機械的分析装置(セイコーインスルメンツ社製 TMA/SS 6100)を用いて以下の方法で最大溶融収縮率を求めた。すなわち、サンプル形状;幅3mm×長さ10mm、初期荷重;19.6mN、温度走査範囲;30〜210℃、昇温速度;5℃/minの条件で、温度を昇温走査した。同じ多孔性ポリオレフィンフィルム中で、異なる任意の複数の領域を無作為に抽出した。複数の領域の各々において、3点ずつTD方向の収縮量測定を実施し、最も寸法が収縮した点での収縮率を最大溶融収縮率とした。各々の領域で求めた最大溶融収縮率の平均値を、「TD方向の最大溶融収縮率」とした。また、同様の方法で「MD方向の最大溶融収縮率」を求めた。
【0104】
(7)引張破断強度(MPa)
引張試験機(島津オートグラフAGS−J型)を用いて引張試験を行い、サンプル破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除し、引張破断強度(MPa)とした。測定条件は、温度;23±2℃、サンプル形状;幅10mm×長さ50mm、チャック間距離;20mm、引張速度;100mm/minである。以上の測定をMD方向とTD方向について同じフィルム中の異なる箇所で、各3点ずつ測定を実施し、その3点ずつの平均値を各方向の引張破断強度(MD引張破断強度、TD引張破断強度)、全6点の平均値を平均引張破断強度とした。
【0105】
(8)引張破断伸度(%)
引張試験機(島津オートグラフAGS−J型)を用いて引張試験を行い、引張破断伸度は、試験前の試験片の標点間距離L0(mm)、破断時の標点距離L(mm)から以下の式より算出した。測定条件は、温度;23±2℃、サンプル形状;幅10mm×長さ50mm、チャック間距離;20mm、引張速度;100mm/minである。以上の測定をMD方向とTD方向について同じフィルム中の異なる箇所で、各3点ずつ測定を実施し、その3点ずつの平均値を各方向の引張破断伸度(MD引張破断伸度、TD引張破断伸度)、全6点の平均値を平均引張破断伸度とした。
引張破断伸度(%)=((L−L0)/L)×100
【0106】
(9)tanδ
動的粘弾性測定機(TAインスツルメントRSA−G2)を用いて粘弾性測定を行い、tanδは損失弾性率÷貯蔵弾性率で求めた。測定条件は、サンプル形状;幅10mm×長さ50mm、初期チャック間距離;20mm、初期ひずみ;0.1%、周波数;1Hz、温度走査範囲;30〜180℃、昇温速度;5℃/min、初期張力;50gf、ひずみ自動調整プログラムとして最小ひずみ;0.1%、最大ひずみ;1.5%、最小張力;1.0g、最大張力;300.0gとする。以上の測定をMD方向とTD方向について同じフィルム中の異なる箇所で、各3点ずつ測定を実施。その平均値のtanδのピークトップの値をtanδピーク値とし、ピークトップにおける温度をtanδピーク温度とした。
【0107】
(10)結晶化度、融点
試料を走査型示差熱量計(Perkin Elmer,Inc.製、DSC−System7型)のサンプルホルダー内に静置し、窒素雰囲気中にて30℃で1分間保持し、10℃/分の速度で230℃まで加熱した。昇温過程で得られたDSC曲線(溶融曲線)上の60℃における点と180℃における点とを通る直線をベースラインとして引き、ベースラインとDSC曲線とで囲まれる部分の面積から熱量(単位:J)を算出し、これを試料の重量(単位:g)で割ることにより、融解熱ΔHm(単位:J/g)を求めた。
また、同様にして融解熱ΔHと吸熱融解曲線における極小値の温度を融点として測定した。
【0108】
(11)外観
多孔性ポリオレフィンフィルムの外観は目視にて評価した。目視により厚みまたは色味の変動が小さいものについて「○」、目視により厚みまたは色味の変動が大きいものについて「×」とした。
【0109】
(12)透気抵抗度(sec/100cm
3/20μm)
膜厚T1(μm)の孔性ポリオレフィンフィルムに対して、JIS P−8117に準拠して、透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO−1T)で測定した透気抵抗度P1(sec/100cm
3)を、式:P2=(P1×20)/T1により、膜厚を20μmとしたときの透気抵抗度P2に換算した。
【0110】
(13)表面孔数、表面孔径の算出
蒸着した多孔性ポリオレフィンフィルムを示唆走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて加速電圧2kVで観察した。撮影したSEM画像を二値化処理することで、空孔を抽出し、単位面積当たりの表面孔数、表面開口率、表面孔径を算出した。二値化処理は加速電圧2kV、倍率10000倍、11.7μm×9.4μm(1280画素×1024画素)、8bit(256階調)グレースケールの画像を用いて実施した。画像処理方法としては、上記SEM画像に対して、3画素×3画素平均にてノイズ除去を行った後に、21画素×21画素平均した画像から−30階調をしきい値として動的二値化処理をすることで、暗部を抽出し、二値化処理を行った。独立した暗部1μm
2あたりに存在する表面孔数を算出した。さらに、独立した孔の各面積から、下式に基づき、平均孔径を算出した。
平均孔径=(暗部の全面積/表面孔数/3.14)
0.5×2
【0111】
[実施例1]
重量平均分子量(Mw)が20×10
5、融点が140.5℃、融解熱が188J/gの超高分子量ポリエチレン樹脂7.5質量部と、流動パラフィン75質量部とからなる組成物をブレンドし、混合物を得た。得られた混合物を高せん断タイプの東洋精機製作所製“ラボプラストミル”に投入し、スクリュー回転数を150rpmに保持しながら、180℃の温度で1分間溶融混練し、Mwが2.8×10
5の高密度ポリエチレン樹脂17.5質量部を“ラボプラストミル”に追添し上記条件にて9分間溶融混練して、ポリエチレン樹脂組成物を調製した。
【0112】
得られたポリエチレン樹脂組成物を、シート状成形体となるように180℃で5分間、10MPaでプレス機にて成形した。得られた成形体を、15℃に温調したプレス機で1MPaにて冷却し、ゲル状シートを形成した。得られたゲル状シートをMD方向、TD方向ともに80mmになるように切り延伸温度115℃でMD方向に7倍、TD方向に7倍となるように延伸速度(1000mm/min)にて同時二軸延伸を行った。延伸後の膜を20℃に温調した塩化メチレンの洗浄槽内にて洗浄し、流動パラフィンを除去した。洗浄した膜を20℃に調整された乾燥炉で乾燥し、電気オーブン内にて125℃で10分間熱固定処理することにより多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。樹脂組成や製膜条件を表1に、得られたフィルムの特性を表3に示した。
【0113】
[実施例2]
重量平均分子量(Mw)が20×10
5、融点が140.4℃、融解熱が175J/gの超高分子量ポリエチレン樹脂4.5質量部と、流動パラフィン75質量部とからなる組成物をブレンドし、混合物を得た。得られた混合物を高せん断タイプの“ラボプラストミル”に投入し、スクリュー回転数を150rpmに保持しながら、180℃の温度で1分間溶融混練し、Mwが2.8×10
5の高密度ポリエチレン樹脂20.5質量部を“ラボプラストミル”に追添し上記条件にて9分間溶融混練して、ポリエチレン樹脂組成物を調製した。それ以外は、実施例1と同様の方法により、多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。樹脂組成や製膜条件を表1に、得られたフィルムの特性を表3に示した。
【0114】
[実施例3]
重量平均分子量(Mw)が25×10
5、融点が141.7℃、融解熱が186J/gの超高分子量ポリエチレン樹脂7.5質量部と、流動パラフィン75質量部とからなる組成物をブレンドし、混合物を得た。得られた混合物を高せん断タイプの“ラボプラストミル”に投入し、スクリュー回転数を150rpmに保持しながら、190℃の温度で1分間溶融混練し、Mwが2.8×10
5の高密度ポリエチレン樹脂17.5質量部を“ラボプラストミル”に追添し上記条件にて9分間溶融混練して、ポリエチレン樹脂組成物を調製した。それ以外は、実施例1と同様の方法により、多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。樹脂組成や製膜条件を表1に、得られたフィルムの特性を表3に示した。
【0115】
[実施例4]
重量平均分子量(Mw)が33×10
5、融点が143.7℃、融解熱が205J/gの超高分子量ポリエチレン樹脂6.0質量部と、流動パラフィン80質量部とからなる組成物をブレンドし、混合物を得た。得られた混合物を高せん断タイプの“ラボプラストミル”に投入し、スクリュー回転数を150rpmに保持しながら、180℃の温度で1分間溶融混練し、Mwが2.8×10
5の高密度ポリエチレン樹脂14.0質量部を“ラボプラストミル”に追添し上記条件にて9分間溶融混練して、ポリエチレン樹脂組成物を調製した。
【0116】
得られたポリエチレン樹脂組成物を、シート状成形体となるように180℃で5分間、10MPaでプレス機にて成形した。得られた成形体を、15℃に温調したプレス機で1MPaにて冷却し、ゲル状シートを形成した。得られたゲル状シートをMD方向、TD方向ともに80mmになるように切り延伸温度115℃でMD方向に6倍、TD方向に6倍となるように延伸速度(1000mm/min)にて同時二軸延伸を行った。延伸後の膜を20℃に温調した塩化メチレンの洗浄槽内にて洗浄し、流動パラフィンを除去した。洗浄した膜を20℃に調整された乾燥炉で乾燥し、電気オーブン内にて125℃で10分間熱固定処理することにより多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。樹脂組成や製膜条件を表1に、得られたフィルムの特性を表3に示した。
【0117】
[実施例5]
重量平均分子量(Mw)が33×10
5、融点が143.7℃、融解熱が205J/gの超高分子量ポリエチレン樹脂6.0質量部と、Mwが2.8×10
5の高密度ポリエチレン樹脂14.0質量部と、流動パラフィン80質量部をブレンドし、混合物を得た。得られた混合物を高せん断タイプの“ラボプラストミル”に投入し、スクリュー回転数を150rpmに保持しながら、180℃の温度で20分間溶融混練して、ポリエチレン樹脂組成物を調製した。それ以外は、実施例4と同様の方法により、多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。樹脂組成や製膜条件を表1に、得られたフィルムの特性を表3に示した。
【0118】
[比較例1]
重量平均分子量(Mw)が25×10
5、融点が138.0℃、融解熱が178J/gの超高分子量ポリエチレン樹脂7.5質量部と、流動パラフィン75質量部とからなる組成物をブレンドし、混合物を得た。得られた混合物を高せん断タイプの“ラボプラストミル”に投入し、スクリュー回転数を150rpmに保持しながら、180℃の温度で1分間溶融混練し、Mwが2.8×10
5の高密度ポリエチレン樹脂17.5質量部を“ラボプラストミル”に追添し上記条件にて9分間溶融混練して、ポリエチレン樹脂組成物を調製した。それ以外は、実施例1と同様の方法により、多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。樹脂組成や製膜条件を表2に、得られたフィルムの特性を表4に示した。
【0119】
[比較例2]
実施例1で得られたゲル状シートを延伸温度115℃でMD方向に5倍、TD方向に5倍となるように延伸速度1000mm/minにて同時二軸延伸を行った。それ以外は、実施例1と同様の方法により、多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。樹脂組成や製膜条件を表2に、得られたフィルムの特性を表4に示した。
【0120】
[比較例3]
重量平均分子量(Mw)が33×10
5、融点が143.7℃、融解熱が205J/gの超高分子量ポリエチレン樹脂6.0質量部と、Mwが2.8×10
5の高密度ポリエチレン樹脂14.0質量部と、流動パラフィン80質量部をブレンドし、混合物を得た。得られた混合物を高せん断タイプの“ラボプラストミル”に投入し、スクリュー回転数を50rpmに保持しながら、190℃の温度で10分間溶融混練して、ポリエチレン樹脂組成物を調製した。それ以外は、実施例4と同様の方法により、多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。樹脂組成や製膜条件を表2に、得られたフィルムの特性を表4に示した。
【0121】
[比較例4]
重量平均分子量(Mw)が25×10
5、融点が138.0℃、融解熱が178J/gの超高分子量ポリエチレン樹脂6.0質量部と、Mwが2.8×10
5の高密度ポリエチレン樹脂14.0質量部と、流動パラフィン80質量部をブレンドし、混合物を得た。それ以外は、実施例5と同様の方法により、多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。樹脂組成や製膜条件を表2に、得られたフィルムの特性を表4に示した。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
【表3】
【0125】
【表4】
【0126】
表3、4に示すとおり、実施例においては、樹脂を分割添加あるいは長時間混練することにより、高結晶性かつ高融点である超高分子量ポリエチレン樹脂を含む、外観が良好であり、強度および収縮率のバランスが優れた多孔性ポリオレフィンフィルムが得られた。
【0127】
一方、比較例1および4においては、使用する超高分子量ポリエチレン樹脂の結晶性が低く、融点が低いため、外観が良好な多孔性ポリオレフィンフィルムが得られたが、強度と収縮率の両立ができていなかった。比較例2においても、低倍率延伸をしているため強度と収縮率の両立ができなかった。比較例3においては、高結晶性かつ高融点の超高分子量ポリエチレン樹脂を用いているが、原料を一括添加し混練が不十分であるため、未溶融の樹脂が点在しており外観が不良であった。また、平均流量孔径が明らかに小さく、多孔性ポリオレフィンフィルムの孔径が小孔径化したことが認められた。
【0128】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2018年11月9日出願の日本特許出願(特願2018−211518)及び2018年11月9日出願の日本特許出願(特願2018−211519)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。