(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接続部材を回転させながら前記第1の鋼部材へ押付け、前記軸部と前記第1の鋼部材との間及び前記軸部と前記第2の鋼部材との間に摩擦熱を生じさせる工程において、前記接続部材の前記第1の鋼部材に対する押込み長が2.0mm以上であることを特徴とする
請求項9〜12のいずれか1項に記載の接合方法。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車分野では、車体の組立や部品の取付けなどにスポット溶接が多用されており、高強度鋼板を含む複数枚の鋼板の接合などもスポット溶接で行われる。しかし、高強度鋼板、特に、引張強度が780MPa以上の鋼板を含むようなスポット溶接継手では、ナゲットの靭性が低下し、剥離方向の応力が負荷されるとナゲット端部に応力が集中するため、鋼板の引張強さが増加したにもかかわらず、十字引張強さ(CTS)が、増加しないか、又は、減少するという問題がある。
【0003】
この問題を解決する技術の一つとして、母材を溶融させることなく機械的に接合する技術、すなわち、被接合材である複数枚の金属板を重ね合わせ、金属板を板押えで押さえながら、パンチでリベットを打ち込み、複数枚の金属板をリベットで接合するセルフピアシングリベットを用いた技術がある。しかし、この技術では、リベットを打ち込むため、パンチと接触する金属板と反対側(ダイ側)の金属板の変形が非常に大きくなり、ダイ側の金属板で割れが発生するという問題や、せん断方向及び剥離方向に引張応力がかかった場合、リベットが抜けて破壊が生じ、せん断方向及び剥離方向の引張強度で十分な値が得られないという問題などがあった。
【0004】
また、リベットのような頭部と軸部を有する接続部材を用いて金属板を接合する他の技術として、特許文献1、2に開示の技術もある。この技術では、接続部材を、重ね合わされた下側の金属板まで貫通させるのではなく、下側の金属板と接続部材を摩擦圧接して、接続部材の頭部と下側の金属板の間で、上側の金属板を固定するようにしている。
【0005】
特許文献1では、アルミニウム板と鋼板のように強度の異なる2枚の板材を次のように接合する。すなわち、2枚の板材を強度の低い方の板材を上板2にして重ね合わせ、
図1に示すように、上板2上に、ホルダー6で支持させて接続部材1をセットする。その上で、加圧回転部材4の先端の係合凸部5を、
図2に示すように、接続部材1の頭部に形成された凹部10に係合させ、加圧回転部材4を回転させながら、加圧回転部材4を下板3方向に移動させて、接続部材1に回転と押圧力を加え、接続部材1を上板2の内部に向けて押圧する。
【0006】
接続部材1の回転により、リベットの軸部9と上板2の間に強い摩擦が生じ、接続部材1の先端部が加熱される。これにより上板2が軟化して、接続部材1が隆起部12を形成しながら上板2内に進入し、接続部材1の先端が下板3に到達した後、接続部材1の軸部9と下板3の間で摩擦圧接のプロセスを進行させ、軸部9と下板3を摩擦圧接するとともに、頭部8で隆起部12を押える。この結果、
図3に示すように、接続部材1と下板3が摩擦圧接部11で接合され、上板2は、接続部材の頭部8と下板3との間で固定される。
【0007】
このような特許文献1の技術は、上記のリベット接合の有する問題点を解決できるものではあるが、接続部材が貫通される側の板材(上板2)に鋼よりも強度の低いアルミ系金属板などの軽金属板を用いた場合の接合技術であり、特許文献1には鋼板のみを用いた場合の接合については示されていない。
【0008】
本発明者は、上板2をアルミ板から鋼板に代えて実験したところ、鋼板では高い接続部材の押し込み力が必要になり、発熱量が増加し、接続部材自体が軟化して、
図4に示すように、接続部材1の先端が下板3に達するまで、接続部材1を押し込むことができなかった。
【0009】
特許文献2には、
図5に示すように、上板2に、接続部材の軸部9の径よりも大きな内径の貫通孔13を予め設けておき、
図6に示すように、下板3と接続部材1を摩擦溶接することにより、接続部材の頭部8(円錐形状のディスク)と下板3間で上板2を固定する技術が記載されており、接続部材先端で上板を穿孔する必要がなく、
図4で示した問題がなくなり、上板が鋼板の場合でも接合を可能とする技術と考えられる。
【0010】
しかし、この技術では、
図1〜
図3で示す技術とは異なり、貫通孔13の内面と軸部9の間に隙間ができるか、貫通孔13の内面と軸部9が接合されていない。このため、
図7のように接続部材1の頭部8が上板2を押さえることができず、上板が固定されずに自由に回転してしまう虞がある。また、上板2の孔の直径より大きい直径の頭部8を有する接続部材1が必要であり、接続部材の製作費用が高くなる。
【0011】
また、接合構造における接合状態が摩擦圧接のそれとは異なる技術であるが、特許文献3、4及び5では、摩擦攪拌プロセスを採用した接合技術が開示されている。摩擦攪拌プロセスは、例えば、摩擦熱と塑性流動により軟化した接続部材と金属板の材料同士が混ざり合うことで接合状態が得られる。
【0012】
しかし、鋼部材の摩擦攪拌には、高価な超硬合金のツールが必要である。高価な超硬合金を接続部材として使用すると、接合に要するコストが非常に高くなるという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。本明細書中において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また、以下の実施形態の各要素は、それぞれの組み合わせが可能であることは自明である。
【0021】
[接合構造]
次に、本発明の一実施形態に係る接合構造について説明する。
【0022】
図8に示すように、本実施形態に係る接合構造は、重ね合わせた複数の鋼部材(110及び120)を、軸部131を有する接続部材130を用いて接合した接合構造100であって、第1の鋼部材110と、第1の鋼部材110に重ね合わされる一又は複数の第2の鋼部材120とを有し、接続部材130の軸部131が第2の鋼部材120を貫通し、接続部材130の軸部131と第2の鋼部材120が摩擦圧接により接合され、軸部131と第1の鋼部材110が摩擦圧接により接合されていることを特徴とする。
【0023】
本実施形態に係る接合構造100では、接続部材130の軸部131と第2の鋼部材120が摩擦圧接により接合される。接続部材130の軸部131の少なくとも一部と第2の鋼部材120の少なくとも一部が接合される。
【0024】
本実施形態に係る接合構造100では、接続部材130の軸部131と第1の鋼部材110が摩擦圧接により接合される。接続部材130の軸部131の少なくとも一部と第1の鋼部材110の少なくとも一部が接合される。
【0025】
本実施形態に係る接合構造100における第1の鋼部材110と第2の鋼部材120は、それぞれが接続部材130と摩擦圧接によって接合されており、第1の鋼部材110と第2の鋼部材120は直接接合されない。もしくは、第1の鋼部材110と第2の鋼部材120が直接接合されている箇所があっても、後述のように、その接合により形成された界面140が軸部131近傍まで確認できる。したがって、摩擦圧接による接合は、被接合部材を塑性流動により混ぜ合わせる摩擦撹拌接合とは異なる。
【0026】
本実施形態に係る接合構造100のような摩擦圧接による接合か、摩擦攪拌接合等による接合かは、以下の手法で判別できる。
【0027】
接続部材130、第1の鋼部材110及び第2の鋼部材120を含む接合構造100について、接続部材130の軸部131の軸線cを含む断面で切断する。この切断面をナイタールによりエッチングする。エッチングされた切断面を観察したとき、接続部材130、第1の鋼部材110及び第2の鋼部材120の成分や組織の違いからそれぞれ腐食の程度が異なるので、接続部130材と第1の鋼部材110、及び接続部材130と第2の鋼部材120の境界については、これらの境界線を目視(拡大鏡やプロジェクターを利用した目視観察も含む。)や光学顕微鏡等によって観察することで認識できる。
【0028】
ここで、接続部材130と第1の鋼部材110との境界及び接続部材130と第2の鋼部材120との境界から、第1の鋼部材110又は第2の鋼部材120側へ0.20mm離れた位置に曲線を引いた時に、この曲線上に第1の鋼部材110と第2の鋼部材120との界面140が確認された場合、第1の鋼部材110と第2の鋼部材120は摩擦撹拌接合されていないと判断できると同時に、接続部材130と第1の鋼部材110および第2の鋼部材120とが接合されている場合、その接合方法は摩擦圧接であると判断できる。
【0029】
摩擦撹拌接合による接合の場合、第1の鋼部材110と第2の鋼部材120が混ぜ合わされているため、上記の曲線上に第1の鋼部材110と第2の鋼部材120との界面は確認されない。
【0030】
図9〜
図11に、上述した、0.20mmの位置に曲線を引いた例を示す。
図9又は
図10は、本実施形態に係る、摩擦圧接接合による接合構造の断面図である。
図9又は
図10の画像の例では、第1の鋼部材と第2の鋼部材が接続部材との摩擦圧接によって接合されている場合を示す。
図9又は
図10の曲線(矢印で示された点状の曲線)上に第1の鋼部材と第2の鋼部材の界面が存在していることがわかる。
【0031】
図11の例は、本実施形態に係る接合構造100とは異なり、第1の鋼部材410と第2の鋼部材420同士が、摩擦撹拌点接合で接合されている場合を示す。
図11の例では、第1の鋼部材410と第2の鋼部材420同士が摩擦撹拌点接合で接合されているため、上記の曲線(
図11では曲線d)上に第1の鋼部材410と第2の鋼部材420の界面440が存在しない。なお、
図11の例では、接続部材として超硬合金製のツールを用いた場合であり、接続部材の軸部と第1の鋼部材410および第2の鋼部材420とは接合されていなかったため、接続部材130は取り外された状態を示している。
【0032】
本実施形態に係る接合構造100では、軸部131と第1の鋼部材110との境界の最大の直径をDmax1、軸部131と第2の鋼部材120との境界の最大の直径をDmax2、Dmax2の測定位置よりも第2の鋼部材120から離れた部位における軸部131の最小の直径をDminとしたとき、Dmax1は、Dminの0.65倍以上であり、かつDmax2は、Dminの1.20倍以上であってもよい。この要件を満たすことで、より高い継手強度が得られる。なお、
図8のように、第2の鋼部材120近傍の軸部131の直径は大きく変形しているため、原則として、その変形部を除外できる程度だけ離れた軸部131の最小の直径をDminとする。
【0033】
接続部材130近傍における、接続部材130に対する第1の鋼部材110と第2の鋼部材120の境界が軸部131付近で不明確なため、軸部131と第1の鋼部材110の境界が不明確な場合がある。通常は、接続部材130の軸部131と第1の鋼部材110の境界の直径は、第1の鋼部材110と第2の鋼部材120の合わせ面付近の軸部131の直径が最も大きくなるため、そのような場合には、
図12に例示するように(
図12の(a)及び(b))、第1の鋼部材110と第2の鋼部材120の合わせ面から上下に0.2mmの範囲(
図12の矢印の範囲)における軸部131の最大の直径をDmax1とする。
【0034】
また、
図13に例示するように(
図13の(a)及び(b))、上記境界が第2の鋼部材120の上面(第1の鋼部材110と第2の鋼部材120の合わせ面から、第2の鋼部材120側へ第2の鋼部材120の板厚だけ離れた面)から0.2mm以上離れて存在する場合、つまり、第2の鋼部材120の一部が0.2mm以上隆起している場合、0.2mm以上隆起した部分による継手強度向上代が小さいため、0.2mm以上隆起した部分(
図13の上側の点線より上側の範囲)は、Dmax2の測定対象外とする。つまり、Dmax2の測定対象範囲は、
図13の矢印の範囲とし、その範囲内での軸部131と第2の鋼部材120との境界の最大の直径をDmax2とする。
【0035】
ただし、軸部131と第1の鋼部材110とが離間し、明らかに接合していない場合、Dmax1はゼロ(0)とみなす。同様に、軸部131と第2の鋼部材120とが離間し、明らかに接合していない場合、Dmax2はゼロ(0)とみなす。なお、Dmax1、Damax2およびDminは、接続部材130の軸部の軸線cを含む断面で測定することができる。ただし、Dminについては、軸部131の直径が予め判っている場合、断面での測定を省略し、その最小の直径をDminとみなしてもよい。
【0036】
第2の鋼部材120と接続部材130の継手強度について、第2の鋼部材120と接続部材130間の接合面積が大きいほど、これらの部材間で継手強度が高まると考えられる。その場合の接合面積の指標がDmax2(接合径)であり、Dmax2が大きい程、第2の鋼部材120と接続部材130の継手強度が高くなると言える。したがって、Dmax2はより大きい方が好ましい。
【0037】
また、Dmax2が大きいということは、接続部材130の塑性変形が大きいことを指す。摩擦圧接を行うためには、接合される金属がお互いに十分に塑性変形することが必要である。Dmax2がDminの1.20倍以上であれば、第2の鋼部材120と接続部材130が十分に摩擦圧接されるため、より好ましい。この接合部に荷重が負荷された場合(例えば、タガネ試験などで荷重負荷を再現できる。)、Dmax2が1.20倍以上であれば、第2の鋼部材120と接続部材130の接合部の破断を抑制することができるため、より好ましい。
【0038】
第1の鋼部材110と接続部材130の継手強度は、第1の鋼部材110と接続部材130との間の接合面積が大きいほど、これらの部材間で継手強度が高まると考えられる。すなわち、接合面積の指標となるがDmax1が大きい程、第1の鋼部材110と接続部材130間の継手強度が高くなりより好ましい。Dmax1がDminの0.65倍以上である場合、タガネ試験時に接合部は第1の鋼部材110のプラグ破断、部分プラグ破断、もしくは第2の鋼部材120で破断するため、良好な継手であると判断できる。なお、Dmax1がDminの0.70倍以上であってもよい。これにより、より良好な継手構造が得られる。
【0039】
本実施形態に係る接合構造では、Dmax1がDminの0.92倍以上であってもよい。これにより、より高い継手強度を得ることができる。Dmax1の上限を特に定める必要はないが、Dmax1の上限は、Dminの1.40倍以下、1.30倍以下又は1.20倍以下としてもよい。Dmax2の上限を特に定める必要はないが、Dmax2の上限は、Dminの1.60倍以下、1.40倍以下又は1.30倍以下としてもよい。
【0040】
本実施形態に係る接合構造では、高価な超硬合金製の接続部材を使用せず、安価な鋼材を使用するという観点から、接続部材は鋼材であることが好ましい。特に、接続部材の化学組成が、質量%で、
C:0.10%以上
Fe:90%以上
であってもよい。
【0041】
本実施形態に係る接合構造では、第2の鋼部材120の厚さを特に限定する必要はないが、例えば、第2の鋼部材120の厚さの合計を0.6〜5.0mmとしてもよい。
【0042】
本実施形態に係る接合構造では、第1の鋼部材110及び第2の鋼部材120の材質や成分などを特に限定する必要はないが、例えば、第1の鋼部材110及び第2の鋼部材120の引張強度が590MPa以上であってもよい。第1の鋼部材110及び第2の鋼部材120の形状は板形状、つまり第1の鋼部材110及び第2の鋼部材120は鋼板であってもよい。
【0043】
本実施形態に係る接合構造では、軸部131の直径(すなわち、Dmin)を特に規定する必要はないが、例えば軸部131の直径を、3.0〜10.0mmとしてもよい。必要に応じ、軸部131の直径の下限を3.5mm又は4.0mmとしてもよい。また、必要に応じ、軸部131の直径の上限を9.0mm、8.0mm、7.0mm又は6.0mmとしてもよい。
【0044】
本実施形態に係る接合構造の継手強度は接続部材130の直径の影響を強く受ける。したがって、第1の鋼部材110の厚さもしくは第2の鋼部材120の合計厚さのうちで、薄い方の厚さに合わせて軸部131の直径を選択することが好ましい。例えば、軸部131の直径を、
3×√(第1の鋼部材もしくは第2の鋼部材のうちで最も薄い厚さ)
以上としてもよい。また、軸部131は加圧時の予期せぬ座屈を防止するために、くびれ部や凹部がないことが好ましい。軸部131の形状は、円柱状でもよいが、第2の鋼部材120に対する貫通をより効果的に行うために、その先端部は、先端に近づくほど直径が小さくなる円錐形状又は多角錐形状であっても良い。また軸部131は、第1の鋼部材110側に配される直径が第2の鋼部材120側に配される直径以下であることが好ましい。
【0045】
本実施形態に係る接合構造では、接続部材130において、第1の鋼部材110と摩擦圧接されていない方の軸部131と隣接した部位に、さらに軸部131の直径より大きい直径の頭部が設けられていてもよい。特に、頭部の直径を第2の鋼部材に形成される後述の貫通孔221の内径より大きくすることにより、より継手強度を高めることができる。しかし、本実施形態に係る接合構造では、第1の鋼部材110と第2の鋼部材120が、それぞれ接続部材130と接合されているため、接続部材の頭部は必須ではない。つまり、軸部131の直径より大きい直径の頭部がなくともよい。
【0046】
上述した実施形態に係る接合構造は、自動車用部材として好ましく用いることができる。上述した実施形態に係る接合構造を有する自動車用部材は、高強度であるとともに、その接合部の摩擦圧接面の近傍における亀裂発生を抑制可能である。
【0047】
次に、本発明の一実施形態に係る接合方法について説明する。なお、以下に説明する接合方法に係る実施形態は、上述した接合構造を得るための一例に過ぎない。
【0048】
[接合方法1]
本実施形態に係る接合方法では、第1の鋼部材と、軸部の直径の0.60倍超1.15倍以下の直径を有する貫通孔が形成された一又は複数の第2の鋼部材とを準備する工程と、第1の鋼部材の接合予定箇所に貫通孔が重なるように、第1の鋼部材に、第2の鋼部材を重ね合わせる工程と、軸部を貫通孔に挿入し、接続部材を回転させながら軸部を第1の鋼部材に押付け、軸部と貫通孔との間及び軸部と第1の鋼部材との間に摩擦熱を生じさせる工程と、接続部材の回転を停止した状態で、軸部を第1の鋼部材に押付けて、軸部と貫通孔との間及び軸部と第1の鋼部材との間を摩擦圧接により接合する工程と、を含む。
【0049】
本実施形態に係る接合方法では、
図14に概略を示すように、一方の側に、接続部材230の回転と送りを行うために先端に接続部材230との係合凸部5を有する加圧回転部材4と、該加圧回転部材4の外側に加圧回転部材と同軸に設けられた円筒状のホルダー6を配置し、他方の側に、接合しようとする第1の鋼部材210、第2の鋼部材220を加圧回転部材4に対向して支持する支持台7を有する接合装置を用いてもよい。また、以下の実施形態では、各鋼部材を、鋼板を例として説明する。
【0050】
また、重ね合わせた鋼板を接続するための接続部材230は、例えば
図14に示すように、一般的なリベットと同様に軸部231と軸部231より大径の頭部232よりなり、頭部232に係合凸部5に嵌め合わされる凹部233を有してもよい。また、頭部232と軸部231の直径が等しい、すわなち、頭部232がない軸部231のみからなる接続部材を用いてもよい。この場合、軸部231の上端部に加圧回転部材4の係合凸部5に嵌め合わされる凹部233を有する。
【0051】
以上のような装置を用いて次の手順で接合を行う。なお、重ね合わされた第1の鋼部材210、第2の鋼部材220について、接続部材230が挿入される側と反対側に位置する、ベースとなる鋼板を下板(第1の鋼部材210)と称し、その鋼板に重ね合わされる1枚あるいは2枚以上の鋼板を上板(第2の鋼部材220)と称する場合がある。ここでは、第2の鋼部材220が1枚の例を説明する。
【0052】
a)接合しようとする第2の鋼部材220と第1の鋼部材210とを重ね合わせて、接合装置の支持台7上に載置する(
図14参照)。第1の鋼部材210と第2の鋼部材220の引張強度が異なる場合は、引張強度が低い方の鋼板を第2の鋼部材220とするのが好ましい。第2の鋼部材220の、接続部材230で接合しようとする箇所(接合予定箇所)には、予め貫通孔221があけられており、貫通孔221の中心がホルダー6の中心と一致するように鋼板をセットする。貫通孔221の内径(直径)は、接続部材230の軸部231の直径の0.60倍超1.15倍以下とする。
【0053】
支持台7上に載置した第1の鋼部材210及び第2の鋼部材220をホルダー6と支持台7との間で保持させ、ホルダー6内に接続部材230をセットする(
図14参照)。以下、接続部材230として、軸部231と軸部231の片側に軸部231より大径の頭部232を有する接続部材230を用いる例で説明する。なお、重ね合わせる第2の鋼部材の枚数が3枚以上の場合も含め、第2の鋼部材のすべてに予め貫通孔をあけておく。
【0054】
b)次に、加圧回転部材4先端の係合凸部5を接続部材230の頭部232の凹部233に係合させ(頭部232がない接続部材230の場合は、軸部231の上部に加工された凹部233に係合させる、もしくは軸部231側面を油圧チャックなどで保持する)、加圧回転部材4を回転させながらホルダー6内を通して接続部材230先端を第2の鋼部材220の貫通孔221の入口に移動させる(
図15参照)。
【0055】
c)さらに加圧回転部材4で接続部材230に回転をかけながら押圧して、接続部材230を貫通孔221内に侵入させ、その先端部を第1の鋼部材210に接触させる。その際、貫通孔221の内径(貫通孔径)が接続部材230の軸部231の直径(軸径)よりも小さい場合は、接続部材230の先端が第2の鋼部材220に接触した後、加圧回転部材4の回転速度と接続部材230に対する押圧力を調整して、接続部材230の貫通孔221への侵入にともない、接続部材230の軸部231と貫通孔221の内壁の間に摩擦熱を発生させ、第2の鋼部材220の貫通孔221周辺の材料を流動させる。このとき、第2の鋼部材220の表面に隆起部222が形成されてもよい。
【0056】
d)接続部材230の軸部231先端が第1の鋼部材210に到達後、接続部材230の先端部と第1の鋼部材210の間にも摩擦熱を発生させる。この時、接続部材230の軸部231の先端部と第1の鋼部材210との間、及び接続部材230の軸部231と第2の鋼部材220の貫通孔221内壁の間で摩擦圧接ができるような温度になるように、且つ、軸部231の直径が増大するように、加圧回転部材4の回転速度を高め、十分な加圧力を負荷する。
【0057】
貫通孔221の直径が軸径より大きい場合であっても、軸部231が第1の鋼部材210に押し付けられると、軸部231が変形し、軸部231の直径が増大し、軸部231と第2の鋼部材220の貫通孔221内壁とが接触し、摩擦熱が発生し、軸部231と貫通孔221の内壁とが部分的に摩擦圧接される。そして、貫通孔221の内径が軸部231の直径の1.15倍以下であれば、上述の現象が起こる。
【0058】
e)接続部材230の軸部231と第1の鋼部材210、第2の鋼部材220の部分が十分に加熱されると、加圧回転部材4の回転を停止し、一定時間(例えば、0.5sec以上)加圧を保持することにより、接続部材230の軸部231と貫通孔221の内壁の間の少なくとも一部及び軸部231と第1の鋼部材210の間に摩擦圧接部250を形成して、接続部材230の軸部231と、第2の鋼部材220及び第1の鋼部材210とが接合されようにする(
図16参照)。
【0059】
以上のb)〜e)の段階の回転加工部材の回転数と加圧力の時間パターンの一例を
図17に示す。点線で示す回転速度のパターンは、
図17では、c)、d)間で一定となっているが、回転速度が変わるパターンを適宜採用してよい。また、実線で示す加圧力(押し込み力とも称する)は、e)で高くしているが、例えば、c)、d)、e)を一定の加圧力としてもよい。
【0060】
貫通孔221の直径が接続部材230の軸部231の直径(軸径)よりも小さい場合の前記c)の段階では、回転数は1000rpm(例えば、800〜1500rpm)程度とし、接続部材230の軸部231の先端が第1の鋼部材210に到達した前記d)の段階では、回転数5000〜8000rpmとすることが好ましい。これに対して、摩擦攪拌接合では、回転数が(接合の最終段階も含め)数百〜1500rpmであり、この点でも摩擦圧接接合とは異なる。このため、摩擦圧接接合によって得られた接合構造を、軸部231の軸線cを含む断面で接合構造部を切断し、ナイタールでエッチングした場合、第2の鋼部材220と第1の鋼部材210との境界が、軸部231から0.20mm離れた位置まで存在するようになる。
【0061】
以上の結果、接続部材230は、軸部231の少なくとも一部が第2の鋼部材220と摩擦圧接され、軸部231先端が第1の鋼部材210と摩擦圧接される。これにより、接続部材230の押込み量が足りず頭部232と第2の鋼部材が接していない場合や、接続部材が頭部を有さない場合でも、
図18のように接続部材230と第2の鋼部材220との間が摩擦圧接部250で接合されているので、第2の鋼部材220が自由に回転することはない。
【0062】
なお、特許文献1のように第2の鋼部材が軽金属の場合は、接続部材との接触部が溶融もしくは軟化して接続部材との強度差が過大となることで、第2の鋼部材に摩擦圧接部は形成されない。
【0063】
第2の鋼部材220に開ける貫通孔221の直径は、接続部材230と第2の鋼部材220の間が摩擦圧接できる温度に達するよう、接続部材230の軸部231の直径(軸径)に対し、第2の鋼部材220の厚みや強度に応じて0.60〜1.15倍とすることが好ましい。0.60倍未満であると、接続部材230が第2の鋼部材220を貫通することが困難になる虞がある。1.15倍を超えると、接続部材230の外周と第2の鋼部材220との間が摩擦圧接することが困難となる虞がある。例えば、第2の鋼部材が複数の鋼板である場合は、第2の鋼部材全てに貫通孔をあける。
【0064】
本実施形態に係る接合方法では、貫通孔221の直径が軸部231の直径の1.00倍超1.15倍以下であってもよい。これにより、接続部材230の加圧力を低減でき、第2の鋼部材220が高強度鋼板である場合に特に好ましい。
【0065】
第2の鋼部材220に貫通孔221を設けた場合、貫通孔221の直径が大きいほど、Dmax1が拡大しやすくなる。特に、接続部材230の直径の1.00倍超1.15倍以下の直径を有する貫通孔221を設けた場合、第1の鋼部材210と接続部材230の摩擦圧接を達成した上で、安定してDmax1をDminの0.65倍以上とすることができ、タガネ試験結果でも良好な結果となる。さらに、接続部材230の直径の1.05倍以上1.15倍以下の直径を有する貫通孔221を設けた場合、安定してDmax1をDminの0.92倍以上とすることができ、より継手強度を高めることができる。接続部材230の直径と貫通孔221の直径との比の上限1.15は、必要に応じて、1.12倍又は1.09倍としてもよい。
【0066】
上記の接合方法において、軸部231が第2の鋼部材220の貫通孔221を貫通し、軸部231を第1の鋼部材210に押付ける際の押込み長liが、2.0mm以上であることがより好ましい。押込み長liは2.3mm以上又は2.5mm以上であることが、さらに好ましい。押込み長liをこのように設定することで、軸部231と第2の鋼部材220との境界の最大の直径Dmax2がDminの1.20倍以上となるため、より好ましい。
【0067】
なお、接続部材230の第1の鋼部材210への実押込み長を測定することは、容易ではない。そこで、本実施形態においては、接続部材230の軸線cに沿った方向における、接続部材230の先端部が第2の鋼部材220の上面に到達してからの接合終了までの接続部材230の移動量から、第2の鋼部材220の合計厚さを差し引いた値を押込み長liとする。なお、接続部材230の移動量は、
図14の加圧回転部材4を支持する部材等の上下方向の移動量と同じであり、容易に測定することができる。なお、この押込み長liは、推定押込み長ということもできる。
【0068】
[接合方法2]
本実施形態に係る他の接合方法では、第1の鋼部材の接合予定箇所と第2の鋼部材の接合予定箇所とが重なるように、第1の鋼部材に、一又は複数の第2の鋼部材を重ね合わせる工程と、少なくとも第2の鋼部材の接合予定箇所とその近傍を400℃以上の予熱温度に加熱する工程と、接続部材を回転させながら軸部を第2の鋼部材に押付け、軸部を第2の鋼部材に対して貫通させる工程と、接続部材を回転させながら軸部を第1の鋼部材に押付け、軸部と第1の鋼部材との間及び軸部と第2の鋼部材との間に摩擦熱を生じさせる工程と、接続部材の回転を停止した状態で、軸部を第1の鋼部材に押付けて、軸部と第1の鋼部材との間及び軸部と第2の鋼部材との間を摩擦圧接により接合する工程と、を含む。
【0069】
本実施形態に係る接合方法では、上述した接合装置を用いて次の手順で接合を行う。また、基本的な構成は、上記の接合方法と同様である。
【0070】
a)接合しようとする第2の鋼部材220と第1の鋼部材210を重ね合わせて、接続部材230が圧入される箇所(接合予定箇所)がホルダー6の中心となるように接合装置の支持台7上に載置し、ホルダー6と支持台7との間で保持する(
図19参照)。2枚の鋼部材の引張強度が異なる場合は、引張強度が低い方の鋼部材をホルダー6側に位置する第2の鋼部材220とするのが好ましい。
【0071】
b)次に、加熱装置14を第2の鋼部材220の接合予定箇所の上に配置して、接合予定箇所及びその近傍を加熱する(
図19参照)。加熱は、接合予定箇所の表面温度が、接合開始時に400℃以上になるように行う。
図19に、所定温度以上に加熱された範囲を加熱部15として模式的に示す。加熱装置14としては、例えば、環状の誘導加熱コイルが用いられる。
【0072】
c)第2の鋼部材220の表面温度が予定温度に到達したら、加熱装置14を退避させ、ホルダー6内に接続部材230を適宜の手段でセットする。なお、a)の段階で、接続部材230をホルダー内の上方にセットしておいてもよい。次に、加圧回転部材4をホルダー6内を通して第2の鋼部材220側に移動させ、加圧回転部材4先端の係合凸部5を接続部材230の頭部232の凹部233に係合させる(
図20参照)。
【0073】
そして、加圧回転部材4を回転させることで、接続部材230を回転させながら第2の鋼部材220に向けて加圧し、接続部材230の軸部231を第2の鋼部材220内に圧入して第2の鋼部材220を貫通させ、その先端部を第1の鋼部材210に接触させる。その際、接続部材230の先端が第2の鋼部材220に接触した後、加圧回転部材4の回転速度と接続部材230に対する加圧力を調整して、接続部材230の軸部231の第2の鋼部材220内への圧入にともない、軸部231と第2の鋼部材220の間に摩擦熱を発生させ、第2の鋼部材220の接続部材に接する部分およびその周辺の材料を流動させる。このとき、第2の鋼部材220の表面に隆起部222が形成されてもよい。
【0074】
d)接続部材230の先端が第1の鋼部材210に到達後、接続部材230先端部と第1の鋼部材210の間にも摩擦熱を発生させる。この時、接続部材230の軸部231先端部とそれに接する第1の鋼部材210の表面との間で摩擦圧接ができるような温度になるように、加圧回転部材4の加圧力と回転速度を維持する。
【0075】
e)接続部材230の軸部231と第1の鋼部材210が十分に加熱されると、加圧回転部材4の回転を停止し、一定時間(例えば、0.5sec以上)加圧を保持することにより、
図21又は
図22に示すように、接続部材230の軸部231と第1の鋼部材210の間、及び軸部231と第2の鋼部材220との間に摩擦圧接部250を形成して、接続部材230の軸部231と、第1の鋼部材210及び第2の鋼部材220が接合されるようにする。また、加圧回転部材4の回転中および回転を停止した後、加圧回転部材4による接続部材230の押し込み量(押込み長)を調整して、
図22に示すように、頭部232で第2の鋼部材220の隆起部222を押さえる(接続部材230周辺部が頭部232と第1の鋼部材210の間で十分な圧縮応力を受ける)ようにしてもよい。
【0076】
以上のc)〜e)の段階の加圧回転部材の回転速度と加圧力の時間パターンの一例を
図23に示す。点線で示す回転速度のパターンは、
図23では、c)、d)間で一定となっているが、回転速度が変わるパターンを適宜採用してもよい。また、実線で示す加圧力は、e)で高くしているが、例えば、c)、d)、e)を一定の加圧力としてもよい。
【0077】
上記c)の軸部231を第2の鋼部材220内に圧入して第2の鋼部材220を貫通させる段階では、回転数1000rpm(例えば、800〜1500rpm)程度とし、上記d)の段階では、回転数5000〜8000rpmとすることが好ましい。
【0078】
以上の結果、接続部材230は、その軸部231が第2の鋼部材220を貫通してその底面で第1の鋼部材210と摩擦圧接される。さらに、軸部231と第2の鋼部材220との間も摩擦圧接される。
【0079】
このように、第2の鋼部材220に鋼板を用いた場合でも、接続部材230が第2の鋼部材220を貫通して接続部材230と第1の鋼部材210が摩擦圧接により接合され、接続部材230と第2の鋼部材220も摩擦圧接されるので、頭部232を有しない接続部材230を用いた場合でも、第2の鋼部材220と第1の鋼部材210の接合を達成することができる。接続部材230が頭部232を有する場合は、第2の鋼部材220はさらに頭部232と第1の鋼部材210の間で固定され、第2の鋼部材220と第1の鋼部材210が接続部材230によって強固に一体化される。なお、軸部231の軸線cを含む断面で切断し、ナイタールでエッチングした場合、第2の鋼部材220と第1の鋼部材210との境界が、軸部から0.20mm離れた位置まで存在するようになる。
【0080】
(第2の鋼部材の加熱)
第2の鋼部材220に接続部材230を圧入する際に、少なくとも第2の鋼部材220の接合予定箇所及びその周辺を予め加熱して第2の鋼部材220の強度を低下させておき、接続部材230が変形することなく第2の鋼部材220を貫通できるようにする。第2の鋼部材220を加熱する時期は、接合装置にセットする前、あるいは、
図19により説明したように、接合装置に接合する鋼部材をセットした後のいずれでも可能である。
【0081】
加熱範囲は、鋼部材全体でも、接合箇所を中心とする部分的でも可能であるが、第2の鋼部材220を予熱した後、加熱していない領域への熱伝導により加熱部が冷却されるので、接続部材230の近傍の塑性流動域だけでなく、周辺領域をも加熱することが好ましい。部分的に加熱する場合で、特に、第2の鋼部材220に引張強さが400MPa以上の鋼板を用いる場合は、本発明者の実験によれば、接続部材230の中心に一致する第2の鋼部材220上の点を中心として、接続部材230の軸部の直径の少なくとも3倍の範囲を所望の温度に加熱することが好ましいこと、さらに好ましくは7倍の範囲以上であることを確認している。
【0082】
(加熱の際の予熱温度)
第2の鋼部材220は、接続部材230を押し込むときに、接続部材230に接する第2の鋼部材220の材料が塑性流動を起こす温度以上に加熱される必要がある。本発明者の実験では、第2の鋼部材220の表面温度が加工直前に、400℃以上であれば、第2の鋼部材220に鋼板を用いた場合でも、接続部材230による第2の鋼部材220の貫通が可能であることを確認した。実際の加熱温度は、第2の鋼部材220に用いる鋼板の強度、板厚や加工条件(加圧回転部材の回転速度、加圧力、押し込み速度)に応じて、400℃以上の範囲から必要な継手強度を有する継手が得られる温度を選択する。予熱温度の上限を特に定める必要はないが、Ac1温度以下とすることが好ましい。必要に応じて、予熱温度の上限を750℃、700℃又は650℃としてもよい。
【0083】
(加熱手段)
第2の鋼部材220を加熱するための加熱手段には、炉、ガスバーナ、電気ヒータ、誘導加熱、通電加熱、レーザなどの加熱手段を適宜用いることができる。これらの加熱手段により、少なくとも第2の鋼部材220の接続部材と対向する側の加熱範囲を加熱する。
【0084】
本実施形態に係る接合方法では、予熱温度が550℃以上であってもよい。これにより、第2の鋼部材220がより軟化するため、接続部材230の加圧力を低減でき、第2の鋼部材220が高強度鋼板である場合に特に好ましい。
【0085】
第2の鋼部材220を予熱した場合、上述の実施形態で説明した、Dmax1およびDmax2を大きくすることができる。例えば、予熱温度を400℃以上とした場合、Dmax1をDminの0.50倍以上とすることができ、かつDmax2をDminの1.20以上とすることができる。予熱温度が550℃以上なら、より安定してDmax1をDminの0.65倍以上とすることができ、タガネ試験結果でも良好な結果となる。予熱温度が600℃以上なら、さらに安定してDmax1をDminの0.70倍以上とすることができ、タガネ試験結果でもさらに良好な結果となる。
【0086】
なお、加熱範囲である接合予定箇所とその近傍は、接続部材230の軸心c方向に沿ってみた場合、接続部材230の直径+10mm程度の範囲としてもよい。
【0087】
上記の接合方法において、軸部231を第2の鋼部材220に対して貫通させ、軸部231を第1の鋼部材210に押付ける際の押込み長liが、2.0mm以上であることがより好ましい。押込み長liは2.3mm以上又は2.5mm以上であることが、さらに好ましい。押込み長liをこのように設定することで、軸部231と第2の鋼部材220との境界の最大の直径Dmax2がDminの1.20倍以上となるため、より好ましい。
【0088】
なお、接続部材230の第1の鋼部材210への実押込み長を測定することは、容易ではない。そこで、本実施形態においては、接続部材230の軸線cに沿った方向における、接続部材230の先端部が第2の鋼部材220の上面に到達してからの接合終了までの接続部材230の移動量から、第2の鋼部材220の合計厚さを差し引いた値を押込み長liとする。なお、接続部材230の移動量は、
図19の加圧回転部材4を支持する部材等の上下方向の移動量と同じであり、容易に測定することができる。なお、この押込み長liは、推定押込み長ということもできる。
【実施例】
【0089】
以下に、本発明の実施例を記載する。本実施例では、種々の鋼部材、接続部材、製造条件について検討した。
【0090】
先ず、表1に示す各種試験片を準備した。表1に、各実験における、第1の鋼部材及び第2の鋼部材の強度と板厚、第2の鋼部材の枚数を示す。鋼板は成分や熱処理によって強度を調整した一般的なものを用いた。
【0091】
また表1に、接続部材のFe含有量(質量%)とC含有量(質量%)を示す。実験番号38及び39では、接続部材として超硬合金を用いた。超硬合金とは、硬質の金属炭化物とコバルトなどの金属を焼結した材料であり、Feの含有量は90%未満である。本実施例では、タングステンカーバイドとコバルトからなる超硬合金を採用した。
【0092】
全ての接続部材の長さは、(第2の鋼部材の厚さの合計)+5.5mmとした。
【0093】
【表1】
【0094】
次いで、表1の各実験番号の第1の鋼部材と第2の鋼部材とを重ね合わせ、表1の各実験番号の接続部材を用いて摩擦圧接接合を行った。一部の実験例では、第2の鋼部材に貫通孔を設けて、貫通孔に接続部材が挿通されるように摩擦圧接接合を実施した。また一部の実験例では、第2の鋼部材の接合予定箇所を加熱した。
【0095】
本実施例では、上記実施形態の[接合方法1]及び[接合方法2]で説明した装置を用いて摩擦圧接接合を実施した。第2の鋼部材を貫通する工程の条件は、回転数1000rpm、加圧力9kNとした。接続部材と第1の鋼部材の摩擦圧接の条件は、回転数7000rpm、加圧力9kNとし、押込み長は実験例毎に異なる値を用いた。なお、接続部材として超硬合金を用いた実験番号38及び39では、摩擦撹拌点接合の条件は、回転数1000rpm、押込み長1mm(第1の鋼部材上面からの押込み長)、接合時間4秒とした。また、実験番号38及び39で用いた接続部材の軸部は直径の変化がない円筒状のものを用いた。
【0096】
表2に、接続部材の軸部の直径D、第2の鋼部材の貫通孔の径Dp、及びその比(Dp/D)、第2の鋼部材の予熱温度、並びに押込み長を示す。表2において、貫通孔を設けていない実験例及び第2の鋼部材の予熱を行っていない実験例には「−」の符号を記入した。
【0097】
接続部材の軸部の直径Dは、軸部の軸線に沿った方向で同じであった。第2の鋼部材の貫通孔は、円形状であった。
【0098】
第2の鋼部材の予熱温度は、表面の温度を熱電対によりより測定した。
【0099】
【表2】
【0100】
上記の工程によって得られた各実験例の接合構造について、第2の鋼部材と接続部材との接合径、第1の鋼部材と接続部材との接合径を調べた。また、第2の鋼部材の固定状態及びタガネ試験の結果を評価した。
【0101】
表3に、第2の鋼部材と接続部材との接合径、第1の鋼部材と接続部材との接合径、第2の鋼部材の固定状態及びタガネ試験の結果を示す。
【0102】
【表3】
【0103】
第2の鋼部材と接続部材との接合径、及び第1の鋼部材と接続部材との接合径は、接続部材の軸線と平行な断面を観察することで計測した。具体的には、第1の鋼部材、第2の鋼部材及び接続部材を含む接合構造を、接続部材の軸線を通る平面で切断し、研磨およびナイタールによるエッチングを行った。その表面を光学顕微鏡を用いて撮影し、撮影された画像より、各接合径を算出した。
【0104】
ここで、Dmax1、Dmax2及びDminは、上述の実施形態で説明した、
図12及び
図13に例示する手法で計算した。
【0105】
表3において、第2の鋼部材と接続部材とが接合されていないか、第1の鋼部材と接続部材とが接合されていない実験例には「−」の符号を記入した。また、実験番号9及び10では、接続部材の塑性変形が足りず、接続部材と第2の鋼部材が接合されなかった。
【0106】
実験番号38及び39では、摩擦撹拌接合用のツールと第1の鋼部材、及びツールと第2の鋼部材は接合されていないが、ツールと第1の鋼部材が接触していた箇所の最大径をDmax1、ツールと第2の鋼部材が接触していた箇所の最大径をDmax2とした。
【0107】
第2の鋼部材の固定状態は、第1の鋼部材と接続部材が接合されていないものや、第1の鋼部材を固定し、第2の鋼部材をペンチで保持し、第2の鋼部材が回転する方向に手で力を加えた時に回転したものや、第1の鋼部材と接続部材が剥離したものを「bad」、回転しなかったものを「good」とした。
【0108】
タガネ試験は、第1の鋼部材と接続部材が破断するまで、もしくは、第2の接続部材が破断するまで、第1の鋼部材と第2の鋼部材の間にタガネをハンマーで差し込み評価した。第2の鋼部材と接続部材が接合されていない場合は、接続部材と第1の鋼部材が破断するまで接続部材に直接打撃を与えた。
【0109】
表3の「タガネ試験結果」の評価では、
図24のように、プラグ破断(
図24の(a))、部分プラグ破断(
図24の(b))、あるいは第2の鋼部材と接続部材界面以外が破断した実験例(
図24の(c))を「very good」とした。
図24の点線は、破断箇所を示す。
図25のように(
図25の(a)及び(b))、少なくとも一部が接合界面ではなく、第1の鋼部材あるいは接続部材内部が破断した実験例を「good」とした。
図25の点線は、破断箇所を示す。接合界面の全面が剥離した実験例を「bad」とした。第1の鋼部材と接続部材とが接合されていない実験例は「−」とした。
【0110】
実験番号38及び39は、摩擦攪拌点接合によって、接合構造が得られた比較例である。実験番号38及び39では、ツール(接続部材)と第1および第2の鋼部材は接合されず、第1と第2の鋼部材同士が直接接合された。そのため、断面での観察でも、ツール端から0.20mmの位置に第1の鋼部材と第2の鋼部材との界面は観察されなかった。ツール(接続部材)が変形しなかったため、表3では(Dmax2)/(Dmin)=1.00、(Dmax1)/(Dmin)=1.00と記載した。
【0111】
実験番号1,5,6,9,10,12,15,16,19,26,27,31,32,33,37,38及び39の実験例では、接続部材と第1および第2の鋼部材のどちらかが接合されなかった。