(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795166
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】心不全による突然死の予防剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4164 20060101AFI20201119BHJP
A61K 31/43 20060101ALI20201119BHJP
A61K 31/545 20060101ALI20201119BHJP
A61K 31/661 20060101ALI20201119BHJP
A61K 31/7036 20060101ALI20201119BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
A61K31/4164
A61K31/43
A61K31/545
A61K31/661
A61K31/7036
A61P9/04
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-227964(P2015-227964)
(22)【出願日】2015年11月20日
(65)【公開番号】特開2017-95385(P2017-95385A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】今井 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】幸村 知子
【審査官】
小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】
特表平09−505058(JP,A)
【文献】
EMBASE Abstract DN:71463351,2013年
【文献】
JAPANESE CIRCULATION JOURNAL,1991年,Vol.55, No.5,p.437-442
【文献】
診断と治療,2014年,Vol.102, No.Suppl
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 45/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペニシリン、ストレプトマイシン、アンピシリン、メトロニダゾール、クリンダマイシン又はセフォペラゾンを有効成分とし、経口的に投与して用いられる、心臓における脂質酸化を原因とする心不全による突然死の予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心不全による突然死の予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全とは、心臓の血液拍出が不十分であり、全身が必要とするだけの血液の循環量を保つことができない病態である。心不全には、鬱血によるもの、心筋梗塞に伴う急性のもの、心筋症や弁膜症に伴う慢性のもの、脂質酸化の亢進による心筋細胞死を原因とするもの等が知られている。
【0003】
発明者らは、以前に、抗酸化酵素であるPHGPx(リン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ)を心臓特異的に欠損させたマウスが胎生致死であること、しかしながら、母親マウスにビタミンE高添加飼料を与えると生存できること、また、離乳後もビタミンE高添加飼料を与えると生存できること、更に、ビタミンE高添加飼料を通常飼料に切り替えると約15日で心不全による突然死を起こすことを明らかにした(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Imai H, et al., Early embryonic lethality caused by targeted disruption of the mouse PHGPx gene, Biochem Biophys Res Commun., 305, 278-86, 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、心不全による突然死の予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
(1)抗生物質を有効成分とする、心不全による突然死の予防剤。
(2)前記抗生物質が、β−ラクタム系抗生物質、リンコマイシン系抗生物質、ニトロイミダゾール系抗生物質及びアミノグリコシド系抗生物質からなる群より選択される、(1)に記載の心不全による突然死の予防剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、心不全による突然死の予防剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1実施形態において、本発明は、抗生物質を有効成分とする心不全による突然死の予防剤を提供する。
【0010】
上述したように、心臓特異的PHGPx欠損マウスの飼料をビタミンE高添加飼料から通常飼料に切り替えると、約15日で心不全による突然死を起こす。発明者らは、心臓特異的PHGPx欠損マウスをモデル動物として用い、心不全による突然死を予防できる因子を検討した。
【0011】
その結果、実施例において後述するように、心臓特異的PHGPx欠損マウスに抗生物質を与えると、飼料を通常飼料に切り替えた場合に寿命が延びることを見出した。したがって、抗生物質は心不全による突然死の予防剤であるということができる。あるいは、抗生物質は心不全による突然死における延命剤であるということもできる。
【0012】
心不全としては、鬱血による心不全、心筋梗塞に伴う急性心不全、心筋症や弁膜症に伴う慢性心不全、心臓における脂質酸化を原因とする心不全等が挙げられる。
【0013】
また、抗生物質としては、例えば、ペニシリン、アンピシリン、セフォペラゾン等のβ−ラクタム系抗生物質;リンコマイシン、クリンダマイシン等のリンコマイシン系抗生物質、メトロニダゾール等のニトロイミダゾール系抗生物質、ストレプトマイシン等のアミノグリコシド系抗生物質等が挙げられる。抗生物質は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0014】
心不全による突然死の予防剤の投与は、経口的に行うことが好ましい。また、心不全による突然死の予防剤は、抗生物質と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物として製剤化されていてもよい。経口的に使用される剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。
【0015】
薬学的に許容される担体としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤等が挙げられる。
【0016】
医薬組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノールの安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤;界面活性剤;乳化剤等が挙げられる。
【0017】
医薬組成物は、抗生物質と、薬学的に許容される担体、添加剤等を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0018】
抗生物質の投与量は、症状により差異はあるが、一般的に成人(体重60kgとして)においては、例えば1日当たり0.1〜100gであってもよく、例えば1日当たり0.1〜50gであってもよく、例えば1日当たり0.1〜10gであってもよく、例えば1日当たり0.1〜5gであってもよい。
【0019】
1実施形態において、本発明は、心不全による突然死の予防のための抗生物質を提供する。
【0020】
1実施形態において、本発明は、心不全による突然死の予防剤を製造するための抗生物質の使用を提供する。
【0021】
1実施形態において、本発明は、抗生物質の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、心不全による突然死の予防方法を提供する。
【実施例】
【0022】
次に実験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0023】
[実験例1]
(心臓特異的PHGPx欠損マウスの作製)
まず、ES細胞を用いたホモロガスリコンビネーションによる定法により、PHGPx遺伝子ノックアウトマウス(PHGPx
−/−)を作製した(非特許文献1を参照。)。PHGPx
−/−マウスは、発生過程の7.5日で胚致死となった(非特許文献1を参照)。
【0024】
そこで、loxP配列に挟まれたマウスPHGPxゲノム遺伝子(loxP−PHGPx)を遺伝子導入(Tg)し、Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
+/+マウスを作製した。
【0025】
続いて、Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
+/+マウスとPHGPx
+/−マウスとを交配して、Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
+/−マウスを作製し、このマウス同士を交配することにより、内在性のPHGPxゲノム遺伝子がノックアウト(KO)され、導入したloxP−PHGPxTg遺伝子により胚致死をレスキューしたTg(loxP−PHGPx)
+/+:PHGPx
−/−マウスを作製した(Imai H, et al., Deletion of selenoprotein GPx4 in spermatogenesis causes male infertility in mice, J.Biol.Chem., 284, 32522-32, 2009.を参照。)。
【0026】
また、PHGPx
+/−マウスと、心臓特異的プロモーターである筋肉クレアチンキナーゼプロモーター(Muscle creatine kinase)の下流にCre遺伝子を有するマウス(Cre
+/+)との交配を繰り返し、Cre
+/+PHGPx
+/−マウスを得た。
【0027】
続いて、Cre
+/+PHGPx
+/−マウスと、上述したTg(loxP−PHGPx)
+/+:PHGPx
−/−マウスとを交配することにより、Cre
+/−:Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
−/−マウスを得た。このマウスは、心臓特異的にPHGPxを欠損する。
【0028】
このようにして得られた心臓特異的PHGPx欠損マウスを観察したところ、発生過程の16.5日までは正常に生育したが、17.5日に心筋細胞が突然死を起こし、18.5日には浮腫を引き起こして致死となった。
【0029】
しかしながら、母親マウスにビタミンE高添加飼料を毎日与えた場合、発生過程17.5日目の心臓特異的PHGPx欠損マウスの心臓組織の細胞死は完全に抑制され、心臟特異的PHGPx欠損マウスが正常に産まれた。ビタミンE高添加飼料としては、通常飼料であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して100mgのビタミンEを添加したものを用いた。
【0030】
[実験例2]
(心臓特異的PHGPx欠損マウスの飼料の切り替え)
3〜4週齢の心臓特異的PHGPx欠損マウスの飼料をビタミンE高添加飼料から通常飼料(型式「CE−2」、日本クレア社製)に切り替え、生存率を測定した(n=8)。ビタミンE高添加飼料としては、通常飼料であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して100mgのビタミンEを添加したものを用いた。
【0031】
図1は、実験結果を示すグラフである。その結果、心臓特異的PHGPx欠損マウスは、約15日で突然死を起こして死亡することが確認された。
【0032】
[実験例3]
(抗生物質の投与)
3〜4週齢の心臓特異的PHGPx欠損マウスに与える飲水を、表1に示す種類及び濃度の抗生物質を添加した水に切り替えた。続いて、飲水を切り替えてから4日目に、心臓特異的PHGPx欠損マウスに与える飼料をビタミンE高添加飼料から通常飼料に切り替え、生存日数を測定した。ビタミンE高添加飼料としては、通常飼料であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して100mgのビタミンEを添加したものを用いた。
【0033】
表1に、測定した生存日数を示す。なお、表1中、「KO」はCre
+/−:Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
−/−マウスを意味する。また、「ヘテロ」は、Cre
+/−:Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
+/−マウスを意味する。
【0034】
【表1】
【0035】
その結果、心臓特異的PHGPx欠損マウスに抗生物質を与えると、本来であれば約15日で心不全による突然死を起こすところ、寿命が格段に延長したことが明らかとなった。この結果は、抗生物質が心不全による突然死の予防剤であることを示す。また、この効果は、様々な種類の抗生物質において認められた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、心不全による突然死の予防剤を提供することができる。