(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795167
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】清拭布
(51)【国際特許分類】
A47L 13/16 20060101AFI20201119BHJP
B32B 23/02 20060101ALI20201119BHJP
B32B 23/08 20060101ALI20201119BHJP
B32B 23/10 20060101ALI20201119BHJP
B32B 27/02 20060101ALI20201119BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20201119BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20201119BHJP
D04H 1/4374 20120101ALI20201119BHJP
D04H 1/43 20120101ALI20201119BHJP
D04H 1/425 20120101ALI20201119BHJP
D04H 3/011 20120101ALI20201119BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20201119BHJP
D06M 17/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
A47L13/16 C
B32B23/02
B32B23/08
B32B23/10
B32B27/02
B32B27/30 A
B32B27/36
D04H1/4374
D04H1/43
D04H1/425
D04H3/011
B32B5/26
D06M17/00 M
A47L13/16 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-86196(P2016-86196)
(22)【出願日】2016年4月22日
(65)【公開番号】特開2017-192638(P2017-192638A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木原 幸弘
【審査官】
永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−136154(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/151168(WO,A1)
【文献】
特開2015−059275(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0159207(US,A1)
【文献】
特開2014−210993(JP,A)
【文献】
特開2006−255116(JP,A)
【文献】
特開2006−223454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 13/16
A47K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層積層不織布によって構成される清拭布
(ただし、テーブルクロス、テーブルランナー、テーブルナプキンは除く。)であって、3層積層不織布は、
一方の表面がポリエステル長繊維不織ウェブ、
他方の表面がアクリル繊維によって構成されるアクリル不織ウェブ、
両表面層に挟まれたセルロース繊維によって構成されるセルロース不織ウェブによって構成され、
該長繊維不織布を構成する長繊維の横断面形状が、略Y字の下端で上下左右に連結した
形状(以下、「略Y4形状」という。)であり、
アクリル不織ウェブよりもセルロース不織ウェブの吸液性が高く、
不織ウェブ同士は、積層境界面に存在するそれぞれのウェブを構成する繊維同士が互いに交絡することなく、それぞれの層は接着剤を介して積層一体化して
おり、
アクリル不織ウェブの面側を清拭対象物に接して清拭するための清拭面とすることを特徴とする清拭布。
【請求項2】
洗浄液等の機能性液体を含ませて使用するものであることを特徴とする請求項1記載の清拭布。
【請求項3】
長繊維の繊度が7デシテックス以上であり、長繊維不織ウェブの目付が15〜70g/m2であることを特徴とする請求項1または2記載の清拭布。
【請求項4】
セルロース繊維が、コットン繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の清拭布。
【請求項5】
アクリル繊維が、フィブリル化してなる繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の清拭布。
【請求項6】
ポリエステル長繊維が、略Y4形状の各々の略V字部が低融点ポリエステルよりなり、その他の略+字部が高融点ポリエステルよりなる複合型ポリエステル長繊維よりなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の清拭布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造を有する清拭布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、汚れを除去するための手段として、清拭布を用いて、拭き取ることが行われている。汚れとしては、水性や油性の液体の汚れ、塵埃等のダスト、髪の毛や糸くず等の様々なものが挙げられる。このような汚れ等を除去するために、いわゆる布製の雑巾、布巾が用いられ、より細かい塵埃や油膜等を拭うためには、極細繊維によって構成される清拭布が用いられる。極細繊維によって構成される清拭布は、細かい塵埃や油膜を拭うとともに、汚れが付着してなる対象物の表面を磨く機能をも備わっている。
【0003】
極細繊維によって構成される清拭布としては、例えば、特許文献1のごとく、2種の成分によって構成される繊維であって、特定の処理を施すことによって、2成分の界面で分割して極細繊維が発現し、このような分割型の極細繊維によって構成される清拭布が知られている。また、特許文献2のごとく、割繊性アクリル繊維に物理的な力を与えることによりフィブリル化させて、フィブリル化したアクリル繊維からなる不織布を清拭布として用いることが知られている。いずれの方法も極細繊維を有することによって、細かい塵埃を拭い取ることに優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−220740号公報
【特許文献2】特開2004−115946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような極細繊維によって構成される清拭布は細かい汚れの除去性には優れるが、液体の汚れの吸液性は高いとはいいがたい。特許文献2の段落番号0042には、割繊性アクリル繊維以外に親水性繊維を使うことも提案されており、例えば、割繊性アクリル繊維と混合して親水性繊維を用いることが考えられ、親水性繊維が含まれることによって、ワイパーに吸液性を付与することは可能である。しかしながら、親水性繊維はその繊維自体が液を保持するため、多量に液体を保持した場合、拭き跡が残ることがある。また、吸液性の高いワイパーを用いて、液体ワックス等の拭き取り剤を用いた場合、ワイパー自体の吸液性が高いために、塗り込んだワックスが部分的に拭き残し跡となって対象部表面に残存することがある。
【0006】
また、極細繊維によって構成される清拭布は、柔軟でドレープ性が高いため、手で把持して作業する場合、手にまとわりつきやすく、強い力を入れて擦ったときに、形態が保持できずによれてしまい、作業性に劣る場合がある。
【0007】
本発明は、細かい汚れの除去性に優れ、また、液体を拭き取った際に拭き跡や拭き残しが残存しにくく、さらには、作業性が良好な清拭布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を達成するものであって、3層積層不織布によって構成される清拭布
(ただし、テーブルクロス、テーブルランナー、テーブルナプキンは除く。)であって、3層積層不織布は、
一方の表面がポリエステル長繊維不織ウェブ、
他方の表面がアクリル繊維によって構成されるアクリル不織ウェブ、
両表面層に挟まれたセルロース繊維によって構成されるセルロース不織ウェブによって構成され、
該長繊維不織布を構成する長繊維の横断面形状が、略Y字の下端で上下左右に連結した
形状(以下、「略Y4形状」という。)であり、
アクリル不織ウェブよりもセルロース不織ウェブの吸液性が高く、
不織ウェブ同士は、積層境界面に存在するそれぞれのウェブを構成する繊維同士が互いに交絡することなく、それぞれの層は接着剤を介して積層一体化して
おり、
アクリル不織ウェブの面側を清拭対象物に接して清拭するための清拭面とすることを特徴とする清拭布を要旨とするものである。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明における3層積層不織布を構成する3層の不織ウェブ同士は、少なくとも不織ウェブ同士の積層境界面に存在するそれぞれのウェブを構成する繊維同士が互いに交絡することなく、それぞれの層は接着剤を介して積層一体化している。交絡することなく一体化しているため、3層の不織ウェブ間は、それぞれの不織布ウェブへ互いの繊維が侵入することがないため、必要以上に吸液した液体が移行しにくい。すなわち、アクリル不織ウェブとセルロース不織ウェブは、いずれも吸液性を有するが、中層であるセルロース不織ウェブが、後述するように吸液性が高い。したがって、拭き取り対象物として液体を拭い取る際には、まずは、吸液性を有するアクリル不織ウェブが液体を吸い取り、さらに吸液性が高いセルロース不織ウェブ側に吸い取った液体が移行し、中層にて液体を保持し、その後は、吸液性の高いセルロース不織ウェブ内に留まり、セルロース不織ウェブよりも吸液性が低いアクリル不織ウェブ側には移行しにくい。また、セルロース不織ウェブ内に保持してなる液体は、吸液性に劣り疎水性であるポリエステル長繊維ウェブ側には、移行しにくく、長繊維ウェブ側表面に液体が染み出すことない。また、この作用は、液体ワックス等の剤を用いた場合も同様で、中層のセルロース不織ウェブ内に主として液体ワックスを保持し、必要に応じて押圧力によりアクリル不織ウェブ側表面に移行して、対象物表面に液体が染み出し、拭き取り作業や塗り込み作業が行われるが、層間を液体が移行しすぎない。したがって、拭き取り対象物表面に拭き跡や、拭き残りが残存しにくいという効果を奏する。
【0011】
本発明における3層積層不織布において、一方の表面は、ポリエスエル長繊維不織ウェブによって構成される。該ポリエステル長繊維は、横断面形状に特徴を有するものである。この横断面形状は、
図1に示すような略Y字を四個持つものであり、略Y字の下端1で上下左右に連結して、
図2に示すような略Y4形状となっている。また、中央の略+字部5と、略+字部5の各先端に連結された四個の略V字部6により、高剛性となっている。すなわち、六角形やY字等の単なる異形ではなく、剛性の高い略+字部5と略V字部6の組み合わせによって、より高剛性となるのである。このような高剛性となるポリエステル長繊維不織ウェブを積層してなることによって、清拭布は、拭き取り使用時に、力を入れて作業しても、形態が変形しにくく形態保持性に優れ、作業効率が向上する。後述するが、他方の表面であるアクリル不織ウェブ面側を拭き取り面として使用することを通常とするが、硬くこびりついた頑固な汚れを擦り取るにあたっては、剛性を有するポリエステル長繊維不織ウェブ面側を、拭き取面側として用いることもできる。
【0012】
本発明においては、清拭布に形態安定性、剛性を付与することを考慮して、長繊維不織ウェブの目付は15〜70g/m
2の範囲が好ましく、単繊維繊度にもよるが、より好ましくは20〜70g/m
2である。ポリエステル長繊維の繊度は、剛性を考慮すると、7デシテックス以上が好ましく、さらには15デシテックス以上が好ましい。長繊維の繊度は大きいほど、剛性に優れる傾向にあるが、長繊維不織ウェブを得る際に、延伸可紡性を考慮すれば上限は30デシテックスとする。
【0013】
長繊維不織ウェブは、剛性および形態安定性の観点から、構成繊維同士が熱接着により一体化してなるものが好ましく、また、機械的強度に優れ、剛性が付与できることから、ポリエステル系重合体により構成される。ポリエステル長繊維は、一種類のポリエステルからなるものでもよいが、低融点ポリエステルと高融点ポリエステルとを組み合わせるのが好ましい。すなわち、ポリエステル長繊維の横断面形状の略V字部6が低融点ポリエステルで形成され、略+字部5が高融点ポリエステルで形成された複合型するのが好ましい。複合型ポリエステル長繊維を集積した後、低融点ポリエステルを軟化又は溶融させて固化させることにより、ポリエステル長繊維相互間が低融点ポリエステルによって融着された不織ウェブが得られるからである。
【0014】
長繊維不織ウェブは、溶融紡糸する際に用いるノズル孔を変更する以外は、従来公知の方法で得られる。すなわち、熱可塑性重合体を溶融紡糸して得られた長繊維を集積して長繊維不織布を製造する方法において、溶融紡糸する際に用いるノズル孔の形状が、Y字の下端で上下左右に連結し、かつ、隣り合うY字の/同士及び\同士が平行である形状(以下、「Y4形」という。)のものを用いるというものである。
【0015】
具体的には、
図4に示すY4形となっている。このY4形は、隣り合うY字の/同士が平行であり、また\同士が平行となっている。かかるY4形のノズル孔に熱可塑性重合体を供給して溶融紡糸することにより、横断面が略Y4形状の長繊維を得ることができるのである。特に、隣り合うY字の/同士及び\同士が平行となっていることにより、四個の凹部2を持つ長繊維を得ることができる。また、略+字部5と、その各々の先端に設けられた略V字部6とを持つ長繊維を得ることができる。このように凹部と略V字部を有することから、V字部によって汚れの優れたかきとり性を有し、凹部によって汚れの優れた捕集性も有する。
【0016】
Y4形のノズル孔に供給する熱可塑性重合体は、一種類であってもよいし、二種類であってもよい。特に、低融点ポリエステル樹脂と高融点ポリエステル樹脂の二種類を用いるのが好ましい。すなわち、低融点ポリエステル樹脂をY4形のV字部に供給し、高融点ポリエステル樹脂をY4形の+字部に供給するのが好ましい。かかる供給態様で溶融紡糸することにより、略V字部6が低融点ポリエステルで形成され、略+字部5が高融点ポリエステルで形成された複合型ポリエステル長繊維が得られる。
【0017】
長繊維を得た後、これを集積して、その後、少なくとも加熱することにより、長繊維を構成するポリエステル(二種の重合体によって構成されるときは、低融点のポリエステル)を軟化又は溶融させ、冷却して固化させることにより、長繊維相互間を熱接着して長繊維不織ウェブを得る。熱接着処理は、熱エンボス加工によって形成される部分的に熱圧着することにより熱接着しているものであっても、また、熱カレンダー加工による熱処理により熱接着しているもの、熱風処理により熱接着しているものでもよい。また、これらの方法を併用したものでもよい。熱エンボス加工を施す場合、用いるエンボスロールの圧着面積率(エンボスロールの凸部の面積率)は、15〜45%がよい。
【0018】
本発明の3層積層不織布において、ポリエステル長繊維不織ウェブに対して、他方の表面は、アクリル不織ウェブによって構成される。アクリル不織ウェブ面は、本発明において、通常、清拭対象物と接して用いる清拭面側である。通常、清拭対象物と接して拭き取る面側として用いることから、アクリル不織ウェブを構成するアクリル繊維は、フィブリル化してなる繊維であることが好ましい。フィブリル化したアクリル繊維としては、通常のパルプ繊維と同様に、ビーター、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、粉砕に使用するボールミル等を用いて叩解、離解等することによりフィブリル化したアクリル繊維が挙げられる。また、繊維を集積した後に、高圧の液体柱状流を噴射させてフィブリル化させてもよい。さらには、これらの叩解、離解、高圧液体柱状流の噴射処理を単独、もしくは何れかを組み合わせてフィブリル化させてもよい。
【0019】
また、アクリル繊維は、アクリロニトリル系ポリマーのみから構成されてもよいし、アクリロニトリル系ポリマーと添加剤ポリマーとから構成されても構わない。なお、フィブリル化が容易であることを考慮すれば、アクリロニトリル系ポリマーと添加剤ポリマーとから構成されたアクリル繊維の方が好ましい。
【0020】
アクリロニトリルの共重合成分は、通常のアクリル繊維を構成する共重合モノマーであれば特に限定されないが、例えば以下のモノマーが挙げられる。すなわち、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどの不飽和単量体などである。
【0021】
また、添加剤ポリマーは、特に限定されないが、アクリル樹脂系ポリマー、及びアクリル樹脂系ポリマー以外の一部のポリマーが挙げられる。アクリル樹脂系ポリマーを構成するモノマーは特に限定されないが、例えば以下のモノマーが挙げられ、このうちの1種以上を用いることができる。すなわち、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチルなどに代表されるアクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどの不飽和単量体などである。また、アクリル樹脂系ポリマー以外のポリマーとしては、セルロースアセテート、キトサン、ポリ塩化ビニル、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル、ポリペプチドなどが挙げられ、このうちの1種以上を用いることができる。
【0022】
フィブリル化する前のアクリル繊維の断面形状に特に限定するものではなく、円形、楕円形のみならず偏平、三角、Y型等の異形断面形状や、中空状のものであってもよい。また、フィブリル化後の繊維の断面形状にも特に限定するものではなく、円形もしくは種々の異型断面形状のものであってもよいが、良好な拭き取り性を考慮すると、異形断面形状が好ましい。
【0023】
アクリル不織ウェブの目付は、所望により適宜選択すればよいが、拭き取り性と吸液性を考慮すると、15〜70g/m
2程度がよい。
【0024】
ポリエステル長繊維不織ウェブとアクリル不織ウェブの間には、吸液性に優れ、かつ保液性を有するセルロース不織ウェブが存在する。セルロース不織ウェブは、吸液性と保液性が向上するために、繊維同士が交絡してなり、繊維間に適度な空隙を有するものが好ましい。繊維同士の交絡は、高圧液体柱状流を作用させて水流交絡処理を施すことにより形成されることが好ましい。水流交絡処理は、例えば、ニードルパンチによる交絡処理などと比較して、交絡処理の際に繊維を切断する等のダメージを与えることなく交絡させることができる。
【0025】
不織ウェブを構成する繊維の形態は、水流交絡処理による水流の作用によって、繊維が動き、交絡することができるものであればよい。連続してなる長繊維に比べて、特定の繊維長を有する短繊維は、水流の作用を受けやすい。したがって、3層の中間層であるセルロース不織ウェブを構成するセルロース繊維は、短繊維であることが好ましい。
【0026】
セルロース繊維としては、コットン繊維、レーヨン繊維、リヨセル繊維が挙げられる。セルロース繊維の繊維長は、交絡性を考慮して、10〜70mm程度がよい。セルロース不織ウェブの目付は、所望により適宜選択すればよいが、15〜120g/m
2程度がよい。また、後述するが、吸液した液体の保液層として効果的に機能させることを考慮すると、30g/m
2以上が好ましい。
【0027】
3層積層不織布において、アクリル不織ウェブとセルロース不織ウェブとは、いずれも吸液性を有するが、アクリル不織ウェブよりもセルロース不織ウェブは、吸液性に優れることから、アクリル不織ウェブが吸液した液体はセルロース不織ウェブ側に移行しやすく、逆に、セルロース不織ウェブ側に保持してなる液体は、押圧等の物理的な力が加わることによりアクリル不織ウェブ側へ移行するが、この場合、多く移行し過ぎない。したがって、アクリル不織ウェブ面を拭き取面として、液体を拭き取った際、吸液性を有するアクリル不織ウェブ面より、良好に液体を吸液し、吸収した液体は、さらに吸液性が優れる中層のセルロース不織ウェブ側へ良好に移行する。アクリル不織ウェブ面で吸収した液体が中層のセルロース不織ウェブ側へ移行することから、アクリル不織ウェブ面に保持する液体量が減少することから、拭き取り対象物には、いわゆる拭き跡が残ることなく、効果的に液体を拭き取ることができる。さらには、この場合の拭き取り面であるアクリル不織ウェブ面とは反対面となるポリエステル長繊維不織ウェブは、その構成繊維であるポリエステルの性質から、吸液性がなく、疎水性であることから、セルロース不織ウェブ内で吸収した液体は、ポリエステル長繊維不織ウェブ側に移行することはなく、セルロース不織ウェブ内で良好に保液されることから、手で把持して拭き取り作業を行った場合であっても、手に液体が付着しにくい。液体を拭き取る際には、このような優れた作用効果を発揮する。
【0028】
また、洗浄液や研磨液、ワックス等の機能性を有する清拭や塗り込み等の液体を、本発明の清拭布に含浸させて効果的に拭き取り作業を行うこともできる。本発明の清拭布は、洗浄液等の清拭等のための機能性液体を含ませた場合、上記したように吸液性に優れる中層のセルロース不織ウェブ中に主として保液される。そこで、アクリル不織ウェブ面側を拭き取り対象物に接触させて、拭き取り作業を行うと、押圧力により、中層のセルロース不織ウェブ中に保持していた洗浄液が、アクリル不織ウェブ面側に良好に移行し、拭き取り対象物に良好に到達し、拭き取り作業を行うことができる。また、セルロース不織ウェブからアクリル不織ウェブへは必要以上に液体が移行しすぎないため、拭き取り作業後には、対象物表面には、洗浄液が残らず、拭き残しがなく、優れた拭き取り性を発揮する。また、この場合も、拭き取り面であるアクリル不織ウェブ面とは反対面となるポリエステル長繊維不織ウェブは、疎水性であること、層間が交絡することなく一体化していることから、洗浄液等は、ポリエステル長繊維不織ウェブ側に移行しにくく、手で把持して拭き取り作業を行った場合でも、手には洗浄液等が付着しにくい。
【0029】
上記した本発明の清拭布は、下記の方法により製造することができる。すなわち、適宜の目付のアクリル不織ウェブ、セルロース不織ウェブ、ポリエステル長繊維不織ウェブを準備し、これらのウェブどうしの間に接着剤を介して、アクリル不織ウェブ/セルロース不織ウェブ/ポリエステル長繊維不織ウェブを積層一体化させる。接着剤としては、ホットメルト接着剤を好ましく用い、層間にホットメルト接着剤を介在させて、熱処理を施すことにより熱接着一体化させるとよい。ホットメルト接着剤の形態としては、パウダー状のものや、短繊維状、くもの巣状等の開孔を有するシート状のもの等が挙げられる。また、ストライブ状や格子状、網の目状にラミネート樹脂を介して熱接着することもよい。ホットメルト接着剤やラミネート樹脂は、ポリアミド系やポリオレフィン系、ポリエステル系を用いることができる。いずれにしても、接着剤は、部分的に配置することが肝要である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の3層積層不織布からなる清拭布によれば、良好な吸液性を有し、吸収した液体を効果的に中層に保持できることから、拭き取った後に、液体による拭き残りがなく、拭き跡を残しにくいという効果を奏する。
【0031】
また、機能性の液体を含ませて拭き取り作業や磨き作業を行った場合でも、液体は、効果的に中層に保持し、作業中に必要な液量が拭き取り面に移行して作業を行うことができるため、効率的であり、かつ上と同様で、対象物の表面に液体による拭き跡を残しにくいという効果を奏する。
【0032】
さらに、剛性を有するポリエステル長繊維不織ウェブを有しているため、力をいれて作業しても、形態保持するため、作業効率が向上する。また、ふき取った液体や、含ませた機能性液体は、拭き取り面として使用するアクリル不織ウェブ側と反対面であるポリエステル長繊維不織ウェブ側に移行しにくく、手で把持して作業した場合でも、手指が汚れにくい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各特性値は、以下のようにして求めた。
(1) 融点(℃):パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を用い、昇温速度20℃/分で測定した。
(2)目付(g/m
2):標準状態の試料から縦10cm×横10cmの試料片10点を作成し、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算して目付(g/m
2)とした。
(3)長繊維の繊度(dtex):温度20℃、湿度60%の環境下で1昼夜保管した長さ1.8mの試料5点の質量について上皿天秤(Mettler AE50)を用いて測定し、その平均値より繊度を求めた。
【0034】
[長繊維不織布の製造]
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸(TPA)92mol%及びイソフタール酸(IPA)8mol%を用い、ジオール成分としてエチレングリコール(EG)100mol%を用いて共重合し、低融点ポリエステル(相対粘度〔ηrel〕1.44、融点230℃)を得た。この低融点ポリエステルに、結晶核剤として4.0質量%の酸化チタンを添加して、低融点ポリエステル重合体を準備した。一方、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸(TPA)100mol%とジオール成分としてエチレングリコール(EG)100mol%を用いて共重合し、高融点ポリエステル重合体(ポリエチレンテレフタレート、相対粘度〔ηrel〕1.38、融点260℃)を準備した。そして、
図4に示したノズル孔を用い、V字部に低融点ポリエステル重合体を供給し、+字部に高融点ポリエステル重合体を供給して、紡糸温度285℃、単孔吐出量8.33g/分で溶融紡糸した。なお、低融点ポリエステル重合体の供給量と高融点ポリエステル重合体の供給量の重量比は、1:2であった。
【0035】
ノズル孔から排出されたフィラメント群を、2m下のエアーサッカー入口に導入し、複合型ポリエステル長繊維の繊度が17デシテックスとなるように牽引した。エアーサッカー出口から排出された複合型ポリエステル長繊維群を開繊装置にて開繊した後、移動するネット製コンベア上に集積し、繊維ウェブを得た。この繊維ウェブを、表面温度が213℃のエンボスロール(各エンボス凸部先端の面積は0.7mm
2で、ロール全面積に対するエンボス凸部の占める面積率は15%)とフラットロールからなる熱融着装置に導入し、両ロール間の線圧300N/cmの条件で熱融着して、目付40g/m
2のポリエステル長繊維不織ウェブを得た。
【0036】
[3層積層不織布の製造]
精錬・漂白した木綿(繊維長 約25〜35mm)を用いて、大和機工株式会社製のサンプルローラーカード機にて目付約100g/m
2のセルロース不織ウェブを作成した。
【0037】
一方、アクリル不織ウェブとして、フィブリル化したアクリル繊維を主体とするアクリル不織ウェブ(三和製紙社製 商品名「サンモアNA92030」目付30g/m
2)を準備した。
【0038】
次に、アクリル不織ウェブ/セルロース不織ウェブ/ポリエステル長繊維不織ウェブとなるように積層して、それぞれの層の間に融点115℃のポリアミド系樹脂からなるくもの巣状のホットメルト接着シート(目付25g/m
2)を載せて、その上にテフロン(登録商標)のシート(厚み1mm)を載せて、さらにその上に170℃に加熱した表面平滑な金属板を載せることにより、上記不織布全面に5g/cm
2の加重を掛けて加熱し、2分間放置して、ホットメルト接着シートの構成樹脂を溶融させて、3層間を接着させ、3層積層不織布得た。得られた3層積層不織布を18cm×18cmの大きさに裁断して、清拭布とした。
【0039】
<拭き取り作業>
得られた清拭布を用いて、拭き取り作業を実際に行った。0.2ミリリットルの水を樹脂板上に載せ、その上に、広げた状態の清拭布を載せて(アクリル不織ウェブ側が拭き取り面として)、手で把持して水を拭き取った。拭き取りの際に、手指に水は移行することなく、また、拭き取り後の樹脂板上には、拭き跡はなかった。
【0040】
<機能性液体による塗り込み作業>
床用ワックス(リンレイ社製 種類:水性(樹脂系) 成分:合成樹脂(アクリル樹脂)、水)を10倍に薄めた溶液0.2ミリリットルを油と埃の汚れがこびり付いたポリプロピレン製のプレート(30cm×30cm)上に載せ、その上に広げた状態の清拭布を載せて(アクリル不織ウェブ側が拭き取り面として)、手で把持して15cm×15cmの範囲の汚れを拭き取りながらワックスをコートした。プレート表面の汚れは拭き取れ、さらに拭き跡拭き残りの無い状態でワックスがコートされ、プレート表面は光沢のある綺麗な状態となった。
【0041】
<吸液性評価>
また、アクリル不織ウェブとセルロース不織ウェブとの吸液性を確認するために、以下の試験を行った。
青色の水性染料系インキ(シャチハタ社製 スタンプインキ)8gを水1リットルで希釈した青色に着色された水を作成し、この着色水0.04ミリリットルを清拭布のアクリル不織ウェブ面側に滴下し、着色水の広がる領域を観察し、大きさを測定した。清掃布に吸い取られた着色水は、略円形状に広がったが、測定にあたっては、それぞれの面において、機械方向(MD)と機械方向と直交する方向(CD)の2方向について、最も長い箇所を測定した。結果は、下の表1のとおりである。なお、セルロース不織ウェブ側は、ポリエステル長繊維不織ウェブ側より観察することとなったが、ポリエステル長繊維の繊度が大きく、多くの開孔が存在することから、容易にセルロース不織ウェブ側での吸水領域を測定できた。
【0042】
【表1】
【0043】
滴下直後は、滴下された着色水は、速やかにセルロース不織ウェブ側に移行して広がり、その後、一部の着色水がアクリル不織ウェブ側内で広がっているが、その領域はセルロース不織ウェブよりも小さく、セルロース不織ウェブがアクリル不織ウェブよりも吸液性に優れることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明に用いる長繊維不織ウェブを構成する長繊維の横断面形状である略Y4形状の一つの略Y字を示した図である。
【
図2】本発明に用いる長繊維不織ウェブを構成する長繊維の横断面形状である略Y4形状を示した図である。
【
図3】本発明に用いる長繊維を得るためのY4形のノズル孔を示した図である。
【符号の説明】
【0045】
1 ポリエステル長繊維横断面形状である略Y4形状の一つの略Y字の下端
2 略Y4形状で形成された凹部
3 略Y4形状で形成された凸部
4 略Y4形状で形成された小凹部
5 略Y4形状中の略十字部
6 略Y4形状中の略V字部