(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなキャスターを、身体障害者や高齢者を着座状態で浴槽内へ移送する入浴用車椅子などの搬送車に取り付けた場合、すなわち、搬送車の台車フレーム(筐体56に対応する)にキャスター軸(高さ調整ボルト55に対応する)を螺入して取り付け高さを調整し、調整した位置でナット(ナット57に対応する)を台車フレームに対して締めつけて固定した場合、搬送車を長期間使用しているとナットが緩み、台車フレームからキャスター軸が抜けてしまう可能性があった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、キャスター軸が台車フレームから抜けることを防止し、安全性を高めた搬送車およびキャスターの抜け止め構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る本発明の搬送車は、台車フレームと、前記台車フレームに取り付けられたキャスターとを備え、前記キャスターは、前記台車フレームに螺入するキャスター軸と、前記キャスター軸の下端部に取り付けられた車輪と、前記キャスター軸に螺着され前記キャスター軸を前記台車フレームに固定する固定部材と、を備え、前記キャスター軸が前記台車フレームから抜けることを防止する抜け止め構造を有
し、前記キャスター軸は、前記台車フレームと螺合する部分である第1ねじ部と、前記第1ねじ部とは逆向きのねじが形成された第2ねじ部とを有し、前記第2ねじ部に、前記第1ねじ部の外径よりも大きい外径を有する抜け止め部材が螺着され、前記第2ねじ部および前記抜け止め部材は前記抜け止め構造を構成し、前記キャスター軸は、大径部と、前記大径部よりも外径が小さく前記大径部の上に形成された小径部とを有し、前記第1ねじ部は前記大径部の外周面に形成された雄ねじであり、前記第2ねじ部は前記小径部の外周面に形成された雄ねじである、ことを特徴とする
。
【0007】
この構成によれば、
固定部材が緩み、台車フレームに対してキャスター軸が回転して下降し、抜け止め部材が台車フレームに接触し、さらにキャスター軸が回転して下降しようとする場合、抜け止め部材は締まる方向に作用するため、抜け止め部材によってキャスター軸が下降することを防止することができる。すなわち、キャスター軸
が台車フレームから抜けることを防止することができ、搬送車の安全性を向上することができる。
【0008】
請求項
2に係る搬送車では、
前記抜け止め部材は、前記第2ねじ部に螺着されるナットと、前記第1ねじ部の外径よりも大きい外径を有する座金とを有し、前記座金は前記ナットと前記第1ねじ部との間に配置されている。
【0009】
この構成によれば、座金が台車フレームに接触し、さらに台車フレームに対してキャスター軸が回転して下降しようとする場合、座金にかかる摩擦力はナットがキャスター軸に締め込まれる方向のものになるため、ナットがキャスター軸から抜けることはなく、キャスター軸が台車フレームから抜けることを防止することができる。また、抜け止め部材を簡単な構成とすることができる。
【0010】
請求項
3に係る搬送
車は、
台車フレームと、前記台車フレームに取り付けられたキャスターとを備え、前記キャスターは、前記台車フレームに螺入するキャスター軸と、前記キャスター軸の下端部に取り付けられた車輪と、前記キャスター軸に螺着され前記キャスター軸を前記台車フレームに固定する固定部材と、を備え、前記キャスター軸が前記台車フレームから抜けることを防止する抜け止め構造を有し、前記キャスター軸は、前記台車フレームと螺合する部分である第1ねじ部と、前記第1ねじ部とは逆向きのねじが形成された第2ねじ部とを有し、前記第2ねじ部に、前記第1ねじ部の外径よりも大きい外径を有する抜け止め部材が螺着され、前記第2ねじ部および前記抜け止め部材は前記抜け止め構造を構成し、前記キャスター軸は、上端部から軸心方向に形成されたねじ穴を有し、前記第1ねじ部は前記キャスター軸の外周面に形成された雄ねじであり、前記第2ねじ部は前記ねじ穴の内周面に形成された雌ねじであ
り、前記抜け止め部材は、前記第2ねじ部に螺着されるボルトと、前記第1ねじ部の外径よりも大きい外径を有する座金とを有し、前記座金は前記ボルトの頭部と前記キャスター軸との間に配置された、ことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、
固定部材が緩み、台車フレームに対してキャスター軸が回転して下降し、抜け止め部材の座金が台車フレームに接触し、さらに台車フレームに対してキャスター軸が回転して下降しようとする場合、座金にかかる摩擦力はボルトがキャスター軸に締め込まれる方向のものになるため、ボルトがキャスター軸から抜けることはな
い。すなわち、キャスター軸が台車フレームから抜けることを防止することができ
、搬送車の安全性を向上することができる。また、抜け止め部材を簡単な構成とすることができる。
【0012】
請求項
4に係る
キャスターの抜け止め構造は、
筐体に取り付けたキャスターの抜けを防止する構造であって、前記キャスターは、大径部、および、前記大径部よりも外径が小さく前記大径部の上に形成された小径部を有するキャスター軸と、前記キャスター軸の下端部に取り付けられた車輪と、前記大径部に螺着され前記キャスター軸を前記筐体に固定する固定部材と、を備え、前記大径部と前記小径部の外周面に雄ねじが形成され、前記大径部の雄ねじと前記小径部の雄ねじは逆向きに形成され、前記大径部の外径よりも大きい外径を有する抜け止め部材を前記小径部に螺着した、ことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、固定部材が緩み、筐体に対してキャスター軸が回転して下降し、抜け止め部材が筐体に接触し、さらにキャスター軸が回転して下降しようとする場合、抜け止め部材は締まる方向に作用するため、抜け止め部材によってキャスター軸が下降することを防止することができる。すなわち、キャスター軸が筐体から抜けることを防止することができる。
【0014】
請求項
5に係るキャスターの抜け止め構造では、前記抜け止め部材は、前記小径部に螺着されるナットと、前記大径部の外径よりも大きい外径を有する座金とを有し、前記座金は前記ナットと前記大径部との間に配置されている
。
【0015】
この構成によれば、
座金が筐体に接触し、さらに
筐体に対してキャスター軸が回転して下降しようとする場合、
座金にかかる摩擦力はナットがキャスター軸に締め込まれる方向のものになるため、ナットがキャスター軸から抜けることはなく、キャスター軸が筺体から抜けることを防止することができる。
また、抜け止め部材を簡単な構成とすることができる。
【0016】
請求項
6に係るキャスターの抜け止め構
造は、
筐体に取り付けたキャスターの抜けを防止する構造であって、前記キャスターは、外周面に雄ねじが形成され前記筐体に螺入するキャスター軸と、前記キャスター軸の下端部に取り付けられた車輪と、前記キャスター軸に螺着され前記キャスター軸を前記筐体に固定する固定部材と、を備え、前記キャスター軸は、上端部から軸心方向に形成されたねじ穴を有し、前記ねじ穴の内周面には前記キャスター軸の外周面に形成された雄ねじと逆向きの雌ねじが形成され、前記ねじ穴に、前記キャスター軸の外径よりも大きい外径を有する抜け止め部材を螺着し、前記抜け止め部材は、前記ねじ穴に螺着されるボルトと、前記キャスター軸の外径よりも大きい外径を有する座金とを有し、前記座金は前記ボルトの頭部と前記キャスター軸との間に配置され
た、ことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、固定部材が緩み、筐体に対してキャスター軸が回転して下降
し、抜け止め部材の座金が筐体に接触し、さらにキャスター軸が回転して下降しようとする場合、座金にかかる摩擦力はボルトがキャスター軸に締め込まれる方向のものになるため、ボルトがキャスター軸から抜けることはなく、キャスター軸が筐体から抜けることを防止することができる。
また、抜け止め部材を簡単な構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、固定部材が緩み、台車フレーム(または筐体)に対してキャスター軸が回転して下降する場合、抜け止め構造によりキャスター軸がさらに下降して台車フレーム(または筐体)から抜けることを防止することができ、安全性を高めた搬送車およびキャスターの抜け止め構造を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態1)
実施の形態1にかかる搬送車の構成について図を参照して説明する。ここで、搬送車とは、車椅子、ストレッチャーまたは台車などのように人や物を搬送するものをいう。
図1は搬送車の一例である入浴用車椅子の側面図であり、
図2は
図1の入浴用車椅子の背面図であり、
図3は
図1の入浴用車椅子の台車部を示す側面図であり、
図4は浴槽内に入浴用車椅子を挿入する前の状態を示す外観斜視図であり、
図5は浴槽内に入浴用車椅子を挿入した後の状態を示す外観斜視図である。なお、
図4に示すように空間軸を定義し、それぞれ、前後方向、左右方向、上下方向とする。
【0021】
図1〜3に示すように、入浴用車椅子(以下、単に「車椅子」ともいう)1は、床面を走行可能な台車部2と、台車部2に対して前後方向に起倒回動できるように設けられた座椅子部3とから構成されている。座椅子部3は、入浴者の上体を支持する背凭れ部4と、背凭れ部4の下方に後方部が固着されるとともに背凭れ部4に対してほぼ直交して前方へ延出する座面部5と、座面部5の前方部に連結され入浴者の下腿を受ける面を有する下腿受け部6と、下腿受け部6から前方へ突出し入浴者の足を載せる足載せ部7とを有しており、これらにより着座空間が形成される。
【0022】
また、座面部5の左右側方の位置にはそれぞれ入浴者が握ることができるサイド手摺8が前後方向に延在するように設けられている。背凭れ部4の背面側には背凭れ部4を保持する背面フレーム9が設けられている。背面フレーム9は、背凭れ部4の周縁部を支持するとともに適宜中間部を支持するように、例えば金属製のパイプで形成されている。背面フレーム9には、車椅子1を走行させる際や座椅子部3を起倒回動する際に入浴介助者が握る操作バー10が設けられている。また、背面フレーム9の左右両側には、車椅子1を浴槽に固定する際に使用されるロック金具11が設けられている。
【0023】
台車部2は、座椅子部3を支持する台車フレーム(筐体)12と、台車フレーム12の前後左右の四隅に取り付けられたキャスター13と、左右方向に離間して台車フレーム12に固定された2個のローラ支持板14と、それぞれのローラ支持板14に取り付けられた複数のガイドローラ15と、左右方向に離間して設けられた2個のガイドレール16と、回動可能なロック解除ペダル17と、解除ペダル17の一端部に連結されかつ左右方向に延設されたロック棒47と、操作された解除ペダル17を元に戻すように解除ペダル17に付勢するばね48などを有している。ガイドレール16は円弧状であり、ガイドレール16には、円弧状ガイド溝16aと、円弧状ガイド溝16aの前側の端部に円弧の径が大きくなる方向に屈曲した前側ガイド溝16bと、ガイド溝16aの後側の端部に前側ガイド溝16bと同様な後側ガイド溝16cからなるガイド溝が形成されている。このガイド溝にはロック棒47が挿通されている。
【0024】
背凭れ部4はガイドレール16と接続されており、介助者が操作バー10を操作して、座椅子部3が後方に倒れた状態(
図1に実線で示す状態)や、座椅子部3が起立した状態(
図1に一点鎖線で示す状態)になるようにする場合、ガイドレール16は前後方向に移動する。このとき、ガイドレール16の移動はガイドローラ15によって案内支持される。ロック棒47が前側ガイド溝16bに嵌合すると座椅子部3が所定前方位置においてロックされ、座椅子部3の後方への倒伏回動が規制される。また、ロック棒47が後側ガイド溝16cに嵌合すると座椅子部3が所定後方位置においてロックされ、座椅子部3の前方への起立回動が規制される。このような座椅子部3のロック状態は、ロック棒47に連結されたロック解除ペダル17を操作することによって解除することができる。
【0025】
次に、車椅子1とセットで使用される浴槽などの構成について説明する。
図4に示すように、浴槽18と、浴槽18に供給する湯水を貯める貯湯槽19と、浴槽18および貯湯槽19の側面などを覆うカバー20とが設けられており、カバー20の一部(一点鎖線で示す部分)を切り欠いて示している。浴槽18の後面には、車椅子1が出入りするための開口部21が設けられており、開口部21と反対の側(浴槽18の前側)には貯湯槽19が設けられている。浴槽18には、入浴時の各種操作を指示する釦や温度などの情報を表示する表示部を備えた操作パネル22が設けられている。浴槽18の底壁には2個の排水栓(図示省略)が設けられ、浴槽18の側壁の上面には2個の排水栓それぞれを開閉するための2個の摘み23が設けられている。浴槽18と貯湯槽19とは一体的に組み合わされて形成されているが、別々に離れた構成であってもよい。
【0026】
浴槽18の後面は、車椅子1の背凭れ部4に形成される平坦面と当接する接合面18rとなっており、浴槽18の左右の側壁の後面と、浴槽18の底壁の後面とから構成され、略U字形状となっている。接合面18rは、上方から下方に向かうにしたがって開口部21側から浴槽18の前側の方向(貯湯槽19の方向)に傾斜している。接合面18rには弾性ゴムよりなるシールパッキン24が設けられており、車椅子1の背凭れ部4が浴槽18の接合面18rに当接したとき、シールパッキン24は背凭れ部4の周縁部(左側、右側および下側)の平坦面と接合面18rとの間を水密にシールする。
【0027】
浴槽18の左右の側壁それぞれの内壁面には、ジェット噴流用の噴流口25が設けられている。浴槽18の左右の側壁それぞれの上面には、開口部21側に肩掛けシャワー26が設けられている。浴槽18の右側の側壁にはハンドシャワー27が掛けられている。浴槽18の左側の側壁の内壁面には、貯湯槽19から浴槽18へ供給する湯水が流れ出る供給口(図示省略)が設けられている。浴槽18の下部には互いに平行な左右の車椅子ガイドレール28が設けられている。左右の車椅子ガイドレール28は浴槽18の後方へ突き出ており、その先端部28aは外側方向にハの字状に屈曲形成されている。車椅子ガイドレール28は、車椅子1を浴槽18内に挿入するときのガイドとなる。
【0028】
浴槽18の左右の側壁のそれぞれにアクチュエータ(図示省略)およびフック部材29が設けられている。アクチュエータはフック部材を駆動するものであり、アクチュエータおよびフック部材29は、車椅子1を浴槽18に固定するための固定手段である。座椅子部3が後方に倒れた状態(
図1に実線で示す状態)の車椅子1を浴槽18内に挿入すると、車椅子1の背凭れ部4に設けられた左右のロック金具11にフック部材29が引っ掛かり、アクチュエータがフック部材29を回動させることで、フック部材29がロック金具11を押圧して車椅子1の背凭れ部4を浴槽18の接合面18rに密着させる。これにより、
図5に示すように、浴槽18の開口部21は車椅子1の背凭れ部4によって閉塞される。また、フック部材29の先端を、下方を除いて包囲するように防護カバー30を設けている。防護カバー30は、フック部材29を回動させてロック金具11を押圧するときに、フック部材29とロック金具11との間への異物の接近を防いでいる。なお、
図4では、浴槽18の右側の側壁に取り付けられた防護カバー30を省略して示している。
【0029】
次に、車椅子1を用いた入浴方法について説明する。初めに入浴用の湯水を給水源および給湯源から貯湯槽19に供給して貯める。その後、介助者が入浴者を載せた車椅子1を一対の車椅子ガイドレール28に沿わせながら開口部21から浴槽18内へ挿入し、車椅子1が所定の位置(フック部材29がロック金具11に引っ掛かることができる位置)まで挿入された状態(仮ロック状態)になると、操作パネル22の所定の発光ダイオード(LED)が点灯し、介助者は仮ロック状態になったことを認識する。その後、介助者が操作パネル22を操作して入浴を指示すると、浴槽18に設けられたアクチュエータによって車椅子1が浴槽18内へ引き込まれ、車椅子1の背凭れ部4によって開口部21が閉塞され、車椅子1が浴槽18に固定される。続いて貯湯槽19から浴槽18へ湯水が供給され、入浴者を入浴に供する。入浴が終わると、介助者は摘み23を操作し排水栓を開の状態にして、浴槽18内の湯水を排出する。その後、アクチュエータによって浴槽18に対する車椅子1の固定状態が解除され、介助者が車椅子1を浴槽18内から退出させる。
【0030】
次に、車椅子1の台車フレーム12に取り付けられたキャスター13について
図6、7を用いて説明する。
図6は
図2のA−A線で切断した部分断面図であり、台車フレーム12にキャスター13を取り付けて固定した通常状態を示す。
図7は台車フレーム12に対してキャスター13が下降した状態を示す部分断面図である。
【0031】
キャスター13は、車輪31と、車輪31を水平軸周りに回転可能に支持する車輪支持部材32と、車輪支持部材32に接合されかつ台車フレーム12に螺入されるキャスター軸33と、キャスター軸33に螺着された固定用ナット34と、車輪支持部材32に設けられ車輪31をロックするロック操作部材35とを有している。車輪支持部材32はキャスター軸33に対して垂直軸周りに回転可能である。
【0032】
キャスター軸33は、台車フレーム12と螺合する大径部33aと、大径部33aよりも外径が小さく大径部33aの上に設けられた小径部33bと、大径部33aの下に設けられ下側部分が車輪支持部材32に挿入される軸下部33cとから構成されている。大径部33aの外周面には雄ねじ(第1ねじ部)が形成されており、台車フレーム12のキャスター取付穴12aの内周面と固定用ナット34の内周面には雌ねじが形成されている。固定用ナット34はキャスター軸33の大径部33aに螺着されており、キャスター軸33の大径部33aを台車フレーム12のキャスター取付穴12aに螺入して、固定用ナット34を締め付けることにより、キャスター軸33は台車フレーム12に固定される。すなわち、固定用ナット34はキャスター軸33を台車フレーム12に固定する固定部材である。
【0033】
キャスター軸33の小径部33bの外周面には雄ねじ(第2ねじ部)が形成されている。キャスター軸の小径部33bには、平座金36およびばね座金37が順に嵌められ、抜け止め用ナット38が螺着されている。抜け止め用ナット38として、例えば六角袋ナットや六角ナットを用いることができる。平座金36の外径はキャスター軸33の大径部33aの外径よりも大きく設定されている。例えば、キャスター軸33の大径部33aおよび小径部33bの外径はそれぞれ16mm、8mmであり、平座金36の外径は20mmである。平座金36、ばね座金37および抜け止め用ナット38は、キャスター軸33が台車フレーム12から抜けるのを防止するための抜け止め部材39を構成する。また、キャスター軸33の大径部33aと小径部33bに形成された雄ねじは、逆向きのねじになっている。例えば、キャスター軸33の大径部33aには右ねじが形成され、キャスター軸33の小径部33bには左ねじが形成され、台車フレーム12のキャスター取付穴12aの内周面には右ねじが形成され、抜け止め用ナット38のねじ部分には左ねじが形成されている。
【0034】
ここで、
図6に示す通常状態において固定用ナット34が緩み、台車フレーム12に対してキャスター軸33が左回転して下降し、
図7に示すように平座金36が台車フレーム12に接触したとする。さらにキャスター軸33が左回転して下降しようとする場合、キャスター軸33の大径部33aと小径部33bの外周面には逆向きの雄ねじが形成されているので、抜け止め用ナット38は締まる方向に作用し、抜け止め用ナット38によってキャスター軸33がさらに左回転して下降することを防止することができる。すなわち、平座金36にかかる摩擦力は抜け止め用ナット38がキャスター軸33に締め込まれる方向のものになるため、抜け止め用ナット38がキャスター軸33から抜けることはなく、キャスター軸33が台車フレーム12から抜けることを防止することができる。このため、車椅子1の安全性を向上することができる。なお、固定用ナット34が緩む原因として、車椅子1を使用するときの振動、キャスター13の回転(車輪支持部材32の垂直軸周りの回転)、車輪31と床面が接する位置がキャスター軸33の中心軸の延長線上にないことなどが挙げられる。また、固定用ナット34が緩むと車輪支持部材32の回転に伴ってキャスター軸33も同じ方向に回転することがあり、車椅子1の使用状況などによって、キャスター軸33の左回転が右回転よりも多くなり、台車フレーム12に対してキャスター軸33が下降するものと考えられる。
【0035】
以上のように、キャスター軸33は、台車フレーム12と螺合する部分である第1ねじ部(大径部33aの外周面に形成された雄ねじ)と、第1ねじ部とは逆向きのねじが形成された第2ねじ部(小径部33bの外周面に形成された雄ねじ)とを有している。第2ねじ部に、第1ねじ部の外径よりも大きい外径を有する抜け止め部材39が螺着され、第2ねじ部および抜け止め部材39はキャスターの抜け止め構造を構成する。抜け止め部材39は、平座金36、ばね座金37および抜け止め用ナット38から構成されているが、少なくともナットと座金(第1ねじ部の外径よりも大きい外径を有する座金)により抜け止め部材39を構成することで、キャスター軸33が台車フレーム12から抜けることを防止することができる。
【0036】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2によるキャスターの抜け止め構造について説明する。
図8は実施の形態2によるキャスターの抜け止め構造を示す断面図であり、台車フレーム12のキャスター取付部分(キャスターを取り付けている円筒形状の部分)を拡大して示している。実施の形態1と実施の形態2によるキャスターの抜け止め構造を比べると、キャスター軸の上端部の構造および抜け止め部材が異なっており、その他の構成は同じであるため、車輪31、車輪支持部材32およびロック操作部材35は図示を省略している。
図8(a)は台車フレーム12にキャスターを取り付けて固定した通常状態を示しており、
図8(b)は台車フレーム12に対してキャスターが下降した状態を示している。
【0037】
キャスター軸40は、軸の途中から上端部までの範囲が台車フレーム12に螺合する螺合部40aであり、螺合部40aの外周面には雄ねじ(第1ねじ部)が形成されている。キャスター軸40の螺合部40aの下側は、キャスター軸33の軸下部33cと同様に下側部分が車輪支持部材32に挿入される軸下部である。キャスター軸40の上端部には軸心方向にねじ穴40bが形成されており、ねじ穴40bの内周面には雌ねじ(第2ねじ部)が形成されている。ねじ穴40bには、外周面に雄ねじが形成されたボルト(例えば六角穴付きボルト)41が螺着されている。ボルト41の頭部とキャスター軸40の上端部との間には、キャスター軸40の上端部側から平座金36およびばね座金37が順に嵌められている。平座金36の外径はキャスター軸40の螺合部40aの外径よりも大きく設定されている。例えば、キャスター軸40の螺合部40aの外径は16mm、ボルト41のねじ部分の外径は8mm、平座金36の外径は20mmである。平座金36、ばね座金37およびボルト41は、キャスター軸40が台車フレーム12から抜けるのを防止するための抜け止め部材42を構成する。また、キャスター軸40の螺合部40aに形成された雄ねじとねじ穴40bに形成された雌ねじは、逆向きのねじになっている。例えば、キャスター軸40の螺合部40aには右ねじが形成され、キャスター軸40のねじ穴40bには左ねじが形成され、台車フレーム12のキャスター取付穴12aの内周面には右ねじが形成され、ボルト41のねじ部分には左ねじが形成されている。
【0038】
ここで、
図8(a)に示す通常状態において固定用ナット34が緩み、台車フレーム12に対してキャスター軸40が左回転して下降し、
図8(b)に示すように平座金36が台車フレーム12に接触したとする。さらにキャスター軸40が左回転して下降しようとする場合、キャスター軸40の螺合部40aに形成された雄ねじとねじ穴40bに形成された雌ねじは、逆向きのねじになっているので、ボルト41は締まる方向に作用し、ボルト41によってキャスター軸40がさらに左回転して下降することを防止することができる。すなわち、平座金36にかかる摩擦力はボルト41がキャスター軸40に締め込まれる方向のものになるため、ボルト41がキャスター軸40から抜けることはなく、キャスター軸40が台車フレーム12から抜けることを防止することができる。このため、車椅子1の安全性を向上することができる。
【0039】
以上のように、キャスター軸40は、台車フレーム12と螺合する部分である第1ねじ部(キャスター軸40の螺合部40aの外周面に形成された雄ねじ)と、第1ねじ部とは逆向きのねじが形成された第2ねじ部(ねじ穴40bの内周面に形成された雌ねじ)とを有している。第2ねじ部に、第1ねじ部の外径よりも大きい外径を有する抜け止め部材42が螺着され、第2ねじ部および抜け止め部材42はキャスターの抜け止め構造を構成する。抜け止め部材42は、平座金36、ばね座金37およびボルト41から構成されているが、少なくともボルトと座金(第1ねじ部の外径よりも大きい外径を有する座金)により抜け止め部材42を構成することで、キャスター軸40が台車フレーム12から抜けることを防止することができる。
【0040】
(
参考例)
次に、
参考例のキャスターの抜け止め構造について説明する。
図9は
参考例のキャスターの抜け止め構造を示す断面図であり、台車フレーム12のキャスター取付部分を拡大して示している。実施の形態1と
参考例のキャスターの抜け止め構造を比べると、キャスター軸の上端部の構造および抜け止め部材が異なっており、その他の構成は同じであるため、車輪31、車輪支持部材32およびロック操作部材35は図示を省略している。
図9(a)は台車フレーム12にキャスターを取り付けて固定した通常状態を示しており、
図9(b)は台車フレーム12に対してキャスターが下降した状態を示している。
【0041】
キャスター軸43は、台車フレーム12のキャスター取付穴12aと螺合する雄ねじが外周面に形成された第1領域(螺合部)43aと、第1領域43aよりも細くなった第2領域(非螺合部)43bとを有している。キャスター軸43の軸方向において、第2領域43bの両側に第1領域43aが配置されており、第2領域43bにおけるキャスター軸43の外周面はねじが形成されておらず平坦面となっている。例えば、キャスター軸43の第1領域43aの外径は16mm、第2領域43bの外径は13mmであり、第1領域43aの外周面には右ねじが形成され、台車フレーム12のキャスター取付穴12aの内周面には右ねじが形成されている。また、第2領域43bの上下方向の長さは、台車フレーム12のキャスター取付穴12aの上下方向の長さよりも長く設定されている。
【0042】
キャスター軸43は、第1領域43aが台車フレーム12のキャスター取付穴12aに螺入されて、
図9(a)に示すように固定用ナット34によってキャスター軸43が台車フレーム12に固定される。ここで、固定用ナット34が緩み、台車フレーム12に対してキャスター軸43が左回転して下降し、
図9(b)に示すように台車フレーム12のキャスター取付穴12aとキャスター軸43の第1領域(下側の第1領域)43aとの螺合が外れたものとする。このような状態になった場合、通常台車フレーム12には下向きの荷重がかかっており、キャスター軸43の第1領域(上側の第1領域)43aと台車フレーム12のキャスター取付穴12aとが螺合する可能性は極めて低い。このため、キャスター軸43が台車フレーム12から抜けることを防止することができる。このように、キャスター軸43の第2領域43bはキャスターの抜け止め構造を構成する。この構成により、車椅子1の安全性を向上することができる。
【0043】
(実施の形態
3)
次に、実施の形態
3によるキャスターの抜け止め構造について説明する。
図10は台車フレーム12にキャスター13を取り付けて固定した通常状態を示す部分断面図である。実施の形態1と実質的に同じ構成については同じ符号を用いており、説明が重複する部分は適宜説明を省略する。実施の形態1と異なる点は、台車フレーム12のキャスター取付部分が例えば円柱形状になっており、円柱形状の中心軸に沿ってキャスター取付穴12aが設けられていることである。すなわち、キャスター取付部分の上下方向の全体がキャスター軸33の大径部33aと螺合するように、キャスター取付穴12aの内面に雌ねじが形成されている。そして、通常状態において平座金36、ばね座金37および抜け止め用ナット38からなる抜け止め部材39が、台車フレーム12のキャスター取付部分の上面より上方に位置している。例えば、キャスター軸33の大径部33aには右ねじが形成され、キャスター軸33の小径部33bには左ねじが形成され、台車フレーム12のキャスター取付穴12aの内周面には右ねじが形成され、抜け止め用ナット38のねじ部分には左ねじが形成されている。
【0044】
ここで、
図10に示す通常状態において固定用ナット34が緩み、台車フレーム12に対してキャスター軸33が左回転して下降し、平座金36が台車フレーム12のキャスター取付部分の上面に接触したとする。さらにキャスター軸33が左回転して下降しようとする場合、実施の形態1と同様に、抜け止め用ナット38がキャスター軸33から抜けることはなく、キャスター軸33が台車フレーム12から抜けることを防止することができる。このため、車椅子1の安全性を向上することができる。また、抜け止め部材39が台車フレーム12の上面より上方に位置しているため、キャスター軸33を台車フレーム12のキャスター取付穴12aに螺入した後、抜け止め部材39をキャスター軸33の小径部33bに螺着する際の作業を行いやすい。また、抜け止め部材39がキャスター取付部分の上面に接触する状態で、台車フレーム12にキャスター13を取り付け、固定用ナット34で固定してもよい。この場合には、固定用ナット34および抜け止め部材39によってキャスター軸13を台車フレーム12に固定することができる。
【0045】
上記実施の形態1、2、
3では、キャスター軸の抜け止め部材としてナットまたはボルトを用いた例を説明したが、スプリングピン、Rピン(スナップピン)、割りピン、平行ピンなどのピンや、C型止め輪、E型止め輪、スピードワッシャなどの止め輪を用いることができる。
図11は、キャスター軸の抜け止め部材としてスプリングピンを用いた例を示している。キャスター軸44の外周面には、台車フレーム12のキャスター取付穴12aに螺合する雄ねじが形成されており、キャスター軸44の先端部44aにはスプリングピン45が取り付けられている。台車フレーム12にはスプリングピン45を挿入するためのピン挿入穴46が設けられている。台車フレーム12のキャスター取付穴12aにキャスター軸44を螺入した後、ピン挿入穴46を介してキャスター軸44の先端部44aにスプリングピン45を挿入して取り付けることで、
図11の構成が得られる。固定用ナット34が緩み、台車フレーム12に対してキャスター軸44が回転して下降するとスプリングピン45が台車フレーム12に接触するため、スプリングピン45によって、キャスター軸44が台車フレーム12から抜けることを防止することができる。このため、車椅子1の安全性を向上することができる。
【0046】
上記の各実施の形態では、搬送車の一例として、浴槽の開口部を背凭れ部で閉塞するタイプの入浴用車椅子を例にして説明したが、浴槽の開閉扉で浴槽の開口部が閉塞される入浴装置に用いられ、浴槽内に挿入されるタイプの入浴用車椅子や、入浴者を載せた担架を搬送する入浴用ストレッチャーに対しても本発明を適用することができる。また、本発明は、台車、入浴用以外の車椅子やストレッチャーなど、キャスターが用いられる搬送車に適用することができる。