特許第6795211号(P6795211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795211分泌型免疫グロブリンA(sIgA)結合核酸分子、sIgA分析用センサ、およびsIgAの分析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795211
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】分泌型免疫グロブリンA(sIgA)結合核酸分子、sIgA分析用センサ、およびsIgAの分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20201119BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20201119BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20201119BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20201119BHJP
   G01N 33/566 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C12N15/115 ZZNA
   C12Q1/68
   C12M1/34 Z
   G01N33/53 N
   G01N33/566
【請求項の数】3
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2018-539512(P2018-539512)
(86)(22)【出願日】2017年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2017015934
(87)【国際公開番号】WO2018051569
(87)【国際公開日】20180322
【審査請求日】2019年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-180892(P2016-180892)
(32)【優先日】2016年9月15日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業研究成果最適プログラム シーズ育成タイプ「人工核酸によるバイオマーカー簡易検出センサの技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000232092
【氏名又は名称】NECソリューションイノベータ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】皆川 宏貴
(72)【発明者】
【氏名】堀井 克紀
(72)【発明者】
【氏名】秋冨 穣
(72)【発明者】
【氏名】金子 直人
(72)【発明者】
【氏名】和賀 巌
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 正靖
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第105738633(CN,A)
【文献】 国際公開第2015/064223(WO,A1)
【文献】 特開2016−056136(JP,A)
【文献】 特開2013−040118(JP,A)
【文献】 特開平10−239312(JP,A)
【文献】 特開平10−274654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C12Q 1/00 − 1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記(a)のポリヌクレオチドを含む、sIgA結合核酸分子
(a)配列番号9、11、15、および21のいずれかの塩基配列からなるポリヌクレオチド
配列番号9、11、および21の塩基配列において、下記表1において、下線で示すチミンを含むヌクレオチド残基が、下記化学式(2)で示すヌクレオチド残基であり、
配列番号15の塩基配列において、下記表1において、下線で示すチミンを含むヌクレオチド残基が、下記化学式(3)で示すヌクレオチド残基である。
【表1】
【化2】
【化3】
【請求項2】
請求項1に記載の分泌型免疫グロブリンA(sIgA)結合核酸分子を含むことを特徴とする、sIgA分析用センサ。
【請求項3】
試料と核酸分子とを接触させ、前記試料中の分泌型免疫グロブリンA(sIgA)を検出する工程を含み、
前記核酸分子が、請求項1に記載のsIgA結合核酸分子であり、
前記検出工程において、前記試料中のsIgAと前記核酸分子とを結合させて、前記結合により、前記試料中のsIgAを検出することを特徴とする、sIgAの分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、sIgA結合核酸分子、sIgA分析用センサ、およびsIgAの分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ストレスが、疲労や鬱の一因となり得ることから、ストレスのチェックが重要視されている。しかしながら、ストレス状態か否かは、例えば、本人が気づいていない、または、主観的であるが故に他人によって判断することが難しいという問題がある。このため、ストレスを客観的に判断する方法の確立が求められている。
【0003】
ヒトは、ストレスを感じることにより、唾液中のsIgAの分泌が亢進することが知られている。そこで、前記唾液中のsIgAを測定することで、間接的にストレスを評価する方法が試みられている。具体的には、sIgAを抗原とする抗体を使用したELISA法が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、抗体は、タンパク質であり、安定性に問題があるため、低コストで簡易な検査法に抗体を用いることが難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】磯和 勅子、「看護師の職務ストレッサー,バーンアウトおよび身体的健康問題の関連:質問紙および免疫指標からの検討」、行動医学研究、Vol.10、No.1、25−33頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、sIgAの検出に利用可能な新たな分子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のsIgA結合核酸分子は、分泌型免疫グロブリンA(sIgA)に対する解離定数が、37.7nM以下の核酸分子であることを特徴とする。
【0008】
本発明のsIgA分析用センサは、前記本発明のsIgA結合核酸分子を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のsIgAの分析方法は、試料と核酸分子とを接触させ、前記試料中のsIgAを検出する工程を含み、
前記核酸分子が、前記本発明のsIgA結合核酸分子であり、
前記検出工程において、前記試料中のsIgAと前記核酸分子とを結合させて、前記結合により、前記試料中のsIgAを検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のsIgA結合核酸分子は、sIgAに対して前述のような解離定数で結合することができる。このため、本発明のsIgA結合核酸分子によれば、例えば、試料中のsIgAとの結合の有無によって、優れた精度で、sIgAを検出できる。したがって、本発明のsIgA結合核酸分子は、例えば、予防医学、健康管理、感染症等の診断、およびストレスの診断等の分野におけるsIgAの検出に、極めて有用なツールといえる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、実施例3におけるアプタマーのsIgAに対する結合能を示すグラフである。
図1B図1Bは、実施例3におけるアプタマーのsIgAに対する結合能を示すグラフである。
図1C図1Cは、実施例3におけるアプタマーのsIgAに対する結合能を示すグラフである。
図1D図1Dは、実施例3におけるアプタマーのsIgAに対する結合能を示すグラフである。
図1E図1Eは、実施例3におけるアプタマーのsIgAに対する結合能を示すグラフである。
図1F図1Fは、実施例3におけるアプタマーのsIgAに対する結合能を示すグラフである。
図2A図2Aは、実施例3におけるアプタマーのsIgAへの結合量の相対値(Relative Unit)を示すグラフである。
図2B図2Bは、実施例3におけるアプタマーのsIgAへの結合量の相対値を示すグラフである。
図2C図2Cは、実施例3におけるアプタマーのsIgAへの結合量の相対値を示すグラフである。
図2D図2Dは、実施例3におけるアプタマーのsIgAへの結合量の相対値を示すグラフである。
図3図3は、実施例3におけるアプタマーの結合量の相対値を示すグラフである。
図4図4は、実施例4におけるSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のsIgA結合核酸分子は、例えば、前記核酸分子が、下記(a)のポリヌクレオチド、またはその部分配列からなるポリヌクレオチドを含む。
(a)配列番号1〜12のいずれかの塩基配列からなるポリヌクレオチド
【0013】
本発明のsIgA結合核酸分子は、例えば、前記部分配列からなるポリヌクレオチドが、下記(a1)、(a2)、(a3)、および(a4)からなる群から選択された少なくとも一つのポリヌクレオチドである。
(a1)配列番号13、14、または15の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(a2)配列番号16または17の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(a3)配列番号18または19の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(a4)配列番号20または21の塩基配列からなるポリヌクレオチド
【0014】
本発明のsIgA結合核酸分子は、例えば、前記結合核酸分子が、塩基が修飾基で修飾された修飾塩基を含む。
【0015】
本発明のsIgA結合核酸分子は、例えば、前記修飾塩基が、プリン塩基が修飾基で修飾された修飾プリン塩基である。前記修飾基が、好ましくは、アデニン残基である。
【0016】
本発明のsIgA結合核酸分子は、例えば、前記修飾塩基が、チミン塩基が修飾基で修飾された修飾チミンである。前記修飾基が、好ましくは、アデニン残基またはグアニン残基である。
【0017】
本発明のsIgA結合核酸分子は、例えば、前記ポリヌクレオチドが、DNAである。
【0018】
本発明のsIgAの分析方法は、例えば、前記試料が、唾液、尿、血漿、および血清からなる群から選択された少なくとも一つである。
【0019】
以下、本発明について、具体的に説明する。
【0020】
(1)sIgA結合核酸分子
本発明のsIgA結合核酸分子(以下、「核酸分子」ともいう)は、前述のように、sIgAに対する解離定数が、37.7nM以下の核酸分子であることを特徴とする。
【0021】
本発明の核酸分子は、前述のようにsIgAに結合可能である。本発明の核酸分子は、例えば、sIgAを構成する免疫グロブリンの重鎖に結合してもよいし、免疫グロブリンの軽鎖に結合してもよいし、両者に結合してもよいし、2つのIgAの架橋部(J鎖)に結合してもよいし、sIgAと結合している分泌成分(secretory component)と結合してもよい。前記sIgAは、特に制限されず、その由来は、例えば、ヒト、非ヒト動物等があげられる。前記非ヒト動物は、例えば、マウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ等があげられる。ヒトIgα−1鎖のC領域(Ig alpha-1 chain C region)のアミノ酸配列の情報は、例えば、UniProt(http://www.uniprot.org/)アクセッション番号P01876に登録されており、また、ヒトIg−α2鎖のC領域(Ig alpha-2 chain C region)のアミノ酸配列の情報は、例えば、UniProt(http://www.uniprot.org/)アクセッション番号P01877に登録されている。
【0022】
本発明において、「sIgAに結合する」とは、例えば、sIgAに対する結合能を有している、または、sIgAに対する結合活性を有しているともいう。本発明の核酸分子と前記sIgAとの結合は、例えば、表面プラズモン共鳴分子相互作用(SPR;Surface Plasmon resonance)解析等により決定できる。前記解析は、例えば、ProteON(商品名 BioRad社)が使用できる。本発明の核酸分子は、sIgAに結合することから、例えば、sIgAの検出に使用できる。
【0023】
本発明の核酸分子は、前記sIgAに対する解離定数が、例えば、37.7nM以下、10nM以下、8nM以下、5nM以下である。本発明の核酸分子は、前記sIgAの検出限界濃度が、例えば、50nM、20nM、10nMである。
【0024】
本発明の核酸分子は、例えば、下記表1に示す、下記(a)のポリヌクレオチドを含む核酸分子があげられる。
(a)配列番号1〜12のいずれかの塩基配列からなるポリヌクレオチド
【0025】
【表1】
【0026】
本発明の核酸分子は、例えば、前記(a)のいずれかのポリヌクレオチドの部分配列からなるポリヌクレオチドを含む核酸分子があげられる。
【0027】
前記部分配列からなるポリヌクレオチドとしては、例えば、下記(a1)、(a2)、(a3)、および(a4)からなる群から選択された少なくとも一つのポリヌクレオチドがあげられる。
(a1)配列番号13、14、または15の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(a2)配列番号16または17の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(a3)配列番号18または19の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(a4)配列番号20または21の塩基配列からなるポリヌクレオチド
【0028】
前記(a1)は、配列番号5の部分配列の例であり、前記(a2)は、配列番号8の部分配列の例であり、前記(a3)は、配列番号11の部分配列の例であり、前記(a4)は、配列番号12の部分配列の例である。これらの配列を、下記表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
本発明の結合核酸分子において、前記ポリヌクレオチドは、例えば、下記(b)〜(d)からなる群から選択された少なくとも一つのポリヌクレオチドの意味を含む。
(b)前記(a)のいずれかの塩基配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、前記sIgAに結合するポリヌクレオチド
(c)前記(a)のいずれかの塩基配列に対して、80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、前記sIgAに結合するポリヌクレオチド
(d)前記(a)のいずれかの塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドに、相補的な塩基配列からなり、sIgAに結合するポリヌクレオチド
【0031】
前記(b)において、「1もしくは数個」は、例えば、前記(b)のポリヌクレオチドが、sIgAに結合する範囲であればよい。前記「1もしくは数個」は、例えば、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜3個、1または2個である。本発明において、塩基数および配列数等の個数の数値範囲は、例えば、その範囲に属する正の整数を全て開示するものである。つまり、例えば、「1〜5塩基」との記載は、「1、2、3、4、5塩基」の全ての開示を意味する(以下、同様)。
【0032】
前記(c)において、「同一性」は、例えば、前記(c)のポリヌクレオチドが、sIgAに結合する範囲であればよい。前記同一性は、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上である。前記同一性は、例えば、BLAST、FASTA等の解析ソフトウェアを用いて、デフォルトのパラメータにより算出できる(以下、同様)。
【0033】
前記(d)において、「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」は、例えば、前記(a)のポリヌクレオチドに対して、完全または部分的に相補的なポリヌクレオチドであり、前記sIgAに結合する範囲であればよい。前記ハイブリダイズは、例えば、各種ハイブリダイゼーションアッセイにより検出できる。前記ハイブリダイゼーションアッセイは、特に制限されず、例えば、ザンブルーク(Sambrook)ら編「モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第2版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd Ed.)」〔Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)〕等に記載されている方法を採用することもできる。
【0034】
前記(d)において、「ストリンジェントな条件」は、例えば、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件、高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。ストリンジェンシーの程度は、当業者であれば、例えば、温度、塩濃度、プローブの濃度および長さ、イオン強度、時間等の条件を適宜選択することで、設定可能である。「ストリンジェントな条件」は、例えば、前述したザンブルーク(Sambrook)ら編「モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第2版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd Ed.)」〔Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)〕等に記載の条件を採用することもできる。
【0035】
前記(a1)〜(a4)のポリヌクレオチドは、それぞれ、前記(a)のポリヌクレオチドの部分配列であることから、例えば、前記(b)、(c)または(d)の一例ともいえる。また、本発明の核酸分子が、前記(a1)〜(a4)のポリヌクレオチドである場合、前記(b)〜(d)のポリヌクレオチドは、前記(a)の塩基配列が、それぞれ、前記(a1)〜(a4)の塩基配列であってもよく、前記(b)〜(d)のポリヌクレオチドの説明において、「(a)のいずれかの塩基配列」および「(a)のポリヌクレオチド」を、それぞれ、「(a1)のいずれかの塩基配列」および「(a1)のいずれかのポリヌクレオチド」、「(a2)のいずれかの塩基配列」および「(a2)のいずれかのポリヌクレオチド」、「(a3)のいずれかの塩基配列」および「(a3)のいずれかのポリヌクレオチド」、または「(a4)のいずれかの塩基配列」および「(a4)のいずれかのポリヌクレオチド」に読み替えてその説明を援用できる。
【0036】
本発明の核酸分子において、前記ポリヌクレオチドの構成単位は、例えば、ヌクレオチド残基であり、デオキシリボヌクレオチド残基およびリボヌクレオチド残基があげられる。前記ポリヌクレオチドは、後述するように、例えば、デオキシリボヌクレオチド残基からなるDNA、デオキシリボヌクレオチド残基およびリボヌクレオチド残基を含むDNAであり、さらに、非ヌクレオチド残基を含んでもよい。本発明のsIgA結合核酸分子は、例えば、以下、アプタマーともいう。
【0037】
本発明の核酸分子は、例えば、前記いずれかのポリヌクレオチドからなる分子でもよいし、前記ポリヌクレオチドを含む分子でもよい。後者の場合、本発明の核酸分子は、例えば、後述するように、前記いずれかのポリヌクレオチドを2つ以上含んでもよい。前記2つ以上のポリヌクレオチドは、同じ配列でもよいし、異なる配列でもよい。また、後者の場合、本発明の核酸分子は、例えば、さらに、リンカーおよび/または付加配列等を有してもよい。ここで、前記リンカーとは、例えば、ポリヌクレオチド間の配列であり、前記付加配列とは、例えば、末端に付加された配列である。
【0038】
本発明の核酸分子が、例えば、複数の前記ポリヌクレオチドを含む場合、前記複数のポリヌクレオチドの配列が連結して、一本鎖のポリヌクレオチドを形成していることが好ましい。前記複数のポリヌクレオチドの配列は、例えば、それぞれが直接的に連結してもよいし、リンカーを介して、それぞれが間接的に連結してもよい。前記ポリヌクレオチドの配列は、それぞれの末端において、直接的または間接的に連結していることが好ましい。前記ポリヌクレオチドの配列を複数含む場合、前記配列の数は、特に制限されず、例えば、2以上、2〜20、2〜10、2または3である。
【0039】
前記リンカーの長さは、特に制限されず、例えば、1〜200塩基長、1〜20塩基長、3〜12塩基長、5〜9塩基長である。前記リンカーの構成単位は、例えば、ヌクレオチド残基であり、デオキシリボヌクレオチド残基およびリボヌクレオチド残基等があげられる。前記リンカーは、特に制限されず、例えば、デオキシリボヌクレオチド残基からなるDNA、リボヌクレオチド残基を含むDNA等のポリヌクレオチドがあげられる。前記リンカーの具体例として、例えば、ポリデオキシチミン(ポリdT)、ポリデオキシアデニン(ポリdA)、AとTの繰り返し配列であるポリdAdT等があげられ、好ましくはポリdT、ポリdAdTである。
【0040】
本発明の核酸分子において、前記ポリヌクレオチドは、一本鎖ポリヌクレオチドであることが好ましい。前記一本鎖ポリヌクレオチドは、例えば、自己アニーリングによりステム構造およびループ構造を形成可能であることが好ましい。前記ポリヌクレオチドは、例えば、ステムループ構造、インターナルループ構造および/またはバルジ構造等を形成可能であることが好ましい。
【0041】
本発明の核酸分子は、例えば、二本鎖でもよい。二本鎖の場合、例えば、一方の一本鎖ポリヌクレオチドは、前記(a)、その部分配列、前記(b)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを含み、他方の一本鎖ポリヌクレオチドは、制限されない。前記他方の一本鎖ポリヌクレオチドは、例えば、前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドに相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドがあげられる。本発明の核酸分子が二本鎖の場合、例えば、使用に先立って、変性等により、一本鎖ポリヌクレオチドに解離させることが好ましい。また、解離した前記(a)〜(d)のいずれかの一本鎖ポリヌクレオチドは、例えば、前述のように、ステム構造およびループ構造を形成していることが好ましい。
【0042】
本発明において、「ステム構造およびループ構造を形成可能」とは、例えば、実際にステム構造およびループ構造を形成すること、ならびに、ステム構造およびループ構造が形成されていなくても、条件によってステム構造およびループ構造を形成可能なことも含む。「ステム構造およびループ構造を形成可能」とは、例えば、実験的に確認した場合、および、コンピュータ等のシミュレーションで予測した場合の双方を含む。
【0043】
本発明の核酸分子の構成単位は、例えば、ヌクレオチド残基である。前記ヌクレオチド残基は、例えば、デオキシリボヌクレオチド残基およびリボヌクレオチド残基があげられる。本発明の核酸分子は、例えば、デオキシリボヌクレオチド残基のみから構成されるDNA、1もしくは数個のリボヌクレオチド残基を含むDNA等があげられる。後者の場合、「1もしくは数個」は、特に制限されず、例えば、前記ポリヌクレオチドにおいて、例えば、1〜91個、1〜30個、1〜15個、1〜7個、1〜3個、1または2個である。
【0044】
前記ポリヌクレオチドは、ヌクレオチド残基における塩基として、天然塩基を含んでもよいし、修飾塩基を含んでもよい。前記天然塩基(非人工塩基)は、特に制限されず、例えば、プリン骨格を有するプリン塩基、ピリミジン骨格を有するピリミジン塩基等があげられる。前記プリン塩基は、特に制限されず、例えば、アデニン(a)、グアニン(g)があげられる。前記ピリミジン塩基は、特に制限されず、例えば、シトシン(c)、チミン(t)、ウラシル(u)等があげられ、好ましくは、シトシン(c)、およびチミン(t)である。
【0045】
前記ポリヌクレオチドが前記修飾塩基を有する場合、その部位および個数は、特に制限されない。前記(a)のポリヌクレオチドまたはその部分配列が前記修飾塩基を有する場合、前記表1および表2のポリヌクレオチドにおいては、例えば、下線部のアデニンおよびチミンの一部または全部が、修飾塩基である。前記下線部のアデニンが修飾塩基の場合、前記修飾塩基は、プリン塩基が修飾基で修飾された修飾プリン塩基であることが好ましい。また、前記下線部のチミンが修飾塩基の場合、前記修飾塩基は、チミン塩基が修飾された修飾チミンであることが好ましい。
【0046】
前記修飾塩基は、例えば、塩基が修飾基で修飾されたものである。前記修飾基により修飾される塩基(被修飾塩基)は、例えば、前記天然塩基である。前記天然塩基は、例えば、プリン塩基、ピリミジン塩基等があげられる。前記修飾塩基は、特に制限されず、例えば、修飾アデニン、修飾グアニン、修飾シトシン、修飾チミン、修飾ウラシルがあげられる。
【0047】
前記修飾塩基は、例えば、前記被修飾塩基が、直接、前記修飾基で修飾されてもよいし、前記被修飾塩基が、間接的に、前記修飾基で修飾されてもよい。後者の場合、例えば、前記被修飾塩基が、リンカーを介して、前記修飾基で修飾される形態があげられる。前記リンカーは、特に制限されない。
【0048】
前記被修飾塩基の前記修飾基による修飾部位は、特に制限されない。前記塩基がプリン塩基の場合、前記プリン塩基の修飾部位は、例えば、前記プリン骨格の7位および8位があげられ、7位が好ましい。前記プリン塩基の修飾部位が7位の場合、7位の窒素原子は、炭素原子に置換されていることが好ましい。位前記塩基がピリミジン塩基の場合、前記ピリミジン塩基の修飾部位は、例えば、前記ピリミジン骨格の5位および6位があげられ、5位が好ましい。前記ピリミジン塩基の5位が修飾される場合、チミンは、5位の炭素にメチル基を有することから、例えば、5位の炭素に、直接的または間接的に前記修飾基が結合してもよいし、5位の炭素に結合したメチル基の炭素に、直接的または間接的に前記修飾基が結合してもよい。前記ピリミジン骨格において、4位の炭素に「=O」が結合し、5位の炭素に「−CH」または「−H」以外の基が結合している場合、修飾ウラシルまたは修飾チミンということができる。
【0049】
前記修飾塩基が修飾プリン塩基である場合、前記修飾基は、アデニン残基が好ましい。すなわち、前記修飾プリン塩基は、例えば、塩基が前記アデニン残基で修飾されている。前記アデニン残基が前記被修飾塩基を修飾する部位(前記アデニン残基における被修飾塩基との結合部位)は、特に制限されず、前記アデニン残基における6位の炭素に結合するアミノ基があげられる。前記アデニン残基で修飾される前記被修飾塩基は、特に制限されないが、例えば、プリン塩基が好ましく、プリン塩基の7位の原子が、前記アデニン残基で修飾されていることが好ましい。前記修飾塩基が修飾チミンである場合、前記修飾基は、アデニン残基またはグアニン残基が好ましい。すなわち、前記修飾塩基は、例えば、塩基が前記アデニン残基またはグアニン残基で修飾されている。前記アデニン残基が前記被修飾塩基を修飾する部位は、特に制限されず、例えば、前記アデニン残基における6位の炭素に結合するアミノ基があげられる。前記グアニン残基が前記被修飾塩基を修飾する部位は、特に制限されず、例えば、前記グアニン残基における2位の炭素に結合するアミノ基があげられる。前記アデニン残基または前記グアニン残基で修飾される前記被修飾塩基は、特に制限されないが、例えば、チミンが好ましく、チミンの5位の炭素に結合したメチル基の炭素が、前記アデニン残基または前記グアニン残基で修飾されていることが好ましい。
【0050】
前記修飾基が前記アデニン残基または前記グアニン残基の場合、例えば、以下に示すように、前記リンカーを介して、前記修飾基により前記被修飾塩基が修飾されていることが好ましい。
[ヌクレオチド残基]−[リンカー]−[アデニン残基]
[ヌクレオチド残基]−[リンカー]−[グアニン残基]
【0051】
前記リンカーは、特に制限されず、例えば、以下のように、前記ヌクレオチド残基と前記アデニン残基または前記グアニン残基との間の式で表されるが、これには限定されない。下記式において、(CH2)nにおけるnの数値は、例えば、1〜10、2〜10、2である。
[ヌクレオチド残基] =C-C(=O)-NH-(CH2)n- [アデニン残基]
[ヌクレオチド残基] =C-C(=O)-NH-(CH2)n- [グアニン残基]
[ヌクレオチド残基] -C=C-C(=O)-NH-(CH2)n- [アデニン残基]
[ヌクレオチド残基] =C-C(=O)-NH-CH2-CH2- [アデニン残基]
[ヌクレオチド残基] =C-C(=O)-NH-CH2-CH2- [グアニン残基]
[ヌクレオチド残基] -C=C-C(=O)-NH-CH2-CH2- [アデニン残基]
【0052】
前記式において、前記リンカーの一端[=C]および[−C]は、例えば、ヌクレオチド残基における被修飾塩基の炭素と、それぞれ、二重結合または単結合を形成し、前記リンカーの他端[CH−]は、例えば、アデニン残基またはグアニン残基のアミン(−NH)と結合している。
【0053】
前記ポリヌクレオチドにおける前記アデニン残基で修飾されたアデノシン(7位の窒素原子が炭素原子に置換されたプリン誘導体)ヌクレオチド残基の具体例として、例えば、下記化学式(1)に示す残基(以下、「MK4」ともいう)があげられる。また、前記ポリヌクレオチドにおける前記アデニン残基で修飾されたチミジンヌクレオチド残基の具体例として、例えば、下記化学式(2)に示す残基(以下、「KS9」ともいう)、前記ポリヌクレオチドにおける前記グアニン残基で修飾されたチミジンヌクレオチド残基の具体例として、例えば、下記化学式(3)に示す残基(以下、「NG7」ともいう)があげられる。なお、本発明は、これには限定されない。
【0054】
【化1】
【0055】
【化2】
【0056】
【化3】
【0057】
前記表1のポリヌクレオチドにおいて、例えば、下線部のアデニンが、前記MK4のヌクレオチド残基であることが好ましい。また、前記表1および表2のポリヌクレオチドにおいて、下線部のチミンが、前記KS9および前記NG7の少なくとも一方のヌクレオチド残基であることが好ましい。さらに、前記表1および表2のポリヌクレオチドにおいて、例えば、配列番号5〜7および13〜15の塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、下線部のチミンが前記NG7のヌクレオチド残基であることがより好ましい。前記表1および表2のポリヌクレオチドにおいて、例えば、配列番号8〜12および16〜21の塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、下線部のチミンが前記KS9のヌクレオチド残基であることがより好ましい。
【0058】
本発明の核酸分子がアデノシンヌクレオチド残基を有する場合、前記ポリヌクレオチドの合成には、例えば、下記化学式(4)で表されるヌクレオチド三リン酸(以下、「MK4モノマー」ともいう)を、モノマー分子として使用することができる。本発明の核酸分子が、例えば、前記チミジンヌクレオチド残基を有する場合、前記ポリヌクレオチドの合成には、例えば、下記化学式(5)に示すヌクレオチド三リン酸(以下、「KS9モノマー」ともいう)、または、下記化学式(6)に示すヌクレオチド三リン酸(以下、「NG7モノマー」ともいう)を、モノマー分子として使用することができる。前記ポリヌクレオチドの合成において、例えば、前記モノマー分子は、ホスホジエステル結合により、他のヌクレオチド三リン酸と結合する。前記MK4モノマーおよび前記NG7モノマーの製造方法については、後述する。
【0059】
【化4】
【0060】
【化5】
【0061】
【化6】
【0062】
前記修飾基としては、この他に、例えば、メチル基、フルオロ基、アミノ基、チオ基、ベンジルアミノカルボニル基(benzylaminocarbonyl)、トリプタミノカルボニル基(tryptaminocarbonyl)およびイソブチルアミノカルボニル基(isobutylaminocarbonyl)等があげられる。
【0063】
前記修飾アデニンの具体例としては、例えば、7’−デアザアデニン等があげられ、前記修飾グアニンの具体例としては、例えば、7’−デアザグアニン等があげられ、前記修飾シトシンの具体例としては、例えば、5’−メチルシトシン(5−Me−dC)等があげられ、前記修飾チミンの具体例としては、例えば、5’−ベンジルアミノカルボニルチミン、5’−トリプタミノカルボニルチミン、5’−イソブチルアミノカルボニルチミン等があげられ、前記修飾ウラシルの具体例としては、例えば、5’−ベンジルアミノカルボニルウラシル(BndU)、5’−トリプタミノカルボニルウラシル(TrpdU)および5’−イソブチルアミノカルボニルウラシル等があげられる。例示した前記修飾ウラシルは、チミンの修飾塩基ということもできる。
【0064】
前記ポリヌクレオチドは、例えば、いずれか1種類の前記修飾塩基のみを含んでもよいし、2種類以上の前記修飾塩基を含んでもよい。
【0065】
本発明の核酸分子は、例えば、修飾ヌクレオチドを含んでもよい。前記修飾ヌクレオチドは、前述の前記修飾塩基を有するヌクレオチドでもよいし、糖残基が修飾された修飾糖を有するヌクレオチドでもよいし、前記修飾塩基および前記修飾糖を有するヌクレオチドでもよい。
【0066】
前記糖残基は、特に制限されず、例えば、デオキシリボース残基またはリボース残基があげられる。前記糖残基における修飾部位は、特に制限されず、例えば、前記糖残基の2’位または4’位があげられ、いずれか一方でも両方が修飾されてもよい。前記修飾糖の修飾基は、例えば、メチル基、フルオロ基、アミノ基、チオ基等があげられる。
【0067】
前記修飾ヌクレオチド残基において、塩基がピリミジン塩基の場合、例えば、前記糖残基の2’位および/または4’位が修飾されていることが好ましい。前記修飾ヌクレオチド残基の具体例は、例えば、デオキシリボース残基またはリボース残基の2’位が修飾された、2’−メチル化−ウラシルヌクレオチド残基、2’−メチル化−シトシンヌクレオチド残基、2’−フルオロ化−ウラシルヌクレオチド残基、2’−フルオロ化−シトシンヌクレオチド残基、2’−アミノ化−ウラシルヌクレオチド残基、2’−アミノ化−シトシンヌクレオチド残基、2’−チオ化−ウラシルヌクレオチド残基、2’−チオ化−シトシンヌクレオチド残基等があげられる。
【0068】
前記修飾ヌクレオチドの個数は、特に制限されず、例えば、前記ポリヌクレオチドにおいて、例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個である。また、前記ポリヌクレオチドを含む前記核酸分子の全長における前記修飾ヌクレオチドも、特に制限されず、例えば、1〜91個または1〜78個、前述の範囲と同様である。
【0069】
本発明の核酸分子は、例えば、1もしくは数個の人工核酸モノマー残基を含んでもよい。前記「1もしくは数個」は、特に制限されず、例えば、前記ポリヌクレオチドにおいて、例えば、1〜100個、1〜50個、1〜30個、1〜10個である。前記人工核酸モノマー残基は、例えば、PNA(ペプチド核酸)、LNA(Locked Nucleic Acid)、ENA(2’−O,4’−C−Ethylenebridged Nucleic Acids)等があげられる。前記モノマー残基における核酸は、例えば、前述と同様である。
【0070】
本発明の核酸分子は、例えば、ヌクレアーゼ耐性であることが好ましい。本発明の核酸分子は、ヌクレアーゼ耐性のため、例えば、前記修飾化ヌクレオチド残基および/または前記人工核酸モノマー残基を有することが好ましい。本発明の核酸分子は、ヌクレアーゼ耐性のため、例えば、5’末端または3’末端に、数10kDaのPEG(ポリエチレングリコール)またはデオキシチミジン等が結合してもよい。
【0071】
本発明の核酸分子は、例えば、さらに付加配列を有してもよい。前記付加配列は、例えば、前記核酸分子の5’末端および3’末端の少なくとも一方に結合していることが好ましく、より好ましくは3’末端である。前記付加配列は、特に制限されない。前記付加配列の長さは、特に制限されず、例えば、1〜200塩基長、1〜50塩基長、1〜25塩基長、18〜24塩基長である。前記付加配列の構成単位は、例えば、ヌクレオチド残基であり、デオキシリボヌクレオチド残基およびリボヌクレオチド残基等があげられる。前記付加配列は、特に制限されず、例えば、デオキシリボヌクレオチド残基からなるDNA、リボヌクレオチド残基を含むDNA等のポリヌクレオチドがあげられる。前記付加配列の具体例として、例えば、ポリdT、ポリdA等があげられる。
【0072】
本発明の核酸分子は、例えば、担体に固定化して使用できる。前記本発明の核酸分子は、例えば、5’末端および3’末端のいずれかを固定化することが好ましく、より好ましくは3’末端である。本発明の核酸分子を固定化する場合、例えば、前記核酸分子は、前記担体に、直接的に固定化してもよいし、間接的に固定化してもよい。後者の場合、例えば、前記付加配列を介して固定化することが好ましい。
【0073】
本発明の核酸分子の製造方法は、特に制限されず、例えば、化学合成を利用した核酸合成方法等、遺伝子工学的手法、公知の方法により合成できる。本発明の核酸分子は、例えば、いわゆるSELEX法によっても得ることができる。この場合、ターゲットは、sIgAが好ましい。
【0074】
本発明の核酸分子は、前述のように、前記sIgAに結合性を示す。このため、本発明の核酸分子の用途は、前記sIgAへの結合性を利用する用途であれば、特に制限されない。本発明の核酸分子は、例えば、前記sIgAに対する抗体に代えて、種々の方法に使用できる。
【0075】
(2)sIgA分析用センサ
本発明の分析用センサは、前述のように、sIgAの分析用センサであって、前記本発明の核酸分子を含むことを特徴とする。本発明の分析用センサは、前記本発明の核酸分子を含んでいればよく、その他の構成は、特に制限されない。本発明の分析用センサを使用すれば、例えば、前記核酸分子と前記sIgAとを結合させることで、前述のように、前記sIgAを検出できる。
【0076】
本発明の分析用センサは、例えば、さらに担体を有し、前記担体に前記核酸分子が配置されている。前記核酸分子は、前記担体に固定化されていることが好ましい。前記担体への前記核酸分子の固定化は、例えば、前述の通りである。本発明の分析用センサの使用方法は、特に制限されず、前記本発明の核酸分子および前記本発明の分析方法を援用できる。
【0077】
(3)分析方法
本発明の分析方法は、前述のように、試料と核酸分子とを接触させ、前記試料中のsIgAを検出する工程を含み、前記核酸分子が、前記本発明のsIgA結合核酸分子であり、前記検出工程において、前記試料中のsIgAと前記核酸分子とを結合させて、前記結合により、前記試料中のsIgAを検出することを特徴とする。本発明の分析方法は、前記本発明の核酸分子を使用することが特徴であって、その他の工程および条件等は、特に制限されない。また、本発明の分析方法は、前記本発明の核酸分子として、前記本発明のsIgA分析用センサを使用してもよい。
【0078】
本発明によれば、前記本発明の核酸分子が、sIgAに特異的に結合することから、例えば、sIgAと前記核酸分子との結合を検出することによって、試料中のsIgAを特異的に検出可能である。具体的には、例えば、試料中のsIgAの有無またはsIgAの量を分析可能であることから、定性または定量も可能といえる。
【0079】
本発明において、前記試料は、特に制限されない。前記試料は、例えば、唾液、尿、血漿および血清等があげられる。
【0080】
前記試料は、例えば、液体試料でもよいし、固体試料でもよい。前記試料は、例えば、前記核酸分子と接触させ易く、取扱いが簡便であることから、液体試料が好ましい。前記固体試料の場合、例えば、溶媒を用いて、混合液、抽出液、溶解液等を調製し、これを使用してもよい。前記溶媒は、特に制限されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝液等があげられる。
【0081】
前記検出工程は、例えば、前記試料と前記核酸分子とを接触させて、前記試料中のsIgAと前記核酸分子とを結合させる接触工程と、前記sIgAと前記核酸分子との結合を検出する結合検出工程とを含む。また、前記検出工程は、例えば、さらに、前記結合検出工程の結果に基づいて、前記試料中のsIgAの有無または量を分析する工程を含む。
【0082】
前記接触工程において、前記試料と前記核酸分子との接触方法は、特に制限されない。前記試料と前記核酸分子との接触は、例えば、液体中で行われることが好ましい。前記液体は、特に制限されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝液等があげられる。
【0083】
前記接触工程において、前記試料と前記核酸分子との接触条件は、特に制限されない。接触温度は、例えば、4〜37℃、18〜25℃であり、接触時間は、例えば、10〜120分、30〜60分である。
【0084】
前記接触工程において、前記核酸分子は、例えば、担体に固定化された固定化核酸分子でもよいし、未固定の遊離した核酸分子でもよい。後者の場合、例えば、容器内で、前記試料と接触させる。前記核酸分子は、例えば、取扱性に優れることから、前記固定化核酸分子が好ましい。前記担体は、特に制限されず、例えば、基板、ビーズ、容器等があげられ、前記容器は、例えば、マイクロプレート、チューブ等があげられる。前記核酸分子の固定化は、例えば、前述の通りである。
【0085】
前記結合検出工程は、前述のように、前記試料中のsIgAと前記核酸分子との結合を検出する工程である。前記両者の結合の有無を検出することによって、例えば、前記試料中のsIgAの有無を分析(定性)でき、また、前記両者の結合の程度(結合量)を検出することによって、例えば、前記試料中のsIgAの量を分析(定量)できる。
【0086】
そして、前記sIgAと前記核酸分子との結合が検出できなかった場合は、前記試料中にsIgAは存在しないと判断でき、前記結合が検出された場合は、前記試料中にsIgAが存在すると判断できる。
【0087】
前記sIgAと前記核酸分子との結合の分析方法は、特に制限されない。前記方法は、例えば、物質間の結合を検出する従来公知の方法が採用でき、具体例として、前述のSPR等があげられる。また、前記結合は、例えば、前記sIgAと前記核酸分子との複合体の検出でもよい。
【0088】
(4)検出キット
本発明の検出キットは、前記本発明のsIgA結合核酸分子を含むことを特徴とする。本発明の検出キットは、前記本発明の核酸分子を含んでいればよく、その他の構成は何ら制限されない。本発明の検出キットを使用すれば、前述のように、例えば、前記sIgAの検出等を行うことができる。
【0089】
本発明の検出キットは、例えば、前記本発明の核酸分子として、前記本発明のセンサを含んでもよい。また、前記本発明の検出キットは、例えば、前記本発明の核酸分子の他に、その他の構成要素を含んでもよい。前記構成要素は、例えば、前記担体、緩衝液、使用説明書等があげられる。
【実施例】
【0090】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコールに基づいて使用した。
【0091】
[実施例1]
以下に示す合成例により、MK4を調製した。
【0092】
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)は、質量分析装置(API2000、販売元:Applied Biosystems社製)を用い、ポジティブイオンモードまたはネガティイオンモードで実施した。1H NMRスペクトルは、核磁気共鳴装置(JNM-ECS400、JEOL社製)を用い、取得した。化学シフトは、内部標準であるテトラメチルシラン(MeSi)に対する相対値δ(ppm)として表される。イオン交換クロマトグラフは、クロマトグラフシステム(ECONO system、Bio-Rad社製)を用いて実施した。前記イオン交換クロマトグラフでは、diethylaminoethyl(DEAE)A-25-Sephadex(Amershambiosciences社製)を充填したガラスカラム(φ25×500mm)を使用した。
【0093】
(合成例1)MK1の合成
【化7】
【0094】
AZ6(290mg、9.06×10−4mol)を真空乾燥させ、dry−DMF(N,N−ジメチルホルムアミド、3mL)に溶かした。これにHOBt・HO(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール・一水和物、176mg、1.15×10−5mol、1.2eq.)、PyBOP(登録商標)(ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム、579mg、1.15×10−5mol、1.2eq.)、およびDIPEA(N,N−ジイソプロピルエチルアミン、4.6mL、2.72×10−2mol、30eq.)を加え、さらにdry−DMF(1mL)に溶かしたNK1(493mg、9.48×10−4mol、1.1eq.)を加え、撹拌した。前記攪拌開始40分後において、減圧留去し、残渣を水に溶かし、吸引ろ過で沈殿物を回収した。ろ液を逆相カラムクロマトグラフで粗精製した後、ろ物と共にカラムクロマトグラフで精製し、MK1を得た。MK1の物性値を以下に示す。
収量:261mg 収率:60%
ESI-MS (positive ion mode) m/z, found = 481.2, calculated for [(M+H)+] = 481.2
found = 503.1, calculated for [(M+Na)+] = 503.2
1HNMR (400 MHz, DMSO-d6) δ8.22 (1H, m), 8.11 (1H, s), 8.10 (1H, s), 7.87 (1H, s), 7.63 (1H, d), 6.52 (1H, q), 6.35 (1H, d), 5.27 (1H, s), 3.82 (1H, m), 2.18 (1H, m)
【0095】
(合成例2)MK2の合成
【化8】
【0096】
MK1(108mg、2.25×10−4mol)を真空乾燥させ、Ar(アルゴン)で置換した。つぎに、dry−DMFで2回(1回目:40mL、2回目:4mL)、およびdry−MeCN(アセトニトリル)で3回(1回目:9mL、2回目:5mL、3回目:5mL)共沸した。dry−Trimethyl phosphate(6mL)で懸濁させた後、dry−Tributhyl amine(130μL、5.44×10−4mol、2.5eq.)を加えた。そして、氷冷下でPhosphoryl chloride(42μL、4.50×10−4mol、2eq.)を加え、撹拌した。前記攪拌開始40分後において、再びdry−Tributhyl amine(250μL、1.05×10−3mol、5eq.)およびPhosphoryl chloride(84μL、4.50×10−4mol、4eq.)を加え、氷冷下で1時間撹拌した。前記撹拌後、冷1mol/L TEAB(Triethylammonium bicarbonate) buffer(5mL)を加え、5分間撹拌し、クエンチした。そして、減圧留去し、Etherで結晶化させ、吸引ろ過し、黄色固体を得た。前記固体を水に溶かし、陰イオン交換カラムクロマトグラフで精製し、凍結乾燥させ、MK2を得た。MK2の物性値を以下に示す。
収量:30.0μmol 収率:13.4%
ESI-MS (negative ion mode) m/z, found = 559.1, calculated for [(M-H)-] = 559.2
【0097】
(合成例3)MK3の合成
【化9】
【0098】
MK2(30.03μmol)を真空乾燥させ、dry−Pyridine(10mL)で3回共沸し、一晩真空乾燥させた。前記乾燥後、Arで置換し、dry−DMF(2mL)およびdry−TEA(トリエチルアミン、28μL、1.98×10−4mol、6.6eq.)で溶かした。さらに、Imidazole(16mg、14.02×10−4mol、4eq.)、2,2’−Dithiodipyridine(17mg、7.72×10−4mol、1.6eq.)、およびTriphenylphosphine(20mg、7.63×10−4mol、1.6eq.)を加え、室温で撹拌した。前記攪拌開始6.5時間後、得られた反応液を、Sodium perchlorate(39mg、3.19×10−4mol、10eq.)をdry−Acetone(18mL)、dry−Ether(27mL)、およびdry−TEA(2mL)で溶かした溶液に加え、前記添加後4℃で30分静置した。そして、沈殿物をdry−Ether(12mL)で5回デカンテーションした。これを真空乾燥させ、MK3をクルードとして得た。
理論収量:30.03μmol
【0099】
(合成例4)MK4の合成
【化10】
【0100】
MK3(30.03μmol)を真空乾燥させ、Arで置換し、dry−Pyridine(5mL)で2回共沸した後、dry−DMF(1mL)で懸濁させた。これにdry−n−Tributylamine(30μL、1.25×10−4mol、4eq.)および0.5mol/L n−Tributylamine pyrophosphate in DMF(310μL、1.53×10−4mol、5eq.)を加え、室温で撹拌した。前記攪拌開始6.5時間後、1mol/L TEAB buffer(5mL)を加え、30分間撹拌し、減圧留去した。これに水を加え、Etherで2回分液し、水層を陰イオン交換カラムクロマトグラフで精製し、凍結乾燥することでMK4を得た。MK4の物性値を以下に示す。
収量:3.33μmol 収率:11.1%
ESI-MS (negative ion mode) m/z, found = 719.0, calculated for [(M-H)-] = 719.1
【0101】
[実施例2]
以下に示す合成例により、NG7を調製した。
【0102】
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)は、質量分析装置(API2000、販売元:Applied Biosystems社製)を用い、ポジティブイオンモードまたはネガティイオンモードで実施した。1H NMRスペクトルは、核磁気共鳴装置(JNM-ECS400、JEOL社製)を用い、取得した。化学シフトは、内部標準であるテトラメチルシラン(MeSi)に対する相対値δ(ppm)として表される。イオン交換クロマトグラフは、クロマトグラフシステム(ECONO system、Bio-Rad社製)を用いて実施した。前記イオン交換クロマトグラフでは、diethylaminoethyl(DEAE)A-25-Sephadex(Amershambiosciences社製)を充填したガラスカラム(φ25×500mm)を使用した。
【0103】
(合成例1)NH1の合成
【化11】
【0104】
Ethylendiamine(7mL、105mmol、1eq.)を溶かしたCHCl(120mL)に、tert-butyl dicarbonate(5g、22.9mmol、0.2eq.)を溶かしたCHCl(20mL)を、撹拌しながら滴下した。前記滴下から24時間後、吸引ろ過し、ろ液を減圧留去し、NH1を得た。NH1の物性値を以下に示す。
収量:3.573g 収率:97.4%
ESI-MS (positive ion mode) m/z, found= 161.4, calculated for [(M+H)+] = 161.1
1HNMR(400 MHz, CDCl3) δ3.13 (2H, q) 2.76 (2H, t) 1.41 (9H, s)
【0105】
(合成例2)NG1の合成
【化12】
【0106】
2,6-Dichloropurine(1000mg、5.29×10−3mol、1.0eq.)をAr(アルゴン)置換し、水酸化ナトリウム水溶液(10.6mL、2.12×10−2mol、2N)に溶かした後、90℃で還流させ、反応を行った。前記反応後、室温に戻し、吸引ろ過した。得られたろ物を回収し、最小量の水に溶かし、pHを3〜4に調製し、析出したろ物を吸引ろ過で回収することで、NG1を得た。NG1の物性値を以下に示す。
収量:720mg 収率:79%
ESI-MS (positive ion mode) m/z, found = 171.0, calculated for [(M+H)+] = 171.0
found = 193.1, calculated for [(M+Na)+] = 193.0
found = 209.1, calculated for [(M+K)+] = 209.0
ESI-MS (negative ion mode) m/z, found = 169.0, calculated for [(M-H)-] = 518.0
1HNMR (400 MHz, DMSO-d6) δ8.29 (1H, s)
【0107】
(合成例3)NG2の合成
【化13】
【0108】
NG1(870mg、5.10×10−3mol)およびNH1(3.281g、2.05×10−2mol, 4eq.)を、それぞれ真空乾燥させた後、Ar置換した。NG1をMethoxyethanol(5mL)で懸濁させ、NH1をMethoxyethanol(1mL)に溶解させた。得られたNH1の溶液をNG1の入っているナスフラスコへ移し、130℃で還流させ、反応を行った。前記反応後、室温に戻し、減圧留去した。さらに、クロロホルムで再沈後、吸引ろ過し、ろ物を回収することで、NG2を得た。NG2の物性値を以下に示す。
収量:1.117mg 収率:74%
ESI-MS (positive ion mode) m/z, found = 171.0, calculated for [(M+H)+] = 171.0,
found = 193.1, calculated for [(M+Na)+] = 193.0,
found = 209.1, calculated for [(M+K)+] = 209.0,
ESI-MS (negative ion mode) m/z, found = 169.0, calculated for [(M-H)-] = 518.0
1HNMR (400 MHz, CD3OD) δ7.73 (1H, s), 3.45 (2H, m), 3.30 (2H,s), 1.39 (9H, s)
【0109】
(合成例4)NG3の合成
【化14】
【0110】
NG2(500mg、1.70×10−3mol)を、メタノール(3mL)で懸濁し、Trifluoroacetate(15mL)を加え、室温で撹拌し、反応を行った。前記反応後、減圧留去し、Etherで懸濁させた後、吸引ろ過し、ろ物を回収することで、NG3を得た。NG3の物性値を以下に示す。
収量:467mg 収率:89.1%
ESI-MS (positive ion mode) m/z, found = 195.1, calculated for [(M+H)+] = 195.1,
found = 217.2, calculated for [(M+Na)+] = 217.1,
found = 233.0, calculated for [(M+K)+] = 233.1
1HNMR (400 MHz, D2O) δ7.83 (1H, s), 3.55 (2H, t), 3.11 (2H, t)
【0111】
(合成例5)NG4の合成
【化15】
【0112】
ナスフラスコAに、(E)−5−(2−Carboxyrinyl)−2’−deoxyuridine(101mg、3.39×10−4mol)と撹拌子とを入れた。また、ナスフラスコBに、NG3(171mg、4.12×10−4mol、1.2eq.)と撹拌子とを入れた。そして、ナノフラスコAおよびBについて、それぞれ、真空乾燥させた。つぎに、ナスフラスコAをAr置換し、HOBt・HO(68mg、4.44×10−4mol、1.3eq.)およびPyBOP(登録商標)(ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム、229mg、4.40×10−4mol、1.3eq.)を加え、dry−DMF(N,N−ジメチルホルムアミド、1mL)で溶解した。さらに、ナスフラスコBをAr置換し、DRY−dmf(0.5mL)で溶かした。ナスフラスコAおよびBに、DIPEA(N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ナスフラスコA:0.79mL、4.51×10−3mol、13.3eq.、ナスフラスコB:0.79mL、4.51×10−3mol、6.7eq.)をそれぞれ加えた後、ナスフラスコBの中身をナスフラスコAに素早く加え、室温で撹拌し、反応を行った。前記反応後、減圧留去し、CDCl(重水素化クロロホルム)で懸濁した。さらに、得られた懸濁液をソニケーションし、ろ過した。得られたろ物を回収後、MeOHで懸濁し、さらに、ソニケーション後、ろ過した。得られたろ物を回収することで、NG4を得た。NG4の物性値を以下に示す。
収量:147mg 収率:91%
ESI-MS (positive ion mode) m/z, found = 475.1, calculated for [(M+H)+] = 475.2,
found = 497.2, calculated for [(M+Na)+] = 497.2,
ESI-MS (negative ion mode) m/z, found = 473.1, calculated for [(M-H)-] = 473.2
1HNMR (400 MHz, DMSO-d6) δ8.27 (1H, s), 8.20 (1H, s), 7.10 (1H,s), 7.05 (1H, s), 6.13 (1H, t), 5.25 (1H, d), 5.16 (1H, m), 4.09 (1H, m), 3.79 (1H, m), 3.60 (2H, m), 3.16 (2H, d), 2.14 (2H, m)
【0113】
(合成例6)NG5の合成
【化16】
【0114】
NG4(101mg、2.13×10−4mol)を真空乾燥後、Ar下、dry−Pyridine(30mL)で2回共沸した。つぎに、dry−Trimetyl phosphate(21mL)で懸濁後、氷浴下でPhosphoryl chloride(400μL、4.29×10−3mol、20eq.)を加え、2.5時間撹拌した。前記撹拌後、Phosphoryl chloride(200μL、2.15×10−3mol、10eq.)を追加し、8.5時間撹拌した。その後、冷水10mLを加えクエンチし、10分間撹拌した。TEA(トリエチルアミン、2.7mL、1.94×10−2mol、90eq.)を加え、15分程撹拌した。そして、減圧留去後、EtherおよびMeCN(アセトニトリル)で結晶化させ、ろ過することにより、黄色沈殿物を回収した。得られた黄色沈殿物を水に溶かし、陰イオン交換カラムクロマトグラフにより精製し、凍結乾燥させることでNG5を得た。NG5の物性値を以下に示す。
収量:41.49μmol 収率:19.5%
ESI-MS (negative ion mode) m/z, found = 553.1, calculated for [(M-H)-] = 553.1
【0115】
(合成例7)NG6の合成
【化17】
【0116】
NG5(78.65μmol)を真空乾燥後、dry−Pyridine(5mL)で3回共沸し、さらに一晩真空乾燥させた。前記乾燥後、これをArで置換し、dry−DMF(2mL)およびdry−TEA(72μL、5.19×10-4mol、4eq.)で溶かし、さらに、Imidazole(24mg、3.53×10−4mol、4eq.)、2,2‘−Dithiodipyridine(29mg、1.32×10−4mol、1.6eq.)、およびTriphenylphosphine(36mg、1.37×10−4mol、1.6eq.)を加えて室温で撹拌した。前記攪拌開始後8時間において、反応液を、Sodium perchlorate(97mg、7.92×10−4mol、10eq.)をdry−Acetone(18mL)、dry−Ether(27mL)、およびdry−TEA(2mL)で溶かした溶液に入れ、4℃で30分静置した。前記静置後、沈殿物をdry−Ether(12mL)で5回デカンテーションした。デカンテーション後の沈殿物を真空乾燥させ、NG6をクルードとして得た。
理論収量:78.65μmol
【0117】
(合成例8)NG7の合成
【化18】
【0118】
真空乾燥させたNG6(78.65μmol)を、Arで置換し、dry−Pyridine(5mL)で2回共沸した後、dry−DMF(1mL)で懸濁した。つぎに、得られた懸濁液に、dry−n−Tributylamine(75μL、3.15×10−4mol、4eq.)および0.5mol/L n−Tributylamine pyrophosphate in DMF(0.8mL、3.93×10−4mol、5eq.)を加え、室温で撹拌した。前記攪拌開始後9時間において、1mol/L TEAB(Triethylammonium bicarbonate) buffer(5mL)を加えた後、30分撹拌し、減圧留去した。これに水を加え、Etherで2回分液後、水層を陰イオン交換カラムクロマトグラフおよび逆相カラムクロマトグラフを用いて精製し、凍結乾燥することで、NG7を得た。NG7の物性値を以下に示す。
収量:19.55μmol 収率:24.9%
ESI-MS (negative ion mode) m/z, found = 712.9, calculated for [(M-H)-] = 713.1
【0119】
[実施例3]
本例では、配列番号1〜21のアプタマーについて、sIgAに対する結合能および動態パラメータを、SPRにより確認した。
【0120】
(1)アプタマー
下記ポリヌクレオチドを合成し、実施例のアプタマーとした。配列番号1〜4のアプタマー(以下、「MK4アプタマー」ともいう)は、下記表3において下線で示すアデニンを含むヌクレオチド残基が、前記化学式(1)で示すヌクレオチド残基である。また、配列番号8〜12および16〜21のアプタマー(以下、「KS9アプタマー」ともいう)は、下記表3において下線で示すチミンを含むヌクレオチド残基が、前記化学式(2)で示すヌクレオチド残基であり、配列番号5〜7および13〜15のアプタマー(以下、「NG7アプタマー」ともいう)は、下記表3において下線で示すチミンを含むヌクレオチド残基が、前記化学式(3)で示すヌクレオチド残基である。
【0121】
【表3】
【0122】
前記MK4アプタマーは、その3’末端に、20塩基長のポリデオキシチミン(ポリdT)を付加し、ポリdT付加アプタマーとして、後述するSPRに使用した。前記KS9アプタマーおよび前記NG7アプタマーは、その3’末端に、20塩基長のポリデオキシアデニン(ポリdA)を付加し、ポリdA付加アプタマーとして、後述するSPRに使用した。
【0123】
(2)試料
市販のヒトsIgA(IgA (Secretory) ,Human、MP Biomedicals, LLC-Cappel Products社製、カタログ番号: #55905)を、試料として、以下の試験に使用した。
【0124】
(3)SPRによる結合能の解析
結合能の解析には、ProteON XPR36(BioRad社)を、その使用説明書にしたがって使用した。
【0125】
まず、前記ProteON専用のセンサーチップとして、ストレプトアビジンが固定化されたチップ(商品名 ProteOn NLC Sensor Chip、BioRad社)を、前記ProteON XPR36にセットした。前記センサーチップのフローセルに、超純水(DDW)を用いて、5μmol/Lのビオチン化ポリdAをインジェクションし、シグナル強度(RU:Resonance Unit)が約900RUになるまで結合させた。前記ビオチン化ポリdAは、20塩基長のデオキシアデノシンの5’末端をビオチン化して調製した。そして、前記チップの前記フローセルに、SPRバッファーを用いて、200nmol/Lの前記ポリdTを付加したMK4アプタマーを、流速25μL/minで80秒間インジェクションし、シグナル強度が約800RUになるまで結合させた。この結果を、アプタマーのセンサーチップへの固層化量を示すシグナルとして、アプタマー固層化測定値(A)という。続いて、前記試料を、SPRバッファーを用いて、流速50μL/minで120秒間インジェクションし、引き続き、同じ条件で、SPRバッファーを流して洗浄を300秒間行った。前記試料における前記ヒトsIgA濃度は、400nmol/Lとした。前記試料のインジェクションおよび前記SPRバッファーによる洗浄に並行して、シグナル強度の測定を行った。インジェクション開始を0秒として、115〜125秒の間におけるシグナル強度の平均値を求め、これを、前記アプタマーとタンパク質との結合量を示すシグナルとして、タンパク質結合測定値(B)という。そして、タンパク質結合測定値(B)をアプタマー固層化測定値(A)で割った値(B/A)を、相対値(Relative Unit)として求めた。また、前記KS9アプタマーおよび前記NG7アプタマーは、前記ビオチン化ポリdAに代えて、20塩基長のデオキシチミジンの5’末端をビオチン化して調製したビオチン化ポリdTを、前記MK4アプタマーに代えて、前記KS9アプタマーまたは前記NG7アプタマーを用いた以外は、同様にして測定した。さらに、比較例3−1は、前記MK4アプタマーに代えて、sIgAに結合性を示さないネガティブコントロールの核酸分子(配列番号22)を用い、比較例3−2は、ヒトsIgAに代えてBSA(Bovine Serum Albumin、SIGMA社製、カタログ番号:#A7906)を含む試料を用いた以外は同様にして、シグナル強度の測定を行った。
【0126】
ネガティブコントロールの核酸分子(N30-0 pool)
5’-GGTAACGCCCAGTCTAGGTCATTTG-(N)30-GTTACGGGAGCCTGCACTTAATG-3’(配列番号22)
【0127】
前記SPRバッファーの組成は、40mmol/L HEPES、125mmol/L NaCl、5mmol/L KCl、1mmol/L MgClおよび0.01% Tween(登録商標)20とし、pHは、7.4とした。
【0128】
各アプタマーとsIgAとの結合の結果を図1A〜Fに示す。図1A〜Fは、各アプタマーのsIgAに対する結合能を示すグラフである。図1において、横軸は、試料をインジェクション後の経過時間を示し、縦軸は、結合力の相対値(RU)を示す。図1A〜Fに示すように、いずれのアプタマーも、sIgAに結合した。
【0129】
つぎに、タンパク質結合測定値(B)をアプタマー固層化測定値(A)で割った値(B/A)を、相対値(Relative Unit)の結果を図2A〜Dに示す。図2A〜Dは、各アプタマーのsIgAへの結合量の相対値(Relative Unit)を示すグラフである。図2において、横軸は、アプタマーの種類を示し、縦軸は、相対値を示す。図2A〜Dに示すように、BSAを用いた比較例3−2では結合が確認できなかった。また、ネガティブコントロールの核酸分子を用いた比較例3−1では、sIgAへの結合が確認されなかった。これに対し、いずれのアプタマーも、sIgAに結合した。中でも、配列番号15および配列番号21の核酸分子が、極めて高い結合性を示した。
【0130】
(4)解離定数の測定
前記試料中のsIgAの濃度を、12.5、25、50、100、または200nmol/Lとした以外は、前記(3)と同様にして、結合量の相対値(RU)を測定した。そして、前記結合量の相対値に基づき、前記sIgA結合核酸分子と前記sIgAとの解離定数を算出した。この結果を下記表4に示す。下記表4に示すように、いずれのアプタマーも解離定数が37.7nM以下であり、特に、配列番号2、配列番号3、配列番号9、配列番号11、配列番号15、配列番号19、および配列番号21の核酸分子は、解離定数が、8nM以下であり、極め優れたsIgAとの結合能を有することがわかった。
【0131】
【表4】
【0132】
(5)公差性の確認
配列番号3、5および9のアプタマーを用い、試料として、400nmol/LとなるようにsIgA、ヒトIgG−Fc(比較例3−3、BETHYL社製、カタログ番号:P-80-104)、未標識ヒトIgG(比較例3−4、BECKMAN COULTER社製、カタログ番号:731696)、未標識ヒトIgG−Fc(比較例3−5、BECKMAN COULTER社製、カタログ番号:731703)またはヒトIgG1κ(比較例3−6、Southern Biotech社製、カタログ番号:0151K-01)を含む試料を用いた以外は、前記(3)と同様にして、結合量の相対値を求めた。
【0133】
この結果を図3に示す。図3は、結合量の相対値を示すグラフである。図3において、横軸は、試料の種類を示し、縦軸は、結合量の相対値(RU)を示す。図3に示すように、いずれのアプタマーも、sIgA以外の免疫グロブリンには結合しなかった。これらのことから、本発明の核酸分子が、sIgA特異的であることがわかった。
【0134】
[実施例4]
本例では、配列番号5、9および11のアプタマーについて、sIgAに対する結合能を、磁気ビーズによるプルダウンにより確認した。
【0135】
(1)アプタマー結合ビーズ
磁気ビーズの表面にストレプトアビジン(SA)が結合したSAビーズ(Invitrogen社製、商品名:MyOne−SA C1)に、前記配列番号5、9または11のアプタマーを結合させ、アプタマー結合ビーズを作製した。具体的には、まず、前記アプタマーに100%相補的な相補鎖を調製した。他方、前記アプタマーの5’領域の配列(配列番号23、5’-GGATACCTTAACGCCGCCTATTG-3’)を準備し、その5’末端をビオチン化して、ビオチン化プライマーを調製した。そして、前記相補鎖を鋳型として、前記ビオチン化プライマーを用い、PCRによる増幅を行い、5’末端がビオチン化された前記アプタマーを合成した。前記合成された前記アプタマーと前記相補鎖とからなる二本鎖に対して、前記SAビーズを反応させ、前記二本鎖におけるビオチンと前記SAビーズのアビジンとを結合させた。つぎに、前記二本鎖とSAビーズとが結合した複合体を、NaOHでアルカリ処理し、前記二本鎖の解離を行うことによって、前記相補鎖を除去した。これによって、前記SAビーズに、ビオチン−アビジン結合により前記ビオチン化アプタマーが結合した、前記アプタマー結合ビーズを作製した。
【0136】
(2)試料
5μgのヒトsIgAまたはヒトの唾液を、試料として、以下の実験に使用した。
【0137】
(3)プルダウンアッセイ
前記アプタマー結合ビーズ(終濃度10mg/ml)と前記試料(sIgA:終濃度50μg/mL、唾液:終濃度90%)とを、SB1T緩衝液(40mmol/L HEPES、125mmol/L NaCl、5mmol/L KCl、1mmol/L MgClおよび0.01% Tween(登録商標)20、pH7.4)中で混合し、この反応液を、室温で30分間反応させた。前記反応液を遠心して前記ビーズを回収し、前記SB1T緩衝液で3回遠心洗浄した。前記アプタマーがsIgAに結合する場合、前記ビーズには、前記アプタマーを介してsIgAが結合していることになる。そこで、前記ビーズをSDSバッファー緩衝液に混合し、95℃で10分間、加熱処理することによって、前記ビーズからsIgAを遊離させた。そして、加熱処理後の前記SDS緩衝液から、前記ビーズを除去して、PAGEL(C520L、アトー社)を用いてSDS−PAGEに供した。泳動用のバッファーは、前記SDSバッファーを使用した。前記SDSバッファーの組成は、25mmol/L Tris、192mmol/L グリシン、0.1% SDSとした。
【0138】
つぎに、SDS−PAGE後のゲルについて、GelCode Blue Stain Reagent(Thermo SCIENTIFIC社)を用いて染色を行った。なお、分子量マーカーとして、Bench Mark Protein Ladder(Invitrogen社)を使用した。また、コントロール1として、前記アプタマー結合ビーズに代えて、前記ビオチン化プライマーを結合させた前記SAビーズを使用した以外は、同様にして、SDS−PAGEと検出とを行った。また、コントロール2として、前記ヒトsIgAについて、SDS−PAGEと検出とを行った。
【0139】
これらの結果を図4に示す。図4(A)および(B)は、前記アプタマー結合ビーズから遊離させたタンパク質のSDS−PAGEの結果を示す写真である。図4(A)は、sIgAを含む試料を用いた結果を示し、(B)は、唾液を用いた結果を示す。図4(A)および(B)において、写真の左側が、分子量を示し、レーンMは、分子量マーカー(M)、レーン1は、配列番号5のアプタマーを結合させた前記アプタマー結合ビーズを用いた結果、レーン2は、配列番号9のアプタマーを結合させた前記アプタマー結合ビーズを用いた結果、レーン3は、配列番号11のアプタマーを結合させた前記アプタマー結合ビーズを用いた結果、レーンC1は、前記プライマーを結合させた前記SAビーズを用いた結果、レーンIgAは、ヒトsIgAの結果である。
【0140】
図4(A)および(B)に示すように、前記アプタマー結合ビーズを用いたレーン1〜3は、sIgAを示すレーンIgAと同じ部位にバンドが確認された(図において矢印で示すバンド)。他方、前記プライマー結合ビーズを用いた場合、sIgAと同じ部位にバンドは確認できなかった。
【0141】
これらの結果から、本発明のアプタマーは、前記ヒトsIgAに対して、結合性を示すことがわかった。
【0142】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【0143】
この出願は、2016年9月15日に出願された日本出願特願2016−180892を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明のsIgA結合核酸分子は、sIgAに対して前述のような解離定数で結合することができる。このため、本発明のsIgA結合核酸分子によれば、例えば、試料中のsIgAとの結合の有無によって、優れた精度で、sIgAを検出できる。したがって、本発明のsIgA結合核酸分子は、例えば、予防医学、健康管理、感染症等の診断、およびストレスの診断等の分野におけるsIgAの検出に、極めて有用なツールといえる。

図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]