(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、光拡散シート(光拡散フィルムとも呼ばれる)は、電飾用からLED及び各種の液晶表示装置に至る広い範囲で使用されている。そのなかで、バックライト方式に使用するものは、光源から来た光を均一に拡散させ透過させるとともに、人間が表示物を見た場合に光源の形状を不明確にする役割も併せ持っている。光拡散シートが使用される前記の装置の殆どでLED光源が使用されるようになったが、LEDは点光源であるため、光強度の損失を最小限に抑えつつ、均等な散乱光を生成できる光拡散シートが求められている(非特許文献1)。
【0003】
光拡散シートの多くは、光拡散剤を含む塗工液を媒体(基板)上に塗布して作られる。例えば、特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面に光拡散剤としてアクリルウレタン樹脂粒子及び樹脂バインダーを含有する塗料を塗布した光拡散フィルムが記載されており、実施例には93%前後の光透過率が記載されている。この光拡散フィルムは液晶ディスプレイ装置に用いられる。
【0004】
光拡散層を支持体に積層した光散乱シートとして、特許文献2には、光拡散層がその2倍以上の厚さの透明支持体の表面に形成された光散乱フィルムが記載されている。
【0005】
光拡散剤を含有する組成物をシート状又は板状に成形する技術も開示されている。例えば、特許文献3では、メタクリル系樹脂に対し屈折率が異なる2種類の光拡散剤を混合し、単軸の押出機で溶融混練した後成形して得られる光拡散性樹脂板が記載されている。この光拡散性樹脂板は、66〜79%に及ぶ光透過率を示し、透過型ディスプレイ等に用いられる。
【0006】
特許文献4には、1種以上のビニル系単量体を重合して得られる微粒子の光拡散剤、及びその光拡散剤を熱可塑性樹脂と混合して成形した光拡散性シートが記載されている。この様なポリマーのマイクロビーズが、光拡散剤の濃度、屈折率、光透過率、3者のバランスをとるために使用される様になった。特許文献5には、樹脂と光輝性薄片状微粒子とを含んでなる透明光散乱層を備えるシート状透明成型体が開示されている。なお、ここで配合される微粒子は少量で、光輝性薄片状微粒子の含有量は好ましくは0.0001〜5.0質量%で、透明スクリーンに鮮明な映像を投影することができるが、拡散透過率が50%以下と規定されるなど、本発明とは目的が異なる。
【0007】
無機物質材料を使用した光拡散材料として、例えば特許文献6には、透光性プラスチックに1.0〜2.5重量%の炭酸カルシウムを添加した照明器具用パネルが記載されており、優れた拡散性と高い透過率が得られるとされている。また、特許文献7には、バインダー樹脂、無機系光拡散剤、及び金属酸化物ナノ粒子を含む塗料を透明高分子フィルムに塗布した光拡散フィルムが記載されている。特許文献8及び9には、MgOとAl
2O
3とで構成されるセラミックス粒子を、樹脂100重量部に対し1重量部前後の割合で含有する光拡散性部材が開示され、これら光拡散性部材は光透過性が良好で優れた光拡散性を有すると記載されている。特許文献10には、炭酸カルシウムと酸化チタンとを樹脂に対して合計8〜9質量%程度含有するポリカーボネート製シートから成る液晶ディスプレイ・バックライト用光拡散シートが記載されている。
【0008】
光反射体の製法にも、無機フィラーを利用した技術が記載されている。特許文献11には、炭酸カルシウムを含有する二軸延伸ポリオレフィン系樹脂フィルムから成る光反射体が記載されている。この光反射体は概して多層構造で、3〜30重量%のフィラーを含み、面積延伸倍率が25〜70倍と規定されている。この場合、空孔率が15〜60%と記載されているが、その計算式で使用する真密度は、延伸前の密度にほぼ等しいと記載されており、材料自体の密度ではない。また、特許文献12には、無機及び/又は有機フィラーを含み、内部に空孔を有する樹脂フィルムで、透過光と反射光のバランスを光学特性値の計算により制御して作られる光半透過反射体が記載されている。この樹脂フィルムは、表面保護層と基層の少なくとも2層が積層後二軸延伸されたものとも記載されている。基層で光学特性を得る仕組みで、その基層は30重量%以下のフィラーを含み、3〜15%の空隙率を有すると記載されている。さらに、無機物質を高充填した高白色度の薄膜シートの製造方法として、60重量%以上の無機物質粉末と熱可塑性樹脂を混合し混練したのち延伸する方法が、特許文献13に記載されている。本技術の目的は、紙分野で使用可能な白色度及び不透明度を得ることであり、光拡散の特性には全く触れていない。
【0009】
他方最近、地球規模の問題として、持続可能な開発が重要課題となり、さらに海洋汚染の問題が深刻化し、プラスチック廃棄物の削減、プラスチック系物質の使用量削減あるいは非プラスチック系への材料転換が社会的課題となってきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記のような社会情勢に対応し、本願の技術開発では、持続性社会の構築に貢献することも目的に含め、無機物質、特に資源が豊富な鉱物物質を高配合する光拡散シートの製造技術の確立を目指し、鋭意問題点の解決に努めた。
【0013】
光拡散シートにおいては、透過率や輝度の他に、光散乱の均一性が重要である。しかし、従来は散乱の均一性についてはあまり検討されておらず、例えば上記の特許文献6及び7でも光散乱性の角度依存性については記載されていない。特許文献8及び9記載の光拡散性部材では、無機系光拡散性フィラーの欠点とされていた光拡散性が高められ、特に特許文献9記載の部材では光拡散性を光散乱強度で判定し、70%以上の光散乱強度が得られたとされているが、その角度依存性については検討されていない。特許文献11及び12にも、角度による輝度の変化に関する記載はない。
【0014】
光散乱強度や拡散透過率の測定のみでは、光散乱の均一性を把握することはできない。本発明者らが今回見出したところによると、従来の様な無機物質材料の含有量が少ないシートでは、散乱光強度が散乱角度によって不均等になり、良好な光拡散が得られない場合がある。特許文献10記載の光拡散シートでは、受光角度ごとの相対拡散透過光量が規定されている。しかし、特許文献10では、受光角度0°での光量を100%とした上で、例えば70°での相対拡散透過光量を25%以上と規定しており、均等な散乱光強度とは言い難く、散乱光を均等化するという技術的思想も見られない。散乱光の角度による強度変化は、肉眼による感じ方の観点からは、30%以内、好ましくは15%以内に抑える必要があると考えられる。特許文献5記載のシート状透明成型体では、0度方向の透過光強度を100とした上で光源の入射角を変え、透過光強度が0.001以上の範囲を視野角としており、光強度の角度による変化が抑えられているとはいえない。
【0015】
良好な光拡散シートを得る上で、シート中の無機物質の含有量と空隙率が重要である。上記のように、無機物質材料の含有量が少ないと、散乱光強度が散乱角度によって不均等になる場合がある。実際、特許文献5及び10記載の材料では、均等な散乱光強度が得られていない。特許文献6、8、9、11、及び12では散乱光の角度依存性に関する記載がないが、何れの材料においても無機物質の含有量が少なく、もし角度毎の散乱光を測定しても均等性に劣る結果になったと推定される。
【0016】
一方、無機物質の多量添加は、機械特性や全体的な光透過率を著しく低下させる(非特許文献1)とされてきた。調査の結果でも鉱物物質粉末を高配合したシートで、散乱特性を含む光透過性能に優れる例は見当たらない。特許文献7では、光拡散層中に樹脂100重量部に対して50〜300重量部の無機系光拡散剤を含む光拡散フィルムが記載されているが、散乱光の角度依存性は記載されていない。しかも特許文献7では光拡散層を高分子フィルム上に塗工している上、実施例における無機系光拡散剤量は樹脂成分の半分程度で、無機物質を多量充填したシートとは言い難い。
【0017】
従来、シートの光学特性の改善は、延伸によるシート内部の空隙の変化に着目して行われ、空隙率も延伸前の見掛け比重を真比重とみなして計算されていた(特許文献11)。しかし、本発明者らが実験した結果では、延伸により光透過率や弾性率が著しく低下した(実施例参照)。特許文献11記載の光反射体では、二軸延伸によって空隙率を調整し、反射特性を向上させているが、不透明度が高く、透過用としては不向きである。特許文献13記載の方法で製造されるシートでは、光拡散が目的ではないが、延伸によって白色度及び不透明度の向上を達成している。
【0018】
他の文献、例えば上記の特許文献7では、空隙率自体が検討されていない。
【0019】
本発明は、優れた光学特性と良好な強度特性を示す光拡散シートを提供することを目的とする。具体的には、均一な光散乱性及び高い光透過性と、良好な機械強度とを兼ね備えた光拡散シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、無機物質を高充填して且つ光学特性が優れたシートを開発すべく、従来とは全く観点を変え、鋭意検討を行った。その結果、無機系フィラーの配合量と空隙率とを所定の範囲に制御することにより、上記の具体的な課題を解決でき、優れた光学特性と良好な強度特性を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、熱可塑性樹脂と無機物質とを70:30〜10:90の質量比で含む光拡散シートにおいて、前記光拡散シートの空隙率が18%以上35%以下であり、かつ波長525nmにおける前記光拡散シートの透過散乱光強度が、散乱角度35度〜70度の範囲内で、散乱角度0度における透過散乱光強度の70%以上であることを特徴とする光拡散シートである。
【0022】
本発明に係る光拡散シートの一態様においては、前記無機物質が、鉱物物質粉末である光拡散シートが示される。
【0023】
本発明に係る光拡散シートの一態様においては、前記無機物質が、重質炭酸カルシウムである光拡散シートが示される。
【0024】
本発明に係る光拡散シートの一態様においては、前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂である光拡散シートが示される。
【0025】
本発明に係る光拡散シートの一態様においては、前記無機物質が、平均粒子径が0.7μm以上10.0μm以下の炭酸カルシウムである光拡散シートが示される。
【0026】
本発明に係る光拡散シートの一態様においては、前記熱可塑性樹脂と前記無機物質の質量比が50:50〜10:90である光拡散シートが示される。
【0027】
本発明に係る光拡散シートの一態様においては、前記光拡散シートが無延伸シートであることが示される。
【0028】
本発明に係る光拡散シートの一態様においては、前記光拡散シートの表面に設けられたコート層を有する光拡散シートが示される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、優れた光学特性と良好な強度特性を示す光拡散シートを得ることができる。本発明の光拡散シートは、全光線透過率及び拡散透過率が適正で光源の隠蔽性に優れ、しかも均一な光拡散性及び光透過性を示すため、特にバックライト方式の電飾、LED、液晶表示装置等への使用に適している。また、十分な機械強度を有し、外力に対し変形しにくいため、実用性に優れている。本発明の光拡散シートはさらに、無機物質を多量に含有するため、海洋汚染等の問題をもたらすプラスチック廃棄物を削減でき、持続性社会の構築にも貢献し得る。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0032】
本発明の光拡散シートは、熱可塑性樹脂と無機物質とを70:30〜10:90の質量比で含有するものであるが、同時に空隙率が18%以上35%以下であり、かつ後述する様な波長525nmにおける透過散乱光強度が、散乱角度35度〜70度の範囲内で、散乱角度0度における透過散乱光強度の70%以上であることを特徴とする。さらに好ましい態様においては、本発明の光拡散シートは延伸処理を行わないにも拘らず空隙率が18%以上35%以下であり、かつ後述する様な波長525nmにおける透過散乱光強度が、散乱角度35度〜70度の範囲内で、散乱角度0度における透過散乱光強度の85%以上であり、ほぼ均一であることを特徴とする。以下、本発明に係る光拡散シートを構成する各要件につき、それぞれ詳細に説明する。
【0033】
≪空隙率≫
本発明の光拡散シートにおいては、空隙率を18%以上35%以下とする。上記の様に熱可塑性樹脂と無機物質とを70:30〜10:90の質量比で含有すると同時に、空隙率を18%以上35%以下とすることにより、全光線透過率及び拡散透過率が適正で、均一な光拡散性及び光透過性を示す光拡散シートが得られる。空隙を設けず、単に無機物質を添加したのみでは、光拡散シートに要求される均一な光拡散性や光透過性を得ることができない。一方、空隙率が35%を超えると、全光線透過率や拡散透過率の著しい低下を招く場合がある。前記空隙率は、より好ましくは20%以上30%以下、特に好ましくは23%以上30%以下である。
【0034】
一般に、無機物質粉末を含有する樹脂フィルムでは、延伸加工によって空隙のサイズを調整しているが(例えば特許文献11及び12参照)、無機物質を含む熱可塑性樹脂体を延伸すると、無機粒子を核にして延伸が行われるため、生成する空隙は大きなものになる。本発明者らが見出したところによると、この様な延伸により空隙率を増大させた光拡散シートでは、全光線透過率や拡散透過率が著しく低下する。
【0035】
本発明の光拡散シートにおいては、極めて微小な空隙が、量的に前記の比率で、シート中に含まれる必要がある。こうした所望の空隙は、本発明者らの検討の結果、押出成形機の混練工程で生成させることが可能なことが分かった。特に、二軸押出機で顕著な効果が得られる。熱可塑性樹脂と鉱物物質粉末からなる樹脂体は、粘度が高いため樹脂体中に空気が巻き込まれやすい。この様な樹脂体が、混練すなわち溶融混合の工程で、押出機の2本のスクリュー間及びバレル(シリンダー)とスクリュー間の最も狭い間隙を通過するときに、樹脂体に大きなせん断応力が作用し、樹脂体の分散混合が行われると同時に、巻き込まれた気体により微細な空隙が生成すると考えている。さらに混練が進行する間に、空隙構造ができ、これが適度の光学適性をもつと推察できる。
【0036】
押出成形機に混入した空気は、通常はベントによって成形機外に除去されるが、混入した空気の一部は樹脂体に巻き込まれる。この考えは、例えば炭酸カルシウム60質量%とポリプロピレン樹脂40質量%とを混練してシート化した場合、両材料の真比重に基づく生成シートの密度の計算値は1.99であるが、押出成形で得られるシートの比重は、概ね1.4〜1.7の範囲となる事実によって証明される。
【0037】
なお、本発明の光拡散シートについて、JIS P8140によるコップ法吸水度を測定すると、多くの場合0.5m
2・120秒以下となる。この結果に示されるように、本発明の光拡散シートでは、空隙は大部分が水分の通過に対して不連続、すなわち独立した空隙となっている。
【0038】
空隙率は、シートの密度(比重)から計算することができる。例えばポリプロピレン樹脂及び炭酸カルシウムから成るシートでは、それぞれの真比重0.90及び2.71を用いて配合量から混合物の真比重ρ
oを計算することができる。その値と、実際のシートの比重ρとの比に基づき、下記(式1)に従って空隙率を計算することができる。
空隙率(体積%)=(1−ρ/ρ
o)×100 (式1)
なお、特許文献11に同様の計算法が記載されているが、特許文献11では延伸前のシートの比重を真比重としており、本発明における真比重とは異なる。
【0039】
空隙は上記のように押出成形によって形成されるが、熱可塑性樹脂と無機物質が上記比率のシートから、空隙率が18%以上35%以下のものを選定し、本発明の光拡散シートとすることができる。即ち、成形したシートの比重を測定し、上記の(式1)に従って空隙率を算出し、本発明の範囲内に入るものを光拡散シートとして使用することができる。
【0040】
光拡散シートの厚さにも特に制限はなく、構成する表示装置等に応じた所望の厚さとすることができる。本発明の光拡散シートは、厚さの違いによる光透過率や光散乱特性の変化がそれほど大きくはなく、通常使われる0.2〜0.4mmの範囲で良好な物性を示す。
【0041】
≪透過散乱光強度≫
本発明の前記光拡散シートでは、波長525nmにおける透過散乱光強度が、散乱角度35度〜70度の範囲内で、散乱角度0度における透過散乱光強度の70%以上、細かい製造条件の調整により85%以上となる。そのため、本発明の前記光拡散シートは均一な光拡散性及び光透過性を示し、特にバックライト方式の電飾、LED、液晶表示装置等への使用に適している。
【0042】
光散乱特性は、例えばサイバーネットシステム(株)製の「小型簡易散乱測定器」Mini−Diff V2を用い、Light Tec社のホームページ記載の方法で測定することができる。この装置では、630nm、525nm、及び465nmの3種の波長で、散乱強度を角度ごとに評価できるので、光拡散性についてより詳しく検討できる。本発明の光拡散シートの散乱特性は、散乱角度35度〜70度の範囲内で、散乱角度0度における透過散乱光強度の70%以上、好ましくは85%以上と定めた。なお、波長525nmの光が人間の眼に与える影響が大きいので、本発明では波長525nmの光のみによって規定してある。
【0043】
以下、本発明に係る光拡散シートを構成する各原材料及び製造方法につき、それぞれ詳細に説明する。
【0044】
≪熱可塑性樹脂≫
本発明に係る光拡散シートにおいて用いる熱可塑性樹脂は、組み合わせる無機物質の種類、光拡散シート製品の用途、機能等に応じて、次に記載するものから熱可塑性樹脂として適合するものを選択する必要がある。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂;アタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン(AS)共重合体、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン(ABS)共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。選択の場合。2種以上を組み合わせることも対象となり得る。
【0045】
これらの熱可塑性樹脂のうち、その成形容易性、性能面及び経済性等からポリオレフィン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂を、中でもポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。
【0046】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、プロピレン単独重合体、又はプロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。プロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとしては、例えば、エチレンや、1−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセンなどの炭素数4〜10のα−オレフィンが例示される。プロピレン単独重合体としては、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチック、ヘミアイソタクチック及び種々の程度の立体規則性を示す直鎖又は分枝状ポリプロピレン等の何れもが包含される。また上記共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよく、さらに二元共重合体のみならず三元共重合体であってもよい。具体的には、例えば、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ブテン−1−プロピレンランダム共重合体、エチレン−ブテン−1−プロピレンランダム3元共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体などを例示できる。なお、上記共重合体中のプロピレンと共重合可能な他のオレフィンは、無機物質と熱可塑性樹脂との組成物全体の質量を100質量%とした場合に、25質量%以下、特に15質量%以下の割合で含有されていることが好ましく、下限値としては0.3質量%であることが好ましい。また、これらのポリプロピレン系樹脂は、単独又は2種以上を混合して検討してもよい。
【0047】
また、前記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン1共重合体、エチレン−ブテン1共重合体、エチレン−ヘキセン1共重合体、エチレン−4メチルペンテン1共重合体、エチレン−オクテン1共重合体等、さらにそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0048】
前記したポリオレフィン系樹脂の中でも、耐熱性あるいは機械的強度が必要な場合には、ポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0049】
≪無機物質≫
本発明に係る拡散シート中に配合され得る無機物質としては、次のような物質から、製造方法、光拡散シート製品の用途、機能等に適合するものを選択できる。例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、亜鉛などの炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物、特に粉末状のものが挙げられ、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、カオリンクレー、タルク、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、ゼオライト、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、グラファイト、フェライト等が挙げられる。これらは合成のものであっても天然鉱物由来のものであってもよく、また、これらは単独または2種類以上併用することも検討の対象になり得る。
【0050】
さらに、無機物質の形状としては球状あるいは球状に近いものがよいが、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであってもよい。また、合成法により得られるものであっても、あるいは、天然鉱物を粉砕にかけることにより得られる不定形状のものでもよい。
【0051】
これらの無機物質としては、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、カオリンクレー、タルク、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の粉末であり、特に炭酸カルシウムが好ましい。さらに炭酸カルシウムとしては、合成法により調製されたもの、いわゆる軽質炭酸カルシウムと、石灰石などCaCO
3を主成分とする天然原料を機械的に粉砕分級して得られる、いわゆる重質炭酸カルシウムとの何れであってもよく、これらを組合わせることも可能であるが、経済性の観点で、重質炭酸カルシウムを多量に使用するのが好ましい。
【0052】
ここで、重質炭酸カルシウムとは、天然の石灰石などを機械的に粉砕・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは区別される。なお、粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、経済性の観点で、乾式法が好ましい。
【0053】
また、無機物質の分散性又は反応性を高めるために、無機物質粉末等の表面を予め常法に従い表面改質しておくことが好ましい。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するものなどが例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れのものであってもよく、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0054】
無機物質粉末、特に炭酸カルシウムの平均粒子径は、0.7μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.7μm以上6.0μm以下がより好ましい。これによって、光拡散シートの全光線透過率を適正な範囲とすることができる。なお、本明細書において述べる無機物質粉末の平均粒子径は、JIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS−100型を好ましく用いることができる。
【0055】
本発明の光拡散シート中には、上記の熱可塑性樹脂と無機物質とが、70:30〜10:90の質量比で含有される。後記するように、熱可塑性樹脂と無機物質の合計質量に対する無機物質の比率が30質量%未満だと、受光面の散乱光強度が散乱の角度によって不均等となる。一方で同比率が90質量%よりも高いものであると、押出成形による成形加工が困難となる。本発明に係る光拡散シートにおける上記質量比は、70:30〜30:70であることが好ましく、70:30〜40:60であることがさらに好ましい。
【0056】
≪その他の添加剤≫
本発明の光拡散シートには、必要に応じて、その他の添加剤を配合することも可能である。しかし、添加剤の使用は混練作用に悪影響を与える場合がある他、光拡散シートの表面にブリードアウトして光学特性を害する場合があるので注意する必要がある。その他の添加剤としては、例えば、加工助剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、色剤、発泡剤等がある。これらの添加剤は、単独で用いてもよいが、2種以上を併用することも可能である。また、これらは、後述の混練工程において混合してもよく、混練工程の前にあらかじめ樹脂組成物に配合していてもよい。
【0057】
以下に、これらのうち、重要と考えられるものについて例を挙げて説明するが、これらに限られるものではない。
【0058】
加工助剤としては、滑剤、例えばステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系滑剤、脂肪族アルコール系滑剤、ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド、リシノールアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、メチレンビスステアロアミド、メチレンビスステアロベヘンアミド、高級脂肪酸のビスアミド酸、複合型アミド等の脂肪族アマイド系滑剤、ステアリン酸−n−ブチル、ヒドロキシステアリン酸メチル、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス等の脂肪族エステル系滑剤、ステアリン酸マグネシウムを始めとする脂肪酸金属石鹸系滑剤等を挙げることができる。
【0059】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトール系酸化防止剤が使用できる。リン系、より具体的には亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系酸化防止安定剤が好ましく用いられる。亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
【0060】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。これらリン系酸化防止剤は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
フェノール系の酸化防止剤としては、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネイト、2−t−ブチル−6−(3'−t−ブチル−5'−メチル−2'−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネイトジエチルエステル、及びテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン等が例示され、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0062】
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン系難燃剤や、あるいはリン系難燃剤や金属水和物などの非リン系ハロゲン系難燃剤を用いることができる。ハロゲン系難燃剤としては、具体的には例えば、ハロゲン化ビスフェニルアルカン、ハロゲン化ビスフェニルエーテル、ハロゲン化ビスフェニルチオエーテル、ハロゲン化ビスフェニルスルフォンなどのハロゲン化ビスフェノール系化合物、臭素化ビスフェノールA、臭素化ビスフェノールS、塩素化ビスフェノールA、塩素化ビスフェノールSなどのビスフェノール−ビス(アルキルエーテル)系化合物等が、またリン系難燃剤としては、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、リン酸トリアリールイソプロピル化物、クレジルジ2、6−キシレニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が、金属水和物としては、例えば、アルミニウム三水和物、二水酸化マグネシウム又はこれらの組み合わせ等がそれぞれ例示でき、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。難燃助剤として働き、より効果的に難燃効果を向上させることが可能となる。さらに、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミ、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を難燃助剤として併用することも可能である。
【0063】
帯電防止剤としては、例えば、内部添加型のものとして、ラウリルジエタノールアミド、ステアリルジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミドのような水酸基含有化合物を用いることが可能である。
【0064】
色剤としては、公知の有機顔料又は無機顔料あるいは染料の何れをも用いることができる。具体的には、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオオサジン系、ペリノン系、キノフタロン系、ペリレン系顔料などの有機顔料や亜鉛華、チタンイエローなどの無機顔料が挙げられる。
【0065】
本発明の光拡散シートの空隙率は、上記のように押出成形によって調整することができるが、他にも、発泡剤を、例えば、熱可塑性樹脂と無機物質の合計質量に対して0.04〜5.00質量%程度添加することによって制御することもできる。当然のことながら、発泡剤としては、シートに微細な空隙を生成するものでなければならない。
【0066】
本発明の目的に合う発泡剤としては、発明者らは多くの検討結果から、キャリアレジンに発泡剤の有効成分が含まれるものが少量の空隙生成に適していると判断している。キャリアレジンとしては結晶性ポリオレフィン樹脂が、また、有効成分としては炭酸水素塩が最適と考えられる。
【0067】
≪光拡散シートの製造方法≫
本発明に係る光拡散シートの製造方法では、所定量の熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを混合し、混練と、気体の混合による空隙構造の形成を同時に行うことができ、工程の単純化及びコストの低減に大きく寄与する。この処理を行う機械装置として押出成形機が適し、特に2軸の押出成形機が好ましい。所望の空隙率を有する樹脂組成物を作成した後シート状に成形するが、成形方法としては、押出成形、射出成形、カレンダー成形等を使用できるが、Tダイ方式もしくはインフレーション方式による押出成形が最も好ましい。
【0068】
プラスチックの押出成形では、原材料の熱可塑性樹脂、無機物質、添加剤等が空気、水分、モノマー等の揮発物質を随伴する。ここで、上記随伴物質が全て水分と仮定して、その全てが空隙に変わるとして計算すると、次のようになる。熱可塑性樹脂と無機物質との組成物が仮に0.02質量%の水分を含む場合、1cm
3中に0.01mmol以上の水分子が存在する。もしこれが全て発泡して空隙を形成すると、空隙率は20%前後となる。なお、材料中の揮発成分と押出過程での気泡生成については、技術情報協会編集「押出成形の条件設定とトラブル対策」(2018年)等を参照することができる。
【0069】
こうした随伴物質は、オープンベントまたは真空ベントによって成形機外に除去しているが、完全に除去することはむずかしく、またどの程度残留しているか作業中に測定することは不可能である。ベントの工程後に強力な混練が行われて、樹脂体内で分散混合が繰り返され、シート内部に微細な空隙の構造を作り出されるが、この場合にどの程度の気体が樹脂体内に混合されているかを測定できない。そのため、押出成形品の空孔率は、ダイスから出た成形シートの比重を幅方向に一定間隔ごとに測定し、それらのバラツキと平均値で評価し、判定する。本願の発明の技術で重要なポイントといえる。
【0070】
なお、混練と成形を別工程で行う場合は、一軸押出機で成形することも可能である。この場合には、原料ペレットの製造工程で十分な混練を行い、且つ原料ペレットの吸湿防止に細心の注意が必要である。押出成形機の作業は、二軸押出機の場合に準じる。
【0071】
≪コート層≫
上記のような本発明の光拡散シートに、さらにコート層を付して印刷適性を向上させることもできる。例えばシートの片面又は両面にアクリル系の塗工層を設け、インクジェット受容層とすることも可能である。コート層として用いる原材料に特に制限はなく、アクリル系の他にエポキシ系、ポリエステル系の塗剤、合成樹脂エマルジョンとカオリンクレー、炭酸カルシウム等の顔料を混合して製造した塗料等を用いることができる。本発明はまた、前記光拡散シートの表面に設けられたインクジェット印刷等の各種印刷方式に適応するコート層を有する光拡散シートも包含する。
【0072】
本発明の光拡散シートにおいては、無機物質を高配合するとともに、空隙率が適正な値に調整され、均一な光散乱性と高い光透過性、さらには良好な機械強度が発現している。本発明の光拡散シートは地球規模の問題となっている持続可能な社会実現に大きく貢献するとともに、社会問題となったプラスチック系物質の使用量削減あるいは非プラスチック系への転換に役立つことが期待される。主原料の鉱物物質粉末は、資源として豊富であり、光拡散シートに製造されるまでに使用されるエネルギーコストも少なく済むと予想される。本発明の効果は、こうした点においても顕著である。
【実施例】
【0073】
以下本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
[実施例1〜3、比較例1]
原材料として、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン単独重合体(E111G、メルトマスフローレイト0.5g/10分、(株)プライムポリマー製)を、無機物質粉末としてライトンS−4(表面処理炭酸カルシウム、平均粒子径6μm、備北粉化工業(株)製)を使用した。両者を表1に記載された混合比率で使用し、さらに滑剤としてステアリン酸マグネシウムを添加し、同方向回転二軸混練押出機(φ25mm、L/D=41)を用い200℃で混練、水中にストランドで押出し、冷却、カットし、4種類のペレットを作製した。なお、水中に押出したストランドが連続的につながらなかった場合には、混練が不十分と判断してその周辺を廃棄し、次の工程には使用しなかった。このようにして作成したそれぞれのペレットを乾燥後、オープンベント付きの一軸Tダイ押出成形装置(φ20mm、L/D=25)により、230℃で混練しTダイから押出し、80℃の引取ロールを介して引き取り、厚さ約0.3mmのシートに成形した。各シートの密度(比重)は、比較例1が1.01、実施例1〜3がそれぞれ1.15、1.43、1.62であった。これらより空隙率を算出した結果を、表1に示す。密度(比重)は、下記のJIS規格により測定した。各シートについて、厚さ、不透明度、全光線透過率、ヘーズ、拡散透過率、光散乱特性等の物性を下記の条件により測定した。
【0075】
シートの基本的な物性は、下記のJIS規格により測定した。
密度:JIS K7112,坪量:JIS P8124,厚さ:JIS K7130,
弾性率:JIS K7127:縦方向(MD)・横方向(TD)双方について測定した,
白色度:JIS P8148,不透明度:JIS P8149,
透気度:JIS P8117
【0076】
なお、結晶性ポリエチレン樹脂をキャリアレジンとし、炭化水素塩を熱分解型発泡剤として含む発泡剤コンセントレートを使用して、それ以外は実施例2と同一の条件でシートを成形したところ、該シートの空隙率は34.5%であった。この結果は、非常に弱い発泡条件を適用すれば、発泡剤を用いても本発明のシートを製造できることを示すものである。
光学特性のうち、全光線透過率、ヘーズ値及び拡散透過率は、JIS K7361‐1及び7136により測定した。これらは何れも、各シートのグロス面とマット面の双方について行い、ヘーズ値については両面それぞれの数値の平均値を表示した。
光散乱特性は、透過散乱光強度の相対値によって評価した。透過散乱光強度をサイバーネットシステム株式会社製の「小型簡易散乱測定器」Mini−Diff V2を使用して測定し、入射光源としては、波長525nmを使用した。各散乱角度での測定値を基に、散乱角度0度における透過散乱光強度に対する散乱角度毎の相対値を算出した。なお、この測定ではシートの一方向における散乱角度だけではなく、同一シート表面上の様々な方向における散乱角度に関して、透過散乱光強度を測定したが、その散乱角度依存性はどの方向においても同等であった。換言すると、シート表面上のある測定点における散乱角度毎の透過散乱光強度は、円方向でほぼ均一であった。
評価結果を、表1及び
図1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1及び
図1から明らかな様に、炭酸カルシウム配合率が20%の比較例1のシートでは、散乱角度が0度から外れるに従い透過散乱光強度が著しく低下し、70度では0度時の70%未満となった。一方、炭酸カルシウム配合率が30〜90%の範囲内の実施例1〜3のシートでは、光散乱の角度による光量の差がほとんどなくなり、光散乱特性は顕著に改善された。
【0079】
[実施例4〜7]
これらの実施例では、一旦ペレット化してからシート成形するのではなく、原材料を直接二軸混練押出機に投入し、混練後にシートに成形した。
熱可塑性樹脂としてポリプロピレン単独重合体(E111G、メルトマスフローレイト0.5g/10分、(株)プライムポリマー製)を、無機物質粉末として平均粒子径が異なる4種類の炭酸カルシウムを使用した。各炭酸カルシウムをそれぞれポリプロピレン樹脂と質量比60:40で組み合わせ、さらに滑剤としてステアリン酸マグネシウムを添加し、オープンベントを取り付けた同方向回転二軸混練押出成形機(φ20mm、L/D=44)を用い230℃で混練し、Tダイから押出し、80℃の引取ロールを介して引き取り、厚さ約0.2mmのシートに成形した。
各シートの密度、不透明度、光透過率等の物性を実施例1と同様に測定した。実施例4〜7で成形したシートそれぞれの密度は、1.42、1.43、1.39、1.47であった。代表的な評価結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2から明らかなように、製造条件が変わっても、空隙率が18〜33%の範囲内のシートは、適切な全光線透過率及び拡散透過率を示した。また、シートの全光線透過率に対する炭酸カルシウム粉末の粒径の影響は、粒径が6〜25μmの範囲ではあまり明確ではなく、平均粒子径が2μmになると全光線透過率が多少上昇した。
【0082】
[実施例8〜13、比較例2〜5]
実施例4〜7と同様の操作を、スクリュー外径100mmの二軸押出機を用いて行った。押出成形後のシートはそれぞれ塗工なし及びありの試料に2分し、塗工ありの試料には、印刷適性向上に有効なアクリル系の塗工処理を行い、コート層を設けた。
熱可塑性樹脂としてポリプロピレン単独重合体(E111G、メルトマスフローレイト0.5g/10分、(株)プライムポリマー製)を、無機物質粉末としてライトンS−4(表面処理炭酸カルシウム、平均粒子径6μm、備北粉化工業(株)製)を使用した。これらを40:60の質量比で用い、さらに滑剤としてステアリン酸マグネシウムを添加して、同方向回転型二軸混練押出成形機(φ100mm、L/D=44)を用い230℃で混練した。
この設備には、混練工程の間に、オープンベントと真空ベントがそれぞれ1基取り付けられており、原材料に随伴する空気、水分、揮発成分等を押出機外に除去した。ベントで空気、水分等を除去した後も若干の空気等がバレル内に残り、これらが混練時に取り込まれて樹脂体中に均一に分散していった。樹脂体をギヤポンプ、スクリーンに通し、Tダイから押出した後、80℃の引取ロールを介して厚さ約0.2〜0.4mmのシートに成形し、シート密度を測定した。比較例2〜5では、上記のように成形したシートを巻き取ることなく直接ロールの周速度差を利用する縦延伸処理にかけて延伸した(延伸倍率2倍)。
シートが成形されるごとに密度を測定したが、その結果は実施例8、10、及び12、並びに比較例2及び4の塗工なしのシートで、それぞれ次のような値となった:1.48、1.45、1.47、0.91、0.91。
作製したシートの物性を表3−1に、光学特性を表3−2に示す。
【0083】
【表3-1】
【0084】
【表3-2】
【0085】
表3―1,2から明らかなように、本発明に従う実施例8〜13のシートは、何れもバックライト用として使用できる光透過率を有し、光散乱特性も良好で、弾性率も優れていた。表4に光散乱特性の1例として、実施例8及び9の測定値を示す。
一方、空隙率が33%を大きく超える比較例2〜5のシートでは、全光線透過率及び拡散透過率が著しく低下した。延伸によってシート内に空隙を生成させると、シートの光学特性が低下することが明示された。表4に比較例4の光散乱特性の測定値を表示したが、無延伸のシートと比較すると、光散乱特性も劣っていることが分かる。特許文献11の光反射体では、面積延伸倍率が25〜70倍で、空孔率が大きいシート表面で反射特性が向上していたが、光拡散シートの光学特性では全く異なる結果となった。
【0086】
【表4】
【0087】
比較例4の透過率測定結果を、
図1に示す。
図1及び表3〜4から明らかな様に、製造工程で延伸処理を行ったシートは一般に白色度及び不透明度が高く、無延伸シートと容易に区別できる。不透明度を高めることは、光拡散シートの性能改善につながらないことが確認された。また、塗工処理を施していない比較例2及び4のシートは透気度が低く(すなわち気体が透過し易く)、延伸によって連通孔が多数生じたことが示唆される。
延伸によって弾性率も大きく低下し、無延伸シート(実施例8〜13)の弾性率が何れも1000MPa以上であったのに対し、延伸シート(比較例2〜5)の弾性率は、何れも600MPa以下であった。
シートの厚みは、通常使われる0.2〜0.4mmの範囲では、厚さが薄い程、両透過率は良好となり、シート厚さ0.2mmの実施例8及び9のシートでは、光透過率及び光散乱特性が特に良好であった。
【0088】
[実施例14、比較例6〜8]
実施例9のシートを用い、光透過性及び隠蔽性を評価し、市販の電飾用バックライトフィルムと比較した。
電飾用途の市場では光透過率が40%以下の光拡散シートが大部分であり、市販品Aでは38.3%、市販品Bでは38.5%、市販品Cでは37.8%であった。また、拡散透過率は市販品A:38.2%、市販品B:38.5%、市販品C:37.6%であった。一方、本発明に従う実施例9のシートでは全光線透過率が43.9%、拡散透過率が43.8%であり、比較的高い透過率であった。
隠蔽性の測定は、光源からXcm離れた位置に置いた試料について、その試料の表面から1.5m離れた場所から肉眼で光源を観察したときに、光源の形状が認められなくなるXcmの数値を測定することにより行った。基準とした試料と比較して、数値が低くなる、すなわち光源と試料が接近するほど、隠蔽性は良好といえる。
前記Xの値は、実施例9のシートでは7.0cm、市販品Aでは8.5cm、市販品Bでは8.5cm、市販品Cでは9.0cmであった。本発明に従うシートは、市販品よりも小さなX値を示し、隠蔽性の点でも良好であった。
【解決手段】熱可塑性樹脂と無機物質とを70:30〜10:90の質量比で含む光拡散シートにおいて、前記光拡散シートの空隙率が18%以上35%以下であり、かつ波長525nmにおける前記光拡散シートの透過散乱光強度が、散乱角度35度〜70度の範囲内で、散乱角度0度における透過散乱光強度の70%以上であることを特徴とする光拡散シート。