特許第6795228号(P6795228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795228処理剤、耐炎化繊維不織布、炭素繊維不織布、及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6795228
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】処理剤、耐炎化繊維不織布、炭素繊維不織布、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/256 20060101AFI20201119BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20201119BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20201119BHJP
   D04H 1/43 20120101ALI20201119BHJP
   D06M 101/28 20060101ALN20201119BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20201119BHJP
【FI】
   D06M13/256
   D06M15/53
   D04H1/4242
   D04H1/43
   D06M101:28
   D06M101:40
【請求項の数】16
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-18882(P2020-18882)
(22)【出願日】2020年2月6日
【審査請求日】2020年2月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−274507(JP,A)
【文献】 特開2017−066541(JP,A)
【文献】 特開2005−232599(JP,A)
【文献】 特開昭59−144679(JP,A)
【文献】 特開2014−009290(JP,A)
【文献】 特開2013−117001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
D04H1/00−18/04
D01F9/08−9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機スルホン酸塩及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することを特徴とする耐炎化繊維不織布製造用の処理剤。
【請求項2】
前記有機スルホン酸塩が、有機スルホン酸アルカリ金属塩を含む請求項1に記載の処理剤。
【請求項3】
前記有機スルホン酸アルカリ金属塩が、脂肪族系有機スルホン酸アルカリ金属塩を含むものである請求項2に記載の処理剤。
【請求項4】
前記脂肪族系有機スルホン酸アルカリ金属塩が、分子中に炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基を有するものである請求項3に記載の処理剤。
【請求項5】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、アルコール類にエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを付加させた化合物を含むものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の処理剤。
【請求項6】
前記有機スルホン酸塩の含有量と前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量との質量比が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル/有機スルホン酸塩=2〜50/98〜50である請求項1〜5のいずれか一項に記載の処理剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の処理剤が付着していることを特徴とする耐炎化繊維不織布。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の処理剤を耐炎化繊維に付着させた後、耐炎化繊維不織布を得ることを特徴とする耐炎化繊維不織布の製造方法。
【請求項9】
有機スルホン酸塩及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することを特徴とする炭素繊維不織布製造用の処理剤。
【請求項10】
前記有機スルホン酸塩が、有機スルホン酸アルカリ金属塩を含む請求項9に記載の処理剤。
【請求項11】
前記有機スルホン酸アルカリ金属塩が、脂肪族系有機スルホン酸アルカリ金属塩を含むものである請求項10に記載の処理剤。
【請求項12】
前記脂肪族系有機スルホン酸アルカリ金属塩が、分子中に炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基を有するものである請求項11に記載の処理剤。
【請求項13】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、アルコール類にエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを付加させた化合物を含むものである請求項9〜12のいずれか一項に記載の処理剤。
【請求項14】
前記有機スルホン酸塩の含有量と前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量との質量比が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル/有機スルホン酸塩=2〜50/98〜50である請求項9〜13のいずれか一項に記載の処理剤。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか一項に記載の処理剤を炭素繊維に付着させた後、炭素繊維不織布を得ることを特徴とする炭素繊維不織布の製造方法。
【請求項16】
請求項9〜14のいずれか一項に記載の処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理剤、耐炎化繊維不織布、炭素繊維不織布、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維又は耐炎化繊維は、例えばエポキシ樹脂等のマトリクス樹脂と組み合わせた炭素繊維複合材料又は難燃・防炎素材として、建材、輸送機器等の各分野において広く利用されている。例えば、炭素繊維は、炭素繊維前駆体として、例えばアクリル繊維を紡糸する工程、繊維を延伸する工程、耐炎化工程、及び炭素化工程を経て製造される。
【0003】
炭素繊維又は耐炎化繊維は、織物の他、ローラーカード(カード機)を使用して得られる不織布等に成形して用いられることがある。不織布を製造する際、原料繊維に対してカード通過性等の各種特性を付与する観点から、繊維の表面にリン系有機化合物を含有する不織布製造用処理剤を付着させる処理が行われることがある。
【0004】
従来、特許文献1に開示される処理剤が知られている。特許文献1は、リン系有機化合物としてトリヒドロキシエチルホスフェートを含有する処理剤をポリアクリロニトリル系酸化繊維に付着させた後、不織布加工する工程について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−55878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の処理剤は、カード通過性及びウェブ均一性が未だ不十分であった。
本発明が解決しようとする課題は、カード通過性及びウェブ均一性を向上できる処理剤を提供する処にある。また、本発明の別の課題は、ウェブ均一性に優れた耐炎化繊維不織布、炭素繊維不織布、及びそれらの製造方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、有機スルホン酸塩を含有する耐炎化繊維不織布製造用又は炭素繊維不織布製造用の処理剤がまさしく好適であることを見出した。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の耐炎化繊維不織布製造用の処理剤は、有機スルホン酸塩及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することを特徴とする。
前記処理剤において、前記有機スルホン酸塩が、有機スルホン酸アルカリ金属塩を含むことが好ましい。
【0009】
前記処理剤において、前記有機スルホン酸アルカリ金属塩が、脂肪族系有機スルホン酸アルカリ金属塩を含むものであることが好ましい。
前記処理剤において、前記脂肪族系有機スルホン酸アルカリ金属塩が、分子中に炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基を有するものであることが好ましい。
【0010】
前記処理剤において、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、アルコール類にエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを付加させた化合物を含むものであることが好ましい。
【0011】
前記処理剤において、前記有機スルホン酸塩の含有量と前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量との質量比が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル/有機スルホン酸塩=2〜50/98〜50であることが好ましい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の耐炎化繊維不織布は、前記処理剤が付着していることを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の耐炎化繊維不織布の製造方法は、前記処理剤を耐炎化繊維に付着させた後、耐炎化繊維不織布を得ることを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明の一態様の炭素繊維不織布製造用の処理剤は、有機スルホン酸塩及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することを特徴とする。
前記処理剤において、前記有機スルホン酸塩が、有機スルホン酸アルカリ金属塩を含むことが好ましい。
前記処理剤において、前記有機スルホン酸アルカリ金属塩が、脂肪族系有機スルホン酸アルカリ金属塩を含むものであることが好ましい。
前記処理剤において、前記脂肪族系有機スルホン酸アルカリ金属塩が、分子中に炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基を有するものであることが好ましい。
記処理剤において、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、アルコール類にエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを付加させた化合物を含むものであることが好ましい。
前記有機スルホン酸塩の含有量と前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量との質量比が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル/有機スルホン酸塩=2〜50/98〜50であることが好ましい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の炭素繊維不織布の製造方法は、前記処理剤を炭素繊維に付着させた後、炭素繊維不織布を得ることを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の炭素繊維不織布は、前記処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カード通過性及びウェブ均一性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の耐炎化繊維不織布製造用又は炭素繊維不織布製造用の処理剤(以下、単に処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、有機スルホン酸塩を含有する。耐炎化繊維不織布製造用の処理剤及び炭素繊維不織布製造用の処理剤は、更にポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有する。
【0015】
有機スルホン酸塩を配合することにより、カード通過性及びウェブ均一性を向上させる。有機スルホン酸塩を構成する有機スルホン酸としては、例えば脂肪族系有機スルホン酸、芳香族系有機スルホン酸等が挙げられる。有機スルホン酸が炭化水素基を含む場合、炭化水素としては、直鎖状であっても分岐状であってもよい。脂肪族系有機スルホン酸の具体例としては、例えばヘプチルスルホン酸、2−エチルヘキシルスルホン酸、オクチルスルホン酸、ノニルスルホン酸、デシルスルホン酸、ウンデシルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、トリデシルスルホン酸、テトラデシルスルホン酸、ペンタデシルスルホン酸、ヘキサデシルスルホン酸、ヘプタデシルスルホン酸、オクタデシルスルホン酸、イソオクチルスルホン酸、イソデシルスルホン酸、イソウンデシルスルホン酸、イソドデシルスルホン酸、イソトリデシルスルホン酸、イソテトラデシルスルホン酸、イソペンタデシルスルホン酸、イソヘキサデシルスルホン酸、イソヘプタデシルスルホン酸、イソオクタデシルスルホン酸、アルキル(炭素数13−17の混合物)スルホン酸、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシル、スルホコハク酸ジオクチル、スルホコハク酸ジノニル、スルホコハク酸ジドデシル、スルホコハク酸ジヘキサデシル、スルホコハク酸ジイソブチル等が挙げられる。
【0016】
芳香族系有機スルホン酸の具体例としては、例えばデシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルジフェニルエーテルジスルホン酸等が挙げられる。
【0017】
有機スルホン酸のカウンターとして使用される塩としては、例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等が挙げられる。アルカリ金属塩の具体例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。有機アミン塩の具体例としては、例えばポリオキシアルキレンアルキルアミン、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミン等が挙げられる。
【0018】
これらの具体例の中で、有機スルホン酸塩は、有機スルホン酸アルカリ金属塩を含むものであることが好ましい。かかる構成により、カード通過性及びウェブ均一性をより向上させる。
【0019】
また、これらの具体例の中で、有機スルホン酸塩は、脂肪族系有機スルホン酸アルカリ金属塩を含むものが好ましい。かかる構成により、カード通過性及びウェブ均一性をより向上させる。
【0020】
また、これらの具体例の中で、有機スルホン酸塩は、分子中に炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基を有する脂肪族系有機スルホン酸アルカリ金属塩を含むものが好ましい。かかる構成により、カード通過性及びウェブ均一性をより向上させる。
【0021】
上述した有機スルホン酸塩は、1種類の有機スルホン酸塩を単独で使用してもよいし、又は2種以上の有機スルホン酸塩を適宜組み合わせて使用してもよい。
本実施形態の耐炎化繊維不織布製造用の処理剤及び炭素繊維不織布製造用の処理剤は、更にポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有する。かかる構成により、カード通過性及びウェブ均一性をより向上させる。
【0022】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えばアルコール類にアルキレンオキサイドを付加させ化合物等が挙げられる。アルコール類としては、1価アルコールであっても、多価アルコールであっても、芳香族系アルコールであってもよい。
【0023】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2−エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール、(7)エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、グリセリン、2−メチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール等が挙げられる。
【0024】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1〜60モル、より好ましくは1〜40モル、さらに好ましくは2〜30モル、特に好ましくは2〜20モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。また、アルキレンオキサイドは、ランダム付加体として構成されても、ブロック付加体として構成されてもよい。
【0025】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの質量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは1,800以下、より好ましくは1,500以下、さらに好ましくは1,000以下である。かかる範囲に規定することにより、有機スルホン酸塩との併用による本発明の効果をより向上させる。尚、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0026】
本実施形態の処理剤において、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、アルコール類にエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを付加させた化合物を含むものが好ましい。かかる構成により、ウェブ均一性をより向上させる。
【0027】
上述したポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、1種類のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを単独で使用してもよいし、又は2種以上のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本実施形態の処理剤において、有機スルホン酸塩の含有量とポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量との質量比は、適宜設定されるが、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル/有機スルホン酸塩=2〜50/98〜50であることが好ましく、5〜40/95〜60であることがより好ましい。かかる範囲に規定することにより、ウェブ均一性をより向上させる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る耐炎化繊維不織布及び炭素繊維不織布(以下、単に不織布ともいう。)、又はそれらの製造方法を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の不織布は、不織布に第1実施形態の処理剤が付着している。本実施形態の不織布は、まず第1実施形態の処理剤を耐炎化繊維又は炭素繊維に付着させる工程が行われ、次にカーディングによるウェブ形成工程を行うことにより製造される。不織布に対する処理剤の付着量については特に制限はないが、不織布に処理剤(溶媒を含まない)が好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜2質量%となるよう付着している。
【0030】
不織布を構成する耐炎化繊維及び炭素繊維の種類としては、特に制限はないが、例えば、アクリル繊維を原料として得られたPAN系繊維、ピッチを原料として得られたピッチ系繊維等が挙げられる。例えばアクリル繊維が用いられる場合、アクリル繊維としては、少なくとも90モル%以上のアクリロニトリルと、10モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とする繊維から構成されることが好ましい。耐炎化促進成分としては、例えばアクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。原料繊維の単繊維繊度については、特に限定はないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは0.1〜2.0dTexである。また、原料繊維の繊維束を構成する単繊維の本数についても特に限定はないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは1,000〜96,000本である。
【0031】
本実施形態の耐炎化繊維又は炭素繊維の製造方法は、まず上述した原料繊維を得た後、製糸する製糸工程が行われる。次に、その製糸工程で製造された繊維束を200〜300℃、好ましくは230〜270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程が行われる。さらに炭素繊維を得る場合は、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃、好ましくは300〜1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程が行われる。炭素化処理工程は、耐炎化処理工程に続けて行ってもよい。
【0032】
本実施形態の不織布の製造方法は、上述したようにまず第1実施形態の処理剤を耐炎化繊維又は炭素繊維に付着させる工程が行われる。耐炎化繊維又は炭素繊維に処理剤を付着させる方法は、公知の方法を適宜採用できる。例えば、浸漬給油法、ローラー浸漬法、ローラー接触法、スプレー法、抄紙法、計量ポンプを用いたガイド給油法等、一般に工業的に用いられている方法を適用できる。
【0033】
第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。処理剤は、好ましくは水性のエマルション液の状態で耐炎化繊維又は炭素繊維に付着される。処理剤が適用される繊維の長さは、特に限定されず、一般にステープルと呼ばれる短繊維、一般にフィラメントと呼ばれる長繊維のものが挙げられる。
【0034】
続いて、乾燥処理し、処理剤の溶液に含まれている水等の溶媒の除去を行うことにより、耐炎化繊維又は炭素繊維ストランドを得ることができる。ここでの乾燥処理は、例えば、熱風、熱板、ローラー、各種赤外線ヒーター等を熱媒として利用した方法を採用できる。
【0035】
次に、ウェブ形成工程が行われる。ウェブ形成工程は、上記処理剤が付着した耐炎化繊維又は炭素繊維にカーディングを行い、不織布からなるウェブを製造する工程である。カーディングは、公知のカード機を用いて行うことができる。例えばフラットカード、コンビネーションカード、ローラーカード等が挙げられる。
【0036】
本実施形態の処理剤、耐炎化繊維不織布、炭素繊維不織布、及びそれらの製造方法の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、不織布を製造する前に繊維に付与される耐炎化繊維不織布製造用又は炭素繊維不織布製造用の処理剤において、有機スルホン酸塩を含有する。したがって、耐炎化繊維又は炭素繊維からカード機を使用して不織布に成形した場合、繊維の脱落等を抑制することによりカード通過性を向上できる。また、製造されたカードウェブに斑がなくウェブ均一性に優れる耐炎化繊維不織布又は炭素繊維不織布を得ることができる。
【0037】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤として、上記以外の界面活性剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0039】
試験区分1(耐炎化繊維不織布製造用又は炭素繊維不織布製造用の処理剤の調製)
・実施例1:表1に示すように、ドデシル−6−スルホン酸のナトリウム塩(A−1)80部と、テトラデシルアルコールにエチレンオキサイド10モル及びプロピレンオキサイド5モル付加させた化合物(B−1)20部とをよく混合し、撹拌を続けながら固形分濃度が30%となるようにイオン交換水を徐々に加えることにより実施例1の処理剤を調製した。
【0040】
・実施例2〜12,15〜20、参考例13,14,21,22、及び比較例1〜12:実施例1と同様にして、表1に示す有機スルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及び必要によりその他化合物の全部又は一部をよく混合して均一にすることで、実施例2〜12,15〜20、参考例13,14,21,22、及び比較例1〜12の処理剤を調製した。
【0041】
各例の処理剤中における有機スルホン酸塩の種類と含有量、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの種類と含有量、その他化合物の種類と含有量は、表1の「有機スルホン酸塩」欄、「ポリオキシアルキレンアルキルエーテル」欄、「その他化合物」欄に示すとおりである。
【0042】
【表1】
表1において、
A−1:ドデシル−6−スルホン酸のナトリウム塩
A−2:テトラデシル−7−スルホン酸のカリウム塩
A−3:オクタデシルスルホン酸のナトリウム塩
A−4:オクチルスルホン酸のナトリウム塩
A−5:ドデシルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩
A−6:ドデシル−6−スルホン酸のアンモニウム塩
A−7:ドデシル−6−スルホン酸のジブチルエタノールアミン塩
A−8:ドデシルベンゼンスルホン酸のトリエタノールアミン塩
ra−1:ドデシル−6−スルホン酸
ra−2:ドデシルベンゼンスルホン酸
B−1:テトラデシルアルコールにエチレンオキサイド10モル及びプロピレンオキサイド5モル付加させた化合物
B−2:ドデシルアルコールにエチレンオキサイド5モル及びプロピレンオキサイド10モル付加させた化合物
B−3:ドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物
C−1:トリヒドロキシエチルホスフェート
C−2:ラウリルリン酸エステルカリウム塩を示す。
【0043】
試験区分2(耐炎化繊維不織布及び炭素繊維不織布の製造)
試験区分1で調製した耐炎化繊維不織布製造用又は炭素繊維不織布製造用の処理剤を用いて、耐炎化繊維不織布及び炭素繊維不織布を製造した。
【0044】
アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0045】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランドを作成した。これに公知の炭素繊維前駆体用処理剤の4%イオン交換水溶液を浸漬法にて炭素繊維前駆体用処理剤の付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように給油した。その後、このアクリル繊維ストランドを130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、さらに170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に糸管に巻き取ることで炭素繊維前駆体を得た。この炭素繊維前駆体から糸を解舒し、200℃〜300℃の空気雰囲気下で耐炎化処理することにより耐炎化繊維を得た。その後、窒素雰囲気下で300〜1,300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取った。
【0046】
上記のように得られた耐炎化繊維及び炭素繊維をそれぞれ50mmにカットしてから、試験区分1で調製した処理剤の2%水溶液中に浸漬させて、繊維上に処理剤が固形分として1.0%付与された繊維を得た。
【0047】
得られた繊維を用いて、カード通過性及びウェブ均一性を以下に示されるように評価した。結果を表1の「カード通過性」欄、「ウェブ均一性」欄に示す。
試験区分3(評価)
・カード通過性
上記のように得られた処理剤で処理済み耐炎化繊維又は炭素繊維20gを、20℃で65%RHの恒温室内で24時間調湿した後、ローラーカード(カード機)に供した。投入量(g)に対して排出された量(g)の割合を算出し、下記の基準で評価した。
【0048】
・カード通過性の評価基準
4:排出量が85%以上
3:排出量が70%以上且つ85%未満
2:排出量が60%以上且つ70%未満
1:排出量が60%未満
・ウェブ均一性
カード通過性評価で作成したカードウェブの地合いの均一性を目視にて下記の基準で評価した。
【0049】
・ウェブの均一性の評価基準
◎:斑が全くなく、均一である場合
○:僅かな斑が認められるが、実用上問題でない場合
×:広範囲にはっきりと斑が確認でき、製品とならない場合
表1の各比較例に対する各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、カード通過性及びウェブ均一性を向上できる。
【要約】
【課題】カード通過性及びウェブ均一性を向上できる処理剤を提供する。また、ウェブ均一性に優れた耐炎化繊維不織布及び炭素繊維不織布を提供する。
【解決手段】本発明は、有機スルホン酸塩を含有することを特徴とする耐炎化繊維不織布用又は炭素繊維不織布用の処理剤である。また、かかる処理剤が付着している耐炎化繊維不織布又は炭素繊維不織布である。
【選択図】なし