特許第6795237号(P6795237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6795237-合成繊維用処理剤、及び合成繊維 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6795237
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤、及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/165 20060101AFI20201119BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20201119BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   D06M13/165
   D06M15/53
   D06M15/643
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-102307(P2020-102307)
(22)【出願日】2020年6月12日
【審査請求日】2020年6月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−183124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/165
D06M 15/53
D06M 15/643
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4以上のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させたポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有し、
更に、シリコーンを含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
【請求項2】
炭素数4以上のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させたポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することを特徴とする合成繊維用処理剤であり、
前記合成繊維が、炭素繊維前駆体である合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドを含むものである請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記1価脂肪族アルコールが、炭素数10〜18のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有するものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記1価脂肪族アルコールが、炭素数12〜16のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有するものである請求項1〜のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
更に、シリコーンを含有する請求項1〜のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
前記シリコーンが、アミノ変性シリコーンを含むものである請求項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及び前記シリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを5〜80質量部、及び前記シリコーンを95〜20質量部の割合で含む請求項又はに記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
前記合成繊維が、炭素繊維前駆体である請求項1〜のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤、及び合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭素繊維は、アクリル樹脂等を紡糸する紡糸工程、紡糸された繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、乾燥緻密化した繊維を延伸して合成繊維である炭素繊維前駆体を製造する延伸工程、炭素繊維前駆体を耐炎化する耐炎化処理工程、及び耐炎化繊維を炭素化する炭素化処理工程を行なうことにより製造される。
【0003】
合成繊維の製造工程において、繊維の集束性を向上させるために、合成繊維用処理剤が用いられることがある。
特許文献1には、アミノ変性シリコーンとポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有するアクリル繊維処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/169632号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、合成繊維用処理剤には、合成繊維の製造工程における集束性を向上させる効果のさらなる性能向上が求められている。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、合成繊維の集束性を好適に向上させることを可能にした合成繊維用処理剤を提供することにある。また、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための合成繊維用処理剤は、炭素数4以上のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させたポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有し、更に、シリコーンを含有することを要旨とする。
上記課題を解決するための合成繊維用処理剤は、炭素数4以上のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させたポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することを特徴とする合成繊維用処理剤であり、前記合成繊維が、炭素繊維前駆体であることを要旨とする。
【0007】
上記合成繊維用処理剤について、前記アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドを含むものであることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記1価脂肪族アルコールが、炭素数10〜18のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有するものであることが好ましい。
【0008】
上記合成繊維用処理剤について、前記1価脂肪族アルコールが、炭素数12〜16のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有するものであることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、更に、シリコーンを含有することが好ましい。
【0009】
上記合成繊維用処理剤について、前記シリコーンが、アミノ変性シリコーンを含むものであることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及び前記シリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを5〜80質量部、及び前記シリコーンを95〜20質量部の割合で含むことが好ましい。
【0010】
上記合成繊維用処理剤について、前記合成繊維が、炭素繊維前駆体であることが好ましい。
上記課題を解決するための合成繊維は、上記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、合成繊維の集束性を好適に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】平滑性を測定する装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の処理剤は、炭素数4以上のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させたポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有する。
【0015】
上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することにより、合成繊維の集束性を好適に向上させることができる。1価脂肪族アルコールとしては、飽和脂肪族アルコールであっても、不飽和脂肪族アルコールであってもよい。また、1価脂肪族アルコールとしては、直鎖脂肪族アルコールであっても、分岐鎖を有する脂肪族アルコールであってもよい。
【0016】
上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの具体例としては、例えば、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを30モル付加させた化合物、2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物、2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物、2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物、2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物、2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物、2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物、2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル付加させた化合物、2−デカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−オクタデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−ノナノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物等が挙げられる。
【0017】
上記のポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記1価脂肪族アルコールは、炭素数10〜18のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有するものであることが好ましく、炭素数12〜16のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有するものであることがより好ましい。炭素数が10〜18のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有するものであることにより、集束性をより向上させることができる。また、炭素数が12〜16のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有するものであることにより、後述のように、合成繊維の巻き形状をより綺麗に保つことができる。
【0018】
上記アルキレンオキサイドの具体例としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等を挙げることができる。これらの中でも、エチレンオキサイドであることが好ましい。重合配列としては、特に限定されず、ランダム付加物であっても、ブロック付加物であってもよい。
【0019】
上記のアルキレンオキサイドは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本実施形態の処理剤は、シリコーンを含有することが好ましい。
【0020】
シリコーンとしては、例えば、ジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。これらの中でも、アミノ変性シリコーンを含有することがより好ましい。
【0021】
シリコーンの具体例としては、例えば粘度:250mm/s、当量:7600g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン、粘度:1300mm/s、当量:1700g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン、粘度:1700mm/s、当量:3800g/molであるモノアミン型のアミノ変性シリコーン、粘度:5000mm/s、当量:7000g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン、粘度:10000mm/s、当量:2000g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン、粘度:600mm/s、当量:3000g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン、粘度:80mm/s、当量:4000g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン、粘度:10000mm/sのジメチルシリコーン、粘度:500mm/s、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=100/0、シリコーン/ポリエーテルの質量比=50/50のポリエーテル変性シリコーン、粘度:1700mm/s、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=40/60、シリコーン/ポリエーテルの質量比=20/80のポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
【0022】
上記のシリコーンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びシリコーンの含有量に制限はない。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びシリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを5〜80質量部、及びシリコーンを95〜20質量部の割合で含むことがより好ましい。かかる配合割合に規定することにより、後述のように、合成繊維の平滑性を向上させることができる。
【0023】
(第2実施形態)
本発明に係る合成繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維等が挙げられる。合成繊維としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる樹脂製の炭素繊維前駆体が好ましい。炭素繊維前駆体を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂、ピッチ等を挙げることができる。
【0024】
第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を合成繊維に対し0.1〜2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3〜1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。
【0025】
第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
処理剤を合成繊維に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤、及び水を含有する水性液又はさらに希釈した水溶液を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0026】
本実施形態の合成繊維を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1〜3を経ることが好ましい。
工程1:第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させて製糸する製糸工程。
【0027】
工程2:前記工程1で得られた合成繊維を200〜300℃、好ましくは230〜270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに300〜2000℃、好ましくは300〜1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
【0028】
製糸工程は、さらに、樹脂を溶媒に溶解して紡糸する湿式紡糸工程、湿式紡糸された合成繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、及び乾燥緻密化した合成繊維を延伸する延伸工程を有していることが好ましい。
【0029】
乾燥緻密化工程の温度は特に限定されないが、湿式紡糸工程を経た合成繊維を、例えば、70〜200℃で加熱することが好ましい。処理剤を合成繊維に付着させるタイミングは特に限定されないが、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間であることが好ましい。
【0030】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0031】
本実施形態の処理剤、及び合成繊維によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の処理剤は、所定のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有している。したがって、合成繊維の集束性を好適に向上させることができる。また、合成繊維の平滑性を向上させることができる。また、合成繊維を巻き取った際に、巻き形状を綺麗に保つことができる。特にボビンに巻き取った際の端面等の形状を綺麗に保つことができ、巻取り効率、解舒効率の向上を図ることができる。
【0032】
(2)湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を合成繊維に付着させている。乾燥緻密化工程、及び延伸工程を経た合成繊維の集束性を向上できる。
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0033】
・本実施形態では、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を合成繊維に付着させていたが、この態様に限定されない。乾燥緻密化工程と延伸工程の間において処理剤を合成繊維に付着させても良いし、延伸工程と耐炎化処理工程の間において処理剤を合成繊維に付着させても良い。
【0034】
・本実施形態において、合成繊維用処理剤はシリコーンを含有していたが、この態様に限定されない。シリコーンは省略されていてもよい。
・本実施形態において、例えば、合成繊維が、耐炎化処理工程を行なうものの、炭素化処理工程までは行わない繊維であってもよい。
【0035】
・本実施形態の処理剤又は水性液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤又は水性液の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤又は水性液に用いられる成分(以下、その他成分ともいう。)をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0037】
試験区分1(合成繊維用処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示される各成分を使用し、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(A−4)が30部、シリコーン(B−1)が70部の配合割合となるようにビーカーに加えた。これらを撹拌してよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1の合成繊維用処理剤の25%水性液を調製した。
【0038】
(実施例2〜18及び比較例1〜4)
実施例2〜18及び比較例1〜4の各合成繊維用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0039】
なお、各例の処理剤中におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの種類と含有量、シリコーンの種類と含有量、及びその他成分の種類と含有量は、表1の「(A)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル」欄、「(B)シリコーン」欄、及び「(C)その他成分」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0040】
【表1】
表1の記号欄に記載するA−1〜A−22、a−1〜a−7、B−1〜B−10、C−1〜C−7の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0041】
(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)
A−1:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物
A−2:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A−3:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物
A−4:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
A−5:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを30モル付加させた化合物
A−6:2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A−7:2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
A−8:2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物
A−9:2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A−10:2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
A−11:2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル付加させた化合物
A−12:2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物
A−13:2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物
A−14:2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物
A−15:2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物
A−16:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物
A−17:2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物
A−18:2−ヘキサデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物
A−19:2−デカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
A−20:2−オクタデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
A−21:2−ノナノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A−22:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物
a−1:4−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物
a−2:6−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
a−3:6−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
a−4:3−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
a−5:7−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
a−6:1−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
a−7:1−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルに用いられるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの種類、1価脂肪族アルコールの炭素数、及びヒドロキシ基の位置について、表2の「(A)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル」欄、「1価脂肪族アルコールの炭素数」欄、及び「ヒドロキシ基の位置」欄にそれぞれ示す。
【0042】
【表2】
(シリコーン)
B−1:粘度:250mm/s、当量:7600g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
B−2:粘度:1300mm/s、当量:1700g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
B−3:粘度:1700mm/s、当量:3800g/molであるモノアミン型のアミノ変性シリコーン
B−4:粘度:5000mm/s、当量:7000g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
B−5:粘度:10000mm/s、当量:2000g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
B−6:粘度:600mm/s、当量:3000g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
B−7:粘度:80mm/s、当量:4000g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
B−8:粘度:10000mm/sのジメチルシリコーン
B−9:粘度:500mm/s、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=100/0、シリコーン/ポリエーテルの質量比=50/50のポリエーテル変性シリコーン
B−10:粘度:1700mm/s、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=40/60、シリコーン/ポリエーテルの質量比=20/80のポリエーテル変性シリコーン
(その他成分)
C−1:1−エチル−2−(ヘプタデセニル)−4,5−ジハイドロ−3−(2−ハイドロキシエチル)−1H−イミダゾリニウムのエチル硫酸塩
C−2:イソドデシルホスフェート
C−3:ポリオキシエチレン(n=10)ラウリルエーテル酢酸
C−4:酢酸
C−5:ジエタノールアミン
C−6:ラウロイルサルコシネート
C−7:ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジドデシルエステル
試験区分2(合成繊維、及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した合成繊維用処理剤を用いて、合成繊維、及び炭素繊維を製造した。
【0043】
まず、工程1として、合成繊維としてアクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0044】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製した合成繊維用処理剤を給油した。合成繊維用処理剤の給油は、合成繊維用処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置(以下、ワインダーともいう。)を用いて糸管(以下、ボビンともいう。)に巻き取った。
【0045】
次に、工程2として、巻き取られた合成繊維から糸を解舒し、230〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後にボビンに巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0046】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、ボビンに巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0047】
試験区分3(評価)
実施例1〜18及び比較例1〜4の処理剤について、合成繊維の集束性、合成繊維の巻き形状、及び合成繊維の平滑性を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の“集束性”、“巻き形状”、“平滑性”欄に示す。
【0048】
(集束性)
試験区分2の工程1において、合成繊維用処理剤を給油したアクリル繊維ストランドが加熱ローラーを通過する際の集束状態を目視で確認して、以下の基準で集束性の評価を行った。
【0049】
・合成繊維の集束性の評価基準
◎(良好):集束性が良く、加熱ローラーへの巻きつきもなく、操業性に全く問題ない場合
〇(可):やや糸がばらけることがあるが断糸は無く操業性に問題ない場合
×(不良):糸のばらけが多く、頻繁に断糸が発生して操業性に影響がある場合
(巻き形状)
試験区分2の工程1において、ワインダーで合成繊維を巻き取った時の形状を目視で確認して、以下の基準で巻き形状の評価を行った。なお、通常、ワインダーで合成繊維を巻き取ると、合成繊維はボビンの周面に沿って円筒状に巻き取られる。
【0050】
・巻き形状の評価基準
◎(良好):合成繊維を100kg以上巻き取っても綺麗な円筒状の形状を保つ場合
〇(可):合成繊維を80kg以上100kg未満巻き取った状態で綺麗な円筒状の形状を保つ場合
×(不良):合成繊維を80kg未満巻き取った状態で綺麗な円筒状の形状を保つことができない場合
ここで、綺麗な円筒状の形状を保つことができないとは、合成繊維の巻き付け状態にばらつきが生じて円筒状の周面に凹凸が生じた状態や、巻き付けられた合成繊維の位置がずれて長球状になった状態等を意味するものとする。
【0051】
(平滑性)
平滑性を測定する装置として、島津製作所社製のオートグラフABS−1kNX(張力測定装置)を使用した。
【0052】
図1に示されるように、処理剤を付着させた合成繊維(以下、試験糸1ともいう。)の一端をオートグラフの把持治具2に固定し、フリーローラー3、クロムメッキ梨地ピン4、及びフリーローラー5を順に介して、試験糸1の他端に50gの分銅6を固定した。クロムメッキ梨地ピン4において、試験糸1が接する駆動軸4aの直径は1cmで、表面粗度は2Sである。フリーローラー3とクロムメッキ梨地ピン4との間における試験糸1の延びる方向に対する、クロムメッキ梨地ピン4とフリーローラー5との間における試験糸1の延びる方向のなす角度が90°となるように配されている。この状態で25℃で60%RHの条件下クロムメッキ梨地ピン4の駆動軸4aを周速100m/分の速度でオートグラフに張力がかかる方向に回転させた状態にしてオートグラフによる張力を0.1秒毎に30秒間測定した。この時の張力の平均値(N)を求め、次の基準で評価した。
【0053】
◎◎(優れる):張力の平均値が2N未満
◎(良好):張力の平均値が2N以上、3N未満
〇(可):張力の平均値が3N以上、4N未満
×(不良):張力の平均値が4N以上
表1の結果から、本発明によれば、合成繊維の集束性を好適に向上させることができる。また、合成繊維を巻き取った際に、巻き形状を綺麗に保つことができる。また、合成繊維の平滑性を向上させることができる。
【要約】
【課題】合成繊維の集束性を好適に向上させる。
【解決手段】合成繊維用処理剤は、炭素数4以上のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させたポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有する。
【選択図】なし
図1