特許第6795238号(P6795238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795238合成繊維用処理剤の製造方法、合成繊維用処理剤、合成繊維、及び合成繊維の製造方法
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  • 特許6795238-合成繊維用処理剤の製造方法、合成繊維用処理剤、合成繊維、及び合成繊維の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6795238
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤の製造方法、合成繊維用処理剤、合成繊維、及び合成繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/53 20060101AFI20201119BHJP
   D06M 13/165 20060101ALI20201119BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   D06M15/53
   D06M13/165
   D06M15/643
【請求項の数】22
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-102308(P2020-102308)
(22)【出願日】2020年6月12日
【審査請求日】2020年6月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−183124(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/169632(WO,A1)
【文献】 特開2010−126465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/53
D06M 13/165
D06M 15/643
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICP発光分析法によって合成繊維用処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が200ppm以下である合成繊維用処理剤の製造方法であって、
分子中にホウ素原子を有する触媒の存在下、アルコールに対してアルキレンオキサイドを付加して(ポリ)オキシアルキレン誘導体を作製する付加工程と、
ICP発光分析法によって前記合成繊維用処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が200ppm以下となるように前記触媒を除去する除去工程とを有することを特徴とする合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項2】
前記除去工程において、ICP発光分析法によって前記合成繊維用処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が40ppm以下となるように前記触媒を除去する請求項1に記載の合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項3】
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体が、アルコール1モルに対して炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させた化合物を含むものである請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項4】
前記アルコールが、分子中に炭素数10〜18のアルキル鎖を有するものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項5】
前記アルコールが、分子中に炭素数12〜16のアルキル鎖を有するものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項6】
前記アルコールが、アルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコールである請求項4又は5に記載の合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項7】
さらに平滑剤を混合する混合工程を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項8】
前記平滑剤が、シリコーンを含有するものである請求項7に記載の合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項9】
前記平滑剤が、アミノ変性シリコーンを含有するものである請求項7又は8に記載の合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項10】
前記混合工程において、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体及び前記平滑剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体を10〜70質量部、及び前記平滑剤を90〜30質量部の割合で含むように前記平滑剤を混合する請求項7〜9のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項11】
前記合成繊維が、炭素繊維前駆体である請求項1〜10のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の製造方法。
【請求項12】
平滑剤と(ポリ)オキシアルキレン誘導体とを含有する合成繊維用処理剤であって、
ICP発光分析法によって処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が0.1ppm以上200ppm以下であることを特徴とする合成繊維用処理剤。
【請求項13】
前記ホウ素の含有量が40ppm以下である請求項12に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項14】
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体が、アルコール1モルに対して炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させた化合物を含むものである請求項12又は13に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項15】
前記アルコールが、分子中に炭素数10〜18のアルキル鎖を有するものである請求項14に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項16】
前記アルコールが、分子中に炭素数12〜16のアルキル鎖を有するものである請求項14又は15に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項17】
前記アルコールが、アルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコールである請求項15又は16に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項18】
前記平滑剤が、アミノ変性シリコーンを含有するものである請求項12〜17のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項19】
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体及び前記平滑剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体を10〜70質量部、及び前記平滑剤を90〜30質量部の割合で含む請求項12〜18のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項20】
前記合成繊維が、炭素繊維前駆体である請求項12〜19のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項21】
請求項12〜19のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【請求項22】
請求項12〜19のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤を繊維に付着させる工程を経ることを特徴とする合成繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤の製造方法、合成繊維用処理剤、合成繊維、及び合成繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭素繊維は、アクリル樹脂等を紡糸して合成繊維である炭素繊維前駆体を作製する紡糸工程、及び合成繊維を焼成する焼成工程を行なうことにより製造される。
特許文献1には、アミノ変性シリコーンとポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有するアクリル繊維処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/169632号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、紡糸工程において繊維に毛羽が発生することがあり、紡糸工程における毛羽の抑制が課題として挙げられる。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、紡糸工程における毛羽を好適に抑制することを可能にした合成繊維用処理剤の製造方法を提供することにある。また、紡糸工程における毛羽を好適に抑制することを可能にした合成繊維用処理剤、この合成繊維処理剤が付着した合成繊維、及びこの合成繊維用処理剤を用いた合成繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための合成繊維用処理剤の製造方法は、ICP発光分析法によって合成繊維用処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が200ppm以下である合成繊維用処理剤の製造方法であって、分子中にホウ素原子を有する触媒の存在下、アルコールに対してアルキレンオキサイドを付加して(ポリ)オキシアルキレン誘導体を作製する付加工程と、ICP発光分析法によって前記合成繊維用処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が200ppm以下となるように前記触媒を除去する除去工程とを有することを要旨とする。
【0006】
上記合成繊維用処理剤の製造方法について、前記除去工程において、ICP発光分析法によって前記合成繊維用処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が40ppm以下となるように前記触媒を除去することが好ましい。
【0007】
上記合成繊維用処理剤の製造方法について、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体が、アルコール1モルに対して炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させた化合物を含むものであることが好ましい。
【0008】
上記合成繊維用処理剤の製造方法について、前記アルコールが、分子中に炭素数10〜18のアルキル鎖を有するものであることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤の製造方法について、前記アルコールが、分子中に炭素数12〜16のアルキル鎖を有するものであることが好ましい。
【0009】
上記合成繊維用処理剤の製造方法について、前記アルコールが、アルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコールであることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤の製造方法について、さらに平滑剤を混合する混合工程を有することが好ましい。
【0010】
上記合成繊維用処理剤の製造方法について、前記平滑剤が、シリコーンを含有するものであることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤の製造方法について、前記平滑剤が、アミノ変性シリコーンを含有するものであることが好ましい。
【0011】
上記合成繊維用処理剤の製造方法について、前記混合工程において、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体及び前記平滑剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体を10〜70質量部、及び前記平滑剤を90〜30質量部の割合で含むように前記平滑剤を混合することが好ましい。
【0012】
上記合成繊維用処理剤の製造方法について、前記合成繊維が、炭素繊維前駆体であることが好ましい。
上記課題を解決するための合成繊維用処理剤は、平滑剤と(ポリ)オキシアルキレン誘導体とを含有する合成繊維用処理剤であって、ICP発光分析法によって処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が0.1ppm以上200ppm以下であることを要旨とする。
【0013】
上記合成繊維用処理剤について、前記ホウ素の含有量が40ppm以下であることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体が、アルコール1モルに対して炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させた化合物を含むものであることが好ましい。
【0014】
上記合成繊維用処理剤について、前記アルコールが、分子中に炭素数10〜18のアルキル鎖を有するものであることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記アルコールが、分子中に炭素数12〜16のアルキル鎖を有するものであることが好ましい。
【0015】
上記合成繊維用処理剤について、前記アルコールが、アルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコールであることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記平滑剤が、アミノ変性シリコーンを含有するものであることが好ましい。
【0016】
上記合成繊維用処理剤について、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体及び前記平滑剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体を10〜70質量部、及び前記平滑剤を90〜30質量部の割合で含むことが好ましい。
【0017】
上記合成繊維用処理剤について、前記合成繊維が、炭素繊維前駆体であることが好ましい。
上記課題を解決するための合成繊維は、上記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【0018】
上記課題を解決するための合成繊維の製造方法は、上記合成繊維用処理剤を繊維に付着させる工程を経ることを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、紡糸工程における毛羽を好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】平滑性を測定する装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0022】
本実施形態の処理剤は、平滑剤と(ポリ)オキシアルキレン誘導体とを含有する。処理剤は、ICP発光分析法によって処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が200ppm以下である。
【0023】
処理剤におけるホウ素の含有量が上記数値範囲であることにより、紡糸工程における毛羽を好適に抑制することができる。
また、ICP発光分析法によって処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量は、40ppm以下であることが好ましく、15ppm以下であることがより好ましい。
【0024】
ホウ素の含有量が40ppm以下であることにより、紡糸工程における毛羽をより好適に抑制することができる。
(ポリ)オキシアルキレン誘導体としては、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させ化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物等が挙げられる。アルコール類又はカルボン酸類としては、直鎖状又は分岐鎖を有する脂肪族系のアルコール類又はカルボン酸類であってもよく、芳香族系のアルコール類又はカルボン酸類であってもよい。また、飽和のアルコール類又はカルボン酸類であっても、不飽和のアルコール類又はカルボン酸類であってもよい。また、1価又は2価以上のアルコール類又はカルボン酸類であってもよい。
【0025】
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体の具体例としては、例えば、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物、2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを30モル付加させた化合物、2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物、2−デカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−オクタデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−ノナノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物、4−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、1−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを25モル付加させた化合物、2−ペンタデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物、1−オクタノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、1−ノナノール1モルに対してエチレンオキサイドを20モル付加させた化合物、1−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物等が挙げられる。
【0026】
上記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体は、アルコール1モルに対する炭素数2〜4のアルキレンオキサイドの付加モル数は特に限定されないが、アルコール1モルに対して炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜30モルの割合で付加させた化合物を含むものであることが好ましい。
【0027】
上記アルコールは、分子中に炭素数10〜18のアルキル鎖を有するものであることが好ましく、分子中に炭素数12〜16のアルキル鎖の有するものであることがより好ましい。
【0028】
また、上記アルコールは、アルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコールであることが好ましい。1価脂肪族アルコールとしては、飽和脂肪族アルコールであっても、不飽和脂肪族アルコールであってもよい。また、1価脂肪族アルコールとしては、直鎖脂肪族アルコールであっても、分岐鎖を有する脂肪族アルコールであってもよい。
【0029】
アルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する1価脂肪族アルコールであることにより、後述のように、合成繊維に対する処理剤の濡れ性が向上する。
上記炭素数2〜4のアルキレンオキサイドの具体例としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等を挙げることができる。これらの中でも、エチレンオキサイドであることが好ましい。重合配列としては、特に限定されず、ランダム付加物であっても、ブロック付加物であってもよい。
【0030】
本実施形態の処理剤が含有する平滑剤としては、例えば、シリコーン、エステル等が挙げられる。
平滑剤として使用されるシリコーンとしては、特に制限はなく、例えば、ジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、アミノ変性シリコーンを含有するものであることが好ましい。
平滑剤がアミノ変性シリコーンを含有するものであることにより、後述のように、処理剤の平滑性を向上させることができる。
【0032】
平滑剤として使用されるエステルとしては、特に制限はなく、例えば、(1)オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソテトラコシルオレート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6−ヘキサンジオールジデカネート、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパントリラウレート、ペンタエリスリトールテトラオクタネート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼレート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレート、ベンジルラウレート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウレート、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジラウレート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2−エチルヘキシルフタレート、ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。その他、合成繊維用処理剤に採用されている公知の平滑剤等を使用してもよい。
【0033】
平滑剤の具体例としては、例えば25℃における動粘度が650mm/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が90mm/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が4500mm/s、アミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が40mm/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が8000mm/s、アミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が500mm/s、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=100/0、シリコーン/ポリエーテルの質量比=50/50のポリエーテル変性シリコーン、25℃における動粘度が1700mm/s、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=40/60、シリコーン/ポリエーテルの質量比=20/80のポリエーテル変性シリコーン、25℃における動粘度が10000mm/sのジメチルシリコーン、チオジプロピオン酸ジ(n−ドデシル)エステル、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジラウリルエステル等が挙げられる。
【0034】
上記の平滑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体及び平滑剤の含有割合に制限はない。(ポリ)オキシアルキレン誘導体及び平滑剤の含有割合の合計を100質量部とすると、(ポリ)オキシアルキレン誘導体を10〜70質量部、及び平滑剤を90〜30質量部の割合で含むことが好ましい。また、(ポリ)オキシアルキレン誘導体を20〜60質量部、及び平滑剤を80〜40質量部の割合で含むことがより好ましい。
【0035】
(第2実施形態)
本発明に係る処理剤の製造方法を具体化した第2実施形態について説明する。第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0036】
処理剤の製造方法は、分子中にホウ素原子を有する触媒の存在下、上記のアルコールに対して上記のアルキレンオキサイドを付加して(ポリ)オキシアルキレン誘導体を作製する付加工程と、ICP発光分析法によって処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が200ppm以下となるように触媒を除去する除去工程とを有している。
【0037】
分子中にホウ素原子を有する触媒としては、特に制限はなく、例えば三フッ化ホウ素、又はその錯体等からなる酸触媒を用いることができる。
付加工程の一例としては、アルコールに三フッ化ホウ素又はその錯体等からなる酸触媒を用いてエチレンオキシドを低モル、例えば1〜5モル反応させ、触媒を除去して、低モルエトキシレート化合物を得る。次に、得られた低モルエトキシレート化合物に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びナトリウムアルコキシド等からなるアルカリ触媒の存在下でさらにエチレンオキシドを反応させ、触媒を除去する。
【0038】
付加工程を経た液体から触媒を除去する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。触媒を除去する方法としては、例えば珪藻土を用いて液体を濾過し、触媒を分離する方法や、無機合成吸着剤を用いて液体から触媒を吸着除去する方法等が挙げられる。
【0039】
ICP発光分析法は、例えば、以下の手順によって行うことができる。まず、予めホウ素の濃度既知の溶液(例えば、0、5ppm溶液及び1ppm溶液)を調整し、ICP発光分析装置に供して検量線を作成する。次に、除去工程を経た処理剤をICP発光分析装置に供して、上記で作成した検量線を用いて処理剤の不揮発分に含まれるホウ素の含有量を測定する。
【0040】
本実施形態の処理剤の製造方法は、上記平滑剤を混合する混合工程を有することが好ましい。混合工程では、第1実施形態で規定した(ポリ)オキシアルキレン誘導体及び平滑剤の含有割合となるように平滑剤を混合することが好ましい。
【0041】
(第3実施形態)
本発明に係る合成繊維を具体化した第3実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維等が挙げられる。合成繊維としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる樹脂製の炭素繊維前駆体が好ましい。炭素繊維前駆体を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂、ピッチ等を挙げることができる。
【0042】
第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を合成繊維に対し0.1〜2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3〜1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。
【0043】
(第4実施形態)
本発明に係る合成繊維の製造方法を具体化した第4実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる工程を経るものである。
【0044】
第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
処理剤を合成繊維に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤、及び水を含有する水性液又はさらに希釈した水溶液を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0045】
本実施形態の合成繊維を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1〜3を経ることが好ましい。
工程1:合成繊維を紡糸するとともに、第1実施形態の処理剤を付着させる紡糸工程。
【0046】
工程2:前記工程1で得られた合成繊維を200〜300℃、好ましくは230〜270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに300〜2000℃、好ましくは300〜1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
【0047】
なお、上記工程2と工程3とによって焼成工程が構成されるものとする。
紡糸工程は、さらに、樹脂を溶媒に溶解して紡糸する湿式紡糸工程、湿式紡糸された合成繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、及び乾燥緻密化した合成繊維を延伸する延伸工程を有していることが好ましい。
【0048】
乾燥緻密化工程の温度は特に限定されないが、湿式紡糸工程を経た合成繊維を、例えば、70〜200℃で加熱することが好ましい。処理剤を合成繊維に付着させるタイミングは特に限定されないが、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間であることが好ましい。
【0049】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0050】
本実施形態の処理剤、その製造方法、合成繊維、及びその製造方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の処理剤は、平滑剤と(ポリ)オキシアルキレン誘導体とを含有し、ICP発光分析法によって処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が所定の値となっている。したがって、紡糸工程を経た繊維の毛羽を好適に抑制することができる。また、紡糸工程を経た繊維の平滑性を向上させることができる。また、耐炎化処理工程を経た耐炎化繊維の集束性を向上させることができる。
【0051】
(2)本実施形態の処理剤によれば、合成繊維に対する濡れ性が向上するため、処理剤をより均一に合成繊維に付着させることができる。
(3)湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を合成繊維に付着させている。したがって、紡糸工程のうち、特に乾燥緻密化工程における毛羽を好適に抑制することができる。
【0052】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態において、ホウ素原子を有する触媒の除去工程は、付加工程の直後に行ってもよく、付加工程の途中に行っても、他の成分を混合した後、除去処理を実施してもよい。
【0053】
・本実施形態において、例えば、合成繊維が、焼成工程を行わない繊維であってもよい。
・本実施形態の処理剤又は水性液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤又は水性液の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤又は水性液に用いられる成分(以下、その他成分ともいう。)をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0055】
試験区分1(合成繊維用処理剤の調製)
(実施例1)
まず、付加工程として、オートクレーブ内に2−ドデカノール186部と三フッ化ホウ素0.5部を加えて雰囲気を窒素ガスで置換した後、150℃でエチレンオキサイド132部を徐々に加えてエーテル化反応を行った。
【0056】
次に、触媒の除去工程として、エーテル化反応を行なった液体に対して、陰イオン交換樹脂を5部添加し、室温で30分間撹拌した。その後、珪藻土でプレコートした濾過機に移し、三フッ化ホウ素触媒を吸着した陰イオン交換樹脂を除去して、2−ドデカノールのエチレンオキサイド3モル付加物を調製した。
【0057】
さらに、得られた2−ドデカノールのエチレンオキサイド3モル付加物318部と水酸化ナトリウム0.5部をオートクレーブ内に加えて雰囲気を窒素ガスで置換した後、150℃でエチレンオキサイド396部を徐々に加えて、エーテル化反応を行った。
【0058】
さらに、エーテル化反応を行った液体に無機合成吸着剤を10部添加し、80℃で30分間撹拌した。その後、珪藻土でプレコートした濾過機に移し、水酸化ナトリウム触媒を吸着した無機合成吸着剤を除去して、表1に示す(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A−1)を調製した。
【0059】
表1に示される各成分を使用し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A−1)が30部、平滑剤(B−1)が70部の配合割合となるようにビーカーに加えた。これらを撹拌してよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1の合成繊維用処理剤の25%水性液を調製した。
【0060】
(実施例2〜23及び比較例1〜3)
実施例2〜23及び比較例1〜3の各合成繊維用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0061】
なお、各例の処理剤中における(ポリ)オキシアルキレン誘導体の種類と含有量、平滑剤の種類と含有量、及び処理剤中のホウ素の含有量は、表1の「(A)(ポリ)オキシアルキレン誘導体」欄、「(B)平滑剤」欄、及び「処理剤中のB含有量(ppm)」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0062】
【表1】
表1の記号欄に記載するA−1〜A−14、a−1〜a−3、B−1〜B−10の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0063】
((ポリ)オキシアルキレン誘導体)
A−1:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物
A−2:2−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
A−3:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A−4:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
A−5:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを30モル付加させた化合物
A−6:2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
A−7:2−トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物
A−8:2−デカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
A−9:2−オクタデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
A−10:2−ノナノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A−11:4−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物
A−12:1−テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを25モル付加させた化合物
A−13:2−ペンタデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A−14:1−オクタノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物
a−1:1−ノナノール1モルに対してエチレンオキサイドを20モル付加させた化合物
a−2:1−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
a−3:2−ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体に用いられる(ポリ)オキシアルキレン誘導体の種類、アルコールの炭素数、アルキル鎖におけるヒドロキシ基の位置、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体のホウ素含有量について、表2の「(A)(ポリ)オキシアルキレン誘導体」欄、「1価脂肪族アルコールの炭素数」欄、「ヒドロキシ基の位置」欄、及び「B含有量(ppm)」欄にそれぞれ示す。
【0064】
【表2】
なお、表2において、各(ポリ)オキシアルキレン誘導体におけるホウ素含有量の差異は、上記の触媒の除去工程において、珪藻土でプレコートした濾過機で三フッ化ホウ素触媒を吸着した陰イオン交換樹脂を除去した時間の差異に基づいている。すなわち、珪藻土でプレコートした濾過機で三フッ化ホウ素触媒を吸着した陰イオン交換樹脂を除去した時間が長いほど、(ポリ)オキシアルキレン誘導体におけるホウ素含有量は小さくなる。
【0065】
(平滑剤)
B−1:25℃における動粘度が650mm/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
B−2:25℃における動粘度が90mm/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン
B−3:25℃における動粘度が4500mm/s、アミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン
B−4:25℃における動粘度が40mm/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
B−5:25℃における動粘度が8000mm/s、アミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン
B−6:25℃における動粘度が500mm/s、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=100/0、シリコーン/ポリエーテルの質量比=50/50のポリエーテル変性シリコーン
B−7:25℃における動粘度が1700mm/s、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=40/60、シリコーン/ポリエーテルの質量比=20/80のポリエーテル変性シリコーン
B−8:25℃における動粘度が10000mm/sのジメチルシリコーン
B−9:チオジプロピオン酸ジ(n−ドデシル)エステル
B−10:ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジラウリルエステル
試験区分2(合成繊維、及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した合成繊維用処理剤の水性液を用いて、合成繊維、及び炭素繊維を製造した。
【0066】
まず、工程1として、合成繊維としてアクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0067】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製した合成繊維用処理剤を給油した。合成繊維用処理剤の給油は、合成繊維用処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置(以下、ワインダーともいう。)を用いて糸管に巻き取った。
【0068】
次に、工程2として、巻き取られた合成繊維から糸を解舒し、230〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0069】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0070】
試験区分3(評価)
実施例1〜23及び比較例1〜3の処理剤について、合成繊維の紡糸工程における毛羽、耐炎化繊維の集束性、合成繊維の平滑性、及び合成繊維に対する濡れ性を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の“紡糸毛羽”、“耐炎化集束性”、“平滑性”、“濡れ性”欄に示す。
【0071】
(紡糸毛羽)
試験区分2の工程1において、合成繊維を巻き取る巻き取り装置の直前に設置した毛羽計数装置により測定した1時間当たりの毛羽数を以下の基準で評価した。
【0072】
・毛羽の評価基準
◎◎(優れる):毛羽数が0〜2個
◎(良好):毛羽数が3〜5個
〇(可):毛羽数が6〜10個
×(不良):毛羽数が11個以上
(耐炎化集束性)
試験区分2の工程2において耐炎化処理を行った耐炎化繊維に対して、巻き取り前の耐炎化糸の集束状態を目視で観察して、以下の基準で耐炎化集束性の評価を行った。
【0073】
・耐炎化集束性の評価基準
◎(良好):集束しており、トウ幅が一定である場合
〇(可):集束しているが、トウ幅が一定ではない場合
×(不良):繊維束中に空間があり、集束していない場合
(平滑性)
平滑性を測定する装置として、島津製作所社製のオートグラフABS−1kNX(張力測定装置)を使用した。
【0074】
図1に示されるように、処理剤を付着させた合成繊維(以下、試験糸1ともいう。)の一端をオートグラフの把持治具2に固定し、フリーローラー3、クロムメッキ梨地ピン4、及びフリーローラー5を順に介して、試験糸1の他端に50gの分銅6を固定した。クロムメッキ梨地ピン4において、試験糸1が接する駆動軸4aの直径は1cmで、表面粗度は2Sである。フリーローラー3とクロムメッキ梨地ピン4との間における試験糸1の延びる方向に対する、クロムメッキ梨地ピン4とフリーローラー5との間における試験糸1の延びる方向のなす角度が90°となるように配されている。この状態で25℃で60%RHの条件下クロムメッキ梨地ピン4の駆動軸4aを周速100m/分の速度でオートグラフに張力がかかる方向に回転させた状態にしてオートグラフによる張力を0.1秒毎に30秒間測定した。この時の張力の平均値(N)を求め、次の基準で評価した。
【0075】
◎◎(優れる):張力の平均値が2N未満
◎(良好):張力の平均値が2N以上、3N未満
〇(可):張力の平均値が3N以上、4N未満
×(不良):張力の平均値が4N以上
(濡れ性)
合成繊維用処理剤の有効成分4%イオン交換水溶液(イオン交換水以外を有効成分とする)を作成し、その0.1gをアクリル板に滴下した後、1分後の最大直径(mm)を測定し、以下の基準で評価した。
【0076】
◎(良好):最大直径が12mm以上
○(可):最大直径が10mm以上、12mm未満
×(不良):最大直径が10mm未満
表1の結果から、本発明によれば、合成繊維の紡糸工程における毛羽を好適に抑制することができる。また、耐炎化繊維の集束性、及び合成繊維の平滑性を向上させることができる。また、本発明の処理剤によれば、合成繊維に対する濡れ性が向上する。
【要約】
【課題】紡糸工程における毛羽を好適に抑制する。
【解決手段】ICP発光分析法によって合成繊維用処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が200ppm以下である合成繊維用処理剤の製造方法であって、分子中にホウ素原子を有する触媒の存在下、アルコールに対してアルキレンオキサイドを付加して(ポリ)オキシアルキレン誘導体を作製する付加工程と、ICP発光分析法によって合成繊維用処理剤の不揮発分から検出されるホウ素の含有量が200ppm以下となるように触媒を除去する除去工程とを有する。
【選択図】なし
図1