特許第6795246号(P6795246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6795246-Pt合金 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6795246
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】Pt合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 5/04 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
   C22C5/04
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-539862(P2020-539862)
(86)(22)【出願日】2020年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2020012886
【審査請求日】2020年7月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502274130
【氏名又は名称】株式会社俄
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】青木 敏和
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−270351(JP,A)
【文献】 特開昭53−124116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
95質量%以上のPtと、
2.5質量%以上3.0質量%以下のGaと、
1質量%以上2.4質量%以下のRhと、
0.05質量%以上0.8質量%以下のWと、を含有し、
残部が不可避的不純物からなる、Pt合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Pt合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
指輪、ネックレス、イヤリングなどの宝飾品の材料として、95質量%以上のPt(白金)を含有するPt950合金などのPt合金が知られている。Pt950合金は、一般に、同様に宝飾品の材料として用いられるゴールド系合金に比べて強度が低い。そのため、Pt950合金製の宝飾品は、変形しやすく、傷も付きやすい。このような問題点に対応するため、Ga(ガリウム)を添加することにより強度を向上させたPt950合金が提案されている(たとえば、国際公開第2016−208091号(特許文献1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/208091号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
宝飾品の材料として用いられるPt合金は高価である。宝飾品の製造コスト低減の観点から、製品を鋳造等で製造する際に製品とならなかった部分は、再度溶解され、再利用される。そのため、Pt合金は、繰り返し溶融させても当初の特性を維持するという特性(以下、「リサイクル性」という)を有していることが好ましい。本発明者の検討によれば、Gaを添加したPt合金は、このリサイクル性が低下する場合がある。
【0005】
そこで、強度が高く、かつリサイクル性に優れたPt合金を提供することを本開示の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のPt合金は、95質量%以上のPtと、2.5質量%以上3.0質量%以下のGaと、1質量%以上2.4質量%以下のRh(ロジウム)と、0.05質量%以上0.8質量%以下のW(タングステン)と、を含有し、残部が不可避的不純物からなる。
【発明の効果】
【0007】
上記Pt合金によれば、強度が高く、かつリサイクル性に優れたPt合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、Gaの含有量と0.2%耐力との関係を示す図である。
図2図2は、Gaの含有量と伸びとの関係を示す図である。
図3図3は、Gaの含有量と明るさとの関係を示す図である。
図4図4は、溶融および凝固を1回または10回繰り返したサンプルの表面を研磨した状態を示す写真である。
図5図5は、溶融および凝固を1回または10回繰り返したサンプルの表面を研磨した状態を示す写真である。
図6図6は、溶融および凝固を10回繰り返したサンプルのWの含有量と酸素含有量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
本開示の一実施の形態におけるPt合金は、95質量%以上のPtと、2.5質量%以上3.0質量%以下のGaと、1質量%以上2.4質量%以下のRhと、0.05質量%以上0.8質量%以下のWと、を含有し、残部が不可避的不純物からなる。
【0010】
以下、本開示のPt合金の成分組成を上記範囲に限定した理由について説明する。
【0011】
Pt:95質量%以上
Ptは、本開示のPt合金の主成分である。Ptの含有量を95質量%以上とすることにより、Pt950合金を得ることができる。目標とする特性を得るために必要な元素の添加を容易にする観点から、Ptの含有量は96質量%以下であることが好ましい。
【0012】
Ga:2.5質量%以上3質量%以下
Gaを添加することにより、Pt合金の強度を向上させることができる。Gaの含有量を2.5質量%以上とすることにより、この機能が十分に果たされる。一方、3質量%を超えるGaを添加すると、伸び(加工性)が小さくなるとともに、明るさが低下する。そのため、Gaの含有量は3質量%以下とする必要がある。加工性および明るさの低下の抑制を容易にする観点から、Gaの含有量は2.8質量%以下とすることが好ましい。
【0013】
Rh:1質量%以上2.4質量%以下
Rhを添加することにより、Pt合金のリサイクル性を向上させることができる。また、Rhは、加工性および明るさの改善にも寄与する。このような機能を十分に得る観点から、Rhの含有量は1質量%以上とする必要がある。一方、Rhの含有量が2.4質量%を超えると、添加の効果が飽和する。そのため、Rhの含有量は、2.4質量%以下とすべきである。Rhの上記機能をより確実に得る観点から、Rhの含有量は1.1質量%以上とすることが好ましく、1.2質量%以上とすることがより好ましい。また、Rhの含有量の効果的な選択の観点から、Rhの含有量は2質量%以下とすることが好ましく、1.8質量%以下とすることがより好ましい。
【0014】
W:0.05質量%以上0.8質量%以下
Wを添加することにより、Pt合金のリサイクル性を向上させることができる。この機能を十分に得る観点から、Wの含有量は0.05質量%以上とする必要がある。一方、Wの含有量が0.8質量%を超えると、鋳造時に割れが発生する場合がある。そのため、Wの含有量は0.8質量%以下とする必要がある。Wの上記機能をより確実に得る観点から、Wの含有量は0.2質量%以上とすることが好ましく、0.3質量%以上とすることがより好ましい。また、鋳造割れをより確実に低減する観点から、Wの含有量は0.7質量%以下とすることが好ましく、0.6質量%以下とすることがより好ましい。
【0015】
不可避的不純物
本開示のPt合金には、製造時に不可避的に(意図的でなく)不純物(不可避的不純物)が混入する場合がある。不可避的不純物の含有量は少ないことが好ましく、具体的には0.1質量%以下とすることが好ましく、0.05質量%以下とすることがより好ましい。
【0016】
[実施形態の具体例]
次に、本開示のPt合金の具体的な実施形態を、本開示のPt合金の特性を確認する実験結果とともに説明する。
【0017】
(実験方法)
以下の表1に示す成分組成を有するPt合金を準備した。
【0018】
【表1】
表1において、数値の単位は質量%である。表1に表示されている数値は、原料となる金属を混合して溶融させ、その後凝固させて得られたサンプルについて、EDS(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)を用いて組成を分析した結果である。表1において「−」は、当該元素が添加されていないこと(EDSにて検出されなかったこと)を意味する。表1のNo.11および12が本開示のPt合金の要件を満たす実施例のサンプルである。表1のNo.1〜10、およびNo.13〜16は、本開示のPt合金の範囲外である比較例のサンプルである。上記実施例および比較例のサンプルから試験片を作製し、以下の特性を確認する実験を行った。なお、No.13については、鋳造割れが発生した。このことから、Wの含有量は、0.8質量%以下とすべきことが確認される。
【0019】
(1)耐力および伸び
各サンプルから引張試験片を作製し、当該試験片を用いて引張試験を実施した。そして、試験結果から、耐力(0.2%耐力)および伸びを導出した。
【0020】
(2)明るさ
各サンプルの表面をJIS規格♯1500の砥粒で仕上げ研磨し、当該表面について、測色色差計を用いて明るさ(L*)を測定した。
【0021】
(3)リサイクル性
表1の組成のPt合金について、溶融と凝固とを1回および10回繰り返して実施した。そして、得られた各サンプルの表面を研磨し、当該表面について引け巣の発生の有無を観察した。また、溶融と凝固とを10回繰り返して得られたサンプルについて、EDSを用いて酸素含有量を測定した。
【0022】
(実験結果)
引張試験および明るさ測定の実験結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
以下、各実験結果について考察する。
【0024】
(1)耐力および伸び
引張試験の結果得られた耐力および伸びを図1および図2に示す。図1および図2において、横軸はGaの含有量である。図1において、縦軸は耐力(0.2%耐力)である。図2において、縦軸は伸びである。
【0025】
表2、図1および図2を参照して、強度に対応する耐力は、Gaの含有量が増えるにしたがって高くなっている。そして、Rhが添加されることにより、Gaの含有量が2.5〜3質量%の範囲において、加工性に対応する伸びが大きくなっている。つまり、Gaの含有量が2.5〜3質量%の範囲でRhを添加することにより、加工性を維持しつつ、高強度を達成することができるといえる。Pd(パラジウム)の添加は、強度および加工性のいずれにも寄与が認められない。Au(金)の添加は強度の向上には寄与するものの、加工性の低下というデメリットを伴う。Wの添加も強度の向上に寄与するものの、加工性を低下させる傾向にある。Wは、後述のようにリサイクル性の向上に寄与するため本開示のPt合金に添加するが、上記の通り、鋳造割れを抑制する観点から、その添加量は0.8質量%以下とする必要がある。本開示の実施例に対応するNo.11および12は、耐力および伸びの両立、すなわち強度と加工性の両立を達成可能であるといえる。
【0026】
(2)明るさ
明るさの測定結果を図3に示す。図3において、横軸はGaの含有量である。図3において、縦軸は明るさである。
【0027】
表2および図3を参照して、Gaの含有量が3質量%を超えると、明るさが急激に低下していることが分かる。このことから、Gaの含有量は3質量%以下とすべきであるといえる。RhおよびAuの添加は、明るさの上昇に寄与している。一方、PdおよびWの添加の、明るさへの寄与は確認されなかった。本開示の実施例に対応するNo.11および12は、Gaの添加による明るさの低下の抑制を達成可能であるといえる。
【0028】
(3)リサイクル性
各サンプルの表面をJIS規格♯7000の砥粒で仕上げ研磨し、当該表面について引け巣の発生の有無を観察した。観察結果を図4および図5に示す。引け巣の存在は、図4および図5の写真において、コントラストの違いに基づいて確認することができる。図4および図5の写真において、研磨方向に沿った筋とは無関係に白く見える領域が引け巣である。
【0029】
図4を参照して、GaおよびRhが添加され、Wが添加されていないNo.7においては、溶融および凝固の繰り返しが1回の場合でも引け巣が観察される。そして、溶融および凝固の繰り返しが10回のNo.7では、引け巣の発生が顕著になっている。引け巣が発生すると、Pt合金の表面を美しい鏡面とすることが困難となる。一方、0.05質量%以上のWが添加されたNo.9〜12のサンプルにおいては、引け巣の発生は確認されない。また、図5を参照して、Gaが添加され、RhおよびWが添加されていないNo.2においては、溶融および凝固を10回繰り返すと、引け巣が発生していることが確認される。また、GaおよびWが添加され、Rhが添加されていないNo.16においては、溶融および凝固を10回繰り返すと、引け巣の発生が顕著となっている。以上の結果より、Gaを添加することにより強度を上昇させたPt合金においては、1質量%以上のRhと0.05質量%以上のWとを両方添加することにより、リサイクル性を改善できることが確認される。本開示の実施例に対応するNo.11および12は、十分なリサイクル性を有しているといえる。
【0030】
図6は、溶融および凝固を10回繰り返したサンプルのWの含有量と酸素濃度との関係を示す図である。Gaを添加することにより強度を上昇させたPt合金において、RhおよびWの両方を添加すると、Pt合金におけるWの含有量が0.3質量%程度まではWの含有量の増加に伴ってO(酸素)の含有量(混入量)が低下する傾向にある。そして、Wの含有量が0.3質量%を超えると、Oの混入量の低下はほぼ飽和している。一方、Gaを添加することにより強度を上昇させたPt合金において、Rhを添加せず、Wのみを添加した場合、Oの混入量の低下は確認されない。このことから、引け巣の発生の原因は、溶融および凝固を繰り返すことによりPt合金にOが混入することであると考えられる。Oの供給源は、たとえば溶融を実施するためのるつぼや鋳型であると考えられる。Pt合金に添加されたGaが、混入したOと反応することにより、引け巣が形成されるものと考えることができる。そして、Gaを添加することにより強度を上昇させたPt合金において、RhおよびWの両方を添加する場合、Wの含有量が0.05質量%以上であれば引け巣の抑制に効果が見られる。引け巣の抑制効果をより確実に得る観点から、Wの含有量は0.1質量%以上、さらには0.2質量%以上とすることが好ましく、0.3質量%以上とすることがより好ましいといえる。
【0031】
以上の実験結果から、本開示のPt合金は、強度が高く、かつリサイクル性に優れていることが確認される。したがって、本開示のPt合金は、たとえば宝飾品の材料として好適である。
【0032】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【要約】
Pt合金は、95質量%以上のPtと、2.5質量%以上3.0質量%以下のGaと、1質量%以上2.4質量%以下のRhと、0.05質量%以上0.8質量%以下のWと、を含有し、残部が不可避的不純物からなる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6