特許第6795290号(P6795290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795290
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】ガスシールドアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/173 20060101AFI20201119BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20201119BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20201119BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20201119BHJP
   B23K 35/30 20060101ALN20201119BHJP
【FI】
   B23K9/173 A
   B23K9/173 C
   B23K9/09
   B23K9/16 J
   B23K9/16 M
   B23K9/23 K
   !B23K35/30 320A
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-152378(P2015-152378)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-30016(P2017-30016A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2017年7月21日
【審判番号】不服2019-13199(P2019-13199/J1)
【審判請求日】2019年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 実
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
(72)【発明者】
【氏名】田中 正顕
(72)【発明者】
【氏名】深堀 貢
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴史
【合議体】
【審判長】 見目 省二
【審判官】 田々井 正吾
【審判官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−044736(JP,A)
【文献】 特開平07−232294(JP,A)
【文献】 実開昭56−169981(JP,U)
【文献】 実開昭57−52274(JP,U)
【文献】 特開2009−142850(JP,A)
【文献】 特開平05−050247(JP,A)
【文献】 特開平10−076392(JP,A)
【文献】 特開平05−305476(JP,A)
【文献】 特開平10−225771(JP,A)
【文献】 特開2001−105148(JP,A)
【文献】 特開平09−239545(JP,A)
【文献】 JIS Z 3312:2009 「軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ」,(財)日本規格協会,2009年,第4頁(表2−3)
【文献】 (一社)日本溶接協会 溶接材料部会技術委員会,“溶接材料規格(ISO/AWS/JIS)の最新状況−JIS Z 3312 軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ−”,溶接技術,産報出版(株),2013年7月,第61巻第7号(2013年7月号),p.92−95
【文献】 (社)日本溶接協会 溶接棒部会 技術委員会,“溶接材料JISの改正内容の解説−JIS Z 3312 軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ−”,[online],2009年3月,(社)日本溶接協会,[令和2年5月7日検索],インターネット<URL:http://www−it.jwes.or.jp/technology/3_3.html>
【文献】 (社)日本溶接協会 溶接棒部会技術委員会,“溶接材料JISの改正内容の解説−JIS Z 3312 軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ−”,[online],2009年3月,(社)日本溶接協会,[令和2年5月7日検索],インターネット<http://www−it.jwes.or.jp/technology/images/3_table4.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
B23K 35/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを介して消耗式電極を送給し、シールドガスを流しながら溶接を行うガスシールドアーク溶接方法であって、
前記溶接トーチはノズルを含み、
前記ノズルの内径が15mm以上であり、
前記ノズルの先端と被溶接材との間のノズル−母材間距離が22mm以下であり、
(前記ノズルの内径/前記ノズル−母材間距離)で表される比が0.7以上1.9以下であり、
前記シールドガスがArを92%以上含み、残部が二酸化炭素及び酸素の少なくともいずれか一方並びに不可避不純物からなり、あらかじめ混合された混合ガスであり、かつ
前記消耗式電極が全質量に対してSを0.015質量%以上含み、
前記あらかじめ混合された混合ガスが、前記ノズル内の単一の流路を通って前記ノズルの先端から噴出する、ガスシールドアーク溶接方法。
【請求項2】
前記シールドガスの流量が18L/分以下である、請求項1に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項3】
(前記シールドガスの流量/前記ノズルの内径)で表される比が0.65L/分・mm以上1.10L/分・mm以下である、請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項4】
平均溶接電流が250A以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項5】
ピーク電流が380A以上530A以下、かつピーク幅が0.5〜2.0ミリ秒のパルス電流制御を行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項6】
前記被溶接材に20〜100g/m目付の亜鉛めっき鋼板を用いる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項7】
前記ノズルはストレート部を有し、前記ノズルの内径と前記ストレート部の内径は同一である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項8】
前記消耗式電極が全質量に対してSiを0.20〜2.50質量%、Mnを0.50〜3.50質量%含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接方法により溶接する工程を含む、溶接物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接方法により溶接された溶接物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスシールドアーク溶接方法に関し、より詳細には、大気中の酸素に起因した溶接ビード表面の酸化現象およびビード形状の凸化を抑制できるガスシールドアーク溶接方法に関する。また、該ガスシールドアーク溶接方法を用いた溶接物及びその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ガスシールドアーク溶接におけるシールドガスの一般的な役割は、アーク、溶融金属および消耗式電極を大気から遮断し、溶融部の窒化や酸化から防止するものである。しかし、風等の外部的因子やトーチ姿勢等の施工条件によってシールドガスが乱れることで、大気中の窒素が溶接時の溶融金属に混入する。これによりピットやブローホールといった溶接欠陥が発生する。また、大気中の酸素が溶接時の溶融金属に混入すると、溶接ビード形状が凸化し、さらに溶融金属中の酸素量が増加すると溶接後のビード表面に過剰なスラグが発生する。
【0003】
このような、溶接欠陥や溶接ビードの凸化、スラグの発生を防止するため、特許文献1では大気を遮断する機能として、ノズルの吐出口側に穴開き部材を設けている。該穴開き部材を設けることによりシールドガスを差圧で整流し、シールドガスの流速分布等をより均一にすることができる。
【0004】
また、特許文献2には、ガスノズルにストレート部Dpと絞り部を設けておき、かつその絞り部の内径Doと軸方向長Lの関係が規定の値(1.5≦(Dp/Do)≦2.5、1.0≦(L/Dp))を満たす条件とすることが開示されている。これにより溶接部をシールドガスによって良好にシールドでき、空気中の酸素(O)や窒素(N)の巻き込みを抑制し、健全な溶接組織を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−80807号公報
【特許文献2】特開2002−28785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2はいずれも、ガスノズルの構造に係るものであり、ガスの流れの観点から、大気中の酸素や窒素の巻き込みを抑制するためのものである。
しかしながら、これらは溶融金属高温部での酸素との反応が考慮されておらず、細径ノズルである。そのため、シールド領域が限定され、高速溶接時には高温の溶融金属の酸化反応を抑えることは困難である。
【0007】
また、大気を巻き込んだ場合の対処法として、大気中の窒素に関しては、窒素と反応し易いAlやTiを消耗式電極に添加することによって、窒化物を生成させることにより、ピットやブローホールを抑制する方法が挙げられる。しかし、大気中の酸素による酸化反応によって生成するスラグの抑制法についての報告はこれまでになかった。
【0008】
さらに、従来技術では、トーチ直下はシールドされている場合でも、トーチ経過直後の溶接金属はシールドの範囲外となり、大気に曝されている状態である。トーチ経過直後の溶接金属は、すでに凝固しているとはいえ、そのビード表面は高温であるために大気中の酸素との反応速度が速く、スラグが生成しやすい状況にある。これは、溶接速度が速い溶接において、特に顕著になる課題である。
【0009】
上記実情に鑑みて、本発明では、シールドガスによる大気遮断効果を高めつつ、溶接直後のビード表面における酸化、又は大気を巻き込んだ場合における酸化を抑制し、かつスラグの低減を可能としたガスシールドアーク溶接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ノズルの内径を規定し、該内径に対応した適切なノズル−母材間距離とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]に係るものである。
[1] 溶接トーチを介して消耗式電極を送給し、シールドガスを流しながら溶接を行うガスシールドアーク溶接方法であって、
前記溶接トーチはノズルを含み、
前記ノズルの内径が15mm以上であり、
前記ノズルの先端と被溶接材との間のノズル−母材間距離が22mm以下であり、かつ
(前記ノズルの内径/前記ノズル−母材間距離)で表される比が0.7以上1.9以下である、ガスシールドアーク溶接方法。
[2] 前記シールドガスの流量が18L/分以下である、前記[1]に記載のガスシールドアーク溶接方法。
[3] (前記シールドガスの流量/前記ノズルの内径)で表される比が0.65L/分・mm以上1.10L/分・mm以下である、前記[1]又は[2]に記載のガスシールドアーク溶接方法。
[4] 前記シールドガスがArを92%以上含み、残部が二酸化炭素及び酸素の少なくともいずれか一方並びに不可避不純物である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接方法。
[5] 前記消耗式電極が全質量に対してSを0.015質量%以上含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接方法。
[6] 平均溶接電流が250A以下である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接方法。
[7] ピーク電流が380A以上530A以下、かつピーク幅が0.5〜2.0ミリ秒のパルス電流制御を行う、前記[1]〜[6]のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接方法。
[8] 前記被溶接材に20〜100g/m目付の亜鉛めっき鋼板を用いる、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接方法。
[9] 前記[1]〜[8]のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接方法により溶接する工程を含む、溶接物の製造方法。
[10] 前記[1]〜[8]のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接方法により溶接された溶接物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶接トーチにおけるノズルの内径を規定し、該内径に対応した適切なノズル−母材間距離を設定することにより、大気の巻き込みを抑制でき、溶融金属中の酸素量及び窒素量を低位に保つことができる。そのため、窒素に起因するブローホールや酸素に起因するビード形状の凸化及びスラグの増加を抑制することができる。
また、消耗式電極(以下「溶接ワイヤ」と称することがある。)に規定量の硫黄(S)を含有させることにより、アーク直下の溶融池にSが優先的に表面吸着され、溶接直後のビード表面又は大気を巻き込んだ場合における酸化反応を制御し、溶接後のビード表面に生成するスラグをより一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る溶接方法に用いられる装置の一例を示す全体構成図である。
図2図2は、本発明に係る溶接方法に用いられる溶接トーチの一例を示す構造図である。
図3図3は、本発明に係る溶接方法に用いられるノズル部分の一例を示す構造図である。
図4図4は、各種硫化物の化学ポテンシャルを表すグラフである。
図5図5は、実施例においてビード外観を評価するために用いるビード幅と余盛り高さとを表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
本発明に係るガスシールドアーク溶接方法は、溶接トーチを介して消耗式電極を送給し、シールドガスを流しながら溶接を行うガスシールドアーク溶接方法であって、前記溶接トーチはノズルを含み、前記ノズルの内径が15mm以上であり、前記ノズルの先端と被溶接材との間のノズル−母材間距離が22mm以下であり、かつ(前記ノズルの内径/前記ノズル−母材間距離)で表される比が0.7以上1.9以下であることを特徴とする。
【0015】
[溶接装置]
まず本発明に係るガスシールドアーク溶接方法に用いることができる溶接装置について説明する。溶接装置としては、ガスシールドアーク溶接を行う溶接装置であれば特に限定されず、従来のガスシールドアーク溶接に用いられている溶接装置を用いることができる。
【0016】
例えば、図1に示すように、溶接装置1は、溶接トーチ11が先端に取り付けられ、その溶接トーチ11を被溶接材(以下、「ワーク」や「母材」と称することもある。)Wの溶接線に沿って移動させるロボット10と、溶接トーチ11に溶接ワイヤを供給するワイヤ供給部(図示しない)と、ワイヤ供給部を介して消耗電極に電流を供給して消耗電極と被溶接材との間でアークを発生させる溶接電源部30を備える。また、溶接装置は、溶接トーチ11を移動させるためのロボット動作を制御するロボット制御部20を備える。
【0017】
<溶接トーチ>
溶接トーチ11は、図2に示すように、溶接ワイヤが筒内に自動的に送給され、溶接ワイヤを用いてアーク溶接を行うものである。溶接トーチ11には、トーチクランプ12が装着されている。トーチクランプ12は、溶接トーチ11をロボットに固定するものである。
【0018】
トーチ銃身21は、トーチクランプ12に支持されると共に、ノズル71及びチップボディ31を支持する機構を備えている。トーチ銃身21は、チップボディ31が装着された状態で、供給される溶接ワイヤを、インナチューブ22を介してチップボディ31の先端(コンタクトチップ61の後端)まで供給することができる。また、トーチ銃身21は、溶接電流をチップボディ31に通電し、さらに、インナチューブ22とチップボディ31との間に形成される空間にシールドガスを供給する。チップボディ31は、オリフィス41、及びコンタクトチップ61を支持する機構を備えている。尚、チップボディ31は、金属等の通電性を有する材料で形成されている。
【0019】
また、オリフィス41は、シールドガスの整流を行う機構を備えている。すなわち、オリフィス41は通常円筒形状をなし、チップボディ31の外周の先端側から挿入することで装着される。コンタクトチップ61は、溶接電流を溶接ワイヤに給電すると共に、溶接対象のワークへ溶接ワイヤをガイドする機構を備えている。尚、チップボディ同様、コンタクトチップ61についても金属等の通電性を有する材料で形成されている。
【0020】
溶接トーチの姿勢は、母材に対して垂直であっても、傾斜させてもよい。
溶接トーチを溶接進行方向の反対側に向かって傾斜させる場合に、母材に対する垂線と該トーチとの成す角を前進角と言い、当該溶接進行方向に向かって傾斜させる場合に、母材に対する垂線と該トーチとの成す角を後退角と言う。
【0021】
溶接トーチに前進角を付けることで、より効果的にアーク溶接中のシールド性を高めることが可能となる。また、電極に後退角を付けることで、ビード後方をシールドできるため溶接直後のビードの酸化反応を抑制することができる。
溶接線上の適正な溶け込みと良好なビード形状とを得るために、前進角の範囲を−15〜40°、即ち、前進角の上限を40°、後退角の上限を15°とした範囲内で溶接を行うことがより好ましい。
【0022】
<ノズル>
ノズル71は、溶接対象の母材に対して、図示しないガス供給装置から供給されたアルゴン(Ar)や炭酸ガス(CO)等のシールドガスを噴出する機構を備えている。ノズル71は、一体的に組み立てられた状態のチップボディ31、オリフィス41、及びコンタクトチップ61を内部に納めることが可能な内部空間を有する筒状に形成されている。また、ノズル71は、後端の内面にトーチ銃身21の先端に形成された雄ねじ部23が螺合する雌ねじ部(図示せず)が形成されている。この構成により、ノズル71は、オリフィス41により整流されたシールドガスを用いて溶接部を大気から遮断することができる。
【0023】
(ノズルの内径とノズル−母材間距離)
図3にノズル形状の一例を示すが、ノズル内のストレート部(以下、単に「ストレート部」と称する場合がある。)Xの内径Do及びノズル口の内径(以下、単に「ノズルの内径」と称することがある。)Dは、シールド範囲とシールド性に影響する。
【0024】
ガスシールドアーク溶接におけるシールドガスの役目は、アーク、高温となる溶融金属及び溶接ワイヤを大気から遮断し、溶融部を窒化や酸化から防止するものである。
窒素は通常シールドガス中に添加されることはなく、シールドガス中の分圧が非常に低いため、多少の大気巻き込みを起こしても、溶鋼には直接固溶しないと考えられている。つまり、窒素が溶鋼に固溶する原因はアーク雰囲気中への窒素の混入により、NがNに分解され、N分圧が上昇し、アークにより高温に加熱された局所的な溶鋼から侵入するものと考えられる。
つまり、溶接金属中の窒素抑制にはアーク雰囲気への窒素混入を防ぐ必要があることから、従来はシールド領域の広さよりも、シールドガス流の層流安定性が重視され、より流速が速く乱流となりにくい、細径ノズルが使用されていた。また、狭い溶接個所に入り込むためにも細径の方が好ましかった。
【0025】
従来の方法として具体的には、例えば特許文献2に記載されているとおり、ストレート部の内径よりもノズル口の内径を絞って小さくすることで、噴出したガスを先鋭化させ、指向性を高めている。このように、従来ではノズルの内径Dを絞り、小さくすることで、シールド性を高めてきた。
【0026】
一方で、酸素(O)によって溶接ビード形状の凸化やスラグが発生するものの、アーク安定性の観点からシールドガス中へ酸素を積極的に添加する必要があることから、アーク雰囲気でのO分圧は常時高い。そのため、溶融金属中の酸素量を低下させるためには、アーク中のみならず、溶融池全体をシールドガスにより保護する必要がある。その保護方法として、シールドガス流を広範囲にわたり層流に保ちつつ、溶接を行うことが考えられる。
【0027】
しかしながら、従来のようにノズルの内径Dが小さいと、シールドできる面積が小さく、広い範囲をカバーできない。すなわち、シールドできる範囲を広く保つことができなければ、トーチが通過した直後の溶接金属はより高温の状態で大気に曝されることになる。そのため、ビード表面の酸化反応が促進され、溶接ビード形状の凸化やスラグが発生する。また、後述する消耗式電極(溶接ワイヤ)にSを規定量含有させた場合においても、Sによる効果を有効に発揮できない。
【0028】
そこで本発明では、シールドされる範囲を広くするために、ノズルの内径Dを15mm以上とする。しかしながら、広範囲にわたるシールド性を確保するためにノズルの内径を大きくしただけでは、シールドガスは溶融金属に到達する以前に乱流となり、シールド性が低下するおそれがある。
そこでさらに、ノズルの先端と被溶接材(母材)との間の距離(ノズル−母材間距離)を22mm以下とし、かつ(ノズルの内径D/ノズル−母材間距離)で表される比を0.7以上1.9以下とする。
【0029】
ノズルの内径D、ノズル−母材間距離及び(ノズルの内径D/ノズル−母材間距離)で表される比を上記範囲とすることによって、広いシールド範囲と高いシールド性とを両立することができる。すなわち、溶融金属中の酸素量および窒素量を低位に保ち、窒素に起因するブローホールや酸素に起因する溶接ビード形状の凸化、スラグの増加を抑制することが出来る。
【0030】
ノズルの内径Dが15mmを下回ると、シールドできる範囲が狭くなり、トーチ経過直後の溶接金属の酸化反応によってスラグが多量に生成する。ノズルの内径Dは16mm以上が好ましく、18mm以上がより好ましい。
一方、ノズルの内径Dの上限は30mm以下が好ましく、22mm以下がより好ましい。30mmを上回ると、シールドガスの流量にもよるが、噴出するガスの指向性が劣化してシールド性が悪くなる場合がある。その場合には、大気の巻き込みによって、スラグの発生やピット、ブローホール等の溶接欠陥が発生するおそれがある。
【0031】
尚、本発明ではストレート部の内径Doとノズル口の内径Dとの関係は特に規定せず、ノズル口の内径Dが15mm以上であれば、ストレート部の内径Doの方が、大きくても小さくても良いし、同一でも良い。ただし、シールドガスの指向性の観点から、シールド性が高まる点で、ストレート部の内径Doとノズル口の内径Dの比率(D/Do)が0.5〜1.0の範囲であることが好ましい。
【0032】
ノズル−母材間距離は、上記効果をより得られる点から20mm以下が好ましく、さらには17mm以下が好ましい。さらには15mm以下にすることが好ましい。また、ノズル−母材間距離の下限はスパッタによるノズル閉塞の点から12mm以上が好ましい。
【0033】
(ノズルの内径D/ノズル−母材間距離)で表される比は、上記効果をより得られる点から、1以上が好ましく、また1.6以下が好ましい。
【0034】
<シールドガス>
本発明に係るガスシールドアーク溶接方法で用いられるシールドガスは、特に限定されず、Arガス、炭酸ガス(二酸化炭素、CO)、酸素ガス(O)及びそれらの混合ガス等を用いることができる。これらには不純物としてN、H等が含まれていてもよい。
シールドガスとして100%COを用いた溶接であっても、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法では大気巻き込みの抑制と酸化反応防止の効果を得ることができる。しかし、シールドガスとしてArガス又はAr含有混合ガスを用いることで溶融金属の酸化反応をより低減することが可能となる。よって、シールドガスとして、Arガス(100%Ar)又はAr含有混合ガスを用いることが好ましい。
【0035】
Ar含有混合ガスの場合、二酸化炭素含有量が0〜40体積%及び酸素含有量が0〜10体積%であることが好ましい。さらにはArを92体積%以上含み、残部が二酸化炭素及び酸素の少なくともいずれか一方並びに不可避不純物であることがより好ましく、さらに95体積%以上とすることがより好ましい。
なお、不可避不純物としてはN、H等が挙げられ、まったく含まないこと(0体積%)が最も好ましい。
【0036】
シールドガスの流量は、ノズルの内径Dやノズル−母材間距離の値によるが、25L/分以下がより好ましく、18L/分以下がさらに好ましい。これにより、シールドガス流速の過度な高速化を防ぎ、高速なガス流による大気のシールド雰囲気への引き込みを抑制することができる。
またシールドガスの流量は8L/分以上であることが耐気孔性の点から好ましく、10L/分以上であることがより好ましい。
【0037】
(シールドガスの流量/ノズルの内径D)で表される比(流速)は0.65L/分・mm以上、1.10L/分・mm以下であることが、さらに高速なガス流による大気巻き込みを抑制することが出来る点から好ましい。該流速は0.75L/分・mm以上であることがより好ましく、1.00L/分・mm以下であることがより好ましい。
【0038】
<消耗式電極(溶接ワイヤ)>
溶接ワイヤの種類は鋼線であるソリッドワイヤでも良いし、筒状を呈する外皮と、その外皮の内側に充填されたフラックスとからなるフラックス入り溶接ワイヤでも良く、特に問わない。また、フラックス入り溶接ワイヤの場合、外皮に継目のないシームレスタイプ、外皮に継目のあるシームタイプのいずれの形態であってもよい。さらに、溶接ワイヤ表面(フラックス入り溶接ワイヤであれば外皮の外側)に銅メッキを施されていてもよく、施されていなくてもよい。
【0039】
(S:0.015質量%以上)
本発明に係る溶接ワイヤは、硫黄(S)が適量添加されていることが好ましい。
Sはリン(P)と同じく、本来は不純物元素であり、極力含有量を少量にすることが好ましい。しかし、溶鉄中のSは溶鉄表面に吸着しやすい性質を持ち、表面張力を減少させる性質を有している。そこで本発明では、この性質に着目、利用し、以下のメカニズムのもと、溶接ワイヤ中のS適量範囲を規定した。
【0040】
本発明の溶接ワイヤを溶接することによって、溶融池表面にはS原子が選択的に吸着する。ここで、シールドガスのシールド範囲が狭いとS原子と同じようにO原子も溶融池表面に吸着してしまうため、溶融池表面をS原子で覆うためには、上述したようにノズル口の内径Dを15mm以上として、シールド範囲かつシールド性を高める必要がある。
【0041】
S原子で覆われた溶融池表面またはビード表面は大気中の酸素に曝されたとしても、図4の各種硫化物の化学ポテンシャル図に記載の通り、1/2S+O=SOの反応により、Sと大気中の酸素とが反応してSO(沸点:−10℃)が生成しガス化する。そのため、溶接直後のビード表面又は大気を巻き込んだ場合におけるFeやMn等の酸化反応を抑制し、溶接後のビード表面に生成するスラグをより一層抑制することができる。
ここで着目すべきは、硫化鉄の反応2Fe+S=2FeSよりも1/2S+O=SOの反応の方が安定であるということ、及びSOの沸点が−10℃であることである。すなわち、溶接直後から室温までの広い温度範囲において、FeSの還元反応が働き、Feの酸化反応の抑制がなされる。また、生成したSOが容易に大気へ逃げることができる。
【0042】
以上のメカニズムに沿って、本発明では、Sの表面吸着現象が選択的に働き、溶融池への表面吸着を確実なものにするために、消耗式電極(溶接ワイヤ)全質量に対してSを0.015質量%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.020質量%以上である。また上限は溶接金属の割れを発生させない点から0.080質量%以下が好ましい。
【0043】
Sの表面吸着については直接観察できないため、一般的には表面張力やガス吸着反応によって、間接的に判断されている。溶接ワイヤ中のS量が0.015質量%を下回る場合には、表面張力によって影響するビード形状の広がりが見られず、かつスラグも発生することから、Sの吸着現象による酸化抑制効果が現れない場合がある。一方、溶接ワイヤ中のS量が0.080質量%を上回ると、高温割れといった溶接欠陥が発生するおそれがある。
【0044】
さらに、溶接ワイヤに含まれていてもよいその他の成分と数値範囲(成分量)を、その限定理由と共に以下に記載する。なお、成分量については、特段規定していない限り、溶接ワイヤの全質量に対する割合で規定する。なお、溶接ワイヤがフラックス入り溶接ワイヤである場合には、外皮とフラックスにおける成分量の総和で表すこととする。
【0045】
(C:0.30質量%以下(0質量%を含む))
溶接ワイヤ中や溶接金属中のCは、溶接金属の強度を高める上で有効である。スパッタに関しては含有量が少量であっても問題ないため下限は設定しないが、0.30質量%を超えて多量に含まれると、溶接途中に微量の酸素と結合し、COガスとなって溶滴表面にバブルを発生させ、スパッタの発生やアーク不安定が起こる。
アーク不安定が生じた場合、シールドガスが乱れることで、大気が巻き込まれ、ブローホールといった溶接欠陥やスラグの大量発生が起こるおそれがある。このため、Cの含有量は0.300質量%以下と規定する。強度の確保のため、好ましくは0.010質量%以上である。
【0046】
(Si:0.20〜2.50質量%)
溶接ワイヤ中のSiは脱酸元素であり、溶接金属の強度や靱性を確保するために好ましい元素である。添加量が少量であると脱酸不足により、ブローホールが発生する場合があることから、0.20質量%以上含有させることが好ましい。ただし、2.50質量%を超えて多量に含まれると溶接中に剥離しにくいスラグが大量発生して、スラグ巻き混み等の溶接欠陥が発生する。このため、Siの含有量は0.20〜2.50質量%の範囲とすることが好ましい。
【0047】
(Mn:0.50〜3.50質量%)
溶接ワイヤ中のMnは、Siと同じく、脱酸剤あるいは硫黄捕捉剤としての効果を発揮し、溶接金属の強度や靱性を確保するために好ましい。脱酸不足による溶接欠陥の発生防止のため0.50質量%以上を含有させることが好ましい。一方、3.50質量%を超えて多量に含まれると、溶接中に剥離し難いスラグが大量発生し、スラグ巻き混み等の溶接欠陥が発生する。また、強度が増加しすぎて溶接金属の靭性を著しく低下させる。このため、Mnの含有量は0.50〜3.50質量%の範囲とすることが好ましい。
【0048】
(P:0.0300質量%以下(0質量%を含む))
Pは不純物元素であり、極力含有量を少量にすることが好ましく、このため下限は設定しない。これらが各々0.0300質量%を超えて多量に存在すると、溶接金属の割れといった溶接欠陥が発生するおそれがあることから、0.0300質量%以下(0質量%を含む)の範囲とすることが好ましい。
【0049】
上記元素の他、溶接ワイヤには鋼板に合わせてNi、Cr、Mo、B等を適当量添加することが許容されるが、これらはスラグ発生量の支配的因子ではない。
【0050】
<アーク溶接条件>
(平均溶接電流)
平均溶接電流を低位にするとプラズマ気流が低速化し、該プラズマ気流によりアーク直下への大気混入をさらに抑制することができる。そのため平均溶接電流は270A以下であることが好ましく、250A以下がより好ましい。
平均溶接電流の下限はアーク安定性の点から70A以上が好ましい。
【0051】
(パルス電流制御)
溶接は、パルス電流制御されたパルス溶接を行うことが、安定なスプレー移行となり、アーク不安定による大気の巻き込みを抑制できる点から好ましい。
パルスのピーク電流は380A以上530A以下であることが好ましく、400A以上がより好ましく、また480A以下がより好ましい。
パルスピーク電流が530Aを超えると、ピーク電流が高くなりすぎて、アーク中への大気巻き込みがやや多くなる場合がある。また、380Aより小さくなると、ピーク電流が低すぎて、スパッタ発生量が増加する場合がある。
【0052】
パルスのピーク時間(ピーク幅)は0.5〜2.0ミリ秒であることが好ましく、1.2ミリ秒以上がより好ましく、また1.6ミリ秒以下がより好ましい。
パルスピーク時間が2.0ミリ秒を超えると、ピーク時間が長すぎて、アーク中への大気巻き込みがやや多くなる場合がある。また、0.5ミリ秒より小さくなると、ピーク電流が低すぎて、スパッタ発生量が増加する場合がある。
【0053】
<被溶接材(ワーク、母材)>
被溶接材は従来公知の物を用いることができる。例えば、冷延鋼板、熱延鋼板等が挙げられる。
中でも亜鉛めっき鋼板は、溶接熱により気化したZnがシールドガス中に侵入し、シールド雰囲気の酸素分圧及び窒素分圧を下げることができ、それにより溶融金属中の酸素及び窒素の増加を抑制することができることから好ましい。亜鉛の目付量が多すぎるとスパッタ発生量がやや増加するおそれがあることから、亜鉛目付量は20〜120g/mであることがより好ましく、100g/m以下であることがさらに好ましい。
また、被溶接材の板厚は1.0〜3.0mm程度であれば、本発明に係る溶接方法を適用することができる。
【0054】
<溶接物>
また本発明は、上記ガスシールドアーク溶接方法により溶接する工程を含む溶接物の製造方法及び、上記ガスシールドアーク溶接方法により溶接された溶接物にも関する。
溶接物としては、自動車足回り部品等が挙げられ、中でもサスペンションアーム、サスペンションメンバーが好ましい。
【0055】
(スラグ)
溶接物は、目視によるスラグ生成状態で、クレーター部を除くビード止端部から1mm以上内側のビード表面に、短径が5mm以上のスラグが生成していないことが好ましく、ビード止端部から1mm以内のスラグが生成している場合には、連続的に生成しているのに対し、断続的に生成している方がより好ましい。
【0056】
(スパッタ)
溶接物に付着しているスパッタの有無は目視にて評価することができる。溶接物に付着しているスパッタの径が1mm以上の大粒スパッタの溶接物への付着が2個以下であることが好ましく、まったくないことがより好ましい。
【0057】
(ビード形状)
溶接物におけるビード形状は、図5の模式図におけるビード幅αと余盛り高さβとの比(ビード幅α/余盛り高さβ)が3以上であることが溶接ビード止端部における塗装性の点から好ましく、5以上であることがより好ましい。ビード形状は平滑であればあるほど、好ましいため、上限は特に規定しない。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。また、ここで説明する溶接条件は一例であり、本実施の形態では、以下の溶接条件に限定されるものではない。
【0059】
<評価方法>
(スラグ生成状態)
溶接物におけるスラグ生成状態は目視及びデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX−900)を用いて観察した。表1の「スラグ生成状態」において「×」とは、クレーター部を除くビード止端部から1mm以上内側のビード表面に、短径が5mm以上のスラグが生成しているもの、「○」とは上記スラグは生成していないが、ビード止端部から1mm以内のスラグが連続的に生成しているもの、「◎」とは上記スラグは生成していないが、ビード止端部から1mm以内のスラグが断続的に生成しているものをそれぞれ表す。
【0060】
(ビード外観)
溶接物におけるビード外観は、溶接物に付着しているスパッタの有無とビード形状を目視にて評価した。
溶接物に付着しているスパッタとは、スパッタの径が1mm以上のものを対象とし、その有無を評価した。
ビード形状については、被溶接材に対してトーチを垂直にして溶接を行った際の(ビード幅/余盛り高さ)で表される値(ビード形状)が5以下であるかについて評価を行った。なお、ビード幅は図5の符号αで表される範囲であり、余盛り高さは図5の符号βで表される範囲である。
表1の「ビード外観」において「◎」とは溶接物に付着しているスパッタがなく、ビード形状の値が5以下であることを表し、「○」はスパッタもしくはビード形状、いずれか一方の点で劣るものである。
【0061】
<実施例1〜45及び比較例1〜4>
基本条件として、母材として板厚3.2mmのJIS G3131に規定されるSPHC材およびJIS G3302に規定されるSGHC材の鋼板を用いたビードオンプレート溶接を行った。溶接速度は100cm/分とし、トーチ角度は母材に対して垂直とした。
消耗式電極(溶接ワイヤ)の組成は質量%でC:0.07%、Si:0.8%、Mn:1.5%、P:0.010%を共通とし、Sの含有量は表1に示したとおりであり、残部はFeである。
溶接に用いたノズルの内径(ノズル径)、ノズル母材間距離、(ノズルの内径/ノズル−母材間距離)(比率)、シールドガスの流量、(ガス流量/ノズル内径)、ガス種、溶接ワイヤ中のS含有量、鋼板、溶接条件を表1にまとめた。なお、ノズル母材間距離はチップをノズルから突き出させ、該突き出し長さを調整することによって調整した。
【0062】
表1の「鋼板」において「非めっき」とはめっきを施していない未処理の鋼板であることを表す。実施例42〜実施例45については、母材としてそれぞれ目付20g/m、45g/m、100g/m、120g/mの亜鉛めっきを施した鋼板を用いた。
また、実施例34〜実施例45についてはパルス溶接を行い、そのピーク電流及びピーク時間(ピーク幅)を表1にまとめた。
以上の条件並びにスラグ生成状態及びビード外観の評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1の結果から、ノズルの内径Dを15mm以上、ノズル−母材間距離を22mm以下、かつ(ノズルの内径D/ノズル−母材間距離)を0.7以上1.9以下とすることにより、短径が5mm以上のスラグの生成を抑制できることが確認された。
さらにシールドガス流量を20L/分以下、より好ましくは18L/分以下とすること、または(ノズルの内径D/ノズル−母材間距離)で表される流速を0.65〜1.10L/分・mmとすることにより、スラグ生成状態をより改善することができる。
また、実施例22〜実施例26では、シールドガスにおけるAr含有量を92%以上とすることにより、スラグ生成状態及びビード外観の両方において非常に優れた溶接物が得られた。
実施例27〜実施例30では溶接ワイヤ中のS含有量を0.015質量%以上とすることにより、シールドガス流量やAr含有量によらず、スラグ生成状態及びビード外観に非常に優れた溶接物が得られた。
実施例32及び実施例33では、平均溶接電流を250A以下とすることにより、シールドガス流量やAr含有量、溶接ワイヤ中のS含有量によらず、スラグ生成状態及びビード外観に非常に優れた溶接物が得られた。
実施例34〜実施例41では、パルス電流制御を行うことにより、シールドガス流量やAr含有量、溶接ワイヤ中のS含有量、平均溶接電流によらず、スラグ生成状態及びビード外観に非常に優れた溶接物が得られた。
さらに実施例42〜実施例44では、母材に20〜100g/m目付の亜鉛めっき処理を施すことにより、スラグ生成状態及びビード外観に非常に優れた溶接物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
溶接中の大気巻き込みによって起こるピット、ブローホール等の溶接欠陥、およびビード表面の酸化を防止することによって、得られた溶接物に対して手直し等のための補修作業時間、手間、費用等を削減することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 溶接装置
10 ロボット
11 溶接トーチ
12 トーチクランプ
20 ロボット制御部
21 トーチ銃身
22 インナチューブ
23 雄ねじ部
30 溶接電源部
31 チップボディ31
41 オリフィス
61 コンタクトチップ
71 ノズル
D ノズル口の内径
Do ストレート部の内径
X ノズル内のストレート部
Y 溶接部
W 被溶接材(ワーク)
α ビード幅
β 余盛り高さ
図1
図2
図3
図4
図5