特許第6795317号(P6795317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795317ジェル前駆体層を有する積層シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795317
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】ジェル前駆体層を有する積層シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/15 20190101AFI20201119BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20201119BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20201119BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20201119BHJP
   B32B 37/00 20060101ALI20201119BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20201119BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 8/84 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20201119BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20201119BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20201119BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20201119BHJP
【FI】
   B29C48/15
   B29C48/08
   B32B27/12
   B32B27/30 A
   B32B37/00
   C08L101/14
   C08L5/00
   A61K8/02
   A61K8/81
   A61K8/84
   A61K8/73
   A61Q19/00
   B29L7:00
   B29L9:00
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-59609(P2016-59609)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-170765(P2017-170765A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176637
【氏名又は名称】日本製紙パピリア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小山 宗央
(72)【発明者】
【氏名】草野 瑛司
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−211425(JP,A)
【文献】 特開平01−164304(JP,A)
【文献】 特開2011−102257(JP,A)
【文献】 特開2012−012317(JP,A)
【文献】 特開2008−149484(JP,A)
【文献】 特表2014−534040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00−48/96
B32B 1/00−43/00
A61K 8/00−8/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート層及び該シート層上に設けたジェル前駆体層から成る積層シートを製造する方法であって、熱可塑性樹脂を押出成形することにより形成されるシート層を、押出成形された該熱可塑性樹脂が固化する前に、ジェル前駆体層と貼合することを特徴とし、
該ジェル前駆体層の少なくとも一部が繊維状であり、
該ジェル前駆体層が水溶性ポリマー及び増粘性多糖類を含み、
該積層シートが更にジェル前駆体層上に支持体を有し、該ジェル前駆体層が、該支持体上にエレクトロスピニング法によって形成されたナノ繊維を含み、
該水溶性ポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、及びポリメタクリル酸から成る群から選択される少なくとも1種である、方法。
【請求項2】
前記増粘性多糖類を室温で蒸留水に0.5重量%溶解させたときのB形回転式粘度計による粘度が100mPa・s以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記増粘性多糖類が、下記(1)〜(3)のいずれかである請求項1又は2に記載の方法。
(1)ガラクトマンナン類、キサンタンガム、ジェランガム、又はナトリウムカルボキシメチルセルロース、
(2)ガラクトマンナン類とキタンサンガム又はカッパ型カラギーナンとの混合物、
(3)ジェランガム、カラギーナン、ペクチン又はアルギン酸ナトリウムと二価の陽イオンとの混合物であって該陽イオンがカルシウムイオン又はマグネシウムイオンである混合物
【請求項4】
前記ガラクトマンナン類がグアーガム、タラガム又はローカストビーンガムである請求項に記載の方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂を押出成形することにより形成されたシート層及び該シート層上に設けたジェル前駆体層から成る積層シートであって、
該シート層と該ジェル前駆体層とが貼合されており、
該ジェル前駆体層の少なくとも一部が繊維状であり、
該ジェル前駆体層が水溶性ポリマー及び増粘性多糖類を含み、
該積層シートが更にジェル前駆体層上に支持体を有し、該ジェル前駆体層が、該支持体上にエレクトロスピニング法によって形成されたナノ繊維を含み、
該水溶性ポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、及びポリメタクリル酸から成る群から選択される少なくとも1種である、積層シート。
【請求項6】
前記増粘性多糖類を室温で蒸留水に0.5重量%溶解させたときのB形回転式粘度計による粘度が100mPa・s以上である請求項に記載の積層シート。
【請求項7】
前記増粘性多糖類が、下記(1)〜(3)のいずれかである請求項5又は6に記載の積層シート。
(1)ガラクトマンナン類、キサンタンガム、ジェランガム、又はナトリウムカルボキシメチルセルロース、
(2)ガラクトマンナン類とキタンサンガム又はカッパ型カラギーナンとの混合物、
(3)ジェランガム、カラギーナン、ペクチン又はアルギン酸ナトリウムと二価の陽イオンとの混合物であって該陽イオンがカルシウムイオン又はマグネシウムイオンである混合物
【請求項8】
前記ガラクトマンナン類がグアーガム、タラガム又はローカストビーンガムである請求項に記載の積層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シート層及び該シート層上に設けたジェル前駆体層から成る積層シートを製造する方法に関し、より詳細には、顔パック等に用いられるジェル前駆体から成る層を有し、シート状を保持するために十分な強度を有する積層シートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジェル状の化粧料が広く使用されている。このような化粧料は高粘性の液状物を皮膚に塗布することで、皮膚上に厚みのあるジェル層を形成し保湿等の美容機能をもたらす(特許文献1〜3等)。
このようなジェル状化粧料として、まずジェル前駆体を用意し、これを湿潤させた対象物に当接させ、又はジェル前駆体を対象物に当接させ、その後ジェル前駆体を湿潤させて、対象物上でジェル前駆体をジェル状にすることが行われている。しかし、顔パック等に用いられているジェルやジェル前駆体はそれ自体ではシート状を保持するための強度が不足しているため、このようなジェルやジェル前駆体は通常支持体を伴う(特許文献1等)。例えば、ジェル前駆体を網に絡ませることによりジェル前駆体又は湿潤したジェルのたわみ性を補強することが開示されている(特許文献2)。また、顔パック等の用途では不織布等の支持体が用いられるが、支持体(不織布等)とジェル又はジェル前駆体層との間の接着が不足する場合には、接着剤が用いられている(特許文献3)。
【0003】
またエレクトロスピニング法により基材層上にナノ繊維層を形成させたシートが提案されており(特許文献4、5等)、このシート又は対象物を湿潤させて、対象物の表面にこのシートを張り付け、その後基材層を剥離して、対象物の表面上に湿潤したナノ繊維層を残置することができる。
また、エレクトロスピニング法による紡糸を安定的かつ確実にするため、紡糸液にポリエチレングリコールなどの水溶性ポリマーを含有させて繊維構造体を形成することが行われている(特許文献6等)。
また、キサンタンガムやマンナン類などの吸水性や水溶時に増粘作用やゲル化作用を有するゲル化剤をシート状にした乾燥ゲルシートが開示されている(特許文献7)。
一方、押出しラミネート法等により紙基材上に熱可塑性樹脂層を形成した積層シートは広く用いられている(特許文献8等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−221391
【特許文献2】特開平1−164304
【特許文献3】特表2014−534040
【特許文献4】特開2010−167780
【特許文献5】特開2010−168722
【特許文献6】特表2006−501949(WO2003/031637)
【特許文献7】特開2011−102257
【特許文献8】特開2005−342997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
顔パック等に用いられているジェル前駆体の強度不足を補うために、本来不必要な網などを用いたりすれば(特許文献2等)、その除去が煩わしく、またコストもかさむため、あまり好ましいことではない。また、支持体(不織布等)とジェル前駆体との間に接着剤などを用いた場合には(特許文献3等)、特にジェル前駆体層をヒトの肌に当てるような用途においては、接着剤の毒性などが問題になる場合があり、あまり好ましいことではない。
したがって、本願発明は、ジェル前駆体の強度不足を補って、シート状に保持するために、上記のような問題の無い手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討したところ、形状保持性が弱いジェル前駆体層とそれを補強するための熱可塑性樹脂から成るシート層とを積層するためには、熱圧着法(後記の比較例1)や粘着フィルム貼合法(後記の比較例2)と比べて、押出しラミネート法を利用することが優れることを見出した。即ち、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を押出成形することによりシート状とし、この押出成形された該熱可塑性樹脂が固化する前に、シート状の熱可塑性樹脂とジェル前駆体層とを貼合することにより、ジェル前駆体をシート状に保持し、かつシート状の熱可塑性樹脂とジェル前駆体層とが十分な密着(接着)強度を有することができる。
【0007】
即ち、本願発明は、シート層及び該シート層上に設けたジェル前駆体層から成る積層シートを製造する方法であって、熱可塑性樹脂を押出成形することにより形成されるシート層を、押出成形された該熱可塑性樹脂が固化する前に、ジェル前駆体層と貼合することを特徴とする方法である。
また、本発明は、シート層及び該シート層上に設けたジェル前駆体層から成る積層シートであって、該シート層が、熱可塑性樹脂を押出成形することにより形成され、押出成形された該熱可塑性樹脂が固化する前に、ジェル前駆体層と貼合されることを特徴とする積層シート(但し、当該方法により製造されたものに限ってもよい。)である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の積層シートの製造法である押出しラミネート法に用いる装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の積層シートはシート層及びこのシート層上に設けたジェル前駆体層から成る。
本発明のシート層は、熱可塑性樹脂から成る。
この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンやポリメチルペンテン樹脂などのポリオレフィン系、またポリスチレンやポリエステル樹脂、ナイロン樹脂など押出ラミネートが可能な樹脂を使用することができる。また、グラフト変性ポリエチレンやエチレンとアクリル酸又はアクリル酸エステルの共重合体などを使用してもよい。また、この熱可塑性樹脂には無機顔料などの充填材を添加してもよい。この充填材としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、カオリン、カーボンブラック、金属粉体などが挙げられる。
【0010】
また、ジェル前駆体とは、水又は水溶液を添加することによりジェル状になる物質をいい、本発明のジェル前駆体層は、水溶性ポリマーや水溶性多糖類から成る。
【0011】
水溶性ポリマーとして、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドなどの合成高分子や、ゼラチン、プルラン、水溶性コラーゲンなどの天然高分子及びその化学変性高分子(但し、増粘性多糖類を除く)が挙げられ、好ましくは合成高分子である。これらは単独で用いてもよいが、2種以上を複合して使用してもよい。
この水溶性ポリマーを増粘性多糖類と混合する場合には、増粘性多糖類を溶解させずに分散させるために、水以外の有機溶剤に可溶な合成高分子、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドが好ましく、さらに種々の有機溶剤に可溶なポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸が好ましい。
水溶性ポリマーの平均分子量は、好ましくは1万〜800万、より好ましくは5万〜600万、特に好ましくは10万〜200万である。
【0012】
多糖類には、一般に、水溶性多糖類と非水溶性多糖類(セルロースなど)があり、本発明では水溶性多糖類を用いる。
水溶性多糖類としては、ヒアルロン酸等の水溶性ムコ多糖、ペクチン、キシラン、グルコマンナン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、変性コーンスターチ、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン等が挙げられる。
【0013】
本発明においては、水溶性多糖類の中でも、水溶時に増粘作用又はゲル化作用を示す増粘性多糖類を用いることが好ましい。この増粘性多糖類の増粘性は、例えば、室温(例えば、20℃)で蒸留水に0.5重量%溶解させたときのB形回転式粘度計による粘度が100mPa・s以上、好ましくは100〜3000Pa・sである。
このような増粘性多糖類として、具体的には、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム等のガラクトマンナン類、キタンサンガム、低アシル型ジェランガム(以下「LAジェランガム」ともいう。)等のジェランガム、ウェランガム、ラムザンガム、ダイユータンガム等の発酵多糖類、デンプン、デキストリン等のグルコース類、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、オウルラン等が挙げられるが、上記増粘性を有する限りこれら以外の増粘性多糖類も本発明で使用することができる。
【0014】
また、本発明で用いる増粘性多糖類は、冷水可溶のもの、例えば、35℃以下の水に可溶なものものや、35℃以下の水に溶解はしないが膨潤するものが好ましい。このような増粘性多糖類としては、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム等のガラクトマンナン類、キサンタンガム、ジェランガム等の発酵多糖類、ナトリウムカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
これらの中で、特にガラクトマンナン類及びキタンサンガムは、マンノース及びガラクトースから成る又はこれらを多く含み、水溶時に増粘効果が高いため好ましい。ガラクトマンナン類としては、グアーガム、タラガム及びローカストビーンガムが好ましい。
【0015】
また、上記多糖類は、他の多糖類、塩類その他の成分と混合すると、更に増粘する場合があり、上記増粘性を有する限りこれらを増粘性多糖類として用いてもよい。
このような例として以下の例が挙げられるが、これらに限定されない。
ガラクトマンナン類は、キタンサンガムやカッパ型カラギーナン(κカラギーナン)と併用することで増粘する。
ジェランガム、カラギーナン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム等は、カルシウムやマグネシウムなどの二価の陽イオンと混合することで増粘する。このような二価の陽イオンを含む化合物として、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウムなどの水溶性カルシウム塩、塩化マグネシウムなどのマグネシウム塩が挙げられる。
タマリンドシードガムは、アルコール類、グリコール類、グリセリン、糖類、カテキンなどと混合することで増粘する。例えば、化粧水などに含まれるアルコール類によって増粘する。
【0016】
本発明のジェル前駆体層は、任意の厚さのシート状(例えば、塗膜)であってもよく、また繊維状であってもよいが、溶解が容易になるため、その少なくとも一部が繊維状であることが好ましい。
本発明のジェル前駆体層として、上記の水溶性ポリマーや多糖類を繊維状にしたもの又はこれを支持体に塗布したものを用いることができる。
この支持体としては、例えば、メッシュシート;不織布、織布、編み地、紙などの繊維シート、それらの積層体や、例えば、ポリオレフィン系の樹脂やポリエステル系の樹脂などの合成樹脂製フィルムを用いてもよい。また、支持体とナノ繊維層との剥離を容易にするため、支持体の表面にシリコーン樹脂の塗布などの剥離処理を施してもよい。
【0017】
支持体に塗布したジェル前駆体層は、水溶性ポリマー及び水溶性多糖類から選択される少なくとも1種から成ってもよい。
このジェル前駆体層は、支持体上に上記水溶性ポリマーや水溶性多糖類を0.1〜50μmの厚さで塗布したものを用いることができる。
塗布方法は適宜公知の方法を選択すればよいが、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グアビアコーター等の公知の塗工機を用いて行うことができる。また、乾燥は公知の乾燥機を用いることができる。
【0018】
繊維状のジェル前駆体層は、好ましくは繊維径が約5nm〜50μmの繊維から成るナノ繊維層である。このナノ繊維層は、水溶性ポリマー及び水溶性多糖類から選択される少なくとも1種から成ってもよいが、水溶性ポリマー(増粘性多糖類を除く)及び増粘性多糖類を含むことが好ましい。
【0019】
本発明の積層シートが更にジェル前駆体層(ナノ繊維層)上に支持体(上記)を有し、このジェル前駆体層(ナノ繊維層)が、エレクトロスピニング法により支持体上に形成されてもよい。
エレクトロスピニング法は、周知の手段によって行うことができ、一般的に、高分子材料(熱可塑性樹脂等)を溶解した溶液をシリンジに充填し、シリンジのノズルと導電性のコレクターとの間に高電圧を印可して、溶液をジェット状に飛散させ、飛散の過程で溶媒が揮発することで繊維をコレクターに堆積させる。
支持体上にナノ繊維層を形成するために、支持体を導電性にしてそのままコレクターとして用いてもよいが、ノズルとコレクターとの間に支持体を置いてもよい。
【0020】
エレクトロスピニング法を行う条件は、特に限定されず、紡糸液の種類や得られるナノ繊維の用途等に応じて適宜調整すればよい。本発明の方法における一般的な条件としては、例えば、印加電圧は5〜30kV、吐出速度は0.01〜1.00mL/分、ノズルとコレクターの間の垂直距離は100〜200mmとすることができ、ノズルは15〜25Gの径のものを使用することができる。紡糸環境は、特段厳密に制御を行わなくてもよいが、相対湿度10〜50%、温度を10〜25℃とすることが好ましい。
【0021】
エレクトロスピニング法に供する紡糸液に用いる溶媒として、水溶性ポリマーの良溶媒であって且つ増粘性多糖類の貧溶媒である溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としてアルコール類が好ましい。このような溶媒を用いて水溶性ポリマーを溶解させ増粘性多糖類を添加することで、増粘性多糖類が分散した水溶性ポリマーの溶液を得ることができ、得られた分散液をエレクトロスピニング法で紡糸することで、水溶性ポリマーの繊維中に増粘性多糖類が粒子状に存在する積層シートを得ることができる。化粧用に使用する場合には、安全性の点からエタノール又はイソプロピルアルコールを溶媒として用いることが好ましい。
【0022】
紡糸液中の水溶性ポリマーの濃度は、使用する溶媒と水溶性ポリマーの種類と平均分子量によって種々変更することができるが、通常5〜20重量%程度である。水溶性ポリマーの濃度が低すぎる場合にはノズル先端から液滴が飛散しても繊維が形成されず、濃度が高すぎる場合にはノズルから吐出した溶液がコレクターに到達するまでにジェット状に飛散せずノズルから溶液のままコレクターに到達してしまう、あるいはノズル先端で溶液が固化し溶液が吐出しないため、繊維シートが適正に得られない。
紡糸液中の増粘性多糖類の添加量は、水溶性ポリマー100重量部に対して好ましくは10部〜900部、より好ましくは20部〜600部、さらに好ましくは50部〜400部である。シートの目付にもよるが、添加量が10部以下であると水を添加しても十分な増粘効果が得られず、900部以上であるとシートの骨格となる繊維が少ないため強度が低下し、ハンドリングが困難となる。
【0023】
紡糸液には任意に導電剤や界面活性剤を含有させてもよい。これらの添加量は紡糸液に対して通常0.0001〜5重量%である。導電剤や界面活性剤を添加することで繊維の形成性を向上させることができる。導電剤としては溶媒に可溶な塩が好ましく、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。また界面活性剤としてはアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のものが挙げられるが、紡糸への影響が小さいことからノニオン性の界面活性剤が好ましい。
【0024】
さらに、紡糸液には、パラフィンワックス、スクワラン、ワセリン等の炭化水素類、カルナウバロウ、ミツロウ等の天然ロウ類、パルミチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、トリオクタン酸グリセリル等のエステル類、ステアリン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸類、ラノリン誘導体類、アミノ酸誘導体類などの油脂類、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アルキル変性オルガノポリシロキサン、アルコキシ変性オルガノポリシロキサン、高級脂肪酸変性オルガノポリシロキサン、フッ素変性オルガノポリシロキサン等のシリコーン化合物類、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン等のフッ素系油剤類、デキストリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、デンプン脂肪酸エステル、イソステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム等の油性ゲル化剤類、ベンゾフェノン系、PABA系、パケイ皮酸系、サリチル酸系、酸化チタン、酸化セリウム等の紫外線防止剤、コラーゲンペプチド、シルクフィブロイン、ヒアルロン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、アルブチン、クエン酸、リン酸Lアスコルビン酸マグネシウム、ラクトフェリン、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、アルブチン、ガンマオリザノール、ビタミンAアセテート、パンテノール、アラントイン、ベタイントリメチルグリシン等の美容成分、香料などを、エレクトロスピニング法による紡糸を阻害しない範囲で配合してもよい。
【0025】
本発明のナノ繊維層は、水溶性ポリマーの良溶媒であって且つ増粘性多糖類の貧溶媒である溶媒に水溶性ポリマーを溶解し、そこに増粘性多糖類を分散させ、得られた溶液を用いてエレクトロスピニング法により、形成されることが好ましい。
このような製法により得られたナノ繊維層においては、主に水溶性ポリマーにより形成される繊維の隙間に、主に増粘性多糖類により形成される粒子が分散して存在する。
この繊維の繊維径は、通常5nm〜50μmである。
この粒子の平均粒子径は通常100μm以下であり、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは0.1〜10μmである。平均粒子径が100μmより大きい場合には、水を添加した際に粒子が水と接触する部位が優先的に溶解し粒子内部への水の浸透を阻害するため、溶解速度が低下する。
【0026】
本発明の積層シートの製造法としては、押出しラミネート法を用いる。即ち、熱可塑性樹脂を押出成形することによりシート層を形成し、押出成形された熱可塑性樹脂が固化する前に、このシート層とジェル前駆体層とを貼合して積層シートを得る。
この押出しラミネート法に用いる装置の一例を図1に示す。押出成形機1のホッパーに熱可塑性樹脂を投入し、Tダイ2から押出された熱可塑性樹脂は、ニップロール4とクーリングロール5により、基材ロール3から供給される支持体上のジェル前駆体層と圧着され、積層シートとなり、製品ロール6に収納される。
【0027】
この押出しラミネート法における、樹脂の溶融温度、積層速度などの操業条件は、用いる樹脂の種類や装置によって適宜設定すればよく特に制限されないが、一般には、例えば、溶融温度は200〜350℃程度、積層速度は10〜200m/分程度である。また、ニップロールとしては硬度70度以上(JIS K−6253)のものを用い、線圧は15kgf/cm以上で押圧・圧着を行うことが好ましい。
また、シート層を複数の熱可塑性樹脂層で形成する場合など、2以上の熱可塑性樹脂層を積層するときは、熱可塑性樹脂層間の密着性や生産効率の点から、複数台の押出機を用いて各熱可塑性樹脂を溶融状態でそれぞれのTダイに導き、各Tダイから同時に押出して積層接着する方法が適している。このような多層の熱可塑性樹脂層を同時に形成可能な方法は、押出しラミネート法の中で特に共押出しラミネート法と呼ばれる。さらに、熱可塑性樹脂層同士の間に接着性樹脂層を挟んで、樹脂層間の接着性を高めてもよい。なお、いずれの場合でも、必要に応じてジェル前駆体層や熱可塑性樹脂の接着性を向上させるために、コロナ処理、オゾン処理等を行ってもよい。
【0028】
成形後、積層シートから支持体を除去してもよい。また、この支持体の除去は製品使用時に行ってもよい。
冷却成形後のこのシート層の厚さは、通常5〜100μm、好ましくは10〜60μmである。
また、冷却成形後のこのジェル前駆体層の厚さは、通常0.1〜50μmである。
【実施例】
【0029】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
なお、多糖類の粘度は、20℃の蒸留水に0.5質量%溶解させたときのB形回転式粘度計により測定した粘度(mPa・s)とした(以下「0.5%粘度」という。)。
【0030】
実施例1
ポリビニルピロリドン(ISPジャパン(株)製PVP−K90、平均分子量120万、以下「PVP」という。)4.5gを100mlバイアル瓶に採取し、エタノール25.5gを加えて、スターラーを用いて1時間撹拌し、PVPエタノール溶液(濃度15質量%)を作製した。このPVPエタノール溶液に、グアーガム(三晶(株)製SUPERGELCSA200/50、平均粒径55μm、0.5%粘度460mPa・s)4.5gを分散させて、エレクトロスピニング用紡糸液を得た。この紡糸液の全固形分濃度は26.1質量%であり、PVPとグアーガムの質量比は1:1である。
この紡糸液を、先端にゲージNo.18G金属製ノンべベル針を装着した10mlシリンジに5g採取し、コレクタードラムに支持体として剥離紙(林コンバーテック(株)社製K8シロP(01))を固定したエレクトロスピニング装置(カトーテック製、NEU)に装着し、ノズル−コレクター間距離10cm、印加電圧8.0kV、吐出速度20μL/分、コレクター回転速度2m/分、トラバース距離15cm、トラバース速度5cm/分の条件にて、1時間かけて剥離紙上に紡糸を行い、剥離紙上に6g/mのジェル前駆体層を形成した。
【0031】
概略図を図1に示すTダイを備えた押出成形機を用いて、上記で得られた剥離紙上のジェル前駆体層面と、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製LC602A、密度0.919g/cm、融点107℃)とが貼合されるように、溶融温度300℃にて厚さが30μmとなるように押出ラミネーションを行い、直ちにクーリングロールとニップロール(硬度70度)により線圧15kgf/cmで押圧・圧着し、ジェル前駆体層上にシート層が形成された積層シートを得た。ジェル前駆体層の厚さは10μm、シート層の厚さは30μmであった。
【0032】
実施例2
グアーガムに代えてキサンタンガム(三晶(株)製KELTROL CG、平均粒径45μm、0.5%粘度725mPa・s)を用いた以外は実施例1と同様にして積層シートを得た。ジェル前駆体層の厚さは10μm、シート層の厚さは30μmであった。
実施例3
グアーガムに代えてグアーガムとキサンタンガム(三晶(株)製KELTROL CG)との質量比80:20の混合物(0.5%粘度1240mPa・s)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。ジェル前駆体層の厚さは10μm、シート層の厚さは30μmであった。
【0033】
実施例4
シート層の厚さが10μmとなるように押出ラミネートの積層速度を調製した以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。
実施例5
シート層の厚さが60μmとなるように押出ラミネートの積層速度を調製した以外は実施例1と同様にして、積層シートを得た。
実施例6
剥離紙上にバーコーターを用いて、実施例1で用いたエレクトロスピニング用紡糸液を塗布し、80℃の乾燥炉で1分間乾燥した。この塗布層(ジェル前駆体層)の乾燥後の塗布量は6.0g/mであった。その後、実施例1と同様にして、積層シートを得た。塗布層(ジェル前駆体層)の厚さは6μm、シート層の厚さは30μmであった。
【0034】
比較例1
実施例1と同様の方法で作製したジェル前駆体層に、厚さ30μmの低密度ポリエチレンフィルム(日本製紙製、ワンラップ)を重ね、チルドロールと樹脂ロールを一対備えた卓上スーパーカレンダー装置を用いて、ロール温度115℃、線圧50kgf/cm条件にてポリエチレンフィルムがチルドロールに接するように通紙して、ジェル前駆体層と低密度ポリエチレンフィルム(シート層)とを貼合して、積層シートを得た。ジェル前駆体層の厚さは7μm、シート層の厚さは30μmであった。
【0035】
比較例2
実施例1と同様の方法で作製したジェル前駆体層に、シート層として、厚さ25μmのポリエステルフィルム上にアクリル樹脂系粘着剤をバーコーターを用いて塗布し、105℃の乾燥炉で1分間乾燥することで層厚60μmの粘着フィルムを作製した。粘着フィルムの粘着面側とアクリル板との粘着力は0.25N/25mmであった。この粘着フィルムを用いて、ジェル前駆体層と粘着層が接するように貼り合わせ、その上を2kg重量のゴム製ロールを5往復させて、ジェル前駆体層とシート層が積層された積層シートを得た。ジェル前駆体層の厚さは10μm、シート層の厚さは60μmであった。
【0036】
以上得られた積層シートから剥離紙を剥がして下記の評価を行った。
(溶解性)
顔面頬部に予め霧吹きで蒸留水を約1.0ccとなるよう噴霧し、湿潤状態とした上で、作製した積層シートのジェル前駆体層面を前記湿潤状態の肌の上に当て、積層シートのジェル前駆体層が溶解して、ジェル状物質になるかどうかを評価した。
ジェル前駆体層の溶解性を下記基準で評価した。
◎:ジェル前駆体層が即座に溶解し、ジェル状物質になる。
○:ジェル前駆体層が溶解しジェル状物質になるが、溶解に時間が掛かる。
【0037】
(追従性)
作製した積層シートを10cm角に切り、予め霧吹きで蒸留水を約1.0ccとなるよう噴霧し湿潤状態とした顔面頬部に、ジェル前駆体層とシート層が積層された状態でジェル前駆体層面を当てた際の肌の凹凸への追従性を下記の基準で評価した。
◎:ジェル前駆体層面のほぼ全てが肌の凹凸に追従して密着する。
○:ジェル前駆体層面のほとんどが肌の凹凸に追従して密着しない。
△:ジェル前駆体層面の一部が肌の凹凸に追従して密着しない。
×:ジェル前駆体層面の多くの部分が肌の凹凸に追従して密着しない。
【0038】
(ベタツキ性)
各実施例及び比較例で作製した積層シートを10cm角に切り、予め霧吹きで蒸留水を約1.0ccとなるよう噴霧し湿潤状態とした顔面頬部上に、ジェル前駆体層とシート層が積層された状態でジェル前駆体層面を当て、ジェル前駆体層を完全に溶解せしめた後、シート層を肌から除去した際にベタツキを感じるかどうかを評価した。
ベタツキ性は下記基準で評価した。
○:シート層を除去する際に肌にベタツキを感じない。
×:シート層を除去する際に肌にベタツキを感じる。
【0039】
評価結果を下表にまとめる。
【表1】
【0040】
実施例1〜5のいずれの積層シートのジェル前駆体層も瞬時に蒸留水に溶解し、粘調なジェル状物質となり、肌への密着性に優れ、シート層を除去した際にベタツキを感じない質感が得られた。
実施例6の積層シートのジェル前駆体層は蒸留水への溶解速度が若干遅く、一部肌との間に目立たない程度浮きが発生したが、ベタツキも含めた使用感は良好な積層シートが得られた。
比較例1の積層シートは、全体にシワが入り、均一な積層シートを得ることができなかった。加熱時に低密度ポリエチレンフィルムが収縮して、ジェル前駆体層とフィルムとの界面に剥離が発生し、冷却時にジェル前駆体層がフィルムの収縮に追随してシワが入ったものと考えられる。
比較例2の積層シートを肌から除去したところ、フィルムを剥離する際に、粘着剤によると考えられる肌を引っ張る感触があり、剥離後に肌に不快なベタツキ感が残った。
【符号の説明】
【0041】
1 押出成形機
2 Tダイ
3 基材ロール
4 ニップロール
5 クーリングロール
6 製品ロール
図1