(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量%で、C:0.90〜1.3%、Si:0.4〜1.2%、Mn:0.2〜1.5%、P:0%超0.02%以下、S:0%超0.02%以下、Al:0%超0.008%以下、Ti:0〜0.005%、N:0.001〜0.008%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物であり、
組織は、パーライトおよび初析セメンタイトを含み、
全組織に対するパーライトの面積率が95%以上、
初析セメンタイトの最大長さが15μm以下、
初析セメンタイト内部のSi濃度の平均値と、パーライトのラメラ構造を形成するフェライト内部のSi濃度の最大値との濃度差が0.50〜3%であることを特徴とする鋼線材。
【背景技術】
【0002】
スチールコードやワイヤロープなどに使用される高強度鋼線として、例えばJIS G
3522(1991)に記載のピアノ線が知られている。ピアノ線はA種、B種、V種の3種類に大別され、高強度のピアノ線B種として、線径0.2mm、引張強度2840〜3090MPaのSWP−B種などが挙げられる。ピアノ線の素材としては、一般にJIS G 3502(2004)に記載のSWRS82Aなどのパーライト鋼が用いられている。
【0003】
高強度鋼線の一般的な製造方法は以下の通りである。まず、熱間圧延によって製造した鋼線材(圧延線材とも呼ばれる)を冷却コンベヤ上にリング状に載置し、パーライト変態を行わせた後にコイル状に巻き取り、線材コイルを得る。次いで伸線加工を行い、パーライトの加工硬化作用を利用して所望の線径と強度を有する鋼線を得る。鋼線材の加工限界によって所望の線径まで加工できない場合には、パテンティングと呼ばれる熱処理を伸線加工の間に施す。例えば線径0.2mmの極細鋼線を得るためには、伸線加工とパテンティング処理を数回繰り返して行うことが一般的である。
【0004】
ここで、鋼線を高強度化するためには、素材となる鋼線材のC量を増加させる必要がある。しかし、0.90%以上のCを含む高炭素鋼線では、初析セメンタイトが組織中に析出して伸線性が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、伸線性に優れた高炭素鋼線を製造するため、種々の技術が提案されている。
【0006】
例えば特許文献1は、橋梁用ロープ等に用いられる亜鉛めっき鋼線の素材として有用な高強度鋼線用線材などに関し、特に圧延後に熱処理することなく、所謂生引きで伸線するときの加工性が良好な高強度鋼線用線材などについて記載されている。特許文献1では、粒界近傍に微細なTiCを析出させることによって、初析セメンタイトの析出を抑制しており、そのためにTi含有量の下限を0.02%以上としている。
【0007】
また、特許文献2は、特に熱延ままで真歪2.2以上の伸線加工をすることが可能な細径高炭素熱間圧延線材に関する。詳細には特許文献2では、Siを0.50%以下に抑制した鋼片を熱間圧延時に圧下量を増加させて、線材直径4.5mm以下と細くすることによりオーステナイト粒(γ粒)を微細化してパーライト変態を促進させることによって、初析フェライトや初析セメンタイトの粒大析出が防止できることが記載されている。
【0008】
また、特許文献3は、高張力鋼線用の線材を用いた海底光ファイバーケーブル用異形線に関する。詳細には特許文献3には、パーライト組織中のセメンタイトとフェライト界面からフェライト相側の30nmの範囲で、セメンタイト/フェライト界面のSi最大偏析度(セメンタイトとフェライト界面からフェライト相側に30nmの範囲での最大Si濃度÷バルクのSi含有量)≧1.1を満足するようにSi偏析した線材を用いることによって、異形加工中の断線率を防止できることが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは上記課題を解決するため、C量が0.90%以上の高炭素鋼線材を用いて鋭意検討した。その結果、初析セメンタイトと、パーライトのラメラ構造を形成するフェライト(以下、単にフェライトと呼ぶ場合がある。)との界面に0.50%以上のSi濃度差を形成させる(詳細には、初析セメンタイト内部のSi濃度の平均値と、フェライト内部のSi濃度の最大値との濃度差が0.50%以上である)ことにより、伸線加工性に有害な初析セメンタイトの析出および成長を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
なお、前述した特許文献3にもSi偏析に関する記載はあるが、上記特許文献3はパーライト組織中のセメンタイト(パーライトのラメラ構造を形成するラメラセメンタイト)とフェライトとの界面のSi濃度差を制御している点で、パーライト組織中のセメンタイトでなく、初析セメンタイトとフェライトとの界面のSi濃度を制御する本願発明とは、対象となる組織が相違する。パーライト組織中のセメンタイトと、初析セメンタイトとは本質的に異なるものであり、析出開始温度も初析セメンタイトは750℃前後であり、約590〜650℃で析出するパーライトより高温である。よって、特許文献3の技術では、伸線加工性に有害な初析セメンタイトを十分低減できないと考えられる。また、特許文献3には、上記界面に効率よくSiを偏析させるためには線材圧延後の衝風冷却の速度を1〜10℃/秒にすることが有効であると記載され、実施例では全て7℃/秒程度の衝風冷却を行っている。しかしながら、上記冷却条件で圧延した、後記する表2のNo.6では、本願発明で規定するSi濃度差は得られず、初析セメンタイトの最大長さも長くなって伸線特性が低下した。
【0025】
以下、本発明の鋼線材について詳しく説明する。
【0026】
まず、本発明に係る鋼線材の鋼中成分は以下のとおりである。各成分の単位は特に断りがない限り、質量%である。
【0027】
C:0.90〜1.3%
Cは強度の上昇に有効であり、C含有量の増加に伴って冷間加工後の鋼線材の強度は向上する。所望とする4000MPa以上の強度を達成するためには、C含有量の下限を0.90%以上、好まくは0.93%以上、より好ましくは0.95%以上とする。しかし、C含有量が多くなり過ぎると、伸線加工性に有害な初析セメンタイトを十分低減することができず、伸線性が低下する。よって、C含有量の上限を1.3%以下、好ましくは1.25%以下とする。
【0028】
Si:0.4〜1.2%
Siは有効な脱酸材であり、鋼中の酸化物系介在物を低減する効果がある他、鋼線材の強度を上昇させる効果もある。更に、後述するように初析セメンタイトの成長を抑制する効果もある。これらの効果を有効に発揮させるためには、Si含有量の下限を0.4%以上、好ましくは0.45%以上、より好ましくは0.50%超、更に好ましくは0.55%以上とする。ただし、Siを過剰に添加すると伸線時の脆化を促進し、伸線材の捻回特性を低下させる。よって、Si含有量の上限を1.2%以下、好ましくは1.15%以下とする。
【0029】
Mn:0.2〜1.5%
Mnは鋼の焼入れ性を大きく高めるため、衝風冷却時の変態温度を低下させ、パーライト組織の強度を高める効果がある。これらの効果を有効に発揮させるため、Mn含有量の下限を0.2%以上、好ましくは0.3%以上とする。しかし、Mnは線材中心部に偏析し易い元素であり、過剰に添加するとMn偏析部の焼入性が過剰に増大し、マルテンサイト等の過冷組織を生成させる虞がある。よって、Mn含有量の上限を1.5%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.95%以下とする。
【0030】
P:0%超0.02%以下
Pは不純物として含有されるが、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させ、鋼片割れを引き起こす他、伸線後の鋼線の疲労特性を低下させる。よって、これらの弊害を防ぐため、P含有量の上限を0.02%以下、好ましくは0.018%以下とする。なお、Pの下限を0%とすることは工業生産上困難である。
【0031】
S:0%超0.02%以下
Sは上記Pと同様、不純物として含有されるが、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させ、鋼片割れを引き起こす他、伸線後の鋼線の疲労特性を低下させる。よって、これらの弊害を防ぐため、S含有量の上限を0.02%以下、好ましくは0.018%以下とする。なお、Sの下限を0%とすることは工業生産上困難である。
【0032】
Al:0%超0.008%以下
Alは不純物として含有され、Al
2O
3の様なAl系介在物を生成して、伸線加工時の断線率を上昇させる。よって、十分な伸線性を確保するためには、Al含有量の上限を0.008%以下、好ましくは0.006%以下とする。なお、Alの下限を0%とすることは工業生産上困難である。
【0033】
Ti:0〜0.005%
Tiは不純物として含有されるが、TiNなどのTi系介在物を生成させ、伸線加工時の断線率を上昇させる。よって、十分な伸線性を確保するためには、Ti含有量の上限を0.005%以下、好ましくは0.003%以下とする。
【0034】
N:0.001〜0.008%
Nは鋼中に固溶して伸線加工時に歪み時効を引き起こし、鋼線の靱性を低下させる。この様な弊害を防ぐため、N含有量の上限を0.008%以下、好ましくは0.007%以下とする。N量は少ない方が良いが、工業生産上、その下限を0.001%以上、好ましくは0.0015%以上とする。
【0035】
本発明の鋼線材は上記成分を含み、残部:鉄および不可避的不純物である。
【0036】
本発明の鋼線材は、更に強度、靱性、延性などの特性を向上させるため、以下の選択的元素を含有することができる。
【0037】
B:0%超0.01%以下
Bはオーステナイト粒界に濃化し、粒界フェライトの生成を妨げて伸線性を向上させる効果がある。また、Nと化合してBNなどの窒化物を形成し、固溶Nによる靱性低下を抑えて捻回特性を向上させる効果もある。B添加による鋼線材の伸線性や捻回特性を有効に発揮させるため、B含有量の下限を0.0005%以上とすることが好ましい。但し、過剰に添加するとFeとの化合物(B−constituent)が析出し、熱間圧延時の割れを引き起こすため、B含有量の上限を好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.008%以下とする。
【0039】
V:0%超0.5%以下、およびCr:0%超0.5%以下よりなる群から選択される少なくとも一種
VおよびCrは、鋼線材の強度向上に寄与する元素である。これらの元素は、単独で添加しても良いし、併用しても良い。
【0040】
詳細には、Vは微細な炭窒化物を生成し、強度上昇効果がある他、固溶Nの低減による捻回特性向上も発揮し得る。このような効果を有効に発揮させるため、V含有量の下限を、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上とする。但し、Vは高価な元素であり、過剰に添加してもその効果は飽和し、経済的に無駄であるので、V含有量の上限を、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.4%以下とする。
【0041】
また、Crはパーライトのラメラ間隔を微細化し、鋼線材の強度を高める効果がある。このような効果を有効に発揮させるため、Cr含有量の下限を、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上とする。但し、過剰に添加してもその効果は飽和し、経済的に無駄であるので、Cr含有量の上限を、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.4%以下とする。
【0046】
次に、本発明に係る鋼線材の組織について説明する。上述したとおり、本発明の鋼線材は、パーライトおよび初析セメンタイトを含み、全組織に対するパーライトの面積率が90%以上、初析セメンタイトの最大長さが15μm以下、初析セメンタイト内部のSi濃度の平均値と、フェライト内部のSi濃度の最大値との濃度差(以下、単にSi濃度差と呼ぶ場合がある。)が0.50〜3%である。
【0047】
全組織に対するパーライトの面積率:90%以上
上記のとおり、本発明の鋼線材は、パーライトおよび初析セメンタイトを含む。ベイナイトやマルテンサイトなどの低温変態組織(過冷組織と呼ばれる場合もある)は伸線性を阻害するため、十分な伸線性を確保するためにはパーライト組織の面積率を90%以上、好ましくは95%以上とする。なお、その上限は、初析セメンタイトとの関係で適切に制御すれば良いが、おおむね99面積%以下であることが好ましい。
【0048】
本発明の鋼線材は、パーライトおよび初析セメンタイトの他、製造上不可避的に含まれる残部組織も含まれ得る。このような残部組織として、例えば、ベイナイト、初析フェライトなどの非パーライト組織が挙げられる。本発明の作用を有効に発揮させるためには、全組織に対する非パーライト組織(初析セメンタイトを含む)の合計を、おおむね、10面積%以下に制御することが好ましい。
【0049】
初析セメンタイトの最大長さ:15μm以下
板状に析出する初析セメンタイトは、伸線加工性に有害な組織であり、鋼線材のパーライトコロニーの配向を妨げ、クラックの起点となって断線を増加させる。しかしながら、最大長さが短い初析セメンタイトは上記弊害が少ない。このような初析セメンタイトによるメカニズムは、前述した特許文献1に詳述したとおりである。十分な伸線性を確保するには、初析セメンタイトの最大長さの上限を15μm以下、好ましくは13μm以下、より好ましくは10μm以下とする。なお、初析セメンタイトの最大長さの下限は特に限定されず、例えば、0.1μm程度であっても良い。
【0050】
初析セメンタイト内部のSi濃度の平均値と、フェライト内部のSi濃度の最大値との濃度差(Si濃度差):0.50〜3%
Siはセメンタイトに固溶し難い元素であり、初析セメンタイトが析出する際にはセメンタイト相から外部のオーステナイト相に排出され、その界面(初析セメンタイトとフェライト相の界面)にSiの濃度差が形成される。本発明者らの実験結果によれば、このSi濃度差が大きい程、初析セメンタイト相の成長を抑制し、初析セメンタイトの最大長さを低減できることが判明した。このとき形成されたSi濃度分布は、その後のパーライト変態を経ても受け継がれるため、製造された鋼線材の組織を観察すると初析セメンタイト相と、その周囲にあるフェライト相との界面のSi濃度差として確認することができる。
【0051】
参考のため、後記する実施例の表2の試験No.12におけるSi濃度差を示すグラフを
図1に示す。
図1において、中央にある初析セメンタイト相のSi濃度の平均値と、当該初析セメンタイト相の周囲にある各フェライト相のSi濃度の最大値を測定し、これらの差をSi濃度差と規定する。Si濃度の測定方法は、後記する実施例の欄で詳述する。
【0052】
本発明では、上記のようにして算出されるSi濃度差を0.50%以上とする。これにより、初析セメンタイトの最大長さを15μm以下にすることができる。Si濃度差は、好ましくは0.6%以上である。但し、Si濃度差を過剰に形成しても、上記効果は飽和するので、その上限を3%以下、好ましくは2.8%以下とする。
【0053】
なお、本発明では、初析セメンタイト相と、パーライト組織中のフェライトとの界面に上記Si濃度差が生じるのであって、初析セメンタイト相と、パーライト組織中のセメンタイト(パーライトのラメラ構造を形成するラメラセメンタイト)相との界面にはSi濃度差は生じない。
【0054】
次に、上述した本発明の鋼線材を製造する好ましい方法について説明する。
【0055】
本発明のような高炭素鋼線材は一般に、所定の化学成分に調整した鋼片を加熱してオーステナイト化し、熱間圧延によって所定の線径の鋼線材とする。
【0056】
熱間圧延の後、冷却コンベヤ上にリング状に載置して冷却する。このときの載置温度は880〜980℃とすることが好ましい。載置温度が高過ぎたり低過ぎたりすると、スケール性状が変化し、伸線前のメカニカルデスケーリング(MD)処理に悪影響を及ぼす場合がある。好ましい載置温度は、900℃以上、960℃以下である。なお、上記の問題を解消するため、酸洗等の他のデスケーリング処理を用いても良いが、生産性などを考慮すると、上記範囲の載置温度に制御することが推奨される。
【0057】
次いで、800℃以上の温度で冷却を開始する。ここでの冷却条件は、所望とするSi濃度差を所定範囲に制御するために極めて重要である。なお、以下に記載の冷却停止温度や保持温度の範囲は、リング状に載置したコイルの全体が全てこの範囲内に入っていることが必要である。
【0058】
具体的には、12〜60℃/sの平均冷却速度で480〜620℃の冷却停止温度まで冷却する。このときの平均冷却速度が遅いと、初析セメンタイト界面に形成されたSi濃度差がSi原子の拡散で失われてしまい、所望とするSi濃度差が得られない。一方、上記平均冷却速度が速くなると過冷組織が生成し、パーライト面積率が90%未満になる。より好ましい平均冷却速度は、15℃/s以上、55℃/s以下である。
【0059】
また、冷却開始温度が低いと、放冷中に初析セメンタイトの析出が開始してしまうので、前述した平均冷却速度が遅い場合に相当し、Si濃度差が小さくなる。また、冷却停止温度が低いとベイナイトなどの過冷組織が生成し、パーライト面積率が低下する。一方、冷却停止温度が高いと、Si原子が拡散してSi濃度差が小さくなる。より好ましい冷却停止温度は、500℃以上、600℃以下である。
【0060】
冷却停止の後、温度を590〜650℃の保持温度まで上昇させ、パーライト変態を行わせる。上記保持温度が高過ぎるとSi原子が拡散してしまい、Si濃度差が小さくなる。一方、上記保持温度が低過ぎると過冷組織が発生し、パーライト面積率が低下する。より好ましい保持温度は、600℃以上、640℃以下である。
【0061】
上記のようにして本発明の鋼線材を得た後、コイル状に巻き取り、線材コイルを得る。次いで伸線加工を行い、所望の線径と強度を有する鋼線を得る。
【0062】
なお、伸線加工の後にパテンティング処理を行うことが好ましい。パテンティング処理後に更に伸線加工を加えることで、線径0.2mm程度の極細鋼線を得ることができる。パテンティング処理の条件は特に限定されず、例えば、加熱温度950℃、パテンティング温度600℃などの条件を採用することができる。また、パテンティング処理は1回のみならず、複数回(例えば2〜3回)行っても良い。
【0063】
このようにして得られる本発明の鋼線は、引張強度がおおむね、4000MPa以上の高強度を有する。本発明によれば、線径がおおむね0.1〜0.4mm程度の鋼線が得られるため、例えば、スチールコード、ワイヤロープ、ソーワイヤなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0065】
表1に記載された鋼種A〜Z(断面形状が155mm×155mm)を1000℃の温度に加熱して熱間圧延し、所定の線径(φ5.5mm)まで加工した。次いで、冷却コンベヤ上にリング状に載置し、衝風冷却による制御冷却でパーライト変態を行わせた後、コイル状に巻き取って圧延材コイルを得た。圧延後の冷却条件、および圧延後の線径を表2に示す。
【0066】
このようにして得られた圧延材コイルを用い、以下の項目を測定した。
【0067】
パーライト(P)面積率の測定
上記圧延材コイルの端末の非定常部を切り捨てた後、良品の端末を採取して長さ5cmの試験片を採取した。このようにして得られた試験片の線材長手方向に垂直な横断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で撮影した組織写真を用いて、点算法により、パーライト組織と非パーライト組織の面積率を求めた。点算法とは、組織写真をメッシュに区切り、その格子点に存在する組織をカウントすることで組織の面積率を簡易に求める方法である。詳細には、横断面の中心部を4000倍で撮影したSEM写真を3枚作製し、それぞれ100個の格子点に区切ってパーライト面積率を求め、その平均値を算出した。SEM写真1枚の評価面積は868μm
2である。各試験片におけるパーライト面積率、および組織の詳細を表2に示す。表2には、上記点算法で検出された非パーライト組織(初析セメンタイト組織、ベイナイト組織)も併記した。表中、Pはパーライト組織、Bはベイナイト組織、θは初析セメンタイトである。
【0068】
初析セメンタイト(θ)の最大長さの評価
上記のようして得られたSEM写真を用い、観察された各初析セメンタイトの長さを測定し、最大長さを求めた。なお、初析セメンタイトは板状に析出するが、板状のセメンタイトが複数に枝分かれしている場合、各枝の長さを合計した値を採用した。
【0069】
Si濃度差の測定
上記のようにして得られたSEM写真を用い、観察された初析セメンタイトについてCs−STEM(球面収差補正走査透過型電子顕微鏡、spherical aberration corrected Scanning Transmission Electron Microscope)によりSi濃度をEDX(エネルギー分散型X線分析:Energy dispersive X−ray spectrometry)でライン分析し、初析セメンタイト相内部と、その周囲にあるフェライト相との間のSi濃度差を求めた。詳細には、初析セメンタイト相のSi濃度の平均値と、フェライト相のSi濃度の最大値をそれぞれ測定し、その差をSi濃度差と定義した。ライン分析のステップ幅は2nm、評価長さは200nmとした。
【0070】
圧延材コイルの機械特性評価
上記圧延材コイルの端末の非定常部を切り捨て、良品のコイル端末から1リング採取し、長手方向に8分割して、JIS Z2201に基づいて引張試験を行い、引張強度TSを測定した。合計8本の平均値を求め、圧延材コイルのTSを算出した。
【0071】
伸線特性の評価
上記圧延材コイルを用い、表2に伸線歪みで冷間伸線して所定の線径まで加工し、伸線加工後の引張強度TSを求めた。伸線量はそれぞれ200kgである。なお、伸線加工中に断線が生じたものは「断線」と記載した。
【0072】
これらの結果を表2に併記する。
【0073】
【表1A】
【0074】
【表1B】
【0075】
【表2A】
【0076】
【表2B】
【0077】
これらの結果より、以下のように考察することができる。
【0078】
試験No.1〜3、
13〜15、19〜21、24
、25、27、28、31、32は本発明の要件を満たす例であり、断線を生じることなく良好な伸線性が確認された。特に、Bを含有する表1の鋼種C
、F、G、M、Nを用いた試験No.3、
13、14
、20、21はいずれも、高い伸線歪みまで、断線することなく伸線できた
。
【0079】
これに対し、下記例は以下の不具合を有している。
【0080】
試験No.4〜10はいずれも、本発明の要件を満足する表1の鋼種Cを用いたが、本発明で推奨する条件のいずれかを満足せずに製造したため、伸線時に断線した。
【0081】
詳細には試験No.4は冷却開始温度が低かったため、Si濃度差が低下し、初析セメンタイトの最大長さが長くなって伸線時に断線した。
【0082】
試験No.5は、冷却開始温度から冷却停止温度までの平均冷却速度が大きかったため、パーライト面積率が低下して伸線時に断線した。
【0083】
試験No.6は、冷却開始温度から冷却停止温度までの平均冷却速度が小さかったため、Si濃度差が低下し、初析セメンタイトの最大長さが長くなって伸線時に断線した。
【0084】
試験No.7は冷却停止温度が低かったため、パーライト面積率が低下して伸線時に断線した。
【0085】
試験No.8は冷却停止温度が高かったため、Si濃度差が低下し、初析セメンタイトの最大長さが長くなって伸線時に断線した。
【0086】
試験No.9は保持温度が低かったため、パーライト面積率が低下して伸線時に断線した。
【0087】
試験No.10は保持温度が高かったため、Si濃度差が低下し、初析セメンタイトの最大長さが長くなって伸線時に断線した。
【0088】
次に、試験No.22はC量が多い表1の鋼種Oを用いたため、初析セメンタイトの最大長さが長くなって伸線中に断線した。
【0089】
試験No.23はSi量が少ない表1の鋼種Pを用いたため、Si濃度差が小さく、初析セメンタイトの最大長さが長くなって伸線時に断線した。