特許第6795350号(P6795350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795350塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いたラップフィルム、及び当該樹脂フィルムの製造方法
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  • 特許6795350-塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いたラップフィルム、及び当該樹脂フィルムの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795350
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いたラップフィルム、及び当該樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/08 20060101AFI20201119BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20201119BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C08F214/08
   C08J5/18CEV
   B65D65/02 E
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-155463(P2016-155463)
(22)【出願日】2016年8月8日
(65)【公開番号】特開2018-24720(P2018-24720A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】榎本 整
(72)【発明者】
【氏名】増田 健一
(72)【発明者】
【氏名】細田 友則
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−125561(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/054413(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/029594(WO,A1)
【文献】 特公昭43−014227(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/08
B65D 65/02
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を含有する塩化ビニリデン系樹脂フィルムであって、前記共重合体において、塩化ビニリデン由来の構成単位1個と塩化ビニル由来の構成単位1個とが連続する二連子部位のモル分率が、全構成単位に対し、25.3モル%以上26.5モル%以下であり、前記共重合体において、塩化ビニル由来の構成単位2個が連続する二連子部位のモル分率が、全構成単位に対し、2.5モル%以上3.5モル%以下であり、塩化ビニリデン由来の構成単位1個と塩化ビニル由来の構成単位1個とが連続する二連子部位のモル分率及び塩化ビニル由来の構成単位2個が連続する二連子部位のモル分率は、以下の通り、NMRによる測定結果に基づき、算出される樹脂フィルム。
前記樹脂フィルム1gを採取し、THFを50ml加え、50℃で溶解させる;その後、メタノール300mLを徐々に加え、再沈殿させる;再沈殿物を濾過・乾燥し、再沈殿物を精製する;精製した再沈殿物を35mg採取し、試験管に入れ、測定溶媒である重水素化THFを0.75ml加え均一に溶解させる;溶液を0.35ml採取し、高分解能プロトン核磁気共鳴装置にてNMR測定を行う;間隔時間5秒、積算回数128回という条件で測定を行い、テトラメチルシランのシグナルを基準とした化学シフトを横軸としたスペクトルを得る;
以下、塩化ビニリデン由来の構成単位(−CH−CCl−)をA、塩化ビニル由来の構成単位(−CH−CHCl−)をBと表記し、スペクトル上に得られたシグナル1、2、及び3を以下の通り帰属する:
・シグナル1(約5.2〜4.5ppm)をBのCHシグナル(塩化ビニル由来の構成単位のメチン(CH)基)に帰属する;
・シグナル2(約4.2〜3.8ppm)をAAの片方のAのCHシグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH)基)に帰属する;
・シグナル3(約3.5〜2.8ppm)をAB及びBA両方のAのCHシグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH)基)に帰属する;
これらのシグナルのスペクトル面積値(NMRスペクトルにおけるシグナルの面積)から、構成単位又は二連子部位のモル分率を求める;なお、各モル分率を以下の通り表記する:
・Aのモル分率(モル%):P(A)
・Bのモル分率(モル%):P(B)
・AA(塩化ビニリデン由来の構成単位2個が連続する二連子部位)のモル分率(モル%):P(AA)
・AB(塩化ビニリデン由来の構成単位1個と塩化ビニル由来の構成単位1個とが連続する二連子部位)のモル分率(モル%):P(AB)
・BA(塩化ビニル由来の構成単位1個と塩化ビニリデン由来の構成単位1個とが連続する二連子部位)のモル分率(モル%):P(BA)
・BB(塩化ビニル由来の構成単位2個が連続する二連子部位)のモル分率(モル%):P(BB)
上記の通り帰属したシグナル1、2、及び3の面積値(NMRスペクトルにおけるピークの面積)から、上記スペクトル上のシグナルの積分値を以下の通りに割り当てる:
・シグナル1(約5.2〜4.5ppm)の積分値をBのH1個分
・シグナル2(約4.2〜3.8ppm)の積分値をAのH2個分
・シグナル3(約3.5〜2.8ppm)の積分値をAのH4個分
下記の式が成り立つのを用いて、各モル分率を計算する;
・P(A) + P(B) = 100
・P(AA) + P(BB) + P(AB) + P(BA) = 100
・P(AB) = P(BA)
・P(A) = P(AA) + P(AB)
・P(B) = P(BB) + P(BA)
P(A)及びP(B)を次式(数3)により求める;
(数3)
P(B):P(A) =シグナル1の積分値:(シグナル2の積分値+シグナル3の積分値/2)/2
P(A)=100−P(B)
P(AA)及びP(BB)を(数4)及び(数5)により求める;
(数4)
P(AA):P(AB)=シグナル2の積分値:シグナル3の積分値/2
P(AB)=P(A)−P(AA)
(数5)
P(BB)=100−P(AA)−P(AB)−P(BA)
【請求項2】
前記共重合体において、分子量2万以下の分子鎖の割合が7.9質量%以上10.0質量%以下である請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂フィルムからなるラップフィルム。
【請求項4】
塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法であって、前記方法は、塩化ビニリデンと塩化ビニルとを重合させて塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を得る重合工程と、前記共重合体を成形する成形工程とを含み、
前記重合工程において、40℃以上46℃以下の重合初期温度で重合を開始し、次いで、下式(1):
T=at+bt (1)
(式中、tは時間(単位:時間)を表し、Tは重合温度と重合初期温度との差(単位:℃)を表し、aは0.0150以上0.0300以下の数を表し、bは0.1200以上0.2500以下の数を表す。)
で表される昇温条件で昇温しながら重合を行い、次いで、3〜6時間、57℃以上65℃以下の重合後期温度で重合を行う方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いたラップフィルム、及び当該樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、産業資材等の包装に使用されるラップフィルムは、包装体内の気密性を高められるよう、ラップフィルム自身が密着性に優れることが求められる。従来、密着性の向上を意図したラップフィルムが公知である。このようなラップフィルムとしては、例えば、特許文献1〜3に記載のフィルムが挙げられる。特許文献1には、熱可塑性樹脂、粘着剤、及び粘着付与剤からなる組成物において、粘着剤、粘着付与剤が熱可塑性樹脂に非相溶で、少なくとも粘着付与剤が常温で液状であり、熱可塑性樹脂100重量部、粘着剤、及び粘着付与剤をそれぞれ0.01〜3重量部以下含む樹脂組成物からなる粘着性フィルムが記載されている。特許文献2には、エポキシ化植物油と(1)1種以上のグリセリン脂肪酸エステルと(2)脂肪族二塩基酸エステルとを含有する塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって、前記(1)と前記(2)の合計含有量が3重量%以上であり、かつ前記(2)の含有量が0.05〜0.5重量%であることを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムが記載されている。特許文献3には、1種以上のプロピレングリコール脂肪酸エステルを0.2〜10重量%含有することを特徴とする塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−324809号公報
【特許文献2】特開平11−199736号公報
【特許文献3】特開平11−12422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のラップフィルムは、添加剤による密着性の改良効果を狙っているが、その効果は必ずしも十分ではなく、更なる改良が求められている。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、密着性に優れる塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いたラップフィルム、及び当該樹脂フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、塩化ビニリデン系樹脂フィルムを特定の分子組成で構成することで、密着力が従来よりも大幅に改善されたラップフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の第一の態様は、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を含有する塩化ビニリデン系樹脂フィルムであって、前記共重合体において、塩化ビニリデン由来の構成単位1個と塩化ビニル由来の構成単位1個とが連続する二連子部位のモル分率が、全構成単位に対し、25.3モル%以上26.5モル%以下である樹脂フィルムである。
【0008】
本発明の第二の態様は、上記樹脂フィルムからなるラップフィルムである。
【0009】
本発明の第三の態様は、塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法であって、前記方法は、塩化ビニリデンと塩化ビニルとを重合させて塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を得る重合工程と、前記共重合体を成形する成形工程とを含み、
前記重合工程において、40℃以上46℃以下の重合初期温度で重合を開始し、次いで、下式(1):
T=at+bt (1)
(式中、tは時間(単位:時間)を表し、Tは重合温度と重合初期温度との差(単位:℃)を表し、aは0.0150以上0.0300以下の数を表し、bは0.1200以上0.2500以下の数を表す。)
で表される昇温条件で昇温しながら重合を行い、次いで、57℃以上65℃以下の重合後期温度で重合を行う方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、密着性に優れる塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いたラップフィルム、及び当該樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例及び比較例における重合温度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<塩化ビニリデン系樹脂フィルム>
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を含有し、前記共重合体において、塩化ビニリデン由来の構成単位1個と塩化ビニル由来の構成単位1個とが連続する二連子部位のモル分率が、全構成単位に対し、25.3モル%以上26.5モル%以下である。上記樹脂フィルムは、上記の構成をとることにより、密着性に優れる。
【0013】
[塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体]
塩化ビニリデン系樹脂フィルムを形成している塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体(以下、単に「共重合体」ともいう。)は、塩化ビニリデン由来の構成単位と塩化ビニル由来の構成単位とを含有する。上記共重合体は、例えば、塩化ビニリデン60〜98質量%及び塩化ビニル2〜40質量%、好ましくは塩化ビニリデン70〜95質量%及び塩化ビニル5〜30質量%、より好ましくは塩化ビニリデン80〜90質量%及び塩化ビニル10〜20質量%を懸濁重合又は乳化重合して製造される。上記共重合体は、例えば、塩化ビニリデン由来の構成単位60〜98質量%と塩化ビニル由来の構成単位2〜40質量とからなり、フィルム成形時の押出加工性と得られたフィルムのガスバリア性とのバランスが良好となりやすい点で、塩化ビニリデン由来の構成単位70〜95質量%と塩化ビニル由来の構成単位5〜30質量とからなることが好ましく、塩化ビニリデン由来の構成単位80〜90質量%と塩化ビニル由来の構成単位10〜20質量とからなることがより好ましい。
【0014】
上記共重合体において、塩化ビニリデン由来の構成単位1個と塩化ビニル由来の構成単位1個とが連続する二連子部位のモル分率は、全構成単位に対し、例えば、25.3モル%以上26.5モル%以下であり、25.6モル%以上26.2モル%以下であることが好ましく、25.9モル%以上26.1モル%以下であることがより好ましい。上記モル分率が上記範囲内であると、得られるフィルムの密着性が向上しやすい。なお、本明細書において、二連子部位のモル分率とは、実施例において詳述する通り、上記フィルムに対するNMR測定の結果に基づき算出される値をいう。
【0015】
上記共重合体において、塩化ビニル由来の構成単位2個が連続する二連子部位のモル分率は、全構成単位に対し、2.5モル%以上3.5モル%以下であることが好ましく、2.5モル%以上3.0モル%以下であることがより好ましく、2.6モル%以上2.9モル%以下であることが更により好ましい。上記モル分率が上記範囲内であると、得られるフィルムの密着性が更に向上しやすい。
【0016】
上記共重合体において、分子量2万以下の分子鎖の割合は、7.9質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、7.9質量%以上9.8質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以上9.7質量%以下であることが更により好ましい。上記割合が上記範囲内であると、得られるフィルムの密着性が更に向上しやすい。なお、本明細書において、分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定されたポリスチレン換算の分子量をいう。
【0017】
[添加剤]
塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、更に種々の添加剤を含有することができる。添加剤としては、有機物質(重合体でもよい)及び無機物質のいずれをも使用することができる。添加剤としては、例えば、可塑剤、安定剤、界面活性剤、及び滑剤等が挙げられる。添加剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
(可塑剤)
可塑剤としては、ジオクチルフタレート、アセチルクエン酸トリブチル、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、アセチル化モノグリセリド(例えば、ジアセチルモノラウリルグリセリド)、アセチル化ジグリセリド、アセチル化トリグリセリド等が挙げられる。可塑剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
(安定剤)
安定剤としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化油;アルキルエステルのアミド誘導体、水酸化マグネシウム、ピロリン酸四ナトリウム等のその他の安定剤が挙げられる。安定剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0021】
(滑剤)
滑剤としては、例えば、二酸化珪素、ゼオライト、炭酸カルシウム等の無機滑剤;飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、置換アミド、及びチオエーテル系化合物等の有機滑剤等が挙げられる。滑剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、ブチルアミド、吉草酸アミド、カプロン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘニン酸アミド等が挙げられる。不飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられる。置換アミドとしては、例えば、N−オレイルパルチミン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド等が挙げられる。チオエーテル系化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−オクタデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)等が挙げられる。
【0023】
添加剤の含有量としては、添加剤が可塑剤等の液体添加剤である場合には、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体100質量部に対して0.05〜15質量部の範囲であることが好ましく、0.5〜10質量部の範囲であることがより好ましく、1.0〜9.0質量部の範囲であることが更により好ましい。特に液体添加剤の配合割合の上限が上記範囲内であれば、ブリードアウトによるベタツキを効果的に抑えることができる。また、添加剤が界面活性剤及び滑剤等の粉体添加剤である場合には、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体100質量部に対して0.1〜15質量部の範囲であることが好ましく、0.5〜10質量部の範囲であることがより好ましく、1.0〜9.0質量部の範囲であることが更により好ましい。
【0024】
<塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法>
本発明に係る、塩化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法は、塩化ビニリデンと塩化ビニルとを重合させて塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を得る重合工程と、前記共重合体を成形する成形工程とを含む。
【0025】
重合工程において、重合方法としては、例えば、不均一系重合法である懸濁重合法及び乳化重合法が挙げられ、作業性、生産性、省資源性、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体の純度等の点で、懸濁重合法が好ましい。重合工程では、40℃以上46℃以下の重合初期温度で重合を開始し、次いで、下式(1):
T=at+bt (1)
(式中、tは時間(単位:時間)を表し、Tは重合温度と重合初期温度との差(単位:℃)を表し、aは0.0150以上0.0300以下の数を表し、bは0.1200以上0.2500以下の数を表す。)
で表される昇温条件で昇温しながら重合を行い、次いで、57℃以上65℃以下の重合後期温度で重合を行う。重合初期温度は、好ましくは41℃以上46℃以下、より好ましくは43℃以上45℃以下である。式(1)におけるaは、好ましくは0.0190以上0.0285以下の数、より好ましくは0.0216以上0.0274以下の数を表す。式(1)におけるbは、好ましくは0.1500以上0.2350以下の数、より好ましくは0.1764以上0.2234以下の数を表す。重合後期温度は、好ましくは59℃以上64℃以下、より好ましくは61℃以上63℃以下、特に好ましくは62℃である。重合初期温度、式(1)におけるa及びb、並びに重合後期温度が上記範囲内であると、得られるフィルムの密着性が向上しやすい。
【0026】
成形工程において、成形方法としては、例えば、溶融押出法、溶液流延法、及びカレンダー法等が挙げられ、作業性、生産性、省資源性、樹脂フィルムの特性等の点で、溶融押出法が好ましい。溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられ、インフレーション法が好ましい。インフレーション法では、必要な設備そのものが簡易であり、小さな金型から幅の広いフィルムを製造できる。
【0027】
<ラップフィルム>
本発明に係るラップフィルムは、本発明に係る樹脂フィルムからなる。当該ラップフィルムは、当該樹脂フィルムと同様、密着性に優れる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
重合するモノマーとして、塩化ビニリデンと塩化ビニルとを82:18の質量比で含む混合物を用いた。この混合物100質量部に、添加剤として、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)2.5質量部、ジアセチルモノラウリルグリセリド(DALG)3.0質量部、及びエポキシ化大豆油(ESBO)2.8質量部の合計8.3質量部を加えて混合した。重合初期温度45℃で重合を開始し、次いで、時間(t:時間)と、重合温度と重合初期温度との差(T:℃)の関係が、下式(1a):
T=0.0274t+0.2234t (1a)
で表される昇温条件で昇温しながら重合を行い、次いで、重合後期温度62℃で6時間一定温度とし懸濁重合を行って、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を得た。全重合時間は27時間とした。次いで、φ40の単軸押出機に前記共重合体を供給し、樹脂温度約170℃で環状に溶融押出し、温度10℃の冷却槽で急冷した後、温度25℃の温浴槽で温め、28℃にてMD4.0倍、TD4.8倍のインフレーション二軸延伸を行い、その後MD方向に緩和を7%取り、厚み15μmのラップフィルムを作製した。
【0030】
[実施例2]
重合するモノマーとして、塩化ビニリデンと塩化ビニルとを82:18の質量比で含む混合物を用いた。この混合物100質量部に、添加剤として、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)2.5質量部、ジアセチルモノラウリルグリセリド(DALG)3.0質量部、及びエポキシ化大豆油(ESBO)2.8質量部の合計8.3質量部を加えて混合した。重合初期温度45℃で重合を開始し、次いで、時間(t:時間)と、重合温度と重合初期温度との差(T:℃)の関係が、下式(1b):
T=0.0216t+0.1764t (1b)
で表される昇温条件で昇温しながら重合を行い、次いで、重合後期温度62℃で3時間一定温度とし懸濁重合を行って、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を得た。全重合時間は27時間とした。次いで、φ40の単軸押出機に前記共重合体を供給し、樹脂温度約170℃で環状に溶融押出し、温度10℃の冷却槽で急冷した後、温度25℃の温浴槽で温め、28℃にてMD4.0倍、TD4.7倍のインフレーション二軸延伸を行い、その後MD方向に緩和を7%取り、厚み15μmのラップフィルムを作製した。
【0031】
[実施例3]
重合するモノマーとして、塩化ビニリデンと塩化ビニルとを82:18の質量比で含む混合物を用いた。この混合物100質量部に、添加剤として、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)2.5質量部、ジアセチルモノラウリルグリセリド(DALG)3.0質量部、及びエポキシ化大豆油(ESBO)2.8質量部の合計8.3質量部を加えて混合した。重合初期温度43℃で重合を開始し、次いで、時間(t:時間)と、重合温度と重合初期温度との差(T:℃)の関係が、下式(1c):
T=0.0274t2+0.2234t (1c)
で表される昇温条件で昇温しながら重合を行い、次いで、重合後期温度62℃で3時間一定温度とし懸濁重合を行って、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を得た。全重合時間は27時間とした。次いで、φ40の単軸押出機に前記共重合体を供給し、樹脂温度約170℃で環状に溶融押出し、温度10℃の冷却槽で急冷した後、温度25℃の温浴槽で温め、28℃にてMD4.0倍、TD4.8倍のインフレーション二軸延伸を行い、その後MD方向に緩和を7%取り、厚み15μmのラップフィルムを作製した。
【0032】
[比較例1]
重合するモノマーとして、塩化ビニリデンと塩化ビニルとを82:18の質量比で含む混合物を用いた。この混合物100質量部に、添加剤として、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)2.5質量部、ジアセチルモノラウリルグリセリド(DALG)3.0質量部、及びエポキシ化大豆油(ESBO)2.8質量部の合計8.3質量部を加えて混合した。重合初期温度47℃で重合を開始し、次いで、時間(t:時間)と、重合温度と重合初期温度との差(T:℃)の関係が、下式(2):
T=0.0144t+0.1176t (2)
で表される昇温条件で昇温しながら重合を行い、次いで、重合後期温度56.5℃で2時間一定温度とし懸濁重合を行って、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を得た。全重合時間は27時間とした。次いで、φ40の単軸押出機に前記共重合体を供給し、樹脂温度約170℃で環状に溶融押出し、温度10℃の冷却槽で急冷した後、温度25℃の温浴槽で温め、28℃にてMD4.0倍、TD4.5倍のインフレーション二軸延伸を行い、その後MD方向に緩和を7%取り、厚み15μmのラップフィルムを作製した。
【0033】
[二連子部位の比測定]
作製したフィルムについて、塩化ビニリデン由来の構成単位1個と塩化ビニル由来の構成単位1個とが連続する二連子部位の割合、及び、塩化ビニル由来の構成単位2個が連続する二連子部位の割合を、NMRによる測定結果に基づき、モル分率として算出した。
【0034】
フィルム1gを採取し、THFを50ml加え、50℃で溶解させた。その後、メタノール300mLを徐々に加え、再沈殿させた。再沈殿物を濾過・乾燥し、再沈殿物を精製した。精製した再沈殿物を35mg採取し、試験管に入れ、測定溶媒である重水素化THFを0.75ml加え均一に溶解させた。溶液を0.35ml採取し、高分解能プロトン核磁気共鳴装置(株式会社JEOL RESONANCE製「FT−NMR JNM−EX270」)にてNMR測定を行った。間隔時間5秒、積算回数128回という条件で測定を行い、テトラメチルシランのシグナルを基準とした化学シフトを横軸としたスペクトルを得た。
【0035】
以下、塩化ビニリデン由来の構成単位(−CH−CCl−)をA、塩化ビニル由来の構成単位(−CH−CHCl−)をBと表記し、スペクトル上に得られたシグナル1、2、及び3を以下の通り帰属した。
・シグナル1(約5.2〜4.5ppm)をBのCHシグナル(塩化ビニル由来の構成単位のメチン(CH)基)に帰属した。
・シグナル2(約4.2〜3.8ppm)をAAの片方のAのCHシグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH)基)に帰属した。
・シグナル3(約3.5〜2.8ppm)をAB及びBA両方のAのCHシグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH)基)に帰属した。
【0036】
これらのシグナルのスペクトル面積値(NMRスペクトルにおけるシグナルの面積)から、構成単位又は二連子部位のモル分率を求めた。なお、各モル分率を以下の通り表記する。
・Aのモル分率(モル%):P(A)
・Bのモル分率(モル%):P(B)
・AA(塩化ビニリデン由来の構成単位2個が連続する二連子部位)のモル分率(モル%):P(AA)
・AB(塩化ビニリデン由来の構成単位1個と塩化ビニル由来の構成単位1個とが連続する二連子部位)のモル分率(モル%):P(AB)
・BB(塩化ビニル由来の構成単位2個が連続する二連子部位)のモル分率(モル%):P(BB)
【0037】
上記の通り帰属したシグナル1、2、及び3の面積値(NMRスペクトルにおけるピークの面積)から、上記スペクトル上のシグナルの積分値を以下の通りに割り当てた。
・シグナル1(約5.2〜4.5ppm)の積分値をBのH1個分
・シグナル2(約4.2〜3.8ppm)の積分値をAのH2個分
・シグナル3(約3.5〜2.8ppm)の積分値をAのH4個分
【0038】
下記の式が成り立つのを用いて、各モル分率を計算した。
・P(A) + P(B) = 100
・P(AA) + P(BB) + P(AB) + P(BA) = 100
・P(AB) = P(BA)
・P(A) = P(AA) + P(AB)
・P(B) = P(BB) + P(BA)
【0039】
P(A)及びP(B)を次式(数3)により求める。
(数3)
P(B):P(A) =シグナル1の積分値:(シグナル2の積分値+シグナル3の積分値/2)/2
P(A)=100−P(B)
【0040】
P(AA)及びP(BB)を(数4)及び(数5)により求める。
(数4)
P(AA):P(AB)=シグナル2の積分値:シグナル3の積分値/2
P(AB)=P(A)−P(AA)
(数5)
P(BB)=100−P(AA)−P(AB)−P(BA)
【0041】
[分子量の測定]
フィルム5gをテトラヒドロフラン300mlに加え、50℃で溶解し、メタノールによりポリマーを析出させ、濾過、乾燥した。この乾燥ポリマー7.5mgをテトラヒドロフラン10mlに加え、50℃で溶解し、室温に冷却後、0.20μmのフィルターで濾過した。濾過液を液体クロマトグラムに注入して、分子量を測定した。測定装置としては、昭和電工株式会社製Shodex GPC−104を使用し、カラムとしては、昭和電工株式会社製LF−404を使用した。上記共重合体の分子量は、分子量既知の単分散ポリスチレンを標準物質として用いて算出した。得られた分子量分布より、2万以下の分子量を持つ分子鎖の割合を計算した。
【0042】
[面剥離強度の測定]
この方法は、食器等の容器や食品にラップフィルムを被せたときのラップフィルム同士の密着力を評価したものである。以下の通りに面剥離強度を測定した。底面積が25cmで質量が300gの円柱を2本用意した。この2つの円柱の底面に、ラップフィルムを皺が入らないように緊張させて固定した。そして、これらのラップフィルム面の相互がぴったり重なり合うように片方の円柱の上にもう1本の円柱を合わせた後、1分間圧着した。所定時間経過後に重なり合わせた円柱に固定されたままのラップフィルム相互を株式会社オリエンテック製引張・圧縮試験機テンシロンRTC−1210Aにて100mm/minの速度で面に垂直な方向に引き離し、このとき生じた最大点応力(N)を面剥離強度とした。測定は、23℃、50%RHの雰囲気中で行った。試験は5回行い、その平均値を測定結果として採用した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
図1