(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795358
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】シール構造および減速機付きモータ
(51)【国際特許分類】
F16H 57/029 20120101AFI20201119BHJP
F16H 1/16 20060101ALI20201119BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20201119BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
F16H57/029
F16H1/16 Z
F16J15/10 A
H02K7/116
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-174357(P2016-174357)
(22)【出願日】2016年9月7日
(65)【公開番号】特開2018-40409(P2018-40409A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】村井 剛史
(72)【発明者】
【氏名】鞍田 純也
【審査官】
増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−108533(JP,A)
【文献】
特開2005−3181(JP,A)
【文献】
特開2003−232445(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/026430(WO,A1)
【文献】
特開平10−246060(JP,A)
【文献】
再公表特許第2010/128606(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/029
F16H 1/16
F16J 15/10
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品を収容するケースの開口部を塞ぐカバーと前記ケースとの間をシール部材によってシールする構造であって、
前記カバーは、前記ケースの前記開口部を形成する周壁の端部に取り付けられるとともに前記カバーの底部と外壁と内壁とにより断面がコの字形状に形成された環状の凹部と、前記底部に貫設されるとともに周方向に互いに離隔した複数の貫通孔と、を備え、
前記シール部材は前記カバーに一体成形されるとともに、前記凹部内において全周に亘って前記底部から突設された凸部と、各々の前記貫通孔に係合することで前記シール部材を前記カバーに固定するアンカー部と、を一体に備え、
前記凹部内における少なくとも複数の前記アンカー部の間には、前記凸部と前記内壁との間の隙間を塞ぐ張出部が設けられ、
前記ケースと前記カバーとの装着状態では、前記凹部の内側に前記周壁の前記端部が位置する
ことを特徴とする、シール構造。
【請求項2】
前記張出部は、アウトサート成形によって前記シール部材と一体に設けられた
ことを特徴とする、請求項1記載のシール構造。
【請求項3】
前記張出部は、前記凹部内において全周に亘って設けられた
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のシール構造。
【請求項4】
前記凸部は、前記装着状態で前記周壁の前記端部によって圧縮変形するように前記底部からの突出量が設定され、
前記張出部は、前記底部からの高さ寸法が、前記凸部の圧縮変形量を逃がす空間を確保するように設定されている
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項5】
前記張出部の前記高さ寸法は、前記凸部の前記突出量の3分の1以上かつ2分の1以下である
ことを特徴とする、請求項4記載のシール構造。
【請求項6】
前記カバーは、外形状が円形であって、前記凹部の周方向に等間隔に配置された6つの前記貫通孔を備え、
前記6つの貫通孔のうち一つ置きに位置する3つの前記貫通孔がゲートとしての機能を有する
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項7】
前記凹部内において前記凸部に対し前記張出部の逆側には、前記ケースの前記周壁における端面が当接する当接面が設けられた
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項8】
前記周壁の前記端部には、前記シール部材が圧着される圧着面が設けられた
ことを特徴とする、請求項1記載のシール構造。
【請求項9】
前記周壁の前記端部には、前記凹部に当接して前記カバーと前記ケースとの軸方向位置を決める端壁が設けられた
ことを特徴とする、請求項8記載のシール構造。
【請求項10】
前記凸部と前記凹部の前記外壁との間の隙間に前記周壁の前記端壁が嵌合している
ことを特徴とする、請求項9記載のシール構造。
【請求項11】
ロータおよびステータを備えたモータ部と、
前記モータ部の回転が伝達されるウォームおよび前記ウォームと噛み合うウォームホイールを備えた減速機構と、を具備し、
前記減速機構を収容するギヤケースと、前記ギヤケースに取り付けられるギヤカバーとのシール部に請求項1〜10のいずれか一つのシール構造が適用された
ことを特徴とする、減速機付きモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品を収容するケースの開口部を塞ぐカバーとそのケースとの間をシールする構造、および、このシール構造が適用された減速機付きモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、部品が内蔵されたケースにカバーを装着して密閉する装置が存在する。この装置では、カバーとケースとの間にパッキンやOリングといったシール部材が挟持されることで、外部からの異物の混入や水分の浸入を防止している。例えば特許文献1には、モータ部の回転を減速する減速機を収容するギヤ収容部(ケース)と、このギヤ収容部の開口部側を覆うカバーとの間にパッキンを挟持した減速機付きモータが開示されている。このモータでは、ギヤ収容部の開口部側の外周縁部にパッキン(シール部材)が装着されたのち、カバーが装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−229724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ケースとカバーとの間をシールして組み立てる工程を自動機によって自動で行う場合には、カバーとシール部材とを一体化することで、各々別部材としてではなく1つの部材として取り扱うことが可能となり組立性が向上することから、部品点数を減らすことが望ましい。これらを一体化する方法としては、例えばカバーに対してシール部材をアウトサート成形する方法が考えられる。この方法の一例を、
図6(a)〜(c)を用いて説明する。
図6(a)はアウトサート成形後のカバーの裏面を示す平面図であり、
図6(b)および(c)のそれぞれは、アウトサート成形時における
図6(a)のB−B矢視断面図およびC−C矢視断面図である。
【0005】
図6(a)〜(c)に示すように、カバー2の外周部には、ケースの開口部を形成する周壁に被せる凹部20が設けられる。この凹部20には、周方向に複数の(図では6つの)貫通孔21が設けられる。これらの貫通孔21のうちの数箇所(例えば一つ置きに3つ)は、樹脂を流し込むためのゲート7として機能する。
図6(b)および(c)に示すように、カバー2の凹部20には、その外面20fと内面20gとのそれぞれに、シール部材9を成形するための上型5および下型6が配置される。
【0006】
上型5には、各貫通孔21と同軸上に、貫通孔21の直径よりも大きな直径を持つ円盤状のキャビティ5a(以下「第一キャビティ5a」という)が設けられる。下型6には、第一キャビティ5aよりも大きな深さを持ち、凹部20内の径方向中心〔
図6(a)中の二点鎖線上〕に沿った円環状のキャビティ6a(以下「第二キャビティ6a」という)が設けられる。
【0007】
複数のゲート7のそれぞれから樹脂が供給されると、
図6(b)に示すように、ゲート7と連続した第一キャビティ5aに樹脂が充満するとともに、貫通孔21を通じて第二キャビティ6aにも樹脂が充満する。さらに
図6(c)に示すように、第二キャビティ6aからゲート7に隣り合う貫通孔21を通じて第一キャビティ5aにも樹脂が充満する。第一キャビティ5aおよび貫通孔21内で固まった樹脂は、シール部材9をカバー2に固定するためのアンカー部91として機能する。一方、第二キャビティ6aで固まった樹脂は、ケースに対して圧着される凸状の部位(凸部90)となる。
【0008】
ところで、アウトサート成形では、上型5および下型6が樹脂を充満させたのち完全に固まる前に外される。そのため、第二キャビティ6aに充満した樹脂(すなわち凸部90)は、
図6(a)に示すように、隣接するアンカー部91の間において径方向位置が安定せず、周方向で歪んでしまうという課題があった。これは、樹脂が固まる過程で凸部90が径方向内側に収縮しようとするのに対し、凸部90の径方向位置がアンカー部91の部分でしか規制されていないことに起因する。シール部材9が周方向で歪んでしまうと、ケース側に設けられた圧着面に対して適切に密着することができず、シール性能の低下が懸念される。なお、このような課題は、モータ関連部品(例えば上記の特許文献1に記載の減速機)以外の部品を収容するケースを塞ぐカバーに対し、シール部材を一体成形するときにも生じうる。
【0009】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、ケースとカバーとの間をシール部材によってシールする構造に関し、シール性能を向上させることを目的の一つとする。また、シール性能を向上させつつケースとカバーとの組立工程を自動で行うことができるようにした、減速機付きのモータを提供することも目的の一つとする。なお、これらの目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)ここで開示するシール構造は、部品を収容するケースの開口部を塞ぐカバーと前記ケースとの間をシール部材によってシールする構造であって、前記カバーは、前記ケースの前記開口部を形成する周壁の端部に取り付けられる
とともに前記カバーの底部と外壁と内壁とにより断面がコの字形状に形成された環状の凹部と、前記凹部の底部に貫設されるとともに周方向に互いに離隔した複数の貫通孔と、を備え、前記シール部材は前記カバーに一体成形されるとともに、前記凹部内において全周に亘って前記底部から突設された凸部と、各々の前記貫通孔に係合することで前記シール部材を前記カバーに固定するアンカー部と、を一体に備え、前記凹部内における少なくとも複数の前記アンカー部の間には、前記凸部と前
記内壁との間の隙間を塞ぐ張出部が設けられ
、前記ケースと前記カバーとの装着状態では、前記凹部の内側に前記周壁の前記端部が位置することを特徴としている。
【0011】
(2)前記張出部は、アウトサート成形によって前記シール部材と一体に設けられていることが好ましい。
(3)前記張出部は、前記凹部内において全周に亘って設けられていることが好ましい。
(4)前記凸部は、前
記装着状態で前記周壁の前記端部によって圧縮変形するように前記底部からの突出量が設定されていることが好ましい。この場合、前記張出部は、前記底部からの高さ寸法が、前記凸部の圧縮変形量を逃がす空間を確保するように設定されていることが好ましい。
【0012】
(5)前記張出部の前記高さ寸法は、前記凸部の前記突出量の3分の1以上かつ2分の1以下であることが好ましい。
(6)前記カバーは、外形状が円形であって、前記凹部の周方向に等間隔に配置された6つの前記貫通孔を備えていることが好ましい。この場合、前記6つの貫通孔のうち一つ置きに位置する3つの前記貫通孔がゲートとしての機能を有することが好ましい。
(7)前記凹部内において前記凸部に対し前記張出部の逆側には、前記ケースの前記周壁における端面が当接する当接面が設けられていることが好ましい。
(8)前記周壁の前記端部には、前記シール部材が圧着される圧着面が設けられていることが好ましい。
(9)前記周壁の前記端部には、前記凹部に当接して前記カバーと前記ケースとの軸方向位置を決める端壁が設けられていることが好ましい。
(10)前記凸部と前記凹部の前記外壁との間の隙間に前記周壁の前記端壁が嵌合していることが好ましい。
【0013】
(
11)ここで開示する減速機付きモータは、ロータおよびステータを備えたモータ部と、前記モータ部の回転が伝達されるウォームおよび前記ウォームと噛み合うウォームホイールを備えた減速機構と、を具備し、前記減速機構を収容するギヤケースと、前記ギヤケースに取り付けられるギヤカバーとのシール部に上記の(1)〜(
10)のいずれか一つのシール構造が適用されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
開示のシール構造によれば、凸部と凹部の内壁との間の隙間を塞ぐ張出部が、少なくともアンカー部の間に設けられるため、隣接するアンカー部間における凸部の径方向位置を安定させることができる。これにより、凸部の周方向における歪みを防ぐことができるため、シール性能を向上させることができる。
また、開示の減速機付きモータによれば、シール性能を向上させることができる。さらに、カバーとシール部材とを一体化することで部品点数が減るため、自動機による組立性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る減速機付きモータの平面図である。
【
図3】
図1に示すモータのギヤケースを開口部側から見た斜視図である。
【
図4】
図3に示すギヤケースに装着されるギヤカバーの斜視図である。
【
図5】
図4に示すギヤカバーの裏面側の一部を拡大して示す断面斜視図である。
【
図6】課題を説明するための図であり、(a)はシール部材の成形後のギヤカバーの裏面を示す平面図,(b)はシール部材の成形時における
図6(a)のB−B矢視断面図,(c)はシール部材の成形時における
図6(a)のC−C矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、実施形態としてのシール構造について、減速機付きモータに適用された例を挙げて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0017】
[1.構成]
[1−1.減速機付きモータ]
図1は、本実施形態に係る減速機付きモータ1(以下「モータ1」という)の平面図であり、
図2は
図1のA−A矢視断面図である。本実施形態では、車両のパワーウィンドウシステムに適用されるモータ1を例示する。
図1および
図2に示すように、モータ1は、出力を発生させるモータ部10と、モータ部10の回転を減速させる減速機構13とを備える。
【0018】
モータ部10は、例えばブラシ付きDCモータであって、ハウジング11に内蔵されたロータおよびステータ(何れも図示略)を有する。モータ部10のシャフト12は、一端がハウジング11に軸支され、他端がハウジング11に結合されたギヤケース4内に延設される。なお、ハウジング11は有底筒状をなし、図示しない開口部の周囲に設けられたフランジ部11aがギヤケース4の締結部47(
図3参照)に締結されることでギヤケース4に結合される。
【0019】
ギヤケース4(ケース)は、減速機構13(部品)を収容するケーシングであり、二つの収容部41,42を有する。減速機構13は、モータ部10の回転が伝達されるウォーム13Aと、ウォーム13Aと噛み合う歯部を持つウォームホイール13Bとを有する。ウォーム13Aは、シャフト12の他端に固定されてシャフト12と一体回転する歯車である。ウォームホイール13Bは、ウォーム13Aと噛み合う歯車である。
【0020】
本実施形態のウォームホイール13Bには、出力ギヤ14が一体に設けられる。出力ギヤ14は、被駆動部材(図示略)に設けられたギヤと噛み合って被駆動部材を駆動するものであり、ウォームホイール13Bと同軸上に配置される。被駆動部材としては、例えばウィンドウレギュレータが挙げられる。モータ1は、シャフト12の回転を減速機構13によって減速することでモータ部10の出力を増幅し、高出力化した回転駆動力を出力ギヤ14から出力する。本実施形態のモータ1では、ウォームホイール13Bと出力ギヤ14との間に段差部15がこれらと一体で設けられる。段差部15にはOリング16が装着される。なお、モータ1の構成は一例であって、ウォームホイール13Bと出力ギヤ14とが別体で設けられていてもよい。
【0021】
ギヤケース4の一方の収容部41にはウォーム13Aが収容され、他方の収容部42にはウォームホイール13Bが収容される。以下、前者を第一収容部41と呼び、後者を第二収容部42と呼ぶ。
図1〜
図3に示すように、第二収容部42は有底円筒状をなし、周壁43によって円形状の開口部40が形成される。第二収容部42の周壁43の外側には、第一収容部41が隣接配置される。
【0022】
第一収容部41と第二収容部42とは、第二収容部42の周壁43の一部に貫設された連通口44を介して連通している。連通口44は、ウォーム13Aの一部を第二収容部42内に突出させるための孔部であり、連通口44によって第二収容部42内でウォーム13Aとウォームホイール13Bの歯部とが噛合する。また、第二収容部42の下面部45には、周壁43よりも高さ寸法が大きな支持軸46が立設される。支持軸46には、ウォームホイール13Bおよび出力ギヤ14が回転自在に支持される。
【0023】
ギヤケース4の開口部40には、パッキン3(シール部材)が一体成形されたギヤカバー2(カバー)が装着される。
図4にも示すように、ギヤカバー2は外形状が円形とされ、その中心部と外周部とが径方向中間部よりも一段高くなるように屈曲形成される。ギヤカバー2の中心部には円形状の出力孔22が貫設されるとともに、出力孔22の直径よりも大きな内径を持つ円筒状の縦壁23が立設される。出力孔22は、支持軸46および出力ギヤ14を外部へ突出させる開口である。また、縦壁23は、段差部15との間にOリング16を挟持してギヤカバー2の中心部側をシールするための部分である。
【0024】
ギヤカバー2の外周部には、周壁43に取り付けられる凹部20が設けられる。凹部20は、ギヤカバー2の外周部側をシールするためのパッキン3が設けられる円環状の部位である。以下、ギヤケース4の第二収容部42とギヤカバー2の外周部とのシール構造について詳述する。なお、以下の説明では、支持軸46の先端側を上方とし、その逆(下面部45側)を下方として説明する。
【0025】
[1−2.シール構造]
図5は、
図4に示すギヤカバー2の裏面側の一部を拡大して示す断面斜視図である。
図2および
図5に示すように、ギヤカバー2の凹部20は、径方向の断面形状が下方に開放したコ字状となるように形成される。凹部20は、円環状の底部20aと、いずれも円筒状の外壁20bおよび内壁20cとによって形成される。
【0026】
なお、
図2に示すようにギヤカバー2がギヤケース4に装着された状態(以下「装着状態」という)では、底部20aが外壁20bおよび内壁20cの上方に位置する。外壁20bには、軸方向長さが短い部分と長い部分とが設けられる。ギヤカバー2は、外壁20bの軸方向長さが長い部分の下端部20eがかしめられることで、ギヤケース4に固定される。
【0027】
図2および
図3に示すように、周壁43の端部は、外径のみが一回り大きくなるように肉厚に形成される。この端部には、上方を向いた平面状の圧着面43aと、圧着面43aの径方向外側の端部から上方へ立ち上がった端壁43bとが設けられる。圧着面43aはパッキン3が圧着される面であり、端壁43bはギヤカバー2の凹部20に当接してギヤカバー2とギヤケース4との軸方向位置を決める部位である。
【0028】
本実施形態のパッキン3は、アウトサート成形によって凹部20に形成される。
図5に示すように、ギヤカバー2は底部20aに貫設された複数の貫通孔21を有しており、少なくとも一つの貫通孔21が樹脂を流し込むときのゲートとして機能する。複数の貫通孔21は、周方向において互いに離隔して配置される。本実施形態のギヤカバー2は、凹部20の周方向に等間隔に配置された6つの貫通孔21を有し、これらの貫通孔21のうち、一つ置きに位置する3つの貫通孔21がゲートとしての機能を持つ。
【0029】
本実施形態のパッキン3は、ギヤケース4との間をシールするための凸部30と、パッキン3をギヤカバー2に固定するためのアンカー部31と、凸部30の径方向位置を規定するための張出部32とを一体に備える。凸部30は、凹部20内において全周に亘って底部20aから突設された部位であり、先端部における径方向の断面形状が略半円状とされる。凸部30は、装着状態で周壁43の端部によって圧縮変形するように、底部20aからの突出量Pが設定される。すなわち、
図2中の右側に位置する圧縮変形を無視したパッキン3のように、装着状態において、凸部30の先端部と周壁43の端部とが重なるように突出量Pが設定される。なお、装着状態でのパッキン3は、実際には
図2中の左側に示すように、周壁43の圧着面43aに押し付けられて潰れる。
【0030】
図5に示すように、アンカー部31は複数の貫通孔21のそれぞれに係合するものであり、径方向の断面形状がT字状に形成される。本実施形態のアンカー部31は、底部20aの上面(外面)側で固まった円盤状の樹脂と貫通孔21内で固まった樹脂とから構成される。すなわち、
図4に示す6つのアンカー部31の各位置には、図示しない貫通孔21が形成されている。なお、円盤状の樹脂の直径は、貫通孔21の直径よりも大きい。
【0031】
図5に示すように、張出部32は凸部30と凹部20の内壁20cとの間の隙間を塞ぐものであり、凹部20内における少なくとも複数のアンカー部31の間に設けられる。上述したように、アウトサート成形において樹脂を充満したのち、完全に固まる前に型を外すと、凸部30となる樹脂が径方向内側に収縮しようとする。張出部32は、このような収縮力に抗する部分であり、凸部30の径方向位置が本来の位置からずれないようにするためのものである。本実施形態の張出部32は、凸部30と同様に凹部20内において全周に亘って設けられ、底部20aおよび内壁20cの各内面に密着している。
【0032】
張出部32の高さ寸法H(底部20aからの上下方向長さ)は、凸部30の圧縮変形量を逃がす空間を確保するように設定される。パッキン3は、
図2中の左側に示すように、装着状態では凸部30が圧着面43aに圧着されて圧縮変形する。このとき、
図2中の右側に示すように、凸部30の先端部と周壁43の端部とが重なる部分に相当する体積(圧縮変形量)が径方向内側へと逃げるため、この逃げを妨げないような空間が、凸部30の径方向内側には必要となる。このため、上記のように、張出部32の高さ寸法Hは、装着状態での凸部30の圧縮変形を考慮して設定される。なお、張出部32の高さ寸法Hが小さすぎると剛性が不足しうるため、凸部30の突出量Pの3分の1以上かつ2分の1以下に設定される。より好ましくは、
図5に示すように、高さ寸法Hが突出量Pの約半分となるように設定される。
【0033】
凸部30と凹部20の外壁20bとの間には、周壁43の端壁43bが嵌合される隙間が設けられる。言い換えると、凹部20内において凸部30に対し張出部32の逆側(径方向外側)には、周壁43の端面が当接する当接面20dが設けられる。当接面20dは、底部20aの内面のうち、凸部30よりも径方向外側に位置する部分である。ギヤケース4の周壁43の端面が当接面20dに当接することで、ギヤケース4とギヤカバー2との軸方向位置が決まる。また、端壁43bが隙間に嵌合することで、ギヤカバー2の径方向位置も決まる。
【0034】
[2.効果]
(1)上述したシール構造によれば、凸部30と凹部20の内壁20cとの間の隙間を塞ぐ張出部32が、少なくともアンカー部31の間に設けられるため、隣接するアンカー部31間における凸部30の径方向位置を安定させることができる。これにより、凸部30の周方向における歪みを防ぐことができるため、シール性能を向上させることができる。
【0035】
(2)上述したシール構造では、張出部32がパッキン3の一部として設けられる。すなわち、張出部32が、アウトサート成形によって凸部30およびアンカー部31と一体で設けられることから、張出部32を簡単に形成することができ、製造コストを抑制することができる。
(3)また、張出部32が凹部20内において全周に亘って設けられることから、パッキン3の径方向位置をより安定させることができ、シール性能をさらに向上させることができる。
【0036】
(4)上述した張出部32は、底部20aからの高さ寸法Hが、凸部30の圧縮変形量を逃がす空間を確保するように設定されていることから、装着状態における凸部30の逃げを妨げることがない。このため、凸部30の径方向位置を規定しつつシール性能を向上させることができる。
(5)また、張出部32の高さ寸法Hが凸部30の突出量Pの3分の1以上であれば、張出部32の剛性を確保することができ、凸部30の径方向位置を規定することができる。さらに、高さ寸法Hが突出量Pの2分の1以下であれば、凸部30の逃げ空間を確実に確保することができる。
【0037】
(6)上述したように、ギヤカバー2の外形状が円形である場合に、6つの貫通孔21(すなわちアンカー部31)を周方向に等間隔に配置することで、パッキン3をギヤカバー2に対して確実に固定することができる。また、6つの貫通孔21のうち、一つ置きに位置する3つの貫通孔21をゲートとして利用することで、樹脂の流れやすさと歩留まりの向上(スプールやランナーといった通路内で固まる樹脂の量を最小限に抑えること)とを両立することができる。これにより、パッキン3の品質を向上させつつ製造コストを抑制することができる。
【0038】
(7)上述したシール構造では、凹部20内において凸部30に対し張出部32の逆側には、周壁43の端面が当接する当接面20dが設けられることから、ギヤケース4に対するギヤカバー2の軸方向位置を決めることができる。なお、凸部30と凹部20の外壁20bとの間の隙間に周壁43の端壁43bを嵌合させることで、ギヤケース4に対するギヤカバー2の径方向位置も定めることができる。
【0039】
(8)上述したモータ1には、減速機構13を収容するギヤケース4とギヤカバー2とのシール部に上述したシール構造が適用されているため、シール性能を向上させることができる。また、ギヤカバー2とパッキン3とを一体化することで、各々別部材としてではなく1つの部材として取り扱うことが可能となって部品点数が減ることから、モータ1を自動機によって自動で組み立てる場合の組立性を向上させることができる。さらに、パッキンを別体で設ける場合と比べて、上述したシール構造では、パッキンの組立時における位置ずれの懸念がなくなるため、モータ1の品質を向上させることもできる。
【0040】
[3.その他]
上記の実施形態で説明したシール構造は一例であって、上述したものに限られない。
例えば、上述した張出部32は、少なくとも隣接するアンカー部31の間に設けられていればよく、全周に亘って設けられていなくてもよい。また、張出部32は、凸部30と凹部20の内壁20cとの間の隙間を塞ぐものであればよく、パッキン3と別体で設けられていてもよい。パッキン3と別体として張出部を設ける場合、張出部をパッキン3とは異なる材質で形成してもよい。あるいは、ギヤカバー2の形状を工夫して、張出部をギヤカバー2と一体で形成してもよい。なお、張出部32の高さ寸法Hは適宜設定可能である。
【0041】
パッキン3の具体的な形状は上述したものに限られず、例えば凸部30の先端が半円状でなくてもよい。また、アンカー部31は、貫通孔21に係合することでパッキン3をギヤカバー2に対して固定する形状であればよく、上述した形状に限られない。
また、ギヤカバー2の具体的な形状は上述したものに限られない。例えば、貫通孔21(アンカー部31)の個数やゲートの個数は上述したものに限られず、適宜設定可能である。また、ギヤカバー2の外形状はギヤケース4の開口部40の形状に合わせて適宜変更可能である。また、ギヤカバー2をギヤケース4に対して固定する方法もかしめに限られない。
【0042】
上述した実施形態では、モータ1の減速機構13を収容するギヤケース4とギヤカバー2とのシール部に適用されたシール構造を説明したが、上述したシール構造を、このシール部以外のシール部に適用してもよい。例えば、減速機構13を備えていないモータに対して上述したシール構造を適用してもよい。すなわち、ロータおよびステータを収容するハウジング(ケース)と、このハウジングの開口を塞ぐエンドベル(カバー)とのシール部において、エンドベルに凹部と貫通孔とを設けるとともに、凸部およびアンカー部を有するシール部材をエンドベルと一体で設け、さらに張出部を備えたシール構造を形成してもよい。
また、上述したシール構造を、モータ関連部品以外の部品を収容するケースと、このケースの開口部を塞ぐカバーとのシール部に適用してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 モータ(減速機付きモータ)
10 モータ本体
13 減速機構
13A ウォーム
13B ウォームホイール(部品)
2 ギヤカバー(カバー)
20 凹部
20a 底部
20c 内壁
20d 当接面
21 貫通孔
3 パッキン(シール部材)
30 凸部
31 アンカー部
32 張出部
4 ギヤケース(ケース)
40 開口部
43 周壁
P 底部からの突出量
H 底部からの高さ寸法