【文献】
Peter KRINGS et.al,ケイ酸アルミニウム=ナトリウム,油化学,日本,公益社団法人日本油化学会,1980年 9月,Vol.29, No.9,p.699-705
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、中子の造型後、その強度が保たれている時間は比較的短時間であり、例えば、4〜8時間程度であった。つまり、中子の造型後、短期間のうちに使用しなければならなかった。中子の強度が長時間持続しない理由として、中子を造型する上でバインダーとして用いられる水ガラスに原因がある。以下の化学式1に示すように、水ガラスにおける脱水縮合反応は、可逆的である。水ガラスは加熱により脱水縮合しSi−O−Siネットワークを作ることで結合するが、空気中の水分を吸収することで加水分解を引き起こすため、時間が経つと中子の強度が低下してしまう。
【化1】
【0005】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、造型後、強度の高さが長時間持続することにより、長期間使用可能な中子の造型方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる中子の造型方法では、酸化アルミニウムを含む砂から成る骨材と、水ガラスを含むバインダーとの混合物を混練し、骨材からアルミニウムイオンを溶出させる。混練された混合物を金型に充填する。金型に充填された混合物を加熱し、水ガラスのケイ素イオンサイトに骨材から溶出したアルミニウムイオンを置換固溶させると共に、混合物を脱水縮合させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、造型後、強度の高さが長時間持続することにより、長期間使用可能な中子の造型方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、図面は適宜、簡略化されている。
【0010】
(材料について)
中子は、骨材とバインダーとの混合物から成る。
骨材は、酸化アルミニウムを主成分とする砂が好ましい。主成分である酸化アルミニウムが、60%以上含まれるとより好ましい。さらに、骨材は、非晶質状態であることが好ましい。非晶質状態である骨材としては、人工砂が用意しやすいため、砂は、人工砂を用いてもよい。
バインダーは、水ガラスが好ましい。水ガラスに、水、界面活性剤などを混合し、バインダーとして用いてもよい。
【0011】
次に、
図1を参照して、本実施形態にかかる中子の造型方法を説明する。
図1は、中子の造型方法の工程を示すフローチャートである。
まず、
図1に示すように、骨材とバインダーとを混練し、骨材からアルミニウムイオンを溶出させ、バインダー中へと拡散させる(ステップS1)。
次に、混練した骨材とバインダーとを、加熱された金型へ充填する(ステップS2)。
次に、加熱された金型へ充填された、混練した骨材とバインダーとが加熱され、ケイ素イオンサイトに骨材から溶出したアルミニウムイオンが置換固溶し脱水縮合される(ステップS3)。
最後に、完成した中子を型から取り出す(ステップS4)。
【0012】
次に、
図2を参照して、本実施形態にかかる中子の造型方法を詳細に説明する。
図2は、骨材とバインダーとの混練を示す模式図である。
本実施形態では、材料として、酸化アルミニウムを含む人工砂から成る骨材11及び、水ガラスと水と界面活性剤とから成る、バインダー12を用いることができる。
【0013】
図2に示すように、混練釜10の中で、骨材11とバインダー12との混合物を、混練羽根14を回転させることで、混練する。混練は室温で、30秒以上行うことが好ましく、300〜400秒行うことがより好ましい。混練をアルカリ条件下で行うことで、骨材11の表面からアルミニウムイオンが溶出し、バインダー12の中へアルミニウムイオンが拡散する。本実施形態においては、水ガラスが強アルカリ性であるため、液性の調整は不要である。なお、アルミニウムイオンの溶出は、例えばEPMA分析により確認することができる。後述する。
【0014】
ここで、混練された骨材11とバインダー12との混合物を、混練砂13と呼ぶ。混練砂13は金型へ射出され、充填される。金型への充填方法としては、他に、エアーブローなどを用いてもよい。
【0015】
金型内部は、電気ヒーターなどを用いて200〜300℃に加熱されている。そのため、金型へ充填された混練砂13はその熱で加熱される。混練砂13の加熱時間は、30〜120秒であることが好ましく、60〜80秒であることがより好ましい。加熱により、以下の化学式2の破線円部分に示すように、混練砂13中の水ガラスのケイ素イオンサイトに、骨材から溶出したアルミニウムイオンを置換固溶させることで、ケイ素イオンの一部がアルミニウムイオンに置換される。ケイ素イオンとアルミニウムイオンとの間における置換固溶は、例えばFT−IR分析で確認することができる。後述する。
【化2】
【0016】
さらに、上述の通り加熱条件下で置換固溶が生じた混練砂においては、下記の化学式3に示すように、OH基と他のOH基のHとの間で脱水縮合反応が起こる。脱水縮合反応による硬化により、Si−O−Si及びSi−O−Alネットワークが形成され、水ガラスがコンクリートへと変化する。このように、Si−O−Siネットワークのみならず、置換固溶及び脱水縮合反応によってSi−O−Alネットワークが形成されたコンクリートでは、アルミニウムイオンの存在により、従来の水ガラスのみを用いた脱水縮合反応による問題点であった、水分の吸収による加水分解が生じない。したがって、造型した中子は、空気中の水分との反応による劣化が低減できることから、中子の強度が従来より長時間持続するため、長期間に渡る使用が可能となる。
【化3】
【0017】
図3は、中子の抗折強度の測定結果のグラフである。抗折強度とは、曲げに対する強度を示す値である。抗折強度の測定によって、可使時間の判断を行った。ここで可使時間とは、造型後、使用するまでの間、その強度が保たれている時間のことを指す。
抗折強度の測定は、従来製品の、水ガラスにアルミニウムを混練せず造型した中子と、上述のように、水ガラスにアルミニウムを混練し、置換固溶及び脱水縮合反応を経て造型された中子との両方において、行った。抗折強度の測定に使用した中子の造型条件としては、次の通りである。骨材とバインダーとの混練は室温で行われ、混練時間は300秒であった。金型へ充填された混練砂は、280℃で60秒加熱された。ケイ素サイトへのアルミニウムイオンの置換固溶と共に脱水縮合が起こり、本実施例で用いた中子が造型された。
また、本実施例で用いた中子の造型後の保管条件は、温度20℃、湿度95℃の条件であった。
【0018】
グラフの縦軸は抗折強度(MPa)、横軸は経過時間(Hr)を示す。グラフ中の縦の破線は、従来製品の、水ガラスにアルミニウムを混練せず造型した中子の可使時間を示す。水ガラスにアルミニウムを混練せずに造型した中子は、約4〜8時間で崩壊してしまい、それ以降の抗折強度の測定が不可能となった。つまり、従来の中子の造型方法では、前述の通り水ガラス中において加水分解が引き起こされることで、造型後約4〜8時間経過後、中子は使用不可能となる。
【0019】
それに対し、折れ線グラフで示されているデータが、本願発明の測定結果である。上述の造型方法で、水ガラスにアルミニウムが混練され、置換固溶と脱水縮合反応を経て造型された中子は、造型後約48時間経過後も中子が崩壊することなく、抗折強度の測定が可能であった。その後、約72時間において、抗折強度はやや低下した。つまり、本願発明の造型方法で作られた中子は、従来製品の4〜8時間と比較し長時間である、造型後少なくとも約24時間後も、中子として使用が可能となり、可使時間の長い中子を提供することができる。
【0020】
以下に、
図4及び
図5を用いて、骨材から溶出し、水ガラスへと拡散したアルミニウムイオンの検出結果を説明する。
図4は、骨材とバインダーとの混練を示す模式図である。
図4(a)では、
図2と同様、骨材21とバインダー22とを混練し、混練砂23を準備した。ここで、骨材21の表面からアルミニウムイオンが溶出し、バインダー22へ拡散していることを確認するため、EPMA分析(Electron Probe Micro Analysis)を用いて解析を行った。ここでEPMA分析とは、電子線を試料に照射することで試料から発生する、特性X線の波長と強度を検出し、構成元素を分析する方法のことである。縦軸はカウント(count/sec)、横軸は界面からの距離(μm)を示している。
【0021】
図5は、骨材とバインダー層の界面のEPMA分析結果である。EPMA分析は、混練砂23のうち、バインダー22でコーティングされた砂粒24を用いて行った。砂粒24のバインダー層を研磨し、骨材とバインダー層との界面においてEPMA分析を行い、組成を調べた。
図5のグラフ中、中央の破線が、骨材の人工砂とバインダー層との界面を表し、破線より右がバインダー層を示している。バインダー層のうち、楕円で示す部分において、AlKα線を検出した。これにより、骨材からバインダー層へアルミニウムイオンが溶出していることを確認することができた。
【0022】
以下、
図4及び
図6を用いて、アルミニウムイオンの置換固溶について、説明する。
バインダー中の水ガラスのSi−O−Siネットワークにおいて、ケイ素イオンサイトにアルミニウムイオンを置換固溶させると、Si−O−Alネットワークが形成されるため、化学構造の変化が生じる。つまり、分光分析によって、置換固溶による構造変化、すなわち、置換固溶が生じたことを確認することが可能となる。本例では、分光分析として、FT−IR分析(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を用いた。
【0023】
図4は、骨材とバインダーとの混練を示す模式図である。置換固溶を確認するため、次の2種類のサンプルを準備した。
(i)バインダー22のみ(
図4(b)右)
(ii)骨材21とバインダー22を混練した混練砂23(
図4(a)右下)
これらのサンプルをそれぞれ、270℃で加熱処理し、冷却後、FT−IR分析を行った。加熱処理によって、サンプルはそれぞれ、以下に示すネットワーク構造を持つことが予想される。
(i)Si−O−Si(脱水縮合反応による)
(ii)Si−O−Al(骨材より溶出したアルミニウムイオンの、ケイ素イオンサイトへの置換固溶及び脱水縮合反応による)
【0024】
図6は、置換固溶について検証したFT−IR分析結果である。分子内の化学構造が変化すると、振動数が変化するため、FT−IR分析結果にも差異が生じる。ここで、サンプル(i)の吸収ピークが、円で示した1100nm付近、サンプル(ii)の吸収ピークが、円で示した1000nm付近であることに着目する。吸収ピークについて、1100nm付近はSi−O−Siの吸収ピークであり、1000nm付近はSi−O−Alの吸収ピークである。このFT−IR分析結果から、サンプル(ii)では、水ガラス中のケイ素イオンサイトにアルミニウムイオンが置換固溶していることが示された。
【0025】
上述の通り、EPMA測定結果から、骨材とバインダーとの混練により、骨材のアルミニウムイオンがバインダーへと溶出することが示された。さらに、FT−IR分析により、バインダー中の水ガラスのケイ素イオンサイトにアルミニウムイオンが置換固溶していることが示された。これにより、Si−O−Siネットワークのみならず、置換固溶及び脱水縮合反応によってSi−O−Alネットワークが形成されたコンクリートでは、アルミニウムイオンの存在により、従来の水ガラスのみを用いた脱水縮合反応による問題点であった、水分の吸収による加水分解が生じない。したがって、造型した中子は、空気中の水分との反応による劣化が低減できることから、中子造型後、強度の高さが長時間持続することにより、長期間使用可能となる。
【0026】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。