【実施例】
【0025】
以下の実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。本実施例においては、下記各合成例に示す式(1)の化合物を各蛋白質吸着抑制剤の有効成分とした。
【0026】
<式(1)に示す化合物の合成>
合成例1
2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェート(MPC)14.7635g(0.050mol)及び1−デカンチオール9.5893g(0.055mol)をエタノール(EtOH)81.00gに溶解させ、触媒としてジイソプロピルアミン0.2226g(0.0022mol)を加え、室温で24時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、酢酸エチルへの再沈殿操作により、式(1)で示される化合物2−[3−(デシルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=9)の白色粉末を得た。
【0027】
合成例2
1−デカンチオールの代わりに1−ドデカンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(ドデシルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=11)の白色粉末を得た。
【0028】
合成例3
1−デカンチオールの代わりに1−テトラデカンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(テトラデシルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=13)の白色粉末を得た。
【0029】
合成例4
1−デカンチオールの代わりに1−ヘキサデカンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(ヘキサデシルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=15)の白色粉末を得た。
【0030】
比較合成例1
1−デカンチオールの代わりに1−ブタンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(ブチルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=3)の白色粉末を得た。
【0031】
比較合成例2
1−デカンチオールの代わりに1−ヘキサンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(ヘキシルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=5)の白色粉末を得た。
【0032】
比較合成例3
1−デカンチオールの代わりに1−オクタンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(オクチルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=7)の白色粉末を得た。
【0033】
比較合成例4
1−デカンチオールの代わりに1−エイコサンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(エイコサスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=19)の白色粉末を得た。
【0034】
実施例1−1:実施例1−1−1〜1−1−4
<蛋白質吸着抑制剤溶液の調製>
合成例1の化合物をダルベッコリン酸緩衝液(Sigma Aldrich社製、以後、D−PBSと略称する)に5質量%〜0.5質量%(実施例1−1−1〜1−1−4)となるように溶解し、蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。
【0035】
<蛋白質吸着抑制効果の評価>
上記蛋白質吸着抑制剤溶液について、以下のような方法によって、その蛋白質吸着抑制効果を測定した。
Maxisorp(商標) plate(Thermo Fisher Scientific社製ポリスチレン素材プレート)に、蛋白質吸着抑制剤溶液を200μL/well分注し、室温で2時間静置した。2時間後にアスピレーターで溶液を完全に除去し、D−PBSで20000倍希釈したPOD−IgG(ペルオキシターゼ標識免疫グロブリンG、Biorad社製)を100μL/well分注し、室温で1時間静置した。1時間後にPOD−IgG溶液をアスピレーターで完全に除去し、0.05質量%Tween20を含むリン酸緩衝液を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。洗浄後にTMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を100μL/well加え、室温で7分間反応させた。発色反応を1mol/Lの硫酸溶液を50μL/well分注することで停止させ、マイクロプレートリーダーSpectra Max M3(Molecular Device社製)で450nmの吸光度を測定し、吸着した蛋白質を検出した。吸光度が小さいほど蛋白質の吸着が抑制されていることを示す。
蛋白質吸着抑制効果については、一般的に用いられるウシ血清アルブミンを用いた際の吸光度を基準とし、ウシ血清アルブミンと同等程度の吸光度で十分な効果があるものと判定した。評価結果を表1に示す。
【0036】
実施例1−2:実施例1−2−1〜1−2−6
合成例1の化合物の代わりに合成例2の化合物を使用し、表1に示す各濃度とした以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。さらに、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
【0037】
実施例1−3:実施例1−3−1〜1−3−9
合成例1の化合物の代わりに合成例3の化合物を使用し、表1に示す各濃度とした以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。さらに、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例1−4:実施例1−4−1〜1−4−8
合成例1の化合物の代わりに合成例4の化合物を使用し、表1に示す各濃度とした以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。さらに、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
比較例1−1
蛋白質吸着抑制剤を用いずに、D−PBSのみを使用した以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0040】
比較例1−2
蛋白質吸着抑制剤としてウシ血清アルブミン(Sigma Aldrich社製、以後、BSAと略称する)を使用し、溶液濃度が2質量%になるよう調製した蛋白質吸着抑制剤溶液を用いた以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0041】
比較例1−3
合成例1の化合物の代わりに比較合成例1の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
比較例1−4
合成例1の化合物の代わりに比較合成例2の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
比較例1−5
合成例1の化合物の代わりに比較合成例3の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
比較例1−6
比較合成例4で得られた化合物について、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液の調製を試みたが、比較合成例4で得られた化合物はD−PBSに溶解しなかったため、蛋白質吸着抑制効果を評価できなかった。
【0045】
【表1】
【0046】
式(1)に示す化合物を有効成分とする本発明の蛋白質吸着抑制剤は、汎用的に用いられている蛋白質吸着抑制性能の点では優れる生物由来のBSA(比較例1−2)と同等の蛋白質吸着抑制性能を発揮した。一方、比較例1−2以外の比較例は、蛋白質吸着抑制性能が劣っていた。
【0047】
実施例2
<ELISA試験>
[蛋白質吸着抑制効果測定用処理プレートの作製]
Maxisorp(商標) plate(Thermo Fisher Scientific社製ポリスチレンプレート)にSample/Conjugate Diluent(Bethyl Laboratories社製、以後、サンプル希釈液と称する)で100倍希釈したHuman Albumin Coating Antibody(Bethyl Laboratories社製)を100μL/well分注し、室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、アスピレーターで溶液を除去した。その後、ELISA Wash Solution(Bethyl Laboratories社製、以後、ELISA用洗浄液と称する)を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。
次に、合成例4の化合物を0.5質量%で溶解させた100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)溶液を200μL/well分注し、4℃で一晩インキュベートした。インキュベート後、アスピレーターで溶液を除去した。その後、ELISA用洗浄液を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。
以上の操作により、基材(ポリスチレンプレート)上に、ヒトアルブミン(蛋白質)吸着層及び合成例4の化合物を有効成分とする蛋白質吸着抑制剤の被覆層が形成された、蛋白質吸着抑制効果測定用処理プレートを作製した。当該プレートを以後単に、処理プレートと称する。
【0048】
[蛋白質吸着抑制効果の評価]
サンプル希釈液を用いてHuman Reference Serum(Bethyl Laboratories社製)をアルブミン濃度が400、200、100、50、25、12.5、6.25、3.125、1.56ng/mLとなるように希釈し、各濃度のHuman Reference Serumを、上記で作製した処理プレート及び未処理のプレートに100μL/well分注し、その後室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、アスピレーターで溶液を除去した。その後、ELISA用洗浄液を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。
つづいて、サンプル希釈液にて70000倍希釈したHRP Conjugated Human Albumin Detection Antibody(Bethyl Laboratories社製)を100μL/well分注し、室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、アスピレーターで溶液を除去した。その後、以下ELISA用洗浄液を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。
次に、TMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を100μL/well分注し、室温で10分間インキュベートした後、1Mの硫酸を50μL/well加え反応を停止させ、マイクロプレートリーダーSpectra Max M3(Molecular Devices社製)を用いて450nmの吸光度を測定し、吸着した蛋白質(ヒトアルブミン)を検出した。吸光度が小さいほど蛋白質の吸着が抑制されていることを示す。測定結果を表2及び
図1に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2及び
図1から明らかなように、蛋白質(ヒトアルブミン)を吸着させた反応容器(プレート)をさらに、本発明の蛋白質吸着抑制剤溶液で処理することにより、未処理の反応容器と比較して、測定対象外蛋白質の吸着を、特に低濃度において顕著に抑制できることが分かった。
【0051】
実施例3−1:実施例3−1−1〜3−1−4
<蛋白質吸着抑制剤溶液の調製>
合成例1の化合物をD−PBSに5質量%〜0.5質量%(実施例3−1−1〜3−1−4)となるように溶解し、蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。
【0052】
<蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備える基材の作製>
Maxisorp(商標) plate(Thermo Fisher Scientific社製ポリスチレン素材プレート)に、蛋白質吸着抑制剤溶液を200μL/well分注し、室温で2時間静置した。2時間後にアスピレーターで溶液を完全に除去した後、24時間乾燥させ、合成例1の化合物を有効成分とする蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備えた基材(以下、被覆層形成基材と称する)を得た。
【0053】
<蛋白質吸着抑制効果の評価>
上記被覆層形成基材について、以下のような方法によって、その蛋白質吸着抑制効果を測定した。
被覆層形成基材に、D−PBSで20000倍希釈したPOD−IgG(Biorad社製)を100μL/well分注し、室温で1時間静置した。1時間後にPOD−IgG溶液をアスピレーターで完全に除去し、0.05重量%Tween20を含むリン酸緩衝液を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。洗浄後にTMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を100μL/well加え、室温で7分間反応させた。発色反応は1mol/Lの硫酸溶液を50μL/well分注することで停止させ、マイクロプレートリーダーSpectra Max M3(Molecular Device社製)で450nmの吸光度を測定し、吸着した蛋白質を検出した。吸光度が小さいほど蛋白質の吸着が抑制されていることを示す。
蛋白質吸着抑制効果については、一般的に用いられるウシ血清アルブミン用いた際の吸光度を基準とし、ウシ血清アルブミンと同等程度の吸光度で十分な効果があるものと判定した。評価結果を表3に示す。
【0054】
実施例3−2:実施例3−2−1〜3−2−6
合成例1の化合物の代わりに合成例2の化合物を使用し、表3に示す濃度とした以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製し、被覆層形成基材を作製した。さらに、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
【0055】
実施例3−3:実施例3−3−1〜3−3−6
合成例1の化合物の代わりに合成例3の化合物を使用し、表3に示す濃度とした以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製し、被覆層形成基材を作製した。さらに、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
【0056】
実施例3−4:実施例3−4−1〜3−4−6
合成例1の化合物の代わりに合成例4の化合物を使用し、表3に示す濃度とした以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製し、被覆層形成基材を作製した。さらに、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
【0057】
比較例3−1
蛋白質吸着抑制剤を用いずに、D−PBSのみを使用した以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。ただし、実質的には、評価に使用した基材は未処理基材と同等である。結果を表3に示す。
【0058】
比較例3−2
蛋白質吸着抑制剤としてBSAを使用し、溶液濃度が2質量%になるよう調製した蛋白質吸着抑制剤溶液を用いた以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表3に示す。
【0059】
比較例3−3
合成例1の化合物の代わりに比較合成例1の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表3に示す。
【0060】
比較例3−4
合成例1の化合物の代わりに比較合成例2の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表3に示す。
【0061】
比較例3−5
合成例1の化合物の代わりに比較合成例3の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
式(1)に示す化合物を有効成分とする本発明の蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備える基材は、汎用的に用いられている蛋白質吸着抑制性能の点では優れる生物由来のBSA(比較例3−2)と同等の蛋白質吸着抑制性能を発揮した。一方、比較例3−2以外の比較例は、蛋白質吸着抑制性能が劣っていた。