特許第6795397号(P6795397)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795397蛋白質吸着抑制剤及び蛋白質吸着抑制方法
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  • 特許6795397-蛋白質吸着抑制剤及び蛋白質吸着抑制方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795397
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】蛋白質吸着抑制剤及び蛋白質吸着抑制方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/531 20060101AFI20201119BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   G01N33/531 B
   G01N33/543 501J
   G01N33/543 501M
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-547443(P2016-547443)
(86)(22)【出願日】2015年9月8日
(86)【国際出願番号】JP2015075415
(87)【国際公開番号】WO2016039319
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2018年6月25日
【審判番号】不服2020-3955(P2020-3955/J1)
【審判請求日】2020年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-184550(P2014-184550)
(32)【優先日】2014年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中島 史雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 智
(72)【発明者】
【氏名】野田 朋澄
(72)【発明者】
【氏名】松田 将
【合議体】
【審判長】 森 竜介
【審判官】 三崎 仁
【審判官】 渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−312807(JP,A)
【文献】 特開平4−9665(JP,A)
【文献】 特開2007−91736(JP,A)
【文献】 Matsuno R, Takami K, Ishihara K,Simple Synthesis of a Library of Zwitterionic Surfactants via Michael−Type Addition of Methacrylate and Alkane Thiol Compounds,Langmuir,2010年 8月17日,Vol.26,No.16,Page.13028−13032
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される化合物を有効成分として含有する蛋白質吸着抑制剤。
【化1】
[式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を示す。nは9〜15の整数である。]
【請求項2】
請求項1記載の蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備える基材。
【請求項3】
基材表面への蛋白質吸着抑制のための式(1)で示される化合物の使用。
【化2】
[式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を示す。nは9〜15の整数である。]
【請求項4】
基材表面を請求項1に記載の蛋白質吸着抑制剤で処理して被覆層を形成することを含む、基材への蛋白質吸着抑制方法。
【請求項5】
前記基材表面を前記蛋白質吸着抑制剤で処理した後、乾燥して被覆層を形成することを含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質の非特異吸着の抑制に関する。詳しくは、検体中の不純物(蛋白質)の、免疫反応容器や測定器具等の基材の固相表面への吸着等を防止する、診断薬用の蛋白質吸着抑制剤、及び該吸着抑制剤により処理された基材に関する。本発明はさらに、この蛋白質吸着抑制剤を用いた蛋白質吸着抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病の早期発見のために、臨床検査、診断薬の分野において、免疫反応を利用した測定方法が広く行われている。その中で、検査の高感度化が求められており、臨床検査、診断薬の感度向上は大きな課題になっている。高感度化のため、検出方式がペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼといった酵素反応を用いる方法から、蛍光や化学発光を用いる方法へと切り替えられつつある。検出方式を蛍光や化学発光とすることで、理論的には検査対象物質1分子の存在を確認できるといわれているが、実際には目的とする感度を得ることができていない。
免疫反応を利用して測定する際の検出感度を左右する要因の一つとして、測定対象となる抗体、抗原、若しくは測定に利用するこれらの標識体の、免疫反応容器や測定器具等の基材の固相表面への非特異的吸着が挙げられる。また、検体として血清、血漿、細胞抽出物及び尿といった複数種の生体分子が共存する物質を用いた場合、各種蛋白質を代表する不特定多数の共存物質が免疫反応容器や測定器具等の基材の固相表面へ非特異的に吸着することによるノイズの発生も、高感度化を妨げる要因となっている。
【0003】
これらの非特異的吸着を防止するために、従来から免疫反応に関与しないウシ血清アルブミン、カゼイン、ゼラチンといった生物由来の蛋白質を、免疫反応容器や測定器具等の基材の固相表面に吸着させることにより、蛋白質の非特異的吸着を抑制する方法が用いられている。しかし、ウシ血清アルブミンのような生物由来の蛋白質を用いる場合、BSE(bovine spongiform encephalopathy)に代表される生物汚染及びロット間差に係る問題があり、さらに、保管温度や使用期限などの制限もある。
【0004】
そこで、化学合成品を主成分とする蛋白質吸着抑制剤として、特許文献1はポリビニルアルコールを、特許文献2は2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体を用いる方法を開示している。これらの方法は、免疫反応容器や測定器具等の基材の固相表面へ、蛋白質吸着抑制剤として化学合成品を物理吸着させることにより効果を発現させている。
非特許文献1には、ホスファチジルコリン基をもつ高分子化合物によって、蛋白質が安定化できるとの記載があるが、蛋白質の吸着抑制については記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−19561号公報
【特許文献2】特開平7−83923号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ryosuke Matsumoto, Kimiaki Takami, Kazuo Ishihara,"Simple Synthesis of a Zwitterionic Surfactants via Michael-Type Addition of Mathacrylate and Alkane Thiol Compounds",Langmuir Letter,第26巻,第16号,p.13028-13032,2010年7月16日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示の方法は、ある程度、蛋白質の免疫反応容器や測定器具等の基材の固相表面への非特異的吸着を回避することは可能だが、いまだ十分ではない。また特許文献2に記載される重合体は高分子であるため、溶液の粘性が高くなり、ハンドリング性に劣るという問題がある。
そこで、本発明の課題は、抗体や酵素といった蛋白質が免疫反応容器や測定器具等の基材の表面に非特異的に吸着することを、高いレベルで抑制できる、化学合成品による蛋白質吸着抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、式(1)で示される化合物が、免疫反応容器や測定器具等の基材の表面へ効果的に吸着することにより、該表面への蛋白質の吸着を高度に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、式(1)で示される化合物を有効成分として含有する蛋白質吸着抑制剤が提供される。
【化1】
[式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を示す。nは9〜15の整数である。]
【0009】
本発明の別の観点の発明によれば、本発明の蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備える基材が提供される。
【0010】
本発明のまた別の観点の発明によれば、基材表面への蛋白質吸着抑制のための式(1)で示される化合物の使用が提供される。
【0011】
本発明のさらに別の観点の発明によれば、基材表面を本発明の蛋白質吸着抑制剤で処理して被覆層を形成することを含む、基材への蛋白質吸着抑制方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蛋白質吸着抑制剤の有効成分である式(1)の化合物は、免疫反応容器や測定器具等の基材の表面へ効果的に吸着することにより、該基材表面への蛋白質の吸着を高度に抑制できる。すなわち、高い蛋白質吸着抑制能を発揮する。さらに、化学合成品であるため、生物由来の蛋白質吸着抑制剤が有するロット間差や生物汚染などといった懸念が無く、安全かつ安定的に蛋白質吸着抑制能を発揮する。また、低分子量であるため、溶液中に添加した際の粘度上昇を抑えることができ、ハンドリング性が良好な蛋白質吸着抑制剤溶液とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例2の蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備える基材の蛋白質吸着抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の蛋白質吸着抑制剤は、例えば蛋白質、ポリペプチド、ステロイド、脂質、ホルモン等、更に具体的には各種抗原、抗体、レセプター、酵素等を利用した、酵素反応あるいは抗原抗体反応を利用して測定する免疫学的測定法等において使用可能である。具体的には、公知の放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ラテックス比濁法等、特に好ましくは酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ラテックス比濁法、ウェスタンブロッティング等に適用することができる。これらの公知の免疫学的測定法において、基材表面に抗体あるいは抗原を結合させた後、抗体あるいは抗原が結合していない基材表面部分を、本発明の蛋白質吸着抑制剤で処理することによって、蛋白質の吸着を抑制する。
【0015】
本発明の蛋白質吸着抑制剤の有効成分は式(1)で示される化合物である。
【化2】
式(1)中のXは水素原子またはメチル基である。nは9〜15の整数であり、好ましくは13〜15である。nが9より小さいと蛋白質吸着抑制効果が低下するおそれがあり、15を超えると水系溶媒に溶け難くなるおそれがある。
【0016】
式(1)の化合物は、例えば、2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェート(MPC)と1−アルカンチオールとを、例えば、アルコール溶媒中、ジイソプロピルアミン等のアミン系触媒を用いて、室温下に10〜50時間反応させることによって合成することができる。1−アルカンチオールとしては、炭素数が10〜16の1−アルカンチオールが好ましい。
【0017】
また、式(1)で示される蛋白質吸着抑制剤以外の、蛋白質吸着抑制剤溶液中に含有し得る化合物としては、以下のような化合物を例示できる。
すなわち、通常この分野で用いられるその他の試薬類等であって、例えば、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リジン、ヒスチジン等のアミノ酸及びアミノ酸塩、グリシルグリシン等のペプチド類、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、トリス塩等の無機塩類、フラビン類、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、グルコン酸などの有機酸及び有機酸の塩等が挙げられる。
【0018】
本発明の蛋白質吸着抑制剤中に含まれる式(1)で示される化合物の量は、100質量%であってもよいが、50質量%以上であれば、有効成分として上記の効果を奏することができる。
【0019】
本発明の蛋白質吸着抑制剤は、好ましくは溶媒若しくは緩衝液等に溶解させて、蛋白質吸着抑制剤溶液として使用することができる。溶媒としては、精製水、純水、イオン交換水等の水、若しくはメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールを使用することができる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES衝液、生理食塩水等、免疫学的測定方法に使用することができる緩衝液であれば全て用いることができる。本発明の蛋白質吸着抑制剤溶液で、後述するように、基材表面を処理して被覆層を形成する場合には、上記溶媒のうち、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はこれらを任意の割合で混合したものを使用することが好ましいが、緩衝液を用いてもよい。
【0020】
蛋白質吸着抑制剤溶液中に含有される式(1)で示される化合物は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。上限値としては、溶媒若しくは緩衝液に溶解する限り特に制限はないが、例えば、20質量%以下、好ましくは10質量%以下である。これらの範囲であれば、蛋白質吸着抑制剤溶液は有効な蛋白質吸着抑制効果を示す。
【0021】
次に、蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備える基材について説明する。
本発明に用いる基材としては、その材質は特に限定されるものではないが、例えばポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート、ガラス、金属、セラミック、シリコンラバー、ポリフッ化ビニリデン(以後、PVDFと略称する)、ナイロン、ニトロセルロース等を挙げることができる。それらの中でも、ポリスチレンとPVDFが好ましく、特にポリスチレンが好ましい。
また、基材の形状としては特に限定されるものではないが、具体的には、膜状、プレート状、粒子状、さらには、試験管形状、バイアル瓶形状、及びフラスコ形状等を例示することができる。
【0022】
これらの基材の表面に本発明の蛋白質吸着抑制剤の被覆層を形成する方法としては、たとえば、本発明の蛋白質吸着抑制剤を、上述の通り水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はこれらを任意の割合で混合した溶媒に溶解して調製した蛋白質吸着抑制剤溶液中に基材を浸漬した後、室温で、又は加温により十分に乾燥させることによって当該被覆層を形成する方法が挙げられる。被覆層形成のための蛋白質吸着抑制剤溶液中の式(1)で示される化合物の濃度は0.1〜5.0質量%であるのが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0質量%である。
【0023】
つづいて、本発明の蛋白質吸着抑制剤の使用方法について説明する。
本発明の蛋白質吸着抑制剤は、上記したように、基材の表面に被覆層を形成させることにより、各種測定時における基材への蛋白質の吸着を抑制する方法が、一つの使用形態である。すなわち、式(1)に示す化合物が、免疫反応容器や測定器具等の基材の表面に被覆層となって吸着することにより、該表面上に蛋白質が吸着することを抑制するものである。
また、蛋白質吸着抑制剤の被覆層を、免疫反応容器や測定器具等の基材の表面にあらかじめ設けてから使用する方法の他に、各種測定において使用する試薬に本発明の蛋白質吸着抑制剤を添加する方法が挙げられる。つまり、各種測定の一工程として、基材上に蛋白質吸着抑制剤の被覆層を形成する方法である。なお、測定を実施する際の、測定対象の試料以外のいずれの試薬や溶液に本発明の蛋白質吸着抑制剤を添加して使用することもできる。
このような使用方法において、各試薬及び溶液中の式(1)で示される化合物の濃度は0.0125〜5.0質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
ただし、各種測定の一工程として蛋白質吸着抑制剤を試薬若しくは溶液に添加する場合は、測定対象物である血清、標識抗体又は標識抗原等の蛋白質含有試料を添加する前に行う。
【0024】
また、別の使用形態として、上記免疫反応容器や測定器具等の基材の表面に、まず、酵素、標識抗体又は標識抗原等の試料中に含まれる蛋白質を結合させた後、本発明の蛋白質吸着抑制剤で基材を処理する方法を挙げることができる。例えば、ポリスチレン製プレートを使用する際に、該プレートに測定対象物である蛋白質を物理吸着または化学結合させ、適当な溶媒で洗浄した後、本発明の蛋白質吸着抑制剤溶液を接触させる。つまり、測定対象物をプレート表面に吸着させた後、対象物が吸着していないプレート表面部分への蛋白質の吸着を抑制するため、本願の吸着抑制剤を吸着させる。これによって、蛋白質吸着抑制効果をもつ基材表面を得ることができる。
このような使用方法における基材としては、上記した「蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備える基材」と同様な種類及び形状の基材を例示できる。
【実施例】
【0025】
以下の実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。本実施例においては、下記各合成例に示す式(1)の化合物を各蛋白質吸着抑制剤の有効成分とした。
【0026】
<式(1)に示す化合物の合成>
合成例1
2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェート(MPC)14.7635g(0.050mol)及び1−デカンチオール9.5893g(0.055mol)をエタノール(EtOH)81.00gに溶解させ、触媒としてジイソプロピルアミン0.2226g(0.0022mol)を加え、室温で24時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、酢酸エチルへの再沈殿操作により、式(1)で示される化合物2−[3−(デシルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=9)の白色粉末を得た。
【0027】
合成例2
1−デカンチオールの代わりに1−ドデカンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(ドデシルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=11)の白色粉末を得た。
【0028】
合成例3
1−デカンチオールの代わりに1−テトラデカンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(テトラデシルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=13)の白色粉末を得た。
【0029】
合成例4
1−デカンチオールの代わりに1−ヘキサデカンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(ヘキサデシルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=15)の白色粉末を得た。
【0030】
比較合成例1
1−デカンチオールの代わりに1−ブタンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(ブチルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=3)の白色粉末を得た。
【0031】
比較合成例2
1−デカンチオールの代わりに1−ヘキサンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(ヘキシルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=5)の白色粉末を得た。
【0032】
比較合成例3
1−デカンチオールの代わりに1−オクタンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(オクチルスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=7)の白色粉末を得た。
【0033】
比較合成例4
1−デカンチオールの代わりに1−エイコサンチオールを用い、モル比が合成例1と等しくなるよう、仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして式(1)で示される化合物2−[3−(エイコサスルファニル)−2−メチルプロピオニルオキシ]エチル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(式(1)のXがメチル基且つn=19)の白色粉末を得た。
【0034】
実施例1−1:実施例1−1−1〜1−1−4
<蛋白質吸着抑制剤溶液の調製>
合成例1の化合物をダルベッコリン酸緩衝液(Sigma Aldrich社製、以後、D−PBSと略称する)に5質量%〜0.5質量%(実施例1−1−1〜1−1−4)となるように溶解し、蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。
【0035】
<蛋白質吸着抑制効果の評価>
上記蛋白質吸着抑制剤溶液について、以下のような方法によって、その蛋白質吸着抑制効果を測定した。
Maxisorp(商標) plate(Thermo Fisher Scientific社製ポリスチレン素材プレート)に、蛋白質吸着抑制剤溶液を200μL/well分注し、室温で2時間静置した。2時間後にアスピレーターで溶液を完全に除去し、D−PBSで20000倍希釈したPOD−IgG(ペルオキシターゼ標識免疫グロブリンG、Biorad社製)を100μL/well分注し、室温で1時間静置した。1時間後にPOD−IgG溶液をアスピレーターで完全に除去し、0.05質量%Tween20を含むリン酸緩衝液を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。洗浄後にTMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を100μL/well加え、室温で7分間反応させた。発色反応を1mol/Lの硫酸溶液を50μL/well分注することで停止させ、マイクロプレートリーダーSpectra Max M3(Molecular Device社製)で450nmの吸光度を測定し、吸着した蛋白質を検出した。吸光度が小さいほど蛋白質の吸着が抑制されていることを示す。
蛋白質吸着抑制効果については、一般的に用いられるウシ血清アルブミンを用いた際の吸光度を基準とし、ウシ血清アルブミンと同等程度の吸光度で十分な効果があるものと判定した。評価結果を表1に示す。
【0036】
実施例1−2:実施例1−2−1〜1−2−6
合成例1の化合物の代わりに合成例2の化合物を使用し、表1に示す各濃度とした以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。さらに、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
【0037】
実施例1−3:実施例1−3−1〜1−3−9
合成例1の化合物の代わりに合成例3の化合物を使用し、表1に示す各濃度とした以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。さらに、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例1−4:実施例1−4−1〜1−4−8
合成例1の化合物の代わりに合成例4の化合物を使用し、表1に示す各濃度とした以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。さらに、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
比較例1−1
蛋白質吸着抑制剤を用いずに、D−PBSのみを使用した以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0040】
比較例1−2
蛋白質吸着抑制剤としてウシ血清アルブミン(Sigma Aldrich社製、以後、BSAと略称する)を使用し、溶液濃度が2質量%になるよう調製した蛋白質吸着抑制剤溶液を用いた以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0041】
比較例1−3
合成例1の化合物の代わりに比較合成例1の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
比較例1−4
合成例1の化合物の代わりに比較合成例2の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
比較例1−5
合成例1の化合物の代わりに比較合成例3の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
比較例1−6
比較合成例4で得られた化合物について、実施例1−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液の調製を試みたが、比較合成例4で得られた化合物はD−PBSに溶解しなかったため、蛋白質吸着抑制効果を評価できなかった。
【0045】
【表1】
【0046】
式(1)に示す化合物を有効成分とする本発明の蛋白質吸着抑制剤は、汎用的に用いられている蛋白質吸着抑制性能の点では優れる生物由来のBSA(比較例1−2)と同等の蛋白質吸着抑制性能を発揮した。一方、比較例1−2以外の比較例は、蛋白質吸着抑制性能が劣っていた。
【0047】
実施例2
<ELISA試験>
[蛋白質吸着抑制効果測定用処理プレートの作製]
Maxisorp(商標) plate(Thermo Fisher Scientific社製ポリスチレンプレート)にSample/Conjugate Diluent(Bethyl Laboratories社製、以後、サンプル希釈液と称する)で100倍希釈したHuman Albumin Coating Antibody(Bethyl Laboratories社製)を100μL/well分注し、室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、アスピレーターで溶液を除去した。その後、ELISA Wash Solution(Bethyl Laboratories社製、以後、ELISA用洗浄液と称する)を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。
次に、合成例4の化合物を0.5質量%で溶解させた100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)溶液を200μL/well分注し、4℃で一晩インキュベートした。インキュベート後、アスピレーターで溶液を除去した。その後、ELISA用洗浄液を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。
以上の操作により、基材(ポリスチレンプレート)上に、ヒトアルブミン(蛋白質)吸着層及び合成例4の化合物を有効成分とする蛋白質吸着抑制剤の被覆層が形成された、蛋白質吸着抑制効果測定用処理プレートを作製した。当該プレートを以後単に、処理プレートと称する。
【0048】
[蛋白質吸着抑制効果の評価]
サンプル希釈液を用いてHuman Reference Serum(Bethyl Laboratories社製)をアルブミン濃度が400、200、100、50、25、12.5、6.25、3.125、1.56ng/mLとなるように希釈し、各濃度のHuman Reference Serumを、上記で作製した処理プレート及び未処理のプレートに100μL/well分注し、その後室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、アスピレーターで溶液を除去した。その後、ELISA用洗浄液を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。
つづいて、サンプル希釈液にて70000倍希釈したHRP Conjugated Human Albumin Detection Antibody(Bethyl Laboratories社製)を100μL/well分注し、室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、アスピレーターで溶液を除去した。その後、以下ELISA用洗浄液を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。
次に、TMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を100μL/well分注し、室温で10分間インキュベートした後、1Mの硫酸を50μL/well加え反応を停止させ、マイクロプレートリーダーSpectra Max M3(Molecular Devices社製)を用いて450nmの吸光度を測定し、吸着した蛋白質(ヒトアルブミン)を検出した。吸光度が小さいほど蛋白質の吸着が抑制されていることを示す。測定結果を表2及び図1に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2及び図1から明らかなように、蛋白質(ヒトアルブミン)を吸着させた反応容器(プレート)をさらに、本発明の蛋白質吸着抑制剤溶液で処理することにより、未処理の反応容器と比較して、測定対象外蛋白質の吸着を、特に低濃度において顕著に抑制できることが分かった。
【0051】
実施例3−1:実施例3−1−1〜3−1−4
<蛋白質吸着抑制剤溶液の調製>
合成例1の化合物をD−PBSに5質量%〜0.5質量%(実施例3−1−1〜3−1−4)となるように溶解し、蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。
【0052】
<蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備える基材の作製>
Maxisorp(商標) plate(Thermo Fisher Scientific社製ポリスチレン素材プレート)に、蛋白質吸着抑制剤溶液を200μL/well分注し、室温で2時間静置した。2時間後にアスピレーターで溶液を完全に除去した後、24時間乾燥させ、合成例1の化合物を有効成分とする蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備えた基材(以下、被覆層形成基材と称する)を得た。
【0053】
<蛋白質吸着抑制効果の評価>
上記被覆層形成基材について、以下のような方法によって、その蛋白質吸着抑制効果を測定した。
被覆層形成基材に、D−PBSで20000倍希釈したPOD−IgG(Biorad社製)を100μL/well分注し、室温で1時間静置した。1時間後にPOD−IgG溶液をアスピレーターで完全に除去し、0.05重量%Tween20を含むリン酸緩衝液を200μL/well分注し、直ちにアスピレーターで溶液を除去する工程を5回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。洗浄後にTMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を100μL/well加え、室温で7分間反応させた。発色反応は1mol/Lの硫酸溶液を50μL/well分注することで停止させ、マイクロプレートリーダーSpectra Max M3(Molecular Device社製)で450nmの吸光度を測定し、吸着した蛋白質を検出した。吸光度が小さいほど蛋白質の吸着が抑制されていることを示す。
蛋白質吸着抑制効果については、一般的に用いられるウシ血清アルブミン用いた際の吸光度を基準とし、ウシ血清アルブミンと同等程度の吸光度で十分な効果があるものと判定した。評価結果を表3に示す。
【0054】
実施例3−2:実施例3−2−1〜3−2−6
合成例1の化合物の代わりに合成例2の化合物を使用し、表3に示す濃度とした以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製し、被覆層形成基材を作製した。さらに、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
【0055】
実施例3−3:実施例3−3−1〜3−3−6
合成例1の化合物の代わりに合成例3の化合物を使用し、表3に示す濃度とした以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製し、被覆層形成基材を作製した。さらに、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
【0056】
実施例3−4:実施例3−4−1〜3−4−6
合成例1の化合物の代わりに合成例4の化合物を使用し、表3に示す濃度とした以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製し、被覆層形成基材を作製した。さらに、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
【0057】
比較例3−1
蛋白質吸着抑制剤を用いずに、D−PBSのみを使用した以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。ただし、実質的には、評価に使用した基材は未処理基材と同等である。結果を表3に示す。
【0058】
比較例3−2
蛋白質吸着抑制剤としてBSAを使用し、溶液濃度が2質量%になるよう調製した蛋白質吸着抑制剤溶液を用いた以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表3に示す。
【0059】
比較例3−3
合成例1の化合物の代わりに比較合成例1の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表3に示す。
【0060】
比較例3−4
合成例1の化合物の代わりに比較合成例2の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表3に示す。
【0061】
比較例3−5
合成例1の化合物の代わりに比較合成例3の化合物を使用し、溶液濃度が5質量%になるよう調製した化合物溶液を用いた以外は、実施例3−1と同様にして蛋白質吸着抑制効果の評価を行った。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
式(1)に示す化合物を有効成分とする本発明の蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備える基材は、汎用的に用いられている蛋白質吸着抑制性能の点では優れる生物由来のBSA(比較例3−2)と同等の蛋白質吸着抑制性能を発揮した。一方、比較例3−2以外の比較例は、蛋白質吸着抑制性能が劣っていた。
図1