特許第6795422号(P6795422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795422積層セラミックコンデンサおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795422
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
   H01G4/30 514
   H01G4/30 517
   H01G4/30 201J
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-27330(P2017-27330)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2018-133501(P2018-133501A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】谷口 克哉
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−139720(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0217924(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105826074(CN,A)
【文献】 特開2016−127120(JP,A)
【文献】 特開2017−028224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックの誘電体層と、内部電極層とが交互に積層された積層体を備える積層セラミックコンデンサであって、
(125℃において前記誘電体層に直流電圧が印加された際の10V/μmにおける電流値)/(85℃において前記誘電体層に直流電圧が印加された際の10V/μmにおける電流値)が5を上回りかつ20未満であり、
前記誘電体層におけるドナー元素濃度が0.05atm%以上0.3atm%以下であることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記誘電体層の平均粒子径が80nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記ドナー元素は、V,Mo,Nb,La,W,Taの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記誘電体層の厚みは、1μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記誘電体層の主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
主成分セラミックに対するドナー元素濃度が0.05atm%以上0.3atm%以下のグリーンシートを作成する工程と、
前記グリーンシートと、内部電極形成用導電ペーストと、を交互に積層することで積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含み、
焼成後に得られる誘電体層において、(125℃において前記誘電体層に直流電圧が印加された際の10V/μmにおける電流値)/(85℃において前記誘電体層に直流電圧が印加された際の10V/μmにおける電流値)が5を上回りかつ20未満となるように、前記積層体を焼成する工程を行う、ことを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記グリーンシートを作成する工程において、0.05atm%以上0.3atm%以下のドナー元素を予め固溶させた主成分セラミックのグリーンシートを作成することを特徴とする請求項6記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの小型・大容量化の要請により、誘電体層の薄層化が進行している。その結果、誘電体層にかかる電界強度は増大する一方となり、誘電体層の寿命特性は低下してしまう。そこで、寿命特性の改善の為、Mo(モリブデン)、W(タングステン)などのドナー元素を誘電体層に添加する材料設計が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−139720号公報
【特許文献2】特開2016−127120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、ドナー元素が誘電体層のどこに位置しているか規定されていない。ドナー元素は、誘電体層の主成分セラミックの結晶粒内に存在することで、誘電体層の寿命特性に寄与する。結晶粒界に存在するドナー元素は、誘電体層の寿命特性に寄与しない。したがって、誘電体層全体のドナー元素濃度を規定しても、所望の寿命特性が得られないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、誘電体層の良好な寿命特性を実現することができる積層セラミックコンデンサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、セラミックの誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層体を備える積層セラミックコンデンサであって、(125℃において前記誘電体層に直流電圧が印加された際の10V/μmにおける電流値)/(85℃において前記誘電体層に直流電圧が印加された際の10V/μmにおける電流値)が5を上回りかつ20未満であり、前記誘電体層におけるドナー元素濃度が0.05atm%以上0.3atm%以下であることを特徴とする。
【0007】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体層の平均粒子径を80nm以上200nm以下としてもよい。
【0008】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記ドナー元素は、V,Mo,Nb,La,W,Taの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0009】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体層の厚みを1μm以下としてもよい。
【0010】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体層の主成分セラミックはペロブスカイト構造を有していてもよい。
【0011】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法は、主成分セラミックに対するドナー元素濃度が0.05atm%以上0.3atm%以下のグリーンシートを作成する工程と、前記グリーンシートと、内部電極形成用導電ペーストと、を交互に積層することで積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、焼成後に得られる誘電体層において、(125℃において前記誘電体層に直流電圧が印加された際の10V/μmにおける電流値)/(85℃において前記誘電体層に直流電圧が印加された際の10V/μmにおける電流値)が5を上回りかつ20未満となるように、前記積層体を焼成する工程を行う、ことを特徴とする。
【0012】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記グリーンシートを作成する工程において、0.05atm%以上0.3atm%以下のドナー元素を予め固溶させた主成分セラミックのグリーンシートを作成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、誘電体層の良好な寿命特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図3】(a)および(b)は実施例1〜5および比較例1,2の温度変化係数(125℃/85℃)と、加速寿命値と、漏れ電流との関係を例示する図である。
図4】比較例1で作製した積層セラミックコンデンサにおいて、温度変化と、漏れ電流値と、印加電圧との関係を示す図である。
図5】実施例1で作製した積層セラミックコンデンサにおいて、温度変化と、漏れ電流値と、印加電圧との関係を示す図である。
図6】実施例4で作製した積層セラミックコンデンサにおいて、温度変化と、漏れ電流値と、印加電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0016】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0017】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、積層チップ10において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該内部電極層がなす積層チップ10の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0018】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.2mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0019】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3−αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x−yCaSrTi1−zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。誘電体層11は、例えば、1μm以下、0.8μm以下等の厚みを有する。
【0020】
誘電体層11は、ドナー元素を含んでいる。ここでのドナー元素は、ペロブスカイトABOのAサイトを占有可能な3価のイオンとなり得る元素(Y(イットリウム),La(ランタン),Sm(サマリウム),Gd(ガドリニウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム)などの希土類元素の一部が相当する)、およびBサイトを占有して5価以上の価数を取り得る元素(V(バナジウム),Mo(モリブデン),Nb(ニオブ),W(タングステン),Ta(タンタル)などの遷移金属の一部が相当する)のことである。たとえば、誘電体層11の主成分セラミックがペロブスカイトである場合において、ドナー元素として、V(バナジウム),Mo,Nb,La,W,Taなどを用いることができる。誘電体層11がドナー元素を含んでいると、酸素欠陥の生成が抑制される。その結果、誘電体層11の寿命特性が向上する。誘電体層11のドナー元素濃度が低すぎると、ドナー元素の効果を十分に得ることができないおそれがある。そこで、本実施形態においては、誘電体層11のドナー元素濃度を0.05atm%以上とする。一方、誘電体層11のドナー元素濃度が高すぎると、ドナー元素の固溶状態によっては絶縁特性の悪化、バイアス特性の悪化などのおそれがある。そこで、本実施形態においては、誘電体層11のドナー元素濃度を0.3atm%以下とする。ここでのatm%は、Bサイトを100atm%とした場合のドナー元素の濃度(atm%)のことである。
【0021】
誘電体層11の主成分セラミックは、1つの結晶粒から構成されているわけではなく、複数の結晶粒を含んでいる。したがって、ドナー元素は、結晶粒内および結晶粒界に均一に分散していることもあれば、結晶粒界に多く分散していることもある。ドナー元素は、主成分セラミックの結晶粒内に存在することで、酸素欠陥抑制などの効果を発揮する。したがって、誘電体層11のドナー元素濃度が0.05atm%以上0.3atm%以下であっても、当該ドナー元素が、必ずしも、誘電体層11の寿命特性に寄与しているわけではないことになる。
【0022】
ところで、ドナー元素のドナー準位に応じて、温度上昇によって電子が伝導帯に励起される。この場合、漏れ電流が増大することになる。漏れ電流の温度依存性が大きいことは、ドナー元素が単に誘電体層11内に存在しているだけではなく、主成分セラミックの結晶粒内に固溶していることを示す。したがって、漏れ電流の温度変化係数が大きいと、ドナー元素が誘電体層11の寿命特性に寄与することになる。そこで、本実施形態においては、漏れ電流の温度変化係数に着目する。
【0023】
具体的には、漏れ電流の温度変化係数として、(125℃において誘電体層11に直流電圧が印加された際の10V/μmにおける電流値)/(85℃において誘電体層11に直流電圧が印加された際の10V/μmにおける電流値)を用いる。以下、単純に、温度変化係数(125℃/85℃)と表すこととする。
【0024】
温度変化係数(125℃/85℃)が小さいと、誘電体層11の主成分セラミックの粒子内におけるドナー元素が少ないことになる。この場合、誘電体層11に良好な寿命特性が得られないおそれがある。そこで、温度変化係数(125℃/85℃)を所定値よりも大きくする。一方、温度変化係数(125℃/85℃)が大きいと、誘電体層11の主成分セラミック粒子内におけるドナー元素が多くなる。この場合、誘電体層11に絶縁性低下、バイアス特性の悪化などが生じるおそれがある。そこで、温度変化係数(125℃/85℃)を所定値よりも小さくする。本実施形態においては、5<温度変化係数(125℃/85℃)<20とする。これにより、漏れ電流を抑制しつつ、寿命特性を向上させることができる。なお、6<温度変化係数(125℃/85℃)<15であることが好ましい。
【0025】
温度変化係数は、外部電極20aと外部電極20bとの間に10V/μmになるように調節した直流電圧を印加した際の漏れ電流値(電圧印加60秒後を測定)を、恒温槽を用いて雰囲気温度を変化させて取得することで算出することができる。
【0026】
なお、誘電体層11において、少なくとも、電圧差が生じる領域において良好な寿命特性が得られることが好ましい。したがって、積層セラミックコンデンサ100の電気容量が生じる領域の誘電体層11において、良好な寿命特性が得られていればよい。そこで、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域における誘電体層11が、0.05atm%以上0.3atm%以下のドナー元素濃度を有し、5<温度変化係数(125℃/85℃)<20の特性を有していればよい。
【0027】
誘電体層11の主成分セラミックの平均粒子径が小さいと、誘電率が低くなり、所望の静電容量が得られないおそれがある。そこで、誘電体層11の主成分セラミックの平均粒子径は、80nm以上であることが好ましい。一方、誘電体層11の主成分セラミックの平均粒子径が大きいと、1μm以下の厚みの誘電体層11において酸素欠陥の移動障壁として作用する粒界面積が減少することで、寿命特性が低下するおそれがある。そこで、誘電体層11の主成分セラミックの平均粒子径は、200nm以下であることが好ましい。なお、粒子径は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡にて1つの画像に80〜150結晶粒程度入るように倍率を調整し、合計で400結晶粒以上となるように複数枚の写真を得て、写真上の結晶粒全数について計測したFeret径を用いた。平均粒子径には、その平均値を用いた。
【0028】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図2は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0029】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11の主成分であるセラミック材料の粉末を用意する。セラミック材料とドナー元素源とを混合することでドナー元素を誘電体層11に含ませてもよいが、ドナー元素を予め固溶させたセラミック材料を用いることが好ましい。ドナー元素としてMoを用いる場合には、ドナー元素源としてMoOなどのMo化合物を用いることができる。
【0030】
次に、当該セラミック材料の粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg(マグネシウム),Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム),Dy(ジスプロシウム),Tm(ツリウム),Ho(ホロミウム),Tb(テルビウム),Yb(イッテルビウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロビウム),Gd(ガドリニウム)およびEr(エルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト),Ni(ニッケル),Li(リチウム),B(ホウ素),Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSi(シリコン)の酸化物もしくはガラスが挙げられる。例えば、まず、セラミック材料の粉末に添加化合物を含む化合物を混合して仮焼を行う。続いて、得られたセラミック材料の粒子を添加化合物とともに湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料の粉末を調製する。
【0031】
(積層工程)
次に、得られたセラミック材料の粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、フタル酸ジオクチル(DOP)等の可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。
【0032】
次に、誘電体グリーンシートの表面に、内部電極形成用導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層12のパターンを配置する。内部電極層形成用導電ペーストは、内部電極層12の主成分金属の粉末と、バインダと、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる。バインダおよび溶剤は、上記したセラミックスラリーと異なるものを使用することが好ましい。また、内部電極形成用導電ペーストには、共材として、誘電体層11の主成分であるセラミック材料を分散させてもよい。
【0033】
次に、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出されるように、所定層数(例えば200〜500層)だけ積層する。
【0034】
次に、得られた積層体の上下にカバー層13となるカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。これにより、略直方体形状のセラミック積層体が得られる。
【0035】
(焼成工程)
このようにして得られた積層体を、250〜500℃のN雰囲気中で脱バインダした後に、還元雰囲気中で1100〜1300℃で10分〜2時間焼成することで、誘電体グリーンシートを構成する各化合物が焼結する。このようにして、内部に焼結体からなる誘電体層11と内部電極層12とが交互に積層されてなる積層チップ10と、積層方向上下の最外層として形成されるカバー層13とを有する積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0036】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃〜1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
実施例1では、誘電体層11の主成分セラミックとして、チタン酸バリウムを用いた。ドナー元素として、Moを用いた。主成分セラミック粉末にMo源を混合し、主成分セラミック粉末のTiを100atm%とした場合にMoが0.2atm%となるようにMoOを添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダおよび溶剤を加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシートを作製した。有機バインダとしてポリビニルブチラール(PVB)等を用い、溶剤としてエタノール、トルエン酸等を加えた。その他、可塑剤などを加えた。次に、内部電極層12の主成分金属の粉末と、バインダと、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる内部電極形成用導電ペーストを作製した。内部電極形成用導電ペーストの有機バインダおよび溶剤には、誘電体グリーンシートとは異なるものを用いた。誘電体シートに内部電極形成用導電ペーストをスクリーン印刷した。内部電極形成用導電ペーストを印刷したシートを500枚重ね、その上下にカバーシートをそれぞれ積層した。その後、熱圧着によりセラミック積層体を得て、所定の形状に切断した。得られたセラミック積層体をN雰囲気中で脱バインダした後に焼成して焼結体を得た。焼成後の誘電体層11の厚みは、0.8μmであった。
【0038】
(実施例2)
実施例2では、Moを0.05atm%を予め固溶させた主成分セラミック粉末を誘電体材料として用いてMo源を添加しなかった他は、実施例1と同様とした。
【0039】
(実施例3)
実施例3では、Moを0.1atm%を予め固溶させた主成分セラミック粉末を誘電体材料として用いてMo源を添加しなかった他は、実施例1と同様とした。
【0040】
(実施例4)
実施例4では、Moを0.2atm%を予め固溶させた主成分セラミック粉末を誘電体材料として用いてMo源を添加しなかった他は、実施例1と同様とした。
【0041】
(実施例5)
実施例5では、Moを0.3atm%を予め固溶させた主成分セラミック粉末を誘電体材料として用いてMo源を添加しなかった他は、実施例1と同様とした。
【0042】
(比較例1)
比較例1では、主成分セラミックにMo源を添加しなかった他は、実施例1と同様とした。
【0043】
(比較例2)
比較例2では、Moを0.35atm%を予め固溶させた主成分セラミック粉末を誘電体材料に用いてMo源を添加しなかった他は、実施例1と同様とした。
【0044】
(分析)
図3(a)は、実施例1〜5および比較例1,2の温度変化係数(125℃/85℃)と、加速寿命値との関係を例示する図である。図3(a)においては、加速寿命値をMTTF(平均故障時間)として表している。加速寿命値は、125℃にて外部電極20aと外部電極20bとの間に10Vの直流電圧を印加し、電流計にて漏れ電流値を測定し、絶縁破壊に至った時間を計測した。平均故障時間はそれぞれ20個の積層セラミックコンデンサの絶縁破壊に至った時間の平均とした。
【0045】
図3(a)で例示するように、温度変化係数(125℃/85℃)と加速寿命値との間に相関関係が現れている。ドナー元素を添加しなかった比較例1(Mo無添加チタン酸バリウム)では、温度変化係数(125℃/85℃)は2程度と小さく加速寿命値も200min以下と短いため、良好な寿命値が得られていない。主成分セラミック粉末とMo源とを混合して焼成した実施例1(Mo添加チタン酸バリウム)では、温度変化係数(125℃/85℃)が5程度と比較的大きく、加速寿命値も200min〜300min程度と長寿命特性を示した。予めMoを固溶した主成分セラミック粉末を焼成した実施例2〜5(Mo固溶チタン酸バリウム)では、温度変化係数(125℃/85℃)が7〜20とさらに大きく、加速寿命値も200min〜1200min程度とさらに大きくなった。しかしながら、比較例2のように温度変化係数(125℃/85℃)が20を上回ると、図3(b)で例示するように、Mo無添加チタン酸バリウムに対して85℃での漏れ電流値が2桁以上増大することになった。
【0046】
以上の結果から、誘電体層11のドナー元素濃度を0.05atm%以上0.3atm%以下とし、5<温度変化係数(125℃/85℃)<20とすることで、漏れ電流を抑制しつつ、寿命特性を向上させることができることが裏付けられた。
【0047】
図4は、比較例1で作製した積層セラミックコンデンサ100において、温度変化と、漏れ電流値と、印加電圧との関係を示す図である。図4で示すように、ドナー元素を誘電体層11に添加しなかった場合には、漏れ電流値に温度変化がほとんど現れなかった。これは、誘電体層11の主成分セラミックの結晶粒内にドナー元素が固溶していないからであると考えられる。
【0048】
図5は、実施例1で作製した積層セラミックコンデンサ100において、温度変化と、漏れ電流値と、印加電圧との関係を示す図である。図5で示すように、ドナー元素を誘電体層11に添加した場合には、漏れ電流値に温度変化が現れた。これは、誘電体層11の主成分セラミックの結晶粒内にドナー元素の一部が固溶したからであると考えられる。
【0049】
図6は、実施例4で作製した積層セラミックコンデンサ100において、温度変化と、漏れ電流値と、印加電圧との関係を示す図である。実施例1および実施例4では、誘電体層11全体におけるMoの添加量は同じであるものの、図6で示すように、図5と比較して、漏れ電流値の温度変化がさらに大きくなった。これは、予めドナー元素を固溶するチタン酸バリウムを用いたことで、誘電体層11の主成分セラミックの結晶粒内に多くのドナー元素が存在しているからであると考えられる。図4図6の結果から、予めドナー元素を固溶させた主成分セラミック粉末を用いることで、結晶粒内に存在するドナー元素を多くできることが裏付けられた。
【0050】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
20a,20b 外部電極
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6