特許第6795460号(P6795460)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795460耐応力腐食割れ性に優れた7000系アルミニウム合金部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795460
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】耐応力腐食割れ性に優れた7000系アルミニウム合金部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/053 20060101AFI20201119BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20201119BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20201119BHJP
【FI】
   C22F1/053
   C22C21/10
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 631A
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-113827(P2017-113827)
(22)【出願日】2017年6月8日
(62)【分割の表示】特願2013-15456(P2013-15456)の分割
【原出願日】2013年1月30日
(65)【公開番号】特開2017-214656(P2017-214656A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2017年7月3日
【審判番号】不服2019-5262(P2019-5262/J1)
【審判請求日】2019年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100100974
【弁理士】
【氏名又は名称】香本 薫
(72)【発明者】
【氏名】橋本 成一
(72)【発明者】
【氏名】志鎌 隆広
(72)【発明者】
【氏名】津吉 恒武
【合議体】
【審判長】 亀ヶ谷 明久
【審判官】 粟野 正明
【審判官】 井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−83381(JP,A)
【文献】 特開平11−264044(JP,A)
【文献】 特開2003−118367(JP,A)
【文献】 特開平10−168553(JP,A)
【文献】 特開平7−305151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C21/00-21/18
C22F1/04-1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn:3.0〜8.0質量%、Mg:0.4〜2.5質量%、Cu:0.05〜2.0質量%、Ti:0.005〜0.2質量%を含有し、さらに、Mn:0.01〜0.3質量%、Cr:0.01〜0.3質量%、Zr:0.01〜0.3質量%の1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避不純物からなる組成を有し、対向配置された一対の板状のフランジとそれらを連結する1又は2以上の板状のウエブで構成され、プレス焼き入れで製造された7000系アルミニウム合金押出形材の端部領域に、押出方向に対し垂直方向でかつ前記一対のフランジが互いに接近する方向の潰し加工を施して前記ウエブを曲げ変形させ部材化する7000系アルミニウム合金部材の製造方法において、潰し加工の前に、前記押出形材の少なくとも前記領域に対し、0.4℃/秒以上の昇温速度で加熱し、200〜550℃の温度範囲に0秒を超え60秒以下保持し、次いで0.5℃/秒以上の冷却速度で冷却する復元処理を施し、復元処理後72時間以内に、前記ウエブの曲げ内側半径が前記押出形材の端面において最も小さくなり、かつ前記ウエブの板厚をtとし、前記端面における前記ウエブの曲げ内側半径をRとしたとき、1.5mm≦t≦4.0mm、3t/2≦R≦10tとなる条件で前記潰し加工を施し、潰し加工後、部材全体に時効処理を施すことを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた7000系アルミニウム合金部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度の7000系アルミニウム合金押出形材の長手方向に沿った少なくとも一部領域に、潰し加工を施して部材化した7000系アルミニウム合金部材の製造方法に関し、特に耐応力腐食割れ性に優れた7000系アルミニウム合金部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3には、対向配置された一対のフランジとそれらに連結された複数のウエブからなるアルミニウム合金押出形材の端部領域に、フランジ面に対し垂直方向に潰し加工を施し、ドアビームやバンパーリインフォース等の自動車用補強部材を製造することが記載されている。このような潰し加工は、加工精度及びコスト面から時効処理後に行うことが望ましいとされ、特許文献2には、プレス焼き入れした6000系アルミニウム合金押出形材について、時効処理後に潰し加工を行うことが記載されている。
【0003】
一方、Zn、Mg、Cuなどの合金元素量が多く、時効処理したとき他の合金系に比して高強度化される7000系アルミニウム合金押出形材では、時効処理後の成形性が悪く、時効処理後に潰し加工を行うと、潰し加工率(断面高さの減少率)が小さくても、曲げ変形するウエブに亀裂が発生する。なお、この傾向は高合金側でより顕著である。このため、例えば特許文献4では、押出後のT1調質の状態で潰し加工を行い、その後に時効処理を行うことが望ましいと記載されている。
しかし、7000系アルミニウム合金押出形材は、プレス焼き入れ後、時効処理前の材料(T1調質)でも、自然時効によって硬化し、成形性が低下する。その成形性を改善するため、例えば特許文献5〜7に記載されているように、従来より、自然時効により硬化した7000系アルミニウム合金の強度を低下させる復元処理が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3465862号公報
【特許文献2】特許第4111651号公報
【特許文献3】特開平7−25296号公報
【特許文献4】特開2003−118367号公報
【特許文献5】特開平7−305151号公報
【特許文献6】特開平10−168553号公報
【特許文献7】特開2007−119853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
確かに、この復元処理をT1調質の7000系アルミニウム合金押出形材に適用すると、同形材は強度が低下し、成形性が向上する。しかし、ウエブの板厚が1.5〜4mmの実用材を用い、これに潰し加工を行った場合、潰し加工率の大きさによっては、ウエブの曲げ外側に亀裂が発生し、これは従来の復元処理では解消できない。同時に、潰し加工後のウエブに高い引張残留応力が付与され、耐応力腐食割れ性が低下するという問題もある。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされてもので、7000系アルミニウム合金押出形材の長手方向に沿った少なくとも一部の領域に、押出方向に対し垂直方向の潰し加工を施して部材化した7000系アルミニウム合金部材において、潰し加工による亀裂の発生を防止し、同時に引張残留応力を低減して耐応力腐食割れ性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る耐応力腐食割れ性に優れた7000系アルミニウム合金部材の製造方法は、Zn:3.0〜8.0質量%、Mg:0.5〜2.5質量%、Cu:0.05〜2.0質量%、Ti:0.005〜0.2質量%を含有し、さらに、Mn:0.01〜0.3質量%、Cr:0.01〜0.3質量%、Zr:0.01〜0.3質量%の1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避不純物からなる組成を有し、複数の板で構成されプレス焼き入れされた7000系アルミニウム合金押出形材の長手方向に沿った少なくとも一部の領域に、押出方向に対し垂直方向の潰し加工を施して部材化するもので、前記7000系アルミニウム合金押出形材の少なくとも前記領域(潰し加工を施す領域)に対し、0.4℃/秒以上の昇温速度で加熱し、200〜550℃の温度範囲に0秒を超え60秒以下保持し、次いで0.5℃/秒以上の冷却速度で冷却する復元処理を施し、復元処理後72時間以内に、1.5mm≦t≦4.0mm、3t/2≦R≦10tとなる条件で前記潰し加工を施し、潰し加工後、部材全体に時効処理を施すことを特徴とする。
前記7000系アルミニウム合金押出形材は、典型的には、対向配置された一対のフランジとそれらを連結する1又は2以上のウエブからなる。その場合、通常、前記ウエブが潰し加工により最も大きく曲げ変形を受ける板となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プレス焼き入れされた7000系アルミニウム合金押出形材の長手方向に沿った少なくとも一部の領域に対し潰し加工を施して部材化する場合に、高強度で、亀裂の発生がなく、引張残留応力を低減して耐応力腐食割れ性が改善された7000系アルミニウム合金部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】7000系アルミニウム合金押出形材におけるY(=σrs/σ0.2)とX(=[Mg]+[Zn])の関係を示すグラフである。
図2】実施例で作製した7000系アルミニウム合金押出形材の断面図(2A)、及び潰し加工の試験方法を説明する側面図(2B)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る7000系アルミニウム合金部材及びその製造方法について、具体的に説明する。
(アルミニウム合金の組成)
まず、本発明に係る7000系アルミニウム合金の組成について説明する。ただし、この組成自体は7000系アルミニウム合金として公知のものである。
Zn:3.0〜8.0質量%
Mg:0.4〜2.5質量%
ZnとMgは金属間化合物であるMgZn2を形成して、7000系アルミニウム合金の強度を向上させる元素である。Zn含有量が3.0質量%未満又はMg含有量が0.4質量%未満では、実用材として必要な200MPa以上の耐力が得られない。一方、Zn含有量が8.0質量%を越え又はMg含有量が2.5質量%を越えると、押出形材に対し潰し加工前に所定の復元処理を行っても、潰し加工による亀裂の発生を防止できず、同時に、潰し加工により付与される引張残留応力を低減できず、耐応力腐食割れ性が顕著に低下する。高強度化及び軽量化の観点からは、Zn含有量、Mg含有量はより高合金側、例えばそれぞれ5.0〜8.0質量%、1.0〜2.5質量%、合計で6.0〜10.5質量%が望ましい。
【0011】
Cu:0.05〜2.0質量%
Cuは7000系アルミニウム合金の強度を向上させる元素である。Cu含有量が0.05質量%未満では十分な強度向上効果がなく、一方、2.0質量%を越えると押出加工性の低下を招く。Cu含有量は、望ましくは0.5〜1.5質量%である。
Ti:0.005〜0.2質量%
Tiは7000系アルミニウム合金の鋳造時に結晶粒を微細化して、押出形材の成形性(潰し加工性)を向上させる作用があり、0.005質量%以上添加する。一方、0.2質量%を越えるとその作用が飽和し、かつ粗大な金属間化合物が晶出して、かえって成形性を低下させる。
【0012】
Mn:0.01〜0.3質量%
Cr:0.01〜0.3質量%
Zr:0.01〜0.3質量%
Mn,Cr,Zrは7000系アルミニウム合金押出形材の再結晶を抑制して、結晶組織を微細再結晶又は繊維状組織とし、耐応力腐食割れ性を向上させる作用があるため、その1種又は2種以上を上記範囲内で添加する。
不可避不純物
7000系アルミニウム合金の主要な不可避不純物として、Fe及びSiが挙げられる。7000系アルミニウム合金の諸特性を低下させないため、Fe:0.35質量%以下、Si:0.3質量%以下に制限される。
【0013】
(アルミニウム合金部材の製造方法)
本発明に係る7000系アルミニウム合金部材は、上記組成を有し、複数の板から構成される7000系アルミニウム合金押出形材をプレス焼き入れで製造した後(通常、数十日〜数ヶ月の保管期間がある)、同形材の長手方向に沿った全部又は一部の領域に対し、0.4℃/秒以上の昇温速度で加熱し、200〜550℃の温度範囲に0秒を超え60秒以下保持し、次いで0.5℃/秒以上の冷却速度で冷却する復元処理を施し、復元処理後72時間以内に、前記領域に押出方向に対し垂直方向の潰し加工を、前記複数の板のうち最も大きく曲げ変形を受けた板の板厚をtとし、曲げ内側半径の最小値をRとしたとき、1.5mm≦t≦4.0mm、3t/2≦R≦10tとなる条件で施し、さらに部材全体に時効処理を施すことにより製造することができる。
【0014】
素材である押出形材は、典型的には対向配置された一対のフランジとそれらを連結する1又は2以上のウエブからなり、これには例えば断面口型、日型、目型などほか、さらにフランジがウエブの左右に突出したものなどが含まれる。フランジ又はウエブは板状であるが、これには多少湾曲したものも含まれる。この押出形材を、一対のフランジが互いに接近する方向に潰し加工した場合、ウエブが最も大きく(大きい曲率で)曲げ変形を受けた板となる。以下、潰し加工により最も大きく曲げ変形を受ける板をウエブと称することにする。
本発明において、押出形材のウエブの板厚tを1.5mm≦t≦4.0mmと比較的厚めに規定したのは、本発明に係る7000系アルミニウム合金部材の用途として、主としてドアビームやバンパーリインフォース等の自動車用補強部材を想定したためである。
【0015】
プレス焼き入れで製造された押出形材は、自然時効により金属間化合物が析出し、硬化しているが、潰し加工の前に前記復元処理を受けることで金属間化合物が再固溶し、押出形材は軟化し、成形性(潰し加工性)が向上する。これにより、押出形材を潰し加工したとき、曲げ変形したウエブの曲げ外側に亀裂が発生するのを防止し、同時に、同ウエブに発生する引張残留応力を低減することができる。
【0016】
前記復元処理において、昇温速度が0.4℃/秒未満では、昇温過程において金属間加工物の析出が促進され、復元処理の効果が得られない。保持温度(実体温度)が200℃未満では、自然時効で析出した金属間化合物が再固溶せず、むしろ析出が促進されて粗大化し、一方、保持温度が550℃を越えると、押出形材がO材化し、いずれにしても時効処理後に必要な強度が得られない。保持時間は少なくとも0秒を越えることが必要である。要するに、押出形材が保持温度に到達後、同温度に所定時間保持してから冷却してもよく、直ちに冷却してもよい。保持時間の上限は特に限定的ではないが、例えば60秒以内の短時間で済ます方が生産効率の点で望ましく、さらに10秒以内、5秒以内のより短時間が望ましい。加熱手段として例えば高周波誘導加熱装置又は硝石炉を利用することができる。
また、保持温度からの冷却速度が0.5℃/秒未満の緩冷却では、冷却過程で再び金属間化合物の析出が生じ、この復元処理の効果が弱まり又は失われる。なお、従来の復元処理では、冷却過程の冷却速度について特に考慮されていなかった。
【0017】
上記復元処理後、押出形材が自然時効により再硬化する前に潰し加工を行う。具体的には、復元処理後、72時間以内に潰し加工を行うことが望ましい。潰し加工後のウエブの曲げ内側半径の最小値をRとしたとき、1.5t≦Rを満たす潰し加工率であれば、曲げ変形したウエブの曲げ外側に亀裂が発生するのを防止でき、同時にウエブに発生する引張残留応力の増大が防止できる。しかし、R<1.5tでは、押出形材を潰し加工する前に上記復元処理を行っても、ウエブの曲げ外側に亀裂が発生するのを防止できない。同時に、ウエブに発生する引張残留応力が増大するのを防止できず、部材の耐応力腐食割れ性が低下する。一方、R>10tでは、押出形材を潰し加工する前に上記復元処理を行わなくても(押出形材がT1状態でも)亀裂の発生がない。
【0018】
潰し加工後の時効処理は、通常の7000系アルミニウム合金で行われている周知の条件でよい。この時効処理により、製品である7000系アルミニウム合金部材において、200MPa以上の強度(0.2%耐力値)が確保される。
上記製造方法で製造された7000系アルミニウム合金部材は、高強度材であるにも関わらず、潰し加工を施した領域のウエブに亀裂の発生がなく、ウエブの引張残留応力σsrと部材の0.2%耐力値σ0.2の比Y(σsr/σ0.2)が、7000系アルミニウム合金のMg含有量[Mg]とZn含有量[Zn] の合計X(=[Mg]+[Zn])との間で、下記式(1)を満たし、優れた耐応力腐食割れ性を示す。
Y≦−0.1X+1.4 ・・・(1)
【0019】
図1に示すグラフは、ZnとMgの合計含有量X(=[Zn]+[Mg])と、引張残留応力σrsと0.2%耐力σ0.2の比Y(σrs/σ0.2)からなるX−Y座標に、後述する実施例のデータをプロット(△、□)したものであり、図中のラインは、Y=−0.1X+1.4で表される直線である。図1において、△は実施例のNo.1〜6に相当し、これらは全てY≦−0.1X+1.4の領域に入り、表2に示すとおり、耐応力腐食割れ性に優れている。一方、□はNo.7〜14に相当し、全てY>−0.1X+1.4の領域に入り、表2に示すとおり、耐応力腐食割れ性が劣る。また、表2に示すとおり、Y≦−0.1X+1.4の領域に入るNo.1〜6はいずれもウエブに亀裂がなく、Y>−0.1X+1.4の領域に入るNo.7〜14はいずれもウエブに亀裂が生じている。
なお、図1において、Yの分母である0.2%耐力(σ0.2)は、後述する実施例に示すように、プレス焼き入れで製造された押出材を自然時効させた後、復元処理及び拡管加工を行うことなく時効処理した箇所の0.2%耐力である。
【実施例】
【0020】
表1に示す7000系アルミニウム合金を熱間押出成形し、押出直後にオンラインでファン空冷(プレス焼き入れ)し、図2Aに示すように、対向配置された一対のフランジ(内側フランジ1,外側フランジ2)と、これらを垂直に接続する2個のウエブ3,4からなる断面略口型(突出フランジあり)の押出形材を製造した。この押出形材はドアビームを想定したもので、高さ30.0mm、外側フランジ1の板厚4.0mm、幅40.0mm、内側フランジ2の板厚4.0mm、幅50.0mm、両ウエブ3,4の板厚2.0mm又は4.0mm、外側フランジ1は両ウエブ3,4から左右に各5mm突出し、内側フランジ2は両ウエブ3,4から左右に各10mm突出している。
【0021】
プレス焼き入れ後のNo.1〜14の押出形材を所定長さに切断して、No.1〜14のそれぞれについて2本ずつの試験材(押出形材)を採取し、室温で20日間放置して自然時効させた後、高周波誘導加熱装置を用い、表1に示す種々の昇温速度、到達温度(実体温度)、保持時間、及び冷却速度で復元処理を施した(No.11のみ施さず)。復元処理は試験材の長手方向に沿った一部領域(端部領域)にのみ施した。
【0022】
【表1】
【0023】
復元処理後、表1に示す時間経過した後、図2Bに示すように、試験材5を水平台6上に置き、水平台6の上方に配置された潰し加工用治具7で垂直にプレスし、同時に図示しない水平加工治具(特許文献3に記載された水平負荷用治具9参照)でウエブ3,4に内向きの負荷を加え、試験材5の復元処理した端部領域(No.11のみ復元処理していない領域)を、潰し加工用治具7の傾斜面7aで上下方向に潰し加工した。潰し加工により試験材5のウエブ3,4が曲げ変形し、中空部の内側に張り出した。この潰し加工において、潰し加工用治具7のストロークを一定とし、水平台6上で試験材5の長手方向(図2Bにおいて左右方向)の位置を調整することにより、No.1〜14の試験材5(各2本)の潰し加工率、すなわちウエブ3,4の曲げ半径を調整した。
潰し加工後、No.1〜14の試験材(各2本)全体に130℃×8時間の時効処理を施した。
時効処理後、No.1〜14の一方の試験材を用い、下記要領で引張試験、ウエブの曲げ外側の亀裂発生の有無の検査、ウエブの曲げ内側半径(最小値R)の測定、及びウエブの引張残留応力の測定を行った。また、No.1〜14のもう1つの試験材を用い、耐応力腐食割れ性試験を行った。その結果を表2に示す。
【0024】
(引張試験)
試験材5の復元処理していない領域からJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に規定する金属材料試験方法に準じて引張試験を行い、0.2%耐力(σ0.2)を測定した。
(亀裂発生の有無)
試験材5の潰し加工した領域のウエブ3,4を目視で観察し、ウエブ3,4の曲げ外側における亀裂発生の有無を検査した。亀裂は主として試験材5の潰し加工した端面近傍に生じていた。
(曲げ内側半径の最小値R)
試験材5の潰し加工した端面においてウエブ3,4の曲げ内側半径が最も小さくなることから、同端面においてウエブ3,4の曲げ内側半径を測定した。
【0025】
(ウエブの引張残留応力)
残留応力の測定法は切断法により次の手順で行った。測定対象位置として、図2に示す潰し加工開始位置A、端部位置B、及び中間位置Cを選定し(いずれも高さ中央位置)、これら測定対象位置表面をサンドペーパーで研磨後、アセトン洗浄し、この研磨部位に歪みゲージを瞬間接着剤で接着し、24時間室温放置後、歪みゲージのリード線を歪み計に接続してゼロ点設定をし、歪みゲージの周囲を金属のこぎりで10mm角に切断して応力開放し、切断後の歪み量εを計測し、次式にて残留応力値σrsを算出した。σrs=−E×ε(E;ヤング率)、ここでE=68894N/mmとした。
なお、No.1〜14の試験材全てにおいて、潰し加工開始位置Aで測定した引張残留応力値が最大値となった。これは、潰し加工開始位置Aにおいて最も材料の拘束が大きく、一方、端部位置B及び中間位置Cでは材料の拘束が比較的小さく、潰し加工による歪みが解放されたためではないかと推測される。従って、表2に記載した残留応力値σrsは、潰し加工開始位置Aで測定した値である。
【0026】
(耐応力腐食割れ性)
クロム酸促進法による耐応力腐食割れ試験を行った。潰し加工した試験材を用いて、90℃の試験溶液に最大16時間まで浸漬し、応力腐食割れを目視で観察した。また、試験溶液は、蒸留水に参加クロム36g、2クロム酸カリウム30g及び食塩3g(1リットルあたり)を加えて作製した。試験は1時間毎に試験材を溶液から取り出し、割れ発生の有無を確認し、割れ無し又は割れ発生までの時間が12時間以上であったものを耐応力腐食割れ性が優れる(○)と評価し、割れ発生までの時間が12時間未満であったものを劣る(×)と評価した。なお、応力腐食割れは全て潰し加工開始位置A(図2(b)参照)の付近で生じていた。
【0027】
【表2】
【0028】
残留応力値(σrs)と0.2%耐力値(σ0.2)から、両者の比Y(=σrs/σ0.2)を算出した。また、Zn含有量[Zn]とMg含有量[Mg]から、ZnとMgの合計含有量X(=[Zn]+[Mg])、及び前記式(1)の右辺(−0.1X+1.4)の値を算出した。以上の算出結果を基に、X,Yの値が前記関係式(1)を満たす場合を○と判定し、満たさない場合を×と判定した。以上の算出結果及び判定結果を表2に示す。
表1,2から、本発明に規定する合金組成を有し、本発明に規定する条件で復元処理及び潰し加工を行ったNo.1〜6の試験材は、潰し加工後のウエブに亀裂がなく、時効処理後の耐力値が200MPa以上で、かつY(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たし、いずれも耐応力腐食割れ性が優れる。
【0029】
一方、No.7の試験材は、Zn及びMgの含有量が過剰で、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
No.8の試験材は、復元処理の冷却速度が遅いため復元処理の効果が失われ、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
No.9の試験材は、復元処理の到達温度が低いため復元処理の効果がなく、時効処理により耐力が向上せず、比較的低Zn、Mgであるにも関わらず、潰し加工によりウエブに亀裂が入るのを防止できなかった。また、Y(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性も劣る。
【0030】
No.10の試験材は、R/tが小さすぎる(潰し加工率が高すぎる)ため、復元処理の条件は適正であったが、比較的低Zn,Mgであるにも関わらず、潰し加工による亀裂の発生を防止できなかった。また、Y(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性も劣る。
No.11の試験材は、復元処理を行っていないため、潰し加工によりウエブに亀裂が発生した。また、Y(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性も劣る。
No.12の試験材は、復元処理から潰し加工を行うまでの時間が長いため、復元処理の効果が失われ、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
【0031】
No.13の試験材は、復元処理の昇温速度が小さいため復元処理の効果が得られず、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
No.14の試験材は、復元処理の冷却速度が小さいため復元処理の効果が失われ、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
【符号の説明】
【0032】
1,2 フランジ
3,4 ウエブ
5 試験材(押出形材)
7 潰し加工用治具
図1
図2