【実施例】
【0020】
表1に示す7000系アルミニウム合金を熱間押出成形し、押出直後にオンラインでファン空冷(プレス焼き入れ)し、
図2Aに示すように、対向配置された一対のフランジ(内側フランジ1,外側フランジ2)と、これらを垂直に接続する2個のウエブ3,4からなる断面略口型(突出フランジあり)の押出形材を製造した。この押出形材はドアビームを想定したもので、高さ30.0mm、外側フランジ1の板厚4.0mm、幅40.0mm、内側フランジ2の板厚4.0mm、幅50.0mm、両ウエブ3,4の板厚2.0mm又は4.0mm、外側フランジ1は両ウエブ3,4から左右に各5mm突出し、内側フランジ2は両ウエブ3,4から左右に各10mm突出している。
【0021】
プレス焼き入れ後のNo.1〜14の押出形材を所定長さに切断して、No.1〜14のそれぞれについて2本ずつの試験材(押出形材)を採取し、室温で20日間放置して自然時効させた後、高周波誘導加熱装置を用い、表1に示す種々の昇温速度、到達温度(実体温度)、保持時間、及び冷却速度で復元処理を施した(No.11のみ施さず)。復元処理は試験材の長手方向に沿った一部領域(端部領域)にのみ施した。
【0022】
【表1】
【0023】
復元処理後、表1に示す時間経過した後、
図2Bに示すように、試験材5を水平台6上に置き、水平台6の上方に配置された潰し加工用治具7で垂直にプレスし、同時に図示しない水平加工治具(特許文献3に記載された水平負荷用治具9参照)でウエブ3,4に内向きの負荷を加え、試験材5の復元処理した端部領域(No.11のみ復元処理していない領域)を、潰し加工用治具7の傾斜面7aで上下方向に潰し加工した。潰し加工により試験材5のウエブ3,4が曲げ変形し、中空部の内側に張り出した。この潰し加工において、潰し加工用治具7のストロークを一定とし、水平台6上で試験材5の長手方向(
図2Bにおいて左右方向)の位置を調整することにより、No.1〜14の試験材5(各2本)の潰し加工率、すなわちウエブ3,4の曲げ半径を調整した。
潰し加工後、No.1〜14の試験材(各2本)全体に130℃×8時間の時効処理を施した。
時効処理後、No.1〜14の一方の試験材を用い、下記要領で引張試験、ウエブの曲げ外側の亀裂発生の有無の検査、ウエブの曲げ内側半径(最小値R)の測定、及びウエブの引張残留応力の測定を行った。また、No.1〜14のもう1つの試験材を用い、耐応力腐食割れ性試験を行った。その結果を表2に示す。
【0024】
(引張試験)
試験材5の復元処理していない領域からJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に規定する金属材料試験方法に準じて引張試験を行い、0.2%耐力(σ
0.2)を測定した。
(亀裂発生の有無)
試験材5の潰し加工した領域のウエブ3,4を目視で観察し、ウエブ3,4の曲げ外側における亀裂発生の有無を検査した。亀裂は主として試験材5の潰し加工した端面近傍に生じていた。
(曲げ内側半径の最小値R)
試験材5の潰し加工した端面においてウエブ3,4の曲げ内側半径が最も小さくなることから、同端面においてウエブ3,4の曲げ内側半径を測定した。
【0025】
(ウエブの引張残留応力)
残留応力の測定法は切断法により次の手順で行った。測定対象位置として、
図2に示す潰し加工開始位置A、端部位置B、及び中間位置Cを選定し(いずれも高さ中央位置)、これら測定対象位置表面をサンドペーパーで研磨後、アセトン洗浄し、この研磨部位に歪みゲージを瞬間接着剤で接着し、24時間室温放置後、歪みゲージのリード線を歪み計に接続してゼロ点設定をし、歪みゲージの周囲を金属のこぎりで10mm角に切断して応力開放し、切断後の歪み量εを計測し、次式にて残留応力値σrsを算出した。σrs=−E×ε(E;ヤング率)、ここでE=68894N/mm
2とした。
なお、No.1〜14の試験材全てにおいて、潰し加工開始位置Aで測定した引張残留応力値が最大値となった。これは、潰し加工開始位置Aにおいて最も材料の拘束が大きく、一方、端部位置B及び中間位置Cでは材料の拘束が比較的小さく、潰し加工による歪みが解放されたためではないかと推測される。従って、表2に記載した残留応力値σrsは、潰し加工開始位置Aで測定した値である。
【0026】
(耐応力腐食割れ性)
クロム酸促進法による耐応力腐食割れ試験を行った。潰し加工した試験材を用いて、90℃の試験溶液に最大16時間まで浸漬し、応力腐食割れを目視で観察した。また、試験溶液は、蒸留水に参加クロム36g、2クロム酸カリウム30g及び食塩3g(1リットルあたり)を加えて作製した。試験は1時間毎に試験材を溶液から取り出し、割れ発生の有無を確認し、割れ無し又は割れ発生までの時間が12時間以上であったものを耐応力腐食割れ性が優れる(○)と評価し、割れ発生までの時間が12時間未満であったものを劣る(×)と評価した。なお、応力腐食割れは全て潰し加工開始位置A(
図2(b)参照)の付近で生じていた。
【0027】
【表2】
【0028】
残留応力値(σrs)と0.2%耐力値(σ
0.2)から、両者の比Y(=σrs/σ
0.2)を算出した。また、Zn含有量[Zn]とMg含有量[Mg]から、ZnとMgの合計含有量X(=[Zn]+[Mg])、及び前記式(1)の右辺(−0.1X+1.4)の値を算出した。以上の算出結果を基に、X,Yの値が前記関係式(1)を満たす場合を○と判定し、満たさない場合を×と判定した。以上の算出結果及び判定結果を表2に示す。
表1,2から、本発明に規定する合金組成を有し、本発明に規定する条件で復元処理及び潰し加工を行ったNo.1〜6の試験材は、潰し加工後のウエブに亀裂がなく、時効処理後の耐力値が200MPa以上で、かつY(=σrs/σ
0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たし、いずれも耐応力腐食割れ性が優れる。
【0029】
一方、No.7の試験材は、Zn及びMgの含有量が過剰で、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ
0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
No.8の試験材は、復元処理の冷却速度が遅いため復元処理の効果が失われ、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ
0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
No.9の試験材は、復元処理の到達温度が低いため復元処理の効果がなく、時効処理により耐力が向上せず、比較的低Zn、Mgであるにも関わらず、潰し加工によりウエブに亀裂が入るのを防止できなかった。また、Y(=σrs/σ
0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性も劣る。
【0030】
No.10の試験材は、R/tが小さすぎる(潰し加工率が高すぎる)ため、復元処理の条件は適正であったが、比較的低Zn,Mgであるにも関わらず、潰し加工による亀裂の発生を防止できなかった。また、Y(=σrs/σ
0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性も劣る。
No.11の試験材は、復元処理を行っていないため、潰し加工によりウエブに亀裂が発生した。また、Y(=σrs/σ
0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性も劣る。
No.12の試験材は、復元処理から潰し加工を行うまでの時間が長いため、復元処理の効果が失われ、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ
0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
【0031】
No.13の試験材は、復元処理の昇温速度が小さいため復元処理の効果が得られず、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ
0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
No.14の試験材は、復元処理の冷却速度が小さいため復元処理の効果が失われ、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ
0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。