(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合の前記外板のYRの値と、耐震性との関係を表す近似式を算出し、前記近似式に基づいて、前記外板に用いるYRの値の上限値を設定する、請求項3に記載の構造物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
(実施形態)
図1、
図2は、実施形態における橋脚2を示す。
図1は、橋脚2の斜視図であり、
図2は、橋脚2の半分を切り欠いた切欠き斜視図である。
【0013】
図1、2に示すように、実施形態の橋脚2は、一般的な鋼製橋脚と同様の形状を有するものであって、外板4と、リブ6と、ダイヤフラム8(
図2)とを備える。「橋脚」とは、桁橋、吊り橋などの一般的な橋梁の脚全般を指し、脚のタイプは単柱、門型なども含む。また、斜張橋のタワーと呼ばれる上部構造も含む。
【0014】
外板4は、箱型断面を有する板状の部材である。本実施形態の外板4は正方形断面を有する。
【0015】
リブ6は、外板4の内壁面のそれぞれに複数設けられた補剛用の板状の部材である。本実施形態のリブ6は1つの内壁面に4枚ずつ設けられており、合計16枚設けられている。それぞれのリブ6は鉛直方向、すなわち外板4の長手方向Aに延びている。また複数のリブ6は水平方向、すなわち外板4の短手方向Bに間隔を空けて設けられている。
【0016】
ダイヤフラム8は、外板4の内周に接触するように延びた補剛用の板状の部材である。本実施形態のダイヤフラム8は外板4の長手方向Aに間隔を空けて4枚設けられている。
【0017】
外板4、リブ6およびダイヤフラム8はともに鋼材で構成される。特に外板4、リブ6およびダイヤフラム8は「道路橋示方書」に記載の同一規格の鋼材で構成される。道路橋示方書に記載の鋼材規格には例えば、SM400、SM490Yなどがある。
【0018】
本発明者らは、
図1、2に示す橋脚2に関して、特に外板4およびリブ6の耐震性に寄与する特性を見出すために解析を行った。具体的には、外板4とリブ6それぞれの降伏強度YS、引張強度TS、降伏比YR(=YS/TS×100)を規格の範囲内で変化させて、シミュレーション解析を行った。その結果に基づいて橋脚2の耐震性を評価した。以下、実施例について説明する。
【0019】
まず、橋脚2の寸法に関して2つのモデルを用いた。具体的には、次の表1に示すようなモデル1とモデル2の寸法を用いた。
【0021】
Bf、Bwは、
図1に示す外板4の短手方向Bの長さ、tf、twは、外板4の板厚、brは、リブ6の水平方向の長さ、trは、リブ6の板厚、Lは、外板4およびリブ6の長手方向Aの長さ、aは、ダイヤフラム8の間隔(
図2)である。
【0022】
またモデル1、2では、鋼材の幅厚比パラメータR
Rを0.3〜0.5の範囲とした。幅圧比パラメータR
Rは、以下の数1により算出される。
【0024】
br、trは、前述の通りである。σ
Yは鋼材の降伏応力、Eは鋼材のヤング率、μは鋼材のポアソン比(=0.3)である。nは、ダイヤフラム8によって区切られる橋脚2の区画数(パネル数)である。
【0025】
(実施例1)
実施例1では、
図1、2に示した橋脚2を用いて、
図3に示す条件のもとで耐震性の解析を行った。実施例1では特に、橋脚2における外板4の望ましい特性を調査した。耐震性の評価における方法はプッシュオーバーや正負交番の漸増型など様々あるが,本件では一番基礎的な方法であるプッシュオーバーを用いた。具体的には,FEM解析を用いて,
図1,2に示す橋脚2に対して,上端部に1方向に矯正変位P(
図1)を付与した。
【0026】
図3に示すように、実施例1では3つのパターンで解析を行った。パターン1では、橋脚2の鋼材規格としてSM400を用い、パターン2、3では、SM490Yを用いた。
図3の各欄の内容について、左側から順に説明する。
【0027】
「鋼材規格」は、道路橋示方書に記載の鋼材の規格、すなわち鋼材の種類・記号である。
「YS下限値」は、道路橋示方書に記載の鋼材規格ごとに定められたYS値の下限値である(単位:MPa)。
「TS上限値」は、道路橋示方書に記載の鋼材規格ごとに定められたTS値の上限値である(単位:MPa)。
「YS下限値/TS上限値」は、YS下限値をTS上限値で除した値である(単位:%)。
「モデル」は、前述した橋脚2の寸法に関するモデル1、2のいずれを使用したかを示す。
【0028】
「適用鋼材」は、外板4とリブ6のそれぞれに関して、同じ鋼材規格の中で複数種類あるうちのどの種類の鋼材を適用したかを示す。
図3に示すように、実施例1では、外板4は同じ鋼材規格の中でも複数種類の鋼材(A〜K)を適用し、リブ6は同じ鋼材規格の1種類のみの鋼材(A)を適用した。外板4とリブ6の両方に同じ種類(A)の鋼材を用いたものが比較例であり、網掛けで表示している。
【0029】
「特性(外板)」はそれぞれ、外板4の実際のYS値、TS値、YR値(=YS値/TS値)である(単位:MPa、MPa、%)。
「特性(リブ)」はそれぞれ、リブ6の実際のYS値、TS値、YR値である(単位:MPa、MPa、%)。
【0030】
「外板YR比」は、「特性(外板)」の「YR」の欄の値を、「YS下限値/TS上限値」の値で除したものである(単位なし)。すなわち、「外板YR比」は、鋼材規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合の外板4のYRの値である。
【0031】
「耐震性」は、耐震性を示す指標の値であって(単位なし)、
図4に示す方法により求められる。
図4は、実施例1の解析結果より得られた橋脚2の上端部の水平変位δおよび水平荷重Pを、降伏水平変位δ
Yおよび降伏水変位荷重P
Y(いずれも各パターンの外板4の降伏応力から算出)でそれぞれ除して無次元化し、プロットしたものである。これより、
図4に示す水平荷重―水平変位曲線を得た。
図4の曲線のうち実線が比較例であり、点線が実施例である。
【0032】
図4に示すように、横軸と縦軸の値がともに1.0の基準点に「●」をプロットし、ピークを過ぎた後のピーク荷重の95%まで荷重が低下した点に▲をプロットした。水平荷重―水平変位曲線がピークを過ぎ、ピーク荷重の95%まで荷重が低下した点の水平変位としてδ
95を求め、同曲線におけるピーク荷重の際の水平変位としてδ
maxを求めた。さらに、δ
95/δ
maxを求め、その値の比較例に対する比δ
ratioを、耐震性を示す指標とした。
【0033】
図3において、δ
95/δ
maxで求められる耐震性の値は、比較例の値である1.0よりも大きいほど、耐震性が高いことを意味する。「耐震性評価」の欄は、耐震性の値が1.00よりも大きい場合を「○」と記載し、1.00よりも小さい場合を「△」と記載した。
【0034】
図3の結果に示すように、特性(外板)のYRの値が特性(リブ)のYRの値よりも小さい場合には、耐震性の値が1.00よりも大きくなっており、高い耐震性が得られることがわかる。このように、外板4のYRの値をリブ6のYRの値よりも小さく設定することで、高い耐震性を実現することができる。
【0035】
この原理について説明する。まず、橋脚2の耐震性とは、倒壊しにくさを意味しており、橋脚2としての変形能力(靭性)が大きく、かつ、局部座屈による崩壊が起こりにくいことが重要である。変形能力を向上させるには、地震という外部エネルギーを吸収するために、外板4のできるだけ広い範囲で弾塑性変形させることが重要である。外板4の局所に弾塑性変形が集中してしまうと、外板4の広い範囲に変形が及ぶ(ひずみが分布する)前に、その局所を起点に最大荷重を迎え、その後、一気に倒壊につながる。そのため、外板4にはひずみの分散しやすさが求められ、すなわち、YRの値が低い(=加工硬化が高い)鋼材が耐震性向上に優位になる。
【0036】
また
図3の結果に示すように、外板YR比と耐震性の間に強い相関性があることがわかった。具体的には、外板YR比の値が比較例の値である1.34よりも小さい場合には、耐震性の値が1.00よりも大きくなり、高い耐震性が得られることがわかる。
【0037】
この点に関して、本発明者らはさらに鋭意検討を行った。具体的には
図5を用いて説明する。
【0038】
図5は、実施例1の解析結果に関して、横軸に外板YR比、縦軸に耐震性をプロットした表である。
図5に示すように、外板YR比の値が小さくなるにつれて耐震性が向上する傾向にあることがわかる。本発明者らは、プロットした値に関する近似式X1を算出した。本実施例1では、一般的な直線近似法により近似式X1を算出した。横軸をx、縦軸をyとしたとき、近似式X1はy=−1.086x+2.529であった。
【0039】
求められる耐震性の値はケースによって様々であり、その耐震性の値を満たすような外板4の材質を決定できるようにすることが望ましい。本実施例1では、近似式X1を算出することで、耐震性の値およびその値を達成するための外板YR比を算出することができる。すなわち、求められる耐震性y1の値に基づいて近似式X1から対応する外板YR比x1を算出することができる。算出した外板YR比x1よりも小さい外板YR比を有する外板4の材料を選択すれば、求められる耐震性の値を満足することができる。このような設計方法によれば、望ましい外板4の材料の種類を簡単に選択しながら、高い耐震性を実現することができる。
【0040】
例えば、求められる耐震性の値を1.1とした場合、
図5に示す近似式X1に基づけば外板YR比を1.32以下に設定すればよい。また、求められる耐震性の値を1.15とした場合、外板YR比を1.27以下に設定すればよい。さらに、求められる耐震性の値を1.22とした場合、外板YR比を1.22以下に設定すればよい。このような外板YR比の設定によれば、簡便な方法で耐震性を向上させることができる。
【0041】
上述したように、本実施形態の橋脚2は、箱型断面を有する外板4と、外板4の内壁面のそれぞれに外板4の長手方向Aに延びるように複数設けられたリブ6とを備える。当該橋脚2およびその製造方法によれば、外板4とリブ6に同一規格(道路橋示方書に準拠)の鋼材を用いるとともに、外板4の鋼材の方がリブ6の鋼材よりもYRの値が小さいものを用いている。このような構成および方法によれば、橋脚2の耐震性を向上させることができる。
【0042】
また本実施形態の橋脚2およびその製造方法によれば、外板4として、YRの値が、規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合に1.32以下、好ましくは1.27以下、より好ましくは1.22以下となる鋼材を用いている。このような構成および方法によれば、橋脚2の耐震性をさらに向上させることができる。
【0043】
また本実施形態の橋脚2の製造方法は、鋼材規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合の外板4のYRの値と耐震性の関係を表す近似式を算出し、近似式に基づいて、外板4に用いるYRの値の上限値を設定する。このような方法によれば、外板4の材料を簡易な方法により選択しながら、高い耐震性を実現することができる。
【0044】
(実施例2)
次に、実施例2では、
図1、2に示した橋脚2を用いて、
図6に示す条件のもとで耐震性の解析を行った。実施例2では特に、橋脚2におけるリブ6の望ましい特性を調査した。評価方法については実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0045】
図6に示すように、実施例2では3つのパターンで解析を行った(パターン4−6)。
【0046】
「適用鋼材」の欄に示すように、実施例2では、外板4は同じ鋼材規格で1種類のみの鋼材(A)を用い、リブ6は同じ鋼材規格の中でも複数種類の鋼材(A、F、H、J、M、N、O)を用いた。外板4とリブ6の両方に同じ種類(A)の鋼材を用いたものが比較例であり、網掛けで表示している。
【0047】
「リブYS比」は、「特性(リブ)」の「YS」の欄の値を、「YS下限値」の欄の値で除したものである(単位なし)。すなわち、「リブYS比」は、鋼材規格におけるYS下限値を1とした場合のリブ6のYSの値である。
【0048】
「耐震性」の欄は、実施例1と同様に耐震性の指標を示す欄であるが、実施例1とは算出方法が異なる。具体的には、
図4に示すグラフにおいて、ピーク荷重発生点における最大荷重P
maxに関して、比較例の値を1.00としてそれぞれのパターンの最大荷重P
maxを耐震性として算出した(単位なし)。
【0049】
図6の結果に示すように、リブYS比と耐震性の間に強い相関性があることがわかった。具体的には、リブYS比の値を比較例の値である1.26よりも大きく、すなわち1.27以上に設定することで、耐震性の値が1.00よりも大きくなり、高い耐震性が得られることがわかる。特に、リブYS比の値を1.3以上に設定することで、材料のばらつきを考慮しながら、高い耐震性をより確実に得られる。
【0050】
また
図6の結果に示すように、「特性(リブ)」の「YS」の欄の値が「特性(外板)」の「YS」の欄の値よりも大きい場合には、耐震性の欄の値が1.00よりも大きくなっており、高い耐震性が得られることがわかる。このように、リブ6のYSの値を外板4のYSの値よりも大きく設定することで、高い耐震性を実現することができる。
【0051】
この原理について説明する。前述したように、橋脚2の耐震性としては、橋脚2としての変形能力(靭性)に加えて、局部座屈による崩壊が起こりにくいことが重要である。局部座屈を生じにくくするためには、外板4にリブ6を溶接したパネルとしての剛性が重要である。リブ6は外板4を補剛する機能であるが、塑性変形が発生するような大きな地震の際、リブ6付きの外板4(パネル)が座屈し始めると、最初に降伏が懸念されるのが
図7に示すようなパネルの中立軸10から最も遠いリブ6の先端6aである。
図7は橋脚2の横断面図である。リブ6がひとたび塑性変形すると、初期不整によりリブ6が横倒れを起こして一気に変形してしまい、リブ6は補剛の機能を失う。これにより、外板4の座屈が進行し、その局所を起点に橋脚2が倒壊してしまう。よって、リブ6が補剛の機能を発揮するためには、剛性を大きく保てる弾性域の大きい高YS(高YR)の鋼材を用いることが有効となる。また、リブ6の高YS化は最大荷重の向上にもつながるため、エネルギー吸収量の増加にも効果を発揮することができる。
【0052】
上述したように、本実施形態の橋脚2およびその製造方法によれば、リブ6の鋼材の方が外板4の鋼材よりもYSの値が大きいものを用いている。このような構成・方法によれば、橋脚2の耐震性を向上させることができる。
【0053】
また本実施形態の橋脚2およびその製造方法によれば、リブ6として、YSの値が、鋼材規格におけるYS下限値を1とした場合に1.27以上、好ましくは1.3以上となる鋼材を用いることで、橋脚2の耐震性をより確実に向上させることができる。
【0054】
(実施例3)
次に、実施例3では、
図1、2に示した橋脚2を用いて、
図8に示す条件のもとで耐震性の解析を行った。実施例3では特に、橋脚2における外板4とリブ6の組合せについて調査した。評価方法については実施例1、2と同様であるため、説明を省略する。
【0055】
図8に示すように、実施例3では3つのパターンで解析を行った(パターン7−9)。
【0056】
「適用鋼材」の欄に示すように、実施例3では、外板4は同じ鋼材規格の中で複数種類の鋼材(A、B、H)を用い、リブ6も同じ鋼材規格の中で複数種類の鋼材(A、J、M)を用いた。外板4とリブ6の両方に同じ種類(A)の鋼材を用いたものが比較例であり、網掛けで表示している。これより、外板4およびリブ6の組合せと耐震性の関係を調査した。
【0057】
「外板」の「1.32以下」の欄は、「YR比」の欄の値が1.32以下を満たすかどうかを判定したものである。「YR比」の欄の値が1.32以下の場合は「○」と表記した。
「リブ」の「1.27以下」の欄は、「YS比」の欄の値が1.27以上を満たすかどうかを判定したものである。「YS比」の欄の値が1.27以上の場合は「○」と表記し、1.27未満の場合は「△」と表記した。
【0058】
「耐震性」の欄は、実施例1と同じ算出方法で算出した値を示す。
【0059】
図8の結果に示すように、外板YR比が1.32以下、かつ、リブYS比が1.27以上の鋼材を用いることで、実施例1、2の結果よりも耐震性をより向上できることがわかる。すなわち、実施例1で検証した外板YR比の好ましい値と、実施例2で検証したリブYS比の好ましい値を組み合わせることで、耐震性の相乗的な向上効果を奏することができた。
【0060】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載等に基づいて上述の実施形態に種々の変更を加えてもよい。例えば、
図1、2に示す橋脚2のサイズ、リブ6およびダイヤフラム8の枚数などはあくまで例示であって、これに限定されない。