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特許6795508Mn4CaO4核構造を含む水分解触媒、その製造方法及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795508
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】Mn4CaO4核構造を含む水分解触媒、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 19/00 20060101AFI20201119BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20201119BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20201119BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20201119BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20201119BHJP
   C25B 11/06 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C07F19/00
   B01J31/22 M
   B01J35/02 J
   B01J37/04 102
   B01J37/12
   C25B11/06 A
【請求項の数】21
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-541087(P2017-541087)
(86)(22)【出願日】2016年2月2日
(65)【公表番号】特表2018-507843(P2018-507843A)
(43)【公表日】2018年3月22日
(86)【国際出願番号】CN2016073203
(87)【国際公開番号】WO2016124133
(87)【国際公開日】20160811
【審査請求日】2019年1月30日
(31)【優先権主張番号】201510065238.7
(32)【優先日】2015年2月6日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】506281853
【氏名又は名称】中国科学院化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】張純喜
(72)【発明者】
【氏名】陳長輝
【審査官】 神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/154436(WO,A1)
【文献】 Science,2015年 5月 8日,Vol.348,pp.690-693
【文献】 Chemical Reviews,2006年,Vol.106, No.11,pp.4455-4483
【文献】 Journal of the American Chemical Society,2009年,Vol.131,pp.18238-18239
【文献】 Chemical Communications,2014年,Vol.50,pp.9263-9265
【文献】 Chemical Physics Letters,2015年10月13日,Vol.640,pp.23-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
B01J
C25B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iで表わす[Mn4CaO4](R1CO2)8(L1)(L2)(L3)類化合物であり、前記化合物が、四つのMnイオンと、一つのCa2+イオンと、を含み、これらが、四つのO2−イオンにより非対称の[Mn4CaO4]異核金属クラスター骨格核と結束される;[Mn4CaO4]クラスターの外郭リガンドが、八つのカルボン酸アニオン、及び三つの中性リガンドL1、L2、L3から提供される;
【化1】

その中、
R1が、H或いはC1−8直鎖または分岐アルキル基から選ばれる;
L1、L2、L3三つのリガンドが、同じまたは異なるが、それぞれ独立的にカルボン酸分子、ピリジン、イミダゾール、ピラジン、キノリン、イソキノリン、または水分子、アルコール分子、ケトン類、ニトリル類、エステル類の中性小分子から選ばれる;
そのうち、四つのMnイオンの原子価が、各自+3、+3、+4、+4価であり、全体のクラスターは電気的に中性をあらわすことを特徴とする[Mn4CaO4](R1CO2)8(L1)(L2)(L3)類化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物において、そのうちのニトリル類は、アセトニトリルから選ばれることを特徴とする化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物において、前記カルボン酸アニオン中のカルボン酸が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヘキサン酸から選ばれることを特徴とする化合物。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物において、R1が、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基であることを特徴とする化合物。
【請求項5】
請求項1−4のいずれの一項に記載の化合物において、前記化合物は、以下の化合物:
[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t―ブチル基、L1=ピリジン、L2=L3=ピバル酸;
[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t―ブチル基、L1=L2=ピリジン、L3=ピバル酸;
[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t―ブチル基、L1=イソキノリン、L2=L3=ピバル酸から選ばれることを特徴とする化合物。
【請求項6】
請求項5に記載の化合物において、前記化合物は、以下の化合物:
[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t―ブチル基、L1=ピリジン、L2=L3=ピバル酸であり、その単結晶が、単斜晶系であり、空間群が、P21/c1であり、セルパラメータが、a=29.317(7)Å、b=18.894(4)Å、c=29.903(7)Å、α=90.00°、β=104.609(4)°、γ=90.00°、Z=8であり、体積が、16028(7)Å3であり、その構造が、以下の式I−1の示すとおり:
【化2】

[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t−ブチル基、L1=L2=ピリジン、L3=ピバル酸、その単結晶が、単斜晶系であり、空間群が、P21/c1であり、セルパラメータが、a=21.969(4)Å、b=25.326(5)Å、c=29.236(6)Å、α=90.00°、β=102.70(3)°、γ=90.00°、Z=8であり、体積が、15869(6)Å3であり、その構造が以下の式I−2の示すとおり:
【化3】

[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t−ブチル基、L1=イソキノリン、L2=L3=ピバル酸であり、単結晶が、単斜晶系であり、空間群が、R−3であり、セルパラメータが、a=38.379(5)Å、b=38.379(5)Å、c=35.682(7)Å、α=90.00°、β=90.00°、γ=120.00°、Z=18であり、体積が、45517(12)Å3であり、其の構造が、以下の式I−3の示すとおり:
【化4】

から選ばれる何れの一つであることを特徴とする化合物。
【請求項7】
請求項1−6の何れの一項に記載の式Iが示す[Mn4CaO4](RCO2)8(L1)(L2)(L3)類化合物の製造方法であり、
【化5】

その中、
R1が、H或いはC1−8直鎖または分岐アルキル基から選ばれ;
L1、L2、L3三つのリガンドが、同じまたは異なるが、それぞれ独立的にカルボン酸分子、ピリジン、イミダゾール、ピラジン、キノリン、イソキノリン、または水分子、アルコール分子、ケトン類、ニトリル類、エステル類の中性小分子から選ばれる;
前記方法では、
酸、酸化剤、Mn2+及びCa2+塩のモル比を、x:y:1:1とするが、そのうち、x=10〜120、y=1〜10であり、アセトニトリル溶液中で10〜60分間加熱反応させ、褐色溶液を製造し、濾過により沈殿物を除去して、溶液を0°Cで結晶させて、褐色結晶が得られる第一歩;と、
第一歩で得られた褐色結晶体をエステル類溶剤で溶解させる共に、有機リガンドL1、L2、L3を添加し結晶を経て最終生成物が得られる第二歩と、を
含むことを特徴とする[Mn4CaO4](RCO2)8(L1)(L2)(L3)類化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記第一歩中の酸が、有機カルボン酸から選ばれ、x=20−100,y=2−8であることを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の製造方法において、二価マンガン塩Mn2+が、Mn2+のカルボン酸塩Mn(ClO4)2、MnSO4、Mn(NO3)2、Mn(CF3SO3)2であり;
そのうち、カルボン酸塩中のカルボン酸アニオンが,蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、イソ酪酸イオン、吉草酸イオン、イソ吉草酸イオン、ピバル酸イオン、ヘキサン酸イオンであり;
前記Ca2+塩が、カルシウムのカルボン酸塩Ca(ClO4)2、Ca(NO3)2、Ca(CF3SO3)2であり;
そのうち、カルボン酸塩中のカルボン酸アニオンが、蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、イソ酪酸イオン、吉草酸イオン、イソ吉草酸イオン、ピバル酸イオン、ヘキサン酸イオンから選ばれることを特徴とする製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法において、前記Mn2+のカルボン酸アニオンが、酢酸イオン、ピバル酸イオンから選ばれ、前記Ca2+のカルボン酸アニオンが、酢酸イオン、ピバル酸イオンから選ばれることを特徴とする製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の製造方法において、前記Mn2+のカルボン酸塩が、0〜6個の結晶水を含み、
前記Ca2+のカルボン酸塩が、0〜6個の結晶水を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法において、前記Mn2+のカルボン酸塩が、1〜5個の結晶水を含み、
前記Ca2+のカルボン酸塩が、1〜5個の結晶水を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の製造方法において、前記Mn2+のカルボン酸塩が、2〜4個の結晶水を含み、
前記Ca2+のカルボン酸塩が、2〜4個の結晶水を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項14】
請求項7−13の何れの一項に記載の製造方法において、第一歩に記載の酸化剤が、過マンガン酸アニオン型の酸化剤であり;
第一歩中に記載の酸が、有機カルボン酸から選ばれることを特徴とする製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法において、第一歩中に記載の酸化剤が、テトラブチル過マンガン酸アンモニウムであり;
前記酸が、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸イオン、ヘキサン酸から選ばれることを特徴とする製造方法。
【請求項16】
請求項7−13の何れの一項に記載の製造方法において、
第一歩のアセトニトリル溶剤の体積は、カルシウム塩1ミリモル当たりに使われるアセトニトリルが60〜100mlであり;
第二歩の再結晶中のエステル類有機溶剤が、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸プロピルから選ばれることを特徴とする製造方法。
【請求項17】
請求項7−13の何れの一項に記載の製造方法において、
反応温度は、70℃〜90℃であり;
反応時間は、10−60分間であることを特徴とする製造方法。
【請求項18】
請求項1−6の何れの一項に記載の式Iで表わす[Mn4CaO4](RCO2)8(L1)(L2)(L3)類化合物を水分解の触媒として応用することを特徴とする化合物。
【請求項19】
請求項18の化合物において、前記化合物は、電極表面に用いられが、酸化剤の存在下で、水分解に対して触媒作用を及ぼし、酸素・プロトン・電子を放出することを特徴とする化合物
【請求項20】
請求項19の化合物において、前記酸化剤は、安定した酸化剤から選ばれるが、光誘起または電気化学により生じる瞬間酸化剤であることを特徴とする化合物
【請求項21】
水分解の触媒であり、請求項1−6の何れの一項に記載の式Iが示す[Mn4CaO4](RCO2)8(L1)(L2)(L3)類化合物を含むことを特徴とする水分解の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新型バイオミメティック水分解触媒(Biomimetic water splitting catalyst)に関するものである。具体的に、本発明は、「Mn4CaO4」核構造を含む水分解触媒、その製造方法及びその使用に関するものである。当該化合物は、水分解に対して触媒作用を及ぼす人工触媒として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
エネルギー危機と環境汚染問題とは、今現在、人間社会の持続可能な発展における二つの重大な課題となっている。太陽エネルギーは、無尽蔵、且つ汚染のないクリーンエネルギーであり、水は、地球上に存在する最も豊富な資源の一つである。仮に、太陽エネルギーを使って、水を効率高く・安全に分解させることで酸素が放出され、電子・プロトンが獲得され、更に電気エネルギーまたは水素エネルギーを造り出せるならば、人間社会が面しているエネルギー危機と、環境汚染問題とを根本的に解決することが可能となる。水は、熱力学的に非常に安定した化学物質であるため、水を効率高く・安全に分解させるには適切な水分解触媒が必要となる。最近、世界研究グループの中には、Ru及びIr等の金属イオンと、複雑なリガンドとを利用した水分解機能を有する人工触媒の合成に成功した事例がある。但し、いままで報道された全ての触媒は、水分解に対する触媒効率が低いだけではなく、強酸化剤(例えば、Ce(NH4)2(NO3)6)の存在だけで水を分解することができる。そして、これら既知の人工触媒は、貴金属、または複雑なリガンドを必要とするため、製造コストも高く、環境汚染にも繋がりやすいので、普及・使用とは距離の遠いものである。どのように、高効率・安価・環境に優しい水分解触媒を獲得するかは、未だ解決待ちの科学難題となっている。
【0003】
光合成生物の光学系IIは、自然界唯一の高効率、且つ安全に安価金属イオン(Mn、Ca)を利用して、水の分解反応を実現させ、電子・プロトンを獲得するとともに、酸素を放出する生物学系である。光学系IIが、高効率、且つ安全に水を分解させるキーポイントは、独特なMn4Caクラスター生物水分解触媒を有するからである。最近の高分解能による光学系IIの三次元結晶構造に対する研究では、当該生物水分解触媒の核は、一つのMn3CaO4キュバンと一つのMnイオンとがO2-ブリッジにより結合され非対称の「Mn4CaOn」(nの値は酸化剤の酸化還元状態に左右されるもので、4でも5でもよい)異核金属クラスターを構成し、その外郭には六つのカルボギシル基、一つのイミダゾールと四つの水分子からリガンドが提供される。水分解中に、当該生物触媒は五つの異なる状態(S0、S1、S2、S3、S4)を経過する。その内、黒暗安定状態(S1状態)での四つのマンガンイオンの価数はそれぞれに(+3、+3、+4、+4)である。光学系II中の水分解生物触媒センターは安価、高効率、環境に優しい人工水分解触媒に理想的な青写真を提供した。現在、どのように生物水分解触媒センターに類似するものを化学合成させるかは科学界における先端課題とハドル高い科学難題となっており、未だ成功事例は報道されてない。
【0004】
本発明が提供する新たな方法: 安価な金属イオン(Mn2+、Ca2+イオン)と、簡単な有機カルボン酸とMnO4- とを出発物質として、二つのステップで「Mn3CaO4」キュバンと一つのMnイオンとが一つのO2-ブリッジにより結合される非対称の「Mn4CaO4」核構造を合成し、「Mn4CaO4」外郭のリガンドは八つのカルボキギシル基アニオンと三つの交換可能な中性リガンドからなる。その中、四つのマンガンイオンの価数はそれぞれに+3、+3、+4、+4である。当該化合物は、構造上、生物水分解触媒センターと非常に類似している。しかも我々は、当該化合物は生物水分解触媒センターと類似する物理・化学特性を有することを発見した。当該化合物は、酸化剤の存在下で、水の分解に対して触媒作用を及ぼし、酸素を放出するだけではなく、水分解中に放出された電子を電極表面に伝達し電流を形成する。当該化合物とその構造修飾後の誘導体とは、水分解の人工触媒として使える。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、簡単なMn+2、Ca2+無機化合物と簡単な有機カルボン酸とを原料に、過マンガン酸アニオンを酸化剤とし、二つのステップを経て「Mn4CaO4」の非対称クラスターを含む水分解触媒を合成し得る。当該新型触媒は、酸化剤の存在下で、水の分解に対して触媒作用を及ぼし、酸素を放出する。また、これらは電極表面で水分解に対して触媒作用を及ぼし、電子を電極表面に放出させ電流を形成することも出来る。
【0006】
本発明の目的は、「Mn4CaO4」核構造を含む水分解触媒シリーズを合成する製造方法及びその使用である。
【0007】
本発明は、以下の形態を通じて実現する。
【0008】
(1)式Iで表れる「Mn4CaO4」(R1CO2)8(L1)(L2)(L3)類化合物であり、上記化合物は、四つのMnイオンと、一つのCa2+イオンとを含み、これらは四つのO2- イオンにより非対称の「Mn4CaO4」異核金属クラスター骨格核と結合されることを特徴とする化合物である。
【0009】
「Mn4CaO4」クラスターの外郭リガンドは、八つのカルボン酸アニオン(R1CO2-)及び三つの中性リガンド(L1、L2、L3)から提供される。四つのMnイオンの価数は、それぞれに+3、+3、+4、+4であり、クラスター全体は電気的に中性を示す。
【0010】
【化1】
【0011】
その中、R1は、HまたはC1-8直鎖または分岐アルキル基から選ばれる。
【0012】
L1、L2、L3 三つのリガンドは同じまたは異なるが、それぞれ独立的にカルボン酸分子及びその誘導体、ピリジン、イミダゾール、ピラジン、キノリン、イソキノリン及びそれらの誘導体、または水分子、アルコール分子、ケトン類、ニトリル類(例えばアセトニトリル)、エステル類等の交換可能な中性小分子から選ばれる。
【0013】
本発明の好ましい形態において、カルボン酸アニオンは(R1CO2-)は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヘキサン酸などのカルボン酸アニオンでよい。即ち、R1は、水素(H)、メチル基(-CH3)、エチル基(-C2H5)、n−プロピル基(-CH2CH2CH3)、イソプロピル基(-CH(CH3)2)、n-ブチル基(-(CH2)3CH3)、イソブチル基(-CH(CH3)C2H5)、t-ブチル基(-C(CH3)3)、n-ペンチル基(-(CH2)4CH3)、イソペンチル基(-CH(CH3)C3H8)等でよい。
【0014】
特に好ましくは、前記式Iの化合物は、以下の化合物から選ばれる。
[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t-ブチル基、L1=ピリジン、L2=L3=ピバル酸である;
[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t-ブチル基、L1=L2=ピリジン、L3=ピバル酸である;
[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t-ブチル基、L1=イソキノリン、L2=L3=ピバル酸である。
【0015】
最も好ましくは、前記化合物は、以下の何れかの化合物から選ばれる。
[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t-ブチル基、L1=ピリジン、L2=L3=ピバル酸 (2,2-ジメチル - プロピオン酸、或いはトリメチル酢酸であり、R1COOHに相当し、R1はt-ブチル基構造である。);その単結晶は、単斜晶系であり、空間群は、P21/c1であり、セルパラメーターは、a=29.317(7)Å、b=18.894(4)Å、c=29.903(7)Å、α=90.00°、β=104.609(4)°、γ=90.00°、Z=8であり、体積は、16028(7)Å3であり、その構造は、下記の式I-1の示す通り:
【0016】
【化2】
【0017】
[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t-ブチル基、L1=L2=ピリジン、L3=ピバル酸であり、その単結晶は単斜晶系であり、空間群はP21/c1であり、セルパラメータは、a=21.969(4)Å、b=25.326(5)Å、c=29.236(6)Å、α=90.00°、β=102.70(3)°、γ=90.00°、Z=8であり、体積は、15869(6)Å3であり、その構造は下記の式I-2の示すとおり:
【0018】
【化3】
【0019】
[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)、その中、R1=t-ブチル基、L1=イソキノリン、L2=L3=ピバル酸であり、単結晶は、三方晶系であり、空間群は、R-3であり、セルパラメータは、a=38.379(5)Å、b=38.379(5)Å、c=35.682(7)Å、α=90.00°、β=90.00°、γ=120.00°、Z=18であり、体積は、45517(12)Å3であり;その構造は下記の式I-3の示すとおり:
【0020】
【化4】
【0021】
(2)式Iで表れる[Mn4CaO4](R1CO2)8(L1)(L2)(L3)類化合物の製造方法は、以下のステップを含むことを特徴とする。
【0022】
第一歩:酸(好ましくは有機カルボン酸)、酸化剤、Mn2+及びCa2+塩を、モル比x: y:1:1 (x = 10 〜 120、 y= 1〜10、好ましくは、x=20〜100、y=2〜8)で、アセトニトリル溶液中で10〜60分間加熱反応させ、褐色溶液を得て、濾過による沈殿物除去を行い、溶液は0℃で結晶され、褐色結晶体が得られる。
【0023】
第二歩:第一歩で得られた褐色結晶体をエステル類溶剤で溶解させ、有機リガンドL1、L2、L3を添加し、結晶を経て最終生成物が得られる。
【0024】
本発明により、使われた試薬は以下のとおり:二価マンガン塩Mn2+は、Mn2+を含む各種カルボン酸塩でよい。その中、カルボン酸アニオン(R1CO2-)は前記のように、例えば蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、イソ酪酸イオン、吉草酸イオン、イソ吉草酸イオン、ピバル酸イオン、ヘキサン酸イオン等カルボキシル基及びその誘導体(好ましくは、酢酸イオン、ピバル酸イオン)でもよく、Mn(ClO4)2、MnSO4、Mn(NO3)2、Mn(CF3SO3)2などの二価マンガン塩でもよい。これらの塩は、異なる数の結晶水(結晶水の数は、n=0〜6で、好ましくは、1〜5、または2〜4個)を含む誘導体でも良い。
【0025】
Ca2+塩は、各種カルシウムのカルボン酸塩でもよい。その中、カルボン酸アニオン(R1CO2-)は前記のように、例えば蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、イソ酪酸イオン、吉草酸イオン、イソ吉草酸イオン、ピバル酸イオン、ヘキサン酸イオン等カルボキシル基及びその誘導体(好ましくは、酢酸イオン、ピバル酸イオン)でもよく、Ca(ClO4)2、Ca(NO3)2、Ca(CF3SO3)2などのカルシウム塩でもよい。これらの塩は、異なる数(n=0〜6で、好ましくは、1〜5、または2〜4個である)の結晶水を含む誘導体でも良い。
【0026】
前記酸化剤は、好ましくは、過マンガン酸アニオン型の酸化剤であり、更に好ましくは、過マンガン酸テトラブチルアンモニウム((C4H9)4NMnO4)である。
【0027】
前記酸は、好ましくは、有機カルボン酸である。例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヘキサン酸などカルボキシル基及びその誘導体(好ましくは、酢酸、ピバル酸)である。
【0028】
第一歩におけるアセトニトリル溶剤の体積は、カルシウム塩1ミリモル当たりに使われるアセトニトリルが約60-100mlである。当該反応は、アセトニトリル溶剤のみで行われて、アルコール及びその他有機溶剤中では全て目標化合物を得られない。
【0029】
本発明により、前記第二歩での再結晶中のエステル類有機溶剤は、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸プロピルなどエステル類でもよい。
【0030】
前記有機リガンドは、同じまたは異なるが、それぞれ独立的にカルボン酸分子及びその誘導体、ピリジン、イミダゾール、ピラジン、キノリン及びこれらの誘導体、または水分子、アルコール分子、ケトン類、ニトリル類(例えばアセトニトリル)、エステル類などの交換可能な中性小分子から選ばれる。
【0031】
前記反応の温度は、60 ℃ 〜 90℃。
【0032】
前記反応の時間は、10〜〜60分間。
【0033】
本発明は、さらに式Iの化合物を水分解の触媒とする使用を提供する。
【0034】
好ましくは、本発明の前記の式Iの化合物は、電極の表面で適用し、または酸化剤(安定した酸化剤でもよいし、光誘起による瞬間酸化剤でもよい)の存在下で水分解に対して触媒作用を発揮させ、酸素と、プロトンと、電子とを放出する。
【0035】
本発明は、また本発明前記の [Mn4CaO4](R1CO2)8(L1)(L2)(L3)類化合物を含むことを特徴とする水分解触媒を提供する。
【0036】
本発明の好ましい技術案により、本発明化合物1の分子式は、C55H97CaMn4NO24であり、その構造は、[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)で、その中、R1=t-ブチル、L1=ピリジン、L2=L3=ピバル酸である。それは、単斜晶系であり、空間群はP21/c1で、セルパラメータは、a =29.317(7)Å、b=18.894(4)Å、c=29.903(7)Å、α=90.00°、β=104.609(4)°、γ=90.00°、Z=8であり、体積は、16028(7)Å3である。結晶体構造は、図1を参照し、単結晶パラメータは表1の示すとおり。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明化合物2の分子式は、C55H92CaMn4N2O24であり、その構造は、[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)で、その中、R1=t-ブチル基、L1=L2=ピリジン、L3=ピバル酸であり、単斜晶系であり、空間群は、P21/c1であり、セルパラメータは、a =21.969(4)Å、b=25.326(5)Å、c=29.236(6)Å、α=90.00°、β=102.70(3)°、γ=90.00°、Z=8であり、体積は、15869(6)Å3である。結晶体構造は、図2の通り、単結晶のパラメータは表2の示すとおり。
【0039】
【表2】
【0040】
本発明化合物3の分子式は、C55H92CaMn4N2O24であり、その構造式は、[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)で、その中、R1=t-ブチル基、L1=イソキノリン、L2=L3=ピバル酸であり、三方晶系であり、空間群は、R-3であり、セルパラメータは、a =38.379(4)Å、b=38.379(5)Å、c=35.682(4)Å、α=90.00°、β=90.00°、γ=120.00°、Z=18であり、体積は、45517(12)Å3である。結晶体構造は、図3の通り、単結晶パラメータは表3の示すとおり。
【0041】
【表3】
【発明の効果】
【0042】
本発明人は、以下のことを発現した。簡単なMn+2、Ca2+無機化合物と簡単なカルボン酸とを利用し、過マンガン酸アニオンを酸化剤とし、二つのステップを経て、核に[Mn4CaO4] を含む非対称クラスターを合成し得るが、当該化合物は、電極表面で、または酸化剤の存在下で、水の分解に対して触媒作用を及ぼす共に、酸素・電子・プロトンを放出する。
【0043】
本発明から得られた中性[Mn4CaO4](R1CO2)8L1L2L3クラスターは、水分解の触媒として使用することができ、電極の表面で、または酸化剤(安定した酸化剤でも良いし、光誘起による瞬間酸化剤でもよい)の存在下で、水の分解に対して触媒作用を及ぼす共に、酸素・プロトン・電子を放出する。目下、当該新型[Mn4CaO4]触媒に関連する文献・報道は未だ見えてない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、本発明の実施例1で、製造された化合物1の結晶構造図である。分かり易くするため、水素原子とt-ブチル基のメチル基と溶剤分子とは、全て省略している。
図2図2は、本発明の実施例2で、製造された化合物2の結晶構造図である。分かり易くするため、水素原子とt-ブチル基のメチル基と溶剤分子とは、全て省略している。
図3図3は、本発明の実施例3で、製造された化合物3の結晶構造図である。分かり易くするため、水素原子とt-ブチル基のメチル基と溶剤分子とは、全て省略している。
図4図4は、本発明の実施例4で、相応の化合物1と水との作用下での紫外・可視吸収スペックトルの変化追跡である。
図5図5は、本発明の実施例5で、相応の化合物1自身及びそれに触媒された水が電極表面で触媒分解され、電子を放出する電気化学のデータである。
図6図6は、本発明の実施例6で、化合物1が酸化された後に出した電子常磁性信号を表示し、当該データは基底状態の化合物1中の四つのMnイオンの価数はそれぞれ+3、+3、+4、+4であることを示している。
図7図7は、本発明の実施例7で、化合物1が酸化剤の存在下で、水分解に対し触媒作用を及ぼし、酸素放出が測定されたものである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、具体的に以下の実施例を通して本発明の技術案を説明する。だが、当業者は分かるように、これら実施例は、本発明を制限するものではなく、あらゆる本発明に基づく改善と変化とは、全て本発明の保護範囲に入るとされる。
【実施例】
【0046】
〔実施例1:化合物1 [Mn4CaO4](C5H9O2)8(C5H9O2H)2(C5H5N)〕
その製造方法:
第一歩は、化合物1の前駆体の合成である。即ち、100 mlの円底フラスコに過マンガン酸テトラブチルアンモニウム(Bun4NMnO4、4 mmol)、酢酸マンガン(Mn(CH3CO2)2、1 mmol)、酢酸カルシウム(Ca(CH3CO2)2、1 mmol)と、ピバル酸 ((CH3)3CCO2H,、40 mmol) とを添加し、80℃のアセトニトリル中で25min持続的に反応させた後、反応を停止させ、濾過により少量の沈殿物を除去して、得られた褐色の母液を、0℃で、1〜2週間放置させて、褐色の結晶物が析出される。
【0047】
第二歩は、再結晶である。第一歩で析出された結晶を採集し、酢酸エチルで溶解させ、2%のピリジン(体積比)を添加し、再結晶を行う。1〜2週間後に褐色結晶が析出されて、シクロヘキサンでリンスさせてから、真空乾燥させる。収率は〜40%(Caイオンのモル数による)である。
【0048】
化合物1は、構造式が[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)であり、その中、R1=t-ブチル基、L1=ピリジン、L2=L3=ピバル酸である。
【0049】
即ち、化合物1の構造式は、 [Mn4CaO4](C5H9O2)8(C5H9O2H)2(C5H5N)・C6H12(注:シクロヘキサンを溶剤分子とする)であり、分子式は C61H109NO24CaMn4である。元素分析の理論値:C、48.83; H、7.32;N、0.93。実験値:C、 49.14;H、7.59; N、1.18。 化合物1 の単結晶は、単斜晶系であり、空間群はP21/c1であり、セルパラメータは a=29.317(7)Å、b=18.894(4)Å、c=29.903(7)Å、α=90.00°、β=104.609(4)°、γ=90.00°、Z=8であり、体積は16028(7)Å3である。
【0050】
化合物1の化学構造は以下の式I-1の通りで、その単結晶パラメータの測定詳細は表1を参照し、その結晶空間構造は図1を参照する。
【0051】
【化5】
【0052】
〔実施例2:化合物2[Mn4CaO4](C5H9O2)8(C5H9O2H)1(C5H5N)2
0.100gの化合物1を計量し、酢酸エチル中に溶解させ、1%のピリジンを添加し、室温で放置して、3週間後に黒色の結晶が析出され、シクロヘキサンでリンスさせてから、真空乾燥させる。収率は、〜13%(Caイオンのモル数による)である。
【0053】
化合物2の構造式は、[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)であり、その中、R1=t-ブチル基、L1=L2=ピリジン、L3=ピバル酸である。
【0054】
即ち、化合物2の構造式は [Mn4CaO4](C5H9O2)8(C5H9O2H)1(C5H5N)2である。分子式:C55H92N2O22CaMn4。元素分析の理論値:C、47.42; H、 6.66; N、 2.01。実験値: C、47.74;H、 6.89; N、 1.69。
【0055】
化合物2 の単結晶は単斜晶系であり、空間群はP21/c1であり、セルパラメータはa =21.969(4)Å、b=25.326(5)Å、c=29.236(6)Å、α=90.00°、β=102.70(3)°、γ=90.00°、Z=8であり、体積は15869(6)Å3である。化合物2の化学構造は以下の式I-2の通りで、その単結晶パラメータ測定の詳細は表2を、その結晶体の空間構造は図2を、参照する。
【0056】
【化6】
【0057】
〔実施例3:化合物3 [Mn4CaO4](C5H9O2)9(C5H9O2H)2(C9H7N)〕
第一歩は、化合物前駆体の合成である。即ち、100 mlの円底フラスコ中に、過マンガン酸テトラブチルアンモニウム(Bun4NMnO4、4 mmol)、酢酸マンガン(Mn(CH3CO2)2、1 mmol)、酢酸カルシウム(Ca(CH3CO2)2、1 mmol)と、ピバル酸 ((CH3)3CCO2H,40 mmol)とを添加し、80℃ のアセトニトリル中で25min持続的に反応させた後、反応を停止させ、濾過により少量の沈殿物を除去して、得られた褐色の母液を0℃で放置させて、1〜2週間後に褐色の結晶が析出される。
【0058】
第二歩は、再結晶である。第一歩で獲得した結晶を採集し、酢酸エチルで溶解させ、1%のイソキノリン(体積比)を添加して再結晶を行う。1〜2週間後に黒色の結晶体を採集し、シクロヘキサンにでリンスさせてから真空乾燥させる。収率は〜40%(Caイオンのモル数による)である。
【0059】
化合物3の構造式は、[Mn4CaO4(R1CO2)8](L1)(L2)(L3)であり、その中、R1=t−ブチル基、L1=イソキノリン、L2=L3=ピバル酸である。
【0060】
即ち、化合物3の構造式は、[Mn4CaO4](C5H9O2)9(C5H9O2H)2(C9H7N)であり、分子式はC59H99NO24CaMn4である。化合物3の元素分析の理論値:C、48.33;H、6.81;N、0.96。実験値:C、48.21;H、6.81; N、1.06。化合物3の単結晶は三方晶系であり、空間群はR-3であり、セルパラメータは、a=38.379(5)Å、b=38.379(5)Å、c=35.682(7)Å、α=90.00°、β=90.00°、γ=120.00°、Z=18であり、体積は45517(12)Å3である。
【0061】
化合物3の化学構造は以下の式I-3のおとりで、その単結晶パラメータの測定詳細は表3を、その結晶体の空間構造は図3を、参照する。
【0062】
【化7】
【0063】
〔実施例4:化合物1と水との作用下での紫外・可視スペックトル追跡〕
キュベット中に25μMの化合物1のアセトニトリル溶液1mLを添加し、純粋なアセトニトリル1mLをコントロールとして、Hitachi U-3900 spectrophotometer型紫外・可視スペックトルにより吸収スペックトル(図4を参照)を測定した。当該化合物は、250 nmで最大吸収となる。水分子の添加(それぞれに0 %、0.2 %、0.4 %、0.6 %、0.8 %、1.0 %の水を添加)に伴い、吸収スペックトルは明らかな変化があり、250nmでの吸収は明らかに減少されたが、可視区(400〜800nm)では明らかに上昇され、363nmでは等吸収点が現われる。よって、水分子が化合物1と作用することができると説明される。
【0064】
〔実施例5:化合物1に対する電子常磁性共鳴(EPR/ESR)による化合物中のMnイオン価数探知〕
化合物1(1mM)をジクロロエタン中に溶解させ、0.5mMの酸化剤[Fe(Phen)3](PF6)3を添加した後、迅速に77Kまで冷凍させ、7KでBruker E500 電子常磁性共鳴機器によりその電子常磁性信号(図5を参照)を測定する。g=2.0 と、g=4.9 との常磁性信号が鮮明に見える。この二つの信号は、化合物が酸化された後、四つのマンガンイオンの価数はそれぞれに+3、+4、+4、+4であることを説明している。よって、その基底状態(酸化前の安定状態)中の四つのMnイオンの価数が+3、+3、+4、+4であることを推定できる。
【0065】
〔実施例6:化合物1の電気化学測定及びその電極表面での水分解に対する触媒作用の測定〕
電気化学ワークステーションにより化合物1の電気化学と、それの電極表面での水分解に対する触媒作用とを追跡する。作用電極は、グラッシーカーボン電極とし、対電極は白金電極とし、銀/硝酸銀(10mM)は比較電極とする。電解液は、アセトニトリルとし、電解質は、六フッ素化リンテトラブチルアンモニウム (C4H9)4NPF6)とし、スキャン速度は、100mV/sとする。図6のイラストは、化合物1の無水存在時のサイクリックボルタモグラムであり、二つの酸化過程が観測され、それらに対応する電位はそれぞれに0.8V及び1.32Vである。少量の水が存在する時(図の曲線が対応する水の含有量は、順次1%、0.8%、0.6%、0.4%、0%である)、この二つの酸化還元対は不鮮明となり、これの替わりは迅速に上昇する経過であり、この経過に対応されるのは水の分解経過である。図から読み取れることは、1%の水が存在する時、水分解から放出された電子による電流の値は400μAを超えられる。これは、化合物1は、電極表面で非常に有効的に水の分解に対して触媒作用を及ぼす共に、放出された電子を電極表面に送り電流を形成していることを説明している。
【0066】
〔実施例7:化合物1が、酸化剤の存在下で、水の分解に触媒作用を及ぼし、酸素を放出することに対する測定〕
Clark-type酸素電極で、水分解に触媒作用を及ぼす際の酸素放出の活性を測定する(図7)。酸化剤(t-ブチルヒドロペルオキシド、0.7M)を含む水溶液中に、125μMの化合物1を添加すると、酸素が急速に放出されることを観測できる。だが、比較化合物(Mn(ClO4)2)を添加すれば、酸素の形成が見られない。図の矢印は、サンプルの添加位置を示す。図7は、化合物1が、水分解に対し触媒作用を及ぼし酸素を放出する触媒活性を持つことを説明している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7