特許第6795518号(P6795518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795518
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】キナーゼを阻害する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/14 20060101AFI20201119BHJP
   C07D 417/14 20060101ALI20201119BHJP
   C07D 413/14 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20201119BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20201119BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C07D401/14CSP
   C07D417/14
   C07D413/14
   A61K31/506
   A61P43/00 111
   A61P35/00
   A61P31/04
   A61P31/12
   A61P31/22
   A61P31/18
   A61K45/00
   A61P43/00 121
   A61K39/395 N
   A61K39/395 U
【請求項の数】25
【全頁数】56
(21)【出願番号】特願2017-555374(P2017-555374)
(86)(22)【出願日】2016年4月22日
(65)【公表番号】特表2018-513868(P2018-513868A)
(43)【公表日】2018年5月31日
(86)【国際出願番号】US2016028914
(87)【国際公開番号】WO2016172528
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2019年4月12日
(31)【優先権主張番号】62/182,955
(32)【優先日】2015年6月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/151,659
(32)【優先日】2015年4月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515090639
【氏名又は名称】インヒビカーセ セラピューティクス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワーナー,ミルトン,エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ケリー,テレンス,エー.
【審査官】 早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/070350(WO,A2)
【文献】 特表2010−502726(JP,A)
【文献】 特表2006−527230(JP,A)
【文献】 Napier, R. J. et al.,Low Doses of Imatinib Induce Myelopoiesis and Enhance Host Anti-microbial Immunity,PLOS PATHOGENS,2015年,March 30,pp. 1-27,Retrieved from the internet: <https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1004770>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、出現ごとに独立して、
R1は、水素又は低級アルキルから選択され、
Cy1、置換又は非置換5員ヘテロアリールである]
の構造を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩。
【請求項2】
Cy1が、
【化2】


[式中、出現ごとに独立して、
R2及びR3は、水素、アルキル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、シクロアルキル、ハロ、シアノ、アルコキシ、-C(O)OH、及び-C(O)N(R4)(R4)から選択され、
nは、1、2、3又は4であり、
Xは、C(R4)2、S、O、又はNR4であり、
R4は、水素及び置換又は非置換アルキル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、シクロアルキルアルキル又はヘテロシクリルアルキルから選択される]
から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Cy1が、
【化3】
[式中、出現ごとに独立して、
R1は、水素又は低級アルキルから選択され、
R2及びR3は、水素、アルキル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、シクロアルキル、ハロ、シアノ、アルコキシ、-C(O)OH、及び-C(O)N(R4)(R4)から選択され、
R4は、水素及び置換又は非置換アルキル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、シクロアルキルアルキル又はヘテロシクリルアルキルから選択される]
から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
Cy1が、
【化4】
から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
Cy1が、置換又は非置換ピラゾールである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
Cy1が、
【化5】
[式中、出現ごとに独立して、
R1は、水素又は低級アルキルから選択され、
R2及びR3は、水素、アルキル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、シクロアルキル、ハロ、シアノ、アルコキシ、-C(O)OH、及び-C(O)N(R4)(R4)から選択される]
である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
Cy1が、
【化6】
場合により
【化7】
である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
R1が、-CH3、-CDH2、-CD2H、又は-CD3である、請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
前記化合物が、
【化8】
又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物が、
【化9】
又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物及び1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項12】
哺乳類におけるアベルソンファミリーチロシンキナーゼ(ATK)を変化させるための、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物又は請求項11に記載の組成物を含む医薬
【請求項13】
哺乳類におけるc-Abl1若しくはc-Abl2又はc-Abl1若しくはc-Abl2のキナーゼドメインを含むいずれかのタンパク質の機能を変化させるための、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物又は請求項11に記載の組成物を含む医薬
【請求項14】
哺乳類におけるPGDFRa若しくはPDGFRb又はPDGFRa若しくはPDGFRbのキナーゼドメインを含むいずれかのタンパク質を阻害するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物又は請求項11に記載の組成物を含む医薬
【請求項15】
哺乳類におけるc-Kit又はc-Kitのキナーゼドメインを含むいずれかのタンパク質を阻害するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物又は請求項11に記載の組成物を含む医薬
【請求項16】
哺乳類におけるがん、細菌感染症、又はウイルス感染症を処置するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物又は請求項11に記載の組成物を含む医薬
【請求項17】
哺乳類が、緑膿菌、クラミジア・トラコマティス、大腸菌、ヘリコバクター・ピロリ、リステリア・モノサイトゲネス、ネズミチフス菌、シゲラ・フレックスネリ、又は結核菌に起因する細菌感染症を患っている、請求項16に記載の医薬
【請求項18】
哺乳類が、ワクシニアウイルス、痘瘡ウイルス、ポリオーマウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、JCウイルス、JCポリオーマウイルス、BKポリオーマウイルス、シミアンウイルス40、サル痘ウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ブニヤウイルス、アレナウイルス、アルファウイルス、フラビウイルス、ウエストナイルウイルス又はコロナウイルスに起因するウイルス感染症を患っている、請求項16に記載の医薬
【請求項19】
哺乳類が、脳におけるJCウイルスの溶解感染を患っている、請求項18に記載の医薬
【請求項20】
化合物又は組成物が、CNS/呼吸興奮薬、鎮痛薬、麻薬作用薬、麻薬拮抗薬、非ステロイド系抗炎症剤/鎮痛剤、行動修正剤、精神安定薬/鎮静薬、麻酔剤、吸入薬、麻薬、拮抗薬、抗痙攣薬、骨格筋弛緩薬、平滑筋弛緩薬、心血管作動薬、強心剤、抗不整脈薬、抗コリン薬、血管拡張剤、ショックの処置において使用される作用剤、α-アドレナリン遮断剤、β-アドレナリン遮断剤、呼吸器官用薬、気管支拡張薬、交感神経興奮薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳剤、尿失禁/尿閉に対する作用物質、尿アルカリ性化薬、尿酸性化薬、コリン作動性刺激薬、尿路結石症に対する作用物質、胃腸剤、制吐剤、制酸薬、ヒスタミンH2拮抗薬、胃粘膜保護薬、プロトンポンプ阻害薬、食欲増進薬、GI鎮痙薬-抗コリン薬、GI刺激薬、緩下薬、生理食塩水、滑沢剤、界面活性剤、止痢薬、ホルモン/内分泌/生殖器官用作用剤、性ホルモン、アナボリックステロイド、下垂体後葉ホルモン、副腎皮質ステロイド、グルココルチコイド、抗糖尿病剤、甲状腺薬、甲状腺ホルモン、内分泌/生殖器官用薬、プロスタグランジン、抗感染薬、抗寄生虫薬、抗コクシジウム剤、抗生物質、抗結核薬、アミノシクリトール、セファロスポリン、マクロライド、ペニシリン、テトラサイクリン、リンコサミド、キノロン、スルホンアミド、抗細菌薬、抗真菌剤、抗ウイルス剤、血液改質剤、凝固剤、抗凝血薬、赤血球生成剤、抗悪性腫瘍薬/免疫抑制薬、アルキル化剤、解毒薬、骨/関節剤、外皮用剤(全身)、ビタミン及びミネラル/栄養素、全身性酸性化薬、全身性アルカリ性化薬、抗がん剤、又は抗ウイルス剤などの中枢神経系作用薬から独立して選択される1種以上の化合物と共同投与される、請求項16から19のいずれか一項に記載の医薬
【請求項21】
哺乳類におけるがん、細菌感染症、又はウイルス感染症を処置するための医薬を調製するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物又は請求項11に記載の組成物の使用。
【請求項22】
哺乳類が、緑膿菌、クラミジア・トラコマティス、大腸菌、ヘリコバクター・ピロリ、リステリア・モノサイトゲネス、ネズミチフス菌、シゲラ・フレックスネリ、又は結核菌に起因する細菌感染症を患っている、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
哺乳類が、ワクシニアウイルス、痘瘡ウイルス、ポリオーマウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、JCウイルス、JCポリオーマウイルス、BKポリオーマウイルス、シミアンウイルス40、サル痘ウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ブニヤウイルス、アレナウイルス、アルファウイルス、フラビウイルス、ウエストナイルウイルス又はコロナウイルスに起因するウイルス感染症を患っている、請求項21に記載の使用。
【請求項24】
哺乳類が、脳におけるJCウイルスの溶解感染を患っている、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
化合物又は組成物が、CNS/呼吸興奮薬、鎮痛薬、麻薬作用薬、麻薬拮抗薬、非ステロイド系抗炎症剤/鎮痛剤、行動修正剤、精神安定薬/鎮静薬、麻酔剤、吸入薬、麻薬、拮抗薬、抗痙攣薬、骨格筋弛緩薬、平滑筋弛緩薬、心血管作動薬、強心剤、抗不整脈薬、抗コリン薬、血管拡張剤、ショックの処置において使用される作用剤、α-アドレナリン遮断剤、β-アドレナリン遮断剤、呼吸器官用薬、気管支拡張薬、交感神経興奮薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳剤、尿失禁/尿閉に対する作用物質、尿アルカリ性化薬、尿酸性化薬、コリン作動性刺激薬、尿路結石症に対する作用物質、胃腸剤、制吐剤、制酸薬、ヒスタミンH2拮抗薬、胃粘膜保護薬、プロトンポンプ阻害薬、食欲増進薬、GI鎮痙薬-抗コリン薬、GI刺激薬、緩下薬、生理食塩水、滑沢剤、界面活性剤、止痢薬、ホルモン/内分泌/生殖器官用作用剤、性ホルモン、アナボリックステロイド、下垂体後葉ホルモン、副腎皮質ステロイド、グルココルチコイド、抗糖尿病剤、甲状腺薬、甲状腺ホルモン、内分泌/生殖器官用薬、プロスタグランジン、抗感染薬、抗寄生虫薬、抗コクシジウム剤、抗生物質、抗結核薬、アミノシクリトール、セファロスポリン、マクロライド、ペニシリン、テトラサイクリン、リンコサミド、キノロン、スルホンアミド、抗細菌薬、抗真菌剤、抗ウイルス剤、血液改質剤、凝固剤、抗凝血薬、赤血球生成剤、抗悪性腫瘍薬/免疫抑制薬、アルキル化剤、解毒薬、骨/関節剤、外皮用剤(全身)、ビタミン及びミネラル/栄養素、全身性酸性化薬、全身性アルカリ性化薬、抗がん剤、又は抗ウイルス剤などの中枢神経系作用薬から独立して選択される1種以上の化合物と共同投与される、請求項21から24のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、2015年4月23日に出願された米国特許出願第62/151,659号及び2015年6月22日に出願された米国特許出願第62/182,955号の利益及びこれら出願に基づく優先権を主張するもので、これら出願のそれぞれの開示内容を参照により全体として本明細書に組み込む。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発にかかわる陳述
本発明は、米国国立衛生研究所によって発注された契約第1R43AI103982-01A1号の下、米国連邦政府の支援を受けてなされた。米国連邦政府は、本発明においてある特定の権利を保有する。
【背景技術】
【0003】
抗感染剤
アベルソンファミリーチロシンキナーゼ(ATK)は、抗がん及び抗感染治療薬を創出する低分子(ATKi)によって阻害することができる宿主標的である。インビトロ及びインビボで感染症の処置に適用すると、20種を超えるヒト細菌性、ウイルス性、真菌性及び寄生虫性病原体がATK阻害を受けやすいことがわかった。宿主ATKは病原体によって取り込まれて、宿主細胞に侵入し、宿主細胞を再生し、又は宿主細胞から出ていく。これがATKiの抗微生物効果の理由である。感染症の処置に使われるこれら治療薬の標的はある特定の種類のがんの標的と重複しているので、同じ感染症用医薬品を、がんを処置するために同じ用量で適用することができる。
【0004】
感染症では、この戦略が、HIV1感染者、臓器移植のためにコルチコステロイドなどの慢性免疫抑制療法を受けている患者、がん及び/又は自己免疫疾患(関節リウマチ、乾癬、及び紅斑性狼瘡など)の患者、並びに免疫応答を抑制する療法(例えば、特にエファリズマブ、ベラタセプト、リツキシマブ、ナタリズマブ、インフリキシマブ)を受けている患者を含めて、慢性的に免疫抑制されている集団において生じる致死性脳感染症である、進行性多巣性白質脳症(PML)の原因を処置するために適用されてきた。PMLは、脳におけるJCポリオーマウイルス(JCV)の溶解感染に起因する致死性の状態である。しかし、この脳感染型ウイルスは、感染患者からの伝染によっては獲得されない。代わりに、脳感染型JCVは、患者の内部において持続的に感染状態にある脳の外側に存在する非病原性型ウイルスのゲノム再編成によって形成される。この非病原性型又は原型JCVは、腎臓、尿生殖路、及び骨髄において検出されるもので、宿主細胞性免疫応答によって抑制される。脳感染型への形質転換は、自己免疫疾患(例えばMS)の処置に使われる免疫抑制薬又はHIV感染後の臨床的AIDS発症に起因する可能性がある細胞性免疫の破壊を患者が持続的に経験したとき起こる。免疫抑制の状況において、JCVがその非コード調節領域(NCCR)を再編成した後、ウイルスカプシドタンパク質VP1における突然変異が続く。NCCRの再編成によって、ウイルスがより広範囲の細胞において複製することが可能となると考えられているが、VP1におけるその後の突然変異によって、尿生殖路の外側で細胞の表面に存在している、より広範囲の受容体を介したウイルス侵入が可能となる。脳への経路もJCVが脳に侵入することを可能とする担体も明確なことは知られていないが、何年もかかって完了するゆっくりした過程である。PMLは、脳脊髄液(CSF)におけるウイルスDNAの出現が特徴的なマーカーである。典型的な臨床例では、患者は診断から2か月以内はJCV DNAが陰性であり、その後はCSFにおいてJCV DNAが容易に認められる。したがって、中枢神経系(CNS)侵入は極めてゆっくりした過程であるが、一旦ウイルスがCNSに侵入すると、疾患への進行は比較的急速である。
【0005】
脳におけるJCVの溶解感染は、神経組織に対して不可逆的損傷を引き起こす。したがって、JCVを処置過程の早期に患者から取り除くのが望ましいであろう。MSには、ATKiをタイサブリのような治療薬と共に使用することができれば、免疫抑制処置の開始時にJCVを取り除くことができる。
【0006】
JCV感染を周知の抗がん性Ablキナーゼ阻害薬である上市薬Gleevecで処置するPML抗ウイルスプログラムに関連した概念実証試験が実施された。Gleevecは作用機序を画定するのに極めて有用であったが、ヒト定常状態(SS)におけるGleevecの濃度は抗ウイルス目的の有効用量を維持することができないことが急速に明らかになった(表1)。定常状態におけるトラフ濃度CminSSは、細胞培養におけるJCVに対するGleevecのEC50よりほんの2.3倍高いだけである(表1)。典型的には、この比は、安全で有効な抗ウイルス剤のEC50値より4〜9倍高いはずである。
【0007】
JCV及び他の感染因子を処置するための改良された作用剤が必要である。
【0008】
抗がん剤
慢性骨髄性白血病(CML)は、発生率が100,000人当たり1〜2例の骨髄増殖性腫瘍であり、新たに診断された成人白血病症例の約15%を占める。CMLの病因は、BCR-ABLと呼ばれる融合タンパク質の発現をもたらす、9番染色体上のアベルソンマウス白血病(ABL)遺伝子と22番染色体上の切断点クラスター領域(BCR)遺伝子の融合に関連している。BCR-ABLは、RAS、RAF、JUNキナーゼ、MYC、及びSTATなどの下流経路を通して増殖及び複製を助長する常時活性型チロシンキナーゼである。BCR-ABL発現の結果として、サイトカイン除去に応答したアポトーシスシグナル異常を伴うサイトカイン非依存性の細胞周期がもたらされる。BCR-ABLとATPとの間の相互作用に強く干渉する低分子ATKiの開発により、悪性クローンの細胞増殖を阻止することが明らかになった。この「標的」手法は疾患の自然歴を劇的に変化させ、10年全生存率(OS)を約20%から80%超に改善することがわかった。
【0009】
そのような標的治療薬として、イマチニブ(Gleevec(登録商標))、ニロチニブ(Tasigna(登録商標))及びダサチニブ(Sprycel(登録商標))の3種類がCMLの第一選択処置用に承認されている。これら作用剤のうち最初に上市されたGleevecは、CMLのみに関連した死亡を考慮したとき、81%という著しい無再発生存率及び全生存率93%を示した。しかし、8年の追跡調査により、患者のうち55%のみ治療を継続していることが明らかになり、処置不成功に対処し、長期使用される医薬品であるGleevecの忍容性を改善する別の選択肢が必要であることが示された。処置不成功は、融合タンパク質のAblキナーゼドメインにおける二次突然変異が引き起こすGleevec耐性の発生に関連することが多く、Gleevecの効力の喪失及び疾患の再発をもたらす。AblキナーゼとSRCキナーゼの二重阻害薬であるSprycelは、次に承認された作用剤であり、BCR-ABLのはるかに強力な阻害薬である。Sprycelは、Gleevecより迅速な応答及び融合タンパク質発現のはるかに早い時点における抑制を誘導する。しかし、SRC阻害薬として、著しい副作用により、Sprycelが示す改善された応答プロファイルの有用性は相殺された。Tasignaは、Gleevec耐性に直接対処するために開発され、その開発の早期に、もはやGleevec療法に応答しない臨床的に重要な多くのBCR-ABL変異体に対して強力な阻害活性を示した(表3)。Sprycelと同様に、TasignaはBCR-ABLの阻害薬として、Gleevecに比べて20倍も強力であった(表3)。しかし、Tasignaの効力には、重度の有害事象発生頻度がSprycelに似ている副作用プロファイルが伴い、長期使用される医薬品としてのその有用性が制限された。
【0010】
したがって、BCR-ABLに対する標的療法の成功にもかかわらず、一部の患者にとっては、これらのフロントラインATKiの使用において共存症及び毒性が主要な問題である。例えば、肺疾患(例えば、COPD)、心疾患(例えば、うっ血性心不全又は肺動脈性肺高血圧症)の病歴をもつ患者又はコントロールされていない高血圧症の患者など、胸水を発症するリスクがある患者には、Sprycelは不向きな選択である。Sprycelは血小板機能も阻害するので、Sprycelを使用しながら抗凝血薬を服用している患者であれば、出血性合併症のリスクがあり得る。Tasignaは高血糖を伴い、したがってコントロールされていない糖尿病の患者において使用された場合有害であり得る。TasignaはQT間隔を長くすることがあり、したがって心合併症患者に対する投与は禁忌となる可能性があるが、この知見を裏付けるには長期追跡調査が必要とされるようである。脂肪分の多い食事の状況において服用されたとき生ずるTasignaの非線形蓄積によっても、患者は重度の用量規定毒性に到達するリスクにさらされ、Tasignaの投与前後に2時間の絶食が必要となる。Tasignaが2回/日与えられるとき、これは、Tasignaを使用中の患者が24時間のうち8時間も絶食していることになる。対照的に、Gleevecは一部の重度AE(例えば、白血球減少及び血球減少)を伴うが、その最も顕著な副作用は末梢性浮腫であり、医学的に管理することができる。上市される最も新しいATKiであり、T315I「ゲートキーパー」変異を含めて、ほぼすべてのGleevec耐性に対処するポナチニブは、その後、24か月の治療後に重度の血液凝固症候群及び血管の狭小化を引き起こすことがわかった。その結果、ポナチニブの有用性は、他の選択肢が存在しないときのサードライン処置薬として厳しく制限されている。最近承認された別のAbl-SRC二重阻害薬であるボスチニブは、イマチニブ耐性の状況においてSprycelに似ている効力をもつセカンドラインとみなされる。
【0011】
同様に、消化管において生じる最もよくみられる間葉系腫瘍である消化管間質腫瘍(GIST)は特徴的形態を有し、一般にCD117(c-Kit)陽性であり、KIT又はPDGFRaにおける活性化突然変異によって主に引き起こされ、アベルソンキナーゼファミリーの両タンパク質キナーゼはATKiでの処置に感受性を示す。まさにBCR-Abl関連がんの場合にみられるように、イマチニブのようなフロントラインTKIで処置されたKIT及び/又はPDGFRa関連GISTは、KIT又はPDGFRaにおける二次突然変異の形成により、最終的に療法に抵抗を示すことがある。イマチニブはまた、KITエクソン9及び野生型関連腫瘍において奏功率が不十分であり、これらは両方とも、スニチニブ及びレゴラフェニブのような親和性のより高いATKiに、より高い応答性を示す。フロントライン療法におけるイマチニブに比べてスニチニブ及びレゴラフェニブの全奏功率が低いことを考慮すれば、イマチニブの様式で適用の範囲が最も広い新しい作用剤の開発によって、スニチニブ及びレゴラフェニブのような親和性のより高い作用剤を超える処置成功の可能性がもたらされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様において、本発明は、一般式(I)
【化1】
[式中、出現ごとに独立して、
R1は、水素又は低級アルキルから選択され、
Cy1は、置換又は非置換アリール、置換又は非置換ヘテロアリール、及び置換又は非置換ヘテロシクリルから選択され、
ただし、Cy1は非置換ピリド-4-イルでない]
で表される化合物又は薬学的に許容されるそれらの塩を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】イマチニブ及び本発明の様々な化合物のGIST関連cKit557-558欠失を含むT1細胞に及ぼす効果を示すグラフである。
図1B】イマチニブ及び本発明の様々な化合物のGIST関連cKit557-558欠失を含む430細胞に及ぼす効果を示すグラフである。
図1C】イマチニブ及び本発明の様々な化合物のGIST関連cKit557-558欠失及びD816E突然変異を含むT1細胞に及ぼす効果を示すグラフである。
図1D】イマチニブ及び本発明の様々な化合物のGIST関連cKit557-558欠失及びD820Y突然変異を含むT1細胞に及ぼす効果を示すグラフである。
図1E】イマチニブ及び本発明の様々な化合物のGIST関連cKit557-558欠失及びA829P突然変異を含むT1細胞に及ぼす効果を示すグラフである。
図1F】イマチニブ及び本発明の様々な化合物のGIST関連cKit557-558欠失並びにV654A及びN680K突然変異を含むACC-430細胞に及ぼす効果を示すグラフである。
図1G】イマチニブ及び本発明の様々な化合物のGIST関連cKit557-558欠失を含む430細胞に及ぼす効果を示すグラフである。
図2】イマチニブ及び本発明の様々な化合物のc-Kitリン酸化、AKTリン酸化、及びMAPKリン酸化に及ぼす効果を示すウェスタンブロット図である。
図3】慢性骨髄性白血病NSGマウスモデルにおけるK562細胞BCR-Abl異種移植片の腫瘍増殖抑制を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一態様において、本発明は、式(I)
【化2】
[式中、出現ごとに独立して、
R1は、水素又は低級アルキルから選択され、
Cy1は、置換又は非置換アリール、置換又は非置換ヘテロアリール、及び置換又は非置換ヘテロシクリルから選択され、
ただし、Cy1は非置換ピリド-4-イルでない]
で表される化合物又は薬学的に許容されるそれらの塩を提供する。
【0015】
ある特定の実施形態において、Cy1は、
【化3】
[式中、出現ごとに独立して、
R2及びR3は、水素、アルキル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、シクロアルキル、ハロ、シアノ、アルコキシ、-C(O)OH、及び-C(O)N(R4)(R4)から選択され、
nは、1、2、3又は4であり、
Xは、C(R4)2、S、O、又はNR4であり、
R4は、水素及び置換又は非置換アルキル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、シクロアルキルアルキル又はヘテロシクリルアルキルから選択される]
から選択される。
【0016】
ある特定の実施形態において、Cy1は、
【化4】
[式中、出現ごとに独立して、
R1は、水素又は低級アルキルから選択され、
R2及びR3は、水素、アルキル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、シクロアルキル、ハロ、シアノ、アルコキシ、-C(O)OH、及び-C(O)N(R4)(R4)から選択され、
R4は、水素及び置換又は非置換アルキル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、シクロアルキルアルキル又はヘテロシクリルアルキルから選択される]
から選択される。
【0017】
ある特定の他の実施形態において、Cy1は置換ピリド-4-イルでも非置換ピリド-4-イルでもない。
【0018】
ある特定の実施形態において、Cy1は、5員ヘテロアリール、アリール又はヘテロシクリルである。
【0019】
ある特定の実施形態において、Cy1は、
【化5】
から選択される。
【0020】
ある特定の実施形態において、Cy1は、
【化6】
から選択される。
【0021】
ある特定の実施形態において、Cy1は、
【化7】
から選択される。
【0022】
ある特定の実施形態において、Cy1は、
【化8】
から選択される。
【0023】
ある特定の好ましい実施形態において、R1はメチル、例えば-CH3、-CDH2、-CD2H、又は-CD3である。
【0024】
一態様において、本発明は、本明細書に開示される化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0025】
ある特定の実施形態において、医薬組成物は、1種以上の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0026】
一態様において、本発明は、CNS/呼吸興奮薬、鎮痛薬、麻薬作用薬、麻薬拮抗薬、非ステロイド系抗炎症剤/鎮痛剤、行動修正剤、精神安定薬/鎮静薬、麻酔剤、吸入薬、麻薬、拮抗薬(reversal agent)、抗痙攣薬、骨格筋弛緩薬、平滑筋弛緩薬、心血管作動薬、強心剤、抗不整脈薬、抗コリン薬、血管拡張剤、ショックの処置において使用される作用剤、α-アドレナリン遮断剤、β-アドレナリン遮断剤、呼吸器官用薬、気管支拡張薬、交感神経興奮薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳剤、尿失禁/尿閉に対する作用物質、尿アルカリ性化薬、尿酸性化薬、コリン作動性刺激薬、尿路結石症に対する作用物質、胃腸剤、制吐剤、制酸薬、ヒスタミンH2拮抗薬、胃粘膜保護薬、プロトンポンプ阻害薬、食欲増進薬、GI鎮痙薬-抗コリン薬、GI刺激薬、緩下薬、生理食塩水、滑沢剤、界面活性剤、止痢薬、ホルモン/内分泌/生殖器官用作用剤、性ホルモン、アナボリックステロイド、下垂体後葉ホルモン、副腎皮質ステロイド、グルココルチコイド、抗糖尿病剤、甲状腺薬、甲状腺ホルモン、内分泌/生殖器官用薬、プロスタグランジン、抗感染薬、抗寄生虫薬、抗コクシジウム剤、抗生物質、抗結核薬、アミノシクリトール、セファロスポリン、マクロライド、ペニシリン、テトラサイクリン、リンコサミド、キノロン、スルホンアミド、抗細菌薬、抗真菌剤、抗ウイルス剤、血液改質剤、凝固剤、抗凝血薬、赤血球生成剤、抗悪性腫瘍薬/免疫抑制薬、アルキル化剤、解毒薬、骨/関節剤、外皮用剤(全身)、ビタミン及びミネラル/栄養素、全身性酸性化薬、全身性アルカリ性化薬、抗がん剤、並びに抗ウイルス剤などの中枢神経系作用薬から独立して選択される1種以上の化合物と共同投与するための本明細書に開示される化合物又は組成物を提供する。
【0027】
別の態様において、本発明は、例えば、タイサブリを使用中の多発性硬化症(MS)患者、免疫抑制患者(HIV1感染患者を含む)、臓器移植のためにコルチコステロイドなどの慢性免疫抑制療法を受けている患者、がん及び/又は自己免疫疾患(関節リウマチ、乾癬、及び紅斑性狼瘡など)の患者、並びに免疫応答を抑制する療法(例えば、特にエファリズマブ、ベラタセプト、リツキシマブ、ナタリズマブ、インフリキシマブ)を受けている患者における進行性多巣性白質脳症(PML)を処置するための化合物の使用を提供する。
【0028】
別の態様において、本発明は、ヒトなどの哺乳類における1種以上のATKの活性を変化させるための、本明細書に開示される化合物又は組成物の使用を提供する。
【0029】
別の態様において、本発明は、ヒトなどの哺乳類におけるc-Abl1及び/若しくはc-Abl2又はc-Abl1及び/若しくはc-Abl2のキナーゼドメインを含むいずれかのタンパク質の機能を変化させるための、本明細書に開示される化合物又は組成物の使用を提供する。
【0030】
別の態様において、本発明は、ヒトなどの哺乳類におけるc-Kit又はc-Kitのキナーゼドメインを含むいずれかのタンパク質の機能を変化させるための、本明細書に開示される化合物又は組成物の使用を提供する。
【0031】
別の態様において、本発明は、PGDFRa若しくはPDGFRb又はPDGRFa若しくはPDGRFbのキナーゼドメインを含むいずれかのタンパク質を阻害するための、本明細書に開示される化合物又は組成物の使用を提供する。
【0032】
別の態様において、本発明は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)などの心血管異常、HIV関連カポジ肉腫、特発性肺線維症(IPF)、びまん型全身性強皮症又は関節リウマチの処置のための本明細書に開示される化合物又は組成物の使用を提供する。
【0033】
別の態様において、本発明は、消化管間質腫瘍(GIST)に関連した突然変異、例えば、エクソン11におけるもの(557-558欠失)、エクソン11の557-558欠失とD186E突然変異の組合せ、エクソン11の557-558欠失とD820Y突然変異の組合せ、エクソン11の557-558欠失とA829P突然変異の組合せ、エクソン11の557-558欠失とV654K突然変異の組合せ、並びにエクソン11の557-558欠失とV654K及びN680Kの組合せを1つ以上有する突然変異c-Kitを阻害するための、本明細書に開示される化合物又は組成物の使用を提供する。エクソン9における突然変異(複数可)も、ATKi処置の影響を受けることができる。
【0034】
別の態様において、本発明は、がんを患っている哺乳類を処置する方法であって、本明細書に開示される化合物又は組成物の有効量を哺乳類に投与するステップを含む方法を提供する。
【0035】
別の態様において、本発明は、消化管において生じる最もよくみられる間葉系腫瘍である消化管間質腫瘍(GIST)を処置する方法であって、GISTは特徴的形態を有し、一般にCD117(c-Kit)陽性であり、KIT又はPDGFRaにおける活性化突然変異によって主に引き起こされ、アベルソンキナーゼファミリーの両タンパク質キナーゼはATKiでの処置に感受性を示し、本明細書に開示される化合物又は組成物を対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0036】
別の態様において、本発明は、対象における細菌又はウイルス感染症を予防又は処置する方法であって、本明細書に開示される化合物又は組成物を対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0037】
ある特定の実施形態において、本発明は、細菌感染症、例えば緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)、大腸菌(Escherichia coli)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)、又は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に起因する細菌感染症を予防又は処置する方法を提供する。
【0038】
ある特定の実施形態において、本発明は、ウイルス感染症、例えばワクシニアウイルス(Vaccinia virus)、痘瘡ウイルス(variola virus)、ポリオーマウイルス(polyoma virus)、ポックスウイルス(Pox virus)、ヘルペスウイルス(Herpes virus)、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)(CMV)、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus)、JCウイルス(JC virus)、JCポリオーマウイルス(JC polyomavirus)(JCV)、BKポリオーマウイルス(BK polyomavirus)(BKV)、シミアンウイルス(Simian virus)40(SV40)、サル痘ウイルス(Monkeypox virus)、エボラウイルス(Ebola virus)、マールブルグウイルス(Marburg virus)、ブニヤウイルス(Bunyavirus)、アレナウイルス(Arenavirus)、アルファウイルス(Alphavirus)(例えば、ベネズエラウマ脳炎(VEE)又は西部ウマ脳炎(WEE))、フラビウイルス(Flavivirus)、ウエストナイルウイルス(West Nile virus)、又はコロナウイルス(Coronavirus)(例えば、SARS)に起因するウイルス感染症を予防又は処置する方法を提供する。
【0039】
ある特定の実施形態において、本発明は、ウイルス感染症を予防又は処置する方法であって、ウイルス感染症が脳におけるJCVの溶解感染である方法を提供する。
【0040】
ある特定の実施形態において、本発明は、細菌又はウイルス感染症を予防又は処置する方法であって、対象がヒトである方法を提供する。
【0041】
別の態様において、本発明は、細菌又はウイルス感染症を予防又は処置する方法であって、本明細書に開示される化合物又は組成物が、経口、経鼻、頬側、舌下、静脈内、経粘膜、直腸、局所、経皮、皮下、吸入、又はくも膜下腔内投与される方法を提供する。
【0042】
化合物
本発明の化合物には、以上に開示された式Iの化合物及びそれらの塩(薬学的に許容される塩を含む)が含まれる。そのような化合物は、本明細書に開示される組成物及び方法に適している。
【0043】
定義
用語「アルキル」とは、直鎖アルキル基及び分枝鎖アルキル基を含めて、飽和脂肪族基の基を指す。好ましい実施形態において、直鎖又は分枝鎖アルキルは、その主鎖中に30個以下の炭素原子(例えば、直鎖の場合C1〜C30、分枝鎖の場合C3〜C30)、より好ましくは20個以下の炭素原子を有する。ある特定の実施形態において、アルキル基は、低級アルキル基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル及びn-ペンチルである。
【0044】
さらに、本明細書、実施例、及び特許請求の範囲を通して使用される用語「アルキル」(又は「低級アルキル」)とは、「非置換アルキル」及び「置換アルキル」の両方を包含することを意図したものであり、これらのうち後者は、置換基が炭化水素主鎖の1個以上の炭素上の水素と置換しているアルキル部分を指す。ある特定の実施形態において、直鎖又は分枝鎖アルキルは、その主鎖中に30個以下の炭素原子(例えば、直鎖の場合C1〜C30、分枝鎖の場合C3〜C30)を有する。好ましい実施形態において、該鎖は、その主鎖中に10個以下の炭素原子(C1〜C10)を有する。他の実施形態において、該鎖は、その主鎖中に6個以下の炭素原子(C1〜C6)を有する。
【0045】
本明細書において用語「アルケニル」とは、少なくとも1個の二重結合を含む脂肪族基を指し、「非置換アルケニル」及び「置換アルケニル」の両方を包含することを意図したものであり、これらのうち後者は、置換基がアルケニル基の1個以上の炭素上の水素と置換しているアルケニル部分を指す。そのような置換基は、1個以上の二重結合に含まれている又は含まれていない1個以上の炭素上に存在することができる。さらに、そのような置換基としては、安定性により用いることが禁止されるような場合を除いて、後述のように、アルキル基の場合に考えられたものすべてが挙げられる。例えば、1個以上のアルキル、カルボシクリル、アリール、ヘテロシクリル、又はヘテロアリール基によるアルケニル基の置換が考えられる。好ましい実施形態において、直鎖又は分枝鎖アルケニルは、その主鎖中に1〜12個の炭素、好ましくはその主鎖中に1〜8個の炭素、より好ましくはその主鎖中に1〜6個の炭素を有する。アルケニル基の例としては、アリル、プロペニル、ブテニル、2-メチル-2-ブテニルなどが挙げられる。
【0046】
本明細書において用語「アルキニル」とは、少なくとも1個の三重結合を含む脂肪族基を指し、「非置換アルキニル」及び「置換アルキニル」の両方を包含することを意図したものであり、これらのうち後者は、置換基がアルキニル基の1個以上の炭素上の水素と置換しているアルキニル部分を指す。そのような置換基は、1個以上の三重結合に含まれている又は含まれていない1個以上の炭素上に存在することができる。さらに、そのような置換基としては、安定性により用いることが禁止されるような場合を除いて、前述のように、アルキル基の場合に考えられたものすべてが挙げられる。例えば、1個以上のアルキル、カルボシクリル、アリール、ヘテロシクリル、又はヘテロアリール基によるアルキニル基の置換が考えられる。好ましい実施形態において、アルキニルは、その主鎖中に1〜12個の炭素、好ましくはその主鎖中に1〜8個の炭素、より好ましくはその主鎖中に1〜6個の炭素を有する。アルキニル基の例としては、プロピニル、ブチニル、3-メチルペンタ-1-イニルなどが挙げられる。
【0047】
本明細書において用語「アラルキル」とは、1個以上のアリール基で置換されているアルキル基を指す。
【0048】
本明細書において用語「アリール」は、各環原子が炭素である置換又は非置換単環芳香族基を包含する。好ましくは、環は5〜7員環、より好ましくは6員環である。アリール基には、フェニル、フェノール、アニリン、ナフチル、ビフェニル、アントラセニルなどが含まれる。
【0049】
本明細書において用語「シクロアルキル」とは飽和脂肪族環の基を指す。好ましい実施形態において、シクロアルキルは、それらの環構造中に3〜10個の炭素原子、より好ましくは環構造中に5〜7個の炭素原子を有する。好適なシクロアルキルとしては、シクロヘプチル、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロブチル及びシクロプロピルが挙げられる。
【0050】
用語「シクロアルキル」及び「シクロアルケニル」とは、3〜12個の炭素原子を有する環式炭化水素基を指す。
【0051】
本明細書において用語「ハロゲン」、「ハリド」及び「ハロ」とはハロゲンを意味し、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードを包含する。
【0052】
用語「ヘテロシクリル」、「ヘテロ環」、「ヘテロシクロ」及び「ヘテロ環の」とは、置換又は非置換の非芳香族環構造、好ましくは3〜10員環、より好ましくは3〜7員環を指し、それらの環構造は、少なくとも1個のヘテロ原子、好ましくは1〜4個のヘテロ原子、より好ましくは1個又は2個のヘテロ原子を含む。ヘテロ環基は、環又は環系のいずれのヘテロ原子又は炭素原子に結合していてもよい。単環式ヘテロ環基の例としては、ピロリジニル、ピロリル、ピラゾリル、オキセタニル、ピラゾリニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、オキサゾリル、オキサゾリジニル、イソオキサゾリニル、イソオキサゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、チアゾリジニル、イソチアゾリル、イソチアゾリジニル、フリル、テトラヒドロフリル、チエニル、オキサジアゾリル、ピペリジニル、ピペラジニル、2-オキソピペラジニル、2-オキソピペリジニル、2-オキソピロロジニル、2-オキソアゼピニル、アゼピニル、4-ピペリドニル、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、テトラヒドロピラニル、モルホリニル、チアモルホリニル、チアモルホリニルスルホキシド、チアモルホリニルスルホン、1,3-ジオキソラン及びテトラヒドロ-1,1-ジオキソチエニル、トリアゾリル、トリアジニルなどが挙げられる。二環式ヘテロ環基の例としては、インドリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾチエニル、キヌクリジニル、キノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、イソキノリニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾピラニル、インドリジニル、ベンゾフリル、クロモニル、クマリニル、ベンゾピラニル、シンノリニル、キノキサリニル、インダゾリル、ピロロピリジル、フロピリジニル(フロ[2,3-c]ピリジニル、フロ[3,2-b]ピリジニル]又はフロ[2,3-b]ピリジニルなど)、ジヒドロイソインドリル、ジヒドロキナゾリニル(3,4-ジヒドロ-4-オキソ-キナゾリニルなど)、テトラヒドロキノリニルなどが挙げられる。三環式ヘテロ環基の例としては、カルバゾリル、ベンゾインドリル、フェナントロリニル、アクリジニル、フェナントリジニル、キサンテニルなどが挙げられる。
【0053】
本明細書において用語「ヘテロアルキル」とは、少なくとも1個のヘテロ原子(例えば、O、S、又はNR4(ただし、R4がH又は低級アルキルである場合など))を含む飽和又は不飽和炭素原子鎖を指す。
【0054】
用語「ヘテロアリール」は、置換又は非置換芳香族単環構造、好ましくは5〜7員環、より好ましくは5〜6員環を包含し、それらの環構造は、少なくとも1個のヘテロ原子(例えば、O、N、又はS)、好ましくは1〜4個又は1〜3個のヘテロ原子、より好ましくは1個又は2個のヘテロ原子を含む。2個以上のヘテロ原子がヘテロアリール環中に存在しているとき、それらは同じでも異なってもよい。用語「ヘテロアリール」は、環の少なくとも1個がヘテロ芳香族であり、例えば他の環式環がシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、及び/又はヘテロシクリルであってもよい2個以上の環式環を有し、2個以上の炭素が隣接する2個の環に共有されている多環式環系も包含する。好ましい多環式環系は2個の環式環を有し、それらの環は両方とも芳香族である。ヘテロアリール基の例としては、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、フリル、チエニル、オキサジアゾリル、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、キノリニル、ピリダジニル、トリアゾリル、トリアジニルなどが挙げられる。
【0055】
用語「アルコキシ」とは、本明細書に定義されるアルキル基が酸素原子に直接結合しているという意味を意図したものである。一部の実施形態は1〜5個の炭素、一部の実施形態は1〜4個の炭素、一部の実施形態は1〜3個の炭素、一部の実施形態は1個又は2個の炭素である。例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、tert-ブトキシ、5-イソブトキシ、sec-ブトキシなどが挙げられる。
【0056】
本明細書において用語「ヘテロ原子」とは、炭素又は水素以外の任意の元素の原子を意味する。好ましいヘテロ原子は窒素、酸素、及び硫黄である。
【0057】
用語「置換されている」とは、置換基が主鎖の1個以上の炭素上の水素に置換している部分を指す。「置換」又は「で置換されている」は、そのような置換は、置換された原子及び置換基の許容原子価と合致しており、かつ置換は、例えば、転位、環化、脱離などによる変換が自発的に起こらない安定な化合物をもたらすという暗黙の条件を含むことが理解されよう。本明細書において用語「置換されている」は、有機化合物の許容される置換基をすべて包含すると考えられる。広範な態様において、許容される置換基としては、有機化合物の非環式及び環式、分枝及び非分枝、炭素環式及びヘテロ環式、芳香族及び非芳香族の置換基が挙げられる。許容される置換基は、適切な有機化合物に対して1個以上であり、同じでも異なってもよい。本発明では、窒素などのヘテロ原子は、水素置換基及び/又はヘテロ原子の原子価を満足する本明細書に記載される有機化合物のいずれかの許容される置換基を有することができる。置換基としては、本明細書に記載されるいずれかの置換基、例えばハロゲン、ヒドロキシル、カルボニル(カルボキシル、アルコキシカルボニル、ホルミル、又はアシルなど)、チオカルボニル(チオエステル、チオアセタート、又はチオホルマートなど)、アルコキシル、アルキルチオ、アシルオキシ、ホスホリル、ホスファート、ホスホナート、アミノ、アミド、アミジン、イミン、シアノ、ニトロ、アジド、スルフヒドリル、アルキルチオ、スルファート、スルホナート、スルファモイル、スルホンアミド、スルホニル、ヘテロシクリル、アラルキル、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族部分を挙げることができる。
【0058】
「非置換」と明記されていない限り、本明細書で化学的部分への言及は、置換された変形を包含すると解釈される。例えば、「アリール」基又は部分への言及は、置換された変形及び置換されていない変形の両方を無条件に包含する。
【0059】
用語「不飽和環」は、部分不飽和芳香族環を包含する。
【0060】
本明細書において用語「腫瘍性疾患」とは、がんなどの過剰増殖性疾患を指す。
【0061】
本明細書において用語「共同投与」とは、2種以上の作用剤を目的の対象に単一の治療レジメンの一部分として投与することを意味する。投与(複数可)は同時投与でも逐次投与でもよい。すなわち、投与された作用剤が処置中の対象において共存する限り、又は少なくとも1種の作用剤が、他の作用剤の標的組織がまだ前記他の作用剤の影響を受けている間に同じ前記他の作用剤の標的組織に作用する機会がある限り、1種の作用剤を投与し、その後、しばらくたって第2の作用剤(及び/又は第3の作用剤など)を投与する。ある特定の実施形態において、投与する作用剤を単一の医薬組成物中に含めて、一緒に投与してもよい。ある特定の実施形態において、作用剤を、別個の経路を介することを含めて、同時投与する。ある特定の実施形態において、1種以上の作用剤は連続投与し、他の作用剤は所定の間隔で投与するだけである(大投与量で単回、又はより少ない投与量で1週間に2回など)。
【0062】
本発明はその範囲内に塩及び異性体を含む。本発明の化合物は、場合によっては塩を形成することができ、それらの塩も本発明の範囲内である。本明細書において用語「塩(複数可)」とは、無機及び/又は有機の酸及び塩基を用いて形成された酸性及び/又は塩基性の塩を表す。両性イオン(分子内塩又は内塩)を、本明細書において用語「塩(複数可)」の範囲内に含める(また、例えばR置換基がカルボキシル基などの酸部分を含む場合に、形成することができる)。アルキルアンモニウム塩などの第四級アンモニウム塩も本明細書に含まれる。薬学的に許容される(すなわち、無毒性で生理学的に許容される)塩が好ましいが、例えば、調製時において使用することができる単離又は精製ステップにおいては他の塩が有用である。化合物の塩は、例えば、化合物と当量などある量の酸又は塩基を塩がその中で沈澱する媒体などの媒体又は水性媒体中で反応させ、その後、凍結乾燥することによって形成することができる。
【0063】
酸付加塩の例としては、酢酸塩(酢酸又はトリハロ酢酸、例えばトリフルオロ酢酸を用いて形成されたものなど)、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩(硫酸を用いて形成されたものなど)、スルホン酸塩(本明細書に記載されるものなど)、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩などが挙げられる。
【0064】
(例えば、置換基がカルボキシル基などの酸性の部分を含む場合に形成された)塩基性塩の例としては、アンモニウム塩、ナトリウム、リチウム、及びカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム及びマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、ベンザチン、ジシクロヘキシルアミン、ヒドラバミン、N-メチル-D-グルカミン、N-メチル-D-グルカミド、t-ブチルアミンなどの有機塩基(例えば、有機アミン)との塩、並びにアルギニン、リシンなどのアミノ酸との塩などが挙げられる。塩基性窒素含有基を、低級アルキルハロゲン化物(例えば、メチル、エチル、プロピル、及びブチルの塩化物、臭化物及びヨウ化物)、硫酸ジアルキル(例えば、硫酸ジメチル、ジエチル、ジブチル、及びジアミル)、長鎖ハロゲン化物(例えば、デシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリルの塩化物、臭化物及びヨウ化物)、アラルキルハロゲン化物(例えば、ベンジル及びフェネチルの臭化物)などの物質で四級化することができる。
【0065】
本発明の化合物の溶媒和物も本明細書で考えられている。式Iの化合物の溶媒和物は、好ましくは水和物又は他の薬学的に許容される溶媒和物である。
【0066】
エナンチオマー形及びジアステレオマー形を含めて、化合物のR置換基上の不斉炭素によって存在することができる立体異性体など、本化合物のすべての立体異性体は、本発明の範囲内であると考えられる。本発明の化合物の個々の立体異性体は、例えば他の異性体を実質的に含まないことができ、あるいは例えばラセミ体として、又は他のすべての若しくは他の選択された立体異性体と混合することができる。本発明のキラル中心はS又はR立体配置をとることができる。
【0067】
本明細書において用語「処置している」又は「処置」は、ある状態の症状、臨床徴候、及び基礎となる病理を、対象の状態が改善又は安定化するように逆転、低減、又は抑制することを包含する。本明細書において使用されているように、また当技術分野においてよく理解されているように、「処置」は、臨床結果を含めて、有益な又は所望の結果を得る手法である。有益な又は所望の臨床結果としては、検出可能であろうと検出不可能であろうと、1つ以上の症状又は状態の軽減又は改善、疾患の程度の低下、病状の安定化(すなわち、悪化させない)、疾患の蔓延予防、病状悪化の遅延又は緩徐化、病状の改善又は寛解、及び寛解(部分寛解かそれとも完全寛解)を挙げることができるが、これらに限定されない。「処置」とは、処置を受けていない場合に予想される生存期間に比べて生存期間を延ばすことも意味することがある。
【0068】
本明細書において、障害又は状態を「予防する」治療薬とは、統計学的サンプルにおいて、無処置対照サンプルに比べて処置サンプルにおける障害又は状態の発生を低減し、あるいは無処置対照サンプルに比べて障害若しくは状態の1つ以上の症状の発症を遅延させ、又はそれらの重症度を低減する化合物を指す。
【0069】
本出願はその範囲内に好適な対イオンの選択の効果も想定する。本発明の化合物の対イオンは、前記pH範囲内におけるイオン化できる薬物の解離定数を選択することによって選ぶことができる。任意の化合物のイオン化及び非イオン化薬物濃度を(ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式などの十分に確立された式を用いて)推定することによって、薬物の溶解度、ひいては吸収を変化させることができる。
【0070】
生成された化合物は、(例えば、存在するすべての立体異性体の全量に対して少なくとも95%まで純度を高めた)単一の立体異性体、ラセミ体、又はエナンチオマー若しくはジアステレオマーの任意の比の混合物として存在することができる。
【0071】
医薬組成物
本発明は、活性成分である式(I)の化合物又は薬学的に許容されるその塩を薬学的に許容される添加剤/賦形剤/アジュバント/ビヒクルと共に含む医薬組成物をさらに提供する。
【0072】
本発明の化合物は、例えば薬学的に許容される担体と組み合わせた医薬組成物で使用し、患者に投与することができる。そのような組成物は、希釈剤、フィラー、塩、緩衝剤、安定剤、可溶化剤、及び当技術分野において周知である他の材料も含有することができる。用語「薬学的に許容される」とは、活性成分(複数可)の生物活性の有効性に干渉しない無毒性材料を意味する。担体の特性は投与経路によって決まる。そのような追加の因子及び/又は作用剤を医薬組成物に含めて、本発明の化合物と相乗効果を生じ、又は本発明の化合物に起因する副作用を最小限に抑えることができる。
【0073】
本発明の医薬組成物はリポソーム又はミセルの形をとることができ、該ミセルにおいて、本発明の化合物が、他の薬学的に許容される担体に加えて、水溶液中にミセル、不溶性単層、液晶、又はラメラ層として凝集した形で存在する脂質などの両親媒性物質と組み合わされている。リポソーム製剤に適した脂質としては、モノグリセリド、ジグリセリド、スルファチド、リゾレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸などが挙げられるが、これらに限定されない。そのようなリポソーム製剤の調製は、例えば米国特許第4,235,871号、同第4,501,728号、同第4,837,028号、及び同第4,737,323号(これらのすべては参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているように、当業者のレベルの範囲内である。
【0074】
組成物は、経口、経鼻、頬側、舌下、静脈内、経粘膜、非経口、吸入、噴霧、経皮、皮下、くも膜下腔内、局所又は直腸投与を含めて様々な方式で投与することができ、当技術分野において公知である方法に従って製剤化することができる。
【0075】
哺乳類に有効な剤形は、活性化合物約0.1〜100mg/体重1kgとすることができ、単回投与として又は1日1〜4回など個別の用量の形で投与することができる。
【0076】
哺乳類は成人とすることができる。
【0077】
本発明の化合物は、1種以上の追加の作用剤と場合によって投与することができる。追加の作用剤の例としては、CNS/呼吸興奮薬、鎮痛薬、麻薬作用薬、麻薬拮抗薬、非ステロイド系抗炎症剤/鎮痛剤、行動修正剤、精神安定薬/鎮静薬、麻酔剤、吸入薬、麻薬、拮抗薬、抗痙攣薬、骨格筋弛緩薬、平滑筋弛緩薬、心血管作動薬、強心剤、抗不整脈薬、抗コリン薬、血管拡張剤、ショックの処置において使用される作用剤、α-アドレナリン遮断剤、β-アドレナリン遮断剤、呼吸器官用薬、気管支拡張薬、交感神経興奮薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳剤、尿失禁/尿閉に対する作用物質、尿アルカリ性化薬、尿酸性化薬、コリン作動性刺激薬、尿路結石症に対する作用物質、胃腸(GI)剤、制吐剤、制酸薬、ヒスタミンH2拮抗薬、胃粘膜保護薬、プロトンポンプ阻害薬、食欲増進薬、GI鎮痙薬-抗コリン薬、GI刺激薬、緩下薬、生理食塩水、膨張性下剤、滑沢剤、界面活性剤、止痢薬、ホルモン/内分泌/生殖器官用作用剤、性ホルモン、アナボリックステロイド、下垂体後葉ホルモン、副腎皮質ステロイド、グルココルチコイド、抗糖尿病剤、甲状腺薬、甲状腺ホルモン、種々の内分泌/生殖器官用薬、プロスタグランジン、抗感染薬、抗寄生虫薬、抗コクシジウム剤、抗生物質、抗結核薬、アミノシクリトール、セファロスポリン、マクロライド、ペニシリン、テトラサイクリン、リンコサミド、キノロン、スルホンアミド、抗細菌薬、抗真菌剤、抗ウイルス剤、血液改質剤、凝固剤、抗凝血薬、赤血球生成剤、抗悪性腫瘍薬/免疫抑制薬、アルキル化剤、解毒薬、骨/関節剤、外皮用剤(全身)、ビタミン及びミネラル/栄養素、全身性酸性化薬、全身性アルカリ性化薬、抗がん剤、並びに抗ウイルス剤などの中枢神経系作用薬から独立して選択される1種以上の化合物が挙げられる。
【0078】
A.使用方法
本発明は、疾患の予防及び/若しくは処置、並びに/又は疾患の症状の改善の方法であって、式(I)の化合物若しくは薬学的に許容されるその塩、又は活性成分として式(I)の化合物を含む医薬組成物の治療有効量を投与するステップを含む方法をさらに提供する。
【0079】
本発明の化合物はc-ABL1及び/又はc-ABL2阻害薬として有用であり、ヒトを含めて、哺乳類においてc-ABL1及び/又はc-ABL2の量の変化が必要とされるすべての障害において有用である。本発明の化合物は、ヒトを含めて、哺乳類において、PGDFRa及びPGDFRb阻害薬としても作用することができる。PDGFRa/bは、がん(例えば、GIST)にも肺動脈性肺高血圧症(PAH)などの心血管異常にも関連している。本発明の化合物は、ヒトを含めて、哺乳類において、c-Kitとも呼ばれる幹細胞因子受容体(SCFR)及びc-Kitにおける突然変異の阻害薬としても作用することができる。本発明の化合物はLCKも阻害し、したがって慢性リンパ性白血病(CLL)を処置する際に有用となり得る。
【0080】
本発明の化合物、式(I)の化合物は、例えば治療有効量で使用して、腫瘍性疾患を患っているヒトを含めて、哺乳類を処置することができる。
【0081】
メシル酸イマチニブ(Gleevec)は、ウイルス生活環に不可欠な宿主タンパク質を無能にする(Nature Medicine, 2005, vol.11, 7, page 731-739)が、免疫記憶の獲得に干渉しない(Journal of Virology, 2011, vol.85, 1, p.21-31)ことによって、ポックスウイルス感染症に対して有効であることがわかった。
【0082】
同様に、ウイルス自体ではなく宿主遺伝子産物を標的とすることによって、メシル酸イマチニブ又はニロチニブの投与は、エボラウイルス及びマールブルグウイルス感染症を処置する際に有用となり得る(Science Translational Medicine, 2012, vol.4, 123, page 1-10; Antiviral Research, 2014, vol. 106, pages 86-94)。さらに、Ablファミリーキナーゼは、ウイルス付着に必要とされるガングリオシドをモジュレートすることによって、細胞のポリオーマウイルス感染症に対する感受性を制御することがわかった(Journal of Virology, 2010, vol.84, 9, p.4243-4251)。したがって、Ablキナーゼ阻害薬、例えば式(I)の化合物は、ポリオーマウイルス感染症を処置又は予防するのに有用であると示すことができる。
【0083】
本出願は、本明細書に記載される式(I)の化合物を使用して、対象における細菌又はウイルス感染症を予防又は処置する方法を提供する。ある特定の実施形態において、細菌感染症は、緑膿菌、クラミジア・トラコマティス、大腸菌、ヘリコバクター・ピロリ、リステリア・モノサイトゲネス、ネズミチフス菌、シゲラ・フレックスネリ、又は結核菌に起因する。
【0084】
ある特定の実施形態において、結核菌は多剤耐性結核又は広範囲薬剤耐性結核を引き起こす。
【0085】
ある特定の実施形態において、ウイルス感染症は、ワクシニアウイルス、痘瘡ウイルス、ポリオーマウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒト免疫不全ウイルス、JCウイルス、JCポリオーマウイルス(JCV)、BKウイルス、シミアンウイルス40(SV40)、サル痘ウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ブニヤウイルス、アレナウイルス、アルファウイルス(例えば、ベネズエラウマ脳炎(VEE)、西部ウマ脳炎(WEE))、フラビウイルス、ウエストナイルウイルス又はコロナウイルス(例えば、SARS)に起因する。
【0086】
一部の実施形態において、本出願に記載される化合物は、メシル酸イマチニブに比べて望ましい安全性及び毒性プロファイルを改善/維持している。
【0087】
一部の実施形態において、本出願に記載される化合物はメシル酸イマチニブより、生理食塩水に、かつ/又は生物学的に有用なpH範囲で溶けやすい。
【実施例】
【0088】
[実施例1]
合成プロトコル
【0089】
【化9】
【0090】
(E)-1-(5-ブロモピリジン-3-イル)-3-(ジメチルアミノ)プロパ-2-エン-1-オン(2)の合成
500mLのTHF中の1(40.0g、200mmol)及びR-1(119.0g、1000mmol)の溶液を70℃で終夜撹拌した。TLCにより、反応が完了したことが明らかになった。混合物を室温に冷却し、溶媒を減圧除去した。得られた固体をヘキサンで洗浄して、2(47.2g、93%)を黄色固体として得た。
【0091】
4-(5-ブロモピリジン-3-イル)-N-(2-メチル-5-ニトロフェニル)ピリミジン-2-アミン(3)の合成
500mLのn-BuOH中の2(45g、176.5mmol)、7(40.6g、159.2mmol)、K2CO3(44.0g、318.8mmol)の混合物を120℃で16時間加熱した。反応混合物を濾過し、溶媒を減圧除去した。残留物をクロマトグラフィーカラム(シリカゲル、石油エーテル(PE)/酢酸エチル(EA)で溶離、PE/EA=2:1)により精製して、3(47.0g、70%)を淡黄色固体として得た。
【0092】
N1-(4-(5-ブロモピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イル)-6-メチルベンゼン-1,3-ジアミン(4)の合成
300mLのEtOAc中の3(45.0g、116.9mmol)及びSnCl2(132.0g、585mmol)の溶液を加熱して終夜還流し、次いで反応物を室温に冷却し、濾過し、溶液を減圧濃縮して、4(44.0g、100%)を得た。それを、さらに何ら精製することなく、次のステップに直接使用した。
【0093】
N-(3-(4-(5-ブロモピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メチルフェニル)-4-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)ベンズアミド(5)の合成
上記の粗製4(30.0g、84.5mmol)及び8(40.0g、123.0mmol)を300mLのi-BuOHに溶解し、次いで、得られた溶液を80℃に約5時間温め、反応が完了した後、混合物を室温に冷却し、溶媒を減圧下で除去した。得られた残留物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/EA=2:1)で精製して、5(45.0g、93%)を黄色固体として得た。
【0094】
5-(2-(2-メチル-5-(4-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)ベンズアミド)フェニルアミノ)ピリミジン-4-イル)ピリジン-3-イルボロン酸(6)の合成
ジオキサン(150mL)中の5(10.0g、17.5mmol)、KOAc(2.8g、28.1mmol)、PCy3(0.3g、1.1mmol)、Pd2(dba)3(0.4g、0.5mmol)及び4,4,4',4',5,5,5',5'-オクタメチル-2,2'-ビ(1,3,2-ジオキサボロラン)(7.1g、28.0mmol)の混合物を80℃で終夜撹拌した。反応が完了した後、反応液を減圧除去して、粗製6(11.0g、収率100%)を黄色固体として得た。それを、さらに精製することなく、次のステップに直接使用した。
【0095】
【化10】
【0096】
N-(3-(4-(5-アセチルピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メチルフェニル)-4-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)ベンズアミド(7)の合成
脱気したジオキサン(50mL)中の5(1.1g、2.0mmol)、トリブチル(1-エトキシビニル)スタンナン(0.9g、2.6mmol)、Pd(PPh3)4(0.2g、0.1mmol)及びトリエチルアミン(0.3g、3.0mmol)の溶液を加熱して24時間還流した。次いで、溶媒を真空中で蒸発させ、残留物を厚いSiO2パッドで濾過した。得られた固体を乾燥THF(60ml)に溶解し、0℃に冷却し、1N HClで処理した。溶液を室温で2時間撹拌し、次いで飽和NaHCO3水溶液で中和した。混合物をEAで抽出し、有機層を塩水で洗浄し、Na2SO4で脱水し、真空中で濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、PE/EA=2:1で溶離)で精製して、7(1.0g、94%)を白色固体として得た。
【0097】
エチル4-(5-(2-(2-メチル-5-(4-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)ベンズアミド)フェニルアミノ)ピリミジン-4-イル)ピリジン-3-イル)-2,4-ジオキソブタノアート(8)の合成
シュウ酸ジエチル(0.4g、2.3mmol)を、水素化ナトリウム(70%、0.2g)のテトラヒドロフラン(15mL)懸濁液に添加し、約15分間還流した。次いで、7(1.0g、1.9mmol)のテトラヒドロフラン(5mL)溶液を30分かけて滴下し、90分間還流した。冷却した後、反応混合物を氷水に注ぎ込み、希塩酸で中和し、酢酸エチルで抽出し、Na2SO4で脱水し、濃縮した。粗生成物8(0.8g、67%)を、さらに何ら精製することなく、次のステップに使用した。
【0098】
5-(5-(2-(2-メチル-5-(4-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)ベンズアミド)フェニルアミノ)ピリミジン-4-イル)ピリジン-3-イル)-4H-ピラゾール-3-カルボン酸(9)の合成
8(0.8g、1.26mmol)のEtOH(20mL)溶液に、ヒドラジン(0.1g、2.54mmol)を添加した。得られた混合物を加熱して60分間還流した。溶液を減圧下で除去し、残留物を分取HPLC(塩基性)で精製して、9(0.6g、78%)を白色固体として得た。
【0099】
ライブラリー化合物の合成
【0100】
【化11】
一般手順:2mLのDMF中の9(160mg、0.26mmol)、HATU(148mg、0.39mmol)、R1R2NH(1.2当量)及びDIPEA(70mg、0.54mmol)の溶液を室温で3時間撹拌した。得られた混合物を減圧下で蒸発させ、残留物を分取HPLCで精製して、所望のライブラリー化合物を得た。
【0101】
【化12】
【0102】
この一般手順を用いて、化合物115、116及び117を調製した。
【0103】
一般手順:マイクロ波オーブン中で、ジオキサン(4mL)及び水(1mL)中の5(200mg、0.35mmol)、RB(OH)2(2.0当量)、Pd(PPh3)4(40mg、0.03mmol)、Na2CO3(112mg、1.05mmol)の混合物に90分間照射した。次いで、反応混合物を室温に冷却し、減圧濃縮した。残留物を分取HPLCで精製して、所望のライブラリー化合物を固体として得た。
【0104】
【化13】
【0105】
この一般手順を用いて、化合物101、102、103、118、201、202、309、401、402、403、404及び405を調製した。
【0106】
一般手順:マイクロ波オーブン中で、i-PrOH(4mL)及び水(1mL)中の6(150mg、0.34mmol)、RBr又はRI(2.0当量)、Pd(dppf)Cl2(57mg、0.07mmol)、Cs2CO3(280mg、0.85mmol)の混合物に30分間照射した。次いで、反応液を室温に冷却し、減圧濃縮した。残留物を分取HPLCで精製して、所望のライブラリー化合物を固体として得た。
【0107】
【化14】
【0108】
この一般手順を用いて、化合物104、105、106、108、113、119、203を調製した。
【0109】
一般手順:マイクロ波オーブン中で、5mLのNMP中の5(200mg、0.35mmol)、R-305、R-306、又はR308(3.0当量)、Pd2(dba)3(25mg、0.03mmol)、t-BuOK(157mg、1.40mmol)、BINAP(22mg、0.03mmol)の溶液に150℃で90分間照射した。次いで、反応液を室温に冷却し、減圧濃縮した。残留物を分取HPLCで精製して、所望の化合物を固体として得た。
【0110】
【化15】
【0111】
この一般手順を用いて、化合物305、306、308を調製した。
【0112】
一般手順:2mLのDMF中の5(200mg、0.35mmol)、K3PO4(149mg、0.70mmol)、DMCDA(7mg、0.05mmol)及びCuI(10mg、0.05mmol)の溶液に、R-303又はR-304(2.0当量)を添加した。得られた混合物を120℃で終夜撹拌した。反応混合物を室温に冷却し、水(0.5mL)を添加し、EA(3mL×3回)で抽出した。有機層を合わせて、Na2SO4で脱水し、真空中で濃縮した。残留物を分取HPLCで精製して、所望のライブラリー化合物を固体として得た。
【0113】
【化16】
【0114】
この一般手順を用いて、化合物303及び304を調製した。
【0115】
化合物107の合成
【0116】
【化17】
7(150mg、0.28mmol)のDMF-DMA(3mL)溶液を100℃で2時間撹拌した。次いで、溶液を室温に冷却し、溶媒を減圧除去した。粗残留物をEtOH(10mL)に溶解し、ヒドラジン(45mg、1.40mmol)を添加した。得られた混合物を加熱して終夜還流した。溶媒を室温に冷却し、真空中で濃縮した。残留物を分取HPLCで精製して、107(20mg、13%)を固体として得た。
【0117】
化合物207の合成
【0118】
【化18】
7(200mg、0.37mmol)のDMA-DMA(4mL)溶液を100℃に加熱し、2時間撹拌した。過剰のDMA-DMAを真空中で蒸発させ、残留物をエタノール(10mL)に溶解し、この溶液に、K2CO3(255mg、1.85mmol)及びヒドロキシルアミン塩酸塩(77mg、1.11mmol)を添加した。得られた混合物を終夜還流した。冷却した後、混合物をセライトで濾過し、濾液を真空中で濃縮した。残留物を分取HPLCで精製して、化合物207(18mg、8%)を固体として得た。
【0119】
化合物870、880、8300、831、832の合成
【0120】
【化19】
【0121】
方法
【0122】
【化20】
【0123】
1-(2-メチル-5-ニトロフェニル)グアニジン(1)
2-メチル-5-ニトロアニリン(152g、1.0mol)、シアナミド(247mL、6.0mol)及びイソプロピルアルコール(1000mL)の混合物を3Lのフラスコに入れた。混合物を80℃に加熱した。濃塩酸(57mL)を80分かけてゆっくり滴下した。反応混合物の温度を80℃に維持しながら、1時間撹拌した。濃塩酸をもう一部(144mL)、80℃で滴下した。次いで、反応混合物を100℃で12時間撹拌した。混合物を室温に冷却し、NaOH水溶液(2.5N、1200mL)で処理した。得られた固体を濾過で回収し、イソプロピルアルコール(500mL)で洗浄し、乾燥させて、化合物1(145g、収率76%)を得た。
【0124】
(E)-1-(5-ブロモピリジン-3-イル)-3-(ジメチルアミノ)プロパ-2-エン-1-オン(3)
3-アセチル-5-ブロモピリジン(126.7g、0.633mol)及びDMF-DMA(84g、70.6mmol)の混合物を1時間加熱還流した。混合物を室温に冷却し、次いでシリカゲルカラムクロマトグラフィーで直接精製した。濃縮後に得られた粗生成物をジエチルエーテル(200mL)で洗浄し、乾燥させて、化合物3(122g、収率75.5%)を黄色結晶として得た。
【0125】
4-(5-ブロモピリジン-3-イル)-N-(2-メチル-5-ニトロフェニル)ピリミジン-2-アミン(4)
2-プロパノール(150mL)中の化合物1(10.0g、51.5mmol)及び化合物3(12.9g、50.8mmol)の混合物を18時間加熱還流した。混合物を室温に冷却し、得られた沈澱物を濾過で回収し、ジエチルエーテル(100mL)で洗浄し、乾燥させて、化合物4(13.2g、収率67%)を淡黄色結晶として得た。
【0126】
N1-(4-(5-ブロモピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イル)-6-メチルベンゼン-1,3-ジアミン(5)
エタノール/水(1:1、140mL)中の鉄(5.08g、907mmol)、NH4Cl(970mg、18.1mmol)及びSiO2(3g)の混合物を55℃で10分間加熱した。次いで、化合物4(7.0g、18.1mmol)のTHF(70mL)懸濁液を添加した。反応混合物を還流下で1時間撹拌し、室温に冷却した。混合物を水(100mL)に注ぎ込み、次いで酢酸エチル(100mL×2回)で抽出した。有機層を合わせて、塩水及び水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮して、化合物5(5.88g、収率91%)を黄色固体として得た。
【0127】
4-(4-(メトキシカルボニル)ベンジル)ピペラジン-1-カルボン酸tert-ブチル(6a)
アセトニトリル(400mL)中の4-ホルミル安息香酸メチル(20g、121mmol)及びピペラジン-1-カルボン酸tert-ブチル(25g、134mmol)の混合物に、室温でTFA(10mL)を滴下した。混合物を1時間撹拌し、NaBH3CN(8.32g、134mmol)を添加した。反応混合物を室温で終夜撹拌し、水を添加した。得られた混合物を酢酸エチル(100mL×2回)で抽出した。有機層を合わせて、塩水及び水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮して、化合物6a(14g、収率34.4%)を得た。それを、さらに精製することなく、次のステップで直接使用した。
【0128】
4-(ピペラジン-1-イルメチル)安息香酸メチル(6b)
同じ6aの手順に従って、化合物6bを1-メチルピペラジンから調製した。
【0129】
4-((4-(tert-ブトキシカルボニル)ピペラジン-1-イル)メチル)安息香酸(7a)
メタノール/アセトニトリル/水(100mL、1:2:2)中の化合物6a(7.0g、粗製物、21mmol)及びLiOH-H2O(1.4g、31mmol)の混合物を室温で1時間撹拌した。有機溶媒を除去し、残留する水溶液を酢酸エチル(100mL)で洗浄し、次いで2N HCl水溶液でpH=2〜3に調整した。得られた混合物を酢酸エチル(30mL×2回)で抽出した。抽出液を合わせて、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮して、化合物7a(3.0g、収率44.8%)を白色固体として得た。
【0130】
4-(ピペラジン-1-イルメチル)安息香酸(7b)
同じ7aの手順に従って、化合物7bを6bから調製した。
【0131】
4-(4-(3-(4-(5-ブロモピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メチルフェニルカルバモイル)ベンジル)ピペラジン-1-カルボン酸tert-ブチル(8a)
DMF(20mL)中の化合物5(1.0g、2.81mmol)、化合物7a(0.98g、4.19mmol)、HATU(1.28g、3.37mmol)の混合物を0℃に冷却し、DIPEA(1.95mL、11.24mmol)を添加した。反応混合物を室温まで温め、15分間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(20mL)を添加し、得られた混合物を酢酸エチル(50mL×2回)で抽出した。抽出液を合わせて、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル/酢酸エチル=3:1→1:1)で精製して、化合物8a(1.29g、収率80%)を黄色固体として得た。
【0132】
N-(3-(4-(5-ブロモピリジン-3-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メチルフェニル)-4-(ピペラジン-1-イルメチル)ベンズアミド(8b)
同じ8aの手順に従って、化合物8bを7bから調製した。
【0133】
最終化合物への一般手順
8300、831、832:1,4-ジオキサン及び水(5:1)中の化合物8a/b(1.0当量)、対応するボロン酸(1.0当量)、Pd(dppf)Cl2(触媒量)及びNa2CO3(2.5当量)の混合物を、N2下で80℃にて1時間撹拌した。混合物を室温に冷却し、次いで酢酸エチル及び水で希釈した。得られた混合物を濾過し、濾液を分液した。水相を酢酸エチルで抽出した。有機相を合わせて、塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮乾固した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー又は分取HPLCで精製して、目的の化合物を黄色固体として得た。
【0134】
870:1,4-ジオキサン(2.5mL)及び水(0.5mL)中の化合物8a(100mg、0.152mmol)、ピリジン-4-イルボロン酸(21mg、0.167mmol)、Pd(dppf)Cl2(15mg、触媒量)及びNa2CO3(40mg、0.608mmol)の混合物を、N2下で80℃にて1時間撹拌した。混合物を室温に冷却し、次いで酢酸エチル(10mL)及び水(10mL)で希釈した。得られた混合物を濾過し、濾液を分液した。水相をEtOAc(20mL×2回)で抽出した。有機相を合わせて、塩水(20mL×2回)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮乾固した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH=100:1→20:1)で精製して、化合物Boc-870(100mg)を褐色固体として得た。
【0135】
Boc-870(100mg、0.152mmol)のCH2Cl2(4mL)溶液に、撹拌しながら0℃でTFA(1mL)を添加した。反応混合物を1時間撹拌し、濃縮乾固した。残留物をNaHCO3水溶液で処理して、pH=9に調整し、次いで酢酸エチル(5mL×3回)で抽出した。有機層を合わせて、水及び塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH=20:1→10:1)で精製して、化合物870(66mg、収率78.4%)を灰白色固体として得た。
【0136】
880:同じ870の手順に従って、化合物880をピリジン-2-イルボロン酸から調製した。
【0137】
810、820、830、840、8150、8170、8190、8200、8220、8250、8260、8270、8280、8290の合成
【0138】
【化21】
【0139】
方法
【0140】
【化22】
【0141】
化合物4から化合物9への一般手順
810、820、830、840
1,4-ジオキサン及び水(5:1)中の化合物4(1.0当量)、対応するボロン酸(1.0当量)、Pd(dppf)Cl2(触媒量)及びNa2CO3(2.5当量)の混合物を、N2下で80℃にて1時間撹拌した。混合物を室温に冷却し、次いで酢酸エチル及び水で希釈した。得られた混合物を濾過し、濾液を分液した。水相を酢酸エチルで抽出した。有機相を合わせて、塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮して、化合物9を得た。それを、さらに精製することなく、次のステップで使用した。
【0142】
N-(2-メチル-5-ニトロフェニル)-4-(5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン-3-イル)ピリミジン-2-アミン(11)
トルエン(50mL)中の化合物4(5.0g、12.95mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(3.62g、14.25mmol)、Pd(dppf)Cl2(0.3g、触媒量)及びKOAc(3.83g、38.87mmol)の混合物を、N2下で12時間加熱還流した。混合物を室温に冷却し、酢酸エチル(100mL)及び水(100mL)で希釈した。得られた混合物を濾過し、濾液を分液した。水相を酢酸エチル(100mL×2回)で抽出した。有機相を合わせて、塩水(30mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮乾固した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(石油/EtOAc=20:1)で精製して、化合物11(4.77g、収率84.3%)を褐色固体として得た。
【0143】
化合物11から化合物9への一般手順
8150、8170、8190、8200、8220、8250、8260、8270、8280、8290
1,4-ジオキサン及び水(5:1)中のAr-X(1.0当量)、化合物11(1.1当量)、Pd(dppf)Cl2(触媒量)及びNa2CO3(3.0当量)の混合物を、N2下で80℃にて1時間撹拌した。混合物を室温に冷却し、酢酸エチル及び水で希釈した。得られた混合物を濾過し、濾液を分液した。水相を酢酸エチルで抽出し、有機相を合わせて、塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮して、化合物9を得た。それを、さらに精製することなく、次のステップで使用した。
【0144】
化合物10への一般手順
エタノール/水(1:1)中の鉄(5.0当量)、NH4Cl(1.0当量)及びSiO2(2.0当量)の混合物を55℃で10分間加熱した。次いで、化合物9(1.0当量)のTHF懸濁液を添加した。反応混合物を還流下で1時間撹拌し、室温に冷却した。混合物を水に注ぎ込み、次いで酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて、塩水及び水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮して、化合物10を黄色固体として得た。
【0145】
最終化合物への一般手順
DMF(20mL)中の化合物10(1.0当量)、化合物7b(1.2当量)及びHATU(1.2当量)の混合物を0℃に冷却し、DIPEA(4.0当量)を添加した。反応混合物を室温まで温め、15分間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、得られた混合物を酢酸エチルで抽出した。抽出液を合わせて、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製して、所望の化合物を固体として得た。
【0146】
806、809、8120、8130、8180、8230、8140の合成
【0147】
【化23】
【0148】
【化24】
【0149】
4-メトキシ-N-(2-メチル-5-ニトロフェニル)ピリミジン-2-アミン(12)
1,4-ジオキサン/水(140mL/60mL)中の2-クロロ-4-メトキシピリミジン(9.54g、66mmol)、2-メチル-5-ニトロベンゼンアミン(10.0g、66mmol)、Pd2(dba)3(1.0g)、S-Phos(1.0g、24.4mmol)、及びCs2CO3(31.8g、99mmol)の混合物を110℃で終夜加熱した。混合物を室温に冷却し、次いでセライトパッドで濾過した。濾液を酢酸エチルで希釈し、水で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物12(12g、収率70.6%)を淡黄色固体として得た。
【0150】
2-(2-メチル-5-ニトロフェニルアミノ)ピリミジン-4-オール(13)
アセトニトリル(400mL)中の化合物12(20g、77mol)、TMSCl(15g、136mmol)及びNaI(23.4g、156mmol)の混合物を120℃で終夜加熱した。混合物を室温に冷却し、2N Na2CO3水溶液(400mL)及びDCM(400mL)を添加した。分液し、有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH=200:1)で精製して、化合物13(12.1g、収率64%)を淡黄色固体として得た。
【0151】
4-クロロ-N-(2-メチル-5-ニトロフェニル)ピリミジン-2-アミン(14)
POCl3(40mL)中の化合物13(2g、8.13mmol)及びDMF(5滴)の混合物を2時間加熱還流した。混合物を室温に冷却し、POCl3の大部分を除去した。残留物をNaOH水溶液(100mL)に注意深く注ぎ込み、得られた混合物をDCM(100mL×2回)で抽出した。有機層を合わせて、塩水及び水(100mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮して、化合物14(2.0g、収率93%)を黄色固体として得た。
【0152】
化合物15への一般手順
1,4-ジオキサン(20mL)及び水(20mL)中の化合物14(1.0当量)、PTC-1480-X-Int(1.0当量)、Pd(dppf)Cl2(触媒量)及びK2CO3(3.0当量)の混合物を、N2下で12時間加熱還流した。混合物を室温に冷却し、酢酸エチル及び水で希釈した。得られた混合物を濾過し、濾液を分液した。水相を酢酸エチルで抽出した。有機相を合わせて、塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮乾固した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH=200:1)で精製して、化合物15を黄色固体として得た。
【0153】
化合物16への一般手順
エタノール/水(1:1)中の鉄(1.0当量)、NH4Cl(2.0当量)及びSiO2(触媒量)の混合物を55℃で10分間加熱した。次いで、化合物15(2.0当量)のTHF懸濁液を添加した。反応混合物を還流下で1時間撹拌し、室温に冷却した。混合物を水に注ぎ込み、次いで酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて、塩水及び水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮して、化合物16を得た。
【0154】
806への手順
DMF(2mL)中の化合物16(Het=3-メチルイソオキサゾール-5-イル、150mg、0.42mmol)、化合物7a(134mg、0.42mmol)及びHATU(159mg、0.42mmol)の混合物を0℃に冷却し、DIPEA(217mg、1.68mmol)を添加した。反応混合物を室温まで温め、15分間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、得られた混合物を酢酸エチルで抽出した。抽出液を合わせて、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル/酢酸エチル=1:1→酢酸エチル)で精製して、化合物Boc-806(180mg、収率65.2%)を固体として得た。
【0155】
Boc-806(97mg、0.147mmol)のEtOAc(1mL)溶液に、撹拌しながら0℃でHCl/EtOAc(2N、1mL)を添加した。反応混合物を1時間撹拌し、得られた沈澱物を濾過で回収し、DCMで洗浄し、乾燥させて、化合物806(HCl塩、80mg、収率100%)を黄色固体として得た。
【0156】
806、809、8120、8130、8180、8230及び8240への一般手順
DMF(2mL)中の化合物16(1.0当量)、化合物7b(1.0当量)及びHATU(1.0当量)の混合物を0℃に冷却し、DIPEA(4.0当量)を添加した。反応混合物を室温まで温め、15分間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加し、得られた混合物を酢酸エチルで抽出した。抽出液を合わせて、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮した。残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH=20:1)で精製して、最終化合物を黄色固体として得た。
【0157】
[実施例2]
アベルソンタンパク質キナーゼc-Abl1、c-Abl2、c-Kitの阻害、及びGleevec(登録商標)の活性成分であるイマチニブとの比較
【0158】
【表1】
【0159】
c-Abl1、c-Abl2、及びc-KitのIC50値の測定
キナーゼベースバッファー(50mM HEPES(pH 7.5)、0.0015% Brij-35、10mM MgCl2、2mM DTT)及びストップバッファー(100mM HEPES(pH 7.5)、0.015% Brij-35、0.2% コーティング試薬(50mM EDTA))を調製する。試験化合物を100% DMSO中で所望の最終阻害薬濃度(原液)の50倍に希釈し、半対数増分で段階希釈し、DMSO中で最終濃度250μMから75μM、25μM、7.5μM、2.5μM、0.75μM、0.25μM、75nM、25nM、7.5nMまで得られる。各化合物10μlを96ウェルプレートに入れ、中間プレートとする。キナーゼバッファー90μlを各ウェルに加えて、中間プレートを調製する。中間プレート中の化合物を振盪器で10分間混合する。酵素阻害のアッセイでは、中間プレートの各ウェルの5μlを384ウェルプレートに移すことを2回繰り返す。次いで、2.5×酵素溶液10μlを、384ウェルアッセイプレートの各ウェルに添加し、10分間インキュベートする。次いで、酵素基質を2.5×FAM標識ペプチド+ATP溶液10μlとして、384ウェルアッセイプレートの各ウェルに添加する。反応を28℃で進ませ、ストップバッファーを25μl添加して、クエンチする。蛍光FAMの放出は、阻害率(%)=(最大-変換)/(最大-最小)×100として定量化される。「最大」はDMSO対照を表し、「最小」は低対照を表す。データをXLFitエクセルアドイン、バージョン4.3.1でフィッティングして、IC50値を得る。用いる式は、Y=ボトム+(トップ-ボトム)/(1+(IC50/X)^ヒルスロープ)。
【0160】
[実施例3]
14種のタンパク質キナーゼに対する500nM試験化合物溶液の阻害プロファイル
キナーゼベースバッファー(50mM HEPES(pH 7.5)、0.0015% Brij-35、10mM MgCl2、2mM DTT)及びストップバッファー(100mM HEPES(pH 7.5)、0.015% Brij-35、0.2% コーティング試薬(50mM EDTA))を調製する。試験化合物を100% DMSO中で所望のDMSO中最終阻害薬濃度(原液)の50倍に希釈する。各化合物10μlを96ウェルプレートに入れ、中間プレートとする。キナーゼバッファー90μlを各ウェルに加えて、中間プレートを調製する。中間プレート中の化合物を振盪器で10分間混合する。酵素阻害のアッセイでは、中間プレートの各ウェルの5μlを384ウェルプレートに移すことを2回繰り返す。次いで、2.5×酵素溶液10μlを、384ウェルアッセイプレートの各ウェルに添加し、10分間インキュベートする。次いで、酵素基質を2.5×FAM標識ペプチド+ATP溶液10μlとして、384ウェルアッセイプレートの各ウェルに添加する。反応を28℃で進ませ、ストップバッファーを25μl添加して、クエンチする。蛍光FAMの放出は、阻害率(%)=(最大-変換)/(最大-最小)×100として定量化される。「最大」はDMSO対照を表し、「最小」は低対照を表す。変換値を阻害値に変換する。阻害率(%)=(最大-変換)/(最大-最小)×100。「最大」はDMSO対照を表し、「最小」は低対照を表す。
【0161】
【表2】
【0162】
【表3】
【0163】
[実施例4]
選択化合物の抗JCVウイルス効力及び治療係数
【0164】
【表4】
【0165】
EC50は、元々PML患者の脳に由来する実験室株MAD-1を用いて、Cos7細胞において7日にわたって感染多重度0.02で、3回繰り返して測定した。EC50は、PRISMを使用し、各ケースについて回帰係数>0.85の適合性で算出した。相対的抗ウイルス効力は、イマチニブのEC50と比べて計算した。相対的治療係数は、細胞傷害CC50:EC50比を測定して、2nMと20μMの間の薬物漸増で治療係数(TI)を算出することによって計算した。
【0166】
化合物118に関しては、EC50の上限のみしか算出できなかった。というのは、118には抗ウイルス活性がほとんどなく、データ適合性が悪かったからである。化合物103、207、809、830、832、8190、8250、8270及び8280に関しては、相対的TIの下限しか算出できなかった。というのは、医薬品成分が20μMまで毒性を示さなかったからである。イマチニブのEC50の絶対値を測定すると、4.91μMであった。
【0167】
[実施例5]
消化管間質腫瘍を伴う変異c-Kitタンパク質に対する選択化合物の抗がん効力
HP D300プログラム可能なデジタル分注ツール(Hewlett-Packard社)を使用して、96ウェルプレートを作成した。DMSO中の10mM薬物ストックを各ウェルに漸増し、概略的プレートマップをそれぞれ記録した。用量は、薬物及び実験に応じて3nM〜1000nMであった。イマチニブを対照薬として使用し、試験化合物の場合と同じ濃度でプレートに入れた。化合物の最大濃度でDMSOを含む培地を負の対照として使用した。次いで、分注した薬物及び培地を含むこれらのプリメイドプレートを、使用するまで-20℃で冷凍した。細胞を加える前に、プレートを温めた。異なる遺伝子型のGIST細胞株を、全容量100μlの1ウェル当たり2000細胞で播種した。播種した細胞を、5%CO2、37℃で72時間インキュベートした。増殖/生存率は、細胞中に存在しているATPの定量化に基づくCellTiter-Glo(登録商標)発光性細胞生存判別試薬を使用して測定した。次いで、GloMax(登録商標)96マイクロプレート発光測定装置を使用して、プレートを読み取った。図1A〜1Gに、結果を示す。
【0168】
[実施例6]
ウェスタンブロットが、選択化合物の抗がん応答はリン酸化c-Kit(p-Kit)の形成におけるブロックによることを明示。
T1細胞内で発現された557-558欠失を含むGIST関連c-Kitタンパク質のコンフルエントT-25フラスコを、5%CO2、37℃で90分間、試験化合物で処置した。無処置細胞及びイマチニブ処置細胞を対照として用いた。溶解した後、175μgの全細胞溶解産物をタンパク質電気泳動にかけ、ニトロセルロースに移した。KITリン酸化は、P-KIT(Y719)抗体でブロットを探索することによって可視化した。AKTリン酸化は、P-AKTで探索することによって可視化した。MAPKリン酸化は、P-MAPKで探索することによって可視化した。ブロットをストリッピングした後、総タンパク質について、それぞれKIT CD117抗体、AKT抗体、及びMAPK抗体で再び探索した。ブロットを図2に示す。
【0169】
[実施例7]
慢性骨髄性白血病を伴う変異BCR-Ablタンパク質に対する選択化合物の抗がん効力
【0170】
【表5】
【0171】
方法
「親」細胞株とは、IL-3の存在下で増殖させた非形質導入Ba/F3細胞を指す。これらの細胞に対する選択化合物のIC50を示す。IC50値を測定するために、MSCVピューロBCR-ABLコンストラクトを用いたレトロウイルス導入に続いて、BCR-ABLの指定されたアイソフォームを有するBa/F3細胞のプールを樹立し、ピューロマイシンの存在下で選択した。その後、IL-3をこれらの集団から取り除いた。
【0172】
実験では、対数増殖期細胞を、96ウェル不透明プレートの1ウェル当たり全容量100μLの0.5%DMSO含有10%RPMIにおいて50,000細胞/mLの最終濃度で播種した。各化合物の最終濃度は、10μM、1μM、100nM、10nM、1nM、0.1nM、0nM(さらにブランク培地のみ)であった。この単一実験では、各細胞株及び濃度を播種することを3回繰り返した。プレートを37℃で48時間インキュベートし、Cell Titer Gloを用いてプレートリーダーで読み取った。データは、Sensimaxソフトウェアで収集した。生の値は無処置群に対して正規化された。正規化された3個の複製ウェルから平均値を求め、IC50値をPrism 5により算出した。
【0173】
[実施例8]
慢性骨髄性白血病NSGマウスモデルにおけるK562細胞BCR-Abl異種移植片の腫瘍増殖抑制
方法:CML患者に由来し、BCR-Abl導入遺伝子産物を安定に発現する5×106個のK562細胞を、7〜9週齢のNSG雌性マウスの後肢に皮下移植した。腫瘍がおよそ100mm3まで成長した後、化合物832を0(すなわち、ビヒクル)、15mg/kg、25mg/kg、又は40mg/kg、1日当たり1回(1日1回)、ビヒクルとしての50mMクエン酸ナトリウム(pH 3.5)に溶かして強制経口投与した。投与は、移植後およそ6日目に開始し、9日間継続した。1群当たりマウス5匹で、腫瘍体積の測定、獣医学的観察及び動物の体重の変化を利用して、薬物の有効性を決定した。結果を図3に示す。
【0174】
本明細書に引用されるすべての刊行物及び特許は、参照により本明細書に全体として組み込まれる。
【0175】
当業者ならば、ルーチンにすぎない実験方法を用いて、本明細書に説明されている本発明の特定の実施形態に対する多数の均等形態を認識し又は確認することができる。そのような均等形態は、以下の特許請求の範囲により包含されるものとする。
本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(実施形態1)
式(I)
【化25】
[式中、出現ごとに独立して、
R1は、水素又は低級アルキルから選択され、
Cy1は、置換又は非置換アリール、置換又は非置換ヘテロアリール、及び置換又は非置換ヘテロシクリルから選択され、
ただし、Cy1は非置換ピリド-4-イルでない]
の構造を有する化合物又は薬学的に許容されるその塩。
(実施形態2)
Cy1が、
【化26】
[式中、出現ごとに独立して、
R2及びR3は、水素、アルキル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、シクロアルキル、ハロ、シアノ、アルコキシ、-C(O)OH、及び-C(O)N(R4)(R4)から選択され、
nは、1、2、3又は4であり、
Xは、C(R4)2、S、O、又はNR4であり、
R4は、水素及び置換又は非置換アルキル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、シクロアルキルアルキル又はヘテロシクリルアルキルから選択される]
から選択される、前記実施形態1に記載の化合物。
(実施形態3)
Cy1が、
【化27】
[式中、出現ごとに独立して、
R1は、水素又は低級アルキルから選択され、
R2及びR3は、水素、アルキル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、シクロアルキル、ハロ、シアノ、アルコキシ、-C(O)OH、及び-C(O)N(R4)(R4)から選択され、
R4は、水素及び置換又は非置換アルキル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、シクロアルキルアルキル又はヘテロシクリルアルキルから選択される]
から選択される、前記実施形態1に記載の化合物。
(実施形態4)
Cy1が、置換ピリド-4-イルでも非置換ピリド-4-イルでもない、前記実施形態1に記載の化合物。
(実施形態5)
Cy1が、5員ヘテロアリール、アリール又はヘテロシクリルである、前記実施形態1に記載の化合物。
(実施形態6)
Cy1が、
【化28】
から選択される、前記実施形態5に記載の化合物。
(実施形態7)
Cy1が、
【化29】
から選択される、前記実施形態5に記載の化合物。
(実施形態8)
Cy1が、
【化30】
から選択される、前記実施形態5に記載の化合物。
(実施形態9)
Cy1が、
【化31】
から選択される、前記実施形態1に記載の化合物。
(実施形態10)
R1が、-CH3、-CDH2、-CD2H、又は-CD3である、前記実施形態1から9のいずれか一項に記載の化合物。
(実施形態11)
前記実施形態1から10のいずれか一項に記載の化合物を含む医薬組成物。
(実施形態12)
1種以上の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、前記実施形態11に記載の医薬組成物。
(実施形態13)
アベルソンファミリーチロシンキナーゼ(ATK)を変化させるための、前記実施形態1から12のいずれか一項に記載の化合物又は組成物の使用。
(実施形態14)
c-Abl1若しくはc-Abl2又はc-Abl1若しくはc-Abl2のキナーゼドメインを含むいずれかのタンパク質の機能を変化させるための、前記実施形態1から12のいずれか一項に記載の化合物又は組成物の使用。
(実施形態15)
PGDFRa若しくはPDGFRb又はPDGFRa若しくはPDGFRbのキナーゼドメインを含むいずれかのタンパク質を阻害するための、前記実施形態1から12のいずれか一項に記載の化合物又は組成物の使用。
(実施形態16)
c-Kit又はc-Kitのキナーゼドメインを含むいずれかのタンパク質を阻害するための、前記実施形態1から12のいずれか一項に記載の化合物又は組成物の使用。
(実施形態17)
変化又は阻害が哺乳類において行われる、前記実施形態13から16のいずれか一項に記載の使用。
(実施形態18)
がん、細菌感染症、又はウイルス感染症を患っている哺乳類を処置する方法であって、前記実施形態1から12のいずれか一項に記載の化合物又は組成物の有効量を哺乳類に投与するステップを含む方法。
(実施形態19)
哺乳類が、緑膿菌、クラミジア・トラコマティス、大腸菌、ヘリコバクター・ピロリ、リステリア・モノサイトゲネス、ネズミチフス菌、シゲラ・フレックスネリ、又は結核菌に起因する細菌感染症を患っている、前記実施形態18に記載の方法。
(実施形態20)
哺乳類が、ワクシニアウイルス、痘瘡ウイルス、ポリオーマウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、JCウイルス、JCポリオーマウイルス、BKポリオーマウイルス、シミアンウイルス40、サル痘ウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ブニヤウイルス、アレナウイルス、アルファウイルス、フラビウイルス、ウエストナイルウイルス又はコロナウイルスに起因するウイルス感染症を患っている、前記実施形態18に記載の方法。
(実施形態21)
哺乳類が、脳におけるJCウイルスの溶解感染を患っている、前記実施形態20に記載の方法。
(実施形態22)
化合物又は組成物が、CNS/呼吸興奮薬、鎮痛薬、麻薬作用薬、麻薬拮抗薬、非ステロイド系抗炎症剤/鎮痛剤、行動修正剤、精神安定薬/鎮静薬、麻酔剤、吸入薬、麻薬、拮抗薬、抗痙攣薬、骨格筋弛緩薬、平滑筋弛緩薬、心血管作動薬、強心剤、抗不整脈薬、抗コリン薬、血管拡張剤、ショックの処置において使用される作用剤、α-アドレナリン遮断剤、β-アドレナリン遮断剤、呼吸器官用薬、気管支拡張薬、交感神経興奮薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳剤、尿失禁/尿閉に対する作用物質、尿アルカリ性化薬、尿酸性化薬、コリン作動性刺激薬、尿路結石症に対する作用物質、胃腸剤、制吐剤、制酸薬、ヒスタミンH2拮抗薬、胃粘膜保護薬、プロトンポンプ阻害薬、食欲増進薬、GI鎮痙薬-抗コリン薬、GI刺激薬、緩下薬、生理食塩水、滑沢剤、界面活性剤、止痢薬、ホルモン/内分泌/生殖器官用作用剤、性ホルモン、アナボリックステロイド、下垂体後葉ホルモン、副腎皮質ステロイド、グルココルチコイド、抗糖尿病剤、甲状腺薬、甲状腺ホルモン、内分泌/生殖器官用薬、プロスタグランジン、抗感染薬、抗寄生虫薬、抗コクシジウム剤、抗生物質、抗結核薬、アミノシクリトール、セファロスポリン、マクロライド、ペニシリン、テトラサイクリン、リンコサミド、キノロン、スルホンアミド、抗細菌薬、抗真菌剤、抗ウイルス剤、血液改質剤、凝固剤、抗凝血薬、赤血球生成剤、抗悪性腫瘍薬/免疫抑制薬、アルキル化剤、解毒薬、骨/関節剤、外皮用剤(全身)、ビタミン及びミネラル/栄養素、全身性酸性化薬、全身性アルカリ性化薬、抗がん剤、又は抗ウイルス剤などの中枢神経系作用薬から独立して選択される1種以上の化合物と共同投与される、前記実施形態18から21のいずれか一項に記載の方法。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2
図3