特許第6795521号(P6795521)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795521単結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンドの製造方法およびそれに用いられる化学気相堆積装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795521
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】単結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンドの製造方法およびそれに用いられる化学気相堆積装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20201119BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20201119BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20201119BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C30B29/04 E
   C30B25/02 P
   C30B25/18
   C23C16/27
   H01L21/205
【請求項の数】20
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2017-562857(P2017-562857)
(86)(22)【出願日】2017年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2017001578
(87)【国際公開番号】WO2017126561
(87)【国際公開日】20170727
【審査請求日】2019年7月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-10560(P2016-10560)
(32)【優先日】2016年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 夏生
(72)【発明者】
【氏名】西林 良樹
(72)【発明者】
【氏名】角谷 均
(72)【発明者】
【氏名】小林 豊
(72)【発明者】
【氏名】植田 暁彦
【審査官】 谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−111461(JP,A)
【文献】 特開2009−132948(JP,A)
【文献】 特開2012−131707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C23C 16/00−16/56
C01B 32/00−32/991
H01L 21/205
A44C 27/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補助板の表面の少なくとも一部に保護膜を形成する工程と、
ダイヤモンド種結晶基板を準備する工程と、
前記補助板に前記保護膜が形成された保護膜付補助板と前記ダイヤモンド種結晶基板とをチャンバ内に配置する工程と、
前記チャンバ内に炭素を含むガスを導入しながら、前記ダイヤモンド種結晶基板の主面上に化学気相堆積法により単結晶ダイヤモンドを成長させる工程と、を備え
前記ダイヤモンド種結晶基板を準備する工程は、主面上に種結晶欠陥点の群が集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板を準備する工程である単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項2】
前記補助板は酸化物である請求項1に記載の単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項3】
前記保護膜は炭素以外の元素のゲッターとなる金属元素を含む請求項1または請求項2に記載の単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項4】
前記種結晶欠陥線状集合領域は、それが線状に延びる方向に対して垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在し、かつ、前記線状に延びる方向における間隔が500μm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項5】
前記種結晶欠陥線状集合領域は、前記主面の1cm2当たりに、長さ300μm以上の長い種結晶欠陥線状集合領域を5本以上含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項6】
前記種結晶欠陥点の密度が10mm-2より大きい請求項から請求項のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項7】
前記ダイヤモンド種結晶基板の前記主面を水素終端した後の電子顕微鏡の2次電子像において、結晶損傷が存在する点を示す種結晶損傷点の密度が3mm-2より大きい請求項から請求項のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項8】
不純物元素として窒素を500ppb未満で含み、
厚さを500μmとしたときの500nmの波長の光の透過率が55%以上71%未満である単結晶ダイヤモンド。
【請求項9】
不純物元素としてケイ素を1000ppb未満で含み、
厚さを500μmとしたときの500nmの波長の光の透過率が55%以上71%未満である単結晶ダイヤモンド。
【請求項10】
窒素およびケイ素以外の不純物元素を500ppb未満で含み、
厚さを500μmとしたときの500nmの波長の光の透過率が55%以上71%未満である単結晶ダイヤモンド。
【請求項11】
結晶成長主面についてのX線トポグラフィー像において結晶欠陥が存在する線を示す結晶欠陥線が前記結晶成長主面に達する先端の点である結晶欠陥点の群が集合して存在する請求項から請求項10のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項12】
結晶成長主面についてのX線トポグラフィー像において結晶欠陥が存在する線を示す結晶欠陥線が前記結晶成長主面に達する先端の点である結晶欠陥点の群が集合して任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域が複数並列して存在する請求項から請求項11のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項13】
前記結晶欠陥線状集合領域は、それが線状に延びる方向に対して垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在し、かつ、前記線状に延びる方向における間隔が500μm以下である請求項12に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項14】
前記結晶欠陥線状集合領域は、前記結晶成長主面の1cm2当たりに、長さ300μm以上の長い結晶欠陥線状集合領域を5本以上含む請求項12または請求項13に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項15】
前記結晶欠陥点の密度が20mm-2より大きい請求項11から請求項14のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項16】
前記結晶欠陥点のうち、複数の刃状転位および複数の螺旋転位の少なくともいずれかが複合した複合転位が前記結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度が20mm-2より大きい請求項11から請求項15のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項17】
複数の単結晶ダイヤモンド層を含む請求項11から請求項16のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項18】
各前記単結晶ダイヤモンド層の界面で、前記結晶欠陥線が新たに発生または分岐しており、前記結晶成長主面の前記結晶欠陥点が、前記結晶成長主面と反対側の主面の前記結晶欠陥点より高密度である請求項17に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項19】
各前記単結晶ダイヤモンド層の界面で、前記結晶欠陥線が新たに発生、消滅、分岐または合流しており、前記結晶成長主面の前記結晶欠陥点および前記結晶成長主面と反対側の結晶成長主面の前記結晶欠陥点が、各前記単結晶ダイヤモンド層の界面の前記結晶欠陥点より高密度である請求項17に記載の単結晶ダイヤモンド。
【請求項20】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンドの製造方法に用いられる化学気相堆積装置であって、
前記チャンバと、前記チャンバ内に配置された前記補助板の表面の少なくとも一部に前記保護膜が形成された前記保護膜付補助板と、を備える化学気相堆積装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンドの製造方法およびそれに用いられる化学気相堆積装置に関する。本出願は、2016年1月22日に出願した日本特許出願である特願2016−010560号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは高光透過性、高熱伝導率、高キャリア移動度、高絶縁破壊電界、低誘導損失など優れた特性を有し、特に比類ない高硬度から切削工具や耐磨工具などにも広く用いられている。従来、天然もしくは高温高圧法によって合成された単結晶ダイヤモンドが広く用いられているが、近年、化学気相堆積法でも厚く自立できる単結晶ダイヤモンドが合成できるようになり、前述のような様々な応用が待たれている。
【0003】
上記のようなCVD(化学気相堆積)単結晶ダイヤモンドの高品質化については広く研究されている。たとえば、応用物理学会学術講演会2004年春季予稿集、635頁(非特許文献1)は、CVD(化学気相堆積)法によるホモエピタキシャルダイヤモンドのX線トポグラフィーによって転位などの欠陥分布を観察している。また、特表2004−503461号公報(特許文献1)は、2mmより大きな厚さを有する高い品質のCVD単結晶ダイヤモンドの層およびその生成方法に関して、透光性があり、電子物性の優れたCVD単結晶ダイヤモンドを得るため、種基板となるダイヤモンド基体表面の欠陥密度を低下させてからCVD法で合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−503461号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】応用物理学会学術講演会2004年春季予稿集、635頁
【発明の概要】
【0006】
本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、補助板の表面の少なくとも一部に保護膜を形成する工程と、ダイヤモンド種結晶基板を準備する工程と、補助板に保護膜が形成された保護膜付補助板とダイヤモンド種結晶基板とをチャンバ内に配置する工程と、チャンバ内に炭素を含むガスを導入しながらダイヤモンド種結晶基板の主面上に化学気相堆積法により単結晶ダイヤモンドを成長させる工程と、を備える。
【0007】
本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドは、不純物元素として窒素を500ppb未満で含む。
【0008】
本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドは、不純物元素としてケイ素を1000ppb未満で含む。
【0009】
本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドは、窒素およびケイ素以外の不純物元素を500ppb未満で含む。
【0010】
本発明の一態様にかかる化学気相堆積装置は、上記態様の単結晶ダイヤモンドの製造方法に用いられる化学気相堆積装置であって、チャンバと、チャンバ内に配置された補助板の表面の少なくとも一部に保護膜が形成された保護膜付補助板と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドの製造方法における工程を示すフロー図である。
図2図2は、本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドの製造方法で用いられる保護膜付補助板を示す概略断面図である。
図3図3は、本発明の一態様にかかる化学気相堆積装置の代表的な構成例を説明する概略図である。
図4図4は、本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドの製造方法におけるダイヤモンド種結晶基板を準備する工程を示す図である。
図5図5は、本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドの結晶成長主面についてのX線トポグラフィー像のある例を示す概略図である。
図6図6は、図5より広範囲を示す概略図である。
図7図7は、本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドの結晶成長主面に垂直な断面のある例を示す概略断面図である。
図8図8は、本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドの結晶成長主面に垂直な断面の別の例を示す概略断面図である。
図9図9は、本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドの製造方法を示す概略断面図である。
図10図10は、本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドの結晶成長主面に垂直な断面のさらに別の例を示す概略断面図である。
図11図11は、本発明の一態様にかかる単結晶ダイヤモンドの結晶成長主面に垂直な断面のさらに別の例を示す概略断面図である。
図12図12は、ダイヤモンド種結晶基板の主面の状態を示す電子顕微鏡の二次電子像のある例を示す写真である。
図13図13は、ダイヤモンド種結晶基板の主面の状態を示す電子顕微鏡の二次電子像の別の例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示が解決しようとする課題]
光学部品や電子部品や半導体材料などに応用物理学会学術講演会2004年春季予稿集、635頁(非特許文献1)および特表2004−503461号公報(特許文献1)などで開示されたCVD単結晶ダイヤモンドを用いると、半導体材料、電子部品、放熱材料、光学部品、宝飾素材などをレーザ切断やダイシングする際にダイシング断面で微小な欠けや亀裂が発生し、後々割れや大きな欠けの原因となり、有効に基板面積を取ることができないという問題点があり、また、上記CVD単結晶ダイヤモンドの光透過性は光学部品に用いるのに十分に高くないという問題点があった。
【0013】
また、切削工具や耐磨工具などに、応用物理学会学術講演会2004年春季予稿集、635頁(非特許文献1)および特表2004−503461号公報(特許文献1)などで開示されたCVD法により成長させた単結晶ダイヤモンド(以下、CVD単結晶ダイヤモンドともいう。)を用いると、かかるCVD単結晶ダイヤモンドは、天然単結晶ダイヤモンドおよび高温高圧法により成長させた単結晶ダイヤモンド(以下、高温高圧単結晶ダイヤモンドともいう。)に比べて、耐欠損性が低く欠けやすいため、切削工具や耐磨工具などの寿命が短いという問題点があり、また、切削および/または研磨の際に上記CVD単結晶ダイヤモンド中の不純物元素が被切削材および/または被研磨材中に混入するという問題があった。
【0014】
そこで、上記の問題点を解決して、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などに好適に用いられる高純度で光透過率が高くかつ耐欠損性に優れる単結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンドの製造方法およびそれに用いられる化学気相堆積装置を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
本開示によれば、高純度で光透過率が高くかつ耐欠損性に優れる単結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンドの製造方法およびそれに用いられる化学気相堆積装置を提供できる。
【0015】
これにより、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などに好適に用いられる単結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンドの製造方法およびそれに用いられる化学気相堆積装置を提供できる。
【0016】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態を列記して説明する。
【0017】
本発明の一実施形態にかかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、補助板の表面の少なくとも一部に保護膜を形成する工程と、ダイヤモンド種結晶基板を準備する工程と、補助板に保護膜が形成された保護膜付補助板とダイヤモンド種結晶基板とをチャンバ内に配置する工程と、チャンバ内に炭素を含むガスを導入しながら、ダイヤモンド種結晶基板の主面上に化学気相堆積法により単結晶ダイヤモンドを成長させる工程と、を備える。本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法によれば、上記の工程を備えることにより、不純物元素の含有量が低く、光透過率が高くかつ耐欠損性に優れた単結晶ダイヤモンドが得られる。
【0018】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、補助板を酸化物とすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、上記の補助板がマイクロ波を透過し還元雰囲気下でも安定であるため、さらに安定して効率よく上記の単結晶ダイヤモンドが得られる。
【0019】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、保護膜は炭素以外の元素のゲッターとなる金属元素を含むことができる。かかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、上記ゲッターがチャンバ内の不純物元素を吸着して単結晶ダイヤモンドへの混入を抑制するため、これにより、さらに不純物元素の含有量が低い上記の単結晶ダイヤモンドが得られる。
【0020】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、ダイヤモンド種結晶基板を準備する工程を、主面上に種結晶損傷点を有するダイヤモンド種結晶基板を準備する工程とすることができる。あるいはダイヤモンド種結晶基板を準備する工程を、CVD法により主面上に結晶欠陥点の群が集合して存在するダイヤモンド種基板を準備する工程とすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、結晶欠陥線が結晶成長主面に達する先端の点である結晶欠陥点の群が集合して存在する上記の単結晶ダイヤモンドが得られる。かかる単結晶ダイヤモンドは、多数の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるとともに、結晶欠陥点の群が集合して存在する領域により欠けにくくできるため、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などに好適に用いられる。
【0021】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、ダイヤモンド種結晶基板を準備する工程を、主面上に種結晶欠陥点の群が集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板を準備する工程とすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、結晶欠陥線が結晶成長主面に達する先端の点である結晶欠陥点の群が集合して任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域が複数並列して存在する上記の単結晶ダイヤモンドが得られる。かかる単結晶ダイヤモンドは、多数の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるとともに、複数並列して存在する任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域により欠けにくい方向が制御できるため、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などに好適に用いられる。
【0022】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、種結晶欠陥線状集合領域は、それが線状に延びる方向に対して垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在させ、かつ、線状に延びる方向における間隔を500μm以下とすることができる。ここで、種結晶欠陥線状集合領域が線状に延びる方向とは、複数の種結晶欠陥線状集合領域がそれぞれ延びる複数の方向の平均の方向である上記特定される一方向をいう。かかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、種結晶欠陥線状集合領域を、それが線状に延びる方向に垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在させ、かつ、それが線状に延びる方向における間隔を500μm以下とすることにより、結晶欠陥線状集合領域が、それが線状に延びる方向に垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在し、かつ、線状に延びる方向における間隔が500μm以下である単結晶ダイヤモンドが化学気相堆積法により得られるため、多数の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるとともに、複数並列する高密度の任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域により欠けにくい方向が制御できる上記の単結晶ダイヤモンドが得られる。
【0023】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、種結晶欠陥線状集合領域は、主面の1cm2当たりに、長さ300μm以上の長い種結晶欠陥線状集合領域を5本以上含むことができる。かかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、主面の1cm2当たりに、長さ300μm以上の長い種結晶欠陥線状集合領域が5本以上含むことから、成長させる単結晶ダイヤモンドにおける欠損の発生が抑制されるとともに、単結晶ダイヤモンド全体の強度が増強される。かかる観点から、種結晶欠陥線状集合領域は、主面の1cm2当たりに、長さ500μm以上のより長い種結晶欠陥線状集合領域を20本以上含むことができる。
【0024】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、種結晶欠陥点の密度が10mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、種結晶欠陥点の密度を10mm-2より大きくすることにより、結晶欠陥線が結晶成長主面に達する先端の点である結晶欠陥点の密度が20mm-2より大きい単結晶ダイヤモンドが化学気相堆積法により得られるため、高密度の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生が抑制される単結晶ダイヤモンドが得られる。さらに、本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、種結晶欠陥点の密度が100mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、種結晶欠陥点の密度を100mm-2より大きくすることにより、結晶欠陥線が結晶成長主面に達する先端の点である結晶欠陥点の密度が300mm-2より大きい単結晶ダイヤモンドが化学気相堆積法により得られるため、高密度の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生がより抑制される単結晶ダイヤモンドが得られる。さらに、単結晶ダイヤモンドの大きな欠損をさらに抑制する観点から、種結晶欠陥点の密度は、1000mm-2より大きくすることができ、1×104mm-2より大きくすることができる。ただし、種結晶欠陥点の密度が高過ぎると、種結晶欠陥点が互いに接近し過ぎて、応力緩和より応力増大の効果が大きくなるため、種結晶欠陥点の密度は好ましくは1×106mm-2より小さくできる。
【0025】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、成長させる単結晶ダイヤモンドは、その結晶欠陥点のうち、複数の刃状転位および複数の螺旋転位の少なくともいずれかが複合した複合転位が結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度を20mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、複合転位が結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度が20mm-2より大きいため、また、複合転位による応力緩和の効果が大きいため、大きな欠損の発生がさらに抑制される。かかる観点から、複合転位点の密度は、好ましくは30mm-2より大きくでき、さらに好ましくは300cm-2より大きくできる。
【0026】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法において、ダイヤモンド種結晶基板の主面を水素終端した後の電子顕微鏡の2次電子像において、結晶損傷が存在する点を示す種結晶損傷点の密度を3mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドの製造方法は、種結晶欠陥点のうち特に化学気相堆積法で成長させた単結晶ダイヤモンドに多数の結晶欠陥線を生じさせる種結晶損傷点の密度を3mm-2より大きくすることにより、高密度の結晶欠陥線を有する単結晶ダイヤモンドが化学気相堆積法により得られるため、高密度の結晶欠陥線による応力緩和により、大きな欠損が抑制される単結晶ダイヤモンドが得られる。
【0027】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法より、結晶成長主面についてのX線トポグラフィー像において結晶欠陥が存在する線を示す結晶欠陥線が結晶成長主面に達する先端の点である結晶欠陥点の群が集合して存在し、かつ光透過率が高い単結晶ダイヤモンドが製造される。
【0028】
本発明の一実施形態にかかる単結晶ダイヤモンドは、不純物元素として窒素を500ppb未満で含む。かかる単結晶ダイヤモンドは、不純物元素原子として500ppb未満の窒素原子しか含有していないことから、高純度で光透過率が高いことに加えて、特定部分に強い応力がかかったときに欠けの伸展を攪乱する異元素原子である窒素原子が低濃度であるため、長距離に及ぶ大きな欠損が発生しやすくなるのが、多数の結晶欠陥線自身とそれによる応力緩和により欠けの伸展が攪乱されるため、大きな欠損の発生が抑制される。このため、不純物元素原子として500ppb未満の窒素原子を含有する本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などの用途に好適に用いられる。さらに、上記の効果が大きく表れる範囲として、本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、不純物元素原子として、250ppb未満の窒素原子を含有することができ、75ppb未満の窒素原子を含有することができ、35ppb未満の窒素原子を含有することができ、15ppb未満の窒素原子を含有することができる。ただし、窒素原子が全く無い場合は単結晶ダイヤモンドの欠損を抑制しきれないため、単結晶ダイヤモンドは、窒素原子を、好ましくは0.05ppb以上で含有できる。ここで、不純物元素とは、単結晶ダイヤモンドの主たる構成元素である炭素以外の元素(異元素)を意味する。
【0029】
本発明の一実施形態にかかる単結晶ダイヤモンドは、不純物元素としてケイ素を1000ppb未満で含む。かかる単結晶ダイヤモンドは、不純物元素原子として1000ppb未満のケイ素原子しか含有していないことから、高純度で光透過率が高いことに加えて、特定部分に強い応力がかかったときに欠けの伸展を攪乱する異元素原子であるケイ素原子が低濃度であるため、長距離に及ぶ大きな欠損が発生しやすくなるのが、多数の結晶欠陥線自身とそれによる応力緩和により欠けの伸展が攪乱されるため、大きな欠損の発生が抑制される。このため、不純物元素原子として1000ppb未満のケイ素原子を含有する本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などの用途に好適に用いられる。さらに、上記の効果が大きく表れる範囲として、本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、不純物元素原子として、200ppb未満のケイ素原子を含有することができ、50ppb未満のケイ素原子を含有することができ、5ppb未満のケイ素原子を含有することができ、0.5ppb未満のケイ素原子を含有することができ、0.05ppb未満のケイ素原子を含有することができ、0.005ppb未満のケイ素原子を含有することができる。ただし、ケイ素原子が全く無い場合は単結晶ダイヤモンドの欠損を抑制しきれないため、単結晶ダイヤモンドは、ケイ素原子を、好ましくは0.0005ppb以上で含有できる。
【0030】
本発明の一実施形態の単結晶ダイヤモンドは、窒素およびケイ素以外の不純物元素を500ppb未満で含む。かかる単結晶ダイヤモンドは、窒素原子およびケイ素原子以外の不純物元素原子を500ppb未満しか含有していないことから、高純度で光透過率が高いことに加えて、特定部分に強い応力がかかったときに欠けの伸展を攪乱する異元素原子である窒素原子およびケイ素原子以外の不純物元素原子が低濃度であるため、長距離に及ぶ大きな欠損が発生しやすくなるのが、多数の結晶欠陥線自身とそれによる応力緩和により欠けの伸展が攪乱されるため、大きな欠損の発生が抑制される。このため、窒素原子およびケイ素原子以外の不純物元素原子を500ppb未満で含有する本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などの用途に好適に用いられる。さらに、上記の効果が大きく表れる範囲として、本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、窒素原子およびケイ素原子以外の不純物元素原子を、200ppb未満で含有することができ、100ppb未満で含有することができ、75ppb未満で含有することができる。ただし、窒素原子およびケイ素原子以外の不純物元素原子が全く無い場合は単結晶ダイヤモンドの欠損を抑制しきれないため、単結晶ダイヤモンドは、窒素原子およびケイ素原子以外の不純物元素原子を、好ましくは1ppb以上で含有できる。
【0031】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、その厚さを500μmとしたときの500nmの波長の光の透過率を55%以上71%未満とすることができる。ここで、単結晶ダイヤモンドの厚さを500μmとしたときの光の透過率とは、その厚さが500μmのときに測定した光の透過率、または、その厚さが500μm以外のときに測定した光の透過率を測定して厚さが500μmのときに換算した光の透過率をいう。また、光の透過率の正確な評価には、表面散乱が2%以下になるように表面研磨することが好ましい。かかる光の透過率は、表面散乱が存在する場合には、表面散乱を補正する換算をした正透過率を意味する。正透過率は、実測透過率から、(正透過率)=(実測透過率)/(1−((表面散乱率)/100))の換算式で定義できる。
従来の単結晶ダイヤモンドは、結晶欠陥と不純物元素原子の相乗効果により、500nmの波長の光を吸収するため、かかる波長の光の透過率が低下する。しかし、本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、高純度であるため、光透過率が高いことに加えて、厚さを500μmとしたときの500nmの波長の光の透過率が55%以上でありながら、大きな欠損の発生が抑制される。大きな欠損の発生を抑制するとともに光透過率が高い観点から、上記の光の透過率は、55%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましく、68%以上が特に好ましい。不純物が極限まで低減された理想的な単結晶ダイヤモンドであっても、上記の光の透過率は、71%未満である。
【0032】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶成長主面についてのX線トポグラフィー像において結晶欠陥が存在する線を示す結晶欠陥線が結晶成長主面に達する先端の点である結晶欠陥点の群が集合して存在することができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、高純度で光透過率が高いことに加えて、多数の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されため、切削工具、研磨工具、光学部品、電子部品、半導体材料などに好適に用いられる。
【0033】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶成長主面についてのX線トポグラフィー像において結晶欠陥が存在する線を示す結晶欠陥線が結晶成長主面に達する先端の点である結晶欠陥点の群が集合して任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域が複数並列して存在することができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、高純度で光透過率が高いことに加えて、結晶欠陥線が結晶成長主面に達する先端の点である結晶欠陥点の群が集合して任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域が複数並列して存在することから、多数の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるとともに、複数並列して存在する任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域により欠けにくい方向が制御できるため、切削工具、研磨工具、光学部品、電子部品、半導体材料などに好適に用いられる。
【0034】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶欠陥線状集合領域は、それが線状に延びる方向に対して垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在させ、かつ、線状に延びる方向における間隔を500μm以下とすることができる。ここで、結晶欠陥線状集合領域が線状に延びる方向とは、複数の結晶欠陥線状集合領域がそれぞれ延びる複数の方向の平均の方向である上記特定される一方向をいう。かかる単結晶ダイヤモンドは、高純度で光透過率が高いことに加えて、結晶欠陥線状集合領域が、それが線状に延びる方向に対して垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在し、かつ、線状に延びる方向における間隔が500μm以下であることから、多数の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるとともに、複数並列して存在する任意に特定される一方向から30°以内の方向に複数並列する高密度の結晶欠陥線状集合領域により欠けにくい方向が制御できる。
【0035】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶欠陥線状集合領域は、結晶成長主面の1cm2当たりに、長さ300μm以上の長い結晶欠陥線状集合領域を5本以上含むことができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、高純度で光透過率が高いことに加えて、結晶成長主面の1cm2当たりに、長さ300μm以上の長い結晶欠陥線状集合領域を5本以上含むことから、単結晶ダイヤモンドにおける欠損の発生が抑制されるとともに、単結晶ダイヤモンド全体の強度が増強される。かかる観点から、結晶欠陥線状集合領域は、主面の1cm2当たりに、長さ500μm以上のより長い結晶欠陥線状集合領域を20本以上含むことができる。
【0036】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶欠陥点の密度を20mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、高純度で光透過率が高いことに加えて、結晶欠陥点の密度が20mm-2より大きいことから、高密度の結晶欠陥点に対応する高密度の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生が抑制される。さらに、本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶欠陥点の密度を300mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、結晶欠陥点の密度が300mm-2より大きいことから、より高密度の結晶欠陥点に対応する高密度の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生がより抑制される。さらに、本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶欠陥点の密度を1500mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、結晶欠陥点の密度が1500mm-2より大きいことから、さらに高密度の結晶欠陥点に対応する高密度の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生がさらに抑制される。
【0037】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶欠陥点のうち、複数の刃状転位および複数の螺旋転位の少なくともいずれかが複合した複合転位が結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度を20mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、高純度で光透過率が高いことに加えて、複合転位が結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度が20mm-2より大きいため、また、複合転位による応力緩和の効果が大きいため、大きな欠損の発生がさらに抑制される。さらに、本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶欠陥点のうち、複数の刃状転位および複数の螺旋転位の少なくともいずれかが複合した複合転位が結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度を30mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、複合転位が結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度が30mm-2より大きいため、また、複合転位による応力緩和の効果がより大きいため、大きな欠損の発生がさらにより抑制される。
【0038】
さらに、本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶欠陥点のうち、複数の刃状転位および複数の螺旋転位の少なくともいずれかが複合した複合転位が結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度を500mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、複合転位が結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度が500mm-2より大きいため、また、複合転位による応力緩和の効果がより大きいため、大きな欠損の発生がさらにより抑制される。さらに、本実施形態の単結晶ダイヤモンドにおいて、結晶欠陥点のうち、複数の刃状転位および複数の螺旋転位の少なくともいずれかが複合した複合転位が結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度を1000mm-2より大きくすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、複合転位が結晶成長主面に達する先端の点である複合転位点の密度が1000mm-2より大きいため、また、複合転位による応力緩和の効果がより大きいため、大きな欠損の発生がさらにより抑制される。
【0039】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、複数の単結晶ダイヤモンド層を含むことができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、高純度で光透過率が高いことに加えて、複数の単結晶ダイヤモンド層を含むことから、結晶欠陥線の形成が促進されるため、大きな欠損の発生がさらに抑制される。
【0040】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、複数の単結晶ダイヤモンド層を含み、各単結晶ダイヤモンド層の界面で、結晶欠陥線が新たに発生または分岐しており、結晶成長主面の結晶欠陥点を、結晶成長主面と反対側の主面の結晶欠陥点より高密度とすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、高純度で光透過率が高いことに加えて、各単結晶ダイヤモンド層の界面で、結晶欠陥線が新たに発生または分岐することから、単結晶ダイヤモンド層の層数が増すごとに、結晶成長主面の結晶欠陥点が増加するため、結晶成長主面の結晶欠陥点が、結晶成長主面と反対側の主面の結晶欠陥点より高密度となり、耐欠損性がより高くなる。
【0041】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、複数の単結晶ダイヤモンド層を含み、各単結晶ダイヤモンド層の界面で、結晶欠陥線が新たに発生、消滅、分岐または合流しており、結晶成長主面の結晶欠陥点および結晶成長主面と反対側の結晶成長主面の結晶欠陥点を、各単結晶ダイヤモンド層の界面の結晶欠陥点より高密度とすることができる。かかる単結晶ダイヤモンドは、高純度で光透過率が高いことに加えて、各単結晶ダイヤモンド層の界面で、結晶欠陥線が新たに発生、消滅、分岐または合流することから、単結晶ダイヤモンド層の層数が増すごとに、結晶成長主面の結晶欠陥点および反対側の結晶成長主面の結晶欠陥点が増加するため、結晶成長主面の結晶欠陥点および反対側の結晶成長主面の結晶欠陥点が各単結晶ダイヤモンド層の界面の結晶欠陥点より高密度なり、両側の主面の大きな欠損の発生が抑制され、両側の主面の耐欠損性が高く、強度が高くなる。
【0042】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドは、また、多数の結晶欠陥線による応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるため、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などに好適に用いられる。
【0043】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドを含む部品は、本実施形態の単結晶ダイヤモンドを含む半導体基板、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク、ヒートスプレッダ)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、バイオチップ、センサーおよび半導体基板からなる群から選択される部品である。かかる部品は、上記の実施形態の単結晶ダイヤモンドを含むため、高純度で光透過率が高いことに加えて、大きな欠損抑制され、耐欠損性が高く強度が高い。
【0044】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドを含む工具は、本実施形態の単結晶ダイヤモンドを被削材との接触部分に含む、切削バイト、フライスワイパー、エンドミル、ドリル、リーマー、カッター、ドレッサー、ワイヤーガイド、伸線ダイス、ウォータージェットノズル、ダイヤモンドナイフ、ガラス切りおよびスクライバーからなる群から選択される工具である。かかる工具は、被削材との接触部分に本実施形態の単結晶ダイヤモンドを含むため、高純度で光透過率が高いことに加えて、大きな欠損抑制され、高耐欠損性で強度が高く、かつ純度が高いため耐摩耗性にも優れる。
【0045】
本発明の一実施形態にかかる化学気相堆積装置は、上記の単結晶ダイヤモンドの製造方法に用いられる化学気相堆積装置であって、チャンバと、チャンバ内に配置された補助板の表面の少なくとも一部に保護膜が形成された保護膜付補助板と、を備える。本実施形態の化学気相堆積装置は、チャンバ内に配置された保護膜付補助板8を備えるため、上記の実施形態の単結晶ダイヤモンドを製造することができる。
【0046】
[本発明の実施形態の詳細]
<実施形態1:単結晶ダイヤモンドの製造方法>
本実施形態にかかる単結晶ダイヤモンドの製造方法について、図1図13を参照して、説明する。
【0047】
図1図4および図7図9を参照して、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法は、補助板4の表面の少なくとも一部に保護膜5を形成する工程S1と、ダイヤモンド種結晶基板10を準備する工程S2と、補助板4に保護膜5が形成された保護膜付補助板8とダイヤモンド種結晶基板10とをチャンバ2内に配置する工程S3と、チャンバ2内に炭素を含むガスを導入しながら、ダイヤモンド種結晶基板10の主面上に化学気相堆積(以下、CVDともいう)法により単結晶ダイヤモンド20を成長させる工程S4と、を備える。本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法によれば、上記の工程を備えることにより、不純物元素の含有量が低く、光透過率が高くかつ耐欠損性に優れた単結晶ダイヤモンドが得られる。
【0048】
(補助板を準備する工程)
図1図2および図9を参照して、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法において、準備される補助板4は、特に制限はなく、たとえば、水素などの酸化還元雰囲気で安定かつ比較的安価で大面積板を入手可能な、モリブデン、銅、アルミニウム、ニオブ、タンタル、石英、サファイア、アルミナ、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、イットリア安定ジルコニアなどが好適に用いられる。補助板4は、マイクロ波を透過し、また、還元性雰囲気下でも安定である観点から、酸化物であることが好ましい。酸化物としては、石英、サファイア、アルミナ(酸化アルミニウム)、マグネシア(酸化マグネシウム)、チタン酸ストロンチウム、イットリア安定ジルコニアなどが好適である。補助板4の厚さは、取扱い易い観点から、1mm以上5mm 以下が好ましく、1mm以上3mm以下がより好ましい。
【0049】
(補助板の表面の少なくとも一部に保護膜を形成する工程S1)
図1図2および図9を参照して、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法において、補助板の表面の少なくとも一部に保護膜を形成する工程S1により、補助板4の表面の少なくとも一部に保護膜5を形成し、補助板4に保護膜5が形成された保護膜付補助板8を準備する。保護膜5は、後述の補助板4に保護膜5が形成された保護膜付補助板8とダイヤモンド種結晶基板10とをチャンバ内に配置する工程S3において説明するように、補助板4を形成する元素が単結晶ダイヤモンドに混入することを抑制したり、チャンバ2内の不純物元素が単結晶ダイヤモンドに混入することを抑制したりする機能を有する。保護膜5は、たとえば、補助板4の表面に、真空スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法などを用いてアルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、イリジウムなどの薄膜を形成して得ることができる。
【0050】
保護膜5は、補助板4の主面とともに、側面にも形成することが好ましい。保護膜5の厚さは0.5μm以上が好ましく5μm以上がさらに好ましい。保護膜5の厚さの上限について特に制限はないが、形成の容易性の観点から1000μm以下が好ましい。
【0051】
保護膜5は、補助板4の表面の少なくとも一部に形成することで効果がある。補助板4の露出している表面積に対する保護膜5の面積の百分率で定義される保護膜比率(%)は、10%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、100%がもっとも好ましい。
【0052】
保護膜5は、チャンバ2内の不純物元素が単結晶ダイヤモンドに混入することを抑制する観点から、炭素以外の元素のゲッターとなる金属元素を含むことが好ましい。ゲッターとは、チャンバ内の不純物元素を吸着し単結晶ダイヤモンドへの混入を抑制するものをいう。ゲッターとなる金属元素とは、たとえば、酸素と化合物を形成する金属元素、具体的には、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、ジルコニウム、モリブデン、ハフニウム、タングステン、イリジウムなどが好適に挙げられる。
【0053】
(ダイヤモンド種結晶基板を準備する工程S2)
図1図4および図9を参照して本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法において、ダイヤモンド種結晶基板10を準備する工程S2は、特に制限はないが、耐欠損性に優れた単結晶ダイヤモンドを得る観点から、主面10m上に種結晶損傷点を有するダイヤモンド種結晶基板10を準備する工程S2であることが好ましい。ここで、種結晶損傷点の密度は、3mm-2以上が好ましく、5mm-2以上がより好ましい。あるいは、主面10m上に結晶欠陥点の群が集合して存在するCVD(化学気相堆積)ダイヤモンド種結晶基板10を準備する工程S2であることが好ましい。さらに、主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板10を準備する工程S2であることがより好ましい。すなわち、かかる単結晶ダイヤモンド20の製造方法は、主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板10を準備する工程(図9(A))と、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に、CVD(化学気相堆積)法により単結晶ダイヤモンド20を成長させる工程(図9(B))と、を備える。
【0054】
ここで、主面(結晶成長主面)とは基本的に結晶成長の表面を指す。あるいは、結晶成長の表面に近い側の研磨した表面を指す。また、結晶欠陥点の群が集合するという表現は、以下のような内容である。すなわち、結晶欠陥点20dpは、一つの起点から枝分かれした複数の結晶欠陥点あるいはそれらの途中から枝分かれした結晶欠陥点の集まりを一つの群とし、別の起点由来のものは別の群とする。同じ群を全て包含する最小の円を群のエリアと表現すると、ある群のエリアと別の群のエリアが接触もしくは重なる場合に、群が集合していると表現する。
【0055】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法は、主面10m上に好ましくは3mm-2以上より好ましくは5mm-2以上の密度の種結晶損傷点を有するダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に、あるいは主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して存在するダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に、CVD法により単結晶ダイヤモンド20を成長させることにより、結晶欠陥点の群が集合して存在する単結晶ダイヤモンド20が得られる。かかる単結晶ダイヤモンド20は、多数の結晶欠陥点の群による応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるため、切削工具、研磨工具、光学部品、電子部品、半導体材料などに好適に用いられる。
【0056】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法は、主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に、CVD法により単結晶ダイヤモンド20を成長させることにより、結晶欠陥線20dqが結晶成長主面20mに達する先端の点である結晶欠陥点20dpの群が集合して任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域20rが複数並列して存在する単結晶ダイヤモンド20が得られる。かかる単結晶ダイヤモンド20は、多数の結晶欠陥線20dqによる応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるとともに、複数並列して存在する任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域20r(図5および図6を参照)により欠けにくい方向が制御できるため、切削工具、研磨工具、光学部品、電子部品、半導体材料などに好適に用いられる。
【0057】
主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板10を準備する工程は、特に制限はなく、たとえば、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に凹凸を形成する工程を含むことができる。凹凸を形成するのは、凹凸に対応した種結晶欠陥点10dpを形成することができるからである。主面10m上の凹凸の深さは、0.1nm以上100nm以下が好ましく、1nm以上70nm以下がより好ましい。主面10m上の凹凸は、ランダムでもよいが、凹凸の群が集合して、線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を形成していることが好ましい。主面10m上の凹凸は、エッチング、研磨、フォトリソグラフィ、レーザなどで形成できる。
【0058】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法において、種結晶欠陥線状集合領域は、それが線状に延びる方向に対して垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在し、かつ、線状に延びる方向における間隔を500μm以下であることが好ましい。かかる単結晶ダイヤモンド20の製造方法は、種結晶欠陥線状集合領域を、それが線状に延びる方向に垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在させ、かつ、それが線状に延びる方向における間隔を500μm以下とすることにより、図5および図6に示す結晶欠陥線状集合領域20rが、それが線状に延びる方向に垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在し、かつ、線状に延びる方向における間隔Dが500μm以下である単結晶ダイヤモンド20が得られるため、多数の結晶欠陥線20dqによる応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるとともに、複数並列する高密度の任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域20rにより欠けにくい方向が制御できる単結晶ダイヤモンド20が得られる。
【0059】
上記の観点から、種結晶欠陥線状集合領域は、それが線状に延びる方向に対して垂直な方向に1mm当たり4つ以上存在すること、および/または、線状に延びる方向における間隔が100μm以下であることがより好ましい。複数並列する種結晶欠陥線状集合領域の間のピッチは、500μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましい。
【0060】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法において、種結晶欠陥線状集合領域は、主面の1cm2当たりに、長さ300μm以上の長い種結晶欠陥線状集合領域を5本以上含むことが好ましい。かかる単結晶ダイヤモンド20の製造方法は、主面の1cm2当たりに、長さ300μm以上の長い種結晶欠陥線状集合領域が5本以上含むことから、成長させる単結晶ダイヤモンド20における欠損の発生が抑制されるとともに、単結晶ダイヤモンド20全体の強度が増強される。かかる観点から、種結晶欠陥線状集合領域は、主面の1cm2当たりに、長さ500μm以上のより長い種結晶欠陥線状集合領域を20本以上含むことがより好ましい。
【0061】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法において、種結晶欠陥点10dpの密度は10mm-2より大きくすることが好ましい。かかる単結晶ダイヤモンド20の製造方法は、種結晶欠陥点10dpの密度を10mm-2より大きくすることにより、結晶欠陥線20dqが結晶成長主面20mに達する先端の点である結晶欠陥点20dpの密度が20mm-2より大きい単結晶ダイヤモンドがCVD(化学気相堆積)法により得られるため、高密度の結晶欠陥線20dqによる応力緩和により大きな欠損の発生が抑制される単結晶ダイヤモンド20が得られる。かかる観点から、種結晶欠陥点10dpの密度は、100mm-2より大きいことがより好ましく、1000mm-2より大きいことがさらに好ましく、1×104mm-2より大きいことが特に好ましい。たとえば、種結晶欠陥点10dpの密度を100mm-2より大きくすることにより、結晶欠陥線20dqが結晶成長主面20mに達する先端の点である結晶欠陥点20dpの密度が300mm-2より大きい単結晶ダイヤモンドがCVD法により得られる。また、たとえば、種結晶欠陥点10dpの密度を300mm-2より大きくすることにより、結晶欠陥線20dqが結晶成長主面20mに達する先端の点である結晶欠陥点20dpの密度が1500mm-2より大きい単結晶ダイヤモンドがCVD法により得られる。さらに、たとえば、種結晶欠陥点10dpの密度を1000mm-2より大きくすることにより、結晶欠陥線20dqが結晶成長主面20mに達する先端の点である結晶欠陥点20dpの密度が3000mm-2より大きい単結晶ダイヤモンドがCVD法により得られる。
【0062】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法において、種結晶欠陥点10dpおよび種結晶欠陥線状集合領域は、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10mに垂直な方向に透過型で測定されたX線トポグラフィー像(すなわち、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10mについてのX線トポグラフィー像)において好適に示される。
【0063】
図9図12および図13を参照して、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法において、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10mを水素終端した後の電子顕微鏡の2次電子像において結晶損傷が存在する点を示す種結晶損傷点10diの密度を3mm-2より大きくすることが好ましい。かかる単結晶ダイヤモンド20の製造方法は、種結晶欠陥点のうち特に化学気相堆積法で成長させた単結晶ダイヤモンド20に多数の結晶欠陥線20dqを生じさせる種結晶損傷点10diの密度を3mm-2より大きくすることにより、高密度の結晶欠陥線20dqを有する単結晶ダイヤモンド20がCVD(化学気相堆積)法により得られるため、高密度の結晶欠陥線20dqによる応力緩和により、大きな欠損が抑制される単結晶ダイヤモンドが得られる。かかる観点から、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10mを水素終端した後の電子顕微鏡の2次電子像において結晶損傷が存在する点を示す種結晶損傷点10diの密度を30mm-2より大きくすることがより好ましい。
【0064】
ここで、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10mを水素終端処理する方法は、特に制限はないが、効率的に処理する観点から、水素ガスを流した減圧雰囲気下で、2.400GHz〜2.497GHzまたは902MHz〜928MHzのマイクロ波の導入、または、熱フィラメントによる加熱によって発生させた水素プラズマをダイヤモンド種結晶基板10の主面10mに照射することにより行なう。このときのダイヤモンド種結晶基板10の温度は、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10mの形状変化を防止する観点から、800℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましい。また水素終端処理が進むよう、400℃以上が好ましい。水素終端処理時間は、確実に水素末端処理する観点から3分以上が好ましく、エッチングされないようにする観点から15分以下が好ましい。
【0065】
上記のように水素終端されたダイヤモンド種結晶基板10の主面10mは、電気陰性度が負になることから、電子顕微鏡の1次電子により励起されたキャリアが容易に2次電子として検出できるため、結晶内部のキャリアをトラップする欠陥の分布として2次電子像を観察することができる。このため、図12に示すような主面10mに明瞭な亀裂などの欠陥がある場合のみならず、図13に示すような主面10mに明瞭な欠陥がない場合においても、上記結晶欠陥に加えて、微細な亀裂、微細な歪みなどを含めた結晶損傷およびその密度を評価することができる。具体的には、図12および図13において、上記の結晶損傷は、微細な亀裂は暗部として、微細な歪みは明暗の変化として、観察される。この際、ダイヤモンド種結晶基板10の表面に存在する種結晶損傷点に対する感度を高くするため、加速電圧は15kV以下が望ましい。
【0066】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法において、ダイヤモンド種結晶基板10の主面の大きさは、大口径の単結晶ダイヤモンドを成長させる観点から、直径3mm以上が好ましく、直径6mm以上がより好ましく、直径10mm以上がさらに好ましい。
【0067】
図1図4および図9(A)を参照して、主面20m上に結晶欠陥点20dpの群が集合して存在する単結晶ダイヤモンド20を得るためのダイヤモンド種結晶基板10を準備する工程S2は、特に制限はないが、主面20m上に結晶欠陥点20dpの群が集合して存在する単結晶ダイヤモンド20を得るためのダイヤモンド種結晶基板10を効率的に準備する観点から、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に種結晶欠陥点10dpおよび/または種結晶損傷点10diを形成するサブ工程と、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上の種結晶欠陥点10dpおよび/または種結晶損傷点10diの密度を確認するサブ工程と、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m側に、イオンを注入することにより、導電層領域10cを形成するサブ工程と、を含むことができる。
【0068】
図1図4および図9(A)を参照して、主面20m上に結晶欠陥点20dpの群が集合して存在する単結晶ダイヤモンド20を得るためにダイヤモンド種結晶基板10を準備する工程S2は、特に制限はないが、主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して存在するダイヤモンド種結晶基板10を効率的に準備する観点から、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して存在するように種結晶欠陥点10dpおよび/または種結晶損傷点10diを形成するサブ工程と、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上の種結晶欠陥点10dpおよび/または種結晶損傷点10diの密度を確認するサブ工程と、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m側に、イオンを注入することにより、導電層領域10cを形成するサブ工程と、を含むことができる。
【0069】
図1図4および図9(A)を参照して、主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が線状に集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板10を準備する工程S2は、特に制限はないが、主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板10を効率的に準備する観点から、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を形成するサブ工程と、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上の種結晶欠陥点10dpおよび種結晶損傷点10diの密度を確認するサブ工程と、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m側に、イオンを注入することにより、導電層領域10cを形成するサブ工程と、を含むことができる。
【0070】
まず、ダイヤモンド種結晶基板10として、高温高圧法により成長されたIb型単結晶ダイヤモンドまたはIIa型単結晶ダイヤモンド、Ib型単結晶ダイヤモンドまたはIIa型単結晶ダイヤモンドを種結晶基板として上記CVD(化学気相堆積)法により成長された単結晶ダイヤモンドが準備される。
【0071】
ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を形成するサブ工程において、種結晶欠陥点10dpには、種結晶点欠陥点、種結晶転位点10dd(刃状転位、螺旋転位、複数の刃状転位および複数の螺旋転位の少なくともいずれかが複合した複合転位などの転位が主面10mに達する先端の点)、種結晶欠損点10dv、種結晶亀裂点、種結晶損傷点10diなどの各種の欠陥点が含まれる。また、種結晶欠陥線状集合領域を形成する方法は、特に制限はなく、たとえば、フォトリソグラフィ法を用いて線状のマスクを形成し、その後マスクが形成されていない部分にプラズマエッチングすることにより形成してもよい。また、レーザ加工により形成してもよい。ダイヤモンド砥粒をメタルでボンドした砥石や、鋳鉄にダイヤモンド砥粒を分散した砥石による機械研磨により形成してもよい。さらに、かかる機械研磨後に反応性イオンエッチング(RIE)、マイクロ波プラズマエッチング、またはイオンミリングを行うことにより、転位の起点となる亀裂をさらに精度よく制御することができる。特に、マスク形成とRIEを行う場合は、酸素(O2)とO2の流量(単位はsccm)に対して1%以下の流量(単位はsccm)の四フッ化炭素(CF4)とでドライエッチングするのが好ましい。このようにすれば、ドライエッチング後に針状の凹凸ができやすく、CVD(化学気相堆積)後に結晶欠陥線の起点となりやすいからである。
【0072】
種結晶欠陥線状集合領域が線状に延びる方向については、好ましい方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域20rを有する単結晶ダイヤモンド20を成長させる観点から、<100>方向から、30°以内の方向が好ましく、15°以内の方向がより好ましい。
【0073】
ここで、亀裂とは、1μm以上の深さにえぐられた穴および1μm〜10μmの長さを有する線状の亀裂を指す。後者は特に主に<110>方向に向いて入りやすい微小劈開などを指す。亀裂点とは、亀裂が主面10mに達する先端の点を指す。また、結晶損傷とは、1μm未満の深さにえぐられた微小な穴および1μm未満の微小な亀裂、ならびに結晶歪みなどを指す。結晶損傷点とは、結晶損傷が主面10mに達する先端の点を指す。種結晶加工後の主面10mの算術平均粗さRa(JIS B0601:2013に規定する算術平均粗さRaをいう。以下同じ。)は0.1nm〜30nmが望ましい。またこの際、主面10mは(001)面から2°以上15°以下のオフ角があることが好ましい。主面10mのオフ方向は、<100>方向から15°以内、または、<110>方向から15°以内が好ましい。主面10mの(001)面からのオフ角が2°未満である場合は、オフ方向に特に制限はなく、主面10mの(001)面からのオフ角が2°以上15°以下の場合に比べて、より高圧の条件でCVD成長させるのが好ましい。
【0074】
上記の方法により、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に、種結晶欠陥線状集合領域を、それが延びる方向に対して垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在し、かつ、それが線状に延びる方向における間隔が500μm以下になるように形成することが好ましい。
【0075】
種結晶欠陥点10dpおよび種結晶損傷点10diの密度を確認するサブ工程において、光学顕微鏡および/またはX線トポグラフィーの像を観察することにより、種結晶欠陥点10dpが10mm-2より大きいことを確認することが好ましい。また、上記のようにダイヤモンド種結晶基板10の主面10mを水素終端した後、主面10mを電子顕微鏡の2次電子像を観察することにより、種結晶損傷点10diの密度が3mm-2より大きいことを確認することが好ましい。ここで、種結晶欠陥点10dpが10mm-2以下および種結晶損傷点10diの密度が3mm-2以下の少なくともいずれかの場合は、条件を変えて種結晶欠陥線状集合領域を形成するサブ工程を繰り返すことが好ましい。また、種結晶欠陥点10dpが1×106mm-2より大きいか種結晶損傷点10diの密度が5×105mm-2より大きいかの少なくともいずれかの場合は、エッチングなどにより種結晶欠陥点および種結晶損傷点の少なくともいずれかの密度を下げることが好ましい。
【0076】
このとき、ダイヤモンド種結晶基板10が窒素原子やリン原子などのドナー原子が多いn型の場合、水素終端した表面付近でバンドが上昇し、2次電子の放出が阻害される場合がある。そのため、ダイヤモンド種結晶基板10として、Ib型単結晶ダイヤモンドを用いても種結晶損傷点10diの観察が可能であるが、ダイヤモンド種結晶基板10のドナー密度は、30ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることが好ましく、ダイヤモンド種結晶基板10として、IIa型単結晶ダイヤモンドまたはCVD(化学気相堆積)法により成長させた単結晶ダイヤモンを用いることが好ましい。
【0077】
ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m側に導電層領域10cを形成するサブ工程は、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m側にイオンを注入することにより行なう。イオンは、炭素、水素、リチウム、ホウ素、窒素、酸素またはリンのイオンが好ましく用いられる。
【0078】
(保護膜付補助板とダイヤモンド種結晶基板とをチャンバ内に配置する工程S3)
図3を参照して、単結晶ダイヤモンドを製造する装置、たとえば、CVD装置1(化学気相堆積装置)は、チャンバ2内に、基板支持部材3が設けられている。通常、チャンバ2は石英管で形成され、基板支持部材3は銅で形成されている。基板支持部材3の上面には基板ホルダ6が配置されている。基板ホルダ6の上面にはダイヤモンド種結晶基板10を配置する。図3および図9を参照して、ダイヤモンド種結晶基板10は、その主面10mが露出するように配置する。図3を参照して、基板支持部材3の上面に、補助板4に保護膜5が形成された保護膜付補助板8を配置する。保護膜付補助板8は、保護膜5の少なくとも一部が露出するように配置する。基板ホルダ6および保護膜付補助板8は、基板支持部材3の上面のすべてを覆うように配置することが好ましい。
【0079】
図3および図9を参照して、銅で形成されている基板支持部材3の上面が露出していると、ダイヤモンド種結晶基板10上に単結晶ダイヤモンド20を成長させる際に、基板支持部材3の上面に原料炭素がグラファイトやダイヤモンドライクカーボンとして析出する。基板支持部材3上に析出したグラファイトなどの析出炭素は、雰囲気中に浮遊しやすく、該析出炭素はダイヤモンド種結晶基板10上に成長する単結晶ダイヤモンド中に取り込まれてしまう。
【0080】
そこで、従来のCVD装置では、基板支持部材3の上面には補助板4が配置されている。補助板4上にも原料炭素がグラファイトなどとして析出するが、補助板4としての石英板は該析出炭素を強固に保持することができるため、該析出炭素は雰囲気中に浮遊しにくい。したがって、基板支持部材3上に補助板4として石英板が配置されることで、ダイヤモンド種結晶基板10上に成長する単結晶ダイヤモンド中に析出炭素が取り込まれることを抑制することができる。
【0081】
しかし、基板支持部材3上に補助板4として石英板を配置することで、ダイヤモンド種結晶基板10上に単結晶ダイヤモンド20を成長させる際に、石英板に含まれるケイ素が単結晶ダイヤモンドに不純物元素として混入してしまう。
【0082】
そこで、本実施形態の単結晶ダイヤモンドの製造方法に用いられるCVD装置では、補助板4の表面の少なくとも一部に保護膜5が形成された保護膜付補助板8を用いることで、単結晶ダイヤモンド20への、析出炭素の取り込みを抑制するとともに、ケイ素の混入を抑制することができる。
【0083】
(単結晶ダイヤモンドを成長させる工程S4)
図1図4および図9(B)を参照して、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法において、単結晶ダイヤモンド20を成長させる工程S4は、チャンバ2内に炭素を含むガスを導入しながら、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上にCVD法により単結晶ダイヤモンド20を成長させることにより行なう。CVD法としては、マイクロ波プラズマCVD法、DCプラズマCVD法、ホットフィラメントCVD法などが好適に用いられる。炭素を含むガスとしては、CH4、C26、C24、C22、CH3OH、C25OH、(CH3)2COなどが好適に用いられる。また、炭素を含むガス以外の単結晶成長用ガスとしては、水素、アルゴン、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素などが好適に用いられる。
【0084】
チャンバ2内に導入するガスは、炭素および酸素を含むことが好ましい。ガス中の酸素は、単結晶ダイヤモンド20中に窒素やケイ素などの不純物元素が混入するのを防止するとともに、単結晶ダイヤモンド20と同時に形成されるグラファイトを優先的にエッチングする作用を有している。したがって、得られた単結晶ダイヤモンドは純度が高く、光の透過率が高く、光学的に透明である。すなわち、従来は高純度の単結晶ダイヤモンドを得るためには、高価な高純度の原料ガスを用いることが必要であったが、本実施形態では、炭素に加えて酸素を含むガスを導入し、さらに補助板4の表面の少なくとも一部に保護膜5が形成された保護膜付補助板8を用いることで、高純度の単結晶ダイヤモンドを成長させることができる。
【0085】
ここで、酸素を含むガスとしては、たとえばCO2、O2、CO、CH3OH、C25OH、(CH3)2CO、H2Oなどが好適に用いられる。
【0086】
チャンバ2内に導入する炭素と酸素とを含むガスの組み合わせは、たとえばCH4とO2とH2との体積比で、1:0.01:3〜1:0.8:100が好ましく、1:0.05:3〜1:0 .8:100がさらに好ましい。酸素を含むガスが炭素と酸素とを含むガスの合計量の60体積%を超えると、酸素を含むガスがダイヤモンド種結晶基板10上に成長する単結晶ダイヤモンド20をエッチングしてしまい、単結晶ダイヤモンド20の成長速度が低下してしまう。
【0087】
成長させる単結晶ダイヤモンド20の厚さは、特に制限はないが、半導体材料、電子部品、放熱部品、光学部品、電子部品、切削工具、研磨工具などを好適に形成する観点から、300μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましい。ダイヤモンド種結晶基板10に応力による割れが発生するのを防止する観点から、1500μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましい。厚さが1000μmより大きい単結晶ダイヤモンド20を成長させる場合は、厚さが500μm以下の第1の単結晶ダイヤモンド層21を成長させた後、後述のようにダイヤモンド種結晶基板10を除去した後、第1の単結晶ダイヤモンド層21上に、追加の単結晶ダイヤモンド20として、第2の単結晶ダイヤモンド層22を成長させることが好ましい。
【0088】
なお、図8に示すように、複数の単結晶ダイヤモンド層21,22を含む単結晶ダイヤモンド20を成長させる場合、ダイヤモンド種結晶基板10上に単結晶ダイヤモンド20として第1の単結晶ダイヤモンド層21および第2の単結晶ダイヤモンド層22を続けて成長させることもできる。しかし、厚さの大きい(たとえば厚さが1000μmより大きい)単結晶ダイヤモンド20を成長させる場合は、単結晶ダイヤモンド20の厚さが大きくなることによりダイヤモンド種結晶基板10が応力により割れることを防止する観点から、図9(B)〜(D)に示すように、厚さが500μm以下の第1の単結晶ダイヤモンド層21を成長した後、ダイヤモンド種結晶基板10を除去し、その後に、第2の単結晶ダイヤモンド層22を追加して成長させることが好ましい。
【0089】
(ダイヤモンド種結晶基板の除去工程)
図9(C)を参照して、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法は、効率よく単結晶ダイヤモンド20を得る観点から、ダイヤモンド種結晶基板10を除去する工程をさらに備えることができる。
【0090】
ダイヤモンド種結晶基板10を除去する工程は、ダイヤモンド種結晶基板10を効率よく除去する観点から、レーザ切断により除去することが好ましい。また、電解エッチングなどの電気化学的エッチングにより、ダイヤモンド種結晶基板10にイオン注入することにより形成された導電層領域10cを分解除去することにより、ダイヤモンド種結晶基板10を除去することも好ましい。
【0091】
(単結晶ダイヤモンドの追加成長工程)
図9(D)を参照して、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法は、大きな欠損の発生がさらに抑制される単結晶ダイヤモンド20を得る観点から、単結晶ダイヤモンド20を追加して成長させる工程をさらに備えることができる。
【0092】
単結晶ダイヤモンド20を追加して成長させる工程は、既に成長させた単結晶ダイヤモンド20である第1の単結晶ダイヤモンド層21の主面上に、CVD法により、第2の単結晶ダイヤモンド層22を成長させることにより行なう。第1の単結晶ダイヤモンド層21には、図9(C)に示すように、ダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上の種結晶欠陥点10dpの欠陥を引き継ぐ結晶欠陥線21dqが結晶成長方向に延びている。第1の単結晶ダイヤモンド層21上にCVD法により成長された第2の単結晶ダイヤモンド層22には、結晶欠陥線21dqの欠陥を引き継ぐ結晶欠陥線22dqが結晶成長方向に延びて単結晶ダイヤモンド20の結晶成長主面20mに達する先端が結晶欠陥点20dpとなる。
【0093】
このとき、一般的に、第1の単結晶ダイヤモンド層21においてはダイヤモンド種結晶基板10の1つの種結晶欠陥点10dpから複数の結晶欠陥線21dqが引き継がれ、第2の単結晶ダイヤモンド層22においてはダイヤモンド種結晶基板10の1つの結晶欠陥線21dqから複数の結晶欠陥線22dqが引き継がれるため、単結晶ダイヤモンド層21,22の数が多くなるほど、単結晶ダイヤモンド20の結晶欠陥点20dpは多くなり、大きな欠損の発生がさらに抑制される。
【0094】
上記のようにして、図9(D)に示すように、複数の単結晶ダイヤモンド層21,22を含み、各単結晶ダイヤモンド層21,22の界面212iで、結晶欠陥線21dq,22dqが新たに発生または分岐しており、結晶成長主面20mの結晶欠陥点20dpを、結晶成長主面20mと反対側の主面20nの結晶欠陥点20ndpより高密度である単結晶ダイヤモンド20が得られる。
【0095】
また、図9(C)および図10を参照して、単結晶ダイヤモンド20を追加して成長させる工程として、図9(C)で得られる単結晶ダイヤモンド20の結晶成長主面20mと反対側の主面20n上に、CVD(化学気相堆積)法により、さらなる単結晶ダイヤモンドを成長させることにより行なうことができる。このようにして、図10に示すように、複数の単結晶ダイヤモンド層20a,20bを含み、各単結晶ダイヤモンド層20a,20bの界面20iで、結晶欠陥線20adq,20bdqが新たに発生、消滅、分岐または合流しており、結晶成長主面20amの結晶欠陥点20adpおよび結晶成長主面20amと反対側の結晶成長主面20bmの結晶欠陥点20bdpが、各単結晶ダイヤモンド層20a,20bの界面20iの結晶欠陥点より高密度である単結晶ダイヤモンド20が得られる。
【0096】
また、図9(D)および図11を参照して、単結晶ダイヤモンド20を追加して成長させる工程として、図9(D)で得られる単結晶ダイヤモンド20の結晶成長主面20mと反対側の主面20n上に、CVD法により、さらなる単結晶ダイヤモンドを成長させることにより行なうことができる。このようにして、図11に示すように、複数の単結晶ダイヤモンド層21a,21b,22a,22bを含み、各単結晶ダイヤモンド層21a,21b,22a,22bの界面20i,212ai,212biで、結晶欠陥線21adq,21bdq,22adq,22bdqが新たに発生、消滅、分岐または合流しており、結晶成長主面20amの結晶欠陥点20adpおよび結晶成長主面20amと反対側の結晶成長主面20bmの結晶欠陥点20bdpが、各単結晶ダイヤモンド層21a,21b,22a,22bの界面20i,212ai,212biの結晶欠陥点より高密度である単結晶ダイヤモンド20が得られる。
【0097】
<実施形態2:単結晶ダイヤモンド>
本実施形態にかかる単結晶ダイヤモンドについて、図1図13を参照して、説明する。
【0098】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20のある例は、不純物元素として窒素を500ppb未満で含む。本例の単結晶ダイヤモンド20は、不純物元素原子として500ppb未満の窒素原子しか含有していないことから、特定部分に強い応力がかかったときに欠けの伸展を攪乱する異元素原子である窒素原子が低濃度であるため、長距離に及ぶ大きな欠損が発生しやすくなるのが、多数の結晶欠陥線20dq,21dq,22dq自身とそれによる応力緩和により欠けの伸展が攪乱されるため、大きな欠損の発生が抑制される。また、本例の単結晶ダイヤモンド20は、窒素原子の含有量が500ppb未満であるため、結晶欠陥が多くなっても、光透過率が高い。このため、本例の単結晶ダイヤモンドは、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などの用途に好適に用いられる。
【0099】
単結晶ダイヤモンド20中の窒素の含有量は、500ppb未満であり、250ppb未満が好ましく、75ppb未満がより好ましく、35ppb未満がさらに好ましく、15ppb未満が特に好ましい。単結晶ダイヤモンド20中の窒素の含有量は、SIMS(二次イオン質量分析)法により測定する。10ppb付近以下の含有量の窒素に関しては、SIMS法での検出下限であり測定が困難であるため、EPR(電子スピン常磁性共鳴)法により測定する。なお、EPR法での検出下限は0.01ppbである。
【0100】
単結晶ダイヤモンド20中の窒素の含有量は、チャンバ内に導入するガスの炭素を含むガスおよび酸素を含むガスとの組み合わせの体積比、補助板4の露出している表面積に対する保護膜5の面積の百分率で定義される保護膜比率(%)などにより調整する。単結晶ダイヤモンド20中の窒素の含有量を低減する観点から、ガスの組み合わせの体積比は、CH4:O2:H2が、1:0.01:20〜1:0.4:100が好ましく、1:0.03:20〜1:0 .4:100がより好ましく、保護膜比率は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましく、100%が最も好ましい。
【0101】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20の別の例は、不純物元素としてケイ素を1000ppb未満で含む。本例の単結晶ダイヤモンド20は、不純物元素原子として1000ppb未満のケイ素原子しか含有していないことから、特定部分に強い応力がかかったときに欠けの伸展を攪乱する異元素原子であるケイ素原子が低濃度であるため、長距離に及ぶ大きな欠損が発生しやすくなるのが、多数の結晶欠陥線20dq,21dq,22dq自身とそれによる応力緩和により欠けの伸展が攪乱されるため、大きな欠損の発生が抑制される。また、本例の単結晶ダイヤモンド20は、ケイ素原子の含有量が1000ppb未満であるため、結晶欠陥が多くなっても、光透過率が高い。このため、本例の単結晶ダイヤモンドは、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などの用途に好適に用いられる。
【0102】
単結晶ダイヤモンド20中のケイ素の含有量は、1000ppb未満であり、200ppb未満が好ましく、50ppb未満がより好ましく、5ppb未満がさらに好ましく、0.05ppb未満が特に好ましく、0.005ppb未満が最も好ましい。単結晶ダイヤモンド20中のケイ素の含有量は、SIMS法により測定する。1ppb付近以下含有量のケイ素に関しては、SIMS法での検出下限となり測定が困難であるため低温PL(フォトルミネッセンス)分光分析法によって測定する。低温PL分光分析測定は、全て試料を液体窒素にて冷却し、緑色(514nm)レーザ励起を用いて行った。低温PL分光分析測定により、ダイヤモンドに起因した572nmのピークと、ケイ素に起因した737 nmのピークが観測され、これらピーク強度比(737nm/572nm)とSIMS法による定量値との相関から1ppb以下のケイ素含有量を測定した。なお、低温PL分光分析法での検出下限は0.0001ppbである。
【0103】
単結晶ダイヤモンド20中のケイ素の含有量は、チャンバ内に導入するガスの炭素を含むガスおよび酸素を含むガスとの組み合わせの体積比、補助板4の露出している表面積に対する保護膜5の面積の百分率で定義される保護膜比率(%)などにより調整する。単結晶ダイヤモンド20中のケイ素の含有量を低減する観点から、ガスの組み合わせの体積比は、CH4:O2:H2が、1:0.01:20〜1:0.8:100が好ましく、1:0.05:20〜1:0.8:100がより好ましく、保護膜比率は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましく、100%が最も好ましい。
【0104】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20のさらに別の例は、窒素およびケイ素以外の不純物元素を500ppb未満で含む。本例の単結晶ダイヤモンド20は、窒素原子およびケイ素原子以外の不純物元素原子を500ppb未満しか含有していないことから、特定部分に強い応力がかかったときに欠けの伸展を攪乱する異元素原子である窒素原子およびケイ素原子以外の不純物元素原子が低濃度であるため、長距離に及ぶ大きな欠損が発生しやすくなるのが、多数の結晶欠陥線20dq,21bdq,22dq自身とそれによる応力緩和により欠けの伸展が攪乱されるため、大きな欠損の発生が抑制される。また、本例の単結晶ダイヤモンド20は、窒素原子およびケイ素原子以外の不純物原子の含有量が500ppb未満であるため、結晶欠陥が多くなっても、光透過率が高い。このため、本例の単結晶ダイヤモンドは、半導体材料(ダイオード、トランジスタなど)、電子部品(抵抗部、容量部など)、放熱材料(ヒートシンク)、光学部品(窓材、レンズなど)、宝飾素材、切削工具、研磨工具などの用途に好適に用いられる。
【0105】
単結晶ダイヤモンド中の窒素およびケイ素以外の不純物元素の含有量は、500ppb未満であり、200ppb未満が好ましく、100ppb未満がより好ましく、75ppb未満がさらに好ましい。単結晶ダイヤモンド中の窒素およびケイ素以外の不純物元素の含有量は、SIMS法により測定する。0.5ppb付近以下の含有量の窒素およびケイ素以外の不純物元素に関しては、SIMS法での検出下限であり測定が困難である。
【0106】
ここで、窒素(原子)およびケイ素(原子)以外の不純物元素(原子)は、上記の実施形態の単結晶ダイヤモンド20の製造方法に用いられる保護膜付補助板8の補助板4および保護膜5に含まれる元素(原子)であり、具体的には、酸素、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、銅、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ハフニウム、タングステン、イリジウムなどが挙げられる。
【0107】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20は、その厚さを500μmとしたときの500nmの波長の光の透過率を55%以上とすることができる。ここで、単結晶ダイヤモンドの厚さを500μmとしたときの光の透過率とは、その厚さが500μmのときに測定した光の透過率、または、その厚さが500μm以外のときに測定した光の透過率を測定して厚さが500μmのときに換算した光の透過率をいう。また、光の透過率の正確な評価には、表面散乱が2%以下になるように表面研磨することが好ましい。従来単結晶ダイヤモンドは、結晶欠陥と不純物原子の相乗効果により、500nmの波長の光を吸収するため、かかる波長の光の透過率が低下する。しかし、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20は高純度であるため、厚さを500μmとしたときの500nmの波長の光の透過率が55%以上でありながら、大きな欠損の発生が抑制される。ここで、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20における上記の光の透過率は、表面散乱が存在する場合には、表面散乱を補正する換算をした正透過率を意味する。正透過率は、実測透過率から、(正透過率)=(実測透過率)/(1−((表面散乱率)/100))の換算式で定義できる。たとえば、表面散乱が2%の場合は、実測透過率を0.98で除した値が正透過率と定義できる。
【0108】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20は、結晶成長主面20mについてのX線トポグラフィー像において結晶欠陥20dが存在する線を示す結晶欠陥線20dqが結晶成長主面20mに達する先端の点である結晶欠陥点20dpの群が集合して存在することが好ましい。また、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20は、結晶成長主面20mについてのX線トポグラフィー像において結晶欠陥20dが存在する線を示す結晶欠陥線20dqが結晶成長主面20mに達する先端の点である結晶欠陥点20dpの群が集合して任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域20rが複数並列して存在することが好ましい。この図5は透過型で撮影したX線トポグラフィー像を模式的に表したものであり、結晶欠陥線20dqが結晶成長主面20mに達する先端の点である結晶欠陥点20dpを分かりやすくするため黒丸点で示す。
【0109】
切削工具、耐摩工具などとして広く用いられている高温高圧法により成長させたIb型単結晶ダイヤモンドは、孤立置換型で窒素不純物を含んでおり、孤立置換型の窒素原子が塑性変形の起点となることにより大きな欠損が発生することを防いでいる。しかしながら、CVD法により成長させた単結晶ダイヤモンド(CVD単結晶ダイヤモンド)は、孤立置換型では窒素原子が入りにくく、空孔や複数の窒素原子と凝集した形で入っており、これらは逆に大きな欠損が発生する原因となっている。
【0110】
本発明者らは、このようなCVD単結晶ダイヤモンドに対して、結晶欠陥点20dpの群が集合して任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域20rが複数並列されるように、分散した多数の結晶欠陥20dを積極的に導入することにより、応力が緩和されるため、微細な摩耗が促進され、切削工具として使用不能となるような大きな欠損が発生しにくくなる現象を見出した。また、本発明者らは、高温高圧法により成長させたIb型単結晶ダイヤモンドでは、CVD単結晶ダイヤモンドのように分散した転位を導入しにくく、多数の転位が種結晶から放射状に拡散して異方性がないかまたは低い結晶欠陥束となりやすく、耐欠損性の改善が見られず、転位導入による耐欠損性向上はCVD単結晶ダイヤモンド特有のものであることを見出した。
【0111】
かかる単結晶ダイヤモンド20は、結晶欠陥線20dqが結晶成長主面20mに達する先端の点である結晶欠陥点20dpの群が集合して任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域20rが複数並列して存在することから、多数の結晶欠陥線20dqによる応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるとともに、複数並列して存在する任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる結晶欠陥線状集合領域20rにより欠けにくい方向が制御できるため、切削工具、研磨工具、光学部品、電子部品、半導体材料などに好適に用いられる。
【0112】
ここで、任意に特定される一方向とは、結晶欠陥線の群が集合して線状に延びる平均の方向であり、たとえば、切削工具の場合は耐摩耗性の高い<110>方向としても良いし、研磨工程の生産性を考慮する場合は摩耗が容易な<100>方向としても良く、用途や利用方法に応じて選択することが可能である。結晶欠陥線の群が集合して線状に延びる方向は、ある程度分散しても良いが、図6に記載のθが30°以内とすることでより効果的に耐欠損性が向上することを見出した。
【0113】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20において、結晶欠陥点20dpおよび結晶欠陥線20dqは、結晶成長主面20mにおけるX線トポグラフィー像においてそれらの存在が示される。すなわち、結晶欠陥点20dpおよび結晶欠陥線20dqは、結晶のそれら以外の部分(欠陥がより少ない部分、すなわち、結晶性が高い部分)に比べてX線の反射強度が高いため、X線トポグラフィー像において、ポジ像の場合は暗部として、ネガ像の場合は明部としてそれらの存在が示される。
【0114】
ここで、結晶欠陥20dには、点欠陥、転位、欠損、亀裂、結晶歪みなどの各種の欠陥が含まれる。また、転位には、刃状転位、螺旋転位、複数の刃状転位および複数の螺旋転位の少なくともいずれかと複合した複合転位などが含まれる。これらの結晶欠陥20dからなる結晶欠陥線20dqは、新たに発生するか、結晶成長主面20mに達するときに線が停止する。結晶成長主面20mに達し結晶欠陥線20dqの先端を結晶欠陥点20dpと呼ぶ。本発明では単位面積当たりの結晶欠陥点20dpの数を数えて密度を定義する。本発明のように1×104個以上の結晶欠陥点を数えるのは事実上不可能であるため、範囲を限定した任意の領域の5ヶ所の平均値をとっても良い。結晶欠陥点が10個/mm2以上ある場合は1mm角の領域、100個/mm2以上では500μm角の領域、1×104個/mm2以上では100μm角の領域など範囲を限定して結晶欠陥点を数え、mm-2単位に換算する。このとき、結晶欠陥点を数える領域は、必ず結晶欠陥線集合領域を含む箇所とする。結晶欠陥線が停止した部分のどちら側が結晶成長主面に達したか分からない場合は、透過型のX線トポグラフィー像の入射角と回折面を変更する、もしくは反射型のX線トポグラフィーの撮影も行うことによって、結晶欠陥点を明確化する。
【0115】
結晶欠陥線状集合領域20rは、結晶欠陥20dが存在する線である結晶欠陥線20dqの先端の点である結晶欠陥点20dpが結晶成長主面20mにおいて線状に集合することにより形成されている。このため、結晶欠陥線状集合領域20rは、単結晶ダイヤモンド20の結晶成長方向に平行な方向(すなわち、結晶成長主面20mに垂直な方向)に透過型で測定されたX線トポグラフィー像において好適に示される。X線トポグラフィー像は反射型でも測定可能であるが、反射型で測定されたX線トポグラフィー像においては、結晶欠陥線20dqが重なった像となるため、結晶欠陥点20dpの集合状態が判明しにくくなるからである。このような結晶欠陥の測定について、複屈折を利用する方法(複屈折法)もあるが、複屈折像に現れない転位や、逆に構造欠陥ではない点欠陥が複屈折像に現れる場合があるため、X線トポグラフィーが複屈折法より好ましい。
【0116】
本実施形態の単結晶ダイヤモンドのX線トポグラフィー像の測定においては、高密度の結晶欠陥点を観察する必要があることから、放射光のX線を用いるのが好ましい。透過型で測定する場合は、たとえば、波長0.71ÅのX線を用い、2θ=32.9°の(220)回折を用いて測定する。また、反射型で測定する場合は、たとえば、波長0.96ÅのX線を用い、2θ=52.4°の(113)回折を用いて測定しても良い。上記のように結晶欠陥点が明確でない場合は、波長を変えて回折角を変えて撮影することによって特定する。同様に実験室系のX線回折装置を用いて測定しても良く、たとえばMo線源で(111)回折を、Cu線源で(113)回折を観察しても良いが、高解像度で撮影するには長い測定時間を要する。測定にはCCDカメラを使用することも可能だが、解像度を高めるために原子核乾板を用いるのが望ましい。原子核乾板の保管、現像、定着はノイズの増加を避けるため全て10℃以下の冷却環境で行うのが望ましい。現像後、光学顕微鏡で画像を取り込み、結晶欠陥点および結晶欠陥線の定量化を行う。
【0117】
単結晶ダイヤモンド20の結晶成長方向は、複数の結晶欠陥線20dqの方向の平均の方向に相当する。また、単結晶ダイヤモンドの結晶成長主面20mとは、結晶成長の最表の主面をいい、一般的には、結晶成長方向に対して垂直な主面である。
【0118】
結晶欠陥線状集合領域20rが線状に伸びる方向については、基準となる任意に特定される一方向は<100>方向が好く、かかる<100>方向から、30°以内の方向が好ましく、15°以内の方向がより好ましい。単結晶ダイヤモンドは<111>方向に劈開しやすいため、結晶欠陥線状集合領域20rが線状に伸びる方向を上記の範囲とすることにより、単結晶ダイヤモンド20の欠損をより抑制することができる。また、単結晶ダイヤモンド20をCVD法により成長させる際に用いられるダイヤモンド種結晶基板10が、高温高圧法により成長されたIb型単結晶である場合が多いため、主面が<100>方向に平行な単結晶ダイヤモンド20が得られやすく、刃幅の大きい工具、大面積の光学部品、電子部品、半導体材料などが得られやすいからである。なお、工具など使用する種類によっては耐摩耗性の高い<110>方向に揃えた方が良い場合もあるため、その場合には<110>方向を結晶欠陥線状集合領域20rが線状に伸びる方向とする。
【0119】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20において、結晶欠陥線状集合領域20rは、それが線状に延びる方向(複数の結晶欠陥線状集合領域がそれぞれ延びる複数の方向の平均の方向、すなわち上記で特定される一方向)に対して垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在し、かつ、線状に延びる方向における間隔Dが500μm以下であることが好ましい。かかる単結晶ダイヤモンド20は、結晶欠陥線状集合領域20rが、それが線状に延びる方向に垂直な方向に1mm当たり2つ以上存在し、かつ、線状に延びる方向における間隔が500μm以下であることから、多数の結晶欠陥線20dqによる応力緩和により大きな欠損の発生が抑制されるとともに、複数並列して存在する任意に特定される一方向から30°以内の方向に線状に延びる高密度の結晶欠陥線状集合領域20rにより欠けにくい方向が制御できる。
【0120】
上記の観点から、結晶欠陥線状集合領域20rは、それが線状に延びる方向に対して垂直な方向に1mm当たり4つ以上存在すること、および/または、線状に延びる方向における間隔Dが100μm以下であることがより好ましい。複数並列する結晶欠陥線状集合領域20rの間のピッチPは、500μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましい。
【0121】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20において、結晶欠陥線状集合領域20rは、結晶成長主面20mの1cm2当たりに、図6に示す長さLが300μm以上の長い結晶欠陥線状集合領域を5本以上含むことが好ましい。かかる単結晶ダイヤモンド20は、結晶成長主面20mの1cm2当たりに、長さ300μm以上の長い結晶欠陥線状集合領域が5本以上含むことから、単結晶ダイヤモンド20における欠損の発生が抑制されるとともに、単結晶ダイヤモンド20全体の強度が増強される。かかる観点から、結晶欠陥線状集合領域20rは、主面の1cm2当たりに、図6に示す長さLが500μm以上のより長い結晶欠陥線状集合領域を20本以上含むことがより好ましい。これら結晶欠陥線状集合領域の1mm当たりの本数(本・mm-1)、線状に延びる方向における間隔(μm)、長さ300μm以上の長い結晶欠陥線状集合領域の本数(本・cm-2)、長さ500μm以上のより長い結晶欠陥線状集合領域の本数(本・cm-2)を定量化する際は、少なくとも1mm角(1mm×1mm)以上の領域で観察するものとする。
【0122】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20において、結晶欠陥点20dpの密度は、20mm-2より大きいことが好ましく、300mm-2より大きいことがより好ましく、1000mm-2より大きいことがさらに好ましく、1×104mm-2より大きいことが特に好ましい。かかる単結晶ダイヤモンド20は、結晶欠陥点20dpの密度が20mm-2より大きいことから、高密度の結晶欠陥点20dpに対応する高密度の結晶欠陥線20dqによる応力緩和により大きな欠損の発生が抑制される。さらに、結晶欠陥点20dpの密度が1000mm-2より大きい場合は、ワイパーチップなどの断続切削でも耐欠損性に優れる。ただし、結晶欠陥点20dpが近接しすぎると逆に応力増大効果が加わるため、結晶欠陥点20dpの密度は1×106mm-2より小さいことが好ましい。
【0123】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド20において、結晶欠陥点20dpのうち、複数の刃状転位および複数の螺旋転位の少なくともいずれかが複合した複合転位が結晶成長主面20mに達する先端の点である複合転位点の密度は、20mm-2より大きいことが好ましく、30mm-2より大きくことがより好ましく、300mm-2より大きくことがさらに好ましく、3000mm-2より大きくことが特に好ましい。かかる単結晶ダイヤモンド20は、複合転位が結晶成長主面20mに達する先端の点である複合転位点の密度が20mm-2より大きいため、また、複合転位による応力緩和の効果が大きいため、大きな欠損の発生がさらに抑制される。さらに、複合転位点の密度が300mm-2より大きい場合は、ワイパーチップなどの断続切削でも耐欠損性に優れる。ただし複合転位点が近接しすぎると逆に応力増大効果が加わるため、複合転位点の密度は3×105mm-2より小さいことが好ましい。
【0124】
ここで、複合転位は、X線トポグラフィーにおいて、X線の回折方向(gベクトル)を変えることにより観察できる。たとえばダイヤモンド単結晶の結晶成長主面20mである(001)面を透過型で観察するとき、[440]方向のgベクトルで観察できてもそのgベクトルに直交する[4−40]方向などのgベクトルで観察できない場合は刃状転位であるが、[440]方向および[4−40]方向などの互いに直交する複数のgベクトルで観察できる場合は複合転位である。なお、結晶欠陥線20dqである転位の進行方向である<001>方向と垂直ではなく、<001>方向にも成分を持つバーガースベクトルを持つ他の転位を観察する場合は、たとえば反射型で[044]方向、[004]方向、[111]方向、[113]方向などのgベクトルなどで観察できる。ただし、反射型の場合は、転位などの結晶欠陥線20dqが重なった像となるため、結晶欠陥が本発明の構造となっているか判別しにくくなる。
【0125】
図8を参照して、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20は、複数の単結晶ダイヤモンド層21,22を含むことが好ましい。かかる単結晶ダイヤモンド20は、複数の単結晶ダイヤモンド層21,22を含むことから、結晶欠陥線21dq,22dqの形成が促進されるため、大きな欠損の発生がさらに抑制される。
【0126】
主面10m上に種結晶欠陥点10dpの群が集合して線状に延びる種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上にCVD法により成長された第1の単結晶ダイヤモンド層21には、主面10m上の種結晶欠陥点10dpの欠陥を引き継ぐ結晶欠陥線21dqが結晶成長方向に延びる。第1の単結晶ダイヤモンド層21上にCVD法により成長された第2の単結晶ダイヤモンド層22には、結晶欠陥線21dqの欠陥を引き継ぐ結晶欠陥線22dqが結晶成長方向に延びて単結晶ダイヤモンド20の結晶成長主面20mに達する先端が結晶欠陥点20dpとなる。
【0127】
このとき、一般的に、第1の単結晶ダイヤモンド層21においてはダイヤモンド種結晶基板10の1つの種結晶欠陥点10dpから複数の結晶欠陥線21dqが引き継がれ、第2の単結晶ダイヤモンド層22においては第1の単結晶ダイヤモンド層21の1つの結晶欠陥線21dqから複数の結晶欠陥線22dqが引き継がれるため、単結晶ダイヤモンド層21,22の数が多くなるほど、単結晶ダイヤモンド20の結晶欠陥点20dpは多くなる。
【0128】
図9(C)は、図7に示すようなダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に成長させた単結晶ダイヤモンド20からダイヤモンド種結晶基板10を除去した単結晶ダイヤモンド20を示す。また、図9(D)は、図8に示すようなダイヤモンド種結晶基板10の主面10m上に成長させた複数の単結晶ダイヤモンド層21,22を含む単結晶ダイヤモンド20からダイヤモンド種結晶基板10を除去した、複数の単結晶ダイヤモンド層21,22を含む単結晶ダイヤモンド20を示す。
【0129】
図9(D)を参照して、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20は、複数の単結晶ダイヤモンド層21,22を含み、各単結晶ダイヤモンド層21,22の界面212iで、結晶欠陥線21dq,22dqが新たに発生または分岐しており、結晶成長主面20mの結晶欠陥点20dpが、結晶成長主面20mと反対側の主面20nの結晶欠陥点20ndpより高密度である。かかる単結晶ダイヤモンド20は、各単結晶ダイヤモンド層21,22の界面で、結晶欠陥線21dp,22dpが新たに発生または分岐することから、単結晶ダイヤモンド層21,22の層数が増すごとに、結晶成長主面20mの結晶欠陥点20dpが増加するため、結晶成長主面20mの結晶欠陥点20dpが、結晶成長主面20mと反対側の主面20nの結晶欠陥点20ndpより高密度となり、耐欠損性がより高くなる。なお、図9(D)に示すように、新たに発生した結晶欠陥線は分岐して延びる場合もある。
【0130】
図10は、図9(C)に示す単結晶ダイヤモンド20の結晶成長主面20mと反対側の主面20n上に、さらなる単結晶ダイヤモンドを成長させることにより得られる単結晶ダイヤモンドを示す。また、図11は、図9(D)に示す複数の単結晶ダイヤモンド層21,22を含む単結晶ダイヤモンド20の結晶成長主面20mと反対側の主面20n上に、複数の単結晶ダイヤモンド層を含むさらなる単結晶ダイヤモンドを成長させることにより得られる単結晶ダイヤモンドを示す。
【0131】
図10および図11を参照して、本実施形態の単結晶ダイヤモンド20は、複数の単結晶ダイヤモンド層20a,20b,21a,21b,22a,22bを含み、各単結晶ダイヤモンド層20a,20b,21a,21b,22a,22bの界面20i,212ai,212biで、結晶欠陥線20adq,20bdq,21adq,21bdq,22adq,22bdqが新たに発生、消滅、分岐または合流しており、結晶成長主面20amの結晶欠陥点20adpおよび結晶成長主面20amと反対側の結晶成長主面20bmの結晶欠陥点20bdpが、各単結晶ダイヤモンド層20a,20b,21a,21b,22a,22bの界面20i,212ai,212biの結晶欠陥点より高密度である。かかる単結晶ダイヤモンド20は、各単結晶ダイヤモンド層20a,20b,21a,21b,22a,22bの界面20i,212ai,212biで、結晶欠陥線20adq,20bdq,21adq,21bdq,22adq,22bdqが新たに発生、消滅、分岐または合流することから、単結晶ダイヤモンド層20a,20b,21a,21b,22a,22bの層数が増すごとに、結晶成長主面20amの結晶欠陥点20apdおよび反対側の結晶成長主面20bmの結晶欠陥点20bdpが増加するため、結晶成長主面20amの結晶欠陥点20adpおよび反対側の結晶成長主面20bmの結晶欠陥点20bdpが各単結晶ダイヤモンド層20a,20b,21a,21b,22a,22bの界面20i,212ai,212biの結晶欠陥点より高密度なり、両側の主面の大きな欠損の発生が抑制され、両側の主面の耐欠損性が高く、強度が高くなる。なお、結晶欠陥線の消滅とは、複数の結晶欠陥線のうちのいくつかの消滅を意味する。
【0132】
後述するように、図10および図11に示す単結晶ダイヤモンド20は、単結晶ダイヤモンド層20a,20bが、それらの界面20iから結晶成長主面20am,20bmに成長して得られるものである。したがって、界面20iから両方の結晶成長主面20am,20bmの方向には結晶欠陥線20adq,20bdqは新たに発生または分岐している。すなわち、一方の結晶成長主面20amから界面20iを経て他方の結晶成長主面20bmの方向には、一方の結晶成長主面20amから界面20iまでは結晶欠陥線20adq,21adq,22adqが消滅または合流しており、界面20iから他方の結晶成長主面20bmまでは結晶欠陥線20bdq,21bdq,22bdqが新たに発生または分岐している。
【0133】
上記のように、単結晶ダイヤモンド層の界面ごとに結晶欠陥線が新たに発生、消滅、分岐または合流する場合は、結晶欠陥線および結晶欠陥点の位置を判別しにくい。このような構造を判別する場合には、単結晶ダイヤモンドの断面を切断して測定するのが好ましい。切断方向を<100>方向とし、断面が(010)面とするのが測定上判別しやすいが、断面を(110)面にするなど他の方向となってもよい。
【0134】
ここで、図9(C)および(D)に示す単結晶ダイヤモンド20においては、結晶成長主面20mの結晶欠陥点20dpの密度が高くなることにより、結晶成長主面20m側の耐欠損性が高くなるが、結晶成長主面20mと反対の主面20n側の耐欠損性が高くならない。これに対して、図10および図11に示す単結晶ダイヤモンド20においては、結晶成長主面20amの結晶欠陥点20adpおよび反対側の結晶成長主面20bmの結晶欠陥点の20bdpの密度が高くなるため、両主面側の耐欠損性が高くなる。また、厚さ方向に結晶欠陥線が均一に分布している単結晶ダイヤモンドに比べて、複数の単結晶ダイヤモンド層21,21a,21b,22,22a,22bを含み、これらの単結晶ダイヤモンド層が結晶欠陥線21dq,21adq,21bdq,22dq,22adq,22bdqが少ない層と多い層の両者を含む単結晶ダイヤモンドの方が、同じ結晶欠陥密度でもより耐欠損性が高い。このように、厚さ方向に結晶欠陥線の分布が不均一な単結晶ダイヤモンドは、たとえば切削用バイトの場合はすくい面とロウ付け面両者が強固で欠損、ロウ付け外れなどが起こりにくい素材を得ることができる。
【0135】
<実施形態3:CVD(化学気相堆積)装置>
本実施形態にかかるCVD装置について、図2および図3を参照して、説明する。
【0136】
本実施形態のCVD装置1は、実施形態1の単結晶ダイヤモンド20の製造方法に用いられるCVD装置1であって、チャンバ2と、チャンバ2内に配置された補助板4の表面の少なくとも一部に保護膜5が形成された保護膜付補助板8と、を備える。本実施形態のCVD装置1は、チャンバ2内に配置された保護膜付補助板8を備えるため、実施形態2の単結晶ダイヤモンド20を製造することができる。
【0137】
本実施形態のCVD装置1は、たとえば、チャンバ2内に、基板支持部材3が設けられている。通常、チャンバ2は石英管で形成され、基板支持部材3は銅で形成されている。基板支持部材3の上面には基板ホルダ6が配置されている。基板ホルダ6の上面にはダイヤモンド種結晶基板10を配置する。ダイヤモンド種結晶基板10は、その主面が露出するように配置する。基板支持部材3の上面に、補助板4に保護膜5が形成された保護膜付補助板8を配置する。保護膜付補助板8は、保護膜5の少なくとも一部が露出するように配置する。基板ホルダ6および保護膜付補助板8は、基板支持部材3の上面のすべてを覆うように配置することが好ましい。
【実施例】
【0138】
[実施例I]
(試料I−1〜試料I−6)
1.主面に種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板の準備
図9(A)を参照して、ダイヤモンド種結晶基板10として、高温高圧法により成長させた主面10mが(001)面から<100>方向に2°〜10°のオフ角を有する5mm×5mm×厚さ1mmのダイヤモンド種結晶基板を準備した。
【0139】
試料I−1〜試料I−5について、各々のダイヤモンド種結晶基板10の主面10mに、平均粒径9μm〜35μmのダイヤモンド砥粒をメタルで固定した砥石を用いて、回転数500rpm〜3000rpm、荷重0.5kgf〜5kgf、研磨時間30分〜60分の条件で、種結晶欠陥線状集合領域として<100>方向に線状に延びる研磨傷を形成した。試料I−6についてはダイヤモンド種結晶基板10の主面10mに、平均粒径5μmのダイヤモンド砥粒をメタルで固定した砥石を用いて、回転数50rpm、荷重0.1kgf、研磨時間600分の条件とすることで、種結晶欠陥線状集合領域として<100>方向に線状に延びる研磨傷がほぼ0となるように研磨した。次いで、試料I−4および試料I−6についてはダイヤモンド種結晶基板10の主面10mを、酸素(O2)ガスと四フッ化水素(CF4)ガスとを用いてドライエッチングを行い、種結晶欠陥点10dpおよび種結晶損傷点10diの密度を調節した。
【0140】
次いで、各々のダイヤモンド種結晶基板10の種結晶欠陥線状集合領域が形成された主面10mについて、これに垂直な方向に透過型で測定されたX線トポグラフィー像により、種結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向に垂直な方向における線密度(本・mm-1)、種結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向における最大間隔(μm)、長さ300μm以上の種結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)、長さ500μm以上の種結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)および種結晶欠陥点の密度(mm-2)を算出した。さらに、マイクロ波の導入によって発生させた水素プラズマをダイヤモンド種結晶基板10の主面10mに照射することにより、各々のダイヤモンド種結晶基板10の種結晶欠陥線状集合領域が形成された主面10mを水素終端した後、電子顕微鏡の1次電子により励起されたキャリアを2次電子として検出した2次電子像により、種結晶損傷点10diの密度(mm-2)を算出した。結果を表1にまとめた。表1中、「群が線状」とは、結晶欠陥点の群が集合して線状に延びていることを指し、「点在」とは、結晶欠陥点が点在していることを指す。また、「HPHT」とは、基板が高温高圧法で作製された単結晶であることを指す。
【0141】
次いで、試料I−1〜試料I−6の各々のダイヤモンド種結晶基板10の種結晶欠陥線状集合領域が形成された主面10m側に、300keV〜3MeVのエネルギーで1×1015個・cm-2〜1×1018個・cm-2のドーズ量で炭素をイオン注入することにより、導電層領域10cを形成した。
【0142】
2.単結晶ダイヤモンドの成長
次に、図9(B)を参照して、各々のダイヤモンド種結晶基板10の種結晶欠陥線状集合領域が形成された主面10m上に、マイクロ波プラズマCVD法により、単結晶ダイヤモンド20を成長させた。このマイクロ波プラズマCVD装置のチャンバ内に配置する補助板には石英板を用い、その主面および側面に、真空スパッタ法で保護膜を形成した保護膜付補助板を得た。保護膜の種類、保護膜比率および保護膜付補助板−基板間距離を表1に示した。
【0143】
次に、図3のように、ダイヤモンド種結晶基板10を、CVD装置1のチャンバ2内の基板ホルダ6に配置し、保護膜付補助板8を基板支持部材3上に配置した。
【0144】
単結晶ダイヤモンドの結晶成長用ガスとして、水素ガス、メタンガス、および酸素ガスを使用し、結晶成長圧力は25kPa、結晶成長温度(ダイヤモンド種結晶基板の温度)は1000℃としてマイクロ波プラズマCVD法により、単結晶ダイヤモンドを成長させた。このときの、各ガスの体積比配合割合を表1に示した。
【0145】
3.ダイヤモンド種結晶基板の除去
次に、図9(C)を参照して、試料I−1〜試料I−6の各々の単結晶ダイヤモンド20から各々のダイヤモンド種結晶基板10を、電解エッチングによりダイヤモンド種結晶基板10中の導電層領域10cを分解除去することにより、除去した。
【0146】
このようにして得られた各々の単結晶ダイヤモンド20の(001)面である結晶成長主面20mについてこれに垂直な方向に透過型で測定されたX線トポグラフィー像により、結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向に垂直な方向における線密度(本・mm-1)、結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向における最大間隔(μm)、長さ300μm以上の結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)、長さ500μm以上の結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)、結晶欠陥点の密度(mm-2)および複合転位点の密度(mm-2)を算出した。ここで、X線の回折面は(220)面とした。使用したX線のエネルギーは、14.547keV(波長0.85Å)であった。結果を表1にまとめた。
【0147】
4.単結晶ダイヤモンドの追加成長
次に、図9(D)を参照して、試料I−2、試料I−3および試料I−5については、さらに、単結晶ダイヤモンド20を追加成長させた。かかる追加成長における結晶成長条件は、上記の最初の結晶成長条件と同じとした。このようにして得られた試料I−2、試料I−3および試料I−5の単結晶ダイヤモンド20は、3層の単結晶ダイヤモンド層を有していた。
【0148】
5.単結晶ダイヤモンドの物性評価
このようにして得られた各々の単結晶ダイヤモンド20の(001)面である結晶成長主面20mについてこれに垂直な方向に透過型で測定されたX線トポグラフィー像により、結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向に垂直な方向における線密度(本・mm-1)、結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向における最大間隔(μm)、長さ300μm以上の結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)、長さ500μm以上の結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)、結晶欠陥点の密度(mm-2)および複合転位点の密度(mm-2)を算出した。ここで、X線の回折面は(220)面とした。使用したX線のエネルギーは、14.547keV(波長0.85Å)であった。結果を表1にまとめた。
【0149】
(単結晶ダイヤモンドの測定)
単結晶ダイヤモンド20中の窒素、ケイ素、ならびに窒素およびケイ素以外の不純物元素の含有量をSIMS法で測定した。SIMS法の検出下限以下の含有量の場合、窒素の含有量はEPR法を、ケイ素の含有量は低温PL分光分析を併用して測定した。
【0150】
(光透過率の測定)
得られた単結晶ダイヤモンドから厚さ500μmのサンプルを形成し、410nm以上750nm以下の波長の光の透過率を、分光光度計を用いて、波長を410nmから750nmの間でスキャンさせて測定することにより、波長500nmのときの光の透過率を得た。本実施例の単結晶ダイヤモンドにおける上記の光の透過率は、表面散乱が存在する場合には、表面散乱を補正する換算をした正透過率を意味する。正透過率は、実測透過率から、(正透過率)=(実測透過率)/(1−((表面散乱率)/100))の換算式で定義する。ここで、表面散乱率は、実測透過率と実測換算反射率とを測定し、1から実測透過率および実測換算反射率を引いた値である。すなわち、(表面散乱率)=1−(実測透過率)−(実測換算反射率)である。実測透過率は、試料の表面に対して、入射角=0°(垂直入射)で測定した透過率である。実測換算反射率は、試料の表面に対して入射角=10°で入射した光を、反射角=−10°で測定した実測反射率を使って、入射角=0°で反射角=0°の垂直反射に換算した反射率である。本換算は一般的な光学の理論式に従うものである。実測反射率は、無偏光で測定するので、実測換算反射率とほぼ等しい。
【0151】
ここで、光の透過率Tは、入射した光の強度I0に対する透過した光の強度I1の百分率をいい、以下の式
T(%)= I1/I0 × 100
により定義される。
【0152】
この光の透過率は、厳密には反射率と平行な(平行度が0.1%以下の)主面での多重反射を考慮したものであり、空気と単結晶ダイヤモンドとの界面での反射率R1と透過率T1とを使って、全透過率Tを、
T = T12・exp(−αD)/(1−R12・exp(−αD))
と表されるものである。ここで、αは吸収係数(単位:cm-1)であり、Dは平行な両主面間の距離(単位:cm-1) である。
【0153】
反射率R1と透過率T1は、単結晶ダイヤモンドの屈折率をn1、空気の屈折率をn0として、
1=(n0−n12/(n0+n12
1=4n01/(n0+n12
と表される。この式は、単結晶ダイヤモンドの屈折率を2.4として、透明な場合(α=0と近似される場合)の透過率が、約71%であることを示しているので、実測に合う結果である。
【0154】
(耐欠損性の評価)
耐欠損性は、得られた単結晶ダイヤモンドから、光学窓材料としてのφ3mm直径の形状を、レーザ切断し、その後、裏表の周辺エッジの研磨による端面処理を行なったときに発生する1μm以上の欠けの数(欠損数)により評価した。欠損数の小さいものが耐欠損性が高い。
【0155】
【表1】
【0156】
保護膜付補助板を用いて作製された試料I−1〜試料I−4について、上記定義による光透過率が、55%以上であった。また、種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板を用いて作製された試料I−1〜試料I−5について、上記定義による欠損数が0であった。すなわち、保護膜付補助板と種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板との両方を用いて作製された試料I−1〜試料I−4について、上記定義による光透過率は55%以上と高くかつ上記定義による耐欠損性は欠損数が0と高いことが分かった。本実施例によって得られた単結晶ダイヤモンドが非常に高純度でかつ欠け難いのは、結晶欠陥制御による効果であると考えられた。
【0157】
[実施例II]
(試料II−1〜試料II−8)
1.主面に結晶欠陥点の群が集合して存在するダイヤモンド結晶基板を得るためのダイヤモンド種結晶基板の準備
図9(A)を参照して、ダイヤモンド種結晶基板10として、高温高圧法およびCVD法により成長させた主面10mが(001)面から<100>方向に2°〜10°のオフ角を有する5mm×5mm×厚さ1mmのダイヤモンド種結晶基板を準備した。
【0158】
試料II−1〜試料II−6について、各々のダイヤモンド種結晶基板10の主面10mに、平均粒径9μm〜35μmのダイヤモンド砥粒をメタルで固定した砥石を用いて、回転数500rpm〜3000rpm、荷重0.2kgf〜2kgf、研磨時間100分〜150分の条件で、種結晶損傷点を形成した。試料II−7についてはダイヤモンド種結晶基板10の主面10mに、平均粒径5μmのダイヤモンド砥粒をメタルで固定した砥石を用いて、回転数50rpm、荷重0.1kgf、研磨時間600分の条件とすることで、種結晶欠陥線状集合領域として研磨傷がほぼ0となるように研磨した。試料II−8は、エピタキシャル成長する種基板としてではなく、参照としての光学特性のための通常の研磨を行って、評価を行った。次いで、試料II−1〜試料II−3および試料II−8についてはダイヤモンド種結晶基板10の主面10mを、酸素(O2)ガスと四フッ化水素(CF4)ガスとを用いてドライエッチングを行い、種結晶欠陥点10dpおよび種結晶損傷点10diの密度を調節した。
【0159】
次いで、各々のダイヤモンド種結晶基板10の主面10mについて、これに垂直な方向に透過型で測定されたX線トポグラフィー像により、種結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向に垂直な方向における線密度(本・mm-1)、種結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向における最大間隔(μm)、長さ300μm以上の種結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)、長さ500μm以上の種結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)および種結晶欠陥点の密度(mm-2)を算出した。さらに、マイクロ波の導入によって発生させた水素プラズマをダイヤモンド種結晶基板10の主面10mに照射することにより、各々のダイヤモンド種結晶基板10の主面10mを水素終端した後、電子顕微鏡の1次電子により励起されたキャリアを2次電子として検出した2次電子像により、種結晶損傷点10diの密度(mm-2)を算出した。結果を表2にまとめた。表2中、「群が集合」とは、結晶欠陥点の群が集合して存在することを指し、「群が線状」とは、結晶欠陥点の群が集合して線状に延びていることを指し、「点在」とは、結晶欠陥点が点在していることを指す。また、「HPHT」とは、基板が高温高圧法で作製された単結晶であることを指し、「CVD」とは、基板が化学気相堆積法で作製された単結晶であることを指す。試料II−8は、種基板上に成長させたものでなく、種結晶基板自体を単結晶ダイヤモンドとして評価した。
【0160】
次いで、試料II−1〜試料II−7の各々のダイヤモンド種結晶基板10の主面10m側に、300keV〜3MeVのエネルギーで1×1015個・cm-2〜1×1018個・cm-2のドーズ量で炭素をイオン注入することにより、導電層領域10cを形成した。
【0161】
2.単結晶ダイヤモンドの成長
次に、図9(B)を参照して、試料II−1〜試料II−7の各々のダイヤモンド種結晶基板10の種結晶欠陥線状集合領域が形成された主面10m上に、マイクロ波プラズマCVD法により、単結晶ダイヤモンド20を成長させた。このマイクロ波プラズマCVD装置のチャンバ内に配置する補助板には石英板を用い、その主面および側面に、真空スパッタ法で保護膜を形成した保護膜付補助板を得た。保護膜の種類、保護膜比率および保護膜付補助板−基板間距離を表2に示した。
【0162】
次に、図3のように、ダイヤモンド種結晶基板10を、CVD装置1のチャンバ2内の基板ホルダ6に配置し、保護膜付補助板8を基板支持部材3上に配置した。
【0163】
単結晶ダイヤモンドの結晶成長用ガスとして、水素ガス、メタンガス、および酸素ガスを使用し、結晶成長圧力は25kPa、結晶成長温度(ダイヤモンド種結晶基板の温度)は1000℃としてマイクロ波プラズマCVD法により、単結晶ダイヤモンドを成長させた。このときの、各ガスの体積比配合割合を表2に示した。
【0164】
3.ダイヤモンド種結晶の除去
次に、図9(C)を参照して、試料II−1〜試料II−7の各々の単結晶ダイヤモンド20から各々のダイヤモンド種結晶基板10を、電解エッチングによりダイヤモンド種結晶基板10中の導電層領域10cを分解除去することにより、除去した。
【0165】
このようにして得られた各々の単結晶ダイヤモンド20の(001)面である結晶成長主面20mについてこれに垂直な方向に透過型で測定されたX線トポグラフィー像により、結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向に垂直な方向における線密度(本・mm-1)、結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向における最大間隔(μm)、長さ300μm以上の結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)、長さ500μm以上の結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)、結晶欠陥点の密度(mm-2)および複合転位点の密度(mm-2)を算出した。ここで、X線の回折面は(220)面とした。使用したX線のエネルギーは、14.547keV(波長0.85Å)であった。結果を表2にまとめた。
【0166】
4.単結晶ダイヤモンドの追加成長
次に、図9(D)を参照して、試料II−3および試料II−6については、さらに、単結晶ダイヤモンド20を追加成長させた。かかる追加成長における結晶成長条件は、上記の最初の結晶成長条件と同じとした。このようにして得られた試料II−3および試料II−6の単結晶ダイヤモンド20は、3層の単結晶ダイヤモンド層を有していた。
【0167】
5.単結晶ダイヤモンドの物性評価
このようにして得られた各々の単結晶ダイヤモンド20の(001)面である結晶成長主面20mについてこれに垂直な方向に透過型で測定されたX線トポグラフィー像により、結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向に垂直な方向における線密度(本・mm-1)、結晶欠陥線状集合領域の線状に延びる方向における最大間隔(μm)、長さ300μm以上の結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)、長さ500μm以上の結晶欠陥線状集合領域の密度(本・cm-2)、結晶欠陥点の密度(mm-2)および複合転位点の密度(mm-2)を算出した。ここで、X線の回折面は(220)面とした。使用したX線のエネルギーは、14.547keV(波長0.85Å)であった。結果を表2にまとめた。
【0168】
(単結晶ダイヤモンドの測定)
単結晶ダイヤモンド20中の窒素、ケイ素、ならびに窒素およびケイ素以外の不純物元素の含有量をSIMS法で測定した。方法は実施例1と同じであった。
【0169】
(光透過率の測定)
実施例1と同じ方法で、波長500nmのときの光の透過率を得た。光透過率の式や意味も実施例1と同じとした。
【0170】
(耐欠損性の評価)
実施例1と同じ方法で評価した。すなわち、欠損数の小さいものが耐欠損性が高い。
【0171】
【表2】
【0172】
保護膜付補助板を用いて作製された試料II−1〜試料II−6について、上記の光透過率が、55%以上であった。また、種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板を用いて作製された試料II−1〜試料II−6について、上記の欠損数が0であった。すなわち、保護膜付補助板と種結晶欠陥線状集合領域を有するダイヤモンド種結晶基板との両方を用いて作製された試料II−1〜試料II−6について、上記の光透過率は55%以上と高くかつ上記のる耐欠損数が0と高いことが分かった。本実施例によって得られた単結晶ダイヤモンドが非常に高純度でかつ欠け難いのは、結晶欠陥制御による効果であると考えられた。
【0173】
これに対して、試料II−8は、高温高圧法で注意深く作製された無欠陥で、高純度の単結晶ダイヤモンドであり、透過率はほぼ理想に近い71%であったが、欠け易い特性であった。
【0174】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0175】
1 CVD装置、2 チャンバ、3 基板支持部材、4 補助板、5 保護膜、6 基板ホルダ、8 保護膜付補助板、10 ダイヤモンド種結晶基板、10c 導電層領域、10dp 種結晶欠陥点、10dd 種結晶転位点、10di 種結晶損傷点、10dv 種結晶欠損点、10m,20n 主面、20 単結晶ダイヤモンド、20d,20ad,20bd 結晶欠陥、20dp,20adp,20bdp,20ndp 結晶欠陥点、20dq,20adq,20bdq,21dq,21adq,21bdq,22dq,22adq,22bdq 結晶欠陥線、20i,212i,212ai,212bi 界面、20m,20am,20bm 結晶成長主面、20r 結晶欠陥線状集合領域、20a,20b,21、21a,21b,22,22a,22b 単結晶ダイヤモンド層、S1 補助板に保護膜を形成する工程、S2 ダイヤモンド種結晶基板を準備する工程、S3 チャンバ内に保護膜付補助板とダイヤモンド種結晶基板とを配置する工程、S4 ダイヤモンド種結晶基板の主面上に単結晶ダイヤモンドを成長させる工程。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13