(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の金属導体と、この金属導体の外周面側に積層される絶縁層を備える絶縁電線であって、上記絶縁層が、合成樹脂を主成分とするマトリックスと、上記マトリックス中に分散する放熱性フィラーと、上記マトリックス中に分散するセルロースナノファイバーとを有する絶縁電線である。
【0011】
当該絶縁電線は、絶縁層が、合成樹脂を主成分とするマトリックスと、上記マトリックス中に分散する放熱性フィラーと、上記マトリックス中に分散するセルロースナノファイバーとを有することで、放熱性フィラーによる熱伝導に加えてセルロースナノファイバーにより絶縁電線表面側への熱伝導パスが増大する結果、絶縁層の熱伝導率が向上する。従って、当該絶縁電線は放熱性に優れる。ここで、「セルロースナノファイバー」とは、原料となるセルロース系繊維を解繊して得られる微細なセルロース繊維をいい、一般的に繊維幅がナノサイズ(1nm以上1000nm以下)のセルロース微細繊維を含むセルロース繊維をいう。「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。
【0012】
上記セルロースナノファイバーの上記合成樹脂に対する含有量としては、0.5体積%以上10.0体積%以下が好ましい。上記セルロースナノファイバーの含有量を上記範囲内とすることで、このように、セルロースナノファイバーの含有量を上記範囲内とすることで、当該絶縁電線の放熱性をより向上できる。
【0013】
上記放熱性フィラーの上記合成樹脂に対する含有量としては、5体積%以上60体積%以下が好ましい。上記放熱性フィラーの上記合成樹脂に対する含有量を上記範囲内とすることで、当該絶縁電線の放熱性をより向上できる。
【0014】
本発明の一態様に係る絶縁層形成用樹脂組成物は、絶縁電線を構成する1又は複数の絶縁層の少なくとも1層の形成に用いる絶縁層形成用樹脂組成物であって、上記絶縁層のマトリックスを形成する合成樹脂組成物と、上記合成樹脂組成物中に分散する放熱性フィラーと、上記合成樹脂組成物中に分散するセルロースナノファイバーとを含有する。
【0015】
当該絶縁層形成用樹脂組成物は、絶縁層のマトリックスを形成する合成樹脂組成物中に分散する放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーを含有することで、放熱性フィラーによる熱伝導に加えてセルロースナノファイバーにより絶縁電線表面側への熱伝導パスが増大する結果、絶縁層の熱伝導率を高めることができる。従って、放熱性にすぐれる絶縁層を形成できる。
【0016】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る絶縁電線の実施形態について、図面を参照しつつ詳説する。
【0017】
<第1実施形態>
<絶縁電線>
図1は、本発明の第1実施形態に係る絶縁電線を示す模式的断面図である。
図1に示すように、絶縁電線10は、線状の金属導体1と、この金属導体1の外周面に積層される1層の絶縁層3とを備える。絶縁層3は、当該絶縁層形成用樹脂組成物を用いて形成される。
【0018】
[金属導体]
金属導体1は、例えば断面が円形状の丸線とされるが、断面が正方形状の角線又は長方形状の平角線や、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
【0019】
金属導体1の材質としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。金属導体1は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
【0020】
金属導体1の平均断面積の下限としては、0.01mm
2が好ましく、0.1mm
2がより好ましい。一方、金属導体1の平均断面積の上限としては、10mm
2が好ましく、5mm
2がより好ましい。金属導体1の平均断面積が上記下限に満たないと、金属導体1に対する絶縁層3の体積が大きくなり、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。逆に、金属導体1の平均断面積が上記上限を超えると、誘電率を十分に低下させるために絶縁層3を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0021】
[絶縁層]
絶縁層3は、
図1に示すように合成樹脂を主成分とするマトリックス2と、マトリックス2中に分散する放熱性フィラー4と、マトリックス2中に分散するセルロースナノファイバー5とを有する。
【0022】
絶縁層3の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、絶縁層3の平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、450μmがより好ましい。絶縁層3の平均厚さが上記下限に満たない場合、絶縁性が低下するおそれがある。セルロースナノファイバー5の存在により絶縁層3表面に凹凸形状が形成され易くなるおそれがある。逆に、絶縁層3の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0023】
絶縁層3の25℃における厚さ方向の熱伝導率の下限としては、0.25W/m・Kが好ましく、0.30W/m・Kがより好ましい。絶縁層3の25℃における厚さ方向の熱伝導率が上記下限未満である場合、絶縁電線の劣化防止効果が十分に得られないおそれがある。
【0024】
(マトリックス)
絶縁層3のマトリックス2の主成分となる合成樹脂しては、絶縁性を有する合成樹脂であれば、特に限定されないが、例えばポリイミド、ポリビニルホルマール、熱硬化ポリウレタン、熱硬化アクリル、エポキシ、熱硬化ポリエステル、熱硬化ポリエステルイミド、熱硬化ポリエステルアミドイミド、芳香族ポリアミド、熱硬化ポリアミドイミド、熱硬化ポリイミド等の熱硬化性樹脂や、例えばフェノキシ樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂を主成分とするものが使用できる。絶縁層3は2種類以上の樹脂の複合体又は積層体であってもよく、また熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との複合体又は積層体であってもよい。
【0025】
(放熱性フィラー)
放熱性フィラー4は、マトリックス2中に分散する。この放熱性フィラー4の材料としては、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ホウ素、炭化タングステン等の金属炭化物、酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素などの金属酸化物、スピネル、カーボンナノチューブ(CNT)等を挙げることができる。この中でも、絶縁性及び放熱性が高い窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及びカーボンナノチューブ(CNT)が好ましく、誘電率の低さから窒化ホウ素がさらに好ましい。
【0026】
上記放熱性フィラー4の25℃における熱伝導率の下限としては、10W/m・Kが好ましく、20W/m・Kがより好ましい。放熱性フィラー4の25℃における熱伝導率の下限を上記範囲内とすることによって、当該絶縁電線の放熱性をより向上できる。
【0027】
放熱性フィラー4の形状は、特に限定されず、球状、鱗片状、針状等が挙げられる。中でも鱗片状及び針状が好ましい。鱗片状及び針状の放熱性フィラー4は、アスペクト比が比較的高い。このため、長径方向が絶縁層3の厚さ方向となる放熱性フィラー4が増えることによる絶縁層3の放熱性の向上効果をより高めることができる。
【0028】
放熱性フィラー4の平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.2μmがより好ましい。また、放熱性フィラー4の平均粒子径の上限としては、80.0μmが好ましく、70.0μmがより好ましい。放熱性フィラー4の平均粒子径が上記下限未満の場合、放熱性フィラーが有する高い熱伝導性の利用効率が低下し、放熱性を十分に向上できないおそれがある。逆に、放熱性フィラー4の平均粒子径が上記上限を超える場合、絶縁層を形成する絶縁層形成用樹脂組成物を塗布し難くなるおそれがある。ここで、放熱性フィラー4の平均粒径とは、レーザー回折散乱法に基づいて測定された粒度分布において、累積質量百分率が50%に相当する粒径(D50)のことである。
【0029】
放熱性フィラー4の上記合成樹脂に対する含有量の下限としては、5体積%が好ましく、10.0体積%がより好ましい。放熱性フィラー4の上記合成樹脂に対する含有量が上記下限に満たない場合、絶縁層3の熱伝導率が小さく、当該絶縁電線の放熱性が不十分となるおそれがある。一方、放熱性フィラー4の上記合成樹脂に対する含有量の上限としては、60体積%であり、50体積%がより好ましい。放熱性フィラー4の上記合成樹脂に対する含有量が上記上限を超える場合、相対的にマトリックス2が少なくなることにより、絶縁層3の強度及び融着性が不十分となるおそれがある。
【0030】
(セルロースナノファイバー)
上記セルロースナノファイバー5は、原料となるセルロース系繊維を解繊して微細化することにより得られる。セルロースナノファイバー5の原料となるセルロース系繊維としては、例えば、竹、藁、または麻等のパルプ繊維、針葉樹や広葉樹等の木質のパルプ繊維等の天然セルロース繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、アセテート等の再生セルロース繊維、バクテリア産生セルロース、ホヤ等の動物由来セルロースなどが挙げられる。また、これらのセルロースは、必要に応じて表面を化学修飾処理したものであってもよい。
【0031】
セルロースナノファイバー5の平均繊維長の下限としては0.10μmが好ましく、0.15μmがより好ましい。セルロースナノファイバー5の平均繊維長が上記下限に満たないと、絶縁層3の熱伝導率を十分向上できないおそれがある。一方、セルロースナノファイバー5の繊維長の上限としては100.00μmが好ましく、50.00μmがより好ましい。セルロースナノファイバー5の平均繊維長が上記上限を超えると、セルロースナノファイバー5を均一に分散することが困難となるおそれがある。
【0032】
セルロースナノファイバー5の上記合成樹脂に対する含有量の下限としては、0.5体積%が好ましく、1.0体積%がより好ましい。セルロースナノファイバー5の上記合成樹脂に対する含有量が上記下限に満たないと、絶縁層3の熱伝導率を十分向上できないおそれがある。一方、上記合成樹脂に対する含有量の上限としては、上記合成樹脂組成物に対して10.0体積%が好ましく、5.0体積%がより好ましい。セルロースナノファイバー5の含有量が上記上限を超えると、セルロースナノファイバー5を均一に分散することが困難となるおそれがある。
【0033】
<絶縁層形成用樹脂組成物>
当該絶縁層形成用樹脂組成物は、当該絶縁電線の絶縁層の形成に用いる。当該絶縁層形成用樹脂組成物は、当該絶縁電線を構成する1又は複数の絶縁層の少なくとも1層の形成に用いる絶縁層形成用樹脂組成物であって、上記絶縁層のマトリックスを形成する合成樹脂組成物と、上記合成樹脂組成物中に分散する放熱性フィラーと、上記合成樹脂組成物中に分散するセルロースナノファイバーとを含有する。
【0034】
上記合成樹脂組成物は、上記マトリックスにおいて例示した合成樹脂を主成分とする。上記合成樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない限り、上記合成樹脂以外の他の成分を含有していてもよい。上記他の成分としては、必要に応じて密着向上剤、潤滑剤、酸化防止剤、光安定剤、改質剤等の各種添加剤を挙げることができる。
【0035】
[第1実施形態の絶縁電線の製造方法]
本発明の第1実施形態の絶縁電線は、例えば絶縁層形成用樹脂組成物を調製する工程と、金属導体1の外周面側に絶縁層形成用樹脂組成物を塗布する工程と、塗布した絶縁層形成用樹脂組成物を乾燥又は硬化する工程とを主に備える製造方法により製造できる。
【0036】
(絶縁層形成用樹脂組成物調製工程)
絶縁層形成用組成物調製工程では、絶縁層のマトリックスを構成する上記合成樹脂組成物に、放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーを混合して絶縁層形成用樹脂組成物を調製する。上記合成樹脂組成物は、溶剤で希釈して用いてもよい。
【0037】
希釈用の上記溶剤としては、絶縁ワニスとして用いられている公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトン等の極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類、ピリジンなどの第三級アミン類等が挙げられ、これらの有機溶媒はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いられる。
【0038】
このような溶剤で希釈することにより樹脂組成物が導体に塗布し易くなる。また、この溶剤は絶縁層形成工程において加熱により揮発する。
【0039】
上記有機溶剤により希釈して調製した絶縁層形成用樹脂組成物の樹脂固形分濃度の下限としては、20質量%が好ましく、22質量%がより好ましい。また、上記絶縁層形成用樹脂組成物の樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記絶縁層形成用樹脂組成物の樹脂固形分濃度が上記下限未満である場合、絶縁層形成用樹脂組成物を塗布する際の1回の塗布量が少なくなるため、所望の厚さの絶縁層を形成するための絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程の繰り返し回数が多くなるおそれがある。一方、上記絶縁層形成用樹脂組成物の樹脂固形分濃度が上記上限を超える場合、放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーを均一に混合し難く、希釈に要する時間が長くなるおそれがある。ここで、樹脂固形分濃度とは、絶縁層形成用樹脂組成物の溶媒以外の成分の濃度をいう。
【0040】
(絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程)
絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程では、金属導体の外周面側に絶縁層形成用樹脂組成物を塗布する。絶縁層形成用樹脂組成物を金属導体の外周面側に塗布する方法としては、例えば液状の絶縁層形成用樹脂組成物を貯留した液状組成物槽と塗布ダイスとを備える塗布装置を用いた方法を挙げることができる。この塗布装置によれば、金属導体が液状組成物槽内を挿通することで液状組成物が金属導体外周面側に付着し、その後塗布ダイスを通過することで、この液状組成物が略均一な厚さに塗布される。
【0041】
(絶縁層形成用樹脂組成物乾燥又は硬化工程)
絶縁層形成用樹脂組成物乾燥又は硬化工程では、絶縁層形成用樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物の場合、加熱することによって絶縁層形成用樹脂組成物を硬化させて、絶縁層を形成する。また、絶縁層形成用樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物の場合、加熱することによって絶縁層形成用樹脂組成物を乾燥させて、絶縁層を形成する。この加熱に用いる装置としては、特に限定されないが、例え金属導体の走行方向に長い筒状の焼付炉を用いることができる。加熱方法は特に限定されないが、例えば熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等、従来公知の方法により行うことができる熱硬化性樹脂組成物の場合、加熱温度としては、例えば300℃以上600℃以下とされる。また、熱可塑性樹脂組成物の場合、加熱温度としては、例えば100℃以上400℃以下とされる。
【0042】
上記絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程及び絶縁層形成用樹脂組成物乾燥又は硬化工程は、複数回繰り返して行ってもよい。このようにすることで、絶縁層の厚さを順次増加させていくことができる。このとき、塗布ダイスの孔径と繰り返し回数とは、金属導体の径及び絶縁層の狙い塗布膜厚にあわせて適宜調整される。
【0043】
[利点]
当該絶縁電線は、絶縁層が放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーを含有することにより、放熱性に優れる。当該絶縁層形成用樹脂組成物は、放熱性にすぐれる絶縁層を形成できる。
【0044】
<第2実施形態>
<絶縁電線>
第2実施形態に係る絶縁電線は、金属導体の外周面に積層される絶縁層が放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーを含み、この絶縁層の外周面に加熱により膨張する熱融着層を積層させたものである。第2実施形態に係る絶縁電線は、加熱により膨張する熱融着層を備え、当該絶縁電線の熱融着層同士が互いに融着し合う自己融着性を有するので、モーター製造工程の簡略化を図ることができる。
【0045】
図2は、第2実施形態に係る絶縁電線20を示す模式的断面図である。絶縁電線20は、線状の金属導体1と、この金属導体1の外周面に積層される絶縁層3と、この絶縁層3の外周面に積層され、最外層を構成する熱融着層6とを備える。なお、金属導体1及び絶縁層3の構成は、第1実施形態と同様であるので同一番号を付して説明を省略する。
【0046】
(熱融着層)
熱融着層6は、マトリックス7と、このマトリックス7中に分散する発泡剤8を有する。熱融着層6は、加熱により膨張する。本発明の第2実施形態に係る絶縁電線20は、熱融着層6のマトリックス7中に分散する発泡剤8の発泡により、巻線とモーター間の隙間をより密に埋めることができるため、より放熱性を高めることができる。
【0047】
熱融着層6の加熱前の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、熱融着層6の加熱前の平均厚さの上限としては、300μmが好ましく、200μmがより好ましい。熱融着層6の加熱前の平均厚さが上記下限に満たない場合、当該絶縁電線同士の固着が不十分となるおそれがある。逆に、熱融着層6の加熱前の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線を用いて形成される巻線等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0048】
加熱による発泡剤8の発泡によって熱融着層6に形成される空孔の平均径の下限としては、1μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、上記熱融着層6に形成される空孔の平均径の上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましい。上記熱融着層6に形成される空孔の平均径が上記下限に満たない場合、十分な膨張率が得られないおそれがある。逆に、上記熱融着層6に形成される空孔の平均径が上記上限を超える場合、熱融着層6が不必要に厚くなるおそれや、熱融着層6の膨張が不均一になるおそれがある。ここで、「空孔の平均径」とは、細孔直径分布測定装置(例えばPorous Materials社の「多孔質材料自動細孔径分布測定システム」)により断面を測定することにより得られる値である。
【0049】
熱融着層6の加熱後の空隙率の下限としては、10.0体積%が好ましく、50体積%がより好ましい。一方、熱融着層6の加熱後の空隙率の上限としては、80%が好ましく、70%がより好ましい。熱融着層6の加熱後の空隙率が上記下限に満たない場合、隣接する熱融着層6間の当接圧力が不足して融着が不十分となるおそれがある。逆に、熱融着層6の加熱後の空隙率が上記上限を超える場合、膨張した後の熱融着層6の強度が不十分となるおそれがある。ここで、熱融着層の「空隙率」とは、熱融着層の体積に対する熱融着層内の気体の容積の百分率であり、熱融着層のマトリックス、発泡剤等の固体分の質量と密度とから算出される実体積をV0、熱融着層の空隙を含むみかけの体積をV1とするとき、(V1−V0)/V1×100で算出される量である。
【0050】
熱融着層6の加熱後の平均厚さ膨張率の下限としては、1.2倍が好ましく、1.5倍がより好ましい。一方、熱融着層6の加熱後の平均厚さ膨張率の上限としては、4倍が好ましく、3倍がより好ましい。熱融着層6の加熱後の平均厚さ膨張率が上記下限に満たない場合、当該自己融着性絶縁電線を捲線加工したときに、隣接し合う熱融着層6同士の融着が不十分となるおそれがある。逆に、熱融着層6の加熱後の平均厚さ膨張率が上記上限を超える場合、熱融着層6の密度が不十分となることにより却って当該自己融着性絶縁電線の強度が不十分となるおそれがある。熱融着層6の膨張率は発泡剤8の種類及び量、並びに発泡剤8の発泡開始温度でのマトリックス7の弾性率を選択することにより制御できる。
【0051】
(マトリックス)
マトリックス7を構成する樹脂組成物の主成分となる合成樹脂しては、例えばフェノキシ樹脂、ポリアミド、ブチラール樹脂等の熱可塑性樹脂が使用でき、中でもフェノキシ樹脂が好適に使用される。また、マトリックス7を構成する樹脂組成物は、密着向上剤等の添加剤を含んでもよい。
【0052】
フェノキシ樹脂はビスフェノール類とエピクロルヒドリンより合成される両末端にエポキシ基を有する熱可塑性樹脂である。上記フェノキシ樹脂としては、ビスフェノール類がビスフェノールA型のフェノキシ樹脂、ビスフェノールF型のフェノキシ樹脂、ビスフェノールS型のフェノキシ樹脂、ビスフェノールB型のフェノキシ樹脂などが挙げられる。また、上記フェノキシ樹脂としては、ビスフェノールA型とビスフェノールS型とが共重合したフェノキシ樹脂等、共重合型のフェノキシ樹脂を用いることもできる。さらに、上記フェノキシ樹脂にアミノ樹脂、イソシアネート等の架橋剤を併用することにより、熱硬化性樹脂としても使用することができる。フェノキシ樹脂と架橋剤とを併用して熱硬化性樹脂とすることにより、熱融着層6にも熱膨張性マイクロカプセルを含有させた場合に、熱融着層6の強度を十分に確保することができる。
【0053】
上記ポリアミドとしては、例えば各種重縮合ポリアミド、各種共縮重合ポリアミド等を用いることができる。
【0054】
上記ブチラール樹脂としては、例えばポリビニルブチラール等が例示される。
【0055】
マトリックス7を構成する樹脂組成物の主成分となる合成樹脂として使用可能なその他の熱可塑性樹脂としては、例えば共重合ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、熱可塑性ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニルスルフォン、半芳香族ポリアミド、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド等が例示される。
【0056】
(発泡剤)
発泡剤8としては、化学発泡剤又は物理発泡剤を用いることができる。
【0057】
発泡剤8の上記合成樹脂100質量部に対する含有量の下限としては、2質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。発泡剤8の上記合成樹脂100質量部に対する含有量が上記下限に満たない場合、熱融着層6の膨張率が小さく、当該絶縁電線同士の固着が不十分となるおそれがある。一方、発泡剤8の上記合成樹脂100質量部に対する含有量の上限としては、40質量部が好ましく、30質量部がより好ましい。発泡剤8の上記合成樹脂100質量部に対する含有量が上記上限を超える場合、相対的にマトリックス7が少なくなることにより、熱融着層6の強度及び融着性が不十分となるおそれがある。
【0058】
〈化学発泡剤〉
発泡剤8として用いられる化学発泡剤は、化学反応により分解して、例えば窒素ガス、炭酸ガス、一酸化炭素、アンモニアガス等を発生するものである。化学発泡剤としては、有機発泡剤又は無機発泡剤が挙げられる。一般に無機発泡剤は、ガス発生速度が有機発泡剤より緩慢でありガス発生の調整が難しいため、化学発泡剤としては、有機発泡剤が好ましい。
【0059】
有機発泡剤としては、例えばアゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系発泡剤、例えばジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’ジニトロソ−N,N’−ジメチルテレフタルアミド等のニトロソ系発泡剤、例えばp−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド等のヒドラジド系発泡剤、他にはトリヒドラジノトリアジンなどが例示され、これらを単独で、又は二種類以上合わせて使用できる。
【0060】
また、無機発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、シリコンオキシハイドライド等が例示される。
【0061】
化学発泡剤の分解温度の下限としては、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、化学発泡剤の分解温度の上限としては、250℃が好ましく、200℃がより好ましい。化学発泡剤の分解温度が上記下限に満たない場合、当該絶縁電線製造時、輸送時又は保管時に化学発泡剤が意図せず発泡してしまうおそれがある。一方、化学発泡剤の分解温度が上記上限を超える場合、発泡剤を発泡させるために必要なエネルギーコストが過大となるおそれがある。
【0062】
熱融着層6には、化学発泡剤と共に、発泡助剤を配合してもよい。発泡助剤としては、化学発泡剤の熱分解を促進するものであれば特に限定されず、例えば尿素化合物等が挙げられる。
【0063】
これらの発泡助剤の化学発泡剤100質量部に対する配合量の下限としては、5質量部が好ましく、50質量部がより好ましい。一方、上記発泡助剤の配合量の上限としては、200質量部が好ましく、150質量部がより好ましい。上記発泡助剤の配合量が上記下限に満たない場合、化学発泡剤を分解させる効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記発泡助剤の配合量が上記上限を超える場合、当該絶縁電線の製造時や保管時等に熱融着層6が意図せず膨張してしまうおそれがある。
【0064】
〈物理発泡剤〉
発泡剤8として用いられる物理発泡剤は、発泡剤が気化して生じる気体を利用して発泡させる。物理発泡剤としては、例えば熱膨張性マイクロカプセルが挙げられる。上記熱膨張性マイクロカプセルは、内部発泡剤からなる芯材(内包物)と、この芯材を包む外殻とを有し、芯材の膨張によって外殻が膨張する。熱膨張マイクロカプセルは、個々のマイクロカプセルが独立して気泡を形成することにより、熱融着層6の比較的均一な膨張を促進できる。
【0065】
熱膨張性マイクロカプセルの内部発泡剤は、加熱により膨張又は気体を発生するものであればよく、その原理は問わない。熱膨張性マイクロカプセルの内部発泡剤としては、例えば低沸点液体を使用することができる。
【0066】
上記低沸点液体としては、例えばブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタン等のアルカンや、トリクロロフルオロメタン等のフレオン類などが好適に用いられる。
【0067】
熱膨張性マイクロカプセルの膨張温度の下限としては、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、熱膨張性マイクロカプセルの膨張温度の上限としては、250℃が好ましく、200℃がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの膨張温度が上記下限に満たない場合、当該絶縁電線製造時、輸送時又は保管時に熱膨張性マイクロカプセルが意図せず膨張してしまうおそれがある。逆に、熱膨張性マイクロカプセルの膨張温度が上記上限を超える場合、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させるために必要なエネルギーコストが過大となるおそれがある。
【0068】
一方、熱膨張性マイクロカプセルの外殻は、上記内部発泡剤の膨張時に破断することなく膨張し、発生したガスを包含するマイクロバルーンを形成できる延伸性を有する材質から形成される。この熱膨張性マイクロカプセルの外殻を形成する材質としては、通常は、熱可塑性樹脂等の高分子を主成分とする樹脂組成物が用いられる。
【0069】
熱膨張性マイクロカプセルの外殻の主成分とされる熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリレート、メタアクリレート、スチレン等の単量体から形成された重合体、あるいは2種以上の単量体から形成された共重合体が好適に用いられる。好ましい熱可塑性樹脂の一例としては、アクリロニトリル系共重合体が挙げられ、この場合の内部発泡剤の分解温度は、70℃以上250℃以下とされる。
【0070】
加熱前の熱膨張性マイクロカプセルの平均径の下限としては、1μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、加熱前の熱膨張性マイクロカプセルの平均径の上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。加熱前の熱膨張性マイクロカプセルの平均径が上記下限に満たない場合、十分な膨張率が得られないおそれがある。逆に、加熱前の熱膨張性マイクロカプセルの平均径が上記上限を超える場合、熱融着層6が不必要に厚くなるおそれや、熱融着層6の膨張が不均一になるおそれがある。なお、熱膨張性マイクロカプセルの「平均径」とは、熱膨張性マイクロカプセルの10以上のサンプルを顕微鏡観察した際の平面視における最大径とこの最大径に直交する方向の径との平均値をいうものとする。
【0071】
熱膨張性マイクロカプセルの平均径の熱融着層6の平均厚さに対する比の下限としては、1/16が好ましく、1/8がより好ましい。一方、熱膨張性マイクロカプセルの平均径の熱融着層6の平均厚さに対する比の上限としては、9/10が好ましく、8/10がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの平均径が上記下限に満たない場合、外殻の厚さが不足して膨張時に破れるおそれや、内容積が小さくなり発泡剤が不足して十分に膨張できないおそれがある。逆に、熱膨張性マイクロカプセルの平均径が上記上限を超える場合、熱膨張性マイクロカプセルがマトリックス7から突出して、熱融着層6を十分に膨張させられないおそれや、熱融着層6が部分的に膨張して均一に膨張できないおそれがある。
【0072】
熱膨張性マイクロカプセルの膨張率の下限としては、3倍が好ましく、5倍がより好ましい。一方、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率の上限としては、20倍が好ましく、10倍がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの膨張率が上記下限に満たない場合、熱融着層6の膨張率が不十分となるおそれがある。逆に、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率が上記上限を超える場合、熱融着層6のマトリックス7が熱膨張性マイクロカプセルに追従することができず、熱融着層6を全体的に膨張させられないおそれがある。なお、熱膨張性マイクロカプセルの「膨張率」とは、熱膨張性マイクロカプセルの加熱前の平均径に対する加熱後の平均径の最大値の比をいう。
【0073】
[第2実施形態の絶縁電線の製造方法]
本発明の第2実施形態の絶縁電線の製造方法としては、例えば第1実施形態の絶縁層形成用樹脂組成物調製工程、絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程及び絶縁層形成用樹脂組成物乾燥又は硬化工程を行った後に、乾燥又は硬化した絶縁層形成用樹脂組成物の外周面側に、熱融着層形成用樹脂組成物を塗布する工程と、熱融着層形成用樹脂組成物を乾燥する工程と備える方法が挙げられる。
【0074】
(熱融着層形成用樹脂組成物塗布工程)
熱融着層形成用樹脂組成物塗布工程では、マトリックス7を構成する樹脂組成物を溶媒で希釈した溶液に発泡剤8を分散させて熱融着層形成用樹脂組成物を調製する。上記樹脂組成物に発泡剤8を分散させる方法としては、例えば撹拌釜、3本ロールミル等を用いて混合することにより行うことができる。そして、上記熱融着層形成用樹脂組成物を、上記絶縁層3の外周面側に塗布する。熱融着層形成用樹脂組成物の塗布方法としては、上記絶縁層形成用樹脂組成物塗布工程と同様とすることができる。
【0075】
(熱融着層形成用樹脂組成物乾燥工程)
熱融着層形成用樹脂組成物乾燥工程では、発泡剤8の膨張開始温度よりも低い温度で溶媒を蒸発させることにより、熱融着層形成用樹脂組成物を乾燥して、熱融着層6を形成する。乾燥方法としては、例えば熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等、従来公知の方法により行うことができる。
【0076】
熱融着層6を膨張させるための加熱方法としては、例えば熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等の従来公知の方法の他、金属導体1への通電により発生する熱を用いる方法が適用できる。
【0077】
また、当該絶縁電線の製造方法は、上述の方法に限られない。例えば、絶縁層の主成分を熱可塑性樹脂とする場合には、上記熱融着層の積層方法と同様に溶剤で希釈して乾燥する方法や、溶融した樹脂組成物を塗布ダイスで塗布して冷却硬化させる方法等が適用できる。
【0078】
[利点]
当該絶縁電線は、加熱により膨張する熱融着層を備え、金属導体の外周に互いに融着し合う自己融着性を有するので、モーター製造工程の簡略化を図ることができる。また、絶縁層が放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーを含有することにより、放熱性に優れる。
【0079】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0080】
上記実施形態においては、放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーを含む1層の絶縁層が金属導体の外周面に積層される絶縁電線及び放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーを含む絶縁層の外周面に熱融着層が積層される絶縁電線について説明したが、金属導体と放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーを含む絶縁層との間に複数の絶縁層が積層されてもよい。換言すれば複数の絶縁層が積層される絶縁電線において、少なくとも1の絶縁層にセルロースナノファイバーが含まれていればよい。また、2以上の絶縁層にセルロースナノファイバーが含まれてもよい。
【0081】
また、例えば当該絶縁電線において、金属導体と絶縁層との間にプライマー処理層等のさらなる層が設けられてもよい。プライマー処理層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
【0082】
金属導体と絶縁層との間にプライマー処理層を設ける場合、このプライマー処理層を形成する樹脂組成物は、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル及びフェノキシ樹脂の中の一種又は複数種の樹脂を含むとよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、密着性向上剤等の添加剤を含んでもよい。このような樹脂組成物によって金属導体と絶縁層との間にプライマー処理層を形成することで、金属導体と絶縁層との間の密着性を向上することが可能であり、その結果、当該絶縁電線の可撓性や、耐摩耗性、耐傷性、耐加工性などの特性を効果的に高めることができる。
【0083】
また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、上記樹脂と共に他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、メラミン樹脂等を含んでもよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物に含まれる各樹脂として、市販の液状組成物(絶縁ワニス)を使用してもよい。
【0084】
プライマー処理層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、プライマー処理層の平均厚さの上限としては、20μmが好ましく、10μmがより好ましい。プライマー処理層の平均厚さが上記下限に満たないと、金属導体との十分な密着性を発揮できないおそれがある。逆に、プライマー処理層の平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【実施例】
【0085】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0086】
<絶縁電線No.1〜No.16>
直径1mmの銅線に、平均厚さ40μmの絶縁層を積層することによって、絶縁電線No.1〜No.16を試作した。絶縁層は、表1及び表2に記載する組成の絶縁層形成用樹脂組成物を塗布ダイスにより塗布し、炉長3mの横炉を用いて炉温200℃、線速4.8m/分の条件で乾燥(焼付)した。
【0087】
[絶縁層形成用樹脂組成物]
(樹脂成分)
絶縁層形成用組成物のマトリックスの樹脂成分としては、ガラス転移温度が130℃のフェノキシ樹脂(新日鐵住金化学社の「YP−50」)を用いた。
【0088】
(セルロースナノファイバー)
セルロースナノファイバーとしては、天然セルロースを原料とする平均繊維長が1μm〜5μmであるスギノマシン社の「ビンフィス」を用いた。
【0089】
(放熱性フィラー)
絶縁層形成用樹脂組成物の放熱性フィラーとしては、熱伝導率が60W/m・Kである窒化ホウ素(三井化学社の「MBN−010T」)及び球状アルミナ(アドマテックス社の「AO−502」)を用いた。
【0090】
各絶縁電線の絶縁層の形成に用いた絶縁層形成用樹脂組成物のうち、放熱性フィラーとして鱗片状の窒化ホウ素を含有する絶縁層形成用樹脂組成物の組成を表1に示し、放熱性フィラーとして球状のアルミナを含有する絶縁層形成用樹脂組成物の組成を表2に示す。なお、表1及び表2中の「−」は、該当する成分を用いなかったことを示す。
【0091】
[絶縁層の熱伝導率の評価]
各絶縁電線の絶縁層の熱伝導率の評価を行った。具体的には、絶縁電線No.1〜No.16の絶縁層の熱拡散率、比熱及び密度を測定することにより、25℃における熱伝導率を測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
上記表1に示すように、放熱性フィラーである窒化ホウ素及びセルロースナノファイバーを含有する絶縁電線No.8〜No.10の絶縁層は、放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーのいずれも含有しない絶縁電線No.1の絶縁層並びに窒化ホウ素及びセルロースナノファイバーのうちのいずれかのみを含有する絶縁電線No.2〜No.7の絶縁層と比較して熱伝導率が優れていた。
【0095】
また、上記表2に示すように、放熱性フィラーである球状アルミナ及びセルロースナノファイバーを含有する絶縁電線No.14〜No.16の絶縁層は、球状アルミナ及びセルロースナノファイバーのいずれも含有しない絶縁電線No.1の絶縁層並びに球状アルミナ及びセルロースナノファイバーのうちのいずれかのみを含有する絶縁電線No.2〜No.4及びNo.11〜No.13の絶縁層と比較して熱伝導率が優れていた。
【0096】
以上のように、当該絶縁電線は、絶縁層が合成樹脂を主成分とするマトリックス中に放熱性フィラー及びセルロースナノファイバーを有することによって絶縁層の熱伝導率が向上し、放熱性に優れることが示された。