特許第6795579号(P6795579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ブリヂストンの特許一覧

特許6795579シラン官能化ポリマー並びにそれらを作製及び使用するためのプロセス
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795579
(24)【登録日】2020年11月16日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】シラン官能化ポリマー並びにそれらを作製及び使用するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/25 20060101AFI20201119BHJP
   C08F 8/42 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C08C19/25
   C08F8/42
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-502819(P2018-502819)
(86)(22)【出願日】2016年7月22日
(65)【公表番号】特表2018-520256(P2018-520256A)
(43)【公表日】2018年7月26日
(86)【国際出願番号】US2016043650
(87)【国際公開番号】WO2017015592
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2019年6月28日
(31)【優先権主張番号】62/195,433
(32)【優先日】2015年7月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ユェンヨン
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−500398(JP,A)
【文献】 特表2008−518086(JP,A)
【文献】 特開平09−208749(JP,A)
【文献】 特表2014−501325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00−19/44
C08F8/00−8/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和を含む反応性ポリマーに末端官能性を提供するための方法であって、
a)前記反応性ポリマーの溶液を炭化水素溶媒中に提供することと、
b)前記溶液に以下の式によって定義された環状化合物を導入することであって、
【化1】

式中、
及びRの各々が独立して、水素原子又は置換若しくは非置換ヒドロカルビル基であり、
nが、3〜8(境界値を含む)の整数であり、
Zが、O原子、S原子、BR基(R、H原子、若しくはC〜C12アルキル基である)、又はNR基(Rが、水素原子若しくはヒドロカルビル基である)であり、
それによって、反応物ポリマーを提供する、導入することと、
c)前記反応物ポリマーの溶液にフッ化物イオン源及び1つ以上のシランを導入するか、前記反応物ポリマーの溶液をフッ化物イオン源及び1つ以上のシランに導入することであって、前記1つ以上のシランのうちの少なくとも1つが、少なくとも1つの第一級アミン、第二級アミン、ホスフィン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、尿素、又はチオ尿素基を含み、前記1つ以上のシランを前記反応物ポリマーと反応させ、それによって、前記ポリマーに前記末端官能性を提供する、導入することと、を含み、
前記反応性ポリマーが、カルバニオンポリマーである、方法。
【請求項2】
前記環状化合物が、3〜8個のSi原子を含むシクロシロキサンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上のシランの前記反応物ポリマーに対するモル比が、1:10〜3:2である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記フッ化物イオン源が、フッ化テトラアルキルアンモニウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上のシランが、式(RO)3−aSiRSiR(OR3−aによって定義された少なくとも1つのシランを更に含み、式中、各aが独立して、0〜2の整数であり、各Rが独立して、C〜C12アルキル基であり、Rが、C〜C10アルキレン基である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
式(RO)3−aSiRSiR(OR3−aによって定義された前記少なくとも1つのシランの、少なくとも1つの第一級アミン、第二級アミン、ホスフィン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、尿素、又はチオ尿素基を含む前記少なくとも1つのシランに対するモル比が、1:3〜3:1である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
全てのタイプのシランの合計が、前記フッ化物イオン源に対して化学量論的過剰量にある、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
粒状充填剤との向上した相互作用を提供することができる官能基を含有するが、直接結合した場合に反応性ポリマーを末端処理するであろう末端ラジカルを有するポリマーとその調製方法に関する。
関連出願の相互参照
本国際出願は、2015年7月22日に出願の米国特許仮出願第62/195,433号の利益を主張するものであり、同出願の開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
タイヤトレッドなどのゴム製品は多くの場合、例えば、粒状カーボンブラック及びシリカなどの1つ以上の補強材を含有するエラストマー性組成物から作製される。例えば、The Vanderbilt Rubber Handbook,第13版(1990),pp.603〜04を参照されたい。
【0003】
良好な静止摩擦及び耐摩耗性はタイヤトレッドの主たる考慮事項であるが、自動車の燃費の問題は、タイヤ動作時のヒステリシス及び発熱の減少に相関する転がり抵抗の最小化について議論される。これらの考慮は、大いに競合し、やや矛盾しており、良好な路面静止摩擦をもたらすよう設計された組成物から作製されたトレッドは通常高い転がり抵抗を示し、その逆もまた同様である。
【0004】
充填剤(複数可)、ポリマー(複数可)、及び添加剤は通常、これらの特性の許容可能な妥協点又はバランスが得られるように選択される。補強充填剤(複数可)がエラストマー材料(複数可)全体に良好に分散されることを確実にすることは、加工性を向上させて、かつ物理的特性を改善するよう働く。充填剤の分散は、充填剤とエラストマー(複数可)との相互作用を増加させることにより改善することができる。このタイプの試みの例としては、選択的反応性促進剤の存在下での高温混合、配合材料の表面酸化、及び表面グラフトが挙げられる。
【0005】
最後の架橋の部位からポリマー鎖の端部までのポリマー鎖の区分は、高分子網目に結びついておらず、そのため、効率的な弾性回復プロセス内に含めることはできない。その結果、ポリマーのこの区分(及びかかるポリマーが組み込まれた加硫物)に伝達されるエネルギーは熱として失われ、かかる自由端部は主なヒステリシス損失源となる。ポリマー鎖の端部が粒状充填剤を補強するか、又は別様に粒状充填剤と相互作用することを確実にすることは、例えば、ヒステリシスの減少などの多くの加硫物の物理的特性のために重要である。ポリマーを、通常はその末端で、化学変性することは、充填剤とポリマーとの相互作を増加させる最も効果的な手法のうちの1つである。
【0006】
種々のエラストマー材料が、例えばタイヤ成分などの加硫物の製造において使用されている。天然ゴムに加えて、最も一般的に用いられるものの一部としては、触媒を用いるプロセスにより作製されることの多い高シスポリブタジエン、及びアニオン開始剤を用いるプロセスにより作製されることの多い実質的にランダムなスチレン/ブタジエンインターポリマーが挙げられる。カルバニオン(アニオン開始された)スチレン/ブタジエンインターポリマーに末端官能基を提供し得る反応物は、多くの場合、高シスポリブタジエンの擬似リビングの端部と反応せず、また、程度はより少ないが、その逆も同様である。
【0007】
ヒドロキシル基、チオール基、第一級及び第二級アミン基、並びにホスフィン基を含むある特定の官能基の、末端活性ポリマー、特に、カルバニオンポリマーへの結合は困難である。かかる基の中に存在する活性水素原子は、末端活性ポリマーを失活又は末端処理する傾向がある。この所望されない末端処理は時々、間接的な結合スキーム、すなわち、所望の活性水素原子含有官能基に次に変換され得る他のタイプの官能基を含有する化合物を結合させる反応スキームの使用により、回避することができる。
【発明の概要】
【0008】
一態様では、粒状充填剤との向上した相互作用を提供することができる官能基を含有するが、直接結合した場合に反応性ポリマーを末端処理するであろう末端ラジカルを有するポリマーが提供される。この官能化ポリマーは、(a)末端に以下の式によって定義された1〜8個の反復単位を含むエチレン性不飽和反応物ポリマーであって、
【化1】

式中、R及びRの各々が独立して、水素原子又は置換若しくは非置換ヒドロカルビル基であり、Zが、O原子、S原子、BR基(Rが、O原子、H原子、若しくはC〜C12アルキル基である)、又はNR基(Rが、ヒドロカルビル基である)である、エチレン性不飽和反応物ポリマーと、(b)1つ以上のシランであって、そのうちの少なくとも1つが少なくとも1つの第一級アミン、第二級アミン、ホスフィン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、又は(チオ)尿素基を含む、1つ以上のシランとの反応生成物であり得る。一般式(I)の単位において、R及びRのうちの少なくとも1つは、ある特定の実施形態では、水素原子であり得る。
【0009】
ある特定の実施形態では、1つ以上のシランは、以下の式によって定義された少なくとも1つのシランを含み、
(RO)3−aSiRSiR(OR3−a (II)
式中、各aは独立して、0〜2の整数であり、各Rは独立して、C〜C12アルキル基であり、Rは、任意選択でジスルフィド又はテトラスルフィド結合を含有するC〜C10アルキレン基である。
【0010】
これら及び他の実施形態では、反応物ポリマーは、末端活性ポリマーと、以下の式を有する環状化合物とを反応させることによって提供され得、
【化2】

式中、nは、3〜8の整数であり、Zは、O原子、S原子、BR基、又はNR基(全ての変数が上のように定義されている)である。式(III)の化合物のシリコーン原子は、ポリマー鎖の末端でC原子と反応して、ポリマーの末端への化合物の開環型の結合をもたらすと考えられる。
【0011】
先の段落に説明されるように作製された末端変性ポリマーは、先に説明されるように1つ以上のシランと反応し得る。この反応は、例えば、フッ化アンモニウム又はフッ化テトラヒドロカルビルアンモニウムなどのフッ化物イオン源によって触媒され得る。
【0012】
前述の各々では、エチレン性不飽和を含有するポリマー鎖は、ポリエンマー単位を含み得る。ある特定の実施形態では、ポリエンは、共役ジエンであり得、得られた共役ジエンマーは、ポリマー鎖に沿って実質的にランダムに組み込まれ得る。
【0013】
各態様において、ポリマーは、実質的に直線状であり得る。
【0014】
官能化ポリマーは、例えば、カーボンブラック及びシリカなどの粒状充填剤と相互作用し得る。粒状充填剤及びかかるポリマーを含む加硫物を含む組成物もまた、かかる組成物を提供及び使用する方法と同様に提供される。
【0015】
本発明の他の態様は、以下の詳細な説明から当業者に明白となるであろう。その説明の理解を手助けするために、ある特定の定義をすぐ下に提供するが、これらは周辺の文章が反対の意図を明白に示していない限り、全体を通して適用されるものとする。
「ポリマー」とは1つ以上のモノマーの重合生成物を意味し、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、テトラポリマーなどを含む。
「マー」及び「マー単位」とは、単一の反応分子に由来するポリマーの一部分を意味する(例えば、エチレンマーは、一般式−CHCH−を有する)。
「コポリマー」は、2つの反応物質、通常はモノマーに由来するマー単位を含んだポリマーを意味し、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、セグメント化コポリマー、グラフトコポリマーなどを含む。
「インターポリマー」は、少なくとも2つの反応物質、通常はモノマーに由来するマー単位を含んだポリマーを意味し、コポリマー、ターポリマー、テトラポリマーなどを含む。
「ランダムインターポリマー」とは、本質的に非反復様式で組み込まれ、ブロック、すなわち、同じマーの3つ以上のセグメントを実質的に含まない各タイプの構成モノマーに由来するマー単位を有するインターポリマーを意味する。
「反応性ポリマー」とは、関連開始剤の存在により、他の分子と容易に反応する少なくとも1つの部位を有するポリマーを意味し、その用語は、とりわけ、カルバニオンポリマーを含む。
「ゴムムーニー粘度」は、任意の充填剤(複数可)の添加前の未硬化ポリマーのムーニー粘度である。
「組成物ムーニー粘度」は、とりわけ、未硬化又は部分的に硬化されたポリマー及び粒状充填剤(複数可)を含む組成物のムーニー粘度である。
「置換」とは、かかるヘテロ原子又は官能基が中に位置する基又は分子の意図された目的を阻害しないヘテロ原子又は官能基(例えば、ヒドロカルビル基)を含有することを意味する。
「直接結合」とは、介在する原子又は基がない状態で共有結合していることを意味する。
「ポリエン」は、最長部分又は分子鎖に少なくとも2つの二重結合が存在する分子、通常はモノマーを意味し、具体的にはジエン、トリエンなどが挙げられる。
「ポリジエン」は、1つ以上のジエンのマー単位を含むポリマーを意味する。
「phr」とは、ゴム100重量部(pbw)当たりのpbwを意味する。
「ラジカル」又は「残基」とは、反応の結果、何らかの原子が得られるか又は失われるかに関わらず、別の分子と反応した後に残る分子の一部分を意味する。
「環系」とは、単環、又は2つ以上の縮合環、又は単結合によって連結された環を意味し、各環が不飽和を含むことを条件とする。
「(チオ)尿素」とは、尿素又はチオ尿素を意味する。
「末端」とは、ポリマー鎖の端部を意味する。
「末端活性の」とは、リビング末端又は擬似リビング末端を有するポリマーを意味する。
「末端部分」は、末端に位置する基又は官能基を意味する。
【0016】
本明細書全体を通して、%で示される全ての値は、周囲の文章が反対の意図を明確に示していない限り、重量%である。下に記載の全ての特許及び公開出願に関連の教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
先の節で概説したポリマーは概ね、不飽和マー単位、通常は1つ以上のタイプのポリエンに由来する単位、及び一般式(I)によって定義された最大8個の反復単位を含む末端官能性を含む。
【0018】
ポリマーは、エラストマー性であり得、かつポリエン、特に、ジエン及びトリエン(例えば、ミルセン)に由来するものなどの不飽和マー単位を含み得る。例示的なポリエンとしては、C〜C12ジエン、特に、1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエンなどの共役ジエンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
ポリエンは、2つ以上の手法でポリマー鎖の中に組み込むことができる。特にタイヤトレッドの用途では、この組み込み様式の制御が望ましい場合がある。約10〜80%、任意選択で、約25〜65%の全ポリエン含有量に基づいた数値のパーセンテージとして付与された全体的な1,2−微細構造を有するポリマー鎖は、ある特定の最終使用の用途のために望ましい場合がある。全ポリエン含有量に基づいて、約50%以下、好ましくは約45%以下、より好ましくは約40%以下、更により好ましくは約35%以下、最も好ましくは約30%以下の1,2−微細構造を有するポリマーは、「実質的に直線状」であると考えられる。しかしながら、ある特定の最終使用の用途については、1,2−結合の含有量を更に低く、例えば、約7%未満、5%未満、2%未満、又は1%未満に保つことが望ましい場合がある。
【0020】
意図された最終使用に依存して、ポリマー鎖のうちの1つ以上としては、例えば、ビニル芳香族、特に、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンなどのC〜C20ビニル芳香族に由来するマー単位の組み込みによって提供され得るペンダント芳香族基が挙げられ得る。1つ以上のポリエンと組み合わせて使用される場合、ペンダント芳香族基を有するマー単位は、ポリマー鎖の約1〜約50%、約10〜約45%、又は約20〜約35%を構成し得、かかるインターポリマーの微細構造は、ランダムであり得、すなわち、各タイプの構成モノマーに由来するマー単位は、ブロックを形成せず、代わりに、本質的に非反復様式で組み込まれる。ランダム微細構造は、例えば、タイヤトレッドの製造に使用されるゴム組成物などの一部の最終使用の用途における特定の利益を提供し得る。
【0021】
例示的なエラストマーとしては、SBRとしても知られる、例えば、ポリ(スチレン−コ−ブタジエン)などの1つ以上のポリエンとスチレンとのインターポリマーが挙げられる。
【0022】
前述のタイプのポリマーは、乳化重合又は溶液重合によって作製され得、後者は、ランダム性、微細構造などのかかる特性に関してより大きい制御を与える。溶液重合は、20世紀半ば頃から実施されてきたため、それらの全般的な態様は、当業者には周知されているが、それでも、ある特定の態様を、参照の便宜のために、本明細書において提供する。
【0023】
所望のポリマーの性質に依存して、溶液重合の特定の条件は、著しく変動する場合がある。以下の考察では、例示的なリビング(アニオン)重合の説明は、そのようにして作製されたポリマーの官能化及びプロセスの説明に先行する。
【0024】
溶液重合は通常、有機リチウム化合物、特に、アルキルリチウム化合物などの開始剤を含む。有機リチウム開始剤の例としては、N−リチオ−ヘキサメチレンイミン;n−ブチルリチウム;トリブチルスズリチウム;ジメチルアミノリチウム、ジエチルアミノリチウム、ジプロピルアミノリチウム、及びジブチルアミノリチウムなどのジアルキルアミノリチウム化合物;ジエチルアミノプロピルリチウムなどのジアルキルアミノアルキルリチウム化合物;並びにC〜C12アルキル基、好ましくはC〜Cアルキル基を含むトリアルキルスタニルリチウム化合物が挙げられる。
【0025】
多官能性開始剤、すなわち、2つ以上のリビング端部を有するポリマーを形成することができる開始剤もまた、使用することができる。多官能性開始剤の例としては、1,4−ジリチオブタン、1,10−ジリチオデカン、1,20−ジリチオエイコサン、1,4−ジリチオベンゼン、1,4−ジリチオナフタレン、1,10−ジリチオアントラセン、1,2−ジリチオ−1,2−ジフェニルエタン、1,3,5−トリリチオペンタン、1,5,15−トリリチオエイコサン、1,3,5−トリリチオシクロへキサン、1,3,5,8−テトラリチオデカン、1,5,10,20−テトラ−リチオエイコサン、1,2,4,6−テトラリチオシクロヘキサン、及び4,4’−ジリチオビフェニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
有機リチウム開始剤に加えて、いわゆる官能性開始剤もまた、有用であり得る。これらは、ポリマー鎖の中に組み込まれ、それに伴って、鎖の開始された端部に官能基を提供する。かかる材料の例としては、リチウム化アリールチオアセタール(例えば、米国特許第7,153,919号参照)、並びに有機リチウム化合物と、例えば、任意選択でジイソプロペニルベンゼンなどの化合物と予備反応させた置換アルジミン、ケチミン、第二級アミンなどのN含有有機化合物との反応生成物(例えば、米国特許第5,153,159号及び同第5,567,815号参照)が挙げられる。他の潜在的に有用な官能性開始剤としては、米国特許第8,871,871号、同第8,765,888号、同第8,227,562号、及び同第9,365,660号に記載のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
有用なアニオン重合溶媒としては、種々のC〜C12環状及び非環状アルカン、並びにそれらのアルキル化誘導体、ある特定の液体芳香族化合物、及びそれらの混合物が挙げられる。当業者は、他の有用な溶媒の選択肢及び組み合わせを認識している。
【0028】
溶液重合では、重合成分中に調整剤(coordinator)、通常は、極性化合物を含めることにより、ランダム化及びビニル含有量(すなわち、1,2−微細構造)の両方を増加させることができる。開始剤1当量当たり最大90又はそれを超える当量の調整剤を、例えば、所望のビニル含有量、用いた非ポリエンモノマーのレベル、反応温度、及び用いた特定の調整剤の性質に依存した量で使用することができる。調整剤として有用な化合物としては、非結合電子対を有するヘテロ原子(例えば、O又はN)を含む有機化合物が挙げられる。例としては、モノ−及びオリゴ−アルキレングリコールのジアルキルエーテル;クラウンエーテル;テトラ−メチルエチレンジアミンなどの第三級アミン;THF;THFオリゴマー;カリウム2−メチルブタン−2−オラート(potassium 2-methylbutan-2-olate、KTA);並びに2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン、ジ−ピペリジルエタン、ヘキサメチルホスホルアミド、N,N’−ジメチル−ピペラジン、ジアザビシクロオクタン、ジエチルエーテル、及びトリブチルアミンなどの直線状及び環状オリゴマーオキソラニルアルカン(例えば、米国特許第4,429,091号参照)が挙げられる。
【0029】
溶液重合で通常用いられる条件を当業者は理解しているが、読者の便宜のために代表的な説明を提供する。以下はバッチプロセスに基づいているが、この説明を、例えば、セミバッチプロセス又は連続プロセスにまで拡張することは、当業者の能力の範囲内である。
【0030】
溶液重合は、通常、モノマー(複数可)と溶媒との混合物を好適な反応容器に装填し、次いで、多くの場合、溶液又は混合物の一部として添加される調整剤(使用される場合)及び開始剤を添加することによって開始し、代替的に、モノマー(複数可)及び調整剤を開始剤に添加することができる。重合は、好ましくはN、Ar、又はHeなどの不活性保護ガスによって提供される嫌気条件下で、中程度から勢いのある撹拌によって実施される。重合温度は、約20〜約90℃の温度が通常用いられるが(最大約150℃の温度が可能である)、広範囲で変動し得、熱は、モノマー又は溶媒の外部冷却及び/又は蒸発によって取り除くことができる。用いられる重合圧力は、約0.1〜約1MPaの圧力が通常用いられるが、広範囲で変動し得る。反応物は、所望に応じて撹拌することができる。所望の重合率に到達した後、熱源(使用される場合)を取り除くことができ、反応容器を重合のためだけに留置する場合には、反応混合物を、官能化及び/又は失活用に重合後の容器に取り除くことができる。この時点で、反応混合物は、その比較的高いポリマー濃度ゆえ、一般に「ポリマーセメント」と称される。
【0031】
得られたポリマーの失活後の試料は通常、約2〜約150、より一般的には約2.5〜約125、更により一般的には約5〜約100、最も一般的には約10〜約75のゴムムーニー粘度(ML/100℃)を示し、これらのムーニー粘度は、概ね、約5000〜約250,000ダルトン、一般的には約10,000〜約200,000ダルトン、より一般的には約25,000〜約150,000ダルトン、最も一般的には約50,000〜125,000ダルトンのMに相当する。得られたインターポリマーは通常、1〜10、一般的には1.5〜7.5、及びより一般的には2〜5の分子量分布を有する。(MとMは、共に、較正のためのポリスチレン標準及び適切なMark−Houwink定数を用いたGPCによって判定することができる。)
【0032】
説明される重合プロセスは、有利には、反応性(リビング)末端を有するポリマー鎖をもたらし、更に1つ以上の官能化剤と反応して、官能化ポリマーを提供することができる。上に説明されるように、官能化により、ゴム組成物中のポリマーと粒状充填剤との間の相互作用を向上させ、それによって、得られた加硫物の機械的及び動的特性を改善することができる。
【0033】
ポリマーは、好ましくは、O原子、S原子、B原子、又はN原子によって隔てられた複数のSi原子を含む、通常、ポリマーに直接結合した部分を含むように官能化される。Si原子は、そこに直接結合したH原子を有し得る。
【0034】
この官能化は、反応性(例えば、カルバニオン)ポリマーを式(III)の化合物と反応させることによって達成することができる。これらの化合物では、nは、3〜8の整数である。nが3又は4である式(III)の化合物の特定の構造としては、以下が挙げられ、
【化3】

式中、Z、R、及びRは、上記のように定義される。R及びRの一方又は両方は、通常はアリール、(シクロ)アルキル、アルケニル、アルケンアリール(alkenaryl)、アラルケニル(aralkenyl)、アルカリル、又はアラルキル基であり、最も一般的にはC〜C置換、例えば、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、又はCアリール基であるヒドロカルビル基であり得る。ヒドロカルビル基は、上記のように置換され得、潜在的に有用な置換ヒドロカルビル基の非限定的な例としては、C〜Cアルコキシ基(及び硫黄類似体)並びに第二級アミノ基が挙げられる。いくつかの実施形態では、R及びRの一方又は両方がHであるこれらの式(III)の化合物が好ましい。Rは、好ましくはC〜C12アルキル基、通常はC〜Cアルキル基である。例示的なヒドロカルビル基としては、アリール、(シクロ)アルキル、アルケニル、アルケンアリール、アラルケニル、アルカリル、又はアラルキル基、最も一般的にはC〜C置換、例えば、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、又はCアリール基が挙げられる。Rは、O原子又はH原子でない場合、好ましくはC〜Cアルキル基である。
【0035】
前述の構造及び変数の定義を考慮すると、これらの構造によって定義された多数の種並びにより大きい(すなわち、5≦n≦8)類似体を当業者は想定することができる。
【0036】
前述のタイプの化合物と末端活性ポリマーとの反応は、中程度の温度、例えば、0〜75℃で約100分未満、多くの場合、約50分未満で実施され得る。反応は通常、ポリマー鎖のC原子と環状シロキサン、シラザンなどのSi原子との間で発生する。カルボアニオン(リビング)ポリマーなどの反応性ポリマーの反応性のために、官能化化合物のモル量又は当量は、重合に用いられた開始剤の量に対して本質的に1:1以下である必要があるが、より低い比率及びより高い比率を確実に用いることができる。
【0037】
前述のシリコーン含有化合物及びそれらと末端活性(リビング)ポリマーとの反応に関する追加情報については、関心のある読者は、例えば、米国特許第8,063,153号、同第8,586,691号、同第8,680,210号、及び同第9,221,923号を参照されたい。
【0038】
このタイプの反応の後、ポリマーは、その末端に、上の一般式(I)によって定義された1〜最大8個の反復単位を含む。次いで、この末端変性ポリマーは、少なくとも1つの第一級アミン、第二級アミン、ホスフィン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、又は(チオ)尿素基を含む少なくとも1つを含む1つ以上のシランとの反応に関与し得る。
【0039】
先の段落に説明される末端変性ポリマーは、フッ化物イオン源によって触媒された反応において1つ以上のシランと反応し得る。フッ化物アニオンを含む種々のイオン化合物のうちのいずれかをこの触媒として使用することができるが、重合で用いられた少なくとも1つのタイプの有機液体、例えば、THF中に少なくとも部分的に溶解可能なものが好ましい。好ましいクラスのフッ化物化合物は、フッ化テトラヒドロカルビルアンモニウム、すなわち、以下の一般式を有する化合物であり、
(IV)
式中、各Rは独立して、H又は置換若しくは非置換ヒドロカルビル基、例えば、アリール、(シクロ)アルキル、アルケニル、アルケンアリール、アラルケニル、アルカリル、又はアラルキル基、最も一般的にはC〜C置換、例えば、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、又はCアリール基である。Rヒドロカルビル基は、上記のように置換され得、潜在的に有用な置換ヒドロカルビル基の非限定的な例としては、C〜Cアルコキシ基(及び硫黄類似体)並びに第二級アミノ基が挙げられる。ある特定の実施形態では、各R基は、アルキル基(すなわち、フッ化テトラアルキルアンモニウム)
であり得、各Rは、任意選択で、同じアルキル基、例えば、フッ化テトラプロピルアンモニウム、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(tetra-n-butylammonium fluoride)(TBAF)などである。
【0040】
化学量論未満の量のフッ化物イオン源を用いることができ、化学量論は、ポリマーを作製する際に用いられた開始剤の量、すなわち、Liのモル量に基づく。フッ化物イオン源として作用する化合物は、全てカルバニオンポリマーを作製する際に用いられたLiのモル量に基づいて、10〜90モルパーセント、多くの場合は20〜80モルパーセント、典型的には25〜75モルパーセント、より典型的には30〜60モルパーセントで概ね添加され得る。
【0041】
以下の考察については、少なくとも1つの第一級アミン、第二級アミン、ホスフィン、ヒドロキシル、又はチオール基を含むシラン類は「必須のシラン」と称され、他は「任意選択のシラン」と称される。
【0042】
必須のシランは、少なくとも1つの(RO)3−aSi−基(上で定義されたR及びaを有する)、並びに少なくとも1つの第一級アミン、第二級アミン、ホスフィン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、又は(チオ)尿素基を含むこれらの化合物である。ある特定の必須のシランは、以下の一般式によって表され得、
(RO)3−aSiR’ (V)
式中、R及びaは、上のように定義され、R’は、反応性ポリマー、具体的には第一級アミン、第二級アミン、ホスフィン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、又は(チオ)尿素基を末端処理するであろう少なくとも1つの官能基を含むアルキル又はアリール基を表す。R’部分の非限定的な例としては、C〜C10アルキル基、好ましくは直線状アルキル基が挙げられ、これらは、−(CHX、−(CHNH(CHX、−(CHZ(CHX、−(CH)NH(CHX、−(CH)Z(CHX、−(CHNH(CHNH(CHX、−(CHNH(CHCH、−(CHZ(CHNH(CHX、−(CHNH(CHZ(CHX、−(CHZ(CHZ(CHX、及び−(CHNHCHなどを含む少なくとも1つの第一級アミン、第二級アミン、ホスフィン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、又は(チオ)尿素基(Xは、先に説明される活性H原子含有基のタイプを表し、Zは、上に定義の通りである)を含む。
【0043】
1つ以上の必須のシランは、単独又は1つ以上のタイプの任意選択のシランとの組み合わせのいずれかで、末端変性ポリマーと反応し得る。任意選択のシランとして用いることができる化合物のタイプとしては、例えば、Gelest Inc.(Morrisville,Pennsylvania)、Dalian Sibond Intl.Trade Co.,Ltd.(Dalian,China)、Silar Laboratories(Wilmington,North Carolina)、Advanced Polymer,Inc.(Carlstadt,New Jersey)、UCT Specialties、及びLLC(Bristol,Pennsylvania)などを含む種々の商業的供給源のうちのいずれかより入手可能な一般的に二脚状シラン(dipodal silanes)と称されるものが挙げられる。
【0044】
好ましいクラスの任意選択のシランは、上の一般式(II)によって定義されたものである。このクラス内では、aが、0又は1(特に、0)であるもの、及び/又はRが、−(CH−、−(CHE(CH−、−(CHE(CH−、若しくは−(CHE(CH−などの基であるものが更に好ましく、Eは、ポリスルフィド部分、特に、ジスルフィド部分又はテトラスルフィド部分を表す。
【0045】
必須のシランと任意選択のシランとの相対量は、1:2〜2:1、1:3〜3:1、1:5〜5:1、2:15〜15:2、又は更には1:10〜10:1の範囲の当量比で広範囲に変動し得る。
【0046】
タイプに関わらず、ポリマーを作製する際に用いられた開始剤の量、すなわち、Liのモル量に対する全シランの相対量は、約1:10から最大軽微な化学量論的過剰量、例えば、約3:2又は約4:3までの範囲であり得る。
【0047】
シラン(複数可)と末端変性ポリマーとの間のフッ化物触媒反応は、中程度の温度、例えば、約0〜約80℃で、比較的迅速に(約6000秒未満、約3000秒未満、及び更には約1500秒未満)で発生し得る。高い圧力は必要でないが、所望の場合は高い圧力を用いることができる。
【0048】
理論に縛られることなく、フッ化物イオンは、カルバニオンポリマーと、式(IIIa)又は(IIIb)の化合物との反応から得た末端変性ポリマー中のSi−O結合のうちの1つを開裂させると考えられ、この開裂は、付加シランとの反応用の部位を提供する。ポリマー変性反応に用いられた式(III)の化合物の特定のタイプ(複数可)及び量(複数可)、並びに次の官能化反応に用いられるシラン(複数可)の量(複数可)に依存して、最終官能化ポリマーは、式(III)の化合物のラジカルの一部分を保持し得るか、又はいくつかの状況では、そのラジカルの残留物が残らない。言い換えれば、末端変性ポリマーとシラン(複数可)との反応生成物は、任意の残りの一般式(I)のタイプの単位を有しても、有しなくてもよい。かかる式(I)のタイプの単位が残らない場合、シランのうちの1つのラジカルは、ポリマー鎖の炭素原子に直接結合し得るが、多くの実施形態では、1つ以上の一般式(I)のタイプの単位は、ポリマー鎖の最後のC原子と、ポリマー鎖の末端で結合するシラン(複数可)のラジカル(複数可)との間に介在するであろう。
【0049】
通常必要ないが、所望の場合、失活は、約25〜約150℃の温度で最大約120分間、官能化ポリマーとアルコール又は酸などの活性水素含有化合物とを撹拌することによって実施され得る。
【0050】
溶剤は、ドラム乾燥、押出機乾燥、又は真空乾燥などの従来の技術によって、失活後のポリマーセメントから取り除くことができ、水、アルコール又は蒸気、熱脱溶媒和などでの凝固と組み合わせてもよく、凝固を行う場合は、オーブン乾燥が望ましい場合がある。
【0051】
得られたポリマーは、トレッドストック組成物中で利用するか、又は天然ゴム及び/若しくは、例えば、ポリエンのみに由来するマー単位(例えば、ポリ(ブタジエン)、ポリ(イソプレン)、並びにブタジエン及びイソプレンなどを組み込むコポリマー)を含む1つ以上のホモ及びインターポリマー、SBR、ブチルゴム、ネオプレン、EPR、EPDM、NBR、シリコーンゴム、フルオロエラストマー、エチレン/アクリルゴム、EVA、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン酸化ポリエチレンゴム、水素化ニトリルゴム、並びにテトラフルオロエチレン/プロピレンゴムなどの非官能化合成ゴムを含む従来用いられる任意のトレッドストックゴムとブレンドして使用することができる。官能化ポリマー(複数可)が従来のゴム(複数可)とブレンドされるとき、その量は総ゴムの約5〜約99%で変動することができ、従来のゴム(複数可)が総ゴムの残りを構成する。最小量は、所望のヒステリシスの減少の程度にかなりの程度依存する。
【0052】
非晶質シリカ(SiO)を充填剤として用いることができる。シリカは一般に、水中での化学反応により製造されて超微細球状粒子として沈殿されるため、湿式法での水和シリカとして分類される。これらの一次粒子は強く会合して凝集体になり、この凝集体は、比較的弱い力で結合して粒塊になる。「高分散性シリカ」は、脱凝集して、薄片顕微鏡により観察され得るエラストマー性マトリックス中に分散するための非常に実質的な能力を有する任意のシリカである。
【0053】
表面積は、異なるシリカの補強特性の信頼できる尺度を付与する。ブルナウアー−エメット−テラー(Brunauer,Emmet and Teller、「BET」)法(J.Am.Chem.Soc.,vol.60,p.309以降に記載)は、表面積を判定するための認識された方法である。シリカのBET表面積は一般に450m/g未満であり、有用な表面範囲は約32〜約400m/g、約100〜約250m/g、及び約150〜約220m/gを含む。
【0054】
シリカ充填剤のpHは、一般に約5〜約7又はわずかにそれを超え、好ましくは約5.5〜約6.8である。
【0055】
使用され得るいくつかの市販のシリカとしては、Hi−Sil(商標)215、Hi−Sil(商標)233、及びHi−Sil(商標)190(PPG Industries,Inc.;Pittsburgh,Pennsylvania)が挙げられる。市販のシリカの他の供給元としては、Grace Davison(Baltimore,Maryland)、Degussa Corp.(Parsippany,New Jersey)、Rhodia Silica Systems(Cranbury,New Jersey)、及びJ.M.Huber Corp.(Edison,New Jersey)が挙げられる。
【0056】
シリカは、約1〜約100phrの量で、好ましくは約5〜約80phrの量で用いることができる。有用な上限は、かかる充填剤によって付与され得る高い粘性によって制限される。
【0057】
他の有用な充填剤としては、あらゆる形態のカーボンブラックが挙げられ、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びランプブラックなどが含まれるが、これらに限定されない。より具体的にはカーボンブラックの例としては、超摩耗ファーネスブラック、高摩耗ファーネスブラック、高速押出ファーネスブラック、微細ファーネスブラック、中間超摩耗ファーネスブラック、半補強性ファーネスブラック、中級加工チャンネルブラック、ハード加工チャンネルブラック、導電性チャンネルブラック、及びアセチレンブラックが挙げられ、これらのうちの2つ以上の混合物が使用されてもよい。少なくとも20m/g、好ましくは少なくとも約35m/gの表面積(EMSA)を有するカーボンブラックが好ましく、表面積値は、CTAB法を用いてASTM D−1765によって判定され得る。カーボンブラックはペレット化形態であってもよく、又はペレット化されていない綿状塊あってもよいが、特定のミキサでの使用では、ペレット化されてないカーボンブラックが好ましいこともある。
【0058】
カーボンブラックの量は、最大約50phrであってもよく、通常約5〜約40phrである。カーボンブラックをシリカと共に用いるとき、シリカの量を約1phr程度に減らすことができ、シリカの量を減らした場合は、使用する加工助剤、更にもしあればシランの量を減らすことができる。
【0059】
エラストマー性組成物は通常、エラストマー性ストックの総体積で割った添加充填剤(複数可)の総体積である体積分率が約25%になるように充填されて、したがって、補強充填剤、すなわち、シリカとカーボンブラックの通常の(合わせた)量は約30〜100phrである。
【0060】
シリカが補強充填剤として用いられる場合、シランなどのカップリング剤の添加はエラストマー(複数可)への良好な混合及びエラストマー(複数可)との相互作用を確実にするために慣用される。一般に添加されるシランの量は、エラストマー性組成物中に存在するシリカ充填剤の重量に対して、約4〜20%の範囲内である。
【0061】
カップリング剤は、シリカ充填剤の表面上の基(例えば、表面シラノール基)と物理的及び/又は化学的に結合が可能な官能基、並びにエラストマーとの(例えば、硫黄含有結合を介した)結合が可能な官能基を含む。かかるカップリング剤としては、有機シラン、特に、多硫化アルコキシシラン(例えば、米国特許第3,873,489号、同第3,978,103号、同第3,997,581号、同第4,002,594号、同第5,580,919号、同第5,583,245号、同第5,663,396号、同第5,684,171号、同第5,684,172号、同第5,696,197号など参照)又は上に記載の官能基のタイプを有するポリオルガノシロキサンが挙げられる。例示のカップリング剤は、ビス[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィドである。本発明の官能化ポリマーは、かかるカップリング剤を含まないエラストマー性組成物に利用することができるが、所望の場合には1つ以上のカップリング剤をエラストマー性(ゴム)組成物に添加することができる。
【0062】
加工助剤の添加は、使用されるシランの量を減少させるために用いることができる。加工助剤として使用する糖の脂肪酸エステルの説明に関しては、米国特許第6,525,118号を参照されたい。加工助剤として有用な追加の充填剤としては、クレイ(含水ケイ酸アルミニウム)、タルク(含水ケイ酸マグネシウム)及びマイカなどの鉱物充填剤に加え、尿素及び硫酸ナトリウムなどの非鉱物充填剤が挙げられるが、これらに限定されない。好ましいマイカは、主にアルミナ、シリカ、及び炭酸カリウムを含むが、他の変種が有用な場合もある。追加の充填剤は、最大約40phr、通常最大約20phrの量で用いることができる。
【0063】
他の従来のゴム添加剤が添加されてもよい。例えばこれらには、プロセスオイル、可塑剤、酸化防止剤、及びオゾン劣化防止剤などの劣化防止剤、硬化剤などが含まれる。
【0064】
全ての成分を標準の機器、例えば、Banbury型又はBrabender型ミキサを用いて混合することができる。通常、混合は、2つ以上の段階で行われる。第1段階(多くの場合、マスタバッチ段階と称される)の間、混合は通常、約120〜約130℃の温度で開始し、いわゆる降下温度、通常は約165℃に到達するまで上昇させる。
【0065】
配合物がシリカを含む際、多くの場合、別の再ミル段階がシラン成分(複数可)の別の添加のために用いられる。この段階は、多くの場合、マスタバッチ段階で用いられる温度、すなわち、約90℃から約150℃の降下温度まで上昇される温度と同様であるが、多くの場合、これよりわずかに低い温度で実施される。
【0066】
強化されたゴム組成物は従来法により、例えば、硫黄又は過酸化物系硬化系などの1つ以上の既知の加硫剤約0.2〜5phrで硬化される。好適な加硫剤の一般的な開示について関心のある読者は、Kirk−Othmer,Encyclopedia of Chem.Tech.,3d ed.(Wiley Interscience,New York,1982),vol 20,pp.365〜468に示されるような概説を参照されたい。加硫剤、促進剤などは、最終の混合段階で添加される。加硫の開始が早まって発生しないことを確実にするために、この混合工程は、多くの場合低温で実施されて、例えば約60〜約65℃で開始して、約105〜約110℃よりも高温にされない。
【0067】
その後、種々の部品のうちのいずれかに形成される前に、シートに加工(例えば、ミル加工)してから加硫され、この加硫は通常、混合段階の間に用いられる最も高い温度よりも、約5〜約15℃高く、最も一般的には約170℃で行われる。直前に説明したタイプの強化されたゴム組成物から調製された加硫物は、とりわけ、タイヤ及びスポーツ用品(例えば、空気で充填されたボール)などの膨張した物品のためのインナライナを含む種々の目的のために使用することができる。
【0068】
本発明の種々の実施形態は、限定ではなく例として提供されている。先の説明から明らかなように、特徴、範囲、数値限定、及び実施形態に関する全体的な選好は、干渉しないか、又は不適合性でない限り、実行可能な程度に、他のかかる全体的に好ましい特徴、範囲、数値限定、及び実施形態と組み合わせることができると想定される。
【0069】
以下の非限定的かつ例示的な実施例は、本発明の実施において有用であることが判明した具体的な条件及び材料を提供する。本発明の実施例は、リビングポリマーとの反応においてヘキサメチルシクロトリシロキサン(各Zは、Oであり、各R及びRは、メチルである式(IIIa)の化合物)を用いるが、この選択は、コスト及び入手の容易性、並びに種々のポリマーを用いた加硫物間の直接比較を可能にしたいという要望によって説明することができる。環状化合物の単一の種のこの一貫した使用は、式(III)の化合物の全てが同様に有用であると考えられるため、限定的であると考えられるべきではない。
【0070】
実施例のうちのいくつかには、エラストマー性組成物、すなわち、上に説明されるタイプの官能化ポリマーを含むゴム組成物から調製された加硫物の物理的試験データが含まれる。これらの試験が加硫物のある特定の物理的特性と、加硫物から作製された製品、特に、タイヤトレッドの性能とを関連付けるものとして認識されるようになったため、これらの試験うちのある特定のデータが提示される。例えば、(弾性)ヒステリシスの減少は、高温でのより高い反発値及びより低い損失正接値(tanδ)と相関することが見出されており、より良好な処理性能は、多くの場合、高温及び歪におけるより高い弾性率値と相関し、氷上摩擦は、低温でのより低い弾性率値などと相関することが見出されている。(上記では、「高温」は通常、約50〜65℃であると考えられ、「低温」は、約0〜−25℃であると考えられる。)
【実施例】
【0071】
実施例では、正N窒素パージ下で、抽出されたセプタムライナ及び穿孔クラウンキャップで予め封止された乾燥ガラス容器を全ての調製に使用した。
【0072】
以下の材料を実験室の倉庫から入手、又はブタジエン溶液(ヘキサン中)、スチレン溶液(ヘキサン中33.5%)、ヘキサン、n−ブチルリチウム溶液(ヘキサン中1.6M)、KTA溶液(ヘキサン中1.0M)、2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン(CaH上に貯蔵されたヘキサン中1.6M溶液)、及びヘキサン中のブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene、BHT)溶液から合成した。
【0073】
市販の試薬及び出発物質としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、(3−トリエトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、3−(1,3−ジメチルブチリデン)アミノプロピルトリエトキシシラン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス〔3−(トリエトキシシリル)プロピル〕ジスルフィド、ビス〔(3−トリエトキシシリル)−プロピル〕テトラスルフィド、及びTHF中のTBAFの1.0M溶液が挙げられ、これらの全てをSigma−Aldrich Co.(St.Louis,Missouri)から入手し、具体的な例に別様に明記しない限り、更に精製することなく使用した。
【0074】
実施例1〜2:対照及び比較ポリマー
撹拌機を備えたNパージした反応器に、1.97kgのヘキサン、0.76kgのスチレン溶液、及び2.21kgのブタジエン溶液(ヘキサン中21.7重量%)を添加した。反応器に3.90mLのn−ブチルリチウム溶液、次いで、0.5mLのKTA溶液及び0.3mLの2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液を充填した。反応器ジャケットを50℃まで加熱し、約36分後、バッチ温度は約75℃でピークに達した。
【0075】
更に約32分後、ポリマーセメントの部分を乾燥したガラス瓶の中に滴下した。
【0076】
一方の瓶にイソプロパノールを添加し、この対照ポリマーは、下の表1において試料CL−1として識別される。
【0077】
他方の瓶に0.17mLの3.0M 3−(1,3−ジメチルブチリデン)アミノ−プロピルトリエトキシシランを添加し、この比較ポリマーは、下の表1において試料CP−2として識別される。
【0078】
試料1及び2の各々を含有する瓶を約30分間50℃の水浴内に保持した後、ポリマーセメントをBHT含有イソプロパノールに別々に滴下し、次いで、ドラム乾燥させた。
【0079】
実施例3〜4:比較ポリマー
実施例1〜2の重合を繰り返した。約75℃のピーク温度に約31分後に到達した。ピーク温度に到達した約30分後、約6.2mLのヘキサメチルシクロトリシロキサン溶液(ヘキサン中1.0M)を装填し、ポリマーセメントを約50℃で約30分間撹拌した後、乾燥したガラス瓶の中に滴下した。
【0080】
一方の瓶にイソプロパノールを添加し、この対照ポリマーは、下の表1において試料CP−3として識別される。
【0081】
他方の瓶に、約3:5のTBAF対Li比を提供するのに十分な1.0M TBAF溶液を添加し、この比較ポリマーは、下の表1において試料CP−4として識別される。
【0082】
試料3及び4の各々を含有する瓶を約30分間50℃の水浴内に保持した後、ポリマーセメントをBHT含有イソプロパノールに別々に滴下し、次いで、ドラム乾燥させた。
【0083】
実施例5:官能化ポリマー
実施例1〜2の重合を繰り返した。約75℃のピーク温度に約30分後に到達した。ピーク温度に到達した約30分後、約6.2mLのヘキサメチルシクロトリシロキサン溶液(ヘキサン中1.0M)を装填し、ポリマーセメントを約50℃で約30分間撹拌した後、乾燥したガラス瓶の中に滴下した。
【0084】
瓶に、(1)0.13mLの1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン(3.96M)、(2)0.13mLのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(3.75M)、及び(3)約3:5のTBAF対Li比を提供するのに十分な1.0M TBAF溶液を添加した。瓶を約30分間50℃の水浴内に保持した後、ポリマーセメントをイソプロパノール含有BHTに滴下し、次いで、ドラム乾燥させた。このポリマーは、下の表1において試料5として識別される。
【0085】
実施例6〜7:官能化ポリマー
ヘキサンの量を1.89kgに変更し、2.29kgの20.9%(重量で)のブタジエン溶液を使用した点を除き、実施例1〜2の重合を繰り返した。約75℃のピーク温度に約28分後に到達した。ピーク温度に到達した約30分後、約6.2mLのヘキサメチルシクロトリシロキサン溶液(ヘキサン中1.0M)を装填し、ポリマーセメントを約50℃で約30分間撹拌した後、乾燥したガラス瓶の中に滴下した。
【0086】
一方の瓶に、(1)0.26mLのビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド(1.94M)、(2)0.13mLのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(3.75M)、及び(3)約3:5のTBAF対Li比を提供するのに十分な1.0M TBAF溶液を添加した。
【0087】
他方の瓶に、(1)0.26mLのビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジスルフィド(1.94M)、(2)0.13mLの(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン(3.88M)、及び(3)約3:5のTBAF対Li比を提供するのに十分な1.0M TBAF溶液を添加した。
【0088】
瓶を約30分間50℃の水浴内に保持した後、ポリマーセメントをBHT含有イソプロパノールに別々に滴下し、次いで、ドラム乾燥させた。これらのポリマーは、下の表1において試料6及び7としてそれぞれ識別される。
【0089】
実施例8:官能化ポリマー
10mLのヘキサン中2.9mLの4−ジメチルアミノスチレン(シクロヘキサン中2.0M)、3.9mLのn−ブチルリチウム溶液、及び0.3mLの2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液を開始剤として用いた点を除き、実施例1〜2の重合を繰り返した。(追加の別の2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液は、反応容器に添加しなかった。)官能性開始剤溶液をKTA溶液の前に重合容器に添加した。
【0090】
約75℃のピーク温度に約34分後に到達し、ピーク温度に到達した約30分後、約6.2mLのヘキサメチルシクロトリシロキサン溶液(ヘキサン中1.0M)を装填し、ポリマーセメントを約50℃で約30分間撹拌した後、乾燥したガラス瓶の中に滴下した。
【0091】
瓶に、(1)0.25mLのビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド(2.03M)、(2)0.13mLのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(3.75M)、及び(3)約3:5のTBAF対Li比を提供するのに十分な1.0M TBAF溶液を添加した。瓶を約30分間50℃の水浴内に保持した後、ポリマーセメントをイソプロパノール含有BHTに滴下し、次いで、ドラム乾燥させた。このポリマーは、下の表1において試料8として識別される。
【0092】
実施例9〜16:実施例1〜8のポリマーの特性
ポリマー試料CL−1の分光解析は、それが36〜37モルパーセントのスチレン含有量を有し、そのブタジエンマーの約28%がビニル構造内に組み込まれたことを示した。
【0093】
実施例1〜8のポリマー試料の特性を、Mがピーク分子量を表す表1の中で下に要約する。
【表1】
【0094】
実施例17:高ビニル官能化ポリマー
官能性開始剤を1.2mLの2,2−ビス(2’−テトラヒドロフリル)プロパン溶液で調製し、KTA溶液を重合容器に添加しなかった点を除き、実施例8の重合を繰り返した。約64℃のピーク温度に約38分後に到達し、ピーク温度に到達した約30分後、約6.2mLのヘキサメチルシクロトリシロキサン溶液(ヘキサン中1.0M)を装填し、ポリマーセメントを約50℃で約30分間撹拌した後、乾燥したガラス瓶の中に滴下した。このセメントを実施例8の説明と同じ官能化及び官能化後処理に供した。
【0095】
回収したポリマーの分光解析は、それが約20モルパーセントのスチレン含有量を有し、そのブタジエンマーの約55%がビニル構造内に組み込まれたことを示した。このポリマーの他の特性は、以下の通りであった。
【表2】
【0096】
実施例18〜26:充填組成物及び加硫物
実施例1〜8及び17のポリマーを使用して充填組成物(組成物)を作製し、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(N-phenyl-N'-(1,3-dimethylbutyl)-p-phenylenediamine、6PPD)が酸化防止剤として作用し、2,2’−ジチオビス(ベンゾチアゾール)(2,2'-dithiobis(benzothiazole)、MBTS)、N−tert−ブチルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(N-tert-butylbenzothiazole-2-sulfenamide、TBBS)、及びN,N’−ジフェニルグアニジン(N,N'-diphenylguanidine、DPG)が促進剤として作用する、表2a(単独の粒状充填剤としてのカーボンブラック)並びに表2b(単独の粒状充填剤としてのシリカ)に示す配合を用いた。伸展油は、比較的少量の多環状芳香族化合物を含有した。
【表3】

【表4】
【0097】
組成物を約15分間171℃で硬化した。これらの組成物及びこれらの組成物から作製された加硫物の物理的試験結果を、表3a(カーボンブラック)及び3b(シリカ)において下に示す。
【0098】
ヒステリシス(tanδ)データは、2%の歪み及び10Hz(温度掃引)で実施した動的実験から得た。引張特性に関して、M/Eは、破断時の弾性率(MPa)の、破断時の伸張率に対する比率である。組成物ムーニー粘度(ML1+4)の値は、Alpha Technologies(商標)のムーニー粘度計(大型ロータ)を使用し、ウォームアップ時間1分間、試験時間4分間で判定した。
【表5】

【表6】