(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記旋回端板の背面の外周縁にこれと対峙する部材と摺接する環状摺接部を設け、 前記重心調整用凹部は、前記旋回端板の背面の隣り合う前記円形凹部の間であって、前記環状摺接部よりも径方向内側に形成されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
前記旋回ラップの基礎円の中心位置は、前記旋回端板において前記旋回スクロールの駆動中心軸に対して、前記旋回ラップの巻き終わりと反対側にずれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のスクロール圧縮機。
前記固定ラップの基礎円の中心と前記旋回ラップの基礎円の中心との中点は、前記旋回スクロールの1回転中において、常時前記駆動中心軸の旋回円の内側にあることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のスクロール圧縮機
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機は、一般的に、ハウジングに対して相対回転不能に支持された固定端板とこの固定端板に立設された渦巻き状の固定ラップとを具備する固定スクロールと、駆動軸の一端に設けられた偏心軸に回転可能に取り付けられた旋回端板とこの旋回端板に立設された渦巻き状の旋回ラップとを具備する旋回スクロールとを有している。固定スクロールと旋回スクロールとは、互いのラップを噛み合わせた状態でハウジング内に配置され、これにより、固定スクロールと旋回スクロールとの間に圧縮室を区画形成し、この圧縮室を、旋回スクロールを旋回させることで、径方向外側より内側に移動させると共に容積を漸次小さくして作動流体を圧縮させるようにしている。
【0003】
このようなスクロール圧縮機においては、旋回スクロール30の渦巻き状の旋回ラップ32をインボリュート曲線にて形成することが知られている。
図6(a)に示されるように、インボリュート曲線の基礎円の中心を駆動中心軸α(偏心軸の軸心となる旋回端板31の中心)に一致させる設計をすると、旋回スクロール30の重心は、駆動中心軸αよりも旋回ラップ32の巻き終わり側にずれた位置となる。
旋回スクロール30が旋回すると、旋回スクロールの重心に遠心力が作用するため、旋回スクロール30の重心と駆動中心軸αとがずれているスクロール圧縮機の場合、旋回スクロール30を駆動中心軸αまわりに回転させるように作用するモーメントが1回転中で変動することとなる。
【0004】
ところで、旋回スクロール30には、圧縮反力に伴う自転モーメントも作用している。
図6(a)に示される旋回スクロール30のように、旋回ラップ32の基礎円の中心が駆動中心軸αに一致している場合は、旋回ラップ32と固定ラップにより形成される圧縮室の位置が駆動中心軸αに対して均衡した位置に配置されるため、圧縮反力に伴う自転モーメントは旋回スクロールの1回転中においてほぼ一定である。
【0005】
一方、旋回ラップ32の基礎円の中心を駆動軸中心からずらして配置すると、旋回ラップと固定ラップにより形成される圧縮室の位置もずれることとなり、駆動軸中心から圧縮室の圧力の作用点までの距離が1回転中において変動することとなる。そのため。
図6(b)に示されるように、旋回スクロール30の重心が駆動中心軸αに一致するように、旋回ラップ32の基礎円の中心を駆動中心軸αからずらして配置すると、重心のずれに由来するモーメントは改善するものの、圧縮反力に伴う旋回スクロールの自転トルクが1回転中の特定の位相において反転してしまう不都合がある。
【0006】
そこで、旋回スクロールの重心を旋回スクロールの駆動中心軸に近づけるために、ラップの位置を調整するのではなく、旋回端板の形状を調整することも考えられている。
【0007】
そのような構成例として、従来においては、自転防止機構にオルダムリングを採用したスクロール圧縮機において、旋回スクロールの端板の背面に軸受ボスから放射状に延びる複数のリブを設け、これらのリブ間に端板の外周にかけての凹部を形成し、この凹部の深さを調節することで旋回スクロールの重心を旋回スクロールの駆動中心軸(軸受ボスの中心)に近づける構成が提案されている(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来のスクロール圧縮機は、軸受ボスから端板の外周にかけて複数の放射状のリブを形成し、そのリブ間の凹部の深さを調整することで旋回スクロールの重心位置を調整するものであるため、旋回スクロールの背面には端板の外周にかけて深さの深い凹部が形成される個所があり、その深さの深い凹部の部分で剛性が低下しやすいものであった。
【0010】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、旋回スクロールの端板の剛性を損ねることなく、旋回スクロールの重心を旋回スクロールの駆動中心軸に近づける調整を、旋回ラップの位置調節のみに依存することなく容易に行うことが可能なスクロール圧縮機を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、本発明に係るスクロール圧縮機は、ハウジングに対して相対回転不能に支持された固定端板に渦巻き状の固定ラップが立設されている固定スクロールと、駆動軸の一端に設けられた偏心軸に回転可能に取り付けられた旋回端板に渦巻き状の旋回ラップが立設されている旋回スクロールと、前記旋回記端板の背面に形成された円形凹部と前記旋回端板の背面と対向するハウジング壁に突設されて前記円形凹部に直接又はリング部材を介して係合するピンとで構成される自転防止部を、前記旋回スクロールの周方向に複数配置して前記旋回スクロールの自転を防止する自転防止機構とを備え、この自転防止機構により前記旋回スクロールの自転を規制した状態でこの前記旋回ラップを前記固定ラップを噛み合わせて両ラップの間に圧縮室を形成し、この圧縮室に取り込まれた作動流体を前記駆動軸の回転に伴う前記旋回スクロールの公転旋回運動によって圧縮するスクロール圧縮機において、前記旋回端板の背面に形成された隣り合う前記円形凹部の間に、前記旋回端板の外周に至らない範囲で重心調整用凹部を形成し、
前記円形凹部のうち、前記旋回ラップの巻き終わり側に対応する領域の円形凹部の深さを他の円形凹部の深さよりも深くしたことを特徴としている。
例えば、前記旋回端板の背面の外周縁にこれと対峙する部材と摺接する環状摺接部を設け、前記重心調整用凹部を、前記旋回端板の背面の隣り合う前記円形凹部の間であって、前記環状摺接部よりも径方向内側に形成するようにしてもよい。
【0012】
したがって、旋回スクロールの重心を旋回スクロールの駆動中心軸に近づける調整を旋回端板の形状を調整して行うに当たり、旋回端板の隣り合う円形凹部の間に、旋回端板の外周に至らない範囲で重心調整用凹部を形成するようにしたので、旋回端板の背面に外周にかけて深さの深い凹部が形成されて旋回端板の剛性を損ねることはなく、旋回スクロールの重心位置を、旋回ラップの位置調節のみに依存することなく調整することが可能となる。しかも、重心調整用凹部の形状や深さを調節することで、旋回スクロールの重心を容易に調整することが可能となる。
【0013】
また、自転防止機構を構成する複数の円形凹部のうち、旋回ラップの巻き終わり側に対応する個所の円形凹部の深さを他の円形凹部の深さよりも深くすることにより、重心位置を調整できる要素を増やすことができ、前記重心調整用凹部の形状調整や旋回ラップの位置調整などと共に円形凹部の形状を調整することで、旋回スクロールの重心をより合理的に駆動中心軸に合わせることが可能となる。例えば、旋回ラップの位置を圧縮反力による自転モーメントが反転しない範囲でずらして圧縮比を大きくし、その上で、旋回スクロールの重心を、重心調整凹部を形成すると共に円形凹部の深さを調整することで旋回スクロールの駆動中心軸に合わせることが可能となる。
【0014】
ここで、重心調整用凹部は、旋回端板の背面の隣り合う円形凹部の間の全てに設けるようにしてもよいが、旋回スクロールの旋回ラップの巻き終わり側に対応する個所にのみ設けて旋回スクロールの重心を調整するようにしてもよい。
【0015】
このような構成は、旋回端板の旋回ラップの基礎円の中心位置が、旋回スクロールの駆動中心軸に対して、旋回ラップの巻き終わりと反対側にずれている場合において、特に有用となる。
旋回スクロールの旋回ラップの基礎円の中心を、旋回スクロールの駆動中心軸に対して、旋回ラップの巻き終わりと反対側にずらすと、旋回ラップが旋回端板の全体に亘って偏りなく配置されるので、旋回端板の外径を小さくすることが可能になり、旋回スクロールの重量の低減や、圧縮機の小径化において有利となる。旋回スクロールの旋回ラップの基礎円の中心を、旋回スクロールの駆動中心軸に対して、旋回ラップの巻き終わりと反対側にずらす配置は、旋回スクロールの重心を駆動軸中心に近づける効果は大きくないが、重心調整用凹部と組み合わせて採用することにより、旋回ラップを旋回端板に合理的に配置しつつ旋回スクロールの重心を駆動中心軸に合わせることが可能となる。
ここで旋回ラップおよび固定ラップの渦巻き形状は、インボリュート曲線等の代数曲線に基づいて形成することができる。
【0016】
また、旋回ラップの基礎円の中心を、旋回スクロールの駆動中心軸に対して旋回ラップの巻き終わりと反対側にずらすことで、旋回ラップの巻き数を大きくした設計を採用することも可能である。ラップの巻き数を大きくすることで圧縮比を大きくできる利点がある。
【0017】
なお、旋回ラップの基礎円の中心位置を駆動中心軸からずらし過ぎると、圧縮反力による自転モーメントが旋回スクロールの1回転中で反転する不都合がある。このため、固定ラップの基礎円の中心と旋回ラップの基礎円の中心との中点が1回転中において常時駆動中心軸の旋回円の内側となるようにずらすとよい。すなわち、旋回ラップと駆動中心軸とのずれ量(オフセット量を、駆動中心軸の旋回半径の1/2以下となるようにするとよい。
【0018】
このような構成とすることで、圧縮反力により旋回スクロールに作用する自転モーメントを1回転中に常時同じ方向に作用させることが可能となり、自転モーメントの反転に起因するガタツキ音が発生する等の不都合を回避することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、旋回スクロールの旋回端板の隣り合う自転防止部の円形凹部の間に、旋回端板の外周に至らない範囲で重心調整用凹部を形成したので、旋回端板の剛性を損ねることなく、旋回スクロールの重心位置を容易に調節することが可能となる。
【0020】
また、自転防止機構を構成する複数の円形凹部のうち、旋回ラップの巻き終わり側に対応する個所の円形凹部の深さを他の円形凹部の深さよりも深くして旋回スクロールの重心を調整すれば、重心調整の要素を増やすことができ、旋回スクロールの重心をより合理的に駆動中心軸に合わせることが可能となる。
【0021】
ここで、重心調整用凹部は、旋回スクロールの旋回ラップの巻き終わり側に対応する領域にのみ設けるようにしてもよく、このような構成によれば、重心調整に寄与する領域のみに重心調整用凹部が形成されるので、不必要に旋回端板の剛性を低減させることがなくなる。
【0022】
また、重心調整用凹部による重心調整は、旋回ラップの基礎円の中心位置を、旋回スクロールの駆動中心軸に対して、旋回ラップの巻き終わりと反対側にずらした上で行うことで、旋回端板を小さくしたり、旋回ラップの巻き数を多くして圧縮比を大きくした設計を採用した上で、旋回スクロールの重心を駆動中心軸に一致又は近づけることが可能となる。
【0023】
なお、旋回ラップの位置をずらすにあたり、固定ラップの基礎円の中心と旋回ラップの基礎円の中心との中点が旋回スクロールの1回転中において常時駆動中心軸の旋回円の内側となるようにずらすことで、圧縮反力により旋回スクロールに作用する自転モーメントを1回転中に常時同じ方向に作用させることができ、自転モーメントの向きの変動によるガタツキ音が発生する等の不都合を回避することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るスクロール圧縮機の構成例について、図面を参照しながら説明する。
図1において、スクロール圧縮機1は、冷媒を作動流体とする冷凍サイクルに適した電動型圧縮機であり、アルミ合金で構成されたハウジング2内に、図中右方において圧縮機構3を配設し、また、図中左側において前記圧縮機構3を駆動する電動機4を配設している。尚、
図1において、図中左側を圧縮機1の前方、図中右側を圧縮機1の後方としている。
【0026】
ハウジング2は、圧縮機構3を収容する圧縮機構収容ハウジング部材5と、圧縮機構3を駆動する電動機4を収容する電動機収容ハウジング部材6と、電動機4を駆動制御する図示しないインバータ装置を収容するインバータ収容ハウジング部材7とを有し、電動機収容ハウジング部材6とインバータ収容ハウジング部材7とは締結ボルト8によって軸方向に締結され、また、電動機収容ハウジング部材6と圧縮機構収容ハウジング部材5とは、締結ボルト9によって軸方向に締結されている。
【0027】
圧縮機構収容ハウジング部材5は、後述する圧縮機構の固定スクロール20を固定し、電動機収容ハウジング部材6と対峙する側が開放された有底の筒状形状に形成されている。電動機収容ハウジング部材6は、電動機4が固定される筒状のモータ固定部6aと、圧縮機構収容ハウジング部材5と対峙する側に設けられ、後述する圧縮機構3の旋回スクロール30の軸方向荷重を支持すると共に、軸支部10が一体に設けられたエンドプレート6bとが一体に形成されている。また、インバータ収容ハウジング部材7は、インバータ収容部7aと、電動機収容ハウジング部材6と対峙する側に軸支部11が一体に形成されたエンドプレート7bとが一体に形成されている。
【0028】
そして、電動機収容ハウジング部材6のエンドプレート6bの軸支部10とインバータ収容ハウジング部材7のエンドプレート7bの軸支部11には、軸受12,13を介して駆動軸14が回転可能に支持されている。この電動機収容ハウジング部材6とインバータ収容ハウジング部材7とに形成されたそれぞれのエンドプレート6b,7bにより、ハウジング2の内部が圧縮機構3を収納する圧縮機構収容部15a、電動機4を収納するモータ収容部15b、及び、インバータ装置を収容するインバータ収容部15cに仕切られている。
尚、この例において、インバータ収容部15cは、インバータ収容ハウジング部材7に図示しないボルト等によって蓋体16を固定することで画成されている。
【0029】
圧縮機構3は、固定スクロール20とこれに対向配置された旋回スクロール30とを有している。
固定スクロール20は、ハウジング2(圧縮機構収容ハウジング部材5)に対して、軸方向の動きが許容されつつ、電動機収容ハウジング部材6のエンドプレート6bに対して位置決めピン17により径方向および周方向の動きが規制されているもので、円板状の固定端板21と、この固定端板21の外縁に沿って全周に亘って設けられると共に前方に向かって立設された円筒状の外周壁22と、その外周壁22の内側において固定端板21から前方に向かって立設されたインボリュートの曲線形状をなす渦巻状の固定ラップ23とから構成されている。
【0030】
また、旋回スクロール30は、円板状の旋回端板31と、この旋回端板31から後方に向かって立設されたインボリュートの曲線形状をなす渦巻状の旋回ラップ32とから構成され、旋回端板31の背面中央には、軸受け凹部33が形成されている。前記駆動軸14の後端部には、駆動軸14の軸心に対して偏心して延設された偏心軸14aが設けられ、この偏心軸14aにバランスウェイト部19cが一体に形成されたブッシュ19の孔部19aが嵌合している。また、このブッシュ19の軸部19bはラジアル軸受18を介して軸受け凹部33を支持している。これにより、駆動軸14の軸心を中心として旋回スクロール30を旋回運動可能としている。
【0031】
固定スクロール20と旋回スクロール30とは、それぞれのラップ(固定ラップ23、旋回ラップ32)を互いに噛み合わせ、固定スクロール20の固定端板21及び固定ラップ23と、旋回スクロール30の旋回端板31及び旋回ラップ32とで囲まれた空間によって圧縮室40が画成されている。
【0032】
また、スクロール圧縮機には、旋回スクロール30の自転を防止する自転防止機構50が設けられている。この例において、自転防止機構50は、ピン&リングカップリングが採用されているもので、旋回スクロール30の旋回端板31の背面に、軸受凹部33を中心として周方向に等間隔に配置された複数の自転防止部51を設けて構成されている。それぞれの自転防止部51は、旋回スクロール30の旋回端板31の背面と対峙するハウジング壁(エンドプレート6b)に固定されて旋回スクロール側へ突設された複数のピン52と、これらピン52に係合するリング部材53と、このリング部材53を収容する円形凹部54とで構成されている。
【0033】
なお、エンドプレート6bに一体に形成されている軸支部10には、旋回スクロール30から離れた前方側に、前記軸受12を嵌合する軸受嵌合部10aが形成され、また、旋回スクロール30に近い後方側に、駆動軸14と一体をなして回転するブッシュ19のバランスウェイト部19cを移動可能に収容するウェイト収容部10bが形成されている。
【0034】
前述した固定スクロール20の外周壁22と旋回スクロール30の旋回ラップ32の最外周部との間には、冷媒を吸入する吸入室41が形成されている。また、ハウジング2(電動機収容ハウジング部材6)の側面には、モータ収容部15bに冷媒ガスを吸入する吸入口42が形成され、電動機4とハウジング2(電動機収容ハウジング部材6)との間の隙間や、エンドプレート6bに形成された図示しない孔等を介して、吸入口42から前記吸入室41にかけてモータ収容部15bに流入した冷媒を吸入室41に導く図示しない吸入経路が形成されている。
【0035】
さらに、ハウジング内の固定スクロール20の背後には、圧縮室40で圧縮された冷媒ガスが固定スクロール20の略中央に形成された吐出孔24を介して吐出される吐出室43が圧縮機構収容ハウジング部材5の後端壁との間に画成されている。この吐出室43に吐出された冷媒ガスは、吐出口44を介して外部冷媒回路へ圧送されるようになっている。
【0036】
なお、電動機収容ハウジング部材6のエンドプレート6bよりも前方の部分には、電動機4を構成するステータ61とロータ62とが収容されている。
ステータ61は、ハウジング2(電動機収容ハウジング部材6)の内周面に駆動軸14の軸方向に沿って延設された複数のモータ固定部6aに外周面を圧接させることによってハウジング2(電動機収容ハウジング部材6)に固定されている。また、ロータ62は、駆動軸14に固装され、ステータ61の内側に回転可能に配置されている。
【0037】
このようなスクロール圧縮機1において、前記旋回スクロール30は、
図2及び
図3に示されるように形成されている。
先ず、旋回端板31に立設される旋回ラップ32は、旋回ラップ32を旋回端板31の中心寄りに配置させることにより、旋回端板の外径を小さくしたり、旋回ラップ32の巻き数をできるだけ多くして圧縮比を大きくするために、旋回ラップ32の基礎円の中心βが駆動中心軸α(旋回端板31の中心、即ち、軸受け凹部33の中心と一致し、偏心軸14aの軸心と一致する)に対して旋回ラップ32の巻き終わり部32aと反対側にオフセットするように配置されている。
【0038】
しかしながら、旋回ラップ32をずらすことだけで旋回スクロール30の重心を駆動中心軸αに一致させようとすると、圧縮反力による自転モーメントが、旋回スクロール30の1回転中で反転する不都合がある。
【0039】
図4は、旋回スクロール30の旋回ラップ32の位置のみを調節して旋回スクロール30の重心を駆動中心軸αに一致させる設計をした場合において、駆動力(DF)と圧縮反力(CRF)との変化を示したものである。旋回スクロール30に作用する駆動力(DF)は、旋回スクロール30の駆動中心軸α(偏心軸14aの中心)の移動軌跡上(旋回半径Rの旋回円CC上)を変位しながら常に同じ回転方向(図中、半時計回り)に作用する。この際、旋回スクロール30に作用する圧縮反力CRFは、圧縮室40の中心(固定ラップ23の基礎円FBCの中心γと旋回ラップ32の基礎円TBCの中心βとを結ぶ直線の中点M)に作用するが、旋回スクロール30の重心を駆動中心軸α上に設定すると、圧縮反力の作用点Mが旋回スクロール30の旋回円CCの外側となる位相域がでてくる。
【0040】
圧縮反力の作用点Mが旋回スクロール30の旋回円CCの内側にある位相域(
図4(a))においては、圧縮反力(CRF)によるモーメントは、旋回円CCの中心に対して駆動力(DF)と同じ回転方向(図中において反時計回り)に作用する。一方、圧縮反力(CRF)の作用点Mが旋回スクロール30の旋回円CCの外側に外れる位相域(
図4(b))においては、圧縮反力(CRF)によるモーメントは、旋回円CCの中心に対して駆動力(DF)と相反する回転方向(図中において時計回り)に作用し、自転モーメントが反転する。
【0041】
このように、旋回ラップ32の位置のみを調節して旋回スクロール30の重心を旋回スクロール30の駆動中心軸α上に設定すると、圧縮反力の作用点Mが旋回スクロールの1回転中で旋回半径Rの旋回円の内側と外側との間を変位するので、自転モーメントが一回転中で反転し、自転防止機構50のピン52がリング部材53の内周面に対して離反と接触を繰り返し(旋回スクロール30の自転方向が頻繁に変わることによりリング部材53の内周面にピン52が頻繁に衝突し)、ガタツキ音が発生する。
【0042】
したがって、圧縮比を大きくする観点や旋回スクロールの重心を駆動中心軸に一致させる観点からは、旋回ラップの基礎円の中心を駆動中心軸αから大きくずらすことが望ましいが、圧縮反力の作用点(固定ラップ23の基礎円の中心γと旋回ラップ32の基礎円の中心βとを結ぶ直線の中点M)が駆動中心軸αの旋回円の外側になると、自転モーメントが反転するので、圧縮反力の作用点が旋回円の内側となる範囲で、旋回ラップ32の基礎円の中心を駆動中心軸αからずらす必要がある。しかしながら、自転モーメントが反転しない範囲で旋回ラップ32の位置を調節すると、旋回スクロール30の重心は、駆動中心軸αからずれているので、重心のずれによる自転モーメントの発生を避けることができない。
【0043】
そこで、本例においては、旋回ラップ32の位置を圧縮反力の作用点Mが旋回円の内側となるように設定するとともに、旋回端板31の背面の形状を調整している。具体的には、旋回ラップの基礎円の中心と駆動中心軸とのオフセット量を駆動中心軸の旋回半径の1/2以下に設定した上で、旋回端板31の背面の形状を調整することで旋回スクロール30の重心を駆動中心軸αに合わせるようにしている。
【0044】
すなわち、
図5にも示されるように、旋回端板31の背面の円形凹部54は、前述したごとく、軸受け凹部33を中心としてその周囲に等間隔に複数(この例では6つ)形成されているが、この隣り合う円形凹部54の間に重心調整用凹部55を設けて旋回スクロール30の重心位置を調整するようにしている。
【0045】
この重心調整用凹部55は、隣り合う円形凹部54や軸受け凹部33と連通しないように設けられると共に、旋回端板31の外周に至らない範囲で旋回端板31の背面を肉抜きして形成されている。すなわち、旋回スクロールの旋回端板の背面の外周縁には、これと対峙するハウジング部材(エンドプレート6b)と摺接する環状摺接部34が形成されているが、重心調整用凹部55は、この環状摺接部34の内側において形成されている。
【0046】
このような重心調整用凹部55は、全ての隣り合う円形凹部54間に設け、各凹部の形状や深さを異ならせて重心位置を調整するようにしてもよいが、この例では、重心調整用凹部55を、旋回スクロール30の旋回ラップ32の巻き終わり側に対応する領域、すなわち、旋回ラップ32の巻き終わり部32aからそれより手前の約180°の範囲(
図3のθの領域)で円形凹部54間に設け(この例では、3つの重心調整用凹部55を設け)、旋回ラップ32の巻き終わり側に対応する領域の旋回スクロール30の重量をそれ以外の領域の旋回スクロール30の重量に近づけることで、重心位置を駆動中心軸αに一致させるようにしている。
【0047】
なお、この例においては、それぞれの重心調整用凹部55の断面形状や深さは同じに形成しているが、それぞれの重心調整用凹部55の形状や深さを異ならせるようにしてもよい(例えば、旋回ラップ32の巻き終わり部32aに近いほど、重心調整用凹部55の断面形状を大きくしたり、深さを深くしたりするようにしてもよい)。
【0048】
上述した重心調整用凹部55を設けることで、旋回スクロール30の重心位置を駆動中心軸αに一致させることも可能であるが、この例では、さらに、旋回ラップ32の巻き終わり側に対応する領域の円形凹部54の深さを他の円形凹部54の深さよりも深くし、旋回ラップ32の巻き終わり側に対応する領域の重量を調節して旋回スクロール30の重心を駆動中心軸αに一致させるようにしている。
【0049】
旋回ラップ32の巻き終わり側に対応する領域の円形凹部54は、ここに収容されるリング部材53を全ての円形凹部54で同じ深さに配置されるように中間部にリング部材53を載置する段部54aを形成し、この段部54aの径方向内側をより深く窪ませることで、深さを深くしている。
【0050】
以上の構成において、駆動軸14が回転すると、この駆動軸14の偏心軸14aを介して嵌合されたブッシュ19の軸部19bは旋回半径Rで旋回し、これに伴って旋回スクロール30も旋回半径Rで旋回する。
【0051】
固定スクロール20と旋回スクロール30との間に区画形成される圧縮室40は、旋回スクロール30を旋回させることで、径方向外側より内側に移動すると共に容積を漸次小さくして作動流体を圧縮する。
【0052】
この際、旋回スクロール30には、偏心軸14aからの駆動力と共に、圧縮反力が作用するが、1回転中の圧縮反力の作用点(固定ラップ23の基礎円の中心と旋回ラップ32の基礎円の中心との中点)が旋回スクロール30の旋回円の内側となるように旋回ラップ32の位置が調節されているので、圧縮反力による自転モーメントは反転することがなく(1回転中において常に同じ向きであり)、自転防止機構のガタツキ音を低減させることが可能となる。
【0053】
また、旋回端板31の背面の旋回ラップ32の巻き終わり側に対応する領域の円形凹部54間に重心調整用凹部55を形成し、また、旋回ラップ32の巻き終わり側に対応する領域の円形凹部54の深さを他の円形凹部54の深さよりも深くするので、旋回スクロール30の重心位置を駆動中心軸αに一致させることが可能となり、旋回スクロール30が回転しても重心のずれに起因する自転モーメントも発生しにくくなる。
【0054】
しかも、重心調整用凹部55は、旋回端板31の外周に至らない範囲で旋回端板31の背面に形成されているので(重心調整用凹部55は、環状摺接部34の内側に形成されているので)、旋回端板31の剛性を損ねることはなく、重心調整用凹部55の形成位置や円形凹部54の深さを調節することで、旋回端板31の剛性を確保しつつ、旋回スクロール30の重心を駆動中心軸αに近づける調整を、旋回ラップ32の位置調節のみに依存することなく容易に行うことが可能となる。
【0055】
また、重心調整用凹部55は、旋回スクロール30の旋回ラップ32の巻き終わり側に対応する個所にのみ設けられるので、重心調整に寄与する必要最小限の領域のみに重心調整用凹部55が形成されることになり、不必要に旋回端板31の剛性を低減させることもなくなる。
【0056】
さらに、旋回ラップ32の基礎円の中心位置を、旋回スクロール30の駆動中心軸に対して旋回ラップ32の巻き終わりと反対側に自転モーメントが反転しない範囲でずらしているので、旋回ラップ32の巻き数をできるだけ多くして圧縮比を大きくすることも可能となる。
【0057】
また、上述の構成例においては、旋回ラップの巻き終わり側に対応する領域の円形凹部の深さを他の円形凹部の深さよりも深くすることにより、旋回スクロールの重心を旋回スクロールの駆動中心軸に近づけるようにしたが、旋回ラップの巻き終わり側に対応する領域の反対側の領域にある円形凹部の中心に、ピンに干渉しないように円形突起部を突出させて、旋回スクロールの重心を旋回スクロールの駆動中心軸に近づけるようにしてもよい。
【0058】
尚、上述の構成例において、自転防止機構50として、旋回スクロールの旋回端板31の背面に形成された円形凹部54にピン52をリング部材53を介して係合する例を説明したが、リング部材53を割愛してピン52を円形凹部54に直接係合させるようにしてもよい。
また、本発明においては、スクロール圧縮機として、電動型圧縮機の例を説明したが、電動機を設けずに、駆動軸14に設けられたプーリにエンジン動力をベルトを介して伝達させるベルト駆動式のスクロール圧縮機に対しても上述した構成は同様に適用可能である。