(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電力を直流と交流との間で変換する電力変換装置であり、パワー半導体素子をスイッチング素子として備えるスイッチングモジュールと、前記スイッチングモジュールの制御端子に、前記スイッチング素子を駆動するための駆動信号を出力するゲートドライバと、前記制御端子と前記ゲートドライバの出力端子とを接続する配線体と、
を備える電力変換装置を用いた電力変換方法であって、
前記スイッチングモジュールは、その主端子と前記制御端子との間の帰還容量に基づく電流を前記配線体を介してコンデンサに蓄積させることにより、前記制御端子の電圧の変動を抑制するようにし、
前記配線体は第1の導体と第2の導体とを備え、
前第1の導体と前記第2の導体と夫々の幅をWとし、
前記第1の導体と前記第2の導体との間の間隔をdとし、
前記W及びdが、
W×5≧dになるようにした、
電力変換方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、電力変換装置の第1の実施の形態に係るブロック図、詳しくは、電力変換装置のスイッチングシステムのブロック図である。電力変換装置1は、スイッチング素子を備えるスイッチングモジュール300と、ゲート駆動回路(ゲートドライバ)320と、これらを電気的に接続する配線としてのゲート配線体108とを備える。
【0018】
ゲート配線体を、以後、配線、又は、ゲート配線と略して記載することがある。なお、ゲート配線体108は、後述のとおり、好適な実施形態として、複数の平板状の導体から構成されるため(
図2)、ゲート配線バー108とも記述される。
【0019】
また、スイッチング素子はIGBTでよい。以後、スイッチングモジュール300をIGBTモジュール300と記述する。なお、IBGTはシリコン半導体、又は、ワイドバンドギャップ半導体でよい。また、スイッチング素子は、ワイドギャップ半導体からなるパワーMOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ:Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)であってもよい。
【0020】
図1に従い説明を続ける。ゲートドライバ320は、上アームソース補助端子111、上アームゲート端子112、下アームソース補助端子113、及び、下アームゲート端子114を備える。
【0021】
IGBTモジュール300は、交流主端子101、直流P端子102、直流N端子103、上アームソース補助端子104、上アームゲート端子303(後述の上アームゲート端子105に相当)、下アームソース補助端子106及び下アームゲート端子313(後述の下アームゲート端子107に相当)を備える。
【0022】
上アームゲート端子112は、ゲート配線バー108を介して上アームゲート端子303に接続されており、上アームソース補助端子111が近傍に設けられている。この上アームゲート端子303の近傍には上アームソース補助端子104が設けられている。
【0023】
下アームゲート端子114は、ゲート配線バー108を介して下アームゲート端子313に接続されており、下アームソース補助端子113が近傍に設けられている。この下アームゲート端子313の近傍には下アームソース補助端子106が設けられている。
【0024】
IGBTモジュール300には、上アーム及び下アーム2つの直流P端子102及び上アーム及び下アーム2つの直流N端子103がそれぞれ設けられているとともに、上アーム及び下アーム2つの交流主端子101がそれぞれ設けられている。
【0025】
次に、ゲート配線体108を詳しく説明する。ゲート配線体108は、従来のような電線からなる配線に比較して、IGBTモジュール300とゲートドライバ320との間のインダクタンスを数分の1から十数分の一の範囲で低減できるような態様でよく、主として、複数の導体が微小な間隙を介して面状に対向している態様でよい。例えば、少なくとも、互いに平行な一対の平板状の導体が対向している構成でよい。「平板状」を「矩形状」、「面状」、又は、「層状」と言い換えてもよい。
【0026】
薄膜状の絶縁体を挟持するように複数の導体を積層し、絶縁体と複数の導体とをラミネートして互いに接合することにより、ゲート配線体108を製造することができる。ゲート配線体108は、複数の導体が面状に対向しているものであればよく、平板状の導体であるほか、複数の導体が、同軸状、又は、同心円状に組み合わされたものでもよい。すなわち、導体108Aと導体108Bとは対向する面積が大きくなるようになっており、かつ、導体108Aと導体108Bとの間隔を極力小さくしてインダクタンスを低減している。導体は、銅またはアルミなどの導電性を有する材料、その他、鉄またはステンレス等の材料でよい。面とは、平坦面、又は、曲面でよい。
【0027】
図2は、
図1に示すゲート配線バー108の斜視図である。ゲート配線バー108は、幅Wの2枚の平板108A,108Bが間隔dを介して対向するよう構成されている。ゲート配線バー108のインダクタンスは、これら対向する2枚の平板108A,108Bの構成や配置に応じて定まる。より広い面積の各平板108A,108Bをより近接して配置するほど、ゲート配線バー108のインダクタンスは低減される。2枚の平板108A,108Bの幅W及び間隔dについて、次式(1)に示す関係が成立することが好ましい。
【数1】
【0028】
ゲート配線バー108の幅(W)が5mm、平板108A,108Bの間隔が1mm以下として、平板108A,108Bをより近接して配置させるためには、シート状の絶縁体を挟んで2枚の平板108A,108Bを密着させることが望ましい。例えば、2枚の平板108Aと108Bとを、その間にシート状の絶縁物を挟んで積層させ、全体を絶縁物で被覆してラミネートして一体成型するラミネートバスバー構造であってよい。
【0029】
電力変換器が、在来線電車に適用されるインバータである場合、ゲート配線バー108の配線長は約50cm〜1mになる。一対の電線による配線では、インダクタンスは最大で1μHになる一方で、ゲート配線バー108のインダクタンスは200nH以下に低減される。
【0030】
ゲートドライバ320とIGBTモジュール300との間の距離を50cmとし、ゲート配線バー108のサイズを上記の通りとして、ゲートドライバ320とIGBTモジュール300との間を電線で接続した場合のインダクタンスと、ゲートドライバ320とIGBTモジュール300との間をゲート配線バー108にした場合のインダクタンスとを比較すると、前者が約350nHであるのに比べて、後者は約30nHに低減される。
【0031】
図3は、IGBTモジュール300、及び、ゲートドライバ320の電気的な構成例としての回路図である。このIGBTモジュール300は、いわゆる2in1型のIGBTモジュールである。スイッチング素子としての2つのIGBT305,315が1つのパッケージに含められ、そして、これらが、前述した交流主端子101に接続されている交流入出力端子325との接続点において直列に接続されている。このIGBTモジュール300では、下アームは上アームと同様の構成であるため、特に下アームについて言及する必要がある場合を除き、主として上アームの説明を以って下アームの説明の代用とする。
【0032】
ゲートドライバ320では、
図1において説明した上アームソース補助端子111、上アームゲート端子112、下アームソース補助端子113及び下アームゲート端子114が省略されている。
【0033】
IGBT305には、上アームフリーホイールダイオード306が逆並列に接続されている。上アームフリーホイールダイオード306では、IGBT305とは逆方向に電流が流れる場合、その電流が還流される。パワー半導体素子305がパワーMOSFETである場合、フリーホイールダイオード109は、例えば、MOSFET内蔵のボディダイオードによって構成することができる。
【0034】
IGBT305は、ゲート端子303(後述する上アームゲート主端子に相当)、及び、エミッタ補助端子304に印加される電圧に応じてオン/オフが制御される。IGBT305は、ゲート端子303に正の電圧が印加されると、上アームコレクタ330から上アームエミッタ331に向けて電流が流れる。
【0035】
ゲートドライバ320は、IGBT305のゲート端子303に印加する電圧を生成する。このゲートドライバ320は、インバータシステムの全体制御を行っているゲート指令部(ゲート指令モジュール)322からの駆動指令に基づいてゲート電圧を生成してIGBT305のゲート端子303に出力する。ゲート指令部322は、ソフトウェア、及び/又は、ハードウェアによって構成されてよい。
【0036】
ゲートドライバ320とゲート指令部322とはフォトカプラ324を介して接続されており、高電圧が印加されるIGBT305等とゲート指令部322とは絶縁されている。ゲートドライバ320を駆動する電源は、絶縁トランスであるゲート電源トランス323を介してゲート電源321から供給されている。
【0037】
ゲートドライバ320とIGBTモジュール300とは、上アーム及び下アームについて各々、上述したゲート配線バー108を構成する2枚の平板108A,108Bを介して接続されている。直流P端子102に接続されている上アームコレクタ主端子301と上アームゲート主端子303(上記ゲート端子に相当)との間には、帰還容量と呼ばれる寄生容量307が存在する一方、上アームゲート主端子303と上アームエミッタ331の間には、入力容量と呼ばれる寄生容量308が存在する。
【0038】
IGBT305がスイッチングされる際には、上アームコレクタ主端子301と上アームエミッタ331との間に印加される電圧の急峻な変化により、帰還容量と呼ばれる寄生容量307を通して寄生電流が、上アームコレクタ主端子301から上アームゲート主端子303に流れ込んでしまい、上アームゲート主端子303のゲート電圧を変動させて誤動作を引き起こすおそれがある。しかしながら、本発明に係る電力変換装置は、そのような現象が生じないように、ゲートドライバ320とモジュール300との間の配線の少なくとも一部がゲート配線バー108に変更されている。
【0039】
図4(A)〜
図4(C)は、それぞれ、IGBT305に対して逆並列に接続された上アームフリーホイールダイオード306のリバースリカバリ時の各波形の一例を示す。
【0040】
図4(A)は、一点鎖線が上アームフリーホイールダイオード306のアノード電流Iaの一例を示し、二点鎖線が上アームフリーホイールダイオード306のアノード−カソード間の電圧Vacの一例を示す。
図4(B)は、IGBT305の上アームゲート主端子303に流れるゲート電流Igの一例を示し、
図4(C)は、IGBT305の上アームゲート主端子303におけるゲート電圧Vgの一例を示す。
【0041】
図4(A)において一点鎖線で示すように上アームフリーホイールダイオード306のアノード電流Iaは、時刻t1までは順方向に流れていたが、その後転流する過程で、
図4(A)において二点鎖線で示すようにアノード−カソード間の電圧Vacが変動する。
図4(A)において一点鎖線で示すように時刻t1では、上アームフリーホイールダイオード306のアノード電流Iaの転流が始まる。
【0042】
図4(A)において一点鎖線で示すように時刻t2では、このアノード電流Iaが0になると、
図4(A)において二点鎖線で示すように上アームフリーホイールダイオード306の両端(上アームコレクタ主端子301及び上アームエミッタ331)において急激に電圧が印加される。このような急激な電圧変化は、逆並列に接続されているIGBT305にも印加されるため、IGBT305では、上アームコレクタ主端子301と上アームエミッタ331との間の電圧Vceが電圧変化率dVce/dtに従って変化する。
【0043】
図5は、IGBT305において上アームコレクタ主端子301と上アームゲート主端子303との間に寄生電流Igresが流れる様子の一例を示す。IGBT305では、上アームコレクタ主端子301と上アームゲート主端子303との間には、一般的に、上述したように帰還容量(その値をCresとする)と呼ばれる寄生容量307が存在するため、この電圧変化に応じて、次式(2)に示す寄生電流Igresが、上アームコレクタ主端子301から上アームゲート主端子303に流れる。
【0045】
この寄生電流Igresは、上述したIGBT305の入力容量(その値をCiesとする)とゲートドライバ320に分かれて流れる。ゲートドライバ320の出力回路やゲート配線のインピーダンスが小さければ、寄生電流Igresは、全てゲートドライバ320に流れ込んで入力容量と呼ばれる寄生容量308を充電しないため、ゲート配線のゲート電圧は変動しないことになる。なお、ここでいうゲート配線は、本実施の形態であればゲート配線バー108に対応している。
【0046】
一方、上述のようにゲートドライバ320の出力回路のインピーダンスやゲート配線(本実施形態であればゲート配線バー108に対応)のインダクタンス309が大きい場合には、寄生電流Igresが入力容量と呼ばれる寄生容量308に流れ込んで充電してしまうことから、
図4(C)に示すようにIGBT305の上アームゲート主端子303のゲート電圧が増加してしまうおそれがある。
【0047】
寄生電流Igresが大きい場合、上アームゲート主端子303のゲート電圧VgがIGBT305のしきい値電圧Vtを超過すると、IGBT305を誤ってオンさせてしまう。そのようなゲート配線のインダクタンス309はゲート配線の長さに依存しており、このゲート配線が長くなるほどインダクタンス309が大きくなり、IGBT305を誤ってオンさせる可能性が高まる。
【0048】
このような現象への対策として本実施の形態では、前述したように、IGBT305のゲート配線の少なくとも一部を、互いに対向して近接する一対の平板108A,108Bを含むゲート配線バー108で構成している。
【0049】
以上のような構成のゲート配線バー108を備える電力変換装置1は、このゲート配線バー108のインダクタンスがこれら平板108A,108Bによって小さく抑えられているため、寄生電流Igresは、ゲートドライバ320に流れ込んで入力容量と呼ばれる寄生容量308を充電せず、ゲート配線のゲート電圧は変動しないことからIGBT305が誤ってオンされることが抑制される。
【0050】
本実施の形態では、このような構成のゲート配線バー108を採用して電力変換を行うことにより、温度上昇の影響を受けない離れた位置にまでゲートドライバ320を離して配置しても、IGBT305のゲート電圧の変動を抑制することができるため、たとえ、ワイドバンドギャップ半導体の性能を活かす高温での使用時にもゲートドライバ320の信頼性が低下せず、配置の自由度が高くなることに伴ってシステムの小型化と信頼性の向上とを両立することができる。しかも、ゲートドライバ320を半導体素子直近に配置する必要がないため、配置の自由度が増し、メンテナンスの際のゲートドライバ320にアクセスし易くして使い勝手を向上することができる。
【0051】
図6は、第2の実施の形態を説明する図であって、電力変換装置のゲートドライバ320の一部を構成する出力回路320Aの構成例を示す回路図である。なお、その出力回路320Aを除く他の回路要素については図示を省略している。
【0052】
この出力回路320Aは、第1の実施の形態とほぼ同様な構成及び動作については説明を省略し、以下では主として両者の相違点について説明する。
【0053】
第2の実施の形態では、出力回路320Aのスイッチング素子としてのP−MOSFET703及びN−MOSFET706に、一例として、相補型のMOSFETを採用している。
【0054】
この出力回路320Aでは、IGBTやSiC素子をオンさせる場合、所定の駆動指令をそれぞれプラス側プリバッファ701及びマイナス側プリバッファ702に入力させると、プラス側プリバッファ701の出力がローレベルになりP−MOSFET703がオンする一方、N−MOSFET706がオフする。これにより、前述したゲート配線バー108に接続されるゲート端子700にはプラス電源線PPからプラスの電圧が出力されるため、出力回路320Aは、IGBTやSiC素子をオンすることになる。
【0055】
一方、この出力回路320Aでは、そのようなIGBTやSiC素子をオフさせる場合、逆に、所定の駆動信号をそれぞれプラス側プリバッファ701及びマイナス側プリバッファ702に入力させると、プラス側プリバッファ701の出力がハイレベルに反転してP−MOSFET703をオフさせる一方、N−MOSFET706をオンさせる。これにより、前述したゲート配線バー108に接続されるゲート端子700にはマイナス電源線MPからマイナスの電圧が出力されるため、出力回路320Aは、IGBTやSiC素子をオフすることになる。
【0056】
SiC−MOSFETがオフ状態である場合には、SiC−MOSFETの帰還容量に起因して電流が流れ込みそうになったときでも、本実施の形態では、出力回路320Aのスイッチング素子として、バイポーラトランジスタに代わりに、ユニポーラデバイスであるMOSFETを採用しているため、バイポーラトランジスタと比べると動作遅延が抑制される。このため、本実施の形態によれば、前述した第1の実施の形態と同様に、SiC−MOSFETに対するゲート電圧の変動を抑制することができる。
【0057】
なお、
図6において、出力回路320Aは、プラス側プリバッファ701をハイ、そして、マイナス側プリバッファ702をハイにするオフ指令によって、N−MOSFET706をオン,P−MOSFET703をオフとして、コンデンサ1020から電荷が放電されるようにする。
【0058】
図7は、第3の実施の形態による電力変換装置のブロック図である。第3の実施の形態は、ゲート配線体108がゲート配線の少なくとも一部の同軸ケーブル200であることを明らかにしている。同軸ケーブル200も、既述のゲート配線バー108と同様に、複数の導体が微少な間隙を介して面状に対向しており、より詳しくは、2つの導体が、同心円状に存在して、インダクタンスを低減することができる。一般的に、同軸ケーブル200は、その両端がいわゆるBNC型であるため、ゲートドライバ320のコネクタをBCN型にすることにより接続部分のインダクタンスを低減することが可能である。
【0059】
この同軸ケーブル200は、上アームSiC201及び下アームSiC203を備えるSiCモジュール300側の上アームゲート端子105と、ゲートドライバ320側の上アームゲート端子112と、を接続して、ゲート配線のインダクタンスを抑制している。
【0060】
なお、第3の実施の形態においても、既述の実施の形態と同様に、上アームSiC201には上アームフリーホイールダイオード202が逆並列に接続されているとともに、下アームSiC203には下アームフリーホイールダイオード204が逆並列に接続されている。
【0061】
上述した同軸ケーブル200は、SiCモジュール300側の上アームソース補助端子104と、ゲートドライバ320側の上アームソース補助端子111とを接続するゲート配線の少なくとも一部に設けられていても良い。
【0062】
一方、この同軸ケーブル200は、上アームと同様に、下アーム側においても、SiCモジュール300側の下アームゲート端子107と、ゲートドライバ320側の下アームゲート端子114とを接続するゲート配線の少なくとも一部に設けられていたり、SiCモジュール300側の下アームソース補助端子109と、ゲートドライバ320側の下アームソース補助端子113とを接続するゲート配線の少なくとも一部に設けられていても良い。
【0063】
第3の実施の形態によれば、このような同軸ケーブル200の存在により、第1及び第2の実施の形態と同様に、線状のゲート配線に比べてインダクタンスを低減可能であるため、ゲート電圧の変動を抑制することができる。
【0064】
次に、電力変換装置の第4の実施形態について説明する。
図8は、そのブロック図である。
図8において、IGBTモジュール300が、一つの素子が一つのパッケージに収めらている1in1型として描かれている。この実施形態が既述の実施形態と異なる点は、ゲート配線体バー108に加えて、コンデンサ1020を備えることにより、帰還容量307によってゲート電圧が変動するのをより効果的に抑制できるようにしたことである。なお、
図8において、IGBTモジュール300内の符号を、
図1の上アームのIGBTの符号と同一にしている。
【0065】
ゲート電圧の変動を抑制するためのコンデンサ1020は、ゲートドライバ320とゲート配線バー108との間、即ち、スイッチングモジュール300よりもゲートドライバ320側、或いは、ゲートドライバ320近傍に配置されている。コンデンサ1020の一端は、ゲートドライバ320一対の出力端子の一つと導体108Aとを接続する配線1120Aに接続され、コンデンサ1020の他端は、ゲートドライバ320の他の出力端子と導体108Bとを接続する配線1120Bに接続されている。
【0066】
フリーホイールダイオード306の電流オフ、すなわち、リバースリカバリの時に、コレクタ端子301とエミッタ端子331との間の電圧が急激に増加し、電圧の急激な増加に伴ってコレクタ端子301から帰還容量307を介してゲート端子303に電流が流れる。この電流はゲートドライバ320に流れて、ゲート端子303の電位上昇が抑制される。
【0067】
ゲート配線のインダクタンスが高いと、帰還容量307から、電流が入力容量308に流れてしまうため、ゲート端子303の電圧が高まり、この電圧がIGBT305のしきい値電圧を超えてしまうと、IGBT305がオンに誤作動してしまう。
【0068】
これに対して、ゲート配線体108自体のインダクタンスを十分に低くできるだけでなく、ゲート電圧の変動を抑制するコンデンサ1020を組み合わせることにより、帰還容量307から流れ込む電流をコンデンサ1020が十分に吸収し、入力容量308に流れ込む電流を無くするか、或いは、顕著に減少させることによって、ゲート端子303の電圧が変動することを抑制する。
【0069】
ゲート電圧の変動を抑制するためのコンデンサ1020を、スイッチングモジュール300に直接ではなく、ゲート配線体108とゲートドライバ320との間に接続しても、ゲート配線体108自体のインダクタンスが十分に低いために、帰還容量105から流れ込む電流をコンデンサ1020が十分に誘導することができる。
【0070】
コンデンサ1020の容量は、IGBT305の入力容量の1/2〜2倍程度において最適値が選択されればよい。例えば、定格電圧3.3kV、定格電流1200AのIGBTであれば、入力容量は100nF程度になり、コンデンサ1020の容量は50nF〜200nFの範囲で選定されればよい。
【0071】
コンデンサ1020は、ゲート配線体108を介して、スイッチングモジュール300から離れて、ゲートドライバ320側に来るので、スイッチングモジュール300の発熱の影響が少なくなり、コンデンサ1020の寿命の低下が抑制される。
【0072】
例えば、20年程度の長期間に亘ってゲートドライバ320が使用された場合においても、コンデンサ1020の機能が劣化しないため、長期間に亘って確実にIGBT305のゲート端子303の電圧変動を抑制し、IGBT305の誤動作を防止することができる。この結果、電力変換装置は、ゲートドライバ320の一対の出力端子から制御信号をスイッチングモジュール300に入力することにより電力変換を実施しても、電力変換の信頼性を向上できる。
【0073】
さらに、ゲート電圧変動抑制用コンデンサ1020がスイッチングモジュール300から離れて配置され得るため、コンデンサ1020に対する絶縁耐圧の確保も不要であり、コンデンサ1020のコストを抑制でき、しかも、そのサイズを小さくすることができる。
【0074】
次に、
図9は、電力変換装置の第5の実施形態に係るブロック図である。第5の実施の形態が第4の実施の形態と異なる点は、ゲートドライバ320とゲート配線体108とを接続する一方の配線と他方の配線との間にコンデンサ1020と直列に接続されるダンピング抵抗2010を備えることである。
【0075】
帰還容量307を介してゲートに流れ込む電流の周波数成分が、ゲート配線体108、コンデンサ1020、及び、入力容量308からなる閉回路の共振周波数と同じか、または近い値になると、この閉回路にて共振が発生する可能性がある。式(3)に共振条件を示す。
【0077】
式(3)において、fcは共振周波数、Lgはゲート配線部100のインダクタンス、Cgはゲート電圧変動抑制用コンデンサ102の容量、Ciesは入力容量を示す。
【0078】
フリーホイールダイオード306のリバースリカバリ時にコレクタ端子303から帰還容量307を介して流れ込む寄生電流に、式(3)の共振周波数の成分が多く含まれる場合には、共振が発生し、ゲート電圧が振動してIGBT305が誤動作したり、或いは、ゲート端子303に過電圧が発生してIGBT305を破壊するおそれがある。
【0079】
ダンピング抵抗2010が閉回路に追加されることにより共振が抑制され、共振によるIGBT305の誤動作、ゲート端子303の過電圧に起因した、IGBT305の破壊を防止することができる。
【0080】
次に、
図10は、電力変換装置の第6の実施形態に係るブロック図である。第6の実施の形態による電力変換装置は、ゲートドライバ320とゲート配線体108とを接続する一方の配線と他方の配線との間に、ゲート端子303の電圧変動を抑制するためのコンデンサ1020と並列に接続され、一方の配線及び他方の配線上のノイズを除去するサージアブソーバ4010を備える。
【0081】
ゲート配線の一部がゲート配線体108に置き替えられると配線のインダクタンスが小さくなるため、サージ電圧がゲートドライバ320に印加され易くなる。ゲートドライバ320にはコンパレータまたはオペアンプなどの半導体素子が存在するため、サージ電圧の印加によって、半導体素子が破壊されてしまう。
【0082】
そこで、ゲートドライバ320の一対の出力端子の近傍にサージアブソーバ4010を追加すると、このサージアブソーバ4010によってサージ電圧が吸収され、サージ電圧からゲートドライバ320を保護する。
【0083】
次に、
図11は、電力変換装置の第7の実施形態に係るブロック図である。第7の実施の形態は、
図8のゲート配線体バー108を同軸ケーブル200に変更し、ゲートドライバ320の側にゲート電圧変動抑制用コンデンサ1020を追加して、ゲート電圧の変動を抑制している。
【0084】
既述の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施の形態に限定しない。例えば、スイッチング素子は、SiCを用いたワイドバンドギャップ半導体である他、GaNまたはダイヤモンドを用いた他のワイドバンドギャップ半導体であってもよい。
【0085】
スイッチング素子は、IGBT、パワーMOSFETのほか、J−FET、SIT(Static Induction Transistor)でもよい。さらに、前述した実施の形態では、2つのスイッチング素子を一つのパッケージに収めたいわゆる2in1型の半導体、1つのスイッチング素子を搭載した1in1型の半導体、を説明したが、6個のスイッチング素子を搭載した6in1型のワイド半導体であってもよい。
【0086】
ゲート配線はその全部がゲート配線体108に置き換えられなくても、インダクタンスが目的量低減できるのであれば、ゲート配線の一部がゲート配線体108に置き換えられればよい。