(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0029】
図1は本発明の一実施例としての車両用空気調和装置1の構成図を示している。この場合、本発明を適用する実施例の車両は、エンジン(内燃機関)を有さない電気自動車(EV)であって、バッテリに充電された電力で走行用の電動モータを駆動して走行するものであり(何れも図示せず)、本発明の車両用空気調和装置1も、バッテリの電力で駆動されるものである。
【0030】
即ち、実施例の車両用空気調和装置1は、エンジン廃熱による暖房ができない電気自動車において、冷媒回路を用いたヒートポンプ運転により暖房を行い、更に、除湿暖房や除湿冷房、冷房等の各運転モードを選択的に実行するものである。尚、車両として電気自動車に限らず、エンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車にも本発明は有効である。更には、エンジンで走行する通常の自動車にも本発明は適用可能である。
【0031】
実施例の車両用空気調和装置1は、電気自動車の車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び、換気)を行うものであり、図示しない車両のバッテリより給電されて冷媒を圧縮し、昇圧する電動式の圧縮機2と、車室内空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられて圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒を車室内に放熱させる放熱器4(室内熱交換器)と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる電子膨張弁から成る室外膨張弁6(ECCV)と、冷房時には放熱器として機能し、暖房時には蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる電子膨張弁(機械式膨張弁でも良い)から成る室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時及び除湿暖房時に車室内外から冷媒に吸熱させる吸熱器9(もう一つの室内熱交換器)と、吸熱器9における蒸発能力を調整する蒸発能力制御弁11と、アキュムレータ12等が冷媒配管13により順次接続され、冷媒回路Rが構成されている。
【0032】
尚、室外熱交換器7は車室外に設けられており、この室外熱交換器7には、車両の停止時に外気と冷媒とを熱交換させるための室外送風機15が設けられている。また、室外熱交換器7は冷媒下流側にヘッダー部14(レシーバタンク)と過冷却部16を順次有し、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは冷房時に開放される電磁弁17(開閉弁)を介してヘッダー部14に接続され、過冷却部16の出口が逆止弁18を介して室内膨張弁8に接続されている。このヘッダー部14及び過冷却部16は構造的に室外熱交換器7の一部を構成しており、逆止弁18は室内膨張弁8側が順方向とされている。
【0033】
また、逆止弁18と室内膨張弁8間の冷媒配管13Bは、吸熱器9の出口側に位置する蒸発能力制御弁11を出た冷媒配管13Cと熱交換関係に設けられ、両者で内部熱交換器19を構成している。これにより、冷媒配管13Bを経て室内膨張弁8に流入する冷媒は、吸熱器9を出て蒸発能力制御弁11を経た低温の冷媒により冷却(過冷却)される構成とされている。
【0034】
また、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは分岐しており、この分岐した冷媒配管13Dは、暖房時に開放される電磁弁21(開閉弁)を介して内部熱交換器19の下流側における冷媒配管13Cに連通接続されている。更に、放熱器4の出口側の冷媒配管13Eは室外膨張弁6の手前で分岐しており、この分岐した冷媒配管13Fは除湿時に開放される電磁弁22(開閉弁)を介して逆止弁18の下流側の冷媒配管13Bに連通接続されている。
【0035】
また、吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、内気吸込口と外気吸込口の各吸込口(
図1では代表して吸込口25で示す)が形成されており、この吸込口25には空気流通路3内に導入する空気を車室内の空気である内気(内気循環モード)と、車室外の空気である外気(外気導入モード)とに切り換える吸込切換ダンパ26が設けられている。更に、この吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0036】
また、
図1において23は実施例の車両用空気調和装置1に設けられた補助加熱装置としての熱媒体循環回路を示している。この熱媒体循環回路23は循環装置を構成する循環ポンプ30と、熱媒体加熱電気ヒータ35(PTCヒータ)と、空気流通路3の空気の流れに対して、実施例では放熱器4の空気上流側となる空気流通路3内に設けられた熱媒体−空気熱交換器40とを備え、これらが熱媒体配管23Aにより順次環状に接続されている。尚、この熱媒体循環回路23内で循環される熱媒体としては、例えば水、HFO−1234yfのような冷媒、クーラント等が採用される。
【0037】
そして、循環ポンプ30が運転され、熱媒体加熱電気ヒータ35に通電されて発熱すると、この熱媒体加熱電気ヒータ35により加熱された熱媒体(高温の熱媒体)が熱媒体−空気熱交換器40に循環されるよう構成されており、これにより、空気流通路3の吸熱器9を経て放熱器4に流入する空気を加熱することになる。コントローラ32は、後述する如く暖房モードにおいて放熱器4による暖房能力が不足すると判断した場合、又は、放熱器4による暖房を停止して熱媒体循環回路23(熱媒体−空気熱交換器40)単独による暖房に切り換える必要があると判断した場合、熱媒体加熱電気ヒータ35に通電して発熱させ、循環ポンプ30を運転することにより、熱媒体循環回路23の熱媒体−空気熱交換器40による加熱を実行する。
【0038】
即ち、この熱交換器循環回路23の熱媒体−空気熱交換器40が所謂ヒータコアとなり、車室内の暖房を補完し、又は、放熱器4に代わって車室内を暖房する。尚、係る熱媒体循環回路23を採用することで、搭乗者の電気的な安全性を向上させている。
【0039】
また、熱媒体−空気熱交換器40及び放熱器4の空気上流側における空気流通路3内には、内気や外気の放熱器4への流通度合いを調整するエアミックスダンパ28が設けられている。更に、放熱器4の空気下流側における空気流通路3には、フット、ベント、デフの各吹出口(
図1では代表して吹出口29で示す)が形成されており、この吹出口29には上記各吹出口から空気の吹き出しを切換制御する吹出口切換ダンパ31が設けられている。
【0040】
次に、
図2において32はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成された制御装置としてのコントローラ(ECU)であり、このコントローラ32の入力には車両の外気温度Tamを検出する外気温度センサ33と、圧縮機2の吸込冷媒温度Tsを検出する吸込温度センサ45と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気(内気)の温度を検出する内気温度センサ37と、車室内の空気の湿度を検出する内気湿度センサ38と、車室内の二酸化炭素濃度を検出する室内CO
2濃度センサ39と、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41と、圧縮機2の吐出冷媒圧力Pdを検出する吐出圧力センサ42と、圧縮機2の吐出冷媒温度を検出する吐出温度センサ43と、圧縮機2の吸込冷媒圧力Psを検出する吸込圧力センサ44と、放熱器4の温度TCI(実施例では放熱器4を経て吹出口29に向かう空気の温度)を検出する放熱器温度センサ46と、放熱器4の冷媒圧力PCI(放熱器4内、又は、放熱器4を出た冷媒の圧力。冷媒回路Rの高圧圧力)を検出する放熱器圧力センサ47と、吸熱器9の温度Te(吸熱器9自体、又は、吸熱器9にて冷却された空気の温度)を検出する吸熱器温度センサ48と、吸熱器9の冷媒圧力(吸熱器9内、又は、吸熱器9を出た冷媒の圧力)を検出する吸熱器圧力センサ49と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速VSP)を検出するための車速センサ52と、温度や運転モードの切り換えを設定するための空調操作部53と、室外熱交換器7の温度(室外熱交換器7の冷媒の蒸発温度TXO)を検出する室外熱交換器温度センサ54と、室外熱交換器7の冷媒圧力を検出する室外熱交換器圧力センサ56の各出力が接続されている。
【0041】
また、コントローラ32の入力には更に、熱媒体循環回路23の熱媒体加熱電気ヒータ34の温度を検出する熱媒体加熱電気ヒータ温度センサ50と、熱媒体−空気熱交換器40の温度(以下、補助ヒータ温度Thtrと称する)を検出する熱媒体−空気熱交換器温度センサ55の各出力も接続されている。更に、コントローラ32には車両に搭載された前記バッテリの充電量であるバッテリ残量に関する情報も入力される。
【0042】
一方、コントローラ32の出力には、前記圧縮機2と、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吹出口切換ダンパ31と、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、各電磁弁22、17、21と、循環ポンプ30と、熱媒体加熱電気ヒータ35と、蒸発能力制御弁11が接続されている。そして、コントローラ32は各センサの出力と空調操作部53にて入力された設定に基づいてこれらを制御する。
【0043】
以上の構成で、次に実施例の車両用空気調和装置1の動作を説明する。コントローラ32は実施例では大きく分けて暖房モードと、除湿暖房モードと、内部サイクルモードと、除湿冷房モードと、冷房モードの各運転モードを切り換えて実行する。先ず、各運転モードにおける冷媒の流れについて説明する。
【0044】
(1)暖房モード
コントローラ32により或いは空調操作部53へのマニュアル操作により暖房モードが選択されると、コントローラ32は電磁弁21を開放し、電磁弁17、電磁弁22を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が熱媒体−空気熱交換器40及び放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は熱媒体−空気熱交換器40により加熱された後(熱媒体循環回路23が作動している場合)、放熱器4内の高温冷媒により加熱される。一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0045】
放熱器4内で液化した冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、そこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気中から熱を汲み上げる(ヒートポンプ)。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13D及び電磁弁21を経て冷媒配管13Cからアキュムレータ12に入り、そこで気液分離された後、ガス冷媒が圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。熱媒体−空気熱交換器40や放熱器4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出されるので、これにより車室内の暖房が行われることになる。
【0046】
コントローラ32は、後述する目標吹出温度TAOから算出される目標放熱器温度TCO(放熱器4の温度の目標値)から目標放熱器圧力PCO(放熱器4の圧力の目標値。高圧圧力の目標値)を算出し、この目標放熱器圧力PCOと、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器4の冷媒圧力(放熱器圧力PCI。冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数NCを制御すると共に、放熱器温度センサ46が検出する放熱器4の温度(放熱器温度TCI)及び放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCIに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度SCを制御する。前記目標放熱器温度TCOは基本的にはTCO=TAOとされるが、制御上の所定の制限が設けられる。
【0047】
(2)除湿暖房モード
次に、除湿暖房モードでは、コントローラ32は上記暖房モードの状態において電磁弁22を開放する。これにより、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の一部が分流され、電磁弁22を経て冷媒配管13F及び13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至るようになる。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0048】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cにて冷媒配管13Dからの冷媒と合流した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになる。
【0049】
コントローラ32は目標放熱器温度TCOから算出される目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCI(冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数NCを制御すると共に、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0050】
(3)内部サイクルモード
次に、内部サイクルモードでは、コントローラ32は上記除湿暖房モードの状態において室外膨張弁6を閉じる(全閉)。即ち、この内部サイクルモードは除湿暖房モードにおける室外膨張弁6の制御で当該室外膨張弁6を全閉とした状態と云えるので、内部サイクルモードは除湿暖房モードの一部と捕らえることもできる。
【0051】
但し、室外膨張弁6が閉じられることにより、室外熱交換器7への冷媒の流入は阻止されるので、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒は電磁弁22を経て冷媒配管13Fに全て流れるようになる。そして、冷媒配管13Fを流れる冷媒は冷媒配管13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0052】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを流れ、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになるが、この内部サイクルモードでは室内側の空気流通路3内にある放熱器4(放熱)と吸熱器9(吸熱)の間で冷媒が循環されることになるので、外気からの熱の汲み上げは行われず、圧縮機2の消費動力に吸熱器9での吸熱量が加算された分の暖房能力が発揮される。除湿作用を発揮する吸熱器9には冷媒の全量が流れるので、上記除湿暖房モードに比較すると除湿能力は高いが、暖房能力は低くなる。
【0053】
また、コントローラ32は吸熱器9の温度、又は、前述した冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。このとき、コントローラ32は吸熱器9の温度Teによるか高圧圧力PCIによるか、何れかの演算から得られる圧縮機目標回転数の低い方を選択して圧縮機2を制御する。
【0054】
(4)除湿冷房モード
次に、除湿冷房モードでは、コントローラ32は電磁弁17を開放し、電磁弁21、電磁弁22を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が熱媒体−空気熱交換器40及び放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され(熱媒体循環回路23は停止)、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化していく。
【0055】
放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、開き気味で制御される室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒はそこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てヘッダー部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0056】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0057】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱(暖房時よりも放熱能力は低い)されるので、これにより車室内の除湿冷房が行われることになる。
【0058】
コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、前述した冷媒回路Rの高圧圧力(放熱器圧力PCI)に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の冷媒圧力(放熱器圧力PCI)を制御する。
【0059】
(5)冷房モード
次に、冷房モードでは、コントローラ32は上記除湿冷房モードの状態において室外膨張弁6の弁開度を全開とする。コントローラ32はエアミックスダンパ28を制御し、室内送風機27から吹き出されて吸熱器9を通過した後の空気流通路3内の空気が、熱媒体−空気熱交換器40及び放熱器4に通風される割合を調整する。
【0060】
これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は冷媒配管13Gから放熱器4に流入すると共に、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至る。このとき室外膨張弁6は全開とされているので冷媒はそれを通過し、そのまま室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮液化する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てヘッダー部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0061】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気は冷却される。
【0062】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気が吹出口29から車室内に吹き出されるので(一部は放熱器4を通過して熱交換する)、これにより車室内の冷房が行われることになる。この冷房モードにおいては、コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。そして、コントローラ32は、外気温度や目標吹出温度に応じて上記各運転モードを選択し、切り換えていくものである。
【0063】
(6)暖房モードでの圧縮機、及び、熱媒体循環回路の制御
次に、
図3〜
図9を用いて前述した暖房モードにおけるコントローラ32の圧縮機2及び熱媒体循環回路23の制御について説明する。
【0064】
(6−1)高圧圧力による圧縮機の目標回転数TGNChの算出
コントローラ32は下記式(1)から目標吹出温度TAOを算出する。この目標吹出温度TAOは、吹出口29から車室内に吹き出される空気温度の目標値である。
TAO=(Tset−Tin)×K+Tbal(f(Tset、SUN、Tam))
・・式(1)
ここで、Tsetは空調操作部53で設定された車室内の設定温度、Tinは内気温度センサ37が検出する車室内空気の温度、Kは係数、Tbalは設定温度Tsetや、日射センサ51が検出する日射量SUN、外気温度センサ33が検出する外気温度Tamから算出されるバランス値である。そして、一般的に、この目標吹出温度TAOは外気温度Tamが低い程高く、外気温度Tamが上昇するに伴って低下する。コントローラ32はこの目標吹出温度TAOから目標放熱器温度TCOを算出する。
【0065】
次に、
図4は暖房モード用の圧縮機2の目標回転数(圧縮機目標回転数)TGNChを決定するコントローラ32の制御ブロック図である。コントローラ32のF/F(フィードフォワード)操作量演算部58は、要求される放熱器4の暖房能力である後述する要求能力TGQと、空気流通路3に流入した空気の体積風量Ga(室内送風機27のブロワ電圧BLVの目標値、又は、現在のブロワ電圧BLVから算出される)と、外気温度センサ33から得られる外気温度Tamと、放熱器4の温度の目標値である前述した目標放熱器温度TCOと、放熱器4の圧力の目標値である目標放熱器圧力PCOに基づくフィードフォワード演算により、圧縮機目標回転数のF/F操作量TGNChffを演算する。
【0066】
尚、このF/F操作量演算部58に入力される要求能力TGQについては後述する移行時制御において(TGQ−Qhtr)に置き換えられる。この置き換えは
図4の切換部63により行われる。この切換部63にはANDゲート64の出力が入力され、このANDゲート64は、後述するHP停止判定フラグfHPstpがセット「1」であり、且つ、後述するHP停止フラグfHPstpPrsがリセット「0」であるとき(移行時制御)、要求能力TGQから補助加熱装置が実際に発生する暖房能力であるHTR実能力Qhtr(後述)を差し引いた値(TGQ−Qhtr)をF/F操作量演算部58に出力し、それ以外の場合には要求能力TGQをF/F操作量演算部58に出力に出力する構成とされている。
【0067】
従って、HP停止判定フラグfHPstpがセット「1」であり、且つ、後述するHP停止フラグfHPstpPrsがリセット「0」であるとき(移行時制御)、F/F操作量演算部58は(TGQ−Qhtr)と、体積風量Gaと、外気温度Tamと、目標放熱器温度TCOと、目標放熱器圧力PCOに基づくフィードフォワード演算により、圧縮機目標回転数のF/F操作量TGNChffを演算し、それ以外(移行時制御以外)の場合には要求能力TGQと、体積風量Gaと、外気温度Tamと、目標放熱器温度TCOと、目標放熱器圧力PCOに基づくフィードフォワード演算により、圧縮機目標回転数TGNChのF/F操作量TGNChffを演算することになるが、移行時制御やHTR実能力Qhtrについては後に詳述する。
【0068】
前記目標放熱器圧力PCOは、放熱器4の出口における過冷却度SCの目標値である目標過冷却度TGSCと目標放熱器温度TCOに基づいて目標値演算部59が演算する。更に、F/B(フィードバック)操作量演算部60はこの目標放熱器圧力PCOと放熱器4の冷媒圧力である放熱器圧力PCI(高圧圧力)に基づくフィードバック演算により圧縮機目標回転数のF/B操作量TGNChfbを演算する。そして、F/F操作量演算部58が演算したF/F操作量TGNChffとF/B操作量演算部60が演算したTGNChfbは加算器61で加算され、リミット設定部62で制御上限値と制御下限値のリミットが付けられた後、圧縮機目標回転数TGNChとして決定される。暖房モードにおいては、コントローラ32はこの圧縮機目標回転数TGNChに基づいて圧縮機2の回転数NCを制御する。
【0069】
(6−2)能力演算
以下、
図5、
図6のフローチャートを参照しながら暖房モードにおけるコントローラ32の具体的な制御の一例について説明する。この実施例ではコントローラ32は、圧縮機2の回転数NCをその条件下での最大回転数として圧縮機2を運転し、放熱器4による暖房能力が不足する分を熱媒体循環回路23(熱媒体−空気熱交換器40)による加熱で補完する。即ち、コントローラ32は
図5のステップS1で車両用空気調和装置1の冷媒回路Rから成るヒートポンプ(
図5ではHPで示す)に故障が生じて故障判定されていないか否か判断し、故障(N)している場合にはステップS14でヒートポンプ(圧縮機2)を停止する。
【0070】
ステップS1で故障判定されておらず、正常の場合(Y)はステップS2に進み、車両用空気調和装置1の運転モードは現在暖房モードか否か判断し、暖房モード以外(N)の場合は他の運転モードに移行し、暖房モード(Y)であればステップS3に進む。このステップS3でコントローラ32は、下記式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、式(6)を用いて要求される放熱器4の暖房能力である要求能力TGQ(kW)と、放熱器4の最大暖房能力の推定値であるHP最大能力推定値Qmax(kW)と、放熱器4と熱媒体循環回路23(熱媒体−空気熱交換器40を含む。以下、同じ)が実際に発生する全体の暖房能力である全体能力Qtotal(kW)と、熱媒体循環回路23が実際に発生する暖房能力である前述したHTR実能力Qhtr(kW)と、放熱器4が実際に発生する暖房能力であるHP実能力Qhp(kW)を算出する。
【0071】
TGQ=(TCO−Te)×Cpa×実Ga×γaTe×1.16 ・・式(2)
Qmax=f(Tam、Ga、NCmax、Thtr−Te) ・・式(3)
Qtotal=(TCI−Te)×Cpa×実Ga×(SW/100)×γaTe
×1.16 ・・式(4)
Qhtr=(Thtr−Te)×Cpa×実Ga×(SW/100)×γaTe
×1.16 ・・式(5)
Qhp=(TCI−Thtr)×Cpa×実Ga×(SW/100)×γaTe
×1.16 ・・式(6)
【0072】
図3には要求能力TGQと、全体能力Qotal、HP実能力Qhp、及び、HTR実能力Qhtrとの関係が示されている。尚、Teは吸熱器温度、Cpaは空気の定圧比熱[kJ/m
3・K]、実Gaは空気流通路3を流通する空気の実際の風量(実システム風量m
3/s)、γaTeは空気比重、1.16は単位を合わせるための係数、NCmaxは圧縮機2のその条件下での最大回転数、Thtrは熱媒体−空気熱交換器40の温度である補助ヒータ温度、TCIは放熱器温度、SWはエアミックスダンパ28の開度である。
【0073】
更に、コントローラ32は、下記式(7)、式(8)を用いて要求能力TGQとHP最大能力推定値Qmaxとの差ΔQmaxと、要求能力TGQと全体能力Qtotalの差ΔQtotalを算出する。
ΔQmax=TGQ−Qmax ・・式(7)
ΔQtotal=TGQ−Qtotal ・・式(8)
【0074】
次に、コントローラ32はステップS4で室外熱交換器7の着霜などによるヒートポンプ(圧縮機2)の停止判定(HP停止判定)を行う。このHP停止判定については後に詳述するが、ヒートポンプ(圧縮機2)を停止する判定がなされた場合、コントローラ32はHP停止判定フラグfHPstpをセット「1」し、停止する判定がなされていない場合には、HP停止判定フラグfHPstpをリセット「0」する。
【0075】
ここでは、ステップS4でヒートポンプ(圧縮機2)の停止する判定がなされていないものとすると(N、HP稼働)、この実施例でコントローラ32は圧縮機2の回転数NCをその条件下での最大回転数として圧縮機2を運転する。そして、ステップS5に進み、ヒートポンプ(HP)の放熱器4と熱媒体循環回路23による協調制御を実行する(
図5ではHP+補助ヒータ協調制御で示す)。
【0076】
(6−3)放熱器と熱媒体循環回路による協調制御
実施例の協調制御は
図6に示されている。コントローラ32は
図6のフローチャートのステップS8で実能力による判定を行う。この実能力による判定とは、実施例では圧縮機2の回転数NCが最大回転数であること、冷媒回路Rの高圧圧力(放熱器圧力PCI)が安定していること、ΔQtotalが所定値以上であること、の全ての条件が成立した状態が所定時間(例えば、30秒など)経過しているか否かの判定であり、今は圧縮機2の起動直後であるものとすると、コントローラ32はステップS8で(N)としてステップS10に進み、今度はMAX能力による判定を行う。
【0077】
このMAX能力による判定とは、圧縮機2の起動直後から高圧圧力が安定するまで実行されるもので(ステップS8でNの場合)、実施例では要求能力TGQとHP最大能力推定値Qmaxとの差ΔQmax(=TGQ−Qmax)が所定値以上(要求能力TGQに対して放熱器4の最大暖房能力(推定値)が不足している状態)であるか否かの判定であり、所定値未満である状態が所定時間(例えば、30秒など)継続している場合、即ち、放熱器4の最大暖房能力(推定値)が要求能力TGQを満足しているか、殆ど不足していない場合は(N)、ステップS12に進んで熱媒体循環回路23の熱媒体加熱電気ヒータ35を非通電とし(PTC停止)、熱媒体循環回路23(補助加熱装置)の要求能力TGQhtrを零(0)とする。
【0078】
圧縮機2の起動時にステップS10で要求能力TGQとHP最大能力推定値Qmaxとの差ΔQmax(=TGQ−Qmax)が所定値以上(要求能力TGQに対して放熱器4の最大暖房能力(推定値)が不足している状態)である場合(Y)、コントローラ32はステップS11に進み、熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrのF/F(フィードフォワード)値QaffをΔQmaxとし、F/B(フィードバック)値Qafbを零とする。
【0079】
次に、ステップS7に進み、コントローラ32は熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrを演算する。このステップS7でコントローラ32は、下記式(9)を用いて熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrを算出する。
TGQhtr=(Qaff+Qafb)/Φ ・・式(9)
尚、Φは熱媒体循環回路23(熱媒体加熱電気ヒータ35)の温度効率(ヒータ温度効率)である。
【0080】
また、圧縮機2が最大回転数になった後に、ステップS8で要求能力TGQと全体能力Qtotalの差ΔQtotalが所定値未満となり(N)、ステップS10に進んで要求能力TGQとHP最大能力推定値Qmaxとの差ΔQmaxが所定値以上である場合も、コントローラ32はステップS11からステップS7に進んで上記式(9)により熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrを算出する。即ち、ステップS11ではQaff=ΔQmax、Qafb=0であるので、コントローラ32はステップS7で熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrをΔQmax/Φとし、この要求能力TGQhtrに基づいて熱媒体加熱電気ヒータ35の通電を制御する。
【0081】
一方、ステップS8で圧縮機2の回転数NCが最大回転数であり、冷媒回路Rの高圧圧力(放熱器圧力PCI)が安定しており、ΔQtotalが所定値以上である状態が所定時間経過している場合(Y)、コントローラ32はステップS9に進んで熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrのF/F値QaffをΔQmaxとし、F/B値QafbをΔQtotalとし、ステップS7に進んで熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrの演算を行う。即ち、ステップS9ではQaff=ΔQmax、Qafb=Qtotalであるので、コントローラ32はステップS7で熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrを(ΔQmax+ΔQtotal)/Φとし、この要求能力TGQhtrに基づいて熱媒体加熱電気ヒータ35の通電を制御する。
【0082】
このようなヒートポンプ(冷媒回路R)の放熱器4による暖房と熱媒体循環回路23による加熱の協調制御により、コントローラ32は、圧縮機2の回転数NCを最大回転数とした状態で、放熱器4による暖房能力が不足する分を熱媒体循環回路23(熱媒体−空気熱交換器40)による加熱で補完する。
【0083】
また、コントローラ32は前述した如くQaff=ΔQmax、Qafb=0として要求能力TGQhtr=Qmax/ΦとするF/F的制御と、Qaff=ΔQmax、Qafb=ΔQtotalとして要求能力TGQhtr=(Qmax+Qtotal)/ΦとするF/B制御を実行するが、このF/B的制御を行うことにより、放熱器4と熱媒体循環回路23(熱媒体−空気熱交換器40)が実際に発生する全体の暖房能力である全体能力Qtotalが要求能力TGQに制御される。
【0084】
(6−4)放熱器と熱媒体循環回路によるもう一つの協調制御
次に、
図7はコントローラ32による暖房モードにおける協調制御のもう一つのフローチャートを示している。尚、この図において
図6と同一符号で示すステップは同様の制御を行うものとする。この場合、ステップS5、ステップS9、ステップS11からはステップS7aに進み、次にステップS7bに進むことになる。
【0085】
図7のステップS7aでコントローラ32は、各ステップS5、ステップS9、ステップS11で決定された熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrのF/F値QaffとF/B値Qafbの和(Qaff+Qafb)から、下記式(10)を用いて補助ヒータ温度Thtr(熱媒体−空気熱交換器40の温度)の目標値である目標補助ヒータ温度THOを逆算する。
THO=(Qaff+Qafb)/(Cpa×実Ga×γaTe×1.16)+Te
・・式(10)
【0086】
次に、コントローラ32はステップS7bで、熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrを演算するが、実施例ではこの場合、コントローラ32はステップS7aで逆算した目標補助ヒータ温度THOと熱媒体−空気熱交換器温度センサ55が検出する補助ヒータ温度Thtrとの偏差eに基づきPID演算により熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrを算出し、算出された要求能力TGQhtrに基づいて熱媒体加熱電気ヒータ35の通電を制御することで、補助ヒータ温度Thtrが目標補助ヒータ温度THOに追従するようにフィードバック(F/B)制御する。
【0087】
(6−5)HP停止判定
次に、
図5のステップS4におけるHP停止判定について説明する。このHP停止判定では、以下に説明する三つの条件について判定が行われる。
【0088】
(6−5−1)室外熱交換器7の着霜進行によるHP停止判定
室外熱交換器7の着霜が増大すると、冷媒回路Rの圧縮機2を運転しても外気からの吸熱(ヒートポンプ)ができなくなると共に、運転効率も著しく低下する。そこで、実施例では、
(イ)(TCO−TCI)≧所定値(所定の大きい値。例えば5deg)、且つ、ΔTXO≧所定値(所定の大きい値。例えば10deg)の状態が所定時間経過(例えば30sec)したこと、又は、
(ロ)ΔTXO≧所定値(上記(イ)より小さい値。例えば5deg)の状態が所定時間継続(上記(イ)より長い時間。例えば60min)したこと、の何れかの条件が成立したこと、で室外熱交換器7の着霜が進行していると判定する。
【0089】
上記(TCO−TCI)は目標放熱器温度TCOと放熱器温度TCIの差であり、ΔTXOは無着霜時における室外熱交換器7の冷媒蒸発温度TXObaseと現在の冷媒蒸発温度TXOとの差である着霜判定値(ΔTXO=TXObase−TXO)であって室外熱交換器7の着霜度合い(着霜率)となる。即ち、上記(イ)は放熱器温度TCIが目標放熱器温度TCOから低くなり、且つ、着霜率(ΔTXO)が拡大した状態となったとき、(ロ)は着霜率(ΔTXO)が圧程度拡大した状態が長く継続したときであり、何れも室外熱交換器7の着霜が進行したことを示している。
【0090】
(6−5−2)TsによるHP停止判定
また、圧縮機2の吸込冷媒温度Tsが低くなり、圧縮機2の回転数NCが低くなると圧縮機2の運転効率は低下し、信頼性も低下してくる。そこで、実施例では、
(ハ)Ts≦所定値(所定の低い値。例えば−25℃)、且つ、NC≦所定値(所定の低い値。例えば1000rpm)の状態が所定時間(例えば30sec)経過したこと、の条件が成立したことで圧縮機2の運転効率が低下していると判定する。
【0091】
(6−5−3)放熱器4の吸熱によるHP停止判定
また、室外熱交換器7に着霜が成長すると外気との熱交換器効率が低下する関係上、外気からの吸熱量が低下するため、放熱器4が発生する暖房能力も低下する。また、外気温度が低くなったときには圧縮機2に吸い込まれる冷媒の密度が低下するため、この場合も放熱器4が発生する暖房能力は低下してくる。他方、前述した如く熱媒体循環回路23は係る放熱器4の暖房能力の低下分を補うかたちで運転されるため、放熱器4の暖房能力が低下してくると、やがて熱媒体循環回路23の暖房能力が放熱器4の暖房能力より大きくなる場合が発生する。
【0092】
係る場合、特に実施例の如く放熱器4の空気上流側に熱媒体循環回路23の熱媒体−空気熱交換器40が配置されていると、熱媒体−空気熱交換器40で加熱されて放熱器4に流入する空気から放熱器4が吸熱する現象が発生する。係る吸熱現象が発生すると、全体能力Qtotalは低下し、要求能力TGQを満足することができなくなって車室内を快適に暖房することができなくなると共に、放熱器4の暖房能力を発生するために圧縮機2の動力が無駄となり、余分な電力を消費してTotalCOPが低下してしまう。そこで、実施例では、
(ニ)熱媒体循環回路23の熱媒体加熱電気ヒータ35が通電されており、且つ、圧縮機2の回転数NC≦所定値(所定の低い値。例えば2000rpm)、且つ、(Qtotal−熱媒体循環回路23の消費電力)≦所定値(所定の低い値。例えば200W)又はTotalCOP<所定値(例えば1)であること、の条件が成立したことで放熱器4による吸熱が発生していると判定する。
尚、TotalCOP=(Qtotal−熱媒体循環回路23の消費電力)/圧縮機2の消費電力、である。
【0093】
(6−6)移行時制御
コントローラ32は、ステップS4で上記(イ)〜(ニ)のうちの何れかの条件が成立した場合、ヒートポンプ(圧縮機2)を停止すると判定する。ステップS4でヒートポンプ(圧縮機2)を停止する判定がなされると、コントローラ32はHP停止判定フラグfHPstpをセット「1」してステップS6に進み(Y、HP停止、fHPstp=1)、移行時制御を開始する。
【0094】
この移行時制御では、先ずステップS6で圧縮機2の停止処理終了判定(HP停止処理終了判定)を行う。このステップS6でのHP停止処理終了判定では、HP停止フラグfHPstpPrsがリセット「0」のときはステップS13に進み、HP停止フラグfHPstpPrsがセット「1」されているときは(Y、HP停止処理終了)、ステップS14に進んでヒートポンプ(圧縮機2)を停止する。
【0095】
(6−6−1)圧縮機2の回転数と熱媒体循環回路23の要求能力演算
ステップS6に進んだ段階ではHP停止フラグfHPstpPrsはリセット「0」されているので(N、HP停止処理中)、コントローラ32はステップS13に進んでHP停止処理演算を行う。このHP停止処理演算では、コントローラ32は先ず熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrをTGQとする(TGQhtr=TGQ)。また、HP停止判定フラグfHPstp=1、且つ、HP停止フラグfHPstpPrs=0であるので、
図4における切換部63はF/F操作量演算部58に入力される要求能力TGQを、(TGQ−Qhtr)に置き換える。
【0096】
熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrが要求能力TGQとされることで、熱媒体循環回路23(熱媒体−空気熱交換器40)が実際に発生する暖房能力であるHTR実能力Qhtrは要求能力TGQに向けて増大していく。一方、F/F操作量演算部58に入力される要求能力TGQが(TGQ−Qhtr)に置き換えられることにより、HTR実能力Qhtrが増大する分、F/F操作量TGNChffが減少し、圧縮機目標回転数TGNChが低下するので、放熱器4が実際に発生する暖房能力であるHP実能力QhpもHTR実能力Qhtrの増大に応じて低下していくことになる。
【0097】
図8はこの移行時制御における各能力や温度と圧縮機2の回転数のタイミングチャートを示している。図中「HP運転」で示す範囲は前述した放熱器4と熱媒体循環回路23による協調制御の範囲を示しているが、実施例では熱媒体循環回路23は停止している(TGQhtr=0、Qhtr=0)。この状態で、
図5のステップS4でHP停止判定フラグfHPstpがセット「1」されると、移行時制御が開始される。図中「HP→補助ヒータ切換え中」で示す範囲が移行時制御の範囲である。
【0098】
この移行時制御中、前述した如く熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrは要求能力TGQとされるので(図中垂直に上昇する破線)、HTR実能力Qhtrも上昇していくが、実際には熱媒体循環回路23の熱容量が大きいので、図中「補助ヒータの応答遅れ」で示す遅延時間を置いてHTR実能力Qhtrは上昇し始める(補助ヒータ温度Thtrも同様)。
【0099】
このとき、
図4のF/F操作量演算部58に入力される要求能力TGQは(TGQ−Qhtr)に置き換えられるので、この応答遅れの期間はそのままTGQが維持されることになり、熱媒体循環回路23の熱容量を考慮した予備運転と同様の効果となる。また、この応答遅れの期間の後、HTR実能力Qhtrの増大に応じて、HP実能力Qhpが低下していくことになるので、
図8に示す如く放熱器温度センサ46が検出する放熱器温度TCIが変化せず、或いは、殆ど変化しなくなることが分かる。このとき、実施例では(TGQ−Qhtr)をF/F操作量演算部58に入力させている。これにより、熱媒体循環回路23による暖房能力の増大に敏感に応答し、圧縮機2の回転数NCが迅速に低下していくことになるので、車室内に吹き出される吹出温度の変動は効果的に解消されることになる。
【0100】
(6−6−2)HP完全停止判定
また、コントローラ32は
図5のステップS13でHP完全停止判定を行う。この場合のHP回転停止判定の条件は、実施例では、
(ホ)要求される放熱器4の暖房能力である要求能力TGQと熱媒体循環回路23が実際に発生する暖房能力であるHTR実能力Qhtrとの差(TGQ−Qhtr)≦所定値(所定の低い値。例えば300W)、
(ヘ)放熱器4が実際に発生する暖房能力であるHP実能力Qhp≦所定値(所定の低い値。例えば300W)、
(ト)圧縮機2の目標回転数TGNCh≦所定値(所定の低い値。例えば800rpm)、のうちの何れかの条件が成立したか否かであり、これら(ホ)〜(ト)のうちの何れかの条件が成立した場合、コントローラ32はHP停止フラグfHPstpPrsをセット「1」する。
【0101】
このHP停止フラグfHPstpPrsがセット「1」されると、コントローラ32は移行時処理を終了し、
図5のステップS6からはステップS14に進んでヒートポンプ(圧縮機2)を停止する。これにより、以後は熱媒体循環回路23のみによる暖房が行われることになる。
図8中「補助ヒータ単独運転」で示す範囲がこの熱媒体循環回路23単独による暖房の範囲を示している。尚、HP停止フラグfHPstpPrsは次回ステップS4でHP停止判定フラグfHPstpがリセット「0」されるまでセット「1」の状態が維持される。
【0102】
以上のように、コントローラ32が暖房モードにおいて、熱媒体循環回路23のみによる車室内の暖房に移行する際、圧縮機2を停止する以前に熱媒体循環回路23による暖房能力を増大させ、当該熱媒体循環回路23による暖房能力の増大に応じて放熱器4による暖房能力を低下させる移行時制御を実行するので、熱媒体循環回路23単独による暖房に移行する際に、熱媒体循環回路23による暖房能力が増大する以前に放熱器4による暖房能力が急激に減少して車室内に吹き出される空気温度が大きく下がる方向に変動してしまう不都合を防止若しくは抑制し、搭乗者の快適性を改善することができるようになる。
【0103】
この場合、コントローラ32は移行時制御では、熱媒体循環回路23の要求能力TGQhtrを、暖房モードにおいて要求される放熱器4の暖房能力である要求能力TGQとするので、熱媒体循環回路23による暖房能力を迅速に増大させることができるようになる。
【0104】
具体的には、コントローラ32は暖房モードにおいて、車室内に吹き出される空気温度の目標値である目標吹出温度TAOに基づいて高圧圧力の目標値(目標放熱器圧力PCO)を算出し、当該目標値と高圧圧力(放熱器圧力PCI)、及び、要求能力TGQに基づいて圧縮機2の回転数NCを制御すると共に、移行時制御では、熱媒体循環回路23が実際に発生する暖房能力であるHTR実能力Qhtrを、要求能力TGQから差し引くので、熱媒体循環回路23による暖房能力の増大に応じた放熱器4による暖房能力の低下を実現することができる。
【0105】
この場合、コントローラ32は暖房モードにおいて、少なくとも要求能力TGQに基づくフィードフォワード演算により圧縮機2の目標回転数TGNChのF/F操作量TGNChffを算出し、目標値(目標放熱器圧力PCO)と高圧圧力(放熱器圧力PCI)に基づくフィードバック演算により圧縮機2の目標回転数TGNChのF/B操作量TGNChfbを算出し、これらF/F操作量TGNChffとF/B操作量TGNChfbを加算することで圧縮機2の目標回転数TGNChを算出すると共に、移行時制御では、要求能力TGQからHTR実能力Qhtrを差し引いた値(TGQ−Qhtr)に基づいてF/F操作量TGNChffを算出するので、熱媒体循環回路23による暖房能力の増大に敏感に応答し、圧縮機2の回転数NCを迅速に低下させることができるようになり、より的確且つ快適な移行時制御を実現することが可能となる。
【0106】
また、コントローラ32は、室外熱交換器7への着霜が進行したこと、又は、圧縮機2の運転効率が低下したこと、若しくは、放熱器4による吸熱が発生したこと、のうちの何れかの条件が成立した場合に上記移行時制御を開始するようにし、これら移行時制御を開始する条件が何れも成立していない場合は、放熱器4による暖房能力が不足する分を熱媒体循環回路23による加熱で補完する協調制御を実行するので、放熱器4と熱媒体循環回路23が協調した暖房と熱媒体循環回路23単独による暖房の切り換えを的確に実現することができるようになる。
【0107】
この場合、コントローラ32は移行時制御において、要求される放熱器4の暖房能力である要求能力TGQと熱媒体循環回路23が実際に発生する暖房能力であるHTR実能力Qhtrとの差(TGQ−Qhtr)が所定値以下に低下したこと、又は、放熱器4が実際に発生する暖房能力であるHP実能力Qhpが所定値以下に低下したこと、若しくは、圧縮機2の目標回転数TGNChが所定値以下に低下したこと、のうちの何れかの条件が成立した場合、圧縮機2を停止するので、熱媒体循環回路23単独による暖房に的確に移行することができるようになる。
【0108】
尚、
図1の実施例では熱媒体循環回路23で補助加熱装置を構成したが、それに限らず、PTCヒータで補助加熱装置を構成してもよい。その場合は、空気流通路3に
図1の熱媒体−空気熱交換器40の代わりにPTCヒータが配置されることになる。このPTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)ヒータは、その特性上当該PTCヒータに流入する空気温度が低い方が性能を発揮できるため(抵抗値が高くならない)、実施例のように放熱器4よりも空気上流側に設けることが効率的である。
【0109】
図9は係るPTCヒータを空気流通路3に配置したときの移行時制御における各能力や温度と圧縮機2の回転数のタイミングチャートを示している。PTCヒータを空気流通路3に配置した場合、前述した実施例の熱媒体循環回路23よりも熱容量が小さいので、「補助ヒータの応答遅れ」で示す遅延時間は
図8の場合よりも短くなる。それ以外は
図8の場合と同様である。
【0110】
また、上述した実施例では移行時制御を開始すると同時に熱媒体循環回路23(或いはPTCヒータ)の要求能力TGQhtrを要求能力TGQとしたが、それに限らず、
図8、
図9中傾斜した破線で示す如く熱媒体循環回路23(或いはPTCヒータ)の要求能力TGQhtrを徐々に要求能力TGQまで増大させるようにしてもよい。具体的には、規定の上昇速度で増大させるか、TGQまで一次遅れで上昇させることになる。
【0111】
熱媒体循環回路23(或いはPTCヒータ)の要求能力TGQhtrを、徐々に要求能力TGQまで増大させるようにすれば、急激な熱媒体循環回路23(PTCヒータ)による暖房能力の増大を抑制して、車室内に吹き出される空気温度の急激な変動を一層効果的に抑制することができるようになる。
【0112】
また、熱媒体循環回路23などの熱容量の大きい補助加熱装置の場合には、コントローラ32により、移行時制御で補助加熱装置の熱容量に応じて、放熱器4による暖房能力の低下を開始する以前に補助加熱装置による暖房能力の増大を開始する予備運転期間を設けてもよい。それにより、実施例の如き(TGQ−Qhtr)に基づくF/F操作量TGNChffの算出を行わない場合にも、熱容量が大きい補助加熱装置の応答遅れに支障無く対応することが可能となる。
【0113】
また、上述した実施例では
図4のF/F操作量演算部58に入力される要求能力TGQを、移行時制御において(TGQ−Qhtr)に置き換えたが、請求項4及び請求項5の発明以外の発明では、置き換えなくとも良い。即ち、置き換えない場合には、圧縮機2を停止する以前に熱媒体循環回路23による暖房能力を増大させることで、係る熱媒体循環回路23による暖房能力の増大に応じ、
図4のF/B操作量演算部60によるフィードバック演算が圧縮機2の回転数NCを低下させ、放熱器4による暖房能力を低下させる方向に作用するからである。
【0114】
しかしながら、フィードバック演算では熱媒体循環回路23による暖房の影響が出てから圧縮機2の回転数NCを下げることになるため、結果として吹出温度が一時的に上昇してしまう場合がある。そこで、実施例の如く(TGQ−Qhtr)をF/F操作量演算部58に入力させれば、熱媒体循環回路23による暖房能力の増大に敏感に応答することができるようになる。これにより、圧縮機2の回転数NCが迅速に低下していくことになるので、車室内に吹き出される吹出温度の変動(一時的な上昇)を効果的に解消することができる。
【0115】
更に、実施例では暖房モード、除湿暖房モード、内部サイクルモード、除湿冷房モード、冷房モードの各運転モードを切り換えて実行する車両用空気調和装置1について本発明を適用したが、それに限らず、暖房モードのみ行うものにも本発明は有効である。
【0116】
更にまた、上記各実施例で説明した冷媒回路Rの構成や各数値はそれに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。