特許第6795737号(P6795737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スミリーフ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6795737-漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置 図000002
  • 特許6795737-漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置 図000003
  • 特許6795737-漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置 図000004
  • 特許6795737-漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置 図000005
  • 特許6795737-漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置 図000006
  • 特許6795737-漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置 図000007
  • 特許6795737-漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置 図000008
  • 特許6795737-漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置 図000009
  • 特許6795737-漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795737
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/70 20170101AFI20201119BHJP
   A01M 25/00 20060101ALI20201119BHJP
   A01M 27/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   A01K61/70
   A01M25/00 Z
   A01M27/00
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-175518(P2016-175518)
(22)【出願日】2016年9月8日
(65)【公開番号】特開2018-38332(P2018-38332A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】312007825
【氏名又は名称】スミリーフ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 清
(72)【発明者】
【氏名】阿部 豊太郎
(72)【発明者】
【氏名】大井 淳
【審査官】 大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3087608(JP,U)
【文献】 特開昭52−006680(JP,A)
【文献】 特開2014−168422(JP,A)
【文献】 特開2008−092839(JP,A)
【文献】 特開平11−032623(JP,A)
【文献】 特開2011−092171(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/001563(WO,A1)
【文献】 特開平09−074975(JP,A)
【文献】 特開2002−272310(JP,A)
【文献】 米国特許第06279187(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00−63/10
A01M 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方が開放され、側方全周と上方とが閉鎖された函体を、海底に設置されている漁礁の上方から覆うように設置し、
前記函体内の環境を、前記漁礁の表面に付着している海洋生物を死滅させることが可能な状態とすることを特徴とする漁礁の清掃方法。
【請求項2】
下方が開放され、海底に設置されている漁礁の側方全周と上方とを覆うことができる函体と、
海面上から前記函体を吊り上げ又は吊り下ろすための吊り材が接合される吊り手と、
海面下で吊り支持された前記函体又は海底に設置された前記函体の内側への気体の圧入又は前記函体の内側からの排出を行うための通気管と、
前記函体に支持され、海底に設置されている前記漁礁より上方に吊り支持された状態で該漁礁の位置を検知する漁礁位置検知手段と、を有することを特徴とする漁礁清掃装置。
【請求項3】
前記漁礁の側方全周と上方とを覆うように設置された前記函体内で、該函体内の海水面上に露出している前記漁礁の表面に付着している海洋生物、又は該函体内の海水面下にある前記漁礁の表面に付着している海洋生物を死滅させる駆除手段を有することを特徴とする請求項2に記載の漁礁清掃装置。
【請求項4】
前記函体の内側に、液体、気体もしくは液体と気体との混合物を噴射し、又は液体、気体及び液体と気体との混合物のいずれかに粒状の固体を添加して噴射し、前記漁礁の表面で死滅した海洋生物を除去する除去手段を有することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の漁礁清掃装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類及び海中生物の繁殖及び生育を促進するために海底に設置されている漁礁の表面を清掃する方法、並びに漁礁清掃装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚類、貝類、甲殻類、頭足類等の繁殖及び生育を促進するために漁礁を海底に沈設することが行われている。このような漁礁は、特定の海洋生物を対象として設置されることがある。例えば、特許文献1に記載の漁礁は、コンクリートからなるものであって、主としてアワビやサザエ等の貝類の繁殖を目的として設置されている。また、同様にコンクリートからなる漁礁であって、イカの産卵場所を提供するために設置されるもの等がある。
【0003】
このような漁礁では、海底に設置した後、長期間が経過すると表面にフジツボやホヤ等の対象としない海洋生物が付着し、対象とする海洋生物の繁殖のための機能が失われることがある。このような状態になると、機能を回復するために漁礁の表面の対象外の生物を駆除し、設置後間もない状態に清掃することが望まれる。
【0004】
漁礁の表面を清掃する方法として、潜水した作業者が海底に設置されている漁礁に接近し、把持した道具等を用いて表面の海洋生物を剥離、除去する方法が考えられる。また、海底に設置されている漁礁を一旦海面上に引き上げ、船上又は陸上において表面の海洋生物を剥離した後、海底に戻すという方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−348659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、潜水した作業者が海底で漁礁の表面を清掃する作業は、多大な労力が必要になるとともに効率が悪い。つまり、海中では作業者が自らの身体を安定した状態に維持することが難しく、漁礁に強く付着している生物を剥離する作業は困難がともなうものとなる。また、漁礁を海面上に吊り上げて清掃した後に海底に戻す方法では、吊り上げるための作業及び再び海底に設置するための作業が必要となり、費用が多大なものとなる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、海底に設置されている漁礁に付着した海洋生物を、少ない費用で効率よく除去することができる漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 下方が開放され、側方全周と上方とが閉鎖された函体を、海底に設置されている漁礁の上方から覆うように設置し、 前記函体内の環境を、前記漁礁の表面に付着している海洋生物を死滅させることが可能な状態とする漁礁の清掃方法を提供する。
【0009】
上記発明において、函体内の環境が漁礁の表面に付着している海洋生物を駆除することが可能な状態とは、例えば次のような状態とするものである。
(1)空気を圧入して函体内の海水面を降下させ、清掃する部分を函体内の海水面上に露出した状態として所定の期間保持する。気中に曝すことによって海中に生息する生物を駆除するものである。
(2)空気を圧入して函体内の海水面を降下させ、清掃する部分を函体内の海水面上に露出した状態とした後、高温高圧の蒸気を函体内に注入して所定温度に所定時間保持する。高温にすることによって漁礁に付着した海洋生物を駆除するものである。
(3)空気を圧入して函体内の海水面上に漁礁が露出した状態で駆除用薬剤を散布する。薬剤は酸性液、アルカリ溶液等を用いることができる。
(4)漁礁が函体内の海水面下にある状態で、駆除用の薬剤を函体内の海水中に添加する。函体によって隔離された範囲内の海水中に薬剤を加え、漁礁に付着している海洋生物を駆除するものである。薬剤によって周囲の環境に影響が及ぶおそれがあるときには、駆除後に函体内の海水を吸引して排出し、処理を行うことによって周辺環境への影響を回避することができるものである。
(5)空気を圧入して函体内の海水面上に漁礁が露出した状態で、函体内に設置したヒータで加熱して所定温度に所定時間保持する。ヒータは、例えばハロゲンヒータランプ、赤外線ランプ等を用いることができる。高温によって海洋生物を駆除するものである
(6)空気を圧入して函体内の海水面上に漁礁が露出した状態で、函体内に設置した電磁波発生装置で電磁波を漁礁の表面に照射し、海洋生物が有する水分を加熱する。例えば、2450MHzのマイクロ波を函体内で発生させ、海洋生物が含む水分子に作用して加熱するものである。
(7)空気を圧入して函体内の海水面上に漁礁が露出した状態で、函体内の海水を電気分解し、函体内に塩素ガスを発生させる。気中に曝された海洋生物は塩素ガスによって駆除される。
(8)漁礁が函体内の海水面下にある状態で、函体内の海水を電気分解し、函体内の海水中に次亜塩素酸ナトリウムを生じさせる。海水を電気分解すると陽極で塩素が、陰極で水素が発生するとともに水酸化ナトリウムが生成され、これらが反応することによって次亜塩素酸ナトリウムが生成される。このように函体内で漁礁を浸す海水中に次亜塩素酸ナトリウムが含まれることによって海洋生物を駆除するものである。
【0010】
この漁礁の清掃方法では、函体を海面上から吊り支持し、海底に降下させることによって海底に設置された漁礁の側方と上方とを覆うように設置することができる。これによって函体内つまり漁礁の周辺部の限定された範囲は、周囲の海水と隔離される。したがって、函体内に限定した範囲の環境を海洋生物が駆除される状態に調整することができ、効率よく漁礁に付着した海洋生物を駆除することができる。また、函体内の環境の調整は、海面上からの操作で行うことができ、潜水しての作業を行うことなく、又は潜水しての作業を極力低減して漁礁に付着した海洋生物を駆除することが可能となる。
【0011】
請求項2に係る発明は、 下方が開放され、海底に設置されている漁礁の側方全周と上方とを覆うことができる函体と、 海面上から前記函体を吊り上げ又は吊り下ろすための吊り材が接合される吊り手と、 海面下で吊り支持された前記函体又は海底に設置された前記函体の内側への気体の圧入又は前記函体の内側からの排出を行うための通気管と、 前記函体に支持され、海底に設置されている前記漁礁より上方に吊り支持された状態で該漁礁の位置を検知する漁礁位置検知手段と、を有する漁礁清掃装置を提供するものである。
【0012】
この漁礁清掃装置では、海面上から吊り支持して降下させ、漁礁位置検出手段よって漁礁の位置を検出しながら、海面上からの操作で函体が海底に設置されている漁礁を覆うように設置することができる。そして、函体が海底の漁礁を覆うように設置されることによって函体内が周囲の海水から隔離され、通気管を使用して空気、高温蒸気等の気体を導入又は排出することができる。これにより、海面上から海底に設置された函体内の環境を調整することができ、周囲の環境に影響を及ぼすことを抑制した状態で函体内を漁礁に付着した海洋生物を駆除することができる環境にすることが可能となる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の漁礁清掃装置において、 前記漁礁の側方全周と上方とを覆うように設置された前記函体内で、該函体内の海水面上に露出している前記漁礁の表面に付着している海洋生物、又は該函体内の海水面下にある前記漁礁の表面に付着している海洋生物を死滅させる駆除手段を有するものとする。
【0014】
この漁礁清掃装置では、駆除手段によって早期に海洋生物を死滅させ、効率よく漁礁に付着した海洋生物を駆除することができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項2又は請求項3に記載の漁礁清掃装置において、 前記函体の内側に、液体、気体もしくは液体と気体との混合物を噴射し、又は液体、気体及び液体と気体との混合物のいずれかに粒状の固体を添加して噴射し、前記漁礁の表面で死滅した海洋生物を除去する除去手段を有するものとする。
【0016】
漁礁に付着した状態で死滅した海洋生物は、生きているときより付着力が減少しており、この漁礁清掃装置が有する除去手段で、液体、気体もしくは液体と気体との混合物、又はこれらに粒状の固体を添加して噴射することにより、漁礁の表面に付着したまま死滅した海洋生物が効率よく除去される。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の漁礁の清掃方法では、海底に潜水して多くの作業を行うことなく、漁礁に付着した海洋生物を効率よく駆除することができる。また、本発明の漁礁清掃装置では、海底に設置されている漁礁を函体で覆い、漁礁に付着した海洋生物を、少ない費用で効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る漁礁の清掃方法を適用することができる漁礁の例を示す概略側面図及びへ概略平面図である。
図2】本発明に係る漁礁の清掃方法の概略を示す断面図である。
図3】本発明に係る漁礁の清掃方法の一実施形態であって、本発明の一実施形態である漁礁清掃装置を使用して漁礁に付着した海洋生物を駆除する状態を示す概略断面図である。
図4】本発明に係る漁礁清掃装置の他の実施形態を用いて漁礁に付着した海洋生物を駆除する状態を示す概略断面図である。
図5】本発明に係る漁礁清掃装置の他の実施形態を用いて漁礁に付着した海洋生物を駆除する状態を示す概略断面図である。
図6】本発明に係る漁礁清掃装置の他の実施形態を用いて漁礁に付着した海洋生物を駆除する状態を示す概略断面図である。
図7】本発明に係る漁礁清掃装置の他の実施形態を用いて漁礁に付着した海洋生物を駆除する状態を示す概略断面図である。
図8】本発明に係る漁礁清掃装置の他の実施形態を用いて漁礁に付着した海洋生物を駆除する状態を示す概略断面図である。
図9】本発明に係る漁礁清掃装置の他の実施形態を用いて漁礁に付着した海洋生物を駆除する状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る漁礁の清掃方法によって清掃することができる漁礁が海底に設置された状態を示す概略側面図及び概略平面図である。
この漁礁1は、鉄筋コンクリートで形成された版状部2aと脚部2bとを備える漁礁用ブロック2を、図1(a)に示すように複数積み重ねて設置されている。
【0020】
上記漁礁用ブロック2の版状部2aは、平面形状がほぼ矩形となっており脚部2bによってほぼ水平に支持されるものである。脚部2bは、この版状部2aの4つ隅角部から下方に突き出すように設けられている。そして、脚部2bが設けられている部分の上部には切り欠き2cが設けられ、同形状の他の漁礁用ブロック2が備える脚部2bの下端を嵌め合わせることができるものとなっている。これにより、海底に設置された一つの漁礁用ブロック2-1の上に一つ又は複数の同形状の漁礁用ブロック2-2,2-3を、安定した状態で積み重ねることができる。なお、積み重ねた上層の漁礁用ブロック2-2と下層の漁礁用ブロック2-1とは、予め埋め込まれているアンカーボルト(図示しない)等を用いて連結し、波浪や潮流によって上層の漁礁用ブロック2-2と下層の漁礁用ブロック2-1とが分離するのを防止するのが望ましい。
【0021】
本件発明に係る漁礁の清掃方法では、図2に示すように既に海底に設置されている漁礁1の上方から下方が開放された函体11を備えた漁礁清掃装置10を下降させ、漁礁1の側方及び上方を函体11で覆うように設置する。そして、漁礁1を周囲の海洋環境から隔離して函体11内を漁礁1に付着している海洋生物が生育できない状態にして駆除するものである。
【0022】
図3は、本発明の一実施形態である漁礁清掃装置を用いて漁礁の表面を清掃する状態を示す概略断面図である。
この漁礁清掃装置10は、鉄筋コンクリートで形成された中空のほぼ直方体であって下方が開放された函体11と、この函体11を吊り支持するための吊り手12と、函体内に空気を供給又は函体内から排出を行うことができる通気管13と、海面上から函体内に高温高圧の蒸気を供給する蒸気供給管14と、函体に取り付けられて下方を撮影する下方監視カメラ15と、を備えている。
【0023】
上記函体11は、内側の寸法が海底に設置されている漁礁1の側方及び上方をすっぽりと覆うことができるものとなっている。そして、函体11の内側が空気又はその他の気体で占められたときにも、浮力で浮き上がらない質量を有するものである。また、函体11の内側が気体で満たされたときの内圧と外側から作用する水圧との差に耐えられる強度を有するものである。
【0024】
上記吊り手12は複数が設けられ、函体上部のコンクリート中に先端部が埋め込まれて、環状となった部分が上方に突き出したものである。この環状部に揚重機3で巻き上げられる吊り枠4を介して吊り材5を係止することができるものとなっている。
上記通気管13は、函体上部のコンクリートを貫通するように管部材13aが埋め込まれ、海面上にまで連続するホース16を接続するためのコネクター13bを備えている。ホース16は、海面上に設置されたコンプレッサー等の高圧空気を供給することができる装置(図示しない)と接続されるものである。
【0025】
上記蒸気供給管14は、上記通気管13と同様に函体上部のコンクリートを貫通する管部材14aとホース17が接続されるコネクター14bを有するものであり、ホース17が海面上に設けられて高圧蒸気を供給するボイラー(図示しない)と接続されている。
なお、蒸気供給管14は、これを設けることなく通気管13と兼用するものとし、海面上でホース16の接続先をコンプレッサーとボイラーとのいずれかに切り替えて接続してもよい。
【0026】
上記下方監視カメラ15は、海水中で下方の状態を撮影し、即時に海面上に設けられたモニター(図示しない)に撮影した画像を表示することができるものであり、漁礁位置検知手段として機能するものである。この下方監視カメラ15により、函体11を吊り支持して海底に向けて降下させるときに、海底に設置されている漁礁1の位置を確認することができる。
これらの下方監視カメラ15は、函体11の外側の側面に取り付けられて下方を撮影する外部カメラ15aと、函体11の内側の上面に取り付けられて吊り支持されている函体11の直下を撮影する内部カメラ15bとが設けられている。
【0027】
このような漁礁清掃装置10を用いて既に設置されている漁礁の清掃を行う方法は、次のような工程で実施することができる。
上記漁礁清掃装置10は台船等によって漁礁が設置されている位置の海面上に搬送し、図2に示すように揚重機3によって吊り上げて海水中に降下させる。このとき、下方監視カメラ15によって下方の状態を撮影し、漁礁1の位置を確認する。そして、揚重機3の操作によって吊り支持している漁礁清掃装置10の位置を漁礁1が設置されている位置の直上に合わせる。また、漁礁1の平面形状が図1に示すように矩形であって、函体11がこれに合わせて製作されているときには、吊り枠4に取り付けられた方向調整装置7によって函体の向きを調整し、漁礁1の上方から覆うように函体11を設置することができる。
上記方向調整装置7は、例えば水平方向に圧縮空気を噴射して巻き上げ用吊り材6の周りに函体11をゆっくりと回転させるものを採用することができる。
【0028】
図3に示すように漁礁清掃装置10の函体11が漁礁1を覆うように設置されると、通気管13から圧縮空気を圧入することによって函体11内の海水面の位置を函体11の下端付近まで下降させる。下方が開放された函体11を海面上で吊り上げ、下降させたときに函体内には空気が取り込まれるが、降下させるのにともない、水圧によって体積が減少し、漁礁を覆うように設置されたときには、漁礁は一部が海水に浸された状態となる。このような状態から通気管13を介して圧縮空気を圧入し、漁礁1の清掃しようとする部分が函体11内で海水面上に、つまり気中に露出した状態とする。
【0029】
続いて上記函体11内には、蒸気供給管14から高温高圧の蒸気を送り込む。蒸気は函体11内で冷却されて液化するが、徐々に函体11内の温度が上昇し、漁礁1の表面に付着しているホヤやフジツボ等の海洋生物が死滅する温度となる。このように高温状態として所定の時間維持し、漁礁1の表面に付着した海洋生物を死滅させる。
上記空気の注入又は高温高圧蒸気の函体内への供給によって函体11内の圧力が上昇し、気体が函体11の下端をくぐるように漏出するのを防ぐために、函体の下端から所定の高さの位置に圧力解放孔18を設けておくのが望ましい。これにより、函体内の気体が函体11の下端をくぐるように漏出して設置した函体が不安定になるのを防ぐことができる。
【0030】
函体11内を高温に維持して漁礁に付着した海洋生物を死滅させたのちには、蒸気の供給を停止し、函体内の空気量を調整しながら函体11を海面上に引き上げる。漁礁1に付着したまま死滅した海洋生物は、その後の時間の経過にともなって漁礁の表面から剥離し、漁礁1の清掃を完了する。
なお、上記漁礁清掃装置10では、通気管13と蒸気供給管14とを別途に設けているが、通気管13を蒸気供給管と兼用とするときには、通気管13からの空気の圧入によって函体内の海水面の高さを調整した後、コンプレッサーからの通気路に設けられた弁(図示しない)を閉じ、ボイラーからの蒸気供給路に設けられた弁(図示しない)を開放することによって函体内を高温状態とすることができる。
また、高温高圧の蒸気を供給することなく、漁礁を気中に曝して付着した海洋生物が死滅するまで放置するものであってもよいが、効率よく清掃を行うためには、蒸気の供給を行うか、後述する駆除手段を用いるのが望ましい。
【0031】
図4は、本発明の第2の実施の形態である漁礁清掃装置及びこの清掃装置を用いて漁礁を清掃する状態を示す概略断面図である。
この漁礁清掃装置20は、図3に示す装置10と同様の函体21と、吊り手22と、通気管23と、下方監視カメラ25と、を備えており、これらに加えて函体内の上部に加熱装置26を備えている。上記加熱装置26は駆除手段として機能するものであり、本実施の形態では蒸気供給管は備えていない。
【0032】
上記加熱装置26は、例えばハロゲンヒータランプ、赤外線ランプ等を用いることができ、その他のヒータを用いるものであってもよい。これらの加熱装置26は、海水に浸かっても機能を失わないように防水処理が施されたものとするのが望ましいが、函体内を常に気体が閉じ込められている状態に管理することにより、防水処理を施すことなく使用することもできる。
【0033】
このような漁礁清掃装置20では、図3に示す装置を用いたときと同様に、漁礁清掃装置20を海面上から吊り支持し、函体21が漁礁1を覆うように設置する。そして、通気管23から空気を圧入して函体21内の海水面を下降させて漁礁1を函体内の気中に露出させる。この状態で加熱装置26を作動し、函体21内を加熱する。函体21内を所定の温度にまで上昇させることによって漁礁1の表面に付着した海洋生物を駆除することができる。
【0034】
図5は、本発明の第3の実施の形態である漁礁清掃装置及びこの清掃装置を用いて漁礁を清掃する状態を示す概略断面図である。
この漁礁清掃装置30は、図4に示す装置の加熱装置26に代えて電磁加熱装置36を有するものである。
上記電磁加熱装置36は、例えばマイクロ波を函体内に向けて放射するものを用いることができる。マイクロ波は電子レンジ等において広く採用されている周波数のものを使用することができ、変化する放射電解のエネルギーが熱になって加熱しようとする対象が加熱されるものである。
この漁礁清掃装置30でも、図4に示す装置と同様に漁礁1が函体31内で気中に露出した状態で、漁礁1の表面に付着した海洋生物を直接に加熱し、効率よく駆除することができる。
【0035】
図6は、本発明の第4の実施の形態である漁礁清掃装置及びこの清掃装置を用いて漁礁を清掃する状態を示す概略断面図である。
この漁礁清掃装置40は、図4又は図5に示す装置と同様の函体41と、吊り手42と、通気管43と、下方監視カメラ45と、を備えており、これらに加えて、函体41の上部から函体内に薬液を供給することができ、駆除手段として機能する薬液供給管44と、函体内の海水を吸引して排出する排水管46と、を備えている。
上記薬液供給管44は、通気管43と同様に函体41の上部を貫通して函体内で開口するように設けられ、海面上で調整された薬液を送り込むホース47と接続するためのコネクター44aを備えている。この薬液供給管から供給される薬液は、酸性液又はアルカリ溶液等を用いることができ、例えば酢酸、水酸化ナトリウム水溶液等を用いることができる。
上記排水管46は、函体41内の下部で開口するように設けられ、函体41の外側で吸引ホース48と接続するためのコネクター46aが設けられている。上記吸引ホース48は、海面上に設けられた吸引ポンプ(図示しない)に接続される。
【0036】
このような漁礁清掃装置を用いて漁礁を次のように清掃することができる。
上記漁礁清掃装置40を、図2に示すように揚重機3で吊り支持し、海中に降下させて、図6に示すように函体41が漁礁1の側方及び上方を覆うように設置する。そして、通気管43を介して函体41内に閉じ込められている空気量を調整し、漁礁1が函体内で海水に浸されるように函体内の海水面を調整する。この状態で薬液供給管44から薬液を供給し、函体内の海水と混合する。薬液を含む海水中に浸されることによって、漁礁1の表面に付着している海洋生物が死滅し、駆除される。
【0037】
漁礁1が函体41内で薬液を含む海水中に浸され、所定の時間が経過した後、通気管43から空気を圧入するとともに、排水管46を介して函体内の海水を吸引し、海面上に排出する。排出された薬液を含む海水は中和する等の処理を行う。このように薬液を含む海水を回収することによって薬液が周囲の海洋環境に影響を及ぼすのを抑制することができる。
薬液を含む海水を函体41内から排出した後、函体内の空気量を調整しながら漁礁清掃装置40を引き上げ、漁礁の清掃を完了する。
【0038】
図7は、本発明の第5の実施の形態である漁礁清掃装置及びこの清掃装置を用いて漁礁を清掃する状態を示す概略断面図である。
この漁礁清掃装置50は、図6に示す装置と同様の函体51と、吊り手52と、通気管53と、薬液供給管54と、下方監視カメラ55と、を備えており、この漁礁清掃装置50では、函体内で薬液供給管54の先端に薬液噴出管56が接続されている。この薬液噴出管56は、函体内で漁礁1の側方に設けられたノズル56aから漁礁1に向かって薬液を噴出するものとなっている。
なお、ノズル56aは漁礁1の側方から噴出するものに代えて、又は側方から噴出するものに加えて上方から薬液を噴出するものを用いることもできる。
【0039】
この漁礁清掃装置50では、函体51が漁礁1を覆うように設置した後、通気管53を介して空気を圧入し、函体51内で漁礁1が空気中に露出するように函体内の海水面を下降させる。そして、薬液供給管54から供給された薬液を薬液噴射管56のノズル56aから噴出し、漁礁1の表面に散布する。この薬液の作用によって漁礁1の表面に付着した海洋生物が駆除される。
その後、函体51内の空気量を調整しながら漁礁清掃装置50を海面上に引き上げてもよいが、図6に示す装置と同様の排水管(図示しない)を設けておき、薬液による海洋生物の駆除を行った後に、函体51内の空気量の調整によって函体内の海水面を上昇させ、漁礁1を函体内の海水中に浸してもよい。そして、薬液を海水中に洗い出してから排水管を通じて函体内の海水を吸引し、排水することによって周囲の海洋環境への影響を低減することができる。
【0040】
図8は、本発明の第6の実施の形態である漁礁清掃装置及びこの清掃装置を用いて漁礁を清掃する状態を示す概略断面図である。
この漁礁清掃装置60は、図4又は図5に示す装置と同様の函体61と、吊り手62と、通気管63と、下方監視カメラ65と、を備えており、加熱手段に代えて海水を電気分解するための二つの電極64a,64bを備えている。
上記電極64a,64bは、図8に示すように函体61の内側に取り付けられ、二つが互いに離れた位置でそれぞれが函体61内の海水と接触するものとなっている。これらの電極64a,64b間には海面上にある電源装置から導電線(図示しない)を介して直流電圧が印加され、二つの電極64a,64b間に電位差が生じるものとなっている。
【0041】
この漁礁清掃装置60は、図2に示すように揚重機3で吊り支持し、海中に降下させて、図8に示すように函体61が漁礁1の側方及び上方を覆うように設置する。そして、通気管63を介して函体内に閉じ込められている空気量を調整し、漁礁1が函体61内で海水に浸されるように函体内の海水面を調整する。この状態で二つの電極64a,64b間に電圧を印加することによって海水が電気分解され、陽極で塩素が、陰極で水素が発生するとともに水酸化ナトリウムが生成される。これらが反応して次亜塩素酸ナトリウムが海水中に生成され、漁礁1に付着した海洋生物の生育を抑えることができる。
また、この漁礁清掃装置60を使用するときにも、図6に示す装置と同様の排水管を設けておき、電気分解を終了した後に排水管を介して函体内の海水を吸引・排出し、海面上で処理することもできる。
【0042】
図9は、本発明の第7の実施の形態である漁礁清掃装置及びこの清掃装置を用いて漁礁を清掃する状態を示す概略断面図である。
この漁礁清掃装置70は、図8に示す装置と同様の函体71と、吊り手72と、通気管73と、下方監視カメラ75と、を備えており、さらに海水を電気分解するための二つの電極74a,74bを備えているが、図9に示す漁礁清掃装置70では、二つの電極74a,74bは函体71内の下端に近い位置に設けられている。これらの電極74a,74bは、函体内で漁礁1の清掃しようとする部分が海水面上に露出するまで函体内の海水面を下降させたときにも、海水と接する位置となっている。
また、この漁礁清掃装置70は、高圧噴射管76を備えており、海面上から供給される高圧水もしくは高圧の圧縮空気又はこれらの双方を函体71内で漁礁1に向けて噴射するものとなっている。
【0043】
この漁礁清掃装置70では、図9に示すように函体71が海底に設置されている漁礁1の側方及び上方を覆うように設置した後、通気管73を介して函体71内に閉じ込められている空気量を調整し、漁礁1の清掃しようとする範囲が函体71内で海水面上に露出されるように函体内の海水面を下降させる。この状態で二つの電極74a,74b間に電圧を印加することによって海水が電気分解され、陽極で塩素が、陰極で水素が発生する。そして、塩素が函体内の気中に含まれることによって海洋生物が駆除される。
また、この漁礁清掃装置70を使用するときにも、図6に示す装置と同様の排水管を設けておき、海洋生物の駆除後に一旦函体内の海水面を上昇させて、海水中に発生した水酸化ナトリウムと塩素とを反応させた後、排水管を介して函体内の海水を吸引・排出し、海面上で処理することもできる。
【0044】
さらに、漁礁1の表面に付着した海洋生物を死滅させた後、函体71内の海水面を下降させて、上記高圧噴射管76から高圧水もしくは高圧の圧縮空気又はこれらの混合物を漁礁1に向けて噴射し、漁礁に付着したまま死滅した海洋生物を剥離することができる。これにより効率の良い清掃が可能となる。また、これらに粒状の固体、例えば粒度を調整した砂等を混合して噴射することによって死滅した海洋生物を剥離する効果を向上させることもできる。
【0045】
このような高圧噴射管76は、図3から図8までのいずれの漁礁清掃装置30,40,50,60,70においても採用することができ、それぞれが有する手段で漁礁1に付着している海洋生物を死滅させた後に高圧噴射管76からの噴射によって付着している海洋生物を剥離することができる。
【0046】
以上に説明した漁礁の清掃方法及び漁礁清掃装置は本発明の実施の形態であって、本発明はこれらに限定されるものではない。したがって、本発明の範囲内で適宜に変更を加えて実施することができる。
例えば、上記実施の形態では、函体を鉄筋コンクリートで形成されたものとしているが、鋼等の金属で形成されたものを用いることができる。また、形状及び寸法等は、清掃しようとする漁礁の形状および寸法等に対応して適宜に設計することができる。
また、本発明に係る漁礁清掃装置の漁礁位置検知手段は、上記下方監視カメラの他に、水中に超音波を発信して反射波を検出することによって漁礁の位置を検知するもの等を採用することもできる。
【符号の説明】
【0047】
1:漁礁, 2:漁礁用ブロック, 2a:版状部, 2b:脚部, 2c:切り欠き, 3:揚重機, 4:吊り枠, 5:吊り材, 6:巻き上げ用吊り材, 7:方向調整装置,
10:漁礁清掃装置, 11:函体, 12:吊り手, 13:通気管, 13a:管部材, 13b:コネクター, 14:蒸気供給管, 14a:管部材, 14b:コネクター, 15:下方監視カメラ, 15a:外部カメラ, 15b:内部カメラ, 16:ホース, 17:ホース, 18:圧力解放孔,
20:漁礁清掃装置, 21:函体, 22:吊り手, 23:通気管, 25:下方監視カメラ, 25a:外部カメラ, 25b:内部カメラ, 26:加熱装置,
30:漁礁清掃装置, 31:函体, 33:通気管, 35:下方監視カメラ, 36:電磁加熱装置,
40:漁礁清掃装置, 41:函体, 42:吊り手, 43:通気管, 44:薬液供給管, 44a:コネクター, 45:下方監視カメラ, 46:排水管, 46a:コネクター, 47:ホース, 48:吸引ホース,
50:漁礁清掃装置, 51:函体, 52:吊り手, 53:通気管, 54:薬液供給管, 55:下方監視カメラ, 56:薬液噴出管, 56a:ノズル,
60:漁礁清掃装置, 61:函体, 62:吊り手, 63:通気管, 64a,64b:電極, 65:下方監視カメラ,
70:漁礁清掃装置, 71:函体, 72:吊り手, 73:通気管, 74a,74b:電極, 75:下方監視カメラ, 76:高圧噴射管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9