特許第6795790号(P6795790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795790
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】抄き合わせ紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20201119BHJP
   D21H 17/28 20060101ALI20201119BHJP
   D21H 17/44 20060101ALI20201119BHJP
   D21H 17/65 20060101ALI20201119BHJP
   D21H 17/63 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   D21H27/00 E
   D21H17/28
   D21H17/44
   D21H17/65
   D21H17/63
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-121110(P2017-121110)
(22)【出願日】2017年6月21日
(65)【公開番号】特開2018-3231(P2018-3231A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2020年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-124249(P2016-124249)
(32)【優先日】2016年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山平 康裕
(72)【発明者】
【氏名】平野 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】野村 浩
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−189194(JP,A)
【文献】 特開2002−294595(JP,A)
【文献】 特開2009−249785(JP,A)
【文献】 特開2007−169821(JP,A)
【文献】 特表2014−512463(JP,A)
【文献】 米国特許第08771467(US,B1)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0008432(KR,A)
【文献】 特開2010−255161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未糊化澱粉類(A)、イオン性アクリルアミド系共重合体(B)、水溶性アルミニウム化合物(C)、並びに
アルカリ金属塩(d1)、アルカリ土類金属塩(d2)及び第4級アンモニウム塩(d3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性無機系電解質(D)
を含み、
(A)成分100重量部に対して、(B)成分〜(D)成分の合計含有量が0.1〜150重量部であり、かつ(B)成分〜(D)成分の含有比率が、{(B)+(C)}/(D)=30/70〜99/1(固形分重量比)である混合物を湿紙表面へスプレーした後に抄き合わせることを特徴とする、抄き合わせ紙の製造方法。
【請求項2】
(C)成分が、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、硫酸硅酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム及びポリ水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1の抄き合わせ紙の製造方法。
【請求項3】
(d1)成分が、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2の抄き合わせ紙の製造方法。
【請求項4】
(d2)成分が、硫酸マグネシウム及び/又は塩化カルシウムを含む、請求項1〜3のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【請求項5】
(d3)成分が、硫酸アンモニウムを含む、請求項1〜4のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【請求項6】
(B)成分の構成成分が、(メタ)アクリルアミド(b1)、並びにカチオン性単量体(b2)及び/又はアニオン性単量体(b3)を含む、請求項1〜5のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【請求項7】
(b1)成分が62〜98.9モル%、(b2)成分が0.5〜20モル%及び(b3)成分が0.5〜18モル%ある、請求項6の抄き合わせ紙の製造方法。
【請求項8】
(B)成分の構成成分が、さらに(b1)成分〜(b3)成分以外の単量体(b4)を含む請求項6又は7の抄き合わせ紙の製造方法。
【請求項9】
(b4)成分が、N−置換アミド基を有する架橋性ビニルモノマー及び/又は(メタ)アリルスルホン酸塩を含む、請求項6〜8のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【請求項10】
(B)成分の重量平均分子量が800,000〜5,000,000である請求項1〜9のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【請求項11】
(B)成分及び(C)成分の含有比率が、(B)/(C)=30/70〜99/1(固形分重量比)である請求項1〜10のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄き合わせ紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄き合わせ紙は、一般的に湿紙表面へ未糊化澱粉類をスプレーした後、それらを貼り合わせることにより得られる。しかしながら、未糊化澱粉類は湿紙表面に定着し難いため、各湿紙をワイヤー上で脱水する工程や、プレスによって湿紙同士を貼り合わせ、搾水する工程において、抄紙用水と共に流れ出してしまう。その結果、充分な層間強度を発揮する抄き合わせ紙が得られず、また、流出した未糊化澱粉が排水負荷の増加を招きうる。
【0003】
未糊化澱粉類を定着させる技術としては、例えば、アニオン性澱粉、カチオン性澱粉、及び両性澱粉の1種又は2種以上を用い、アニオン基及びカチオン基を含有するように調整したスプレー澱粉を湿潤紙層の表面にスプレーした後、抄き合わせ抄造を行う板紙の抄紙方法が公知である(特許文献1)。しかし、この抄紙方法では、紙の層間強度が充分ではなかった。
【0004】
また、層間への定着性が良く、しかもスプレー塗布にも適したアクリルアミド系水溶性高分子を低添加量で使用することにより、層間接着強度に優れた抄き合わせ紙を製造する方法を提供することを目的に、層間接着剤として、アニオン性の(メタ)アクリルアミド系水溶性もしくは水分散性高分子又は両性の(メタ)アクリルアミド系水溶性もしくは水分散性高分子と、水溶性多価金属塩とを混合して使用することを特徴とする抄き合わせ紙の製造方法も公知である(特許文献2)。特許文献2には、該層間接着剤に、澱粉、変性澱粉などを併用しても良いことも記載されている。しかしながら、該層間接着剤と澱粉を併用すると、澱粉が凝集し、スプレーノズルが詰まる、又はスプレー時に液ダレが発生し、湿紙へ均一にスプレーできない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−230792号公報
【特許文献2】特開平7−189194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、未糊化澱粉類の過凝集によって、スプレー時にスプレーノズルが詰まらず、また液ダレも引き起こさずに、湿紙の層間へ充分に定着し、かつ得られた紙が優れた層間強度を発揮する、抄き合わせ紙の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、未糊化澱粉類に、イオン性アクリルアミド共重合体、水溶性アルミニウム化合物及び特定の無機系電解質を含有する混合物を用いた、抄き合わせ紙の製造方法により、上記課題を解決することを見出した。すなわち本発明は、下記抄き合わせ紙の製造方法に関する。
【0008】
1.未糊化澱粉類(A)、イオン性アクリルアミド系共重合体(B)、水溶性アルミニウム化合物(C)、並びに
アルカリ金属塩(d1)、アルカリ土類金属塩(d2)及び第4級アンモニウム塩(d3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性無機系電解質(D)
を含み、
(A)成分100重量部に対して、(B)成分〜(D)成分の合計含有量が0.1〜150重量部であり、かつ(B)成分〜(D)成分の含有比率が、{(B)+(C)}/(D)=30/70〜99/1(固形分重量比)である混合物を湿紙表面へスプレーした後に抄き合わせることを特徴とする、抄き合わせ紙の製造方法。
【0009】
2.(C)成分が、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、硫酸硅酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム及びポリ水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、前項1の抄き合わせ紙の製造方法。
【0010】
3.(d1)成分が、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、前項1又は2の抄き合わせ紙の製造方法。
【0011】
4.(d2)成分が、硫酸マグネシウム及び/又は塩化カルシウムを含む、前項1〜3のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【0012】
5.(d3)成分が、硫酸アンモニウムを含む、前項1〜4のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【0013】
6.(B)成分の構成成分が、(メタ)アクリルアミド(b1)、並びにカチオン性単量体(b2)及び/又はアニオン性単量体(b3)を含む、前項1〜5のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【0014】
7.(b1)成分が62〜98.9モル%、(b2)成分が0.5〜20モル%及び(b3)成分が0.5〜18モル%ある、前項6の抄き合わせ紙の製造方法。
【0015】
8.(B)成分の構成成分が、さらに(b1)成分〜(b3)成分以外の単量体(b4)を含む前項6又は7の抄き合わせ紙の製造方法。
【0016】
9.(b4)成分が、N−置換アミド基を有する架橋性ビニルモノマー及び/又は(メタ)アリルスルホン酸塩を含む、前項6〜8のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【0017】
10.(B)成分の重量平均分子量が800,000〜5,000,000である前項1〜9のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【0018】
11.(B)成分及び(C)成分の含有比率が、(B)/(C)=30/70〜99/1(固形分重量比)である前項1〜10のいずれかの抄き合わせ紙の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の抄き合わせ紙の製造方法を用いれば、スプレー時に未糊化澱粉類が過凝集を引き起こさずに、湿紙の層間へ充分に定着させることができる。また該製造方法により得られた紙も優れた層間強度を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】スプレー液の再分散性の評価での沈殿物なしの図
図2】スプレー液の再分散性の評価での沈殿物ありの図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の抄き合わせ紙の製造方法では、未糊化澱粉類(A)(以下、(A)成分という。)に対して、イオン性アクリルアミド(B)(以下、(B)成分という。)、水溶性アルミニウム化合物(C)(以下、(C)成分という。)及び前記の水溶性無機系電解質(D)(以下、(D)成分という。)を含有する混合物を、湿紙表面にスプレーした後に抄き合わせることが特徴である。
【0022】
(A)成分は、未糊化澱粉類であり、特に限定なく各種公知のものが使用できる。(A)成分の具体例としては、例えば、コーン、馬鈴薯、タピオカ、小麦、米、サゴヤシ、ワクシーメイズから得られる各種の澱粉類の他、カチオン化澱粉、酸化澱粉、リン酸変性澱粉、カルボキシメチル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、カルバミルエチル化澱粉、シアノエチル化澱粉、ジアルデヒド化澱粉、酢酸変性澱粉等の変性澱粉などが挙げられる。また、市販品を使用しても差支えない。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0023】
また(A)成分としては、前記澱粉類を減成処理したものを使用することもできる。該減成処理としては、前記澱粉類に無機過酸化物を作用させて酸化処理する方法(以下、方法1という。)、前記澱粉類を酵素で処理する方法(以下、方法2という。)などがある。該減成処理澱粉においては、澱粉及び減成剤からなる水溶液を60〜100℃で30〜60分加熱撹拌することで製造できる。
【0024】
前記方法1で用いる無機過酸化物としては、特に限定されないが、例えば、次亜塩素酸塩、ペルオキソ二硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなど)、過酸化水素などが挙げられる。当該過酸化物は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。さらに、過酸化水素に、硫酸鉄及び硫酸銅のうちの少なくとも1種の水溶性金属塩を組み合わせても使用できる。これらの中でも過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム及び過硫酸ナトリウムのうちのいずれか少なくとも1種を好ましく使用できる。方法2では、変性酵素として、各種細菌、動植物の生産するα−アミラーゼが好ましく使用される。
【0025】
(B)成分は、(A)成分の湿紙の紙層への定着を促進させる成分である。(B)成分の構成成分は、(メタ)アクリルアミド(b1)(以下、(b1)成分という。)、並びにカチオン性単量体(b2)(以下、(b2)成分という。)及び/又はアニオン性単量体(b3)(以下、(b3)成分という。)、さらに必要に応じて、(b1)成分〜(b3)成分以外の単量体(b4)(以下、(b4)成分)を含む。
【0026】
(b1)成分は、アクリルアミド、メタクリルアミドを意味する。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。(b1)の含有比率は、(b1)成分〜(b4)成分の合計を100モル%として、通常は62〜98.9モル%であり、好ましくは70〜96.5モル%である。
【0027】
(b2)成分としては、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の第3級アミノ基含有ビニルモノマー又はそれらの塩、及び前記第3級アミノ基含有ビニルモノマーと4級化剤を反応させてなるビニルモノマーの4級化物などが挙げられる。また、該ビニルモノマー塩としては、塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩であっても、酢酸塩等の有機酸塩であってもよい。また、反応させる4級化剤としては、メチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリン等が挙げられる。これらの中では、(b1)成分との共重合性の点から、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はそのベンジルクロライド4級化物が好ましい。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
(b2)成分の含有比率は、特に限定されないが、(b1)成分〜(b4)成分の合計を100モル%として、通常は0.5〜20モル%程度であり、好ましくは2〜20モル%程度である。(b2)成分を当該範囲とすることで、得られた(B)成分を含有する混合物がスプレーノズルを詰まらせることなく、また、湿紙表面に強く定着し、さらに得られた紙も優れた層間強度を示す。
【0029】
(b3)成分としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のα,β−不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ムコン酸、シトラコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸などの有機系スルホン酸、又は前記各種有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。これらの中でも(b1)成分との共重合性の点からアクリル酸及び/又はイタコン酸が好ましい。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
(b3)成分の含有比率は、特に限定されないが、(b1)成分〜(b4)成分の合計を100モル%として、通常は0.5〜20モル%であり、好ましくは1〜18モル%である。(b3)成分を当該範囲とすることで、得られた(B)成分を含有する混合物が湿紙表面にスプレーされると、スプレーノズルが詰まることなく、(A)成分を定着させることができ、さらに得られた紙も優れた層間強度を示す。
【0031】
(b4)成分としては、特に限定されないが、アリル(メタ)アクリレート、N−アリル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミドなどのアリル基を有する架橋性ビニルモノマー;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリトリメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール基を有する架橋性ビニルモノマー;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩などのN−置換アミド基を有する架橋性ビニルモノマー;メチロールアクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド等のビス(メタ)アクリルアミド類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート類、アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニル等のジビニルエステル類、エポキシアクリレート類、ウレタンアクリレート類、ジビニルベンゼン、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−S−トリアジン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、トリアリルアミン、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラアリルピロメリラートなどの分子内に複数のラジカル重合性官能基を有するビニルモノマー;メタリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸カリウムやメタリルスルホン酸アンモニウムなどの(メタ)アリルスルホン酸塩;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどのアルキル(メタ)アクリレート類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等などのカルボン酸ビニルエステル類;クメン、α−メチルスチレンダイマー、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンなども例示できる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良く、(b1)〜(b3)成分との共重合性の面から、N−置換アミド基を有する架橋性ビニルモノマー及び/又はメタリルスルホン酸塩が好ましく、N,N−ジメチルアクリルアミド及び/又は(メタ)アリルスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0032】
(b4)成分の含有比率は、特に限定されないが、(B)成分の重量平均分子量を調整するため、(B)成分の構成成分の総和を100モル%として、通常は0.01〜10モル%程度、好ましくは0.05〜5モル%程度である。
【0033】
(B)成分は、従来公知のモノマー滴下重合法、モノマー溶液を一括して仕込む同時重合法、又はこれらを組み合わせた重合方法で合成することができる。その具体例としては、例えば、予め反応装置に仕込んだ溶媒中へ、(b1)〜(b4)成分を含む溶液及び重合開始剤溶液をそれぞれ滴下した後、50〜100℃で0.5〜5時間重合させる方法などが挙げられる。また、前記成分に加えて、2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類を使用することもできる。なお、溶媒としては、特に限定されないが、(b1)〜(b4)成分を充分に溶解、分散させる点から、通常、水を用いることが好ましい。
【0034】
上記方法で得られる(B)成分の重量平均分子量は、特に限定されないが、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値で、800,000〜5,000,000程度が好ましく、より好ましくは1,500,000〜5,000,000程度である。また、(B)成分の形態としては、水溶液であることが望ましい。
【0035】
また、(B)成分の粘度は、特に限定されないが、濃度20重量%、温度25℃における測定値で、100〜50,000mPa・s程度、好ましくは500〜20,000mPa・s程度である。
【0036】
(C)成分は、(A)成分の湿紙の紙層への定着を促進させる成分であり、水溶性アルミニウム化合物であれば、特に制限なく各種公知のものを使用できる。(C)成分としては、例えば、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、硫酸硅酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム及びポリ水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種などが挙げられる。これらの中でも、(A)成分の湿紙の層間への定着を促進し、得られた紙も優れた層間強度を有する点から、硫酸アルミニウム及び/又はポリ塩化アルミニウムがより好ましい。
【0037】
(B)成分及び(C)成分の含有量としては、特に限定されないが、抄き合わせ紙が優れた層間強度を有する点から、通常は、(B)成分との固形分重量比での含有比率で、(B)/(C)=30/70〜99/1程度、好ましくは40/60〜99/1程度である。
【0038】
(D)成分は、(B)成分と(C)成分とのイオン的相互作用を弱め、(B)成分と(C)成分を介した(A)成分の過凝集を抑制する成分である。そのため、スプレー時にスプレーノズルが詰まる、又は液ダレが発生することなく、(A)成分を湿紙の層間へ充分に定着させることができ、本発明では、アルカリ金属塩(d1)(以下、(d1)成分という)、アルカリ土類金属塩(d2)(以下、(d2)成分という)及び第4級アンモニウム塩(d3)(以下、(d3)成分という)からなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性無機系電解質を用いる。
【0039】
(d1)成分としては、特に限定されないが、水に溶けやすく、(B)成分と(C)成分間の相互作用を抑制する点から、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。これらの中でも、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0040】
(d2)成分としては、特に限定されないが、例えば、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムや、リン酸三カルシウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸二水素カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、水に溶けやすく、(B)成分と(C)成分間の相互作用を抑制する点から、硫酸マグネシウム及び/又は塩化カルシウムを含むことが好ましい。
【0041】
(d3)成分としては、特に限定されないが、水に溶けやすく、(B)成分と(C)成分間の相互作用を抑制する点から、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸トリアンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、硫酸アンモニウムを含むことが好ましい。
【0042】
なお、前述の(d1)、(d2)及び(d3)成分は、単独又は2種以上を組み合わせても良い。
【0043】
また、(B)成分〜(D)成分の合計含有量は固形分重量で、通常は、(A)成分100重量部に対して、0.1〜150重量部、好ましくは0.1〜70重量部、より好ましくは0.1〜50重量部である。合計含有量が0.1重量部未満の場合、(A)成分が湿紙の層間に定着せず、充分な層間強度が得られず、150重量部を超えると、混合物のスラリーが粘性を有し、湿紙表面へスプレーし難くなる。
【0044】
(D)成分の含有比率としては、通常、(B)成分及び(C)成分の合計含有量に対して、固形分重量比で、{(B)+(C)}/(D)=30/70〜99/1、好ましくは40/60〜99/1、より好ましくは40/60〜95/5である。該含有比率が{(B)+(C)}が30未満、(D)が70を超えると、(D)成分が多くなることにより、(B)成分と(C)成分間の相互作用が弱まる結果、(A)成分が凝集せず、層間へ定着しにくくなる。また、{(B)+(C)}が99を超え、(D)が1未満となると、(B)成分と(C)成分間の相互作用が強まることにより、(A)成分が過凝集を起こし、スプレーノズルが詰まりやすくなる。
【0045】
本発明の抄き合わせ紙の製造方法に用いる混合物は、配合順などを特に限定せず、適宜調製できる。例えば、(A)成分〜(D)成分を、室温で混合し0.1〜24時間撹拌しても良いし、予め(B)成分〜(D)成分を室温で0.5〜24時間撹拌しながら混合した液を(A)成分に加えても良い。
【0046】
本発明の製造方法に用いる原紙としては、特に限定されず、LBKP、NBKP等の化学パルプや、GP、TMPなどの機械パルプや古紙パルプ等が挙げられる。また原紙には、紙力増強剤、サイズ剤や湿潤紙力剤などの製紙薬品、炭酸カルシウム、タルクやカオリンなどの填料、硫酸や水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を含んでいても良い。
【0047】
本発明の抄き合わせ紙の製造方法では、上記(A)成分〜(D)成分を含有する混合物を抄き合わせ前の湿紙表面へスプレーした後に、抄き合わせて、脱水、乾燥することで2層以上の抄き合わせ紙が製造される。
【0048】
本発明の製造方法に用いる混合物は、通常、濃度0.1〜7.0重量%程度になるよう脱イオン水で希釈して用いられる。また、希釈後の粘度は、2〜50mPa・s(濃度1.0重量%、25℃)程度であり、通常、パルプ固形分重量に対し、0.05〜10.0重量%(固形分)の使用割合でスプレーすればよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの各例に限定されるものではない。なお各例中、部及び%は特記しない限りすべて重量基準である。
各測定は以下の方法により行った。
【0050】
(1)重量平均分子量
以下の測定条件にて、(B)成分の重量平均分子量を測定した。
GPC本体:東ソー(株)製
カラム:東ソー(株)製ガードカラムPWXL1本及びGMPWXL2本(温度40℃)
溶離液:N/2酢酸緩衝液(N/2酢酸(和光純薬工業(株)製)+N/2酢酸ナトリウム(キシダ化学(株)製)水溶液、pH約4.2)
流速:0.8ml/分
検出器:
RALLS法;ビスコテック社製TDA MODEL301を使用した。濃度検出器、90°光散乱検出器及び粘度検出器の温度を40℃に調整し、それぞれの検出器より得られた測定値から重量平均分子量を算出した。
【0051】
合成例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管及び2つの滴下ロートを備えた反応装置に、イオン交換水569部を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、90℃まで加熱した。一方の滴下ロートにアクリルアミド261部、ジメチルアミノエチルメタクリレート34.2部、ジメチルアミノエチルメタクリレ−トのベンジルクロライド4級化物の60%水溶液103.0部、イタコン酸28.3部、ジメチルアクリルアミド0.9部、メタアリルスルホン酸ナトリウム2.1部及びイオン交換水707.5部を仕込み、62.5%硫酸によりpHを3に調整した。また、他方の滴下ロートに過硫酸アンモニウム0.60部とイオン交換水180部を入れた。次に、両方の滴下ロートより系内にモノマー及び触媒を約3時間かけて滴下した。滴下終了後、過硫酸アンモニウム0.4部とイオン交換水10部を入れ1時間保温し、イオン交換水78.7部を投入し、濃度20.0%、粘度(25℃)が8,000mPa・s、及び重量平均分子量200万の(B−1)成分を得た。モノマー組成及び得られた(B−1)成分の物性を表1に示す(以下同様)。
【0052】
合成例2〜15
モノマー組成及び使用量を表1に示すように変えて合成し、(B−2)〜(B−15)成分を得た。
【0053】
表1中の略語の名称を以下に示す。
AM:アクリルアミド
DM:ジメチルアミノエチルメタクリレート
DML:ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物
DMC:ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド4級化物
BQ:ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物
IA:イタコン酸(二塩基酸)
AA:アクリル酸
DMAA:ジメチルアクリルアミド
SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1
コーン澱粉(商品名『コーンスターチ』、王子コーンスターチ(株)製)100部、(B−1)成分35.2部(固形分重量7.04部)、(C)成分として、硫酸アルミニウム1.76部及び(D)成分として、硫酸ナトリウム2.2部を混合した後、脱イオン水で固形分重量0.6%となるように希釈し、混合物(E−1)を調製した。
【0056】
実施例2〜37、比較例1〜9
実施例1において、(A)成分〜(D)成分の種類あるいは使用量を表2に示すように変更し、混合物(E−2)〜(E−45)を調製した。
【0057】
以下の評価では、混合物(E−1)〜(E−45)を脱イオン水で濃度1.0%に希釈した分散液を用いた(以下、分散液という)。評価結果を表2に示す(以下同様)
【0058】
(スプレー液の再分散性:スプレーノズル詰まりの評価)
ガラス瓶(柏洋硝子(株)製、M−140)に、各分散液100gを入れ、室温で1時間沈降させた。その後、卓上振とう器(装置名「NX−10N」、(株)日伸理化製)を用いて前記の液を10分間、振とうさせて再分散させた後、分散液中の沈殿物の有無を目視で確認した。評価基準を以下に示す。
(評価基準)
○:沈殿物なし−図1を参照 ×:沈殿物あり−図2を参照
【0059】
(スプレー適性)
キャップスプレー装置(WAGNER製、HV‐380)を用いて、3.0kg/cmのスプレー圧で各分散液をスプレーし、噴霧状態を目視で確認した。さらに同様の方法で1分間、分散液をスプレーし、スプレーノズルからの液ダレも観察した。なお、(E−37)の分散液は粘性が高く、スプレーできなかった。
【0060】
(抄き合わせ紙の作製)
段ボール古紙をナイアガラ式ビーターにて叩解し、カナディアン・スタンダード・フリーネス(C.S.F.)400mlに調整したパルプを0.5%まで希釈し、手抄紙試験機により水分量86%の湿紙Aと水分量96%の湿紙B(乾燥坪量60g/m)を調製した。湿紙Aの片面に、各分散液を、パルプ固形分重量に対して分散液を固形分重量で0.6%となるようにキャップスプレー装置(WAGNER製、HV‐380)を用いてスプレーした後、湿紙Aと湿紙Bのスプレー面を重ね、湿紙Bを上面に150mmHgで1分間吸引脱水し、回転型乾燥機で105℃において4分間乾燥して抄き合わせ紙を得た。抄き合わせ紙は温度23℃、湿度50%の条件下で24時間調湿した。
【0061】
(層間接着強度の測定)
J−TAPPI紙パルプ試験方法No.19−1に従って、抄き合わせ紙の層間接着強度(T字剥離強度(N/m))を測定した。結果を表2に示す(以下同様)。
【0062】
表2中の略語の名称を以下に示す。
Alum:硫酸アルミニウム
PAC:ポリ塩化アルミニウム
【0063】
【表2】
※コーン澱粉・・・商品名『コーンスターチ』、王子コーンスターチ(株)製
※カチオン化澱粉・・・商品名『ピラースターチP−4』、Piraab Starch Co, Ltd.製
※尿素リン酸エステル澱粉・・・商品名『王子エースP340』、王子コーンスターチ(株)製
※各成分の使用量(重量部)については固形分重量で示す。
図1
図2