特許第6795791号(P6795791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795791
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】コイル部品およびLC複合部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20201119BHJP
   H01F 1/00 20060101ALI20201119BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20201119BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   H01F1/26
   H01F1/00 181
   H01F17/00 D
   H01F17/04 F
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-127886(P2017-127886)
(22)【出願日】2017年6月29日
(65)【公開番号】特開2019-12750(P2019-12750A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】原田 明洋
(72)【発明者】
【氏名】新海 芳浩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 恭平
(72)【発明者】
【氏名】花井 智也
【審査官】 木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−009985(JP,A)
【文献】 特開2013−236021(JP,A)
【文献】 特開2014−116332(JP,A)
【文献】 特開2002−203720(JP,A)
【文献】 特開2003−168945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 1/00
H01F 17/00−17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子を含む複合磁性材料およびコイルを含むコイル部品であって、
前記磁性粒子は平均短軸長が5.0nm超50nm以下、平均アスペクト比が2.0以上10.0以下の形状を有し、
前記磁性粒子は、前記コイルの中心軸に対して垂直方向に配向しており、かつ、前記コイルの中心軸に対して垂直な面内ではランダム配向であり、
前記複合磁性材料の飽和磁化σsが80.0emu/g以上であることを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記複合磁性材料が前記磁性粒子および結合剤を含む請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記磁性粒子がFeおよび/またはCoを含む請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記複合磁性材料が前記磁性粒子を被覆する酸素含有層を含む請求項1〜3のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項5】
磁性粒子を含む複合磁性材料およびコイルを含むコイル領域と、誘電体層を含むコンデンサ領域と、を含むLC複合部品であって、
前記磁性粒子は平均短軸長が5.0nm超50nm以下、平均アスペクト比が2.0以上10.0以下の形状を有し、
前記磁性粒子は、前記コイルの中心軸に対して垂直方向に配向しており、かつ、前記コイルの中心軸に対して垂直な面内ではランダム配向であり、
前記複合磁性材料の飽和磁化σsが80.0emu/g以上であることを特徴とするLC複合部品。
【請求項6】
前記複合磁性材料が前記磁性粒子および結合剤を含む請求項5に記載のLC複合部品。
【請求項7】
前記磁性粒子がFeおよび/またはCoを含む請求項5または6に記載のLC複合部品。
【請求項8】
前記複合磁性材料が前記磁性粒子を被覆する酸素含有層を含む請求項5〜7のいずれかに記載のLC複合部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品およびLC複合部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や携帯情報端末等の無線通信機器の利用周波数帯域の高周波化が進行し、使用される無線信号周波数はGHz帯となっている。そこで、そのようなGHz帯の高周波領域で使用される電子部品に対して、GHz帯の高周波領域においても透磁率が比較的大きい磁性材料を適用することで、フィルタ特性の改善やアンテナ寸法の小型化を図る試みがなされている。
【0003】
特許文献1では、特に磁性粒子の平均アスペクト比が3以上60未満である複合材料を用いることで、GHz帯の高周波領域で低磁気損失および高透磁率を達成している。
【0004】
しかし、現在では、GHz帯の高周波領域において、さらなる低磁気損失および高透磁率を達成した電子部品を提供することが求められている。ここで、低磁気損失および高透磁率な電子部品は、高いインダクタンスおよび高いQ値を有する。すなわち、GHz帯の高周波領域において、高いインダクタンスおよび高いQ値を有するコイル部品およびLC複合部品を提供することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−207234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、GHz帯の高周波領域において、高いインダクタンスおよび高いQ値を有するコイル部品およびLC複合部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るコイル部品は、
磁性粒子を含む複合磁性材料およびコイルを含むコイル部品であって、
前記磁性粒子は平均短軸長が5.0nm超50nm以下、平均アスペクト比が2.0以上10.0以下の形状を有し、
前記磁性粒子は、前記コイルの中心軸に対して垂直方向に配向しており、かつ、前記コイルの中心軸に対して垂直な面内ではランダム配向であり、
前記複合磁性材料の飽和磁化σsが80.0emu/g以上である。
【0008】
前記複合磁性材料が前記磁性粒子および結合剤を含んでもよい。
【0009】
前記磁性粒子がFeおよび/またはCoを含んでもよい。
【0010】
前記複合磁性材料が前記磁性粒子を被覆する酸素含有層を含んでもよい。
【0011】
本発明の第2の観点に係るLC複合部品は、
磁性粒子を含む複合磁性材料およびコイルを含むコイル領域と、誘電体層を含むコンデンサ領域と、を含むLC複合部品であって、
前記磁性粒子は平均短軸長が5.0nm超50nm以下、平均アスペクト比が2.0以上10.0以下の形状を有し、
前記磁性粒子は、前記コイルの中心軸に対して垂直方向に配向しており、かつ、前記コイルの中心軸に対して垂直な面内ではランダム配向であり、
前記複合磁性材料の飽和磁化σsが80.0emu/g以上である。
【0012】
前記複合磁性材料が前記磁性粒子および結合剤を含んでもよい。
【0013】
前記磁性粒子がFeおよび/またはCoを含んでもよい。
【0014】
前記複合磁性材料が前記磁性粒子を被覆する酸素含有層を含んでもよい。
【0015】
本発明に係るコイル部品およびLC複合部品は、上記の構成を有することにより、高周波領域において高いインダクタンスおよび高いQ値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る積層型インダクタの斜視図である。
図2図1の積層型インダクタをII−II線で切断した断面図である。
図3】磁性粒子の配向を説明するためのXZ平面である。
図4】磁性粒子の配向を説明するためのXY平面である。
図5】第2実施形態に係る複合電子部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1および図2に示すように、本発明の一実施形態に係る積層型インダクタ2は、コア部4、コイル6および端子電極8を有する。コイル6はコア部4の内部において3次元的かつ螺旋状に形成されている導体6aおよび端子電極8と接続するリード部6bからなる。導体6aおよびリード部6bの構成には特に制限はない。例えば、導線と、必要に応じて導線の外周を被覆してある絶縁被覆層とで構成してある。
【0019】
本実施形態では、コイル6からは、X軸方向に沿って一対のリード部6bが引き出され、一対のリード部6bが一対の端子電極8に接続された形状を有する。各端子電極8は、本実施形態では、コア部4の側面および上下面の一部に密着して接合してある。
【0020】
本実施形態では、コア部4の下面は、相互に垂直なX軸およびY軸を通る平面と略平行に形成してあり、コイル6の巻軸が、X軸およびY軸を通る平面と垂直なZ軸に対して略平行になっている。本実施形態では、コア部4の上面は、その下面に対して略平行であり、4つの側面は、これらの上面および下面に対して略垂直となっている。ただし、本実施形態では、コア部4の形状は、特に限定されず、6面体に限らず、円柱形、楕円柱、多角柱などであっても良い。また、リード部6bおよび端子電極8の形状にも特に限定はない。
【0021】
本実施形態の積層型インダクタ2のサイズは、特に限定されないが、たとえばX軸方向幅が0.3〜4mm、Y軸方向幅が0.3〜6mm、Z軸方向高さが0.3〜2mmである。
【0022】
コア部4は、磁性粒子を含む複合磁性材料からなる。磁性粒子の材質には特に制限はないが、Feおよび/またはCoを含むことが好ましく、Feを必須元素として含むことがさらに好ましい。Feの含有量は30質量%以上100質量%以下であることが好ましい。Coの含有量は0質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0023】
また、各磁性粒子には、その他の元素、例えばNi、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Zn、Al、GaおよびSiなどが含まれていてもよい。その他の元素の含有量には特に制限はないが、磁性粒子全体に対して合計で5質量%以下であることが好ましい。
【0024】
複合磁性材料は、磁性粒子を被覆する酸素含有層を含むことが好ましい。酸素含有層を構成する相の種類には特に制限はなく、例えばMg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Zn、Al、Ga、Si、SnおよびBiから選ばれる1種以上の元素および酸素を含む相であればよい。酸素含有層の厚さには特に制限はないが、例えば1.0nm以上5.0nm以下とすることができ、好ましくは1.0nm以上3.0nm以下とすることができる。また、酸素含有層の厚さを測定する方法には特に制限はないが、例えばTEMを用いて測定することができる。磁性粒子を被覆する厚さ1.0nm以上の酸素含有層が存在することにより、磁性粒子の酸化を防止しやすくなる。さらに磁性粒子間の絶縁を確保することにより、渦電流損失が抑制されるため、Q値の低下を防止しやすくなる。また、酸素含有層の厚さを3.0nm以下とすることで飽和磁化σsを向上させやすくなる。
【0025】
ここで、本実施形態に係る磁性粒子は平均短軸長が5.0nm超50nm以下、かつ、平均アスペクト比が2.0以上10.0以下である。平均短軸長が短すぎる場合には、高周波領域におけるインダクタンスLが低下しやすくなる。平均短軸長が長すぎる場合には高周波領域におけるQ値が低下しやすくなる。また、平均アスペクト比が小さすぎる場合には高周波領域におけるQ値が低下しやすくなる。平均アスペクト比が大きすぎる場合には高周波領域におけるインダクタンスLが低下しやすくなる。
【0026】
平均短軸長および平均アスペクト比が上記の範囲内であれば、磁性粒子の形状には特に制限はない。例えば、棒状、針状、紡錘状などの形状とすることができる。特に磁性粒子の形状が棒状であることが高周波領域におけるインダクタンスLおよびQ値を向上させやすくなるため好ましい。
【0027】
複合磁性材料は、さらに結合剤を含むことが好ましい。結合剤を含むことにより、磁性粒子間の絶縁性がさらに高められ、Q値の低下をさらに防止しやすくなる。結合剤の種類には特に制限はないが、樹脂を用いることが好ましい。樹脂の種類には特に制限はない。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーン樹脂、これらを組み合わせたものなどが例示される。好ましくはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂であり、さらに好ましくはエポキシ樹脂である。
【0028】
複合磁性材料における結合剤の含有量には特に制限はなく、磁性粒子の種類、組成および形状等、および、結合剤の種類によって好適な含有量が変化する。結合剤の含有量が多すぎる場合には複合磁性材料の飽和磁化σsが低下しやすくなる。なお、本実施形態における複合磁性材料の飽和磁化σsは80.0emu/g以上である。飽和磁化σsが低すぎる場合には、高周波領域におけるインダクタンスLおよびQ値が低下しやすくなる。
【0029】
ここで、本実施形態に係る積層型インダクタ2では、コア部4に含まれる複合磁性材料を構成する磁性粒子がコイル6の中心軸(Z軸)に対して垂直方向、すなわちZ軸に対して垂直方向に配向しており、かつ、コイル6の中心軸に対して垂直な面内、すなわちXY平面内ではランダム配向である。
【0030】
磁性粒子の配向について、図3および図4を参照しながら説明する。なお、磁性粒子の配向はコア部4の断面をSEMで観察することにより確認できる。
【0031】
図3には1個の磁性粒子4aを記載している。縦軸がZ軸である。横軸の方向はZ軸と垂直な方向であれば特に制限はない。例えば、図3に示すようにX軸であってもよい。
【0032】
図3に図示されているXZ平面において、磁性粒子4aの長軸方向に直線L1をとり、X軸に対する直線L1の角度をθ1(−90°<θ1≦90°)とする。
【0033】
磁性粒子全体に占める−30°≦θ1≦30°である磁性粒子4aの割合が粒子数基準で70%以上である場合に、磁性粒子がコイル6の中心軸に対して垂直方向、すなわちZ軸に対して垂直方向に配向しているとする。以下の記載では、当該配向を単に「垂直配向」と呼ぶこともある。
【0034】
図4には1個の磁性粒子4bを記載している。図4では縦軸をY軸、横軸をX軸としているが、縦軸および横軸はXY平面と平行であればいかなる方向に設定してもよい。
【0035】
図4に図示されているように、磁性粒子4bの長軸方向に直線L2をとり、横軸(X軸)に対する直線L2の角度をθ2(0°≦θ2<180°)とする。
【0036】
そして、縦軸および横軸をXY平面と平行であるいかなる方向に設定しても、磁性粒子全体に占める0°≦θ2≦45°である磁性粒子4bの割合が粒子数基準で20%以上30%以下であり、かつ、90°≦θ2≦135°である磁性粒子4bの割合が粒子数基準で20%以上30%以下である場合に、磁性粒子は、コイル6の中心軸(Z軸)に対して垂直な面内ではランダム配向であるとする。ランダム配向は無配向ともいいかえることができる。
【0037】
本実施形態に係る複合磁性材料に含まれる磁性粒子が、コイル6の中心軸に対して垂直方向に配向しており、かつ、コイル6の中心軸に対して垂直な面内ではランダム配向であることにより、高周波領域におけるインダクタンスLおよびQ値を著しく向上させることができる。磁性粒子がコイル6の中心軸に対して垂直方向に配向していない場合、または、コイル6の中心軸に対して垂直な面内においてランダム配向ではない場合には、Q値が著しく低下する傾向にある。
【0038】
以下、本実施形態に係るコイル部品の製造方法について説明するが、本実施形態に係るコイル部品の製造方法は以下の方法に限定されない。
【0039】
まず、上記の磁性粒子を含む磁性粉末を作製する。磁性粉末の作製方法には特に制限はなく、本技術分野における通常の方法を用いることができる。例えば、α−FeOOH、または、Coを含有するα−FeOOH等の化合物からなる原料粉末を加熱還元する公知の方法により作製してもよい。原料粉末におけるFe、Co、および/または、その他の元素の含有量を制御することにより、得られる磁性粉末の組成を制御することができる。
【0040】
ここで、原料粉末の平均短軸長および平均アスペクト比を制御することで、複合磁性材料に含まれる磁性粒子の平均短軸長および平均アスペクト比を制御することができる。なお、複合磁性材料に含まれる磁性粒子の平均短軸長および平均アスペクト比を制御する方法は上記の方法に限定されない。
【0041】
また、磁性粉末に酸素含有層を被覆させる場合としては、原料粉末に対して、Mg、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Zn、Al、Ga、Si、SnおよびBiから選ばれる1種以上の元素を含有させた後に加熱還元を行う方法が例示される。原料粉末に対して前記1種以上の元素を含有させる方法には特に限定は無いが、例えば原料粉末と前記1種以上の元素を含む溶液とを混合させた後にpH調製を行い、ろ過して乾燥させる方法が挙げられる。また、前記1種以上の元素を含む溶液の濃度、pHおよび混合時間、さらに加熱還元後の徐酸化条件等を制御することで酸素含有層の厚みを制御することができる。
【0042】
上記の方法により加熱還元させて得られた磁性粉末と結合剤と溶剤とを混合させて磁性体用ペーストを得る。磁性体用ペーストの磁性粉末と結合剤との混合割合には特に制限はない。例えば磁性粉末100質量%に対して結合剤であるエポキシ樹脂を1〜15質量%含む溶液を混合することで磁性体用ペーストを得る。エポキシ樹脂の含有量を制御することにより、最終的に得られる複合磁性材料の飽和磁化σsを制御することができる。
【0043】
磁性体用ペーストの溶剤としては例えばアセトン、IPA、MEK、BCA、メタノール等を用いることができる。さらに、結合剤としては例えば樹脂バインダ、分散剤等を用いることができる。樹脂バインダとしては例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。分散剤としてはSiカップリング剤、オレイン酸、オレイルアミン等を用いることができる。
【0044】
次に、磁性体用ペーストをドクターブレード法によりシート化し、磁性体シートを作製する。
【0045】
本実施形態では、各複合磁性材料の組成および形状等に応じてシートの送り速度、および、ブレードとキャリアフィルムとの間隔を適宜変化させる。シートの送り速度、および、ブレードとキャリアフィルムとの間隔を適宜制御することで、最終的に得られるコイル部品における磁性粒子の配向の有無を制御することができる。
【0046】
ブレードとキャリアフィルムとの間隔が小さいほど、複合磁性粒子が垂直配向を有しやすくなる。また、シートの送り速度が遅いほど、複合磁性粒子がXY面内でランダム配向(無配向)となりやすくなる。ただし、ブレードとキャリアフィルムとの間隔が小さすぎると複合磁性粒子が凝集しやすくなる。また、シートの送り速度が遅すぎても複合磁性粒子が凝集しやすくなる。
【0047】
ブレードとキャリアフィルムとの好適な間隔は複合磁性粒子の組成および形状により異なるが、本技術分野における通常の間隔より小さいことが好ましい。例えば、1μm以上10μm以下とすることができる。シートの好適な送り速度も複合磁性粒子の組成および形状により異なるが、本技術分野における通常の速さより遅いことが好ましい。例えば、1.0mm/sec以上5.0mm/sec以下とすることができる。
【0048】
次に、得られた磁性体シートを乾燥させ、溶媒を蒸発させる。そして、当該磁性体シートを用いて積層型インダクタ2を作製する。
【0049】
積層型インダクタ2の作製方法には特に制限はなく、通常の方法により作製することができる。例えば、上記の工程により得られた磁性体シートを図1のZ軸方向に積層して加圧することによりコア部4を得ることができる。この際に、通常用いられる方法にてコイル6を内蔵させる。例えば磁性体シートにコイルパターンを印刷してから積層させてもよい。そして、コア部4に端子電極8を形成させて積層型インダクタ2を作製する。
【0050】
また、積層後に焼結することで焼結体からなるコア部4を得ても良く、その他の方法でコア部4を得てもよい。ただし、本実施形態では、いかなる方法でコア部4を得る場合でも、コア部4に含まれる磁性粒子が垂直配向を有し、XY面内でランダム配向(無配向)となることが必要である。
【0051】
本実施形態では積層型インダクタについて記載したが、本発明のコイル部品は積層型インダクタに限定されず、巻線インダクタや薄膜インダクタなどでもよい。さらに、本発明のコイル部品の用途には特に制限はない。例えば、トランス、アンテナ等が挙げられる。
【0052】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明するが、特に記載の無い事項については第1実施形態と共通である。
【0053】
図5に示すように、本発明の第2実施形態におけるLC複合部品10は、コイル領域12と、コンデンサ領域22とが上下に形成され、これらのコイル領域12とコンデンサ領域22との間に中間材層32を介在させ、一体化している。
【0054】
コイル領域12は、コア部14と、コア部14の内部でコイル状に導体16aが巻回してあるコイル16とを有する。
【0055】
コア部14は、磁性粒子を含む複合磁性材料からなる。磁性粒子の材質には特に制限はないが、Feおよび/またはCoを含むことが好ましく、Feを必須元素として含むことがさらに好ましい。複合磁性材料は、磁性粒子を被覆する酸素含有層を含むことが好ましい。酸素含有層を構成する相の種類には特に制限はない。
【0056】
ここで、本実施形態に係る磁性粒子は平均短軸長が5.0nm超50nm以下、かつ、平均アスペクト比が2.0以上10.0以下である。平均短軸長が短すぎる場合には、高周波領域におけるインダクタンスLが低下しやすくなる。平均短軸長が長すぎる場合には高周波領域におけるQ値が低下しやすくなる。また、平均アスペクト比が小さすぎる場合には高周波領域におけるQ値が低下しやすくなる。平均アスペクト比が大きすぎる場合には高周波領域におけるインダクタンスLが低下しやすくなる。
【0057】
平均短軸長および平均アスペクト比が上記の範囲内であれば、磁性粒子の形状には特に制限はない。
【0058】
複合磁性材料は、さらに結合剤を含むことが好ましく、結合剤として樹脂を含むことが好ましい。
【0059】
複合磁性材料における結合剤の含有量には特に制限はなく、磁性粒子の種類、組成および形状等によって好適な含有量が変化する。結合剤の含有量が多すぎる場合には複合磁性材料の飽和磁化σsが低下しやすくなる。なお、本実施形態における複合磁性材料の飽和磁化σsは80.0emu/g以上である。飽和磁化σsが低すぎる場合には、高周波領域におけるインダクタンスLおよびQ値が低下しやすくなる。
【0060】
ここで、本実施形態に係るコイル領域12では、磁性粒子は、コイル16の中心軸に対して垂直方向、すなわちZ軸に対して垂直方向に配向しており、かつ、コイル16の中心軸に対して垂直な面内、すなわちXY平面内ではランダム配向である。
【0061】
本実施形態に係る複合磁性材料に含まれる磁性粒子が、コイル16の中心軸に対して垂直方向に配向しており、かつ、コイル16の中心軸に対して垂直な面内ではランダム配向であることにより、高周波領域におけるインダクタンスLおよびQ値を著しく向上させることができる。磁性粒子がコイル16の中心軸に対して垂直方向に配向していない場合、または、コイル16の中心軸に対して垂直な面内においてランダム配向ではない場合には、Q値が著しく低下する傾向にある。
【0062】
コンデンサ領域22は、誘電体層24と内部電極層26とが交互に一体化された多層構造を有する。なお、内部電極層26は必須ではない。外部電極のみが存在してもよい。
【0063】
中間材層32は、コイル領域12とコンデンサ領域22とを一体化させることができる構成であればよく、中間材層32は無くてもよい。
【0064】
本実施形態に係るLC複合部品10の製造方法については特に制限はなく、通常行われている複合電子部品の製造方法を用いることができる。例えば、第1実施形態と同様に磁性体シートを作製し、さらに誘電体シートを作製することができる。そして、各シートを適宜、積層させて加圧することにより、本実施形態に係るLC複合部品10を得ることができる。また、その他の方法により複合電子部品10を得ることもできる。ただし、本実施形態では、いかなる方法でLC複合部品10を得る場合でも、コイル領域12のコア部14に含まれる複合磁性粒子が垂直配向を有し、XY面内でランダム配向(無配向)となることが必要である。
【0065】
また、図5ではコイル領域12とコンデンサ領域22とを積層方向(Z軸方向)に沿って配置しているが、コイル領域12とコンデンサ領域22とを積層方向に垂直な方向(XY平面に平行な方向)に沿って配置してもよい。特にこの場合には、中間材層32が不要になりやすい。
【0066】
本実施形態に係るLC複合部品10の用途には特に制限はない。例えば、LCフィルタの他、コイルとコンデンサを含む電子部品全般が挙げられる。
【実施例】
【0067】
次に、本発明を具体的な実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0068】
まず、磁性粉末を作製した。磁性粉末は、棒状のα−FeOOHからなる粉末をH中で加熱還元する公知の方法により作製した。
【0069】
棒状のα−FeOOHからなる粉末におけるCoの含有量を制御することで、磁性粉末の組成を制御した。
【0070】
さらに、棒状のα−FeOOHの形状を変化させることで、平均短軸長および平均アスペクト比を制御した。また、磁性粉末の形状自体を球状または偏平状にする場合には、球状または偏平状のFeを用いた。
【0071】
上記の加熱還元前に、磁性粒子を被覆する酸素含有層を形成してもよい。酸素含有層として、例えばAlとOとを含有する層を被覆させる場合には、上記の加熱還元を行う前に、Al(SOの水溶液中にCoを含む棒状のα−FeOOHを混合させ、pH調製を行った後にろ過して乾燥させた。YとOとを含有する層を磁性粉末に被覆させる場合には、Y(NOの水溶液中にCoを含む棒状のα−FeOOHを混合させ、pH調製を行った後にろ過して乾燥させた。SiとOとを含有する層を磁性粉末に被覆させる場合には、NaSiOの水溶液中にCoを含む棒状のα−FeOOHを混合させ、pH調製を行った後にろ過して乾燥させた。
【0072】
Al、YおよびOを被覆させる場合には、まずAlとOとを上記の方法で被覆させ、乾燥させた。その後に、YとOとを上記の方法で被覆させた。Al、SiおよびOを被覆させる場合には、まずAlとOとを上記の方法で被覆させ、乾燥させた。その後に、SiとOとを上記の方法で被覆させた。
【0073】
上記の方法により得られた磁性粉末を塗料化して磁性体用ペーストを作製した。樹脂バインダとしてエポキシ樹脂を磁性粉末100質量部に対して10質量部添加した。ここで、エポキシ樹脂の含有量を制御することにより、最終的に得られる複合磁性材料の飽和磁化σsを制御することができる。一般的には、エポキシ樹脂の含有量が小さくなるほど飽和磁化σsが高くなる傾向にある。比較例10のみ、エポキシ樹脂の添加量を上記の添加量よりも大きくし、飽和磁化σsを低下させた。
【0074】
磁性粉末100質量部に対して、溶剤としてBCAを100質量部、分散剤としてSiカップリング剤を6質量部、それぞれ添加し、混練することで、磁性体用ペーストを作製した。
【0075】
さらに、磁性体用ペーストを用いてドクターブレード法により磁性体シートを作製した。この際に、各混合粉末の組成および形状等に応じてシートの送り速度、および、ブレードとキャリアフィルムとの間隔を適宜変化させた。シートの送り速度、および、ブレードとキャリアフィルムとの間隔を適宜制御することで、最終的に得られる積層型インダクタにおける磁性粒子の配向の有無を制御した。
【0076】
具体的には、磁性粒子が垂直配向を有する試料(磁性粒子の形状が球状である試料を含む)では、ブレードとキャリアフィルムとの間隔を1μm以上10μm以下とした。磁性粒子が垂直配向を有さない試料では、ブレードとキャリアフィルムとの間隔を50μmとした。磁性粒子がXY面内でランダム配向である試料(磁性粒子の形状が球状または偏平状である試料を含む)では、シートの送り速度を1.0mm/sec以上5.0mm/sec以下とした。磁性粒子がXY面内で配向を有する試料では、シートの送り速度を20mm/secとした。
【0077】
得られた磁性体シートを乾燥させ、溶媒を蒸発させた。その後、磁性体シートに対して、各実施例および比較例において図1に示す共通の形状の積層型インダクタが得られるようにコイルパターンを印刷した。具体的には、コイルの巻数が3.5、コイルの平均径が0.3mmとなるようにした。そして、磁性体シートを図1のZ軸方向に積層し、加圧して得られるコア部に対して外部電極を形成することにより、各実施例および比較例の積層型インダクタを得た。積層型インダクタにおけるコア部の寸法は、X軸方向0.5mm、Y軸方向0.65mm、Z軸方向0.4mmであり、上記加圧時における圧力および時間は、各実施例および比較例において最も良好な特性を有する積層型インダクタが得られるように適宜制御した。加圧時における圧力を98〜588MPaとし、加圧時間を10〜600秒の範囲内で適宜制御した。
【0078】
各実施例および比較例のコア部の飽和磁化σsはVSMを用いて測定した。本実施例では80emu/g以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0079】
各実施例および比較例において、インピーダンスアナライザを用いてインダクタンス(L)およびQ値(Q)を測定した。また、各実施例および比較例と同一形状の空芯コイルにおけるインダクタンス(L)およびQ値(Q)を測定した。そして、ΔL=L−L、ΔQ=Q−Qとして、周波数が2.4GHzにおけるΔL/L(%)およびΔQ/Q(%)を算出した。結果を表1に示す。本実施例では、ΔL/Lは10%以上を良好とし、ΔQ/Qは0.1%以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0080】
また、各実施例および比較例において、SEMを用いて磁性粒子の平均短軸長および平均アスペクト比を測定した。結果を表1に示す。また、SEMを用いて磁性粒子が垂直配向を有するか否か、および、XY面内でランダム配向であるか配向を有するかを確認した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1より、磁性粒子が所定の範囲内の平均短軸長および平均アスペクト比を有し、コイルの中心軸に対して垂直方向に配向しており、コイルの中心軸に対して垂直な面内(XY面内)ではランダム配向であり、圧粉体の飽和磁化σsが80emu/g以上である実施例は全てコイル特性が良好であった。
【0083】
これに対し、磁性粒子の平均短軸長または平均アスペクト比が所定の範囲外である比較例、磁性粒子がコイルの中心軸に対して垂直方向に配向していない比較例、コイルの中心軸に対して垂直な面内でランダム配向ではない(無配向ではない)比較例、および、圧粉体の飽和磁化σsが80emu/g未満である比較例は全てコイル特性が良好ではなかった。
【符号の説明】
【0084】
2・・・積層型インダクタ
4・・・コア部
6・・・コイル
6a・・・導体
6b・・・リード部
8・・・端子電極
10・・・LC複合部品
12・・・コイル領域
14・・・コア部
16・・・コイル
22・・・コンデンサ領域
24・・・誘電体層
26・・・内部電極層
32・・・中間材層
図1
図2
図3
図4
図5