特許第6795805号(P6795805)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6795805SiC積層体およびその製造方法ならびに半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6795805
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】SiC積層体およびその製造方法ならびに半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20201119BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20201119BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 27/06 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 21/8238 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 27/092 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
   C23C16/42
   C30B25/20
   H01L21/205
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 658E
   H01L29/78 657D
   H01L29/86 301F
   H01L29/86 301D
   H01L29/78 652K
   H01L29/06 301M
   H01L29/06 301V
   H01L27/06 102A
   H01L27/092 B
【請求項の数】10
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2020-85840(P2020-85840)
(22)【出願日】2020年5月15日
【審査請求日】2020年5月15日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515251539
【氏名又は名称】株式会社CUSIC
(72)【発明者】
【氏名】長澤 弘幸
【審査官】 棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−226300(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/034080(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C23C 16/42
C30B 25/20
H01L 21/205
H01L 21/336
H01L 21/8234
H01L 21/8238
H01L 27/06
H01L 27/092
H01L 29/06
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶の六方晶SiC層(1)上に単結晶の3C−SiC層(2)が積層したSiC積層体であり、3C−SiC層(2)は双晶界面を含まず、3C−SiC層と六方晶SiC層が当接するヘテロ界面はそれぞれの結晶格子の最密面に厳密に平行であり、かつ結晶格子が整合した整合ヘテロ界面(3)であり、すべての整合ヘテロ界面(3)は0.5度以上、かつ73度未満の傾斜角度(θ)で主表面(S)上に露出し、主表面上における整合ヘテロ界面の切片(3S)は多角形、または端点を有さない直線として六方晶SiC表面(1S)と3C−SiC表面(2S)を区分することを特長とするSiC積層体。
【請求項2】
請求項1記載のSiC積層体であり、六方晶SiC層(1)の結晶格子の最密面(CPP)の積層周期をn分子層(nは自然数)とした場合、その結晶格子の{0−33−n}面から選ばれる3回対称の関係にある結晶格子面(1N)のそれぞれに対し、3C−SiC層(2)の結晶格子の{―1−11}面(2N)のそれぞれが平行であることを特長とするSiC積層体。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれか記載のSiC積層体の製造方法であり、六方晶SiC層(1)の表面の一つ以上の領域に結晶格子の最密面(CPP)と平行なシード面(1p)を形成する工程(シード工程)と、シード面に隣接するすべての表面に対して、シード面を基準として0.5度以上、かつ73度未満の正の俯角(θp)で傾斜した傾斜面(1i)を設ける工程(オフ工程)と、シード面(1p)上に3C−SiCの2次元核(2e)を生成させる工程(核生成工程)とを含み、かつ、3C−SiCの2次元核(2e)と傾斜面(1i)に露出するSiC層の双方を結晶格子の最密面(CPP)と平行な方向に同時にエピタキシャル成長させる工程(水平エピ工程)を含むことを特長とするSiC積層体の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のSiC積層体の製造方法であり、前記オフ工程において傾斜面(1i)を六方晶SiC層(1)の表面を分断するように配置し、少なくとも一つの傾斜面特定の正傾斜方向(If)に傾斜した正傾斜面(1if)とし、さらに少なくとも一つの傾斜面正傾斜方向(If)と対向する負傾斜方向(Ib)に傾斜した負傾斜面(1ib)とすることを特長とするSiC積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載のSiC積層体の製造方法であり、前記正傾斜方向(If)を六方晶SiC層(1)の<11−20>方位、または<1−100>方位のいずれか一つに一致させると共に、前記正傾斜面(1if)と前記負傾斜面(1ib)の境界に相当する尾根部(1r)と谷部(1v)を前記正傾斜方向(If)から88度以上92度以下の分断方向(Ix)に直線状に延伸させることを特長とするSiC積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一つに記載のSiC積層体の製造法であり、個々の傾斜面(1i)を結晶格子の最密面(CPP)上に投影した面の傾斜方向の長さの最小値をLとしたとき、シード面(1p)上に積層した3C−SiCの2次元核(2e)の厚さ(te)は傾斜角度(θ)の正接とLの積を下回ることを特長とするSiC積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか一つに記載のSiC積層体の製造方法であり、核生成工程に先立ち、シード面(1p)を300℃から550℃のいずれかの温度で、700hPa以上の水素ガス圧力に1時間以上暴露する工程(表面構造安定化工程)を含むことを特長とするSiC積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1または請求項2記載のいずれか一つのSiC積層体を用いた半導体装置であり、半導体装置は一つ以上のnチャネル型の金属酸化膜半導体電界効果型MOSトランジスタ(NMOSFET)を含み、該NMOSFETのチャネル領域(Nch)は3C−SiC層(2)にのみ形成されていることを特長とする半導体装置。
【請求項9】
請求項1または請求項2記載のいずれか一つのSiC積層体を用いた半導体装置であり、半導体装置は一つ以上のpチャネル型の金属酸化膜半導体電界効果型MOSトランジスタ(PMOSFET)を含み、該PMOSFETのチャネル領域(Pch)は六方晶SiC層(1)にのみ形成されていることを特長とする半導体装置。
【請求項10】
請求項1または請求項2記載のいずれか一つのSiC積層体を用いた半導体装置であり、半導体装置は一つ以上のショットキーバリアダイオード(SBD)を含み、該SBDの陽極(An)は六方晶SiC表面(1S)にのみ形成されていることを特長とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温・高電力密度・高周波で動作するパワー半導体素子や集積回路などの基板として好ましく用いられるSiC積層体とその製造方法、そしてそのSiC積層体を利用した半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電車やエアコンなどの電動機器、産業用電源、そして家電機器などにおいて単結晶炭化珪素(SiC)を基板材料とする整流素子やスイッチング素子が実用化されている。これら半導体素子の製造に主として用いられる単結晶SiC基板は、3.2eVの禁制帯幅(E)を有する4H−SiCである。この広いEにより、半導体素子の降伏電圧(V)向上と特性オン抵抗(Ron)の低減が両立し、電力変換時の損失が低減されている。このようなSiC半導体素子の実用化には、大面積のSiCバルク結晶製造技術のほか、特許文献1(米国特許第4912064号明細書)や特許文献2(米国特許第5011549号明細書)が提供するステップ制御エピタキシー技術が寄与している。この技術は六方晶SiC基板上にホモエピタキシャル成長層を設ける際に結晶格子の最密面(CPP)から基板表面を特定の方位に傾斜させる方法であり、基板の結晶構造が忠実にエピタキシャル成長層に引き継がれる。このステップ制御エピタキシーにより、広いエピタキシャル成長条件範囲において高いエピタキシャル成長速度が得られるとともに、平滑な表面と結晶欠陥密度の低いホモエピタキシャル膜が得られる。
【0003】
4H−SiCのVが高いことはそのE&shy;の広さに由来するが、その反面、この広いEがスイッチング素子の低損失性能や長期的信頼性を損なう原因にもなっている。たとえば、4H−SiCを基板とした金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)においては、酸化膜と半導体界面(MOS界面)の準位密度(Dit)が高くなり、チャネル抵抗(Rch)が増加してRonの低減が阻まれる。あるいは、エピタキシャル成長層内の基底面転位が電子−正孔対の再結合に際して運動して積層欠陥(SF)を拡張させ、Ronを不安定にする。これらの障害を回避するため、トレンチ構造のMOSFETやドリフト層底部に再結合促進層を設けるなど、素子構造や製造プロセス面での工夫が進められているが、それらの対策が素子製造コストの増加や歩留まり低下を招いている。
【0004】
一方、SiCの結晶多形の中では唯一の立方晶系である3C−SiCはEが4H−SiCのそれに比べて1eV程度狭い2.3eVを示すが、このEの狭さが幸いしてMOS界面におけるDitが4H−SiCに対して2桁ほど低くなる。このため、3C−SiCを用いると低損失で高速のスイッチング素子を製造することが可能となる。ただし、SF密度の低い3C−SiC基板を製造するには複雑な工程を経なければならず、その歩留まりの低さと製造コストの高さから3C−SiCを用いた半導体素子は実用化には至っていない。
【0005】
上記の通り、SiCは結晶構造によって物理的な性質が大きく変わるので、異なる結晶結晶構造のSiCを積層させて所望の半導体素子特性を実現する方法が提案されている。たとえば、特許文献3(WO2008/56698号公報)においては4H−SiCなどの六方晶SiC表面の一部に拡大テラス面を形成し、その上層にDitの低い3C−SiCを形成し、この部分にnタイプのMOSFETを形成する方法を提供している。この構造では絶縁破壊電界強度の高い六方晶SiC内に半導体素子の最大電界領域が位置するとともに、その上部の3C−SiCの低いDitによってRchが低減されるため、半導体素子のVを損なうことなくRonを低減できる。また、拡大テラスは六方晶SiC上をSiで被覆して加熱処理することにより得ることが可能であり、かつ、拡大テラス上ではエピタキシャル成長時の過飽和度が高まるので、所望の箇所に3C−SiCを形成して低Rchのチャネルを形成できる。
【0006】
特許文献4(特開2004−52813号公報)は3C−SiCと6H−SiCの積層構造を用いた高速動作に優れた半導体素子とその製造方法を提供している。この半導体素子の構造では、電子が走行するチャネル領域が3C−SiC側に設けられる一方、6H−SiC側に正孔を局在化させてチャネル内の電子の散乱を抑制し、半導体素子の動作を高速化させている。
【0007】
さらに、特許文献5(特開2018−35051号公報)は六方晶SiCの最表面に立方最密充填構造(CCP)が形成された構造とその製造法を示している。この構造では表面に露出する原子ステップのエッチング速度や成長速度が最密充填構造によって異なることを利用して所望の最密充填構造のみを得るものであり、たとえば水素ガス雰囲気中で350℃以上かつ600℃以下の温度で熱処理を施すことにより六方晶SiC表面の3分子層がCCPで覆われる。この方法によって所定の最密充填構造のみが界面を形成する積層構造を形成すれば、電子の移動度を高くすることができ、高速で低損失な半導体素子を製造することが可能となる。
【0008】
特許文献6(特開平11−162850号公報)ではSiCをエピタキシャル成長させる際に、六方晶SiCあるいは3C−SiCの基板表面を結晶格子の最密面から0.05°以上、かつ10°以下に傾斜させ、Si原子がC原子よりも過剰となるように供給することで、1300℃以下の低温においても六方晶SiC上に3C−SiCのエピタキシャル成長を可能にしている。この方法を用いれば六方晶SiC上に3C−SiCを形成してステップ制御エピタキシーを行うことにより積層構造を形成し、所定の領域に3C−SiC層を形成することができる。六方晶SiCと3C−SiCの積層も可能であり、その界面は結晶構造が急峻に変わる界面となる。
【0009】
非特許文献1(Anne Henry et al.″CVD growth of 3C−SiC on 4H−SiC substrate″ Materials Science Forum Vol 711(2012) pp.16−21)には高品質3C−SiCをon−axisの4H−SiC上に得るうえでの最適な温度と原料ガスの組成が開示されている。
【0010】
特許文献7(特開2003−68655号公報)は化合物単結晶基板表面に異種の化合物単結晶層をエピタキシャル成長させる化合物単結晶の製造方法を開示している。この方法では単結晶基板表面の少なくとも一部が一方向に延在する複数の起伏を有し、かつこの起伏は前記化合物単結晶層のエピタキシャル成長に伴って成長する欠陥が互いに会合しあうように設けられる。この方法を用いると、異種の半導体単結晶が積層した構造を製造することが可能であり、かつエピタキシャル成長層内の欠陥密度が低減されるので、高性能な半導体素子を得ることができる。
【0011】
特許文献8(米国特許6461944)は網目状のカンチレバー形状の単結晶層を単結晶基板上に得る方法を開示しており、基板上に同一結晶の積層構造、または異なる結晶の積層構造のエピタキシャル成長層を得る方法を開示している。はじめに結晶の特性が露出する単結晶基板表面を準備し、その上層にステップ制御エピタキシーを施して第1層目のエピタキシャル成長層を得る。この層は所定の結晶方位に対して傾斜した角度に平行な表面を持つ。次に、第1層のエピタキシャル成長層にパターニングを施し第2の分離した成長表面を得る。ただし、この際の2次元パターン形状には凹部を設ける様にする。さらに、第2の成長表面上の結晶核を除去したうえで、2次元核生成を抑制しながらステップ制御エピタキシーを行う。その結果、エピタキシャル成長した層は横方向に拡大し、2次元パターンの凹部において第3の層として連続した結晶構造が形成される。本方法では第3の層は空隙によって基板と隔離されているので、基板側の結晶欠陥の構造が第3の層に引き継がれず、高品質なエピタキシャル成長層を得ることができる。また、網目状の2次元パターンの大きさや配置、第3の層の成長時間などを調整することにより所望の場所に所望のサイズの結晶を得ることができる。さらに本方法をSiCに適用すれば、六方晶の基板上に3C−SiCを形成することも可能であり、第2層が基板に接触する界面には整合界面を得ることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4912064号明細書
【特許文献2】米国特許第5011549号明細書
【特許文献3】国際公開第2008/56698号
【特許文献4】特開2004−52813号公報
【特許文献5】特開2018−35051号公報
【特許文献6】特開平11−162850号公報
【特許文献7】特開2003−68655号公報
【特許文献8】米国特許第6461944号明細書
【特許文献9】特開2000−214593号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Anne Henry et al.″CVD growth of 3C−SiC on 4H−SiC substrate″ Materials Science Forum Vol 711(2012) pp.16−21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述の技術成果にも関わらず、異なる結晶多形の積層からなるSiC積層体を用いた半導体装置はいまだ実用化されていない。その主たる理由は、異なる結晶多形のヘテロ界面には必ずしも整合界面(結晶格子の連続性が保たれた界面)が形成されておらず、これがキャリア(電荷の担体となる荷電粒子であり、本発明では電子と正孔をさす)の移動度を抑制していることである。これに加え、SiC積層体の一部に含まれる双晶界面(TB)がキャリアの捕獲や散乱をもたらし、半導体素子の特性を悪化させている。たとえば、特許文献3が提供する方法では、必ずしもSiを被覆した箇所の全てが原子レベルで平坦な拡大テラスになるのではなく、ステップバンチングにともなうキンク面も形成される。キンク面は不整合界面(結晶格子が不連続な界面)であり、これがキャリアに対する散乱や捕獲を起こすため、半導体素子の特性が劣化する。また、キンク面で隔てられた3C−SiC同士は50%の確率で双晶の関係になるとともに、3C−SiCと六方晶SiCの界面の平滑性が損なわれるので、チャネルをドリフトするキャリアの一部はTBで散乱されてRchが増加するという問題が生ずる。
【0015】
特許文献4の提供する方法によって得られる3C−SiCと6H−SiC界面の平坦性は6H−SiC層そのものの表面の平坦性に依存し、その形成方法として特許文献1や特許文献2の提供するステップ制御エピタキシーを用いる限り、3C−SiCと6H−SiCの界面を原子レベルで平坦にすることは不可能であり、ステップ状の界面における電子の散乱によってMOSFETのRchが増加する。
【0016】
特許文献5の提供する方法では表面が立方最密充填構造(CCP)にのみに覆われた六方晶SiC基板を作製することが可能ではあるが、さらにその上層に3C−SiCをエピタキシャル成長しても、特許文献1や特許文献2のステップ制御エピタキシーを用いている限り、六方晶SiCの積層構造は最密面に平行に伝播するので、表面の一部は六方最密充填構造(HCP)のSiCに覆われてしまい、3C−SiCエピタキシャル成長層の表面を得る事ができない。仮に、CCP構造となった表面の法線軸方向に原子層エピタキシー法を用いて3C−SiCを成長したとしても、基板の六方晶SiCの表面が公差によりわずかながらも最密面から傾斜している限り、3C−SiCと六方晶SiCの界面は最密面に厳密に平行とはいえず、この界面近傍をドリフトするキャリアは不整合界面で散乱されて半導体素子のRonが増加する。
【0017】
特許文献6の提供する方法では、CPPから傾斜した六方晶SiC表面上において特定の最密充填構造を維持することは難しく、たとえSiとCの存在比や温度を調整して3C−SiCを形成しても、六方晶SiC基板表面上で離散した3C−SiCの特定の結晶面を特定方向に配向させる仕組みがないので、結果として3C−SiC同士は双晶の関係をとらざるを得ず半導体素子のRonが増加してしまう。また、特許文献5が提供する方法を併用し、最表面をCCPのみとしたうえでステップ制御エピタキシーを実施したとしても、3C−SiCと六方晶SiCの界面は必ずしもCPPに平行になるとは限らず、不整合界面やSFなどの発生が伴う。たとえ、偶然に3C−SiCと六方晶SiCの界面がCPPに一致したとしても、全てのCCPの積層順序の位相が一致するとは限らないので、不整合界面やSFを完全に解消することができず、半導体素子の信頼性や性能が悪化する可能性は解消しない。さらに、3C−SiCを得るためのエピタキシャル成長条件は六方晶SiCを得るための条件とは異なるため、3C−SiCと六方晶SiCのエピタキシャル成長層を同時に得ることは難しい。
【0018】
非特許文献1が提供する方法で用いるon−axis(結晶格子の最密面に平行)なSiC表面は、ステップ制御エピタキシーを施すことができないので、その上層に最密充填構造の積層順序を正確に伝播させることができない。このため、得られる3C−SiCからはTBを完全に解消することができず、半導体素子の特性劣化は避けられない。
【0019】
特許文献7が提供する方法ではエピタキシャル成長に伴って欠陥が互いに会合し合うように設けられるが、その基板表面は必然的に結晶格子のCPPとは異なる非極性面や半極性面にならざるを得ない。このため、たとえこの方法で六方晶SiC基板上に3C−SiCをエピタキシャル成長しても、そのヘテロ界面は整合界面とはなり得ず、散乱や捕獲によりキャリアの輸送特性が損なわれ、半導体素子のRonが高くなる。
【0020】
特許文献8の提供する方法を用いてステップフロー成長を促進するためには2次元核生成を抑制しなければならず、第3層を得る際には膜厚を増加させることができない。第3層を形成した後にこれを基板としてさらなる厚膜を基板表面の法線軸方向に成長することは可能であるが、第3層は他の領域から段差や空隙によって分離されているので、3C−SiC表面と六方晶SiC表面を同一平面上に混在させることはできず、半導体素子の設計や製造プロセスに支障を来す。また、第3の層のステップ制御エピタキシーの過程において、エピタキシャル膜に取り込まれる不純物量や熱膨張係数の変動による格子歪の発生を加味すると、第3層から伸びる全てのカンチレバーが必ずしも平行になるとは限らないので、結晶格子が連続した膜が常に得られるとは限らない。さらに第2層に対するパターニング形状には結晶学的な制限があり、初期の基板の傾斜方位や傾斜角度などを勘案したパターンの形状や配置が要求され、材料設計の自由度が抑制される。さらに、第3層と基板間の空隙は縦型の半導体素子においては電流経路を狭めるので、Ronの増加をもたらす。
【0021】
本発明は以上の事情を鑑みなされたもので、六方晶SiC層(1)と3C−SiC層(2)のヘテロ界面を有するSiC積層体でありながら、そのヘテロ界面の全ては結晶格子の最密面に厳密に平行であり、かつ結晶格子の連続性が保たれた整合ヘテロ界面(3)であることを特長とする構造とその製造方法を提供し、これを基板とする半導体素子の特性劣化を防ぐ。さらに、異なる結晶系のSiCを同時にエピタキシャル成長することを可能として製造コストの低減を容易にする、かつ、SiC積層体の主表面(S)に整合ヘテロ界面の切片(3S)を露出させて、キャリアに対する散乱や捕獲を伴うことなく、六方晶SiC表面(1S)と3C−SiC表面(2S)を区分し、それぞれの結晶構造に適した半導体素子の配置を自在とすることにより素子設計の自由度を向上させるとともに、半導体装置の性能と信頼性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
発明者は以上の課題を解決するにあたり鋭意検討した結果、六方晶SiC層表面に結晶格子の最密面(CPP)に平行な平面と傾斜した面とを特定の配置で混在させることで、所望の個所において3C−SiCの核生成を促進できること、そして、これにステップ制御エピタキシーを組み合わせることで、3C−SiC層と六方晶SiC層が同時に水平方向(CPPと平行方向)にエピタキシャル成長し、その界面に形成される整合界面が整合ヘテロ界面としてCPPと平行に拡大し、キャリアに対する散乱や捕獲を伴うことなく、3C−SiC表面と六方晶SiC表面を区分することを突き止め、本発明を完成させた。
【0023】
次に、本発明による課題解決の手段を説明する。
[1] 単結晶の六方晶SiC層(1)上に単結晶の3C−SiC層(2)が積層したSiC積層体であり、3C−SiC層(2)は双晶界面を含まず、3C−SiC層と六方晶SiC層が当接するヘテロ界面はそれぞれの結晶格子の最密面に厳密に平行であり、かつ結晶格子が整合した整合ヘテロ界面(3)であり、すべての整合ヘテロ界面(3)は0.5度以上、かつ73度未満の傾斜角度(θ)で主表面(S)上に露出し、主表面上における整合ヘテロ界面の切片(3S)は多角形、または端点を有さない直線として六方晶SiC表面(1S)と3C−SiC表面(2S)を区分することを特長とするSiC積層体。
[2] [1]記載のSiC積層体であり、六方晶SiC層(1)の結晶格子の最密面(CPP)の積層周期をn分子層(nは自然数)とした場合、その結晶格子の{0−33−n}面から選ばれる3回対称の関係にある結晶格子面(1N)のそれぞれに対し、3C−SiC層(2)の結晶格子の{―1−11}面(2N)のそれぞれが平行であることを特長とするSiC積層体。
[3] [1]または[2]のいずれか記載のSiC積層体の製造方法であり、六方晶SiC層(1)の表面の一つ以上の領域に結晶格子の最密面(CPP)と平行なシード面(1p)を形成する工程(シード工程)と、シード面に隣接するすべての表面に対して、シード面を基準として0.5度以上、かつ73度未満の正の俯角(θp)で傾斜した傾斜面(1i)を設ける工程(オフ工程)と、シード面(1p)上に3C−SiCの2次元核(2e)を生成させる工程(核生成工程)とを含み、かつ、3C−SiCの2次元核(2e)と傾斜面(1i)に露出するSiC層の双方を結晶格子の最密面(CPP)と平行な方向に同時にエピタキシャル成長させる工程(水平エピ工程)を含むことを特長とするSiC積層体の製造方法。
[4] [3]記載のSiC積層体の製造方法であり、前記オフ工程において傾斜面(1i)を六方晶SiC層(1)の表面を分断するように配置し、少なくとも一つの傾斜面特定の正傾斜方向(If)に傾斜した正傾斜面(1if)とし、さらに少なくとも一つの傾斜面正傾斜方向(If)と対向する負傾斜方向(Ib)に傾斜した負傾斜面(1ib)とすることを特長とするSiC積層体の製造方法。
[5] [4]記載のSiC積層体の製造方法であり、前記正傾斜方向(If)を六方晶SiC層(1)の<11−20>方位、または<1−100>方位のいずれか一つに一致させると共に、前記正傾斜面(1if)と前記負傾斜面(1ib)の境界に相当する尾根部(1r)と谷部(1v)を前記正傾斜方向(If)から88度以上92度以下の分断方向(Ix)に直線状に延伸させることを特長とするSiC積層体の製造方法。
[6] [3]〜[5]のいずれか一つに記載のSiC積層体の製造法であり、個々の傾斜面(1i)を結晶格子の最密面(CPP)上に投影した面の傾斜方向の長さの最小値をLとしたとき、シード面(1p)上に積層した3C−SiCの2次元核(2e)の厚さ(te)は傾斜角度(θ)の正接とLの積を下回ることを特長とするSiC積層体の製造方法。
[7] [3]〜[6]のいずれか一つに記載のSiC積層体の製造方法であり、核生成工程に先立ち、シード面(1p)を300℃から550℃のいずれかの温度で、700hPa以上の水素ガス圧力に1時間以上暴露する工程(表面構造安定化工程)を含むことを特長とするSiC積層体の製造方法。
[8] [1]または[2]記載のいずれか一つのSiC積層体を用いた半導体装置であり、半導体装置は一つ以上のnチャネル型の金属酸化膜半導体電界効果型MOSトランジスタ(NMOSFET)を含み、該NMOSFETのチャネル領域(Nch)は3C−SiC層(2)にのみ形成されていることを特長とする半導体装置。
[9] [1]または[2]記載のいずれか一つのSiC積層体を用いた半導体装置であり、半導体装置は一つ以上のpチャネル型の金属酸化膜半導体電界効果型MOSトランジスタ(PMOSFET)を含み、該PMOSFETのチャネル領域(Pch)は六方晶SiC層(1)にのみ形成されていることを特長とする半導体装置。
[10] [1]または[2]記載のいずれか一つのSiC積層体を用いた半導体装置であり、半導体装置は一つ以上のショットキーバリアダイオード(SBD)を含み、該SBDの陽極(An)は六方晶SiC表面(1S)にのみ形成されていることを特長とする半導体装置。
【0024】
なお、本来はSiC結晶の面方位を示すミラー指数が負の値となる場合は、該当する数字の上部に横線(バー)を記載すべきところではあるが、その記載ができないため、本明細書および特許請求の範囲においては該当する数字の前にマイナス記号「−」を付して表現している。
【発明の効果】
【0025】
SiCは炭素原子(C)と珪素原子(Si)が一対一で共有結合した結晶であるが、結晶多形と呼ばれる結晶格子の最密面(CPP)の積層順序の多様性により、様々な物性値が異なる値を示す。なお、六方晶SiCにおけるCPPは{0001}面に相当し、3C−SiCにおけるCPPは{111}面に相当する。
【0026】
立体的な結晶格子内に占めるCPPの相対的位置をそれぞれA、B、Cと定義した場合、SiCの結晶多形は積層順序がABC積層またはACB積層の立方最密充填構造(CCP)のみから構成される立方晶SiC(3C−SiC)か、ABA積層やACA積層などの六方最密充填構造(HCP)を周期的に含む六方晶SiCに分類される。ここで、3C−SiCは禁制帯幅(E)が他のSiC結晶多形よりも狭いため、金属−酸化膜−半導体(MOS)界面においては界面準位密度(Dit)が最も低くなり、MOSFETを製造する際にはそのチャネル抵抗(Rch)を低減できる。一方、4H−SiCや6H−SiCなどに代表される六方晶SiCはEが3C−SiCのそれよりも広く、降伏電圧(V)を高めつつ定常損失を低減できるという利点がある。
【0027】
たとえば4H−SiCであれば、その表面に現れるCPPの積層順序は、ABAまたはACAのHCP構造と、ABCまたはACBのCCP構造のいずれにもなり得る。この4H−SiCの表面上に3C−SiCを形成する場合、ABAやBACの最密充填構造が露出した表面上にはACB積層からなるCCP(CCP2)を単位とした3C−SiCが形成され、ACAやCABの最密充填構造が露出した表面上にはABC積層からなるCCP(CCP1)を単位とした3C−SiCが形成される。すなわち、表面がCPPからわずかに傾斜した六方晶SiCのように、表面の最密充填構造が一つに定まらない場合には、その上層に形成される3C−SiC層はCCP1とCCP2の双方を含むようになり、その境界には双晶界面(TB)が形成され、漏えい電流密度が高くなる。これに加え、六方晶SiCと3C−SiCの界面は平坦ではなく、不整合界面も含まれるので、キャリアの散乱や捕獲によりRonが高くなる。
【0028】
上記の問題に対し、本発明が提供するSiC積層体の構造は六方晶SiC層(1)と3C−SiC層(2)が積層しているにもかかわらず、図1のとおり、整合ヘテロ界面(3)はCPPと厳密に平行である。このため、整合ヘテロ界面(3)は結晶格子を不連続にすることなく、キャリアの散乱や捕獲が抑制される。また、3C−SiC層の{1−11}面(2N)は六方晶SiCの{0−33−n}面(ただし、nはCPPの積層周期を示す自然数)から選ばれる3回対称な面(1N)と平行になるので、3C−SiC層(2)には双晶界面(TB)が含まれず、漏えい電流が抑制される。このような整合ヘテロ界面(3)は、基板表面がCPPに対して微傾斜していることを必須とする従来のステップ制御エピタキシーでは得ることができなかった。
【0029】
さらに、本発明のSiC積層体は整合ヘテロ界面(3)が傾斜角度(θ)でSiC積層体の主表面(S)と交わり、その切片(3S)を露出して六方晶SiC表面(2S)と3C−SiC表面(1S)とを区分するので、それぞれの結晶構造の物性値に適した半導体素子を表面上に区分して配置することが可能となる。すなわち、本発明の提供するSiC積層体を基板として用いればSi半導体製造工程と同様なプレーナー技術を用いて、SiC基板上に複数種の半導体素子を製造することが可能となる。
【0030】
上記のSiC積層体を実現するため、本発明が提供する製造方法では、図2(a)のとおり、六方晶SiC層(1)の表面上にCPPと平行なシード面(1p)を形成する(シード工程)。シード面(1p)は微視的にも平滑なので、シード面上のCPPの積層順序はABA、ACA、CAB、BACのいずれか一つに定まり、3C−SiC層内におけるTBの発生が抑制される。さらに、シード面(1p)に隣接するすべての傾斜面(1i)は傾斜角度(θ)に相当する俯角(θp)を有するので、シード面(1p)の端部と傾斜面(1i)の表面にはそれぞれの最密面(CPP)の積層順序が露出し、後述する水平エピ工程で実施されるステップ制御エピタキシーにおいては、シード面(1p)と傾斜面(1i)はその結晶構造を保ってCPPと平行方向に同時に拡大して不整合界面の発生を抑制する。
【0031】
ここで、図2(b)のとおり、さらなるステップ制御エピタキシーによりシード面(1p)の幅が臨界幅(We)以上に拡大すると、シード面の中央部においてSiC反応前駆体が過飽和となり、3C−SiCの2次元核(2e)が生成される(核生成工程)。この2次元核(2e)におけるCPPの積層順序はシード面表面の最密充填構造を引き継いで、ABC積層(CCP1)またはACB積層(CCP2)のいずれか一つのみとなる。このため、3C−SiCの2次元核(2e)内にはTBが含まれず、キャリアの漏えい、散乱、あるいは捕獲が抑制された高性能な半導体素子を得ることができる。ただし、臨界幅(We)はシード面(1p)上におけるSiC反応前駆体の拡散距離や吸着係数に依存するので、必要となる3C−SiC層の面積を勘案してエピタキシャル成長時の温度や圧力を調整する。
【0032】
ところで、従来のステップ制御エピタキシーのように、六方晶SiC表面が結晶格子の最密面(CPP)に対して特定方向に一様に傾斜している場合には、六方晶SiC層表面は分子層高さの略平行なステップとその間に形成される平坦なテラス構造によって覆われており、すべてのステップが特定方向に平行移動する。この場合、特定のテラスが優先して拡大することは無いので、テラス上において3C−SiCの2次元核(2e)生成を促すことができない。
【0033】
一方、本発明が提供するSiC積層体の製造方法では、傾斜面(1i)の少なくとも一端がシード面(1p)に接しており、その傾斜面は隣接するシード面に対して傾斜角度(θ)に相当する俯角(θp)を有している。したがって、ステップ制御エピタキシーを実施してもシード面上にはステップが移動せず、シード面(1p)を起点としたテラスがCPPに平行に拡大することで過飽和度を上昇させて3C−SiCの2次元核(2e)を生成させる(核生成工程)。
【0034】
本発明が提供するSiC積層体の製造方法の利点は、水平エピ工程により3C−SiCの2次元核(2e)が拡張して新たなシード面(2p)を形成すること(シード工程)、そして新たなシード面(2p)が臨界幅(We)以上に拡張し、その上層にさらなる3C−SiCの2次元核(2e)を生成すること(核生成工程)である。このようにして、水平エピ工程とともに、シード工程と核生成工程が交互に繰り返される。具体的には、図2(b)に示されるように、ひとたび3C−SiCの2次元核(2e)が形成されると(核生成工程)、その端部が新たなステップとなって横方向にエピタキシャル成長し、図2(c)のように3C−SiCの2次元核(2e)の面積をCPPと平行に拡大させる(シード工程)。この際、シード面に隣接する傾斜面も六方晶SiCの積層順序を露出して横方向にエピタキシャル成長するので、整合ヘテロ界面(3)の構造も保存される。さらに水平エピ工程が継続して3C−SiCの2次元核の面積が臨界幅(We)を超えると、図2(d)が示す通り、その表面は新たなシード面(2p)となってさらなる3C−SiCの2次元核(2e)を生成する(核生成工程)。以上のようにして、3C−SiC層(2)の膜厚の制限なく、TBを含まない3C−SiC層(2)を六方晶SiC層(1)上に形成することができる。
【0035】
本発明が提供するSiC積層体の製造方法よって形成されるSiC積層体細部の断面構造を図3により説明する。六方晶SiC層(1)と3C−SiC層(2)はCPPと厳密に平行な整合ヘテロ界面(3)を介して積層する。整合ヘテロ界面(3)は主表面(S)上の平面に対して傾斜角度(θ)で露出し、六方晶SiC表面(1S)と3C−SiC表面(2S)を区分する。さらに、六方晶SiC表面(1S)と3C−SiC表面(2S)にはそれぞれのCPPの積層構造が露出してステップ制御エピタキシーを可能にする。これと同時に、3C−SiC層(2)の一部はCCPに平行なシード面(2p)を主表面上に露出して新たな3C−SiCの2次元核を生成し続ける。また、3C−SiC層の{−1−11}面(2N)は六方晶SiCの{0−33−n}面(ただし、nは最密面の積層周期を示す自然数)から選ばれる3回対称な面(1N)に平行となる。このため、不整合界面、双晶界面(TB)、そしてダブルポジショニングバウンダリーのいずれをも含まないSiC積層体を得ることができる。
【0036】
たとえば、本発明の請求項4が提供するSiC積層体の製造方法に従えば、図4(a)の上面図と図4(b)の断面図が示す通り結晶格子の最密面(CPP)から正傾斜方向(If)に傾斜した正傾斜面(1if)が六方晶SiC層の表面を分断するように形成され、さらに正傾斜方向と対向する負傾斜方向(Ib)に傾斜した負傾斜面(1ib)も六方晶SiC層の表面を分断するようにして形成される。このため、正傾斜面(1if)と負傾斜面(1ib)との間には尾根部(1r)と谷部(1v)が存在し、それぞれの領域内には必然的に最密面(CPP)と平行な部分が含まれる。尾根部(1r)に対し、隣接する傾斜面は俯角(θp)を有するので、その側面に最密面(CPP)の積層構造を露出させ、ステップ制御エピタキシーによって横方向に成長してシード面(1p)を拡張する。
【0037】
一方、谷部(1v)は仰角のある傾斜面(1if、1ib)に挟まれるためCPPに平行な面を拡大することは無く、対向するステップの会合によって縮小し、必然的にステップ制御エピタキシーを阻む。このため、傾斜面の配置によって3C−SiC表面(2S)の端部位置を特定できるとともに、六方晶SiC表面(1S)との区分が可能となる。
【0038】
さらに本発明の請求項5が提供するSiC積層体の製造方法を用いると、尾根部(1r)と谷部(1v)の延伸方向は傾斜方向(If、Ib)に対して略直角となるので、ステップ制御エピタキシーが発現する方向は傾斜方向のみに限定され、再現性に優れたSiC積層体の製造が可能となる。さらに、3C−SiC表面(2S)と六方晶SiC表面(1S)は、主表面上においてストライプ状に配列するので、半導体素子の配置が容易となる。
【0039】
本発明が提供するSiC積層体は、その主表面上に露出する整合ヘテロ界面の切片(3S)が端部を有さないことを特長とする。すなわち、図5のように、整合ヘテロ界面の切片(3S)は主表面の一端から他方の端部まで横断するか、あるいは図6のように多角形状(三角形状)を呈する。このような整合ヘテロ界面の切片の配置により、3C−SiC表面(2S)と六方晶SiC表面(1S)は結晶格子の連続性を保ったまま区分けされるので、キャリアの捕獲や漏えいなどを伴わず、所定の結晶構造を有するSiC表面に所望の半導体素子を配置することが可能となる。
【0040】
上記のような整合ヘテロ界面(3)の配置を実現するためには、図7の上面図が示すとおり、負傾斜面(1ib)と正傾斜面(1if)は六方層SiC表面を分断するように配置しなければならない。あるいは、図8が示す円錐台や図9が示す三角錐台(多角錐台)の尾根部(1r)をシード面として用いる場合には、尾根部(1r)は隣接するすべての傾斜面(1is、1iu、1iv、1iw)に対して0.5度以上かつ73度未満の俯角(θp)を有していなければならない。
【0041】
一方、図7に示される部分傾斜面(1pf、1pb)のように六方晶SiC層の表面を完全に分断しない傾斜面が存在する場合には、不連続な谷部(1pv)や不連続な尾根部(1pr)も形成され、図10に示されるように3C−SiC表面(2S)と六方晶SiC表面(1S)の境界の一部に不整合界面の切片(3J)が露出し、キャリアの捕獲や散乱によって半導体素子の特性が劣化する。
【0042】
ところで、本発明の請求項3〜5を用いても、異なるシード面(1p)上に形成される3C−SiCの2次元核(2e)の最密充填構造が常に同一であるとは限らない。すなわち、シード面上に2次元核生成される3C−SiCのCPPの積層順序はABC積層(CCP1)とACB積層(CCP2)のいずれになるかは一義的に定まらず、異なるシード面から成長する3C−SiC同士が会合した場合には双晶界面(TB)を形成して半導体素子の特性を悪化させる可能性がある。このため、請求項6では個々の傾斜面(1i)を最密面(CPP)上に投影した面の傾斜方向の長さの最小値をLとしたとき、シード面(1p)上に形成される3C−SiC層の厚さ(図3記載のte)は傾斜角度(θ)の正接とLの積を下回るとの制限を加え、異なるシード面上から横方向にエピタキシャル成長する3C−SiC同士を会合させない方法を提供している。
【0043】
あるいは、異なるシード面(1p)から横方向にエピタキシャル成長する3C−SiC表面(2S)同士が会合するとしても、請求項7が提供するSiC積層体の製造方法に従い表面構造安定化工程によってシード面のステップ端部のエネルギーを最小化すれば、全てのシード面(1p)表面の最密充填構造が一致するので3C−SiC層内のTB発生を抑制することが可能となる。
【0044】
本発明の提供するSiC積層体の製造方法を用いることにより、六方晶SiC層(1)と3C−SiC層(2)の整合ヘテロ界面(3)の構造が均一となるので、整合ヘテロ界面に沿ったポテンシャル障壁のばらつきが抑制され、この整合ヘテロ界面(3)と平行方向に輸送されるキャリアの移動度が向上し、MOSFETにおいてはRchが低減する。たとえば、本発明が提供するSiC積層体の製造方法によって六方晶SiC(1)と3C−SiC(2)が積層した超格子を形成した場合、量子井戸となる3C−SiC層内の2次元電子ガスの移動度が制限を受けず、高電子移動度トランジスタ(HEMT)のような高速な半導体スイッチング素子を得ることが可能となる。
【0045】
さらに、本発明の提供する半導体装置では、図11が示すように整合ヘテロ界面の切片(3S)で区分けされた3C−SiC表面(2S)と六方晶SiC表面(1S)が主表面(S)上に露出したSiC積層体を基板として用いるので、NMOSFETのように電子のチャネル移動度を高めるべき素子を電子に対するDitの低い3C−SiC層(2)に形成し、PMOSFETのように正孔のチャネル移動度を高めるべき素子を正孔に対するDitの低い六方晶SiC層(1)に配置することが可能となり、SiCの低損失性能を生かした相補型金属酸化膜半導体(CMOS)回路の製造が可能となる。
【0046】
さらに、整合ヘテロ界面(3)の深さは傾斜角度(θ)とシード面(1p)上に堆積する3C−SiCの2次元核の厚さ(te)に依存するので、必要とする素子の構造に合わせてθとteを調整すれば任意の層厚のSiC積層構造を得ることができる。たとえば、表面近傍の0.1μmの厚さの層を3C−SiCとして低抵抗チャネルを形成し、その下部の20μm厚さの層を六方晶SiCからなるドリフト層として、所望のRonとVを兼ね備えたMOSFETを製造する場合、傾斜角度(θ)を4度として整合ヘテロ界面の切片(3S)から1.43μmを隔てた3C−SiCの表面にソース電極を形成すれば良く、傾斜角度(θ)を30度とすれば、整合ヘテロ界面の切片(3S)から0.2μmを隔てた3C−SiCの表面にソース電極を形成すれば良い。
【0047】
上記のMOSFETに隣接して還流ダイオードを設ける場合には、図11が示すように六方晶SiC表面(1S)に仕事関数の高い金属電極を陽極(An)として設ける。六方晶SiCは3C−SiCに比べて電子親和力が低いため、ショットキー障壁が高くなり、高耐圧で低損失なショットキーバリアダイオード(SBD)を得ることが可能となり、定常損失とスイッチング損失の双方が抑制された半導体装置を製造することができる。また、SBDのVとRonはSiCのEによって定まるので、所望の半導体素子特性に合わせて、結晶多形の中から所望のEを有する六方晶SiC層を選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1図1は本発明のSiC積層体の構造を説明するための断面図である。
図2図2(a)〜(d)は本発明のSiC積層体の製造方法の工程を説明するための断面図である。
図3図3は本発明のSiC積層体の製造方法により形成された断面構造の細部を説明するための図である。
図4図4(a)および図4(b)は、それぞれ本発明の請求項4が提供するSiC積層体の製造方法を説明するための上面図と断面図である。
図5図5は本発明が提供するSiC積層体の主表面に露出する直線状の整合ヘテロ界面の形状を説明するための上面図である。
図6図6は本発明が提供するSiC積層体の主表面に露出する多角形状(三角形状)の整合ヘテロ界面を説明するための上面図である。
図7図7は本発明が提供するSiC積層体の製造方法を説明するための傾斜面の上面図である。
図8図8(a)および図8(b)は、それぞれ本発明のSiC積層体製造方法に係る円錐台の上面図と断面図である。
図9図9(a)および図9(b)は、それぞれ本発明のSiC積層体製造方法に係る多角錐台(三角錐台)の上面図と断面図である。
図10図10は不整合界面の切片が露出したSiC積層体の上面図である。
図11図11は本発明が提供する半導体装置の構造を説明するための断面図である。
図12図12(a)および図12(b)は本発明が提供するSiC積層体製造方法の第1実施形態を説明するための断面図である。
図13図13は本発明が提供するSiC積層体製造方法の第1実施形態において微傾斜ウエハを用いたシード面形成方法を説明するための断面図である。
図14図14(a)〜(e)は本発明が提供するSiC積層体製造方法の第2実施形態を説明するため上面図である。
図15図15は本発明が提供するSiC積層体製造方法の第1実施形態で形成されたSiC積層体を用いたパワーMOSFETの断面構造図である。
図16図16は本発明が提供するSiC積層体製造方法の第2実施形態で形成されたSiC積層体に係るパワーMOSFETの断面構造図である。
図17図17は本発明が提供するSiC積層体製造方法の第1実施形態で形成されたSiC積層体に係るCMOS回路の断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本明細書で開示するSiC構造体の特長と製造方法、そして半導体装置のいくつかの実施形態を説明する。
【0050】
[SiC積層体製造方法の第1実施形態]
本発明のSiC積層体の製造方法を実施するにあたり、基板として単結晶の六方晶SiCウエハを準備する。単結晶SiCウエハとして4H−SiCあるいは6H−SiCウエハが市販されているが、本実施形態では高耐圧のパワー半導体素子の製造に適した3.2eVのEを有する4H−SiCウエハを用いる。本発明を実施するにあたり、4H−SiCウエハの抵抗率に制限は無いものの、パワーMOSFETの基板としてSiC積層体を利用する場合には、そのRonを低減するため、高濃度のドナー不純物(窒素や燐など)が添加された20mΩ・cm以下の抵抗率を示すウエハを用いることが望ましい。また、4H−SiCウエハ表面はSi極性である(0001)面に略平行とすることが望ましいが、オフ工程やシード工程において微細加工が困難な場合には、後述する理由により、最密面に対して表面が0.5度から8度の範囲で傾斜し、かつ傾斜方向が<11−20>方位や<1-100>方位から選ばれる特定方向であるSiCウエハ(微傾斜SiCウエハ)を用いることが望ましい。
【0051】
(オフ工程、シード工程)
本実施形態では、整合ヘテロ界面が4H−SiCウエハの一端から他端まで直線状に横断し、3C−SiC表面と4H−SiC表面がストライプ状に交互に並んだ主表面を有するSiC積層体の製造方法を示す。この構造を形成するため、図12(b)の断面図に示されるように4H−SiCウエハ表面を横断するようにして正傾斜面(1if)と負傾斜面(1ib)を側壁とする複数の溝(TR)を平行に形成する。
【0052】
溝(TR)の形成には機械加工や化学的エッチング法、レーザー加工などの方法を用いることができるが、傾斜面の形状の再現性や配置の自由度などを勘案すると、フォトリソグラフィー技術とドライエッチング法を用いた加工方法が最も望ましく、かつ簡便である。この工程では、はじめに図12(a)が示すように、4H−SiCウエハ表面にフォトレジストによる複数の線状のパターン(LPR)を形成する。ただし、後述するドライエッチング工程で傾斜面を形成する必要があるため、LPRの断面は幅がWhの庇を持つT字形状とする。LPRに対するT字形状の形成方法については特許文献9(特開2000−214593号公報)などに記載されているので本明細書においてはその詳細な記載は省略する。ただし、フォトレジストの厚さは0.5μm以上で5μm以下、さらに望ましくは0.7μm以上で2μm以下とする。フォトレジストの厚さが0.5μmを下回ると、後述するドライエッチング工程においてシード面となるべき個所が部分的にエッチングされ、その平滑性を失って3C−SiCの多核生成が起きる可能性がある。多核生成が起こると、3C−SiC層にTBが発生する。一方、フォトレジストの厚さが5μmを超えると、LPRの線幅や庇形状の精度が悪化し、後述の水平エピ工程により形成される3C−SiC表面と4H−SiC表面の境界が蛇行し、不整合界面が発生する。
【0053】
本発明の効果を発現させるため、LPRはウエハ表面の一端から他端まで直線状に連続している必要がある。これに加え、LPRの延伸方向(分断方向)や隣接するLPRとの間隔(スペース幅)、そしてLPRの最小線幅(ライン幅)が本発明の効果を発現させるための重要な要因である。一般的なステップ制御エピタキシーにおいては[11−20]方位に傾斜した面を用いることを考慮すると、分断方向は[11−20]方位と直交する[1−100]方位に対して2度以内、さらに最善を目指すのであれば0.5度以内とすることが望ましい。なぜならば、傾斜方向に対して分断方向の直交度が損なわれるほど、ヘテロ整合界面に不連続箇所が発生するためである。このため、すべてのLPRは[1−100]方位に平行となるように位置決めして加工する。LPRの位置決めの際の基準には、市販されているウエハの外周に加工されている第2オリエンテーションフラットを用いることができる。
【0054】
ライン幅は100nm以下であることが望ましく、さらには1nm以下であることが望ましい。ライン幅が100nmを超えると、シード面(1p)の幅が広くなり、その過飽和度の高さから3C−SiCの2次元核(2e)が多核生成し、3C−SiC層(2)内にTBが含まれる可能性がある。
【0055】
一方、スペース幅は1μm以上で1mm以下であることが望ましく、最良を目指すのであれば10μm以上で500μm以下であることが望ましい。その所以は次の通りである。すなわち、後述のドライエッチング法によってスペース幅に相当する個所にTRが形成されるが、TRの側壁は、傾斜面(1ifと1ib)に相当する。ここで、スペース幅が1μmを下回ると、後述するドライエッチングによって形成される傾斜面に対して十分な高低差(d)と俯角(θp)を与えることが難しくなり、ステップ制御エピタキシーが不全となる。一方、スペース幅が1mmよりも広くなると、本方法によって得られる3C−SiC表面(2S)の面積比率が主表面(S)の面積に対して相対的に減少し、半導体装置の単位面積当たりの電流容量が減少する。
【0056】
上記の通りLPRパターンを形成した後、反応性ドライエッチング(RIE)によってスペース幅に相当する個所に露出するSiCをエッチングしてTRを形成すれば、その側壁に正傾斜面(1if)と負傾斜面(1ib)を得ることができる。RIEでSiCをエッチングする際にはSFや,NF、BF、そしてCFなどのフッ素を含むエッチングガスを用いることが望ましい。特に、ドライエッチングガスとしてはCFを用い、CFの流量に対してOの流量を4分の1として混合することでSiCのエッチング速度を極大とすることができる。RIEの実施にあたっては平行平板型のRFエッチング装置を用いることが望ましい。また、RFエッチング装置への投入電力は200W以下、さらに望ましくは150W以下から75W以上の範囲とし、ガスの圧力を13.8Pa以上、さらに望ましくは30Paから50Paの間とすることが望ましい。投入電力が200Wを上回ると、プラズマ照射によってSiC結晶表面に結晶欠陥が導入され、後述する水平エピ工程におけるステップ制御エピタキシーが不全となる可能性が生じる。一方、投入電力が75Wを下回るとイオンの直進性が損なわれて傾斜面の俯角(θp)を調整することが困難となる。また、ガスの圧力が13.8Paを下回ると、プラズマを構成するイオンの運動エネルギーが高まり、SiC結晶表面に結晶欠陥が導入される可能性が高まる。一方、ガスの圧力が50Paを上回ると、エッチング中の残渣が傾斜面の一部に付着し、後述の水平エピ工程においてステップ制御エピタキシーが不全となる可能性が生ずる。
【0057】
上記RIEによりLPR開口部に露出するSiC表面を1nm以上、かつ10μm以下の所定の深さとなるまでエッチングして除去する。エッチング深さが1nmを下回ると傾斜面(1if、1ib)に露出するステップ密度が僅少となり、後述の水平エピ工程でステップ制御エピタキシーが不全となる。一方、エッチング深さが10μmを超えると、LPRがドライエッチング中に消失し、俯角(θp)の制御性を損なうばかりか、シード面(1p)の平滑性が悪化して3C−SiC層内にTBを発生させる。
【0058】
本実施形態のRIEではLPRの庇の下部付近でエッチング深さが変化するため、傾斜面(1if、1ib)の俯角(θp)はLPRの庇の幅(Wh)とTRの深さ(すなわち、傾斜面の高低差 d)で制御することができる。具体的にはdはWhと俯角(θp)の正接の積に相当するので、RIEを施す時間を変えることによりdをWhに対して0.009倍から3.27倍の範囲で調整すれば、0.5度から73度の俯角(θp)を得ることができる。たとえば、Whを0.5μmとしてdを35nmとなるようにRIEを施す時間を調整すれば俯角(θp)として4度を得ることができる。さらに、Whは正傾斜方向(If)と負傾斜方向(Ib)それぞれで異なる値を選ぶことができるので、正傾斜面の俯角と負傾斜面の俯角を任意に変えることができる。ただし、俯角(θp)を0.5度未満とすると、傾斜面に露出するステップ密度が極単に低くなり、過飽和度の上昇により3C−SiCの多核生成が起こるので望ましくない。一方、俯角(θp)が73度以上になると実質的なステップ間隔が一分子以下の大きさとなり、ステップ制御エピタキシーが発現し無くなる。このため、俯角(θp)は1度から15度の範囲とすることが望ましく、さらに、再現性に優れたエピタキシャル成長を実現するうえでは、俯角(θp)は2度から8度の範囲とすることが望ましい。なお、俯角(θp)は整合ヘテロ界面と主表面が交差する傾斜角度(θ)に相当するので、傾斜角度(θ)の最適な範囲も俯角(θp)によって定まる。
【0059】
上記のとおり所望の傾斜面形状が得られた後、酸素アッシング装置を用いて4H−SiCウエハ表面に残留しているフォトレジストを除去する。フォトレジストは100Wで15分以上の処理で完全に除去される。さらに、硫酸と過酸化水素の混合溶液(SPM)洗浄と純水リンスをそれぞれ5分間実施して、4H−SiCウエハ表面の金属不純物やダストなどを完全に除去する。この洗浄が不十分な場合には、ダストや不純物により水平エピ工程におけるステップ制御エピタキシーが不完全となり、エピタキシャル膜の欠陥密度増加や、整合ヘテロ界面の平滑性劣化が引き起こされる。
【0060】
以上、オフ工程とシード工程の詳細を説明したが、100nm以下のライン幅の加工が困難な場合には、傾斜面方向である特定の[11−20]方位に0.5度から8度の範囲の初期傾斜角度(θf)でCPPから表面が傾斜した微傾斜ウエハを用いると、実質的には1nm以下の幅のシード面を得ることができる。たとえば、図13の断面図は、ウエハ表面がCPPから正傾斜方向(If)に傾斜することで実質的なシード面は負傾斜面(1ib)の上端(CPPが接線となる箇所)に限られ、尾根部(1r)も正傾斜面(1if)の一部として機能することを示している。これに加え、シード面(1P)の両端に隣接するテラス幅が非対称となり、後述の表面構造安定化工程においては幅の広いテラスの安定化が優先されて3C−SiC表面(2S)の最密充填構造がCCP1かCCP2のいずれか一つに定まるようになる。ただし、前記した工程で得られる傾斜面の尾根部(1r)に対する俯角は初期傾斜角度(θf)よりも0.5度以上の角度としなければ実効的な負傾斜面(1ib)は得られない。なぜならば、シード面(1P)に対する傾斜面の俯角(θp)が0.5度を下回るか、あるいは負の値となってしまうためである。
【0061】
(表面構造安定化工程)
後述する水平エピ工程に先立ち、本発明の請求項7記載の表面安定化工程によりシード面(1P)表面のエネルギーを安定化させて最密充填構造を均一化することが望ましい。この表面構造安定化工程における処理条件は以下の通りである。すなわち、オフ工程を終えた4H−SiCウエハを水素処理容器内に設置し、700hPaから1100hPaの水素ガス雰囲気に暴露する。この際の水素ガスの純度は99.99%以上、さらに望ましくは99.9999%以上とすることが望ましい。水素の純度が99.99%を下回ると、残留する酸素や水蒸気成分で4H−SiCウエハの表面が酸化やエッチングを被り、ステップ制御エピタキシーが難しくなる。
【0062】
次に、水素処理容器内の温度を300℃から600℃まで昇温し、1時間以上保持する。この保持時間が長いほど表面構造の安定化は確実になるが、生産性は損なわれる。生産性の向上とシード面表面構造の安定化を両立させるためには、基板温度を450℃から550℃とすることが望ましく、水素の圧力は900hPaから1000hPaとすることが望ましい。処理温度が550℃を超える場合、あるいは水素圧力が900hPaを下回る場合には水素によるエッチングによってSiC表面の平滑性が損なわれる。水素圧力が1000hPaを上回ると、処理容器内部が大気に対して陽圧となり水素ガス漏えいの危険性が生ずるので安全上好ましくない。
【0063】
(核生成工程、水平エピ工程)
上記のオフ工程、あるいは表面構造安定化工程の後、水平エピ工程としてステップ制御エピタキシーを実施する。本発明における水平エピ工程では市販のSiCエピタキシャル成長装置を用いることが可能であり、その原料ガスとしてはシラン系ガス、塩化シラン系ガス、有機シラン系ガスの何れかひとつ以上と炭化水素ガスの組み合わせを用いることができる。一般的なSiCエピタキシャル成長においてはモノシランとプロパンの混合ガス、ジクロルシランとアセチレンの混合ガス、四塩化ケイ素とメタンの混合ガスのいずれかが用いられており、特にモノシランとプロパンの混合ガスを用いることで本発明を実施する場合においても再現性に優れたステップ制御エピタキシーが実現する。
【0064】
本実施形態では、SiCがコーティングされたグラファイトのサセプタ上に4H−SiCウエハを載置し、これを石英反応容器に入れて、反応容器の外部からサセプタを誘導加熱することにより該ウエハを所定の温度まで加熱してSiCのエピタキシャル成長を実施する。エピタキシャル成長時のウエハ温度を1400℃から1700℃の範囲の一定温度に保つことでSiC単結晶がエピタキシャル成長する。特に、ウエハ温度を1500℃から1650℃の範囲の温度とすると高品質な単結晶SiC層を得ることができる。さらに望ましくはウエハ温度を1550℃から1650℃の一定温度に保つことにより、シード面の拡大とその表面への3C−SiCの2次元核生成を伴ったステップ制御エピタキシーが両立する。
【0065】
エピタキシャル成長にあたっては、たとえばウエハ温度を1650℃とし、水素流量を5slm、モノシラン流量を50sccm、プロパン流量を13sccm、反応容器内圧力を300hPaとすることにより正傾斜方向(If)と負傾斜方向(Ib)の双方に171μmの速度でステップが移動し、その結果として俯角(θp)が4度の場合には[0001]方位に12μm/hourのエピタキシャル成長速度が得られる。
【0066】
エピタキシャル成長層の抵抗率を調整する際には、エピタキシャル成長工程においてN、PH、B、TMA(トリメチルアルミニウム)、AlClから選ばれるいずれか1種以上のガスを任意の量で混入させればSiCのエピタキシャル層に対してドナー不純物(N、P)やアクセプタ不純物(B、Al)を添加することが可能である。たとえば、Vが600VのMOSFETのドリフト層を形成する際には5sccmのNを混入し、50分のエピタキシャル成長を行うことにより、室温でのドナー濃度が3×1015cm−3で膜厚10μmのエピタキシャル成長層を形成することができる。俯角(θp)を4度とした場合、このエピタキシャル成長により形成される3C−SiC表面の[11−20]方位の幅は143μmとなる。
【0067】
(SiC積層体の構造)
以上のエピタキシャル成長工程を経ることにより、4H−SiCと3C−SiCの整合ヘテロ界面が最密面(CPP)に平行に形成されたSiC積層体を得ることができる。また、SiC積層体の主表面上には整合ヘテロ界面の切片が[1−100]方位に平行な直線として露出し、4H−SiC表面と3C−SiC表面は明確に区分される。さらに、3C−SiCの[1−10]方位は4H−SiCの[1−100]方位に一致し、かつそれぞれのCPPは平行なので、3C−SiCのすべての{1−11}面は4H−SiCの{0−33−4}面から選ばれる3回対称な面の組み合わせと完全に一致する。以上によって、ヘテロ界面における散乱や捕獲がなく、かつTBを含まないSiC積層体を形成することができる。
【0068】
[SiC積層体製造方法の第2実施形態]
本発明のSiC積層体の製造方法を実施するにあたり、基板として単結晶の六方晶SiCウエハを準備する。単結晶SiCウエハとして4H−SiCあるいは6H−SiCウエハが市販されているが、本実施形態では高耐圧のパワー半導体素子の製造に適した3.2eVのEを有する4H−SiCウエハを用いる。本発明を実施するにあたりウエハの抵抗率に制限は無いが、パワーMOSFETの基板としての利用を前提とした場合には抵抗率が20mΩ・cm以下となるよう、高濃度のドナー不純物が添加されたウエハを用いる方が望ましい。また、4H−SiCウエハ表面はSi極性である(0001)面に略平行とすることが望ましいが、オフ工程やシード工程において微細加工が困難な場合には、CPPに対して表面が0.5度から8度の範囲で傾斜し、かつ傾斜方向は<11−20>方位、または<1-100>方位から選ばれる特定の方向であるSiCウエハ(微傾斜SiCウエハ)を用いることが望ましい。
【0069】
(オフ工程、シード工程)
本実施形態では、主表面上の3C−SiC表面の周囲が整合ヘテロ界面を介して4H−SiC表面に囲まれたSiC積層体の製造方法を示す。このため、4H−SiCウエハ表面に回転対称な傾斜面を形成する。該傾斜面を形成するにあたって、はじめに4H−SiCウエハ表面にSi酸化膜(OX)を形成する。Si酸化膜を形成するには、酸素ならびに水蒸気中での熱酸化、シランと酸素を原料とした化学的蒸気堆積法(CVD)、スパッタリング法を用いることができる。本実施形態におけるSi酸化膜(OX)は傾斜面を形成する際の保護膜として用いるので、膜厚分布の均一性や密度の高さが重要である。このため、Si酸化膜(OX)は水蒸気を含む酸素雰囲気中での熱酸化で形成することが最も望ましい。また、形成するSi酸化膜(OX)の膜厚は1μm以上とすることが望ましい。Si酸化膜厚が1μmを下回ると、後述の研磨工程の最中にSi酸化膜(OX)が消失し、所望の傾斜面を得ることが困難となる。ただし、SiCはSiに比べて酸化速度が低く、Si酸化膜(OX)の膜厚を厚くするほど熱酸化工程に時間を要する。熱酸化によって比較的短時間で4H−SiCウエハ上に1μmを超えるSi酸化膜(OX)を形成する際には、熱酸化に先立って4H−SiCウエハ上に0.4μm以上の膜厚のSi層を堆積しておくことで、堆積したSiの膜厚の約2.5倍以上の厚さのSi酸化膜(OX)を3時間以内で得ることができる。
【0070】
次に、図14(a)が示すとおり、Si酸化膜(OX)で覆われた4H−SiCウエハ上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィー技術を用いて、複数の円形のフォトレジストパターン(CPR)を均等な間隔で形成する。フォトリソグラフィー技術は一般的なSi集積回路製造工程と同様なので本実施形態では詳細な記述は省く。ただし、CPRの直径は100nm以下とすることが望ましい。このCPRの直径は後工程で形成されるシード面(1p)の幅に相当するので、100nmを上回るとシード面(1p)上での2次元核生成頻度が増加し、多核生成により3C−SiC層がTBを含む可能性が高まる。
【0071】
本実施形態によって得られるSiC積層体において、3C−SiC層の表面と4H−SiC層の表面の面積比率を決定するためには、隣接するCPRの最小間隔(スペース幅)は重要である。実用的なSiC積層体の表面を得るためにはスペース幅は100nmから1mmの範囲とすることが望ましい。本実施形態におけるスペース幅は後工程で形成される傾斜面の長さの2倍に相当するので、CPRの間隔が100nmを下回ると十分な4H−SiC表面の面積を得ることができなくなる。一方、CPRの間隔が1mmを上回ると、傾斜面の長さに比して十分な高低差を得ることが難しくなり、傾斜面に0.5度以上の俯角(θp)を与えることが難しくなる。
【0072】
CPRを形成した後に4H−SiCウエハを濃度5%のHF溶液に10分間浸漬し、CPRの形状をSi酸化膜(OX)に転写する。さらに、SiC積層体製造方法の第1実施形態と同様に酸素アッシング装置でCPRを除去し、図14(b)のとおり円形の酸化膜で部分的に被覆された4H−SiC表面を得る。
【0073】
次に、4H−SiCウエハ表面をpH5.5以下のダイヤモンドスラリーが浸透した研磨布に当接させて機械研磨を施す。研磨の最中においても、毎分400cc以上の流量でダイヤモンドスラリーを研磨布に供給し続ける。また、研磨布は平坦な回転盤に貼り合わせ、回転盤を30rpm以上で回転させることが望ましい。また、研磨速度は0.2μm/hourから10μm/hourの範囲となるように4H−SiCウエハの加圧量を調整する。研磨速度が10μm/hourを上回ると研磨により得られる傾斜面表面の平滑性が損なわれる。また、研磨速度が0.2μm/hourを下回ると傾斜面の加工に時間を要し、十分な生産性が得られなくなる。
【0074】
上記の研磨処理によりSi酸化膜(OX)で被覆されていない4H−SiC表面に窪みが生じ、その窪みの側面に傾斜面(1is)が得られる。その結果、図14(c)の平面図が示すようにSi酸化膜(OX)で被覆された箇所を尾根部(1r)とする円錐台が形成される。この円錐台の尾根部(1r)に対する傾斜面(1is)の俯角(θp)は傾斜面の高低差(d)とCPRの間隔で決定されるので、研磨時間を厳密に制御することにより0.5度から73度の間の俯角(θp)を得ることができる。ただし、俯角(θp)を0.5度未満とすると、傾斜面(1is)に露出するステップ密度が極単に低くなり、過飽和度の上昇により3C−SiCの多核生成が起こるので好ましくない。一方、俯角(θp)が73度を上回ると、実質的なステップ間隔が1分子以下の大きさとなり、ステップ制御エピタキシーが発現しなくなる。また、俯角(θp)は1度から15度の範囲とすることがより望ましく、さらに、再現性に優れたエピタキシャル成長を実現するうえでは、俯角(θp)は2度から8度の範囲とすることが望ましい。なお、俯角(θp)は整合ヘテロ界面と主表面が交差する傾斜角度(θ)に相当するので、傾斜角度(θ)の最適な範囲も俯角(θp)によって定まる。
【0075】
所望の円錐台形状を得た後、4H−SiCウエハを濃度5%のHF溶液中に10分間浸して、円錐台頂部のSi酸化膜(OX)を除去すると図14(d)の平面図または図8が示す円錐台形状の4H−SiC表面が得られる。次いで、5分間以上のSPM洗浄と純水リンスを施して表面のダストと不純物を除去する。この処理が不十分な場合には、後述のステップ制御エピタキシーが不全となり、3C−SiC層内のTB発生や不整合ヘテロ界面発生がもたらされる。
【0076】
以上、オフ工程とシード工程の詳細を説明したが、直径が100nm以下の尾根部(1r)の加工が困難な場合には、微傾斜ウエハを用いることで、実質的には1nm以下の幅のシード面(1P)を得ることができる。その微傾斜ウエハの初期傾斜角度(θf)の範囲と理由はSiC積層体製造方法の第1実施形態と同じであり、ウエハ表面が特定の方向に傾斜することで実質的なシード面(1p)は尾根部(1r)の端部(CPPが接線となる箇所)に限られ、尾根部(1r)が傾斜面の一部として機能する。これに加え、シード面の両端に隣接するテラス幅が非対称となり、幅の広いテラスの安定化が優先されることで、下記の表面構造安定化工程の効果が促進されて3C−SiC層表面の最密充填構造がCCP1かCCP2のいずれか一つに一義的に定まるようになる。その結果、本実施形態においては主表面上に露出する3C−SiC表面(2S)の形状が均一化する。
【0077】
(表面構造安定化工程)
上記オフ工程の後、SiC積層体製造方法の第1実施形態と同様の表面構造安定化工程を経ることでシード面(1p)の表面エネルギーを最小化することにより、そのCCP構造を一義的に定めることができる。
【0078】
(核生成工程、水平エピ工程)
上記表面構造安定化工程、またはオフ工程の後に、SiC積層体製造方法の第1実施形態と同様のエピタキシャル成長を実施する。このエピタキシャル成長の過程において、尾根部(1r)が横方向にエピタキシャル成長してシード面(1p)を拡張させる。このシード面の拡張により、シード面中央部の過飽和度が上昇し3C−SiCの2次元核(2e)が生成する。生成される3C−SiCの2次元核(2e)はシード面表面の最密充填構造を反映して特定のCCPを形成する。この3C−SiCの2次元核がさらに横方向に成長して新たなシード面(2P)を形成するので、整合ヘテロ界面(3)が拡大するとともに3C−SiC層(2)へのTB発生は抑制される。
【0079】
(SiC積層体の構造)
シード面上に単核生成した3C−SiCのCCP構造の側面は{110}面、{11−2}面、そして{−1−12}面から構成される。ただし、本実施形態のエピタキシャル成長条件では3C−SiCの<110>方位のエピタキシャル成長速度が他の結晶方位よりも高いので、3C−SiCからなるシード面の表面は図14(e)が示す通り{11−2}面に平行な辺を有する三角形状を呈する。一方、3C−SiC表面(2S)の周囲の傾斜面(1is)には4H−SiCの積層構造が露出する。該エピタキシャル成長条件では4H−SiCの<1―100>方位のエピタキシャル成長速度が他の4H−SiCの面方位に対して極大を示すので、傾斜面は{11−20}面方向に配向した6回対称な面となる。このため、3C−SiC層と4H−SiC層の整合ヘテロ界面は主表面上に三角形状の切片(3S)を露出し、3C−SiC表面(2S)と、これを取り囲む4H−SiCからなる傾斜面(1is)とを区分する。以上ようにして、界面におけるキャリアの散乱や捕獲がなく、かつTBを含まないSiC積層体を得ることができる。
【0080】
[パワーMOSFETとSBDの実施形態]
SiC積層体製造方法の第1実施形態と第2実施形態で作製されたSiC積層体を用いたパワーMOSFETとSBDの実施形態を示す。
(素子製造工程)
抵抗率が20mΩ・cm以下のN型の4H−SiC基板を用い、SiC積層体製造方法の第1実施形態と第2実施形態によって3C−SiC層と4H−SiC層からなるSiC積層体を作製する。ただし、水平エピ工程では意図的に窒素の添加をおこない、ドリフト層として窒素濃度が1×1016/cmのエピタキシャル成長層を8μmの厚さとなるように設ける。次いで、3C−SiC層(2)から下層の4H−SiC層(1)までイオンが貫通するようにアルミニウムイオンを注入し、それぞれ図15(SiC積層体製造方法の第1実施形態による構造)または図16(SiC積層体製造方法の第2実施形態による構造)に示されるように3×1017/cmの濃度でアクセプタ添加領域(p−well)を設ける。さらに、ソースコンタクト抵抗を低減するため、p−well表面近傍の一部に窒素イオンと燐イオンを注入し、1×1021/cm以上の濃度のドナー添加(n領域)を設ける。イオン注入の後、1600℃から1700℃で45分の熱処理を施し、注入イオンを電気的に活性化する。
【0081】
次に乾燥酸素雰囲気中で1120℃で60分の熱酸化を施して主表面上に厚さ50nmのゲート酸化膜(Gox)を形成する。さらに、ゲート酸化膜(Gox)の一部に開口部を設けてNi電極をn領域に接続しソース電極(Source)とし、n領域からp−wellを被覆するゲート酸化膜(Gox)上に多結晶Siからなるゲート電極(Gate)を設ける。この工程により形成されるゲート長は0.8μmから3μmの範囲とする。そして、SiC積層体の裏面側の全面にドレイン電極(Drain)を設ける。さらに、4H−SiC層の表面にPt、Au、Wなど、仕事関数の高い金属をスパッタリング法や蒸着法で堆積して陽極(An)を形成することにより還流ダイオードとしてショットキーバリアダイオード(SBD)を形成する。
【0082】
(素子特性)
上記の工程によって形成されるn型のMOSFETはゲート電極(Gate)が3C−SiC層上にのみ形成されており、MOS界面の準位密度(Dit)は5×1011/cm/eVを下回る値となる。また、MOSFETは3.2V以上のGate電圧で反転層によるnチャネル(Nch)が形成されて導通状態となる。Gate電圧が5Vにおけるチャネル移動度は300Kにおいて340cm/V/secを超える値となり、500Kにおいては240cm/V/secを超える値となる。このため、チャネル抵抗(Rch)は500K以下の温度において1.3mΩ・cmを下回り、MOSFETの導通損失が低減される。
【0083】
また、最大電界強度領域が形成されるP−wellの低部は3.2eVのEを有する4H−SiC層内に位置するので、SourceとDrain間の印加電圧を600Vとし、Gate電圧を0Vとした場合のDrainとSource間の漏洩電流密度は1.3×10−9A/cmを下回る。一方、Gate電圧を5Vとした場合にSourceとDrainの間に流れる電流密度は500K以下の温度範囲において730A/cmを上回るので、漏れ電流による電力損失が十分に低減された低損失なMOSFETを得ることができる。
【0084】
4H−SiC表面に設けられたSBDはその陽極(An)がSourceに接続され、MOSFETのDrain電位がSource電位に対して低下した場合に、還流ダイオードとして導通状態となってDrainの電位をSource電位と一致させる。陽極(An)はEの高い4H−SiC表面に形成されているので、SBDはMOSFETと同等以上のVを保つ。また、SBDはユニポーラ素子なので電荷の蓄積がほとんど無く、かつ導通状態となるための閾値電圧はMOSFET内のpn接合が導通状態となる閾値電圧よりも低いので、いかなる状況においてもMOSFET内のpn接合が導通状態とはならない。このため、P−well近傍において少数キャリアの再結合が起こらず、MOSFETの長期的な信頼性が高まる。さらに、SBDが導通状態となるために要する時間(逆回復時間)は8n秒以下となるので、本発明の半導体装置はMOSFETのスイッチング損失を抑制する効果を発揮する。
【0085】
[CMOS回路の実施形態]
本発明によるSiC積層体を用いたCMOS回路の実施形態を示す。本実施形態においては、抵抗率が150Ω・cm以上のN型の4H−SiCウエハを用い、SiC積層体製造方法の第1実施形態に従って3C−SiC層と4H−SiC層の積層構造を設ける。ただし、水平エピ工程では意図的な不純物の添加はおこなわず、エピタキシャル成長層内のドナー濃度は1×1015/cm以下とする。また、形成されるエピタキシャル成長層の厚さは5μmから10μmの範囲とする。
【0086】
(素子と回路の製造工程)
3C−SiC層の一部にアルミニウムイオンを注入するとともに、4H−SiC層の一部に窒素イオンを注入して図17に示されるように、P−wellとN−wellを形成する。P−wellにはnチャネル型のMOSFET(NMOSFET)が形成され、N−wellにはpチャネル型のMOSFET(PMOSFET)が形成される。ただし、それぞれの領域のアルミニウム濃度と窒素濃度は3×1017/cmとする。さらに、P−wellの一部の表面近傍に窒素イオンと燐イオンを注入するとともに、N−wellの一部の表面近傍にアルミニウムイオンを注入し、電極と接続するための高濃度ドナー添加領域(n)と高濃度アクセプタ添加領域(p)を設ける。nのドナー濃度は1×1021/cm以上でありpのアクセプタ濃度は5×1018/cm以上とする。上記イオン注入の後、1600℃から1700℃で45分以上の熱処理を施し、注入イオンを電気的に活性化する。
【0087】
次に乾燥酸素雰囲気中で1120℃ で10分の熱酸化を施してSiC積層体上に20nm厚さのゲート酸化膜(Gox)を形成する。また、N−wellとP−wellの間にCVD法を用いて3μm以上の厚さのフィールド酸化膜(Fox)を設けて素子を電気的に分離する。さらに、ゲート酸化膜(Gox)上に多結晶Siからなるゲート電極(Gate)を設け、これを入力端子とする。この工程により形成されるゲート長は40nmから1μmの範囲とする。さらに、ゲート酸化膜(Gox)の一部に開口部を設け、Ni電極をnとpに接合させ、それぞれをソース電極(Source)とドレイン電極(Drain)とする。最後に、P−well上に形成されたNMOSFETのDrainとN−well上に形成されたPMOSFETのDrainとを接続してこれを出力端子としてCMOS回路を形成する。
【0088】
(素子特性)
上記の工程によって形成されるCMOS回路はNMOSFET領域のSourceがグランド電位に接地され、PMOSFET領域のSourceには3.3Vから45.2Vの範囲の一定電圧(Vdd)に接続される。Gateに印加する電圧によってPMOSFETとNMOSFETの導通状態が交互に反転し、これに応じてDrainの電位がグランド電位からVddの間で変化する。NMOSFETは電子に対するDitが5×1011/cm/eVを下回る3C−SiC層内に設けられており、PMOSFETは正孔に対するDitが4×1012/cm/eVを下回る4H−SiC層に設けられているため、NMOSFETのRonは1.3mΩ・cm以下、PMOSFETのRonは3.2mΩ・cm以下となり、CMOS回路の出力反転に要する遅延時間は5n秒以下とすることができる。また、本実施例のCMOS回路はサブスレッショールドリーク電流が低く、待機状態における電力損失は本実施形態と同構造のSi製CMOS回路に比べて3%以下とすることができる。
【0089】
また、SiCの広いEにより真性半導体となる温度が700℃を超えるため、本実施形態のCMOS回路の動作可能温度範囲は220℃を上回る。このため、NMOSFETのSourceをキャパシタに接続した場合には、その漏えい電流の低さから、不揮発性メモリを構成することも可能となる。
【実施例】
【0090】
(オフ工程、シード工程)
市販されている口径6インチの(0001)面(Si面)から[11−20]方位に1度傾斜した表面を有する単結晶4H−SiCウエハ(W1、W2、W3、W4、W5)を準備する。ただし、それぞれのウエハには(1−100)面と平行な第1オリエンテーションフラット(OF1)と(11−20)面に平行な第2オリエンテーションフラット(OF2)が加工されている。
【0091】
W1からW4の表面に2μmの厚さのイメージリバーサル用フォトレジスト(AZ5214E)を塗布した。次に、水銀ランプのg線(波長436nm)を光源とする縮小投影露光装置(ニコン製NSR−1505G5D)を用いて240本のライン状のフォトレジストパターン(LPR)を露光した。この際、W1、W2、W4に対してはLPRがOF2に対して0.5度以下の偏向角となるように角度調整を行い、W3に対してはLPRがOF2から反時計方向に8度偏向するように角度調整を行った。また、W1、W3、W4のLPRは4H−SiCウエハのOF1側から他端まで連続するように露光したが、W2に対しては、露光装置のステップ間隔を調整し、<1−100>方向に10mm周期で1mmの未露光部(LPRの不連続部)を設けた。また、隣接するLPRの間隔(スペース幅)は30μmとし、LPRの最小幅は1.3μmとした。
【0092】
次いで、180℃、5分間のリバースベークと水銀ランプのg線の全面露光を施して現像することにより、0.5μmの庇幅を有する逆テーパー状の断面を有するLPRを形成した。
【0093】
さらに、W1からW4のウエハに対して平行平板型のRFドライエッチング装置を用いたドライエッチングを施した。この際、流量40sccmのCFガスと流量10sccmのOガスをドライエッチング装置に導入し、圧力を40Paに保ったうえで13.56MHzの高周波を100Wの電力を投入してプラズマを発生させた。25秒間のドライエッチング処理によりレジストパターンのスペース幅に相当する場所に露出したSiCを35nmの深さになるまでエッチングして除去した。また、レジストパターンの庇部に覆われたSiC表面には傾斜面が形成され、その傾斜角度は4度となった。
【0094】
次に、アッシング装置を用い、投入電力100Wで発生させた酸素プラズマによる灰化処理を15分実施してLPRを完全に除去し、5分間のSPM洗浄と3分間の純水リンスを施して表面のレジスト残渣や微粒子、そして金属汚染物質を除去した。
【0095】
(表面構造安定化工程)
次に、W1、W2、W3、W5を石英製のボートに垂直に固定し、これを横型の石英製容器内に載置した。次に、石英製容器内を窒素ガスで置換し、さらに3slmの流量で水素ガスを石英容器に導入しつつ、その圧力を970hPaに保った。ただし、導入する水素は白金パラジウムの透過膜を用いた純化装置を介すことによりその純度を99.999999%以上とした。水素の流量や圧力の調整方法は一般的なSiの熱拡散や熱酸化に用いられている方法を採用したので、本明細書ではその詳細の記載を省く。
【0096】
次に、石英容器の外部を取り巻く抵抗加熱ヒータに通電し、その電流値を制御することにより石英容器全体を500℃まで加熱した。反応容器の温度が500℃に達した後に5時間保持し、ヒーターへの通電を停止した。石英容器の温度が100℃以下となった後に水素の供給を停止し、石英容器内の雰囲気を窒素ガスで置換した後にボートに載置されたSiCウエハを取り出した。
【0097】
(エピタキシャル成長工程)
次に、SiCエピタキシャル成長装置(ニューフレアテクノロジー株式会社製 EPIREVO S6)を用いて、W1からW5に対して同一条件でエピタキシャル成長を実施した。エピタキシャル成長にあたっては、反応炉内の多結晶SiCで被覆されたグラファイト製のサセプタに個々のウエハ表面を上向きに載置し、ウエハを800rpmで回転させながら5slmの水素を導入して圧力を300hPaに保ちつつウエハ温度を1650℃まで昇温した。ウエハ温度が1650℃に達した直後に、モノシランガスとプロパンガスをそれぞれ50sccmと13sccm流量で反応炉内に追加供給し、圧力を300hPaに保ったまま3分間のエピタキシャル成長を実施した。その後、モノシランガスとプロパンガスの供給を停止し、ウエハ温度が700℃以下となった時点で水素ガスの供給を停止し、反応炉からウエハを取り出した。その後、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)を用い、エピタキシャル成長したSiC層の厚さは0.6μmであることを確認した。また、エピタキシャル成長層の伝導度はn型で、室温におけるキャリア濃度は7×1015/cmであることをホール効果測定で確認した。
【0098】
(積層構造)
エピタキシャル成長の後、ウエハ表面に露出したSiCの結晶構造とその配向方位を電子線後方回折法(EBSD)により観察した。その結果、W1、W2、W3、W4の表面には3C−SiCと4H−SiCが見出されたが、W5の表面には4H−SiCのみが見出された。このことから、本発明のSiC積層体製造方法によりシード面を形成した場合には、シード面上部おいて3C−SiCが形成するとともに、傾斜面においてはステップ制御エピタキシーが発現したことが明らかとなった。
【0099】
また、W1、W3、W4に対するEBSDから検出された3C−SiCの表面は[11−20]方位に18μmの幅を有し、4H−SiC表面の幅は13μmであった。このことから、シード面上に2次元核生成した3C−SiCはステップ制御エピタキシーにより最密面と平行方向に成長したことが分かった。一方、W2に対するEBSDから検出された3C−SiCの表面は[110]方位に不連続箇所を有しており、3C−SiCの不連続箇所においては4H−SiCの表面が見出された。ここで見出された3C−SiCと4H−SiCの境界は傾斜方向と直交関係には無いので不整合界面が含まれていることが分かった。
【0100】
(キャリア寿命)
次いで、W1からW4に対し、3C−SiC表面と4H−SiCの境界における過剰キャリアの消滅時間をマイクロ波光導電減衰法(μ−PCD法)で測定した。μ−PCD法においては、波長355nmのレーザー光を直径1μmに絞り、レーザー光の中心が3C−SiC表面と4H−SiCの境界に位置するように調整し、マイクロ波の反射強度の減衰時間からレーザー光励起で発生したキャリアの寿命を測定した。3C−SiCは4H−SiCに比べて電子親和力が約1eV高いので、レーザー光励起で生成した電子は3C−SiC側へと拡散し、正孔は4H−SiC側に拡散するので、電子と正孔が空間的に分離されてキャリア寿命が長くなる。ただし、3C−SiCと4H−SiCの界面にキャリアを再結合させる不整合界面が含まれている場合には、その密度に応じてキャリア寿命が短くなる。
【0101】
表1は各ウエハの製造条件とEBSDの結果と合わせて、μ−PCD法により測定されたキャリア寿命を示している。表から明らかなように、傾斜面が連続しているウエハ(W1、W3、W4)においてキャリア寿命が顕著に長いことが明らかとなった。傾斜面に不連続な個所が含まれているW2には、その不連続箇所において不整合界面が発生し、電子と正孔の再結合が促進されてキャリア寿命が短くなる。また、傾斜方向に対して分断方向が直交関係を保つほど、キャリアの再結合が抑制されてキャリア寿命が長くなった。以上により、本発明が提供するSiC積層体は半導体素子におけるキャリアの捕獲や再結合を抑制し、半導体素子の特性向上をもたらすことが判明した。
【0102】
【表1】
【0103】
また、W1、W3、W4に対してX線回折法による極点図を観察したところ、3C−SiC層の(111)面と4H−SiC層の(0001)は完全に平行であり、3C−SiC層の{11−2}面と4H−SiC層の{11−20}面から選ばれる3回対称な面が完全に平行であることを確認した。したがって、3C−SiCの{−1−11}面と4H−SiCの{0−33−4}面から選ばれる3回対称な面は完全に平行であり、3C−SiC層には双晶界面が含まれていないことが判明した。一方、W2に対する極点図からは3C−SiCの(111)極と4H−SiCの(0001)極が相違する角度となっている個所が見出された。したがって、W2に形成された3C−SiCと4H−SiCの界面には不整合界面が含まれていることが判明した。
【0104】
また、W4に対する極点図では、離散した3C−SiC層同士の(−1−11)面同は必ずしも平行では無く、120度の回転関係が見出されたので、それぞれの3C−SiCに双晶となる関係が存在していることが判明した。すなわち、すべての3C−SiC層の最密充填構造を等しくするためには本発明の表面構造安定化工程が必要である。
【0105】
以上述べたように、シード面を形成したうえでステップ制御エピタキシーを実施することで六方晶SiCと3C−SiCの積層体形成が可能となる。また、シード面に隣接する傾斜面に不連続箇所を設けないことで、六方晶SiCと3C−SiCの界面における結晶格子の連続性が保たれて整合ヘテロ界面のみを得ることができる。さらに、ステップ制御エピタキシーに先立って、シード面の表面構造を安定化させることにより、異なるシード面から拡張する3C−SiC層が会合しても双晶界面が発生しないことが明らかとなった。
【0106】
(MOS界面特性)
上記のすべてのウエハに対し、乾燥酸素雰囲気中で1120℃ で60分の熱酸化を施して主表面上に厚さ50nmのSi酸化膜を形成した。さらに、Si酸化膜上に直径1μmのNi電極を蒸着した。ただし、Ni電極は1μmの間隔を隔てて格子状に配置した。W1、W3、W4は幅2.3μmの3C−SiC表面と幅2μmの4H−SiC表面が主表面上に混在するので、3C−SiC層の表面のみに位置する電極(E3C)と4H−SiC層の表面のみに位置する電極(E4H)の選別が可能である。
【0107】
次いで、それぞれのウエハ上のE3CとE4Hに対してコンダクタンス法を用い、伝導帯近傍のMOS界面準位密度を測定した。また、界面準位密度を測定した後、室温において電極への印加電圧を0Vから60Vまで連続的に増加させ、Si酸化膜の誘電破壊電界強度を測定した。それぞれのウエハ上の界面準位密度と誘電破壊電界強度をE3CとE4Hに区分して表2にまとめる。
【0108】
【表2】
【0109】
表2に示されるように、3C−SiCに形成されるMOS界面の準位密度は4H−SiCの準位密度に比べて1/30以下まで低減されており、本発明に従って3C−SiC層にnチャネル型のMOSFETを製造すればチャネル抵抗が低くなり、電力損失が大幅に低減された半導体装置を得ることが可能である。特にシード面の表面構造安定化工程を施したウエハ(W1、W3)において界面準位密度の低減効果が顕著である。
【0110】
さらに、W1、W3、W4には3C−SiCと4H−SiCの界面に不整合界面が含まれていないことからMOS界面の電界分布が均一化し、3C−SiC表面、4H−SiC表面においては高い誘電破壊電界強度が得られている。このことから、本発明の提供するSiC積層体は半導体装置の長期的信頼性向上させるうえで有効であることが明らかとなった。
【0111】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記の実施例や実施形態に何ら限定されるものでは無く、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。例えば、六方晶SiCの結晶多形は4H−SiCに限定されるものではなく、6H−SiCや15R−SiCを用いても3C−SiC層との整合ヘテロ界面が得られ、低損失な半導体装置を得ることができる。また、シード面の形状は台形状の断面の直線や円錐台に限られるものではなく、シード面に対する傾斜面の俯角が0.5度以上で73度未満であり、かつ傾斜面に不連続箇所が無い限り、いかなる形状であっても本実施形態と同様な結果が得られる。さらに水平エピ工程における温度や圧力、ガス流量も本実施形態や実施例に限られるものではなく、必要に応じて、適宜、最適条件を調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明におけるSiC積層体は、MOSFET、IGBT、バイポーラトランジスタ、pnダイオード、SBDなどパワー半導体素子や、CMOSによる高速論理回路、MEMS素子などの基板として利用することができる。また、異なる禁制帯幅や電子親和力が当接する整合ヘテロ界面の特長を生かし、HBTやHEMTなどの高周波デバイスや高効率太陽電池セルの基板としても用いることができる。
【符号の説明】
【0113】
1 六方晶SiC層
1S 六方晶SiC表面
1i、1is、Iiu,1iv、1iw 傾斜面
1if 正傾斜面
1ib 負傾斜面
1p 六方晶SiC層上のシード面
1pb、1pf 部分傾斜面
1r 尾根部
1v 谷部
1pr 不連続な尾根部
1pv 不連続な谷部
1N 六方晶SiCの{0−33−n}面から選ばれる3回対称の関係にある結晶格子面
2 3C−SiC層
2S 3C−SiC表面
2p 3C−SiC層上のシード面
2e 3C−SiCの2次元核
2N 3C−SiCの{−1−11}面
3 整合ヘテロ界面
3S 主表面における整合ヘテロ界面の切片
3J 主表面における不整合界面の切片
S 主表面
CPP 結晶格子の最密面
θ 傾斜角度
θf 微傾斜ウエハの初期傾斜角度
θp シード面に対する傾斜面の俯角
If 正傾斜方向
Ib 負傾斜方向
Ix 分断方向
L 結晶格子の最密面上に投影された傾斜面の傾斜方向に対する長さの最小値
We 臨界幅
te シード面上に積層した3C−SiCの2次元核の厚さ
d 傾斜面の高低差
OX Si酸化膜
LPR フォトレジストによる線状パターン
CPR フォトレジストによる円形パターン
TR SiC表面の溝
Wh フォトレジストによる線状パターンの庇の幅
NMOSFET nチャネル型電界効果型MOSトランジスタ
Nch NMOSFETのチャネル領域
PMOSFET pチャネル型電界効果型MOSトランジスタ
Pch PMOSFETのチャネル領域
Gox ゲート酸化膜
Fox フィールド酸化膜
An SBDの陽極
P−well アクセプタ添加領域
N−well ドナー添加領域
【要約】
【課題】3C−SiCと六方晶SiCの積層構造を用いた半導体装置において、ヘテロ界面におけるキャリアの捕獲や散乱を抑制する構造とその製造方法を提供し、半導体素子の特性を向上すること。
【解決手段】六方晶SiC(1)表面に結晶格子の最密面(CPP)と平行なシード面(1p)と最密面から傾斜した傾斜面(1i)を設け、シード面上に3C−SiCの2次元核(2e)を生成すると同時に、傾斜面においてステップ制御エピタキシーを行い、六方晶SiC層と3C−SiC層が積層したSiC積層体を製造する。SiC積層体のすべての界面を整合ヘテロ界面(3)とし、3C−SiC表面と六方晶SiC表面を区分して半導体素子の配置を自在なものとして高性能な半導体装置を得る。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17