【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年8月20日 公益社団法人 精密工学会発行の「2016年度精密工学会秋季大会 学術講演会講演論文集」にて発表 平成28年9月8日 公益社団法人 精密工学会 茨城大学 水戸キャンパスで開催された「2016年度精密工学会秋季大会 学術講演会」において発表 平成28年12月14日〜16日 東京ビッグサイトで開催された「SEMICON Japan」にて発表 平成28年12月20日 名古屋大学 工学部で開催された公益社団法人 科学技術交流財団 研究交流事業 研究会 各種SiC結晶成長法における高品質化とその応用 第4回研究会にて発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レーザ光調整ステップでは、前記複数の分岐レーザ光を前記基板の内部において一列または複数列もしくはパターン状に配置させることを特徴とする請求項1に記載の剥離基板製造方法。
前記レーザ光調整ステップでは、前記複数の分岐レーザ光のうち端部側に配置される少なくとも一本の分岐レーザ光の強度を他の分岐レーザ光に比べて低くすることを特徴とする請求項2に記載の剥離基板製造方法。
前記レーザ光調整ステップでは、前記相対的に強度が高い分岐レーザ光の強度を、前記相対的に強度が低い分岐レーザ光の強度に対して1.1〜5.0の範囲の倍率で異ならせることを特徴とする請求項3に記載の剥離基板製造方法。
前記位置決めステップは、前記基板の表面において、前記一列または複数列もしくはパターン状の方向に対して所定角度をなす走査方向に前記レーザ集光手段を所定速度で移動させることを特徴とする請求項2に記載の剥離基板製造方法。
前記位置決めステップは、前記基板の表面において、前記走査方向に前記レーザ集光手段を所定速度で移動させる動作を、前記走査方向とは直交する方向に前記レーザ集光手段を所定距離にわたってシフトさせる動作を挟んで繰り返すことを特徴とする請求項5に記載の剥離基板製造方法。
エッチング液として溶融アルカリを用い、酸素を含むガス雰囲気で、前記剥離基板における前記溶融アルカリの界面位置を前記剥離基板上で移動させながらエッチングするエッチングステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の剥離基板製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、すでに説明したものと同一または類似の構成要素には同一または類似の符号を付し、その詳細な説明を適宜省略している。また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための例示であって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものではない。この発明の実施の形態は、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0022】
図1で、本発明の一実施形態で、(a)は基板加工装置100の構成を示す斜視図、(b)はステージ上に載置されてレーザ光で加工された基板を示す平面図である。本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)で用いる基板加工装置100は、ステージ110と、ステージ110がXY方向に移動可能なように支持するステージ支持部120と、ステージ110上に配置され、基板10を固定する基板固定具130とを有している。この基板10には、インゴットを切断した結晶材料であるシリコンカーバイド(SiC)ウエハを使用することができる。
【0023】
また、基板加工装置100は、レーザ光源150と、レーザ光源150から発したレーザ光Bを集光して基板10に向けて照射するレーザ集光部160を有している。レーザ集光部160は、回折光学素子(DOE)170及び対物レンズ180を有している。
【0024】
回折光学素子170は、入射されたレーザ光Bを所定の本数の分岐レーザ光に分岐させる。分岐レーザ光は、対物レンズ180で集光され、レーザ集光部160の焦点位置において一列に並ぶように配置される。なお、図中で回折光学素子170は3本の分岐レーザ光を生成しているが、これに限定されない。分岐レーザ光は、2本以上の複数の分岐レーザ光であればよい。
【0025】
回折光学素子170は、複数の分岐レーザ光の強度が異なるように調整する。ここで、複数の分岐レーザ光の強度が異なるように調整するとは、複数の分岐レーザ光の少なくとも1本を他の分岐レーザ光に比べて強度が異なるように分岐させることを意味する。従って、3本の分岐レーザ光に分岐する場合、2本の分岐レーザ光の強度が同じで、残り1本の分岐レーザ光の強度がこの2本の分岐レーザ光に比べて異なっている場合にはこれに該当する。また、隣接する分岐レーザ光の強度が互いに異なる場合もこれに該当する。
【0026】
本実施形態では、複数の分岐レーザ光ののうち、相対的に強度が高い分岐レーザ光の強度を、相対的に強度が低い分岐レーザ光の強度に対して1.1〜5.0の範囲の倍率で異ならせるようにすることができる。この倍率は、1.2〜3.0の範囲にあることが好ましく、1.5〜2.5の範囲にあることがより好ましく、1.8〜2.2の範囲にあることがさらに好ましい。
【0027】
本実施形態では、回折光学素子170によって分岐された複数の分岐レーザ光の強度が異なるように調整することにより、基板10の内部に加工痕を形成するときに発生するクラックを制御するようにしている。すなわち、複数の分岐レーザ光のうちの相対的に強度が高い分岐レーザ光によって、レーザの照射方向に対して直角にクラックが伸長(進展)する剥離可能な加工状態を形成している。そして、相対的に強度が低い分岐レーザ光によってクラックが伸長しない加工層を形成し、強度が高い分岐レーザ光によって形成されたクラックが結晶方位に沿って意図に反して伸長(進展)することを防止するストッパー的な役割をさせている。
【0028】
図2で、(a)はステージ上に載置された基板をレーザ光で加工していくことを説明する模式的な側面断面図、(b)は基板における加工層の形成を説明する側面断面図である。
【0029】
基板10は、ステージ110上において基板固定具130によって保持されている。基板固定具130は、その上に設けられた固定テーブル125によって基板10を固定している。固定テーブル125には、通常の粘着層、機械的なチャック、静電チャックなどが適用可能である。
【0030】
基板10に集光して照射されるレーザ光Bは基板10の表面から所定の深さに集光点Fを形成し(レーザ集光ステップ)、基板表面から所定の深さ位置に所定形状の加工痕12を形成する。なお、本実施形態では、加工痕12は、ステージ110の移動、すなわち基板10の移動に伴って列状に連なったものである。この加工痕12は、ステージ110に保持された基板10に対してレーザ集光部160が相対的に移動して位置決めされる(位置決めステップ)ことにより、基板10の内部に所定のパターンで形成される。
【0031】
例えば、所定の走査方向に所定速度で集光点Fを移動する動作を、走査方向とは所定角度θ(
図4参照)をなす方向(例えば90°(走査方向に直交する方向)や、45°)に集光点Fを所定距離d(
図1(b)参照)にわたりシフトさせる動作を挟んで繰り返すことにより、直線状の加工痕12を2次元状に配置した加工層14を形成することができる(基板加工ステップ)。
【0032】
基板加工装置100において、レーザ光Bは、レーザ集光部160の回折光学素子170及び対物レンズ180を介して基板10に向けて照射され、分岐ビームは基板10内部の集光点Fにそれぞれ集光され、集光点Fに加工痕12が形成される。
【0033】
レーザ集光部160は、基板10の所定の深さの範囲tにおいて分岐レーザ光の径を実質的に絞るように集光し、加工痕12が連結された加工層14の形成に必要なエネルギー密度を確保するようにしている。図中においては、基板10の表面側から入射した分岐レーザ光により、集光点Fを含む所定の深さの範囲tに形成された加工層14が示されている。
【0034】
加工層14は、各分岐レーザ光によって形成された加工痕12が連結してなるものである。このように形成された加工層14は、隣接する分岐レーザ光が所定間隔であるため、所定の周期的構造を有している。
【0035】
図3で、(a)は基板10の模式的な平面図、(b)は基板に照射した3本の分岐レーザ光がそれぞれ焦点を結ぶことを説明する模式的な側面断面図である。基板10の表面に向けて照射された3本の分岐レーザ光Ba、Bb、Bcは、基板10の表面において一列に配置された3つのビームスポットRa、Rb、Rcを形成して基板10に入射し、基板10の内部において3つの集光点Fa、Fb、Fcを形成する。これらの集光点Fa、Fb、Fcによりそれぞれ加工痕12a、12b、12c(
図4参照)が形成される。
【0036】
基板10は、SiCなどの結晶基板であるため、集光点Fa、Fb、Fcを形成する際に結晶方位に沿ってクラックが発生しやすい性質がある。このように3本の分岐レーザ光Ba、Bb、Bcに分岐する場合では、例えば、中央の分岐レーザ光Bbの強度を両側(すなわち両端部側)の分岐レーザ光Ba、Bcの強度よりも大きくする(レーザ光調整ステップ)ことにより、中央の集光点Fbによって加工痕12を形成する際に発生したクラックが両側の集光点Fa、Fcの方向に伸長しても、両側の集光点Fa、Fcにより形成された加工痕12によってクラックの伸長を止めるようにすることができる。このとき、分岐レーザ光Ba、Bcの強度は集光点Fa、Fcから加工痕が結晶方位に伸長(進展)しない程度の強度であって、基板の剥離に必要な加工痕が得られる最小強度に設定しておく。
【0037】
3本の分岐ビームの強度については、両側の分岐レーザ光Ba、Bcの強度に対する中央の分岐レーザ光Bbの強度の倍率が、1.1〜5.0の範囲にある倍率で異なるようにすることができる。この倍率は、1.2〜3の範囲にあることが好ましく、1.5〜2.5の範囲にあることがより好ましく、1.8〜2.2の範囲にあることがさらに好ましい。
【0038】
図4は、基板10に形成される隣接する加工痕12a〜cの間隔の調整を説明する図である。基板10の表面には、光集光部16から供給された3本の分岐レーザ光Ba、Bb、Bcによって、一列に配置された3つのビームスポットRa、Rb、Rcが形成されている。3本の分岐レーザ光は、これらのビームスポットRa、Rb、Rcを介して基板10の内部の集光点Fa、Fb、Fcに集光され、集光点Fa、Fb、Fcにおいてそれぞれ加工痕が形成される。
【0039】
3つのビームスポットRa〜cは、所定の走査方向に所定速度で走査される。レーザ光源150からはパルスレーザ光が供給され、パルス照射によってビームスポットRa〜cが走査方向に所定間隔で形成される。この走査方向の間隔は、任意に設定が可能である。
【0040】
また、3つのビームスポットRa〜cを配置した列の方向を調整することにより、ビームスポットRa〜cを介して形成される3本の加工痕12a〜cの間隔を調整することが可能である。
【0041】
図4(a)は、3つのビームスポットRa〜cを配置した列の方向が走査方向に直交するように設定した場合を示している。このとき、走査方向に直交する方向について、3つのビームスポットRa〜cの隣接する距離が最大になり、したがって3つのビームスポットRa〜cを介して形成される加工痕12a〜cの間隔(互いに隣接する間隔)も最大になる。
【0042】
図4(b)では、3つのビームスポットRa〜cを配置した列の方向Dと走査方向の直交方向とが所定角度θをなすように設定した場合を示している。
図4(b)では、一例としてθ=45°の角度をなす場合で描いている。所定角度θは45°に限られることはなく、θが小さくなるほど、走査方向に直交する方向についてビームスポットRa〜cの隣接する距離が短くなり、したがってビームスポットRa〜cを介して形成される加工痕12a〜cの間隔も短くなる。なお、このθを90°、すなわち所定角度を90°とした場合が
図4(a)に示した状態になる。
【0043】
本実施形態では、加工層14が形成された基板10を加工層14で割断し、基板10を加工層14で剥離することにより、剥離基板を作成することができる(基板剥離ステップ)。加工層14においては加工痕が連結しているため、基板10は加工層14に沿って容易に割断して剥離することができる。従って、結晶材料であるシリコンカーバイド(SiC)ウエハの基板10に、クラックの発生を抑制し安定して加工層14を形成することができる。
【0044】
そして本実施形態では、この後、加工層14から剥離した剥離基板10p(シリコンカーバイドウエハから剥離したもの)にアルカリエッチングを行って剥離基板10pの基板面10psを鏡面化する(エッチングステップ)。
【0045】
図5(a)〜(c)は、それぞれ、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係るエッチング方法で基板を順次エッチングしていくことを説明する模式的な正面図である。
図6は
図5(b)の部分拡大側面図である。
【0046】
このエッチングでは、酸素を含むガス雰囲気で、剥離基板10pにおける溶融アルカリの界面位置を剥離基板上で移動させていく。本実施形態では、容器200に入れた溶融アルカリALに剥離基板10pを上方から一定速度で徐々に下降させることで浸漬していく(
図5(a)〜(c)参照)。この結果、剥離基板10pにおける溶融アルカリALの界面位置G(溶融アルカリALの液面位置)が基板下端から上方へ順次移動していく。ここで、
図5、
図6に示すように、本明細書で界面位置Gとは溶融アルカリALの液面位置と同じ位置である。
【0047】
剥離基板10pの非浸漬部NIMの界面付近Vでは、エッチング反応の際にガス雰囲気中の酸素が取り込まれて酸化が促進されつつ、良好なエッチングが高速で行われる。従って、このように剥離基板10pにおける溶融アルカリALの界面位置Gを基板上方へ順次移動させていくこで、高硬度で難加工材料であるSiC(シリコンカーバイド)からなる剥離基板10pであっても、基板面10psに良好な鏡面を広範囲にわたって高速で形成することができる。すなわち、剥離基板10p全部を溶融アルカリALにどぶ漬けする(基板全体を浸漬部にする)ことに比べて遥かに短時間でこの良好な鏡面を剥離基板10pに全面にわたって形成することができる。
【0048】
剥離基板10pの下降速度は、溶融アルカリの種類、温度、ガス雰囲気中の酸素濃度、などに応じ、良好なエッチングが行われるように決定する。
【0049】
なお、エッチングでは、等方性エッチングが行われるようにしてもよい。そのためには、剥離基板10pの酸化速度を酸化被膜の溶解速度以上にして、酸化されていない段階の基板材料(SiC)がエッチングされることを回避することで、基板材料に欠陥(結晶欠陥)が生じていてもこの欠陥は酸化されてから、つまり酸化被膜となってからエッチングされるようにしてもよい。この結果、剥離基板10pが等方性エッチングされることになる。
【0050】
また、溶融アルカリALに剥離基板10pをどぶ漬けし、溶融アルカリALから剥離基板10pを一定速度で徐々に引き上げていくことで、剥離基板10pにおける溶融アルカリALの界面位置G(溶融アルカリALの液面位置)を基板下方へ順次移動させても、剥離基板10pの基板面10psに良好な鏡面を広範囲にわたって高速で形成することができる。
【0051】
溶融アルカリとしては、溶融水酸化ナトリウム(NaOH)、溶融水酸化カリウム(KOH)などが挙げられるが、エッチング速度の高速化の観点では溶融水酸化ナトリウムSHL(
図5、
図6参照)が好ましい。
【0052】
この場合、650℃以上にした溶融水酸化ナトリウムを用いると、このような高速で良好なエッチングを行い易い。650℃よりも温度が低いとエッチング速度(エッチングレート)が低くなり易い。
【0053】
また、溶融アルカリALを流動させつつエッチングを行ってもよい。これにより、エッチングによって劣化した溶融アルカリが基板面10ps近くで滞留することを防止できる。
【0054】
(変形例)
なお、上記実施形態においては、複数の分岐レーザ光の例として3本の分岐レーザ光を例示したが、本発明はこれに限定されない。複数の分岐レーザ光は、2本以上の分岐レーザ光であり、強度が異なるものであればよい。例えば、
図7に示すように、9本の分岐レーザ光であってもよい。複数の分岐レーザ光は一列に配置され、
図7(a)では両端の分岐レーザ光の強度が小さく、中央の分岐レーザ光の強度が両端の分岐レーザ光の強度より大きい。
図7(b)では両端と中央の分岐レーザ光の強度が小さい。なお、剥離に影響するため、加工層の安定化のためには、複数の分岐レーザ光に同一の強度の分岐レーザ光が含まれることが好ましい。
【0055】
また、上記実施形態においては、複数の分岐レーザ光を基板の内部において一列に配置されたものを例示したが、本発明はこれに限定されない。複数の分岐レーザ光を基板の内部において複数列もしくはパターン状に配置されてもよい。一列、複数列、パターン状の何れであっても、加工層を均等に形成でき、クラックの発生を抑制しつつ安定して加工層を形成することができる。
【0056】
図8は、基板10に照射された分岐レーザ光のビームスポットが複数列またはパターン状に配置された状態の一例を示す模式的な平面図である。分岐レーザ光は、図中に一点鎖線で示された走査方向に直交する方向に第1列の4つのビームスポットR11、R12、R13、R14、第2列の4つのビームスポットR21、R22、R23、R24、第3列の4つのビームスポットR31、R32、R33、R34、第4列の4つのビームスポットR41、R42、R43、R44を形成している。
【0057】
これらのビームスポットは、第1列から第4列の計4列からなる複数列の配置を形成している。また、走査方向に4列、走査方向に直交する方向に4列の計4×4の16個のビームスポットによるパターンも形成している。これらのビームスポットのうち、中央の4つのビームスポットR22、R23、R32、R33は、これらを取り囲む他のビームスポットR11、R12、R13、R14、R21、R24、R31、R34、R41、R42、R43、R44よりも相対的な強度が大きく、例えば1.1〜5.0の倍率の範囲にあってもよい。
【0058】
なお、ビームスポットが形成する複数列は2列以上であればよく、ビームスポットのパターンは3つ以上のビームスポットが形成する特定のパターンであればよい。
【0059】
(実施例および実験例)
以下、実施例(
図1〜
図6を用いて説明した実施形態の実施例)および実験例を説明する。
【0060】
[実施例1]
本実施例では、基板加工装置100のレーザ光源150にInnoLight Technology Corporation製 HALO GN 35k-100のレーザ発振器を用いた。このレーザ光源150は、表1に示すようなレーザ光Bを供給することができる。
【0062】
回折光学素子170には、レーザ光Bから強度1:2:1の3本の分岐レーザ光Ba〜cを分岐させる古河機械金属工業製のものを用いた。対物レンズ180には、LCPLN 100×IRを用いた。
【0063】
基板10には、表面が鏡面仕上げされた結晶構造4HのSiC基板を用いた。そして、加工痕12の性質を明らかにするため、表2のような条件で基板10を加工した。表2において、回折光学素子の角度とは、走査方向に直交する方向と一列に配置された3つのビームスポットRa、Rb、Rcの方向とがなす角度である。また焦点の深さとは、集光点Fに相当する焦点の基板10の表面からの深さである。
【0065】
図9は、このような加工により基板10に形成された加工痕12a〜cを示す顕微鏡写真である。
図9(a)は、透明なSiCの基板10の上面から観察したものであり、3つのビームスポットRa〜cを介してそれぞれ形成された3本の加工痕12a〜cが示されている。ここで、回折光学素子170は、強度1:2:1の3本の分岐レーザ光Ba、Bb、Bcを生成するため、中央の加工痕12bがやや太く、両側の加工痕12a、12cがやや細くなっている。
【0066】
図9(b)には、加工痕12の延びる方向に略垂直な断面において、基板10に形成された加工痕12を観察したものであり、3本の加工痕12a〜cが示されている。ここで、各加工痕から横方向にクラックが伸長(進展)し、中央の加工痕12bから伸長(進展)したクラックCp、Cqはそれぞれ両側の加工痕12a、12cにまで伸長(進展)するが、両側の加工痕12a、12cにてそれぞれ止められていることがみられた。したがって、これら3本の加工痕12a〜cは、クラックCp、Cqによって連結されるとともに、クラックCp、Cqのさらなる伸長(進展)は抑制されていることが明らかになった。
【0067】
[実施例2]
次に、基板10の全面にわたって形成した加工痕12により加工層14を作成した後、基板10を加工層14で割断することにより剥離して剥離基板を作成し、剥離基板における剥離面の性質を調べた。実施例2では、表3の実施例2の欄に示す条件で加工層14を形成した。表3に示した条件を除き、実施例1と同一の条件を用いた。例えば、基板10には結晶構造4Hの多結晶のSiC基板を用い、回折光学素子170には3本の分岐レーザ光に分岐させるものを用いた。なお、表3では後述の実施例3〜6の条件も併せて示している。
【0069】
図10(a)及び
図10(b)は、実施例2で基板10に形成されたスクライブ前及びスクライブ後の加工痕を示す顕微鏡写真である。
図10(c)はレーザ顕微鏡による基板10の断面の顕微鏡写真であり、
図10(d)は
図10(c)の枠内を拡大した拡大顕微鏡写真である。
【0070】
図10(c)及び
図10(d)により、基板10の表面に平行な方向であり、図中横方向に加工痕12が連結された加工層14が形成されていることがみられる。
図10(e)は、引っ張り試験機を用いて加工層14にて割断された剥離基板の剥離面を示す写真である。この実施例2では、剥離基板の表面の全体に対し、90%の部分で剥離面が形成された。
【0071】
続いて、剥離基板における剥離面の表面粗さを測定した。レーザ集光部160に向かうレーザ照射側にある上面では、Ra(μm)について
図11(a)、Rz(μm)について
図11(b)のような形状になり、表4に示すような結果が得られた。この表4においては、表面粗さの3点測定値とそれらの平均値が示されている。以下でも同様である。
【0072】
なお、表4で「走査方向」の粗さとはレーザ光を走査する方向での粗さ、「オフセット方向」の粗さとは走査方向に対して90°の方向で分岐ビーム間に形成される粗さを示す。後述の表5〜表7でも同様である。
【0073】
また、ステージ110に載置される側にある下面では、Ra(μm)について
図11(c)、Rz(μm)について
図11(d)のような形状になり、表5に示すような結果が得られた。
【0076】
[実施例3]
図12(a)及び(b)は、それぞれ、実施例3で基板10に形成されたスクライブ前及びスクライブ後の加工痕を示す顕微鏡写真である。
図12(c)はレーザ顕微鏡による基板10の断面の顕微鏡写真であり、
図12(d)は
図12(c)の枠内を拡大した拡大顕微鏡写真である。
【0077】
実施例3では、表3の実施例3の欄に示す条件で加工層14を形成した。表3で示した条件を除き、実施例2と同じ条件で行った。この実施例3では、剥離基板の表面の50%に剥離面が形成された。
【0078】
剥離基板の剥離面の表面粗さについては、レーザ照射側の上面ではRa(μm)について
図13(a)、Rz(μm)について
図13(b)のような形状になり、表6に示すような結果が得られた。また、ステージ側の下面では、Ra(μm)について
図13(c)、Rz(μm)について
図13(d)のような形状になり、表7に示すような結果が得られた。
【0081】
[実施例4]
図14(a)及び(b)は、それぞれ、実施例4で基板10に形成されたスクライブ前及びスクライブ後の加工痕を示す顕微鏡写真である。
図14(c)はレーザ顕微鏡による基板10の断面の顕微鏡写真であり、
図14(d)は
図14(c)の枠内を拡大した拡大顕微鏡写真である。
【0082】
実施例4では、表3の実施例4の欄に示す条件で加工層14を形成した。表3で示した条件を除き、実施例2と同じ条件で行った。この実施例4では、剥離基板の表面の30%に剥離面が形成された。
【0083】
剥離基板における剥離面の表面粗さについては、レーザ照射側の上面ではRa(μm)について
図15(a)、Rz(μm)について
図15(b)のような形状になり、表8に示すような結果が得られた。また、ステージ側の下面では、Ra(μm)について
図15(c)、Rz(μm)について
図15(d)のような形状になり、表9に示すような結果が得られた。
【0086】
[実施例5]
図16(a)及び(b)は、それぞれ、実施例5で基板10に形成されたスクライブ前及びスクライブ後の加工痕を示す顕微鏡写真である。
図16(c)はレーザ顕微鏡による基板10の断面の顕微鏡写真であり、
図16(d)は
図16(c)の枠内を拡大した拡大顕微鏡写真である。
【0087】
実施例5では、表3の実施例6の欄に示す条件で加工層14を形成した。表3で示した条件を除き、実施例2と同じ条件で行った。この実施例5では、剥離基板の表面の98%に剥離面が形成された。
【0088】
剥離基板における剥離面の表面粗さについては、レーザ照射側の上面ではRa(μm)について
図17(a)、Rz(μm)について
図17(b)のような形状になり、表10に示すような結果が得られた。また、ステージ側の下面では、Ra(μm)について
図17(c)、Rz(μm)について
図17(d)のような形状になり、表11に示すような結果が得られた。
【0091】
[実施例6]
図18(a)及び(b)は、それぞれ、実施例6で基板10に形成されたスクライブ前及びスクライブ後の加工痕を示す顕微鏡写真である。
図18(c)はレーザ顕微鏡による基板10の断面の顕微鏡写真であり、
図18(d)は
図18(c)の枠内を拡大した拡大顕微鏡写真である。
【0092】
実施例6では、表3の実施例6の欄に示す条件で加工層14を形成した。表3で示した条件を除き、実施例2と同じ条件で行った。この実施例6では、剥離基板の表面の10%に剥離面が形成された。
【0093】
剥離基板における剥離面の表面粗さについては、レーザ照射側の上面ではRa(μm)について
図19(a)、Rz(μm)について
図19(b)のような形状になり、表12に示すような結果が得られた。また、ステージ側の下面では、Ra(μm)について
図19(c)、Rz(μm)について
図19(d)のような形状になり、表13に示すような結果が得られた
【0096】
以上の実施例2〜6によって、3本の分岐レーザ光に分割する回折光学素子170を用いて結晶構造4HのSiCによる基板10に加工層14を形成し、加工層14にて割断することにより剥離することで、剥離基板を容易に作成することができることが明らかになった。また、表面粗さの測定により、剥離基板には滑らかな剥離面が形成されていることが認められた。
【0097】
ここで、実施例2〜6においては、加工速度、レーザ光の強度についての明確な依存性は見られなかった。このことは、分岐ビームにより加工層の伸長を抑制していることにより加工条件の影響を受け難くなっていることが推察される。
【0098】
また、実施例1〜6においては、結晶構造4HのSiCの基板10を用いたが、このことに限定されることはなく、結晶構造6HのSiCの基板にも同様に適用することができる。また、SiCの基板に限定されることはなく、サファイアの基板などにも同様に適用することができる。
【0099】
また、実施例2〜6においては、基板10の表面に平行に加工層14を1層のみ形成したが、レーザ集光部160によって集光点Fの深さを適宜に設定することにより、2層以上の加工層14を形成し、これらの加工層14において基板10を割断して剥離するようにすることもできる。
【0100】
なお、実施例2〜6で、剥離基板を作成後、溶融アルカリにてこの剥離基板をエッチングする場合には、前処理として、基板面にダイヤモンド研磨などを行うことで基板面の表面粗さを調整した後にエッチングすることが好ましい。これにより、鏡面化された良好なエッチング面を得やすくなる。
【0101】
<実験例1(ウエットエッチングによる高速鏡面化現象の確認)>
本実験例では、NaOH(溶融水酸化ナトリウム)にSiCウエハを半分程度に浸漬することで、NaOH溶液に浸漬している浸漬部IMと、NaOH溶液に浸漬していない非浸漬部NIMとが生じる状態でエッチングした。
【0102】
(実験条件および実験方法)
本発明者は、Ni(ニッケル)製のるつぼに固形のNaOHを約5g入れ,電気炉で加熱して750℃の溶融状態にし、Ni線で固定したSiCウエハ(SiC基板)を溶融したNaOH溶液に半分程度に浸漬し、20分間のエッチングを行った。使用したウエハはオフ角4°、10mm角の4H-SiCウエハである。前加工としてはダイヤモンドホイール(SD#1000)によって研削を施した。エッチグレートの評価はエッチング前後の厚さの差分から求めた。粗さ測定には触針式粗さ測定機(Taylor Hobson 社製PGI840)を用いた。
【0103】
(エッチング面の外観と形状)
図20にエッチング後のSiCウエハ表面の形状を示す。
図20を得るための計測では、基板面で直線に沿った表面の高さを計測した。
【0104】
図20からは、浸漬部IMよりも非浸漬部NIMの方がエッチングで除去されていることが判る。特に非浸漬部NIMでは、界面位置Gから1mm離れた領域では浸漬部IMよりも60μmも多く除去されていた。
【0105】
(エッチング表面の詳細観察)
また、浸漬部IMと非浸漬部NIM(界面付近Vも含む)とをレーザ顕微鏡像によって観察し撮像した。撮像結果をそれぞれ
図21、
図22に示す。
【0106】
浸漬部IMではエッチピットの発生が観察されたが(
図22参照)、非浸漬部NIMではエッチピットのない平滑面であることが確認された(
図21参照)。
【0107】
さらにAFMで非浸漬部NIMを1μm×1μmで計測した結果を
図23に示す。この計測の結果、粗さが0.54nmRa、8.7nmRzの鏡面であることが確認された。
【0108】
<実験例2(エッチングの基礎特性の調査)>
本実験例では、エッチングの特性が温度、ガス雰囲気でどのように影響されるかを調べる実験を行った。
【0109】
(温度が到達面粗さとエッチングレートとに及ぼす影響)
実験例1の実験方法を基本にして、実験時間を20〜120分、温度を600〜750℃としてエッチング実験を行った。本実験例では、浸漬部IMと非浸漬部NIMの界面付近Vとについて、エッチング温度とエッチングレーとトの関係を調べた。実験結果を
図24に示す。
【0110】
浸漬部IM、界面付近Vとも、高温度ほどエッチングレートは大きくなる傾向があり、大きくなる割合は両者とも同程度であることが判った。そして、界面付近Vでのエッチングレートは、浸漬部IMよりも2〜3 倍程度高くなっていた。とくに750℃では289μm/h と高い値となった。
【0111】
また、
図25(a)に浸漬部IMのエッチング面の粗さを示し、
図25(b)に非浸漬部NIMの界面付近Vのエッチング面の粗さを示す。浸漬部IMでは一度粗さが増大し、その後は減少する傾向が見られた。エッチング面の観察結果から考察すると、エッチング初期でダイヤモンド研削による潜傷が現れ、その後徐々に滑らかになるためであると推察される。
【0112】
また、浸漬部IMではエッチングレートが低く、120分間の実験では浸漬部IMの粗さを小さくするには不十分な時間であったと思われる。ただし、エッチピットが増加していく傾向が見られることから鏡面化への適用は難しいものと思われた。
【0113】
一方、非浸漬部NIMでは700℃以上になると到達面粗さ1.4nmRaに達していることが判った。そして、エッチング面の観察結果からはどの条件でもエッチピットの発生は見られなかった。このエッチピットについては、エッチングレートが23μm/hと低い処理条件である600℃120分のエッチング処理後の観察結果からも発生は見られなかった。
【0114】
(雰囲気が粗さとエッチングレートとに及ぼす影響)
実験例1の実験条件を基本にして、実験時間を30分間とし、ガス雰囲気を大気の場合と窒素(酸素を排除して不活性にするためのガス)の場合とでそれぞれ実験を行い、その影響を調査した。
【0115】
(窒素雰囲気の影響)
電気炉内に窒素を流しながらエッチングを行った。浸漬部IMと非浸漬部NIMの界面付近Vとについて、窒素流量とエッチングレートとの関係を
図26(a)に、窒素流量と粗さとの関係を
図26(b)にそれぞれ示す。なお、
図26(a)で窒素流量0L/minは、窒素を流さないので、電気炉内が大気雰囲気のままであることを意味する。
【0116】
エッチングレートは、浸漬部IM、界面付近Vとも、窒素流量10L/minでいずれも大きく低減しており、これ以上の流量ではこれ以上の変化があまり見られなかった。
【0117】
一方、粗さについては、浸漬部IM、界面付近Vとも、窒素流量が増えるほど増大する傾向にあった。従って、エッチング時にはまず研削による潜傷が露出し,その後消失することで鏡面になると推察される。エッチング面の観察結果からは、浸漬部IM、界面付近Vとも潜傷が観察されており、粗さの増大傾向はエッチングレートの低下による鏡面プロセスの鈍化が原因であると考えられる。
【0118】
(大気の影響)
次に、大気の影響を調べるためのエッチングを行った。浸漬部IMと非浸漬部NIMの界面付近Vとについて、空気流量とエッチングレートとの関係を
図27(a)に、空気流量と粗さとの関係を
図27(b)にそれぞれ示す。浸漬部IM、界面付近Vとも、空気流量に関わらずエッチングレートはほとんど変化しなかった。しかし、同じエッチング時間でも浸漬部IMでは空気流量が増加するほど潜傷が除去されていくことがわかった。また空気流量が20L/minでは界面付近Vに膜状の凹凸ができ、粗さが著しく増大した。
【0119】
以上の実験結果、推察により、エッチングには空気が作用していることがわかった。よって、非浸漬部NIMではアルカリ蒸気もしくは表面張力による溶融アルカリ液の薄膜がSiCと反応する際に大気の酸素を取り込んで酸化を促進させていることが考えられる。
【0120】
<実験例1、2のまとめ>
以上説明したように、実験例1、2により、NaOH溶液を用いたSiC基板のウエットエッチングで非浸漬部におけるSiCウエハ面の高能率な鏡面化現象を見出した。その基礎特性の調査のための実験から、750℃、20分間のエッチングで到達面粗さ1.4nmRaとなり、750℃、45 分間でエッチングレートが最大の304μm/h となることがわかった。さらにエッチング雰囲気においては、空気が作用していることがわかった。