(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に、上記首下部の、上記首下丸み部との隣接領域は、上記第1結晶粒のアルミニウム合金から構成されることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金製ボルト。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態を具体的に説明する。まず、本願出願人に係るアルミニウム合金製のボルトの普通の製造方法を説明する。
図1(a)〜(c)は、横断面が円形であり、その直径が製造すべきボルトの首下部の横断面の直径と同一であるアルミニウム合金製のコイル材からボルトを製造するための普通の手法を示している。
【0015】
このボルトの製造方法によれば、
図1(a)に示すように、アルミニウム合金製のコイル材(図示せず)を、製造すべきボルトの形状及び寸法に相応ないしは対応する長さに切断して円柱形の線材1(円柱形部材)を作製し、この線材1を所定の形状(後記の大径部及びテーパ部に対応する形状)を有する金型2内に配置する。なお、この種のボルトに適したアルミニウム合金としては、例えば6000系(Al-Mg-Si)のアルミニウム合金(JIS規格ではA6000番台)や7000系(Al-Zn-Mg-(Cu))のアルミニウム合金(JIS規格ではA7000番台)などを用いることができる。6000系、7000系のアルミニウム合金の引張り強さは、それぞれ、400MPa以上、500MPa以上となる。
【0016】
本明細書では、線材ないしはボルト素材における位置関係を簡潔に示すため、適宜、これらの中心軸方向に関して頭部が形成される側を「上」といい、これと反対側(首下部ないしは軸部が形成される側)を「下」ということにする。本明細書において、コイル材、線材、ボルト素材等における「横断面」は、これらの中心軸と垂直な面で切断した断面を意味する。また、本明細書において「首下部」は、頭部の下端面からボルト下端部まで伸びる軸部(ねじ部及び非ねじ部を含む)を意味する。
図1において(
図2〜
図6も同様)、仮想線Lは、後で説明する首下丸み部8の位置ないしは該首下丸み部8に対応する位置を示している。
【0017】
そして、金型2内に配置された線材1に対して、ハンマー等(図示せず)で下向きの押圧力を加えて据え込み加工を施し、線材1の上端近傍部を塑性変形させ、
図1(b)に示すように、大径部3及びテーパ部4を形成する。なお、これらの大径部3及びテーパ部4は、後で説明するように最終的には頭部6(ボルトヘッド)となる。一方、線材1のテーパ部4より下側の部分は塑性変形せず、そのままの状態で首下部5となる。
【0018】
さらに、大径部3とテーパ部4とに頭部成型加工(プレス加工)を施して、
図1(c)に示すように、頭部6と首下部5とを備えたボルト素材7を作製する。その際、頭部6と首下部5の境界領域に首下丸み部8(首下R部)が形成される。なお、この製造方法においては、線材1の直径d
1と首下部5の直径d
2は同一である。この後、首下部5の周面の一部又は全部に、転造等によりねじが形成され、ボルトが完成する。この普通のボルトの製造方法では、
図1(b)、(c)中のR1、R2で示す領域では加工歪は比較的小さくなる。
【0019】
図1(d)〜(f)は、それぞれ、
図1(a)〜(c)に示す線材1又はボルト素材7に、熱処理(溶体化処理及び時効処理)を施した場合のアルミニウム合金材料の結晶粒の大きさを模式的に示している。ただし、実際のボルトの製造工程では、このような個別の熱処理は施さず、ボルト素材7を作製した後に熱処理を施す。なお、このような結晶粒径の変化は、加工歪の付与だけでは起こらず、熱処理によって生じる。
図1(d)〜(f)において、線材1内又はボルト素材7内のおおむね円形の多数の図形は、アルミニウム合金材料の結晶粒の大ききを比喩的ないしは誇張的に示している。これらの円形の図形は、線材1内又はボルト素材7内の各部位における結晶粒の相対的な大小関係を示すためのものであり、結晶粒の実際の寸法を示すものではないのはもちろんである。なお、このような結晶粒の大きさの表示は、後で説明する
図2〜
図6においても同様である。
【0020】
このボルトの製造方法によれば、首下部5には塑性変形を伴う加工は施されないので、この領域ではアルミニウム合金材料の流動は起こらず、これらの領域には加工歪を付与することができない。このため、
図1(f)から明らかなとおり、熱処理を施しても、ボルト素材7の首下部5では、アルミニウム合金材料の結晶粒を微細化することができず(結晶粒径大)、耐応力腐食割れ性を確保することができない。また、首下丸み部8(ないしは、その隣接領域)では、ある程度の加工歪を付与することができるので、熱処理を施すことによりアルミニウム合金材料の結晶粒を多少は微細化することができるが(結晶粒径中)、耐応力腐食割れ性を十分に確保することはできない。なお、頭部6の大部分(下端近傍部以外の部分)では、アルミニウム合金材料の結晶粒は十分に微細化される(結晶粒径小)。
【0021】
図2(a)〜(d)は、横断面が円形であり、その直径が製造すべきボルトの首下部の直径より大きいアルミニウム合金製のコイル材からボルトを製造するための本願出願人に係るもう1つの普通の手法を示している。このボルトの製造方法によれば、
図2(a)に示すように、アルミニウム合金製のコイル材(図示せず)を、製造すべきボルトの形状及び寸法に相応ないしは対応する長さに切断して円柱形の線材11を作製する。ここで、コイル材には、その円形の横断面の直径が製造すべきボルトの首下部の横断面の直径より大きいものが用いられる。
【0022】
次に、
図2(b)に示すように、線材11の、首下丸み部(ないしは、頭部と首下部の境界領域)に対応する部位から下端部にわたって絞り加工(絞り成型加工)を施して首下部12を形成した上で、この線材11を所定の形状を有する金型13内に配置する。この場合、絞り加工が施される部位では、横断面の直径がd
3である線材11が縮径され、首下部12の横断面の直径d
4はd
3よりも小さくなる。このため、首下部12内ではアルミニウム合金材料の流動が起こり、首下部12に十分な加工歪を付与することができる。
【0023】
そして、金型13内に配置された線材11に対して、ハンマー等(図示せず)で下向きの押圧力を加えて据え込み加工を施し、線材11の上端近傍部(絞り加工が施されていない部分の上側部分)を塑性変形させ、
図2(c)に示すように、大径部14及びテーパ部15を形成する。なお、テーパ部15と首下部12の間には、絞り加工が施されていない未加工部16が存在する。さらに、大径部14とテーパ部15と未加工部16とに頭部成型加工(プレス加工)を施して、
図2(d)に示すように、頭部17と首下部12とを備えたボルト素材18を作製する。その際、頭部17と首下部12の境界領域に首下丸み部19(首下R部)が形成される。この後、首下部12の周面の一部又は全部に、転造等によりねじが形成され、ボルトが完成する。この普通のボルトの製造方法では、
図2(c)、(d)中のR3、R4で示す領域では加工歪は比較的小さくなる。
【0024】
図2(e)〜(h)は、それぞれ、
図2(a)〜(d)に示す線材11又はボルト素材18に熱処理(溶体化処理及び時効処理)を施した場合のアルミニウム合金材料の結晶粒の大きさを、
図1(d)〜(f)と同様の形態で比喩的ないしは誇張的に示している。
図2(h)から明らかなとおり、このボルトの製造方法によれば、ボルト素材18の首下部12には絞り加工によって加工歪を付与することができ、この後の熱処理により首下部12のアルミニウム合金材料の結晶粒を微細化することができる(結晶粒径小)。
【0025】
しかしながら、首下丸み部19(ないしは、その隣接領域)では、十分に加工歪を付与することができないので、熱処理を施してもアルミニウム合金材料の結晶粒を十分には微細化することができず(結晶粒径中)、耐応力腐食割れ性を十分には確保することができない。なお、頭部17の大部分(下端近傍部以外の部分)では、アルミニウム合金材料の結晶粒は十分に微細化される(結晶粒径小)。
【0026】
以下、本発明に係るアルミニウム合金製のボルトの製造方法を説明する。
<実施形態1>
図3(a)〜(d)は、本発明の実施形態1に係るボルトの製造方法を示している。このボルトの製造方法は、
図1(a)〜(f)に示す普通のボルトの製造方法と同様に、横断面が円形であり、その直径が製造すべきボルトの首下部の横断面の直径と同一であるアルミニウム合金製のコイル材からボルトを製造する。すなわち、実施形態1に係るボルトの製造方法は、
図1(a)〜(f)に示す普通のボルトの製造方法を改良したものである。
【0027】
そして、実施形態1に係るボルトの製造方法では、
図1(a)〜(f)に示す普通のボルトの製造方法に比べて、線材の据え込み加工を施す部分を、線材の伸びる方向(上下方向)に長くしている。すなわち、普通のボルトの製造方法に比べて、線材を下向きに深く据え込むようにしている。具体的には、首下丸み部に対応する部位よりやや下側の部位まで、アルミニウム合金材料が塑性流動する程度に線材に据え込み加工を施すようにしている。
【0028】
実施形態1に係るボルトの製造方法においては、
図3(a)に示すように、アルミニウム合金製のコイル材(図示せず)を、製造すべきボルトの形状及び寸法に相応ないしは対応する長さに切断して円柱形の線材21を作製し、この線材21を所定の形状を有する金型22内に配置する。そして、線材21にハンマー等(図示せず)で下向きの押圧力を加えて据え込み加工を施し、線材21の上端近傍部を塑性変形させ、
図3(b)に示すように、大径部23及びテーパ部24を形成する。なお、テーパ部24より下側の塑性変形しない部分は首下部25となる。この場合、大径部23には加工歪が十分に付与される。なお、テーパ部24の下部では、加工歪はやや小さくなる。
図3(b)から明らかなとおり、この大径部23の中心軸方向(上下方向)の長さは、
図1(b)に示す普通のボルトの製造方法における大径部3の中心軸方向の長さに比べてかなり長くなっている。
【0029】
次に、
図3(c)に示すように、大径部23の下側部分及びテーパ部24に絞り加工を施して縮径する。なお、大径部23の上側部分は縮径されず、非縮径部23aとなる。この絞り加工により、絞り加工が施されなかった非縮径部23aの下側には、比較的縮径の度合いが小さい第1縮径部26と、首下部25と同一径となるまで縮径されて該首下部25の一部をなす第2縮径部25aとが形成される。これにより、
図1(a)〜(f)に示す普通のボルトの製造方法ではアルミニウム合金材料の流動が起こらなかった、テーパ部24に対応する部位、すなわち最終的に首下丸み部となる部分ないしはその隣接領域にもアルミニウム合金材料の流動を起こさせて十分に加工歪を付与することができる。
【0030】
前記のとおり、このボルトの製造方法では、
図1(a)〜(f)に示す普通のボルトの製造方法に比べて線材21を下向きに深く据え込むようにしているので、頭部の形成に必要な量を超えて余分に据え込み加工を施すことになる。すなわち、完成製品であるボルトには不必要なものである、過剰に据え込んだ比較的大径の部分が生じる。そこで、この大径の部分に対して絞り加工を施すようにしている。このように絞り加工が施される部分では、据え込み加工及び絞り加工の2度の加工により加工歪を付与することができるので、熱処理後におけるアルミニウム合金材料の結晶粒の微細化をより促進することができる(結晶粒径小)。
【0031】
さらに、非縮径部23aと第1縮径部26とに頭部成型加工(プレス加工)を施して、
図3(d)に示すように、頭部27と首下部25(第2縮径部25aを含む)とを備えたボルト素材28を作製する。その際、頭部27と首下部25(第2縮径部25a)の境界領域に首下丸み部29(首下R部)が形成される。この後、首下部25の一部又は全部の周面に、転造等によりねじが形成され、ボルトが完成する。このボルトの製造方法では、
図3(b)中のR5で示す領域では据え込み加工により加工歪が付与され、
図3(c)中のR6で示す領域では絞り加工により加工歪が付与される。かくして、
図3(d)中のR7で示す領域では、据え込み加工及び絞り加工により加工歪が付与されるので、加工歪は非常に大きくなる。
【0032】
図3(e)〜(h)は、それぞれ、
図3(a)〜(d)に示す線材21又はボルト素材28に熱処理(溶体化処理及び時効処理)を施した場合のアルミニウム合金材料の結晶粒の大きさを、
図1(d)〜(f)と同様の形態で比喩的ないしは誇張的に示している。
図3(h)から明らかなとおり、このボルトの製造方法によれば、熱処理後には首下丸み部29(ないしは、その隣接領域)でアルミニウム合金材料の結晶粒(第1結晶粒)を十分に微細化することができ(結晶粒径小)、首下丸み部29の耐応力腐食割れ性を十分に確保することができる。さらに、首下部25の上側部分(すなわち、第2縮径部25a)でも、熱処理によりアルミニウム合金材料の結晶粒を十分に微細化することができ、首下部25の上側部分の耐応力腐食割れ性を確保することができる。なお、頭部27でも、アルミニウム合金材料の結晶粒は十分に微細化される(結晶粒径小)。頭部27、首下丸み部29、首下部25の上部部分25aのアルミニウム合金の結晶粒の平均結晶粒径は、約40μm以下、好適には、約10μm〜約30μm、より好適には約10μm〜約20μmとなり、首下部25(上部部分25aを除く)の結晶粒の平均結晶粒径(例えば150μm)より小さくなっている。ここでは、首下部25の上部部分25aも微細化したが、頭部27と首下丸み部29のみ微細化されても良い(以下の実施の形態において同様)。
【0033】
図4(a)〜(d)は、
図3(a)〜(d)に示す実施形態1に係るボルトの製造方法に比べて、線材21をさらに下向きに深く据え込むようにしたボルトの製造方法を示している。具体的には、首下丸み部に対応する部位よりかなり下側の部位、例えばねじ部の切り上がり位置まで、アルミニウム合金材料が塑性流動する程度に、線材21に据え込み加工を施すようにしている。また、
図4(e)〜(h)は、それぞれ、
図4(a)〜(d)に示す線材21又はボルト素材28に熱処理(溶体化処理及び時効処理)を施した場合のアルミニウム合金材料の結晶粒の大きさを、
図1(d)〜(f)と同様の形態で比喩的ないしは誇張的に示している。なお、
図4(
図5も同様)において、仮想線Mは、ねじ部の切り上がり位置を示している。
【0034】
図4(a)〜(h)に示すボルトの製造方法は、線材21の据え込みの深さが異なる点を除けば、
図3(a)〜(h)に示すボルトの製造方法と同様であるので、
図4(a)〜(h)では、線材21ないしはボルト素材28の各構成要素には、
図3(a)〜(h)の場合と同様の参照番号を付している。このボルトの製造方法では、
図4(b)中のR8で示す領域では据え込み加工により加工歪が付与され、
図4(c)中のR9で示す領域では絞り加工により加工歪が付与される。かくして、
図4(d)中のR10で示す領域では、据え込み加工及び絞り加工により加工歪が付与されるので、加工歪は非常に大きくなる。
【0035】
図4(h)から明らかなとおり、このボルトの製造方法によれば、首下丸み部29(ないしは、その隣接領域)でアルミニウム合金材料の結晶粒を十分に微細化することができ、首下丸み部29の耐応力腐食割れ性を十分に確保することができる。さらに、首下部25の上側部分(第2縮径部25a)、すなわちねじ部の切り上がり位置より上側の部分でアルミニウム合金材料の結晶粒を十分に微細化することができ、首下部25のこの部分の耐応力腐食割れ性を向上させることができる。すなわち、
図3(a)〜(d)に示すボルトの製造方法に比べて、より広い領域でアルミニウム合金材料の結晶粒を微細化することができ、首下部25の上側部分の耐応力腐食割れ性を向上させることができる。
【0036】
<実施形態2>
図5(a)〜(d)は、本発明の実施形態2に係るボルトの製造方法を示している。このボルトの製造方法は、
図2(a)〜(h)に示す普通のボルトの製造方法と同様に、横断面が円形であり、その直径が製造すべきボルトの首下部の横断面の直径より大きいアルミニウム合金製のコイル材からボルトを製造する。さらに、
図2(a)〜(h)に示す普通のボルトの製造方法と同様に、線材に絞り加工を施して首下部を形成した上で、線材の上部に据え込み加工を施すようにしている。すなわち、実施形態2に係るボルトの製造方法は、
図2(a)〜(h)に示す普通のボルトの製造方法を改良したものである。そして、実施形態2に係るボルトの製造方法では、
図2(a)〜(h)に示す普通のボルトの製造方法に比べて、絞り加工を施す領域を上側に広げている。したがって、絞り加工を施した部分の上部では、絞り加工に加えて据え込み加工を施すことになる。
【0037】
実施形態2に係るボルトの製造方法においては、
図5(a)に示すように、アルミニウム合金製のコイル材(図示せず)を、製造すべきボルトの形状及び寸法に相応ないしは対応する長さに切断して円柱形の線材31を作製する。ここで、コイル材には、その円形の横断面の直径が製造すべきボルトの首下部の横断面の直径より大きいものが用いられる。
【0038】
次に、
図5(b)に示すように、線材31の、首下丸み部(ないしは、頭部と首下部の境界領域)に対応する部位より上側の部位から線材31の下端部にわたって絞り加工(絞り成型加工)を施して首下部32を形成した上で、この線材31を所定の形状を有する金型33内に配置する(
図5(f)参照)。この場合、絞り加工が施された部分では線材31が縮径され、アルミニウム合金材料の流動が起こり、加工歪が付与される。ここで、線材31の絞り加工が施された部分の上端近傍部は、金型33の空洞34内に位置する(
図5(f)参照)。すなわち、この絞り加工により、首下丸み部に対応する部分に加工歪が付与される。
【0039】
そして、金型33内の線材31に対して、ハンマー等(図示せず)で下向きの押圧力を加えて据え込み加工を施し、線材31の絞り加工が施されていない部分と、絞り加工が施された部分の上端近傍部とを塑性変形させ、
図5(c)に示すように、大径部35及びテーパ部36を形成する。この場合、大径部35及びテーパ部36にはもれなく据え込み加工が施されるが、大径部35の下端近傍部及びテーパ部36には、すでに絞り加工が施されているので、これらの部分には絞り加工及び据え込み加工の両方が施される。なお、首下部32には、前記のとおり絞り加工が施されている。かくして、大径部35とテーパ部36と首下部32とに十分に加工歪が付与される。
【0040】
さらに、大径部35とテーパ部36とに頭部成型加工(プレス加工)を施して、
図5(d)に示すように、頭部37と首下部32とを備えたボルト素材38を作製する。その際、頭部37と首下部32の境界領域に首下丸み部39(首下R部)が形成される。この後、首下部32の周面の一部又は全部に、転造等によりねじが形成され、ボルトが完成する。このボルトの製造方法では、
図5(b)中のR11で示す領域では絞り加工により加工歪が付与され、
図5(c)中のR12で示す領域では据え込み加工により加工歪が付与される。かくして、
図5(d)中のR13で示す領域では、据え込み加工及び絞り加工により加工歪が付与されるので、加工歪は非常に大きくなる。なお、
図5において、仮想線Mは、ねじ部の切り上がり位置を示している。
【0041】
図5(e)〜(h)は、それぞれ、
図5(a)〜(d)に示す線材31又はボルト素材38に熱処理(溶体化処理及び時効処理)を施した場合のアルミニウム合金材料の結晶粒の大きさを、
図1(d)〜(f)と同様の形態で比喩的ないしは誇張的に示している。
図5(h)から明らかなとおり、このボルトの製造方法によれば、熱処理により首下丸み部39(ないしは、その隣接領域)でアルミニウム合金材料の結晶粒を微細化することができ(結晶粒径小)、首下丸み部39の耐応力腐食割れ性を十分には確保することができる。さらに、首下部32でもアルミニウム合金材料の結晶粒を微細化することができ(結晶粒径小)、首下部32の耐応力腐食割れ性を十分には確保することができる。なお、頭部37でも、アルミニウム合金材料の結晶粒は十分に微細化される(結晶粒径小)。
【0042】
<実施形態3>
図6(a)〜(e)は、本発明の実施形態3に係るボルトの製造方法を示している。このボルトの製造方法は、線材に対して、まずその上端近傍部より下側の部位に絞り加工を施し、この後に線材の上端近傍部に据え込み加工を施すことにより、大径部とテーパ部を形成する点では、
図5(a)〜(h)に示す実施形態2に係るボルトの製造方法と同様である。
【0043】
しかしながら、実施形態3に係るボルトの製造方法では、絞り加工と据え込み加工とを交互に複数回繰り返し、首下丸み部に対応する部分及び首下部の上部に対応する部分に加工歪を蓄積させて、熱処理後にアルミニウム合金材料の結晶粒をより細かく微細化するようにしている。この実施形態3に係るボルトの製造方法によれば、絞り加工と据え込み加工の繰り返し回数を変える(調節)ことにより、アルミニウム合金材料の結晶粒の粒径を調整ないしは制御することができる。
【0044】
実施形態3に係るボルトの製造方法においては、
図6(a)に示すように、アルミニウム合金製のコイル材(図示せず)を、製造すべきボルトの形状及び寸法に相応ないしは対応する長さに切断して円柱形の線材41を作製する。ここで、コイル材には、その円形の横断面の直径が製造すべきボルトの首下部の横断面の直径より大きいものが用いられる。
【0045】
次に、
図6(b)に示すように、線材41の、首下丸み部(ないしは、頭部と首下部の境界領域)に対応する部分よりやや上側の部位から線材41の下端部にわたって絞り加工(絞り成型加工)を施して首下部42を形成する。この場合、線材41の上端近傍部には、絞り加工が施されていない未加工部43が存在する。続いて、この線材41を所定の形状を有する金型(図示せず)内に配置し、未加工部43と首下部42の上端近傍部とに据え込み加工を施して拡径部44を形成する。この据え込み加工では、絞り加工が施されなかった未加工部43と、絞り加工が施された首下部42の上端近傍部とが塑性変形して拡径される。このとき、首下部42の上端近傍部には、絞り加工と据え込み加工とが施されるので、より大きい加工歪を付与することができ、この部分では熱処理が施されたときに、アルミニウム合金材料の結晶粒は非常に小さくなる。
【0046】
さらに、線材41に対して、前記の絞り加工と据え込み加工とを(
図6(b)、(c)中に破線Aで示す工程)、予め設定された回数だけ交互に繰り返して実施する。この場合、拡径部44に対応する部分では、繰り返し塑性変形が生じ、大きな加工歪が付与される。ここで、絞り加工と据え込み加工の繰り返し回数を多くすればするほど、線材41の上部により大きな加工歪を付与することができ、熱処理を施すことにより、アルミニウム合金材料の結晶粒径を小さくすることができる。したがって、絞り加工と据え込み加工の繰り返し回数を調節ことにより、アルミニウム合金材料の結晶粒の粒径を制御ないしは調節することができる。
【0047】
このように、
図6(b)、(c)中に破線Aで示す絞り加工と据え込み加工とを交互に繰り返し実施した後、線材41に対してさらなる据え込み加工又は絞り加工を施して、
図6(d)に示すように、大径部45及びテーパ部46を形成する。さらに、大径部45とテーパ部46とに頭部成型加工(プレス加工)を施して、
図6(e)に示すように、頭部47と首下部42とを備えたボルト素材48を作製する。その際、頭部47と首下部42の境界領域に首下丸み部49(首下R部)が形成される。
【0048】
この後、首下部42の周面の一部又は全部に、転造等によりねじが形成され、ボルトが完成する。このボルトの製造方法では、
図6(b)中のR14で示す領域では絞り加工により加工歪が付与され、
図6(c)中のR15で示す領域では据え込み加工により加工歪が付与される。かくして、
図6(e)中のR16で示す領域では、据え込み加工及び絞り加工が繰り返し実施されて加工歪が蓄積されるので、加工歪は非常に大きくなる。
【0049】
図6(f)〜(j)は、それぞれ、
図6(a)〜(e)に示す線材41又はボルト素材48に熱処理(溶体化処理及び時効処理)を施した場合のアルミニウム合金材料の結晶粒の大きさを、
図1(d)〜(f)と同様の形態で比喩的ないしは誇張的に示している。
図6(j)から明らかなとおり、このボルトの製造方法によれば、頭部47と、首下部42の上端近傍部(首下丸み部49を含む)とでは、絞り加工と据え込み加工とが繰り返されるので、その繰り返し回数に応じてアルミニウム合金材料の結晶粒径が非常に小さくなり(結晶粒径微小)、耐応力腐食割れ性が大幅に向上する。なお、線材41の、前記上端近傍部より下側の部分は、最初に絞り加工が施されるだけであるので、アルミニウム合金材料の結晶粒径は、実施形態2における首下部32の場合と同様である(結晶粒径小)。
【0050】
図7(a)、(b)に、据え込み加工を施した複数のアルミニウム合金製の試験片を作製した上で、これらの試験片に熱処理(溶体化処理及び時効処理)を施し、該試験片中のアルミニウム合金材料の平均結晶粒径を測定した結果を示す。なお、据え込み加工を施さず、熱処理のみを施した試験片についても同様の測定を行っている。具体的には、
図7(a)に示すように、アルミニウム合金材料からなる高さ(中心軸方向の長さ)がh
0(20mm)であり直径がD(12mm)である複数の円柱形部材を準備し、これらの円柱形部材を、高さが所定値h
1(<h
0)となるように上下方向(中心軸方向)に押圧して塑性変形させ、圧縮率αが互いに異なる試験片を作製した。ここで、試験片の圧縮率αは、下記の式1で定義される値である。
α=100×(h
0−h
1)/h
0……………………………………………式1
α :圧縮率(%)
h
0:円柱形部材の加工前の高さ(mm)
h
1:円柱形部材の加工後の高さ(mm)
【0051】
図7(b)は、圧縮率αが0〜80%の範囲内の複数の試験片に対して熱処理を施した後で、各試験片中のアルミニウム合金材料の平均結晶粒径を測定した結果を示している。
図7(b)から明らかなとおり、据え込み加工を施さない試験片(α=0)では、平均結晶粒径は30μmであるが、圧縮率αが20%の試験片では平均結晶粒径が20μmとなり、とくに圧縮率αが40%以上の試験片では平均結晶粒径は10μm以下となっている。
【0052】
図9(a)は、据え込み加工を施さず熱処理のみを施した試験片(α=0)中のアルミニウム合金材料の結晶構造を示す顕微鏡写真である。また、
図9(b)は、圧縮率αが80%の据え込み加工を施した後で熱処理を施した試験片中のアルミニウム合金材料の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
図9(a)と
図9(b)を対比すれば、据え込み加工を施して熱処理を施した試験片では、据え込み加工を施さず熱処理のみを施した試験片に比べて、アルミニウム合金材料の結晶粒径が大幅に小さくなっていることが分かる。
【0053】
図8(a)、(b)に、部分的に絞り加工を施した複数のアルミニウム合金製の試験片を作製した上で、これらの試験片に熱処理(溶体化処理及び時効処理)を施し、該試験片中の絞り部分におけるアルミニウム合金材料の平均結晶粒径を測定した結果を示す。なお、絞り加工を施さず、熱処理のみを施した試験片についても同様の測定を行った。具体的には、
図8(a)に示すように、アルミニウム合金材料からなる高さ(中心軸方向の長さ)がh(20mm)であり直径がD
0(12mm)である複数の円柱形部材を準備し、これらの円柱形部材の下部に、直径が所定値D
1(<D
0)となるように絞り加工を施して塑性変形させ、断面減少率β(絞り率、押し出し率)が互いに異なる試験片を作製した。ここで、試験片の断面減少率βは、下記の式2で定義される値である。
β=100×(D
02−D
12)/D
02………………………………………式2
β :断面減少率(%)
D
0:円柱形部材の加工前の直径(mm)
D
1:円柱形部材の絞られた部分の直径(mm)
【0054】
図8(b)は、断面減少率βが0〜80%の範囲内の複数の試験片に対して熱処理を施した後で、各試験片中の絞られた部分(β=0の場合を除く)のアルミニウム合金材料の平均結晶粒径を測定した結果を示している。
図8(b)から明らかなとおり、絞り加工を施さない試験片(β=0)では、平均結晶粒径は約30μmであるが、断面減少率βが大きくなればなるほど平均結晶粒径が小さくなり、とくに断面減少率βが80%の試験片では平均結晶粒径は10μmとなっている。
【0055】
図9(c)は、絞り加工を施さず熱処理のみを施した試験片(β=0)中のアルミニウム合金材料の結晶構造を示す顕微鏡写真である。また、
図9(d)は、断面減少率βが80%の絞り加工を施した後で熱処理を施した試験片中の絞り部分のアルミニウム合金材料の結晶構造を示す顕微鏡写真である。
図9(c)と
図9(d)を対比すれば、絞り加工を施して熱処理を施した試験片では、絞り加工を施さずに熱処理のみを施した試験片に比べて、アルミニウム合金材料の結晶粒径が大幅に小さくなっていることが分かる。
【0056】
図7(b)、
図8(b)及び
図9(a)〜(d)によれば、本発明の実施形態1〜3に係るボルトの製造方法を用いることにより、ボルトの首下丸み部ないしは首下部でアルミニウム合金材料の結晶粒を十分に微細化することができ、首下丸み部等の応力集中部における耐応力腐食割れ性を向上させることができることが分かる。
【0057】
以上、本発明の実施形態1〜3に係るアルミニウム合金製のボルトの製造方法によれば、歪付与工程で首下丸み部ないしは首下部に十分に加工歪を付与することができ、この後の熱処理工程で熱処理(溶体化処理及び時効処理)を施して、これらの部位のアルミニウム合金材料の結晶粒を十分に微細化することができるので、首下丸み部等の応力集中部における耐応力腐食割れ性を大幅に向上させることができ、ボルトの信頼性を高めることができる。