【文献】
伊勢武一ほか,Au-ZrB2分散めっきの表面特性,金属表面技術,1988年,Vol.39, No.3,pp.128-133,特に「1.緒言」
【文献】
下条武美ほか,パルス電源を用いたコネクター接点の金めっき,実務表面技術,1985年,Vol.32, No.12,pp. 652-658,特に「4-4 コネクターの表面処理」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に説明したように、金メッキ液は、繰り返し用いるうちに金属イオン等の不純物が蓄積する場合があり、そのような不純物としては鉄イオンも挙げられる。しかしながら、本発明者らが、金メッキ液から鉄イオンを除去すべく、イミノジ酢酸基を有するキレート材を用いた処理を検討したところ、金メッキ液中の鉄イオンはイミノジ酢酸基を有するキレート材ではほとんど除去できないことが分かった。本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、鉄イオンを含む金メッキ液から鉄イオンを除去する処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
イミノジ酢酸基を有するキレート材は一般に、鉄イオンを捕捉除去できるとされており、その捕捉能も銅イオンと比べて特に低いものではない。しかし特許文献1に開示されるように、イミノジ酢酸基を有するキレート材を用いることにより金メッキ液から銅イオンを除去できるにも関わらず、同じように金メッキ液からの鉄イオンの除去を試みたところ、イミノジ酢酸基を有するキレート材では金メッキ液から鉄イオンをほとんど除去できなかった。この原因は金メッキ液中に含まれる錯化剤にあると考えられ、特に錯形成能が高いクエン酸を錯化剤として用いた場合は、鉄イオンがクエン酸と反応してクエン酸第一鉄(FeC
6H
6O
7・H
2O)やクエン酸第二鉄(FeC
6H
5O
7)等の多核金属錯塩を形成し、鉄イオンの金メッキ液中での安定性が高まるためと考えられた。このように高度に安定化された鉄イオンは、沈殿生成させて除去することも困難となる。しかしながら、本発明者らが検討したところ、リンを含む官能基を有するキレート材を用いることにより、金メッキ液から鉄イオンを効果的に除去できることが明らかになった。
【0007】
すなわち本発明の金メッキ液の処理方法とは、鉄イオンとクエン酸とを含有する金メッキ液を、リンを含む官能基を有するキレート材と接触させて、鉄イオンを除去するところに特徴を有する。本発明の金メッキ液の処理方法によれば、クエン酸を含有する金メッキ液であっても、金メッキ液に含まれる鉄イオンを金イオンに優先して除去することができる。
【0008】
キレート材の有するリンを含む官能基は、ホスホン酸基またはリン酸基であることが好ましい。また、処理対象となる金メッキ液は、電解金メッキ液であることが好ましい。本発明の処理方法は、例えば鉄イオンの除去率が金イオンの除去率の2倍以上であることが好ましい。
【0009】
金メッキ液はさらにコバルトイオンおよびニッケルイオンから選ばれる少なくとも1種を含有するものであってもよい。コバルトイオンやニッケルイオンはメッキ形成される金皮膜の硬さ調整剤として機能し得るが、本発明の処理方法によれば、メッキに必要なコバルトイオンやニッケルイオンの除去を抑えて、鉄イオンを優先的に除去することができる。例えば、鉄イオンの除去率はコバルトイオンまたはニッケルイオンの除去率の2倍以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金メッキ液の処理方法によれば、クエン酸を含有する金メッキ液であっても、金メッキ液に含まれる鉄イオンを金イオンよりも優先的に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の金メッキ液の処理方法は、鉄イオンとクエン酸とを含有する金メッキ液を、リンを含む官能基を有するキレート材と接触させて、鉄イオンを除去する工程を有するものである。金メッキ液は、メッキ処理を繰り返し行うことにより不純物が蓄積され、鉄イオンも当該不純物の一種として挙げられる。本発明において処理対象となる金メッキ液は、そのような不純物として鉄イオンを含むものであり、メッキ処理により鉄イオンが蓄積された金メッキ液をキレート材と接触させて、鉄イオンを除去するものである。
【0012】
金メッキ液には、通常、金がイオンまたは塩(錯体)の形態で含まれる。使用される金化合物としては、例えば、KAu(CN)
2等のシアン化金化合物、Na
3Au(SO
3)
2等の亜硫酸金化合物、NaAuS
4O
6等のチオ硫酸金化合物が挙げられる。金メッキ液中の金濃度は、通常0.5g/L以上100g/L以下であり、1g/L以上が好ましく、3g/L以上がより好ましく、5g/L以上がさらに好ましく、また70g/L以下が好ましく、50g/L以下がより好ましく、30g/L以下がさらに好ましい。金濃度は、例えばICP発光分光分析法(ICP−AES)により測定することができる。下記の様々な金属イオンについても同様である。
【0013】
金メッキ液中には、メッキ方法に応じて、適宜添加剤が含まれていてもよい。メッキ液に含まれうる添加剤としては、錯化剤、pH調整剤、電導塩、還元剤、界面活性剤、安定剤、光沢化剤、硬さ調整剤等が挙げられる。なおメッキ液には、金属イオンをメッキ液中で安定的に存在させるために錯化剤が含まれていることが多く、そのような錯化剤としては、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、シュウ酸、酒石酸等のカルボン酸類;エチレンジアミン4酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸等のアミノカルボン酸類;アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等のアミノホスホン酸類;シアン化カリウム、シアン化ナトリウム等のシアン類;アンモニア;ピロリン酸等が挙げられる。これらの錯化剤は、pH調整剤や電導塩を兼ねるものであってもよく、錯化剤は塩を形成していてもよい。これらの中でも、金属イオンとの錯形成能に優れる点から、錯化剤としてクエン酸が多用されており、本発明で用いる金メッキ液中にはクエン酸が含まれている。
【0014】
金メッキ液中のクエン酸濃度は、例えば、10g/L以上が好ましく、30g/L以上がより好ましく、50g/L以上がさらに好ましく、また500g/L以下が好ましく、300g/L以下がより好ましく、200g/L以下がさらに好ましい。また、金メッキ液中のクエン酸濃度は金濃度の2倍以上(質量基準)であることが好ましく、4倍以上がより好ましく、6倍以上がさらに好ましく、また25倍以下が好ましく、20倍以下がより好ましく、15倍以下がさらに好ましい。なお、ここで説明したクエン酸濃度はC
6H
8O
7としての濃度を意味し、塩を形成している場合でもプロトン化されたものとしてカウントする。クエン酸濃度は、例えば、高速液体クロマトグラフィーやイオンクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0015】
金メッキ液中には、金以外の金属イオンが含まれていてもよい。金メッキでは、例えばメッキにより形成される金被膜の硬度を高めるために、金メッキ液に硬さ調整剤としてコバルトやニッケル等を添加する場合があり、これらの金属イオンの1種または2種以上が金メッキ液中に含まれていてもよい。金メッキ液中にコバルトイオンおよびニッケルイオンから選ばれる少なくとも1種が含まれる場合、その濃度はそれぞれ0.01g/L以上が好ましく、0.03g/L以上がより好ましく、0.05g/L以上がさらに好ましく、また3g/L以下が好ましく、1g/L以下がより好ましく、0.5g/L以下がさらに好ましい。また、金メッキ液中のコバルトイオンまたはニッケルイオンの濃度は、金濃度の0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、また5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
金メッキ液を用いてメッキ処理を行うと、被メッキ物やメッキ用設備(例えばラックやリード線等)、冶具等から金属イオンが溶出してくる場合があるが、金メッキ液中にはこれらに由来して金属イオンが含まれていてもよく、そのような金属イオンとして鉄イオンが挙げられる。なお、このように溶出した金属イオンは、メッキにより形成される金被膜の性状を劣化させたり、メッキ性能を低下させるおそれがある。特に、1つのメッキ液を用いてメッキを繰り返し行うと、被メッキ物や設備等から溶出した金属イオンが金メッキ液中に蓄積され、メッキ処理に悪影響を及ぼしやすくなる。本発明で用いる金メッキ液には鉄イオンが含まれており、後述するように、金メッキ液に含まれる鉄イオンをキレート材により除去する。金メッキ液中の鉄イオンの濃度は、メッキ処理への悪影響やキレート材による処理効率を勘案して、例えば0.01g/L以上1g/L以下であればよく、当該濃度は0.02g/L以上がより好ましく、0.03g/L以上がさらに好ましく、また0.5g/L以下がより好ましく、0.3g/L以下がさらに好ましい。
【0017】
金メッキ方法には大きく分けて電解メッキと無電解メッキがあるが、本発明で用いる金メッキ液は、電解金メッキ液と無電解金メッキ液のいずれであってもよい。なお、無電解金メッキ液には金イオンを還元析出させるために還元剤が相当量含まれており、無電解金メッキ液をキレート材と接触させた場合は、還元剤の存在によってキレート材による鉄イオン除去性能が低下したり、キレート材による処理中に金イオンが析出するおそれがある。従って、金メッキ液としては、電解金メッキ液を用いることが好ましい。
【0018】
前記還元剤としては、次亜リン酸、亜リン酸、ヒドラジン、ジメチルアミノボラン等が挙げられるが、金メッキ液中にはこれらの化合物が多く含まれないことが好ましい。特に次亜リン酸や亜リン酸は、キレート材の有するリンを含む官能基と競合反応して、キレート材による鉄イオン除去率が低下するおそれがあることから、金メッキ液中に多く含まれないことが好ましい。例えば、金メッキ液中の次亜リン酸と亜リン酸の合計濃度は、20g/L以下が好ましく、10g/L以下がより好ましく、3g/L以下がさらに好ましく、1g/L以下が特に好ましい。なお、次亜リン酸と亜リン酸の各濃度はそれぞれH
3PO
2、H
3PO
3としての濃度を意味し、塩を形成している場合でもプロトン化されたものとしてカウントする。その他の還元剤としては、ヒドラジンやジメチルアミノボランの金メッキ液中の各濃度は、10g/L以下が好ましく、5g/L以下がより好ましく、2g/L以下がさらに好ましく、1g/L以下が特に好ましい。金メッキ液中には、これらの還元剤が全く含まれなくてもよい。これらの還元剤は、例えば、高速液体クロマトグラフィーやイオンクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0019】
上記に説明した様々なイオンまたは化合物の濃度は、キレート材と接触させる金メッキ液中の濃度を意味する。
【0020】
金メッキ液のpHは特に限定されず、メッキ方法や金皮膜の所望の性状に応じて適宜設定すればよいが、後述するように金メッキ液をキレート材と接触させる際の鉄イオンの除去性能を高める点からは、キレート材と接触させる金メッキ液のpHは7.0以下が好ましく、6.8以下がより好ましく、6.5以下がさらに好ましく、また2.5以上が好ましく、3.0以上がより好ましく、4.0以上がさらに好ましい。
【0021】
本発明で用いる金メッキ液は、鉄イオンとクエン酸を少なくとも含有し、この金メッキ液を、リンを含む官能基を有するキレート材と接触させる。このように金メッキ液をリンを含む官能基を有するキレート材と接触させることにより、金メッキ液から鉄イオンを優先的に除去することができる。クエン酸は、他のカルボン酸化合物(例えば、リンゴ酸、コハク酸、シュウ酸、酒石酸等)と比較して、金属イオンに対して非常に高い錯形成能を有しているため、メッキ処理では、メッキ被膜を形成する金属イオンの錯化剤として多く用いられている。一方、クエン酸は、メッキ液中に不純物として存在する金属イオンとも錯形成し得るため、不純物金属イオンとクエン酸が錯形成した場合は、不純物金属イオンの除去が困難となる。本発明の場合、金メッキ液にクエン酸が含まれることによって、金イオンの溶解性を高めることができるが、同時に不純物として含まれる鉄イオンもクエン酸と錯形成することによって溶解性が高まり、鉄イオンを金イオンから分離して除去することが難しくなる。例えば、クエン酸が含まれる金メッキ液から、鉄イオンを優先的に沈殿生成させることは難しく、またキレート材によって鉄イオンを捕捉して除去する場合でも、カルボン酸を含む官能基を有するキレート材では、鉄イオンを優先的に除去することは難しい。しかしながら、このように非常に高い錯形成能を有するクエン酸を含む金メッキ液を対象とした場合であっても、キレート材としてリンを含む官能基を有するものを用いることにより、金メッキ液から鉄イオンを効率的に除去できることが明らかになった。
【0022】
キレート材の母材としては樹脂や繊維等の高分子材料を用いればよい。キレート材の母材となる樹脂としては、ポリスチレン樹脂(例えば、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、レゾルシン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられ、これらの形状は、球状、柱状、リング状、鞍状、ハニカム状等、特に限定されない。繊維としては、天然繊維、再生繊維、半合成繊維が挙げられ、中でも、綿、麻、パルプ等のセルロース系繊維を用いることが特に好ましい。
【0023】
キレート材の有するリンを含む官能基としては、リンのオキソ酸を含む官能基であることが好ましく、そのような官能基としてはホスホン酸基(−P(=O)(OH)
2)、リン酸基(−O−P(=O)(OH)
2)、ホスフィン酸基(−PH(=O)(OH))等が挙げられる。これらの官能基には、対応する互変異性体も含まれる。中でも、リンを含む官能基としてはホスホン酸基またはリン酸基が好ましく、これによりキレート材により鉄イオンを効率的に除去しやすくなる。ホスホン酸基やリン酸基等のリンを含む官能基は、直接キレート材の母材に結合していてもよく、連結基を介して母材に結合していてもよい。連結基としては、−CH
2−、−NH−、−CO−、−O−、−S−、−SO
2−等が挙げられ、これらは同種または異種の連結基が複数繋がったものでもよい。
【0024】
金メッキ液とキレート材との接触は、バッチ法により行ってもよく、連続法により行ってもよい。金メッキ液とキレート材とをバッチ法により接触させる場合は、例えば、メッキ処理後の金メッキ液を貯留したメッキ浴にキレート材を添加したり、メッキ処理に用いた金メッキ液を別の容器に移してキレート材と接触させればよい。キレート材は、そのまま金メッキ液と接触させてもよいし、キレート材を入れた通液可能な袋を金メッキ液に浸したり、キレート材を一体的に取り扱えるように所定の形状に成形したものを金メッキ液に浸したりしてもよい。このときのキレート材の添加量は、例えば金メッキ液1Lに対して、1g/L〜100g/Lの範囲で適宜調整すればよい。キレート材と金メッキ液の接触時間は特に限定されず、例えば5分〜24時間の間で適宜設定すればよい。
【0025】
金メッキ液とキレート材とを連続法により接触させる場合は、例えば、キレート材をカラムに充填し、そこにメッキ処理に用いた金メッキ液を通液させればよい。このときの通液速度は、キレート材による処理性能に応じて適宜設定すればよいが、空間速度(SV)として、例えば0.2hr
-1〜50hr
-1の範囲で適宜調整すればよい。
【0026】
以上説明したように、本発明の金メッキ液の処理方法によれば、鉄イオンとクエン酸を含有する金メッキ液を、リンを含む官能基を有するキレート材と接触させることにより、金メッキ液から鉄イオンを金イオンに優先して除去することができる。金メッキ液に、硬さ調整剤としてコバルトイオンやニッケルイオンが含まれる場合であっても、金メッキ液から鉄イオンを優先的に除去することができる。本発明の金メッキ液の処理方法によれば、例えば、金メッキ液からの金イオン除去率を30%以下(好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下)に抑えつつ、鉄イオンを60%以上(好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上)除去することができる。あるいは、鉄イオンの除去率を金イオンの除去率の2倍以上、3倍以上、5倍以上、8倍以上、あるいは10倍以上とすることができる。コバルトイオンやニッケルイオンの除去率も30%以下(好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下)に抑えることができる。あるいは、鉄イオンの除去率をコバルトイオンまたはニッケルイオンの除去率の2倍以上、3倍以上、5倍以上、8倍以上、あるいは10倍以上とすることができる。
【0027】
上記のように処理された金メッキ液は、メッキ処理に悪影響を及ぼす可能性のある鉄イオン濃度が低減されたものとなり、しかも金イオン(あるいはさらにコバルトイオンやニッケルイオン)の多くを金メッキ液中に残存させることができるため、金メッキ処理に再び用いることができる。この際、必要に応じて、金化合物や添加剤を添加してもよい。
【0028】
鉄イオンを捕捉したキレート材は、鉄イオン捕捉能が飽和した場合、そのまま廃棄してもよいし、酸溶液やアルカリ溶液と接触させるなどしてキレート材が捕捉した鉄イオンを脱離させた後、再度、金メッキ液からの鉄イオン除去に用いてもよい。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0030】
実験例1:鉄(II)イオンとクエン酸を含有する溶液のキレート処理
クエン酸含有溶液(クエン酸110g/L、水酸化カリウム55g/L)に硫酸アンモニウム鉄(II)6水和物を鉄イオン濃度約50mg/Lになるように添加し、鉄イオンとクエン酸を含有する溶液を作製した。この溶液のpHは4.2であった。そこにキレート材として、イミノジ酢酸基を有するキレート繊維(キレスト社製、キレストファイバーIRY−L)またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂(キレスト社製、キレスパールCH211)を乾燥質量として10g/Lの濃度で添加し、17時間撹拌し、キレート処理を行った。また、キレート材を添加せずに17時間撹拌した処理も対照系として行った。処理後の各溶液の鉄イオン濃度をICP発光分光分析法(ICP−AES)により測定し、鉄イオン除去率を算出した。
【0031】
キレート材を添加しない対照系では、処理後の鉄イオン濃度は57mg/Lであったのに対し、イミノジ酢酸基を有するキレート繊維で処理した場合は、処理後の鉄イオン濃度は57mg/Lと対照系と変わらず、アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂で処理した場合は、処理後の鉄イオン濃度は7mg/Lまで低減した。このときの鉄イオン除去率(対照系を基準とした除去率)は88%であった。アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂で処理することにより、クエン酸を含む溶液から鉄(II)イオンを高い除去率で除去できることが明らかになった。
【0032】
実験例2:鉄(III)イオンとクエン酸を含有する溶液のキレート処理
クエン酸含有溶液(クエン酸110g/L、水酸化カリウム55g/L)に硫酸アンモニウム鉄(III)12水和物を鉄イオン濃度約60mg/Lになるように添加し、鉄イオンとクエン酸を含有する溶液を作製した。この溶液のpHは4.2であった。そこにキレート材として、イミノジ酢酸基を有するキレート繊維(キレスト社製、キレストファイバーIRY−L)またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂(キレスト社製、キレスパールCH211)を乾燥質量として10g/Lの濃度で添加し、17時間撹拌し、キレート処理を行った。また、キレート材を添加せずに17時間撹拌した処理も対照系として行った。処理後の各溶液の鉄イオン濃度をICP発光分光分析法(ICP−AES)により測定し、鉄イオン除去率を算出した。
【0033】
キレート材を添加しない対照系では、処理後の鉄イオン濃度は64mg/Lであったのに対し、イミノジ酢酸基を有するキレート繊維で処理した場合は、処理後の鉄イオン濃度は63mg/Lと対照系とほとんど変わらず、アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂で処理した場合は、処理後の鉄イオン濃度は7mg/Lまで低減した。このときの鉄イオン除去率は89%であった。アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂で処理することにより、クエン酸を含む溶液から鉄(III)イオンを高い除去率で除去できることが明らかになった。
【0034】
実験例3:鉄(II)イオンとクエン酸を含有する溶液のキレート処理(クエン酸濃度の影響の検討)
実験例1において、クエン酸含有液の濃度を半分(クエン酸55g/L、水酸化カリウム27.5g/L)または2倍(クエン酸220g/L、水酸化カリウム110g/L)にして、撹拌時間を21時間とした以外は、実験例1と同様にしてキレート処理を行った。また、対照系として、キレート材を添加しない処理も同じく行った。鉄イオンとクエン酸を含有する溶液のpHは、クエン酸含有液の濃度が半分の場合と2倍の場合のいずれもpH4.3であった。
【0035】
クエン酸含有液の濃度を半分にして処理した場合は、キレート材を添加しない対照系で処理後の鉄イオン濃度は54mg/Lであったのに対し、イミノジ酢酸基を有するキレート繊維による処理では、処理後の鉄イオン濃度は50mg/Lと対照系とほとんど変わらず、アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂による処理では、処理後の鉄イオン濃度は3mg/Lまで低減した。このときの鉄イオン除去率は94%であった。一方、クエン酸含有液の濃度を2倍にして処理した場合は、キレート材を添加しない対照系で処理後の鉄イオン濃度は49mg/Lであったのに対し、イミノジ酢酸基を有するキレート繊維による処理では、処理後の鉄イオン濃度は49mg/Lと対照系と変わらず、アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂による処理では、処理後の鉄イオン濃度は8mg/Lまで低減した。このときの鉄イオン除去率は84%であった。クエン酸濃度が高くなるほど鉄イオン除去率は低下する傾向を示したが、低下した場合でも鉄イオン除去率は84%と高い値を示した。
【0036】
実験例4:鉄(II)イオンとクエン酸と亜リン酸と次亜リン酸を含有する溶液のキレート処理
クエン酸110g/L、水酸化カリウム55g/L、亜リン酸ナトリウム150g/L、次亜リン酸ナトリウム25g/Lを含有する溶液に、硫酸アンモニウム鉄(II)6水和物を鉄イオン濃度約50mg/Lになるように添加し、鉄イオンとクエン酸と亜リン酸と次亜リン酸を含有する溶液を作製した。この溶液のpHは5.8であった。そこにキレート材として、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂(三菱化学社製、ダイヤイオンCR11)またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂(キレスト社製、キレスパールCH211)を乾燥質量として10g/Lの濃度で添加し、21時間撹拌し、キレート処理を行った。また、キレート材を添加せずに21時間撹拌した処理も対照系として行った。処理後の各溶液の鉄イオン濃度をICP発光分光分析法(ICP−AES)により測定し、鉄イオン除去率を算出した。
【0037】
キレート材を添加しない対照系では、処理後の鉄イオン濃度は42mg/Lであったのに対し、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂で処理した場合は、処理後の鉄イオン濃度は42mg/Lと対照系と変わらず、アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂で処理した場合は、処理後の鉄イオン濃度は16mg/Lまで低減した。このときの鉄イオン除去率は62%であった。無電解金メッキ液には亜リン酸や次亜リン酸が含まれ得るが、そのような場合でも、アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂で金メッキ液を処理することにより鉄イオンは除去できるものの、除去率は低下する結果となった。
【0038】
実験例5:鉄(II)イオン、コバルトイオンとクエン酸を含有する金メッキ液のキレート処理
シアン化金カリウム13.2g/L、クエン酸110g/L、水酸化カリウム55g/L、コバルト(II)イオン0.1g/Lを含有する金メッキ液に、硫酸アンモニウム鉄(II)6水和物を鉄イオン濃度約50mg/Lになるように添加し、鉄イオンとコバルトイオンとクエン酸を含有する金メッキ液を作製した。この溶液のpHは4.2であった。そこにキレート材として、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂(三菱化学社製、ダイヤイオンCR11)またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂(キレスト社製、キレスパールCH211)を乾燥質量として10g/Lの濃度で添加し、18時間撹拌し、キレート処理を行った。また、キレート材を添加せずに18時間撹拌した処理も対照系として行った。処理後の各溶液の鉄イオン濃度をICP発光分光分析法(ICP−AES)により測定し、鉄イオン除去率を算出した。
【0039】
キレート材を添加しない対照系では、処理後の金イオン濃度は9.0g/L、コバルトイオン濃度は111mg/L、鉄イオン濃度は50mg/Lであった。イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂で処理した場合は、処理後の金イオン濃度は8.0g/L(除去率11%)、コバルトイオン濃度は89mg/L(除去率20%)、鉄イオン濃度は49mg/L(除去率2%)であった。一方、アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂で処理した場合は、処理後の金イオン濃度は8.3g/L(除去率8%)、コバルトイオン濃度は103mg/L(除去率7%)、鉄イオン濃度は4mg/L(除去率92%)であった。鉄イオンとコバルトイオンとクエン酸を含有する金メッキ液を、アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂で処理することにより、メッキ処理に必要な金イオンとコバルトイオンはほとんど除去されず、不純物である鉄イオンを高効率で除去できることが明らかになった。
【0040】
実験例6:鉄(III)イオン、コバルトイオン、ニッケルイオンとクエン酸を含有する溶液のキレート処理
クエン酸含有溶液(クエン酸110g/L、水酸化カリウム55g/L)に、鉄(III)イオン、コバルト(II)イオン、ニッケル(II)イオン濃度を約10mg/Lになるように添加し、鉄イオンとコバルトイオンとニッケルイオンとクエン酸溶液を含有する溶液を作製した。この溶液のpHは4.2であった。そこにキレート材として、アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂(キレスト社製、キレスパールCH211)を乾燥質量として2g/Lの濃度で添加し、6時間撹拌し、キレート処理を行った。また、キレート材を添加せずに6時間撹拌した処理も対照系として行った。処理後の各溶液の鉄イオン濃度をICP発光分光分析法(ICP−AES)により測定し、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン除去率を算出した。
【0041】
キレート材を添加しない対照系では、処理後の鉄イオン濃度は9.2mg/L、コバルトイオン濃度は9.5mg/L、ニッケルイオン濃度は9.6mg/Lであったのに対し、アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂で処理することにより、鉄イオン濃度が5.5mg/Lまで低減した。このときの鉄イオン除去率は40%であった。一方、コバルトイオン濃度は9.5mg/L、ニッケルイオン濃度は9.6mg/Lであり、対照系と変わりなかった。アミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂で処理することにより、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオンを含有するクエン酸溶液から鉄イオンを優先的に除去できることが明らかになった。