(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795832
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】流量制御機器、流量制御機器の流量校正方法、流量測定機器および流量測定機器を用いた流量測定方法
(51)【国際特許分類】
G01F 25/00 20060101AFI20201119BHJP
G01F 1/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
G01F25/00 C
G01F1/00 X
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-132948(P2016-132948)
(22)【出願日】2016年7月5日
(65)【公開番号】特開2018-4499(P2018-4499A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100082474
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】澤田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
【審査官】
大森 努
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−064707(JP,A)
【文献】
特開2015−058059(JP,A)
【文献】
特開2014−063348(JP,A)
【文献】
特表2002−540415(JP,A)
【文献】
特開平09−034556(JP,A)
【文献】
特開2002−296096(JP,A)
【文献】
国際公開第02/033361(WO,A1)
【文献】
堀場エステック,高精度精密膜流量計 SF-1U・2U,日本,2010年,H. Ito, et al., "Influence of Different Gas Diffusion Layers on the Water Management of Polymer Electrolyte Unitized Reversible Fuel Cell," ECS Transactions, 33(1), pp.945-954, 2010において、p.948に引用が見られ、少なくとも2010年以前の実施と認められる。
【文献】
堀場エステック,マスフローコントローラSEC-N105シリーズ,CC-Linkパートナー製品情報 2015. Dec.,CC-Link協会,2015年12月,p.113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 25/00,1/00,1/34−1/42,
G05D 7/00−7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流量制御機器をガス供給システムに組み込む前において予め行う校正方法であり、流量基準器により計測された流量との比較のもとに流量校正を行う流量制御機器の校正方法であって、複数の流量設定に対して所定許容誤差範囲が設定され、前記複数の流量設定のうちの少なくとも1つの特定流量設定の許容誤差範囲が、前記所定許容誤差範囲よりも小さく設定されており、前記少なくとも1つの特定流量設定では、他の流量設定に比べて、前記流量基準器の流量との誤差がより低減されるまで校正動作が行われ、
前記所定許容誤差範囲は、流量が増加するほど許容誤差が同じかまたは大きくなるような連続的な境界線で規定される目標範囲として設定され、一方で、特定流量設定においては、前記所定許容誤差範囲で規定される許容誤差よりも小さく設定された許容誤差であって、前後の流量設定に比べて離散的に小さく設定された許容誤差に目標範囲が設定されている、流量制御機器の流量校正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の流量校正方法によって校正された流量制御機器。
【請求項3】
記憶装置を有し、前記少なくとも1つの特定流量設定を識別する情報が前記記憶装置に格納されている、請求項2に記載の流量制御機器。
【請求項4】
前記流量制御機器の下流側に接続された基準容量の体積を測定するために用いられる、請求項2または3に記載の流量制御機器。
【請求項5】
請求項4に記載の流量制御機器の下流側に接続され、前記基準容量に流入するガスの流量を測定する流量測定機器であって、
前記基準容量の圧力を測定する圧力センサと、前記基準容量の温度を測定する温度センサとを備え、
前記流量制御機器から前記少なくとも1つの特定流量設定で前記基準容量にガスを流すことによって測定された前記基準容量の体積と、前記基準容量における圧力変化率と、前記基準容量の温度とに基づいて流量を測定するように構成されている、流量測定機器。
【請求項6】
流量制御機器と、前記流量制御機器の下流側に設けられた基準容量と、前記基準容量に流入するガスの流量を測定する流量測定機器とを備えるガス供給システムにおいて行われる流量測定方法であって、
前記流量制御機器を前記ガス供給システムに組み込む前に、流量基準器により計測された流量との比較のもとに前記流量制御機器の流量校正を行うステップであって、複数の流量設定に対して所定許容誤差範囲が設定され、前記複数の流量設定のうちの少なくとも1つの特定流量設定の許容誤差範囲が、前記所定許容誤差範囲よりも小さく設定されており、前記少なくとも1つの特定流量設定では、他の流量設定に比べて、前記流量基準器の流量との誤差がより低減されるまで校正動作を行うステップと、
前記少なくとも1つの特定流量設定で前記流量制御機器から前記基準容量にガスを流すことによって前記基準容量の体積を測定するステップと、
前記流量測定機器において、前記基準容量にガスを流入させた時の前記基準容量の圧力変化率と、前記基準容量の温度と、前記測定された基準容量の体積とに基づいて流量を測定するステップと
を包含し、
前記流量校正を行うステップにおいて、前記所定許容誤差範囲は、流量が増加するほど許容誤差が同じかまたは大きくなるような連続的な境界線で規定される目標範囲として設定され、一方で、特定流量設定においては、前記所定許容誤差範囲で規定される許容誤差よりも小さく設定された許容誤差であって、前後の流量設定に比べて離散的に小さく設定された許容誤差に目標範囲が設定されている流量測定方法。
【請求項7】
複数のガス供給源にそれぞれ接続された複数のガス供給ラインと、
前記複数のガス供給ラインにそれぞれ設けられた複数の流量制御機器と、
前記複数のガス供給ラインにそれぞれ設けられた複数の第1バルブと、
前記複数の第1バルブの下流側において前記複数のガス供給ラインに共通に接続された共通ガス供給ラインと、
前記共通ガス供給ラインに設けられた第2バルブと、
前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路の圧力を測定する圧力センサと、
前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路の温度を測定する温度センサとを備えるガス供給システムにおいて、
前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路を基準容量として用い、前記第2バルブを閉じた状態で前記複数の流量制御機器のうちのいずれか1つを介して前記基準容量にガスを流したときの前記圧力センサが示す圧力変化および前記温度センサが示す温度に基づいてガスの流量を測定する流量測定方法であって、
前記複数の流量制御機器のうちの少なくとも1つの流量制御機器は、前記ガス供給システムに組み込まれる前に、流量基準器により計測された流量との比較のもとに流量校正が行われており、複数の流量設定に対して所定許容誤差範囲が設定され、前記複数の流量設定のうちの少なくとも1つの特定流量設定の許容誤差範囲が、前記所定許容誤差範囲よりも小さく設定されており、前記少なくとも1つの特定流量設定では、他の流量設定に比べて、前記流量基準器の流量との誤差がより低減されるまで校正動作が行われ、
前記所定許容誤差範囲は、流量が増加するほど許容誤差が同じかまたは大きくなるような連続的な境界線で規定される目標範囲として設定され、一方で、特定流量設定においては、前記所定許容誤差範囲で規定される許容誤差よりも小さく設定された許容誤差であって、前後の流量設定に比べて離散的に小さく設定された許容誤差に目標範囲が設定されており、
前記少なくとも1つの流量制御機器が前記ガス供給システムに組み込まれた後、前記少なくとも1つの特定流量設定でガスを流すことによって前記基準容量の体積の計測を行い、前記計測された体積を用いて流量を測定する、流量測定方法。
【請求項8】
複数のガス供給源にそれぞれ接続された複数のガス供給ラインと、
前記複数のガス供給ラインにそれぞれ設けられた複数の流量制御機器と、
前記複数のガス供給ラインにそれぞれ設けられた複数の第1バルブと、
前記複数の第1バルブの下流側において前記複数のガス供給ラインに共通に接続された共通ガス供給ラインと、
前記共通ガス供給ラインに設けられた第2バルブと、
前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路の圧力を測定する圧力センサと、
前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路の温度を測定する温度センサとを備えるガス供給システムにおいて、
前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路を基準容量として用い、前記第2バルブを閉じた状態で前記複数の流量制御機器のうちのいずれか1つを介して前記基準容量にガスを流したときの前記圧力センサが示す圧力変化および前記温度センサが示す温度に基づいてガスの流量を測定する方法であって、
前記複数の流量制御機器のうちの少なくとも1つの流量制御機器は、前記ガス供給システムに組み込まれる前に、流量基準器により計測された流量との比較のもとに流量校正が行われており、複数の流量設定に対して所定許容誤差範囲が設定され、前記複数の流量設定のうちの少なくとも1つの特定流量設定において、前記特定流量設定と、前記流量基準器からの計測流量との差が所定許容誤差範囲に収まるように校正され、そのときに前記流量基準器により計測された流量が、前記少なくとも1つの特定流量設定に関連付けて前記流量制御機器の記憶装置に記憶されており、
ここで、前記所定許容誤差範囲は、流量が増加するほど許容誤差が同じかまたは大きくなるような連続的な境界線で規定される目標範囲として設定され、一方で、特定流量設定においては、前記所定許容誤差範囲で規定される許容誤差よりも小さく設定された許容誤差であって、前後の流量設定に比べて離散的に小さく設定された許容誤差に目標範囲が設定されており、
前記少なくとも1つの流量制御機器が前記ガス供給システムに組み込まれた後、前記少なくとも1つの特定流量設定でガスを流すことによって前記基準容量の体積の計測を行うとき、前記流量制御機器の記憶装置に記憶された前記流量基準器により計測された流量を用いて前記基準容量の体積の計測を行い、前記計測された体積を用いて流量を測定する、流量測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御機器、流量制御機器の流量校正方法、流量測定機器および流量測定機器を用いた流量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置等に設けられたガス供給システムは、一般的に多種類のガスを各供給ガス種毎に設けた流量制御機器によって、ガスをプロセスチャンバ等のガス使用対象に切換えて供給するように構成されている。
【0003】
流量制御機器としては、所定の精度に校正された、圧力式流量制御装置や熱式流量制御装置(MFC)が用いられ、ガス流量を制御している。
【0004】
ここで、流量制御機器は各メーカーごとに規定された基準流量に対して「セットポイント(S.P.)○○%」(流量設定に対し誤差が±○○%以内の流量を制御可能)、「フルスケール(F.S.)○○%」(流量設定に対し誤差が最大流量の±○○%以内の流量を制御可能)のように精度が決定されている。
【0005】
また、上記各流量制御機器の運用においては、随時、流量精度の確認や流量校正を行うことが望まれており、流量計測方法として、圧力上昇率(ROR:Rate of Rise)法が流量精度の確認や流量校正用いられることがある。
【0006】
ROR法では、流量制御機器の下流に設けられた所定の基準容量(V)にガスを流し、そのときの圧力上昇率(ΔP/Δt)と温度(T)とを測定することにより、例えば、Q=(ΔP/Δt)×V/RT(Rは気体定数)から流量Qを演算する。
【0007】
特許文献1には、ROR法による流量計測方法の一例が記載されている。特許文献1に記載のガス供給装置では、各ガス供給ラインに接続された流量制御機器下流側の開閉弁から共通ガス供給路に設けられた開閉弁までの流路が基準容量として用いられており、この流路における圧力上昇率に基づいて流量を計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−337346号公報(特許第4648098号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ROR法で用いられる基準容量の体積は、配管の設計や製作公差などによって異なるため、ガス供給システムごとに流量校正済みの流量制御機器へ設定された流量設定を用いて基準容量の体積を算出することになる。しかしながら、流量校正済みの流量制御機器であっても、流量制御機器へ設定される流量設定と、前記流量設定を受けて制御された制御流量には所定の許容範囲の誤差があるため、基準容量の体積は流量制御機器の前記所定の許容誤差を含んでしまう。つまり、流量Qの演算式に用いられる前記基準容積の体積が前記誤差を含んでいるため、結果的に正確に流量計測できないという課題が残っている。
【0010】
前記流量設定と、前記制御流量の所定の許容範囲の誤差は、校正を繰り返し行うことで小さくすることが可能となるが、校正に要する時間とコストとを考慮して現実的な線引きを行っている。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、比較的短時間で、コストを抑えつつ、流量測定機器を用いた高精度な流量測定方法を実現するための、流量制御機器の流量校正方法を提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態による流量制御機器の校正方法は、流量基準器により計測された流量との比較のもとに流量校正を行う流量制御機器の校正方法であって、複数の流量設定に対して所定許容誤差範囲が設定され、前記複数の流量設定のうちの少なくとも1つの特定流量設定の許容誤差範囲が、前記所定許容誤差範囲よりも小さく設定される。
【0013】
本発明の実施形態による流量制御機器は、前記流量校正方法によって校正された流量制御機器である。
【0014】
ある実施形態において、前記流量制御機器は、記憶装置を有し、前記少なくとも1つの特定流量設定を識別する情報が前記記憶装置に格納されている。
【0015】
ある実施形態において、前記流量制御機器は、前記流量制御機器の下流側に接続された基準容量の体積を測定するために用いられる。
【0016】
本発明の実施形態による流量測定機器は、上記の流量制御機器の下流側に接続され、前記基準容量に流入するガスの流量を測定する流量測定機器であって、前記基準容量の圧力を測定する圧力センサと、前記基準容量の温度を測定する温度センサとを備え、前記流量制御機器から前記少なくとも1つの特定流量設定で前記基準容量にガスを流すことによって測定された前記基準容量の体積と、前記基準容量における圧力変化率と、前記基準容量の温度とに基づいて流量を測定するように構成されている。
【0017】
本発明の実施形態による流量測定方法は、流量制御機器と、前記流量制御機器の下流側に設けられた基準容量と、前記基準容量に流入するガスの流量を測定する流量測定機器とを備えるガス供給システムにおいて行われる流量測定方法であって、流量基準器により計測された流量との比較のもとに前記流量制御機器の流量校正を行うステップであって、複数の流量設定に対して所定許容誤差範囲が設定され、前記複数の流量設定のうちの少なくとも1つの特定流量設定の許容誤差範囲が、前記所定許容誤差範囲よりも小さく設定される、ステップと、前記少なくとも1つの特定流量設定で前記流量制御機器から前記基準容量にガスを流すことによって前記基準容量の体積を測定するステップと、前記流量測定機器において、前記基準容量にガスを流入させた時の前記基準容量の圧力変化率と、前記基準容量の温度と、前記測定された基準容量の体積とに基づいて流量を測定するステップとを包含する。
【0018】
本発明の実施形態による流量測定方法は、複数のガス供給源にそれぞれ接続された複数のガス供給ラインと、前記複数のガス供給ラインにそれぞれ設けられた複数の流量制御機器と、前記複数のガス供給ラインにそれぞれ設けられた複数の第1バルブと、前記複数の第1バルブの下流側において前記複数のガス供給ラインに共通に接続された共通ガス供給ラインと、前記共通ガス供給ラインに設けられた第2バルブと、前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路の圧力を測定する圧力センサと、前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路の温度を測定する温度センサとを備えるガス供給システムにおいて、前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路を基準容量として用い、前記第2バルブを閉じた状態で前記複数の流量制御機器のうちのいずれか1つを介して前記基準容量にガスを流したときの前記圧力センサが示す圧力変化および前記温度センサが示す温度に基づいてガスの流量を測定する流量測定方法であって、前記複数の流量制御機器のうちの少なくとも1つの流量制御機器は、前記流量制御システムに組み込まれる前に、流量基準器により計測された流量との比較のもとに流量校正が行われており、複数の流量設定に対して所定許容誤差範囲が設定され、前記複数の流量設定のうちの少なくとも1つの特定流量設定の許容誤差範囲が、前記所定許容誤差範囲よりも小さく設定されており、前記少なくとも1つの流量制御機器が前記流量制御システムに組み込まれた後、前記少なくとも1つの特定流量設定でガスを流すことによって前記基準容量の体積の計測を行い、前記計測された体積を用いて流量を測定する。
【0019】
本発明の実施形態による流量測定方法は、複数のガス供給源にそれぞれ接続された複数のガス供給ラインと、前記複数のガス供給ラインにそれぞれ設けられた複数の流量制御機器と、前記複数のガス供給ラインにそれぞれ設けられた複数の第1バルブと、前記複数の第1バルブの下流側において前記複数のガス供給ラインに共通に接続された共通ガス供給ラインと、前記共通ガス供給ラインに設けられた第2バルブと、前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路の圧力を測定する圧力センサと、前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路の温度を測定する温度センサとを備えるガス供給システムにおいて、前記複数の第1バルブと前記第2バルブとの間の流路を基準容量として用い、前記第2バルブを閉じた状態で前記複数の流量制御機器のうちのいずれか1つを介して前記基準容量にガスを流したときの前記圧力センサが示す圧力変化および前記温度センサが示す温度に基づいてガスの流量を測定する方法であって、前記複数の流量制御機器のうちの少なくとも1つの流量制御機器は、前記流量制御システムに組み込まれる前に、流量基準器により計測された流量との比較のもとに流量校正が行われており、複数の流量設定に対して所定許容誤差範囲が設定され、前記複数の流量設定のうちの少なくとも1つの特定流量設定において、前記流量基準器により計測された流量が、前記少なくとも1つの特定流量設定に関連付けて前記流量制御機器の記憶装置に記憶されており、前記少なくとも1つの流量制御機器が前記流量制御システムに組み込まれた後、前記少なくとも1つの特定流量設定でガスを流すことによって前記基準容量の体積の計測を行うとき、前記流量制御機器の記憶装置に記憶された前記流量基準器により計測された流量を用いて前記基準容量の体積の計測を行い、前記計測された体積を用いて流量を測定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施形態によれば、比較的簡単な構成で精度良く流量の計測等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態による複数の流量制御機器が組み込まれたガス供給システムを半導体製造装置(プロセスチャンバ)に接続した態様を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態による流量制御機器の一例である圧力式流量制御機器の例示的な構成を示す図である。
【
図3】流量基準器を用いた流量制御機器の校正動作において、流量基準器の示す基準流量からの流量設定の誤差および許容誤差範囲を説明するための図である。
【
図4】基準容量の体積Vsの測定手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
図1は、複数のガス供給源4からのガスを、流量制御機器10を介して半導体製造装置のプロセスチャンバ2に供給するように構成された、本発明の実施形態に係るガス供給システム1を示す。
【0024】
ガス供給システム1は、複数のガス供給源4が接続可能となっている複数のガス供給ラインL1と、複数のガス供給ラインL1にそれぞれ介在する複数の流量制御機器10と、前記複数の流量制御機器10の下流側に設置された第1バルブ21と、前記ガス供給ラインL1が合流した共通ガス供給ラインL2と、前記共通ガス供給ラインL2に設置された第2バルブ22と、第1バルブ21と第2バルブ22との間の流路の圧力および温度を測定する圧力センサ23および温度センサ24と、圧力センサ23および温度センサ24からの出力が受け取る演算制御装置25とを備えている。
【0025】
ガス供給システム1の下流側は、前記バルブ22を介してガスを消費するプロセスチャンバ2へと接続され、ガスを供給可能となっている。また、プロセスチャンバ2には真空ポンプ3が接続されており、プロセスチャンバ2およびガス供給路L1、L2などを必要に応じて真空引きすることができる。
【0026】
本実施形態において、前記ガス供給ラインL1や前記共通ガス供給ラインには、別へ分岐されるガスラインや、その機能を実現するためのバルブが他に設けられていても良い。また、第1バルブ21、第2バルブ22および、前記機能実現のためのバルブとしては、例えばAOVなどの流体動作弁や、電磁弁、電動弁などの電気的動作弁が好適に用いられる。さらには、他の態様において、第1バルブ21は、流量制御機器10に内蔵された開閉弁であってもよい。
【0027】
また、前記演算制御装置25は、コンピュータなどの外部処理装置であってもよいし、図示するように圧力センサ23および温度センサ24(ならびに第2バルブ22)を一体として備えた流量測定装置30に設けられた処理装置(プロセッサおよびメモリを含む制御回路)であってもよい。
【0028】
図2は、本実施形態の流量制御機器10の一例として用いられる圧力式流量制御機器10aの構成例を示す図である。圧力式流量制御機器10aは、微細開口(オリフィス)を有する絞り部(例えばオリフィスプレート)11と、絞り部11の上流側に設けられた制御バルブ14および制御バルブ14の駆動部15と、絞り部11と制御バルブ14との間に設けられた圧力センサ12および温度センサ13とを備えている。
【0029】
以上に説明した圧力式流量制御機器10aは、上流圧力P1を測定および制御することによって流量を制御するように構成されているが、流量制御機器10として用いられるものはこのようなタイプの圧力式流量制御装置に限られるものではなく、例えば、熱式流量制御装置(MFC)や、その他の流量制御装置でもよい。
【0030】
再び
図1を参照する。上記のように構成されたガス供給システム1において、第1バルブ21と第2バルブ22との間の流路(
図1において太線で示す部分)を基準容量20(体積Vs)として用いて、ROR法によって流量計測を行うことができる。具体的には、流路内を真空に引いた後、複数の流量制御機器10のうちのいずれか1つに対応する第1バルブ21を開いて基準容量20にガスを流すとともに第2バルブ22を閉じたときの圧力センサ23が示す圧力の変化率(ΔP/Δt)および温度センサ24の測定した温度Tに基づいて、Q=(ΔP/Δt)×Vs/RT(Rは気体定数)により流量制御機器10が実際に流量制御しているガスの流量Qを求めることができる。
【0031】
ここで、
図1に示すガス供給システム1のように、流量制御機器10の下流側の流路を基準容量20として用いる場合、基準容量20の体積Vsは、配管の設計や製作公差などによって異なるものとなるため、基準容量20の体積Vsは、複数の流量制御機器10を配管等で接続してガス供給システム1を構築した後に、適切な方法によって求めることが望まれる。
【0032】
基準容量20の体積Vsは、例えば、流量制御機器10へ設定される流量設定Qsにて基準容量20にガスを流すとともに、そのときの圧力変化率を測定することによって、Qs=(ΔP/Δt)×(Vs/RT)に基づいて算出することができる。ここで、ΔP/Δtは所定期間(Δt=t2−t1)における圧力変化(ΔP=P
t2−P
t1)であり、Rは気体定数、Tはガス温度である。このように、基準容量20の体積Vsは、流量制御機器10へ設定される流量設定Qsと流量制御機器が前記流量設定Qsにより制御された制御流量によって発生するΔP/Δtに基づいて求められるので、流量設定Qsが実際流量に対する誤差を含んでいる場合には、求められた基準容量の体積Vsも誤差を含むものとなる。
【0033】
ところで、流量制御機器10は、ガス供給システム1に組み込まれる前に、流量設定Qsにしたがって制御される制御流量を流量基準器で計測し、前記流量基準器が示す流量と前記流量設定Qsの差が許容誤差内に収まるよう校正されている。
【0034】
校正に用いる流量基準器は、非常に高い精度で正確な流量を示すことができるように予め用意されたものである。流量基準器としては、例えば、モルブロック(molbloc:DH Instruments社製)や、実際流量に基づいて流量校正が厳格に行われたマスフローメータなどの任意の流量センサを用いることができる。
【0035】
このように、流量制御機器10は、流量設定Qsと、流量設定Qsを受けて制御される制御流量を流量基準器で計測し、前記流量基準器により計測された流量との比較のもとに、複数の流量設定において校正が行われている。ここで、複数の流量設定とは、例えば、最大流量設定を100%流量としたときの0〜100%の流量に対応する。校正を行う流量設定は、例えば、10%流量、20%流量、・・・、90%流量、100%流量というように10%ごとの離散的な流量設定であってもよいし、連続的な流量設定であってもよい。
【0036】
図3は、流量設定Qsの全域に対して設けられた所定許容誤差範囲R1(仕様範囲)を示す。流量校正においては、流量制御機器10へ入力される流量設定Qsと、流量制御機器が制御する流量を計測する流量基準器からの計測流量との差が所定許容誤差範囲に収まるように校正される。
【0037】
本実施形態では、ガス供給システム1に組み込まれる少なくとも1つの流量制御機器10において、上記の複数の流量設定のうちの特定の1つまたはいくつかの流量設定Qs0(例えば、50sccm)で、流量基準器が示す基準流量との差が所定許容誤差範囲R1(仕様範囲)と比較して小さい基準を満たすまで、上記の校正動作を行う。その結果、特定流量設定Qs0においては、実際の流量(または基準流量)との誤差がより低減され、他の流量設定におけるよりも正確な流量を制御することができるようになる。
【0038】
特定流量設定Qs0は、任意の流量設定であってよく、ユーザによって適宜選択されてよい。また、特定流量設定Qs0は、基準流量との誤差が低減された流量設定として、流量制御機器10が備える記憶装置(メモリ)に記憶されていてもよい。
【0039】
このように、所定の流量制御機器10では、単数または複数の特定流量設定Qs0において、基準流量との許容誤差範囲が、他の流量設定における許容誤差範囲よりも小さく設定されている。
図3に示す態様では、流量設定Qsが最大流量の10%を超える場合においてセットポイント±1%以下を、流量設定Qsが最大流量の10%以下の場合においてフルスケール±0.1%以下を所定許容誤差範囲R1として設けているが、例えば、特定流量設定Qsが最大流量の10%以下の場合には、フルスケール±0.1%未満(例えばフルスケール±0.05%以下)の誤差範囲内に設定されている。
【0040】
基準容量の体積Vsの測定は、例えば
図1に示した演算制御装置25を備えた流量測定機器30において行うことができる。流量測定機器30には、上記の校正動作が行われた流量制御機器10を識別する情報および当該流量制御機器10における特定流量設定Qs0を識別する情報が入力される。特定流量設定Qs0を識別する情報は、予め流量測定機器30に入力され、演算制御装置25のメモリに格納されていてもよいし、体積Vsの測定時において、流量制御機器10のメモリから読み出されてもよい。
【0041】
以下、基準容量20の体積Vsの測定方法の一例を
図1および
図4を参照しながら説明する。
【0042】
まず、ステップS1に示すように、ガス供給システム1において全ての第1バルブ21が閉じられ、第2バルブ22が開かれた状態で、真空ポンプ3により真空引きが行われ、基準容量20が排気される。ステップS2に示すように、前述の流量校正が行われた流量制御機器10で、特定流量設定Qs0に流量を設定する。
【0043】
次に、ステップS3に示すように、前記流量制御機器10の下流側の第1バルブ21を開き、特定流量設定Qs0で基準容量20にガスを流す。そしてガスの流れが安定した所定時間経過後に、ステップS4に示すように第2バルブ22が閉じられる。これにより、基準容量20内の圧力が上昇し始める。
【0044】
このとき、ステップS5に示すように、時刻t1にて圧力センサ23を用いて基準容量20の圧力P
t1が測定され、温度センサ24を用いて温度Tが測定される。その後、ステップS6およびステップS7に示すように、所定時間Δtが経過して時刻t2となった時(t2−t1=Δt)に、上昇した基準容量20の圧力P
t2が圧力センサ23によって測定される。時間Δtは、例えば、圧力センサ23のサンプリング周期からカウントすることができる。
【0045】
次に、ステップS8に示すように、演算制御装置25において、ΔP=P
t2−P
t1が求められ、例えばQs0=(ΔP/Δt)×(Vs/RT)に基づいて(Rは気体定数)、体積Vsを算出することができる。このようにして求められた基準容量20の体積Vsは、高精度の校正が行われた誤差の少ない流量設定Qs0を用いて得られたものであるので、高い精度を有している。
【0046】
また、上記のように求められた基準容量の体積Vsを用いて、ROR法により、前述されたステップと同様のステップで流量を測定することができる。
【0047】
具体例を説明すると、まず、全ての第1バルブ21が閉じられ、第2バルブ22が開かれた状態で、真空ポンプ3により、基準容量20が真空引きされる。そして、いずれか1つの任意の流量制御器10の下流側に設けられた第1バルブ21を開いて、流量制御器10を介して任意の流量設定Qsでガスを流す。そしてガスの流れが安定した所定時間経過後に、第2バルブ22が閉じられる。
【0048】
その後、圧力センサ23を用いて基準容量20の圧力P
t1が測定され、温度検出器24により温度Tが測定される。また、所定時間Δt経過後に基準容量の圧力P
t2が測定される。その後、ΔP=P
t2−P
t1を求めるとともに、メモリなどに記憶されていた既知の基準容量体積Vsを用いて、Q=(ΔP/Δt)×Vs/RTから実際流量Qを測定することができる。
【0049】
上記のようにして測定した流量Qは、流量制御機器10の流量設定Qsとの比較検証に用いられてもよく、上記のROR法によって求めた流量Qに基づいて、任意の流量制御機器10の流量設定Qsの校正を行うこともできる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、種々の改変が可能である。上記の実施形態では、予め特に厳格な校正動作が行われた特定流量設定Qs0においてガスを流し、そのときの特定流量設定Qs0を用いて基準容量20の体積Vsを測定したが、特定流量設定Qs0においても厳格な校正動作を行わず、その代わりに、特定流量設定Qs0において流量基準器が示した流量Qs0’を特定流量設定Qs0に関連付けてメモリなどに記憶しておき、この流量Qs0’を基準容量20の体積Vsを求める際に使用するようにしてもよい。
【0051】
この態様において、例えば、流量制御機器の流量設定Qs0が50sccmである場合に、校正動作で流量基準器が示した流量が49.9sccmであることがある。この場合、基準容量20の体積Vsを求める過程(例えば
図4に示すフローチャートのステップS8)において、Qs0=50sccmを用いるのではなく、Qs0’=49.9sccmを用いてQs0’=(ΔP/Δt)×Vs/RTから体積Vsを求めるようにする。これにより、より正確な体積Vsを求めることが可能である。このようにしてより正確な体積Vsを求めた後は、上記と同様にして、ROR法により、流量を測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の実施形態による流量校正方法が適用された流量制御機器を用いれば、ガス供給システムに組み込んだ後にも流量を精度よく測定することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 ガス供給システム
2 プロセスチャンバ
3 真空ポンプ
4 ガス供給源
10 流量制御機器
11 絞り部
12 圧力センサ
13 温度センサ
14 制御バルブ
15 駆動部
16 制御回路
20 基準容量
21 第1バルブ
22 第2バルブ
23 圧力センサ
24 温度センサ
25 演算制御装置
30 流量測定機器