(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795874
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-47167(P2017-47167)
(22)【出願日】2017年3月13日
(65)【公開番号】特開2018-150712(P2018-150712A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2019年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【弁理士】
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】内本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】光島 亮
【審査官】
松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−229729(JP,A)
【文献】
特開2015−206214(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3072065(JP,U)
【文献】
特開2001−271782(JP,A)
【文献】
特開平07−233800(JP,A)
【文献】
特開平05−112927(JP,A)
【文献】
特開2004−225442(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2004−0020260(KR,A)
【文献】
特開2005−069039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中の所定の深さにまで挿入された注入管の下端部から硬化材と圧縮空気とを径方向外方に噴射しながら前記注入管を旋回駆動するとともに引き上げ駆動することにより、地中に硬化材と土とが撹拌混合された改良体を造成する高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置であって、
内面が軸方向に沿って円弧面形状となった排泥案内面により形成される案内通路を備え、地中から排出される排泥を横方向に案内する曲管と、
前記曲管の一端部に設けられ、前記注入管の外側の排泥通路の開口端部に配置される排泥入口部と、
前記曲管の他端部に設けられ、横方向に開口した排泥出口部と、
前記曲管に設けられ、内径が前記曲管の内径よりも小さくなった支持筒体と、
前記曲管および前記支持筒体を貫通して上下方向に延びる前記注入管と、
を有することを特徴とする高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置。
【請求項2】
前記排泥出口部に接続される接続口部が一端部に設けられ、他端部に噴出口部が設けられ、前記接続口部から前記噴出口部に向けて漸次内径が小さく、前記接続口部から前記噴出口部に向けて流れる排泥の流速を高めるレデューサを有する、
ことを特徴とする請求項1記載の高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置。
【請求項3】
前記支持筒体に設けられ、前記排泥通路に向けて水を噴射する噴射ノズルと、
を有することを特徴とする請求項1または2記載の高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中に硬化材を噴射して撹拌混合することにより地盤改良する高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基礎地盤等の改良のための工法の一つとして、高圧噴射撹拌工法が知られている。高圧噴射撹拌工法はジェットグラウト工法とも言われ、流体に高い圧力を与えて得られる強力なエネルギーによって地盤を切削破壊し、硬化材と土とを撹拌混合するものである。そして、この工法により、地盤中に円柱状の改良体を造成することができる。
【0003】
このような高圧噴射撹拌工法は、特許文献1に記載のように、注入管の建て込み工程と、改良体を造成する造成工程とを有している。注入管の建て込み工程においては、先導管により地中の所定の深さまで案内孔つまりガイドホールを削孔した後、先導管の内部に注入管を建て込んで先導管を引き抜くことにより、注入管が所定の深さまで建て込まれる。造成工程においては、注入管を旋回駆動しながら引き上げ駆動すると同時に、注入管に設けられたノズルから硬化材と圧縮空気とを連続的に噴射する。これにより、旋回噴流により地盤を切削するとともに、その切削領域に硬化材と土とが撹拌混合された改良体が造成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−77739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、硬化材と圧縮空気とからなる旋回噴流を地盤の中に噴射すると、注入管とガイドホールとの間で形成される排出流路からスラッジつまり排泥が地上に排出される。そして、排泥を作業場所の周囲に漏らさないようにするために、従来では、ガイドホールに連通させて布掘や壺掘等により排泥ピットを地上に施工している。
【0006】
一方、作業場所が舗装されていたり、鉄筋コンクリート構造のコンクリートスラブ床板になっていたりした場合、つまり地上に排泥ピットを掘削することができない場所においては、鋼製の箱体を備えた排泥処理装置を作業場所に取り付けている。箱体にはガイドホールの上端部に装着されるガイド管が設けられ、箱体内にサンドポンプを設置して箱体に流入した排泥をサンドポンプによりタンクコンテナ車や、箱体から離れた位置の土砂ピットに送ったり、箱体内の排泥を直接バキューム車に送っている。
【0007】
しかしながら、箱体は上部が開放されており、内部に排出された排泥が箱体外部に飛散し、作業場所を汚すこともある。また、箱体とその内部に配置されるサンドポンプとを備えた大型の排泥処理装置を作業場所に設置するには、サンドポンプの配置スペースを作業場所に確保する必要がある。さらに、ガイドホールの上方のスペースが狭隘となっていると、サンドポンプの配置スペースを確保することができない。例えば、路面覆工が施工されて路面覆工板の下側で作業を行う場合には、そのスペースが狭隘であり、箱体を取り付ける設置スペースを確保することができず、箱体にサンドポンプを設置することもできない。
【0008】
このため、従来のように箱体を備えた大型の排泥処理装置では、その狭隘な設置スペースに排泥処理装置を設置することができず、作業場所の周辺に排泥が飛散することが避けられない。
【0009】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、高圧噴射撹拌工法における排泥処理を小型の排泥処理装置によって行うことができる技術を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は排泥処理装置の周囲に排泥が飛散しない技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の本発明の高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置は、地中の所定の深さにまで挿入された注入管の下端部から硬化材と圧縮空気とを径方向外方に噴射しながら前記注入管を旋回駆動するとともに引き上げ駆動することにより、地中に硬化材と土とが撹拌混合された改良体を造成する高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置であって、
内面が軸方向に沿って円弧面形状となった排泥案内面により形成される案内通路を備え、
地中から排出される排泥を横方向に案内する曲管と、前記曲管の一端部に設けられ、前記注入管の外側の排泥通路の開口端部に配置される排泥入口部と、前記曲管の他端部に設けられ、横方向に開口した排泥出口部と、
前記曲管に設けられ、内径が前記曲管の内径よりも小さくなった支持筒体と、前記曲管および前記支持筒体を貫通して上下方向に延びる前記注入管と、を有することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置において、前記排泥出口部に接続される接続口部が一端部に設けられ、他端部に噴出口部が設けられ、前記接続口部から前記噴出口部に向けて漸次内径が小さく、前記接続口部から前記噴出口部に向けて流れる排泥の流速を高めるレデューサを有する、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1または2記載の高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置におい
て、前記支持筒体に設けられ、前記排泥通路に向けて水を噴射する噴射ノズルと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、高圧噴射撹拌工法により地中から排出される排泥は曲管によりそのまま横方向に案内されるので、排泥の流速を利用して作業場所の外部に排泥を供給することができ、サンドポンプを用いることが不要となり、排泥処理装置を小型化することができる。また、作業場所の周囲に排泥が飛散することを防止することができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、曲管から排出される排泥がレデューサにより流速が高められるので、排泥を外部に円滑に供給することができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、曲管内の排泥が希釈されるので、曲管が排泥により閉塞されることなく、確実に排泥を外部に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)〜(C)は、高圧噴射撹拌工法の作業工程について順を追って示す説明図である。
【
図2】
図1に示された排泥処理装置を示す拡大断面図である。
【
図3】
図2の要部を示す一部切欠き拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
先ず、地盤改良を行うための高圧噴射撹拌工法について、
図1を参照して説明する。ここで、
図1(A)〜(C)は、高圧噴射撹拌工法の作業工程について順を追って示す説明図である。
【0020】
図1(A)に示すように、高圧噴射撹拌工法においては、作業場所にボーリングマシンMが設置され、先導管1により案内孔つまりガイドホールHが地盤Bに削孔される。先導管1の先端にはメタルクラウン2が設けられており、先導管1から水を吐出させ、先導管1を回転させながら下降移動させることにより、ガイドホールHが地盤Bの目標とする所定の深さにまで削孔される。この状態のもとで、注入管3が先導管1の内部に建て込まれた後に、先導管1は引き抜かれる。
【0021】
図1(B)に示すように、注入管3は施工機Nに装着される。注入管3の下端部には、圧縮空気と硬化材を注入管3の径方向外方に噴射する噴射孔が設けられており、硬化材を噴射孔から地盤B内に高圧噴射させながら、注入管3を旋回駆動させる。この状態を維持しながら、注入管3を引き上げ駆動することにより、
図1(C)に示すように、硬化材と土とが撹拌混合された改良体Dが、注入管3の周囲の地中に所定の深さで造成される。
【0022】
地盤B内に硬化材を噴射させると、地中にはスラッジつまり排泥が発生する。排泥は、注入管3の外側にガイドホールHと注入管3との間で形成される排泥通路4を通って地上に流出する。排泥を外部に排出するために、排泥通路4の開口端部には排泥処理装置10が装着される。
【0023】
次に、本実施の形態の排泥処理装置10について説明する。ここで、
図2は本発明の一実施の形態における高圧噴射撹拌工法で用いられる排泥処理装置を示す拡大断面図、
図3は
図2の要部を示す一部切欠き拡大正面図、
図4は
図3の平面図、
図5は
図3の左側面図である。
【0024】
本実施の形態の排泥処理装置10は、
図2に示すように、ほぼ90度湾曲形成された曲管11を有している。曲管11の一端部には排泥入口部12が設けられ、他端部には排泥出口部13が設けられており、排泥出口部13は排泥入口部12に対してほぼ90度の角度となっている。曲管11の内面は円弧面形状からなる排泥案内面14が形成されており、曲管11の内部は滑らかにほぼ90度湾曲した案内通路15となっている。
【0025】
排泥入口部12には、ガイドホールHの上端部に挿入される入口管16が接続されており、排泥入口部12に設けられたフランジ17と、入口管16に設けられたフランジ18とをねじ結合することにより、排泥入口部12には入口管16が接続され、排泥入口部12は排泥通路4の開口端部に配置される。
【0026】
曲管11には、排泥入口部12と同軸となって支持筒体21が一体に設けられており、支持筒体21の内部は曲管11の内部の案内通路15と連なっている。
【0027】
図3に示すように、支持筒体21の端部には円板形状のシール受け板22が溶接されており、シール受け板22にボルト23により取り付けられる環状のシール押さえ板24とシール受け板22との間には、環状のゴムパッキン25が挟み込まれている。
【0028】
支持筒体21と曲管11の排泥入口部12側の部分には注入管3が貫通しており、シール受け板22とシール押さえ板24の内径は注入管3の外径よりも大きくなっている。ゴムパッキン25の内径は、シール受け板22とシール押さえ板24の内径よりも小径であり、注入管3の外周面に摺動接触している。したがって、注入管3が回転駆動されつつ引き上げ駆動されたときに、注入管3にゴムパッキン25が接触するので、排泥通路4から曲管11内に流入した排泥が支持筒体21の内部に流入しても、その排泥が支持筒体21から外部に漏出することなく、排泥案内面14に案内されて排泥出口部13から排出されることになる。
【0029】
曲管11の排泥出口部13には、
図2に示すように、レデューサ26が装着されている。このレデューサ26は、排泥出口部13に接続される接続口部27と、当該接続口部27と同軸となって対向する噴出口部28とを有している。接続口部27には、排泥出口部13のフランジ31にねじ結合されるフランジ32が設けられている。レデューサ26は、接続口部27から噴出口部28に向けて漸次内径が小さくなっており、曲管11の排泥出口部13からレデューサ26の接続口部27内に流入した排泥は、レデューサ26の内部で流速が高められて噴出口部28から排出される。排出された排泥は、図示しない配管により、コンテナ車や土砂ピットに供給される。したがって、開口された排泥ピットに排泥を噴出させることなく、曲管11内に形成される閉じられた案内通路15に噴出された排泥の流速を利用して外部に排泥を排出するので、サンドポンプを使用することなく、小型の排泥処理装置10により排泥を外部の所定の回収箇所に供給することができる。
【0030】
支持筒体21の内部には、
図3〜
図5に示すように、曲管11の内部の案内通路15に向けて水を噴射する複数の噴射ノズル33が設けられている。それぞれの噴射ノズル33に設けられた継手34には、
図2に示すように開閉コック35が設けられている。そして、継手34に接続される図示しない供給ホースにより、継手34には外部から加圧された水を供給する図示しない加圧ポンプが接続され、噴射ノズル33からは排泥入口部12に向けて水が噴射される。このように、案内通路15に向けて水が供給されると、地中から曲管11内に流入した排泥が曲管11内で希釈されて曲管11を閉塞することなく、排泥は排泥出口部13に向けて円滑に案内される。
【0031】
ここで、従来の排泥処理装置を
図6に示す。
図6は従来の排泥処理装置40の断面図であり、排泥通路4に連通させて作業場所に箱体41が配置されており、箱体41には排泥通路4に挿入される入口管42が設けられている。箱体41は上部が開口されており、箱体41内にはサンドポンプ43が配置されている。そして、排泥通路4から箱体41内に流入した排泥は、図示しないタンクコンテナ車や、箱体41から離れた位置の土砂ピットに図示しない配管より送泥するようになっている。
【0032】
このように、箱体41により排泥ピットを形成するようにし、箱体41内にサンドポンプ43を配置するようにした排泥処理装置40においては、ガイドホールHの上方スペースが狭隘となっていると、サンドポンプ42の配置スペースを確保することができなくなる。
【0033】
これに対し、本実施の形態の排泥処理装置10においては、作業場所に箱体を設置して排泥ピットを形成することなく、地表に向けて噴出された排泥の流速を利用して、曲管11により流動方向を変更することによって、注入管3に対して横方向に排泥を流すことができる。これにより、注入管3の近くにサンドポンプを配置することが不要となり、排泥処理装置10を小型化することができる。
【0034】
したがって、作業場所の地表面と施工機Nとの間の間隔が狭い場合や路面覆工板の下側に小型の排泥処理装置10を設置することができる。また、排泥を曲管11により案内しているので、排泥処理装置10の周囲の作業場所に排泥が飛散することを防止できる。
【0035】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の排泥処理装置は、基礎地盤等の地盤改良のための高圧噴射撹拌工法に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
3 注入管
4 排泥通路
10 排泥処理装置
11 曲管
12 排泥入口部
13 排泥出口部
14 排泥案内面
15 案内通路
16 入口管
17 フランジ
18 フランジ
21 支持筒体
22 シール受け板
23 ボルト
24 シール押さ板
25 ゴムパッキン
26 レデューサ
27 接続口部
28 噴出口部
31 フランジ
32 フランジ
33 噴射ノズル