(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6795881
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】めっき鋼板の高周波抵抗溶接用の給電電極
(51)【国際特許分類】
B23K 13/00 20060101AFI20201119BHJP
B23K 11/16 20060101ALI20201119BHJP
B23K 13/08 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
B23K13/00 Z
B23K11/16 101
B23K13/08 510
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-172611(P2015-172611)
(22)【出願日】2015年9月2日
(65)【公開番号】特開2017-47451(P2017-47451A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年5月9日
【審判番号】不服2019-16589(P2019-16589/J1)
【審判請求日】2019年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
(72)【発明者】
【氏名】小林 努
(72)【発明者】
【氏名】金山 和
(72)【発明者】
【氏名】大島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】川崎 寛也
【合議体】
【審判長】
見目 省二
【審判官】
大山 健
【審判官】
田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開平7−265939(JP,A)
【文献】
特開昭58−100984(JP,A)
【文献】
特開2007−326146(JP,A)
【文献】
特開平11−197846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 13/00
B23K 11/16
B23K 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき鋼板に押し当てられ、当該めっき鋼板上を摺動しながら給電するめっき鋼板の高周波抵抗溶接用の給電電極において、
該給電電極の該めっき鋼板に押し当てられる部分の先端形状を曲率半径が10〜30mmの球面とし、該給電電極が純銅、クロム銅またはアルミナ分散銅により形成されていることを特徴とするめっき鋼板の高周波抵抗溶接用の給電電極。
【請求項2】
前記めっき鋼板がH形鋼、T形鋼または管の素材であることを特徴とする請求項1に記載のめっき鋼板の高周波抵抗溶接用の給電電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接H形鋼を高周波抵抗溶接により製造する際などに用いられるめっき鋼板の高周波抵抗溶接用の給電電極に関する。
【背景技術】
【0002】
3枚の鋼帯をH形に組み立てて溶接して製造される溶接H形鋼は、熱間圧延によって製造される圧延H形鋼に比べてウェブ及びフランジの板厚や幅の自由度が大きいため、圧延H形鋼と同一の断面性能を得る場合に板厚の薄肉化を図ることができる。そのため、溶接H形鋼は、優れた断面剛性を有する軽量H形鋼として、住宅や倉庫、高速道路などの部材として使用されている(JIS G 3353の一般構造用溶接軽量H形鋼など)。
【0003】
図1に示すように、溶接H形鋼1は、ウェブ用の鋼板2の両側にフランジ用の鋼板3を連続的に高周波抵抗溶接することにより製造される。溶接の際には、ウェブ用とフランジ用の各鋼板2、3の当接部近傍に給電電極4を接触させることによって、各鋼板に高周波電流を直接給電し、ウェブとフランジの当接部を集中的に加熱および溶融する。その際、給電電極と鋼板の接触部(給電部)から
図2に示すようにスパークが発生することがある。
スパークが発生すると、給電部に黒色のスパーク痕が残り、製品外観の劣化やその補修塗装に伴う製品コストの増加が問題となる。
【0004】
近年、構造物の長寿命化、メインテナンスコストの削減に対するニーズの高まりから、溶接H形鋼においてもより優れた耐食性が求められるようになり、溶融亜鉛めっき鋼板を素材として溶接H形鋼が製造されるようになっている。
溶接の際のスパークの発生は、鋼板をめっき鋼板とした場合に発生しやすくなる。特に、めっき層に酸化しやすい元素であるAlやMgを含有し、更に、その表面に化成処理皮膜を設けた高耐食めっき鋼板を用いた場合にスパークが発生しやすくなる。
【0005】
このようなAlを含むめっき層を有する鋼板で生じるスパークの問題に対し、特許文献1では、導電率が80%IACS以上で、800℃における強度が5kg/mm
2以上の電極材質を用い、また、電極と鋼板の接触面積を200mm
2以上とすることによって、給電部のめっきの損傷を抑制し、スパークの発生を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−76373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献1の技術を参考に、給電電極先端の給電部と亜鉛めっき鋼板との接触面積を増やし、給電部の電流密度の低減によるスパーク抑制を試みた。
しかしながら、接触面積が大きいと、均一の圧力で電極と鋼板を接触させることが困難となり、電極の一部しか鋼板と接触しなくなり、
図3(a)に示すような片当たりの状態となる。また、そのような片当たりを防いでも、給電部の接触面積は溶接時間の経過と共に刻々と変化するため、給電部の接触面積の拡大はスパーク抑制の解決策にならなかった。
また、給電電極として通常の銅電極を用いた場合、溶接初期の接触面積が広くても、
図3(b)に示すように、溶接時間の経過と共に電極の前面に溶融めっきが堆積し、その溶融めっきが電極と鋼板の間に侵入することによって、電極の表面に銅と亜鉛の合金層が形成され、亜鉛めっき鋼板と電極が均一な面圧で接触できなくなり、スパークが発生してしまうことも明らかとなった。
【0008】
そこで本発明は、鋼板への接触が片当たりとならず、高耐食めっき鋼板を溶接H形鋼の素材として用いても、高周波抵抗溶接時のスパークに起因する外観不良を発生させず、かつ十分な時間にわたって連続使用ができる給電電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、給電部の接触面積を小さくすることによって溶接時間が経過しても給電部の面圧を均一に保つ方法について検討した。
その結果、従来の矩形電極において、先端の給電面を球面とすることによりスパークの発生が抑制でき、さらに、高温強度を有するクロム銅やアルミナ分散銅を電極材料として使用することによって、Alなどを含有する溶融亜鉛めっきが施された鋼板でもスパークの発生が抑制できるとの知見を得た。
そのような知見に基づいてなされた本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)
めっき鋼板上を摺動しながら給電するめっき鋼板の高周波抵抗溶接用の給電電極において、
該給電電極の先端形状を曲率半径が10〜30mmの球面としたことを特徴とする
めっき鋼板の高周波抵抗溶接用の給電電極。
(2) クロム銅またはアルミナ分散銅を用いて形成されていることを特徴とする上記(1)に記載の
めっき鋼板の高周波抵抗溶接用の給電電極。
(3) 前記めっき鋼板がH形鋼、T形鋼または管の素材であることを特徴とする(1)または(2)に記載のめっき鋼板の高周波抵抗溶接用の給電電極。
【発明の効果】
【0011】
本発明の給電電極を使用することにより、高耐食めっき鋼板を溶接H形鋼の素材として用いても、高周波抵抗溶接時のスパークに起因する外観不良を発生させず、かつ十分な時間にわたって連続使用ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】高周波抵抗溶接による溶接H形鋼の製造の概要を示す図である。
【
図3】矩形電極による溶接時の態様を説明する図であり、(a)は矩形電極と鋼板表面の接触状況を示し、(b)は矩形電極の前面にめっき金属が堆積した状態を示す。
【
図4】電極形状を説明する図であり、(a)は従来の矩形電極を示し(b)は本発明の球面電極を示す。
【
図5】本発明の球面電極による溶接時の態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、めっき鋼板の高周波抵抗溶接におけるスパークの発生要因を探るため、素材としてZn−A1−Mg−Si系の溶融亜鉛めっきがなされためっき鋼板を用い、給電電極として、異なる形状を有する銅電極を用いて高周波抵抗溶接する試験を行った。ウェブ板厚が3.2mm、フランジ板厚が4.5mmのH形鋼を、
図4(a)に示す矩形電極及び
図4(b)に示す球面電極で溶接して評価した。
【0014】
まず、従来用いられている断面(L×W)が20×15mmの矩形電極を用いた場合、スパークは約3mに1箇所の頻度で周期的に発生した。
めっき鋼板の溶接では、溶接時の入熱で給電箇所のめっき層が溶融し、
図3(a)に示すように、電極の前面に凝固しためっき金属が堆積するようになり、堆積しためっき金属がある量に達すると電極と鋼板の間に侵入しその瞬間にスパークが発生すると考えられた。
【0015】
そこで、異なる形状の矩形電極を用い、鋼板との接触面積を変化させて溶接し、スパークの発生状況を調査した。
電極断面(給電面)のサイズ(L×W)が、20×15mmの矩形電極を用いて溶接し、溶接長30m当たりのスパーク発生個数を調査した。スパーク発生回数は、11回であった。一方、断面サイズは、20×15mmであるが、電極先端を曲率半径7.5mmの球面にしたら、スパーク発生回数は、1回と大幅に改善された。
【0016】
電極先端を球面にした電極を用いた場合に良い結果が得られたので、次に、断面が20×15mmの矩形電極の端面に種々の大きさの曲率半径をもった球面加工を施した電極を作製し、スパーク発生状況を調査した。結果を表1に示す。
先端の曲率半径を、7.5mm、10mm、30mm、40mm、50mmの球面とした場合、いずれの電極も、溶接初期にはスパークが発生しなかったが、7.5mmの場合は熱容量が小さく、電極が損耗し15分程度の経過時間でスパークが多発した。
また、先端の曲率半径が40mm、50mmの場合は電極の僅かな損耗で接触面積が拡大するため、30分でスパークが発生した。一方、10mm、30mmの場合は約1.5時間の使用が可能であった。
【0018】
給電面が平面の矩形電極から球面の電極に変えることによって、
図5に示すように、電極と鋼板の接触箇所が電極先端部に固定されると共に、溶融しためっき金属を電極の脇に排除しながら給電を続けることが可能となり、電極と鋼板の安定的な通電が可能となったため、スパークの発生を抑制できるようになったと考えられる。
【0019】
以上の結果から、めっき鋼板の高周波抵抗溶接用の給電電極において、先端形状を、曲率半径が10〜30mmの球面とすることにより、スパークの発生を効果的に抑制し、かつ十分な使用時間の確保が可能な給電電極が得られることが分かった。
【0020】
以上、本発明に至った経緯及び本発明の基本形態について説明したが、さらに本発明の給電電極について、個々の条件や好ましい条件について説明する。
【0021】
(給電電極の基本形状)
給電電極としては、めっき鋼板に押し当てられ、めっき鋼板上を摺動しながら給電するものであれば、電極本体の形状は特に限定されず、従来使用されている矩形の断面形状のものでよく、20×15mm、20×10mmなど目標とする連続使用時間に応じて、適宜の断面寸法とすればよい。
例えば、連続溶接時間が2時間程度であれば、断面寸法20×15mmの矩形電極が使用できる。
【0022】
(給電電極の先端形状)
給電電極先端の給電面の形状は、曲率半径が10〜30mmの球面とする。曲率半径が10mm未満では、鋼板との接触部の溶損の程度が大きく、連続溶接が行えない。また、30mmを超えると、電極の僅かな損耗で接触面積が拡大し、溶融凝固しためっき金属を排除する機能が低下してスパークが発生しやすくなる。
【0023】
(電極材質)
電極に用いる金属としては、板厚6mm以下の鋼板の溶接では純銅で十分な時間連続使用が可能であるが、板厚が6mmを超える厚手材の溶接では溶接速度を遅くする必要があるため給電電極への入熱が増加する。このため厚手材の溶接では、クロム銅やアルミナ分散銅を用いて電極の耐久性を確保することが好ましい。
電極先端の曲率を15mm、電極の材質を純銅、クロム銅、アルミナ分散銅とした電極を用い、ウェブ板厚6mm、フランジ板厚9mmのAlとMgを含有する溶融亜鉛めっき層を有する鋼板を溶接し、スパーク発生状況を調査したところ、純銅の電極では1.5時間、クロム銅、アルミナ分散銅の電極では2時間以上、それぞれ連続使用が可能であった。
【0024】
(溶接対象物)
以上では、H形鋼の溶接を例に説明したが、めっき鋼板の溶接であれば、T形鋼や管の溶接でもよい。
【実施例】
【0025】
以上のように構成される本発明の給電電極について、実施例によりさらに詳しく説明する。
【0026】
鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板(ウェブ板厚3.2mm、フランジ板厚4.5mm)ないし、Zn−11%A1−3%Mg−0.2%Si系の亜鉛系合金めっき鋼板(ウェブ板厚6.0mm、フランジ板厚9.0mm)とした。
周波数360kHの高周波電源を使用し、接合部の加熱温度が1300℃程度となるように溶接速度を調整して、高周波抵抗溶接によるH形鋼の溶接を行った。具体的には、溶融亜鉛めっき鋼板の溶接速度を40m/minとし、Zn−11%A1−3%Mg−0.2%Si系の亜鉛系合金めっき鋼板の溶接では板厚が厚いために溶接速度を20m/minとした。
表2に溶接結果を示す。
【0027】
なお、表2における各項目は下記の事項を意味するものとする。
・鋼板の種類
A:溶融亜鉛めっき(ウェブ板厚3.2mm、フランジ板厚4.5mm)
B:Zn−11%A1−3%Mg−0.2%Si系の亜鉛系合金めっき
(ウェブ板厚6.0mm、フランジ板厚9.0mm)
・電極サイズ 球面のもの:
図4(b)のサイズ、球面無しのもの:
図4(a)のサイズ
・電極材料 銅:純銅、Al銅:アルミナ分散銅、Cr銅:クロム銅
・スパークの発生回数 溶接長30mあたりの回数
スパーク発生回数の合否判定は、スパーク回数が4回以下を合格とした。5回以上に
なるとスパーク発生箇所の補修塗装による工数が増加するため不合格とした。
・連続使用時間 電極が損耗しスパーク発生回数が5回以上となるまでの時間
連続使用時間に対する合否判定は、2時間以上を合格とした。2時間未満の連続使用
時間ではまとまったロットの生産ができないため不合格とした。
【0028】
表2に示されるように、本発明に従ったNo.1〜No.3の条件の溶接では、スパークの発生回数が2回未満で、2時間以上の連続使用が可能であった。特に、給電電極にアルミナ分散銅やクロム銅を用いたものは鋼板板厚の厚い鋼板Bに対しても2時間以上の連続使用が可能であった。
他方、本発明で規定した条件を満足していないNo.4〜No.6の比較例では、スパークの発生,電極の損傷等が観察され、良好な結果が得られなかった。
【0029】
【表2】