(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
血清又は血漿中の高密度リポ蛋白中の成分の測定試薬、及び、請求項6又は7記載の標準品を含有することを特徴とする、血清又は血漿中の高密度リポ蛋白中の成分の定量用キット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血清又は血漿中のリポ蛋白は保存中に、又は、凍結乾燥により変性し易い。このリポ蛋白の変性は、リポ蛋白中の成分の測定に影響を与え、リポ蛋白中の成分の正確な測定を妨げてしまうことがしばしば問題となる。
【0007】
本発明の目的は、血清又は血漿中のHDL中の成分を正確に測定するための、血清又は血漿中のHDLの安定化剤、血清又は血漿中のHDLの安定化方法、血清又は血漿中のHDLの保存方法、HDL中の成分定量用の標準品とその製造方法、血清又は血漿中のHDL中の成分の定量方法、及び、血清又は血漿中のHDL中の成分の定量用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは本課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、血清又は血漿にポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加することにより、血清又は血漿中でHDLが安定化され、HDL−C等のHDL中の成分を正確に定量できる、という知見を見出して本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]〜[18]に関する。
【0009】
[1]ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を有効成分として含有する、血清又は血漿中のHDLの安定化剤。
[2]血清又は血漿にポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加することを特徴とする、血清又は血漿中のHDLの安定化方法。
[3]以下の工程を含むことを特徴とする、血清又は血漿中のHDLの安定化方法。
(1)血清又は血漿にポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;
(2)工程(1)で得られた混合物を凍結乾燥する工程;及び、
(3)工程(2)で得られた凍結乾燥物を水性媒体で溶解する工程。
【0010】
[4]血清又は血漿にポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加することを特徴とする、血清又は血漿中のHDLの保存方法。
[5]以下の工程を含むことを特徴とする、血清又は血漿中のHDLの保存方法。
(1)血清又は血漿にポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;及び、
(2)工程(1)で得られた混合物を保存する工程。
[6]以下の工程を含むことを特徴とする、血清又は血漿中のHDLの保存方法。
(1)血清又は血漿にポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;
(2)工程(1)で得られた混合物を凍結乾燥するする工程;
(3)工程(2)で得られた凍結乾燥物を水性媒体で溶解する工程;及び、
(4)工程(3)で得られた水溶液を保存する工程。
【0011】
[7]血清又は血漿中のHDL、及び、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を含有し、かつ、当該HDL中の成分の含量が値付けされていることを特徴とする、血清又は血漿中のHDL中の成分定量用標準品。
[8]以下の工程を含む方法により製造される、[7]記載の標準品。
(1)血清又は血漿に、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;及び、
(2)工程(1)で得られた混合物中に含まれる、HDL中の成分の濃度を、既知量の当該成分を用いて値付けする工程。
[9]凍結乾燥された血清又は血漿中のHDL、及び、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を含有し、かつ、当該HDL中の成分の含量が値付けされていることを特徴とする、血清又は血漿中のHDL中の成分定量用標準品。
[10]以下の工程を含む方法により製造される、[9]記載の標準品。
(1)血清又は血漿に、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;
(2)工程(1)で得られた混合物を凍結乾燥する工程;及び、
(3)工程(2)で得られた凍結乾燥物中に含まれる、HDL中の成分の含量を、既知量の当該成分を用いて値付けする工程。
[11]HDL中の成分が、コレステロールである、[7]〜[10]のいずれかに記載の標準品。
【0012】
[12]以下の工程を含むことを特徴とする、血清又は血漿中のHDL中の成分定量用の標準品の製造方法。
(1)血清又は血漿に、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;及び、
(2)工程(1)で得られた混合物中に含まれる、HDL中の成分の濃度を、既知量の当該成分を用いて値付けする工程。
[13]以下の工程を含むことを特徴とする、血清又は血漿中のHDL中の成分定量用の標準品の製造方法。
(1)血清又は血漿に、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;
(2)工程(1)で得られた混合物を凍結乾燥する工程;及び、
(3)工程(2)で得られた凍結乾燥物中に含まれる、HDL中の成分の含量を、既知量の当該成分を用いて値付けする工程。
[14]HDL中の成分が、コレステロールである、[12]又は[13]記載の製造方法。
【0013】
[15]以下の工程を含むことを特徴とする、血清又は血漿中のHDL中の成分の定量方法。
(1)血清又は血漿中のHDL中の成分の測定試薬を用いて、当該成分を測定する工程;
(2)[7]〜[10]のいずれかに記載の標準品と、工程(1)の測定試薬とを用いて、当該成分の濃度と当該成分に対する測定値との間の関係を表す検量線を作成する工程;及び、
(3)工程(1)で得られた測定値と、工程(2)で作成した検量線とから、血清又は血漿中の当該成分の濃度を決定する工程。
[16]HDL中の成分が、コレステロールである、[15]記載の定量方法。
【0014】
[17]血清又は血漿中のHDL中の成分の測定試薬、及び、[7]〜[10]のいずれかに記載の標準品を含有することを特徴とする、血清又は血漿中のHDL中の成分の定量用キット。
[18]HDL中の成分が、コレステロールである、[17]記載のキット。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、血清又は血漿中のHDL−C等のHDL中の成分を正確に測定するための、血清又は血漿中のHDLの安定化剤、血清又は血漿中のHDLの安定化方法、血清又は血漿中のHDLの保存方法、HDL中の成分定量用の標準品とその製造方法、血清又は血漿中のHDL中の成分の定量方法、及び、血清又は血漿中のHDL中の成分の定量用キットが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(血清と血漿)
本発明における血清と血漿とは、ヒト又は動物より採取して得られた全血から調製される血清及び血漿であればいずれでもよく、ヒトより採取して得られた全血から調製される血清及び血漿が好ましい。血清は、抗凝固剤を含まない採血管を用いて採取された全血を遠心分離する方法、自然沈降させる方法等により調製することができる。血漿は、抗凝固剤入り採血管によって採取された全血を遠心分離する方法、自然沈降させる方法等により調製することができる。抗凝固剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)2カリウム塩、ヘパリン、フッ化ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。動物としては、例えばサル、ゴリラ、オランウータン、チンパンジー、ヒヒ等の霊長類等が挙げられる。
【0017】
(高密度リポ蛋白:HDL)
本発明におけるHDLは、比重が1.063〜1.21であるリポ蛋白である。
【0018】
(HDL中の成分)
本発明におけるHDL中の成分としては、例えばコレステロール、中性脂肪等が挙げられ、コレステロールが好ましい。
【0019】
(安定化剤)
本発明の安定化剤は、血清又は血漿中のHDLを安定化するものである。本発明の安定化剤は、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル誘導体(以下、POE多環フェニルエーテル誘導体と記す)又はナフタレンスルホン酸誘導体を有効成分として含有する。本発明におけるPOE多環フェニルエーテル誘導体としては、例えばポリオキシエチレン多環フェニルエーテル(以下、POE多環フェニルエーテルと記す)、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル(以下、POE多環フェニルエーテル硫酸エステルと記す)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン多環フェニルエーテル(以下、POE・POP多環フェニルエーテルと記す)等が挙げられる。
【0020】
POE多環フェニルエーテルの具体例(市販品)としては、例えばニューコール703、ニューコール704、ニューコール706、ニューコール707、ニューコール708、ニューコール709、ニューコール710、ニューコール711、ニューコール712、ニューコール714、ニューコール714(80)、ニューコール719、ニューコール723、ニューコール723(60)、ニューコール729、ニューコール733、ニューコール740、ニューコール740(60)、ニューコール747、ニューコール780(60)、ニューコール610、ニューコール610(80)、ニューコール2604、ニューコール2607、ニューコール2609、ニューコール2614(以上、日本乳化剤社製)、ノイゲンEA−87、ノイゲンEA−137、ノイゲンEA−157、ノイゲンEA−167、ノイゲンEA−177、ノイゲンEA−197D、ノイゲンEA−207D(以上、第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0021】
POE多環フェニルエーテル硫酸エステルの具体例(市販品)としては、例えばニューコール707−SF、ニューコール707−SFC、ニューコール707−SN、ニューコール714−SF、ニューコール714−SN、ニューコール723−SF、ニューコール740−SF、ニューコール780−SF、ニューコール2607−SF、ニューコール2614−SF(以上、日本乳化剤社製)、ハイテノールNF−08、ハイテノールNF−0825、ハイテノールNF−13、ハイテノールNF−17(以上、第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0022】
POE・POP多環フェニルエーテルの具体例(市販品)としては、例えばニューコール707−F、ニューコール710−F、ニューコール714−F、ニューコール2608−F、ニューコール2600−FB、ニューコール2616−F、ニューコール3612−FA(以上、日本乳化剤社製)等が挙げられる。
【0023】
ナフタレンスルホン酸誘導体としては、例えばナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の具体例(市販品)としては、例えばディスロールSH、エスコール(30)(以上、日本乳化剤社製)、デモールN、デモールNL、デモールRN、デモールRN−L、デモールT、デモールT−45、デモールMS、デモールSN−B(以上、花王社製)等が挙げられる。
【0024】
本発明の安定化剤に含まれるPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体の含量としては、血清又は血漿中のHDLを安定化し得る含量であれば特に制限はなく、通常、血清又は血漿100 mLに本発明の安定化剤が添加されたときに0.01〜5 gとなる含量であり、0.05〜1 gとなる含量が好ましい。
【0025】
(凍結乾燥)
本発明において、凍結乾燥とは、当該分野において使用される通常の意味で使用され、試料を凍結させ、凍結状態のままで減圧して、試料から水分を除き乾燥することを意味する。凍結乾燥の条件は特に制限はないが、通常-80〜35℃、好ましくは-80〜30℃の温度で、0.667〜1333Pa、好ましくは13.3〜133.3Paの圧力で6〜120時間、より好ましくは、12〜120時間行う。凍結乾燥品の水分含量は通常10重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0026】
(HDLの安定化方法)
本発明のHDLの安定化方法は、血清又は血漿にPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程を含む。血清又は血漿に添加されるPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体の量は、血清又は血漿中でHDLが安定化される量であれば特に制限はなく、通常、血清又は血漿100 mL当たり、0.01〜5 gであり、0.05〜1 gが好ましい。
【0027】
血清又は血漿にPOE多環フェニルエーテル誘導体を添加する際、POE多環フェニルエーテル誘導体は、POE多環フェニルエーテル誘導体そのものを添加してもよいが、POE多環フェニルエーテル誘導体水溶液として添加してもよい。また、血清又は血漿にナフタレンスルホン酸誘導体を添加する際、ナフタレンスルホン酸誘導体は、ナフタレンスルホン酸誘導体そのものを添加してもよいが、ナフタレンスルホン酸誘導体水溶液として添加してもよい。これらの水溶液の調製には、脱イオン水、蒸留水、緩衝液等の水性媒体を使用することができる。緩衝液を調製するための緩衝剤としては、例えば後述の緩衝剤等が挙げられる。これらの水溶液のpHは、当該水溶液を血清又は血漿に添加した後に血清又は血漿中のリポ蛋白が沈澱しないpHであれば特に制限はなく、pH6〜9が好ましい。
【0028】
また、本発明のHDLの安定化方法の別の態様は、以下の工程を含む。
(1)血清又は血漿にPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;
(2)工程(1)で得られた混合物を凍結乾燥する工程;及び、
(3)工程(2)で得られた凍結乾燥物を水性媒体で溶解する工程。
【0029】
工程(3)における水性媒体としては、血清又は血漿中のHDLを溶解し、HDLの水溶液中でHDLが安定に保持され得るものであれば特に制限はなく、例えば、前述の水性媒体等が挙げられる。
【0030】
(HDLの保存方法)
本発明のHDLの保存方法は、血清又は血漿にPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程を含む。また、本発明のHDLの保存方法の別の態様は、以下の工程を含む。
(1)血清又は血漿にPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;及び、
(2)工程(1)で得られた混合物を保存する工程。
【0031】
さらに、本発明のHDLの保存方法の別の態様は、以下の工程を含む。
(1)血清又は血漿にPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;
(2)工程(1)で得られた混合物を凍結乾燥する工程;
(3)工程(2)で得られた凍結乾燥物を水性媒体で溶解する工程;及び、
(4)工程(3)で得られた水溶液を保存する工程。
【0032】
本発明のHDLの保存方法における保存条件としては、HDLが安定に保存される条件であれば特に制限はない。HDLの保存方法における保存温度は、HDLが安定に保存される温度であれば特に制限はなく、通常、-80〜45℃であり、-5〜30℃が好ましく、2〜10℃が特に好ましい。HDLの保存方法における保存期間は、HDLが安定に保存される期間であれば特に制限はなく、通常、1日〜2年間である。
【0033】
(標準品)
本発明の血清又は血漿中のHDL中の成分定量用標準品は、溶液状態でも凍結乾燥状態でもよい。標準品が溶液状態の場合、本発明の標準品は、血清又は血漿中のHDL、及び、POE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を含有し、かつ、当該HDL中の成分の含量が値付けされている。また、標準品が凍結乾燥状態の場合、本発明の標準品は、凍結乾燥された血清又は血漿中のHDL、及び、POE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を含有し、かつ、当該HDL中の成分の含量が値付けされている。なお、本発明の標準品は、血清又は血漿中のHDL中の成分定量用の標準品としてのみならず、血清又は血漿中のHDL中の成分定量における精度管理物質として用いることもできる。
【0034】
(標準品の製造方法)
本発明の標準品が溶液状態の場合、本発明の標準品の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)血清又は血漿に、POE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;及び、
(2)工程(1)で得られた混合物中に含まれる、HDL中の成分の濃度を、既知量の当該成分を用いて値付けする工程。
【0035】
また、本発明の標準品が凍結乾燥状態の場合、本発明の標準品の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)血清又は血漿に、POE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体を添加する工程;
(2)工程(1)で得られた混合物を凍結乾燥する工程;及び、
(3)工程(2)で得られた凍結乾燥物中に含まれる、HDL中の成分の含量を、既知量の当該成分を用いて値付けする工程。
【0036】
本発明の標準品の製造方法において、血清又は血漿に添加されるPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体の量は、血清又は血漿中でHDLが安定化される量であれば特に制限はなく、通常、血清又は血漿100 mL当たり、0.01〜5 gであり、0.05〜1 gが好ましい。
【0037】
本発明の標準品の製造方法の一態様を以下に記す。
血清又は血漿を2〜8℃に冷却し、冷却した血清又は血漿にPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体水溶液を添加する。この血清又は血漿含有水溶液のpHを約1 mol/Lの水酸化ナトリウム又は約1 mol/Lの塩酸溶液にてpH6〜9に調整した後、このpH調整した水溶液を0.2〜0.4ミクロン程度の濾過膜を使用して濾過して標準品とする。
【0038】
また、本発明の標準品の製造方法の別の態様を以下に記す。
血清又は血漿を2〜8℃に冷却し、冷却した血清又は血漿にPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体水溶液を添加する。この血清又は血漿含有水溶液のpHを約1 mol/Lの水酸化ナトリウム又は約1 mol/Lの塩酸溶液にてpH6〜9に調整した後、このpH調整した水溶液を0.2〜0.4ミクロン程度の濾過膜を使用して濾過する。得られた溶液を凍結乾燥用のバイアルに分注し、半打栓する。バイアルに分注した溶液を、-30℃以下の低温で凍結させた後、133.3Paの真空条件下で凍結乾燥させ、徐々に加温しながら最終的に0〜20℃にて乾燥し、凍結乾燥状態の標準品を製造する。
【0039】
なお、凍結乾燥状態の標準品は、検量線作成等においては、既知量の水性媒体に溶解して用いる。凍結乾燥状態の標準品を溶解するための水性媒体としては、本発明のHDL中の成分の定量方法を可能とする水性媒体であれば特に制限はなく、例えば脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられる。緩衝液を調製するための緩衝剤としては、例えば後述の緩衝剤等が挙げられる。
【0040】
(標準品の値付け)
本発明において、標準品の値付けとは、製造された標準品中に含まれる、測定すべきHDL中の成分の含量を、既知量の当該成分を含有する標準血清を用いて決定することをいう。ここで、既知量の当該成分を含有する標準血清とは、例えば米国厚生省疾病管理・予防センター(CDC)の基準分析法等のホモジニアス法によらない方法により、当該成分の含量が決定されている血清をいう。この標準血清及び製造された標準品を検体として用いて、実際の自動分析装置を用いるホモジニアス法により測定を行い、既知量の当該成分を含有する標準血清の測定値(例えば、吸光度)と製造された標準品の測定値(例えば、吸光度)とを比較し、製造された標準品中の当該成分の含量を決定する。製造された標準品は検査施設において標準血清として検体の測定値の決定に使用される。
【0041】
(標準品におけるPOE多環フェニルエーテル誘導体又はナフタレンスルホン酸誘導体の含量)
本発明の標準品に含まれるPOE多環フェニルエーテル誘導体及びナフタレンスルホン酸誘導体の含量は、標準品中のHDLが安定に保持され、標準品中のHDL中の成分が正確に測定できる含量であれば特に制限はなく、通常、血清又は血漿100 mLに対し、0.01〜5 gであり、0.05〜1 gが好ましい。
【0042】
(添加物)
本発明の標準品には、必要に応じて、緩衝剤、金属イオン、塩類、界面活性剤、防腐剤、糖化合物等の添加物が含まれていてもよい。緩衝剤としては、例えば乳酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トリエタノールアミン緩衝剤、ジエタノールアミン緩衝剤、リジン緩衝剤、バルビツール緩衝剤、イミダゾール緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、グッド緩衝剤等が挙げられる。グッド緩衝剤としては、例えば2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、N-〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、2-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、3-〔N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ〕-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、N-〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO)、3-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(HEPPSO)、3-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕プロパンスルホン酸[(H)EPPS]、N-〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕グリシン(Tricine)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、N-シクロヘキシル-3-アミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(CAPSO)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)等が挙げられる。
【0043】
金属イオンとしては、例えばマグネシウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、亜鉛イオン等が挙げられる。塩類としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。防腐剤としては、例えばアジ化ナトリウム、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等の抗生物質、バイオエース、プロクリン300(商標)、プロキセル(Proxel)GXL(商標)等が挙げられる。
【0044】
上記糖化合物としては、例えば単糖類、二糖類等が挙げられるが、二糖類が好ましい。単糖類としては、例えばグルコース、フルクトース、フコース等が挙げられる。二糖類としては、例えばサッカロース、トレハロース、マルトース等が挙げられる。単糖類、二糖類等は2種以上を併用することもできる。また、糖化合物を血清又は血漿と混合する際の糖化合物の添加量は、血清又は血漿100 mLに対し、通常0.5〜20 gであり、1〜15 gが好ましく、1.25〜12.5 gがより好ましい。
【0045】
(HDL中の成分の定量方法)
本発明の血清又は血漿中のHDL中の成分の定量方法は、以下の工程を含む。
(1)血清又は血漿中のHDL中の成分の測定試薬を用いて、当該成分を測定する工程;
(2)本発明の標準品と、工程(1)の測定試薬とを用いて、当該成分の濃度と当該成分に対する測定値との間の関係を表す検量線を作成する工程;及び、
(3)工程(1)で得られた測定値と、工程(2)で作成した検量線とから、血清又は血漿中の当該成分の濃度を決定する工程。
【0046】
上記工程(1)の測定すべきHDL中の成分の測定においては、公知の、HDL中の成分の測定方法を用いることができる。HDL中の成分の測定方法としては、例えばHDL−C測定方法、HDL中の中性脂肪(以下、HDL−TGと記す)の測定方法等が挙げられる。また、HDL中の成分の測定方法としては、HDLを遠心分離等の手段により分画することなく、HDL以外にLDLやVLDL等の複数種のリポ蛋白が同一の反応液に共存した状態でHDL中の成分を測定する方法、所謂ホモジニアス法による測定方法が好ましい。
【0047】
ホモジニアス法によるHDL−C測定方法としては、例えばWO2004/035816パンフレットに記載された、検体とコレステロール測定用酵素とを、非イオン性界面活性剤、ポリアニオン及びアルブミンを含有する水性媒体中で反応させ、生成した過酸化水素または還元型補酵素を測定することにより、検体中のHDL−Cを測定する方法や、WO2006/118199パンフレットに記載された、検体とコレステロール測定用酵素とを、特定の構造の第四級アンモニウム塩、及び、ポリアニオンを含有する水性媒体中で反応させ、生成した過酸化水素または還元型補酵素を測定することにより、検体中のHDL−Cを測定する方法等が挙げられる。ここで、コレステロール測定用酵素とは、(i)コレステロールエステル加水分解酵素、及び、コレステロール酸化酵素の組み合わせ、又は、(ii)コレステロールエステル加水分解酵素、酸化型補酵素、及び、コレステロール脱水素酵素の組み合わせである。
【0048】
(HDL中の成分の定量用キット)
本発明の血清又は血漿中のHDL中の成分の定量用キットは、本発明の標準品とHDL中の成分の測定試薬とを含有する。本発明のキットを用いることにより、HDL中の成分の定量を簡便に行うことができる。HDL中の成分の測定試薬としては、公知の、HDL中の成分の測定試薬を用いることができる。HDL中の成分の測定試薬としては、例えばHDL−C測定試薬、HDL−TG測定試薬等が挙げられる。また、HDL中の成分の測定試薬としては、HDLを遠心分離等の手段により分画することなく、HDL以外にLDLやVLDL等の複数種のリポ蛋白が同一の反応液に共存した状態でHDL中の成分を測定する試薬、所謂ホモジニアス法による測定方法に用いられる試薬が好ましい。
【0049】
ホモジニアス法によるHDL−C測定方法に用いられるHDL−C測定試薬としては、例えばWO2004/035816パンフレットに記載された、コレステロール測定用酵素、非イオン性界面活性剤、ポリアニオン及びアルブミンを含有するHDL−C測定試薬や、WO2006/118199パンフレットに記載された、コレステロール測定用酵素、特定の構造の第四級アンモニウム塩、及び、ポリアニオンを含有するHDL−C測定試薬等が挙げられる。ここで、コレステロール測定用酵素とは、(i)コレステロールエステル加水分解酵素、及び、コレステロール酸化酵素の組み合わせ、又は、(ii)コレステロールエステル加水分解酵素、酸化型補酵素、及び、コレステロール脱水素酵素の組み合わせである。また、ホモジニアス法に用いられるHDL−C測定試薬としては、市販の測定試薬も使用することができる。市販の測定試薬としては、例えばHDL−C測定試薬であるデタミナーL HDL−C(協和メデックス社製)、メタボリードHDL−C(協和メデックス社製)、「生研」HDL−EX N(デンカ生研社製)等が挙げられる。
【0050】
本発明の標準品や本発明のキットは、血清又は血漿中のHDL中の成分が自動で連続測定される自動分析機を用いた測定方法に好適に用いられる。
【0051】
(HDLの安定化剤、安定化方法、及び、保存方法の効果の検証)
本発明のHDL安定化剤、安定化方法、及び、保存方法の効果は、例えば次の方法により検証することができる。複数の健常人より採取した血清又は血漿を混合してプール血清又はプール血漿を調製する。調製したプール血清又はプール血漿を2つに分け、片方のプール血清又はプール血漿には本発明のHDLの安定化剤を添加し、本発明のHDLの安定化剤が添加されたプール血清又はプール血漿(グループAの血清又は血漿)と、本発明のHDLの安定化剤が添加されないプール血清又はプール血漿(グループBの血清又は血漿)とを準備する。グループAの血清又は血漿を同じ形状と材質からなる複数の容器に一定量、分注し、必要に応じて、前述の方法により凍結乾燥を行う。次に、前述の方法により値付けを行い、標準品(標準品A)を調製する。同様に、グループBの血清又は血漿を用いて、標準品(標準品B)を調製する。
【0052】
本発明の安定化剤を添加した直後の標準品AをN本(標準品A
1〜標準品A
N)用意し、調製直後の標準品溶液A
保存前(A
保存前1〜A
保存前N)とする。凍結乾燥状態の標準品の場合は、各標準品A(標準品A
1〜標準品A
N)について一定量の精製水で溶解し、調製直後の標準品溶液A
保存前(A
保存前1〜A
保存前N)とする。
【0053】
さらに、溶解直後の標準品溶液A
保存前を5℃で7日間保存し、標準品溶液A
保存後(標準品A
保存後1〜標準品A
保存後N)とする。
【0054】
それぞれの標準品溶液A
保存前(標準品A
保存前1〜標準品A
保存前N)を検体とし、HDL−C測定試薬を用いて、吸光度A
保存前(吸光度A
保存前1〜吸光度A
保存前N)を測定する。同様に、それぞれの標準品溶液A
保存後(標準品A
保存後1〜標準品A
保存後N)を検体として用いて、HDL−C測定試薬と反応させ、吸光度A
保存後(吸光度A
保存後1〜吸光度A
保存後N)を測定する。得られた吸光度A
保存前と吸光度A
保存後それぞれについて平均値(平均吸光度A
保存前と平均吸光度A
保存後)を算出し、以下の式(I)に従い、残存率(%)を算出する。
【0056】
算出した残存率(%)が100に近い程、血清又は血漿中でHDLが安定化され、HDL中の成分が正確に測定されることを意味する。すなわち、残存率(%)が100に近い程、血清又は血漿中でHDLが安定化されたことを意味する。
【0057】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。尚、本実施例においては、下記メーカーの試薬、及び、機器類を使用した。
【0058】
血清(ディスカバリーライフサイエンス社製)、トレハロース(林原社製)、ニューコール740(60)(POE多環フェニルエーテル誘導体;日本乳化剤社製)、ニューコール740−SF(POE多環フェニルエーテル誘導体;日本乳化剤社製)、デモールN(ナフタレンスルホン酸誘導体;花王社製)、ホウ珪酸ガラスバイアル[大和特殊硝子社製(容量:2 mL;直径:16 mm;茶褐色)]、凍結乾燥機(東京理化器械社製;EYELA DRC-1100型、FDU-2100型)。
【実施例1】
【0059】
以下の方法により、POE多環フェニルエーテル誘導体及びナフタレンスルホン酸誘導体によるHDLの安定化効果を検討した。
(1)凍結乾燥用血清の調製
以下の組成からなる血清1〜4及び血清0を調製した。
<血清1〜4及び血清0>
血清 1 L
トレハロース 40 g
HDLの安定化剤(第1表参照)
【0060】
【表1】
【0061】
(2)凍結乾燥血清の製造
上記で調製した血清1をガラスバイアルに0.5 mLずつ分注し、一次凍結乾燥を-34℃で32時間、二次凍結乾燥を20℃で4時間に設定して凍結乾燥を行い、最後に、真空状態のままゴム栓にて閉栓し、凍結乾燥血清1を製造した。
血清1の代わりに、血清2〜4及び血清0を用いて同様の操作を行い、凍結乾燥血清2〜4及び凍結乾燥血清0を調製した。
【0062】
(3)残存率の算出
上記(2)で調製した凍結乾燥血清1のバイアルを3本準備し、各バイアルに精製水0.5 mLを加えて再構成した血清1
保存前(血清1
保存前1〜血清1
保存前3)を検体(3検体)として用いて、HDL−C測定試薬として「メタボリードHDL−C」を用いて、「メタボリードHDL−C」に付随の添付文書に記載の操作手順に従い、各検体について測定を行い、各検体に対する吸光度1
保存前(吸光度1
保存前1〜吸光度1
保存前3)を測定し、吸光度1
保存前1〜吸光度1
保存前3の平均値を平均吸光度1
保存前として算出した。凍結乾燥血清1の代わりに、凍結乾燥血清2〜4及び凍結乾燥血清0を用いる以外は同様の方法により測定を行い、平均吸光度2
保存前〜平均吸光度4
保存前及び平均吸光度0
保存前を算出した。
【0063】
次いで、上記血清1
保存前(血清1
保存前1〜血清1
保存前3)を5℃で7日間保存して得られた血清1
保存後(血清1
保存後1〜血清1
保存後3)を検体(3検体)として用いて、HDL−C測定試薬として「メタボリードHDL−C」を用いて、「メタボリードHDL−C」に付随の添付文書に記載の操作手順に従い、各検体について測定を行い、各検体に対する吸光度1
保存後(吸光度1
保存後1〜吸光度1
保存後3)を測定し、吸光度1
保存後1〜吸光度1
保存後3の平均値を平均吸光度1
保存後として算出した。凍結乾燥血清1の代わりに、凍結乾燥血清2〜4及び凍結乾燥血清0を用いる以外は同様の方法により測定を行い、平均吸光度2
保存後〜平均吸光度4
保存後及び平均吸光度0
保存後を算出した。
【0064】
凍結乾燥血清1について、算出した平均吸光度1
保存前と平均吸光度1
保存後とを用いて、以下の式(II)に従い、残存率(%)を算出した。
【0065】
【数2】
【0066】
凍結乾燥血清1について、全3回、上記手順による測定を行い、全3回の測定の各測定における残存率を算出すると共に、算出された残存率の平均値(平均残存率)を決定した。
【0067】
平均吸光度1
保存前と平均吸光度1
保存後の組み合わせの代わりに、平均吸光度2
保存前と平均吸光度2
保存後の組み合わせ、平均吸光度3
保存前と平均吸光度3
保存後の組み合わせ、平均吸光度4
保存前と平均吸光度4
保存後の組み合わせ、及び、平均吸光度0
保存後と平均吸光度0
保存後の組み合わせをそれぞれ用いる以外は上記と同様の手順で、凍結乾燥血清2〜4及び凍結乾燥血清0の各凍結乾燥血清に対して、測定を全3回行い、全3回の測定の各測定における残存率を各凍結乾燥血清に対して算出すると共に、算出された残存率の平均値(平均残存率)を各凍結乾燥血清に対して決定した。さらに、算出した残存率について、有意水準を0.05としてDunnett法による検定(Dunnett検定)を行った。その結果を第2表に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
第2表から明らかな様に、本発明の安定化剤を添加して調製した凍結乾燥血清においては、本発明の安定化剤を添加しないで調製した凍結乾燥血清に比較して残存率が高かった。HDL−C定量用の標準品においては、標準品を溶液状態で保存した場合でも、正確なHDL−Cの測定のためには、できる限り100%に近い残存率、という極めて高い残存率が要求される。従って、第2表における、本発明の安定化剤が添加された場合と、添加されていない場合の残存率の差は、重要な意義を有するのである。しかも、有意水準を0.05としてDunnett検定を行ったところ、本発明の安定化剤を添加して調製した全ての凍結乾燥血清において、本発明の安定化剤を添加して調製した凍結乾燥血清に対する残存率と、本発明の安定化剤を添加しないで調製した凍結乾燥血清に対する残存率との間で有意に差があることが分かった。従って、本発明の安定化剤により血清又は血漿中のHDLが安定化され、これにより、血清又は血漿中のHDL中の成分を正確に測定できることが分かった。