(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「個片化」された状態とは、金属板抵抗器において、その抵抗値を単独で測定することができる状態を指す。個片化された状態で抵抗値を調整し、調整した後の抵抗値を測定し、この抵抗値測定データを、それ以降の調整工程にフィードバックする。これによって、抵抗値の調整精度を向上することができる。
【0015】
また、抵抗値を調整するための「抵抗体の除去量」とは、いわゆる抵抗体のトリミング量と同様であり、以下、「抵抗体の除去量」と称する。抵抗体の除去は、抵抗体の加工により抵抗体の幅を狭くする方向に加工することにより行われ、抵抗体の加工後に金属板抵抗器の抵抗値が調整される。抵抗値の調整割合X(%)を大きくするためには、抵抗体の除去量Yを大きくすれば良い。
【0016】
以下に、本発明の実施の形態による金属板抵抗器の製造技術について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態による金属板抵抗器の製造技術について説明する。
図1は、本実施の形態による金属板抵抗器の一構成例を例示的に示す斜視図である。
図1(a)に示す金属板抵抗器1は、金属製の電極端子5a、5bが、接合部4を介して抵抗体3と突き合わせ接合され、電極端子5a、5bは内側に折り曲げられている。また、電極端子5a、5bには端部からスリットが形成され、4端子構造を備える。
図1(b)に示す金属板抵抗器1は、金属製の電極端子5c、5dが、接合部4を介して抵抗体3と突き合わせ接合されている。電極端子5c、5dは折り曲げられており、抵抗体3が実装面から離隔する構造になっている。
図1(a)、
図1(b)のいずれの構造においても、抵抗体3の側面に、プレスなどにより加工形成された凹部7を備える。凹部7は、抵抗器1の抵抗値を調整した痕跡である。
【0018】
この凹部7を形成する加工により、抵抗体3の一部を除去して抵抗体3の幅を調整することで、個片化後における抵抗器の抵抗値を所望の値に近づけるように調整することができる。
【0019】
抵抗体3用の材料としては、Cu、Cu−Ni系、Cu−Mn系などの金属の板材を用いることができる。電極端子5a、5b、5c、5dの材料としては、Cuなどを用いることができる。尚、
図1(a)、(b)は、金属板抵抗器の一例であり、その構造は
図1(a)、(b)に示すものに限定されない。例えば、電極と抵抗体との平面で重ねて接合した構造でも良い。
【0020】
図2は、
図1(a)(もしくは
図1(b))に示す金属板抵抗器の製造工程の一例を示す図である。まず、
図2(a)に示すように、長尺のフープ材である板状の抵抗体3と、同じく長尺のフープ材である板状の電極材5a、5bとを準備する。
図2(b)に示すように、板状の抵抗体3の両側に、板状の電極材5a、5bを、電子ビーム溶接やレーザービーム溶接などの溶接技術などを用いてそれぞれ接合する。接合部4、4において抵抗体3と電極材5a、5bが接合している。このように、抵抗器分離前の複数個取りの基材が完成する。
図2(c)に示すように、複数個取りの基材を、抵抗器1つ分のサイズに分離加工を行うことで、1つの金属板抵抗器1の所定のサイズに個片化する。抵抗値は、個片化された後の抵抗体3の幅Wに依存する。この分離加工は、ダイサーによる切断や、プレスによる切断もしくは打ち抜き等により行われる。なお、この分離加工の前又は後において端子の曲げ加工を行う。この後、以下に説明するように、個片化後の金属板抵抗器1の抵抗値の測定、調整、再測定処理を行う。
【0021】
以下に、金属板抵抗器の抵抗値調整方法についてより詳細に説明する。
図3は、本実施の形態による金属板抵抗器1の抵抗値調整工程の一例を示す模式的な図である。
図4は、本実施の形態による抵抗値調整工程の流れの一例を示すフローチャート図である。
図5は、抵抗値調整を行うための抵抗値の調整割合Xと抵抗体の除去量Yとの関係を示すグラフである。
【0022】
図4のフローを開始し(Start)、nの初期値設定を行う(ステップS1)。nは、個片化の順番を示し、nの初期値は1である。次いで、個片化の加工を行う(ステップS2)。即ち、
図2(c)に示す切断加工である。このとき、金属板抵抗器の製品仕様としての抵抗値、即ち目標抵抗値R
1よりも低い抵抗値となるように切断幅W(金属板抵抗器1の幅)を設定する。切断幅Wは固定された値である。目標抵抗値R
1よりも低い抵抗値となるように個片化するのは、個片化後の抵抗体の一部除去により抵抗値を合わせこむためである。
【0023】
次いで、個片化した金属板抵抗器の初期(調整前)の初期抵抗値A
1を測定する(ステップS3)。より具体的には、
図3(t
1)に例示するように、抵抗計21を用い、電流を流す電流端子23a、23bと電圧端子25a、25bとを、抵抗器1の電極5a、5bに当て、抵抗計21に含まれる電圧計により電極5a、5b間の電圧を測定する。制御・演算部31が、抵抗計21を制御し(L1)、メモリ35に、抵抗値調整前の初期抵抗値A
1を記憶する。ここで、
図3(t
2)に示すように、計測器41などにより、抵抗体3の幅(W)を測定する。幅(W)の測定は、初期抵抗値A
1の測定前に行ってもよい。尚、初期抵抗値を測定した結果、A
1>R
1の場合には不良品として処理し、ステップS4以下の工程は行わず、再度、個片化工程を実行する(S2)。また、異常発生時のエラー処理(工程の中断、エラー報知)を実行してもよい。
【0024】
次いで、ステップS4において、初回の個片化か否かを判断する。初回の個片化(n=1)の場合は、ステップS5に進む。
ステップS5では、制御・演算部31が、初期抵抗値A
1と目標抵抗値R
1から、目標抵抗値R
1への調整に要する抵抗体の除去量Yを算出する。抵抗体の除去量Yは、抵抗体の幅Wを狭くするために、抵抗体の一部を除去する量であり、より具体的には凹部7(スリット)の深さの値(
図3(t
3)のP
0−P
11間の距離)である。抵抗体3の一部を除去することで抵抗値を調整することができる。すなわち、凹部7の加工深さ(奥行き方向)に応じて抵抗値を高くするように調整し、目標抵抗値R
1に近づけることができる(
図3(t
3)参照)。抵抗体の除去量Yの求め方の一例としては、初期抵抗値A
1から目標抵抗値R
1に調整するために必要な抵抗値の調整割合X(抵抗値を上昇させる割合)を計算する。例えば、(1)式により算出する。調整割合Xと抵抗体の除去量Yとの対応関係は、予めシミュレーションや試作試験を通じて求めておく。このため、高くしたい抵抗値の割合に対応して加工すべき抵抗体の除去量を、理論的に関連付けて算出することができる。本実施例では(2)式として示す。
X=1−An/R
1 (1)
Y=f(X) (2)
【0025】
(2)式で表される関数(抵抗調整式)の一例を
図5のグラフで示す。(1)式および(2)式から、目標の抵抗値に合わせる方向に調整するための抵抗体の除去量Yを算出する。なお、調整割合Xと抵抗体の除去量Yとの対応関係は、例えばデータテーブルとして、メモリ35に記憶しておいてもよい。
【0026】
ステップS6に進み、抵抗体3を加工して抵抗値を調整する。抵抗値の調整は、ステップS4で算出した抵抗体の除去量Yを有する凹部7を形成するように、抵抗体の打ち抜き加工(一部除去)を行う。より具体的には、
図3(t
3)に示すように、制御・演算部31により、抵抗体の除去量Yに対応する位置P
11をプレス加工の目標位置として位置決め部33により位置決めを行い、制御・演算部31により制御されるプレス機のパンチ51を用いて、位置P
11までの抵抗体を除去する形成を行う。こうして抵抗体3の一部を除去することで、抵抗体の除去量Y(P
11−P
0)に対応した抵抗値調整を行う。抵抗値調整にあたっては、加工により除去する抵抗体の位置P
11の正確性が要求される。このため、スリット形成側の製品端面を基準位置(P
0)としてパンチ51の位置合わせを行うことが好ましい。すなわち、スリットを形成しない側の端面や製品中心位置を基準とした場合、製品幅(W寸法)のバラつきの影響を受けて精度が低下する可能性がある。なお、
図3(t
2)において製品幅(W)を計測しており、この値を利用してもよい。
【0027】
次いで、ステップS7において、ステップS6で加工し調整した後の金属板抵抗器の調整後の抵抗値B
1を測定する(
図3(t
4)参照)。測定の方法はステップS3と同様である。なお、抵抗計はステップS3とステップS6で同じものを用いても異なるものを用いてもよい。以上、測定された、初期抵抗値A
1、抵抗体の除去量Y、および調整後抵抗値B
1を、メモリ35に記憶する。これにより、目標抵抗値R
1と調整後抵抗値B
1とのズレを記録することができる。
【0028】
ステップS8においては、メモリ35に記録された値、特に調整後抵抗値B
1を用いて、目標抵抗値R
1と調整後抵抗値B
1とのズレ(補正値Z)を算出する。例えば、(3)式により算出する。補正値Zはメモリ35に記録される。
Z=Bn/R
1−1 (3)
【0029】
次いで、ステップS9において、n=n+1の処理が行われ、ステップS2に戻る。なお、nが所定の上限値に達した場合や、個片化の加工限界まで達した場合等は、本処理を終了する。
【0030】
以下に、ステップS4が“No”の場合(n>1)の演算処理について、具体的に説明する。n>1、すなわち、2回目以降の個片化において、補正値Zがメモリ35に格納されている。抵抗体の除去量Yを算出するにあたり、この補正値Zを利用する。
【0031】
一例として、2回目(n=2)の処理について、ステップS10では、補正値Zにより、初期抵抗値A
2(2回目の個片化の測定値)を補正する。例えば、調整後抵抗値B
1が(2)式により算出された抵抗値調整量を超えて、目標抵抗値R
1から1%上昇しすぎた場合は、メモリ35に補正値Z=1%が格納されている。このとき、S3で測定した初期抵抗値A
2の値に1%分を加算して初期抵抗値A
2の補正値を得る。次いで、ステップS5においては、補正値Zに基づいて補正された初期抵抗値A
2の補正値を用いて、前述のとおり(1)式により抵抗体の除去量Yを算出する。このため、実際に測定された初期抵抗値A
2にもとづいて得られる抵抗体の除去量Yではなく、補正値Zを加味して補正された抵抗体の除去量Yが得られる。次いでS6の加工を行う。(2)式は抵抗体の除去量に応じて理論上補正される抵抗値の関係式であるが、実際には、抵抗材料それ自体、厚さ、幅Wの加工精度、加工設備などによって、抵抗値の調整割合にばらつきが生じることがある。本実施の形態によれば、このようなばらつきに対して、過去の加工による抵抗値調整傾向を数値化し、次回の抵抗値調整加工に活かすことができる。よって、材料バラツキ等に対して、自動的に抵抗値調整加工を微調整することができる。
【0032】
測定値や演算値は、メモリ35に、nの値とともに順次記憶しておくと良い。例えば、複数回分(例えば10回分)の加工による各補正値Zの平均値を利用して、抵抗体の除去量Yを算出する、という方法も可能である。
【0033】
なお、ステップS10にて説明した例の他に、抵抗体の除去量Yを補正してもよい。例えば、メモリ35に格納されている補正値Z=1%であった場合に、初期抵抗値A
2より抵抗体の除去量Yを算出する。次いで、この抵抗体の除去量Yによる抵抗値上昇割合から補正値Z(例えば1%)分が低くなるように減算して、抵抗体の除去量Yを補正する。この補正後の抵抗体の除去量YによってS6の加工を行う。したがって、前回上昇しすぎた抵抗値調整加工に対して、今回は適度に加工量を減らし、適正な調整後抵抗値を得ることが可能となる。
【0034】
以上のように、本実施の形態によれば、複数個取りの基材から個片化工程により1つずつの抵抗器を製造する場合に、前回又は以前の同じ基材の補正値(ズレ)を次回以降にフィードバックさせることができる。一度の加工により抵抗値を調整するため、何度も抵抗値調整を繰り返す必要がない。従って、加工スピードを速めることができるという利点がある。また、調整する抵抗器自身の初期抵抗値データから調整量を決定するため、調整精度が高いという利点を併せ持つ。従って、同じロットの次工程以降の工程における調整精度を向上させることができる。
【0035】
尚、上記のように、調整式から大きく外れる調整後抵抗値B
nのデータが得られた場合には、不良(特異値)とみなして、
図5の調整式の補正にそのデータを用いないようにすると良い。また、エラー処理を行い、工程を中断してもよい。
【0036】
以上、同じロット(1つの基材)を用いた場合について説明した。ロットが異なる場合には、補正値Z等をクリアして、改めて
図4のフローを初期値(n=1)から実行すると良い。また、例えば、抵抗体の材質や幅に応じて、抵抗体の除去量Yにより調整される抵抗値が異なることが想定される。したがって、
図5、式(2)のような抵抗調整式は、金属抵抗器の抵抗体の幅Wや抵抗体の比抵抗、等に応じてそれぞれ設定するとよい。
【0037】
尚、上記の例では、1つずつ、個片化していく例を示したが、いくつかのまとまりについて個片化した後に、次のまとまりについて、調整式の補正を行うようにしても良い。
尚、抵抗値の調整のための抵抗体の除去方法は、プレスが好適であるが、エンドミル、グラインダ、砥石などの周知の方法を用いて抵抗体を削ることによって行うことができる。上記の例では、抵抗体の幅Wは固定としたが、補正値に応じて個片化する位置(抵抗体の幅W)を変えてもよい。
【0038】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、
図2(a)から(c)までに示したように、個片化工程として、金属板を抵抗体とした複数個取りの基材から、端面側から順番に、1つの抵抗器分の基材片を切断または打ち抜きによって1つずつ切り出す工程を例に説明した。
【0039】
本実施の形態では、抵抗器となるまでの状態において、一方の電極側で接続されている例について説明する。
【0040】
図6は、本発明の第2の実施の形態による個片化工程の様子を示す平面図である。基材自体は、第1の実施の形態で説明したものと同様で良い。
【0041】
第1の実施の形態における
図2(b)に示す基材と同様に、板状の抵抗体73の両側に、板状の電極材75a、75bを、溶接技術などを用いてそれぞれ接合することで、接合部により両者が接合した基材71を得る。次いで、電極材75aと抵抗体73を完全に分離し、電極材75の一部に入るように複数のスリットを形成する。したがって、複数の抵抗器は完全には分離されず、電極材75bによって繋がった状態の基材71が得られる。
【0042】
そして、第1の実施の形態の
図4と同様に、ステップS1からのフローを実行する(但し、ステップS2は行わない。)。即ち、n=1の処理を行い、初期抵抗値A
1、調整後の抵抗値B
1をメモリに記憶しておく。
【0043】
次いで、この初期抵抗値A
1に基づいて抵抗体の除去量Yを算出し、抵抗値調整加工を行い、抵抗値調整後の抵抗値B
1に基づいて、補正値Zを得る。
【0044】
そして、次の部分77−2の抵抗調整処理において、補正値Zに基づいて抵抗体の除去量Yが補正されるように演算処理を行う。このような処理を、n=1、2、3、…と順次行う。最終的には、電極75b側も分離して、複数の抵抗器を得ることができる。この電極75b側の分離工程での抵抗値の変動は基本的に存在しない。メモリには、その際の、各抵抗器の抵抗値をnとともに記憶しておけば、それぞれの抵抗器の抵抗値を後から対応付けることができる。
【0045】
尚、上記では、部分77−1、77−2、77−3、・・・を、複数個まとめて一部分離する例を示したが、一部分離、初期抵抗値測定、抵抗体の除去のための加工、調整後抵抗値測定の工程を、個別に(1個ずつ)行ってもよい。
【0046】
上記の実施の形態において、添付図面に図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0047】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【0048】
また、本実施の形態で説明した機能を実現するためのプログラム、又はそれをコンピュータ読み取り可能な記録媒体であっても良い。