(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
【0009】
[実施例1の構成]
図1ないし
図5は、本発明を適用した実施例1を示したものである。
【0010】
本実施例の燃料貯蔵システム1は、燃料に液化ガス燃料(ジメチルエーテル:以下、DMEと呼ぶ)を使用する車両(以下、DME自動車と呼ぶ場合がある)に搭載されている。この燃料貯蔵システム1は、燃料タンク2、燃料供給システム3、圧力センサ4、温度センサ5、電気ヒータ6、排気熱利用燃料加熱装置(以下、燃料加熱装置と呼ぶ)7および電子制御装置(以下、制御部と呼ぶ)8を備えている。
燃料タンク2は、DMEを保温貯蔵することが可能な燃料蓄熱タンクである。この燃料タンク2内に充填または貯蔵されたDMEは、燃料供給システム3によって車両のエンジン9に供給される。
なお、燃料タンク2の詳細は、後述する。
【0011】
エンジン9は、ディーゼルエンジンであり、シリンダヘッド11とシリンダブロック12との間に燃焼室が形成されている。このエンジン9には、冷却水回路(図示せず)が設けられている。
冷却水回路は、エンジン9を冷却する冷却水を、エンジン9のウォータジャケット(図示せず)からラジエータを経て再度ウォータジャケットへ循環させる冷却水配管と、冷却水回路中に冷却水の循環流を発生させるウォータジャケットとを備えている。なお、ラジエータで冷却水と冷却風とを熱交換させることで、所定の温度範囲(例えば60〜90℃)の冷却水をウォータジャケットへ戻すように構成されている。
【0012】
燃料供給システム3は、燃料タンク2内のDMEをエンジン9に供給するコモンレール式燃料噴射システムによって構成されている。
燃料供給システム3は、以下のフィードポンプ13、燃料フィルタ14、燃料冷却器15、サプライポンプ16、コモンレール17、インジェクタ18、燃料供給流路19および燃料戻し流路20等を備えている。
【0013】
フィードポンプ13は、燃料タンク2から吸入したDMEを加圧して吐出する低圧燃料ポンプであって、燃料タンク2内に設置されている。このフィードポンプ13は、臨界点を越える超臨界状態のDMEおよび液相状態のDMEをともに吸入して加圧することが可能なものである。
また、フィードポンプ13は、モータにより駆動される。
なお、モータへの電力の供給および停止は、制御部8によって制御される。
【0014】
燃料フィルタ14は、DME中に含まれる不純物を濾過または捕捉してDMEから除去するものである。
燃料冷却器15は、フィードポンプ13から流入したDMEを冷却して液相状態にする冷却用熱交換器である。この燃料冷却器15は、冷却水よりも低温の液体や、車両に搭載される空調装置の冷凍サイクル中の冷媒(膨張弁より流出した冷媒)や、もしくは、車両走行風等の冷却流体とDMEとを熱交換させてDMEを冷却するものである。なお、燃料冷却器15への冷却流体の供給および停止を、制御部8によって制御しても良い。
【0015】
サプライポンプ16は、、フィードポンプ13から加圧室内に吸入した液相状態のDMEを加圧して高圧化するサプライポンプ16である。このサプライポンプ16は、加圧室およびシリンダ孔を有するシリンダ部材と、シリンダ孔を往復移動するプランジャと、このプランジャを駆動するカムシャフトとを備えている。
【0016】
コモンレール17は、サプライポンプ16から導入された超高圧のDMEを蓄圧するものである。このコモンレール17は、蓄圧された超高圧のDMEを各気筒のインジェクタ18に分配する。また、コモンレール17には、コモンレール圧を検出するコモンレール圧センサ(図示せず)が接続されている。また、コモンレール17には、コモンレール圧が上限値を越える圧力の時に開弁するプレッシャリミッタ21が接続されている。なお、プレッシャリミッタ21の代わりに減圧弁をコモンレール17に搭載しても良い。
【0017】
インジェクタ18は、エンジン9の各気筒の燃焼室内にDMEを噴射するものである。このインジェクタ18は、噴孔を開閉するニードルを有する燃料噴射ノズルと、ニードルを駆動するアクチュエータとを備えている。また、アクチュエータとしては、ニードルの直上に設けられる制御室内の燃料圧力を調整し、ニードルを開閉動作させるソレノイドアクチュエータまたはピエゾアクチュエータを採用している。なお、アクチュエータとして、ニードルを直接開閉動作させるソレノイドアクチュエータまたはピエゾアクチュエータを採用しても良い。
【0018】
燃料供給流路19は、燃料タンク2内のDMEを複数のインジェクタ18へ供給するためのものである。
燃料戻し流路20は、サプライポンプ16からリークした余剰なDME、プレッシャリミッタ21から流出した余剰なDMEを燃料タンク2へ戻すためのものである。
なお、燃料戻し流路20の詳細は、後述する。
【0019】
[実施例1の特徴]
燃料タンク2は、内側容器2aと外側容器2bとの間に、外部と内部とを断熱する断熱空間22を有する2重構造の保温容器である。
内側容器2aの内部には、DMEが貯蔵される。
内側容器2aには、圧力センサ4および温度センサ5が設置されている。また、内側容器2aと外側容器2bとの間には、電力の供給を受けると、内側容器2aおよび内側容器2a内のDMEを加熱する電気ヒータ6が設置されている。
また、内側容器2aには、燃料タンク2内の圧力が、燃料タンク2の耐圧安全性を満たす規制値(例えば15MPa)以上の圧力になったら開弁して、燃料タンク2内の圧力を規制値未満にするための圧力安全弁23が設置されている。この圧力安全弁23は、逆止弁構造を有し、スプリング24によって閉じる側に付勢されている。
【0020】
燃料戻し流路20は、燃料加熱装置7、第1流路25、第2流路26、燃料ギャラリ27、サーモスタット28、圧力制御弁29および燃料冷却器30を備えている。
第1流路25は、燃料ギャラリ27を経由してサプライポンプ16およびプレッシャリミッタ21と燃料タンク2とを連通している。燃料ギャラリ27の上流側の第1流路25には、サーモスタット28が設置されている。
第2流路26は、燃料ギャラリ27を迂回してサプライポンプ16およびプレッシャリミッタ21と燃料タンク2とを連通している。この第2流路26には、圧力制御弁29が設置されている。
【0021】
燃料ギャラリ27は、シリンダヘッド11に設置されて、冷却水回路を循環する冷却水と余剰DMEとを熱交換して余剰DMEを加熱する燃料予備加熱部である。この燃料ギャラリ27には、余剰DMEの圧力(以下、燃料圧力と呼ぶ)を検出する燃料圧センサ31、および余剰DMEの温度(以下、燃料温度と呼ぶ)を検出する燃料温センサ32が設置されている。
燃料ギャラリ27には、各気筒のインジェクタ18が差し込まれている。これにより、インジェクタ18は、燃料ギャラリ27においてDMEと熱伝達可能に接触している。
【0022】
サーモスタット28は、第1流路25に設置されている。このサーモスタット28は、第1流路25を流れる余剰DMEの燃料温度が、所定の温度しきい値(例えば400K=127℃)以下の温度の時に第1流路25を開く。また、サーモスタット28は、第1流路25を流れる余剰DMEの燃料温度が、温度しきい値を越える温度の時に第1流路25を閉じる。
【0023】
圧力制御弁29は、第2流路26に設置されている。この圧力制御弁29は、逆止弁構造を有し、スプリング33によって閉じる側に付勢されている。
そして、圧力制御弁29は、第2流路26を流れる余剰DMEの燃料圧力が、圧力しきい値を越える圧力の時に第2流路26を開く。また、圧力制御弁29は、第2流路26を流れる余剰DMEの燃料圧力が、所定の圧力しきい値(開弁圧:例えば5.3MPa〜15MPa)以下の圧力の時に第2流路26を閉じる。
【0024】
燃料加熱装置7は、
図2に示したように、燃料加熱部41、バイパスパイプ42および切替弁43を備えている。
燃料加熱部41は、エンジン9の排気側に接続された排気パイプ44、およびこの排気パイプ44の周囲に螺旋状に巻回されたコイル状の燃料パイプ45を有している。この燃料加熱部41は、余剰DMEとエンジン9の排気ガスとを熱交換して余剰DMEを加熱するものである。
燃料パイプ45の入口部は、図示しない燃料配管を介して、第1流路25と第2流路26との合流部に接続されている。また、燃料パイプ45の出口部は、図示しない燃料配管を介して、燃料冷却器30に接続されている。
【0025】
排気パイプ44の入口部は、図示しない排気管を介して、エンジン9と接続されている。また、排気パイプ44の出口部は、図示しない排気管を介して、図示しないマフラと接続されている。この排気パイプ44の内部には、エンジン9から排出された排気ガスが流れる排気流路46が形成されている。
バイパスパイプ42は、燃料加熱部41よりも上流側で分岐し、燃料加熱部41よりも下流側で合流するバイパス流路47を有している。このバイパス流路47は、燃料加熱部41を迂回してエンジン9とマフラとを連通している。
【0026】
切替弁43は、モータ54により駆動される。この切替弁43は、燃料加熱部41による余剰DMEの加熱を開始する場合、排気流路46を開き、バイパス流路47を閉じる。また、切替弁43は、燃料加熱部41による余剰DMEの加熱を停止する場合、排気流路46を閉じ、バイパス流路47を開く。
なお、切替弁43のモータ54への電力の供給および停止は、制御部8によって制御される。
【0027】
燃料冷却器30は、燃料加熱装置7から流入した余剰DMEを冷却して液相状態にする冷却用熱交換器である。この燃料冷却器30は、冷却水よりも低温の液体や、空調装置の冷凍サイクル中の冷媒(膨張弁より流出した冷媒)や、もしくは車両走行風等の冷却流体とDMEとを熱交換させてDMEを冷却するものである。
ここで、燃料冷却器30による余剰DMEの冷却を開始する場合には、燃料冷却器30へ冷却流体を供給する。また、燃料冷却器30による余剰DMEの冷却を停止する場合には、燃料冷却器30への冷却流体の供給を停止する。
【0028】
制御部8は、燃料タンク2内のDMEの圧力および温度を制御するように設けられている。この制御部8は、マイクロコンピュータおよび駆動回路を内蔵し、圧力センサ4、温度センサ5、燃料圧センサ31、燃料温センサ32、燃料レベルセンサ51、クランク角センサ52およびアクセル開度センサ53等を接続している。
圧力センサ4は、燃料タンク2内の圧力(以下、タンク圧力と呼ぶ)を検出する。
温度センサ5は、燃料タンク2内の温度(以下、タンク燃料温度と呼ぶ)を検出する。
【0029】
燃料圧センサ31は、燃料ギャラリ27内のDMEの圧力を検出する。
燃料温センサ32は、燃料ギャラリ27内のDMEの温度を検出する。
燃料レベルセンサ51は、燃料タンク2内に充填または貯蔵されたDMEのうち、液相状態のDME(以下、液体DMEとも呼ぶ)の液面の高さを計測する。この燃料レベルセンサ51は、燃料タンク2内の液体DMEの液面レベルに応じて移動するフロートを有する周知の構造のものである。
【0030】
クランク角センサ52は、エンジン9のクランクシャフトの回転角度を電気信号(以下、パルス信号と呼ぶ)に変換するピックアップコイルよりなる。制御部8は、クランク角センサ52から出力されるパルス信号の間隔時間を計測することによりエンジン回転数を検出する回転速度検出部を兼ねている。
アクセル開度センサ53は、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出する。
【0031】
マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM等を備えている。このマイクロコンピュータは、エンジン9の運転状態、タンク圧力およびタンク燃料温度を取得するようになっている。また、取得した運転状態、タンク圧力およびタンク燃料温度に基づいて、フィードポンプ13、サプライポンプ16、インジェクタ18、電気ヒータ6、切替弁43、燃料冷却器30等へ駆動信号を出力するようになっている。
【0032】
ここで、制御部8は、制御データや制御プログラム等を記憶する記憶部を有している。制御データは、温度と圧力との影響によって、DMEが液相状態、気相状態および超臨界状態と変化する相状態を示している。
また、燃料タンク2内に戻されるDMEの加熱源として、エンジン9の作動時は、エンジン9の燃焼熱と排気熱を使用し、エンジン9の停止時は、電気ヒータ6を使用する。
なお、DMEの臨界点は、
図3に示したように、臨界温度400K=127℃、臨界圧力5.3MPaである。
【0033】
[実施例1の制御方法]
次に、本実施例の燃料タンク2内のDMEの温度制御方法を
図1ないし
図5に基づいて簡単に説明する。
ここで、
図4は、制御部8によるエンジン停止時におけるDMEの温度制御方法を示したフローチャートである。この
図4の制御ルーチンは、エンジンスイッチがOFFされた後に、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0034】
図4の制御ルーチンが起動するタイミングになると、先ず、ステップS11に進み、燃料タンク2内のDMEの相状態、燃料充填量(質量)や燃料充填率を推定するのに必要な各種センサからの出力信号を取得する。
このステップS11では、圧力センサ4からの出力信号に基づいてタンク圧力Ptankを読み込み、温度センサ5の出力信号に基づいてタンク燃料温度Tfuelを読み込む。
【0035】
次に、ステップS12では、タンク圧力Ptankが、停止時圧力しきい値Ps(例えば5.3MPa)を越える圧力であるか否かを判定する(停止時圧力判定部)。
このステップS12の判定結果がNOの場合、つまりPs≧Ptankの場合には、ステップS13の処理に進む。
このステップS13では、電気ヒータ6をOFFする。
具体的には、電気ヒータ6をOFFするように駆動回路に対して制御信号を出力する。その後、
図4の制御ルーチンを抜ける。
【0036】
また、ステップS12の判定結果がYESの場合、つまりPs<Ptankの場合には、ステップS14の判定に進む。
このステップS14では、タンク圧力Ptankが、燃料タンク2の耐圧許容上限値に対応した停止時圧力しきい値Pt(例えば15MPa)未満の圧力であるか否かを判定する。
このステップS14の判定結果がYESの場合、つまりPtank<Ptの場合には、ステップS15の判定に進む。
このステップS15では、タンク燃料温度Tfuelが、臨界温度である温度しきい値Ts(例えば400K)を越える温度であるか否かを判定する。
【0037】
また、ステップS15の判定結果がNOの場合、つまりTfuel≧Tsの場合には、ステップS16の処理に進む。
このステップS16では、タンク燃料温度Tfuelが、燃料タンク2の耐圧許容上限値に対応した温度上限値である温度しきい値Tt(例えば440K)を越える温度であるか否かを判定する。
このステップS16の判定結果がYESの場合、つまりTt<Tfuelの場合には、ステップS13の処理に進む。
【0038】
また、ステップS16の判定結果がNOの場合、つまりTt≧Tfuelの場合には、ステップS17の処理に進む。
このステップS17では、電気ヒータ6をONする(停止時加熱開始部)。
具体的には、電気ヒータ6をONするように駆動回路に対して制御信号を出力する。その後、
図4の制御ルーチンを抜ける。
【0039】
また、ステップS15の判定結果がYESの場合、つまりTfuel<Tsの場合には、ステップS17の処理に進む。以上の制御ルーチンがDMEを燃料タンク2に貯蔵する場合の説明である。
ここで、燃料タンク2内に液体DMEを充填する場合には、液化ガス充填装置によって燃料タンク2内に所定の圧力で液体DMEが充填されるようになっている。なお、燃料タンク2の容量の90%以上液体DMEを充填する場合には、電気ヒータ6をONして、燃料タンク2内のDMEを超臨界状態にすることが望ましい。
【0040】
次に、
図5は、制御部8によるエンジン作動時におけるDMEの温度制御方法を示したフローチャートである。この
図5の制御ルーチンは、エンジンスイッチがONされた後に、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
図5の制御ルーチンが起動するタイミングになると、先ず、ステップS21に進み、エンジン9の運転状態を計算するのに必要な各種センサからの出力信号を取得する。
このステップS21では、エンジン9の運転状態を読み込む。具体的には、燃料圧センサ31、燃料温センサ32、クランク角センサ52およびアクセル開度センサ53等の出力信号に基づいて燃料圧力、燃料温度、クランク角度およびアクセル開度等を読み込む。
【0041】
次に、ステップS22では、圧力センサ4の出力信号に基づいてタンク圧力Ptankを読み込み、温度センサ5の出力信号に基づいてタンク燃料温度Tfuelを読み込む。 次に、ステップS23では、タンク圧力Ptankが、臨界圧力である第1圧力しきい値Pa(例えば5.3MPa)を越える圧力であるか否かを判定する(第1圧力判定部)。なお、第1圧力しきい値は、燃料タンク2の圧力上昇による液体噴出や液漏れを防止したり、燃料タンク2の耐圧安全性を満たすタンク圧力許容値以下にしたりすることが可能な圧力に設定されている。
【0042】
また、ステップS23の判定結果がNOの場合、つまりPa≧Ptankの場合には、ステップS24の処理に進む。
このステップS24では、燃料加熱部41による余剰DMEの加熱を停止する(加熱停止部)。
具体的には、切替弁43のモータ54をOFFするように駆動回路に対して制御信号を出力する。これにより、切替弁43が、排気流路46を閉じ、バイパス流路47を開く。 次に、ステップS25では、燃料冷却器30による余剰DMEの冷却を開始する(冷却開始部)。
具体的には、燃料冷却器30へ冷却流体を供給するように駆動回路に対して制御信号を出力する。その後、
図5の制御ルーチンを抜ける。
【0043】
また、ステップS23の判定結果がYESの場合、つまりPa<Ptankの場合には、ステップS26の判定に進む。
このステップS26では、タンク圧力Ptankが、燃料タンク2の耐圧許容上限値に対応した第2圧力しきい値Pb(例えば15MPa)未満の圧力であるか否かを判定する(第2圧力判定部)。
このステップS26の判定結果がYESの場合、つまりPtank<Pbの場合には、ステップS27の判定に進む。
このステップS27では、タンク燃料温度Tfuelが、臨界温度である第1温度しきい値Ta(例えば400K)を越える温度であるか否かを判定する(第1温度判定部)。
【0044】
また、ステップS27の判定結果がYESの場合、つまりTfuel<Taの場合には、ステップS28の処理に進む。
このステップS28では、燃料加熱部41による余剰DMEの加熱を開始する(加熱開始部)。
具体的には、切替弁43のモータ54をONするように駆動回路に対して制御信号を出力する。これにより、切替弁43が、排気流路46を開き、バイパス流路47を閉じる。なお、ステップS28において、電気ヒータ6をONするように駆動回路に対して制御信号を出力しても良い。
その後、
図5の制御ルーチンを抜ける。
【0045】
また、ステップS27の判定結果がNOの場合、つまりTfuel≧Taの場合には、ステップS29の判定に進む。
このステップS29では、タンク燃料温度Tfuelが、燃料タンク2の耐圧許容上限値に対応した温度上限値である第2温度しきい値Tb(例えば440K)を越える温度であるか否かを判定する(第2温度判定部)。
このステップS29の判定結果がYESの場合、つまりTb<Tfuelの場合には、ステップS24の処理に進む。
また、ステップS29の判定結果がNOの場合、つまりTb≧Tfuelの場合には、ステップS30の処理に進む。
このステップS30では、燃料加熱部41による余剰DMEの加熱を継続する(加熱継続部)。その後、
図5の制御ルーチンを抜ける。
【0046】
また、ステップS26の判定結果がNOの場合、つまりPtank≧Pbの場合には、ステップS31の判定に進む。
このステップS31では、タンク燃料温度Tfuelが、燃料タンク2の耐圧許容上限値に対応した温度上限値である第3温度しきい値Tc(例えば440K)を越える温度であるか否かを判定する(第3温度判定部)。
このステップS31の判定結果がNOの場合、つまりTc≧Tfuelの場合には、ステップS28の処理に進む。
【0047】
また、ステップS31の判定結果がYESの場合、つまりTc<Tfuelの場合には、ステップS32の処理に進む。
このステップS32では、燃料加熱部41による余剰DMEの加熱を停止するとともに、電気ヒータ6をOFFする(加熱停止部)。
具体的には、切替弁43のモータ54をOFFするように駆動回路に対して制御信号を出力する。これにより、切替弁43が、排気流路46を閉じ、バイパス流路47を開く。 また、電気ヒータ6をOFFするように駆動回路に対して制御信号を出力する。その後、
図5の制御ルーチンを抜ける。
【0048】
[実施例1の効果]
以上のように、本実施例の燃料貯蔵システム1においては、
エンジン停止時に、燃料タンク内の液化ガス燃料の燃料タンクの容量に対する充填率の上限値を超えた際に、温度センサ5の検出値および圧力センサ4の検出値が、燃料タンク2内のDMEの臨界点を越える超臨界状態となる
場合があるように燃料加熱部41によりDMEを加熱している。これにより、燃料充填量の上限を規制する規定値よりも、燃料タンク2内の燃料充填量を増加した場合でも、DMEの温度上昇による体積弾性係数の低下に伴ってタンク圧力の上昇を抑えることができる。
したがって、臨界点を越える超臨界状態のDMEが燃料タンク2内に貯蔵されることになる。これにより、燃料充填量の上限を規制しつつ液相状態でDMEを燃料タンク2内に貯蔵する場合よりも、燃料タンク2内の燃料充填量を増やすことができる。
この結果、燃料タンク2内に貯蔵されるDMEの実質的な質量を増やすことができるので、DMEの質量の増加分を車両の走行距離に利用することができる。
【0049】
また、エンジン9を作動させることで、燃料タンク2内のDMEが消費されると、圧力センサ4の検出値がDMEの消費量に応じて低下していく。
そして、圧力センサ4の検出値であるタンク圧力Ptankが、所定のしきい値以下の圧力であると判定された場合には、燃料タンク2内の燃料充填量(残量)が、燃料充填量の上限を規制する規定値以下の量であると判断できる。このため、燃料タンク2およびDMEの加熱を停止しても、燃料タンク2とDMEとの熱膨張率の差に起因する液体噴出等を防止することができる。
【0050】
また、燃料タンク2とDMEの加熱を停止すると、温度低下によりタンク圧力Ptankが低下する。これにより、燃料タンク2内に液相状態のDMEが充満することはなく、タンク圧力Ptankを耐圧許容上限値以下にすることが可能となり、燃料タンク2の耐圧安全性を確保することができる。
したがって、DMEが消費されて液体DMEの残量が、燃料充填量の上限を規制する規定値以下の量になった場合には、燃料加熱部41によるDMEの加熱を停止することで、従来の気液混合での貯蔵に切り替わり、DMEを加熱するのに必要な熱エネルギーの消費を抑えることができる。
また、燃料タンク2内に液相状態のDMEが貯蔵されるため、液相状態のDMEの液面レベルを検出する、既存の燃料レベルセンサ51のままで燃料タンク2内における液体DMEの残量を測定することもできる。
【0051】
また、エンジン9の停止時に、圧力センサ4の検出値であるタンク圧力Ptankが、所定の停止時しきい値以下の圧力であると判定された場合には、燃料タンク2とDMEとの熱膨張率の差が2桁以上あり、燃料タンク2とDMEの温度低下による体積弾性係数の増加に伴う圧力上昇よりも、熱膨張率の差による体積縮小の方が大きく、タンク圧力Ptankが低下する。このため、外気温の高温時における、エンジン9の停止時であっても、液体DMEの残量が燃料タンク2の容量以下になった場合には、電気ヒータ6をOFFする。これにより、燃料タンク2とDMEとの熱膨張率の差に起因する液体噴出等を防止することができる。
【0052】
また、エンジン9の停止時に、タンク圧力Ptankが、所定の停止時しきい値を越える圧力であると判定された場合には、燃料タンク2内の燃料充填量(残量)が、燃料充填量の上限を規制する規定値を越えた量であると判断できる。この場合、エンジン9を停止することで、燃料加熱部41の作動が停止し、燃料タンク2とDMEの温度低下による体積弾性係数の増加に伴う圧力上昇を吸収できない恐れある。このため、燃料タンク2からの液体噴出等を防止する必要があり、燃料タンク2の断熱性を利用して燃料タンク2内のDMEを保温するとともに、電気ヒータ6による燃料タンク2とDMEの加熱を開始してDMEの温度を臨界点付近に維持する。
これによって、超臨界状態のDMEが燃料タンク2内に貯蔵されることにより、エンジン9の停止時であっても、燃料充填量の上限の規定値を越えた量のDMEを燃料タンク2内に貯蔵することができる。加えて、外気温等の温度上昇による燃料タンク2内の圧力上昇を起因とする、燃料タンク2からの液体噴出等を防止することができる。
【0053】
ここで、エンジン9の停止時における所定の停止時しきい値には、液体燃料を燃料タンク2に充填する際(満タン)に、燃料タンク2内の圧力が規制値(タンク燃料温度が85℃、液体燃料の充填率:100%)に対応した圧力(87MPa)を越えたか否かを判定するためのしきい値と、燃料を消費しても未だ燃料タンク2内の圧力が臨界点(5.3MPa)を越えているか否かを判定するためのしきい値とがある。
なお、液体燃料の充填率は、燃料タンク2の温度が上昇する程、小さくなる傾向にあり、燃料タンク2の圧力が上昇する程、大きくなる傾向にある。
また、液体燃料の体積弾性係数は、燃料タンク2の温度が低下する程、増加する傾向にある。
【0054】
また、燃料戻し流路20のうちの第1流路25を流れる余剰のDMEの温度が、所定の温度しきい値以下の温度の場合、サーモスタット28が第1流路25を開く。これにより、サプライポンプ16からリークした余剰のDMEは、燃料ギャラリ27においてエンジン9を冷却する冷却水と熱交換して昇温する。そして、昇温したDMEは、燃料タンク2内に戻されるため、燃料タンク2内の温度および圧力が上昇する。
また、第1流路25を流れる余剰のDMEの温度が、所定の温度しきい値を越える温度の場合、サーモスタット28が第1流路25を閉じる。これにより、サプライポンプ16からリークした余剰のDMEは、燃料ギャラリ27を迂回する第2流路26に流れ込む。
【0055】
そして、燃料戻し流路20のうちの第2流路26を流れる余剰のDMEの圧力が、所定の圧力しきい値を越える圧力の場合、圧力制御弁29が第2流路26を開く。これにより、所定の温度しきい値を越える温度のDMEは、燃料ギャラリ27を迂回して燃料タンク2内に戻される。
したがって、サプライポンプ16の加圧によって所定の温度しきい値を越える温度まで上昇した余剰のDMEとインジェクタ18とが、燃料ギャラリ27において熱伝達可能に接触しなくなる。このため、インジェクタ18が過剰に加熱されることで起きるインジェクタ18の故障を防止することができる。
【0056】
また、燃料加熱部41の熱源が、エンジン9から排出される排気熱である。これにより、エンジン9の排熱を利用してDMEを加熱しているので、電力を必要としない。
ところで、車両には、各種電気負荷への電力供給、およびバッテリへの充電を行うためにオルタネータ等の発電機が搭載されている。発電機は、エンジン9に駆動されて発電を行うため、燃料が消費される。
上述したように、DMEを加熱する際に電力を必要としないので、発電機による発電のための負荷を抑えることができる。このため、燃料の消費を抑えることができる。よって、燃費が良くなるので、車両の航続距離が長くなる。
【0057】
[変形例]
本実施例では、燃料加熱部の熱源として、エンジン9から排出される排気熱を利用しているが、燃料加熱部の熱源として、エンジン9を冷却する冷却水、あるいはエンジン9の各部を潤滑する潤滑油を利用しても良い。
エンジン9から排出される排気熱と液化ガス燃料とを熱交換して液化ガス燃料を加熱する場合には、燃料加熱部として排気熱回収器やEGRクーラを使用しても良い。
すなわち、排気ガスまたはEGRガスと熱交換させて液化ガス燃料を加熱しても良い。 また、燃料加熱部の熱源として、電力の供給を受けて液化ガス燃料を加熱する電気ヒータを使用しても良い。
また、燃料タンクを加熱する方法、エンジン9から排出される排気熱を利用しているが、燃料加熱部の熱源として、エンジン9を冷却する冷却水、あるいはエンジン9の各部を潤滑する潤滑油を利用しても良い。
【0058】
本実施例では、本発明を、燃料にDMEを利用するDME自動車の燃料貯蔵システム1に適用しているが、本発明を、燃料に液化石油ガス(LPG)を利用するLPG自動車の燃料貯蔵システム1に適用しても良い。
また、液化ガス燃料として、プロパン、ブタン、メタン等の液化ガス燃料を使用しても良い。また、液化ガス燃料として、メタノール、エタノール等のアルコール燃料を使用しても良い。
また、上述した各圧力しきい値Ps、Pt、Pa、Pb、Pcは、燃料タンク2内に充填または貯蔵される液化ガス燃料の種類、あるいは燃料タンク2の耐圧許容上限値によって変わる。
また、上述した各温度しきい値Ts、Tt、Ta、Tbは、燃料タンク2内に充填または貯蔵される液化ガス燃料の種類、あるいは燃料タンク2の耐圧許容上限値によって変わる。
本発明は、上述の実施例に限定されることなく、種々変形して実施することができる。