(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記側壁部は、前記加工熱冷却用クーラント供給経路の終端部において、前記クーラントの流方向に沿って前記底部よりも突出した突出部を含む請求項1に記載のワイヤソー。
前記加工熱冷却用クーラント供給経路は、始端部及び終端部における水平方向に対する傾斜角度よりも、前記始端部及び前記終端部の間で傾斜した傾斜部における水平方向に対する傾斜角度が大きい請求項1又は2に記載のワイヤソー。
前記加工熱冷却用クーラント供給経路の終端部上方に、前記被加工物から跳ね返る前記クーラントを前記加工熱冷却用クーラント供給経路の外部に誘導するクーラント誘導部を有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載のワイヤソー。
前記側壁部は、前記部品冷却用クーラント供給経路の終端部において、前記クーラントの流方向に沿って前記底部よりも突出した突出部を含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載のワイヤソー。
被加工物と接触する複数のローラ及び前記複数のローラの周面に対して所定のピッチで巻回されたワイヤを備えるワイヤソーに対して流体のクーラントを供給するクーラント供給装置であって、
前記クーラントを一時的に貯留するタンクと、
前記クーラントの外部貯留源から前記タンクに前記クーラントを供給する供給管と、
前記タンクからオーバーフローした前記クーラントを流路勾配によって供給し、前記被加工物と前記ワイヤとの加工熱を冷却する加工熱冷却用クーラント供給経路と、
前記タンクからオーバーフローした前記クーラントを流路勾配によって供給し、前記ローラ及び前記ローラ近傍に位置する前記ワイヤの熱を冷却する部品冷却用クーラント供給経路と、を備え、
前記加工熱冷却用クーラント供給経路は、前記クーラントの流路を形成する底部及び前記底部の両側面に配設された側壁部を有し、
前記部品冷却用クーラント供給経路は、前記クーラントの流路を形成する底部及び前記底部の両側面に配設された側壁部を有する、クーラント供給装置。
前記側壁部は、前記加工熱冷却用クーラント供給経路の終端部において、前記クーラントの流方向に沿って前記底部よりも突出した突出部を含む請求項9に記載のクーラント供給装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年において、被加工物であるウエハの薄型化(薄肉化)が要求されるとともに、その加工コストの低減も要求されている。これらの要求に対して、ワイヤ自体の細線化をすることによってワイヤによって削り取られる部分を小さくすること、ワイヤ間のピッチを狭くすることが行われている。例えば、細線化されたワイヤの直径は約80μmであり、ワイヤ間ピッチは約250μmとなる。
【0006】
しかしながら、所望のクーラント材料を水によって20倍以上に希釈化したクーラントが使用されるため、ワイヤ間のピッチが狭い場合にはその表面張力の作用によってワイヤ同士が寄り合う箇所が発生し、ワイヤの間隔にばらつきが生じることになる。このようなワイヤ同士の間隔にばらつきが生じると、スライスされた被加工物の厚みにばらつきが生じ、加工精度が低下することになる。さらには、製品としての歩留まりの低下にもつながってしまう。特に、噴出式のノズルから供給されたクーラントは、圧力や流速が高い為に供給時にムラの原因となる跳ね水(液の飛散)やクーラント中への気体の巻き込みによる発泡が生じやすい。噴出式のノズルを使用する限り、ノズルから案内板を介してクーラントの供給を行ったとしても、当該ムラを十分に抑制することは極めて困難である。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ワイヤの細線化及びワイヤ間の狭ピッチ化を図りつつ、優れた加工精度を有し、かつ歩留まりの高い加工を実現するワイヤソーを提供することにある。また、クーラントを所望の領域に対して均一に供給することができるクーラント供給装置を提供することになる。更に、被加工物の薄型化(薄肉化)を図りつつ、優れた加工精度を有し、かつ歩留まりの高い被加工物の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明の第1の態様は、被加工物を加工する際に流体のクーラントを使用するワイヤソーであって、複数のローラと、前記複数のローラの周面に対して所定のピッチで巻回されたワイヤと、前記クーラントを一時的に貯留し、前記ローラ及び前記ワイヤよりも上方に配置されたタンクと、前記クーラントの外部貯留源から前記タンクに前記クーラントを供給する供給管と、前記タンクからオーバーフローした前記クーラントを流路勾配によって供給し、前記被加工物と前記ワイヤとの加工熱を冷却する加工熱冷却用クーラント供給経路と、
前記タンクからオーバーフローした前記クーラントを流路勾配によって供給し、前記ローラ及び前記ローラ近傍に位置する前記ワイヤの熱を冷却する部品冷却用クーラント供給経路と、を備え、前記加工熱冷却用クーラント供給経路は、前記クーラントの流路を形成する底部及び前記底部の両側面に配設された側壁部
を有し、前記部品冷却用クーラント供給経路は、前記クーラントの流路を形成する底部及び前記底部の両側面に配設された側壁部を有していることである。
【0009】
本発明の第1の態様においては、タンク及び加工熱冷却用クーラント供給経路の構造から、タンクからオーバーフローしたクーラントのみを加工熱冷却用クーラント供給経路を介して自然落下させ、加工点の周囲にクーラントを供給することになる。これにより、クーラントの供給ムラの原因となる跳ね水(液の飛散)やクーラント中への空気の巻き込みによる発泡が抑制され、加工点に位置する全てのワイヤに対して均一にクーラントを供給することができ、クーラントWの供給に伴うワイヤ同士の間隔のばらつきを抑制することができる。従って、第1の態様のワイヤソーにおいては、ワイヤの細線化及びワイヤ間の狭ピッチ化を図ったとしても、優れた加工精度を実現できる。また、製品としての被加工物の歩留まり向上にも寄与することができる。
また、ローラ及びワイヤを確実に冷却することができ、加工精度の向上、ローラ及びワイヤ等の各種部品の摩耗の防止を図ることができる。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、上記本発明の第1の態様において、前記側壁部は、前記加工熱冷却用クーラント供給経路の終端部において、前記クーラントの流方向に沿って前記底部よりも突出した突出部を含むことである。これにより、加工熱冷却用クーラント供給経路の終端部においてクーラントを収束させることなく、クーラントのより均一な供給を図ることができる。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、上記本発明の第1又は第2の態様において、前記加工熱冷却用クーラント供給経路は、始端部及び終端部における水平方向に対する傾斜角度よりも、前記始端部及び前記終端部の間で傾斜した傾斜部における水平方向に対する傾斜角度が大きいことである。これにより、各クーラント供給経路を流れるクーラントを整流することができ、クーラントのより均一な供給を図ることができる。
【0012】
本発明の第4の態様によれば、上記本発明の第1乃至第3の態様のいずれかにおいて、前記加工熱冷却用クーラント供給経路に、前記クーラントの流量に応じてその開度を自動調整する整流板を有することである。これにより、各クーラント供給経路を流れるクーラントを整流することができ、クーラントのより均一な供給を図ることができる。
【0013】
本発明の第5の態様によれば、上記本発明の第1乃至第4の態様のいずれかにおいて、前記加工熱冷却用クーラント供給経路の終端部上方に、前記被加工物から跳ね返る前記クーラントを前記加工熱冷却用クーラント供給経路の外部に誘導するクーラント誘導部を有することである。これにより、跳ね返ったクーラントが加工熱冷却用クーラント供給経路に戻ることがなくなり、クーラントのより均一な供給を図ることができる。
【0014】
本発明の第6の態様によれば、上記本発明の第1乃至第5の態様のいずれかにおいて、前記クーラントが前記供給管から供給される供給領域を囲む仕切板を前記タンク内に有し、前記仕切板は、前記クーラントを通過可能とするメッシュ部を備えることである。これにより、タンク内におけるクーラントの整流及びクーラント内のごみの除去を行うことができる。
【0015】
本発明の第7の態様によれば、上記本発明の第1乃至第6の態様のいずれかにおいて、前記供給管の供給口は、前記タンク内に位置することである。これにより、タンクに供給されるクーラント中への気体の巻込みによる発泡が防止される。
【0017】
本発明の第
8の態様によれば、上記本発明の
第1乃至第7のいずれかの態様において、前記側壁部は、前記部品冷却用クーラント供給経路の終端部において、前記クーラントの流方向に沿って前記底部よりも突出した突出部を含むことである。これにより、ローラ及びワイヤをより確実かつ効率的に冷却することができ、ローラ及びワイヤ等の各種部品の摩耗の防止を図ることができる。
【0018】
また、上述した目的を達成するため、本発明の第
9の態様は、被加工物と接触する複数のローラ及び前記複数のローラの周面に対して所定のピッチで巻回されたワイヤを備えるワイヤソーに対して流体のクーラントを供給するクーラント供給装置であって、前記クーラントを一時的に貯留するタンクと、前記クーラントの外部貯留源から前記タンクに前記クーラントを供給する供給管と、前記タンクからオーバーフローした前記クーラントを流路勾配によって供給し、前記被加工物と前記ワイヤとの加工熱を冷却する加工熱冷却用クーラント供給経路と、
前記タンクからオーバーフローした前記クーラントを流路勾配によって供給し、前記ローラ及び前記ローラ近傍に位置する前記ワイヤの熱を冷却する部品冷却用クーラント供給経路と、を備え、前記加工熱冷却用クーラント供給経路は、前記クーラントの流路を形成する底部及び前記底部の両側面に配設された側壁部
を有し、前記部品冷却用クーラント供給経路は、前記クーラントの流路を形成する底部及び前記底部の両側面に配設された側壁部を有していることである。
【0019】
本発明の第
9の態様においては、タンク及び加工熱冷却用クーラント供給経路の構造から、タンクからオーバーフローしたクーラントのみを加工熱冷却用クーラント供給経路を介して自然落下させ、加工点の周囲にクーラントを供給することになる。これにより、クーラントの供給ムラの原因となる跳ね水(液の飛散)やクーラント中への空気の巻き込みによる発泡が抑制され、加工点に位置する全てのワイヤに対して均一にクーラントを供給することができ、クーラントWの供給に伴うワイヤ同士の間隔のばらつきを抑制することができる。換言すると、第
9の態様に係るクーラント供給装置においては、クーラントを所望の領域に対して均一に供給することができる。
【0020】
本発明の第
10の態様は、本発明の第
9の態様において、前記側壁部は、前記加工熱冷却用クーラント供給経路の終端部において、前記クーラントの流方向に沿って前記底部よりも突出した突出部を含むことである。これにより、加工熱冷却用クーラント供給経路の終端部においてクーラントを収束させることなく、クーラントのより均一な供給を図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ワイヤの細線化及びワイヤ間の狭ピッチ化を図りつつ、優れた加工精度を有し、かつ歩留まりの高い加工を実現するワイヤソーを提供することができる。また、クーラントを所望の領域に対して均一に供給することができるクーラント供給装置を提供することができる。更に、被加工物の薄型化(薄肉化)を図りつつ、優れた加工精度を有し、かつ歩留まりの高い被加工物の加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明のワイヤソー、クーラント供給装置、被加工物の加工方法について詳細に説明する。なお、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、各実施例の説明に用いる図面は、いずれも本発明に係るワイヤソー及びクーラント供給装置を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、又は省略等を行っており、各構成部分の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。更に、各実施例で用いる様々な数値は、いずれも一例を示すものであり、必要に応じて様々に変更することが可能である。
【0027】
<実施例1>
(ワイヤソー及びクーラント供給装置の構造)
先ず、
図1乃至
図3を参照し、実施例1に係るワイヤソー及び当該ワイヤソーに用いられるクーラント供給装置について詳細に説明する。ここで、
図1は、実施例1に係るワイヤソーの概略構成図である。また、
図2は、実施例1に係るクーラント供給装置の部分拡大斜視図である。更に、
図3は、実施例1に係るクーラント供給装置の先端におけるクーラントの流れを示す模式図である。
【0028】
図1に示すように、実施例1に係るワイヤソー1は、複数のローラ(
図1においては、2つの主軸ローラ2のみを示す)、及び当該複数のローラの周面に対して所定のピッチで巻回されたワイヤ3を有している。また、ワイヤソー1は、スライス加工がなされる被加工物4を支持する基台5及び取付け治具6を有している。更に、ワイヤソー1は、ワイヤ3及び被加工物4に対してクーラントWを供給するための2つのクーラント供給経路7、及びクーラントWを一時的に貯留する2つのタンク11、クーラントWの外部貯留源12から各タンク11にクーラントWを供給する2つの供給管13を有している。
【0029】
なお、本実施例において、2つのクーラント供給経路7、2つのタンク11、及び2つの供給管13についてはそれぞれが同一の構造であり、被加工物4に対して左右対称となるように配置されることになる。但し、このような配置に限定されることなく、被加工物4の特性及びワイヤ3の走行方向に応じて、これらの部材の配置を適宜調整することができる。
【0030】
ここで、被加工物4は、例えば、半導体材料、磁性材料、焼結体(セラミックス)、貴金属、化合物結晶体、熱電材料、超硬合金、複合材料、セラミックス、又はガラス等である。また、クーラントWは、液状(水溶性タイプ)のものが使用される。例えば、クーラントWには、グリコール等を水によって20倍以上に希釈したものが使用される。
【0031】
本実施例において、ワイヤ3の直径は、約50μm〜80μmであり、ワイヤピッチが約140μm〜250μmに調整されている。ワイヤ3の端部のそれぞれは、図示しない2つの巻き取りローラに巻回されており、ワイヤ3は一方向または逆方向に走行することができる。そして、これらの相反する方向への走行を周期的に繰り返して行う。すなわち、ワイヤ3の走行方向とは、一方の(
図1内の左側に配置された)主軸ローラ2から他方の(
図1内の右側に配置された)主軸ローラ2へ向かう方向、又は他方の主軸ローラ2から一方の主軸ローラ2へ向かう方向となる。
【0032】
基台5は、取付け治具6を介して被加工物4を支持する。また、基台5には、主軸ローラ2の間に巻回されたワイヤ3に対して直交する方向(
図1においては、上下方向)に被加工物4を移動させるための移動機構(図示せず)が設けられている。これにより、走行するワイヤ3に対して被加工物4を上方から押し付けることができ、被加工物4をワイヤ3の間隔でスライスすることができる。すなわち、スライスされた被加工物4の厚みは、約80μm〜150μmとなる。なお、被加工物4の材質に応じて、ワイヤ3の強度及び材質、並びに走行速度等を適宜調整してもよい。
【0033】
外部貯留源12は、クーラントWを貯留することができる一般的なタンクである。外部貯留部9は、例えば一般的な金属(炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、銅など)または樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリエチレンなど)から構成されてもよく、好ましくは優れた断熱特性を備えているか、又は断熱材料によって被覆されている。これにより、外部貯留部9におけるクーラントWの温度上昇が抑制される。また、外部貯留源12には、ポンプ等の駆動源が設けられており、当該駆動源を駆動させ、クーラントWを外部に排出(供給)することになる。更に、外部貯留源12には、ワイヤソー1のタンク11にクーラントWを供給するため供給管13が接続されている。
【0034】
供給管13は、一端が外部貯留源12に接続され、他端である供給口13aがタンク11内に配設されている。供給管13は、例えば一般的な金属(炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、銅など)または樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリエチレンなど)から構成されてもよく、好ましくは優れた断熱特性を備えているか、又は断熱材料によって被覆されている。これにより、ワイヤ3への供給前におけるクーラントWの温度上昇を防止することができる。このような供給管の接続構成により、外部貯留源12から排出されるクーラントWは、外部貯留源12に接続された供給管13を経由して、ワイヤソー1のタンク11に供給される。
【0035】
タンク11は、主軸ローラ2及びワイヤ3よりも上方に配設されており、供給管13から供給されるクーラントWを一時的に貯留する。タンク11も、例えば一般的な金属(炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、銅など)または樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリエチレンなど)から構成されてもよく、クーラントWの温度上昇を抑制する観点から好ましくは優れた断熱特性を備えているか、又は断熱材料によって被覆されている。本実施例において、供給管13の供給口13aがタンク11内に配設されているため、当該供給口13aは、クーラントWに浸漬することになる。これにより、クーラントWをタンク11に供給する際に、クーラントWに気体が混入することがなくなり、タンク11内における気泡の発生が防止される。
【0036】
また、タンク11は、一部の側壁の高さが残部の側壁の高さよりも小さくなっている。ここで、当該高さの小さい側壁を第1側壁部11aと定義し、側壁部8aよりも高さが大きい残部の側壁を第2側壁部11bとする。
図1に示すように、第1側壁部11aの上端にはクーラント供給経路7が接続されている。このようなタンク11の構造及び、クーラント供給経路7との接続構成により、タンク11からオーバーフローした(すなわち、あふれ出した)クーラントWが、クーラント供給経路7を経由してワイヤ3及び被加工物4に向けて供給されることになる。このようにクーラントWをオーバーフローさせることにより、クーラントWを整流してクーラント供給経路7に放出している。
【0037】
クーラント供給経路7は、タンク11から被加工物4の近傍まで延在している。また、クーラント供給経路7は、クーラントWの流路と主軸ローラ2同士の間で走行するワイヤ3とがオーバーラップするように(すなわち、上下方向において重なるように)、その延在方向が調整されている。本実施例におけるクーラントWの最終的な供給先は、ワイヤ3と被加工物4とが接触する加工点(以下において加工領域とも称する)である。このようなクーラントWの供給を行うことにより、当該加工点にて生じる加工熱の冷却を行うことが可能になる。すなわち、本実施例のクーラント供給経路7は、加工熱冷却用クーラント供給経路として機能することになる。
【0038】
また、
図2に示すように、クーラント供給経路7は、クーラントWの流路を形成する底部21及び底部21の両側面に配設された側壁部22を有している。また、クーラント供給経路7は、タンク11側に位置する始端部23、被加工物4の近傍に位置する終端部24、及び始端部23から終端部24に向けて傾斜した(すなわち、被加工物4及びワイヤ3に向けて下降傾斜した)傾斜部25から構成されている。更に、
図1及び
図2から分かるように、本実施例において、始端部23及び終端部24は水平になっており、傾斜部25と比較して傾斜角度が小さくなっている。そして、終端部24は、ワイヤ3による被加工物4の加工点近傍にまで延在している。なお、クーラント供給経路7は、底部21及び側壁部22が一体的に形成されてもよく、異なる板状部材を接合することによって形成されてもよい。
【0039】
このようなクーラント供給経路7の構造により、タンク11からオーバーフローしたクーラントWは、始端部23まで広がり、傾斜部25によって自然落下し、終端部24を経由して加工点の周囲に到達することになる。ここで、側壁部22を設けることにより、オーバーフローしたクーラントWの収束を抑制することができ、クーラントWの厚み(深さ)を均一に調節することができる。また、クーラント供給経路7の幅(すなわち、2つの側壁部22の離間距離)は、ワイヤ3の巻回幅と同一又はそれ以上に設定されている。このような幅の設定により、主軸ローラ2間の全てのワイヤ3に対して、クーラントWを供給することが可能になる。なお、自然落下とは、クーラントWに対して落下方向に他の外力を加えることなく、重力のみによってクーラントWを上方から下方に流すことである。
【0040】
更に、
図2に示すように、側壁部22は、クーラント供給経路7の終端部24において、クーラントWの流方向に沿って底部21よりも突出した突出部26を含んでいる。換言すると、クーラント供給経路7においては、側壁部22が底部21よりも長く延在している。ここで、2つの突出部26は、平行となるように設けられている。このような突出部26を設ける理由は、終端部24におけるクーラントWの表面張力により、クーラントWの幅が小さくなることを防止するためである。従って、本実施例においては、
図3に示すように、クーラントWの幅を維持しつつ、加工点の周囲にクーラントWを供給することができる。すなわち、本実施例においては、クーラントWの流れが終端部24において収束することがなく、加工点の周囲へのクーラントWの供給をより均一に行うことができる。なお、
図3において、クーラントWの流れを矢印にて示し、ワイヤ3を破線で示している。
【0041】
なお、本実施例において、始端部23及び終端部24は水平に設けられていたが、傾斜部25の傾斜角度よりも小さい範囲内において、始端部23及び終端部24を傾斜させてもよい。
【0042】
以上のように、本実施例においては、タンク11及びクーラント供給経路7の構造から、タンク11からオーバーフローしたクーラントWのみをクーラント供給経路7を介して自然落下させ、終端部24においてクーラントWを収束させることなく、加工点の周囲にクーラントWを供給することになる。これにより、加工点に位置する全てのワイヤ3に対して均一にクーラントWを供給することができるため、クーラントWの供給に伴うワイヤ3同士の間隔のばらつきを抑制することができ、優れた加工精度及び歩留まりの高い加工を実現することができる。
【0043】
そして、本実施例においては、クーラント供給経路7、タンク11、供給管13から構成されるクーラント供給装置41が2つ設けられていることになる。このようなクーラント供給装置41の構造により、クーラントWを所望の領域(すなわち、加工点)に対して均一に供給することができる。なお、クーラント供給装置41の設置台数は、加工点にて生じる加工熱の熱量に応じて適宜変更することができ、例えば1台のみであってもよく、3台以上であってもよい。
【0044】
(被加工物の加工方法)
次に、本実施例に係る被加工物の加工方法について説明する。本実施例に係る被加工物の加工方法においては、上述したワイヤソー1が使用されることになる。具体的には、主軸ローラ2及びその他のローラ(巻き取りローラ)の周面に対して所定のピッチで巻回されたワイヤ3を走行させる(ワイヤ走行工程)。具体的なワイヤ3の走行方法としては、当該他のローラに接続したモータを駆動させ、ワイヤ3を巻き取るように一定の方向又はこれとは逆の方向に向けて走行させ、且つ所定周期でワイヤ3の走行方向を切り替える。
【0045】
次に、基台5をワイヤ3に向って下降させ、基台5に支持された被加工物4をワイヤ3に接触させる。当該接触により、ワイヤ3の走行に沿って被加工物4が削りとられ、被加工物4がスライスされる(加工工程)。
【0046】
当該加工工程を行いつつ、クーラント供給経路7の流路勾配(すなわち、傾斜部25の傾斜)を利用して、タンク11からオーバーフローさせたクーラントWを加工点の周囲に供給し、ワイヤ3と被加工物4との加工熱を冷却する(加工熱冷却工程)。当該加工熱冷却工程においては、クーラント供給経路7の突出部26により、クーラントWの流路幅を一定にさせる。これにより、加工点に位置する全てのワイヤ3に対して均一にクーラントWを供給することができるため、クーラントWの供給に伴うワイヤ3同士の間隔のばらつきを抑制することができ、優れた加工精度及び歩留まりの高い加工を実現することができる。
【0047】
<実施例2>
実施例1においては、加工点の加工熱を冷却するために、タンク11から加工点の近傍に向けて延在するクーラント供給経路7を設置していたが、更に主軸ローラ2及びその近傍に位置するワイヤ3に生じる熱を冷却するための部品冷却用のクーラント供給経路を更に設けてもよい。以下において、部品冷却用のクーラント供給経路が更に設けられたワイヤソー及びクーラント供給装置を実施例2とし、
図4乃至
図9を参照しつつ説明する。ここで、
図4は、実施例2に係るワイヤソーの概略構成図である。また、
図5は、実施例2に係るワイヤソーのタンク内に設けられる仕切板の正面図である。
図6は、実施例2に係る第1クーラント供給装置の部分拡大斜視図である。
図7及び
図8は、実施例2に係るワイヤソーに設けられる整流板の動作を説明するための概略図である。
図9は、実施例2に係る第1クーラント供給装置の部分拡大正面図である。
【0048】
(ワイヤソー及びクーラント供給装置の構造)
図4に示すように、実施例2に係るワイヤソー101は、複数のローラ(
図4においては、2つの主軸ローラ102のみを示す)、及び当該複数のローラの周面に対して所定のピッチで巻回されたワイヤ103を有している。また、ワイヤソー101は、スライス加工がなされる被加工物104を支持する基台105及び取付け治具106を有している。更に、ワイヤソー101は、加工点に対してクーラントWを供給するための2つの第1クーラント供給経路107、並びに主軸ローラ102及びこれに巻回されたワイヤ103に対してクーラントWを供給するための2つの第2クーラント供給経路108を有している。そして、ワイヤソー101は、クーラントWを一時的に貯留する2つのタンク111、クーラントWの外部貯留源112から各タンク111にクーラントWを供給する2つの供給管113を有している。
【0049】
なお、本実施例において、2つの第1クーラント供給経路107、2つの第2クーラント供給経路108、2つのタンク111、及び2つの供給管113についてはそれぞれが同一の構造であり、被加工物104に対して左右対称となるように配置されることになる。但し、このような配置に限定されることなく、被加工物104の特性及びワイヤ103の走行方向に応じて、これらの部材の配置を適宜調整することができる。
【0050】
また、主軸ローラ102、ワイヤ103、被加工物104、基台105、取付け治具106、外部貯留源112、及び供給管113の構造のぞれぞれは、実施例1における主軸ローラ2、ワイヤ3、被加工物4、基台5、取付け治具6、外部貯留源12、及び供給管13に対応し且つ構造が同一であるため、各部材の説明は省略し、実施例1と異なる構造及び部材について詳細に説明する。更に、クーラントWも、実施例1と同一であるため、その説明を省略する。
【0051】
タンク111は、実施例1のタンク11と同様に、主軸ローラ102及びワイヤ103よりも上方に配設されており、供給管113から供給されるクーラントWを一時的に貯留する。タンク111も、実施例1のタンク11と同様に、例えば一般的な金属(炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、銅など)または樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリエチレンなど)から構成されてもよく、クーラントWの温度上昇を抑制する観点から好ましくは優れた断熱特性を備えているか、又は断熱材料によって被覆されている。本実施例においても、供給管113の供給口113aがタンク11内に配設されているため、当該供給口113aがクーラントWに浸漬することになり、タンク11内における気泡の発生が防止されている。
【0052】
また、タンク111は、第1クーラント供給経路107に接続されている部分の第1側壁部111aと、第2クーラント供給経路108に接続されている部分の第2側壁部111bとの高さが同一となっている。このため、タンク111からオーバーフローしたクーラントWは、第1クーラント供給経路107及び第2クーラント供給経路108に対して均等に供給されることになる。そして、クーラントWをオーバーフローさせることにより、クーラントWを整流して第1クーラント供給経路107及び第2クーラント供給経路108に放出している。
【0053】
更に、
図4に示すように、タンク111の内部には、供給管113の供給口113aの周囲(すなわち、クーラントWの供給領域)を囲むように、仕切板114が設けられている。そして、
図5に示すように、仕切板114は、仕切板114によって囲まれた領域からその外側に向けてクーラントWを通過可能とするメッシュ部114aを備えている。例えば、仕切板114は、金属又は樹脂等の材料から構成され、当該材料に対して複数の開口が形成されることによりメッシュ部114aが構成されてもよく、メッシュ部114aに対応する開口部分に一般的なフィルターを設置してもよい。このような仕切板114を設けることにより、供給口113aから放出されるクーラントWの整流、及びクーラントW内のごみを除去することができる。なお、仕切板114は着脱自在となっており、メッシュ部114aに付着したごみを容易に回収することができる。
【0054】
第1クーラント供給経路107は、タンク111から被加工物104の近傍まで延在している。また、第1クーラント供給経路107は、クーラントWの流路と主軸ローラ102同士の間で走行するワイヤ103とがオーバーラップするように、その延在方向が調整されている。第1クーラント供給経路107によるクーラントWの最終的な供給先は、ワイヤ103と被加工物104とが接触する加工点である。このようなクーラントWの供給を行うことにより、当該加工点にて生じる加工熱の冷却を行うことが可能になる。すなわち、本実施例の第1クーラント供給経路107は、加工熱冷却用クーラント供給経路として機能することになる。
【0055】
図6に示すように、第1クーラント供給経路107は、実施例1のクーラント供給経路7と同様に、クーラントWの流路を形成する底部121及び底部121の両側面に配設された側壁部122を有している。また、第1クーラント供給経路107は、実施例1のクーラント供給経路7と同様に、タンク111側に位置する始端部123、被加工物104の近傍に位置する終端部124、及び始端部123から終端部124に向けて傾斜した傾斜部125から構成されている。更に、
図4及び
図6から分かるように、本実施例においても、始端部123及び終端部124は水平になっており、傾斜部125と比較して傾斜角度が小さくなっている。そして、終端部124は、ワイヤ103による被加工物104の加工点近傍にまで延在している。
【0056】
このような第1クーラント供給経路107の構造により、タンク111からオーバーフローしたクーラントWは、始端部123まで広がり、傾斜部125によって自然落下し、終端部124を経由して加工点の周囲に到達することになる。また、第1クーラント供給経路107の幅は、ワイヤ103の巻回幅と同一又はそれ以上に設定されている。このような幅の設定により、主軸ローラ102間の全てのワイヤ103に対して、クーラントWを供給することが可能になる。
【0057】
また、
図6に示すように、側壁部122は、実施例1の側壁部22と同様に、第1クーラント供給経路107の終端部124において、クーラントWの流方向に沿って底部121よりも突出し且つ平行に設置された突出部126を含んでいる。当該突出部126により、終端部124におけるクーラントWの表面張力に起因するクーラントWの幅の収束を防止することができる。従って、本実施例においても、クーラントWの幅を維持しつつ、加工点の周囲にクーラントWを供給することができる。
【0058】
更に、
図4からわかるように、第1クーラント供給経路107の傾斜部125の上方には、整流板127が設けられている。より具体的に、整流板127は、始端部123と傾斜部125との境界近傍であって、傾斜部125の上方に設けられている。整流板127は、クーラントWと接触してクーラントWを整流する板部127a、及び板部127aを回動自在に支持する支持部127bから構成されている。
図7及び
図8に示すように、整流板127は、クーラントWの流量に応じて、板部127aの開度が自動的に調整されることになる。より具体的には、クーラントWの流量が比較的に大きい場合(
図7の場合)には、板部127aと傾斜部125との離間距離がより大きくなるように板部127aが回動し、クーラントWの流量が比較的に小さい場合(
図8の場合)には、板部127aと傾斜部125との離間距離がより小さくなるように回動し、クーラントWの流量を調整して整流している。なお、整流板127の設置箇所は、始端部123と傾斜部125との境界近傍であって傾斜部125の上方に限定されることなく、整流効果を奏することができれば、第1クーラント供給経路107のいずれの場所に設けてもよい。
【0059】
そして、
図4、
図6、及び
図9に示すように、第1クーラント供給経路107の終端部124から傾斜部125の一部にかけて、被加工物104に衝突して跳ね返るクーラントWを第1クーラント供給経路107の外部に誘導するクーラント誘導部128が設けられている。また、
図6に示すように、クーラント誘導部128は、傾斜部125上において傾斜部125と平行となるように傾斜した第1側壁部128a、終端部124上において中央から両端に傾斜した底部128b、及び終端部124の端部上から基台105に向って上向きに傾斜した第2側壁部128cから構成されている。更に、
図6及び
図9から分かるように、クーラント誘導部128の幅は、第1クーラント供給経路107の幅及び巻回されたワイヤ103の幅よりも広くなっている。
【0060】
このようなクーラント誘導部128の構成により、被加工物104に衝突して跳ね返ることによってクーラント誘導部128上に到達したクーラントWは、第1クーラント供給経路107の両端(すなわち、側壁部122側)に向けて案内され、第1クーラント供給経路107の外部に排出されることになる。従って、クーラントWが跳ね返ったとしても、第1クーラント供給経路107に戻ることが低減され、第1クーラント供給経路107の流れるクーラントWへの影響を大幅に低減することができる。すなわち、第1クーラント供給経路107から加工点の近傍に供給されるクーラントWの供給ばらつきを低減することができる。
【0061】
一方、第2クーラント供給経路108は、タンク111から主軸ローラ102の上方まで延在している。また、第2クーラント供給経路108の一部は、クーラントWの流路と主軸ローラ102同士の間で走行するワイヤ103とオーバーラップするように、その延在方向が調整されている。第2クーラント供給経路108によるクーラントWの最終的な供給先は、主軸ローラ102及びこれに巻回された状態のワイヤ103、すなわちワイヤソー101の加工熱を伝播しやすい部品か、またはその影響の受けやすい部品である。このようなクーラントWの供給を行うことにより、当該部品の熱の冷却を行うことが可能になる。すなわち、本実施例の第2クーラント供給経路108は、部品冷却用クーラント供給経路として機能することになる。
【0062】
また、
図4に示すように、第2クーラント供給経路108は、第1クーラント供給経路107が接続されたタンク111の一端とは反対側の他端から水平方向に延在する始端部133、始端部133の一端から下方に向けて傾斜した第1傾斜部134、第1傾斜部134から離間し且つ主軸ローラ102に向けて傾斜した第2傾斜部135、主軸ローラ102の上方において水平に設置された終端部136から構成されている。従って、第2クーラント供給経路108においても、始端部133及び終端部136は水平になっており、第1傾斜部134及び第2傾斜部135と比較して傾斜角度が小さくなっている。
【0063】
更に、第2クーラント供給経路108は、実施例1のクーラント供給経路7及び実施例2の第1クーラント供給経路107と同様に、クーラントWの流路を形成する底部及び底部の両側面に配設された側壁部を有している。なお、
図4においては、底部に対応する部材のみが記載されている。
【0064】
そして、第2傾斜部135の端部であって第1傾斜部134の下方には、整流板137が設けられている。整流板137は、整流板127と同様に、クーラントWと接触してクーラントWを整流する板部137a、及び板部137aを回動自在に支持する支持部137bから構成されている。整流板137は、第1傾斜部134から流れ落ちるクーラントWの流量に応じて、その開度を自動的に調整することができる。例えば、クーラントWの流量が大きくなると、板部137aが第2傾斜部135に近づくように回動し、クーラントWの流量が小さくなると、板部137aが第1傾斜部134に近づくように回動する。
【0065】
このような第2クーラント供給経路108の構造により、タンク111からオーバーフローしたクーラントWは、始端部133まで広がり、第1傾斜部134によって自然落下し、整流板137に到達する。更に、整流板137によって整流されたクーラントWは、第2傾斜部によって自然落下し、終端部136を経由して主軸ローラ102及びこれに巻回されたワイヤ103に到達することになる。そして、第2クーラント供給経路108の幅は、ワイヤ103の巻回幅と同一又はそれ以上に設定されている。このような幅の設定により、主軸ローラ102に巻回された全てのワイヤ103に対して、クーラントWを供給することが可能になる。
【0066】
また、第2クーラント供給経路108の側壁部(図示せず)も、実施例1の側壁部22及び第1クーラント供給経路107の側壁部122と同様に、第2クーラント供給経路108の終端部136において、クーラントWの流方向に沿って底部よりも突出し且つ平行に設置された突出部(図示せず)を含んでいる。当該突出部により、終端部136におけるクーラントWの表面張力に起因するクーラントWの幅の収束を防止することができる。従って、第2クーラント供給経路108においても、クーラントWの幅を維持しつつ、主軸ローラ102及びこれに巻回されたワイヤ103にクーラントWをより均一に供給することができる。
【0067】
以上のように、本実施例においても、タンク111、第1クーラント供給経路107及び第2クーラント供給経路108の構造から、タンク111からオーバーフローしたクーラントWのみを各クーラント供給経路を介して自然落下させ、各終端部において収束させることなく所望の領域(加工点及び主軸ローラ102)に供給することになる。これにより、当該所望の領域に配置される全てのワイヤ103及び主軸ローラ102に対して均一にクーラントWを供給することができるため、クーラントWの供給に伴うワイヤ103同士の間隔のばらつきを抑制することができ、優れた加工精度及び歩留まりの高い加工を実現することができる。
【0068】
そして、本実施例においては、第1クーラント供給経路107、第2クーラント供給経路108、タンク111、及び供給管113から構成されるクーラント供給装置141が2つ設けられていることになる。このようなクーラント供給装置141の構造により、クーラントWを所望の領域に対して均一に供給することができる。なお、クーラント供給装置141の設置台数は、加工熱の熱量及び予測される部品の温度上昇に応じて適宜変更することができる。
【0069】
(被加工物の加工方法)
次に、本実施例に係る被加工物の加工方法について説明する。本実施例に係る被加工物の加工方法においては、上述したワイヤソー101が使用されることになる。具体的には、主軸ローラ102及びその他のローラ(巻き取りローラ)の周面に対して所定のピッチで巻回されたワイヤ103を走行させる(ワイヤ走行工程)。具体的なワイヤ103の走行方法としては、当該他のローラに接続したモータを駆動させ、ワイヤ103を巻き取るように一定の方向又はこれとは逆の方向に向けて走行させ、且つ所定周期でワイヤ103の走行方向を切り替える。
【0070】
次に、基台105をワイヤ103に向って下降させ、基台105に支持された被加工物104をワイヤ103に接触させる。当該接触により、ワイヤ103の走行に沿って被加工物104が削りとられ、被加工物104がスライスされる(加工工程)。
【0071】
当該加工工程を行いつつ、第1クーラント供給経路107の流路勾配(すなわち、傾斜部125の傾斜)を利用して、タンク111からオーバーフローさせたクーラントWを加工点の周囲に供給し、ワイヤ103と被加工物104との加工熱を冷却する(加工熱冷却工程)。当該加工熱冷却工程においては、第1クーラント供給経路107の突出部126により、クーラントWの流路幅を一定にさせる。これにより、加工点に位置する全てのワイヤ103に対して均一にクーラントWを供給することができるため、クーラントWの供給に伴うワイヤ103同士の間隔のばらつきを抑制することができ、優れた加工精度及び歩留まりの高い加工を実現することができる。
【0072】
また、当該加工工程及び加工熱冷却工程を行いつつ、第2クーラント供給経路108の流路勾配(すなわち、第1傾斜部134及び第2傾斜部135の傾斜)を利用して、タンク111からオーバーフローさせたクーラントWを主軸ローラ102及びこれに巻回されたワイヤ103に供給し、これらの部品の熱を冷却する(部品冷却工程)。このような部品冷却を行うことにより、加工精度の更なる向上、各種部品の摩耗の防止等を図ることができる。
【0073】
なお、実施例2においては、第1クーラント供給経路107及び第2クーラント供給経路108は、クーラントWの流路が独立するように構成及び配置されていたが、第1クーラント供給経路107及び第2クーラント供給経路108の一部(例えば、始端部及び傾斜部の一部)を共通化してもよい。すなわち、クーラントWの流路の一部が共通してもよい。これにより、クーラントWの流路を構成する部材数を削減することができ、ワイヤソー自体のコスト低減を図ることができる。
【0074】
<変形例>
実施例1及び実施例2においては、クーラントWへの空気混入を防止する観点から、供給管の供給口がタンク内に配置され、当該供給口がクーラントW内に浸漬していたが、当該供給口をタンクの上方に位置させてもよい。このような構成を採用する場合を、
図10を参照しつつ、変形例として説明する。ここで、
図10は、変形例に係るタンク及び供給管の拡大模式図である。
【0075】
図10に示すように、タンク211には供給管213を介してクーラントWが供給される。ここで、タンク211内には、補助タンク251が配設されている。補助タンク251は、側壁部252及び底部253から構成され、タンク211内において浮くように支持部材(図示せず)によって支持されている。また、側壁部252の下部には複数の開口254が形成されている。
【0076】
本変形例においては、供給管213から供給されるクーラントWは、補助タンク251に一時的に貯留され、開口254を経由してタンク211内に貯留されることになる。このような補助タンク251の構造により、補助タンク251の上方からクーラントWが供給され、補助タンク251内において波及び気泡が発生したとしても、補助タンク251の外側には当該波及び気泡の影響がなくなり、整流されたクーラントWを各クーラント供給経路に供給することが可能になる。