(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796056
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】自閉症の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/55 20060101AFI20201119BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20201119BHJP
A61K 9/30 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
A61K31/55
A61P25/00 101
A61K9/30
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-502768(P2017-502768)
(86)(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公表番号】特表2017-510640(P2017-510640A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】US2015022220
(87)【国際公開番号】WO2015148487
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2018年3月15日
(31)【優先権主張番号】61/969,896
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516287759
【氏名又は名称】シナプテック・ディヴェロップメント・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】SYNAPTEC DEVELOPMENT LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】ボニー・エム・デイヴィス
【審査官】
高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−516588(JP,A)
【文献】
特表2013−500268(JP,A)
【文献】
特表2011−504317(JP,A)
【文献】
Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology,2006年,Vol.16, No.5,p.621-629
【文献】
Eur J Med Chem,1992年,Vol.27,p.673-687
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/55
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガランタミン誘導体を含む、自閉症スペクトラム障害を治療するための治療薬であって、
前記ガランタミン誘導体は、
ガランタミンのヒドロキシ基が、炭素数2〜8のモノアルキルカルバメート基により置換され、
前記ガランタミンのメトキシ基が、変更されないか、または、アルコキシ基またはヒドロキシ基により置換され、
前記ガランタミンのN−メチル基が、変更されないか、または、水素により置換されたものである治療薬。
【請求項2】
前記ガランタミン誘導体は、
前記ガランタミンのヒドロキシ基が、n−ブチルカルバメート基により置換されたガランタミンのn−ブチルカルバメート誘導体である請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
前記ガランタミン誘導体は、前記ガランタミンのメトキシ基及びN−メチル基が変更されない請求項2に記載の治療薬。
【請求項4】
前記ガランタミン誘導体を1回分の投与量として0.2〜100mg含む請求項1から3のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項5】
前記ガランタミン誘導体を1回分の投与量として1〜10mg、2〜25mg又は5〜40mg含む請求項2または3に記載の治療薬。
【請求項6】
前記ガランタミン誘導体の粒子が胃液に溶解する薬学的に許容されるポリマーでコーティングされることにより血流への放出が遅延されるようにコーティングされた経口剤形である請求項1から5のいずれか1項に記載の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自閉症患者の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル第4版によると、自閉性障害、アスペルガー障害及び特定不能の広汎性発達障害を含む発達障害のグループである。障害は、共通して、社会的断絶と反復行動又は常同行動とを含む。自閉性障害においては、言語発達遅滞又は言語障害がある(http://www.cdc.gov/ncbddd/autism/hcp−dsm.html)。同様の行動の結果を招くASDに関連する特定の遺伝的要因及び環境的要因が多く存在する。中間表現型は、脳の特定の部分におけるニコチン性コリン受容体の減少と考えられる。
【0003】
Perry他(非特許文献1)は、約24歳〜36歳の26人の正常患者、自閉症患者、ダウン症患者及び他の精神発達遅滞患者の間で剖検脳組織を比較した。前頭皮質及び頭頂皮質において、エピバチジン結合により評価されるように、自閉症患者及び精神発達遅滞患者のα
4β
2ニコチン性受容体は、正常患者と比較して約2/3減少していた。同一の研究所は、19歳〜37歳の患者のうち3人の自閉症患者の剖検脳及び3人の正常患者の剖検脳におけるニコチン性受容体が集中する視床においてニコチン性受容体を比較した。傍室核及び結合核において、α
7反応性ニューロン及びβ2反応性ニューロンは自閉症患者の脳で減少していた。しかし、α
4免疫反応性ニューロンは減少していなかった。(非特許文献2)ASD患者が知らない人の顔を提示された時に起こることが知られている「紡錘状顔領域」の活性化の欠如、並びにこの領域の既知のコリン作動性調節に基づいて、アセチルコリンエステラーゼ活性のPET研究が、I.Q.の適合した20人のヤングアダルトの正常被験者及びASD被験者に対して行われた(非特許文献3)ASD被験者は、対照例より低い[
11C]MP4Ak
3値を有し、これらのk
3値は、自閉症診断観察検査及び自閉症診断面接改訂版により評価されるようにそれらの社会的障害と逆相関された。著者は、ASD被験者の紡錘状顔領域においてコリン作動性神経支配が欠如しており、これは社会的機能のレベルに関連すると結論付けた。ASDにおける症例報告書、殆ど文書化されていないガランタミンの非盲検試験、コリンエステラーゼ阻害剤、及びニコチン性受容体の正のアロステリックモジュレータは、いくつかの有益な結果を報告している。(非特許文献4)。ASDにおけるコリン作動異常のレビューでは、ニコチン性作動薬及び正のアロステリックモジュレータが有用である可能性があることを提案しており、ASDにおけるドネペジル、リバスチグミン及びガランタミンの研究を要約している。(非特許文献5)。
【0004】
α
7ニコチン性受容体の形成を損ない得る遺伝子複製数変化がある。これは、15q13.3で発生し、自閉症、精神発達遅滞、精神分裂病及びてんかんと関連付けられる。(非特許文献6)このクロマチンのセグメントは、欠失するとプラダー・ウィリー症候群を引き起こす領域である。欠失によりレット症候群を引き起こすタンパク質であるMeCP2がこの領域に結合する場合、プラダー・ウィリー領域と重なり、これらは、ニコチン性α
7受容体をコード化するCHRNA7に隣接する部位にマッピングする。この発見は、CHRNA7の発現に対するレット患者及び自閉症患者の前頭皮質の分析につながり、若年層において最も明白であるが、対照例と比較して平均40%の減少が発見された。(
図1)制御不能な怒りの爆発をする患者における15q13.3欠失症候群の発見は、ガランタミンの試験につながった(非特許文献7)。環境の変化も原因となり得るが、激怒の症状の発現の著しい低下が報告された。
【0005】
Mecp2遺伝子の突然変異は、レット症候群の殆どの症例で見られる。しかし、Mecp2の効果の減少は、自閉症スペクトラム障害においてより広範囲で報告されている。自閉症のバルプロ酸モデルにおいて、Mecp2の発現は、両方の性別の神経前駆細胞において、並びに自閉症の殆どの症例を含む男性の前前頭皮質において減少する(非特許文献8)自閉症患者の小脳において、Mecp2の結合の減少が報告されており、過剰発現するEngrailed2遺伝子のダウンレギュレーションの失敗の原因になると仮定されている。(非特許文献9)ヒトの死後の皮質組織において、正常な年齢適合対照例と比較して、Mecp2の発現の著しい減少は、自閉症の症例の79%(11/14)、レットの100%(9/9)、アンジェルマンの100%、プラダー・ウィリーの75%(3/4)、ダウン症候群の60%(3/5)及び注意欠陥多動性障害の2つの症例の双方において見られた。(非特許文献10)。
【0006】
ガラタミンは以下の構造を有する。
【0007】
【化1】
ガラタミンは、軽度から中程度のアルツハイマー病の患者の治療に認証されている。その母集団における増加した死亡率のため、軽度の認知障害において使用することは推奨されていない。
【0008】
特許文献1はアルツハイマー病の治療におけるガランタミン、既知のコリンエステラーゼ阻害剤の使用を記載している。特許文献2は、同様の目的のためにガランタミン及びリコラミンの類似体の使用を記載している。特許文献3は、ニコチン性受容体の調節と、アルツハイマー病及びパーキンソン病の進行の治療及び遅延と、神経変性疾患に対する神経保護とに関して、ガラタミン及びリコラミンの類似体の効果を説明している。これらの特許の付与時点で、アルツハイマー病は、認知症によって明らかになり、その根本的な原因が理解され始めた状態であることが理解される。これら従来の特許に記載の治療は、認知症に関わる要因に対処している。すなわち、そのアステリック調節によって、アセチルコリンエステラーゼの作用により生じる神経伝達物質アセチルコリンの利用可能性の低下並びに機能を向上させるためのアステリック調整によるニコチン性受容体の間接的な刺激を制限するように、アセチルコリンエステラーゼの活性を低減する。
【0009】
ガランタミンの正のアロステリック調節部位は、検査された全てのニコチン性受容体に存在する。(非特許文献11)。この機構は、炎症、疼痛、食欲及びうつ病の制御にも有用である可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,663,318号公報
【特許文献2】国際公開第WO8808708号
【特許文献3】米国特許第6,670,356号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Am J Physhiatry 2001、158:1058
【非特許文献2】Ray他、Neurobiol Disease、2005、19、366
【非特許文献3】Suzuki他、Arch Gen Psychiatry 2011、68、3、306
【非特許文献4】Niederhofer他、BMJ 2002、325、1421;Hertzberg,Int J Psychiatry in Medicine 2003/2004、33、4、395;Nicholson他、J Child Adolesc Psychopharmacol 2006、16、5、621
【非特許文献5】Deutsch他、Clin Neuropharm 2010、33、114
【非特許文献6】Yasui他、Hum Molec Genetics 2011、20、22
【非特許文献7】Cubells他、Am J Med Genet Part A 2011、155、805
【非特許文献8】Kim KC他、Mol Neurobiol 2014年11月18日(epub ahead of print)
【非特許文献9】James SJ他、Transl Psychiatry 2014、4:e460.Doi:10.1038/tp.2014.87
【非特許文献10】Nagarajan RP他、Epigenetics 2006、1(4):el−11
【非特許文献11】Samochocki他、JPET 2003、305、1024
【非特許文献12】Yasui他、Hum Molec Genetics 2011、20、22、4311
【非特許文献13】Han他、Eur J Med Chem 1992、27、673
【非特許文献14】Han他のBioorg.&Medicinal Chemistry Letters 1、11 579−580(1991)
【非特許文献15】Popa他、J Mol Neurosci 2006、30、27
【非特許文献16】Han他、Eur J Med Chem 1992,27,673
【非特許文献17】Fonck他、J Neurosci 2003、23、7、2582
【非特許文献18】Stearns他、Neuroscience 2007、146、907;Katz及びBerger−Sweeney、Dis Model Mech 2012、5、6、733
【非特許文献19】Robinson他、Brain 2012、135、9、2699
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の第一の態様によれば、自閉症スペクトラム障害の患者を治療する方法であって、ヒドロキシ基がカルバメート基、カーボネート基又はエステル基により置換され、メトキシ基が2〜6個の炭素原子の別のアルコキシ基、ヒドロキシ基、水素、アルカノイルオキシ基、2〜10個の炭素原子、ベンゾイルオキシ基、置換ベンゾイルオキシ基、1〜10個の炭素原子のカーボネート基、あるいはアルキル基又はアリール基が1〜10個の炭素原子を含むモノアルキルカルバメート、ジアルキルカルバメート又はアリールカルバメート等のカルバメート基により置換されてもよく、N−メチル基が水素、1〜10個の炭素原子のアリール基、ベンジル基、シクロプロピルメチル基、あるいは置換又は未置換のベンゾイルオキシ基により置換されてもよいガランタミン類似体の化合物の治療的に許容される投与量を患者に投与することを備えることを特徴とする方法が提供される。
【0013】
典型的には、ヒドロキシル基を置換するために使用される基はアルカノイルオキシ基、2〜10個の炭素原子、ベンゾイルオキシ基、置換ベンゾイルオキシ基、1〜10個の炭素原子のカーボネート基、あるいはアルキル基又はアリール基が1〜10個の炭素原子を含むモノアルキルカルバメート、ジアルキルカルバメート又はアリールカルバメート等のカルバメート基である。エステル基及びカルバメート基は特に有用である。一般に、ガランタミンのメトキシ基及びメチル基は変更されない。2〜8個の炭素原子を有するモノアルキルカルバメートは特に有用である。
【0014】
本発明の第1の実施形態において、上述したような活性化合物の治療量が、認知又は機能又は行動を向上するためにDSM IVで規定されるような自閉症スペクトラム障害を有する患者に投与される。向上は、異常行動チェックリスト、自閉症診断観察検査、自閉症診断面接改訂版、コナーズ親評価尺度、総合的精神症状評価尺度又は臨床全般印象度等により測定されてもよい。ガランタミン類似体の投与量は、治療される人の年齢及び大きさに対して調整され、0.2〜100mg、好ましくは2〜10mg又は1〜50mgとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係る治療方法は、
自閉症スペクトラム障害患者の治療方法であって、
ヒドロキシ基がカルバメート基、カーボネート基又はエステル基により置換され、メトキシ基が2〜6個の炭素原子の別のアルコキシ基、ヒドロキシ基、水素、アルカノイルオキシ基、2〜10個の炭素原子、ベンゾイルオキシ基、置換ベンゾイルオキシ基、1〜10個の炭素原子のカーボネート基、あるいはアルキル基又はアリール基が1〜10個の炭素を含むモノアルキルカルバメート、ジアルキルカルバメート又はアリールカルバメート等のカルバメート基により任意に置換され、N−メチル基が水素、1〜10個の炭素原子のアリール基、ベンジル基、シクロプロピルメチル基、あるいは置換又は未置換のベンゾイルオキシ基により任意に置換されるガランタミン類似体の治療的に効果的な投与量を必要とする患者に投与するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】CHRNA7転写レベルがヒトの皮質において年齢とともに著しく低下することを示す。(非特許文献12)。
【
図2】ガランタミンのn−ブチルカルバメートが受動的回避学習を強化することを示す棒グラフである。獲得前に3.5時間注入されたガランタミンのn−ブチルカルバメートにより、受動的回避試験における基底前脳傷害マウスの24時間保持を向上させる。棒グラフは、投与量当たりの平均スコア(±SEM)及び被験者数を示す。潜伏期は、薬剤投与量F=3.82、P=0.041*)に伴って大きく変動し、0.5mg/kgの投与量は他の投与量より極めて適切だった(シェッフェのF検定=3.88、P<0.05)(非特許文献13)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一つの特に有用な化合物は以下の構造を有するガランタミンのn−ブチルカルバメート誘導体である。
【0018】
【化2】
ガランタミンのn−ブチルカルバメートのIC50は、ガランタミンの3.97x10-7Mと比較すると10.9x10
−7Mである。
【0019】
この化合物は、非特許文献14においてコリンエステラーゼ阻害剤として記載された。
【0020】
ガランタミンがAβを排除し、且つAβ、グルタミン酸及びSERCA阻害毒性に対して神経細胞を保護した経路は、コリンエステラーゼ阻害を著しく低減しつつ、分子のニコチンの正のアロステリック調節特性を保持する類似体により活性化可能である。ガランタミンのブチルカルバメートは、ガランタミンの酵素活性の約36%を有する。
【0021】
ラット初代培養神経細胞は、1.5mMのコリンの適用により脱分極可能である。(非特許文献15)。これは、メチルリカコニチン及びαブンガロトキシンにより阻害されるため、α
7ニコチン性受容体により媒介される。1μMのガランタミンのn−ブチルカルバメートは、コリン(15.9±2.1%)により引き起こされる脱分極を増強した。これは、同一濃度(20.6±4.2%)でのガランタミンの効果と大きく異ならなかった。n−ブチルカルバメートによりもたらされる増強は、ニコチン性受容体FK−1におけるガランタミン認知部位に対する抗体により阻害され、これはガランタミンの正のアロステリック調節部位により媒介されたことを示す。ガランタミンのn−ブチルカルバメートは、ガランタミンの効果と同様の効果を有するガランタミン部位における正のアロステリックモジュレータである。
【0022】
ブチルカルバメートは、悪影響に関してガランタミと異なった。(非特許文献16)ガランタミンで治療された動物において5mg/kgで現れた運動性の低下は、類似体の30mg/kgまで観察されなかった。n−ブチルカルバメートの50〜100mg/kgの投与量では、マウスは4時間後にまだ早い心拍でよろめいてバランスが取れていなかったが、24時間で回復した。100mg/kgまでは致死性はなかった。ガランタミンのLD50は10mg/kgである。10、15及び20mg/kgのガランタミンを腹腔内注射されたマウスは、それぞれ平均8分、6分及び4分で発作を起こす(非特許文献17)。
【0023】
以下に示すように、ガランタミンのn−ブチルカルバメートはヒト結腸直腸がん由来のCaCo−2細胞の層のインビトロ透過性に基づいて80%の経口バイオアベイラビリティを有すると予測される。
【0024】
【表1】
肝ミクロソームのインビトロ製造において、ガランタミンのn−ブチルカルバメートの半減期は60分より長かった。
【0025】
以下に示すように、これは、化合物が肝臓でかなりの程度まで代謝されないことを示唆する。
【0026】
【表2】
ガランタミンのn−ブチルカルバメートは、マウス血漿において2時間を超える間安定している。2時間での濃度は、ヒトの患者において約7時間の血漿内半減期を有するガランタミンの濃度より僅かに低い。
【0027】
基底核大細胞部(nBm)に病変を有するマウスは、明コンパートメントからそれらマウスが好む暗コンパートメントに移動する場合にフロアグリッドを介して衝撃を受けるという事実に対する記憶が悪い。トレーニング中にガランタミンのブチルカルバメートが与えられると、マウスは生理食塩水を与えられた時より約100秒長く明コンパートメントに留まるだろう。(上述したHan他、1992)
図3に示すように、この記憶増強のための最良の投与量は0.5mg/kgである。
【0028】
同様の効果がガランタミンによっても見られる。しかし、最高の性能は約125秒の増加であり、最良の投与量は3mg/kgであり、これはn−ブチルカルバメートの投与量の6倍である。(
図2)要約すると、動物及びインビトロ研究に基づき、ガランタミンのn−ブチルカルバメートは、良好な耐容性があり、安全であり、経口で生物学的に利用可能であり、血漿中で安定しており、ガランタミンよりも低い投与量で学習を強化するのに有効であると考えられる。これは、ニコチン受容体上のガランタミンの正のアロステリック調節部位を介して神経細胞の電気生理学的活性を増強する。
【0029】
本発明の治療における使用に適した組成物は、典型的には、化合物の活性及び半減期に依存する活性化合物を0.1〜40mg含有する錠剤、カプセル剤又はロゼンジ等の経口投与に適する。ブチルカルバメートを使用する組成物は、典型的には、例えば投与量当たり1〜10mg、2〜25mg又は5〜40mの範囲を含むだろう。
【0030】
経口剤形は、例えばポリビニルピロリドン等の胃液に溶解する薬学的に許容されるポリマーでコーティングし、次いで粒子の大きさを変更し、コーティングの厚さの程度が異なる粒子が異なる時間に放出されるように錠剤、カプセル剤又はロゼンジに特定のサイズの粒子の特定の比率を組み込むことにより、血流への放出を遅延するように活性化合物の粒子がコーティングされた徐放性製剤であってもよい。この場合、コーティング技術は、活性化合物の殆どが投与の12時間以内に放出される結果をもたらすことが望ましい。別の適用手段は例えば経皮パッチを含んでもよく、この場合、目的は1時間当たり0.01〜10mgの速度で投与量の投与を提供することである。
【0031】
要望に応じて、他の剤形を使用してもよい。例えば経鼻又は非経口投与は、血液脳関門の通過を補助する製剤を含む。
【0032】
経鼻又は非経口治療投与の目的のため、本発明の活性化合物を溶液又は懸濁液に組み込んでもよい。これらの製剤は、典型的には、例えばその重量の0.5と約30%の間である活性化合物の少なくとも0.1%を含む。経鼻又は非経口投与単位が活性化合物の0.1〜10mgを含むように本発明による好ましい組成物及び製剤を調製する。
【0033】
溶液又は懸濁液は、以下の成分、すなわち注射用蒸留水、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒等の滅菌希釈剤と、ベンジルアルコール又はメチルパラベン等の抗菌剤と、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤と、エチレン−ジアミン四酢酸等のキーレート剤と、酢酸等の緩衝液と、塩化ナトリウム又はデキストロース等の張性調整用クエン酸塩又はリン酸塩及び薬剤とを含んでもよい。非経口の複数回投与バイアルはガラス又はプラスチックであってもよい。
【0034】
活性成分の投与における典型的な投与速度は、使用される化合物の性質に依存し、静脈内投与では、患者の体調及び他の投薬法に基づいて一日当たり及び体重の1kg当たり0.01〜2.0mgの範囲である。
【0035】
活性成分/mlの0.1〜5mgの濃度における鼻内又は脳室内投与のための液体製剤。本発明の化合物はまた、0.1〜10mg/日で放出する経皮システムによって投与できる。経皮投与システムは、例えばジメチルスルホキシドやオクタン酸等のカルボン酸である浸透促進剤、及び例えばミリスチン酸イソプロピル等の柔軟剤を含むヘキシル/酢酸ビニル/アクリル酸共重合体である現実的でリアルなポリアクリレートと共に使用される場合、塩の遊離塩基として0.1〜30mgの活性物質を含有する保持層からなっていてもよい。例えば0.35mmの厚さを有する金属コーティングされたシリコナイズポリエチレンパッチ等の活性成分不透過性外側層を被覆として使用できる。接着剤層を生成するために、例えば有機溶媒中のジメチルアミノメタアクリレート/メタクリル酸共重合体を使用できる。
【0036】
特定の患者に対する特定の投与量の決定は、患者を治療する医師の判断の問題になる。しかし、適切な投与量は、低投与量で開始し、応答が不十分であった場合に増加することによって決定されてもよい。上述したように、これらの投与量は、0.2〜10mg又は1〜50mg等、典型的な0.2〜100mgよりもかなり低くてもよい。
【0037】
適切な動物モデルは、Mecp2
1/ox(現在のMecp2J)又はMecp2R168xマウスである。特に雄は、治療中に評価可能である発達異常、運動活性、不安、回転棒性能、恐怖条件付け及び物体認識を有する。(非特許文献18)。他のMecp2トランスジェニックマウスもまた有用である可能性がある(非特許文献19)。
【0038】
実施例
本明細書の背景技術において示したように、Mecp2の効果の減少が自閉症スペクトラム障害においてより広範に報告されている。従って、Mecp2遺伝子に突然変異を有する動物が、より広範な自閉症スペクトラム群に存在する欠損をモデル化するために選択された。
【0039】
ガランタミンのn−ブチルカルバメートは、非常に高い投与量(50及び100mg/kg)の時に心機能及び運動機能に悪影響を与える。これらの負の副作用は、他の障害を持っており且つ発症の初期段階で施された治療に最も好ましい反応をする可能性のある自閉症患者に特に有害である可能性がある。コリン作動性システム(ガランタミンのnブチルカルバメートによって調節された)は、運動機能と呼吸機能との両方に悪影響を与えるため、薬物治療に応答して運動や呼吸機能を監視した。新規物体認識作業が、雌のMecp2マウスが大きな障害を示す最も一貫した作業の一つであるため、薬物治療に応答して認知機能を評価するために、このタスクを使用した(Stearns他の2007 Neuroscience 146:907−921 PMID 17383101;Katz,Berger−Sweeney他の2012 Disease Model Mech 5:733−45.PMID 23115203)。
【0040】
運動活性は、上述の方法を用いて監視した(Shaevitz他の2013 Genes Brain Behav.12(7):732−40.doi:10.1111/gbb.12070)。MECP2変異体雄(1〜3ケ月齢)及び雌(3〜6ケ月齢)、並びに年齢適合対照例は、0.1〜20mg/kgの範囲の投与量での薬物(又は賦形剤:食塩水の20%DMSO)投与前の1時間及び薬物投与後の12時間(腹腔内注射を受けた1組のマウス及び強制経口投与を受けた1組のマウス)監視した。活性は、フォトビーム活性システム(San Diego Instruments,San Diego,CA,USA)を用いて12時間暗サイクルにわたって測定した。マウスは3×8のフォトビームアレイを備えた長方形のアリーナ内部のケージ(47×25×21cm)に個別に入れた。12時間を超える1時間あたりの歩行によるビーム遮断(隣接する2つのビーム)及び微細運動によるビーム遮断(繰り返し単一ビーム)の平均値を比較した。[各投与量及び各投与経路においてN=2マウス/群;賦形剤対照例の場合、N=6WT/群;N=6Mecp2/群]。データは、分散の反復測定分析を用いて分析した。
【0041】
呼吸機能は、薬物投与前30分間及び薬物投与後1時間、プレチスモグラフ(EMKA Technologies社)で監視した(腹腔内注射を受けた1組のマウス及び強制経口投与を受けた1組のマウス)。[各投与量及び各投与経路においてN=2マウス/群;賦形剤対照例の場合、N=6WT/群;N=6Mecp2/群]。データは、分散の反復測定分析を用いて分析した。
【0042】
運動又は呼吸器の機能を損なわなかった薬剤の投与量は、その後安全性であり且つ忍容性が良好であるとされた。
【0043】
認知機能は、上述した方法(Schaevitz他 2013)を用いて、新規物体認識(NOR)タスクを使用して評価された。RTTが女児に最も多いという状況から、ベストプラクティスは、薬の前臨床試験が(Katz,Berger−Sweeney他 2012 Disease Model Mech 5:733−45.PMID:23115203)雌のモデルでの結果を重視すべきであることを示唆しているため、雌マウスを試験した。新規の物体記憶は、3つのセッションで評価された。このタスクは、見慣れている物体対見慣れていない物体を探査するためにマウスの生来の傾向に依存している。試験は、オープンフィールドアリーナで行った。トレーニングの24時間前に、マウスを10分間アリーナに慣れさせた。トレーニングの90分前に、マウスに薬物又は賦形剤対照例(0.1、0.5、1.0、2.5及び5.0 mg/kgの腹腔内投与)を投与した。トレーニング中に、マウスには、2つの同一のレゴ物体(A+A)を探査するために10分与えた。短期及び長期の物体記憶は、マウスが見慣れている物体(A)又は新規の物体(B又はC)を探査するために10分与えられる2つの後続のセッション(トレーニング終了後24時間)で評価された。見慣れている物体及び新規の物体の探査の期間(マウスの鼻又は前足が物体に物理的に触れるか、あるいは物体の1cm以内に接近すると定義する)が測定された。各セッションにおいて新規の物体及び見慣れている物体の双方を探査する合計時間にわたり、新規の物体を探査するのに費やされた時間量は物体の記憶を測定するのに使用された。[0.1、0.5及び1.0のN=6/投与量;2.5及び5.0mg/kgのN=1/投与量;賦形剤対照例の場合、N=6WT及びN=6Mecp2マウス]。各投与量で試験したマウスの数が少ないことを仮定すると、Mecp2又は対照例の群及び賦形剤対照例又は薬剤処置されたMecp2マウスの群にマウスを組み合わせ、NORタスクを学んだ群と学ばなかった群との間で差があるかどうかを決定するためにカイ2乗分析を使用してデータを分析した。
【0044】
結果
歩行運動及び微細運動の動きは、試験薬の投与量のいずれでも大きく変更されなかった。Mecp2の雄の歩行運動が野生型マウスに比べかなり低下することを以前に示した(Schaevitz他 2013)。Mecp2の雌でも野生型よりはかなり低かったが、低下はより軽度であった。薬剤(0.1〜20mg/kgの腹腔内投与又は強制経口投与)の投与量は、雄と雌のMecp2マウスのいずれにおいても運動活性を損なわなかった。また、薬剤の同一の投与量及び投与経路は呼吸活動に影響を及ぼさなかった。従って、薬物は、雄と雌のMecp2マウス並びに対照例において、0.1〜20mg/kgの投与量で安全であり許容された。
【0045】
新規の物体認識タスクデータに対して、賦形剤を投与された全ての野生型及びMecp2の雌のマトリックスと、薬物有りのMecp2の雌及び薬物無しのMecp2の雌(全ての投与量が組み合わされた)を比較する第2のマトリックスとを作成した。マウスは、新規の物体タスクを学習した(0.5のチャンスレベルを超える物体認識スコアを持つ)マウスと新規の物体タスクを学習しなかった(0.5以下のチャンスレベルの物体認識スコアを持つ)マウスとの2つのカテゴリに分類された。この条件で以下の2つの質問をした。
1)Mecp2の雌(賦形剤投与)はタスク上のWT対照例よりも大きく悪化した行為を示すか。
【0046】
NORスコア≦0.5 NORスコア>0.5
Mecp2 83% 17%
WT 33% 67%
野生型マウスはNORタスクを学習したが、Mecp2マウスは本タスクを学習しなかった[カイ2乗、(df=1、N=12)=6.75、p=0.0094]。
2)ガランタミンのn−ブチルカルバメートはタスク上のMecp2マウスの行為を改善するか。
【0047】
NORスコア≦0.5 NORスコア>0.5
Mecp2 83% 17%
(賦形剤)
Mecp2 65% 35%
(薬物)
【0048】
ガランタミンのn−ブチルカルバメートで治療されたMecp2マウスは、賦形剤を注射したMecp2マウスよりも非常に適切にNORタスクを学習した[カイ2乗、(df=1、N=12)=4.592、p=0.0321)。
【0049】
従って、上述したデータは、ガランタミンのn−ブチルカルバメートが新規の物体及び歩行活動又は呼吸器の機能を損なわない投与量でRTT症候群の雌のマウスモデルにおける新規物体に対する記憶及び認知能力を改善することを示している。